説明

車両用灯具及びその製造方法

【課題】シボムラのない樹脂製品を備えた車両用灯具を提供する。
【解決手段】樹脂部品10は、灯具前方に露出する意匠面10aと、意匠面10aの裏面に設けられた非意匠面10bとを有し、意匠面10aには微小凹凸からなるシボ部21が設けられ、非意匠面10bのうちシボ部21に対応する領域の外縁近傍に、金型成形時に金型40に支持されてシボ部21の面収縮を抑制するシボムラ抑制突出部22を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、意匠面にシボが形成された樹脂製品を備えた車両用灯具及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、外観の異なる車両用灯具が様々に提案されている。近年では、光源の配置やリフレクタの形状といった車両用灯具の構成を変更するほかに、エクステンション等の灯具前方に露出する部材の意匠面にシボを形成し、意匠性が高めることが提案されている。シボとは、表面に微小凹凸が形成された部位であり、光を乱反射することによりマット感を呈する。
【0003】
特許文献1は、このようなシボをリフレクタやエクステンションといった樹脂製品の金型成形時に、微小凹凸面を備えた金型を用い、金型の微小凹凸面を樹脂製品に転写することによりシボを形成することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-71556号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のようにシボを形成すると、樹脂製品にシボムラが発生してしまうことがあった。シボムラが発生してしまうと見栄えが悪く、樹脂製品の歩留まりが低下してしまう。
【0006】
そこで本発明は、シボムラの発生が抑制された樹脂製品を備えた車両用灯具及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明によれば、
光源の周囲に配置された樹脂部品を備えた車両用灯具であって、
前記樹脂部品は、灯具前方に露出する意匠面と、前記意匠面の裏面に設けられた非意匠面とを有し、
前記意匠面には微小凹凸からなるシボ部が設けられ、
前記非意匠面のうち前記シボ部に対応する領域の外縁近傍に、金型成形時に金型に支持されて前記シボ部の面収縮を抑制するシボムラ抑制突出部が設けられていることを特徴とする車両用灯具が提供される。
【0008】
また本発明によれば、上記車両用灯具において、
少なくとも一対の前記シボムラ抑制突出部が、前記非意匠面のうち前記シボ部に対応する領域を挟んで対向する位置に設けられていてもよい。
【0009】
また本発明によれば、上記車両用灯具において、
前記意匠面には、複数の前記シボ部が形成されており、
前記非意匠面のうち、それぞれの前記シボ部に対応する領域の境界に前記シボムラ抑制突出部が設けられていてもよい。
【0010】
また本発明によれば、上記車両用灯具において、
前記シボムラ抑制突出部の厚みを、0.2mm以上かつ、前記シボ部の形成された部位の前記樹脂部品の厚み以下としてもよい。
【0011】
また本発明によれば、上記車両用灯具において、
前記非意匠面のうち前記シボ部に対応する領域の内側に付加突出部が設けられ、
前記付加突出部は、前記シボムラ抑制突出部よりも小さく形成してもよい。
【0012】
また本発明によれば、
シボ部が設けられた意匠面と、意匠面の裏面の非意匠面とを備えた、車両用灯具の樹脂部品の製造方法であって、
微小凹凸面を備えた意匠面側金型と、前記意匠面側金型との間に前記樹脂部品を形成するキャビティを形成する成型面側に凹部を備えた非意匠面側金型とを用意する金型用意工程と、
前記意匠面側金型と前記非意匠面側金型との間に前記キャビティを形成するように、前記意匠面側金型と前記非意匠面側金型とを配置する金型配置工程と、
前記キャビティ内に原料樹脂を流し込んで、前記微小凹凸面を転写して前記シボ部を形成するシボ部形成工程と、
前記原料樹脂を冷却して前記樹脂部品を硬化させる冷却工程と、を備え、
前記冷却工程において、前記非意匠面側金型を前記凹部により形成されるシボムラ抑制突出部に当接させて、前記樹脂部品の冷却に伴う前記シボ部の収縮を抑制することを特徴とする車両用灯具の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る車両用灯具によれば、シボムラ抑制突出部が、成型時に樹脂の冷却に伴って発生するシボ部の面収縮を抑制するように作用する。したがって、金型成形時の冷却に伴う熱収縮によって生じるシボムラの発生を抑制することができる。
【0014】
また、本発明に係る車両用灯具の樹脂部品の製造方法によれば、凹部によって形成されたシボムラ抑制突出部が、樹脂製品の冷却に伴うシボ部の収縮を抑制するので、シボ部の収縮によって生じるシボムラを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用灯具の斜視図である。
【図2】図1に示す車両用灯具のロービーム灯具ユニットを含む面の断面図である。
【図3】シボムラの発生メカニズムを説明する模式図である。
【図4】図1に示す車両用灯具のエクステンションの部分拡大図である。
【図5】図4に示すエクステンションの製造工程を示す模式図である。
【図6】図1に示す車両用灯具のエクステンションの部分拡大図である。
【図7】本発明の第一変形例に係る車両用灯具のエクステンションの部分拡大図である。
【図8】本発明の第二変形例に係る車両用灯具のエクステンションの部分拡大図である。
【図9】本発明の第3変形例に係る車両用灯具のエクステンションの部分拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(全体構成)
以下、本発明の実施形態に係る車両用灯具を、図1,2を参照して説明する。
【0017】
図1は本発明の実施形態に係る車両用灯具の斜視図である。図1に示すように、車両用灯具は、灯具前方に開口する開口部を有するランプボディ1と、透明樹脂製のアウターカバー2とを備えている。アウターカバー2は、ランプボディ1の開口部を前方から閉塞するように配置されており、ランプボディ1とアウターカバー2との間に灯室が形成されている。
【0018】
灯室内には、ハイビームを照射可能なハイビーム灯具ユニット3と、ロービームを照射可能なロービーム灯具ユニット4とが配置されている。図2はロービーム灯具ユニット4を含む断面での車両用灯具の垂直断面図である。図2に示すように、ロービーム灯具ユニット4はプロジェクタ型の灯具ユニットであり、LED等からなる光源4bと、投影レンズ4a、リフレクタ4c等を備えている。なお、ハイビーム灯具ユニット3(図1参照)も、ロービーム灯具ユニット4と同様に構成される。また、図1に示すように、灯室内の車幅方向の端部近傍には、ターンシグナルランプ5が設けられている。
【0019】
灯室内には、図1に示すように、灯具正面側から見てハイビーム灯具ユニット3の投影レンズ3a、ロービーム灯具ユニット4の投影レンズ4a及びターンシグナルランプ5を露出させた状態でランプボディ1を覆うエクステンション10(樹脂部品)が設けられている。エクステンション10は、PBT(ポリブチレンテレフタレート)やPET(ポリエチレンテレフタレート)などの結晶性樹脂から形成された樹脂部材である。
【0020】
エクステンション10は、灯具前方側に露出する意匠面10aと、この意匠面10aと反対側の灯具前方から視認されない非意匠面10b(図2参照)とを備えている。意匠面10aには、平滑で光沢感のある鏡面部20と、光沢の低いシボ部21とが形成されている。シボ部21は微小凹凸面として形成されており、光を乱反射させることにより、マット感を呈する。シボ部21は、例えば、点刻状の微小突起と微小凹部とから構成することもできるし、一方向に延びる微小な畝と谷により構成してもよい。なお、本実施形態においては、エクステンション10の意匠面10aのほぼ全域が鏡面部20として形成されており、意匠面10aの一部にシボ部21が形成されている。また非意匠面10bには、図2に示すように、灯具前方に露出しない領域に向かって延びるリブ22が設けられている。
【0021】
図1,2に示すように、エクステンション10は、ロービーム灯具ユニット4の投影レンズ4a及びハイビーム灯具ユニット3の投影レンズ3aやターンシグナルランプ5が露出される底面部11と、底面部11を囲ってその外縁から前方に向かって延びる傾斜部12と、を備えている。また、底面部11には、それぞれハイビーム灯具ユニット3の投影レンズ3a及びロービーム灯具ユニット4の投影レンズ4aを囲み底面部11から前方に向かって突出する第一円筒部13及び第二円筒部14が設けられている。この第一円筒部13及び第二円筒部14の意匠面10aは、投影レンズ3a,4aから前方に向かって拡径する傾斜面とされている。
【0022】
第一シボ部21aは、第二円筒部14の意匠面10aの複数箇所に略長方形状に形成されている。これら複数の第一シボ部21aは、灯具正面から見た場合に、ロービーム灯具ユニット4の光軸に対して放射状に配置されている。また、これら複数の第一シボ部21aは、複数の鏡面部20によって放射状に区切られている。
【0023】
また第二シボ部21bは、枠状の傾斜部12のうち、第一円筒部13及び第二円筒部14の下方に位置する領域の一部に設けられている。この第二シボ部21bは車幅方向に延びる帯状に形成されている。第二シボ部21bは、第一シボ部21aと表面粗さが異なり、第一シボ部21aとは異なった外観を呈する。
【0024】
このように、本実施形態に係る車両用灯具においては、エクステンション10の意匠面10aに鏡面部20と第一シボ部21a及び第二シボ部21bとを混在させたことにより、車両用灯具の見栄えが向上されている。なお、以降の説明では特に第一シボ部21a、第二シボ部21bとを区別しない場合は、単にシボ部21と呼ぶ。
【0025】
(シボムラの発生メカニズム)
以上のように構成される車両用灯具において、シボ部21にシボムラが発生すると車両用灯具の見栄えを損なうので好ましくない。一般に、シボ部21は、エクステンション10等の樹脂製品の射出成型時に、金型に設けた微小凹凸を樹脂製品に転写することにより形成される。このとき、シボ部21を形成する際に所望の微小凹凸が転写されないと、シボ部21で均一に光の乱反射が起こらず、特定方向に強く光が反射すると、周囲の正常なシボ部21との反射率の差異が外観上、濃淡の筋状の縞模様が見えてしまう場合がある。この意図せずに見えてしまう縞模様をシボムラと呼んでいる。
【0026】
そこで本発明者らは、シボムラは以下のメカニズムによって発生していることを見出した。図3は、比較例に係るエクステンション10を金型成形する様子を示した模式図である。
【0027】
一般に、エクステンション10等の樹脂製品は金型成形により作成作製される。金型成形の際に、金型30のキャビティ内に注入した液状樹脂を硬化させるために樹脂を冷却すると、樹脂に熱収縮が生じる。エクステンション10は板状の部材として形成されるため、厚み方向よりも面方向(図中の左右方向)の寸法が大きい。このため、樹脂には面方向に大きな収縮力が作用することになる。
【0028】
このような金型成形中に、樹脂が部分的に金型30の表面に強く張り付いてしまうことがある(図中の領域A)。例えば、金型の一部が低温であると金型30の低温領域に樹脂が固着してしまったり、注入口近傍で流速の高い樹脂が金型30の表面に強く押し付けられたりすると、樹脂の一部が金型30の表面に強く張り付いてしまう。特に、シボ部21を形成する微小凹凸からなるシボ転写部31は樹脂との接触面積が大きく、樹脂が固着しやすい。このため、シボ転写部31で樹脂の金型30への張り付きが生じやすい。
【0029】
キャビティ内の樹脂が冷却し収縮する時、金型30の表面に強く張り付いた部位に向かって引き寄せられるように樹脂が変形し移動する。このように樹脂が移動すると、形成されたシボ部21のうちの凸部21sが、金型30のシボ転写部31の凸部31aに接触して変形する。その結果、図3に示すように、引き寄せられた側の凸部21sが傾いた状態に形成されてしまう。このように傾斜して形成された凸部21sは特定方向に光を反射してしまう。その結果、傾斜した凸部21sの領域が筋状の縞模様からなるシボムラとして視認されてしまう。
【0030】
特に、上述したようにシボ部21は金型30のシボ転写部31へ張り付きやすいので、樹脂はシボ部21を中心に集まろうと移動する。この場合は、金型30へ張り付いた領域を中心とする同心円状のシボムラがシボ部21に生じる。同心円状のシボムラは目立ちやすいので、エクステンション10の外観を大きく損ねる。このほか、金型30の温度のばらつき等によって樹脂全体が不均一に収縮すると、収縮量の異なる領域ごとに異なった角度に凸部21sが変形する。この場合は、収縮量の異なる領域ごとに特定方向へ光が反射され、全体として筋状のシボムラが視認される。
【0031】
なお、シボムラは、シボ部21の微小な凸部21sが変形することにより生じるので、鏡面部20で樹脂の移動が生じても、シボムラが生じない。平滑な表面を有する鏡面部20では、樹脂が金型30に接触しながら移動してもその表面が変形しないからである。
【0032】
(リブの作用)
そこで本発明者らは、樹脂の冷却速度や、金型内で樹脂を一定圧力に保持する圧力、金型内への樹脂の射出速度等の成型条件を様々に変えて実験を行い、シボムラを抑制する条件を見出そうとした。しかし、成型条件を種々に設定しても、効果的にシボムラの発生を抑制することができなかった。そこで本発明者らは成型条件を変更するのではなく、シボ部21の面収縮を抑制する構造物をエクステンション10に付加することを検討した。
【0033】
図4は、図1に示すエクステンション10の第二円筒部14に設けた意匠面10aの一部を法線方向から透視的に見た拡大図である。図4には、意匠面10aの裏面である非意匠面10bに形成されるリブ22を破線で示している。
【0034】
図4に示すように、エクステンション10の第二円筒部14の意匠面10aには、ロービーム灯具ユニット4の光軸に対して放射状に延びるように略長方形状の第一シボ部21aが形成されている。また、第二円筒部14の非意匠面10bのうち、この第一シボ部21aに対応する領域21t(第一シボ部21aの裏面領域)の外縁近傍にリブ22が設けられている。より具体的には、リブ22は第一シボ部21aの外縁に沿った線状に形成されている。また、このリブ22は非意匠面10bの領域21tを挟んで対向し、この領域21tに関して対称となる位置に設けられている。
【0035】
図5を用いて、本実施形態に係る製造方法を適用した第一シボ部21aを備えたエクステンション10の製造方法を説明する。図5は図4のV−V線矢視断面図であり、図中の矢印F1,F2はエクステンション10の成型時に樹脂に加わる応力を示している。なお、図5では金型のシボ転写部41の微小凹凸を誇張し、実際よりも大きく描いている。
【0036】
エクステンション10を作製するために、まず微小凹凸からなるシボ転写部41を備えた下金型40と、この下金型40のシボ転写部41と対向する領域の外縁近傍にリブ22を形成するためのリブ形成凹部51を備えた上金型50とを用意する。次に、下金型40と上金型50とを組み合わせてキャビティCを形成し、形成されたキャビティCの内部に原料樹脂を流し込み、樹脂を冷却硬化させてエクステンション10を作製する。なお、リブ形成凹部51に樹脂の注入口(ゲート)を設けると、エクステンション10の外観に影響を与えないリブ22にゲート痕が残るので好ましい。
【0037】
図5に示すように、樹脂の冷却時には、シボ転写部41によりシボ部21が形成され、リブ形成凹部51によりリブ22が形成され、これらがエクステンション10として一体として形成される。エクステンション10の非意匠面10bでは、第一シボ部21aに対応する領域21tが一対のリブ22により挟まれている。これにより、冷却時に樹脂に作用する圧縮力F1に対して、一対のリブ22により反力F2が生じる。なお、一対のリブ22は、その間に挟まれた上金型50の側壁53によって強固に支持されているので、リブ22は圧縮力F1によって変形することがない。
【0038】
したがって、図示したように樹脂全体を面収縮させるように圧縮力F1が作用しても、リブ22がシボ部21の移動を妨げるように反力F2を生じさせる。これにより、圧縮力F1は反力F2で打ち消され、樹脂の移動に伴うシボ部21の凸部の変形が生じない。したがって本実施形態に係る車両用灯具のエクステンション10によれば、非意匠面10bにリブ22を設けることにより、シボムラの発生を抑制することができる。なお、面収縮とは、エクステンション10の肉厚方向と垂直な方向への収縮のことである。
【0039】
特に、本実施形態に係る車両用灯具のエクステンション10によれば、図4に示すように、一対のリブ22がシボ部21に対応する領域21tに関して対称に設けられ、領域21tが一対のリブ22に挟まれている。これにより、シボ部21の一部が金型に張り付いてしまい、シボ部21を中心に引き寄せられるように圧縮力が樹脂に作用しても、一対のリブ22がそれぞれの側から反力を生じさせることができる。これにより、シボ部21全体に亘ってシボムラの発生を抑制することができる。
【0040】
なお、シボ部21の裏面にリブ22を形成してしまうと、意匠面10aのリブ22に対応する領域にシボムラが発生してしまうことがある。そこで、図4に示したように、リブ22はシボ部21に対応する領域21tの外縁から所定間隔を隔てた外側であって、鏡面部20に対応する領域に設けることが好ましい。上述したように、鏡面部20は、冷却に伴う樹脂の移動が生じても、その表面外観に影響が生じないからである。また、シボ部21に対応する領域21tの外縁からの間隔は、シボ部21の形成された部位のエクステンション10の厚みが大きいほど大きく設定されていることが好ましい。
【0041】
また、リブ22の厚みt(図5参照)は、0.2mm以上かつ、シボ部21の形成された部位のエクステンション10の厚みT以下であることが好ましい。リブ22の厚みが0.2mmより小さいとリブ22によって圧縮力F1を受け止めることができない。また、エクステンション10の厚みTよりも大きいと、金型成形時に意匠面10aのリブ22に対応する位置にヒケが発生してしまい、見栄えの良いエクステンション10が形成できないからである。
【0042】
なお、上述のようにリブ22は樹脂の冷却時に圧縮力F1に対する反力F2を生じさせる。このため、樹脂が完全に硬化しないうちに金型40,50からエクステンション10を取り出すと、リブ22が圧縮力F1の作用方向と反対側に曲がってしまうことがある。しかし、リブ22は灯具前方に露出しない非意匠面10b側に設けられるため、曲がったリブ22によって車両用灯具の見栄えが低下することはない。
【0043】
また、エクステンション10を、成型収縮率が10/1000〜20/1000と比較的大きい結晶性樹脂により形成する場合は、樹脂が収縮しやすいのでシボムラが発生しやすい。しかし、本実施形態に係る車両用灯具のエクステンション10のように、非意匠面10bにリブ22を形成することにより、効果的にシボムラの発生を抑制することができる。また、結晶性樹脂を用いると、樹脂の粘度が低いため、エクステンション10を薄肉に形成することができる。
【0044】
また、シボ部21を表面粗さRa(算術平均表面粗さ)で1〜200μmの微小凹凸面として形成する場合は、シボムラが生じた場合に特にシボムラが目立って見えてしまう。このため、従来はシボ部21の表面粗さの設計に制約が生じていた。ところが、本実施形態に係る車両用灯具のエクステンション10によれば、シボムラが発生しにくいので、このような設計上の制約が生じない。したがって、多様なデザインのエクステンション10を設計できる。また、この表面粗さに設定すると、シボ部21の微小凹凸の転写性がよく、見栄えの良いシボ部21が得られる。シボ部21の表面粗さRaは1〜100μmが好ましく、更に好ましくはRaが5〜50μmである。
【0045】
また、リブ22が上金型50の側壁53に確実に支持されるように、リブ22は非意匠面10bから垂直に設けられていることが好ましい。
【0046】
<第二シボ部>
なお、シボムラを抑制するリブ22の形状や形成位置は、上述の例に限られない。図6は、エクステンション10の傾斜部12の一部に形成された第二シボ部21bの近傍を拡大して示す図4と同様の図である。
【0047】
図2,6に示すように、第二シボ部21bの近傍に設けられるリブ22は、第二シボ部21bの灯具前方側に位置する鏡面部20の裏側に設けられている。このリブ22は、第二シボ部21bの延在方向と垂直な方向に延在する線状に形成され、第二シボ部21bの延在方向に沿って複数形成されている。このようなリブ22によっても、エクステンション10の成型時に作用する面方向の圧縮力F1が複数のリブ22間で受け止めるので、シボムラの発生を抑制することができる。
【0048】
<第一変形例>
図7は本実施形態の第一変形例に係る車両用灯具のエクステンション10の部分拡大図である。本実施形態においては、意匠面10aに鏡面部20と、面粗さの異なる二種類のシボ部21c,21dが形成されている。二種類のシボ部21c,21dはそれぞれ隣接して形成されており、その境界部16の裏面(非意匠面10b)にリブ22が設けられている。このように、外観の異なるシボ部21c,21dが隣接して形成されている場合、その境界部16にシボムラが発生しても視認されにくい。このため、外観の異なる複数のシボ部21c,21dの境界部16に対応する非意匠面10bの領域にリブ22を設けても良い。
【0049】
また、図7に示した例では、非意匠面10bのシボ部21c,21dに対応する領域を囲むようにリブ22が設けられている。これにより、シボ部21c,21dを中心に引き寄せようと樹脂に作用する圧縮力F1に対して、リブ22によって全方向から反力F2を作用させることができる。これにより、シボ部21c,21d全体に亘ってシボムラが生じることを効果的に抑制することができる。
【0050】
<第二変形例>
上述の実施形態では、略矩形状のシボ部21を挙げて説明したが、本発明はこの例に限られない。図8は、本発明の第二変形例に係る車両用灯具のエクステンション10の部分拡大図である。図8に示したエクステンション10のシボ部21eは略楕円形状に形成されており、リブ22はこのシボ部21eの外郭形状に沿って設けられている。このようにシボ部21eに沿った形状のリブ22を設けることにより、どのような形状のシボ部21eをデザインしても、シボムラの発生を抑制することができる。
【0051】
また図示したように、リブ22は、シボ部21eに対応する領域の外郭形状を連続的に囲むように形成せず、間欠的に囲むように形成してもよい。このようにリブ22を形成しても、シボムラの発生を抑制することができる。
【0052】
<第三変形例>
また、上述の実施形態では、同一面上にシボ部21が設けられた例を挙げて説明したが、本発明はこの例に限られない。図9は、本実施形態の第三変形例に係る車両用灯具のエクステンション10の部分拡大斜視図である。
【0053】
図9に示す第三変形例に係る車両用灯具のエクステンション10には、意匠面10aが屈曲部17で交わる二つの面から構成されている。このように屈曲部17を介して接続された二つの意匠面10aのそれぞれにシボ部21f,21gを形成する場合には、屈曲部17の非意匠面10b側にリブ22を設けてもよい。意匠面10aの屈曲部17近傍は外部から視認しにくく、この領域にシボムラが生じても目立たないからである。なお、本変形例では屈曲部17の谷側を意匠面10aとし山側にリブ22を設けた例を挙げたが、屈曲部17の谷側を意匠面10aとし谷側にリブ22を設けても良い。
【0054】
また、本変形例では、シボ部21f,21gを挟むようにリブを設けず、シボ部21f,21gの一辺側にのみリブ22を設けている。このようにリブ22を形成してもシボムラの発生を抑制できる。この場合、金型成形時には、冷却による圧縮力F1によってシボ部21f,21g全体がリブ22に向かって移動し、シボ部21f,21g全体に亘ってシボ部21f,21gの凸部21sが変形する。したがって、凸部21sが一様に変形するので、変形した凸部21sがシボムラとして視認されない。

【0055】
以上、本発明を実施形態及び第一〜三変形例を例に挙げて説明したが、本発明はこれらの例に限定されない。例えば、上述の例では、シボムラを抑制する部位にリブ22を用いたが、金型成形時の収縮力に対して反力を生じさせることができれば、リブ22に代えて突起や凸部を用いるようにしてもよい。
【0056】
また、上述の例では、樹脂製のリフレクタの表面をそのまま意匠面10aとして用いる例を挙げて説明したが、鏡面部20やシボ部21を備えて形成された意匠面10aに金属蒸着処理を施し、光沢感を高めてもよい。
【0057】
また、上述の例では樹脂部品としてエクステンション10を例に挙げて説明したが、本発明は、インナーレンズやアウターレンズ、リフレクタ、ランプボディなど、光源の周囲に配置されて意匠面10aにシボ部21が形成される樹脂部品一般に適用できる。例えば、パラボラ光学系の車両用灯具において、リフレクタの配光に寄与しない領域にシボ部が設けられる。あるいは、ランプボディの内面を灯具前方に露出させる場合には、ランプボディの意匠面にシボ部が設けられる。このような場合にも、灯具前方に露出しない領域にリブ22を設けることにより、シボ部にシボムラが生じることを抑制できる。
【0058】
また、このようにシボムラの発生を抑制するリブ22に対して、エクステンション10の剛性を補強する補強リブ22としての機能を持たせても良い。あるいは、ランプボディ1にボルトでエクステンション10を固定する場合、ボルトを受けるボス部をエクステンション10の非意匠面10bに設け、このボス部をシボムラ抑制突出部として機能させても良い。このほか、エクステンション10をランプボディ1に対して位置決めする際に用いるピン等の突起をシボムラ抑制突出部として機能させても良い。このように構成すれば、シボムラの抑制用、エクステンション10の固定用、エクステンション10の位置決め用等のそれぞれの用途のために別々のリブ22を形成する必要がなく、エクステンション10の構造を簡素化することができる。
【0059】
なお、非意匠面10bのうちシボ部21に対応する領域の内部に、エクステンション10の補強用突出部を設けても良い。この突出部は、シボムラ抑制用にシボ部21に対応する領域の外縁に設けたリブ22よりも小さく設定する。補強用突出部を非意匠面10bのうちシボ部21に対応する領域の内部に設けた場合には、この補強用突出部に起因してシボ部21にヒケが発生したり、シボムラが発生する虞がある。しかし、非意匠面10bのうち、このシボ部21に対応する領域の外縁に、補強用突出部より大きなシボムラ抑制用のリブ22を設けると、樹脂の変形をリブ22の近傍に集中させることができる。これにより、補強用突出部に起因するヒケやシボムラが発生しても、エクステンション10の外観の劣化を抑制することができる。なお、補強用突出部に代えて、固定用突出部あるいは位置決め用突出部を、非意匠面10bのうちシボ部21に対応する領域の内部に設けても良い。
【0060】
なお、リブ22の非意匠面10bからの突出長さl(図5参照)は、樹脂の収縮力を受け止めることができればその長さは特に限定されない。例えば、リブ22に、補強用途や、固定用途、位置決め用途としての機能を持たせる場合には、これらの用途に応じてその突出長さlを決めることができる。
【0061】
なお、第三変形例では、非意匠面10bのうち、シボムラが生じても目立たない屈曲b17bに対応する領域にリブ22を設ける例を挙げて説明したが、本発明はこれに限られない。例えば、一様なシボ部21が段差部に跨って形成されている場合には、非意匠面10bのうち段差部に対応する領域にリブ22を設けても良い。段差部もシボムラが生じても目立たないからである。このように、リブ22は、シボムラが生じても目立たない領域の非意匠面10b側に設けても良い。
【0062】
また、上述の説明では本発明を車両用前照灯に適用した例を挙げて説明したが、車両用標識灯や車両用室内灯に適用してもよい。
【0063】
また、本実施形態に係る車両用灯具は4輪の車両に適用することもできるし、3輪や2輪の車両にも適用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1:ランプボディ、2:アウターカバー、3:ハイビーム灯具ユニット、3a:投影レンズ、4:ロービーム灯具ユニット、4a:投影レンズ、4b:LED、4c:リフレクタ、5:ターンシグナルランプ、10:エクステンション、10a:意匠面、10b:非意匠面、11:底面部、12:傾斜部、13:第一円筒部、14:第二円筒部、20:鏡面部、21:シボ部、22:リブ、21a:第一シボ部、21b:第二シボ部、30:金型、31:シボ転写部、31a:凸部、40:上金型、41:シボ転写部、50:下金型、51:リブ形成凹部、53:側壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源の周囲に配置された樹脂部品を備えた車両用灯具であって、
前記樹脂部品は、灯具前方に露出する意匠面と、前記意匠面の裏面に設けられた非意匠面とを有し、
前記意匠面には微小凹凸からなるシボ部が設けられ、
前記非意匠面のうち前記シボ部に対応する領域の外縁近傍に、金型成形時に金型に支持されて前記シボ部の面収縮を抑制するシボムラ抑制突出部が設けられていることを特徴とする車両用灯具。
【請求項2】
少なくとも一対の前記シボムラ抑制突出部が、前記非意匠面のうち前記シボ部に対応する領域を挟んで対向する位置に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の車両用灯具。
【請求項3】
前記意匠面には、複数の前記シボ部が形成されており、
前記非意匠面のうち、それぞれの前記シボ部に対応する領域の境界に前記シボムラ抑制突出部が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載の車両用灯具。
【請求項4】
前記シボムラ抑制突出部の厚みは、0.2mm以上かつ、前記シボ部の形成された部位の前記樹脂部品の厚み以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の車両用灯具。
【請求項5】
前記非意匠面のうち前記シボ部に対応する領域の内側に付加突出部が設けられ、
前記付加突出部は、前記シボムラ抑制突出部よりも小さいことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の車両用灯具。
【請求項6】
シボ部が設けられた意匠面と、意匠面の裏面の非意匠面とを備えた、車両用灯具の樹脂部品の製造方法であって、
微小凹凸面を備えた意匠面側金型と、前記意匠面側金型との間に前記樹脂部品を形成するキャビティを形成する成型面側に凹部を備えた非意匠面側金型とを用意する金型用意工程と、
前記意匠面側金型と前記非意匠面側金型との間に前記キャビティを形成するように、前記意匠面側金型と前記非意匠面側金型とを配置する金型配置工程と、
前記キャビティ内に原料樹脂を流し込んで、前記微小凹凸面を転写して前記シボ部を形成するシボ部形成工程と、
前記原料樹脂を冷却して前記樹脂部品を硬化させる冷却工程と、を備え、
前記冷却工程において、前記非意匠面側金型を前記凹部により形成されるシボムラ抑制突出部に当接させて、前記樹脂部品の冷却に伴う前記シボ部の収縮を抑制することを特徴とする車両用灯具の樹脂部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−114756(P2013−114756A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256958(P2011−256958)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000001133)株式会社小糸製作所 (1,575)
【Fターム(参考)】