説明

車両用水冷式内燃機関

【課題】ラジェータ冷却用ファンを適切に運転することにより、機関本体の過冷却を防止すると共に燃費アップも図る。
【解決手段】ラジェータを駆動するファンは、機関本体内の冷却水温度K″が予め設定した値になるとON・OFFされる。ファンがOFFされる設定温度K′を、燃料が供給されて運転されている状態では低い温度K2に設定し、燃料供給が停止されつつ主軸が回転している状態では高い温度K3に設定している。車両が下り坂を走行している場合、燃料の供給は停止しつつ主軸は回転している場合があるが、この場合は、冷却用ファン停止温度K′を高い温度K3に設定することにより、ファンを早めに停止させて電力が無駄に消費されることを防止すると共に、機関本体の過冷却も防止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、車両に搭載される水冷式内燃機関に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両用の内燃機関は一般に水冷式になっており、機関本体の熱を吸収した冷却水はラジェータに至り、ラジェータを通過する過程で電動式ファンによって冷却されるようになっている。そして、過冷却を防止するため、機関本体を流れる冷却水の温度が設定値以下になると(或いは設定値よりも低くなると)、ファンの運転を停止するように設定している。また、機関本体内での冷却水の温度が設定値を超えると、ファンが運転されるように設定している。
【0003】
そして、加速時と減速時とで必要な冷却性能が相違する場合があることから、特許文献1には、車両が加速領域であるか減速領域であるかをセンサ類から判断して、冷却用ファンのOFFが行われる設定温度(目標温度)を、加速領域では低い温度に設定し、減速領域では高い温度に設定することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭58−74824号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1は、冷却用ファンの駆動に要する動力の損失を抑制できると言えるが、制御体系が複雑化するのみならず、機関の冷却要請に必ずしも的確に応えていないと言える。すなわち、例えば、下り坂での走行の場合、アクセルから足を離しているのに車両は加速していることがあるが、この状態では機関の主軸は回転しているものの燃料はカットされているため、冷却用ファンを駆動し続けていると過冷却になることがある。従って、この場合は、見掛け上は加速しているが、冷却用ファンの運転開始温度は高く設定してもよいと言える。エンジンブレーキを効かして下り坂を一定の速度で走行している場合も同様である。
【0006】
また、平地から上り坂に移行した場合は、減速に転じても機関には大きな負荷がかかって発熱量も高くなっているため、ファンの運転開始温度を低く設定して迅速に冷却せねばならないといったことがある。いずれにしても、特許文献1は機関本体の冷却要請に的確に応えていないと言える。
【0007】
本願発明はこのような現状に鑑み成されたものであり、冷却用ファンのON・OFFを簡単な構成で適切に制御することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明の内燃機関は、冷却水で冷却される機関本体と、前記冷却水を冷却するためのファンとを備えており、前記機関本体を通る冷却水の温度が設定値に下がると前記ファンを停止させる構成において、前記機関本体の主軸が回転している状態で前記機関本体への燃料供給が停止されると、前記ファンの駆動を停止させる設定温度が、前記機関本体に燃料が供給されて運転されている状態での設定温度よりも高い値に変更される。
【発明の効果】
【0009】
機関本体に燃料が供給されていない状態では、機関本体の主軸(クランク軸)が回転していても燃料の爆発は起こっていないため、ファンによる冷却水の冷却開始温度(すなわち、ファンの運転開始温度)を高く設定しても差し支えなく、これにより、過冷却による機関本体のダメージを抑制できると共に、冷却用ファンの回転に使用する電力の消費量を抑制して燃費向上に貢献できる。また、冷却用ファンの寿命アップにも貢献できる。
【0010】
また、登り坂で減速している場合のようなフルスロットル状態では冷却水は的確に冷却されるため、冷却不良により機関本体がダメージを受けることも防止できる。そして、燃料の供給の有無は燃料噴射器(インジェクタ)の制御等に関連して簡単に判別できるため、新たにセンサ類を設ける必要はなくてコストアップをもたらすことがないと共に、制御システムは単純であるため制御のトラブル発生も防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施形態の模式図である。
【図2】制御態様を示すグラフである。
【図3】制御例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本願発明の実施形態を図面に基づいて説明する。まず、図1に基づいて概略を説明する。本実施形態の機関は3気筒式ガソリン機関であり、機関本体1は、主要要素としてシリンダブロック2とシリンダヘッド(図示せず)とを有しており、シリンダブロック2に、3つのシリンダボア3がシリンダヘッドに向いて開口している。
【0013】
シリンダボア3の周囲には冷却水ジャケット4が形成されており、冷却水ジャケット4には、供給ポート5から冷却水が供給される。機関本体1の冷却を終えた冷却水は、排出ボート6から排出される。敢えて述べるまでもないが、冷却水ジャケット4はシリンダヘッドに設けた冷却水通路にも連通している。冷却水の排出ポート6と供給ポート5とを結ぶ管路の途中に、機関本体1の出力軸(クランク軸)7で駆動されるウォーターポンプ8と、多数の冷却細管を有するラジェータ9とが設けられている。ラジェータ9は、電動式のファン10で冷却される。なお、ウォーターポンプ8は、ラジェータ9の下流に配置してもよい。
【0014】
機関本体1を構成するシリンダヘッドには、吸気マニホールド11と排気マニホールド12とが接続されており、吸気マニホールド11には、エアクリーナ13で濾過された新気が吸気管路14を介して供給される。吸気管路14には、電動モータ15で駆動されるスロットルバルブ16と、その下流側に位置したサージタンク17とが介挿されている。
【0015】
機関本体1には、燃料タンク(図示せず)から燃料供給管18を介して燃料が供給される。燃料供給管18から送られた燃料は、分配器18a及び枝管18bを介して各気筒ごとに設けたインジェクタ18cに送られ、各インジェクタ18cで噴射霧化されて、吸気バルブの近傍部で吸気に混合される。
【0016】
排気マニホールド12には排気管路20が接続されており、排気管路20に排気ターボ過給機21のタービン室21aが介挿されており、更に、排気管路20のうち排気ターボ過給機21よりも下流側には排気浄化装置22を設けている。吸気管路14は排気ターボ過給機21のポンプ室21bを通過している。
【0017】
内燃機関は、主軸7で駆動される発電機23を備えており、発電機23で発電された電力はバッテリー24に蓄電され、冷却用のファン10やスロットル弁制御モータ15は、バッテリー24から供給された電力で駆動される。主軸7から発電機23への動力の継断は電磁クラッチで行われており、バッテリー24の蓄電量が設定値以下になると、電磁クラッチがONになって発電機23が駆動される。
【0018】
内燃機関は、燃料噴射等の各種制御を司る制御装置(制御ユニット)25を備えている。制御装置25はCPUやRAM,ROMなどを有しており、この制御装置25に、エンジンコントロールユニット(ECU)の構成要素の一部として、アクセルペダル26の踏み込み量を検知するペダルセンサ(ポテンショメータ)27や、機関本体1を通る冷却水の温度を検知する水温センサ28、スロットルバルブ16の開度を検知するスロットルセンサ(ポテンショメータ)29、主軸7の回転数を検出する回転センサ30、各インジェクタ18c、車速センサ(図示せず)などが接続されている。図1では、電力の供給線は一点鎖線で表示し、信号線は二点鎖線で表示している。
【0019】
(2).制御態様
次に、図2に基づいて基本的な制御を説明する。図2は、横軸を共通の時間軸として、機関内部での冷却水の温度と、燃料のON・OFF、車速、冷却用ファン10のON・OFFの関係を上下に並べて示したものである。
【0020】
この図2において、車両は車速を変えて運転されており、スタートからT1までは燃料は供給されていて、概ね負荷や車速に比例して冷却水の水温も上下している。そして、燃料が機関本体1に供給されている状態では、ファン10の運転を停止させる温度は低温温度K2に設定されており、冷却水温度K″がK2に下がった時点でファン10がOFFになる。冷却水温度K″が上昇してK1に到ると、ファン10がONになる。
【0021】
他方、時間が経過してT1に到ると、例えば走行路が下り坂になることにより、ある程度の車速は維持しつつ燃料はカットされた状態になる。すると、ファン10の運転を停止させる温度は高温温度K3に変更されており、冷却水温度がK3に下がるとファン10はOFFになる。従って、燃料供給時よりも高い温度でファン10はOFFになる。そして、燃料の供給が再開されると、ファン停止温度は低温のK2に移行する。
【0022】
次に、図3のフローチャートに基づいて具体的な制御態様を説明する。図3では、便宜的に、ファン10の運転を停止する温度をK′と表示し、水温センサ28の実測温度(冷却水温度)をK″としている。ステップは単にSと略す。
【0023】
機関の運転によって制御システムがスタートし、まず、冷却水温度K″がファン運転開始温度K1より高いか否かが判断され(S1)、冷却水温度K″がファン運転開始温度K1より高い場合は、ファン10がONか否かが判断される(S2)。S2でファン10がONである場合は、燃料がOFF(カットされている)か否かが判断され(S3)、燃料がOFFの場合(カットされている場合)は、ファン10のファン運転停止温度K′を高温温度であるK3に設定する。S3において燃料がONの場合(カットされていない場合)は、ファン10のファン運転停止温度K′は低温温度であるK2に設定される(S5)。
【0024】
S4,S5でファン運転停止温度K′がK3又はK2のいずれかに設定されたら、次いで、冷却水温度K″がファン運転停止温度K′(K3又はK2)より低いか否かが判断され(S6)、冷却水温度K″がファン運転停止温度K′より低い場合はファン10は停止され(S7)、冷却水温度K″がファン運転停止温度K′より高い場合はファン10はONになる(S8)。S1において冷却水温度K″が運転開始温度K1より高い場合も、S8に移行してファン10はONになる。また、S2においてファン10がONである場合は07に移行する。
【0025】
燃料のON・OFF((すなわち、燃料が供給されているかカットされているか否か)は、燃料噴射用インジェクタ18cの駆動用電磁弁に通電されているか否かや、制御装置25から燃料噴射用インジェクタ18cに駆動信号がされているか否かから、簡単に検知できる。ガソリンエンジンでは燃料噴射量と吸気量とはほぼ比例しているので、スロットルセンサ29からの信号によって燃料のON・OFFを検知することも可能である。
【0026】
(3).まとめ・その他
機関本体は燃料が供給されていない状態では発熱は少ないため、ファン10の停止温度を高い温度に設定しておいても冷却不良の問題は発生せず、むしろ、過冷却を防止して機関本体の寿命アップに貢献できる。かつ、バッテリー24に蓄電された電力が無駄に消費されることを防止できるため、発電機23の駆動のために使用される機関本体1の動力を抑制して燃費を向上できる。また、機関の制御のために元々備わっている水温センサ28やを利用して制御するものであるため、コストアップも防止できる。
【0027】
直噴式ガソリンエンジンやディーゼルエンジンのように、新気の供給と燃料の供給とを別系統にして燃料を噴射ポンプで燃焼室に噴射する場合は、燃料噴射ポンプの制御系から燃料供給の有無を判断したらよい。
【0028】
本願発明は、燃料供給の有無に関連してファンをOFFする設定温度を高くすることを骨子としているが、これに加えて、例えば、燃料供給の有無に関連して、燃料が供給されていない状態では冷却水の供給量を減少させるといったことも可能である。また、燃料OFFの検出を契機として、主軸がある程度以上の回転数で回転しているときに、発電機23を駆動することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本願発明は内燃機関に実際に適用できる。従って、産業上、利用できる。
【符号の説明】
【0030】
1 機関本体
2 シリンダブロック
3 シリンダボア
4 冷却水ジャケット
9 ラジェータ
10 冷却用ファン
16 スロットルバルブ
17 サージタンク
18 燃料供給管
18c インジェクタ(燃料噴射器)
20 スロットルセンサ
23 発電機
24 バッテリー
25 制御装置
27 アクセルセンサ
28 水温センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水で冷却される機関本体と、前記冷却水を冷却するためのファンとを備えており、前記機関本体を通る冷却水の温度が設定値に下がると前記ファンを停止させる構成であって、
前記機関本体の主軸が回転している状態で前記機関本体への燃料供給が停止されると、前記ファンの駆動を停止させる設定温度が、前記機関本体に燃料が供給されて運転されている状態での設定温度よりも高い値に変更される、
車両用水冷式内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−113244(P2013−113244A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261341(P2011−261341)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)