説明

車両用無線通信装置及び通信システム

【課題】車車間通信で送受信する情報通信量を抑えながらも、情報の受信側において、複数の位置情報からなる走行軌跡情報を受信した場合と同様に自他車両の相対位置関係を把握することを可能にする。
【解決手段】自車両の走行軌跡と先行車両の走行軌跡とが近似していると制御部12で判定した場合に、自車両の走行軌跡情報の代わりに、当該先行車両を特定可能な機器IDと最新の位置情報とからなる省略情報を、無線通信装置1から一定の送信周期で送信するように変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用無線通信装置及びこの車両用無線通信装置を含む通信システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車車間通信で他車両から送信される情報を用いて、受信車両側で当該他車両との相対位置関係を把握する技術が知られている。例えば、特許文献1には、車車間通信で取得した他車両の位置情報及び進行情報と自車両の位置情報及び進行方向とに基づいて、他車両が自車両の対向車両となるか否かを判定する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−244290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1では位置情報を1点だけ送信しているが、複数の位置情報からなる走行軌跡情報を車車間通信で送受信することによって、自車両が他車両に追従して走行しているといった相対挙動を1度の送受信だけで把握できるようにすることが考えられる。
【0005】
しかしながら、道路上の車両密度が大きい状態において、全ての車両が走行軌跡情報を車車間通信で送受信した場合には、位置情報を1点分しか送受信しない構成に比べて情報通信量が嵩み、輻輳が生じてしまうという問題点が生じる。
【0006】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、車車間通信における輻輳を抑制しながらも、情報の受信側において、複数の位置情報からなる走行軌跡情報を受信した場合と同様に他車両の走行軌跡を把握することを可能にする車両用無線通信装置及び通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の車両用無線通信装置は、車両に搭載されるとともに、自車両の現在位置である位置情報を逐次取得する位置情報取得手段と、位置情報取得手段で逐次取得した複数の位置情報からなる走行軌跡情報を車車間通信によって逐次送信することが可能な送信手段とを備える。また、送信手段は、走行軌跡情報を送信する場合に、自車両を特定可能な識別情報も付加して送信するものであり、他車両に搭載された車両用無線通信装置から送信される当該他車両の走行軌跡情報及び識別情報を受信する受信手段と、自車両の走行軌跡情報と受信手段で受信した他車両の走行軌跡情報とをもとに、自車両の走行軌跡と他車両の走行軌跡とが近似しているか否かを判定する近似判定手段と、自車両の走行軌跡情報と受信手段で受信した他車両の走行軌跡情報とをもとに、当該他車両が自車両よりも先行する先行車両か否かを判定する先行車両判定手段と、近似判定手段で自車両の走行軌跡と他車両の走行軌跡とが近似していると判定し、且つ、先行車両判定手段で当該他車両が先行車両と判定した場合に、当該他車両の識別情報と、位置情報取得手段で取得する自車両の最新の位置情報及び当該位置情報を特定可能な情報のいずれかを少なくとも含む位置関連情報とからなる、自車両の当該走行軌跡情報よりも情報量が少ない省略情報を、自車両の走行軌跡情報の代わりに送信手段から逐次送信するように変更する送信情報変更手段とを備える。
【0008】
これによれば、自車両の走行軌跡と先行車両の走行軌跡とが近似している場合に、自車両の走行軌跡情報よりも情報量が少ない省略情報を、自車両の走行軌跡情報の代わりに送信手段から逐次送信するように変更するので、車車間通信で送受信する情報通信量を抑えることができる。よって、車車間通信における輻輳を抑制することが可能になる。
【0009】
また、この省略情報は、省略情報の送信元車両と走行軌跡が近似している当該送信元車両にとっての先行車両の識別情報を含むことになる。よって、第3の車両に搭載され、この省略情報を受信した車両用無線通信装置は、上記先行車両の走行軌跡情報及び識別情報も受信すれば、当該識別情報と省略情報に含まれる識別情報をもとにして、省略情報を送信した車両の先行車両の走行軌跡情報を特定することが可能になる。そして、上記先行車両の走行軌跡が省略情報の送信元車両の走行軌跡と近似していることをもとに、上記先行車両の走行軌跡情報から、省略情報の送信元の車両の走行軌跡を類推することが可能になる。その結果、車車間通信における輻輳を抑制しながらも、省略情報の送信元の車両の走行軌跡を類推することが可能になる。
【0010】
請求項2の構成においては、省略情報を受信手段で受信した場合に、当該省略情報に含まれる識別情報で特定される当該省略情報の送信元にとっての先行車両の走行軌跡情報と当該省略情報に含まれる位置関連情報とから、省略情報を送信してきた車両用無線通信装置が搭載された車両の走行軌跡を類推する走行軌跡類推手段をさらに備える。
【0011】
これによれば、省略情報に含まれる識別情報で特定される当該省略情報の送信元にとっての先行車両の走行軌跡情報と当該省略情報に含まれる位置関連情報とから、上記他車両の走行軌跡に近似した当該省略情報の送信元の車両の走行軌跡を類推することができる。
【0012】
請求項3の構成においては、送信情報変更手段で自車両の走行軌跡情報の代わりに省略情報を逐次送信するように変更した後に、近似判定手段で自車両の走行軌跡と当該省略情報に含まれる識別情報で特定される他車両の走行軌跡とが近似していないと判定した場合には、当該省略情報の送信を中止して自車両の走行軌跡情報の送信を再開する。
【0013】
自車両の走行軌跡と省略情報に含まれる識別情報で特定される他車両の走行軌跡とが近似しなくなった場合には、自装置以外の車両用無線通信装置において当該他車両の走行軌跡から自車両の走行軌跡を類推させることができなくなる。請求項2の構成によれば、このように当該他車両の走行軌跡から自車両の走行軌跡を類推させることができなくなった場合に、省略情報の送信を中止して自車両の走行軌跡情報の送信を再開するので、自車両の走行軌跡が自装置以外の車両用無線通信装置において誤って類推されることを防ぐことができる。
【0014】
請求項4の構成においては、省略情報に含まれる識別情報で特定される他車両の走行軌跡情報の受信ができなくなったか否かを判定する受信判定手段をさらに備え、送信情報変更手段で自車両の走行軌跡情報の代わりに省略情報を逐次送信するように変更した後に、受信判定手段で他車両の走行軌跡情報の受信ができなくなったと判定した場合には、省略情報の送信を中止して自車両の走行軌跡情報の送信を再開する。
【0015】
上記他車両の走行軌跡情報を受信できなくなった場合には、上記他車両以外の自車両周辺の車両(以下、自車周辺車両)でも上記他車両の走行軌跡情報を受信できなくなることが考えられる。このような場合、自車周辺車両で自車両の省略情報を受信しても、上記他車両の走行軌跡情報を利用して自車両の走行軌跡を類推することができない。これに対して、請求項4の構成によれば、上記他車両の走行軌跡情報を受信できなくなった場合には、省略情報の送信を中止して自車両の走行軌跡情報の送信を再開するので、上述したような状況を回避し、自車周辺車両で自車両の走行軌跡を確実に得られるようにすることができる。
【0016】
請求項4のようにする場合には、請求項5のように、受信判定手段は、省略情報に含まれる識別情報で特定される他車両の車両用無線通信装置から送信される走行軌跡情報を所定時間以上受信しなかった場合に、当該他車両の走行軌跡情報の受信ができなくなったと判定する態様としてもよい。これによれば、通信状況の悪化によって上記他車両の走行軌跡情報を受信できなくなった場合に、省略情報の送信を中止して自車両の走行軌跡情報の送信を再開することで、自車周辺車両で自車両の走行軌跡を確実に得られるようにすることができる。
【0017】
また、請求項4のようにする場合には、請求項6のように、受信判定手段は、省略情報に含まれる識別情報で特定される他車両の車両用無線通信装置から送信される省略情報を受信した場合に、当該他車両の走行軌跡情報の受信ができなくなったと判定する態様としてもよい。上記他車両の走行軌跡情報が省略情報に変更されてしまうと、自車周辺車両において上記他車両の走行軌跡情報が利用できず、自車両の走行軌跡を類推できなくなってしまう。これに対して、請求項6の構成によれば、上記他車両の走行軌跡情報が省略情報に変更された場合に、自装置における省略情報の送信を中止して自車両の走行軌跡情報の送信を再開することで、自車周辺車両で自車両の走行軌跡を確実に得られるようにすることができる。
【0018】
請求項7の構成においては、省略情報を前記受信手段で受信した場合に、当該省略情報に含まれる識別情報をもとに、自車両の走行軌跡情報が当該省略情報に利用されているか否かを判定する利用判定手段と、利用判定手段で自車両の走行軌跡情報が省略情報に利用されていると判定した場合には、送信情報変更手段での自車両の走行軌跡情報の代わりに省略情報を送信する変更を禁止する変更禁止手段とをさらに備える。
【0019】
他車両において自車両の走行軌跡情報を利用して省略情報から走行軌跡を類推している場合に、送信する情報を自車両の走行軌跡情報から省略情報に変更してしまうと、当該他車両における省略情報からの走行軌跡の類推ができなくなってしまう。請求項7の構成によれば、このような場合に、自車両において送信する情報を、自車両の走行軌跡情報から省略情報に変更できないようにするので、他車両における省略情報からの走行軌跡の類推をより確実に行うことができるようにすることが可能になる。
【0020】
請求項8の構成においては、位置関連情報は、位置情報取得手段で取得する自車両の最新の位置情報からなる。これによれば、省略情報は識別情報と位置情報取得手段で取得する自車両の最新の位置情報とからなるので、情報量をより抑えることができる。
【0021】
請求項9の構成においては、位置関連情報は、位置情報取得手段で取得する自車両の最新の位置情報と自車両の進行方向を特定可能な情報とからなる。省略情報の受信側の車両において、省略情報に含まれる識別情報で特定される車両の走行軌跡情報を受信していなかった場合には、この走行軌跡情報を利用して省略情報の送信元の車両の走行軌跡を類推することができない。これに対して、請求項9の構成によれば、省略情報に含まれる上記自車両の最新の位置情報と上記自車両の進行方向を特定可能な情報とから、受信側の車両において、省略情報の送信元の車両のおおよその走行軌跡を類推することが可能になる。よって、省略情報の受信側の車両において、省略情報に含まれる識別情報で特定される車両の走行軌跡情報を受信していなかった場合にも、省略情報の送信元の車両のおおよその走行軌跡を類推することが可能になる。なお、自車両の進行方向を特定可能な情報としては、例えば自車両の方位角や上記自車両の最新の位置情報の一つ過去の位置情報などがある。
【0022】
請求項10の構成においては、送信手段は、位置情報取得手段で逐次取得した複数の位置情報からなる走行軌跡情報を送信する場合に、当該複数の位置情報についてのタイムスタンプも付加して送信するものである。また、近似判定手段で自車両の走行軌跡と他車両の走行軌跡とが近似していると判定し、且つ、先行車両判定手段で当該他車両が先行車両と判定した場合に、自車両の走行軌跡情報に含まれる複数の位置情報についてのタイムスタンプと当該他車両の走行軌跡情報に含まれる複数の位置情報についてのタイムスタンプとから、当該他車両に対する自車両の走行遅延時間を算出する遅延時間算出手段をさらに備え、位置関連情報は、位置情報取得手段で取得する自車両の最新の位置情報を特定可能な情報としての、自車両の前記走行遅延時間からなる。
【0023】
上記走行遅延時間が判れば、上記他車両の走行軌跡情報から、位置情報取得手段で取得する自車両の最新の位置情報を特定することができる。よって、請求項10の構成によれば、省略情報の受信側の車両において、識別情報で特定される車両の走行軌跡情報と上記走行遅延時間とから、省略情報の送信元の車両の走行軌跡を類推することが可能になる。
【0024】
請求項11のように、近似判定手段は、自車両の走行軌跡情報に含まれる複数の位置情報が示す各地点のうち、他車両の走行軌跡情報に含まれる複数の位置情報が示す各地点を結んだ直線との距離が所定距離内に位置する地点が、所定の割合以上連続した場合に、自車両の走行軌跡と他車両の走行軌跡とが近似していると判定する一方、所定の割合以上連続しなかった場合に、自車両の走行軌跡と他車両の走行軌跡とが近似していないと判定することを特徴とする態様とすればよい。
【0025】
これによれば、自車両の走行軌跡情報に含まれる位置情報の数と他車両の走行軌跡情報に含まれる位置情報の数とが食い違う場合でも、自車両側の地点数に対する割合を用いて判定を行うので、自車両の走行軌跡と他車両の走行軌跡とが近似しているか否かの判定を安定して行うことができる。自車両の走行軌跡情報に含まれる位置情報の数と他車両の走行軌跡情報に含まれる位置情報の数とが食い違う状況は、例えば道路形状等に応じて走行軌跡情報に含まれる位置情報の数を可変とした場合などに生じる。
【0026】
請求項12の構成においては、自車両が、複数の車両が隊列を成して走行する隊列走行中である場合に、自車両と同一隊列内の他車両を特定する同一隊列特定手段をさらに備え、近似判定手段は、同一隊列特定手段で自車両と同一隊列内の他車両と特定された他車両についてのみ、自車両の走行軌跡と他車両の走行軌跡とが近似しているか否かを判定する。自車両が隊列走行中である場合に、自車両と同一隊列内の他車両以外の車両と走行軌跡が近似する可能性は低い。請求項12の構成によれば、このような自車両と走行軌跡が近似する可能性が低い車両については、近似判定手段での近似の判定を行わないことになる。よって、走行軌跡が近似する可能性が低い車両について近似判定手段での近似の判定を行う場合の処理負荷や処理時間を軽減することができる。
【0027】
請求項13の通信システムは、複数の車両にそれぞれ搭載された前記のいずれかの車両用無線通信装置を含むので、車車間通信における輻輳を抑制しながらも、情報の受信側において、複数の位置情報からなる走行軌跡情報を受信した場合と同様に他車両の走行軌跡を把握することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】通信システム100の概略的な構成を示すブロック図である。
【図2】無線通信装置1の概略的な構成を示すブロック図である。
【図3】無線通信装置1の制御部12での変更処理のフローの一例を示すフローチャートである。
【図4】自他走行軌跡近似判定処理の説明を行うための模式図である。
【図5】(a)は、走行軌跡情報の一例を示す模式図であって、(b)は省略情報の一例を示す模式図である。
【図6】無線通信装置1の制御部12での変更解除処理のフローの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。図1は、本発明が適用された通信システム100の概略的な構成を示すブロック図である。図1に示す通信システム100は、複数の車両(車両A、車両B、車両C)の各々に1つずつ搭載された3つの無線通信装置1を含んでいる。
【0030】
無線通信装置1は、自動車等の車両に搭載されるものであって、本実施形態では、自動車としての車両A〜Cに搭載されるものとする。なお、図1では、通信システム100に3つの無線通信装置1を含む構成を示したが、必ずしもこれに限らない。各車両に搭載された無線通信装置1が通信システム100に複数含まれる構成であれば、3つ以外の数が含まれる構成としてもよい。しかしながら、以降では便宜上、通信システム100には、車両A〜Cの各々に1つずつ搭載された3つの無線通信装置1が含まれるものとして説明を続ける。また、車両Bは車両Aに追従走行している場合を例に挙げて以降の説明を行う。
【0031】
ここで、図2を用いて無線通信装置1の概略的な構成について説明を行う。図2は、無線通信装置1の概略的な構成を示すブロック図である。図2に示すように無線通信装置1は、無線通信部11及び制御部12を備えている。また、無線通信装置1は、位置検出器2、地図データ入力器3と電子情報のやり取り可能に接続されている。例えば本実施形態では、無線通信装置1、位置検出器2、地図データ入力器3は、CAN(controller areanetwork)などの通信プロトコルに準拠した車載LAN4で各々接続されているものとする。なお、無線通信装置1が請求項の車両用無線通信装置に相当する。
【0032】
位置検出器2は、地磁気を検出する地磁気センサ21、自車両の鉛直方向周りの角速度を検出するジャイロスコープ22、自車両の移動距離を検出する距離センサ23、および衛星からの電波に基づいて車両の現在位置を検出するGPS(global positioning system)のためのGPS受信機24といった各センサから得られる情報をもとに、車両の現在位置および進行方向の検出を逐次行う。これらのセンサは、各々が性質の異なる誤差を持っているため、複数のセンサにより各々補完しながら使用するように構成されている。
【0033】
GPS受信機24以外の各センサについては、各センサの精度によっては上述した内の一部で構成してもよいし、上述した以外のセンサを用いる構成としてもよい。また、現在位置は、例えば緯度・経度で表すものとし、進行方向としては、例えば北を基準とした方位角を用いるものとする。方位角については、地磁気センサ21で検出する構成としてもよいし、ジャイロスコープ22で検出する構成としてもよいし、両方を用いて検出する構成としてもよい。以下では、GPS受信機24を用いて検出した現在位置を衛星測位位置と呼ぶものとする。
【0034】
なお、本実施形態では、衛星測位システムの受信機として、GPSのためのGPS受信機24を用いる構成を示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、GPS以外の衛星測位システムの受信機を用いる構成としてもよい。
【0035】
地図データ入力器3は、記憶媒体(図示せず)が装着され、その記憶媒体に格納されている地図データを入力するための装置である。地図データには、道路を示すリンクデータとノードデータとが含まれる。リンクデータは、リンクを特定する固有番号(リンクID)、リンクの長さを示すリンク長、リンク方向、リンク方位、リンクの始端及び終端ノード座標(緯度・経度)、道路名称、道路種別、一方通行属性、道路幅員、車線数、右折・左折専用車線の有無とその専用車線の数、及び速度規制値等の各データから構成される。一方、ノードデータは、地図上の各道路が交差、合流、分岐するノード毎に固有の番号を付したノードID、ノード座標、ノード名称、ノードに接続するリンクのリンクIDが記述される接続リンクID、及び交差点種類等の各データから構成される。
【0036】
ただし、道路の形状が直線以外の場合、実際の道路の形状を模擬するため、ノード間に形状補間点が設定される。この場合、ノードと形状補間点との間や形状補間点同士を結ぶ線分(つまり、形状補間点で区切られた区間)はセグメントと呼ばれ、リンクは複数のセグメントから構成されることになる。
【0037】
なお、地図データは、地図データ入力器3に装着される記憶媒体に格納されているものを利用する構成に限らず、サーバ装置に格納されているものを、図示しないサーバ通信部を介して利用する構成としてもよい。
【0038】
無線通信装置1の無線通信部11は、送受信アンテナを備え、自車両位置の周囲に存在する他車両との間で、電話網を介さずに無線通信によって自車両の情報の配信や他車両の情報の受信(つまり、車車間通信)を行う。例えば、700MHz帯の電波を用いた無線通信の場合には、自車両位置を中心とした例えば半径約1kmの範囲に存在する相手車両との間で車車間通信を行い、5.9GHz帯の電波を用いた無線通信の場合には、自車両位置を中心とした例えば半径約500mの範囲に存在する相手車両との間で車車間通信を行う。無線通信部11は、請求項の送信手段及び受信手段に相当する。無線通信部11は、制御部12の指示に従って、例えば100msecごと等の一定の送信周期で情報を送信する。また、無線通信部11は、他車両の無線通信装置1から送信される情報を受信して制御部12に入力する。
【0039】
走行支援装置1の制御部12は、通常のコンピュータとして構成されており、内部には周知のCPU、ROMやRAMやEEPROMなどのメモリ、I/O、及びこれらの構成を接続するバスライン(いずれも図示せず)などが備えられている。制御部12は無線通信部11、位置検出器2、地図データ入力器3から入力された各種情報に基づき、各種の処理を実行する。
【0040】
例えば制御部12は、自車両の現在位置の情報(以下、位置情報)を逐次取得する。例えば、自車両の位置情報については、位置検出器2から得るものとする。よって、制御部12が請求項の位置情報取得手段に相当する。また、制御部12は、取得した位置情報をRAM等の電気的に書き換えが可能なメモリに蓄積する。位置情報のメモリへの蓄積は、一定数(例えば20個など)や一定時間分行われ、位置情報が一定数や一定時間分蓄積された場合には、より古い位置情報から順番に消去される構成とすればよい。以降では、メモリに蓄積された位置情報の集合は、自車両の走行軌跡に相当するので、以降ではメモリに蓄積された位置情報の集合を走行軌跡情報と呼ぶ。
【0041】
また、位置情報をメモリに蓄積する場合には、その位置情報を位置検出器2で検出したGPS時刻やその位置情報を位置検出器2から取得したGPS時刻などといったタイムスタンプを付与して蓄積する構成としてもよい。
【0042】
本実施形態では、位置情報のメモリへの蓄積が一定時間分行われる場合を例に挙げて説明を行う。また、本実施形態では、自車両の走行中の道路形状に応じて、位置情報のメモリへ蓄積する一定時間分の位置情報の数を変化させる場合を例に挙げて説明を行う。詳しくは、自車両が例えば高速道路のような直線道路を走行中であれば、制御部12で位置情報を取得する周期をより長め(例えば500msecごと)とすればよい。一方、例えば山岳道のような蛇行路を走行中であれば、制御部12で位置情報を取得する周期をより短め(例えば200msecごと)とすればよい。これにより、直線道路を走行中は蛇行路を走行中よりも一定時間分の位置情報の数が少なくなる。
【0043】
なお、自車両の走行中の道路形状は、前述した地図データの形状補間点が結ぶ線分の形状をもとに判断する構成とすればよい。また、直線道路の場合には形状補間点が少なく、セグメントが長くなる傾向にあるので、前述した地図データのセグメントの長さをもとに判断する構成としてもよい。
【0044】
また、制御部12は、メモリに蓄積された走行軌跡情報を一定の周期で読み出し、無線通信部11から送信させることにより、走行軌跡情報を一定の送信周期で送信させる。制御部12は、走行軌跡情報を送信させる場合には、自車両を特定可能な識別情報を付与して送信させるものとする。
【0045】
ここで言うところの識別情報は、自車両を特定可能且つ情報量が少ないものであればよく、例えば自車両の車両IDや自車両に搭載された無線通信装置1の機器ID等を用いる構成とすればよい。また、識別情報は、固定されたものであってもよいし、一定時間ごとにランダムに変更されるものであってもよい。本実施形態では、識別情報として機器IDを用いる場合を例に挙げて説明を行う。
【0046】
さらに、制御部12は、他車両の無線通信装置1から送信される走行軌跡情報を、無線通信部11を介して取得する。そして、取得した当該他車両の走行軌跡情報と自装置のメモリに蓄積されている自車両の走行軌跡情報とをもとに、他車両の走行軌跡と自車両の走行軌跡とを比較することで、他車両の自車両に対する相対位置を求める。また、複数の他車両の各無線通信装置1から送信される各他車両の走行軌跡情報を取得していた場合には、自他の各走行軌跡を比較することで、個々の他車両の特定を可能にするとともに、個々の他車両の自車両に対する相対位置を求める。
【0047】
制御部12は、例えばこの相対位置と地図データとをもとに、自車両よりも先行する先行車両を特定する。ここで言うところの先行車両には、自車両と同一車線や同一進行方向の別車線を走行する直近(つまり、1台前)の前方車両もその直近の前方車両よりも前方を走行する前方車両も含むものとする。例えば、本実施形態の例では、車両Bにとっての車両Aが先行車両に該当する。地図データを用いずに、自車両と他車両との走行軌跡が近似していて、他車両の走行軌跡の方が自車両の走行軌跡よりも先行していた場合に、当該他車両を先行車両と特定する構成としてもよい。走行軌跡の近似の判定については、後に詳述する。
【0048】
また、制御部12は、取得した他車両の走行軌跡情報と自車両の走行軌跡情報とをもとに、他車両の走行軌跡と自車両の走行軌跡とが近似しているか否かを判定し、近似していた場合には、自車両の走行軌跡情報の代わりに、自車両の走行軌跡情報よりも情報量の少ない省略情報を無線通信部11から送信させるように変更する変更処理を行う。省略情報には、当該他車両の走行軌跡情報に付加されていた機器ID(つまり、他車両の機器ID)を含ませることで、この機器IDをもとに当該他車両の走行軌跡情報を引用可能となっているものとする。
【0049】
ここで、図3を用いて、無線通信装置1の制御部12での変更処理のフローについての説明を行う。図3は、無線通信装置1の制御部12での変更処理のフローの一例を示すフローチャートである。本フローは、他車両の無線通信装置1から送信される情報を無線通信部11で受信したときに開始される。
【0050】
まず、ステップS1では、省略情報を受信したか否かを判定する。省略情報を受信したか否かは機器IDが含まれるか否かによって判定する構成とすればよい。他にも、走行軌跡情報か省略情報かといった情報の種類を示すヘッダを付加する構成とした場合には、このヘッダをもとに判定する構成としてもよい。そして、省略情報を受信したと判定した場合(ステップS1でYES)には、ステップS7に移る。また、省略情報を受信していないと判定した場合(ステップS1でNO)には、走行軌跡情報を受信したものとしてステップS2に移る。
【0051】
ステップS2では、自他走行軌跡近似判定処理を行って、ステップS3に移る。自他走行軌跡近似判定処理では、自車両の走行軌跡情報に含まれる複数の位置情報が示す各地点(以下、自車両の走行軌跡点)のうち、他車両の走行軌跡情報に含まれる複数の位置情報が示す各地点(以下、他車両の走行軌跡点)を結んだ直線との距離が所定距離内に位置する地点が、所定の割合以上連続した場合に、自車両の走行軌跡と他車両の走行軌跡とが近似していると判定する。よって、制御部12が請求項の近似判定手段に相当する。
【0052】
詳細について、図4を用いて説明を行う。図4は、自他走行軌跡近似判定処理の説明を行うための模式図である。図4のAは車両Aを示しており、Bは車両Bを示している。ここでは、車両Aを他車両、車両Bを自車両として説明を行う。また、黒丸が車両A(他車両)の走行軌跡点を表しており、白丸が車両B(自車両)の走行軌跡点を表している。
【0053】
図4に示すように、他車両の走行軌跡点を結んだ直線に、自車両の走行軌跡点から垂線を引く。続いて、自車両の走行軌跡点から当該直線までの垂線の長さを算出することで、自車両の走行軌跡点から当該直線までの距離(図4中のL1〜L4)を求め、求めた距離が所定の距離(例えば2m)以下であるか否かを判定する。そして、求めた距離が所定の距離以下の自車両の走行軌跡点が、自車両の走行軌跡点の総数のうちの所定の割合以上連続していた場合に、自車両の走行軌跡と他車両の走行軌跡とが近似していると判定する。一方、求めた距離が所定の距離以下の自車両の走行軌跡点が、自車両の走行軌跡点の総数のうちの所定の割合以上連続していなかった場合に、自車両の走行軌跡と他車両の走行軌跡とが近似していないと判定する。
【0054】
なお、他車両の走行軌跡点を結んだ直線に垂線を引くことができない自車両の走行軌跡点については、求めた距離が所定の距離以下の自車両の走行軌跡点でないものとして扱う。また、所定の距離及び所定の割合は、任意に設定可能な値である。
【0055】
本実施形態では、求めた距離が所定の距離以下の自車両の走行軌跡点が、自車両の走行軌跡点の総数のうちの所定の割合以上連続していた場合に、自車両の走行軌跡と他車両の走行軌跡とが近似していると判定する構成を示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、制御部12での取得した位置情報のメモリへの蓄積が一定数行われる構成のように、メモリに蓄積される位置情報(つまり、走行軌跡点)の数が一定となる場合には、割合の代わりに数を用いる構成としてもよい。つまり、求めた距離が所定の距離以下の自車両の走行軌跡点が、所定数以上連続していた場合に、自車両の走行軌跡と他車両の走行軌跡とが近似していると判定する構成としてもよい。
【0056】
ステップS3では、自他走行軌跡近似判定処理で近似していると判定した場合(ステップS3でYES)には、ステップS4に移る。また、自他走行軌跡近似判定処理で近似していないと判定した場合(ステップS3でNO)には、フローを終了する。
【0057】
ステップS4では、先行車両判定処理を行って、ステップS5に移る。先行車両判定処理では、走行軌跡情報の送信元の他車両が自車両の先行車両であるか否かを判定する。詳しくは、当該他車両について前述した先行車両の特定が行われた場合に、当該他車両が自車両の先行車両であると判定する。一方、当該他車両について前述した先行車両の特定がされなかった場合に、当該他車両が自車両の先行車両でないと判定する。よって、制御部12が請求項の先行車両判定手段に相当する。
【0058】
ステップS5では、先行車両判定処理で先行車両と判定した場合(ステップS5でYES)には、ステップS6に移る。また、先行車両判定処理で先行車両でないと判定した場合(ステップS5でNO)には、フローを終了する。
【0059】
ステップS6では、省略情報送信処理を行って、フローを終了する。省略情報送信処理では、自車両の走行軌跡情報の代わりに、自車両の無線通信装置1の機器IDと、メモリに蓄積されている最新の位置情報(つまり、位置検出器2から取得した最新の位置情報)とからなる省略情報を無線通信部11から一定の送信周期で送信するように変更する。よって、制御部12が請求項の送信情報変更手段に相当し、上記最新の位置情報が請求項の位置関連情報に相当する。
【0060】
詳細について、図5(a)及び図5(b)を用いて説明を行う。図5(a)は、走行軌跡情報の一例を示す模式図であって、図5(b)は省略情報の一例を示す模式図である。図5(a)に示すように、自車両の走行軌跡情報は、位置検出器2から取得した最新の位置情報(図中では最新位置の緯度・経度)と、当該最新の位置情報から過去に遡った複数の位置情報(図中では軌跡点1〜軌跡点Nの緯度・経度)とからなっている。これに対して、識別情報は、図5(b)に示すように、位置検出器2から取得した最新の位置情報(図中では最新位置の緯度・経度)と、自車両の無線通信装置1の機器ID「00001」とからなっている。これによれば、省略情報は機器IDと位置検出器2から取得した自車両の最新の位置情報とからなるので、走行軌跡情報を送信するよりも情報量を抑えることができる。なお、走行軌跡情報及び省略情報の例えばヘッダとして、それら走行軌跡情報や省略情報の送信元の自車両を特定可能な識別情報(本例では機器ID)が付加されるものとする。
【0061】
ステップS7では、自車両走行軌跡被利用判定処理を行って、ステップS8に移る。自車両走行軌跡被利用判定処理では、自車両の走行軌跡情報が他車両において利用されているか否かを判定する。詳しくは、ステップS1で受信したと判定した省略情報に自車両の無線通信装置1の機器IDが含まれていた場合に、自車両の走行軌跡情報が他車両において利用されていると判定する。一方、自車両の無線通信装置1の機器IDが含まれていなかった場合には、自車両の走行軌跡情報が他車両において利用されていないと判定する。よって、制御部12が請求項の利用判定手段に相当する。
【0062】
ステップS8では、自車両走行軌跡被利用判定処理で自車両の走行軌跡情報が他車両で利用されていると判定した場合(ステップS8でYES)には、ステップS9に移る。また、自車両走行軌跡被利用判定処理で自車両の走行軌跡情報が他車両で利用されていないと判定した場合(ステップS8でNO)には、ステップS2に移る。
【0063】
ステップS9では、変更禁止処理を行って、フローを終了する。変更禁止処理では、自車両の走行軌跡情報の代わりに省略情報を送信することを禁止する。例えば、自車両の機器IDを含む省略情報を所定時間以上受信しなくなるまでは変更処理を行わないようにしたり、省略情報送信処理を行わないようにしたりする。無駄な処理を行わせないようにする観点からは、変更処理を行わないようにすることが好ましい。よって、制御部12が請求項の変更禁止手段に相当する。
【0064】
以上の構成によれば、自車両の走行軌跡と先行車両の走行軌跡とが近似している場合に、自車両の当該走行軌跡情報よりも情報量が少ない省略情報を、自車両の走行軌跡情報の代わりに無線通信装置1から一定の送信周期で送信するように変更するので、車車間通信で送受信する情報通信量を抑えることができる。
【0065】
また、この省略情報は、上記先行車両の無線通信装置1の機器ID(つまり、上記先行車両を特定可能な機器ID)を含むので、省略情報を受信した他車両の無線通信装置1において、上記先行車両の走行軌跡情報及び上記先行車両を特定可能な機器IDを受信していた場合に、この上記先行車両の走行軌跡情報から、省略情報の送信元の車両の走行軌跡を類推することが可能になる。
【0066】
本実施形態の例では、車両Aと走行軌跡が近似する車両Aの後続車両である車両Bが省略情報を送信した場合に、車両Cが車両Aの走行軌跡情報と車両Bの省略情報とから、車両Bの走行軌跡を類推することが可能になる。
【0067】
その結果、車車間通信における輻輳を抑制しながらも、情報の受信側において、複数の位置情報からなる走行軌跡情報を受信した場合と同様に他車両の走行軌跡を把握することが可能になる。
【0068】
また、他車両において自車両の走行軌跡情報を利用して省略情報から走行軌跡を類推している場合に、自車両から送信する情報を走行軌跡情報から省略情報に変更してしまうと、当該他車両における省略情報からの走行軌跡の類推ができなくなってしまうという問題がある。これに対して、以上の構成によれば、自車両から送信する情報を、走行軌跡情報から省略情報に変更できないようにするので、他車両における省略情報からの走行軌跡の類推をより確実に行うことができるようにすることが可能になる。
【0069】
さらに以上の構成によれば、自車両の走行軌跡情報に含まれる位置情報の数と他車両の走行軌跡情報に含まれる位置情報の数とが食い違う場合でも、自車両側の地点数に対する割合を用いて自他走行軌跡近似判定処理を行うので、自車両の走行軌跡と他車両の走行軌跡とが近似しているか否かの判定を安定して行うことができる。
【0070】
なお、図3のフローでは、自他走行軌跡近似判定処理の後に先行車両判定処理を行う構成を示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、先行車両判定処理の後に自他走行軌跡近似判定処理を行う構成としてもよい。他にも、先行車両判定処理と自他走行軌跡近似判定処理とを並行して行い、自他走行軌跡近似判定処理で近似していると判定、且つ、先行車両判定処理で先行車両と判定した場合に、ステップS6に移る構成としてもよい。なお、自他走行軌跡近似判定処理で近似していないと判定、若しくは先行車両判定処理で先行車両と判定しなかった場合には、フローを終了する構成とすればよい。
【0071】
また、本実施形態では、省略情報は識別情報(機器ID)と最新の位置情報とからなる構成を示したが、必ずしもこれに限らない。省略情報は少なくとも自車両と走行軌跡が近似している先行車両を特定可能な識別情報を含み、変更前の走行軌跡情報よりも情報量が少なければ、最新に位置情報以外の情報を含む構成としてもよい。
【0072】
例えば、省略情報は、上記先行車両を特定可能な識別情報と自車両の無線通信装置1で取得された最新の位置情報と当該最新の位置情報の一つ過去の位置情報(図5(a)の例においては最新位置に対する軌跡点1の緯度・経度)とからなる構成としてもよい。これによれば、受信側の車両において、省略情報に含まれる上記最新の位置情報と一つ過去の位置情報とから、送信元の車両の移動ベクトルを求めることが可能になる。よって、受信側の車両において、上記移動ベクトルをもとに、省略情報の送信元の車両のおおよその走行軌跡を類推することが可能になる。従って、省略情報の受信側の車両において、省略情報に含まれる識別情報で特定される車両の走行軌跡情報を受信していなかった場合にも、省略情報の送信元の車両のおおよその走行軌跡を類推することが可能になる。
【0073】
また、上記先行車両を特定可能な識別情報と自車両の無線通信装置1で取得された最新の位置情報と自車両の進行方向の情報とからなる構成としてもよい。これによれば、受信側の車両において、省略情報に含まれる上記最新の位置情報と進行方向の情報とから、送信元の車両の移動ベクトルを求めることが可能になる。よって、受信側の車両において、上記移動ベクトルをもとに、送信元の車両のおおよその走行軌跡を類推することが可能になる。従って、省略情報の受信側の車両において、省略情報に含まれる識別情報で特定される車両の走行軌跡情報を受信していなかった場合にも、省略情報の送信元の車両のおおよその走行軌跡を類推することが可能になる。
【0074】
自車両の進行方向の情報は、位置検出器2から取得する構成とすればよい。また、自車両の進行方向の情報を利用しない場合には、位置検出器2で自車両の進行方向を検出しない構成としてもよい。なお、上記最新の位置情報の一つ過去の位置情報及び自車両の進行方向の情報が請求項の自車両の進行方向を特定可能な情報に相当する。
【0075】
さらに、省略情報は、上記先行車両を特定可能な識別情報と自車両の無線通信装置1で取得された最新の位置情報と複数の過去の位置情報とからなる構成としてもよい。例えば、前述の自他走行軌跡近似判定処理において他車両の走行軌跡点を結んだ直線に垂線を引くことができなかった自車両の走行軌跡点と、上記先行車両を特定可能な識別情報とからなる構成としてもよい。
【0076】
他にも、省略情報は、上記先行車両を特定可能な識別情報と当該先行車両に対する自車両の走行遅延時間とからなる構成としてもよい。上記先行車両に対する自車両の走行遅延時間は以下のようにして算出する構成とすればよい。詳しくは、自車両の走行軌跡情報に含まれる複数の位置情報についてのタイムスタンプと先行車両の走行軌跡情報に含まれる複数の位置情報についてのタイムスタンプとから、先行車両に対する自車両の走行遅延時間を制御部12で算出する構成とすればよい。よって、制御部12が請求項の遅延時間算出手段に相当する。
【0077】
先行車両に対する自車両の走行遅延時間が判れば、当該先行車両の走行軌跡情報から、当該自車両の無線通信装置1で取得する当該自車両の最新の位置情報を特定することができる。よって、以上の構成によれば、省略情報の受信側の車両において、識別情報で特定される車両の走行軌跡情報と省略情報に含まれる走行遅延時間とから、省略情報の送信元の車両の走行軌跡を類推することが可能になる。
【0078】
図2に戻って、制御部12は、他車両の無線通信装置1から送信される省略情報を、無線通信部11を介して取得した場合、省略情報に含まれる機器IDをもとに省略情報の送信元の車両の走行軌跡を類推する走行軌跡類推処理を行う。よって、制御部12が請求項の走行軌跡類推手段に相当する。走行軌跡類推処理は、例えば図3のフローのステップS8で自車両の走行軌跡情報が他車両で利用されていないと判定した場合に行うものとする。
【0079】
詳しくは、走行軌跡類推処理では、省略情報に含まれる機器IDをもとに、自車両で受信した走行軌跡情報のうちから、送信元がこの機器IDで特定される車両(送信元にとっての先行車両)の走行軌跡情報を探索する。そして、送信元にとっての先行車両の走行軌跡情報が探索された場合には、探索された走行軌跡情報に含まれる複数の位置情報からなる走行軌跡のうち、省略情報に含まれる前述の最新の位置情報よりも後方の走行軌跡を、省略情報の送信元の車両の走行軌跡として類推する。
【0080】
詳しくは、探索された走行軌跡情報の位置情報が示す各地点(つまり、走行軌跡点)を結んだ直線に、省略情報に含まれる前述の最新の位置情報が示す地点(以下、自車両最新地点)から垂線を引く。そして、自車両最新地点から引いた垂線と当該直線とが交わる点よりも後方に位置する当該走行軌跡点と自車両最新地点とを結んだ軌跡を、省略情報の送信元の車両の走行軌跡として類推する。ここで言うところの後方とは、より古い位置情報が示す地点が並ぶ側を指している。なお、自車両で受信した走行軌跡情報は、一定量がRAM等の電気的に書き換え可能なメモリに蓄積され、古いものから順次消去されていくものとする。
【0081】
省略情報の送信元の走行軌跡を類推した後は、他車両の走行軌跡情報と同様に扱うことで、前述したのと同様にして、自車両に対する相対位置を求めたり、個々の他車両を特定したりするのに用いる。これによれば、類推した送信元の車両の走行軌跡と自車両の走行軌跡とから、自他車両の相対位置関係を把握することが可能になる。
【0082】
また、制御部12は、自車両の走行軌跡情報の代わりに省略情報を送信するように変更を行った場合でも、所定の条件下でこの変更を解除して、走行軌跡情報の送信を再開される省略情報変更解除処理を行う。
【0083】
ここで、図6を用いて、無線通信装置1の制御部12での変更解除処理のフローについての説明を行う。図6は、無線通信装置1の制御部12での変更解除処理のフローの一例を示すフローチャートである。本フローは、自車両の走行軌跡情報の代わりに省略情報を送信するように変更が行われたときに開始される。
【0084】
ステップS21では、対象車両情報受信判定処理を行って、ステップS22に移る。対象車両情報受信判定処理では、自車両から送信する省略情報に含まれる機器IDで特定可能な車両(以下、対象車両)から送信される情報を受信したか否かを判定する。詳しくは、無線通信部11を介して取得した情報が、当該機器IDで特定可能な車両から送信された情報であった場合に、対象車両から送信される情報を受信したと判定する。一方、無線通信部11を介した情報の取得が行われていない場合や当該機器IDで特定可能な車両以外の車両から送信された情報であった場合に、対象車両から送信される情報を受信していないと判定する。
【0085】
ステップS22では、対象車両情報受信判定処理で対象車両から送信される情報を受信したと判定した場合(ステップS22でYES)には、ステップS24に移る。また、対象車両情報受信判定処理で対象車両から送信される情報を受信していないと判定した場合(ステップS22でNO)には、ステップS23に移る。
【0086】
ステップS23では、対象車両から送信された走行軌跡情報を前回受信してからの所定時間以上経過したか否かを判定する。走行軌跡情報を前回受信してからの経過時間は、走行軌跡情報を、無線通信部11を介して取得した時刻を走行軌跡情報と対応付けてメモリに蓄積し、図示しないタイマでその時刻からの経過時間を計測することで得る構成とすればよい。ない、所定時間は任意に設定可能な時間であるものとする。
【0087】
そして、所定時間以上経過したと判定した場合(ステップS23でYES)には、対象車両の走行軌跡情報を受信できなくなったものと判定してステップS27に移る。また、所定時間以上経過していないと判定した場合(ステップS23でNO)には、ステップS21に戻ってフローを繰り返す。
【0088】
ステップS24では、対象車両から省略情報を受信した場合(ステップS24でYES)には、対象車両の走行軌跡情報を受信できなくなったものと判定してステップS27に移る。よって、制御部12が請求項の受信判定手段に相当する。また、対象車両から走行軌跡情報を受信した場合(ステップS24でNO)には、ステップS25に移る。
【0089】
ステップS25では、前述の自他走行軌跡近似判定処理を行い、ステップS26に移る。ステップS26では、自他走行軌跡近似判定処理で近似していると判定した場合(ステップS26でYES)には、ステップS21に戻ってフローを繰り返す。また、自他走行軌跡近似判定処理で近似していないと判定した場合(ステップS26でNO)には、ステップS27に移る。
【0090】
ステップS27では、走行軌跡情報送信再開処理を行って、フローを終了する。走行軌跡情報送信再開処理では、自車両の走行軌跡情報の代わりに省略情報を送信する変更を解除し、自車両の走行軌跡情報の送信を再開する。
【0091】
自車両の走行軌跡と自車両から送信する省略情報に含まれる機器IDで特定される先行車両の走行軌跡とが近似しなくなった場合には、他車両の無線通信装置1において当該先行車両の走行軌跡情報から自車両の走行軌跡を類推させることができなくなる。以上の構成によれば、このように当該先行車両の走行軌跡情報から自車両の走行軌跡を類推させることができなくなった場合に、自車両からの省略情報の送信を中止して、自車両の走行軌跡情報の送信を再開するので、自車両の走行軌跡が他車両の無線通信装置1において誤って類推されることを防ぐことができる。
【0092】
また、以上の構成によれば、対象車両から送信された走行軌跡情報を前回受信してから所定時間以上経過しても受信しなかった場合に自車両の走行軌跡情報の送信を再開する。よって、通信状況の悪化によって対象車両の走行軌跡情報を受信できなくなった場合に、自車両からの省略情報の送信を中止して自車両の走行軌跡情報の送信を再開することで、他車両で自車両の走行軌跡を確実に得られるようにすることができる。
【0093】
他にも、以上の構成によれば、対象車両から送信された省略情報を受信した場合に自車両の走行軌跡情報の送信を再開する。よって、対象車両の走行軌跡情報が省略情報に変更された場合に、自車両からの省略情報の送信を中止して自車両の走行軌跡情報の送信を再開することで、他車両で自車両の走行軌跡を確実に得られるようにすることができる。
【0094】
また、前述の実施形態では、車車間通信で走行軌跡情報を受信することができた他車両については、自車両の走行軌跡との近似を判定する構成を示したが、必ずしもこれに限らない。例えば、自車両が車群を成して隊列走行を行う場合に、同一隊列内に属する他車両両についてのみ、自車両の走行軌跡との近似を判定する構成としてもよい。
【0095】
同一隊列内であることは、例えば車群の先頭車両が隊列走行のための走行計画を隊列内の車両に送信する場合に隊列を特定する隊列IDを送信し、隊列内の車両がこの隊列IDを付加して情報を送信する構成とすることで、この隊列IDをもとに同一隊列内の車両であることを特定可能とすればよい。なお、自装置において、自他車両の相対位置関係から同一隊列内の車両であることを特定する構成としてもよい。よって、制御部12が請求項の同一隊列特定手段に相当する。
【0096】
自車両が隊列走行中である場合に、自車両と同一隊列内の他車両以外の車両と走行軌跡が近似する可能性は低い。以上の構成によれば、このように自車両と走行軌跡が近似する可能性が低い車両から走行軌跡情報を受信した場合には、自他走行軌跡近似判定処理を行わないことになる。よって、走行軌跡が近似する可能性が低い車両について自他走行軌跡近似判定処理を行う場合の処理負荷や処理時間を軽減することができる。
【0097】
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0098】
1 無線通信装置(車両用無線通信装置)、2 位置検出器、3 地図データ入力器、4 車載LAN、11 無線通信部(送信手段、受信手段)、12 制御部(位置情報取得手段、近似判定手段、先行車両判定手段、送信情報変更手段、利用判定手段、変更禁止手段、遅延時間算出手段、走行軌跡類推手段、受信判定手段、同一隊列特定手段)、21 地磁気センサ、22 ジャイロスコープ、23 距離センサ、24 GPS受信機、100 通信システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されるとともに、
自車両の現在位置である位置情報を逐次取得する位置情報取得手段と、
前記位置情報取得手段で逐次取得した複数の位置情報からなる走行軌跡情報を車車間通信によって逐次送信することが可能な送信手段とを備える車両用無線通信装置であって、
前記送信手段は、前記走行軌跡情報を送信する場合に、自車両を特定可能な識別情報も付加して送信するものであり、
他車両に搭載された前記車両用無線通信装置から送信される当該他車両の走行軌跡情報及び識別情報を受信する受信手段と、
自車両の前記走行軌跡情報と前記受信手段で受信した他車両の走行軌跡情報とをもとに、自車両の走行軌跡と他車両の走行軌跡とが近似しているか否かを判定する近似判定手段と、
自車両の走行軌跡情報と前記受信手段で受信した他車両の走行軌跡情報とをもとに、当該他車両が自車両よりも先行する先行車両か否かを判定する先行車両判定手段と、
前記近似判定手段で自車両の走行軌跡と他車両の走行軌跡とが近似していると判定し、且つ、前記先行車両判定手段で当該他車両が先行車両と判定した場合に、当該先行車両の識別情報と、前記位置情報取得手段で取得する自車両の最新の位置情報及び当該自車両の最新の位置情報を特定可能な情報のいずれかを少なくとも含む位置関連情報とからなる、自車両の走行軌跡情報よりも情報量が少ない省略情報を、自車両の走行軌跡情報の代わりに前記送信手段から逐次送信するように変更する送信情報変更手段とを備えることを特徴とする車両用無線通信装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記省略情報を前記受信手段で受信した場合に、当該省略情報に含まれる識別情報で特定される当該省略情報の送信元にとっての先行車両の前記走行軌跡情報と当該省略情報に含まれる前記位置関連情報とから、前記省略情報を送信してきた車両の走行軌跡を類推する走行軌跡類推手段をさらに備えることを特徴とする車両用無線通信装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記送信情報変更手段で自車両の走行軌跡情報の代わりに省略情報を逐次送信するように変更した後に、前記近似判定手段で自車両の走行軌跡と当該省略情報に含まれる識別情報で特定される他車両の走行軌跡とが近似していないと判定した場合には、当該省略情報の送信を中止して自車両の走行軌跡情報の送信を再開することを特徴とする車両用無線通信装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、
前記省略情報に含まれる識別情報で特定される他車両の走行軌跡情報の受信ができなくなったか否かを判定する受信判定手段をさらに備え、
前記送信情報変更手段で自車両の走行軌跡情報の代わりに省略情報を逐次送信するように変更した後に、前記受信判定手段で前記他車両の走行軌跡情報の受信ができなくなったと判定した場合には、省略情報の送信を中止して自車両の走行軌跡情報の送信を再開することを特徴とする車両用無線通信装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記受信判定手段は、前記省略情報に含まれる識別情報で特定される他車両の前記車両用無線通信装置から送信される前記走行軌跡情報を所定時間以上受信しなかった場合に、当該他車両の走行軌跡情報の受信ができなくなったと判定することを特徴とする車両用無線通信装置。
【請求項6】
請求項4において、
前記受信判定手段は、前記省略情報に含まれる識別情報で特定される他車両の前記車両用無線通信装置から送信される前記省略情報を受信した場合に、当該他車両の走行軌跡情報の受信ができなくなったと判定することを特徴とする車両用無線通信装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項において、
前記省略情報を前記受信手段で受信した場合に、当該省略情報に含まれる前記識別情報をもとに、自車両の走行軌跡情報が当該省略情報に利用されているか否かを判定する利用判定手段と、
前記利用判定手段で自車両の走行軌跡情報が前記省略情報に利用されていると判定した場合には、前記送信情報変更手段での自車両の走行軌跡情報の代わりに省略情報を送信する変更を禁止する変更禁止手段とをさらに備えることを特徴とする車両用無線通信装置。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項において、
前記位置関連情報は、前記位置情報取得手段で取得する自車両の最新の位置情報からなることを特徴とする車両用無線通信装置。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項において、
前記位置関連情報は、前記位置情報取得手段で取得する自車両の最新の位置情報と自車両の進行方向を特定可能な情報とからなることを特徴とする車両用無線通信装置。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項において、
前記送信手段は、前記位置情報取得手段で逐次取得した複数の位置情報からなる走行軌跡情報を送信する場合に、当該複数の位置情報についてのタイムスタンプも付加して送信するものであり、
前記近似判定手段で自車両の走行軌跡と他車両の走行軌跡とが近似していると判定し、且つ、前記先行車両判定手段で当該他車両が先行車両と判定した場合に、自車両の走行軌跡情報に含まれる複数の位置情報についてのタイムスタンプと当該他車両の走行軌跡情報に含まれる複数の位置情報についてのタイムスタンプとから、当該他車両に対する自車両の走行遅延時間を算出する遅延時間算出手段をさらに備え、
前記位置関連情報は、自車両の最新の位置情報を特定可能な情報としての、自車両の前記走行遅延時間からなることを特徴とする車両用無線通信装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項において、
前記近似判定手段は、自車両の走行軌跡情報に含まれる複数の位置情報が示す各地点のうち、他車両の走行軌跡情報に含まれる複数の位置情報が示す各地点を結んだ直線との距離が所定距離内に位置する地点が、所定の割合以上連続した場合に、自車両の走行軌跡と他車両の走行軌跡とが近似していると判定する一方、所定の割合以上連続しなかった場に、自車両の走行軌跡と他車両の走行軌跡とが近似していないと判定することを特徴とする車両用無線通信装置。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項において、
自車両が、複数の車両が隊列を成して走行する隊列走行中である場合に、自車両と同一隊列内の他車両を特定する同一隊列特定手段をさらに備え、
前記近似判定手段は、前記同一隊列特定手段で自車両と同一隊列内の他車両と特定された他車両についてのみ、自車両の走行軌跡と他車両の走行軌跡とが近似しているか否かを判定することを特徴とする車両用無線通信装置。
【請求項13】
複数の車両にそれぞれ搭載された請求項1〜12のいずれか1項に記載の車両用無線通信装置を含むことを特徴とする通信システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−47903(P2013−47903A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186335(P2011−186335)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】