説明

車両用空気調和装置

【課題】エバポレータの下流側(すなわち、車室内)への凝縮水の飛散を防止し、かつ、異臭の発生を抑えることができる車両用空気調和装置を提供する。
【解決手段】車両用空気調和装置10は、熱交換器の機能を有するエバポレータ15を備えることにより、エバポレータ15で車室11内に導入される空気から熱を奪うとともに水分を除去可能な装置である。この車両用空気調和装置10は、エバポレータ15の表面15aを形成し、温度の変化に対応して親水性と疎水性とに性質が変化可能な温度応答性ポリマー膜45,48を備えている。この温度応答性ポリマー膜45,48は、温度が変化点より低い場合に親水性の性質を有し、変化点より高い場合に疎水性の性質を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器の機能を有するエバポレータを備え、エバポレータの冷媒と車室内に導入される空気とを熱交換させて空気調和をおこなう車両用空気調和装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用空気調和装置は、エバポレータに空気(暖かい空気)を通して、エバポレータに導かれた冷媒と空気とを熱交換させて空気の温度を下げるように構成されている。
エバポレータによれば、冷媒と空気を熱交換させて空気の温度を下げる際に、エバポレータの表面(特に、フィンの表面)に空気中から除去された水分が凝縮水として付着する。
凝縮水がエバポレータの表面に溜まると、エバポレータの表面から離れてエバポレータの下流側(すなわち、車室内)に飛散することが考えられる。
【0003】
そこで、凝縮水の飛散を防止する車両用空気調和装置として、エバポレータの表面(具体的には、フィンの表面)に親水性を有する膜を被覆したものが提案されている。
親水性を有する膜をフィンの表面に被覆することで、フィンの表面から凝縮水を離れ難くでき、エバポレータの下流側(すなわち、車室内)への凝縮水の飛散を防止できる(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平6−12217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の車両用空気調和装置は、親水性を有する膜でフィンの表面から凝縮水を離れ難くしているために、フィンの表面に凝縮水が長く溜まり、凝縮水に微生物などが発生する虞がある。
このため、凝縮水に発生した微生物などが、車室内に異臭を発生させる要因になることが考えられる。
また、車室内の臭いなども水溶性であるためフィン表面の処理によって吸収し易く、異臭発生の要因になってしまう。
【0006】
本発明は、エバポレータの下流側(すなわち、車室内)への凝縮水の飛散を防止し、かつ、異臭の発生を抑えることができる車両用空気調和装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る発明は、熱交換器の機能を有するエバポレータを備えることにより、該エバポレータで車室内に導入される空気から熱を奪うとともに水分を除去可能な車両用空気調和装置において、前記エバポレータの表面を形成し、温度の変化に対応して親水性と疎水性とに性質が変化可能な温度応答性ポリマーからなる膜を備え、該温度応答性ポリマーからなる膜は、前記温度が変化点より低い場合に前記親水性の性質を有し、前記変化点より高い場合に前記疎水性の性質を有することを特徴とする。
【0008】
請求項2は、前記変化点は、20°〜40°の間であることを特徴とする。
【0009】
請求項3は、前記温度応答性ポリマーは、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明では、エバポレータの表面を、温度応答性ポリマーからなる膜(以下、「温度応答性ポリマー膜」という)で形成した。この温度応答性ポリマー膜は、変化点より低い温度で親水性を有し、変化点より高い温度で疎水性を有する。
ここで、車両用空気調和装置の作動中に、エバポレータの冷媒が冷却されて温度応答性ポリマー膜を変化点より低い温度にでき、この膜に親水性を有する可能性が高い。
【0011】
よって、空気の冷却中に空気中から除去された水分を、親水性を有する温度応答性ポリマー膜で、エバポレータの表面に凝縮水として溜めることが可能になる。
これにより、エバポレータの下流側(すなわち、車室内)への凝縮水の飛散を防止することができる。
【0012】
一方、車両用空気調和装置の停止中に、エバポレータの冷媒の温度が上昇して、温度応答性ポリマー膜を変化点より高い温度にでき、この膜に疎水性を有する可能性が高い。
よって、温度応答性ポリマー膜の保水性を弱めることができる。
これにより、エバポレータの表面に溜まった凝縮水を温度応答性ポリマー膜で下方に滴下させて凝縮水の排水性を高め、凝縮水に起因する異臭の発生を抑えることができる。
【0013】
請求項2に係る発明では、変化点を20°〜40°の間に設定した。変化点を20°〜40°の間に設定した理由はつぎの通りである。
すなわち、車両用空気調和装置の作動中は、エバポレータの冷媒の温度が冷却されて20°〜40°より低くなる可能性が高い。
【0014】
一方、車両用空気調和装置の停止中は、エバポレータの冷媒の温度が上昇して20°〜40°より高くなる可能性が高い。
そこで、請求項2において、変化点を20°〜40°の間に設定した。
【0015】
これにより、車両用空気調和装置の作動中に、親水性を有する温度応答性ポリマー膜で、エバポレータの表面に凝縮水を溜めてエバポレータの下流側(車室内)への凝縮水の飛散を防止できる。
さらに、車両用空気調和装置の停止中に、疎水性を有する温度応答性ポリマー膜で、凝縮水を下方に滴下させて凝縮水の排水性を高め、凝縮水に起因する異臭の発生を抑えることができる。
【0016】
請求項3に係る発明では、温度応答性ポリマーとしてポリ−N−イソプロピルアクリルアミドを用いた。
ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドは、一般に、親水性と疎水性とに変化する変化点、すなわち下限臨界溶解温度(Lower Critical Solution Temperature:LCST)が32°であることが知られている。
【0017】
さらに、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドは、高分子の共重合組成により下限臨界溶解温度を変えることが可能であることが知られている。
すなわち、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドに高分子を複合し、さらに、高分子の複合量を調整することにより下限臨界溶解温度を変えることが可能である。
【0018】
ところで、エバポレータは、車両用空気調和装置の作動中において冷媒の温度が20°〜40°より低くなり、車両用空気調和装置の停止中において冷媒の温度が20°〜40°より高くなることが一般に知られている。
これにより、温度応答性ポリマー膜の変化点を20°〜40°の間に設定することで、温度応答性ポリマー膜の性質を、車両用空気調和装置の作動中に親水性、車両用空気調和装置の停止中に疎水性となるように変えることができる。
【0019】
したがって、車両用空気調和装置の作動中に、親水性を有する温度応答性ポリマー膜で、エバポレータの表面に凝縮水を溜めてエバポレータの下流側(車室内)への凝縮水の飛散を防止できる。
さらに、車両用空気調和装置の停止中に、疎水性を有する温度応答性ポリマー膜で、凝縮水を下方に滴下させて凝縮水の排水性を高め、凝縮水に起因する異臭の発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る車両用空気調和装置を状態を示す概略断面図である。
【図2】図1のエバポレータを示す斜視図である。
【図3】図2のエバポレータのファンおよびチューブを示す斜視図である。
【図4】図3の4−4線断面図である。
【図5】本発明に係る温度応答性ポリマー膜が親水性を有する状態を説明する図である。
【図6】本発明に係る温度応答性ポリマー膜が疎水性を有する状態を説明する図である。
【図7】本発明に係る車両用空気調和装置の作動中に外気をエバポレータの冷媒と熱交換させて空気調和する例を説明する図である。
【図8】本発明に係る車両用空気調和装置の作動中に凝縮水の飛散を防止する例を説明する図である。
【図9】本発明に係る車両用空気調和装置の停止中に異臭の発生を抑える例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。
【実施例】
【0022】
実施例に係る車両用空気調和装置10について説明する。
図1に示すように、車両用空気調和装置10は、車両に設けられて車室11内の空気調和(空調)を制御する機能を備えている。
【0023】
この車両用空気調和装置10は、車室11の前方に設けられたハウジング12と、ハウジング12内に設けられたファン13と、ファン13の下流側に設けられたエバポレータ15と、エバポレータ15の下流側に設けられたヒータコア18と、ハウジング12に設けられて空気の流れを規制するダンパ手段21とを備えている。
【0024】
ハウジング12は、車室11外から外気を導入する外気導入口31と、車室11内から内気を導入する内気導入口32と、ヒータコア18の下流側に設けられたベント吹出口33、デフロスト吹出口34およびヒート吹出口35とを備えている。
【0025】
ファン13は、外気導入口31および内気導入口32の下流側に設けられ、ファンモータ14の駆動軸に支持されている。
ファンモータ14でファン13を回転することで、外気導入口31から外気がハウジング12内に導入され、または、内気導入口32から内気がハウジング12内に導入される。
ハウジング12内に導入した外気や内気は、ファン13を経てエバポレータ15に向けて案内される。
【0026】
エバポレータ15は、ファン13の下流側に設けられ、コンプレッサ16から冷媒が供給されるように構成されている。
図2、図3に示すように、エバポレータ15は、略矩形状の枠体部41と、枠体部41内に所定間隔をおいて設けられた複数のフィン(板状のフィン)42と、複数のフィン42に形成された取付孔42bに差し込まれたチューブ47とを備えている。
【0027】
チューブ47は、枠体部41内において横向きに配置され、枠体部41の両側部近傍で蛇行状に折り曲げられている。
このチューブ47は、コンデンサやエキスパンションバルブを経てコンプレッサ16(図1参照)に連通されている。
【0028】
よって、コンプレッサ16を駆動することで冷媒が気体の状態でコンデンサに送られる。送られた冷媒がコンデンサにおいて冷却され、液体の状態でエキスパンションバルブへ送られる。このエキスパンションバルブで気化された冷媒がエバポレータ15に送られる。
気化状態の冷媒をエバポレータ15に供給することで、ファン13で案内された外気や内気を冷媒と熱交換させてエバポレータ15で空気調和(冷却や除湿)できる。
【0029】
このように、エバポレータ15において、冷媒と空気を熱交換させて空気の温度を下げる際に、エバポレータ15の表面15aに空気中から除去された水分が凝縮水として付着する。
エバポレータ15の表面15aは、複数のフィン42の表面42aと、複数のチューブ47の表面47aとを備えている。
なお、空気中から除去された水分は、エバポレータ15の表面15aのうち、特に、複数のフィン42の表面42aに凝縮水として付着する傾向にある。
【0030】
ここで、水分が凝縮水として付着するエバポレータ15の表面15a(特に、フィン42の表面42a)について図4〜図6に基づいて詳しく説明する。
【0031】
図4に示すように、フィン42は、アルミニウム合金で板状に形成されたフィン素材(アルミ基材)43と、フィン素材43の表面43aに被覆された化成被膜44と、化成被膜44の表面44aに被覆された温度応答性ポリマーからなる膜(以下、「温度応答性ポリマー膜」という)45とを備えている。
このフィン42は、エバポレータ15の幅方向に所定間隔をおいて縦向きに配置されている。
【0032】
化成被膜44は、フィン素材43に耐食性を付与するためにリン酸チタン系などで化成処理を施すことによりフィン素材43の表面43aに生成される酸化被膜である。
フィン素材43に化成被膜44を形成することで、フィン42の耐食性を高めることができる。
【0033】
温度応答性ポリマー膜45は、化成被膜44の表面44aに温度応答性ポリマーを被覆することにより形成された温度応答性ポリマーからなる膜である。
【0034】
ここで、温度応答性ポリマー膜45はつぎの工程で化成被膜44の表面44aに塗布される。
すなわち、温度応答性ポリマーの液中にフィン42を浸漬してフィン42の表面42aに温度応答性ポリマー液を塗布する。
【0035】
フィン42の表面42aに温度応答性ポリマー液を塗布した後、フィン42の表面42aから余分な温度応答性ポリマー液をエアブローや遠心分離などで除去する。
フィン42の表面42aから余分な温度応答性ポリマー液をエアブローで除去した後、フィン42の表面42aに温度応答性ポリマー液を焼き付けることにより化成被膜44の表面44aに温度応答性ポリマーを被覆する。
【0036】
温度応答性ポリマー膜45は、変化点(すなわち、下限臨界溶解温度(Lower Critical Solution Temperature:LCST))より低い温度で親水性を有し、変化点より高い温度で疎水性を有する。
温度応答性ポリマー膜45の変化点は20°〜40°の間に設定されている。
【0037】
実施形態においては、温度応答性ポリマーとして、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドが用いられている。
ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドの分子構造をつぎに示す。
【0038】
【化1】

【0039】
ここで、温度応答性ポリマー膜45の変化点を20°〜40°の間に設定し、温度応答性ポリマーとしてポリ−N−イソプロピルアクリルアミドを用いた理由はつぎの通りである。
すなわち、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドは、一般に、親水性と疎水性とに変化する変化点、すなわち下限臨界溶解温度(Lower Critical Solution Temperature:LCST)が32°であることが知られている。
【0040】
さらに、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドは、高分子の共重合組成により下限臨界溶解温度を変えることが可能であることが知られている。
よって、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドを温度応答性ポリマーとして用いることで、温度応答性ポリマー膜45の変化点を20°〜40°の間に設定することが可能である。
【0041】
ここで、エバポレータ15は、車両用空気調和装置10の作動中において冷媒の温度が20°〜40°より低くなり、車両用空気調和装置10の停止中において冷媒の温度が20°〜40°より高くなることが一般に知られている。
これにより、温度応答性ポリマー膜45の変化点を20°〜40°の間に設定することで、温度応答性ポリマー膜45の性質を、車両用空気調和装置10の作動中に親水性、車両用空気調和装置10の停止中に疎水性となるように変えることができる。
【0042】
図5(a)に示すように、温度応答性ポリマー膜45(図5(b)参照)が変化点より低い状態において、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドのポリマー鎖46が水分51の水分子(HO)51aを結合してポリマー鎖46が水和した状態になる。
【0043】
図5(b)に示すように、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドのポリマー鎖46が水和状態になることで(図5(a)参照)、温度応答性ポリマー膜45の表面(すなわち、フィン42の表面)42aが親水性となる。
よって、温度応答性ポリマー膜45の表面42aに溜まった水分52を表面42aから離れ難くすることができる。すなわち、温度応答性ポリマー膜45の表面42aの水分52に対する濡れ性を高めることができる。
【0044】
一方、図6(a)に示すように、温度応答性ポリマー膜45が変化点より高い状態において、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドのポリマー鎖46が凝集して水分51の水分子51aを結合しない状態になる。
【0045】
図6(b)に示すように、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドのポリマー鎖46が水分子51aを結合しない状態になることで(図6(a)参照)、温度応答性ポリマー膜45の表面42aが疎水性となる。
よって、温度応答性ポリマー膜45の表面42aに溜まった水分52が、水分52の表面張力で丸まった状態(略球状態)になり、水分52を表面42aから離れ易くできる。
【0046】
図4〜図6においては、フィン42に温度応答性ポリマー膜45が被膜された例について説明したが、チューブ47の表面47aにも同様に、温度応答性ポリマーからなる膜(以下、「温度応答性ポリマー膜」という)48(図3参照)が被膜されている。
【0047】
具体的には、チューブ47は、フィン42と同様に、とアルミニウム合金で板状に形成されたチューブ素材(アルミ基材)と、チューブ素材の表面に被覆された化成被膜と、化成被膜の表面に被覆された温度応答性ポリマーからなる膜(以下、「温度応答性ポリマー膜」という)48とを備えている。
温度応答性ポリマーからなる膜48を、以下、フィン42と同様に、「温度応答性ポリマー膜」として説明する。
【0048】
この温度応答性ポリマー膜48の表面(すなわち、チューブ47の表面)47a、および温度応答性ポリマー膜45の表面(すなわち、フィン42の表面)42aでエバポレータ15の表面15aが形成されている。
【0049】
よって、図2、図3に示すように、車両用空気調和装置10の作動中に、親水性を有する温度応答性ポリマー膜45,48で、温度応答性ポリマー膜45の表面42aおよび温度応答性ポリマー膜48の表面47aから凝縮水を離れ難くできる。
これにより、温度応答性ポリマー膜45の表面42aおよび温度応答性ポリマー膜48の表面47a(すなわち、エバポレータ15の表面15a)に凝縮水を溜めてエバポレータ15の下流側(車室内)への凝縮水の飛散を防止できる。
【0050】
さらに、車両用空気調和装置10の停止中に、疎水性を有する温度応答性ポリマー膜45,48で、温度応答性ポリマー膜45の表面42aおよび温度応答性ポリマー膜48の表面47aの保水性を弱めることができる。
このように、各表面42a,47aの保水性を弱めることで、それぞれの表面42a,47aから凝縮水を離れ易くできる。
【0051】
よって、温度応答性ポリマー膜45の表面42aおよび温度応答性ポリマー膜48の表面47a(すなわち、エバポレータ15の表面15a)から凝縮水を下方に滴下させることができる。
これにより、エバポレータ15の表面15aに溜まった凝縮水の排水性を高め、凝縮水に起因する異臭の発生を抑えることができる。
【0052】
図1に示すように、ヒータコア18は、エバポレータ15の下流側に設けられ、オン・オフ状態に切替可能に構成されている。
ヒータコア18をオン状態に切り替えることで、エバポレータ15で冷却された外気や内気を加熱することができる。
【0053】
ダンパ手段21は、外気導入口31および内気導入口32の開閉を切り替える導入口切替ダンパ22と、エバポレータ15の下流側に設けられた冷暖房切替(エアミックス)ダンパ23と、ヒータコア18の下流側に設けられたベント開閉ダンパ24、デフロスト開閉ダンパ25およびヒート開閉ダンパ26とを備えている。
【0054】
導入口切替ダンパ22は矢印A方向に揺動可能に支持されている。
導入口切替ダンパ22を矢印A方向に揺動することで、外気導入口31および内気導入口32の開閉を切り替えることが可能である。
これにより、車室11外の外気をエバポレータ15に導入する状態と、車室11内の内気をエバポレータ15に導入する状態とに切り替えることができる。
【0055】
また、冷暖房切替ダンパ23は矢印B方向に揺動可能に支持されている。
冷暖房切替ダンパ23を矢印B方向に揺動することで、エバポレータ15で冷却された内気や外気をヒータコア18に向けて案内する状態と、ベント開閉ダンパ24やデフロスト開閉ダンパ25側に向けて案内する状態とに切り替えることができる。
【0056】
さらに、冷暖房切替ダンパ23を中間位置に配置することで、エバポレータ15で冷却された内気や外気の一部をヒータコア18に向けて案内し、かつ、残りをベント開閉ダンパ24やデフロスト開閉ダンパ25側に向けて案内することができる。
ヒータコア18で加熱された内気や外気を、エバポレータ15で冷却された内気や外気に混合させることで、内気や外気の温度を好適に制御(調整)することができる。
【0057】
加えて、ベント開閉ダンパ24は矢印C方向に揺動可能に支持され、デフロスト開閉ダンパ25は矢印D方向に揺動可能に支持されている。
また、ヒート開閉ダンパ26は矢印E方向に揺動可能に支持されている。
【0058】
ベント開閉ダンパ24を矢印C方向に揺動することで、ベント吹出口33の開閉状態を切り替えることができる。
デフロスト開閉ダンパ25を矢印D方向に揺動することで、デフロスト吹出口34の開閉状態を切り替えることができる。
ヒート開閉ダンパ26を矢印E方向に揺動することで、ヒート吹出口35の開閉状態を切り替えることができる。
【0059】
つぎに、車両用空気調和装置10の作動中に凝縮水の飛散を防止する例を図7、図8に基づいて説明する。
図7(a)に示すように、車両用空気調和装置10を作動させることにより、コンプレッサ16を駆動して冷媒が気体の状態でコンデンサに送られる。送られた冷媒がコンデンサにおいて冷却され、液体の状態でエキスパンションバルブへ送られる。
このエキスパンションバルブで気化された冷媒がエバポレータ15に送られる。
【0060】
図7(b)に示すように、気化された冷媒がエバポレータ15に送られることで、エバポレータ15(すなわち、フィン42およびチューブ47(図8参照))が変化点20°〜40°より低くなる。
よって、図8に示すフィン42の温度応答性ポリマー膜45およびチューブ47の温度応答性ポリマー膜48が変化点20°〜40°より低くなる。
【0061】
この状態で、図7(a)に示すように、ファンモータ14を駆動してファン13を回転する。ファン13が回転することにより、車室11外の外気を外気導入口31からハウジング12内に矢印Fの如く導入する。
さらに、ハウジング12内に導入した外気を、ファン13でエバポレータ15に向けて矢印Gの如く導く。
【0062】
図7(b)に示すように、導かれた外気がエバポレータ15を通過する。導かれた外気がエバポレータ15を通過する際に、外気とエバポレータ15の冷媒とを熱交換させてエバポレータ15で外気を空気調和(すなわち、冷却や除湿)することができる。
【0063】
図7(a)に示すように、エバポレータ15で空気調和(すなわち、冷却や除湿)した外気を矢印Hの如くエバポレータ15の下流側に導く。
エバポレータ15の下流側に導かれた外気は、ベント吹出口33から車室11内に矢印Iの如く空調風として吹き出される。
【0064】
ここで、図8において、エバポレータ15の表面15aに付着する凝縮水55について説明する。
外気とエバポレータ15の冷媒とを熱交換させて外気を空気調和(すなわち、冷却)する際に、エバポレータ15の表面15aに外気の水分が凝縮水55として付着する。
【0065】
ここで、車両用空気調和装置10の作動中においては、フィン42の温度応答性ポリマー膜45およびチューブ47の温度応答性ポリマー膜48が変化点20°〜40°より低い状態に保たれている。
よって、温度応答性ポリマー膜45の表面42aおよび温度応答性ポリマー膜48の表面47a(すなわち、エバポレータ15の表面15a)は親水性を有する。
【0066】
エバポレータ15の表面15aが親水性を有することで、エバポレータ15の表面15aから凝縮水を離れ難くできる。
これにより、車両用空気調和装置10の作動中に、エバポレータ15の表面15aに凝縮水55を溜めて、エバポレータ15の下流側(車室内)への凝縮水55の飛散を防止できる。
【0067】
ついで、車両用空気調和装置10の停止中に異臭の発生を抑える例を図7(a)、図9に基づいて説明する。
図7(a)に示す車両用空気調和装置10を停止することにより、エバポレータ15の冷媒の温度が変化点20°〜40°より高くなる。
【0068】
エバポレータ15の冷媒の温度が変化点より高くなることで、図9に示すフィン42の温度応答性ポリマー膜45およびチューブ47の温度応答性ポリマー膜48が変化点20°〜40°より高くなる。
よって、温度応答性ポリマー膜45の表面42aおよび温度応答性ポリマー膜48の表面47a(すなわち、エバポレータ15の表面15a)は、疎水性を有するように変化する。
【0069】
エバポレータ15の表面15aが疎水性を有することで、エバポレータ15の表面15aに蓄えられた凝縮水55を表面15aから離れ易くできる。
よって、エバポレータ15の表面15aに蓄えられた凝縮水55を下方に滴下させて凝縮水55の排水性を高めることができる。
【0070】
このように、車両用空気調和装置10の停止中において、凝縮水55の排水性を高めることで、エバポレータ15の表面15aに蓄えられた凝縮水55に起因する異臭の発生を抑えることができる。
【0071】
なお、本発明に係る車両用空気調和装置10は、前述した実施例に限定されるものではなく適宜変更、改良などが可能である。
例えば、前記実施例では、エバポレータ15を複数の板状のフィン42に形成された取付孔42bにチューブ47を差し込んで形成した例について説明したが、エバポレータ15の構成はこれに限定するものではない。
例えば、複数のフィンを波状に形成し、波状のフィンをチューブにろう付けするなどの他の方法でエバポレータを形成することも可能である。
【0072】
また、前記実施例では、フィン42の表面42aを温度応答性ポリマー膜45で形成し、かつ、チューブ47の表面47aを温度応答性ポリマー膜48で形成した例について説明したが、これに限定するものではない。
例えば、フィン42の表面42aのみを温度応答性ポリマー膜45で形成することも可能である。
【0073】
さらに、前記実施例では、複数のフィン42を縦向き、チューブ47を横向きに配置した例について説明したが、これに限らないで、複数のフィン42を横向き、チューブ47を縦向きに配置することも可能である。
この場合、車両用空気調和装置10の停止中において、フィン42の表面42aに蓄えられた凝縮水55をチューブ47を経て下方に滴下させて凝縮水55を排水できる。
【0074】
また、前記実施例で示した車両用空気調和装置10、エバポレータ15、フィン42およびチューブ47などの形状や構成は例示したものに限定するものではなく適宜変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、エバポレータに導かれた冷媒と車室内に導入される空気とを熱交換させて空気の温度を下げる車両用空気調和装置を備えた自動車への適用に好適である。
【符号の説明】
【0076】
10…車両用空気調和装置、11…車室、15…エバポレータ、15a…エバポレータの表面、42…フィン、42a…フィンの表面(フィンの温度応答性ポリマー膜の表面)、45,48…温度応答性ポリマー膜(温度応答性ポリマーからなる膜)、47…チューブ、47a…チューブの表面(チューブの温度応答性ポリマー膜の表面)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換器の機能を有するエバポレータを備えることにより、該エバポレータで車室内に導入される空気から熱を奪うとともに水分を除去可能な車両用空気調和装置において、
前記エバポレータの表面を形成し、温度の変化に対応して親水性と疎水性とに性質が変化可能な温度応答性ポリマーからなる膜を備え、
該温度応答性ポリマーからなる膜は、
前記温度が変化点より低い場合に前記親水性の性質を有し、前記変化点より高い場合に前記疎水性の性質を有することを特徴とする車両用空気調和装置。
【請求項2】
前記変化点は、20°〜40°の間であることを特徴とする請求項1記載の車両用空気調和装置。
【請求項3】
前記温度応答性ポリマーは、ポリ−N−イソプロピルアクリルアミドであることを特徴とする請求項1記載の車両用空気調和装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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