説明

車両用空調装置及び車両用空調装置における可変容量圧縮機の運転状態判定方法

【課題】可変容量圧縮機が最大吐出容量で運転されているか否かを正確に判別する。
【解決手段】
可変容量圧縮機の回転速度Ncに基づいてシリンダ内に吸入される冷媒の体積効率ηvを算出し(S101)、吸入圧力Psの設定値Ps’に基づいて圧縮機入口の冷媒密度ν'を算出し、これらを用いて、可変容量圧縮機が最大吐出容量で運転されているか否かを正確に判別するための流量閾値Gslを次式のように算出し(S103)、検出された実冷媒流量Grが流量閾値Gsl以上のときは、最大吐出容量で運転され、Gsl未満のときは、最大吐出容量未満で運転されていると判別する。
Gsl=(πD/4)×L’×n×(Nc/60)×ηv×ν’
D:各ピストンの直径、L’:ピストンの最大吐出容量運転時におけるストローク、n:シリンダの数n、Nc:前記回転機構の回転速度

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変容量圧縮機を使用した車両用空調装置において、可変容量圧縮機が最大吐出容量で運転されているか否かを判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の車両用空調装置において、特許文献1に開示されるように、外部駆動源(エンジン,モータ等)によって駆動される圧縮機の駆動トルクを算出し、算出した駆動トルクを外部駆動源の制御に利用することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−278663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のように可変容量圧縮機の駆動トルクを算出する場合、圧縮機が最大吐出容量に維持して運転しているときと、最大吐出容量未満で吐出容量を可変に運転しているときとで、異なる演算方式を用いることにより精度良く駆動トルクを算出できることが判明した。
【0005】
このため、可変容量圧縮機が最大吐出容量で運転しているか、否かを正確に判定する必要がある。
しかし、従来、例えば圧縮機の冷媒を吸入/吐出するピストンのストロークを検出するセンサを設けて判定する構成では、センサの精度、コスト、耐久性のいずれの面でも好ましくなかった。
【0006】
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたもので、容易かつ正確に可変圧縮機が最大吐出容量で運転されているか、否かを正確に判定できる機能を備えた車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため、本発明は、
冷媒の吸入圧力Psを制御して冷媒吐出容量を可変制御する容量制御弁を備えた可変容量圧縮機と、凝縮器と、冷媒温度を一定に維持しつつ減圧膨張させる温度式膨張弁と、蒸発器と、を、冷媒配管を介して循環接続した車両用空調装置(における可変容量圧縮機の運転状態判定方法)であって、以下の各手段(ステップ)を含んで構成される。
【0008】
A.前記空調装置の実冷媒流量Grを検出する手段(ステップ)
B.前記容量制御弁により制御される吸入圧力Psの設定値Ps’に基づいて、前記圧縮機に吸入される冷媒の密度ν’を算出する手段(ステップ)
C.前記圧縮機が最大吐出容量で運転された場合に、圧縮機に吸入される冷媒の体積流量Vに、前記冷媒密度算出手段によって算出された冷媒密度ν’を乗じて、最大吐出容量運転判定用の流量閾値Gslを算出する手段(ステップ)
D.前記冷媒流量検出手段によって検出した実冷媒流量Grが、前記流量閾値算出手段によって算出した流量閾値Gsl以上のときは、前記圧縮機が最大吐出容量で運転され、流量閾値Gsl未満のときは、最大吐出容量未満で運転されていると判定する手段(ステップ)
【発明の効果】
【0009】
可変容量圧縮機の最大吐出容量での運転時には、外気温度の上昇等のため、冷媒の吸入圧力Psは設定値Ps’以上の値に維持され、設定値Ps’に基づいて算出した吸入冷媒密度ν'は、実際の冷媒密度ν以下の値となる一方、最大吐出容量運転時での体積流量Vは実際値に則した値が得られる。この結果、実際の冷媒流量Grは、実冷媒密度ν以下の冷媒密度ν'に体積流量Vを乗じて算出される閾値Gsl以上の値となる。
【0010】
一方、最大吐出容量未満の運転時には、吸入圧力Psは設定値Ps’に略一致させるように制御できる一方、体積流量Vは、実際の体積流量より大きく算出される。
このように、最大吐出容量運転時には、実際の冷媒流量Grが流量閾値Gsl以上の値となり、最大吐出容量未満の運転時には、実際の冷媒流量Grが流量閾値Gslより小さい値となるから、該流量閾値Gslを用いた比較によって、最大吐出容量運転時と最大吐出容量未満の運転時とを正確に判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】一実施形態の車両用空調装置が適用された車両の概略構成を示す図である。
【図2】図1の車両用空調装置に適用された冷凍サイクルシステムの概略構成を、圧縮機の縦断面とともに示す図である。
【図3】図2の圧縮機に適用された容量制御弁の接続状態を、容量制御弁の断面とともに示す図である。
【図4】図1の車両用空調装置における、容量制御弁の駆動電流と吸入圧力との関係を示すグラフである。
【図5】図1の車両における信号の入出力関係を示す図である。
【図6】図1の車両用空調装置に適用された駆動トルク演算装置が実行するプログラムのフローチャートである。
【図7】同上プログラム中の冷媒流量閾値を演算するサブルーチンのフローチャートである。
【図8】同上の車両用空調装置における、温度式膨張弁の機能を示す線図である。
【図9】同上の車両用空調装置における、圧縮機吐出容量と吸入圧力との関係を示し、特に最大吐出容量運転時の状態を詳細に示す図である。
【図10】同上の車両用空調装置における、最大吐出容量運転時に吸入圧力の設定値から算出される密度と、実際の密度との関係を示す線図である。
【図11】同上実施形態とは、異なる構成で冷媒流量を検出する流量計を用いた実施形態の冷媒循環路の概要を示す図である。
【図12】同上の流量計の断面図である。
【図13】同上の流量計の概観斜視図である。
【図14】同上の流量計の異なる配置例における冷凍サイクルのP−h線図を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、実施形態に係る車両用空調装置を適用した車両の概略を示す。
車両用空調装置12は冷凍サイクルシステムで構成され、冷媒を循環させる循環路14を有する。
【0013】
循環路14は、エンジンルーム16から隔壁17を貫通して機器スペース18に跨って形成されている。機器スペース18は、車室10の前方部分にインストルメントパネル20により区画されている。エンジンルーム16内を延びる循環路14の部分には、可変容量圧縮機100、凝縮器24、レシーバ・ドライヤ25及び膨張弁26が、冷媒循環方向に順次介挿される。機器スペース18内を延びる循環路14の部分には、蒸発器28が介挿されている。なお、レシーバ・ドライヤ25は省略してもよい。
【0014】
圧縮機100は、エンジン29の出力軸と機械的に連結され、エンジン29の出力によって駆動される。圧縮機100は、例えばピストンタイプ(往復動式)の可変容量圧縮機であり、図2に示したように、容量制御弁200を内蔵している。
【0015】
より詳しくは、圧縮機100は、例えば斜板式圧縮機である。圧縮機100はシリンダーブロック101を備え、シリンダーブロック101には、複数のシリンダボア101aが形成されている。シリンダーブロック101の一端にはフロントハウジング(クランクケース)102が連結され、シリンダーブロック101の他端には、バルブプレート103を介してリアハウジング(シリンダヘッド)104が連結されている。
【0016】
シリンダーブロック101及びフロントハウジング102はクランク室105を規定し、クランク室105内を縦断して駆動軸106が延びている。駆動軸106は、クランク室105内に配置された環形状の斜板107を貫通し、斜板107は、駆動軸106に固定されたロータ108と連結部109を介してヒンジ結合されている。従って、斜板107は、駆動軸106に沿って移動しながら傾動可能である。
【0017】
ロータ108と斜板107との間を延びる駆動軸106の部分には、斜板107を最小傾角に向けて付勢するコイルばね110が装着されている。斜板107を挟んで反対側の駆動軸106の部分、即ち斜板107とシリンダーブロック101との間を延びる駆動軸106の部分には、斜板107を最大傾角に向けて付勢するコイルばね111が装着されている。
【0018】
駆動軸106は、フロントハウジング102の外側に突出したボス部102a内を貫通し、駆動軸106の外端は、動力伝達装置としてのプーリ112に連結されている。プーリ112は、ボール軸受113を介してボス部102aによって回転自在に支持され、外部駆動源としてのエンジン29のプーリとの間にベルト115が架け回される。
【0019】
ボス部102aの内側には軸封装置116が配置され、軸封装置116は、フロントハウジング102の内部と外部とを遮断している。駆動軸106はラジアル方向及びスラスト方向にベアリング117,118,119,120によって回転自在に支持され、エンジン29からの動力がプーリ112に伝達され、プーリ112の回転と同期して回転可能である。
【0020】
シリンダボア101a内にはピストン130が配置され、ピストン130には、クランク室105内に突出したテール部が一体に形成されている。テール部に形成された凹所130a内には一対のシュー132が配置され、シュー132は斜板107の外周部に対し挟み込むように摺接している。従って、シュー132を介して、ピストン130と斜板107とは互いに連動し、駆動軸106の回転によりピストン130がシリンダボア101a内を往復動する。
【0021】
リアハウジング104の内部には、吸入室140及び吐出室142が区画形成され、吸入室140は、バルブプレート103に設けられた吸入孔103aを介してシリンダボア101aと連通可能である。吐出室142は、バルブプレート103に設けられた吐出孔103bを介してシリンダボア101aと連通可能である。なお、吸入孔103a及び吐出孔103bは、図示しない吸入弁及び吐出弁によってそれぞれ開閉される。
【0022】
シリンダーブロック101の外側にはマフラ150が設けられ、マフラケーシング152は、シリンダーブロック101に一体に形成されたマフラベース101bに図示しないシール部材を介して接合されている。マフラケーシング152及びマフラベース101bはマフラ空間154を規定し、マフラ空間154は、リアハウジング104、バルブプレート103及びマフラベース101bを貫通する吐出通路156を介して吐出室142と連通している。
【0023】
マフラケーシング152には吐出ポート152aが形成され、マフラ空間154には、吐出通路156と吐出ポート152aとの間を遮るように逆止弁170が配置されている。逆止弁170は、吐出通路156側の圧力とマフラ空間154側の圧力との圧力差に応じて開閉する。具体的には、圧力差が所定値より小さい場合閉作動し、圧力差が所定値より大きい場合開作動する。
【0024】
したがって吐出室142は、吐出通路156、マフラ空間154及び吐出ポート152aを介して循環路14の往路部分と連通可能であり、マフラ空間154は逆止弁170によって断続される。一方、吸入室140は、リアハウジング104に形成された吸入ポート104aを介して循環路14の復路部分と連通している。
【0025】
リアハウジング104には、容量制御弁(電磁制御弁)200が収容され、容量制御弁200は給気通路160に介挿されている。給気通路160は、吐出室142とクランク室105との間を連通するようにリアハウジング104からバルブプレート103を経てシリンダーブロック101にまで亘っている。
【0026】
一方、吸入室140は、クランク室105と抽気通路162を介して連通している。抽気通路162は、駆動軸106とベアリング119,120との隙間、空間164及びバルブプレート103に形成された固定オリフィス103cからなる。
【0027】
また、吸入室140は、リアハウジング104に形成された感圧通路166を通じて、給気通路160とは独立して容量制御弁200に接続されている。
容量制御弁200は、図3に示すように、弁ユニットとソレノイドユニットとからなる。弁ユニットは、略円筒形状の弁ハウジング202を有し、弁ハウジング202の内部には弁孔204が形成されている。弁孔204は、弁ハウジング202の軸線方向に延び、弁孔204の一端は出口ポート206に繋がっている。出口ポート206は、弁ハウジング202を径方向に貫通しており、弁孔204は出口ポート206及び給気通路160の下流側部分を介してクランク室105と連通している。
【0028】
弁ハウジング202のソレノイドユニット側には弁室208が区画され、弁孔204の他端は弁室208の端壁にて開口している。弁室208内には、略円柱形状の弁体210が収容され、弁体210は、弁室208内を弁ハウジング202の軸線方向に移動可能である。弁体210の一端が弁室208の端壁に当接することにより、弁体210は弁孔204を閉塞可能であり、弁室208の端壁は弁座として機能する。
【0029】
また、弁ハウジング202には入口ポート212が形成され、入口ポート212も弁ハウジング202を径方向に貫通している。入口ポート212は、給気通路160の上流側部分を介して吐出室142と連通している。入口ポート212は、弁室208の周壁にて開口しており、入口ポート212、弁室208、弁孔204及び出口ポート206を通じて、吐出室142とクランク室105とは連通可能となっている。
【0030】
更に、弁ハウジング202には、ソレノイドユニットと反対側に感圧室214が区画され、感圧室214の周壁には感圧ポート216が形成されている。感圧ポート216及び感圧通路166を通じて、感圧室214は吸入室140と連通している。また、感圧室214と弁孔204との間には軸方向孔218が設けられ、軸方向孔218は、弁孔204と同軸上を延びている。
【0031】
弁体210の他端には、感圧ロッド220が一体且つ同軸に連結されている。感圧ロッド220は、弁孔204及び軸方向孔218内を延び、感圧ロッド220の先端部は、感圧室214内に突出している。感圧ロッド220は先端側に大径部を有しており、感圧ロッド220の大径部は、軸方向孔218の内周面によって摺動可能に支持されている。従って、感圧ロッド220の大径部によって、感圧室214と弁孔204との間の気密性が確保されている。
【0032】
感圧室214の端壁は、弁ハウジング202の端部に圧入されたキャップ222により形成され、キャップ222は段付きの有底円筒状をなす。キャップ222の小径部には、支持部材224の筒部が摺動自在に嵌合され、キャップ222の底壁と支持部材224との間には強制開放ばね226が配置されている。
【0033】
感圧室214内には感圧器228が収容され、感圧器228の一端が支持部材224に固定されている。従って、キャップ222は、支持部材224を介して感圧器228を支持している。
【0034】
感圧器228はベローズ230を有し、ベローズ230は、弁ハウジング202の軸線方向に伸縮可能である。ベローズ230の両端はキャップ232,234によって気密に閉塞され、ベローズ230の内部は、真空状態(減圧状態)に保たれている。また、ベローズ230の内部には、圧縮コイルばね236が配置され、圧縮コイルばね236は、ベローズ230が伸長するように、キャップ232,234を相互に離間する方向に付勢している。
【0035】
感圧器228のキャップ234は、アダプタ238を介して感圧ロッド220に当接可能であり、感圧室214内の圧力が低下して感圧器228が伸長した場合、感圧ロッド220を介して弁体210が開弁方向に付勢される。
【0036】
なお、弁ハウジング202に対するキャップ222の圧入量は、容量制御弁200が所定の動作をするように調整される。
【0037】
一方、ソレノイドユニットは、弁ハウジング202に同軸的に連結された略円筒形状のソレノイドハウジング240を有し、ソレノイドハウジング240内には、略円筒形状の固定コア242が同心上に配置されている。固定コア242の一端部は、弁ハウジング202の端部に嵌合して弁室208を区画するとともに、弁体210を摺動自在に支持している。
【0038】
固定コア242の中央部から他端部に亘る部分には、有底のスリーブ244が嵌合されている。スリーブ244の底壁と固定コア242の他端との間には、コア収容空間246が区画され、コア収容空間246には可動コア248が配置されている。可動コア248は、スリーブ244によって摺動自在に支持され、ソレノイドハウジング240の軸線方向に往復動可能である。
【0039】
弁体210の他端には、固定コア242内を延びるソレノイドロッド250の一端が当接し、ソレノイドロッド250の他端部は、可動コア248と一体に固定されている。従って、弁体210は、可動コア248に連動して閉弁方向に移動する。可動コア248とスリーブ244の底壁との間には、圧縮コイルばね252が配置され、圧縮コイルばね252は、可動コア248及びソレノイドロッド250を介して弁体210を閉弁方向に常時付勢する。
【0040】
スリーブ244の周囲には、ボビン253に巻回された状態で円筒形のコイル(ソレノイドコイル)254が配置され、ボビン253及びコイル254は、一体に成型された樹脂部材255によって囲まれている。ソレノイドハウジング240、固定コア242及び可動コア248はいずれも磁性材料で形成されて磁気回路を構成し、一方、スリーブ244は非磁性のステンレス系材料で形成されている。
【0041】
ここで、固定コア242の先端部の根元には、径方向孔256が形成され、弁ハウジング202には、径方向孔256と感圧室214とを連通する連通孔258が形成されている。また、固定コア242の中央部及び他端部の内径は、弁体210及びソレノイドロッド250の外径よりも大きく、感圧室214とコア収容空間246との間は、固定コア242の中央部及び他端部の内側、径方向孔256及び連通孔258を介して連通している。
【0042】
従って、弁体210の一端面には、クランク室105の圧力(クランク室圧力Pc)が開弁方向の力として作用し、一方、弁体210の他端面には吸入室140の圧力(吸入圧力Ps)が閉弁方向の力として作用する。
【0043】
容量制御弁のソレノイド254には、車両用空調装置を制御するエアコン制御装置(A/C制御装置)32が電気的に接続され、エアコン制御装置32は、ソレノイド254に供給される駆動電流Iの電流量を調整することによって、圧縮機100の吐出容量を調整する。エアコン制御装置32は、例えば、ECU(電子制御装置)等の電気回路によって構成することができる。
【0044】
容量制御弁200を採用した場合、吐出容量の制御方式としては、圧縮機100が吸入する冷媒の圧力、すなわち吸入圧力Psを制御するPs制御方式が採用される。
【0045】
図4は、容量制御弁200に供給される駆動電流Iと吸入圧力Psとの関係を示している。Ps制御方式では、乗員によって設定された車室設定温度等の種々の情報から吸入圧力Psの目標値Pssが設定され、目標値Pssに対応する大きさの駆動電流Iがソレノイド254に供給される。これにより、容量制御弁200の開度は、吸入圧力Psが目標値Pssに近付くように設定される。この一方で、吸入圧力Psを検出する感圧器228が、吸入圧力Psに応じて伸長して開度を微調整し、吸入圧力Psの変動を補償する。
【0046】
再び図1を参照すると、凝縮器24の近傍にはコンデンサファン33が配置され、車両の走行による車両前方からの風、コンデンサファン33からの風、又は、これらの両方によって、凝縮器24を通過する冷媒は冷却される。
【0047】
膨張弁26は自身を通過する冷媒を膨張させる。ここで、膨張弁26は、感温式膨張弁であり、膨張弁26の開度は、蒸発器28の出口(圧縮機100入口)での冷媒の過熱度が一定値になるよう調整される。具体的には、膨張弁26は、蒸発器28下流の冷媒温度及び圧力変化に伴って開度が変化し、蒸発器28への冷媒流量を変化させることにより、蒸発器28(圧縮機100入口)の冷媒の過熱度、したがって冷媒温度を一定に維持するように作動する(図8参照)。
【0048】
蒸発器28は、空調ユニットハウジング34内に配置され、空調ユニットハウジング34内には、ブロワファン36及びヒータコア(図示せず)も配置されている。また、空調ユニットハウジング34の入口には、内外気切換ダンパ38が配置され、空調ユニットハウジング34の出口には、吹出口切換ダンパ(図示せず)が配置されている。
【0049】
蒸発器28を通過する冷媒は、ブロワファン36からの風によって加熱され、蒸発する。この一方で、ブロワファン36からの風は、蒸発器28によって冷却されて冷風になり、この冷風が車室10内に吹き出すことで、車室10が冷房される。
【0050】
また、車両用空調装置は、種々の情報を検出するセンサ群として、外気温度センサ42、蒸発器出口空気温度センサ44、凝縮器入口冷媒圧力センサ46、及び、凝縮器出口冷媒圧力センサ48を有する。これら外気温度センサ42、蒸発器出口空気温度センサ44、凝縮器入口冷媒圧力センサ46、及び、凝縮器出口冷媒圧力センサ48は、それぞれエアコン制御装置32と電気的に接続されている。
【0051】
一方、車両全体の動作を制御する車両制御システムは、車両制御装置(エンジン制御装置)50を備え、車両制御装置50も、ECU等の電子回路によって構成することができる。車両制御装置50は、主に、車室10に配置されたアクセルペダル52、図示しないブレーキペダル、及び、シフトレバー等を介した乗員による入力に基づいて、エンジン29の回転速度Neを適当に制御する。
【0052】
また、車両制御装置50は、例えば回転速度センサを用いてエンジン29の回転速度Neを検出して出力し、エンジン29の回転速度Neは、エアコン制御装置32に入力される。
【0053】
図5は、上述した容量制御弁200のソレノイド254、エアコン制御装置32、車両制御装置50及びセンサ群の間における、信号の入出力を示している。
エアコン制御装置32には、操作パネルを介して、車室10の設定温度等が入力されるとともに、外気温度センサ42、及び、蒸発器出口空気温度センサ44によってそれぞれ検出された、外気温度Ta、及び、蒸発器出口空気温度Tcが入力される。これらの入力された情報等に基づいて、エアコン制御装置32は、容量制御弁200のソレノイド254に供給される駆動電流Iの目標値を設定し、この目標値に実際の値が近付くように駆動電流Iを調整する。これにより、可変容量圧縮機100の吐出容量が所定の値に調整される。
【0054】
一方、エアコン制御装置32は、可変容量圧縮機100の駆動トルクTrを演算する機能も有する。そのために、エアコン制御装置32には、エンジン29の回転速度Neとともに、凝縮器入口冷媒圧力センサ46、及び、凝縮器出口冷媒圧力センサ48によってそれぞれ検出された凝縮器入口冷媒圧力Pin及び凝縮器出口冷媒圧力Poutが入力される。
【0055】
つまり、エアコン制御装置32、エンジン回転速度検出手段、凝縮器入口冷媒圧力センサ46、及び、凝縮器出口冷媒圧力センサ48は、圧縮機100の駆動トルク演算装置を構成している。
【0056】
具体的には、エアコン制御装置32は、圧縮機100の駆動トルクTrを演算するための回路(駆動トルク演算回路)300を有し、駆動トルク演算回路300は、圧縮機回転速度演算部301、冷媒流量演算部302、流量閾値演算部304、吐出容量判定部305、吸入圧力演算部306、エンタルピ差演算部308、及び、機械効率演算部310を有する。
【0057】
ここで、流量閾値演算部304及び吐出容量判定部305は、駆動トルクTrを演算するに際し、後述するように圧縮機100が最大吐出容量に維持して運転されるときの駆動トルクTrの演算方式と、最大吐出容量未満で吐出容量を可変制御して運転するときの駆動トルクTrの演算方式とは相違するので、最大吐出容量で運転されているか否かを判別するために設けられる。
【0058】
例えば、駆動トルクTrの演算に用いる圧縮機100の吸入圧力Psの算出は、ピストンストロークが最大一定に維持される最大吐出容量運転時は、凝縮器入口圧力Pin、凝縮器出口圧力Pout、圧縮機回転速度Ncの複数のパラメータを用いて精度良く算出される。一方、最大吐出容量未満で吐出容量を可変制御しているときは、前記各パラメータの値が安定しにくく、吸入圧力Ps制御の操作量である駆動電流Iを用いる方が吸入圧力Psを精度良く算出することができる。その他、摩擦等の機械的な損失が、最大吐出容量運転時は、圧縮機回転速度Ncに大きく依存する一方、最大吐出容量未満の吐出容量可変運転時は、冷媒流量Grに大きく依存する。あるいは、各パラメータの演算式(関数)における係数も相違させた方がそれぞれ精度よく駆動トルクを算出することができる。
【0059】
このように、駆動トルクTrの演算方式を切換えるため、圧縮機100が最大吐出容量に維持して運転されるときと、最大吐出容量未満で吐出容量を可変制御して運転されているときとを、精度良く判定する必要がある。
【0060】
図6は、上記圧縮機100が最大吐出容量運転されているか否かを判別し、それぞれの運転時に異なる演算方式を用いて駆動トルク演算回路300が所定の間隔で繰り返し実行する、圧縮機100の駆動トルクTrを演算するフローを示す。
【0061】
このフローに従って説明すると、まず、ステップS1では、凝縮器入口冷媒圧力Pin、凝縮器出口冷媒圧力Pout、エンジン回転速度Ne及び容量制御弁200に供給される駆動電流Iを読み込む。
【0062】
ステップS2では、エンジン回転速度Neに基づいて圧縮機100の回転速度Ncを算出する。そのために、例えば関数F1(Ne)=Ncを用いることができ、関数F1に含まれる係数は、エンジン29と圧縮機100のプーリ比に応じて予め決定可能である。
【0063】
ステップS3では、上記圧縮機100が最大吐出容量に維持して運転されるときと、最大吐出容量未満で吐出容量を可変制御して運転されているときとを判別するための、冷媒流量(質量流量)の閾値Gslを次式によって算出する。
Gsl=V×ν’
=(πD/4)×L’×n×(Nc/60)×ηv×ν’・・・(1)
Vは、圧縮機100が最大吐出容量に維持して運転されるときの体積流量で、各ピストン130の直径D、該ピストン130の最大ストロークL’、シリンダ(シリンダボア101a)の数n、圧縮機回転速度Nc[rpm]、シリンダボア101aへの冷媒吸入量の体積効率ηvを用いて上式のように算出される。なお、体積効率ηvは、回転速度Ncに基づく変数(Ncの増大に伴って体積効率ηvが減少)として求められ、例えば、予め実験等で求められた値を回転速度Ncに対するテーブル値として設定することができる。
【0064】
一方、ν’は、最大吐出容量運転時における冷媒密度を、容量制御弁200で制御される圧縮機100の吸入圧力Psの設定値Ps’を用いて算出した値である。なお、吸入圧力Psの設定値Ps’としては、目標値Pssあるいは容量制御弁200の駆動電流Iから換算した吸入圧力値を用いることができる。
【0065】
ここで、既述のように膨張弁26として、蒸発器28下流側の冷媒の過熱度を一定、つまり圧縮機100入口の冷媒温度を一定に維持する温度式膨張弁が使用されている。このように、冷媒温度が一定に維持されるので、吸入圧力Psに対して冷媒密度νは略比例する関係があり、この関係に基づいて吸入圧力Psの設定値Ps’から冷媒密度ν'が算出される。
【0066】
図7は、上記冷媒流量の閾値Gslを算出するステップS3のサブルーチンのフローを示す。
圧縮機回転速度Ncに基づいて、体積効率ηvを算出し(S101)、吸入圧力Psの設定値Ps’から冷媒密度ν'を算出した後(S102)、(1)式により流量閾値Gslを算出する(S103)。なお、ステップS102により冷媒密度ν'を算出する機能が、冷媒密度算出手段を構成する。
【0067】
図6に戻って、ステップS4では、凝縮器入口冷媒圧力Pin及び凝縮器出口冷媒圧力Poutに基づいて冷媒流量(質量流量)Grを算出する。冷媒流量Grは、循環路14を実際に流れている冷媒の流量である。そのために、例えば関数F2(Pin,Pout)=Grを用いることができる。この凝縮器入口冷媒圧力センサ46、及び、凝縮器出口冷媒圧力センサ48と、これらセンサにより検出された凝縮器入口冷媒圧力Pin及び凝縮器出口冷媒圧力Poutに基づいて冷媒流量(質量流量)Grを算出するステップS4の機能により、冷媒流量検出手段が構成される。
【0068】
ここで、フロントグリルの形状、車両における凝縮器14の配置等の車両の仕様に応じて、凝縮器14の放熱能力は変化し、従って、関数F2に含まれる係数の値は変化する。このため、関数F2に含まれる係数は、車両用空調装置を車両に搭載した状態で、例えば10個程度の少数の条件で車両用空調装置を作動させ、各条件での変数、すなわち凝縮器入口冷媒圧力Pin及び凝縮器出口冷媒圧力Pout、並びに、冷媒流量Grを測定し、測定したこれらの値に基づいて決定される。
【0069】
なお、冷媒流量(質量流量)Grは、上記凝縮器入口冷媒圧力Pin及び凝縮器出口冷媒圧力Poutに基づいて算出する他、後述するように循環路に配設した任意のタイプの流量計を用いて検出することができる。
【0070】
ステップS5では、駆動トルク演算回路300は、算出した冷媒流量の閾値Gslと冷媒流量Grとを比較し、圧縮機100が最大吐出容量で運転されているか否かを判定する。このとき、冷媒流量Grが流量閾値Gsl以上のときは(Gr≧Gsl)、圧縮機100は最大吐出容量で運転されている(Yes)と判定し、冷媒流量Grが閾値Gslより小さければ(Gr<Gsl)、圧縮機100は最大吐出容量未満で運転されている(No)と判定する。このステップS5の機能が、運転状態判別手段を構成する。
【0071】
上記のように判定することにより、運転状態を正確に判別できる理由を以下に説明する。
図9に示すように、圧縮機100の吐出容量の増大に応じて吸入圧力Psは低下するが、最大吐出容量付近まで増大すると、実際の吸入圧力Psは設定値Ps’(目標値Pss)以上の値に維持されてしまう。これは、最大吐出容量を確保するため、最大吐出容量運転時の目標値Pssを十分小さい値(駆動電流Iを大きい値)に設定しているが、冷房を使用する外気温度が高い条件では冷媒圧力が増大し、駆動電流Iを増大してピストンストロークLを最大ストロークL’に制御しても実際の吸入圧力Psが設定値Ps’以上の値に維持されるためである。なお、外気温度が相当低い条件で冷房運転したような場合を除き、通常は、実際の吸入圧力Psは、設定値Ps’より大となる。
【0072】
したがって、図10に示すように、最大吐出容量運転時には、吸入圧力Psの設定値Ps’に基づいて算出した吸入冷媒密度ν'は、実際の吸入圧力Psに対応する実際の冷媒密度ν以下の値となる。一方、ピストンストロークLは最大ストロークL’に制御されるので、最大ストロークL’を用いて算出される体積流量Vは実際の体積流量値に則した値が得られる。この結果、実際の冷媒流量Grは、実冷媒密度ν以下の冷媒密度ν'に、実際の体積流量値相当の体積流量Vを乗じて算出される流量閾値Gsl以上の値となる。
【0073】
これに対し、最大吐出容量未満の運転時には、実際の吸入圧力Psを目標吸入圧力Pssに略一致させるように制御できる。一方、ピストンストロークLは、最大吐出容量未満とするために最大ストロークL’未満に制御されるので、最大ストロークL’を用いて算出される体積流量Vは、実際の体積流量より大きい。
【0074】
このように、最大吐出容量運転時には、実際の冷媒流量Grが流量閾値Gsl以上(通常はGslより大)の値となり、最大吐出容量未満の運転時には、実際の冷媒流量Grが閾値Gslより小さい値となるから、該閾値Gslを用いた比較によって、最大吐出容量運転時と最大吐出容量未満の運転時とを正確に判別することができる。
【0075】
ステップS5での判定結果がNoの場合、つまり、最大吐出容量未満の運転時と判定された場合、以下のような演算方式で圧縮機100の駆動トルクTrを算出する。
まず、ステップS6では容量制御弁200に供給されている駆動電流Iに基づいて、圧縮機100に吸入される冷媒の圧力、即ち吸入圧力Psを算出する。そのために、例えば関数F3(I)=Psを用いることができる。関数F3は、図4に例示されているけれども、車両用空調装置を車両に搭載する前の台上試験によって、予め決定可能である。換言すれば、関数F3に含まれる係数は、車両の仕様に依存することなく決定可能である。
【0076】
次いで、ステップS7では、凝縮器入口冷媒圧力Pin、圧縮機回転速度Nc、冷媒流量Gr、及び、S14で算出した吸入圧力Psに基づいて、エンタルピ差Δhを算出する。このエンタルピ差Δhとは、圧縮機100から吐出される冷媒のエンタルピhdと圧縮機100に吸入される冷媒のエンタルピhsとの差(hd−hs)である。そのために、例えば関数F4(Pin,Nc,Gr,Ps)=Δhを用いることができる。関数F4は、車両用空調装置を車両に搭載する前の台上試験によって、予め決定可能である。換言すれば、関数F4に含まれる係数は、車両の仕様に依存することなく決定可能である。
【0077】
また、凝縮器入口冷媒圧力Pin、圧縮機回転速度Nc、及び、ステップS6で算出した吸入圧力Psに基づいて、圧縮機100の機械効率ηmを算出する。そのために、例えば関数F5(Pin,Nc,Ps)=ηmを用いることができる。関数F5は、車両用空調装置を車両に搭載する前の台上試験によって、予め決定可能である。換言すれば、関数F5に含まれる係数は、車両の仕様に依存することなく決定可能である。
【0078】
ステップS10では、上記のようにして算出した圧縮機回転速度Nc、冷媒流量Gr、エンタルピ差Δh及び機械効率ηmに基づいて、圧縮機100の駆動トルクTrを算出する。そのために、関数F6(Gr,Δh,ηm,Nc)=Trを用いることができる。より詳しくは、関数F6は、以下の演算式で表される。
Tr=k×[Gr・Δh/(ηm・Nc)]
=[60/(2π・Nc)]×[(hd−hs)/ηm]×Gr・・・(2)
【0079】
最後に、ステップS11では、駆動トルク演算装置300は、算出した駆動トルクTrの値を外部に出力し、駆動トルクTrの値は車両制御装置50に入力される。
【0080】
一方、ステップS5の判定結果がYesであった場合、つまり、最大吐出容量運転時には、以下のような演算方式で圧縮機100の駆動トルクTrを算出する。
まず、ステップS8で、凝縮器入口冷媒圧力Pin、圧縮機回転速度Nc、及び、冷媒流量Grに基づいて、吸入圧力Psを算出する。そのために、例えば関数F7(Pin,Nc,Gr)=Psを用いることができる。関数F7は、車両用空調装置を車両に搭載する前の台上試験によって、予め決定可能である。換言すれば、関数F7に含まれる係数は、車両の仕様に依存することなく決定可能である。
【0081】
このように、最大吐出容量運転に維持されている定常状態では、凝縮器入口冷媒圧力Pin、圧縮機回転速度Nc、及び、冷媒流量Grが比較的安定しているので、これらの制御結果に応じたパラメータ値を用いて高精度に吸入圧力Psを算出することができる。
【0082】
一方、最大吐出容量未満で容量可変制御時は、上記パラメータの値が安定しにくいため、上述したように吸入圧力Psを制御する容量制御弁200の操作量である駆動電流Iに基づく方が高精度に吸入圧力Psを算出できる。
【0083】
ステップS9では、凝縮器入口冷媒圧力Pin、圧縮機回転速度Nc、冷媒流量Gr、及び、ステップS8で算出した吸入圧力Psに基づいて、エンタルピ差Δhを算出する。そのために、例えば関数F8(Pin,Nc,Gr,Ps)=Δhを用いることができる。関数F8は、車両用空調装置を車両に搭載する前の台上試験によって、予め決定可能である。換言すれば、関数F8に含まれる係数は、車両の仕様に依存することなく決定可能である。
【0084】
また、凝縮器入口冷媒圧力Pin、圧縮機回転速度Nc、及び、ステップS8で算出した吸入圧力Psに基づいて、圧縮機100の機械効率ηmを算出する。そのために、例えば関数F9(Pin,Nc,Ps)=ηmを用いることができる。関数F9は、車両用空調装置を車両に搭載する前の台上試験によって、予め決定可能である。換言すれば、関数F9に含まれる係数は、車両の仕様に依存することなく決定可能である。
【0085】
この後、ステップS10では、ステップS9で算出したエンタルピ差Δh及び機械効率ηmを用いて上記(2)式によって駆動トルクTrを算出し、ステップS11では、算出した駆動トルクTrの値を出力する。
【0086】
ここで、最大吐出容量運転時と最大吐出容量未満の運転時とで、最終的に使用される駆動トルクの演算式(2)は同一であるが、上述したように、該演算式(2)に至る前の過程で吸入圧力Psを算出するパラメータが相違し、また、エンタルピ差(hd−hs)(=Δh)や機械効率ηmを求める関数のパラメータは同一でも各係数は別個に設定される。例えば、最大吐出容量運転時は圧縮機回転速度Ncによる依存度が高いのに対し、最大吐出容量未満の運転時は冷媒流量Grによる依存度が高く、これらに対応する係数の重み付けが大きい値に設定される。このように、運転状態別に適合した駆動トルク演算方式に設定することができる。
【0087】
そして、上述したように最大吐出容量運転時と最大吐出容量未満の運転時とを正確に判別できるため、これら運転状態別に適合した演算方式を正しく選択することができ、駆動トルクTrを高精度に算出できる。
【0088】
図11〜図13は、上述したように、冷媒流量Grを、冷媒循環路14に配設した流量計によって検出する別の実施形態を示す。
図11に示すように、冷媒循環路14において高圧側である凝縮器24出口と、膨張弁26入口との間の液相を主体とした冷媒が流通する冷媒配管14aに、冷媒流量を検出する流量計60が配設される。
【0089】
かかる流量計60は、冷媒配管14aに介装されるオリフィス61と、その上流側及び下流側の圧力を検出する1対の圧力センサ62,63とを含んで構成され、これら上流側及び下流側の圧力検出値に基づいて冷媒流量を算出する構成となっている。
【0090】
なお、これらオリフィス61と1対の圧力センサ62,63とを一体化したユニット64で形成することにより、省スペース化、低コスト化を図れ、所望の位置にこれらの各構成部材を同時に配置することができる。
【0091】
また、図示のように、ユニット64にサイトグラス65を付設し、サイトグラス65を通して、冷媒通路内を適宜観察できるような構成を採用することもできる。これにより、冷媒通路内の状態を容易に観察でき、冷媒通路内に泡が観察されるような場合には、循環路14内の冷媒量が不足気味であると判断することができ、冷媒補充等の適切な措置をとることが可能となる。
【0092】
かかる構成の流量計60とすれば、冷媒が液相を主体とした安定した状態にある部位で、オリフィス61上下流の前後差圧を高精度に検出でき、該差圧を用いて冷媒流量を高精度に検出することができる。
【0093】
なお、この流量計60は、冷媒の体積流量を検出するものであるため、温度検出値に基づいて密度補正を行うことにより、質量流量に換算することが好ましい。但し、冷媒が液相であるため、気相の場合と比較して温度変化による密度変化は十分小さいので、簡易的には、補正を省略することもできる。
このように、冷媒流量を高精度に計測することができるので、該冷媒流量を用いて推定される圧縮機駆動トルクの推定精度を、より高めることができる。
【0094】
また、本実施形態では、上流側及び下流側の圧力検出値を独立して検出できるので、前後差圧に加えて検出位置における圧力の絶対値、その絶対値に伴う冷媒の状態を加味した条件で冷媒流量を推定することが可能となり、より高精度に冷媒流量を推定することが可能となる。
【0095】
一方、オリフィスの前後差圧を直接するセンサを設けたものでもよく、圧力の絶対値は検出できないが、差圧を直接検出できるので、冷媒流量を、より迅速に推定できる。
また、図14(A)に示すように、オリフィス上下流で液相状態のまま前後差圧を検出するのが、望ましいが、図14(B)に示すように、相変化状態に跨って差圧が発生する場合でも、多少の精度低下はあるものの、十分高精度に冷媒流量を推定できる。
【符号の説明】
【0096】
12…車両用空調装置、14…循環路、14a…冷媒配管、24…凝縮器、26…膨張弁、28…蒸発器、29…エンジン、32…エアコン制御装置、46…凝縮器入口圧力センサ、48…凝縮器出口圧力センサ、60…流量計、61…オリフィス、62,63…圧力センサ、100…可変容量圧縮機、200…容量制御弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒の吸入圧力Psを制御して冷媒吐出容量を可変制御する容量制御弁を備えた可変容量圧縮機と、凝縮器と、冷媒温度を一定に維持しつつ減圧膨張させる温度式膨張弁と、蒸発器と、を、冷媒配管を介して循環接続した車両用空調装置であって、
前記空調装置の実冷媒流量Grを検出する冷媒流量検出手段と、
前記容量制御弁により制御される吸入圧力Psの設定値Ps’に基づいて、前記圧縮機に吸入される冷媒の密度ν’を算出する冷媒密度算出手段と、
前記圧縮機が最大吐出容量で運転された場合に該圧縮機に吸入される冷媒の体積流量Vに、前記冷媒密度算出手段によって算出された冷媒密度ν’を乗じて、最大吐出容量運転判定用の流量閾値Gslを算出する流量閾値算出手段と、
前記冷媒流量検出手段によって検出した実冷媒流量Grが、前記流量閾値算出手段によって算出した流量閾値Gsl以上のときは、前記圧縮機が最大吐出容量で運転され、流量閾値Gsl未満のときは、最大吐出容量未満で運転されていると判定する運転状態判定手段と、
を含んで構成したことを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記可変容量圧縮機は、外部駆動源からの駆動力を供給されて回転する回転機構と、複数のシリンダ内を軸方向に往復動して冷媒を吸入/吐出する複数のピストンと、前記回転部材の回転運動を前記ピストンの往復動に変換する運動方向変換機構と、を含み、前記容量制御弁は、前記ピストンのストロークを変化させることにより、冷媒の吸入圧力Psを制御して冷媒吐出容量を制御する請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記冷媒の体積流量Vは、次式により算出される請求項2に記載の車両用空調装置。
V=(πD/4)×L’×n×(Nc/60)×ηv
ただし、D:前記ピストンの直径、L’:ピストンの最大吐出容量運転時におけるストローク、n:シリンダの数n、Nc:前記回転機構の回転速度、ηv:シリンダ体積効率
【請求項4】
運転状態判定手段によって判定された最大吐出容量運転時と、最大吐出容量未満の運転時とで、それぞれ別個に設定された演算方式に基づいて前記圧縮機の駆動トルクを算出する請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記容量制御弁は、駆動電流によって吐出容量制御用の開度が調整され、
前記圧縮機の駆動トルクは、前記凝縮器の入口及び出口での冷媒圧力、前記回転機構の回転速度、前記実冷媒流量Gr、及び前記圧縮機の吸入圧力Psに基づいて算出され、
最大吐出容量未満の運転時と判定されたときは、前記圧縮機の吸入圧力Psを前記容量制御弁への駆動電流に基づいて推定し、
最大吐出容量運転時と判定されたときは、前記圧縮機の吸入圧力Psを、前記凝縮器の入口での冷媒圧力、前記回転機構の回転速度、及び前記実冷媒流量Grに基づいて推定する請求項4に記載の車両用空調装置。
【請求項6】
前記冷媒流量検出手段は、冷媒循環経路内の高圧側に介装したオリフィスの上流側と下流側との前後差圧に基づいて実冷媒流量Grを検出する請求項1〜請求項5のいずれか1つに記載の車両用空調装置。
【請求項7】
冷媒の吸入圧力Psを制御して冷媒吐出容量を可変制御する容量制御弁を備えた可変容量圧縮機と、凝縮器と、冷媒温度を一定に維持しつつ減圧膨張させる温度式膨張弁と、蒸発器と、を、冷媒配管を介して循環接続した車両用空調装置における可変容量圧縮機の運転状態判定方法であって、
前記空調装置の実冷媒流量Grを検出し、
前記容量制御弁により制御される吸入圧力Psの設定値Ps’に基づいて、前記圧縮機に吸入される冷媒の密度ν’を算出し、
前記圧縮機が最大吐出容量で運転された場合に圧縮機に吸入される冷媒の体積流量Vに、前記冷媒密度算出手段によって算出された冷媒密度ν’を乗じて、最大吐出容量運転判定用の流量閾値Gslを算出し、
前記冷媒流量検出手段によって検出した実冷媒流量Grが、前記流量閾値算出手段によって算出した流量閾値Gsl以上のときは、前記圧縮機が最大吐出容量で運転され、流量閾値Gsl未満のときは、最大吐出容量未満で運転されていると判定する、
ステップを含んで構成したことを特徴とする車両用空調装置における可変容量圧縮機の運転状態判定方法。
【請求項8】
冷媒循環経路内の高圧側に介装したオリフィスの上流側と下流側との前後差圧に基づいて前記実冷媒流量Grを検出する請求項7に記載の車両用空調装置における可変容量圧縮機の運転状態判定方法。

【図1】
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【図6】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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