説明

車両用物体検出装置

【課題】物体の連続性を高精度に判定可能な物体検出装置を提供する。
【解決手段】物体の位置および速度を物体データとして検出するレーダ装置15と、レーダ装置15により前回検出された物体データに基づいて今回検出時の物体の位置を予測し、予測された位置を含むトラッキングエリア内に物体が検出された場合に前回検出された物体データと今回検出された物体データとの間に連続性があると判定するトラッキング処理部35と、レーダ装置15により前回検出された物体データおよび今回検出された物体データに基づいて物体の横移動量を算出する横移動量算出部33と、運転者の加速抑制意志または減速意志を検出する運転意志判断部34と、を備え、横移動量算出部33により算出された物体の横移動量が所定値以上であり且つ運転意志判断部34により運転者の加速抑制意志または減速意志が検出された場合にトラッキングエリアを変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用物体検出装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自車両に搭載されたレーダなどを用いて自車両の直前を走行する車両(先行車両)を認識し、先行車両との車間制御を行う車両制御装置が知られている。この車両制御装置では、運転者が車両内部に設けられたスイッチなどを用いて、車両制御装置をON、自車両の設定速度、先行車両までの距離モード等を設定すると、車両制御装置はその設定に基づいて、先行車両との車間距離を一定に保つ車両制御(以下、車間制御付きクルーズコントロールという)を行う。
【0003】
先行車両に基づいて自車両の車両制御を行うためには、先行車両を適切に認識する必要がある。この先行車両を認識する手法として、自車両の速度、ヨーレートや舵角情報に基づいて自車両の推定走行軌跡を算出し、自車両に搭載されたレーダにより物体(走行車)を検出し、自車両の前記推定走行軌跡を中心とした制御対象エリア上の走行車を先行車両として認識する手法が知られている。
【0004】
この場合、対象となる得る物体がどのような動きをしているか、その物体がどのくらいの頻度で制御対象エリアに存在しているかなど、検出した物体の追跡情報を得て、トラッキングを行うことが必要不可欠となる。物体に対するトラッキングを確実に実行することによって、例えば物体の検出データが不安定な場合に、その検出データを円滑化させるといった処理が可能となる。
【0005】
従来、このような物体のトラッキング手法としては、図6に示すように、前回検出された物体の位置を原点として今回検出時の物体の位置を予測し、この予測位置を中心に該物体の移動エリア(以下、トラッキングエリアという)を想定し、このトラッキングエリア内に今回検出された物体が存在する場合に、今回の検出データと基準とした前回の検出データとの間に連続性があると判定し、トラッキングを行うのが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−132734号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、例えば、自車両が先行車両を追従走行しているときに、先行車両が一般道路などの小Rコーナーに進入する場合において、自車両が該コーナーに未だ進入していないときに先行車両は自車両に対して相対的に横方向(自車両の進行方向に対して垂直な方向)へ移動していくことになる。この横方向への移動量が大きいとき、図7に示すように、先行車両が前記トラッキングエリアから外れてしまい、先行車両をトラッキングすることができない場合がある。
【0007】
このように先行車両をトラッキングすることができないと、その先行車両を制御対象として解除することになり、再び先行車両を制御対象と認識するまでに時間を要することになる。そのため、例えば、コーナー途中やコーナー出口での先行車両の急激な減速挙動に対する自車両の制御動作タイミングが遅れる場合がある。
これに対処するために、トラッキングエリアを予め広く設定する手法が考えられるが、安易にトラッキングエリアを広く設定すると、例えば複数の物体が存在するようなときに、制御対象となり得る候補が複数存在する可能性があり、その結果、連続性判断の正確性が低下する虞がある。
そこで、この発明は、状況に応じてトラッキングエリアを最適化し物体の連続性を高精度に判定可能な車両用物体検出装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る車両用物体検出装置では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
請求項1に係る発明は、電磁波を発信し該電磁波が物体により反射された反射波を受信して前記物体の位置および速度を物体データとして検出する物体検出手段(例えば、後述する実施例におけるレーダ装置15)と、前記物体検出手段により前回検出された物体データに基づいて今回検出時の物体の位置を予測する物体位置予測手段(例えば、後述する実施例におけるトラッキング処理部35)と、前記物体位置予測手段により予測された位置を含む予測領域内に物体が検出された場合に物体検出手段により前回検出された物体データと今回検出された物体データとの間に連続性があると判定する連続性判定手段(例えば、後述する実施例におけるトラッキング処理部35)と、を備えた車両用物体検出装置(例えば、後述する実施例における車両用物体検出装置1)において、前記物体検出手段により検出された物体データの履歴に基づいて物体の横移動量を算出する横移動量算出手段(例えば、後述する実施例における横移動量算出部33)と、運転者の加速抑制意志または減速意志を検出する減速意志検出手段(例えば、後述する実施例における運転意志判断部34)と、前記横移動量算出手段により算出された物体の横移動量が所定値以上であり且つ前記減速意志検出手段により運転者の加速抑制意志または減速意志が検出された場合に前記予測領域を変更する予測領域変更手段(例えば、後述する実施例におけるトラッキング処理部35)と、を備えたことを特徴とする。
このように構成することにより、物体の横移動量が所定値以上であり且つ運転者の加速抑制意志または減速意志が検出されたときは制御対象とする車両(以下、制御対象車両と略す)がコーナーへの進入を開始していると推測し、自車両および制御対象車両のコーナーへの進入時において、運転者の減速意志と制御対象車両の挙動に基づいて予測領域を変更することにより、コーナー進入時においても前回検出の制御対象車両の物体データと今回検出の制御対象車両の物体データとの関連付け(連続性)判断を安定して行うことが可能になる。また、必要に応じて予測領域を変更しており、不必要な予測領域変更をしていないので、不必要な予測領域変更に伴うデータ関連付けの誤判断を防止することができる。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項に記載の発明において、前記予測領域変更手段は、前記減速意志検出手段により運転者の加速抑制意志または減速意志が検出される以前の第1の所定時間における横移動量が第1判定閾値以上であり、且つ前記第1の所定時間以前の第2の所定時間における横移動量が前記第1判定閾値より小さい第2判定閾値未満の場合に、物体の横移動量が所定値以上であると判断することを特徴とする。
このように構成することにより、第2の所定時間前において横移動量が第2判定閾値未満であることにより制御対象車両が直進状態で且つ制御対象車両を安定して検出している状態であると判断することができ、また、第1の所定時間前において横移動量が第1判定閾値以上であることにより制御対象車両がコーナーに進入を開始したと判断することができるので、制御対象車両のコーナーへの進入開始をより正確に判定することができる。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記予測領域変更手段は自車両が直進状態であると判定されるまで予測領域の変更を継続することを特徴とする。
このように構成することにより、コーナー進入時だけでなく、コーナー出口における制御対象車両の横移動にも対応することが可能となるため、コーナー出口においても前回検出の制御対象車両の物体データと今回検出の制御対象車両の物体データとの関連付け(連続性)判断を安定して行うことが可能になる。
【0011】
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記予測領域変更手段は運転者の加速抑制意志または減速意志の強さが大きいほど予測領域を大きくすることを特徴とする。
運転者の加速抑制意志または減速意志が大きいということは進入するコーナーの曲率が大きいことが予想されるので、運転者の加速抑制意志または減速意志の強さに応じて予測領域を変更することにより、コーナーの曲率に応じた適切な大きさの予測領域を設定することができる。
【0012】
請求項5に係る発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の発明において、前記予測領域変更手段は物体の横移動量が大きいほど前記予測領域を大きくすることを特徴とする。
物体の横移動量が大きいということは進入するコーナーの曲率が大きいことが予想されるので、物体の横移動量の大きさに応じて予測領域を変更することにより、コーナーの曲率に応じた適切な大きさの予測領域を設定することができる。
【0013】
請求項6に係る発明は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の発明において、前記予測領域変更手段は物体の移動方向と同方向に予測領域を大きくすることを特徴とする。
このように構成することにより、適切な予測領域の設定を行うことができる。
【0014】
請求項7に係る発明は、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の発明において、前記減速意志検出手段は、アクセルペダルまたはブレーキペダルまたは加減速操作スイッチの操作状態に応じて運転者の加速抑制意志または減速意志を検出することを特徴とする。
このように構成することにより、運転者の加速抑制意志または減速意志を迅速且つ適切に判断することが可能となる。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明によれば、コーナー進入時においても前回検出の制御対象車両の物体データと今回検出の制御対象車両の物体データとの関連付け(連続性)判断を安定して行うことが可能になる。また、不必要な予測領域変更に伴うデータ関連付けの誤判断を防止することができる。
請求項2に係る発明によれば、制御対象車両のコーナーへの進入開始をより正確に判定することができる。
請求項3に係る発明によれば、コーナー進入時だけでなく、コーナー出口においても前回検出の制御対象車両の物体データと今回検出の制御対象車両の物体データとの関連付け(連続性)判断を安定して行うことが可能になる。
【0016】
請求項4に係る発明によれば、運転者の加速抑制意志または減速意志の強さに応じて予測領域を変更することにより、コーナーの曲率に応じた適切な大きさの予測領域を設定することができる。
請求項5に係る発明によれば、物体の横移動量の大きさに応じて予測領域を変更することにより、コーナーの曲率に応じた適切な大きさの予測領域を設定することができる。
請求項6に係る発明によれば、適切な予測領域の設定を行うことができる。
請求項7に係る発明によれば、運転者の加速抑制意志または減速意志を迅速且つ適切に判断することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、この発明に係る車両用物体検出装置の実施例を図1から図5の図面を参照して説明する。
この発明に係る車両用物体検出装置1は、図1の機能ブロック図に示すように、ヨーレートセンサ11、舵角センサ12、車速センサ13、ナビゲーション装置14、レーダ装置(物体検出手段)15、アクセルセンサ16、ブレーキセンサ17、関連スイッチ(加減速操作スイッチ)18、減速アクチュエータ19、加速アクチュエータ20、制御状態告知装置21、制御装置30とを備えた車両に搭載されている。この車両用物体検出装置1は、例えば自車両の直前を走行する先行車両に基づいて自車両の車両制御(例えば車間制御付きクルーズコントロールなど)を行う際に、先行車両の検出に使用される。なお、この実施例では、前記車両制御として車間制御付きクルーズコントロールを例にして説明する。
【0018】
ヨーレートセンサ11は自車両のヨーレートを検出し、舵角センサ12は自車両の操舵角を検出し、車速センサ13は自車両の車速を検出して、それぞれ検出結果に応じた検出信号を制御装置30へ出力する。
ナビゲーション装置14は、例えば装置内部で記憶する地図データに対して、GPS(Global Positioning System)やD−GPS(Differential GPS)等を利用して得た現在位置情報に基づいてマップマッチングを行うことで自車両の現在位置を算出し、算出した現在位置に基づいて目的地までの経路探索や経路誘導等の処理を行い、自車両の現在位置等の情報を制御装置30へ出力する。
【0019】
レーダ装置15(物体検出手段)は、例えばレーザ光やミリ波等の電磁波を適宜の検知方向(例えば、自車両の進行方向前方)に向けて発信すると共に、この発信した電磁波が自車両の外部の物体(例えば、先行車両)によって反射されたときにその反射波を受信し、発信した電磁波と受信した電磁波(反射波)とを混合してビート信号を生成し、制御装置30へ出力する。
【0020】
アクセルセンサ16はアクセルペダルの変位量(踏み込み量)を検出し、ブレーキセンサ17はブレーキペダルの変位量(踏み込み量)を検出して、それぞれ検出結果に応じた検出信号を制御装置30へ出力する。
関連スイッチ18は車両制御システムに関連する各種スイッチ(例えば、車間制御付きクルーズコントロールON/OFFスイッチや、クルーズコントロール時の設定車速を増減する加減速操作スイッチ等)であり、関連スイッチ18からそれぞれの指令信号が制御装置30に入力される。
【0021】
減速アクチュエータ19は、制御装置30の指令にしたがって例えばスロットル開度やブレーキ液圧を制御し、自車両を減速するものである。
加速アクチュエータ20は、制御装置30の指令にしたがって例えばスロットル開度を制御し、自車両を加速するものである。
制御状態告知装置21は、制御装置30から入力した情報をメータ等の表示手段を用いて運転者に報知するものである。
【0022】
制御装置30は、自車軌跡推定部31、制御対象領域設定部32、物体横移動量算出部33、運転意志判断部34、トラッキング処理部35、制御対象決定部36、制御目標値決定部37、車両制御部38とを備えて構成されている。
自車軌跡推定部31には、ヨーレートセンサ11、舵角センサ12、車速センサ13の検出信号、およびナビゲーション装置14で算出した自車両の現在位置等の情報が入力され、自車軌跡推定部31は、これら入力に基づいて自車両の走行軌跡を推定し制御対象領域設定部32へ出力する。
制御対象領域設定部32は、自車軌跡推定部31から入力した自車両の走行軌跡に基づいて自車線を決定し、設定した自車線の垂直方向に一定の距離範囲内を制御対象とする範囲(以下、制御対象領域という)に設定し、設定した制御対象領域を制御対象決定部36へ出力する。ここで、自車線とは、自車両の進行方向を示す直線である。
【0023】
物体横移動量算出部33は、レーダ装置15から入力されるビート信号に基づいて、電磁波を反射した物体と自車両との相対距離、相対速度、横方向相対速度等を算出し、トラッキング処理部35へ出力する。ここで、横方向相対速度とは、自車両の進行方向に垂直な方向の相対速度の成分を言う。
また、物体横移動量算出部33は、レーダ装置15で検出された物体の履歴情報に基づいて、該物体の横方向相対移動量(以下、横移動量と略す)を算出し、トラッキング処理部35へ出力する。ここで、横移動量とは自車両の進行方向に垂直な方向の相対移動量を言う。
【0024】
運転意志判断部34には、アクセルセンサ16、ブレーキセンサ17の検出信号、および関連スイッチ18の指令信号が入力され、運転意志判断部34はこれら入力に基づいて運転者の加速抑制意志または減速意志の有無および強さを検出し、トラッキング処理部35へ出力する。なお、この実施例においては、運転意志判断部34によって減速意志検出手段が実現される。
【0025】
トラッキング処理部35は、物体横移動量算出部33から入力される物体の前回の検出データと今回の検出データの関連付け処理を行い、制御対象決定部36において制御対象を決定するのに必要な情報の関連付け処理を行う。この関連付け処理は、制御対象決定部36で前回決定された制御対象(すなわち、先行車両)に関して物体横移動量算出部33から入力される前回の検出データに基づいて、前回検出された先行車両の位置を原点として今回検出時の先行車両の位置を予測し、この予測位置を中心に先行車両のトラッキングエリアを設定し、このトラッキングエリア内に今回検出された物体が存在する場合に、今回の検出データと前回の検出データとの間に連続性があり、トラッキングエリア内で今回検出された物体と前回決定した先行車両とが同一であると関連付ける。
この関連付け処理を実行する際に、トラッキング処理部35は、運転意志判断部34から入力される運転者の減速意志等の情報や、物体横移動量算出部33から入力される前記先行車両の横移動量に基づいて、先行車両がコーナーに進入したと推測された場合には、コーナー走行時のトラッキングエリアを直進時において設定されているトラッキングエリアよりも拡大する制御を行う。このトラッキングエリアの変更制御については後で詳述する。
なお、この実施例においては、トラッキング処理部35によって物体位置予測手段、連続性判定手段、予測領域変更手段が実現される。
【0026】
制御対象決定部36は、レーダ装置15によって検出された物体の検出データの中から、制御対象領域設定部32で設定された制御対象領域に存在する物体を抽出するとともに、トラッキング処理部35から入力される関連付け処理結果に基づいて、制御対象となる物体(すなわち、先行車両)を決定する。なお、トラッキング処理部35により、トラッキングエリア内で今回検出された物体と前回決定した先行車両とが同一であると関連付けられた場合には、この物体を先行車両と決定する。
また、制御対象決定部36は、先行車両であると判断した際に、物体横移動量算出部33で算出した先行車両の相対距離、相対速度、あるいは横方向相対速度等の情報を制御目標値決定部37へ出力する。
【0027】
制御目標値決定部37は、制御対象決定部36から入力される自車両と先行車両との相対距離、相対速度、あるいは横方向相対速度等の情報に基づいて、車両制御に必要な制御目標値、すなわち車間制御付きクルーズコントロールの場合には目標車速、目標加減速度等を決定する。
車両制御部38は、制御目標値決定部37で決定された制御目標値(目標車速や目標加減速度等)に基づいて、加速アクチュエータ19および減速アクチュエータ20を制御するとともに、現在の制御状態を制御状態告知装置21へ出力する。
【0028】
次に、トラッキング処理部35において実行されるトラッキングエリアの変更制御を図2のフローチャートに従って説明する。なお、以下の説明において、前回検出とは先行車両の前回の検出をいい、今回検出とは先行車両の今回の検出をいうものとする。
まず、ステップS101において、トラッキングエリアの基本設定を行う。すなわち、先行車両に関する前回の検出データに基づき、図3に示すように、前回検出した先行車両の位置を原点として今回検出時の先行車両の位置を予測し、この予測位置を中心にして所定の領域を基本トラッキングエリアTbとして設定する。この基本トラッキングエリアTbはトラッキングエリアとして最小の領域であり、トラッキングエリアが変更された場合においても基本トラッキングエリアTbより縮小されることはない。
【0029】
次に、ステップS102に進み、レーダ装置15によって検出された物体の検出データの履歴処理を行い、ステップS103に進む。
ステップS103において、トラッキングエリアを拡大済みか否かを判定する。
ステップS103における判定結果が「NO」である場合、つまりトラッキングエリアを拡大していない場合(すなわち、トラッキングエリアが基本トラッキングエリアTbに設定されている場合)は、ステップS104に進み、関連スイッチ18(例えば、車間制御付きクルーズコントロールON/OFFスイッチ)からの指令信号に基づいて、前回検出のときまで運転者がクルーズコントロールを実行する意志があったか否かを判定する。
【0030】
ステップS104における判定結果が「YES」(クルーズ意志あり)である場合は、ステップS105に進んで、アクセルセンサ16あるいはブレーキセンサ17の検出信号、あるいは関連スイッチ18の指令信号に基づいて、今回検出のときに運転者に加速抑制意志または減速意志があるか否かを判定する。ここで、アクセルセンサ16により検出されるアクセルペダルの変位量(踏み込み量)が減少している場合、あるいは、ブレーキセンサ17により検出されるブレーキペダルの変位量(踏み込み量)が増加している場合、あるいは、クルーズコントロール時の設定車速を増減する加減速操作スイッチにより設定車速を低減する操作が検出された場合には、いずれも加速抑制意志または減速意志があると判定する。
【0031】
ステップS105における判定結果が「YES」である場合、すなわち今回検出の時に運転者に加速抑制意志または減速意志があると判定された場合は、ステップS106に進み、先行車両の履歴に基づき、現在から過去t1時間における先行車両の横移動量Y1を算出する。
さらに、ステップS107に進み、先行車両の履歴に基づき、過去t1時間より前の過去t2時間から過去t1時間における先行車両の横移動量Y2を算出する。
次に、ステップS108に進み、ステップS107で算出した横移動量Y2が第2判定閾値Ya2未満か否かを判定する(図4参照)。ここで、第2判定閾値Ya2は車両が直進しているとみなせる程度の横移動量を設定する。
ステップS108における判定結果が「YES」(Y2<Ya2)である場合は、過去t2時間までは先行車両が直進状態で且つ安定した検出状態であると推定することができるので、ステップS109に進む。
ステップS109においては、ステップS106で算出した横移動量Y1が第1判定閾値Ya1以上か否かを判定する(図4参照)。ここで、第1判定閾値Ya1は、車両が予め設定した所定の曲率半径Rのコーナーに沿って走行したときに生じる横移動量に設定し、第2判定閾値Ya2よりも大きい値である(Ya1>Ya2)。
【0032】
ステップS109における判定結果が「YES」(Y1≧Ya1)である場合は、先行車両が前記曲率より大きい曲率のコーナーへ進入を開始していると推測し、ステップS110に進む。つまり、運転者の加速抑制意志または減速意志が検出され、且つ、この意志検出時から遡ってt1時間前までは先行車両が直進状態であったが、t1時間から前記意志検出時までの間に先行車両の横移動量Y1が第1判定閾値Ya1以上となった場合には、先行車両が前記曲率より大きい曲率のコーナーへ進入を開始していると推測する。
ステップS110において、先行車両の横移動方向を判断し、さらに、ステップS111に進んで、横移動方向が左方か否かを判定する。
ステップS111における判定結果が「YES」(左方)である場合は、ステップS112に進み、トラッキングエリア左側拡大モードとして、リターンする。
トラッキングエリア左側拡大モードでは、基本トラッキングエリアTbに対して左側にトラッキングエリア領域を拡大する制御を行い、ステップS109で算出した横移動量Y1が大きいほど、あるいは、運転者の加速抑制意志または減速意志の強さが大きいほど、左側への領域拡大が大きくなるように制御する。
【0033】
一方、ステップS111における判定結果が「NO」(右方)である場合は、ステップS113に進み、トラッキングエリア右側拡大モードとして、リターンに進む。
トラッキングエリア右側拡大モードでは、基本トラッキングエリアTbに対して右側にトラッキングエリア領域を拡大する制御を行い、ステップS109で算出した横移動量Y1が大きいほど、あるいは、運転者の加速抑制意志または減速意志の強さが大きいほど、右側への領域拡大が大きくなるように制御する(図3の「拡大されたトラッキングエリア」参照)。
【0034】
先行車両の横移動量が大きいということは進入するコーナーの曲率が大きいことが予想されるので、先行車両の横移動量が大きいほどトラッキングエリアの領域拡大を大きくすることにより、コーナーの曲率に応じた適切な大きさのトラッキングエリアを設定するのである。
運転者の加速抑制意志または減速意志が大きいということは進入するコーナーの曲率が大きいことが予想されるので、運転者の加速抑制意志または減速意志の強さが大きいほどトラッキングエリアの領域拡大を大きくすることにより、コーナーの曲率に応じた適切な大きさのトラッキングエリアを設定するのである。
【0035】
なお、運転者の加速抑制意志または減速意志の強さは、例えば図5に示すように、ブレーキセンサ17により検出されるブレーキペダルの踏み込み量あるいは踏み込み速度が大きいほど、加速抑制意志または減速意志が強いと判定することができる。また、アクセルセンサ16により検出されるアクセルペダルの踏み込み量の戻し速度が大きいほど、加速抑制意志または減速意志が強いと判定することもできる。
【0036】
また、ステップS104における判定結果が「NO」(クルーズ意志なし)である場合は、ステップS114に進み、トラッキングエリア左側拡大モードおよびトラッキングエリア右側拡大モードをキャンセルしてトラッキングエリア基本モードとして、リターンに進む。トラッキングエリア基本モードでは、トラッキングエリアを基本トラッキングエリアTbに設定する。
ステップS105における判定結果が「NO」である場合(すなわち今回検出の時に運転者に加速抑制意志または減速意志がないと判定された場合)、あるいは、ステップS108における判定結果が「NO」(Y2≧Ya2)である場合、あるいは、ステップS109における判定結果が「NO」(Y1<Ya1)である場合は、先行車両がコーナーへの進入を開始していないと推測され、トラッキングエリアを拡大する必要がないので、ステップS114に進み、トラッキングエリア左側拡大モードおよびトラッキングエリア右側拡大モードをキャンセルしてトラッキングエリア基本モードとし、リターンに進む。
【0037】
また、ステップS103における判定結果が「YES」である場合、つまりトラッキングエリアを拡大済みの場合は、ステップS115に進み、ヨーレートセンサ11の検出信号に基づいて自車両のヨーレートの積分処理を実行し、ヨー角を算出する。
次に、ステップS116に進み、ステップS115の積分処理結果に基づいて、自車両の移動方位を算出する。
さらに、ステップS117に進み、所定時間当たりの自車両の移動方位変化量を算出する。
次に、ステップS118に進み、ステップS117で算出した移動方位変化量が所定値未満か否かを判定する。
【0038】
ステップS118における判定結果が「YES」(所定値未満)である場合は、ステップS119に進み、自車両が直進状態であると判断し、ステップS114に進んで、トラッキングエリア左側拡大モードおよびトラッキングエリア右側拡大モードをキャンセルしてトラッキングエリア基本モードとし、リターンに進む。
ステップS118における判定結果が「NO」(所定値以上)である場合は、自車両がコーナーを走行中であると判断して、ステップS102に戻る。つまり、先行車両が小Rのコーナーへ進入を開始していると推測してトラッキングエリアを拡大する制御が実行された場合には、トラッキングエリア左側拡大モードまたはトラッキングエリア右側拡大モードは自車両が直進状態になるまで継続される。
【0039】
図4は先行車両がコーナーに進入するときのタイムチャートであり、運転者の減速意志を検出した時を時間基準(0)に取っている。この例は、減速意志検出時から遡ってt1時間前まで(−t2〜−t1)は先行車両の横移動量が第2判定閾値Ya2未満であり、t1時間前から減速意志検出時までの間(−t1〜0)に先行車両の横移動量が第1判定閾値Ya1以上となった場合を示している。このときのトラッキングエリアは、減速意志検出までは基本トラッキングエリアTbとなり、減速意志検出後は自車両が直進状態となるまで拡大されたトラッキングエリアとなる。なお、図4では減速意志検出後のトラッキングエリアが一定に示されているが、減速意志の強さに変化があった場合や先行車両の横移動量に変化があった場合には、拡大されたトラッキングエリアも変化する。
【0040】
以上説明するように、この実施例の車両用物体検出装置1によれば、先行車両の横移動量が所定値以上であり且つ運転者の加速抑制意志または減速意志が検出されたときは、先行車両がコーナーへの進入を開始していると推測し、先行車両のコーナーへの進入時にトラッキングエリアを直進状態のときよりも拡大するので、コーナー進入時においても前回検出の先行車両の検出データと今回検出の先行車両の検出データとの関連付け(連続性)判断を安定して行うことが可能になる。また、直進状態ではトラッキングエリアを変更せず、コーナー走行状態のときだけトラッキングエリアを変更しているので、不必要な予測領域変更に伴うデータ関連付けの誤判断を防止することができる。
【0041】
特に、この実施例では、運転者に加速抑制意志または減速意志が検出された時から遡ってt1時間前からt2時間前における先行車両の横移動量がYa2未満で、且つ、t1時間前から前記意志検出時における先行車両の横移動量がYa1以上であることを、先行車両のコーナー進入開始の判定条件としているので、先行車両のコーナーへの進入開始をより正確に判定することができる。
【0042】
また、この実施例では、自車両が直進状態であると判定されるまでトラッキングエリア左側拡大モードまたはトラッキングエリア右側拡大モードを継続し、トラッキングエリアの変更(拡大)を継続しているので、コーナー進入時だけでなく、コーナー出口における先行車両の横移動にも対応することが可能となり、コーナー出口においても前回検出の先行車両の検出データと今回検出の先行車両の検出データとの関連付け(連続性)判断を安定して行うことが可能になる。
【0043】
また、この実施例では、先行車両の移動方向と同方向にトラッキングエリアを大きくしているので、コーナーの曲がる方向に応じてトラッキングエリアを適切に変更することができる。
また、この実施例では、先行車両の横移動量が大きいほどトラッキングエリアを大きくしているので、コーナーの曲率に応じた適切な大きさのトラッキングエリアを設定することができる。
また、この実施例では、運転者の加速抑制意志または減速意志の強さが大きいほどトラッキングエリアを大きくしているので、コーナーの曲率に応じた適切な大きさのトラッキングエリアを設定することができる。
【0044】
〔他の実施例〕
なお、この発明は前述した実施例に限られるものではない。
例えば、この実施例では、車両用物体検出装置を車間制御付きクルーズコントロールにおいて先行車両の追跡に使用しているが、車両用物体検出装置は他の車両制御システムに用いることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】この発明に係る車両用物体検出装置の実施例における機能ブロック図である。
【図2】実施例における車両用物体検出装置のトラッキングエリア変更制御のフローチャートである。
【図3】先行車両がコーナーに進入を開始する状態を示す平面図である。
【図4】先行車両のコーナー進入時のタイムチャートである。
【図5】減速意志の強さとブレーキペダル踏み込み量のマップの一例である。
【図6】従来の直進時におけるトラッキングエリアと先行車両との関係を示す平面図である。
【図7】従来のコーナー進入時におけるトラッキングエリアと先行車両との関係を示す平面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 車両用物体検出装置
33 横移動量算出部(横移動量算出手段)
34 運転意志判断部(減速意志検出手段)
35 トラッキング処理部(物体位置予測手段、連続性判定手段、予測領域変更手段)
15 レーダ装置(物体検出手段)
16 アクセルセンサ
17 ブレーキセンサ
18 関連スイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波を発信し該電磁波が物体により反射された反射波を受信して前記物体の位置および速度を物体データとして検出する物体検出手段と、
前記物体検出手段により前回検出された物体データに基づいて今回検出時の物体の位置を予測する物体位置予測手段と、
前記物体位置予測手段により予測された位置を含む予測領域内に物体が検出された場合に物体検出手段により前回検出された物体データと今回検出された物体データとの間に連続性があると判定する連続性判定手段と、
を備えた車両用物体検出装置において、
前記物体検出手段により検出された物体データの履歴に基づいて物体の横移動量を算出する横移動量算出手段と、
運転者の加速抑制意志または減速意志を検出する減速意志検出手段と、
前記横移動量算出手段により算出された物体の横移動量が所定値以上であり且つ前記減速意志検出手段により運転者の加速抑制意志または減速意志が検出された場合に前記予測領域を変更する予測領域変更手段と、
を備えたことを特徴とする車両用物体検出装置。
【請求項2】
前記予測領域変更手段は、前記減速意志検出手段により運転者の加速抑制意志または減速意志が検出される以前の第1の所定時間における横移動量が第1判定閾値以上であり、且つ前記第1の所定時間以前の第2の所定時間における横移動量が前記第1判定閾値より小さい第2判定閾値未満の場合に、物体の横移動量が所定値以上であると判断することを特徴とする請求項1に記載の車両用物体検出装置。
【請求項3】
前記予測領域変更手段は自車両が直進状態であると判定されるまで予測領域の変更を継続することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の車両用物体検出装置。
【請求項4】
前記予測領域変更手段は運転者の加速抑制意志または減速意志の強さが大きいほど予測領域を大きくすることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車両用物体検出装置。
【請求項5】
前記予測領域変更手段は物体の横移動量が大きいほど前記予測領域を大きくすることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の車両用物体検出装置。
【請求項6】
前記予測領域変更手段は物体の移動方向と同方向に予測領域を大きくすることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の車両用物体検出装置。
【請求項7】
前記減速意志検出手段は、アクセルペダルまたはブレーキペダルまたは加減速操作スイッチの操作状態に応じて運転者の加速抑制意志または減速意志を検出することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の車両用物体検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−14819(P2008−14819A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−186826(P2006−186826)
【出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】