説明

車両用空調装置の等価温度演算装置

【目的】 最適な乗員の温調環境を構築するために、制御用等価温度を乗員の各部位の等価温度から求める。
【構成】 環境信号から車体温度を演算する車体温度演算手段150と、この車体温度と環境信号に乗員各部位の位置による重み付けを行って乗員の各部位の平均輻射温度を演算する乗員各部位輻射温度演算手段170と、気流速に吹出モード及び乗員の各部位の位置による重み付けを行って乗員各部位の気流速を演算する乗員各部位気流速演算手段180と、前記乗員各部位の平均輻射温度、乗員各部位の気流速、着衣量、吹出温度から乗員各部位の等価温度を演算する乗員各部位等価温度演算手段190と、この乗員各部位の等価温度から制御用等価温度を演算する制御用等価温度演算手段195とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、車両用空調装置の各制御機器を制御するために用いられる等価温度を演算する車両用空調装置の等価温度演算装置に関する。
【0002】
【従来の技術】国際規格ISO7730によれば、人間が温熱環境において快適と感じる指標は、気温、輻射熱、気流速、着衣量などにより数値化ができるとされ、その指標を空調装置の制御装置に利用したものが、特開平3−140738号公報に開示されている。
【0003】この引例は、室温、室内の気流速度、室内の平均輻射温度、室内の湿度、在室者の着衣量、及び在室者の活動量を検知する各々の検知手段と、検知した各データから快適指数(本願における等価温度)を算出する快適指数算出手段と、この快適指数に基づき空気調和温度の設定を自動的に変更する設定温度変更手段とを具備し、これによって室内の温熱環境が変化した場合でも、快適指数に基づいて空気調和温度の設定が自動的に変化されるために快適状態を維持可能とするものである。
【0004】また、特開平3−51650号公報においても、快適度(本願における等価温度)を室内温度、湿度、輻射温度、気流速、着衣量から演算し、この快適度によって空調関係機器を制御するものが開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述に引例に開示される空調装置は室内用のものであるために、在室者を一体として快適度(以下、等価温度)を演算しても何ら差し障りはないが、空調装置が乗員の近傍に配され、直接吹出空気が乗員に当たる車両用空調装置においては、乗員の空調条件を一体として演算すると、頭部、胸部、脚部において異なる体感を必要とするにも関わらず、乗員の体感を一体として制御するためにアンマッチな温調になるという問題点が発生する。
【0006】そこで、この発明は、最適な乗員の温調環境を構築するために、制御用等価温度を乗員の各部位の等価温度から求める車両用空調装置の等価温度演算装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】しかして、この発明を図1R>1において説明すると、環境信号として、少なくとも車室内温度、外気温度及び日射量を検出する環境信号検出手段100と、吹出口から吹き出す吹出空気の気流速を検出する気流速検出手段110と、吹出口から吹き出す吹出空気の吹出温度を検出する吹出温度検出手段120と、現状の吹出モードを検出する吹出モード検出手段130と、前記環境信号から乗員の着衣量を演算する着衣量演算手段140と、前記環境信号から車両の車体温度を演算する車体温度演算手段150と、この車体温度演算手段150によって演算された車体温度と前記環境信号に乗員各部位の位置に基づいて重み付けを付加する乗員各部位重み付け付加手段160と、この乗員各部位重み付け手段160によって付加された重み付けによって前記車体温度と前記環境信号から乗員各部位の平均輻射温度を演算する乗員各部位輻射温度演算手段170と、前記気流速検出手段110によって検出された気流速に、前記吹出モード検出手段130によって検出された吹出モードと乗員各部位の位置に従った重み付けによって乗員各部位の気流速を演算する乗員各部位気流速演算手段180と、前記乗員各部位輻射温度演算手段170によって演算された乗員各部位の輻射温度と、前記乗員各部位気流速演算手段180によっ演算された気流速と、前記着衣量演算手段140によって演算された着衣量と、前記吹出温度検出手段120によって検出された吹出温度とによって乗員各部位の等価温度を演算する乗員各部位等価温度演算手段190と、この乗員各部位等価温度演算手段190によって演算された各部位の等価温度を、乗員各部位の位置による重み付けによって演算し、制御用の等価温度を演算する制御用等価温度演算手段195とを具備することにある。
【0008】
【作用】したがってこの発明においては、環境信号検出手段100によって検出された環境信号から車体温度演算手段150において車体温度を演算し、この車体温度と前記環境信号に乗員各部位重み付け手段160によって乗員の各部位の位置における重み付けを付加し、この重み付けが付加された前記車体温度と前記環境信号から乗員各部位輻射温度演算手段170において乗員各部位の平均輻射温度を演算する。また、気流速検出手段110において検出された気流速と、吹出モード検出手段130によって検出された吹出モード及び乗員各部位の位置による重み付けから、乗員各部位気流速演算手段180において乗員各部位の気流速が演算され、前記乗員各部位の平均輻射温度、前記乗員各部位の気流速、着衣量演算手段140によって演算された着衣量、吹出温度検出手段120によって演算された吹出温度から、乗員各部位等価温度演算手段190によって乗員各部位の等価温度が演算される。さらに、この乗員各部位の等価温度から制御用等価温度演算手段195によって制御用等価温度が演算され、制御用等価温度に乗員各部位の等価温度が加味される事となるために、乗員の各部位の体感にあった空調制御が可能となるために上記課題が達成できるものである。
【0009】
【実施例】以下、この発明の実施例について図面により説明する。
【0010】図2において示す車両用空調装置は、空調ダクト1の最上流に内気導入口2と外気導入口3が設けられ、この内気導入口2と外気導入口3を適宜選択して開口するインテークドア4が設けられている。このインテークドア4の下流には、送風機5が設けられ、この送風機5の下流には膨張弁6、図示しないコンプレッサ、コンデンサ等と直列に配管結合されて冷房サイクルを構成するエバポレータ7が配されている。このエバポレータ7に下流には、熱源として、例えば図示しない走行用エンジンの冷却水が流量制御弁8を介して流入するヒータコア9が配され、このヒータコア9の上流側には、このヒータコア9を通過する空気量を調節するエアミックスドア10が設けられている。
【0011】空調ダクト2の最下流にはデフ吹出口11、ベント吹出口12、フット吹出口13が開口しており、この各吹出口11,12,13にはこの各吹出口11,12,13を適宜開口するモードドア14が設けられている。
【0012】以上の構成の車両用空調装置において、送風機5の稼動により内気導入口2若しくは外気導入口3から吸入された空気は、エバポレータ7を通過することによって所定の温度に冷却され、エアミックスドア10の開度によってヒータコア9を通過する空気と迂回する空気に分割される。これによって、ヒータコア9を迂回した冷却されたままの空気とヒータコア9を通過して加熱された空気は、ヒータコア9の下流側で混合されて所望の温度に温調された空気となり、モードドア14によって選択された吹出口より車室内に吹き出し、車室内を温調するものである。
【0013】この車両用空調装置を制御するために、少なくとも中央演算処理装置(CPU)、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読出専用メモリ(ROM)、入出力ポート(I/O)等からなるそれ自体公知のマイクロコンピュータ15が設けられており、このマイクロコンピュータ15には、環境信号検出手段100としての車室内温度を検出する車室内温度センサ21、外気温度を検出する外気温度センサ22及び日射量を検出する日射センサ23、吹出空気温度検出手段120としての吹出口11,12,13から吹き出す吹出空気の温度を検出する吹出温度センサ24、吹出モード検出手段130としてのモードドア14を駆動するアクチュエータ30に取付られ、吹出モードを検出するためにモードドアの位置を検出するポテンショメータ25からの信号が、マルチプレクサ(MPX)16、A/D変換器17を介して入力され、さらに図示しない各種設定スイッチ(ON/OFFスイッチ、AUTOスイッチ、温度設定スイッチ、送風機設定スイッチ、モード設定スイッチ等)及び表示部からなる操作パネル26からの設定信号が入力されるものである。
【0014】このマイクロコンピュータ15においては所定のプログラムに従って前記入力信号及び設定信号が処理され制御信号として駆動回路27a,27b,27c,27dを介して各空調制御機器を制御するものである。尚、この空調制御機器は、例えばインテークドア4を駆動するアクチュエータ28、エアミックスドア10を駆動するアクチュエータ29、モードドア14を駆動するアクチュエータ30、送風機のモータ31及び図示しないコンプレッサ等を指すものである。
【0015】以下、このマイクロコンピュータ15において実行される処理を示すフローチャートにしたがって説明する。
【0016】図3に示すフローチャートは、車両用空調制御装置のメイン制御ルーチンを示すもので、処理の開始によりステップ200から開始されるものである。
【0017】ステップ300においては、前記車室内温度センサ21からの車室内温度信号Tinc 、前記外気温度センサ22からの外気温度信号Tamb 、日射センサ23からの日射量信号Qsn、ベント吹出温度センサ24aからの吹出温度信号Tair 、フット吹出温度センサ24bからの吹出温度信号Tair f 、ポテンショメータ25からの吹出モード信号Tmode、及び送風機5に供給されるファン電圧Vfan ref が少なくとも入力されるものである。
【0018】ステップ400においては、図5に示す特性線図に基づき外気温度Tamb から着衣量Iclが演算される(着衣量演算手段150)。この着衣量Iclは、外気温度Tamb が温度γ1 (例えば−30℃)以下の時に最大値β1 となり、温度γ2(例えば、30℃)以上の場合には最低値β2 となり、その間(γ1 〜γ2 )の間は、β1 〜β2 に向かってリニアに漸減するように設定されているものである。
【0019】尚、この実施例においては、着衣量Iclを外気温度Tamb のみから演算したが、日射量Qsn、車室内温度Tinc を加味して求めることもできるものである。例えば、日射が強い場合には着衣量Iclを日射量Qsnに比して小さく設定するようにしても良いし、車室内温度Tinc が高い場合には、乗員が室内で上着を脱ぐ可能性があるとして所定値下げることも可能である。
【0020】前記ステップ400において着衣量Iclが演算された後、ステップ500においては、図4で示す等価温度演算ルーチンが開始され、ステップ510において下記する数式1に示される基本式(微分方程式)により車体温度(車体内壁温度)Tb が演算される(車体温度演算手段140)。
【0021】
【数1】M*dTb /dT=a1 *{dQsn−b1 *(Tb −Tamb )−N1 *(Tb−Tinc )}
【0022】尚、M,a1 ,b1 ,N1 は演算定数である。
【0023】ステップ520においては、変数nに初期値“1”を設定し、ステップ530において、演算定数K1 ,K2 ,K3 で示される重み付けの設定を行う。図6R>6に示す表において、先ず変数nが“1”である場合には、乗員の各部位の内、頭部(Head)の位置の重み付けが例えば、K1 は0.1、K2 は0.5、K3 は前記吹出モード信号Tmodeがベントモード(VENT)の場合は0.8、バイレベル(BI/L)の場合は0.3、ヒートモード(HEAT)の場合は0.1と設定され、同様に下記するステップ570において加算され、変数nが“2”になった場合には胸部(Chest)の位置の重み付けが、変数nが“3”の場合には脚部(Foot)の位置の重み付けが設定されるものである。
【0024】これによって重み付けが設定されると、ステップ540においては、下記する数式2により平均輻射温度Trad(n)が演算される(乗員各部位輻射温度演算手段160)。
【0025】
【数2】Trad(n)=K1 *Tb +K2 *Qsn
【0026】尚、Trad(1)は頭部平均輻射温度、Trad(2)は胸部平均輻射温度、Trad(3)は脚部平均輻射温度を示すものである。これによって、変数nが“1”の場合には、頭部平均輻射温度Trad(1)を演算するために、車体温度Tb の影響を小さく、日射量Qsnの影響は大きいとして、例えばK1 に0.1、K2 に0.5を設定して演算し、変数nが“2”の場合には脚部平均輻射温度Trad(3)を演算するために、車体温度Tb と日射量Qsnの影響を同一してK1 に0.3、K2 に0.3を設定して演算し、さらに変数nが“3”の場合には脚部平均輻射温度Trad(3)を演算するために、車体温度Tb の影響が大きく、日射量Qsnの影響が小さいとしてK1 に0.5、K2 に0.1を設定して演算するものである。
【0027】ステップ550においては乗員各部位の気流速Va(n)が下記する数式3によって演算される(重み付け付加手段170)。
【0028】
【数3】Va(n)=K3 *Va ref
【0029】尚、Va refは、下記するファジー推論部900によって演算された気流速である(気流速検出手段110)。この実施例においては演算により気流速を求めたが、吹出口11,12,13近傍に風速計を配し、この風速計から直接風速を検出してもよいものである。
【0030】また、Va(1)は頭部気流速を示し、Va(2)は胸部気流速を示し、Va(3)は脚部気流速を示すものである。頭部気流速Va(1)は、例えばK3 の値がベント吹出モードの場合には0.8、バイレベルモードの場合には0.3、ヒートモードの場合には0.1と設定され、上吹出のベントモードの場合には影響が大きく、下吹出のヒートモードの場合には影響が小さくなるように演算されるものである。また、胸部気流速Va(2)は、バイレベルモード時に最大となるようにK3 の値を設定して演算され、さらに脚部気流速Va(3)はヒートモード時に最大となるようにK3 の値を設定して演算されるものである。これによって、気流速は、吹出モード及び乗員の部位による重み付けによって影響力を設定されて演算されるものである。
【0031】ステップ560においては乗員各部位の等価温度Teq(n) が下記する数式4により演算されるものである(乗員各部位等価温度演算手段180)。
【0032】
【数4】Teq(n) =A*Tair +B*{Trad(n)+(C−D*Va(n)1/2 )}*(E−Tair )/(1+Icl)
【0033】尚、A,B,C,D,Eは演算定数であり、Teq(1) は頭部等価温度、Teq(2) は胸部等価温度、Teq(3) は脚部等価温度を示すものである。これによって、頭部等価温度Teq(1) は、吹出温度Tair 、頭部平均輻射温度Trad(1)、頭部気流速Va(1)、着衣量Iclによって演算されるもので、同様に胸部等価温度Teq(2) 、脚部等価温度Teq(3) が順次演算されるものである。
【0034】ステップ570においては、変数nの値を1増やし(n+1を代入)、ステップ580においてこの変数nの値が“4”であるか否かを判定して、変数nが“2”若しくは“3”の場合にはステップ530からステップ560の処理を繰り返すようにし、頭部等価温度Teq(1) 、胸部等価温度Teq(2) 、及び脚部等価温度Teq(3) を順次演算するものである。これによって、脚部等価温度Teq(3) が演算された後は、ステップ570において変数nの値が“4”に設定されるために、ステップ580の判定によってステップ590に進むものである。
【0035】このステップ590においては、前記頭部等価温度Teq(1) 、胸部等価温度Teq(2) 、及び脚部等価温度Teq(3) を下記する数式5によって直接風を受ける部分の等価温度Teq Airを演算(制御用等価温度演算手段190)し、ステップ600からメイン制御ルーチンに復帰するものである。
【0036】
【数5】Teq Air=K5 *Teq(1) +K6 *Teq(2) +K7 *Teq(3)
【0037】尚、K5 ,K6 ,K7 は、各部位の重み付けを行う演算定数である。
【0038】したがって、乗員の各部位の等価温度から直接風を受ける部分の等価温度TeqAirが演算され、この等価温度によって各空調制御機器が制御されるために、乗員の要求にあったきめの細かいより快適な空調環境が得られるものである。
【0039】また、上述の車両用空調装置とは別の上下独立温調を行うことのできる空調装置においては、前記頭部等価温度Teq(1) を上部制御用等価温度として設定し、さらに前記脚部等価温度Teq(3) を下部制御用等価温度として設定することによってより快適な上下独立温調の制御を行うことができるものである。
【0040】ステップ700において実行される空調機器制御は、例えば図7のフローチャート図及び図8のブロック図に示すもので、以下このフローチャートの空調機器制御サブルーチン及びブロック図に従って説明する。尚、前記頭部等価温度Teq(1) 及び前記脚部等価温度Teq(2) によって上下独立温調を行なう場合においては、各々をTeq Airとして処理するものである。
【0041】ステップ701においては、車体外壁温度Tb out を下記する数式6に示す微分方程式によって演算する。尚、この車体外壁温度Tb out に対して、前記Tbは車体内壁温度に相当するものである。
【0042】
【数6】M*dTb out /dT=a2 *{dQsn−b2 *(Tb out −Tamb )−N2 *(Tb out −Tinc )}
【0043】尚、M,a2 ,b2 ,N2 は演算定数である。
【0044】ステップ702においては、下記する数式7において直接空気の当たらない部分の等価温度Teq Room を演算する。
【0045】
【数7】Teq Room =P1*Tinc +P2*Trad
【0046】尚、P1,P2は演算定数であり、Trad はこの実施例おいてはTrad(1), Trad(2), 及びTrad(3)の平均 [Trad={Trad(1)+Trad(2)+Trad(3)}/3〕を示すものである。
【0047】ステップ703においては、ファジー制御を行なうための前処理が行なわれる。この前処理において、ΔTeqを下記する数式8により演算する。
【0048】
【数8】ΔTeq=Teq ref m+Teq add+Teq Room
【0049】尚、Teq ref mは設定温度から求められた設定等価温度、Teq addはファジー(FAZZY)推論部900からフィードバックされた目標修正量である。
【0050】また、ステップ703の前処理においては、ファジー推論部900に入力される各入力信号、例えば前記ΔTeq、このΔTeqを図8に示すブロック901で微分して求めたdΔTeq/dT、車体外壁温度Tb out 、車室内温度Tint 、直接風を受ける部分の等価温度Teq Air、前記設定等価温度Teq ref mからボックス902(Teq ref m−25)によって演算された等価温度Teq ref、ベント吹出温度Tair 及びフット吹出温度Tair f から演算された実吹出温度Tair act 、及びフィードバックされた送風機のモータ31を駆動する補正前の駆動電圧信号Va ref'(Va ref'=Va low +Va up+Va low water )に、所定のゲインG1〜G8を乗じて各入力信号を−1〜+1の範囲で正規化するものである。
【0051】ステップ703において正規化された信号は、ファジー推論部900に入力され、ステップ704においてファジー制御値が演算される。このファジー制御は、例えば図9に示すメンバーシップ関数によって得られる各要素の適合値を所定のルールに従って直積して各ファジー数FZY y 0 〜6 を求める公知のものである。
【0052】これによって求められた各ファジー数FZY y 0 〜6 は、所定のゲインG10〜G16を乗じられた後、ステップ705において後処理がなされる。
【0053】この後処理において、ファジー出力FZY y 6 にゲインG10が乗じられた信号は、前記目標修正値Teq addとしてフィードバックされ、ファジー出力FZY y 1にゲインG11が乗じられた信号Tair S(n)及びFZY y 2 にゲインG12が乗じられた信号Tair add から、下記する数式9及び数式10によって目標吹出温度信号Tair ref が演算される。
【0054】
【数9】Tair S(n)=Tair S(n-1)+{FZY y 0'(n) +FZY y 0'(n-1) }*Ts/2Ti
【0055】尚、FZY y 0'は、FZY y 0 *G11によって演算されたFUZZY出力速度型のファジー制御値であり、Tsはサンプリング時間、Tiは積分定数を示すものである。
【0056】
【数10】Tair ref =Tair S +Tair add
【0057】尚、Tair add は、FZY y 1 *G12によって求められた目標吹出温度信号Tair ref の位置型出力信号である。
【0058】また、ステップ705の後処理においては、送風機(FAN)の低風量時(LOW風量時)のファジー出力FZY y 2 (基本パターン1)、ΔTeqによる風量アップによるファジー出力FZY y 3 (基本パターン2)、低水温起動に係るファジー出力FZY y 4 、及び騒音補正に係るファジー出力FZY y 5 から、目標気流速Va ref を下記する数式11によって演算する。
【0059】
【数11】Va ref =Va low +Va up+Va low water −Va HOSEI
【0060】尚、Va low はG13*FZY y 2 によって演算され、Va upはG14*FZY y3 によって演算され、VA low water はG15*FZY y 4 によって演算され、Va HOSEI はG16*FZY y 5 によって演算されるものである。
【0061】ステップ706において行なわれるエアミックスドア制御(MIX DOOR制御)は、例えば図1010のブロック図に示すもので、基本的には前記ステップ705で演算された目標吹出温度Tair ref と実吹出温度Tair act との差ΔTair によってPI制御されるものである。
【0062】実吹出温度Tair act は、ボックス906において前記吹出モード信号Tmodeに基づいてベント吹出温度Tair 及びフット吹出温度Tair f から演算されるもので、具体的には、ベントモード(VENT)時にはベント吹出温度Tair が実吹出温度Tair act として設定され、バイレベルモード(BI−L)時には(Tair +Tair f)/2によって実吹出温度Tair act として設定され、フットモード(FOOT)時にはフット吹出温度Tair f が実吹出温度Tair act として設定されるものである。
【0063】また、結合子911においては、前記実吹出温度Tair act と前記目標吹出温度Tair ref との差ΔTair が演算(ΔTair =Tair ref −Tair act )され、この差ΔTair に基づいてボックス904及びボックス905においてMIXDOORの積分制御量PBR i 及び比例制御量PBR p が演算されるものである。さらに、ボックス903において、車室内温度Tint によって選択された特性線に基づいて目標吹出温度Tair efから制御量PBR map が演算され、結合子912において加算された前記積分制御量PBR i 及び比例制御量PBR p の値に、結合子913において加算されてPBR(エアミックスドア)目標値PBR ref が演算(PBR ref =PBR i +PBR p +PBR map )されるものである。
【0064】ボックス907においては、結合子914において減算されて求められた前記PBR目標値PBR ref と実PBR開度PBR act との差ΔPBR が判定され、これによって演算された制御量に従って図3のステップ800に示す出力が駆動回路27cに出力され、エアミックスドア(PBR)10が所定の位置にくるようにアクチュエータ29が制御されるものである。尚、ボックス907のマップは所定値においてヒステリシスが形成されており、エアミックスドアの駆動時におけるハンチング等を防止するようになっている。
【0065】ステップ707におけるFAN制御は、例えば図11に示すもので、吹出モード信号Tmodeに基づいて選択された特性線に基づき目標気流速Va ref から目標ファン電圧Vfan ref が演算される。この目標ファン電圧Vfan ref は、DA変換器910を介して駆動回路27bに出力され、送風機のモータ31を制御するものである。
【0066】ステップ708におけるモードドア(MODE DOOR)14の制御は、図12に示す特性に従って目標吹出温度Tair ref により設定されるものである。
【0067】さらに、ステップ709における吸入モード(INTAKE DOOR制御)の制御は、図13に示す特性に従って目標吹出温度Tair ref により設定されるものである。
【0068】これによって、各空調機器の制御が行なわれ、ステップ710からメイン制御ルーチンに復帰し、ステップ300に回帰して上記制御が繰り返されるものである。
【0069】
【発明の効果】以上説明したように、この発明においては、乗員の各部位、頭部、胸部及び脚部の等価温度をそれぞれ独立して演算し、この各部位の等価温度から演算用の等価温度を演算するようにしたために、より乗員の体感に近い温調を達成できるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の構成を示した機能ブロック図である。
【図2】本発明の実施例に係る車両用空調装置の構成説明図である。
【図3】マイクロコンピュータで実行されるメイン制御ルーチンを示したフローチャート図である。
【図4】本発明の実施例に係る等価温度演算ルーチンを示したフローチャート図である。
【図5】着衣量演算のための特性線図である。
【図6】各部位及び吹出モードによる各演算定数の重み付けの一例を示した表である。
【図7】空調機器制御のサブルーチンを示したフローチャート図である。
【図8】ファジー制御を示した機能ブロック図である。
【図9】ファジー制御におけるメンバーシップ関数を示した特性線図である。
【図10】エアミックスドア制御を示した機能ブロック図である。
【図11】FAN制御を示した機能ブロック図である。
【図12】吹出モード制御を示した特性線図である。
【図13】インテークドア制御を示した特性線図である。
【符号の説明】
1 空調ダクト
4 インテークドア
5 送風機
7 エバポレータ
9 ヒータコア
10 エアミックスドア
14 モードドア
21 車室内温度センサ
22 外気温度センサ
23 日射量センサ
24a,24b 吹出空気温度センサ
25 ポテンショメータ
26 操作パネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】 環境信号として、少なくとも車室内温度、外気温度及び日射量を検出する環境信号検出手段と、吹出口から吹き出す吹出空気の気流速を検出する気流速検出手段と、吹出口から吹き出す吹出空気の吹出温度を検出する吹出温度検出手段と、現状の吹出モードを検出する吹出モード検出手段と、前記環境信号から乗員の着衣量を演算する着衣量演算手段と、前記環境信号から車両の車体温度を演算する車体温度演算手段と、この車体温度演算手段によって演算された車体温度と前記環境信号に乗員各部位の位置に基づいて重み付けを付加する乗員各部位重み付け付加手段と、この乗員各部位重み付け手段によって付加された重み付けによって前記車体温度と前記環境信号から乗員各部位の平均輻射温度を演算する乗員各部位輻射温度演算手段と、前記気流速検出手段によって検出された気流速に、前記吹出モード検出手段によって検出された吹出モードと乗員各部位の位置に従った重み付けによって乗員各部位の気流速を演算する乗員各部位気流速演算手段と、前記乗員各部位輻射温度演算手段によって演算された乗員各部位の輻射温度と、前記乗員各部位気流速演算手段によっ演算された気流速と、前記着衣量演算手段によって演算された着衣量と、前記吹出温度検出手段によって検出された吹出温度とによって乗員各部位の等価温度を演算する乗員各部位等価温度演算手段と、この乗員各部位等価温度演算手段によって演算された各部位の等価温度を、乗員各部位の位置による重み付けによって演算し、制御用の等価温度を演算する制御用等価温度演算手段とを具備することを特徴とする車両用空調装置の等価温度演算装置であって、前記車体温度演算手段が、日射量Qsn、外気温度Tamb 、車室内温度Tinc の環境信号から、M*dTb /dT=a*{dQsn−b*(Tb−Tamb )−K*(Tb−Tinc)}
で示される微分方程式(M,a,b,Kは演算定数)によって車体温度Tbを演算することを特徴とするもの。
【請求項2】 環境信号として、少なくとも車室内温度、外気温度及び日射量を検出する環境信号検出手段と、吹出口から吹き出す吹出空気の気流速を検出する気流速検出手段と、吹出口から吹き出す吹出空気の吹出温度を検出する吹出温度検出手段と、現状の吹出モードを検出する吹出モード検出手段と、前記環境信号から乗員の着衣量を演算する着衣量演算手段と、前記環境信号から車両の車体温度を演算する車体温度演算手段と、この車体温度演算手段によって演算された車体温度と前記環境信号に乗員各部位の位置に基づいて重み付けを付加する乗員各部位重み付け付加手段と、この乗員各部位重み付け手段によって付加された重み付けによって前記車体温度と前記環境信号から乗員各部位の平均輻射温度を演算する乗員各部位輻射温度演算手段と、前記気流速検出手段によって検出された気流速に、前記吹出モード検出手段によって検出された吹出モードと乗員各部位の位置に従った重み付けによって乗員各部位の気流速を演算する乗員各部位気流速演算手段と、前記乗員各部位輻射温度演算手段によって演算された乗員各部位の輻射温度と、前記乗員各部位気流速演算手段によっ演算された気流速と、前記着衣量演算手段によって演算された着衣量と、前記吹出温度検出手段によって検出された吹出温度とによって乗員各部位の等価温度を演算する乗員各部位等価温度演算手段と、この乗員各部位等価温度演算手段によって演算された各部位の等価温度を、乗員各部位の位置による重み付けによって演算し、制御用の等価温度を演算する制御用等価温度演算手段とを具備することを特徴とする車両用空調装置の等価温度演算装置であって、前記乗員各部位輻射温度演算手段が、前記車体温度Tb及び日射量Qsnから、Trad =K1 *Tb+K2 *Qsnで示される演算式(K1 ,K2 は演算定数)によって平均輻射温度Trad を演算することを特徴とするもの。

【図5】
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【図6】
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【図12】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図8】
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【図4】
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【図7】
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【図9】
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【図11】
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【図13】
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【図10】
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【公開番号】特開平6−191256
【公開日】平成6年(1994)7月12日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−359335
【出願日】平成4年(1992)12月25日
【出願人】(000003333)株式会社ゼクセル (510)