説明

車両用空調システム

【課題】省電力化と乗員の快適性とを担保可能な空調システムを提供する。
【解決手段】車室内を前方スペースと後方スペースとに仕切った状態と仕切っていない状態とで切換可能な装置と、前方スペースに吹出口を有する空調装置とを備えた空調システムにおいて、制御装置50は、前方スペースのみへの乗車時に、仕切状態で前方スペース内の温度を調整する前方スペース温度調整部100と、後方スペースへの乗車予定者の乗込想定時間を取得する乗込想定時間取得部102と、後方スペース内の温度を任意の温度に変更するのに要する室温変更時間を推定する室温変更時間推定部104と、乗込想定時間が室温変更時間以下である場合に、前方スペースのみへの乗車時であっても、後方スペース内の温度を調整する後方スペース温度調整部106とを有する。これにより、後方スペースへの乗車直前に後方スペース内の温度を快適な温度とし、省電力化を図ることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調システム、詳しくは、車室内を前方スペースと後方スペースとに仕切った状態と仕切っていない状態とで切換可能な車両に搭載される車両用空調システムに関する。
【背景技術】
【0002】
乗員の快適性を担保するべく、多くの車両にはエアコン等の空調装置が設けられており、車室内の温度を快適な温度とすることが可能となっている。ただし、空調装置の作動時には比較的多くの電力を消費するため、省電力化が求められている。このため、下記特許文献1,2に記載されているように、車室内を前方スペースと後方スペースとに仕切った状態と仕切っていない状態とで切換可能な室内仕切装置を車両に設け、空調装置によって室温調整が行われるスペースの容積を小さくすることで省電力化を図る技術の開発が進められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−362128号公報
【特許文献2】特開2000−219087号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記室内仕切装置が設けられた車両では、例えば、前方スペースにのみ乗車しているような場合に、車室内を前方スペースと後方スペースとに仕切ることで、前方スペースだけを室温調整することが可能となり、省電力化を図ることが可能となる。一方で、後方スペースは室温調整が行われないが、この場合には後方スペースに乗員がいないため問題ない。ただし、出発時には、後方スペースに乗員がいなくても、途中から後方スペースに乗員が乗り込んでくる場合があり、室温調整が行われていない後方スペースに乗り込んだ人が不快な思いをする虞がある。本発明は、そのような事情に鑑みてなされたものであり、省電力化を図るとともに、後方スペースへの搭乗者の快適性をも担保可能な車両用空調システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本願の請求項1に記載の車両用空調システムは、(A)車室内を、前方に設けられた座席が配置されている前方スペースと後方に設けられた座席が配置されている後方スペースとに仕切った状態である仕切状態と仕切っていない状態である非仕切状態とで切換可能な車室仕切装置と、(B)前記前方スペースに吹出口を有する前方側空調装置を含んで構成され、車室内の温度を変更可能な室温変更ユニットと、(C)前記車室仕切装置を制御することで、前記仕切状態と前記非仕切状態とのいずれかを選択的に実現するとともに、前記室温変更ユニットを制御することで、車室内の温度を調整するように構成された制御装置とを備え、前記制御装置は、(a)前記前方スペースにのみ乗車している場合に、前記仕切状態を実現しつつ、前記前方側空調装置によって前記前方スペース内の温度を調整する前方スペース温度調整部と、(b)前記前方スペースにのみ乗車している場合に、前記後方スペースに乗車予定者が乗り込んでくると想定される迄の時間である乗込想定時間を取得する乗込想定時間取得部と、(c)前記後方スペース内の温度を任意の温度に変更するのに必要な時間である室温変更時間を推定する室温変更時間推定部と、(d)前記乗込想定時間が前記室温変更時間以下であることを条件として、前記前方スペースにのみ乗車している場合であっても、前記室温変更ユニットによって前記後方スペース内の温度を調整する後方スペース温度調整部とを有することを特徴とする。
【0006】
また、請求項2に記載の車両用空調システムは、請求項1に記載の車両用空調システムにおいて、前記後方スペース温度調整部は、前記非仕切状態を実現しつつ、前記前方側空調装置によって前記後方スペース内の温度をも調整することを特徴とする。
【0007】
また、請求項3に記載の車両用空調システムは、請求項1に記載の車両用空調システムにおいて、前記室温変更ユニットは、さらに、前記後方スペース内の温度を変更可能な後方スペース温度変更装置を含んで構成され、前記後方スペース温度調整部は、前記仕切状態を実現しつつ、前記後方スペース温度変更装置によって前記後方スペース内の温度を調整することを特徴とする。
【0008】
また、請求項4に記載の車両用空調システムは、請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の車両用空調システムにおいて、前記乗込想定時間取得部が、ナビゲーションシステムによって得られた情報に基づいて前記乗込想定時間を推定することを特徴とする。
【0009】
さらに、請求項5に記載の車両用空調システムは、請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の車両用空調システムにおいて、前記室温変更時間推定部は、前記後方スペース内の温度変化に影響する物理量に基づいて前記室温変更時間を推定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に記載の車両用空調システムでは、後方スペースに乗員が乗り込んでくる直前に後方スペース内の温度を予め設定された任意の温度、つまり、快適な温度とすることが可能となる。例えば、後方スペースに乗車する予定がある場合に、乗車予定者が乗り込んでくると想定される迄の乗込想定時間等をまったく考慮せずに、後方スペース内の温度調整を行うと、乗車予定者が実際に乗込んでくる相当前に後方スペース内の温度が予め設定された温度となってしまい、無駄に電力を消費することになる。また、逆に、乗車予定者が実際に乗込んできても、後方スペース内の温度が予め設定された温度となっておらず、後方スペースへの搭乗者が不快な思いをすることになる。しかし、請求項1に記載の車両用空調システムによれば、上述したように、後方スペースに乗員が乗り込んでくる直前に後方スペース内の温度を快適な温度とすることが可能であり、省電力化を図るとともに、後方スペースへの搭乗者の快適性を担保することが可能となる。
【0011】
また、請求項2に記載の車両用空調システムでは、前方側空調装置によって後方スペース内の温度調整が行われる。前方側空調装置は、通常、多くの車両に設けられており、上述した後方スペース内の温度調整を行うために、敢えて特別な装置等を装備する必要が無い。したがって、請求項2に記載の車両用空調システムによれば、上記後方スペース内の温度調整を安価なシステムによって行うことが可能となる。
【0012】
また、請求項3に記載の車両用空調システムでは、前方スペース内の温度調整は前方側空調装置によって行われ、後方スペース内の温度調整は後方スペース温度変更装置によって行われる。つまり、それぞれのスペースは、それぞれのスペースに対応して設けられる装置によって室温調整が行われる。このため、仕切状態を維持することが可能となり、前方スペース内の温度を維持した状態で、後方スペース内の温度調整を行うことが可能となる。したがって、請求項2に記載の車両用空調システムによれば、前方スペースの乗員の快適性をも担保することが可能となる。
【0013】
また、請求項4に記載の車両用空調システムによれば、例えば、不意の渋滞等に関わらず、相当精度の高い乗込想定時間を推定することが可能となり、上記後方スペース内の温度調整を好適に行うことが可能となる。
【0014】
また、請求項5に記載の車両用空調システムによれば、室温変更時間を適切に推定することが可能となり、上記後方スペース内の温度調整を行う目的を充分に達成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施例の車両用空調システムを搭載した車両を概略的に示す図である。
【図2】図1に示す車両用空調システムの制御を司る制御装置の機能を示すブロック図である。
【図3】後方スペース内の温度と外気温との差とそれに依拠する制御ゲインとの関係、および、後方スペース内の温度と空調装置の設定温度との差とそれに依拠する制御ゲインとの関係を示すグラフである。
【図4】前方側空調装置のCOP値とそれに依拠する制御ゲインとの関係、および、後方スペースの容積とそれに依拠する制御ゲインとの関係を示すグラフである。
【図5】実施例の車両用空調システム制御プログラムを示すフローチャートである。
【図6】車両用空調システム制御プログラムにおいて実行される判定用時間演算サブルーチンを示すフローチャートである。
【図7】変形例の車両用空調システムを搭載した車両を概略的に示す図である。
【図8】変形例の車両用空調システム制御プログラムの前半部分を示すフローチャートである。
【図9】変形例の車両用空調システム制御プログラムの後半部分を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態として、本発明の実施例および変形例を、図を参照しつつ詳しく説明する。
【0017】
<車両用空調システムの構成>
図1に、本発明の実施例の車両用空調システム10を搭載した車両12を示す。車両12は、電気自動車であり、電動モータに依拠して駆動するものとされている。また、車両12は、運転席14および助手席16によって構成される前席と、後席18とを備え、2列に並べられた座席配列とされている。車両用空調システム10は、車室20の内部を前席14,16が配置されている前方スペース22と後席18が配置されている後方スペース24とに仕切ることが可能な車室仕切装置26と、車室20内に温度等の調整された空気を送ることで車室20内の温度を変更可能な空調装置28とを備えている。
【0018】
車室仕切装置26は、内部にエアが充填されることで膨らむエア袋体30と、そのエア袋体30にエアを送り込むエアポンプ32と、エア袋体30とエアポンプ32とを連通する連通路34と、その連通路34に設けられ、エアの流れを許容した状態と禁止した状態とで切り換える電磁弁36と、連通路34の電磁弁36とエア袋体30との間に設けられ、エア袋体30内の空気圧を測定可能な圧力センサ38とを有している。エア袋体30は、前席14,16の背面に設けられ、内部にエアが充填されることで膨張し、車室20の内部が、エア袋体30によって前方スペース22と後方スペース24とに仕切られる。一方、エア袋体30は、内部からエアが抜かれることで収縮し、前方スペース22と後方スペース24との仕切りが解除される。つまり、車室仕切装置26は、車室20内を前方スペース22と後方スペース24とに仕切った状態である仕切状態と仕切っていない状態である非仕切状態とで切り換えることが可能な構造とされている。なお、エア袋体30は、透明な素材によって形成されており、仕切状態であっても、運転者は車両後方を視認することが可能となっている。
【0019】
また、空調装置28は、前方スペース22に吹出口40を有し、前方スペース22に温風,冷風等の温度調整された空気を送ることで、車室20内の温度を変更するものとされている。ちなみに、車両12は、上述したように、電気自動車であることから、空調装置28はエンジンの熱等を利用することができず、また、コンプレッサ等の駆動もエンジンの回転を利用することができないため、バッテリの電力に大きく依存して作動する構造とされている。
【0020】
さらに、車両用空調システム10は、図2に示すように、電子制御ユニット(以下、単に「ECU」という場合がある)50が設けられている。ECU50は、車室仕切装置26のエアポンプ32および電磁弁38,空調装置28の作動を制御する制御装置であり、車室内の温度を制御するものである。ECU50は、CPU,ROM,RAM等を備えたコンピュータを主体として構成されたコントローラ52と、エアポンプ32の有するポンプモータ54に対応する駆動回路56と、電磁弁38の有するソレノイド58に対応する駆動回路60と、空調装置28の有するコンプレッサ等62の駆動回路64とを有している。それら複数の駆動回路56,60,64には、コンバータ66を介してバッテリ68が接続されており、ポンプモータ54、ソレノイド58、コンプレッサ等62に、そのバッテリ68から電力が供給される。
【0021】
さらに、複数の駆動回路56,60,64には、コントローラ52が接続されており、コントローラ52が、それら複数の駆動回路56,60,64に各制御信号を送信することで、車室仕切装置26と空調装置28の作動を制御するものとされている。また、コントローラ52には、上記圧力センサ38とともに、外気温を検出する外気温センサ70と、後方スペース24内の温度を検出する後方スペース温度センサ72と、空調装置28の設定温度を取得する設定温度センサ74と、前席14,16および後席18の各々に設けられ、各座席14,16,18に乗員が着座しているか否かを検出する着座センサ76と、空調装置28の運転モードを、省電力化を図る省電力モードと通常モードとで切り換える切換スイッチ78とが接続されている。
【0022】
また、車両12には、ナビゲーションシステム80が搭載されている。ナビゲーションシステム80は、GPS(Global Positioning System)を利用して構成され、車両の位置を取得し、目的地までの案内を行うシステムである。ナビゲーションシステム80は、さらに、VICS(Vehicle Information and Communication System)をも利用して構成されており、交通規制,渋滞等の交通情報を取得し、通行止め,渋滞等を回避することが可能とされている。車両用空調システム10のECU50のコントローラ52は、ナビゲーションシステム80にも接続されており、車両の位置情報,交通情報等を取得することが可能とされている。
【0023】
<車両用空調システムの制御>
車両用空調システム10では、車室20内全体の温度調整を行う通常モードにて車室内の温度調整を行うことが可能とされている。この通常モードでの温度調整は、車室を前方スペース22と後方スペース24とに仕切っていない状態である非仕切状態で空調装置28によって温度調整を行うものである。このモードによれば、車室内全体を快適な温度とすることが可能であり、前席14,16、後席18の各乗員が快適に過ごすことができる。一方で、空調装置28の作動には比較的多くの電力を消費するため、省電力化が求められており、特に、車両12は電気自動車であることから、省電力化を図ることで、航続距離を延ばすことが可能となる。
【0024】
そこで、車両用空調システム10では、例えば、前席14,16にのみ乗員が乗っている場合、つまり、後席18に誰も乗車していない場合には、車室を前方スペース22と後方スペース24とに仕切った状態である仕切状態で空調装置28を作動させる省電力モードにて車室内の温度調整を行うことが可能とされている。このモードによれば、乗員の乗っている空間のみを冷暖房することが可能となり、省電力化を図ることが可能となる。ただし、出発時には、後方スペース24に乗員がいなくても、途中から後方スペース24に乗員が乗り込んでくる場合があり、このような場合には、室温調整が行われていない後方スペース24に乗り込んだ人が不快な思いをする虞がある。
【0025】
以上のことに鑑みて、車両用空調システム10では、前席14,16にのみ乗員が乗っている場合に、途中で、後方スペース24に乗員が乗り込んでくる予定があるときには、省電力モードにおいて、乗車予定者が後方スペース23に乗込んでくる直前に、後方スペース24内の温度が快適な温度となるように、車室仕切装置26の作動を制御している。詳しく言えば、後方スペース24に乗車予定者が乗り込んでくると想定される時間である乗込想定時間tが、後方スペース24内の温度を空調装置28の設定温度に変更するのに必要な時間である室温変更時間tとなったときに、仕切状態から非仕切状態に切り換えて、空調装置28によって前方スペース22および後方スペース24内の温度調整を行っている。
【0026】
このように、乗込想定時間tが室温変更時間tとなったときに、非仕切状態を実現することで、乗車予定者が後方スペース23に乗込んでくる直前に、後方スペース24内の温度を空調装置28の設定温度とすることが可能となるのである。例えば、後方スペース24に乗車する予定がある場合に、乗込想定時間tおよび室温変更時間tを考慮することなく、仕切状態から非仕切状態に切り換えると、切り換えのタイミングが速すぎて、後方スペース24に乗員が乗り込む相当前から後方スペース24内の温度が快適な温度となり、無駄に電力を消費することになる。また、逆に、切り換えのタイミングが遅いと、乗車予定者が実際に乗込んできても、後方スペース24の室温が快適な温度となっておらず、後方スペース24の乗員が不快な思いをすることになる。しかし、車両用空調システム10によれば、タイミング良く仕切状態から非仕切状態に切り換えることで、タイミング良く後方スペース24の室温を快適な温度とすることが可能となり、省電力化を図るとともに、後方スペース24の乗員の快適性を担保することが可能となる。なお、乗車予定位置がすぐ近くであり、乗込想定時間tが相当短い場合、また、外気温と室温との差が相当大きく、室温変更時間tが相当長い場合等には、乗車予定者が後方スペース24に乗込んでくる前に、後方スペース24の室温を設定温度とすることができない恐れがある。このため、室温変更時間tが乗込想定時間tより相当長い場合、つまり、室温変更時間tから乗込想定時間tを減じた値が予め設定された閾値A(>0)より大きい場合には、空調装置28を最大出力で作動させることで、出来る限り、後方スペース24の室温を設定温度に近づけるようにされている。
【0027】
ちなみに、乗込想定時間tは、ナビゲーションシステム78を利用して推定されるが、まず、乗員が、乗車予定者の乗車予定位置をナビゲーションシステム78に入力する。この入力された乗車予定位置と、ナビゲーションシステム78が取得している車両の位置情報,交通情報とに基づいて、乗込想定時間tが推定される。この推定方法は、既によく知られていることから、詳しい説明は省略する。また、室温変更時間tは、後方スペース24内の温度変化に影響を及ぼす物理量に基づいて、次式に従って演算される。
=KΔT1・KΔT2・K・K・t
【0028】
上記式でのKΔT1は、後方スペース24内の温度Tと外気温Tとの差に依拠する制御ゲインであり、図3(a)に示すように、後方スペース24内の温度Tと外気温Tとの差の絶対値が大きくなるにつれて大きな値となるように設定されている。KΔT2は、後方スペース24内の温度Tと空調装置28の設定温度Tとの差に依拠する制御ゲインであり、図3(b)に示すように、後方スペース24内の温度Tと設定温度Tとの差の絶対値が大きくなるにつれて大きな値となるように設定されている。Kは、空調装置28の性能を指標するもの、具体的には、COP(Coefficient of Performance)値Wに依拠する制御ゲインであり、図4(a)に示すように、COP値Wが大きくなるにつれて小さな値となるように設定されている。Kは、後方スペース24の容積Vに依拠する制御ゲインであり、図4(b)に示すように、後方スペース24の容積Vが大きくなるにつれて大きな値となるように設定されている。そして、tは、予め設定された標準時間である。このように、各制御ゲインが設定されることで、温度差および後方スペース24の容積が大きいほど、室温変更時間tは長くなり、COP値が大きいほど、室温変更時間tは短くなる。なお、COP値Wは、空調装置28に応じて予め設定されており、後方スペース24の容積Vは、車両に応じて予め設定されている。
【0029】
<車両用空調システム制御プログラム>
車両用空調システム10の制御は、図5にフローチャートを示す車両用空調システム制御プログラムが、イグニッションスイッチがON状態とされている間、短い時間間隔(例えば、数m〜数十msec)をおいてECU50のコントローラ52により繰り返し実行されることによって行われる。以下に、空調システム10の制御の流れを、図に示すフローチャートを参照しつつ、詳しく説明する。
【0030】
空調システム制御プログラムでは、まず、ステップ1(以下、単に「S1」と略す。他のステップについても同様とする)において、空調装置28の電源がONとされているか否かが判定され、ONとされていると判定された場合には、S2において、切換スイッチ78が省電力モードとされているか否かが判定される。省電力モードとされていると判定された場合には、S3において、前席14,16のみに乗員が着座しているか否かが判定される。つまり、後方スペース24に誰も乗車していないか否かが判定される。この判定は、着座センサ76の検出値に基づいて行われる。後方スペース24に誰も乗車していないと判定された場合には、S4において、仕切状態が実現される。具体的には、エアポンプ32のポンプモータ54に駆動指令が送信され、電磁弁38のソレノイド58に開弁するための指令が送信される。そして、圧力センサ38によって検出されるエア袋体30内の空気圧が予め設定された設定圧となった時点で、ポンプモータ54に停止指令が送信され、ソレノイド58に閉弁するための指令が送信される。
【0031】
次に、S5において、空調装置28に作動指令が送信される。空調装置28の制御は、公知であるため、説明は省略するが、乗員によって設定された温度となるように、吹き出される空気の温度,風量等が制御される。続いて、S6において、ナビゲーションシステム78に、後方スペース24への乗車予定者の乗車位置情報が入力されたか否かが判定される。乗車位置情報が入力されたと判定された場合には、S7において、図6にフローチャートを示す判定用時間演算サブルーチンが実行される。このサブルーチンでは、まず、S21において、ナビゲーションシステム80からGPSを利用して、車両12の位置情報を取得し、S22において、ナビゲーションシステム80からVICSを利用して、交通情報を取得する。そして、S23において、乗車予定者の乗車位置情報,車両12の位置情報,交通情報に基づいて、乗込想定時間tを演算する。次に、S24において、後方スペース温度センサ72の検出値に基づいて後方スペース温度Tが取得され、S25において、設定温度センサ74の検出値に基づいて空調装置28の設定温度Tが取得される。続いて、S26において、外気温センサ70の検出値に基づいて外気温Tが取得される。そして、S27において、取得された各種の温度T,T,Tに基づいて、図3に示すように設定されているマップデータを参照して、制御ゲインKΔT1,KΔT2を決定し、予め設定されているCOP値W,後方スペース24の容積Vに基づいて、図4に示すように設定されているマップデータを参照して、制御ゲインK,Kが決定される。各制御ゲインが決定されると、上記式に従って、室温変更時間tが演算され、本サブルーチンの実行が終了する。
【0032】
判定用時間演算サブルーチンの実行が終了した後、S8において、室温変更時間tから乗込想定時間tを減じた値が0以上となっているか否かが判定される。つまり、乗込想定時間tが室温変更時間t以下となっているか否かが判定される。乗込想定時間tが室温変更時間t以下となっていると判定された場合には、S9において、非仕切状態が実現される。具体的には、電磁弁38のソレノイド58に開弁するための指令が送信され、エア袋体30が収縮させられる。そして、S10において、室温変更時間tから乗込想定時間tを減じた値が閾値Aより大きいか否かが判定され、大きいと判定された場合には、S11において、空調装置28が、設定温度に関わらず、最大出力で作動させられる。また、小さいと判定された場合には、空調装置28は設定温度を維持した状態で作動させられる。
【0033】
また、S2で切換スイッチ78が通常モードとされていると判定された場合、若しくは、S3で後席にも乗員が乗っていると判定された場合には、S12において、非仕切状態が実現され、S13において、空調装置28が作動させられる。また、S1で空調装置28の電源がOFFとされていると判定された場合、S6でナビゲーションシステム78に乗車位置情報が入力されていないと判定された場合には、以降のステップを行わす、本プログラムの1回の実行が終了する。また、S8において、乗込想定時間tが室温変更時間t以下となっていないと判定された場合には、S7の判定用時間演算サブルーチンを繰り返す。
【0034】
<制御装置の機能構成>
以上のような空調システム制御プログラムが実行されて機能する空調システム10のECU50は、その実行処理に依拠すれば、図2に示すような機能構成を有するものと考えることができる。その機能構成によれば、ECU50は、上記S2〜S5の処理を実行する機能部、つまり、前席14,16のみに乗員が乗っている場合に前方スペース22のみの温度調整を行う機能部として、前方スペース温度調整部100を、S21〜S23の処理を実行する機能部、つまり、乗込想定時間tを取得する機能部として、乗込想定時間取得部102を、S24〜S27の処理を実行する機能部、つまり、室温変更時間tを推定する機能部として、室温変更時間推定部104を、S8〜S11の処理を実行する機能部、つまり、後方スペース24に乗員が乗り込んでくる予定がある場合に、後方スペース24の温度調整を予め行う機能部として、後方スペース温度調整部106を、それぞれ備えている。
【0035】
<変形例>
上記車両用空調システム10では、前方スペース22に吹出口40を有する空調装置28によって、前方スペース22だけでなく、後方スペース24も温度調整を行ったが、前方スペース22と後方スペース24との各々に空調装置を設け、それぞれのスペース22,24を、それぞれのスペース22,24に対応した空調装置によって温度調整を行うように構成されてもよい。このように構成されたシステムを、変形例の車両用空調システム110として図7に示す。変形例の車両用空調システム110は、上記車両用空調システム10と比較して、後方スペース24に設けられた空調装置を除き、上記車両用空調システム10と略同様の構成であるため、構成に関しては簡単に説明し、その説明の後に、車両用空調システム110の制御を中心に説明する。なお、上記車両用空調システム10と同様の機能の構成要素については、同じ符号を用いて説明を省略あるいは簡略に行うものとする。
【0036】
車両用空調システム110は、前方スペース22に吹出口40を有する空調装置(後に説明する後方スペースに設けられる空調装置と区別するべく、「前方側空調装置」と呼ぶ)28と、後方スペース24に設けられ、後方スペース24に温風,冷風等の温度調整された空気を送風可能な後方側空調装置112とを備えている。また、車両用空調システム110は、車室仕切装置26も備えており、上記車両用空調システム10での省電力モードと同様の制御を実行することが可能とされている。つまり、仕切状態において前方スペース22のみの室温調整を行っている場合に、後方スペース24への乗車予定者があれば、乗車予定者が後方スペース23に乗込んでくる直前に、後方スペース24内の温度を快適な温度とすることが可能とされている。
【0037】
具体的にいえば、乗込想定時間tが室温変更時間tとなったときに、後方スペース24内の温度調整が行われるが、車両用空調システム110では、仕切状態を維持したままで、後方スペース24内の温度調整が、後方側空調装置112によって行われる。これにより、前方スペース22内の温度を変化させることなく、後方スペース24内の温度を快適な温度とすることが可能となる。なお、車両が乗車予定位置の近傍に近付いた時には、後方スペース24内の温度は快適な温度となっていると考えられるため、仕切状態を解除、つまり、仕切状態から非仕切状態に切り換えるとともに、後方側空調装置112を停止させる。
【0038】
車両用空調システム110の制御は、図8および図9にフローチャートを示す車両用空調システム制御プログラムが、イグニッションスイッチがON状態とされている間、短い時間間隔(例えば、数m〜数十msec)をおいてECU50のコントローラ52により繰り返し実行されることによって行われる。ただし、この制御プログラムは、上記空調システム10の制御プログラムと殆ど同じであるため、異なるステップを中心に説明する。
【0039】
本空調システム制御プログラムでは、S31〜S38において、上記空調システム10の制御プログラムのS1〜S8と同じ処理が実行される。そして、S38で乗込想定時間tが室温変更時間t以下となっていると判定された場合には、S39において、室温変更時間tから乗込想定時間tを減じた値が閾値Aより大きいか否かが判定される。その減じた値が閾値A以下であると判定された場合には、S40において、後方側空調装置112が設定温度で作動させられ、減じた値が閾値Aより大きいと判定された場合には、S41において、後方側空調装置112が最大出力で作動させられる。後方側空調装置112が作動させられると、S42において、後方スペース24で冷房が効き過ぎたり、暖房が効き過ぎたりしていないかが判定される。具体的には、暖房時であれば、後方スペース24内の温度Tから設定温度Tを減じた値が、予め設定された閾値B(>0)より大きいか否かが判定され、冷房時であれば、設定温度Tから後方スペース24内の温度Tを減じた値が、予め設定された閾値C(>0)より大きいか否かが判定される。
【0040】
過冷房、若しくは、過暖房ではないと判定された場合には、S43において、車両が予定乗車位置近傍に接近しているか否かが判定される。この判定は、S21で取得されている位置情報に基づいて行われる。そして、車両が予定乗車位置近傍に接近していると判定された場合には、S44において、後方側空調装置112が停止させられ、S45において、仕切状態が解除されて、本プログラムの1回の実行が終了する。なお、S42で過冷房、若しくは、過暖房と判定された場合には、S43の処理がスキップされ、S44,45の処理が行われる。また、S43で車両が予定乗車位置近傍に接近していないと判定された場合には、S42の前に戻り、後方スペース24の過冷暖房、若しくは、予定乗車位置付近への到着が行われない限り、後方スペース24の冷暖房を継続する。
【0041】
また、上記空調システム制御プログラムが実行されて機能する空調システム110のECU50は、その実行処理に依拠すれば、前方スペース温度調整部100は、上記S32〜S35の処理を実行する機能部、つまり、前席14,16のみに乗員が乗っている場合に前方スペース22のみの温度調整を行う機能部であり、後方スペース温度調整部106は、S38〜S45の処理を実行する機能部、つまり、後方スペース24に乗員が乗り込んでくる予定がある場合に、後方スペース24の温度調整を予め行う機能部である。なお、乗込想定時間取得部102および室温変更時間推定部104は、上記空調システム10のものと全く同じ機能部である。
【0042】
ちなみに、上記実施例および変形例において、車両用空調システム10,110は、車両用空調システムの一例であり、車室仕切装置26は、車室仕切装置の一例である。また、空調装置28および前方側空調装置28は、前方側空調装置の一例であり、室温変更ユニットを構成するものである。また、後方側空調装置112は、後方スペース温度変更装置の一例であり、室温変更ユニットを構成するものである。さらに、ECU50は、制御装置の一例であり、そのECU50の前方スペース温度調整部100,乗込想定時間取得部102,室温変更時間推定部104,後方スペース温度調整部106は、それぞれ、前方スペース温度調整部,乗込想定時間取得部,室温変更時間推定部,後方スペース温度調整部の一例である。なお、ナビゲーションシステム80は、ナビゲーションシステムの一例である。
【0043】
なお、本発明は、上記実施例および変形例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。具体的には、例えば、上記実施例および変形例では、車室仕切装置として、エア袋体30という固体の部材によって車室を2つのスペースに仕切る装置を採用していたが、例えば、気流による壁を形成し、その気流の壁によって車室を仕切るような装置、具体的には、例えば、エアカーテン装置等を採用してもよい。
【0044】
また、上記変形例では、後方スペース温度変更装置として、後方スペースに吹出口を有する空調装置を採用していたが、ヒータ等を後席に内蔵させて、そのヒータ等によって後方スペース内の温度を変更する装置を採用してもよい。具体的には、シート内部に配管を設置し、その配管内に冷温水を流すことで、後方スペース内の温度を変更可能な装置、若しくは、シートヒータ等を採用することが可能である。なお、そのような装置を採用する場合には、室温変更時間を推定する際に用いられる物理量として、例えば、後席の表面積,後席の熱伝導率等を採用することができる。
【0045】
また、上記実施例および変形例では、座席が2列並べられた車両を採用していたが、座席が3列以上並べられた車両を採用してもよい。このように、座席が3列以上並べられた車両を採用する場合には、車室仕切装置は、1列目の座席、つまり、運転席等と2列目の座席との間を仕切るものであってもよく、2列目以降の座席とその座席の後ろの座席、具体的にいえば、例えば、2列目の座席と3列目の座席との間を仕切るものであってもよい。
【0046】
また、上記実施例および変形例では、乗込想定時間をナビゲーションシステムによって得られた情報に基づいて推定していたが、乗員自らが推定し、その推定した時間をコントローラに入力してもよい。つまり、乗込想定時間取得部は、乗込想定時間を乗員の入力によって取得するものであってもよい。
【符号の説明】
【0047】
10:車両用空調システム
20:車室
22:前方スペース
24:後方スペース
26:車室仕切装置
28:空調装置(前方側空調装置)(室温変更ユニット)
50:電子制御ユニット(制御装置)
80:ナビゲーションシステム
100:前方スペース温度調整部
102:乗込想定時間取得部
104:室温変更時間推定部
106:後方スペース温度調整部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室内を、前方に設けられた座席が配置されている前方スペースと後方に設けられた座席が配置されている後方スペースとに仕切った状態である仕切状態と仕切っていない状態である非仕切状態とで切換可能な車室仕切装置と、
前記前方スペースに吹出口を有する前方側空調装置を含んで構成され、車室内の温度を変更可能な室温変更ユニットと、
前記車室仕切装置を制御することで、前記仕切状態と前記非仕切状態とのいずれかを選択的に実現するとともに、前記室温変更ユニットを制御することで、車室内の温度を調整するように構成された制御装置と
を備え、
前記制御装置は、
前記前方スペースにのみ乗車している場合に、前記仕切状態を実現しつつ、前記前方側空調装置によって前記前方スペース内の温度を調整する前方スペース温度調整部と、
前記前方スペースにのみ乗車している場合に、前記後方スペースに乗車予定者が乗り込んでくると想定される迄の時間である乗込想定時間を取得する乗込想定時間取得部と、
前記後方スペース内の温度を任意の温度に変更するのに必要な時間である室温変更時間を推定する室温変更時間推定部と、
前記乗込想定時間が前記室温変更時間以下であることを条件として、前記前方スペースにのみ乗車している場合であっても、前記室温変更ユニットによって前記後方スペース内の温度を調整する後方スペース温度調整部と
を有することを特徴とする車両用空調システム。
【請求項2】
前記後方スペース温度調整部は、
前記非仕切状態を実現しつつ、前記前方側空調装置によって前記後方スペース内の温度をも調整することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調システム。
【請求項3】
前記室温変更ユニットは、
さらに、前記後方スペース内の温度を変更可能な後方スペース温度変更装置を含んで構成され、
前記後方スペース温度調整部は、
前記仕切状態を実現しつつ、前記後方スペース温度変更装置によって前記後方スペース内の温度を調整することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調システム。
【請求項4】
前記乗込想定時間取得部が、
ナビゲーションシステムによって得られた情報に基づいて前記乗込想定時間を推定することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の車両用空調システム。
【請求項5】
前記室温変更時間推定部は、
前記後方スペース内の温度変化に影響する物理量に基づいて前記室温変更時間を推定することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の車両用空調システム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−192816(P2012−192816A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−57696(P2011−57696)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】