説明

車両用注意喚起装置

【課題】注意喚起の仕方を工夫することにより、自車両が交差点付近の対象障害物に衝突しないようにする車両用注意喚起装置の提供。
【解決手段】運転者に交差点付近で注意を喚起する車両用注意喚起装置であって、自車両の走行位置を検出する走行位置検出手段と、上記自車両が右折または左折のために交差点に近づいてから右折または左折後に当該交差点を離れるまでの間、運転者に交差点付近への注意を喚起するために運転者に視覚刺激を与える視覚刺激手段と、上記自車両の走行位置に応じて、上記視覚刺激手段の刺激強度を異ならせる刺激制御手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用注意喚起装置に関し、より詳しくは、注意喚起の仕方を工夫することにより、自車が交差点付近の対象障害物に衝突しないようにする車両用注意喚起装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の交通量は増加の一途を辿っており、交通量の増加につれて交差点での交通事故も増加している。交差点での交通事故は、車両同士の衝突事故の他、横断歩道上の歩行者と自動車の衝突事故が多い。歩行者と車両の衝突事故は、車両の運転者の注意力が低下している場合に起こりやすい。そこで、運転者の注意力を向上させる装置の開発が待たれている。
【0003】
特許文献1には、自車の走行状況から自車が障害物に衝突する危険度を割り出し、危険度が低いときにサブリミナル的な警報(可聴周波数の上限または下限付近の警報音)を出し、危険度が高くなったときに可聴周波数の中間域の警報音を出す車両用警報装置が開示されている。この装置によれば、危険度が低いときにサブリミナル的な警報を出すので、危険度が低いときには運転者にうるさい感じを与えることなく注意を喚起することができる。
【0004】
しかしながら、この車両用警報装置には以下の問題があった。すなわち、この車両用警報装置は、障害物を検知してからしか警報を出さないので、警報から衝突までの時間が短く、衝突回避できない可能性があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−118991号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたもので、注意喚起の仕方を工夫することにより、自車が交差点付近の対象障害物に衝突しないようにする車両用注意喚起装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、
運転者に交差点付近で注意を喚起する車両用注意喚起装置であって、
自車両の走行位置を検出する走行位置検出手段と、
上記自車両が右折または左折のために交差点に近づいてから右折または左折後に当該交差点を離れるまでの間、運転者に交差点付近への注意を喚起するために運転者に視覚刺激を与える視覚刺激手段と、
上記自車両の走行位置に応じて、上記視覚刺激手段の刺激強度を異ならせる刺激制御手段と、を備える。
【0008】
第1の発明によれば、視覚刺激手段は、自車両が右折または左折のために交差点に近づいてから右折または左折後に当該交差点を離れるまでの間、運転者に交差点付近への注意を喚起するために運転者に視覚刺激を与える。また、刺激制御手段は、自車両の走行位置に応じて、視覚刺激手段の刺激強度を変更する。つまり、刺激制御手段は、自車両が交差点に近づいてから離れるまでの間、自車両の位置に応じて視覚刺激強度を変更する。交差点右左折時に運転者に必要とされる注意力は、交差点付近における自車両の位置によって異なる。よって、第1の発明によれば、対象障害物が検知されなくても或いは検知される前から、自車両の位置に応じて、運転者に必要な注意を喚起することができ、自車両が交差点付近の対象障害物に衝突するのを防止することができる。なお、視覚刺激強度は、1回当たりの視覚刺激時間および視覚刺激の周期により調整することができる。1回当たりの視覚刺激時間が長い程、視覚刺激は強くなる。また、視覚刺激の周期が短い程、視覚刺激が強くなる。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、
上記刺激制御手段は、(A)上記自車両が交差点に接近している区間では運転者に閾下刺激が与えられるように、(B)上記自車両が交差点に進入してから当該交差点を離れるまでの区間では運転者に閾上刺激が与えられるように、上記視覚刺激手段を制御することを特徴とする。
【0010】
第2の発明によれば、広い範囲に注意すべき区間は運転者に閾下刺激が与えられ、注意すべき方向が決まっている区間は運転者に閾上刺激が与えられる。これは、閾下刺激が運転者に広い範囲に注意を喚起することに向いており、閾上刺激が運転者に特定の方向に注意を喚起することに向いているからである。よって、第2の発明によれば、運転者により確実に注意を喚起することができる。
【0011】
第3の発明は、第1の発明において、
歩行者を含む少なくとも上記自車両前方の対象障害物を検出する障害物検出手段をさらに備え、
上記刺激制御手段は、(A)上記自車両が交差点に接近している区間は運転者に第1の周期では閾下刺激が与えられるように、(B)上記自車両が交差点に進入してから当該交差点内の所定位置に到達するまでの区間では運転者に第2の周期で閾上刺激が与えられるように、(C)上記障害物検出手段により右折道路または左折道路の横断歩道付近に対象障害物が検知され、かつ、上記自車両が上記所定位置に到達してから上記横断歩道を通過するまでの区間では上記第2の周期より短い第3の周期で閾上刺激が与えられるように、上記視覚刺激手段を制御することを特徴とする。
【0012】
第3の発明によれば、広い範囲に注意すべき区間は運転者に閾下刺激が与えられ、注意すべき方向が決まっている区間は運転者に閾上刺激が与えられる。また、対象障害物が検出された場合は、短い周期で閾上刺激が与えられる。よって、第3の発明によれば、運転者により確実に注意を喚起することができる。
【0013】
第4の発明は、第2の発明において、
上記刺激制御手段は、上記(B)の段階で、運転者が注意すべき方向を示す態様で閾上刺激が与えられるように、上記視覚刺激手段を制御することを特徴とする。
【0014】
第4の発明によれば、上記(B)の段階で、運転者が注意すべき方向を示す態様で閾上刺激が与えられる。よって、第4の発明によれば、運転者により適切に注意を喚起することができる。
【0015】
第5の発明は、第3の発明において、
上記刺激制御手段は、上記(B)の段階で、運転者が注意すべき方向を示す態様で閾上刺激が与えられるように、上記(C)の段階で、運転者が注意すべき方向を示す態様でまたは運転者が注意すべき対象障害物の種類を示す態様で閾上刺激が与えられるように、上記視覚刺激手段を制御することを特徴とする。
【0016】
第5の発明によれば、上記(C)の段階で、運転者が注意すべき方向を示す態様でまたは運転者が注意すべき対象障害物の種類を示す態様で閾上刺激が与えられる。よって、第5の発明によれば、運転者により適切に注意を喚起することができる。
【0017】
第6の発明は、第3の発明において、
上記第1周期は500ミリ秒以下であり、上記第2周期および第3周期は1000ミリ秒以下であることを特徴とする。
【0018】
第6の発明によれば、より適切な周期で閾上刺激および閾下刺激を与えることが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、対象障害物が検知されなくても或いは検知される前から、自車両の位置に応じて、運転者に必要な注意を喚起することができ、自車両が交差点付近の対象障害物に衝突するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態に係る車両用注意喚起装置の構成を示すブロック図
【図2】図1に示す車両用注意喚起装置を搭載した車両が交差点付近を走行する様子を示す図
【図3】図1に示す車両用注意喚起装置を搭載した車両が交差点付近を走行する様子を示す図
【図4】図1に示す車両用注意喚起装置を搭載した車両が交差点付近を走行する様子を示す図
【図5】図1に示す車両用注意喚起装置を搭載した車両が交差点付近を走行する様子を示す図
【図6】視覚刺激手段をLED点光源列で構成する場合を示す図
【図7】視覚刺激手段をヘッドアップディスプレイで構成する場合を示す図
【図8】閾下刺激と閾上刺激が注意力(視覚的認知力)に及ぼす影響の実験装置を示す図
【図9】閾下刺激と閾上刺激が注意力(視覚的認知力)に及ぼす影響の実験結果を示す図
【図10】手掛かり刺激から周辺刺激までの時間と、視覚的認知力向上量との関係を示す図
【図11】(a)は、(A)段階での刺激呈示タイミングを示す図であり、(b)は、(a)で示した刺激による視覚的認知力向上効果を示す図
【図12】(a)は、(B)段階での刺激呈示タイミングを示す図であり、(b)は、(a)で示した刺激による視覚的認知力向上効果を示す図
【図13】(a)は、(C)段階での刺激呈示タイミングを示す図であり、(b)は、(a)で示した刺激による視覚的認知力向上効果を示す図
【図14】第1実施形態に係る車両用注意喚起装置の動作を示すフローチャート
【図15】第2実施形態に係る車両用注意喚起装置の構成を示すブロック図
【図16】図15に示す車両用注意喚起装置を搭載した車両が交差点付近を走行する様子を示す図
【図17】図15に示す車両用注意喚起装置を搭載した車両が交差点付近を走行する様子を示す図
【図18】図15に示す車両用注意喚起装置を搭載した車両が交差点付近を走行する様子を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。図1は、第1実施形態に係る車両用注意喚起装置の構成を示すブロック図である。図2〜5は、図1に示す車両用注意喚起装置を搭載した車両が交差点付近を走行する様子を時系列的に順に示す図である。
【0022】
第1実施形態に係る車両用注意喚起装置1は、運転者に交差点9(図2参照)付近で注意を喚起する装置である。車両用注意喚起装置1は、走行位置検出手段2と、障害物検出手段3と、視覚刺激手段4と、刺激制御手段5とを備えている。
【0023】
第1実施形態に係る車両用注意喚起装置1は、主として信号のある交差点で作動するが、信号のない交差点で作動してもよい。以下、右折時を例にとって説明するが、左折時に作動させることも可能である。
【0024】
車両用注意喚起装置1は、車両に搭載されたECU(Electronic Control Unit)等により実現することができる。車両用注意喚起装置1は、ECUの適所に配置されたマイクロコンピュータに、ECUの適所に配置されたROM(Read Only Memory)等に予め格納された制御プログラムを実行させることにより、当該マイクロコンピュータを、走行位置検出手段2、障害物検出手段3、刺激制御手段5等の機能部として機能させる。
【0025】
走行位置検出手段2は、自車両6の走行位置を検出する。車両位置検出手段2の構成は特に限定されないが、例えば、GPS、ナビゲーションシステムのデータベースから取得したデータに基づいて自車両6の位置を算出する機能部として構成することができる。走行位置検出手段2は、車速信号、操舵角信号、アクセルペダル信号、ブレーキペダル信号、方向指示器の方向指示信号のうち、少なくも1つ以上の信号から得られるデータに基づいて、自車両6が右折のために交差点9の手前で減速中であること、交差点9内で右折中であることを検出する。
【0026】
障害物検出手段3は、歩行者8を含む少なくとも自車両6前方の対象障害物を検出する。障害物検出手段3の構成は特に限定されないが、例えば、レーダ装置から取得した障害物の位置情報(レーダ信号)と、カメラ装置から取得した画像情報(カメラ信号)とに基づいて、交差点9付近、特に右折道路11の横断歩道12に歩行者8(図3,4参照)、自転車16等の対象障害物が存在しているかどうかを検出する。
【0027】
視覚刺激手段4は、自車両6が右折のために交差点9に近づいてから右折後に交差点9を離れるまでの間、運転者に交差点9付近への注意を喚起するために運転者に視覚刺激を与える。視覚刺激手段4による視覚刺激の種類は特に限定されないが、例えば、図6に示されるように、インストルメントパネルの上面(フロントガラスの直下に位置する面)に設けられたLED点光源列24の光がフロントガラスで反射されることによる反射光刺激としてもよい。図6(A)にLED点光源列24の光が反射される領域23が示されている。或いは、図7に示されるように、インストルメントパネルの上面に設けられたヘッドアップディスプレイ用表示器26の光がフロントガラスで反射されることによる反射光刺激を挙げることができる。図7(A)にヘッドアップディスプレイ用表示器26の光が反射される領域25が示されている。
【0028】
刺激制御手段5は、自車両6の走行位置に応じて、視覚刺激手段4の刺激強度を異ならせる。なお、視覚刺激強度は、1回当たりの視覚刺激時間および視覚刺激の周期により調整することができる。1回当たりの視覚刺激時間が長い程、視覚刺激は強くなる。また、視覚刺激の周期が短い程、視覚刺激が強くなる。具体的には、刺激制御手段5は、(A)自車両6が交差点9に接近している区間(図2参照)では運転者に第1周期で閾下刺激が繰り返し与えられるように、視覚刺激手段4を制御する。この区間は、例えば、交差点9入り口付近までの2〜3秒間の走行区間である。この走行区間では、視覚刺激手段4の視覚刺激により、運転者の注意領域22は広がる。閾下刺激とは、運転者に意識されないレベル(時間)で与えられる刺激である。また、刺激制御手段5は、(B)自車両6が交差点9に進入してから交差点9内の右折所定位置に到達するまでの区間(図3参照)では運転者に第2周期で閾上刺激が繰り返し与えられるように、視覚刺激手段4を制御する。この区間は、例えば、交差点9入り口付近から右折所定位置までの2〜3秒間の走行区間である。この走行区間では、視覚刺激手段4の視覚刺激により、運転者の注意領域22は絞られつつ右に向けられる。閾上刺激とは、運転者に意識されるレベル(時間)で与えられる刺激である。また、刺激制御手段5は、(C)障害物検出手段3により右折道路11の横断歩道12付近に対象障害物が検知され、かつ、自車両6が右折所定位置に到達してから横断歩道12を通過するまでの区間(図4参照)では第1周期よりも短い第2周期で閾上刺激が繰り返し与えられるように、視覚刺激手段4を制御する。この区間は、例えば、交差点9内の右折所定位置から右折先の横断歩道12までの2〜3秒間の走行区間である。この走行区間では、視覚刺激手段4の視覚刺激により、運転者の注意領域22は更に絞られる。また、刺激制御手段5は、(D)障害物検出手段3により右折道路11の横断歩道12付近に対象障害物が検知されず、かつ、自車両6が右折所定位置に到達してから横断歩道12を通過するまでの区間では第1周期の閾上刺激が繰り返し与えられるように、視覚刺激手段4を制御する。交差点9内の右折所定位置は特に限定されないが、例えば、対向車線の幅方向中央部とすることができる。対向車線の幅方向中央部は、一般的に、右折の最終段階に入る箇所であって、アクセルをパーシャル状態から加速状態にする箇所であり、横断歩道12を渡る歩行者8等との衝突事故を防ぎ得る最終段階だからである。右折所定位置を対向車線の幅方向中央部とした場合、片側2車線の道路では、右折所定位置は対向車線の2車線境界部となる。
【0029】
刺激制御手段5は、上記(B)の段階で、運転者が注意すべき方向を示す態様で閾上刺激が与えられるように、視覚刺激手段4を制御する。具体的には、例えば、LED点光源列24の光が左側から右側に次第に移動していくようにLEDが制御される。これにより、右折のために右方向への注意が促される。また、刺激制御手段5は、上記(C)の段階で、運転者が注意すべき方向を示す態様でまたは運転者が注意すべき対象障害物の種類を示す態様で閾上刺激が与えられるように、視覚刺激手段4を制御する。具体的には、例えば、ヘッドアップディスプレイが歩行者8を表すマークを表示し、或いは自転車16を表すマークを表示するようにヘッドアップディスプレイが制御される。なお、刺激制御手段5は、上記(A)の段階で、ヘッドアップディスプレイによって一時停止の標識マーク(信号のない交差点の場合)、或いは信号機の標識マークを表示してもよい。
【0030】
第1周期は、例えば略500ミリ秒未満である。第2周期および第3周期は、例えば略1000ミリ秒未満である。第3周期は第2周期よりも短い。第1周期は例えば略500ミリ秒弱、第2周期は例えば略1000ミリ秒弱、第3周期は例えば略200ミリ秒弱とされる。1回当たりの閾下刺激の呈示時間は、光源の輝度にもよるが、例えば、略50ミリ秒程度とされる。また、各閾上刺激の1回当たりの呈示時間は、光源の輝度にもよるが、例えば、略100ミリ秒程度とされる。
【0031】
ここで、閾下刺激と閾上刺激の実験結果について説明する。
閾下刺激と閾上刺激が注意力(視覚的認知力)に及ぼす影響について実験を行った。図8は、実験装置を示す図である。被験者の前にディスプレイ17を配置し、ディスプレイ17の画面27に、手掛かり刺激となる光18(図8(B)のT=t1の図参照)、中心刺激となる光19(図8(B)のT=t3の図参照)、周辺刺激となる光20(図8(B)のT=t3の図参照)を点光源で表示した。手掛かり刺激とは、周辺刺激の前になされる刺激であり、予告的な刺激である。中心刺激とは、手掛かり刺激の後に被験者の真正面(ディスプレイ17の画面27中心)で呈示される視覚刺激である。周辺刺激とは、手掛かり刺激の後に中心刺激と同時に中心刺激の周辺で呈示される刺激である。周辺刺激が呈示されてから所定時間内に被験者が周辺刺激を認識した場合、実験装置17により正解と判断される。被験者は、スイッチを操作することにより、周辺刺激を認識したことを実験装置に知らせる。正解率が高い程、周辺刺激を認識するために手掛かり刺激が有効であることになる。手掛かり刺激は、本実施形態において視覚刺激手段4による視覚刺激に対応する。また、周辺刺激は、本実施形態における対象障害物に対応する。
【0032】
中心刺激となる光を放つ点光源の大きさは視野角0.8度、輝度は54.5cd/m2とした。手掛かり刺激となる光を放つ点光源の大きさは視野角0.5度、輝度は54.5cd/m2とした。周辺刺激となる光を放つ点光源の大きさは視野角1.0度、輝度は54.5cd/m2とした。中心刺激となる光、周辺刺激となる光は、ディスプレイ17に「X」状に配列された複数の円枠の中から放たれる。手掛かり刺激となる光は、上記円枠の近傍から放たれる。
【0033】
図9は、実験結果を示す図である。「閾上−valid」は、閾上刺激で手掛かり刺激を行った後、手掛かり刺激と同じ位置で周辺刺激を行った場合を示している。「閾上−invalid」は、閾上刺激で手掛かり刺激を行った後、手掛かり刺激と異なる位置で周辺刺激を行った場合を示している。「閾下−valid」は、閾下刺激で手掛かり刺激を行った後、手掛かり刺激と同じ位置で周辺刺激を行った場合を示している。「閾下−invalid」は、閾下刺激で手掛かり刺激を行った後、手掛かり刺激と異なる位置で周辺刺激を行った場合を示している。「手掛かり無」は、手掛かり刺激を行わずに周辺刺激を行った場合を示している。
【0034】
図9に示されるように、「閾下−valid」は「手掛かり無」に比べて正答率が向上しており、「閾下−invalid」は「手掛かり無」に比べて遜色がない。一方、「閾上−invalid」は「手掛かり無」に比べて遜色がないものの、「閾上−valid」は「手掛かり無」に比べて正答率が大幅に低下している。この結果から、閾上刺激で手掛かり刺激を行った場合に手掛かり刺激と異なる位置で周辺刺激を行うと、正解率が大きく低下してしまうことがわかる。よって、運転者が広い範囲に対して満遍なく注意を払う必要がある場合には手掛かり刺激として閾下刺激が好ましいことがわかる。また、運転者が特定の方向に対して注意を払う必要がある場合には閾上刺激が好ましいことがわかる。
【0035】
図10は、図9の実験結果に基づき、手掛かり刺激から周辺刺激までの時間と、視覚的認知力向上量との関係を示した図である。図10からわかるように、手掛かり刺激を閾下刺激(破線で示す)で行う場合には、手掛かり刺激から周辺刺激までの時間を500ミリ秒未満にすれば視覚的認知向上が望めることがわかる。一方、手掛かり刺激を閾上刺激(実線で示す)で行う場合には、手掛かり刺激から周辺刺激までの時間を500ミリ秒以上としても視覚的認知力向上を望めることができ、1000ミリ秒程度まで視覚的認知力向上が望めることがわかる。
【0036】
図11(a)は、上記(A)の段階での刺激呈示タイミングを示す図であり、図11(b)は、(a)で示した刺激による視覚的認知力向上効果を示す図である。図11(a)に示されるように、約50ミリ秒間の閾下刺激が約500ミリ秒毎に呈示される。これにより、図11(b)に示されるように、500ミリ秒程度の視覚的認知力向上効果が高いレベルで連続的に継続する。
【0037】
図12(a)は、上記(B)の段階での刺激呈示タイミングを示す図であり、図12(b)は、(a)で示した刺激による視覚的認知力向上効果を示す図である。図12(a)に示されるように、約100ミリ秒間の閾上刺激が約1000ミリ秒毎に呈示される。これにより、図12(b)に示されるように、1000ミリ秒程度の視覚的認知力向上効果が高いレベルで連続的に継続する。
【0038】
図13(a)は、上記(C)の段階での刺激呈示タイミングを示す図であり、図13(b)は、(a)で示した刺激による視覚的認知力向上効果を示す図である。図13(a)に示されるように、約100ミリ秒間の閾上刺激が約200ミリ秒毎に呈示される。これにより、図13(b)に示されるように、1000ミリ秒程度の視覚的認知力向上効果が高いレベルで連続的に継続する。
【0039】
次に、車両用注意喚起装置1(以下、注意喚起装置1と称する)の動作について、図14のフローチャートを参照しつつ説明する。
まず、自車両6が交差点9に向かって直進しつつ減速し、右方向指示器が作動すると、注意喚起装置1は減速と右方向指示を検知する(ステップS1)。次いで、注意喚起装置1は、運転者に第1周期で閾下視覚刺激を与える(ステップS2。図2参照)。第1周期の閾下視覚刺激は、例えば50ミリ秒未満の視覚刺激が略500ミリ秒毎に繰り返されることにより与えられる。この視覚刺激により、運転者は交差点9付近の広い範囲に注意を払うことができる。
【0040】
次いで、自車両6が交差点9手前の横断歩道21を通過した辺りからステアリングが右に切られ、自車両6は交差点9内で右にカーブする。すると、注意喚起装置1は、運転者に第2周期で閾上視覚刺激を与える(ステップS3。図3参照)。第2周期の閾上視覚刺激は、例えば100ミリ秒程度の視覚刺激が略1000ミリ秒毎に繰り返されることにより与えられる。また、第2周期の閾上視覚刺激は、運転者が注意すべき方向(具体的には、右折先の横断歩道12がある右方向)を示す態様で与えられる。この視覚刺激により、運転者は横断歩道12がある右方向に注意を払うことができる。
【0041】
次いで、自車両6が交差点9内の右折所定位置(例えば、対向車線の幅方向中央部)に到達すると、横断歩道12上にいる歩行者8等の対象障害物の検出動作が行われる(ステップS4)。ステップS4で対象障害物が検出された場合、注意喚起装置1は、運転者に第3周期で閾上視覚刺激を与える(ステップS5。図4参照)。第3周期の閾上視覚刺激は、例えば100ミリ秒程度の視覚刺激が略200ミリ秒毎に繰り返されることにより与えられる。この視覚刺激は強いため、警告刺激となる。また、第3周期の閾上視覚刺激は、運転者が注意すべき方向を示す態様でまたは運転者が注意すべき対象障害物の種類を示す態様(例えば、人を表すマークの表示)で与えられる。この刺激により、運転者は横断歩道12上の対象障害物に強く注意を払うことができる。そこで、必要に応じて自車両6のブレーキ操作がなされる。一方、ステップS4で対象障害物が検出されない場合、注意喚起装置1は、運転者に第2周期で閾上視覚刺激を与え続ける(ステップS6)。次いで、自車両6が右折先の横断歩道12を通過すると、注意喚起装置1は動作を終了する(図5参照)。以上が注意喚起装置1の主な動作である。
【0042】
以上説明したように、注意喚起装置1によれば、刺激制御手段5は、自車両6が交差点9に近づいてから離れるまでの間、自車両6の位置に応じて視覚刺激の1回当たりの長さと周期を変更する。交差点9右折時に運転者に必要とされる注意力は、交差点9付近における自車両6の位置によって異なる。よって、注意喚起装置1によれば、対象障害物が検知されなくても或いは検知される前から、自車両6の位置に応じて、運転者に必要な注意力を喚起することができ、自車両6が交差点9付近の対象障害物に衝突するのを防止することができる。
【0043】
また、注意喚起装置1によれば、交差点9付近の広い範囲に注意すべき区間では運転者に閾下刺激が与えられ、注意すべき方向が決まっている区間では運転者に閾上刺激が与えられる。また、対象障害物が検出された場合は、特に大きな強度の閾上刺激が与えられる。よって、注意喚起装置1によれば、安全運転に必要な注意力をより確実に喚起することができる。
【0044】
また、注意喚起装置1によれば、障害物検出手段3により右折先の横断歩道12付近に対象障害物が検知され、かつ、自車両6が右折所定位置に到達してから横断歩道12を通過するまでの区間では、運転者が注意すべき方向を示す態様でまたは運転者が注意すべき対象障害物の種類を示す態様で閾上刺激が与えられる。よって、注意喚起装置1によれば、安全運転に必要な注意力をより確実に喚起することができる。
【0045】
次に、本発明の第2実施形態について説明する。図15は、第2実施形態に係る車両用注意喚起装置28の構成を示すブロック図である。図16〜18は、図15に示す車両用注意喚起装置を搭載した車両が交差点付近を走行する様子を時系列的に順に示す図である。
第2実施形態に係る車両用注意喚起装置28では、第1実施形態における上記(B)の段階がなく、それ以外は第1実施形態とほぼ同様である。第2実施形態は、主として左折時に適用される。第1実施形態と同様な構成については、第1実施形態と同様の参照符号を付してその説明を省略する。
【0046】
刺激制御手段15は、(A)自車両6が交差点9(図16参照)に接近している区間では運転者に第1実施形態の第1周期で閾下刺激が与えられるように、(C)障害物検出手段3により左折道路13(図17参照)の横断歩道14付近に歩行者8等の対象障害物が検知され、かつ、自車両6が所定位置に到達してから横断歩道14を通過するまでの区間は第1実施形態の第3周期で閾上刺激が与えられるように、視覚刺激手段4を制御する。なお、ここで言う「所定位置」は、特に限定されるものではないが、例えば、自車両6が交差点9に接近しつつ減速し、横断歩道21を通過してステアリングが左に切られ始めた辺りの位置である。自車両6が横断歩道14を通過した後は、車両用注意喚起装置28は処理を終了する(図18参照)。
【0047】
左折時には、自車両6は対向車線を横断しないので、左折動作が開始されてからすぐに左折先の横断歩道14に到達する。このため、第1実施形態における上記(B)の処理を経ずに(C)の処理がなされる。これにより、運転者に早いタイミングで警報刺激が与えられるので、左折時の衝突事故をより確実に防止することができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、自車両が交差点付近の歩行者等に衝突しないようにする車両用注意喚起装置等として利用可能である。
【符号の説明】
【0049】
1,28 車両用注意喚起装置
2 走行位置検出手段
3 障害物検出手段
4 視覚刺激手段
5、15 刺激制御手段
6 自車両
8 歩行者
9 交差点
11 右折道路
12 右折道路の横断歩道
13 左折道路
14 左折道路の横断歩道
16 自転車
17 ディスプレイ
18 手掛かり刺激の光
19 中心刺激の光
20 周辺刺激の光
21 直進路の横断歩道
22 運転者の注意領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者に交差点付近で注意を喚起する車両用注意喚起装置であって、
自車両の走行位置を検出する走行位置検出手段と、
前記自車両が右折または左折のために交差点に近づいてから右折または左折後に当該交差点を離れるまでの間、運転者に交差点付近への注意を喚起するために運転者に視覚刺激を与える視覚刺激手段と、
前記自車両の走行位置に応じて、前記視覚刺激手段の刺激強度を異ならせる刺激制御手段と、を備えた車両用注意喚起装置。
【請求項2】
前記刺激制御手段は、(A)前記自車両が交差点に接近している区間では運転者に閾下刺激が与えられるように、(B)前記自車両が交差点に進入してから当該交差点を離れるまでの区間では運転者に閾上刺激が与えられるように、前記視覚刺激手段を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用注意喚起装置。
【請求項3】
歩行者を含む少なくとも前記自車両前方の対象障害物を検出する障害物検出手段をさらに備え、
前記刺激制御手段は、(A)前記自車両が交差点に接近している区間では運転者に第1周期で閾下刺激が与えられるように、(B)前記自車両が交差点に進入してから当該交差点内の所定位置に到達するまでの区間では運転者に第2周期で閾上刺激が与えられるように、(C)前記障害物検出手段により右折道路または左折道路の横断歩道付近に対象障害物が検知され、かつ、前記自車両が前記所定位置に到達してから前記横断歩道を通過するまでの区間では前記第2周期よりも短い第3周期で閾上刺激が与えられるように、前記視覚刺激手段を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用注意喚起装置。
【請求項4】
前記刺激制御手段は、前記(B)の段階で、運転者が注意すべき方向を示す態様で閾上刺激が与えられるように、前記視覚刺激手段を制御することを特徴とする請求項2に記載の車両用注意喚起装置。
【請求項5】
前記刺激制御手段は、前記(B)の段階で、運転者が注意すべき方向を示す態様で閾上刺激が与えられるように、前記(C)の段階で、運転者が注意すべき方向を示す態様でまたは運転者が注意すべき対象障害物の種類を示す態様で閾上刺激が与えられるように、前記視覚刺激手段を制御することを特徴とする請求項3に記載の車両用注意喚起装置。
【請求項6】
前記第1周期は500ミリ秒未満であり、前記第2周期および前記第3周期は1000ミリ秒未満であることを特徴とする請求項3に記載の車両用注意喚起装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−81547(P2011−81547A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−232477(P2009−232477)
【出願日】平成21年10月6日(2009.10.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】