説明

車両用歩行者保護装置

【課題】衝撃荷重の入力による変形時のラジエータとの接触が有利に回避されて、ラジエータの損傷を未然に防止し得る車両用歩行者保護装置を提供する。
【解決手段】車両前後方向に延びる基板部14の下面に、車幅方向に互いに対向して、車両前後方向に延びる複数の縦壁部22を一体形成すると共に、互いに隣り合う縦壁部22,22間において車幅方向に延びるように位置して、それら互いに隣り合う縦壁部22,22を相互に連結する複数の横壁部24を一体形成して、それら複数の縦壁部22及び横壁部24からなる補強部26を前側部分に設け、更に、かかる補強部26の縦壁部22に対して、下方に開口する切欠部30を、基板部14の下面に達する深さで形成して、構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用歩行者保護装置に係り、特に、車両前部の下部部位に設置されて、車両前面に衝突乃至は接触した歩行者の脚部に接触することにより、かかる脚部を払って、歩行者の脚部を保護する車両用歩行者保護装置の改良された構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の車両においては、衝突時に生ずる衝撃エネルギーを吸収し、車体や乗員を保護することを主な目的として、車両の前面や後面、或いは側面等に、各種の保護装置が設置されている。また、近年では、車両の前面に歩行者が衝突(接触)した際に歩行者を保護する装置も、車両前面に設置されるようになってきている。
【0003】
そのような車両用歩行者保護装置(以下からは、単に、歩行者保護装置と言う)の一種として、所謂脚払い装置が、知られている。この脚払い装置は、一般に、フロントバンパの内側やフロントバンパよりも下部側の部位等の車両前部の下部部位に設置される。そして、歩行者が車両前面に衝突したときに、前端において、歩行者の脚部に接触することにより、歩行者の脚部を払って(すくい上げて)、歩行者をボンネット等の衝撃吸収可能な部材側に転倒させ、以て、歩行者の保護及び安全を図るようにしたものである。
【0004】
ところで、歩行者保護装置には、前端部に接触した歩行者の脚部のダメージをできるだけ軽減し得る構造を有していることが、要求される。そこで、例えば、特開2004−203183号公報(特許文献1)や特開2002−264741号公報(特許文献2)等には、そのような要求を満たし得る歩行者保護装置として、補強部が設けられた前側部分と、車両前部に設置された車両部品に取り付けられる後側部分とを一体的に有して、車両前部の下部部位に車両前後方向に延びるように配置される樹脂成形体にて構成されたものが、提案されている。
【0005】
すなわち、前者の公報に開示された歩行者保護装置は、車両前部の下部部位に車両前後方向に延びるように配置される平板状の樹脂製基板を有している。そして、この基板が、その後部において、車両部品に固定されるようになっている。かかる基板の前部には、一方の板面の車幅方向に間隔を隔てた複数箇所に、平板状の縦壁部(縦リブ)が、車幅方向において互いに対向して車両前後方向に延びるように一体形成されている。また、基板前部における複数の縦壁部の対向面間には、車幅方向に延びる平板状の横壁部(横リブ)が、互いに対向する縦壁部同士を相互に連結するように一体形成されている。かくして、かかる歩行者保護装置では、補強部が、車両前後方向に延びる基板と、それに一体形成された複数の縦壁部と複数の横壁部とを含んで構成されて、前側部分に形成されている。そして、この補強部によって、前側部分の剛性、即ち、車両前側から後側に向かう荷重に対する変形強度の増大が図られている。なお、縦壁部と横壁部は、基板の上面に一体形成される場合と、基板の下面に一体形成される場合とがある。
【0006】
一方、後者の公報に開示された歩行者保護装置は、その後部が、平板状の取付板部とされており、この取付板部の前側に、下方に開口する縦断面コ字形状をもって上方に突出する複数の補強ビードが、車幅方向に並んで位置するように一体形成されている。それらの補強ビードは、車幅方向において対向位置して、車両前後方向に延びる縦壁部の二つのものの上端部同士が、上側基板部にて相互に連結されてなる構造を有している。即ち、上側基板部の下面の幅方向両端に、縦壁部がそれぞれ立設されて、補強ビードが構成されている。また、そのような補強ビードのそれぞれの内側には、互いに対向する縦壁部の対向面間において、車幅方向に延びる横壁部が、それら縦壁部同士を相互に連結した状態で、補強ビードの上側基板部に一体形成されている。
【0007】
かくして、かかる歩行者保護装置では、補強部が、車両前後方向に延びる上側基板部と、それに一体形成された複数の縦壁部を有する複数の補強ビードと、補強ビードの上側基板部に一体形成されて、車幅方向に延びる複数の横壁部とによって構成されて、前側部分に形成されている。そして、そのような補強部によって、歩行者保護装置の前側部分の剛性が高められている。
【0008】
このように、従来の歩行者保護装置は、衝撃荷重によって変形する樹脂成形体にて構成されていると共に、前側部分に、少なくとも一つの基板部と複数の縦壁部と複数の横壁部とを含む補強部が設けられていることで、前側部分の剛性が高められている。かくして、かかる歩行者保護装置においては、歩行者の脚部が接触したときに生ずる衝撃荷重と、歩行者保護装置の変形量(変位量)との関係を示す荷重−変位曲線の形状が、理想的な矩形波に近付けられている。そして、それにより、歩行者の脚部の接触によって生ずる衝撃が、より効率的且つ十分に吸収され、以て、歩行者の脚部のダメージが効果的に軽減され得るようになっているのである。
【0009】
ところが、上記した従来の歩行者保護装置の構造について、本発明者が、様々な角度から検討を加えたところ、以下のような問題が内在していることが判明した。
【0010】
すなわち、従来の歩行者保護装置は、衝撃荷重の入力によって、前後方向の中間部が、上方に凸となるように屈曲した「へ」の字状に変形するか、或いは下方に凸となるように屈曲した逆「へ」の字状に変形する。換言すれば、衝撃荷重により変形した際の変形モードが、上折れモードか下折れモードとなる。また、かかる歩行者保護装置は、エンジンルーム内に配置されたラジエータや空調用コンデンサ等の冷却系部品よりも前側の下部部位に設置される。そのため、歩行者保護装置が逆「へ」の字状に変形した場合には、その後端が、ラジエータ等の冷却系部品の前面に接触して、冷却系部品を損傷させることがあった。そうなると、歩行者保護装置を交換するだけでなく、冷却系部品も修理しなければならなくなって、車両の修理費が嵩むといった問題が内在していたのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2004−203183号公報
【特許文献2】特開2002−264741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、車両前部の下部部位に設置される車両用歩行者保護装置において、衝撃荷重の入力により変形した際に、車両用歩行者保護装置よりも後側の上部に配置されるラジエータ等の冷却系部品との接触が有利に回避されて、冷却系部品の損傷を未然に防止し得るように改良された構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そして、本発明にあっては、かかる課題の解決のために、補強部が設けられた前側部分と、車両前部に設置された車両部品に取り付けられる後側部分とを一体的に有して、車両の前部の下部部位に車両前後方向に延びるように配置される樹脂成形体からなると共に、該補強部が、(a)車両前後方向に延びる基板部と、(b)車幅方向において互いに対向して、車両前後方向に延びるように配置された状態で、該基板部の下面に一体形成された板状の複数の縦壁部と、(c)該複数の縦壁部のうちの互いに隣り合う縦壁部の対向面間に、車幅方向に延びるように位置して、それら互いに隣り合う縦壁部を相互に連結した状態で、該基板部の下面に一体形成された板状の複数の横壁部とを含んで構成されて、前端部が、車両の前面に衝突した歩行者の脚部に接触することによって、該脚部を保護し得るように構成された車両用歩行者保護装置において、前記縦壁部に対して、下方に開口する切欠部が、前記基板部の下面に達する深さで形成されていることを特徴とする車両用歩行者保護装置を、その要旨とするものである。
【0014】
なお、本発明の好ましい態様の一つによれば、前記横壁部が、前記縦壁部よりも厚肉とされる。
【0015】
また、本発明の有利な態様の一つによれば、前記切欠部が、下方に向かうに従って拡幅する形状を有して構成される。
【0016】
また、本発明の望ましい態様の一つによれば、前記切欠部を有する前記縦壁部が、少なくとも、前記樹脂成形体の前側部分の車幅方向の両サイドに位置するように、前記補強部に設けられる。
【0017】
補強部が設けられた前側部分と、車両前部に設置された車両部品に取り付けられる後側部分とを一体的に有して、車両の前部の下部部位に車両前後方向に延びるように配置される樹脂成形体からなると共に、該補強部が、(a)車両前後方向に延びる基板部と、(b)車幅方向において互いに対向して、車両前後方向に延びるように配置された状態で、該基板部の下面に一体形成された板状の複数の縦壁部と、(c)該複数の縦壁部のうちの互いに隣り合う縦壁部の対向面間に、車幅方向に延びるように位置して、それら互いに隣り合う縦壁部を相互に連結した状態で、該基板部の下面に一体形成された板状の複数の横壁部とを含んで構成されて、前端部が、車両の前面に衝突した歩行者の脚部に接触することによって、該脚部を保護し得るように構成された車両用歩行者保護装置を、冷却系部品の前側に設置するための構造では、前記縦壁部に対して、下方に開口する切欠部が、前記基板部の下面に達する深さで形成されてなる前記車両用歩行者保護装置を用いて、かかる車両用歩行者保護装置の前記後側部分を、冷却系部品の前側において、該冷却系部品の下端部と同一高さか又はそれよりも低い位置に配置した状態で設置することを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
すなわち、本発明に従う車両用歩行者保護装置にあっては、衝撃荷重の入力によって変形する際に、補強部の変形モードが、必ず、切欠部の形成部分を屈曲点として、上方に凸となるように屈曲した「へ」の字状を呈する上折れモードとなり、それによって、車両用歩行者保護装置よりも後側の上部に配置されたラジエータと接触することが、有利に回避され得る。
【0019】
従って、かくの如き本発明に従う車両用歩行者保護装置にあっては、歩行者と接触して変形した際に、ラジエータとの接触を有利に回避することができ、以て、ラジエータの損傷を未然に防ぐことができる。そして、それにより、歩行者との接触(衝突)事故の発生に伴う車両の修理費を、可及的に低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に従う構造を有する車両用歩行者保護装置の一実施形態を示す下面説明図である。
【図2】図1のII−II断面説明図である。
【図3】図2のIII−III断面説明図である。
【図4】図1に示された車両用歩行者保護装置の自動車への設置状態の一例を示す縦断面説明図である。
【図5】図1に示された車両用歩行者保護装置の自動車への設置状態下において、自動車前面に歩行者の脚部が接触したときの車両用歩行者保護装置の変形状態を示す説明図である。
【図6】本発明に従う構造を有する車両用歩行者保護装置の別の実施形態を示す、図1に対応する図である。
【図7】図6のVII−VII断面説明図である。
【図8】図7のVIII−VIII断面説明図である。
【図9】本発明に従う構造を有する2種類の車両用歩行者保護装置の荷重−変位曲線と、従来構造を有する車両用歩行者保護装置の荷重−変位曲線とを、それぞれ示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0022】
先ず、図1には、本発明に従う歩行者保護装置の一実施形態として、自動車の前面に設置されたフロントバンパの内側に取り付けられる脚払い装置が、その下面形態において示されている。かかる図1から明らかなように、本実施形態の脚払い装置10は、全体として、横長の矩形形状を呈する樹脂成形体にて構成されている。そして、脚払い装置10は、例えば、ポリプロピレンやABS樹脂等の合成樹脂材料を用いた射出成形によって成形されている。なお、以下からは、自動車のフロントバンパ(12)の内側への脚払い装置10の設置形態(図4参照)に基づいて、図1の紙面に直角な方向となる、脚払い装置10の厚さ(高さ)方向を上下方向と言い、図1の左右方向となる、脚払い装置10の長手方向を車幅方向又は左右方向と言い、図1の上下方向となる、脚払い装置10の長手方向と厚さ方向の両方に直角な方向を前後方向と言うこととする。
【0023】
図1乃至図3に示されるように、脚払い装置10は、基板14を有している。この基板14は、一定の厚さを有する略横長矩形の薄肉平板からなっており、その前側(図1の下側)の端面が、フロントバンパ(12)の内面形状に対応した、前方に向かって凸となる湾曲形状を呈している。また、ここでは、基板14の上面が、平坦な導風面15とされており、後述するように、脚払い装置10が、自動車のエンジンルーム:E内において、ラジエータ(42)の前方に設置された状態下において、エンジンルーム:E内に取り入れられる空気(走行風)を、導風面15にて、ラジエータ(42)の前面にスムーズに導き得るようになっている(図4参照)。
【0024】
そして、かかる基板14の後端側部分の下面には、複数(ここでは、5個)の取付板部17が、一体形成されている。この取付板部17は、全体として略L字状の板材からなり、基板14の後端側部分の下面から鉛直下方に突出し、且つ車幅方向に延びる鉛直板部18と、この鉛直板部18の下端から後方に向かって水平に延びる水平板部19とを一体的に有している。即ち、水平板部19は、基板14の下方において、その後端側部分と平行に延びるように配置されている。また、かかる水平板部19の先端部(後端部)には、取付用クリップ(16)が挿通可能な挿通孔20が、それぞれ穿設されている。かくして、後述するように、脚払い装置10が、複数の取付板部17が設けられる後端側部分において、自動車の前部に設置された車両部品としてのラジエータサポート(44)に取り付けられるようになっている(図4参照)。
【0025】
また、基板14の前端側部分及び前後方向中間部分は、平板部21とされている。この平板部21の下面には、縦壁部としての複数の縦リブ22と、横壁部としての複数の横リブ24とが、それぞれ、下方に向かって突出するように、一体的に立設されている。そして、そのような基板14の平板部21と、かかる平板部21の下面に設けられた複数の縦リブ22と複数の横リブ24とにて、補強部26が構成されている。
【0026】
より詳細には、縦リブ22は、長手矩形の平板形状を呈している。そして、基板14の平板部21の下面に、車幅方向に一定の間隔をおいて並列的に配置されている。即ち、複数の縦リブ22は、平板部21の下面の車幅方向に一定の間隔を隔てた複数箇所において、互いに対向しつつ、平板部21の前後方向の全長に亘って、前後方向に真っ直ぐに延びるように配置されている。そして、そのような配置状態下で、基板14の下面に一体形成されている。
【0027】
一方、横リブ24は、板厚方向に湾曲した矩形の板材にて構成されている。そして、平板部21の下面の前端側部分のうちの互いに隣り合う縦リブ22,22間の三箇所においいて、それぞれ、車幅方向に延びるように配置されている。即ち、それら複数の横リブ24は、互いに隣り合う縦リブ22,22にて挟まれた平板部21部分のうちの前端と、それよりも後側の箇所と、更にそれよりも後側の箇所の、合計三箇所に、前後方向において互いに一定の間隔を隔てて対向配置されている。そして、互いに隣り合う縦リブ22,22にて挟まれた平板部21部分の前端に位置する複数の横リブ24が、全体として、平板部21(基板14)の前端面に沿った曲線を描くように、直列して配置されている。また、それと同様に、平板部21部分の前端よりも後側の箇所に位置する複数の横リブ24と、それよりも更に後側の箇所に位置する複数の横リブ24も、全体として、それぞれ、平板部21(基板14)の前端面に沿った曲線を描くように、直列して配置されている。
【0028】
要するに、複数の横リブ24は、平板部21の下面の前端縁部と、それよりも後側で、前後方向に離間した平板部21の下面の二つの部分とに、複数の縦リブ22と交差して、車幅方向に延びるように配置されている。そして、そのような配置状態下で、互いに隣り合う縦リブ22,22の対向面を相互に連結しつつ、平板部21の下面に一体形成されているのである。
【0029】
かくして、平板部21(基板14)の下面に、複数の縦リブ22と複数の横リブ24とが格子状に組み合わされて、一体形成されている。これにより、格子状に組み合わされた複数の縦リブ22及び複数の横リブ24とそれらが一体形成された平板部21とからなる補強部26が、基板14の前側部分に形成され、以て、脚払い装置10の前側部分の剛性、即ち、車両前側から後側に向かう荷重に対する変形強度が、高められている。なお、本実施形態では、前記取付板部17の鉛直板部18が、車幅方向において互いに隣り合う縦リブ22,22の後端部同士を相互に連結した状態で、基板14の後端側部分の下面に一体形成されている。かくして、かかる鉛直板部18によっても、縦リブ22、ひいては補強部26の剛性が高められている。
【0030】
また、かかる補強部26の前端には、自動車の前面に歩行者が衝突した際に生ずる衝撃荷重が入力される衝撃入力面28が、平板部21の下面の前端縁部に直列して配置された複数の横リブ24のそれぞれの前面にて、形成されている。この衝撃入力面28は、基板14の前端面から所定高さで下方に突出し、且つ基板14の前端面に対応した前方に凸となる湾曲面形状をもって車幅方向に延出している。
【0031】
そして、図1及び図3に示されるように、本実施形態の脚払い装置10においては、特に、複数の縦リブ22の全てのものの長さ方向中間部に、切欠部30が設けられている。この切欠部30は、縦リブ22の下端面において、下方に向かって開口し、全体として、逆V字形状を呈している。これによって、切欠部30の幅:W(前後方向の両側に位置する二つの側面間の距離)が、下方に向かうに従って漸増するようになっている。また、かかる切欠部30は、その深さ:Dが、平板部21(基板14)の下面に達する深さとされている。つまり、切欠部30の深さ:Dが、縦リブ22の高さ:Hと同一の寸法とされている。
【0032】
かくして、本実施形態の脚払い装置10にあっては、自動車の前面への歩行者の衝突によって衝撃荷重入力面28に衝撃荷重が入力した際に、切欠部30が形成される補強部26の長さ方向中間部位において、上折れモードで屈曲変形するようになっている。
【0033】
なお、切欠部30は、その深さ:Dが、縦リブ22の高さ:Hと同一の寸法とされている必要があるものの、その幅:W(縦リブ22の前後方向両側に位置する二つの側面間の距離)は、単なる切込みの幅寸法のように実質的にゼロとされていなければ、具体的な大きさが、特に限定されるものではない。切欠部30は、衝撃入力時に、切欠部30の前後方向両側に位置する二つの側面の互いの干渉を可及的に回避して、縦リブ22の屈曲変形を可能となし得る程度の幅:Wを有しておれば良い。従って、切欠部30の幅:Wは、脚払い装置10全体や補強部26(縦リブ22)の前後方向長さや、補強部26の目標とする変形量等によって、適宜に決定されるところであって、深さ方向(上下方向)において一定の大きさとされていても良く、平板部21側(上方)に向かって、或いは平板部21側とは反対側(下方)に向かって徐々に変化するように大きさとされていても良い。切欠部30の幅:Wが、部分的に異なる大きさとされていても、何等差し支えない。また、それらの点からして、切欠部30の形状も、特に限定されるものではなく、例えば、矩形状や逆U字状、或いは上方に向かうに従って幅:Wが次第に大きくなる、或いは上方に向かうに従って幅:Wが次第に小さくなる台形状等、各種の形状が採用可能である。
【0034】
そして、図2及び図3から明らかなように、本実施形態の脚払い装置10においては、横リブ24の厚さ:T1 が、上記のような切欠部30を有する縦リブ22の厚さ:T2 よりも厚くされている。これによって、補強部26の全体の変形強度(剛性)が、十分に大きくされている。
【0035】
すなわち、かかる脚払い装置10では、縦リブ22の長さ方向中間部に切欠部30が設けられているため、例えば、切欠部30の幅によっては、前側から後側への入力荷重に対する縦リブ22の変形強度が、切欠部30を有しないものよりも小さくなってしまう可能性がある。一方、横リブ24の厚さ:T1 が、縦リブ22の厚さ:T2 よりも厚くされているため、前側から後側への入力荷重に対する横リブ24の変形強度が、横リブ24を縦リブ22と同一厚さとした場合に比して、十分に大きくされている。従って、本実施形態の脚払い装置10においては、たとえ、縦リブ22の変形強度が、切欠部30の形成によって低くなっていたとしても、それが、厚肉化による横リブ24の変形強度の上昇分によって十分に補われている。そして、それにより、前側から後側への入力荷重に対する補強部26全体の変形強度乃至は剛性が、安定的に確保されているのである。
【0036】
なお、上記から明らかなように、縦リブ22の変形強度が、切欠部30の形成によって小さくなってしまう可能性がある場合には、横リブ24の厚さ:T1 を、縦リブ22の厚さ:T2 よりも厚くすることが望ましいが、切欠部30が設けられた縦リブ22の変形強度が、然程、小さくなっていない場合には、特に、横リブ24を厚肉化する必要はない。また、切欠部30が設けられた縦リブ22の変形強度が小さくなっている可能性があっても、横リブ24を厚肉化することなく、例えば、基板14の平板部21を厚肉化することによって、縦リブ22の変形強度の低下分を補うこともできる。そして、横リブ24の厚さ:T1 を縦リブ22の厚さ:T2 よりも厚くする場合には、横リブ24の厚さ:T1 が、縦リブ22の厚さ:T2 に対して160%以下の大きさとされていることが、望ましい。何故なら、横リブ24の厚さ:T1 が、縦リブ22の厚さ:T2 に対して160%を超える場合には、横リブ24が厚過ぎて、補強部26の変形強度が必要以上に大きくなったり、或いは横リブ24の厚肉による脚払い装置10の重量の増大が過剰となったりする恐れがあるからである。
【0037】
かくの如き構造を有する脚払い装置10は、例えば、図4に示されるように、自動車の前部に位置するエンジンルーム:E内において、自動車の前面に設置されたフロントバンパ12の後方側に取り付けられるようになっている。
【0038】
すなわち、脚払い装置10が内側に取り付けられるフロントバンパ12は、全体として、車幅方向に湾曲して延びる湾曲形態を呈している。また、このフロントバンパ12の上端部と下端部とには、前方に突出する上側突出部32と下側突出部34が一体形成されている。そして、かかるフロントバンパ12は、自動車の前面部分を構成する、例えばフロントグリル36に対してボルト固定等されて、設置されている。なお、図4中、38は、外部からエンジンルーム:E内に走行風を取り入れるための空気取入口であって、40はボンネットである。
【0039】
フロントバンパ12の後方のエンジンルーム:E内には、ラジエータ42が、配置されている。このラジエータ42は、エンジンルーム:E内に固設されたラジエータサポート44上に、枠状乃至は筒状のシュラウド46内に収容された状態で支持されて、固定されている。
【0040】
そして、脚払い装置10は、エンジンルーム:E内の下部部位において、フロントバンパ12とラジエータサポート44との間に、基板14がラジエータ42の下端部と同一の高さ位置で、前後方向に延びるように配置される。また、そのような状態において、補強部26の前端部分が、フロントバンパ12の下側突出部34の内側に突入している一方、基板14の後端が、ラジエータ42の下端部と同一の高さ位置に配置され、更に、取付板部17の水平板部19が、ラジエータサポート44の下方に配置される。そして、かかる水平板部19が、複数の挿通孔20にそれぞれ挿通された取付用クリップ16により、ラジエータサポート44の下面に固定されて、取り付けられる。
【0041】
これによって、脚払い装置10が、自動車前部の下部部位において、フロントバンパ12の下側突出部34とラジエータサポート44との間に、補強部26の平板部21と複数の縦リブ22とを、前後方向、つまり、歩行者のフロントバンパ12への衝突に伴って生ずる衝撃荷重の入力方向に延びるように位置させる一方、複数の横リブ24を車幅方向に延びるように位置させた状態で、設置される。また、そのような脚払い装置10の設置状態下で、補強部26の前端に位置する複数の横リブ24のそれぞれの前面にて構成された衝撃入力面28が、フロントバンパ12の下側突出部34の内側に、衝撃荷重の入力方向に直交して、位置固定に配置される。更に、脚払い装置10の基板14の上面からなる導風面15が、フロントバンパ12の空気取入口38とラジエータ42との間において、空気取入口38から取り入れられた走行風をラジエータ42の前面に導くように、ラジエータ42の下端部と同一高さ位置で水平に広がる状態で配置される。
【0042】
かくして、本実施形態の脚払い装置10にあっては、歩行者の自動車前面への衝突事故が発生して、歩行者の脚部(48)がフロントバンパ12に接触したときに(図5参照)、即座に、衝撃荷重に対する反力を、歩行者の脚部(48)のすね付近の部分に対して、補強部26の衝撃入力面28からフロントバンパ12を介して作用させ得るようになっている。このとき、上記のように、横リブ24が縦リブ22よりも厚肉化されていることで補強部26の剛性(変形強度)が十分に確保されているところから、脚払い装置10に入力される衝撃荷重がある程度の大きさに達するまでは、脚払い装置10の変形量が十分に小さくされる。
【0043】
そして、図5に示されるように、脚払い装置10は、歩行者の脚部48のフロントバンパ12との接触により衝撃荷重が入力されると、大きく屈曲変形する。即ち、衝撃荷重が脚払い装置10に入力されると、かかる衝撃荷重が、基板14(平板部21)前端から下方に突出する複数の横リブ24のそれぞれの前面からなる衝撃入力面28から、基板14と複数の縦リブ22のそれぞれに対して、後側に向かって略水平方向に伝達される。すると、各取付板部17のラジエータサポート44へのクリップ止めが外れて、脚払い装置10が後方に変位し、それによって、各縦リブ22の後端面が、ラジエータサポート44に接触して、各縦リブ22が、ラジエータサポート44とフロントバンパ12との間に挟まれる。このとき、各縦リブ22の長さ方向中間部に、所定の幅:Wを有する切欠部30がそれぞれ設けられているため、各縦リブ22が、切欠部30の前後方向両側に位置する側面同士が接近するように変形する。そして、その結果、脚払い装置10全体の変形モードが、各縦リブ22の切欠部30の形成部位に対応した補強部26の前後方向の中間部位(基板14の前後方向の中間部位)を屈曲点として、補強部26が上方に凸となる「へ」の字状に屈曲変形する上折れモードとなる。
【0044】
かくして、本実施形態の脚払い装置10にあっては、衝撃荷重の入力による変形時に、各縦リブ22の切欠部30よりも後側に位置する部分が後方に向かって下傾する状態となり、それによって、基板14の後端が、脚払い装置10の後側の上方に配置されたラジエータ42の前面に接触することが有利に回避される。
【0045】
従って、かかる脚払い装置10によれば、歩行者が自動車の前面に衝突乃至は接触した際に生ずる衝撃荷重によって変形した際に、ラジエータ42前面に対する基板14の後端の接触によるラジエータ42の損傷が未然に防止され得る。そして、その結果として、歩行者の自動車前面の衝突事故の発生後に、ラジエータを修理する必要が有利に解消されて、そのための修理費が削減され、以て、修理全体に掛かる費用を可及的に低く抑えることが可能となるのである。
【0046】
また、本実施形態の脚払い装置10では、切欠部30が逆V字形状とされて、下方に向かって次第に拡幅するようになっている。このため、縦リブ22の変形時に、切欠部30の前後方向両側に位置する側面部分同士の干渉が、より効果的に防止される。これによって、補強部26が、「へ」の字状に更にスムーズに変形し、以て、基板14の後端のラジエータ42への接触が、より一層効果的に防止され得ることとなる。
【0047】
そして、本実施形態の脚払い装置10においては、たとえ、切欠部30の形成によって、縦リブ22の変位強度が低くなっていたとしても、横リブ24の厚肉化により、補強部26全体の剛性が、従来品と同等以上の大きさで十分に確保されるため、従来品と同様な荷重−変位特性が発揮され得る。従って、かかる脚払い装置10では、歩行者保護性能が、十分に且つ安定的に確保され得るのである。
【0048】
なお、かかる脚払い装置10は、基板14の後端部が、ラジエータ42の下端部と同一の高さ位置に配置されていたが、ラジエータ42の下端部よりも下方に配置されていても良い。それによって、脚払い装置10の衝撃入力による変形時に、基板14の後端部のラジエータ42の前面との接触が、更に有利に回避され得る。基板14の後端部とラジエータ42の下端部よりも下方への配置は、例えば、ラジエータ42を支持するラジエータサポート44の支持面に凹部を設け、この凹部内に、基板14の後端部が突入させることによって、実現される。
【0049】
次に、図6乃至図8には、本発明に従う構造を有する歩行者保護装置の別の実施形態としての脚払い装置が、その下面形態と、切断方向が互いに異なる二つの縦断面形態とにおいて、それぞれ示されている。かかる本実施形態は、前記第一の実施形態に対して、補強部の構造が異なるものの、それ以外の構造は、前記第一の実施形態と同様とされている。従って、本実施形態に関しては、前記第一の実施形態と同様な構造とされた部材及び部位について、図6乃至図8に、図1乃至図3と同一の符号を付すことにより、その詳細な説明を省略する。
【0050】
すなわち、図6に示されるように、本実施形態の脚払い装置50は、前記第一の実施形態に係る脚払い装置10を形成する樹脂材料と同様な樹脂材料からなる樹脂成形体からなっている。そして、かかる脚払い装置50においては、基板14の後端側部分の下面に、複数の取付板部17が一体形成されている一方、基板14の前側部分が補強部52とされている。
【0051】
取付板部17は、前記第一の実施形態に係る脚払い装置10と同様に、鉛直板部18と、挿通孔20を有する水平板部19とを備えた略L字状を呈する板材からなっている。そして、取付板部17の水平板部19が、挿通孔20に挿通されたクリップ等にて、自動車に設置されるラジエータサポート(図示せず)に固定されることによって、脚払い装置50が、かかるラジエータサポートに取り付けられるようになっている。
【0052】
補強部52は、下方に開口する縦断面コ字状の上側補強ビード54の複数(ここでは7個)と、上方に開口する縦断面コ字状の下側補強ビード56の複数(ここでは6個)とが、車幅方向に1個ずつ交互に並んで位置するように一体形成されて、構成されている。また、補強部52の車幅方向両端部には、基板14の両サイド部分からなる側方基板部57が、それぞれ一体形成されている。
【0053】
この補強部52を構成する上側補強ビード54は、車幅方向において互いに所定距離を隔てて対向位置して、前後方向に延びる、長手矩形状の薄肉平板からなる二つの縦壁部58,58と、長手矩形形状を有して、前後方向に延びる薄肉平板状の上側基板部60とを備え、それら二つの縦壁部58,58の上端部が、上側基板部60にて相互に連結されてなっている。一方、下側補強ビード56は、かかる二つの側壁部58,58と、長手矩形形状を有して、前後方向に延びる薄肉平板状の下側基板部62とを備え、それら二つの縦壁部58,58の下端部が、下側基板部62にて相互に連結されてなっている。換言すれば、上側基板部60の下面の幅方向両端に、縦壁部58がそれぞれ立設されて、上側補強ビード54が構成されており、下側基板部62の上面の幅方向両端に、縦壁部58がそれぞれ立設されて、下側補強ビード56が構成されている。なお、ここでは、互いに隣り合う上側補強ビード54と下側補強ビード56とがそれぞれ有する二つの縦壁部58,58の一方が、それら上側及び下側補強ビード54,56の間に位置する一つの縦壁部58にて構成されている。
【0054】
また、そのような上側及び下側補強ビード54,56のそれぞれの内側には、矩形板からなる横壁部64が、互いに対向する縦壁部58,58の対向面間において、車幅方向に延びるように、それぞれ配置されている。更に、横壁部64は、互いに対向する縦壁部58,58の対向面間の前端と、それよりも後側の前後方向に離間した二箇所の合計三箇所に配置されている。そして、かかる横壁部64は、互いに対向する縦壁部58,58同士を相互に連結した状態で、上側及び下側補強ビード54,56の上側及び下側基板部60,62にそれぞれ一体的に立設されている。
【0055】
なお、それらの複数の横壁部64のうち、互いに対向する縦壁部58,58の対向面間の前端に配置された横壁部64が、補強部52の車幅方向中間部に位置する縦壁部58と略同じ高さを有し、また、そのような横壁部64よりも後側に配置された横壁部64は、かかる縦壁部58の高さの略半分の高さを有している。そして、互いに対向する縦壁部58,58の対向面間の前端に配置された複数の横壁部64のそれぞれの前面にて、衝撃入力面28が形成されている。
【0056】
かくして、本実施形態の脚払い装置50では、その前側部分に、複数の縦壁部58と複数の上側及び下側基板部60,62とが組み合わされてなる上側及び下側補強ビード54,56の複数と、それら上側及び下側補強ビード54,56の内側に配置された複数の横壁部64とを含んで構成された補強部52が形成されていることによって、かかる前側部分の剛性、即ち、車両前側から後側に向かう荷重に対する変形強度が、高められている。なお、図6及び図8中、66は、上側及び下側補強ビード54,56を基板14の後端部に連結するための連結板部である。
【0057】
そして、本実施形態の脚払い装置50においては、特に、複数の縦壁部58の全てのものの長さ方向中間部に、切欠部30が設けられている。この切欠部30は、縦壁部58の下端面において、下方に向かって開口し、全体として、逆V字形状を呈している。これによって、切欠部30の幅が、下方に向かうに従って漸増するようになっている。また、かかる切欠部30は、その深さ、縦壁部58の高さと同一の寸法とされている。即ち、ここでは、補強部52の車幅方向両端に位置する、高さの低い二つの縦壁部58,58に設けられた切欠部30,30も、それら二つの縦壁部58,58以外の高さの高い縦壁部58に設けられた切欠部30も、全て、上側基板部60の下面に達する深さとされている。
【0058】
なお、そのような切欠部30は、前記第一の実施形態に係る脚払い装置10の縦リブ22に設けられる切欠部30と同様に、縦壁部58の高さと同一の深さと、切込みの幅のように、実施的にゼロとならない幅とを有しておれば、幅の大きさや形状が、特に限定されるものではない。
【0059】
そして、本実施形態の脚払い装置50では、横壁部64が縦壁部58よりも厚くされている。なお、前記第一の実施形態に係る脚払い装置10の横リブ24と縦リブ22のそれぞれの厚さの関係と同様に、横壁部64厚さは、縦壁部58の厚さに対して160%以下とされていることが望ましい。
【0060】
このように、かかる脚払い装置50においては、補強部52を構成する縦壁部58の前後方向中間部に切欠部30が設けられているため、ラジエータサポートへの取付状態下で、衝撃入力面28に対して、一定の大きさ以上の衝撃荷重が入力された際に、各縦壁部58の切欠部30の形成位置たる補強部52の長さ方向中間部において、上方に凸となるように「へ」の字状に屈曲する上折れモードで変形するようになる。そして、横壁部64が縦壁部58よりも厚肉とされていることで、補強部52全体の剛性が、十分な確保されている。なお、前記したように、横壁部64は、必ずしも、縦壁部58よりも厚肉とされていなければならないわけではない。
【0061】
従って、本実施形態の脚払い装置50にあっても、前記第一の実施形態に係る脚払い装置10において奏される作用・効果と同一の作用・効果が、極めて有効に享受され得るのである。
【0062】
ここにおいて、本発明に従う構造を有する脚払い装置(車両用歩行者保護装置)の荷重−変位特性を調べるために、本発明者によって実施された試験について、詳述する。
【0063】
すなわち、先ず、図1乃至図3に示されるように、縦リブに切欠部が設けられると共に、横リブが縦リブよりも厚肉とされた構造を有する脚払い装置を作製した。なお、この脚払い装置は、ポリプロピレンを用いた射出成形を行って作製した。また、かかる脚払い装置の縦リブ(縦壁部)の厚さを2.5mm、横リブ(横壁部)の厚さを3.5mmとした。また、切欠部の最大幅を60mmとした。そして、この脚払い装置を試験例1とした。
【0064】
一方、縦リブに切欠部が設けられておらず、また、縦リブと横リブとが同一の厚さとされる以外、試験例1の脚払い装置と同様な構造とされた脚払い装置を、試験例1の脚払い装置と同様にして作製した。そして、この脚払い装置を試験例2とした。なお、かかる試験例2の脚払い装置の縦リブと横リブのそれぞれの厚さを2.5mmとした。
【0065】
また、縦リブと横リブとが同一の厚さとされる以外、試験例1の脚払い装置と同様な構造とされた脚払い装置を、試験例1の脚払い装置と同様にして作製した。そして、この脚払い装置を試験例3とした。なお、かかる試験例2の脚払い装置の縦リブと横リブのそれぞれの厚さを2.5mmとした。また、切欠部の最大幅を60mmとした。
【0066】
そして、かくして作製された試験例1〜3の3種類の脚払い装置を、それぞれ、実車(自動車)の前面に固設されたフロントバンパのバンパカバーの内側に設置して、互いに構造の異なる脚払い装置がそれぞれ設置されてなる3種類の試験車両を得た。その後、それら3種類の試験車両を用いて、自動車のフロントバンパへの歩行者の衝突を想定した歩行者保護想定衝撃試験を行って、各脚払い装置に入力される荷重と各脚払い装置の変形量との関係を公知の手法により、各々調べた。その結果を、図9に示した。なお、各試験車両に対する歩行者保護想定衝撃試験は、各試験車両のフロントバンパの前面に対して、21.3kgの重量を有するダミーを20km/hの速度で衝突させることにより実施した。
【0067】
かかる図9から明らかなように、縦リブに切欠部が設けられておらず、縦リブと横リブとが同一厚さとされた従来構造を有する試験例2の脚払い装置の荷重−変位曲線と、縦リブに切欠部が設けられて、縦リブと横リブとが同一厚さとされた本発明に従う構造を有する試験例3の脚払い装置の荷重−変位曲線とを比較した場合、それらは、互いに略同一の変位量において、荷重値が、それぞれピーク値に達しているものの、後者における荷重値のピーク値が、後者における荷重値のピーク値よりも小さい値となっている。一方、縦リブに切欠部が設けられ、且つ横リブが縦リブよりも厚肉とされた本発明に従う構造を有する試験例1の脚払い装置の荷重−変位曲線と、試験例2の脚払い装置の荷重−変位曲線とを比較した場合、それらは、略同様な波形(形状)を有し、略同一の変位量において、荷重値が略同一のピーク値に達している。これらのことから、縦リブに切欠部が設けられてなる本発明に従う構造を備えた脚払い装置では、横リブを縦リブよりも厚肉とすることによって、補強部に入力される衝撃荷重に対する反力が十分に且つ効果的に高められ、以て、自動車の前面に衝突乃至は接触する歩行者の保護が極めて有効に図られ得ることが、明確に認識され得るのである。
【0068】
以上、本発明の具体的な構成について詳述してきたが、これはあくまでも例示に過ぎないのであって、本発明は、上記の記載によって、何等の制約をも受けるものではない。
【0069】
例えば、縦リブ22や縦壁部58の前後方向での切欠部30の形成位置は、それら縦リブ22や縦壁部58の前後方向長さ、ひいては補強部26,52の前後方向長さ等に応じて、適宜に変更可能である。
【0070】
また、前記第一及び第二の実施形態では、複数の縦リブ22や複数の縦壁部58の全てのものに、切欠部30が設けられていた。しかしながら、ラジエータ42において、取付板部17の後端との接触による損傷が大きなダメージとなるのは、一般に、ラジエータホース等が配設されるラジエータ42の前面の車幅方向両端側部分である。従って、全ての縦リブ22や縦壁部58ではなく、例えば、補強部26,52の車幅方向の両サイド部分にそれぞれ位置する幾つかの縦リブ22や縦壁部58に対してだけに、切欠部30を形成しても良い。そうすることにより、脚払い装置10,50の後端との接触によるラジエータ42の損傷を可及的に小さく抑えつつ、脚払い装置10,50の補強部26,52の剛性が、より十分に確保され得ることとなる。
【0071】
加えて、本発明は、自動車の前面に取り付けられたフロントバンパの内側に設置される歩行者保護装置の他、フロントバンパの内側以外に設置されるものや、自動車以外の車両の前部の下部部位に様々な形態で設置される歩行者保護装置の何れに対しても有利に適用され得ることは、勿論である。
【0072】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【符号の説明】
【0073】
10,50 脚払い装置 14 基板
17 取付板部 22 縦リブ
24 横リブ 26,52 補強部
30 切欠部 42 ラジエータ
54 上側補強ビード 56 下側補強ビード
58 縦壁部 60 上側基板部
62 下側基板部 64 横壁部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
補強部が設けられた前側部分と、車両前部に設置された車両部品に取り付けられる後側部分とを一体的に有して、車両の前部の下部部位に車両前後方向に延びるように配置される樹脂成形体からなると共に、該補強部が、(a)車両前後方向に延びる基板部と、(b)車幅方向において互いに対向して、車両前後方向に延びるように配置された状態で、該基板部の下面に一体形成された板状の複数の縦壁部と、(c)該複数の縦壁部のうちの互いに隣り合う縦壁部の対向面間に、車幅方向に延びるように位置して、それら互いに隣り合う縦壁部を相互に連結した状態で、該基板部の下面に一体形成された板状の複数の横壁部とを含んで構成されて、前端部が、車両の前面に衝突した歩行者の脚部に接触することによって、該脚部を保護し得るように構成された車両用歩行者保護装置において、
前記縦壁部に対して、下方に開口する切欠部が、前記基板部の下面に達する深さで形成されていることを特徴とする車両用歩行者保護装置。
【請求項2】
前記横壁部が、前記縦壁部よりも厚肉とされている請求項1に記載の車両用歩行者保護装置。
【請求項3】
前記切欠部が、下方に向かうに従って拡幅する形状を有している請求項1又は請求項2に記載の車両用歩行者保護装置。
【請求項4】
前記切欠部を有する前記縦壁部が、少なくとも、前記樹脂成形体の前側部分の車幅方向の両サイドに位置するように、前記補強部に設けられている請求項1乃至請求項3のうちの何れか1項に記載の車両用歩行者保護装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate