説明

車両用空調制御装置

【課題】コンプレッサ22の駆動に伴うエンジン10の燃料消費量を低減させることのできる車両用空調制御装置を提供する。
【解決手段】エバポレータ28で熱交換された空気の温度(実エバ温度)をその目標値に制御すべく、コンプレッサ22等が通電操作されるエアコンシステムが車両に搭載される。ここで、雨滴検出装置54の備える冷却装置によって窓ガラス48の内表面が強制的に冷却されて上記内表面に結露が発生するタイミングにおける窓ガラス48の温度及び車室内温度に基づき、車室内湿度を算出する。そして、算出される車室内湿度が低いほど、上記目標値を高く設定する処理を行い、コンプレッサ22の駆動エネルギを低減させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載動力発生装置によって駆動されて冷媒を圧縮する電子制御式の空調用圧縮機と、該圧縮機から吐出供給される冷媒を蒸発させて自身を通過する空気を冷却する蒸発器とを有する空気調節システムを備える車両に適用される車両用空調制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の制御装置としては、蒸発器において冷却・除湿された空気を用いて、車室内温度をその目標値に制御しつつ、車室内を除湿する空調制御を行うものが知られている(例えば下記特許文献1参照)。これにより、車室内の快適性の維持を図っている。
【0003】
ここで、上記空調制御において、車室内に供給する空気を除湿することを目的として、蒸発器で空気を過度に冷却すべく、圧縮機の冷媒吐出量を大きく設定する処理がなされることがある。この場合、除湿された空気の温度を所望の温度まで上昇させるべく、除湿された空気を再加熱するいわゆるリヒートが行われることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−256496号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車室内の空調状態にかかわらず一律にリヒートが行われる状況下においては、圧縮機の駆動に伴う車載動力発生装置の消費エネルギが増大する懸念がある。これは、蒸発器にて要求される除湿度合いが高くないにもかかわらず、除湿のために圧縮機によって蒸発器に冷媒が過剰に供給されることによるものである。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、圧縮機の駆動に伴う車載動力発生装置の消費エネルギを低減させることのできる車両用空調制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0008】
請求項1記載の発明は、車載動力発生装置によって駆動されて冷媒を圧縮する電子制御式の空調用圧縮機と、該圧縮機から吐出供給される冷媒を蒸発させて自身を通過する空気を冷却する蒸発器とを有する空気調節システムを備える車両に適用され、前記蒸発器によって冷却された空気を用いて車室内の空調制御を行う車両用空調制御装置において、車室内湿度を取得する湿度取得手段と、前記湿度取得手段によって取得される車室内湿度が低いほど、前記圧縮機の通電操作によって該圧縮機の冷媒吐出量を低下させる処理を行う吐出量低下手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
車室内湿度が低い状況下においては、蒸発器における空気の除湿度合いを低下させても、車両のユーザに不快感を与えるおそれが少ないと考えられる。この点に鑑み、上記発明では、吐出量低下手段を備えることで、車室内湿度が低いほど、例えば連続的又は段階的に、蒸発器における除湿度合いを低下させるべく圧縮機の冷媒吐出量を低下させる。このため、ユーザの快適性を維持しつつ、圧縮機の駆動に伴う車載動力発生装置の消費エネルギを低減させることができる。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記蒸発器の温度又はこれと相関を有するパラメータの値をその目標値に制御する手段を更に備え、前記吐出量低下手段は、前記低下させる処理として、前記湿度取得手段によって取得される車室内湿度が低いほど、前記目標値を高く設定する処理を行うことを特徴とする。
【0011】
上記目標値が高いほど、蒸発器に供給すべき冷媒量が少なくなることから、圧縮機の駆動エネルギが小さくなる傾向にある。ここで、上記発明では、車室内湿度が高いほど上記目標値を高く設定することで、圧縮機の駆動エネルギを適切に低減させることができる。
【0012】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記車両には、車室内に設けられる所定部材を冷却する冷却装置が更に備えられ、前記冷却装置によって前記所定部材が強制的に冷却されて該所定部材の表面に結露が発生するタイミングにおける前記所定部材の温度及び車室内温度に基づき前記車室内湿度を算出する算出手段を更に備え、前記湿度取得手段は、前記算出手段によって算出される車室内湿度を取得することを特徴とする。
【0013】
所定部材の表面に結露が発生し始めるタイミング(所定部材付近の相対湿度が100%RHとなるタイミング)における所定部材の温度及び車室内温度と、車室内湿度とは相関関係を有する。この点に鑑み、上記発明では、冷却装置を用いた上記手法によって車室内湿度を算出する。このため、例えば車室内湿度を直接検出するセンサを備えることなく、車室内湿度を把握することができる。
【0014】
請求項4記載の発明は、請求項3記載の発明において、前記所定部材は、前記車両の窓ガラスであり、前記車両には、前記窓ガラスの外表面に付着する雨滴を検出する光学式の雨滴検出装置と、該雨滴検出装置の検出結果に基づき前記窓ガラスに付着する雨滴を払拭するワイパ装置とが更に備えられ、前記雨滴検出装置は、前記窓ガラスの内表面に発生する結露を検出する機能を有し、前記算出手段は、前記雨滴検出装置によって検出される結露発生タイミングにおける前記窓ガラスの温度及び車室内温度に基づき、前記車室内湿度を算出することを特徴とする。
【0015】
上記発明では、ワイパ装置の駆動制御に用いる雨滴検出装置を、車室内湿度の算出のために流用している。このため、車室内湿度の検出に要する機器のコストの増大を抑制することなどができる。
【0016】
請求項5記載の発明は、請求項3又は4記載の発明において、前記車両には、前記冷却装置によって前記所定部材の表面に発生した結露を除去する電子制御式の結露除去装置が更に備えられ、前記冷却装置によって前記所定部材が強制的に冷却されるに先立ち、前記所定部材の表面の結露を除去すべく、前記結露除去装置を通電操作する手段を更に備えることを特徴とする。
【0017】
車室内湿度の算出精度を向上させるためには、所定部材の表面に結露が発生するタイミングにおける所定部材の温度の把握が要求される。ここで、上記発明では、冷却装置によって所定部材が強制的に冷却されるに先立ち、結露除去装置によって所定部材の表面の結露を除去する。これにより、算出手段による車室内湿度の算出精度の低下を回避することができる。
【0018】
請求項6記載の発明は、請求項5記載の発明において、前記結露除去装置は、前記所定部材を加熱するヒータであることを特徴とする。
【0019】
上記発明では、ヒータによって所定部材を加熱することで所定部材の表面の結露を適切に除去することができる。
【0020】
請求項7記載の発明は、請求項5記載の発明において、前記結露除去装置は、前記所定部材付近を換気するファンであることを特徴とする。
【0021】
上記発明では、ファンによって所定部材付近を換気することで所定部材の表面の結露を適切に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】一実施形態にかかるシステム構成図。
【図2】一実施形態にかかる雨滴検出装置の構成を示す図。
【図3】一実施形態にかかるリヒートの有無及びエンジンの燃料消費の関係を示す図。
【図4】一実施形態にかかる空調制御処理の手順を示すフローチャート。
【図5】その他の実施形態にかかる雨滴検出装置の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明にかかる制御装置を具体化した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
図1に、本実施形態にかかるエンジンシステム及び空気調節システム(エアコンシステム)の全体構成を示す。
【0025】
図示されるように、エンジン10の各気筒には、燃料タンク12から供給される燃料をエンジン10の燃焼室に供給する燃料噴射弁14が備えられている。燃料噴射弁14から供給された燃料の燃焼によって発生するエネルギは、エンジン10の出力軸(クランク軸16)の回転動力として取り出される。
【0026】
一方、エアコンシステムは、車室内に温風又は冷風を供給する空気通路を形成する空調ケース18と、この空気通路を流れる空気を冷却・除湿するための冷凍装置20とを備えて構成されている。
【0027】
冷凍装置20は、冷凍サイクルに冷媒を循環させるべく冷媒を吸入・吐出するコンプレッサ22や、このコンプレッサ22から吐出供給される冷媒が凝縮されるコンデンサ24、凝縮された冷媒が流入するレシーバ26、更にはエバポレータ28(蒸発器)等を備えて構成されている。
【0028】
上記コンプレッサ22は、これが備える電磁駆動式のコントロールバルブ(CV22a)の通電操作によって冷媒吐出量を連続的に可変設定可能な可変容量型圧縮機である。コンプレッサ22の駆動軸に機械的に連結されたプーリ30は、ベルト32及びクランクプーリ34を介してクランク軸16と機械的に連結されている。このクランク軸16の回転動力がコンプレッサ22に伝達される状況下、CV22aへの通電操作により冷媒吐出量が調節される。ここでは、コンプレッサ22の冷媒吐出量が大きいほど、コンプレッサ22の駆動に要する動力が大きくなる。
【0029】
コンデンサ24は、DCモータ等によって回転駆動される図示しないファンから送風される空気等と、コンプレッサ22から吐出供給される冷媒との熱交換が行われる部材である。レシーバ26は、コンデンサ24より流入した冷媒を気液分離して且つ分離された液冷媒を一時的に貯蔵し、液冷媒のみを下流側に供給するために設けられる部材である。
【0030】
レシーバ26に貯蔵された液冷媒は、温度式膨張弁36によって急激に膨張され霧状とされる。霧状とされた冷媒は、エバポレータ28に供給される。エバポレータ28は、上記空調ケース18内に設けられており、エバポレータ28において、空調ケース18の空気通路を流れる空気と上記霧状とされた冷媒とが熱交換することで冷媒が気化する。これにより、空気通路を流れる空気が冷却・除湿される。なお、上記空気通路のうちエバポレータ28の下流側付近には、エバポレータ28で熱交換された空気の温度(エバポレータ28の空気側出口温度、以下、実エバ温度)を検出するエバ温度センサ37が設けられている。また、エバポレータ28で気化した冷媒は、コンプレッサ22の吸入口に吸入される。
【0031】
一方、上記空調ケース18は、車両の車室内の前方側(例えばインストルメントパネルの内側)に配置されており、空調ケース18内には、このケース内の空気通路に空気流を生じさせるブロワ38や、上記エバポレータ28、更には空気通路を流れる空気を加熱するヒータコア40等が設けられている。
【0032】
ここで、ブロワ38は、DCモータ等によりファンが回転駆動されることで空気流を生じさせる送風機(遠心式送風機)である。ブロワ38により空気流を生じさせることで、空調ケース18に形成された内気吸込口42aから車室内の空気(内気)を導入したり、同ケースに形成された外気吸込口42bから車室外の空気(外気)を導入したりする。なお、これら吸込口の内側には、サーボモータ等により駆動されるインテークドア44が設けられている。インテークドア44が駆動されることで、これら吸込口のうちいずれかが開状態とされ、外気及び内気のうちいずれかが空調ケース18内に導入される。
【0033】
ブロワ38により送風された空気は、上記エバポレータ28、ヒータコア40を通過して所望の温度となるよう熱交換される。詳しくは、エバポレータ28は、ブロワ38下流側の空気通路を全面塞ぐように設けられ、ヒータコア40は、エバポレータ28下流側の空気通路を部分的に塞ぐように設けられている。ヒータコア40の内部には、図示しない冷却水配管から供給されるエンジン10の冷却水が流れている。ヒータコア40では、空気通路を流れる空気と上記冷却水とが熱交換することで、空気通路を流れる空気が加熱される。なお、エバポレータ28とヒータコア40との間には、サーボモータ等により駆動されるエアミックスドア46が設けられている。エアミックスドア46は、その停止位置によって、ヒータコア40を通過する空気量とヒータコア40を迂回する空気量との割合を調節する。これにより、空気通路を流れる空気の温度を調節する。
【0034】
エバポレータ28やヒータコア40を通過した空気は、空調ケース18に形成された複数の吹出口から車室内へと供給される。詳しくは、空調ケース18には、フロント窓ガラス(窓ガラス48)の内面に向かって空気を吹き出すデフロスタ吹出口50aや、乗員の頭胸部に向かって空気を吹き出すフェイス吹出口50b、更には乗員の足元部に向かって空気を吹き出すフット吹出口50cが形成されている。これら吹出口の内側には、サーボモータ等により駆動される2個の吹出口切替ドア52a、52bが設けられている。これら吹出口切替ドア52a、52bが駆動されることで、吹出口モードがフェイスモード(FACEモード)や、デフロスタモード(DEFモード)、フットモード(FOOTモード)等のいずれかに切り替えられる。
【0035】
ちなみに、FACEモードは、空気通路に導入された空気の全量をフェイス吹出口50bから吹き出すモードである。また、DEFモードは、上記導入された空気の全量をデフロスタ吹出口50aから吹き出すモードである。更に、FOOTモードは、上記導入された空気の大部分(約80%)をフット吹出口50cから吹き出すとともに、残りの空気をデフロスタ吹出口50aから吹き出すモードである。
【0036】
窓ガラス48の内表面には、雨滴検出装置54が設けられている。この装置は、後述するワイパ装置68の駆動等に用いられるものである。以下、図2を用いて、この装置について説明する。
【0037】
図2は、雨滴検出装置54の断面図である。
【0038】
図示されるように、雨滴検出装置54は、発光素子56、受光素子58、窓ガラス温度センサ60、車室内温度センサ62、冷却装置64、これらを自身の内部に収容する筐体(ケース66)、及び換気ファン67等を備えて構成される光学式センサである。
【0039】
上記ケース66は、例えば樹脂にて一体成型される部材である。ケース66の形状は、箱形状であり、より詳しくは、直方体のうち底面(窓ガラス48に対向する面)が全面的に開放されて且つ、直方体のうち対向する一対の側面の一部にそれぞれに開口部を有する形状である。これら一対の開口部によってケース66の内部空間が車室内と常時連通するようになっている。ちなみに、窓ガラス48の内表面のうちケース66によって覆われる面には、遮光フィルムが貼り付けられている。遮光フィルムは、金属材料からなる薄膜状部材であり、窓ガラス48を通過して光がケース66内部に進入することを防止する機能を有する。
【0040】
窓ガラス温度センサ60は、窓ガラス48の温度(内表面温度)を検出する機能を有するものであり、上記遮光フィルム上に設けられている。また、車室内温度センサ62は、車室内温度を検出する機能を有するものである。
【0041】
発光素子56は、レンズ68aを介して窓ガラス48外側の所定の検出領域に向かって光(赤外線)を発する機能を有する。また、受光素子58は、発光素子56から発されて且つ窓ガラス48により反射された光をレンズ68bを介して受光し、受光量に応じた信号を出力する機能を有する。なお、本実施形態では、発光素子56として、発光ダイオードを想定しており、受光素子58として、受光量に応じて出力電流が変化するフォトダイオードを想定している。
【0042】
冷却装置64は、窓ガラス48の内表面のうち自身の周囲(窓ガラス48の内表面のうち、窓ガラス48を挟んで上記検出領域と対向する所定領域)を冷却する機能を有する。本実施形態では、冷却装置64として、一対の金属板状の部材が接合され、通電によって一方の金属から他方の金属へと熱を移動させることで、窓ガラス48の内表面近傍を局所的に冷却するペルチェ素子を想定している。ちなみに、上記窓ガラス温度センサ60は、窓ガラス48の内表面のうち上記所定領域の温度を検出可能に設けられている。
【0043】
換気ファン67は、DCモータ等によって回転駆動されるものであり、ケース66の側面に形成された開口部(換気口65)から空気を流出入させてケース66内を換気する機能を有する。
【0044】
次に、雨滴検出装置54による窓ガラス48の外表面に付着する雨滴(水滴)の検出手法について説明する。
【0045】
窓ガラス48の外表面の検出領域に雨滴Dが付着していない場合、発光素子56から発される光は窓ガラス48の外面側で全て反射されて受光素子58で受光される。
【0046】
一方、上記検出領域に雨滴Dが付着する場合には、発光素子56から発される光の一部は、検出領域に付着した雨滴Dを介して窓ガラス48を透過することとなる(図中一点鎖線の矢印にて表記)。このため、受光素子58によって受光される光量が減少する。すなわち、検出領域のうち雨滴Dが付着する面積の割合が高いほど、窓ガラス48の外側に透過する光量が多くなり、受光素子58によって受光される光量が少なくなる。こうした原理を利用することで、受光素子58の出力電流に基づき窓ガラス48に付着する雨滴量を検出する。
【0047】
ちなみに、雨滴検出装置54によれば、窓ガラス48の内表面に発生する結露を検出することもできる。これは、窓ガラス48に水滴が付着すると、窓ガラス48を透過する光量が多くなる上述した原理によるものである。
【0048】
図1の説明に戻り、上記車両には、窓ガラス48の外表面に付着した雨滴を払拭するワイパ装置68が設けられている。ワイパ装置68は、ユーザによって操作されるワイパスイッチ69の操作状態に応じて図示しないワイパブレードを作動させることで、窓ガラス48に付着した雨滴を払拭する。
【0049】
エンジンシステム及びエアコンシステムを操作対象とする電子制御装置(以下、ECU70)は、周知のCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成されている。ECU70には、車室内温度の目標値(目標室内温度)を設定する目標温度設定スイッチ72や、車室内を冷房・除湿すべくコンプレッサ22の駆動指令となるA/Cスイッチ74、ユーザが吹出口モードを切り替えるべく操作対象とされる吹出口切替スイッチ76、ユーザが内気モード又は外気モードを切り替えるべく操作対象とされる内外切替スイッチ77、エバ温度センサ37、雨滴検出装置54、更にはワイパスイッチ69等の出力信号が入力される。ECU70は、これら入力に応じてROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、燃料噴射弁14による燃料噴射制御処理や、ワイパ装置68の通電処理、更にはブロワ38、コンプレッサ22及びエアミックスドア46等の通電操作による車室内の空調制御処理等を行う。
【0050】
なお、エンジンシステム及びエアコンシステムのそれぞれは、実際には各別の制御装置によって操作されるが、ここではこれら制御装置を合わせてECU70と表記している。
【0051】
上記ワイパ装置68の通電処理は、ワイパスイッチ69によるワイパブレードの動作モードの選択状態に応じてワイパ装置68を駆動させる処理となる。ここで、ワイパスイッチ69によってAUTOモードが選択される場合、雨滴検出装置54による雨滴の検出結果に基づき、ワイパブレードを自動的に動作させるワイパ自動制御処理を行う。
【0052】
特に、ECU70は、上記空調制御処理として、デフロスタ吹出口50aから温風を吹き出すことで窓ガラス48の曇り(窓ガラス48の内表面の結露)を除去する防曇制御処理を行う。防曇制御処理は、吹出口切替スイッチ76を介してユーザからこの制御指示がなされた場合等に行われるものである。
【0053】
また、ECU70は、空調制御処理として、A/Cスイッチ52がオンされることを条件として、車室内温度を目標室内温度まで低下させるべく、各種機器を通電操作する基本空調制御処理を行う。
【0054】
この処理について詳述すると、まず、車室内温度を目標室内温度とするための要求吹出口温度(空調ケース18に形成された吹出口において要求される空気温度)を実現可能なように実エバ温度の目標値(目標エバ温度)を設定する。ここで、目標エバ温度は、内気吸込口42a又は外気吸込口42bから空調ケース18内へと流入した空気を除湿すること等を目的として、吹出口温度として要求され得る温度範囲(例えば15〜20℃)よりも十分に低い温度(例えば4〜10℃)に設定される。この設定は、ユーザの快適性を維持するためのものである。なお、車室内温度は、雨滴検出装置54内に設けられる車室内温度センサ62の出力値に基づき算出し、目標室内温度は、目標温度設定スイッチ72の出力値に基づき算出すればよい。
【0055】
次に、エバ温度センサ37の出力値から算出される実エバ温度を目標エバ温度に制御すべく、CV22aを通電操作する処理を行う。具体的には、目標エバ温度に対して実エバ温度が高いほど、コンプレッサ22の冷媒吐出量が大きくなるようにCV22aを通電操作する。
【0056】
そして、実エバ温度が要求吹出口温度よりも低い場合、実エバ温度を要求吹出口温度まで上昇させることを目的として、ヒータコア40を通過させる空気量(再加熱させる空気量)を調節すべく、エアミックスドア46を通電操作するリヒートを行う。こうして温調された空気を車室内に供給することで、車室内温度を目標室内温度とすることが可能となる。
【0057】
ところで、上記空調制御処理では、目標エバ温度が常に低めに設定されることで、エバポレータ28における空気の除湿度合いが大きくなる傾向にある。このため、ユーザが快適と感じる車室内湿度の上限値である上限湿度(例えば50〜60%RH)に対して車室内湿度が過度に低く維持される傾向にある。
【0058】
ここで、車室内湿度を過度に低く維持しなくても、実際の車室内湿度を上限湿度以下に維持できれば、エバポレータ28における空気の除湿度合いを低下させつつ、リヒートによる再加熱度合いを低下させる手法を採用することで、要求吹出口温度を実現し、ユーザの快適性を維持可能であると考えられる。そして、上記手法によれば、ユーザの快適性を維持しつつコンプレッサ22の駆動エネルギを低減させることができ、コンプレッサ22の駆動に伴うエンジン10の燃料消費量の低減を図ることが可能であると考えられる。
【0059】
図3に、リヒートがエンジン10への投入燃料熱量(エンジン10の燃料消費量に相当)に及ぼす影響を調べた実験結果を示す。詳しくは、図3は、目標室内温度が25℃に設定されて且つ目標エバ温度が10℃に設定される状況下、空調ケース18に導入される空気の湿度が60%とされる場合について示している。
【0060】
図示されるように、リヒートを行わない場合(同図(c))には、リヒートを行う場合(同図(a))と比較して、エンジン10への投入燃料熱量が6.0%減少している。すなわち、エンジン10の燃料消費量が低減されている。これは、コンプレッサ22の駆動エネルギのうちリヒートによる空気の温度上昇分に対応するエネルギが低減されたためである。なお、同図(b)に示す結果は、リヒートによる再加熱度合いを(c)に示す場合よりも大きくしたものである。
【0061】
こうした点に鑑み、本実施形態では、車室内湿度が低いほど、目標エバ温度を高く設定して且つ、リヒートによる再加熱度合いを低下させる空調制御処理を行うことで、コンプレッサ22の駆動に伴うエンジン10の燃料消費量の低減を図る。
【0062】
図4に、本実施形態にかかる空調制御処理の手順を示す。この処理は、ECU70によって例えば所定周期で繰り返し実行される。ちなみに、図4に示す空調制御処理は、上記基本空調制御処理とは別に実行され、上記所定周期は、基本空調制御処理の処理周期よりも十分に長い時間とする。
【0063】
この一連の処理では、まずステップS10において、ワイパスイッチ69の操作によって「AUTOモード」が選択されているか否かを判断する。
【0064】
ステップS10において、「AUTOモード」が選択されていると判断された場合には、ステップS12に進み、雨滴検出装置54の検出結果に基づくワイパ自動制御処理を行う。
【0065】
一方、上記ステップS10において否定判断された場合には、ステップS14に進み、窓ガラス48の内表面に曇りが生じたか否かを判断する。ここで、曇りが生じたか否かは、雨滴検出装置54の検出結果に基づき判断すればよい。
【0066】
ステップS14において窓ガラス48の曇りが生じたと判断された場合には、ステップS16に進み、防曇制御処理を行う。
【0067】
一方、上記ステップS14において否定判断された場合には、ステップS18、S20において車室内湿度算出処理を行う。
【0068】
詳しくは、まず、ステップS18において、冷却装置64への通電によって窓ガラス48の内表面を強制的に冷却する。
【0069】
続くステップS20では、冷却装置64によって窓ガラス48内表面が強制的に冷却されて窓ガラス48内表面に結露が生じ始める(相対湿度が100%RHとなる)タイミングにおける窓ガラス48の温度Tws及び車室内温度Tinに基づき、車室内湿度Hinを算出する。この算出手法は、相対湿度が100%RHとなる場合の窓ガラス48の温度Tws及び車室内温度Tinを入力として、湿り空気線図を用いて車室内湿度Hinを算出可能であることに鑑みたものである。ここで、車室内湿度Hinは、具体的には例えば、窓ガラス48の温度Tws及び車室内温度Tinと車室内湿度Hinとが関係付けられたマップを用いて算出すればよい。
【0070】
続くステップS22では、車室内湿度Hinが低いほど、目標エバ温度Tetgtを高く設定して且つ、リヒートによる空気の再加熱度合いを低下させる処理を行う。本実施形態では、車室内湿度Hinが上記上限湿度以下であること、及び目標エバ温度Tetgtが要求吹出口温度を上回らないことを条件として、車室内湿度Hinが高いほど、目標エバ温度Tetgtを高く設定する。そして、目標エバ温度Tetgtが高くされるほど、リヒートによる空気の再加熱度合いを低下させる。具体的には、例えば、車室内湿度算出処理によって車室内湿度Hinを把握しつつ、目標エバ温度Tetgtを漸増させて且つリヒートによる空気の再加熱度合いを漸減させる。こうした処理によれば、例えば、要求吹出口温度が20℃とされる場合、車室内湿度が上限湿度以下となるならば、目標エバ温度Tetgtが20℃付近まで上昇されることとなる。
【0071】
ちなみに、本ステップの処理が行われると、基本空調制御処理において、目標エバ温度と、エアミックスドア46の停止位置が変更されることとなる。
【0072】
続くステップS24では、次回の車室内湿度算出処理の実行に備えて、窓ガラス48の内表面に付着した結露を除去する結露除去処理を行う。本実施形態では、結露除去処理として、換気ファン67の駆動によってケース66内を換気する処理を行う。この処理は、車室内湿度算出処理による車室内湿度Hinの算出精度の低下を回避するためのものである。
【0073】
つまり、今回の上記算出処理用に窓ガラス48の内表面に発生させた結露が次回の上記算出処理時まで残ると、結露発生タイミングにおける窓ガラス48の温度Tws及び車室内温度Tinの把握精度が低下し、車室内湿度Hinの算出精度が低下することが懸念される。このため、本ステップの処理を設けることで、次回の車室内湿度算出処理の開始時において、窓ガラス48の内表面に結露が発生している事態を回避する。
【0074】
なお、ステップS12、S16、S24の処理が完了する場合には、この一連の処理を一旦終了する。
【0075】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
【0076】
(1)冷却装置64を備える雨滴検出装置54を用いた車室内湿度算出処理によって車室内湿度Hinを算出した。このため、ワイパ自動制御処理用の雨滴検出装置54を流用して且つ、車室内湿度Hinを直接検出するセンサを備えることなく、車室内湿度Hinを的確に把握することができる。これにより、車室内湿度Hinの検出に要するセンサの追加に起因するコストの増大を抑制することなどができる。
【0077】
(2)車室内湿度Hinが高いほど、目標エバ温度Tetgtを高く設定した。このため、リヒートの実施を極力抑制することができ、コンプレッサ22の駆動エネルギを低減させることができる。これにより、コンプレッサ22の駆動に伴うエンジン10の燃料消費量を低減させることができる。
【0078】
(3)換気ファン67を用いた結露除去処理を行った。これにより、車室内湿度Hinの算出精度の低下を回避することができる。
【0079】
(その他の実施形態)
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0080】
・上記実施形態では、車室内湿度算出処理によって算出される車室内湿度Hinが低いほど、目標エバ温度Tetgtを高く設定する制御ロジックを採用したがこれに限らない。例えば、目標エバ温度Tetgtを維持しつつ、車室内湿度Hinが低いほど、ブロワ38の送風量を連続的又は段階的に低下させる制御ロジックを採用してもよい。ブロワ38の送風量を低下させると、エバポレータ28における冷媒と空気との熱交換量が少なくなることから、実エバ温度を目標エバ温度Tetgtに制御するために要求されるコンプレッサ22の冷媒吐出量が少なくなる。このため、コンプレッサ22の駆動に伴うエンジン10の燃料消費量の増大を抑制することができる。
【0081】
・上記実施形態では、車室内温度Tinを検出するセンサを、雨滴検出装置54内に設ける構成としたがこれに限らず、雨滴検出装置54外(例えばインストルメントパネル付近)に設けてもよい。
【0082】
・上記実施形態において、車室内湿度Hinを直接検出するセンサ(例えば静電容量型の湿度センサ)を備え、このセンサの検出値を車室内湿度Hinとして取得してもよい。
【0083】
・実エバ温度としては、エバポレータ28の空気側出口温度に限らない。例えば、エバポレータ28内を流れる冷媒の温度やエバポレータ28の冷媒側出口温度を検出するセンサを備え、実エバ温度として、このセンサの出力値に基づき算出される冷媒温度を用いてもよい。
【0084】
また、実エバ温度としては、上述したエバポレータ28の温度と正の相関を有するパラメータの値に限らず、エバポレータ28の温度(表面温度)を用いてもよい。なお、エバポレータ28の表面温度は、例えば、エバポレータ28のフィンの温度を検出するセンサを備え、このセンサの出力値に基づき算出すればよい。
【0085】
・結露除去処理としては、上記実施形態に例示したものに限らない。例えば、図5に示すように、雨滴検出装置54内に窓ガラス48の内表面を加熱する電子制御式のヒータ78を備え、ヒータ78によって窓ガラス48を加熱することで、結露を除去する処理としてもよい。
【0086】
・上記実施形態では、コンプレッサ22を可変容量型のものとしたがこれに限らない。例えば、クランク軸16及びコンプレッサ22の駆動軸の間の動力を遮断又は伝達する電磁クラッチを有して且つ、駆動中は吐出容量が一定の固定容量型のものとしてもよい。この場合、実エバ温度を目標エバ温度Tetgtに制御すべく、規定期間中における電磁クラッチが遮断状態とされる時間と電磁クラッチが伝達状態とされる時間との比率(稼働率)が調節されることとなる。
【0087】
・冷却装置64によって冷却される所定部材としては、窓ガラス48に限らず、雨滴検出装置54の検出領域内にあることを条件に、他の部材(例えば、窓ガラスの内表面に設けられる板状の部材)としてもよい。また、冷却装置64としては、ぺルチェ素子に限らず、例えば、小型の冷凍装置であってもよい。
【0088】
・上記実施形態において、内外切替スイッチ77によって内気モードが選択される場合、車室内湿度Hinをその目標値(例えば上限湿度)にフィードバック制御すべく、目標エバ温度Tetgtを調節する処理を行ってもよい。これは、内気モードが選択される場合、エバポレータ28に流入する空気の湿度が車室内湿度算出処理によって算出される車室内湿度Hinと略同一となることに鑑みたものである。
【0089】
・コンプレッサ22の動力供給源となる車載動力発生装置としては、車載主機としてのエンジン10に限らず、例えば、車載蓄電池を電力供給源として駆動される回転機(モータジェネレータ)であってもよい。この場合であっても、車室内湿度Hinに基づく空調制御処理によってコンプレッサ22の駆動に伴うモータジェネレータの電力消費量を低減させることができる。
【0090】
また、車載動力発生装置としては、車載主機となるものに限らない。例えば、シリーズハイブリッド車両(レンジエクステンダ車両)に備えられる発電などに用いられる補機としてのモータジェネレータや、このモータジェネレータの駆動用のエンジンであってもよい。
【符号の説明】
【0091】
10…エンジン、22…コンプレッサ、28…エバポレータ、40…ヒータコア、48…窓ガラス、54…雨滴検出装置、60…窓ガラス温度センサ、62…車室内温度センサ、64…冷却装置、68…ワイパ装置、70…ECU(車両用空調制御装置の一実施形態)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載動力発生装置によって駆動されて冷媒を圧縮する電子制御式の空調用圧縮機と、該圧縮機から吐出供給される冷媒を蒸発させて自身を通過する空気を冷却する蒸発器とを有する空気調節システムを備える車両に適用され、前記蒸発器によって冷却された空気を用いて車室内の空調制御を行う車両用空調制御装置において、
車室内湿度を取得する湿度取得手段と、
前記湿度取得手段によって取得される車室内湿度が低いほど、前記圧縮機の通電操作によって該圧縮機の冷媒吐出量を低下させる処理を行う吐出量低下手段とを備えることを特徴とする車両用空調制御装置。
【請求項2】
前記蒸発器の温度又はこれと相関を有するパラメータの値をその目標値に制御する手段を更に備え、
前記吐出量低下手段は、前記低下させる処理として、前記湿度取得手段によって取得される車室内湿度が低いほど、前記目標値を高く設定する処理を行うことを特徴とする請求項1記載の車両用空調制御装置。
【請求項3】
前記車両には、車室内に設けられる所定部材を冷却する冷却装置が更に備えられ、
前記冷却装置によって前記所定部材が強制的に冷却されて該所定部材の表面に結露が発生するタイミングにおける前記所定部材の温度及び車室内温度に基づき、前記車室内湿度を算出する算出手段を更に備え、
前記湿度取得手段は、前記算出手段によって算出される車室内湿度を取得することを特徴とする請求項1又は2記載の車両用空調制御装置。
【請求項4】
前記所定部材は、前記車両の窓ガラスであり、
前記車両には、前記窓ガラスの外表面に付着する雨滴を検出する光学式の雨滴検出装置と、該雨滴検出装置の検出結果に基づき前記窓ガラスに付着する雨滴を払拭するワイパ装置とが更に備えられ、
前記雨滴検出装置は、前記窓ガラスの内表面に発生する結露を検出する機能を有し、
前記算出手段は、前記雨滴検出装置によって検出される結露発生タイミングにおける前記窓ガラスの温度及び車室内温度に基づき、前記車室内湿度を算出することを特徴とする請求項3記載の車両用空調制御装置。
【請求項5】
前記車両には、前記冷却装置によって前記所定部材の表面に発生した結露を除去する電子制御式の結露除去装置が更に備えられ、
前記冷却装置によって前記所定部材が強制的に冷却されるに先立ち、前記所定部材の表面の結露を除去すべく、前記結露除去装置を通電操作する手段を更に備えることを特徴とする請求項3又は4記載の車両用空調制御装置。
【請求項6】
前記結露除去装置は、前記所定部材を加熱するヒータであることを特徴とする請求項5記載の車両用空調制御装置。
【請求項7】
前記結露除去装置は、前記所定部材付近を換気するファンであることを特徴とする請求項5記載の車両用空調制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−14234(P2013−14234A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148616(P2011−148616)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【Fターム(参考)】