説明

車両用空力構造

【課題】車両の走行状況に応じてホイールハウス内の空気流を整流する。
【解決手段】車両用ホイールハウス構造10では、車両の速度が大きい際に、所定数の段差部40が車両前側位置に配置される。このため、車輪20の車両後側からホイールハウス18への空気流が衝突面32、40Bに衝突して、ホイールハウス18への空気の流入が抑制されることで、ホイールハウス18内の空気流を整流できて、車両の空気抵抗を低減できる。一方、車両の速度が小さい際、車両の走行面が悪路である際、及び、車両の走行面の摩擦係数が小さい際には、所定数の段差部40が車両後側位置に配置される。このため、車輪20の接地状態を良くできて、車両の操縦安定性を確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のホイールハウス内の空気流を整流する車両用空力構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用空力構造としては、車両の高速走行時に、ホイールハウスと車輪との間の隙間がシャッタによって塞がれて、車両に作用する空気抵抗が低減されるものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このように、車両用空力構造では、車両の走行状況に応じて、ホイールハウス内の空気流を整流できるのが好ましい。
【特許文献1】特開2006−327548公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記事実を考慮し、車両の走行状況に応じてホイールハウス内の空気流を整流できる車両用空力構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載の車両用空力構造は、車両のホイールハウスに設けられると共に、前記ホイールハウス内における車輪の回転軸心よりも車両後側に配置され、前記車輪側へ突出されることで衝突面が前記車輪側へ突出されて前記衝突面に前記車輪の回転に伴い前記ホイールハウス内へ向かう空気流が衝突する段差部と、車両の走行状況を検出する検出手段と、前記検出手段の検出結果に基づいて前記段差部の前記車輪側への突出量を調整する調整手段と、を備えている。
【0006】
請求項2に記載の車両用空力構造は、請求項1に記載の車両用空力構造において、前記段差部を折り畳み可能にして前記段差部の前記車輪側への突出量を調整可能にした、ことを特徴としている。
【0007】
請求項3に記載の車両用空力構造は、請求項1又は請求項2に記載の車両用空力構造において、前記検出手段は、車両の走行速度を検出し、かつ、前記検出手段が検出した車両の走行速度が小さくなると前記調整手段が前記段差部の前記車輪側への突出量を小さくする、ことを特徴としている。
【0008】
請求項4に記載の車両用空力構造は、請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の車両用空力構造において、前記検出手段は、車両の走行面を検出し、かつ、前記検出手段が検出した車両の走行面による車両の振動周波数が小さくなると前記調整手段が前記段差部の前記車輪側への突出量を小さくすると共に、前記検出手段が検出した車両の走行面の抵抗が小さくなると前記調整手段が前記段差部の前記車輪側への突出量を小さくする、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の車両用空力構造では、車両のホイールハウスに設けられた段差部が、ホイールハウス内における車輪の回転軸心よりも車両後側に配置されており、段差部が車輪側へ突出されることで、衝突面が車輪側へ突出されて、衝突面に車輪の回転に伴いホイールハウス内へ向かう空気流が衝突する。このため、車輪の回転に伴うホイールハウス内への空気流の流入が抑制されて、ホイールハウス内の空気流を整流できる。
【0010】
ここで、検出手段が車両の走行状況を検出し、検出手段の検出結果に基づいて調整手段が段差部の車輪側への突出量を調整する。このため、車両の走行状況に応じて、ホイールハウス内の空気流を整流できる。
【0011】
請求項2に記載の車両用空力構造では、段差部が折り畳み可能にされて、段差部の車輪側への突出量が調整可能にされている。このため、簡単な構成で、段差部の車輪側への突出量を調整可能にすることができる。
【0012】
請求項3に記載の車両用空力構造では、検出手段が車両の走行速度を検出する。
【0013】
ここで、検出手段が検出した車両の走行速度が小さくなると、調整手段が段差部の車輪側への突出量を小さくする。このため、車両の操縦安定性を確保することができる。
【0014】
請求項4に記載の車両用空力構造では、検出手段が車両の走行面を検出する。
【0015】
ここで、検出手段が検出した車両の走行面による車両の振動周波数が小さくなると、調整手段が前記段差部の前記車輪側への突出量を小さくすると共に、検出手段が検出した車両の走行面の抵抗が小さくなると、調整手段が段差部の車輪側への突出量を小さくする。このため、車両の操縦安定性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
[第1の実施の形態]
図1には、本発明の第1の実施の形態に係る車両用空力構造としての車両用ホイールハウス構造10が車両左方から見た断面図にて示されており、図5には、車両用ホイールハウス構造10が適用されて構成された車両12(自動車)の前部が車両左方から見た側面図にて示されている。なお、図面では、車両前方を矢印FRで示し、車幅方向内方(車両右方)を矢印INで示し、上方を矢印UPで示す。
【0017】
本実施の形態における車両12の前部及び後部には、車幅方向両端において、板状のフェンダパネル14が設けられている。フェンダパネル14には、略半円弧状のホイールアーチ16が形成されており、ホイールアーチ16内は、下向きに開口している。
【0018】
車両12の前部及び後部には、ホイールアーチ16の車幅方向内側において、略半円柱状のホイールハウス18が形成されており、ホイールハウス18の内周面は、ホイールアーチ16の外周側に配置されている。ホイールハウス18内には、車輪20(前輪、後輪)が車輪軸20Aを中心として回転可能に設けられており、特に車輪20が前輪である場合には、車輪20が、ホイールアーチ16の外周内側に配置されて、ホイールアーチ16の車幅方向外側へ転舵(車幅方向へ傾動)可能にされている。
【0019】
車輪軸20Aは、サスペンション22の下端に支持されており、サスペンション22は、上端が車体側に固定されて、車輪軸20Aを介して車輪20に下側への付勢力を付与している。
【0020】
車輪20の車幅方向内側には、ブレーキ装置(図示省略)が設けられており、ブレーキ装置は、車輪20の回転を制動して、車両12を制動可能にされている。
【0021】
ホイールハウス18内には、ホイールアーチ16の外周側において、樹脂製で板状のフェンダライナ24が設けられており、フェンダライナ24は、車両側面視略円弧状にされてホイールアーチ16に沿って湾曲されると共に、車輪20の外周面の上側部分を被覆している。フェンダライナ24の車幅方向内側端は、ホイールハウス18の車幅方向内側壁に固定されており、フェンダライナ24の車幅方向外側端は、フェンダパネル14に固定されている。
【0022】
フェンダライナ24の車両後側部分かつ下側部分には、湾曲直方体状の凹部26が形成されており、凹部26は、車輪20の回転中心軸線O(回転軸心)の車両後側における車輪20と高さが同一の範囲内に配置されている。凹部26の車幅方向外側面及び下面は、開口されており、凹部26の車幅方向外側面は、フェンダパネル14によって閉じられている。凹部26の底壁(外周壁及び車両後側壁)には、矩形状の開口28が貫通形成されており、開口28の上端は、凹部26の上壁に接している。
【0023】
凹部26には、図4に詳細に示す空力スタビライザ30が設けられており、凹部26の上面は、下側へ向けられた平面状の衝突面32にされている。車輪20の回転中心軸線Oを中心とした衝突面32の車両前側端の水平面Hに対する上側へのなす角θは、50°以下にされるのが好ましく、40°以下にされるのが一層好ましく、30°程度にされている。凹部26の開口28には、略三角柱形容器状の段差部材34が設けられており、段差部材34の車両後側面は、開放されている。段差部材34の上端は、凹部26の開口28上端部分に回動軸36において回転可能に支持されており、段差部材34は回動軸36を中心として車両前後方向へ回動可能にされている。
【0024】
段差部材34の両側壁(車幅方向両側壁)及び下壁は、車両後側部分において、伸縮手段(折畳手段)としての折畳部38にされており、折畳部38は、蛇腹状(断面波形状)にされて、折り畳み及び展開可能(伸縮可能)にされている。段差部材34の両側壁における折畳部38は、それぞれ、断面略J字状(断面略U字状でもよい)にされて、車幅方向外側部分の車両前側端が、凹部26の開口28の車幅方向両端に固定されると共に、段差部材34の下壁における折畳部38は、断面略J字状(断面略U字状でもよい)にされて、下側部分の車両前側端が凹部26の開口28の下端に固定されている。これにより、段差部材34の両側壁及び下壁における各折畳部38が折り畳み及び展開されることで、段差部材34が車両前後方向へ回動可能にされている。
【0025】
段差部材34の車両前側部分には、三角柱形容器状の段差部40が所定数(本実施の形態では3つ)形成されており、所定数の段差部40は、それぞれ車両後側面が開放されると共に、上下方向において連続して配置されている。段差部40の上面は、車両前側へ向けられた平面状の案内面40Aにされると共に、段差部40の下面は、下側へ向けられた平面状の衝突面40Bにされており、案内面40Aの車両側面視の長さは、衝突面40Bの車両側面視の長さに比し、長くされている。段差部40の案内面40Aと衝突面40Bとの間の頂部40Cは、段差部40のうちで最も車輪20側へ突出されており、段差部40の頂部40Cは、フェンダライナ24の内周面と面一の位置に配置されている。また、最下の段差部40の衝突面40Bは、車輪20の回転中心軸線Oを通る水平面Hに比し、下側に配置されており、最下の段差部40の衝突面40Bは、下側に配置される程好ましい。
【0026】
凹部26上面の衝突面32と最上の段差部40の案内面40Aとの間及び上側の段差部40の衝突面40Bと下側の段差部40の案内面40Aとの間には、三角柱状のストッパ溝42が形成されており、ストッパ溝42は、車輪20側に開口され、かつ、車幅方向内側が凹部26の車幅方向内側面に対向されると共に、車幅方向外側がフェンダパネル14に対向されている。車両12の前進走行時には、車輪20の回転(図1の矢印Aの方向への回転)に伴う車輪20の車両後側における上側(特に車両後斜め上方)への空気流が、ストッパ溝42に流入して、案内面40Aに案内されると共に、衝突面40Bに衝突する。
【0027】
段差部材34の車両後側における車体側には、調整手段を構成する駆動手段としてのアクチュエータ44が設けられており、アクチュエータ44には、本体部46及び延出軸48が設けられている。本体部46は車体側に固定されており、延出軸48は本体部46から車両前側へ延出されている。延出軸48の車両前側端は、段差部材34の下部(最下の段差部40)の車両前側壁に回動可能に連結されており、アクチュエータ44が駆動されて、延出軸48の本体部46に対する延出量が調整されることで、段差部材34が車両前後方向へ回動されて、段差部材34の凹部26底壁からの車輪20側への突出量が調整可能にされている。
【0028】
上記車輪軸20Aには、検出手段としての車速センサ50が設けられており、車速センサ50は、車両12の速度を検出可能にされている。車両12には、検出手段としてのナビゲーションシステム52が設けられており、ナビゲーションシステム52は、車両12の速度及び車両12の走行面54(路面)の摩擦係数を検出可能にされている。
【0029】
上記サスペンション22の上端が固定される車体側には、検出手段としての上荷重センサ56が設けられており、上荷重センサ56は、車輪20からサスペンション22の付勢力を介して車体側へ入力される荷重を検出可能にされている。サスペンション22の下部には、検出手段としての下荷重センサ58が設けられており、下荷重センサ58は、車輪20からサスペンション22の付勢力を介さないで車体側へ入力される荷重を検出可能にされている。これにより、上荷重センサ56及び下荷重センサ58は、車両12に走行面54から入力される振動の周波数及び車両12の振幅を検出可能にされており、車両12に入力される振動の周波数が小さい際には、車両12の走行面54が凹凸の大きい悪路であると判断され、一方、車両12に入力される振動の周波数が大きい際には、車両12の走行面54が平坦な(凹凸の小さい)良路であると判断される。
【0030】
車両12の特に前端部には、検出手段としてのCCD(Charge Coupled Device)センサ60が設けられており、CCDセンサ60は、車両12の走行面54の画像を検出して、車両12の走行面54の摩擦係数を検出可能にされている。車両12には、検出手段としての外気温センサ62が設けられており、外気温センサ62は、車両12外の気温を検出可能にされている。これにより、外気温センサ62は、車両12の走行面54が積雪、凍結等して、走行面54の摩擦係数が小さいことを検出可能にされている。
【0031】
上記サスペンション22の上端が固定される車体側には、検出手段としてのVSC(Vehicle Stability Control)センサ64が設けられており、VSCセンサ64は、車両12の滑り(特に横滑り)を検出して、車両12の走行面54の摩擦係数が小さいことを検出可能にされている。
【0032】
上記アクチュエータ44、車速センサ50、ナビゲーションシステム52、上荷重センサ56、下荷重センサ58、CCDセンサ60、外気温センサ62及びVSCセンサ64は、車両12の調整手段を構成する制御手段としてのECU66に接続されている。
【0033】
次に、本実施の形態の作用を説明する。
【0034】
以上の構成の車両12では、段差部材34(所定数の段差部40)が車両前側限度位置に配置されて、段差部40の頂部40Cがフェンダライナ24の内周面と面一の位置に配置されている。
【0035】
車両12の前進走行に伴って車輪20が回転すると、車輪20の回転に引きずられるようにして、車輪20の車両後側からホイールハウス18に流入する上側への空気流が生じる。この空気流は、最下の衝突面40Bに衝突する。さらに、この空気流は、ストッパ溝42に流入し、案内面40Aに案内されて、衝突面32、40Bに衝突する。このため、空気流が塞き止められてストッパ溝42内の圧力が上昇し、この圧力上昇範囲がストッパ溝42と車輪20との間の空間まで及ぶことで、車輪20の車両後側からホイールハウス18内への空気の流入抵抗が増大する。これにより、ホイールハウス18への空気の流入が抑制されて、車両12の下面下側からホイールハウス18に流入しようとする空気流が弱く、ホイールハウス18の周辺(ホイールハウス18内を含む)の空気流の乱れが抑制(整流)されることで、車両12の下面下側を車両後側へ向けて流れる空気流が乱されることが抑制されて、車両12の下面下側において空気流が車両後側へ向けてスムースに流れることができる。
【0036】
さらに、上述の如くホイールハウス18への流入空気量が減少することで、ホイールハウス18の車幅方向外側へ排出される空気量も減少する。特に、ホイールハウス18に空気流が流入する最上流部であるホイールハウス18の車両後側部かつ下側部に衝突面40Bが配設されているため、ホイールハウス18の車幅方向外側へ排出される空気量を効果的に減少させることができる。このため、車両12の側面に沿って車両後側へ向けて流れる空気流が乱されることが抑制されて、車両12の側面において空気流が車両後側へ向けてスムースに流れることができる。
【0037】
以上により、車両12では、衝突面32、40Bの作用によって、空気抵抗(CD値)の低減による燃費向上、車輪20の接地荷重確保による操縦安定性の向上、風切り音の低減、スプラッシュ(車輪20による走行面54からの水の撒き上げ)の低減、車輪20の車幅方向内側のブレーキ装置へ向かう空気流の確保等を図ることができる。
【0038】
さらに、段差部材34の段差部40がフェンダライナ24の内周面に対し突出しないため、段差部40と車輪20との干渉が問題となることがない。したがって、段差部40と車輪20との干渉防止のために制約を受けることがなく、空力上の要求性能に基づいて段差部40を設計することができる。
【0039】
ここで、図1〜図3に示す如く、アクチュエータ44が駆動されることで、段差部材34(所定数の段差部40)が、車両前側限度位置(段差部40の頂部40Cがフェンダライナ24の内周面と面一になる位置)と車両後側限度位置(例えば段差部40の頂部40Cが凹部26の底面と面一になる位置)との間で、車両前後方向へ回動されて、段差部40(案内面40A及び衝突面40B)の車輪20側への突出量が調整可能にされている。
【0040】
さらに、車速センサ50及びナビゲーションシステム52の少なくとも1つが、車両12の速度を検出する。また、上荷重センサ56及び下荷重センサ58の少なくとも1つが、車両12に走行面54から入力される振動の周波数及び車両12の振幅を検出して、車両12に走行面54から入力される振動の周波数が小さい際には、車両12の走行面54が悪路であると判断され、一方、車両12に走行面54から入力される振動の周波数が大きい際には、車両12の走行面54が良路であると判断される。さらに、ナビゲーションシステム52、CCDセンサ60、外気温センサ62及びVSCセンサ64の少なくとも1つが、車両12の走行面54の摩擦係数を検出する。
【0041】
また、車両12の速度が小さい際や車両12の走行面54が悪路である際には、車両12に入力される振動の周波数が小さくなる。一方、車両12の走行面54が良路であって車両12の速度が大きい際(車両12の良路高速前進走行時)には、車両12に入力される振動の周波数が大きくなる。
【0042】
図6には、下荷重センサ58の検出による、車両12に走行面54から入力される振動の周波数と、車両12の振幅と、の関係が示されている。車両12に走行面54から入力される振動の周波数が大きい際には、段差部材34が車両前側限度位置に配置される場合(図6の実線A)の方が、段差部材34が車両後側限度位置に配置される場合(図6の破線B)に比し、車両12の振幅が小さくなって、車輪20の接地状態が良くなる。一方、車両12に走行面54から入力される振動の周波数が小さい際には、段差部材34が車両前側限度位置に配置される場合(図6の実線A)の方が、段差部材34が車両後側限度位置に配置される場合(図6の破線B)に比し、車両12の振幅が大きくなって、車輪20の接地状態が悪くなる(見かけ上サスペンション22の付勢力が弱くなったように感じられる)。
【0043】
また、車両12の走行面54が積雪や凍結等せずに、走行面54の摩擦係数が大きい際には、段差部材34が車両前側限度位置に配置される場合の方が、段差部材34が車両後側限度位置に配置される場合に比し、車両12の振幅が小さくなって、車輪20の接地状態が良くなる。一方、車両12の走行面54が積雪や凍結等して、走行面54の摩擦係数が小さい際には、段差部材34が車両前側限度位置に配置される場合の方が、段差部材34が車両後側限度位置に配置される場合に比し、車両12の振幅が大きくなって、車輪20の接地状態が悪くなる(見かけ上サスペンション22の付勢力が弱くなったように感じられる)。
【0044】
以上により、検出された車両12に走行面54から入力される振動の周波数及び車両12の走行面54の摩擦係数に基づき、ECUの制御によって、アクチュエータ44が駆動されることで、段差部材34(所定数の段差部40)が車両前後方向へ回動されて、段差部40(案内面40A及び衝突面40B)の車輪20側への突出量が調整される。
【0045】
具体的には、走行面54の摩擦係数が大きい際(車両12の走行面54が積雪や凍結等していない際)において、車両12に走行面54から入力される振動の周波数が大きい際(車両12の良路高速前進走行時)には、段差部材34が車両前側位置(特に車両前側限度位置)に配置される。これにより、車輪20の接地状態を良くすることができて、上記段差部材34の衝突面32、40Bの作用による効果を奏することができる。
【0046】
一方、走行面54の摩擦係数が大きい際(車両12の走行面54が積雪や凍結等していない際)において車両12に走行面54から入力される振動の周波数が小さい際(車両12の速度が小さい際や車両12の走行面54が悪路である際)、及び、走行面54の摩擦係数が小さい際(車両12の走行面54が積雪や凍結等した際)には、段差部材34が車両後側位置(特に車両後側限度位置)に配置される。これにより、車輪20の接地状態を良くすることができて、車両12の操縦安定性を確保することができる。
【0047】
また、検出された車両12の走行面54に基づき、段差部材34(所定数の段差部40)に着雪や着氷したとECUが判断した場合には、ECUの制御によって、定期的又は不定期(特に車両12の停止中)に、アクチュエータ44が駆動されることで、段差部材34(所定数の段差部40)が車両前後方向へ往復回動される。これにより、段差部材34から雪や氷を脱落させることができ、段差部材34に強固に付着した雪や氷が成長して車輪20に干渉することで車両12の走行に支障をきたしたり異音を発生したりすることを抑制することができる。しかも、車両12の停止中に段差部材34が車両前後方向へ往復回動されることで、車両12の走行性能に影響がでることを抑制できる。
【0048】
さらに、段差部材34の両側壁及び下壁の車両後側部分が折畳部38にされて、各折畳部38が折り畳み及び展開されることで、段差部材34(所定数の段差部40)が車両前後方向へ回動可能にされている。このため、簡単な構成で、段差部材34を車両前後方向へ回動可能にすることができる。
【0049】
また、本実施の形態では、1つのアクチュエータ44によって複数の段差部40を車両前後方向へ回動させる。このため、構成を簡単にすることができる。
【0050】
[第2の実施の形態]
図7には、本発明の第2の実施の形態に係る車両用空力構造としての車両用ホイールハウス構造80の主要部が車両前斜め左方から見た斜視図にて示されている。
【0051】
本実施の形態に係る車両用ホイールハウス構造80は、上記第1の実施の形態とほぼ同様の構成であるが、以下の点で異なる。
【0052】
本実施の形態に係る車両用ホイールハウス構造80では、段差部材34の複数(本実施の形態では3つ)の段差部40が、それぞれ上端の回動軸36において車両前後方向へ回動可能に支持されており、段差部40の両側壁(車幅方向両側壁)及び下壁は、全体において折畳部38にされて、それぞれ車両後側端において凹部26の開口28の車幅方向両端及び下端に固定されている。
【0053】
各段差部40の車両後側における車体側には、アクチュエータ44が設けられており、各アクチュエータ44の延出軸48の車両前側端は、各段差部40の車両前側壁に回動可能に連結されている。これにより、各アクチュエータ44が駆動されることで、各段差部40が独立して車両前後方向へ回動されて、各段差部40の凹部26底壁からの車輪20側への突出量が独立して調整可能にされている。
【0054】
ここで、本実施の形態でも、上記第1の実施の形態と同様の作用及び効果を奏することができる。
【0055】
さらに、複数のアクチュエータ44が駆動されることで、複数の段差部40が独立して車両前後方向へ回動される。このため、車両12の走行状況に基づいて、各段差部40(案内面40A及び衝突面40B)の車輪20側への突出量を細かく調整することができて、車両12の走行性能を一層細かく制御することができる。
【0056】
また、検出された車両12の走行面54に基づき、段差部材34(所定数の段差部40)に着雪や着氷したとECUが判断した場合には、ECUの制御によって、複数のアクチュエータ44が駆動されることで、上下方向において隣り合う段差部40を車両前後方向の逆方向へ往復回動させることができる。これにより、段差部材34から雪や氷を効果的に脱落させることができる。
【0057】
なお、上記第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、凹部26の上面に衝突面32を設けた構成としたが、凹部26上面の衝突面32は、段差部40の衝突面40Bに比し、上側に配置されて、ホイールハウス18への空気流入抑制効果が低い。このため、上記第1の実施の形態又は第2の実施の形態において、例えば、図8(A)に示す第1変形例の如く凹部26上面の衝突面32の車両側面視長さを短くした構成や、図8(B)に示す第2変形例の如く凹部26に上面(衝突面32)を設けない構成としてもよい。
【0058】
また、上記第1の実施の形態及び第2の実施の形態では、アクチュエータ44が段差部材34(段差部40)を車両前後方向へ回動させる構成としたが、段差部材34(段差部40)を回動可能に支持する回動軸36に駆動手段としてのモータの出力軸を連結して、モータが回動軸36を回転させることで、段差部材34(段差部40)を車両前後方向へ回動させる構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る車両用ホイールハウス構造において段差部材が車両前側限度位置に配置された状態を示す車両左方から見た断面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る車両用ホイールハウス構造において段差部材が車両前側限度位置と車両後側限度位置との中間位置に配置された状態を示す車両左方から見た断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る車両用ホイールハウス構造において段差部材が車両後側限度位置に配置された状態を示す車両左方から見た断面図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る車両用ホイールハウス構造の主要部を示す車両前斜め左方から見た斜視図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る車両用ホイールハウス構造が適用されて構成された車両の前部を示す車両左方から見た側面図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態に係る車両用ホイールハウス構造において下荷重センサの検出による車両に走行面から入力される振動の周波数(横軸)と車両の振幅(縦軸)との関係を示すグラフである。
【図7】本発明の第2の実施の形態に係る車両用ホイールハウス構造の主要部を示す車両前斜め左方から見た斜視図である。
【図8】(A)及び(B)は、それぞれ本発明の第1の実施の形態に係る車両用ホイールハウス構造の第1変形例及び第2変形例において段差部材が車両前側限度位置に配置された状態を示す車両左方から見た断面図である。
【符号の説明】
【0060】
10 車両用ホイールハウス構造(車両用空力構造)
12 車両
18 ホイールハウス
20 車輪
40 段差部
40B 衝突面
44 アクチュエータ(調整手段)
50 車速センサ(検出手段)
52 ナビゲーションシステム(検出手段)
54 走行面
56 上荷重センサ(検出手段)
58 下荷重センサ(検出手段)
60 CCDセンサ(検出手段)
62 外気温センサ(検出手段)
64 VSCセンサ(検出手段)
66 ECU(調整手段)
80 車両用ホイールハウス構造(車両用空力構造)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のホイールハウスに設けられると共に、前記ホイールハウス内における車輪の回転軸心よりも車両後側に配置され、前記車輪側へ突出されることで衝突面が前記車輪側へ突出されて前記衝突面に前記車輪の回転に伴い前記ホイールハウス内へ向かう空気流が衝突する段差部と、
車両の走行状況を検出する検出手段と、
前記検出手段の検出結果に基づいて前記段差部の前記車輪側への突出量を調整する調整手段と、
を備えた車両用空力構造。
【請求項2】
前記段差部を折り畳み可能にして前記段差部の前記車輪側への突出量を調整可能にした、ことを特徴とする請求項1記載の車両用空力構造。
【請求項3】
前記検出手段は、車両の走行速度を検出し、かつ、前記検出手段が検出した車両の走行速度が小さくなると前記調整手段が前記段差部の前記車輪側への突出量を小さくする、ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の車両用空力構造。
【請求項4】
前記検出手段は、車両の走行面を検出し、かつ、前記検出手段が検出した車両の走行面による車両の振動周波数が小さくなると前記調整手段が前記段差部の前記車輪側への突出量を小さくすると共に、前記検出手段が検出した車両の走行面の抵抗が小さくなると前記調整手段が前記段差部の前記車輪側への突出量を小さくする、ことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1項記載の車両用空力構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−149130(P2009−149130A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326489(P2007−326489)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】