説明

車両用物体検知装置

【課題】自車両の外部に存在する物体の静止および移動の状態を精度良く検知する。
【解決手段】車両用物体検知装置10は、レーダ装置12から発信された電磁波の物体上における反射点の位置を算出する反射点算出部21と、自車両から物体までの距離を算出する距離算出部22と、反射点の位置に基づき物体の水平方向の両方の端点を検出する端点検出部23と、検知対象物の何れか一方の端点が自車両から見て比較対象物に重なっているか否かを判定する重なり判定部24と、重なり判定部24により重なっていると判定され、かつ、時間経過と共に検知対象物までの距離が比較対象物までの距離よりも近くなった場合に、検知対象物の前記比較対象物に重なっていない他方の端点の横移動量に基づいて検知対象物の横移動速度を算出する端点移動速度算出部25とにより、検知対象物の横移動速度の検出精度を向上させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用物体検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、自車両周辺の障害物をレーダ装置により検出し、障害物への衝突の可能性が大きい場合には、衝突を回避するように制御する走行制御装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−100232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術に係る走行制御装置においては、障害物の重心の移動に基づいて、当該障害物の移動/静止を判定し、あるいは、移動速度を算出しているため、障害物の一部が前走車などに遮蔽されている場合、上述の判定あるいは算出が精度よく行われないという問題がある。つまり、自車と前走車と障害物との位置関係が刻々と変化するに連れて、障害物が前走車に遮蔽されている遮蔽状態が刻々と変化する。従って、遮蔽状態の変化に伴い、障害物として検知可能な領域(検知幅)が変化するため、例えば、障害物が静止物であっても、その重心位置が変化していると判断される。これにより、静止物が移動物であると誤判定されるなど、移動/静止の判定、あるいは、移動速度の算出の精度が低下する。
特に、自車の進行方向において、自車と障害物との間に前走車が存在する状態から、前 走車が移動することにより、自車と前走車との間に障害物が存在する状態に場合には、精度の問題は大きくなる。つまり、障害物の遮蔽状態が解消されるため、当該障害物の検知幅は、遮蔽されていた部分の幅に相当する分、遮蔽されていた部分の側に広がることになる。よって、当該障害物の重心位置は、遮蔽されていた部分の側に移動し、当該障害物は、横移動していなかったとしても、遮蔽されていた部分の側に横移動する移動物体として誤認識される。
また、障害物が高反射物体である場合やセンサ表面に雨滴が付いている場合にも、実際の障害物の幅よりも広い検知幅となるため、精度の問題は大きくなる。つまり、障害物の検知幅が実際の幅より広くなるときは、障害物の遮蔽状態の変化に対する障害物の検知幅の変化が大きくなるため、例えば、障害物を遮蔽していた前走車が当該障害物を越えた場合の誤認識の程度は、当該障害物が反射物体である場合やセンサ表面に雨滴が付いている場合の方が、そうでない場合に比べ、大きくなる。
さらに、上述のように、従来技術に係る走行制御装置においては、前走車などに一部が遮蔽されている障害物に係る、移動/静止の判定、あるいは、移動速度の算出が精度よく行われていないため、不要な衝突回避制御を行ってしまうという問題も生じる。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、自車両の外部に存在する物体の静止および移動の状態を精度良く検知することが可能な車両用物体検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、本発明の第1態様に係る車両用物体検知装置は、自車両周辺の所定範囲に向けて電磁波を発信すると共に、該電磁波が自車両周辺の物体により反射されて生じる反射波を受信する発受信手段(例えば、実施の形態でのレーダ装置12)と、前記物体上における前記電磁波の反射点の位置を算出する反射点算出手段(例えば、実施の形態での反射点算出部21)と、前記反射点算出手段により算出された前記反射点の位置に基づき自車両から前記物体までの距離を算出する距離算出手段(例えば、実施の形態での距離算出部22)と、前記反射点算出手段により算出された前記反射点の位置に基づき前記物体の水平方向の両方の端点を検出する端点検出手段(例えば、実施の形態での端点検出部23)と、前記端点検出手段により前記端点として少なくとも、前記物体のうち、検知対象物の端点と自車両からの距離が自車両から前記検知対象物までの距離よりも近い位置にある比較対象物の端点とが検出された場合に、前記検知対象物の何れか一方の端点が自車両から見て前記比較対象物に重なっているか否かを判定する重なり判定手段(例えば、実施の形態での重なり判定部24)と、前記重なり判定手段により重なっていると判定され、かつ、時間経過と共に前記検知対象物までの距離が前記比較対象物までの距離よりも近くなった場合に、前記検知対象物の前記比較対象物に重なっていない他方の端点の横移動量に基づいて前記検知対象物の横移動速度を算出する端点移動速度算出手段(例えば、実施の形態での端点移動速度算出部25)とを備える。
【0007】
さらに、本発明の第2態様に係る車両用物体検知装置では、前記検知対象物は、実際の物体の大きさに応じた幅の反射波よりも大きい幅の反射波が前記発受信手段により受信される高反射物体である。
【0008】
さらに、本発明の第3態様に係る車両用物体検知装置では、前記発受信手段に対する付着物の付着状態を判定する付着判定手段(例えば、実施の形態での付着判定部29)を更に備え、前記端点移動速度算出手段は、前記付着判定手段により前記付着物が付着していると判定された場合に、前記検知対象物の前記比較対象物に重なっていない方の端点の横移動量に基づいて前記検知対象物の横移動速度を算出する。
【0009】
さらに、本発明の第4態様に係る車両用物体検知装置では、前記検知対象物との衝突の可能性を判定する衝突判定手段(例えば、実施の形態での衝突判定部27)と、前記衝突判定手段により衝突の可能性があると判定された場合には衝突回避制御を行い、前記衝突判定手段により衝突の可能性がないと判定された場合には衝突回避制御を行わない車両制御手段(例えば、実施の形態での車両制御部28)とを更に備え、前記衝突判定手段は、前記端点移動速度算出手段により算出された前記検知対象物の横移動速度がゼロである場合に衝突の可能性はないと判定する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1態様に係る車両用物体検知装置によれば、比較対象物(例えば、前走車)による検知対象物(例えば、障害物)の重なり状態(遮蔽状態)が解消されて、該検知対象物の検知幅が比較対象物側に広がり、自車両前方まで広がったとしても、検知対象物の端点のうちの比較対象物側と逆側の端点の横移動量に基づいて検知対象物の横移動速度を算出するため、精度良く、検知対象物の横移動速度を算出することができる。
【0011】
本発明の第2態様に係る車両用物体検知装置によれば、検知対象物が、検知幅が実際の幅よりも広がり易い高反射物であっても、精度良く、検知対象物の横移動速度を算出することができる。
【0012】
本発明の第3態様に係る車両用物体検知装置によれば、発受信手段に汚れや雨滴などが付着し、検知幅が実際の幅よりも広がり易い場合であっても、精度良く、検知対象物の横移動速度を算出することができる。
【0013】
本発明の第4態様に係る車両用物体検知装置によれば、重なり状態が解除されることで検知幅が広がったとしても検知対象物の横移動速度を正確に算出するため、重なり状態が解除された場合であっても、正確に衝突の可能性を判定することができる。よって、重なり状態が解除された場合に衝突する可能性が無いのにもかかわらず行っていたような不要な衝突回避制御を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係る車両用物体検知装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示すレーダ装置の所定のレーダ検知領域α内で検知された全物体数m(例えば、m=5)の各物体M1,…,M5の例を示す図である。
【図3】図1に示すレーダ装置の所定のレーダ検知領域α内での検知対象物と比較対象物との例を示す図である。
【図4】図1に示すレーダ装置の所定のレーダ検知領域α内での検知対象物と比較対象物との例を示す図である。
【図5】図1に示す車両用物体検知装置の処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る車両用物体検知装置について添付図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る車両用物体検知装置10の構成を示すブロック図である。図2は、レーダ装置12の所定のレーダ検知領域α内で検知された全物体数m(例えば、m=5)の各物体M1,…,M5の例を示す図である。図3は、レーダ装置12の所定のレーダ検知領域α内での検知対象物と比較対象物との例を示す図である。
【0016】
車両用物体検知装置10は、例えば、図1に示すように、車両用物体検知装置10を制御するCPU(中央演算装置)を備えた処理ユニット11と、レーダ装置12と、車両状態センサ13と、スロットルアクチュエータ14と、ブレーキアクチュエータ15と、ステアリングアクチュエータ16と、報知装置17とを含んで構成されている。
【0017】
レーダ装置12は、例えば自車両の外界に設定された所定領域(レーダ検知領域α)を複数の角度領域に分割し、各角度領域を走査するようにして、電磁波の発信信号を発信し、各発信信号が自車両の外部の物体(例えば、他車両や構造物など)によって反射されることで生じた反射信号を受信し、反射点の位置およびレーダ装置12から外部の物体までの距離に係る検知信号を生成し、処理ユニット11に出力する。
【0018】
車両状態センサ13は、例えば、自車両の速度(車速)を検出する車速センサと、車体に作用する加速度を検知する加速度センサと、車体の姿勢や進行方向を検知するジャイロセンサと、ヨーレート(車両重心の上下方向軸回りの回転角速度)を検知するヨーレートセンサと、例えば人工衛星を利用して自車両の位置を測定するためのGPS(Global Positioning System)信号などの測位信号を受信する測位信号受信機と、運転者による運転操作(例えば、アクセルペダルの踏み込み操作量、ブレーキペダルの踏み込み操作量、ステアリングホイールの舵角、シフトポジションなど)を検出する各センサとなどを備えて構成され、自車両の各種の車両情報の検出結果の信号を出力する。
【0019】
車両用物体検知装置10の処理ユニット11は、例えば、反射点算出部21と、距離算出部22と、端点検出部23と、重なり判定部24と、端点移動速度算出部25と、記憶部26と、衝突判定部27と、車両制御部28とを備えて構成されている。なお、処理ユニット11は、破線で示すように、更に、付着判断部29を備えて構成されていてもよい。
【0020】
反射点算出部21は、レーダ装置12から出力される検知信号に基づき、レーダ装置12から発信されて自車両の外部に存在する物体の表面上で反射された電磁波の反射点の位置を算出する。
距離算出部22は、反射点算出部21により算出された複数の反射点の位置に基づき自車両から物体までの距離を算出する。
端点検出部23は、反射点算出部21により算出された複数の反射点の位置に基づき物体の水平方向の一方又は他方の端点を検出する。例えば、端点検出部23は、検知対象物の端点と、比較対象物の端点とを検出する。
【0021】
重なり判定部24は、端点検出部23により端点として少なくとも、検知対象物の端点と、自車両からの距離が自車両から検知対象物までの距離よりも近い位置にある比較対象物の端点とが検出された場合に、検知対象物の端点のうちの一方が自車両から見て比較対象物に重なっているか否かを判定する。より詳細には、重なり判定部24は、距離算出部22により算出された自車両から物体までの距離と、端点検出部23により検出された物体の水平方向の一方又は他方の端点とに基づいて、レーダ装置12により検知された複数の物体において、検知対象物と、検知対象物よりも自車両に近い位置にある比較対象物との適宜の組み合わせに対し、検知対象物の端点が自車両から見て比較対象物に重なっているか否かを判定する。
【0022】
例えば、図2に示すように、レーダ装置12の所定のレーダ検知領域α内で複数の物体(M1,…,M5)が検出された場合に、重なり判定部24は、例えば、検知対象物としての物体M1の水平方向の一方(例えば、右側)又は他方(例えば、左側)の端点のうちの一方(右側の端点)は、自車両から見て比較対象物として物体M3に重なっていると判定する。
【0023】
重なり判定部24は、端点移動速度算出部25に判定結果を出力する。例えば、重なり判定部24は、検知対象物の端点のうちの一方が自車両から見て比較対象物に重なっていることを示す重なりフラグを判定結果として出力する。即ち、重なり判定部24は、検知対象物の端点のうちの一方が自車両から見て比較対象物に重なっていると判定した場合、重なりフラグのフラグ値(=1)を出力する。
【0024】
端点移動速度算出部25は、検知対象物の横移動速度(自車幅方向における相対速度)Vyを算出する。具体的には、例えば、端点移動速度算出部25は、重なり判定部24により検知対象物の端点のうちの一方が自車両から見て比較対象物に重なっていると判定され、かつ、時間経過と共に検知対象物までの距離が比較対象物までの距離よりも近くなった場合に、検知対象物の端点のうちの他方の横移動量、即ち、比較対象物に重なっていない方の横移動量に基づいて、該検知対象物の横移動速度を算出する。なお、端点移動速度算出部25は、「重なり判定部24により検知対象物の端点のうちの一方が自車両から見て比較対象物に重なっていると判定され、かつ、時間経過と共に検知対象物までの距離が比較対象物までの距離よりも近くなった場合」という条件を満たさないときは、例えば、検知対象物の重心の横移動量に基づいて、該検知対象物の横移動速度を算出してもよい。
【0025】
以下、端点移動速度算出部25による、検知対象物の端点のうちの他方の横移動量に基づく横移動速度の算出について詳細に説明する。
例えば図3(a)に示すように、検知対象物(例えば、障害物M1)の端点のうちの一方(RE)が自車両Pから見て比較対象物(前走車M3)に重なっていると判定され、かつ、図3(b)(c)に示すように、時間経過(時刻t0、t1、t2の変化)と共に、自車両Pから検知対象物(障害物M1)までの距離が比較対象物までの距離よりも近くなった場合に、端点移動速度算出部25は、検知対象物の端点のうちの他方(LE)の横移動量に基づいて、検知対象物の横移動速度Vyを算出する。
【0026】
つまり、時間経過に伴ってレーダ装置12による検知対象物の検知幅は変化し、検知幅の変化に伴って検知対象物の重心位置も変化するため、重心位置の移動量に基づいて横移動速度を算出する従来の技術では、検知対象物が自車両の幅方向に静止していたとしても、当該重心位置の移動量に応じて横移動速度が算出され、自車両の幅方向に移動する移動物体として認識されてしまう。
一方、本願の技術では、時間経過に伴ってレーダ装置12による検知対象物の検知幅が変化したとしても、比較対象物に重なっていない検知対象物の端点の横移動量に基づいて横移動速度を算出するため、検知対象物が自車両の幅方向に静止している場合には横移動速度Vyはゼロとなり、自車両の幅方向に移動していない静止物体として正しく認識されるようになる。
【0027】
なお、検知対象物が高反射物体である場合、あるいは、レーダ装置12に何らかの付着物(例えば、雨滴、夜露、汚垢、埃)が付着している場合には、本願の技術は特に有用である。
つまり、上述のような場合には、実際の物体の大きさに応じた幅の反射波よりも大きい幅の反射波がレーダ装置12により受信されるため、そうでない場合(例えば、図3参照)に比べ、実際の幅に比べて検知幅が大きくなり易く(例えば、図4参照)、重心位置の変化量は多くなり易いため、従来の技術では、移動物体と誤認識される可能性が高かったが、本願の技術では、上述のような場合であっても、比較対象物に重なっていない検知対象物の端点の横移動量に基づいて横移動速度を算出するため、検知対象物が自車両の幅方向に静止している場合には横移動速度Vyはゼロとなり、自車両の幅方向に移動していない静止物体として正しく認識される。
【0028】
従って、端点移動速度算出部25は、処理ユニット11が付着判定部29を備える場合、付着判定部29によりレーダ装置12に付着物が付着していると判定された場合に、検知対象物の端点のうちの他方の横移動量に基づいて検知対象物の横移動速度を算出するようにしてもよい。なお、レーダ装置12に付着物が付着していると反射光がぼやける性質があるため、付着判定部29は、反射光のぼやけ具合が所定の閾値以上である場合に、付着状態であると判定する。なお、検知対象物が高反射物体であるか否かについても同様に、付着判定部29が判断してもよい。即ち、付着判定部29は、反射光のぼやけ具合が所定の閾値以上である場合には、検知対象物が高反射物体であると判断してもよい。
【0029】
なお、端点移動速度算出部25は、重なり判定部24によって検知対象物の水平方向の両方の端点(例えば、図3、図4に示すLE及びRE)が自車両から見て比較対象物に重なっていると判定された場合には、検知対象物の横移動速度Vyをゼロと算出してもよい。また、端点移動速度算出部25は、検知対象物の水平方向の一方の端点がレーダ装置12から発信される電磁波の所定の発信範囲の水平方向の境界端(レーダ検知端)上、又は所定の発信範囲外に存在する場合で、かつ、水平方向の他方の端点が重なり判定部24によって自車両から見て比較対象物に重なっていると判定された場合には、検知対象物の横移動速度Vyをゼロと算出してもよい。
【0030】
記憶部26は、重なり判定部24によって比較対象物に重なっていないと判定された検知対象物の端点の位置の過去のデータを記憶する。
また、記憶部26は、重なり判定部24から出力される重なりフラグのフラグ値および端点移動速度算出部25から出力される検知対象物の端点の横移動速度Vyを記憶する。
【0031】
衝突判定部27は、検知対象物との衝突の可能性を判定する。具体的には、衝突判定部27は、車両状態センサ13から出力される自車両の各種の車両情報の検出結果の信号と、端点移動速度算出部25により算出された横移動速度Vyとなどに基づいて、自車両と検知対象物との衝突可能性の有無を判定する。例えば、衝突判定部27は、端点移動速度算出部25により算出された検知対象物の横移動速度Vyがゼロ(検知対象物が自車両の幅方向に静止する静止物体)である場合には、現在の走行状況を維持して走行すれば衝突の可能性はないと判定する。
【0032】
車両制御部28は、衝突判定部27による判定結果に応じて、自車両の走行状態を制御する。具体的には、車両制御部28は、衝突判定部27によって検知対象物との衝突の可能性があると判定された場合には、検知対象物に対する衝突回避制御を行う。
より詳細には、車両制御部28は、検知対象物との衝突から回避するために、自車両の走行を制御する制御信号を各アクチュエータに出力する。車両制御部28が出力する制御信号は、例えば、トランスミッション(T/M)の変速動作を制御する制御信号、スロットルアクチュエータ14により内燃機関(E)の駆動力を制御する制御信号、ブレーキアクチュエータ15により減速を制御する制御信号、ステアリングアクチュエータ16により転舵を制御する制御信号などである。
なお、車両制御部28は、衝突判定部27によって検知対象物との衝突の可能性がないと判定された場合には、上述の衝突回避制御を行わない。
また、車両制御部28は、自車両の乗員に各種の情報を報知する場合に、報知装置17を制御する制御信号を出力する。
【0033】
続いて、車両用物体検知装置10の処理の流れについて説明する。図5は、車両用物体検知装置10の処理の流れを示すフローチャートである。具体的には、検知対象物の横移動速度を算出する処理の流れを示すフローチャートである。なお、図5に示すフローチャートは、反射点算出部21が、レーダ装置12から出力される自車両の外部の物体までの距離に係る検知信号に基づき、自車両の外部に存在する物体の表面上で反射された電磁波の反射点の位置を算出することにより開始する。
【0034】
まず、図5において、距離算出部22は、反射点算出部21により算出された複数の反射点の位置に基づき自車両から物体までの距離を算出し、端点検出部23は、反射点算出部21により算出された複数の反射点の位置に基づき物体の水平方向の一方又は他方の端点を検出する(ステップS01)。
【0035】
次に、重なり判定部24は、物体の前後方向の位置関係に基づいて、前後移動物体MO(例えば、自車に対する前走車。比較対象物に相当)の存在の有無を判断する(ステップS02)。例えば、重なり判定部24は、一の物体の所定時間における上記位置の変化が所定の閾値よりも小さい場合、当該物体は前後移動物体MOであると判断し、前後移動物体MOは存在すると判断する。
【0036】
ステップS02において前後移動物体MOが存在しないと判断した場合(ステップS02:No)、ステップS06に進む。一方、ステップS02において前後移動物体MOが存在すると判断した場合(ステップS02:Yes)、重なり判定部24は、当該前後移動物体MOの自車から見て遠方(側方又は後方)に側方物体Nx(検知対象物に相当)が存在するか否かを判断する(ステップS03)。
なお、重なり判定部24は、ステップS02において、複数の前後移動物体MOが存在すると判断した場合には、夫々の前後移動物体MOについて側方物体Nxが存在するか否かを判断する。
【0037】
ステップS03において前後移動物体MOの自車から見て遠方に側方物体Nxが存在しないと判断した場合(ステップS03:No)、ステップS06に進む。一方、ステップS03において前後移動物体MOの自車から見て遠方に側方物体Nxが存在すると判断した場合(ステップS03:Yes)、重なり判定部24は、側方物体Nxの端点のうちの何れか一方が、自車両から見て前後移動物体MOに重なっているか否かを判定する(ステップS04)。即ち、重なり判定部24は、自車両に近い側に位置する比較対象物である前後移動物体MOによって、自車両に遠い側に位置する検知対象物である側方物体Nxが遮蔽されているか否かを判定する。
具体的には、重なり判定部24は、前後移動物体MOの一の端点の方向が、側方物体Nxの一の端点の方向と一致している場合、側方物体Nxの端点のうちの何れか一方が、自車両から見て前後移動物体MOに重なっている、即ち、前後移動物体MOによって側方物体Nxが遮蔽されていると判定する。
なお、重なり判定部24は、ステップS03において、一の前後移動物体MOの自車から見て遠方に複数の側方物体Nxが存在すると判断した場合には、夫々の側方物体Nxについて、前後移動物体MOに遮蔽されているか否かを判定する。また、複数の前後移動物体MOが存在し、夫々の前後移動物体MOの自車から見て遠方に1又は2以上の側方物体Nxが存在すると判断した場合には、前後移動物体MOと側方物体Nxの組み合わせ毎に判定する。
【0038】
ステップS04において側方物体Nxの端点のうちの何れか一方が自車両から見て前後移動物体MOに重なっていないと判定した場合(ステップS04:No)、ステップS06に進む。一方、ステップS04において側方物体Nxの端点のうちの何れか一方が自車両から見て前後移動物体MOに重なっていると判定した場合(ステップS04:Yes)、重なり判定部24は、端点による横移動速度算出の要否判定フラグ「fEageVJudObj」に「True(=1)」を設定する(ステップS05)。なお、上記フラグは、前後移動物体MOと側方物体Nxの組み合わせ毎に設定する。また、上記フラグ「fEageVJudObj」の初期値は「False(=0)」であるものとする。
【0039】
ステップS02(No)、ステップS03(No)、ステップS04(No)、ステップS05に続いて、重なり判定部24は、フラグ「fEageVJudObj」=1、かつ、前後移動物体MOの前後位置x_MO>側方物体Nxの前後位置x_Nxという条件を満たすか否かを判断する(ステップS06)。つまり、重なり判定部24は、前後移動物体MOが前方への移動によって側方物体Nxを前後の位置関係において追い越したか否か(側方物体Nxが前後移動物体MOの手前になったか否か)、即ち、前後移動物体MOによる側方物体Nxの遮蔽が解消されたか否かを判断する。
【0040】
ステップS06において重なり判定部24がNOと判断した場合、端点移動速度算出部25は、側方物体Nxの横移動速度を側方物体Nxの重心の横移動量により計算する(ステップS07)。具体的には、端点移動速度算出部25は、側方物体Nxの横移動速度Vy_Nxを、当該側方物体Nxの今回の重心横位置yNCxと、当該側方物体Nxの前回の重心横位置yNCxz1とを用いて下記式(1)に従って算出する。なお、tは、1処理周期時間である。
Vy_Nx=(yNCx−yNCxz1)/t…(1)
そして、本フローチャートは終了する。
【0041】
一方、ステップS06において重なり判定部24がYESと判断した場合、端点移動速度算出部25は、側方物体Nxの横移動速度Vy_Nxを、当該側方物体Nxの前後移動物体MOから遠い方の端点の横移動量により計算する(ステップS08)。具体的には、端点移動速度算出部25は、側方物体Nxの横移動速度Vy_Nxを、当該側方物体Nxの前後移動物体MOの反対側の今回の端点横位置yNoutxと、当該側方物体Nxの前後移動物体MOの反対側の前回の端点横位置yNoutxz1とを用いて下記式(2)に従って算出する。
Vy_Nx=(yNoutx‐yNoutxz1)/t…(2)
【0042】
ステップS08に続いて、例えば、端点移動速度算出部25は、端点による横移動速度算出回数CNT_EVJをカウントアップする(ステップS09)。なお、CNT_EVJは、側方物体Nx毎に存在し、夫々の側方物体Nxが上記式(2)に従って端点によって横移動速度を算出する都度、夫々についてカウントアップする。
【0043】
ステップS09に続いて、例えば、端点移動速度算出部25は、端点による横移動速度算出回数CNT_EVJが、端点による横移動速度算出最大回数cnt_EVJ_maxに達したか否かを判断する(ステップS10)。ステップS10においてCNT_EVJがcnt_EVJ_maxに達していないと判断した場合(ステップS10:No)、本フローチャートは終了する。一方、ステップS10においてCNT_EVJがcnt_EVJ_maxに達したと判断した場合(ステップS10:Yes)、当該側方物体Nxのフラグ「fEageVJudObj」を初期化し(ステップS11)、本フローチャートは終了する。
【0044】
なお、図5に示すフローチャートの、端点による横移動速度算出回数CNT_EVJ、横移動速度算出最大回数cnt_EVJ_maxは、側方物体Nxが前後移動物体MOよりも手前になった場合に、前後移動物体MOよりも手前になってから一定回数は、端点に基づいて横移動速度の算出を行い、その後は、重心に基づいて横移動速度の算出するために設けたものである。cnt_EVJ_maxは、処理周期時間t、側方物体Nxの前後移動物体MO側の端点の横位置が変化し終わるまでに要する時間(予測値)、換言すれば、前後移動物体MOが側方物体Nxを追い越した後に側方物体Nxの検知幅が安定するまでに要する時間(予測値)などに基づいて、予め設定しておくとよい。
【0045】
また、図5に示すフローチャートのステップS03とステップS04の間において、重なり判定部24は、CPUの負荷、効果などを勘案し、ステップS03において自車から見て前後移動物体MOの遠方に存在するとした側方物体Nxについて、検知幅が特に大きくなり易いか否かを判断し、検知幅が特に大きくなり易いと判断した場合にのみステップS04に進むようにし、そうでない場合にはステップS06に進むようにしてもよい。
【0046】
例えば、重なり判定部24は、側方物体Nxが高反射物体である場合、又は、レーダ装置12に付着物が付着している場合の少なくとも何れかの場合であるときに、検知幅が特に大きくなり易いと判断する。なお、付着判定部29が反射光のぼやけ具合に基づいて上述の何れかの場合であるか否かを判定してもよい。
【0047】
以上、本実施の形態による車両用物体検知装置10について説明したが、車両用物体検知装置10によれば、比較対象物(例えば、前走車)による検知対象物(例えば、障害物)の重なり状態(遮蔽状態)が解消されて、該検知対象物の検知幅が比較対象物側に広がり、自車両前方まで広がったとしても、検知対象物の端点のうちの比較対象物側と逆側の端点の横移動量に基づいて検知対象物の横移動速度を算出するため、精度良く、検知対象物の横移動速度を算出することができる。つまり、検知対象物の一部が前走車によって遮蔽されている状態から、前走車が検知対象物よりも遠くへ移動して遮蔽状態が解消された場合には、検知対象物の横移動速度を、遮蔽状態において遮蔽されていなかった側の端点に基づいて算出するため、精度良く、横移動速度を算出することができる。
【0048】
さらに、検知対象物が、重なり状態が解除されたときに検知幅が実際の幅よりも広がり易い高反射物であっても、精度良く、検知対象物の横移動速度を算出することができる。また、レーダ装置12に汚れや雨滴などが付着し、重なり状態が解除されたときに検知幅が実際の幅よりも広がり易い場合であっても、精度良く、検知対象物の横移動速度を算出することができる。
【0049】
さらに、重なり状態が解除されることで検知幅が広がったとしても検知対象物の横移動速度を正確に算出するため、重なり状態が解除された場合であっても、正確に衝突の可能性を判定することができる。よって、重なり状態が解除された場合に衝突する可能性が無いのにもかかわらず行っていたような不要な衝突回避制御を抑えることができる。
【0050】
なお、図3及び図4は、検知対象物における比較対象物に遮蔽されていない部分の実際の幅に比べ、当該部分に対応する検知幅が大きくなる例であるが、検知対象物の比較対象物に遮蔽されていない部分の実際の幅と当該部分に対応する検知幅とが略等しくなる場合であっても、車両用物体検知装置10は当然に上述の効果がある。
つまり、検知対象物における比較対象物に遮蔽されていない部分の実際の幅と、当該部分に対応する検知幅とが略同一である場合、さらには、検知対象物における比較対象物に遮蔽されていない部分の実際の幅に比べ、当該部分に対応する検知幅が小さくなるような場合であっても、比較対象物が移動し、遮蔽状態を生じさせていた検知対象物を追い越したときは、遮蔽状態が解消して遮蔽部分が露出するため、検知対象物の検知幅は、比較対象物が存在していた一方向に大きくなる。つまり、上述の追い越しに起因し、一端側の遮蔽部分が露出するため重心位置が上記一方向側に移動する。
【0051】
従って、従来の技術では、遮蔽されていない部分の検知幅が当該部分の実際の幅に比べ大きくなるか否かに関係なく、上述の追い越しに起因して移動する重心位置に基づいて横移動速度を算出することになるため、正しく、検知対象物の横移動速度を算出することができない。しかしながら、車両用物体検知装置10によれば、遮蔽されていない部分の検知幅が当該部分の実際の幅に比べ大きくなるか否かに関係なく、遮蔽状態が生じていたときから露出していた他方の端点の移動量に基づいて横移動速度を算出するようにしているため、重心位置の横移動に何ら影響されることはなく、精度良く、検知対象物の横移動速度を算出することができる。
【符号の説明】
【0052】
10 車両用物体検知装置
12 レーダ装置(発受信手段)
21 反射点算出部(反射点算出手段)
22 距離算出部(距離算出手段)
23 端点検出部(端点検出手段)
24 重なり判定部(重なり判定手段)
25 端点移動速度算出部(端点移動速度算出手段)
27 衝突判定部(衝突判定手段)
28 車両制御部(車両制御手段)
29 付着判定部(付着判定手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両周辺の所定範囲に向けて電磁波を発信すると共に、該電磁波が自車両周辺の物体により反射されて生じる反射波を受信する発受信手段と、
前記物体上における前記電磁波の反射点の位置を算出する反射点算出手段と、
前記反射点算出手段により算出された前記反射点の位置に基づき自車両から前記物体までの距離を算出する距離算出手段と、
前記反射点算出手段により算出された前記反射点の位置に基づき前記物体の水平方向の両方の端点を検出する端点検出手段と、
前記端点検出手段により前記端点として少なくとも、前記物体のうち、検知対象物の端点と自車両からの距離が自車両から前記検知対象物までの距離よりも近い位置にある比較対象物の端点とが検出された場合に、前記検知対象物の何れか一方の端点が自車両から見て前記比較対象物に重なっているか否かを判定する重なり判定手段と、
前記重なり判定手段により重なっていると判定され、かつ、時間経過と共に前記検知対象物までの距離が前記比較対象物までの距離よりも近くなった場合に、前記検知対象物の前記比較対象物に重なっていない他方の端点の横移動量に基づいて前記検知対象物の横移動速度を算出する端点移動速度算出手段と
を備えることを特徴とする車両用物体検知装置。
【請求項2】
前記検知対象物は、実際の物体の大きさに応じた幅の反射波よりも大きい幅の反射波が前記発受信手段により受信される高反射物体であることを特徴とする請求項1に記載の車両用物体検知装置。
【請求項3】
前記発受信手段に対する付着物の付着状態を判定する付着判定手段を更に備え、
前記端点移動速度算出手段は、
前記付着判定手段により前記付着物が付着していると判定された場合に、前記検知対象物の前記比較対象物に重なっていない方の端点の横移動量に基づいて前記検知対象物の横移動速度を算出することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用物体検知装置。
【請求項4】
前記検知対象物との衝突の可能性を判定する衝突判定手段と、
前記衝突判定手段により衝突の可能性があると判定された場合には衝突回避制御を行い、前記衝突判定手段により衝突の可能性がないと判定された場合には衝突回避制御を行わない車両制御手段と
を更に備え、
前記衝突判定手段は、
前記端点移動速度算出手段により算出された前記検知対象物の横移動速度がゼロである場合に衝突の可能性はないと判定することを特徴とする請求項1から請求項3の何れか1つに記載の車両用物体検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−237579(P2012−237579A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105171(P2011−105171)
【出願日】平成23年5月10日(2011.5.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】