説明

車両用灯具のリフレクタ及びそれを備えた車両用灯具

【課題】車両用灯具のリフレクタに用いる射出成形品として良好な機械的強度を確保しながら軽量化を図ると共に、射出成形時にキャビティへの射出によって生じるキャビティ内壁への傷や摩耗を抑制するBMC樹脂を成形材料として用いた成形品による車両用灯具のリフレクタを提供する。
【解決手段】不飽和ポリエステル樹脂を主成分とするマトリクス樹脂に無機充填材として少なくともガラス繊維、炭酸カルシウム62及びガラス中空ビーズ61を添加したBMC樹脂において、BMC樹脂に対する炭酸カルシウム62の容積比率を19.7〜10.6vol%の範囲とすると共に、BMC樹脂に対するガラス中空ビーズ61の容積比率を、BMC樹脂に対する炭酸カルシウム62の容積比率とガラス中空ビーズ61の容積比率の合計容積比率が約49vol%となるような範囲とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用灯具を構成し、光源からの出射光を前方の前面レンズ方向に向けて反射する光反射面を備えたリフレクタ及びそれを備えた車両用灯具に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用灯具に用いられるこの種のリフレクタは、射出成形により光反射面を形成する前の成形品を成形するに際し、不飽和ポリエステル樹脂を主成分とするマトリクス樹脂に炭酸カルシウム等からなる無機充填材やガラス繊維やガラスバルーンを添加したBMC材料(バルクモールディングコンパウンド)を成形材料として用いることがある。
【0003】
BMC材料を射出成形材料とする具体的な例としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂及び架橋剤100質量部に対して、0.5μm以上の平均粒子径を有する無機充填材(例えば、炭酸カルシウム)40〜210質量部と2100×10N/mの耐圧強度を有する中空フィラー(例えば、ガラスバルーン)30〜160質量部とを、無機充填材と中空フィラーとの質量比率が2:8〜8:2となる範囲で添加するものである(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4673298号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記組成構成のBMC材料は、上述のようにリフレクタの軽量化の面から所定の耐圧強度を有する中空フィラーが不飽和ポリエステル樹脂及び架橋剤からなるマトリクス樹脂に添加されており、その耐圧強度及び添加量は、成形性、成形体の寸法安定性、剛性等の諸特性が良好に確保できるような範囲に設定されている。
【0006】
それと同時に、マトリクス樹脂には繊維強化材として例えば、繊維長1.5〜25mm程度に切断したチョップドストランドガラスと、無機充填材として炭酸カルシウムが添加されており、射出成形時に成形金型のキャビティ内にBMC材料を射出する際に、キャビティ壁面に繊維強化材の攻撃性及び炭酸カルシウムの不定形粒子の凸部によって傷や摩耗を生じる恐れがあり、金型劣化による金型寿命の短縮及び成形体の完成度の低下を招くことになる。
【0007】
そこで、本発明は上記問題に鑑みて創案なされたもので、その目的とするところは、軽量化を図ると共に、射出成形時に成形金型のキャビティ内への射出によって生じるキャビティ壁面への傷や摩耗を抑制するBMC材料を成形材料として用いた成形体による車両用灯具のリフレクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載された発明は、不飽和ポリエステル樹脂を主成分とするマトリクス樹脂に、無機充填材として炭酸カルシウムと、繊維強化材及びガラス中空ビーズを添加したBMC樹脂による射出成形品を用いた車両用灯具のリフレクタであって、前記炭酸カルシウムは前記BMC樹脂に対する容積比率が19.7〜10.6vol%の範囲にあり、前記ガラス中空ビーズは前記BMC樹脂に対する前記炭酸カルシウムの容積比率と前記ガラス中空ビーズの容積比率の合計容積比率が約49vol%となるような範囲にあることを特徴とするものである。
【0009】
また、本発明の請求項2に記載された発明は、請求項1において、前記射出成形品は、前記BMC樹脂が射出金型のキャビティの面方向に対して略垂直な方向からゲートを介して前記キャビティ内に射出されて成形されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、不飽和ポリエステル樹脂を主成分とするマトリクス樹脂に無機充填材として少なくともガラス繊維、炭酸カルシウム及びガラス中空ビーズを添加したBMC樹脂において、BMC樹脂に対する炭酸カルシウムの容積比率を19.7〜10.6vol%の範囲とすると共に、BMC樹脂に対するガラス中空ビーズの容積比率を、BMC樹脂に対する炭酸カルシウムの容積比率とガラス中空ビーズの容積比率の合計容積比率が約49vol%となるような範囲とした。
【0011】
その結果、車両用灯具のリフレクタに用いる射出成形品として良好な機械的強度を確保しながら軽量化を図ることができると共に、射出成形時にキャビティ内への射出によって生じるキャビティ内壁への傷や摩耗を抑制するBMC樹脂を成形材料として用いた成形品による車両用灯具のリフレクタを実現することができた。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態のリフレクタを用いた車両用灯具の一例を示す縦断面説明図である。
【図2】図1のA部拡大説明図である。
【図3】金型装置の説明図である。
【図4】試作サンプルを説明する図である。
【図5】BMC樹脂の添加材の形状を説明する図である。
【図6】金型装置の部分拡大説明図である。
【図7】同じく、金型装置の部分拡大説明図である。
【図8】同じく、金型装置の部分拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、この発明の好適な実施形態を図1〜図8を参照しながら、詳細に説明する(同一部分については同じ符号を付す)。尚、以下に述べる実施形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの実施形態に限られるものではない。
【0014】
図1は、実施形態のリフレクタを用いた車両用灯具の一例を示す縦断面説明図である。
【0015】
車両用灯具1は、互いに対向する側に開口とシールカバー装着孔を備えたハウジング2と、ハウジング2の開口を塞ぐように該ハウジング2の開口部に取り付けられた前面レンズ3と、シールカバー装着孔を塞ぐように該シールカバー装着孔に装着されたシールカバー4とで密閉空間からなる灯室5が形成されている。
【0016】
灯室5内には、ハウジング2に支持固定され、前面レンズ3側に向かって開く凹状湾曲形状を有するリフレクタ6が収容され、シールカバー4のバルブ挿着孔に挿着されてリフレクタ6のバルブ挿嵌孔に挿嵌されたバルブ(光源)7が側方をリフレクタ6で包囲された状態に配置されている。
【0017】
リフレクタ6は、BMC樹脂の射出成形で得られた成形品(リフレクタ6の成形基材)の、バルブ7を側方から包囲する側の面(内面)を、形状が異なる複数の湾曲面あるいは平面と湾曲面の組み合わせで構成された複合面8としている。
【0018】
そして、成形基材13の複合面8上には図2(図1のA部拡大図で、複合反射面の構成を説明する図)に示すように、樹脂によるアンダーコート層9が成膜され、その上にアルミニウムなどの金属反射膜10が蒸着やスパッタにより成膜され、更にその上に透明樹脂によるトップコート層11が成膜されて、光反射効率の向上と配光パターンの形成に寄与する複合反射面12が形成されている。
【0019】
つまり、複合反射面12を構成する各反射面は、光源7からの出射光を反射してその反射光が配光パターンにおける所望の領域を形成するような照射光となるように最適な形状に設定されている。
【0020】
そこで、図1に戻って、上記構成からなる車両用灯具1において、バルブ7の発光部14からリフレクタ6の、バルブ7の光軸Xを含む水平面よりも上側の複合反射面12aに向けて出射された光L1及び下側の複合反射面12b向けて出射された光L2はいずれも夫々複合反射面12a、12bで反射され、配光制御された反射光は前方に位置し配光パターンの形成には寄与しない所謂素通しの前面レンズ3をそのまま透過して前方に照射され、その照射光が所望の配光パターンを形成する。
【0021】
次に、このような光学機能を有するリフレクタ6において、複合反射面12を設ける基材となる成形品(成形基材)を成形する射出成形の成形材料となるBMC樹脂について説明する。
【0022】
BMC樹脂は熱硬化性樹脂であり、基本組成物として、マトリクス樹脂には繊維強化材としてガラス繊維を、無機充填材として炭酸カルシウム、ガラス中空ビーズ等を添加し、更に硬化剤や離型剤等を添加したものである。
【0023】
そのうち、マトリクス樹脂は不飽和ポリエステル樹脂を主成分とし、不飽和ポリエステル樹脂としては、その種類は特に限定されるものではないが、例えば、多価アルコールと不飽和多塩基酸との縮重合によって得られたものである。
【0024】
多価アルコールとしては、その種類は特に限定されるものではないが、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンタンジオール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールA、グリセリン等を用いることができる。
【0025】
そして、これらの中でも、耐熱性、機械的強度及び成形性等の観点から、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、及びビスフェノールA又は水素化ビスフェノールAが好ましい。
【0026】
不飽和多塩基酸としては、その種類は特に限定されるものではないが、例えば、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸等を用いることができる。
【0027】
そして、これらの中でも、耐熱性、機械的強度及び成形性等の観点から、無水マレイン酸及びフマル酸が好ましい。
【0028】
繊維強化材としては、繊維長が約1.5〜25mmのガラス繊維を用いることができる。その他、パルプ繊維、テトロン繊維、ビニロン繊維、カーボン繊維、アラミド繊維、ワラストナイト等の有機・無機繊維を用いることも可能である。
【0029】
次に、BMC樹脂の組成物の最適な組成比(容積比率:vol%)について、図3の金型装置を用いた射出成形により得られた試作成形基材の検証結果を説明する。
【0030】
まず、図3(金型装置の説明図)の金型装置は、固定金型(キャビティ金型)20と可動金型(コア金型)30との型締めによって図中に示す位置に突き合わせ面(以下、パーティング面と呼称する)40を有すると共に、型締めされた固定金型20と可動金型30とによって射出成形品を形成するためのキャビティ50が区画形成されている。
【0031】
また、固定金型20には、成形樹脂のBMC樹脂をキャビティ50内に注入するためのファンゲート21が、可動金型30の型開き方向Aに対して略垂直方向に延設されており、該ファンゲート21はランナ22及びスプル23を経てスプルブッシュ24のノズル接触部25に連通している。
【0032】
そして、スプルブッシュ24のノズル接触部25に射出成形機のノズル先端部(図示せず)が接触した状態で該ノズル先端部からスプル23内にBMC樹脂が射出されると、BMC樹脂はスプル23からランナ22及びファンゲート21を通ってキャビティ50内に射出され、キャビティ50全体がBMC樹脂で充填される。その後、キャビティ50内のBMC樹脂を加熱硬化して射出成形品が得られる。
【0033】
そこで、上記金型装置を用いた射出成形によって、図4(試作サンプルを説明する表)に示すような、組成の異なる5種類のBMC樹脂によるリフレクタの成形基材の試作サンプルを作製した。
【0034】
サンプル1は、BMC樹脂に対する比重1.1のマトリクス樹脂の容積比率を42.2vol%、比重2.7のガラス繊維の容積比率を8.8vol%、比重2.7の炭酸カルシウムの容積比率を49.1vol%、比重0.6のガラス中空ビーズの容積比率を0vol%とした。この時、BMC樹脂の比重は2.0であった。
【0035】
また、ガラス中空ビーズ61としては耐圧強度100MPa以上の真球体であるグラスバブルズ(商標)S60HS(3M社製)を用い、繊維強化材としては繊維長が約2.5mmのガラス繊維を用い、炭酸カルシウム62は非真球体(粉砕品)を用いた(図5(ガラス中空ビーズと炭酸カルシウムの形状を示す図)参照)。
【0036】
なお、上記グラスバブルズのS60HSよりも耐圧強度が低い(100MPa未満)のS60Jを添加したBMC樹脂を用いて射出成形を行ったところ、ガラス中空ビーズに潰れが生じて成形品の重量が増した。このことより、ガラス中空ビーズは耐圧強度が100MPa以上であることが好ましい。
【0037】
以下、サンプル2〜サンプル5は、サンプル1の炭酸カルシウムの一部をガラス中空ビーズに置き換えて炭酸カルシウムの容積比率を徐々に減らしてその分ガラス中空ビーズの容積比率を徐々に増やしていった。
【0038】
具体的には、サンプル2は、BMC樹脂に対する比重1.1のマトリクス樹脂の容積比率を41.8vol%、比重2.7のガラス繊維の容積比率を9.0vol%、比重2.7の炭酸カルシウムの容積比率を19.7vol%、比重0.6のガラス中空ビーズの容積比率を29.5vol%とした。この時、BMC樹脂の比重は1.4であった。
【0039】
因みにこの場合、炭酸カルシウムに対するガラス中空ビーズの置換容積率a(%)は、サンプル1のガラス中空ビーズを含まない比重2.0のBMC樹脂における炭酸カルシウムの容積比率をb(vol%)、炭酸カルシウムの一部がガラス中空ビーズに置き換わった後の残った炭酸カルシウムの容積比率をc(vol%)とすると、a=((b−c)/b)×100で算出される。この算出式によるとサンプル2の置換容積率は、((49.1−19.7)/49.1)≒60%となる。
【0040】
そこで、サンプル3は、BMC樹脂に対する比重1.1のマトリクス樹脂の容積比率を41.8vol%、比重2.7のガラス繊維の容積比率を9.0vol%、比重2.7の炭酸カルシウムの容積比率を10.6vol%、比重0.6のガラス中空ビーズの容積比率を38.5vol%とした。この時、BMC樹脂の比重は1.2、置換容積率は約78%であった。
【0041】
サンプル4は、BMC樹脂に対する比重1.1のマトリクス樹脂の容積比率を41.7vol%、比重2.7のガラス繊維の容積比率を9.0vol%、比重2.7の炭酸カルシウムの容積比率を6.1vol%、比重0.6のガラス中空ビーズの容積比率を43.2vol%とした。この時、BMC樹脂の比重は1.1、置換容積率は約88%であった。
【0042】
サンプル5は、BMC樹脂に対する比重1.1のマトリクス樹脂の容積比率を41.6vol%、比重2.7のガラス繊維の容積比率を9.0vol%、比重2.7の炭酸カルシウムの容積比率を1.5vol%、比重0.6のガラス中空ビーズの容積比率を47.9vol%とした。この時、BMC樹脂の比重は1.0、置換容積率は約97%であった。
【0043】
そこで、上記5種類の成形品の試作サンプルについて諸特性(機械的強度)を検証すると、サンプル1〜サンプル3の試作成形品については、126MPa以上の曲げ強さ、10GPa以上の曲げ弾性率、50MPa以上の引張り強さ、27kJ/m以上のシャルピー衝撃強度を確認した。これらの機械的強度は、車両用灯具を構成するリフレクタの基材としては十分満足でき性能となるものである。
【0044】
但し、そのうちサンプル1の試作成形品は、上記のようにリフレクタの基材としての機械的強度は満足しているものの、比重が2.0と大きいため車両用灯具の軽量化の観点からそぐわないものとなっている。
【0045】
一方、サンプル4及びサンプル5の試作成形品は、比重が0.6と小さいガラス中空ビーズが該試作成形品のうちの半分近くの容積を占めるため、軽量化に対しては対応できるものとはなっている。但し、その反面、ガラス中空ビーズの含有量が多いため、機械的強度はサンプル1〜サンプル3の試作成形品よりも劣るものとなっており、この点から車両用灯具のリクレクタに用いるのは不適当であると判断される。
【0046】
そこで、車両用灯具を構成するリフレクタに求められる機械的強度の観点からみると、サンプル2及びサンプル3の試作成形品が最適であることがわかる。
【0047】
ところで、BMC樹脂の補強材として用いられるガラス繊維(繊維強化材)及び増量剤として用いられる炭酸カルシウム(無機充填材)は、射出成形時にBMC樹脂がファンゲートからキャビティ内に射出するときの射出圧力によって、キャビティ壁面を傷つけたり或いは摩耗させたりする恐れがある。
【0048】
具体的には、図6(金型装置の部分拡大図で、成形樹脂(BMC樹脂)の流れを説明する図)に示すように、ファンゲート21から所定の圧力でキャビティ50内に射出されたBMC樹脂60は、最初に固定金型20のキャビティ50内壁の、ファンゲート21の正面に位置する部分(第1の成形樹脂流当部)26に直接所定の射出速度(流速)で当たり、そこで跳ね返されたBMC樹脂60は再度対向する可動金型30のキャビティ50内壁の部分(第2の成形樹脂流当部)31に当たることになる。
【0049】
このような、キャビティ50内におけるBMC樹脂60の流れにおいて、ガラス繊維の特に繊維の先端部及び炭酸カルシウムの粉砕した不定形粒子のシャープな凸部は、キャビティ50内壁を傷つけたり或いは摩耗させたりすることになり、特に、BMC樹脂が高速でぶつかる固定金型20の第1の成形樹脂流当部26及び可動金型30の第2の成形樹脂流当部31においては顕著に進行することになる。
【0050】
そのため、射出成形のショット数が増えるにつれて図7(金型装置の部分拡大図で、成形樹脂(BMC樹脂)の流れを説明する図)に示すように、固定金型20の第1の成形樹脂流当部26及び可動金型30の第2の成形樹脂流当部31に傷や摩耗が現れ、更にショット数が増えると図8(金型装置の部分拡大図で、成形樹脂(BMC樹脂)の流れを説明する図)に示すように、固定金型20の第1の成形樹脂流当部26及び可動金型30の第2の成形樹脂流当部31の傷や摩耗の領域が拡大すると共に傷や摩耗の程度が激しくなり、成形金型の寿命を短縮することになる。
【0051】
それと同時に、成形品に金型の傷や摩耗が転写されて表面に凹凸状の荒れた部分が生じ、リフレクタに使用するとその荒れた部分が光学特性に悪影響を及ぼすことになる。
【0052】
そこで、射出成形時にBMC樹脂を成形金型のキャビティ内へ射出するに際に、キャビティの内壁にBMC樹脂による傷や摩耗が生じるのを抑制するには、BMC樹脂の組成物の組成比を適切に設定することで成形品の機械的強度の低下を招くことなく実現することができる。
【0053】
具体的には、一つは、BMC樹脂に対して、金型のキャビティ50内壁を傷つけたり或いは摩耗させたりする炭酸カルシウムの添加量を低減することにある。また一つは、BMC樹脂に無機充填材として添加された球状のガラス中空ビーズとガラス繊維との間、及び、球状のガラス中空ビーズと炭酸カルシウムとの間は夫々接触時の滑り性が良好なために接触抵抗が低いということに着目し、ファンゲートから射出されたBMC樹脂が、第1の成形樹脂流当部26に当たり第1の成形樹脂流当部26で跳ね返されて第2の成形樹脂流当部31に当たるときに、先に第1の成形樹脂流当部26及び第2の成形樹脂流当部31の夫々に到達したガラス中空ビーズが、後方から来るガラス繊維及び炭酸カルシウムが第1の成形樹脂流当部26及び第2の成形樹脂流当部31に到達するのを阻止すると共に、ガラス中空ビーズに接触したガラス繊維及び炭酸カルシウムが良好な滑り性によってその流れ方向を流動方向に向けられてそれによりBMC樹脂の流動性が高まるようにするものである。
【0054】
これにより、BMC樹脂のキャビティ内への射出時に、第1の成形樹脂流当部26及び第1の成形樹脂流当部26へのガラス繊維及び炭酸カルシウムの衝突確率が低減し、該第1の成形樹脂流当部26及び第1の成形樹脂流当部26に対する傷或いは摩耗の発生が抑制される。
【0055】
但し、ガラス中空ビーズの量が多くなる(BMC樹脂に対する容積比率が高くなる)と、成形品の機械的強度が低下すると共に表面の平滑性が失われて微細な凸凹面が形成される。
【0056】
そのため、BMC樹脂に対するガラス中空ビーズの容積比率を、成形品の機械的強度が低下することなく且つ表面の平滑性が失われないような範囲とし、そのときに、BMC樹脂に添加されたガラス中空ビーズと炭酸カルシウムからなる増量材(無機充填材)の、該BMC樹脂に対する容積比率が良好なバランスを保つようにBMC樹脂に対する炭酸カルシウムの容積比率の範囲を、図4の表の試作サンプルに対する評価結果に基づいて設定した。
【0057】
具体的には、上述したように、BMC樹脂に対するガラス中空ビーズの容積比率の最適範囲は、成形品の機械的強度及び表面の平滑性の観点から、図4に示す、サンプル2における29.5vol%〜サンプル3における38.5vol%である。
【0058】
これに対し、BMC樹脂に添加されたガラス中空ビーズと炭酸カルシウムからなる増量材の、該BMC樹脂に対するバランスの良好な容積比率を約49vol%とすると、炭酸カルシウムに対するガラス中空ビーズの置換容積率a(%)を変えて得られた炭酸カルシウムのBMC樹脂に対する容積比率は19.7vol%〜10.6vol%の範囲となった。
【0059】
サンプル2及びサンプル3は射出成形のショット数が増加しても、BMC樹脂による金型のキャビティの内壁に対する傷や摩耗等によるダメッジが抑制され、金型寿命の短縮を防止することができる。
【0060】
その結果、BMC樹脂に対する無機充填材の炭酸カルシウムの容積比率が19.7vol%〜10.6vol%の範囲にあり、BMC樹脂に対する無機充填材のガラス中空ビーズの容積比率が、BMC樹脂に対する炭酸カルシウムの容積比率とガラス中空ビーズの容積比率の合計容積比率が約49vol%となるような範囲にあることにより、成形品の、車両用灯具のリフレクタとしての良好な機械的強度を確保しながら軽量化を図ることができると共に、射出成形時に成形金型のキャビティ内への射出によって生じるキャビティ壁面への傷や摩耗を抑制するBMC樹脂を成形材料として用いた成形品による車両用灯具のリフレクタが実現できる。
【符号の説明】
【0061】
1… 車両用灯具
2… ハウジング
3… 前面レンズ
4… シールカバー
5… 灯室
6… リフレクタ
7… バルブ(光源)
8… 複合面
9… アンダーコート層
10… 金属反射膜
11… トップコート層
12… 複合反射面
12a… 上側複合反射面
12b… 下側複合反射面
13… 成形基材(成形品)
14… 発光部
20… 固定金型(キャビティ金型)
21… ファンゲート
22… ランナ
23… スプル
24… スプルブッシュ
25… ノズル接触部
26… 第1の成形樹脂流当部
30… 可動金型(コア金型)
31… 第2の成形樹脂流当部
40… 突き合わせ面(パーティング面)
50… キャビティ
60… BMC樹脂
61… ガラス中空ビーズ
62… 炭酸カルシウム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和ポリエステル樹脂を主成分とするマトリクス樹脂に無機充填材として少なくともガラス繊維、炭酸カルシウム及びガラス中空ビーズを添加したBMC樹脂による射出成形品を用いた車両用灯具のリフレクタであって、
前記炭酸カルシウムは前記BMC樹脂に対する容積比率が19.7〜10.6vol%の範囲にあり、前記ガラス中空ビーズは前記BMC樹脂に対する前記炭酸カルシウムの容積比率と前記ガラス中空ビーズの容積比率の合計容積比率が約49vol%となるような範囲にあることを特徴とする車両用灯具のリフレクタ及びそれを備えた車両用灯具。
【請求項2】
前記射出成形品は、前記BMC樹脂が射出金型のキャビティの面方向に対して略垂直な方向からゲートを介して前記キャビティ内に射出されて成形されることを特徴とする請求項1に記載の車両用灯具のリフレクタ及びそれを備えた車両用灯具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−55001(P2013−55001A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194025(P2011−194025)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】