説明

車両用空調システム

【課題】車載バッテリに対する負荷を低減することができる車両用空調システムを提供する。
【解決手段】車両10の車室19の床板52と外板54とで空間51を形成し、床板52に内気取入れ口52a及び内気排出口52bを設ける。また、外板54に外気取入れ口54c及び外気排出口54dを設ける。そして、空間51に酸素及び二酸化炭素を透過させ、炭化水素、窒素酸化物、硫黄酸化物及び微小固体成分を遮断する機能を有する選択分離材13を、車室19の内側と外側とを隔てるように配置する。このように構成した結果、車室19外側から内側への汚染物質の進入を抑えることができるとともに、車室19内側の酸素及び二酸化炭素の濃度を一定に保つことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室内側への有害気体や有害微粒子の進入をできるだけ防止する車両用空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、都会や幹線道路を走行したり、トラック等のディーゼルエンジン車両等の後方を走行する場合、大気が汚染されているので、外気をそのまま車室内側へ導入することは乗員の健康面から問題があった。
【0003】
そこで、大気中の有毒ガスや粉塵などの汚染物質を除去するための様々なフィルタが開発されている。そして車室内側へ外気を導入するための外気導入口にそのフィルタを取り付け、ブロワを用いてフィルタを通して車室内側へ大気を導入していた。このようにフィルタとブロワを用いて、車室内側へ導入する大気をフィルタで濾過し、有毒ガスや粉塵などの汚染物質を除去した清浄な空気を車室内側へ導入する技術があった(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平6−193525号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、上記のようにブロワとフィルタを用いて大気を車室内側へ導入する方法では、大量の外気を車室内側へ導入するので、数百ワットにも達する電力が必要となる場合がある。つまり、車載バッテリに対する負荷が大きなものであった。
【0005】
本発明は、このような問題に鑑みなされたものであり、車載バッテリに対する負荷を低減することができる車両用空調システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる問題を解決するためになされた請求項1に記載の車両用空調システムは、車両の車室の床部において、前記車室内側の床板と前記車室外側の外板との間に形成された空間とに選択分離材を配置したことを特徴とする。
【0007】
空間を形成する床板に、車室内側から空間内へ内気を取り入れるための内気取入れ口及び空間内へ取り入れた内気を車室内側へ排出する内気排出口を設ける。
また、空間を形成する前記外板に、車室外側から空間内へ外気を取り入れるための外気取入れ口及び空間内へ取り入れた外気を車室外側へ排出する外気排出口を設ける。
【0008】
また、酸素及び二酸化炭素を濃度の高い方から濃度の低い方へ透過させ、炭化水素、窒素酸化物、硫黄酸化物及び微小固体成分を遮断する機能を有する選択分離材を車室内側と車室外側とを隔てるように空間内に配置する。
【0009】
このように構成された車両用空調システムによれば、外気をブロワなどで車室内側へ導入しなくても、選択分離材によって車室において乗員が消費した酸素を取り入れ、排出した二酸化炭素を車室外に排出することができる。以下、この効果について詳細に説明する。
【0010】
外気は外気取入れ口から取り入れられ、外気排出口から排出され、内気は内気取入れ口
から取り入れられ内気排出口から排出される。
したがって、選択分離材の車室外側の面は一定濃度の酸素や二酸化炭素を含む外気と接触することになる。一方、車室内側の空気は乗員の呼吸などにより、二酸化炭素の濃度が高くなり、酸素濃度は低くなる。また、選択分離材は、二酸化炭素や酸素を濃度の高い方から低い方へ透過させる。
【0011】
したがって、車室内側の酸素濃度が外気の酸素濃度よりも低くなれば、車室外側から濃度が低くなった車室内側へ選択分離材を介して酸素が供給される。また、二酸化炭素濃度が外気の濃度よりも高くなれば、濃度が高くなった車室内側から車室外側へ選択分離材を介して二酸化炭素が排出される。
【0012】
特に、車両走行中には、外気取入れ口から取り入れられる外気の量が増えるので、車両走行中には、選択分離材の車室外側の面に外気が当たり続ける。つまり、選択分離材の車室外側の面には、一定濃度の酸素、二酸化炭素、硫黄酸化物及び微小固体成分を有する外気が供給され続ける。
【0013】
したがって、車両走行中には、外気をブロワなどで車室内側へ導入しなくても、選択分離材によって乗員が消費した酸素を取り入れ、排出した二酸化炭素を車室外に排出することができる。そして、ブロワを作動させる必要がないので、車載バッテリに対する負荷を低減することができる。
【0014】
また、車両用空調システムに、請求項2に記載のように、車両の車室外側から外気を取り入れるための外気取入れ口及び外気取入れ口から取り入れた外気を車室外側に排出するための外気排出口を有するの車室の床板を備える。
【0015】
さらに、酸素及び二酸化炭素を濃度の高い方から濃度の低い方へ透過させ、炭化水素、窒素酸化物、硫黄酸化物及び微小固体成分を遮断する機能を有し、床板の車室内側に、外気取入れ口と外気排出口とを覆うように配置された選択分離材と、を備えるようにしても請求項1と同じ効果が得られる。
【0016】
ところで、床板の車室の内側に選択分離材を配置すると、乗員が踏んだりしたときに加わる荷重で選択分離材が破損することが考えられる。そこで、請求項3に記載のように、選択分離材を板状に形成し、板状に形成された選択分離材の片面又は両面に選択分離材を保護するための補強部材を配置するとよい。
【0017】
このようにすると、選択分離材の片面に補強部材を配置したときには、補強部材を配置した側の面を車室内側にして配置すれば、選択分離材の車室内側面が保護される。また、両面に補強部材を配置したときには、どちらの面を車室内側に向けても、選択分離材の車室内側は補強部材で保護される。
【0018】
つまり、選択分離材の車室側は、補強部材で保護されているので、乗員などが選択分離材を踏んだりしても、選択分離材が破損することがない。
また、請求項4に記載のように、選択分離材は、板状に形成され、板状に形成された選択分離材の側面のうち少なくとも対向する2つの側面に選択分離材を保護するための補強部材を配置すると、選択分離材の側面も保護されるので、選択分離材は、より破損しにくくなる。
【0019】
また、請求項5に記載のように、選択分離材を保護するために箱形に形成された補強部
材に選択分離材を収納する。そして、箱形に形成された補強部材の車室内側の面に内気を補強部材の内部へ導入及び補強部材の内部から排出するための内気導排孔を設け、車室外側の面には外気を補強部材の内部へ導入及び補強部材の内部から排出するための外気導排孔を設ける。
【0020】
このようにすると、補強部材が箱形に形成されているので、強度が高い。したがって、選択分離材が破損することがほとんどなくなる。
ところで、選択分離材は、必ずしも床部全面に配置する必要はない。つまり、選択分離材に必要とされる面積は、酸素や二酸化炭素の透過性能、車室内側の乗員の人数、選択分離材への外気及び内気の供給量などによって決まる。
【0021】
したがって、請求項6に記載のように、車両の座席下部分に選択分離材を配置するようにしても、充分な酸素や二酸化炭素を確保できる場合がある。
さらに、座席下部分に選択分離材を配置すると、乗員が踏んで乗員の体重が選択分離材にかかることがないので、選択分離材に対する補強度合いを少なくすることができる。
【0022】
また、この場合、座席として運転席及び助手席の前列座席だけの設置で済むのであれば更によい。
ところで、車両が走行する場合を考慮すると、外気取入れ口は、車両前方にあることが望ましい。また、外気取入れ口から取り込んだ外気は、選択分離材の表面に長い時間接触していると、選択分離材を介して車室内側と車室外側とで交換される酸素や二酸化炭素が多くなるので、望ましい。
【0023】
そこで、請求項7に記載のように、外気取入れ口を車両進行方向に対して運転席よりも前方に配置し、外気排出口を車両進行方向に対して運転席よりも後方に配置するとよい。
このようにすると、外気取入れ口から取り入れられた外気が外気排出口から排出されるまでの外気導入経路が長くなる。つまり、外気が選択分離材に長い時間接触することになる。したがって、車室内側と車室外側とで交換できる酸素や二酸化炭素の量が増加する。
【0024】
また、請求項8に記載のように、車両の車室内側から内気を取り入れるための内気取入れ口及び内気取入れ口から取り入れた内気を車室内側に排出するための内気排出口を車室の床部に備える。
【0025】
さらに、酸素及び二酸化炭素を濃度の高い方から濃度の低い方へ透過させ、炭化水素、窒素酸化物、硫黄酸化物及び微小固体成分を遮断する機能を有する選択分離材を外板の車室外側に、内気取入れ口と内気排出口とを覆うように配置するようにしても請求項1と同じ効果が得られる。
【0026】
また、前述した外気取入れ口及び外気排出口の配置と同様に、請求項9に記載のように、内気取入れ口を車両進行方向に対して運転席よりも前方に配置し、内気排出口を車両進行方向に対して運転席よりも後方に配置してもよい。
【0027】
このようにすると、内気取入れ口から取り入れられた内気が内気排出口から排出されるまでの内気循環経路が長くなる。つまり、内気が選択分離材に長い時間接触することになる。したがって、車室内側と車室外側とで交換できる酸素や二酸化炭素の量が増加する。
【0028】
ところで、車室内側と車室外側とで酸素や二酸化炭素を交換する場合には、選択分離材の表面積が大きい方がよい。ところが、選択分離材の配置場所は狭い。
そこで、請求項10に記載のように、選択分離材を平板状に形成し、さらに、その平板状に形成された選択分離材を蛇腹状に折ると、選択分離材の表面積が増えるので、車室内側と車室外側とで交換できる酸素や二酸化炭素の量が増える。したがって、車室内側の酸素や二酸化炭素の濃度が変化しても短時間で車室内側の酸素や二酸化炭素の濃度を所定の値に回復させることができる。
【0029】
また、請求項11に記載のように、蛇腹状に折られた選択分離材の稜線が、外気取入れ口から取り入れられ外気排出口から排出される外気の流れ、又は、内気取入れ口から取り入れられ内気排出口から排出される内気の流れの方向と一致するように配置するとよい。
【0030】
このようにすると、外気取入れ口から外気排出口へ流れる外気の流れ、又は、内気取入れ口から内気排出口へ流れる内気の流れが蛇腹部分で妨げられることがなくスムーズに流れる。したがって、選択分離材において外気と内気との間での酸素や二酸化炭素の交換を効率よく行うことができる。
【0031】
また、請求項12に記載のように、選択分離材を筒状に形成する。そして、筒状に形成された選択分離材の内面に外気取入れ口から取り入れられた外気が導入され、外面に内気取入れ口から取り入れられた内気が導入されるように選択部材を構成するとよい。
【0032】
若しくは、選択分離材の外面に外気取入れ口から取り入れられた外気が導入され、内面に内気取入れ口から取り入れられた内気が導入されるように選択分離材を構成してもとよい。
【0033】
このようにすると、外気と内気とを簡単な構造で分離することができ、かつ、選択分離材において外気と内気との間での酸素や二酸化炭素の交換を確実に行うことができる。
また、請求項13に記載のように、選択分離材を膜状に形成し、膜状に形成した選択分離材を2つ折りに形成する。さらに、その2つ折りにした選択分離材の稜部を内側に巻き込んだ渦巻き状に形成する。そして、選択分離材が2つ折りされることによって形成される内側の空間に外気が導入され、外側の空間に内気が導入されるように構成してもよい。
【0034】
若しくは、選択分離材が2つ折りされることによって形成される内側の空間に内気が導入され、外側の空間に外気が導入されるように構成してもよい。
このように構成しても、選択分離材の表面積を大きくすることができるので、外気と内気との間での酸素や二酸化炭素の交換を効率よく行なうことができる。
【0035】
また、請求項14に記載のように、選択分離材は、中空糸状に形成され、中空糸の内部に外気が導入され、中空糸の外部に内気が導入される、若しくは、中空糸の内部に内気が導入され、中空糸の外部に外気が導入されるように構成されていてもよい。
【0036】
このように構成すれば、狭い部分に多くの選択分離材を充填することができる。また、中空糸状に形成されているので表面積も大きい。したがって、選択分離材の表面積が大きくなるので、外気と内気との間での酸素や二酸化炭素の交換を効率よく行なうことができる。
【0037】
ところで、選択分離材に必要な性能は、設置される場所によって異なると考えられる。
そこで、請求項15に記載のように、選択分離材は、多孔質形状、繊維形状又は薄膜形状あるいはそれらの複合形状を有するようにするとよい。
【0038】
このようにすると、例えば、選択分離材の設置面積が制限されるような場所に選択分離材(を設置する場合には、選択分離材を薄膜形状にすると単位面積当たりの酸素や二酸化炭素の透過性能を向上させることができるので、設置面積を抑制することができる。
【0039】
また、エアフィルターのような繊維形状にしても、選択分離材の表面積が大きくなるので透過性能を向上させることができる。さらに、車両用空調システムの周辺温度が高い場合には、多孔質形状にすると耐熱性が高くなるので都合がよい。
【0040】
また、請求項16に記載のように、選択分離材の炭化水素、窒素酸化物、硫黄酸化物及び微小固体成分を遮断する機能は、吸着、吸収、分解又は表面反応により発現されるようにするとよい。
【0041】
吸着では、炭化水素等を物理的に保持した後に停車時等に加熱等の処理により保持成分を再び大気に放出することにより選択分離材の吸着性能を再生することができる。
また、吸収では、炭化水素等を選択分離材にて主として化学的に固定化し、遮断することができる。
【0042】
さらに、分解では、吸着や吸収した炭化水素、窒素酸化物、硫黄酸化物を化学的に分解し、無臭化又は無害化することができる。
表面反応では、選択分離材の表面の構造的特徴により、炭化水素等を選択的に吸着しにくくし、膜内への進入を防ぐことにより遮断することができる。
【0043】
ここで、分解する手段としては、例えば、電気的に分解する方式及び熱的に分解する方式、薬品等を用いて化学的に分解する方式又は微生物等を用いた生物的に分解する方式等が考えられる。さらにこれらの方式の組み合わせにて能力を向上させる方法も考えられる。
【0044】
また、固体微小成分を遮断する機能は、請求項17に記載のように、濾別によって発現されてもよい。
ところで、車両が炎天下に晒されたりして、選択分離材が比較的高い温度に晒されることがある。そこで、請求項18に記載のように、選択分離材を冷却できるようにするとよい。
【0045】
つまり、選択分離材の表面温度を計測するための温度センサと、外気取入れ口から外気排出口に至る外気導入経路、又は、内気取入れ口から内気排出口に至る内気循環経路に設置され、温度センサで計測した選択分離材の表面温度が所定の温度となった場合に選択分離材を冷却する冷却手段と、を備えるようにするのである。
【0046】
このようにすると、選択分離材の表面温度が所定の温度となった場合、冷却手段で選択分離材を冷却できるので選択分離材の性能を保つことができる。
ここで、「所定の温度」とは、選択分離材の酸素及び二酸化炭素の透過性能及び炭化水素などの遮断性能が必要とされる最低の値以下となる温度のことをいう。
【0047】
ところで、選択分離材に外気や内気を接触させると選択分離材の車室内側及び車室外側の表面には、車室内外に浮遊している粉塵が付着する。したがって、選択分離材の酸素や二酸化炭素の透過性能が低下する。
【0048】
そこで、請求項19に記載のように、選択分離材を振動させ、選択分離材の表面に付着した粉塵を除去するための振動手段を備えるようにするとよい。
このようにすると、振動により選択分離材の車室内側及び車室外側表面に付着した粉塵をふるい落とすことによって除去することができるので、選択分離材の酸素や二酸化炭素の透過性能を回復させることができる。
【0049】
さらに、選択分離材の表面に付着した粉塵の量が多くなった場合、選択分離材を交換できるようになっていると都合がよい。そこで、請求項20に記載のように、着脱可能に構成されたカートリッジに選択分離材を収納し、選択分離材が配置される部分をカートリッジを着脱可能に形成するとよい。
【0050】
このようにすると、選択分離材の表面に粉塵が多量に付着したり選択分離材が汚れた場合に容易に交換することができるので、酸素や二酸化炭素の交換性能を速やかに回復させることができる。
【0051】
ところで、選択分離材の透過性能が低下して車室内側の酸素濃度が低下したり、二酸化炭素濃度が上昇したりする場合、あるいは、不測の事態により他のガス、例えば一酸化炭素などの人体に危険を及ぼすガスの濃度が急激に上昇したりする場合が考えられる。
【0052】
このような事態に対応するため、請求項21に記載のように、車室内側のガス濃度を検出するガス濃度検出手段と、車室外側の空気を車室内側へ導入又は車室側内の空気を車室外側へ排出可能な内外気交換手段と、ガス濃度検出手段で検出したガス濃度が所定の値となった場合に内外気交換手段を介して車室外側の空気を車室内側へ導入又は車室内側の空気を車室外側へ排出させる制御手段と、を備えるようにするとよい。
【0053】
このようにすると、車室内側の酸素濃度が低下したり、二酸化炭素濃度が上昇したりした場合には、外気を車室内側へ導入することにより、酸素や二酸化炭素の濃度を短時間で適切な値にすることができる。
【0054】
また、不測の事態により人体に危険を及ぼすガスの濃度が急激に上昇したりした場合には、そのガスを急速に車室外側へ排出することができるので、車室内側に居る乗員の安全性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0055】
以下、本発明が適用された実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明の実施の形態は、下記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
【0056】
[第1実施形態]
(空調システムが組み込まれた車両の構成)
図1は、本実施形態の空調システムが組み込まれた車両10の概略断面図である。図1(a)は、車両10の概略縦断面図であり、図1(b)は、床部50の拡大図である。
【0057】
車両10は、図1(a)に示すように、空気を通さないアルミニウムやガラスなどの壁面で囲まれ、外気が進入しない車室19と外気が進入することができるトランクやエンジ
ンルームなどの車室19外の空間とからなる。
【0058】
また、車室19の床部50は図1(b)に示すように床板52と外板54との間に空間51が形成されている。
また、車両10には図示しないエアコンが備えられている。このエアコンは、内気循環モードのみを備えている。
【0059】
(車両用空調システムの構造)
次に、車両用空調システムの構成について説明する。図1(b)は床部50の構造を模式的に示した概略構造図である。
【0060】
図1(b)に示すように、床部50は、車室19内側に面した床板52及び車室19外側に面した外板54から構成されている。
床板52と外板54の間には、床板52、外板54及び側板53によって空間51が形成されており、その空間51内部に選択分離材13が配置されている。
【0061】
床板52には、車室19内側から空間51内へ内気を取り入れるための内気取入れ口52a及び空間51内へ取り入れた内気を車室19内側へ排出する内気排出口52bが設けられている。
【0062】
内気取入れ口52aは、車両10進行方向に対して運転席よりも前方、具体的には、運転者の足下に配置されている。また、内気排出口52bは、車両10進行方向に対して運転席よりも後方、具体的には後部座席の直前に設けられている。
【0063】
外板54には、空間51を形成する外板54に、車室19外側から空間51内へ外気を取り入れるための外気取入れ口54c及び空間51内へ取り入れた外気を車室19外側へ排出する外気排出口54dが設けられている。
【0064】
外気取入れ口54cは、車両10進行方向に対して運転席よりも前方、具体的には、運転者の足下に配置されている。また、外気排出口54dは、車両10進行方向に対して運転席よりも後方、具体的には後部座席の直前に設けられている。
【0065】
空間51内には、車室19内側と車室19外側とを隔てるように選択分離材13が配置されている。具体的には、選択分離材13は平板状に形成されており、その端辺が空間51を形成する側板53の空間51側の面に接着材やシール材で密着して固定されている。
【0066】
なお、図1(b)においては、選択分離材13を模式的に平板状に図示しているが、後述する選択分離材13の構造で詳細に述べるように、実際には蛇腹状に折られた形状を有している。
【0067】
また、選択分離材13の車室19外側の表面には温度センサ60が設けられており、空間51内部には2つのファン56a,56bが設けられている。
温度センサ60は、選択分離材13の表面温度を計測するためのものであり、熱電対、白金抵抗体、サーミスタなど、選択分離材13の表面温度を電気信号に変換して出力するものである。
【0068】
ファン56a,56bは、内気取入れ口52aから内気排出口52bに至る内気循環経
路及び外気取入れ口54cから外気排出口54dに至る外気導入経路に設置されている。そして、温度センサ60で計測した選択分離材13の表面温度が選択分離材13の所定の温度となった場合に作動し、外気取入れ口54cから外気、内気取入れ口52aから内気を取り入れて選択分離材13を冷却(空冷)する。
【0069】
(選択分離材の構造)
次に、空間51に配置されている選択分離材13の構造について図2に基づいて説明する。図2は選択分離材13の概略を示す構造図である。図2(a)は、蛇腹状に折った選択分離材13の斜視図であり、図2(b)は、蛇腹状に折った選択分離材13を車両10の前方側から見た図である。
【0070】
選択分離材13は、酸素及び二酸化炭素を濃度の高い方から濃度の低い方へ透過させ、炭化水素、窒素酸化物、硫黄酸化物及び微小固体成分を遮断する機能を有する薄膜形状を有している。
【0071】
選択分離材13の膜厚は薄ければ気体を透過させるために有利であるが、薄くなれば膜強度が減少して破損しやすくなるため、製造上の限界が存在する。本実施形態では、100ナノメートルの膜厚となっている。
【0072】
また、選択分離材13の炭化水素、窒素酸化物、硫黄酸化物及び微小固体成分を遮断する機能は、吸着、吸収、分解又は表面反応により発現される。
選択分離材13は、前述のように平板状に形成されており、さらに、その平板状に形成された選択分離材13は、図2(a)、図2(b)に示すように蛇腹状に折られて空間51内部に配置されている。また、蛇腹状に折られた選択分離材13の稜線13aが外気及び内気の流れる方向と一致するように配置されている。
【0073】
以上のように構成された選択分離材13が図3に示すように補強部材40で補強されている。図3は、選択分離材13を補強するための補強部材40の構成を示した図である。図3(a)、図3(b)に示す図及び図3(c)において左側に示す図は、補強部材40が配置された選択分離材13が車両10の床部50に配置された状態で、車両10の上方から見た図である。また、図3(c)において右側に示す図は、補強部材40が配置された選択分離材13の断面図である。
【0074】
補強部材40は、選択分離材13を補強するためのものであり、部材40a,40b,40cで構成されている。部材40a,40b,40cは、丸棒状に形成されたアルミニウムなどの金属材である。
【0075】
部材40aは、図3(a)に示すように、平板状に形成された選択分離材13の車室19内側の4辺に沿って枠を形成するように配置されている。また、枠の強度を高めるために枠の対角線上に部材40bが配置されている。
【0076】
さらに、補強部材40の短手方向に沿って、枠を補強するための部材40cが配置されている。なお、枠の各頂点や各部材40a,40b,40c同士が交差する点においては、各部材40a,40b,40c同士が溶接、リベット又は接着などにより結合されている。
【0077】
また、図3(b)に示すように、補強部材40を格子状に形成してもよい。具体的には、縦部材40dと横部材40eとを格子状に組み、縦部材40dと横部材40eとが交差する点を溶接、リベット又は接着などにより結合するのである。
【0078】
なお、部材40a,40b,40cは、必要な強度が確保できるものであれば金属以外の材料、例えば、樹脂材を用いてもよい。また、金属の丸棒の代りに金属角材を用いてもよい。
【0079】
また、更に強度を高める必要がある場合には、補強部材40を選択分離材13の車室19内側面だけでなく車室19外側面にも配置するとよい。
また、選択分離材13を座席90の下に配置するような場合など、選択分離材13の平面部分を補強部材40で補強する必要がない場合には、図3(c)に示すように、選択分離材13の側面に部材40fを配置するようにしてもよい。
【0080】
(車両用空調システムの特徴)
以上のような車両用空調システムによれば、外気は外気取入れ口54cから取り入れられ外気排出口54dから排出され、内気は内気取入れ口52aから取り入れられ内気排出口52bから排出される。
【0081】
したがって、選択分離材13の車室19外側の面は一定濃度の酸素や二酸化炭素を含む外気と接触することになる。一方、車室19内側の空気は乗員の呼吸などにより、二酸化炭素の濃度が高くなり、酸素濃度は低くなる。また、選択分離材13は、二酸化炭素や酸素を濃度の高い方から低い方へ透過させる。
【0082】
つまり、車室19内側の酸素濃度が外気の酸素濃度よりも低くなれば、車室19外側から濃度が低くなった車室19内側へ選択分離材13を介して酸素が供給される。また、二酸化炭素濃度が外気の濃度よりも高くなれば、濃度が高くなった車室19内側から車室19外側へ選択分離材13を介して二酸化炭素が排出される。
【0083】
特に、車両10走行中には、外気取入れ口54cから取り入れられる外気の量が増えるので、車両10走行中には、選択分離材13の車室19外側の面に外気が当たり続ける。つまり、選択分離材13の車室19外側の面には、一定濃度の酸素、二酸化炭素、硫黄酸化物及び微小固体成分を有する外気が供給され続ける。
【0084】
したがって、車両10走行中には、外気をブロワなどで車室19内側へ導入しなくても、選択分離材13によって乗員が消費した酸素を取り入れ、排出した二酸化炭素を車室外に排出することができる。そして、ブロワを作動させる必要がないので、車載バッテリに対する負荷を低減することができる。
【0085】
選択分離材13の少なくとも車室19側は、補強部材40で保護されているので、乗員などが選択分離材13を踏んだりしても、選択分離材13が破損することがない。
また、選択分離材13の側面のうち少なくとも対向する2つの側面に補強部材40が配置されているので選択分離材13は破損しにくくなる。
【0086】
また、外気取入れ口52cは、車両10進行方向に対して運転席よりも前方に配置され、外気排出口52dは、車両10進行方向に対して運転席よりも後方に配置れている。さらに、内気取入れ口52aが車両10進行方向に対して運転席よりも前方に配置され、内気排出口52bが車両10進行方向に対して運転席よりも後方に配置されている。
【0087】
したがって、外気取入れ口52cから取り入れられた外気が外気排出口52dから排出されるまでの外気導入経路及び内気取入れ口52aから取り入れられた内気が内気排出口
52bから排出されるまでの内気循環経路が長くなる。つまり、外気が選択分離材13に長い時間接触することになる。したがって、車室19内側と車室19外側とで交換できる酸素や二酸化炭素の量が増加する。
【0088】
また、選択分離材13が平板状に形成され、さらに、その平板状に形成された選択分離材13が蛇腹状に折られている。したがって、選択分離材13の表面積が増えるので、車室19内側と車室19外側とで交換できる酸素や二酸化炭素の量が増える。したがって、車室19内側の酸素や二酸化炭素の濃度が変化しても短時間で車室19内側の酸素や二酸化炭素の濃度を所定の値に回復させることができる。
【0089】
また、蛇腹状に折られた選択分離材13の稜線13aが、外気取入れ口52cから取り入れられ外気排出口52dから排出される外気の流れ、及び、内気取入れ口52aから取り入れられ内気排出口52bから排出される内気の流れの方向と一致するように配置されている。
【0090】
したがって、外気取入れ口52cから外気排出口52dへ流れる外気の流れ、及び、内気取入れ口52aから内気排出口52bへ流れる内気の流れが蛇腹部分で妨げられることがなくスムーズに流れる。したがって、選択分離材13において外気と内気との間での酸素や二酸化炭素の交換を効率よく行うことができる。
【0091】
また、選択分離材13は、薄膜形状を有しているので、単位面積当たりの酸素や二酸化炭素の透過性能を向上させることができる。したがって、設置面積を抑制することができる。
【0092】
また、選択分離材13の炭化水素、窒素酸化物、硫黄酸化物及び微小固体成分を遮断する機能は、吸着、吸収、分解又は表面反応により発現される。
吸着では、炭化水素等の濃度が高くなった場合、一度それらを主として物理的に保持し、濃度が低くなった場合、それらを再び外気に放出することにより、選択分離材13の吸着性能を再生することができる。
【0093】
また、吸収では、炭化水素等を選択分離材13にて主として化学的に固定化し、遮断することができる。
さらに、分解では、吸着や吸収した炭化水素、窒素酸化物、硫黄酸化物を化学的に分解し、無臭化又は無害化することができる。
【0094】
表面反応では、選択分離材13の表面の構造的特徴により、炭化水素等を選択的に吸着しにくくし、膜内への進入を防ぐことにより遮断することができる。
ここで、分解する手段としては、例えば、電気的に分解する方式及び熱的に分解する方式、薬品等を用いて化学的に分解する方式又は微生物等を用いた生物的に分解する方式等が考えられる。さらに、これらの方式の組み合わせにて能力を向上させる方法も考えられる。
【0095】
また、温度センサ60で計測した選択分離材13の表面温度が所定の温度となった場合にファン56a,56bで選択分離材13を冷却するので選択分離材13を所定の温度以下とすることができる。
【0096】
ここで、「所定の温度」とは、選択分離材13の酸素及び二酸化炭素の透過性能及び炭
化水素などの遮断性能が必要とされる最低の値以下となる温度のことをいう。
[第2実施形態]
次に、車室19内側の酸素濃度が低下したときに外気を導入して車室19内側の酸素濃度を急速に回復させる方法について図4に基づいて説明する。
【0097】
図4は、車室19内の酸素濃度制御方法を示す図である。図4(a)は、酸素センサ18の取り付け状態を示した図であり、図4(b)は酸素センサ18で測定した車室19内の酸素濃度の変化を示すグラフであり、図4(c)は、内外気ダンパ17の開口度を示すグラフである。
【0098】
本空調システムでは、車室19内側の乗員が消費する酸素及び二酸化炭素を優位に透過させ、かつ炭化水素、窒素酸化物、硫黄酸化物及び微小固体成分を遮断する機能を有する選択分離材13とを備えている。
【0099】
しかしながら、選択分離材13の透過性能が何らかの理由で劣化した場合、車室19内側の乗員が消費する酸素量を補う量の酸素が導入できなくなるおそれがある。それを防止するため、図4(a)に示すように車室19内側に取り付けた酸素センサ18にて車室19内側の酸素濃度αを図4(b)に示すように検出し、図示しない制御部において、検出した酸素濃度αが濃度閾値β(図4(b)では19.5%)を下回ったか否かを判定する。そして図示しない制御部において酸素濃度αが濃度閾値βを下回ったと判定した場合に、内外気ダンパ17を開口し、一時的に外気を車室19内に導入することにより、酸素濃度を上げることができるようになっている。
【0100】
図示しない制御部では、内外気ダンパ17の開口度γが、例えば、図4(c)に示すように複数段階(図4(c)では3段階)に設定されている。また、上記の酸素濃度αの濃度閾値βは、自由に設定できるようになっているので、車室19内側の酸素濃度の管理値をも変えることができる。
【0101】
以上のように構成された車両用空調システムによれば、車室19内に内外気ダンパ17を設け、酸素センサ18で検出した車室19内の酸素濃度に基づいて外気を車室19内に導入しているので、車室19内を最適な酸素濃度にすることができる。
【0102】
なお、酸素センサ18以外に、二酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物、硫黄酸化物の濃度センサ又は微小固体成分の個数をカウントするセンサを用いて、各々に対する車室19内の濃度を調整するようにしてもよい。
【0103】
[第3実施形態]
次に、選択分離材13の形状を変更した実施形態について、図5〜図7に基づいて説明する。
【0104】
図5(a)に示すように、平板状の選択分離材13を蛇腹状に折ったものの両端部を接着して円柱状に形成する。円柱状に形成した選択分離材13を、図5(b)に示すように、空間51に円柱の中心軸が互いに平行になるように複数並べる。
【0105】
そして、図5(c)に示すように、外気取入れ口52cから取り入れられ、外気排出口52dから排出される外気を円柱状に形成した選択分離材13の端部から円柱状の選択分離材13の内部に導入する。また、内気取入れ口52aから取り入れられ、内気排出口52bから排出される内気を円柱状の選択分離材13の外部に導入する。
【0106】
このようにすると、選択分離材13を円柱状に形成するという簡単な構成で、選択分離材13により外気と内気とを分離することができ、かつ、選択分離材13において外気と内気との間での酸素や二酸化炭素の交換を確実に行なうことができる。
【0107】
また、図6(a)に示すように、膜状の選択分離材13を2つ折りにし、さらに、その2つ折りにされた稜部を内側に巻き込んだ渦巻き状に形成する。渦巻き状に形成した選択分離材13を図6(b)に示すように、空間51に渦巻きの中心軸が互いに平行になるように複数並べる。そして、図6(a)に示すように、選択分離材13を2つ折りにすることによって形成される内側の空間に外気を導入し、外側の空間に内気を導入するようにしてもよい。
【0108】
このようにすると、空間51に配置される選択分離材13の表面積を大きくすることができるので、外気と内気との間での酸素や二酸化炭素の交換を効率よく行なうことができる。
【0109】
なお、選択分離材13を2つ折りにすることによって形成される内側の空間に内気を導入し、外側の空間に外気を導入するようにしてもよい。
また、図7(a)に示すように、選択分離材13を中空糸状に形成して、円柱状のカートリッジ80に収納し、そのカートリッジ80を図7(b)に示すように、円柱の中心軸が互いに平行になるように空間51に複数配置するようにしてもよい。
【0110】
カートリッジ80には、円柱の側面上部に内気をカートリッジ80内に導入するための内気導入口80a、円柱の側面下部にカートリッジ80内に導入した内気を排出するための内気排気口80bが設けられている。
【0111】
また、円柱下端部80fには外気を導入するための外気導入口80c、円柱上端部80eには、カートリッジ80内に導入した外気を排出するための外気排気口80dが設けられている。
【0112】
カートリッジ80の内部では、中空糸の内部に外気を導入し、中空糸の外部に内気を導入するようになっている。
このようにすると、床部50の空間51に多くの選択分離材13を充填することができる。また、中空糸状に形成されているので表面積も大きい。したがって、空間51に配置される選択分離材13の表面積が大きくなるので、外気と内気との間での酸素や二酸化炭素の交換を効率よく行なうことができる。
【0113】
なお、中空糸の内部に内気を導入し、中空糸の外部に外気を導入するようにしてもよい。
また、選択分離材13の表面に粉塵が多量に付着したり選択分離材13が汚れた場合に容易に交換することができるので、酸素や二酸化炭素の交換性能を速やかに回復させることができる。
【0114】
[第4実施形態]
次に、選択分離材13を座席90下部分に配置した場合について図8に基づいて説明する。図8(a)は車両10の概略縦断面図であり、図8(b)は、車両10の座席下部分の拡大図である。
【0115】
(車両用空調システムの構造)
図8(a)に示すように、選択分離材13は、車両10の床板52の車室19内側で、座席90下部分に配置されている。また、図8(b)に示すように、床板52には、車室19外側から外気を取り入れるための外気取入れ口52cと、外気取入れ口52cから取り入れた外気を車室19外側に排出する外気排出口52dとが設けられている。
【0116】
(選択分離材の構造)
選択分離材13は、第1実施形態と同様に図9(a)に示すように蛇腹状に折られている。また、図9(b)に示すように箱形に形成された補強部材40に収納されている。
【0117】
箱形に形成された補強部材40には、車室19内側の面に内気を補強部材40の内部へ導入及び補強部材40の内部から排出するための内気導排孔40gが設けられている。また、車室19外側の面には外気を補強部材40の内部へ導入及び補強部材40の内部から排出するための外気導排孔40hが設けられている。
【0118】
(車両用空調システムの特徴)
以上のように、本第4実施形態の車両用空調システムにおいては、座席90下部分に選択分離材13を配置しているので、乗員が踏んで乗員の体重が選択分離材13にかかることがない。したがって、選択分離材13に対する補強度合いを少なくすることができる。
【0119】
たとえ、何らかの事情で、座席90から座席下部へ大きな荷重がかかることがあっても、補強部材40が箱形に形成されているので、補強部材40の強度が高い。したがって、選択分離材13が破損することがほとんどない。
【0120】
また、車室19内側の乗員の人数が少なかったり、選択分離材13への外気及び内気の供給量が充分であったりした場合には、車両10の座席90下部分に選択分離材13を配置するようにしても、充分な酸素や二酸化炭素を確保できる。
【0121】
[第5実施形態]
次に第4実施形態において、選択分離材13の形状を変更した実施形態について、図10に基づいて説明する。
【0122】
図10(a)に示すように、平板状の選択分離材13を蛇腹状に折ったものの両端部を接着して円柱状に形成する。円柱状に形成した選択分離材13を、図10(b)に示すように、空間51に円柱の中心軸が互いに平行になるように補強部材40内部に複数並べる。
【0123】
そして、図10(b)及び図10(c)に示すように、補強部材40に車室19内側の面に内気を補強部材40の内部へ導入及び補強部材40の内部から排出するための内気導排孔40gを設ける。
【0124】
また、車室19外側の面には外気を補強部材40の内部へ導入及び補強部材40の内部から排出するための外気導排孔40hを設け、その孔から円柱形状の選択分離材13の内面へ外気を導入するための配管40jを設ける。
【0125】
このようにすると、選択分離材13を円柱状に形成するという簡単な構成で、選択分離材13により外気と内気とを分離することができ、かつ、選択分離材13において外気と内気との間での酸素や二酸化炭素の交換を確実に行なうことができる。
【0126】
さらに、円柱状の選択分離材13の代りに、図6(a)に示すような、渦巻き形状の選
択分離材13を用いてもよいし、図7(a)に示すような、カートリッジ80に中空糸形状の選択分離材13を充填したものを用いてもよい。
【0127】
[第6実施形態]
次に、車室10外側に選択分離材13を配置した場合について図11に基づいて説明する。図11(a)は車両10の概略縦断面図であり、図11(b)は、車両10の車室19底部の拡大図である。
【0128】
図11(a)に示すように、選択分離材13は、車両10の外板54の車室19外側に配置されている。また、図11(b)に示すように、外板54には、車室19内側から外気を取り入れるための内気取入れ口54aと、内気取入れ口54aから取り入れた内気を車室19内側に排出する内気排出口54bとが設けられている。
【0129】
選択分離材13は、第1実施形態と同様に図9(a)に示すように蛇腹状に折られている。また、図9(b)に示すように箱形に形成された補強部材40に収納されている。
箱形に形成された補強部材40には、車室19内側の面に内気を補強部材40の内部へ導入及び補強部材40の内部から排出するための内気導排孔40gが設けられている。また、車室19外側の面には外気を補強部材40の内部へ導入及び補強部材40の内部から排出するための外気導排孔40hが設けられている。
【0130】
以上のように、車室19外側に選択分離材13を配置しても、第1実施形態と同様の効果が得られる。
[第7実施形態]
次に、選択分離材13の表面に付着した粉塵を除去する方法について図12に基づいて説明する。図12は、モータ70によって選択分離材13を振動させて、選択分離材13の表面に付着した粉塵を除去する方法を模式的に示した模式図である。
【0131】
図12に示すように、モータ70の回転軸に円板70aを装着する。円板70aの外縁部に、円板と選択分離材13とを接続する接続棒70bを取り付ける。
このモータ70に図示しない車載バッテリから電力を供給すると回転軸に装着した円板が回転する。円板が回転すると、円板の外縁に取り付けられた接続棒70bがすりこぎ運動をする。接続棒70bがすりこぎ運動をすると接続棒70bに接続されている選択分離材13が振動する。
【0132】
このようにして、モータ70の回転により選択分離材13を振動させることにより、選択分離材13の表面に付着した粉塵を除去することができる。
なお、車載バッテリから定期的にモータ70へ電力を供給して、定期的に選択分離材13を振動させて粉塵を除去してもよいし、粉塵センサなどで選択分離材表面の粉塵による汚れ度合いを検出し、汚れ度合いが大きくなった場合に、モータ70へ電力を供給して、選択分離材13を振動させて粉塵を除去してもよい。
【0133】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、種々の態様を採ることができる。
(1)例えば、上記実施形態では、選択分離材13として、薄膜形状の材料を使用していたが、薄膜形状の材料の代りに細孔径が50ナノメートル以下である多孔質形状の材料
を用いてもよい。
【0134】
このようにすると、クヌーセン流れが発生することなくさらに、人体に沈着し発がん性を有する10ナノメートル以上の微小固体成分の透過を防止することができる。
(2)また、薄膜形状の材料の代りに、炭化水素、窒素酸化物、硫黄酸化物及び微小固体成分を遮断する機能を有する繊維形状の材料で選択分離材13を形成すると、酸素及び二酸化炭素の透過性能を高めることができる。
【0135】
(3)また、薄膜形状の代りに、無機材料又は酸化物を有する組成を含む結晶構造を有する材料で選択分離材13を構成すると、無機材料又は酸化物を有する組成を含む材料は、多孔質の細孔径が制御しやすく、特に酸化物は、周期律表の多くの元素を用いることができるので有効である
具体的な材料としては、ゼオライトや粘土鉱物(モンモリロナイト、カオリナイト、ハロサイトなど)がある。より好ましくは、アルカリ金属、アルカリ土類金属、珪素又はアルミニウムを含んだ物質がよい。また、酸化物では、粘土鉱物のように層間隔をサブナノメートル単位で制御することができる材料を使用してもよい。
【0136】
(4)また、薄膜形状の材料の代りに、炭化水素、窒素酸化物、硫黄酸化物及び微小固体成分を遮断する機能を有する繊維形状の材料を用いてもよい。
(5)また、上記実施形態では、選択分離材13として、有機系高分子を使用していたが、有機系高分子の代りに結晶材料や炭素を含む材料を用いてもよい。結晶材料としては、無機材料や又は酸化物を有する組成を含む材料がある。また、炭素を含む材料としては、グラファイトを含む材料がある。
【0137】
(6)また、上記実施形態の選択分離材13では、吸着、吸収、分解各機能を有する薄膜材料により、酸素及び二酸化炭素の透過と炭化水素、窒素酸化物、硫黄酸化物及び微小固体成分を遮断していたが、それらの成分に対する表面反応を示す薄膜材料で選択分離材13を形成してもよい。
【0138】
(7)さらに、車室19内に、炭化水素、窒素酸化物、硫黄酸化物及び微小固体成分を吸着する材料、例えば、活性炭粒子、活性炭素繊維等の炭素材料やゼオライト等の無機材料又は吸収液や吸収液を含んだ繊維状物質などで吸着させる脱臭装置、あるいは、炭化水素、窒素酸化物、硫黄酸化物及び微小固体成分を分解する方法、例えば、電気的に分解する方式、熱的に分解する方式、薬品等を用いて化学的に分解する方式又は微生物等を用いた生物的に分解する方式を用いた脱臭装置を設けるようにしてもよい。
【0139】
(8)また、第7実施形態において、モータ70の回転により選択分離材13を振動させていたが、ピエゾ振動子を用いて選択分離材13を振動させるようにしてもよい。
(9)また、本車両用空調システムの適用対象としては、酸素の導入と二酸化炭素の排出が必要であり、炭化水素、窒素酸化物、硫黄酸化物及び微小固体成分を遮断する必要である空間であればよい。そのようなものととして、自動車以外に、列車、モノレール、航空機などの車両10に適用することができる。
【0140】
なお、ファン56a,56bが冷却手段に相当し、モータ70が振動手段に相当し、内外気ダンパ17が内外気交換手段に相当し、酸素センサ18がガス濃度検出手段に相当する。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】空調システムが組み込まれた車両10の概略断面図である。
【図2】選択分離材13の概略を示す構造図である。
【図3】選択分離材13を補強するための補強部材40の構成を示した図である。
【図4】車室19内の酸素濃度制御方法を示す図である。
【図5】選択分離材13を円柱状に形成したときの概略構造図である。
【図6】選択分離材13を渦巻き状に形成したときの概略構造図である。
【図7】選択分離材13を中空糸状に形成して、円柱状のカートリッジ80に収納したときの概略構造図である。
【図8】空調システムが組み込まれた車両10の概略断面図である。
【図9】選択分離材13を蛇腹状に形成したときの概略構造図である。
【図10】選択分離材13を円柱状に形成したときの概略構造図である。
【図11】空調システムが組み込まれた車両10の概略断面図である。
【図12】モータ70によって選択分離材13の表面に付着した粉塵を除去する方法を模式的に示した模式図である。
【符号の説明】
【0142】
10…車両、13…選択分離材、13a…稜線、17…内外気ダンパ、18…酸素センサ、19…車室、40…補強部材、40a,40b,40c,40f…部材、40d…縦部材、40e…横部材、40g…内気導排孔,40h…外気導排孔、40j…配管、50…床部、51…空間、52…床板、52a…内気取入れ口、52b…内気排出口、52c…外気取入れ口、52d…外気排出口、53…側板、54…外板、54a…内気取入れ口、54b…内気排出口、54c…外気取入れ口、54d…外気排出口、56a,56b…ファン、60…温度センサ、70…モータ、70a…円板、70b…接続棒、80…カートリッジ、80a…内気導入口、80b…内気排気口、80c…外気導入口、80d…外気排気口、80e…円柱上端部、80f…円柱下端部、90…座席。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車室の床部において、前記車室内側の床板と前記車室外側の外板との間に形成された空間と、
前記空間を形成する前記床板に、前記車室内側から前記空間内へ内気を取り入れるために設けられた内気取入れ口及び前記空間内へ取り入れた内気を前記車室内側へ排出するために設けられた内気排出口と、
前記空間を形成する前記外板に、前記車室外側から前記空間内へ外気を取り入れるために設けられた外気取入れ口及び前記空間内へ取り入れた外気を前記車室外側へ排出するために設けられた外気排出口と、
酸素及び二酸化炭素を濃度の高い方から濃度の低い方へ透過させ、炭化水素、窒素酸化物、硫黄酸化物及び微小固体成分を遮断する機能を有し、前記空間内に前記車室内側と前記車室外側とを隔てるように配置された選択分離材と、
を備えたことを特徴とする車両用空調システム。
【請求項2】
車両の車室外側から外気を取り入れるための外気取入れ口及び前記外気取入れ口から取り入れた外気を前記車室外側に排出するための外気排出口を有する車室の床板と、
酸素及び二酸化炭素を濃度の高い方から濃度の低い方へ透過させ、炭化水素、窒素酸化物、硫黄酸化物及び微小固体成分を遮断する機能を有し、前記床板の前記車室内側に、前記外気取入れ口と前記外気排出口とを覆うように配置された選択分離材と、
を備えていることを特徴とする車両用空調システム。
【請求項3】
請求項2に記載の車両用空調システムにおいて、
前記選択分離材は、板状に形成され、
前記板状に形成された選択分離材の片面又は両面に前記選択分離材を保護するための補強部材が配置されていることを特徴とする車両用空調システム。
【請求項4】
請求項2又は請求項3の何れかに記載の車両用空調システムにおいて、
前記選択分離材は、板状に形成され、
前記板状に形成された選択分離材の側面のうち少なくとも対向する2つの側面に前記選択分離材を保護するための補強部材が配置されていることを特徴とする車両用空調システム。
【請求項5】
請求項2に記載の車両用空調システムにおいて、
前記選択分離材は、前記選択分離材を保護するために箱形に形成された補強部材に収納され、
前記箱形に形成された補強部材は、前記車室内側の面に内気を補強部材の内部へ導入及び補強部材の内部から排出するための内気導排孔を有し、前記車室外側の面には外気を補強部材の内部へ導入及び補強部材の内部から排出するための外気導排孔を有していることを特徴とする車両用空調システム。
【請求項6】
請求項1〜請求項5の何れかに記載の車両用空調システムにおいて、
前記選択分離材は、前記車両の座席下部分に配置されていることを特徴とする車両用空調システム。
【請求項7】
請求項1〜請求項6の何れかに記載の車両用空調システムにおいて、
前記外気取入れ口は、前記車両進行方向に対して運転席よりも前方に配置され、前記外気排出口は、前記車両進行方向に対して運転席よりも後方に配置されていることを特徴とする車両用空調システム。
【請求項8】
車両の車室内側から内気を取り入れるための内気取入れ口及び前記内気取入れ口から取り入れた内気を前記車室内側に排出するための内気排出口を前記車室の床部に有する外板と、
酸素及び二酸化炭素を濃度の高い方から濃度の低い方へ透過させ、炭化水素、窒素酸化物、硫黄酸化物及び微小固体成分を遮断する機能を有し、前記外板の前記車室外側に、前記内気取入れ口と前記内気排出口とを覆うように配置された選択分離材と、
を備えていることを特徴とする車両用空調システム。
【請求項9】
請求項1又は請求項8に記載の車両用空調システムにおいて、
前記内気取入れ口は、車両進行方向に対して運転席よりも前方に配置され、前記内気排出口は、車両進行方向に対して運転席よりも後方に配置されていることを特徴とする車両用空調システム。
【請求項10】
請求項1〜請求項9の何れかに記載の車両用空調システムにおいて、
選択分離材は、平板状に形成されており、さらに、その平板状に形成された選択分離材は、蛇腹状に折られていることを特徴とする車両用空調システム。
【請求項11】
請求項10に記載の車両用空調システムにおいて、
前記蛇腹状に折られた選択分離材の稜線が、
前記外気取入れ口から取り入れられ、前記外気排出口から排出される外気の流れ、又は、前記内気取入れ口から取り入れられ、前記内気排出口から排出される内気の流れの方向と一致するように配置されたことを特徴とする車両用空調システム。
【請求項12】
請求項1〜請求項9の何れかに記載の車両用空調システムにおいて、
前記選択分離材は筒状に形成され、
さらに、前記選択分離材は、前記筒状に形成された選択分離材の内面に前記外気取入れ口から取り入れられた外気が導入され、外面に前記内気取入れ口から取り入れられた内気が導入される、若しくは、選択分離材の外面に前記外気取入れ口から取り入れられた外気が導入され、内面に前記内気取入れ口から取り入れられた内気が導入されるように構成されていることを特徴とする車両用空調システム。
【請求項13】
請求項1〜請求項9の何れかに記載の車両用空調システムにおいて、
前記選択分離材は、膜状に形成され、
前記膜状に形成された前記選択分離材が2つ折りに形成され、
さらに、その2つ折りにされた前記選択分離材の稜部が内側に巻き込まれた渦巻き状に形成されており、
前記選択分離材が2つ折りされることによって形成される内側の空間に外気が導入され、外側の空間に内気が導入される、若しくは、前記選択分離材が2つ折りされることによって形成される内側の空間に内気が導入され、外側の空間に外気が導入されるように構成されていることを特徴とする車両用空調システム。
【請求項14】
請求項1〜請求項9の何れかに記載の車両用空調システムにおいて、
前記選択分離材は、中空糸状に形成され、
前記中空糸の内部に外気が導入され、前記中空糸の外部に内気が導入される、若しくは、中空糸の内部に内気が導入され、中空糸の外部に外気が導入されるように構成されていることを特徴とする車両用空調システム。
【請求項15】
請求項1〜請求項13の何れかに記載の車両用空調システムにおいて、
前記選択分離材は、多孔質形状、繊維形状又は薄膜形状あるいはそれらの複合形状を有することを特徴とする車両用空調システム。
【請求項16】
請求項1〜請求項15の何れかに記載の車両用空調システムにおいて、
前記選択分離材の炭化水素、窒素酸化物、硫黄酸化物及び微小固体成分を遮断する機能は、吸着、吸収、分解又は表面反応により発現されることを特徴とする車両用空調システム。
【請求項17】
請求項16に記載の車両用空調システムにおいて、
前記選択分離材の微小固体成分を遮断する機能は、濾別によっても発現されることを特徴とする車両用空調システム。
【請求項18】
請求項1〜請求項17の何れかに記載の車両用空調システムにおいて、
前記選択分離材の表面温度を計測するための温度センサと、
前記外気取入れ口から前記外気排出口に至る外気導入経路、又は、前記内気取入れ口から前記内気排出口に至る内気循環経路に設置され、前記温度センサで計測した前記選択分離材の表面温度が所定の温度となった場合に前記選択分離材を冷却する冷却手段と、
を備えていることを特徴とする車両用空調システム。
【請求項19】
請求項1〜請求項18の何れかに記載の車両用空調システムにおいて、
前記選択分離材を振動させ、前記選択分離材の表面に付着した粉塵を除去するための振動手段を備えたことを特徴とする車両用空調システム。
【請求項20】
請求項1〜請求項19の何れかに記載の車両用空調システムにおいて、
前記選択分離材は、着脱可能に構成されたカートリッジに収納され、
前記選択分離材が配置される部分は、前記カートリッジを着脱可能に形成されていることを特徴とする車両用空調システム。
【請求項21】
請求項1〜請求項21の何れかに記載の車両用空調システムにおいて、
前記車室内側のガス濃度を検出するガス濃度検出手段と、
前記車室外側の空気を前記車室内側へ導入又は前記車室内側の空気を前記車室外側へ排出可能な内外気交換手段と、
前記ガス濃度検出手段で検出したガス濃度が所定の値となった場合に前記内外気交換手段を介して前記車室外側の空気を前記車室内側へ導入又は前記車室内側の空気を前記車室外側へ排出させる制御手段と、
を備えたことを特徴とする車両用空調システム。

【図2】
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【図9】
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【図10】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−30698(P2008−30698A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−208451(P2006−208451)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】