車両用空調装置及び車両用空調装置の制御方法
【課題】車内の快適性を保ちつつ、車両の燃費を改善するように、自動的に設定を変更可能な車両用空調装置及びその制御方法を提供する。
【解決手段】車両用空調装置(1)は、空調空気を車内に供給する空調部(10)と、車両に関する状態を表す状態情報を取得する情報取得部(51、52、53)と、状態情報に基づいて、燃費を改善するための設定操作を行った場合に、所定時間経過後の車両内の空調状態を推定する空調状態推定部(63)と、推定された空調状態が、乗員にとって車両内が快適であると推定される快適性条件を満たす場合、その設定操作を推薦する推薦操作決定部(64)と、推薦された設定操作に応じて空調部(10)の空調制御を行う空調制御部(65)とを有する。
【解決手段】車両用空調装置(1)は、空調空気を車内に供給する空調部(10)と、車両に関する状態を表す状態情報を取得する情報取得部(51、52、53)と、状態情報に基づいて、燃費を改善するための設定操作を行った場合に、所定時間経過後の車両内の空調状態を推定する空調状態推定部(63)と、推定された空調状態が、乗員にとって車両内が快適であると推定される快適性条件を満たす場合、その設定操作を推薦する推薦操作決定部(64)と、推薦された設定操作に応じて空調部(10)の空調制御を行う空調制御部(65)とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置及び車両用空調装置の制御方法に関し、特に、燃費を向上させる車両用空調装置およびその車両用空調装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両用空調装置では、設定温度、外気温、内気温、日射量などの各種パラメータに応じて、各吹き出し口から送出される空調空気の温度、風量などを自動的に決定する。しかし、乗員の温感(暑がり、寒がりなど)には個人差がある。そのため、自動的に決定された空調空気の温度、風量などが、乗員にとって最適な値とならないことがある。そのような場合、乗員は、必要に応じて空調装置の操作パネルを操作して、設定温度や風量を変更する。このような設定操作の回数が多くなると、その設定操作は、乗員にとって煩わしいものとなる。そこで、空調装置などの設定を乗員の好みに合わせて最適化し、あるいは、設定操作を簡単化する装置が開発されている(特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1に記載の空調装置は、空調状態の設定変更が行なわれたときの空調状態などを参照して、ファジー理論を用いて空調制御のための情報を記載したデータテーブルを修正することにより、乗員の好みに合わせて空調制御を最適化する。
また、特許文献2に記載の自動制御システムは、所定の目標物の接近など、何らかのトリガ情報を取得して、そのトリガ情報に関連付けられた各種の自動制御(例えば、空調装置の内外気切替、オーディオをラジオ交通情報にセット、ワイパーを停止など)を乗員に提示する。そして、その自動制御システムは、乗員がその提示された自動制御に対してYESボタンを通じて肯定操作を行うだけで、それらの自動制御を実行する。
さらに、特許文献3には、エバポレータの温度に応じて、ヒートポンプのコンプレッサを間欠的に動作させることにより、省燃費を図りつつ、乗員がエバポレータに付着した異臭成分による不快感を感じることを抑制可能な車両用空調装置が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平4−243617号公報
【特許文献2】特開2000−127869号公報
【特許文献3】特開2002−248933号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、近年における環境保護への関心の高まりにより、車両用空調装置においても、可能な限り消費エネルギーを抑制することが求められている。そのためには、燃費を改善するように、空調装置の設定を適宜修正することが望ましい。車内の快適性を損なうことなく、燃費を改善するためには、設定温度の調整、風量の調節、窓の開閉などの操作を頻繁に行わなければならない。しかし、上記のように、頻繁に設定操作を行うことは、乗員にとって煩わしいため、燃費を改善するための設定操作はあまり行われていない。また、上記の何れの装置においても、燃費を改善することを意図していないため、燃費改善を改善するように設定を修正したり、そのような設定を乗員に提案することはなされなかった。
また、特許文献3に記載の車両用空調装置は、間欠的に空調運転を行って燃費を改善するものではあるが、係る空調装置では、温度によって乗員が感じる不快度は考慮されていない。さらに、係る空調装置では、乗員ごとの温度及び臭いに対して感じる不快度の違いも考慮されていない。
【0006】
本発明の目的は、車内の快適性を保ちつつ、燃費を改善可能な車両用空調装置及び車両用空調装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の記載によれば、本発明の一つの形態として、車両用空調装置が提供される。係る車両用空調装置は、空調空気を車両内に供給する空調部(10)と、車両に関する状態を表す状態情報を取得する情報取得部(51、52、53)と、状態情報に基づいて、燃費を改善するための設定操作を行った場合に、所定時間経過後の車内の空調状態を推定する空調状態推定部(63)と、推定された空調状態が、乗員にとって車内が快適であると推定される快適性条件を満たす場合、設定操作を推薦する推薦操作決定部(64)と、推薦された設定操作に応じて空調部(10)の空調制御を行う空調制御部(65)とを有する。
【0008】
係る構成を有することにより、本発明の一つの形態に係る車両用空調装置は、車内の快適性を維持したまま、燃費を改善することができる。なお、本明細書において、状態情報とは、車両に関する状態を表す情報であり、例えば、車両内外の空調情報、車両の位置情報、車両の挙動情報、時間情報又は車両の乗員の生体情報などである。また、設定操作とは、設定温度の変更、風量の変更、内気循環モードに設定する、デフロスタを作動あるいは停止させるといった、車両用空調装置の動作状態を変更させる操作である。さらに、設定操作に関連して修正される、車両用空調装置の動作を規定する情報を設定情報という。設定情報は、例えば、設定温度、風量、内外気の吸気比、各吹出口から送出される空調空気の風量比などである。
【0009】
また、請求項2に記載のように、本発明の一つの形態に係る車両用空調装置は、推薦された設定操作を乗員に提示する表示部(59)と、推薦された設定操作を承認するか否かを入力する判定入力部(75)とをさらに有し、空調制御部(65)は、判定入力部(75)を通じて、推薦された設定操作を承認する承認操作がなされた場合、推薦された設定操作に応じて空調部(10)の空調制御を行うことが好ましい。
【0010】
さらに、請求項3に記載のように、乗員が快適と感じる車内温度に関する快適温度確率分布であり、空調状態推定部(63)は、所定時間経過後の車内温度に関する推定温度確率分布を推定された空調状態として求め、推薦操作決定部(64)は、快適温度確率分布と推定温度確率分布の乖離度を求め、その乖離度が所定の閾値以下の場合、推定された空調状態は快適性条件を満たすと判定することが好ましい。このように、それぞれの空調状態を確率分布で表すことにより、本発明に係る車両用空調装置は、推定された空調状態が快適性条件を満たすか否かを正確に判定することができる。
【0011】
さらに、請求項4に記載のように、推薦操作決定部(64)は、状態情報を入力として、乗員が快適と感じる車内温度に関する確率分布を出力する確率モデルを用いて、快適温度確率分布を決定することが好ましい。
この場合において、請求項5に記載のように、本発明の一つの形態に係る車両用空調装置は、情報取得部(51、52、53)により、安定状態において取得された複数の状態情報を学習データ群として記憶する記憶部(61)と、その学習データ群を用いて、確率モデルを生成または更新する快適性条件決定部(66)を有することが好ましい。
本発明に係る車両用空調装置は、乗員が快適と感じる条件を、安定状態にある状態情報を用いて学習するので、快適性条件を乗員の好みに合わせて最適化することができる。
【0012】
また請求項6に記載のように、本発明の一形態として、状態情報は目的地に到達するまでの推定所要時間であり、かつ、燃費を改善するための設定操作は、空調部(10)の停止または設定温度を車外の温度に近づける操作であることが好ましい。
さらに請求項7に記載のように、空調状態推定部(63)は、推定所要時間経過後における車内温度を推定された空調状態として求め、推薦操作決定部(64)は、推定所要時間経過後における車内温度が所定の温度範囲に含まれる場合、推定された空調状態が快適性条件を満たすと判定することが好ましい。
これにより、本発明に係る車両用空調装置は、目的に到達するまでは車内を快適な状態に維持できるので、乗員に不快感を感じさせることなく、燃費を改善することができる。
【0013】
また請求項9に記載のように、状態情報は車内温度であり、かつ、燃費を改善するための設定操作は、空調部(10)の停止または設定温度を車外の温度に近づける操作であることが好ましい。
さらに請求項10に記載のように、空調状態推定部(63)は、所定時間経過後における車内温度を推定された空調状態として求め、推薦操作決定部(64)は、所定時間経過後における車内温度が所定の温度範囲に含まれる場合、推定された空調状態が快適性条件を満たすと判定することが好ましい。
これにより、本発明に係る車両用空調装置は、車内を過剰に冷房または暖房することを防止できるので、乗員に不快感を感じさせることなく、燃費を改善することができる。
【0014】
さらに請求項8または11に記載のように、推薦操作決定部(64)は、状態情報を入力とする確率モデルを用いて、乗員が快適と感じる車内温度に関する確率を求め、その確率が最も高くなる温度範囲を所定の温度範囲とすることが好ましい。
これにより、本発明に係る車両用空調装置は、乗員が快適と感じる車内を温度範囲を正確に評価することができる。
【0015】
また、請求項12の記載によれば、本発明の他の形態として、空調空気を車内に供給する空調部(10)を有する車両用空調装置の制御方法が提供される。係る制御方法は、車両に関する状態を表す状態情報を取得するステップと、状態情報に基づいて、燃費を改善するための設定操作を行った場合に、所定時間経過後の車内の空調状態を推定するステップと、推定された空調状態が、乗員にとって車両内が快適である推定される快適性条件を満たす場合、その燃費を改善するための設定操作を推薦するステップと、推薦された設定操作に応じて空調部(10)を制御するステップとを有する。
【0016】
さらに、請求項13の記載によれば、本発明の他の形態として、車両用空調装置が提供される。係る車両用空調装置は、空調空気を車内に供給する空調部(10)と、車内の状態に関する少なくとも一種類の状態情報を取得する情報取得部(54)と、少なくとも一種類の状態情報を入力とし、乗員の不快度を出力とする確率モデルを用いてその不快度を推定する不快度推定部(67)と、不快度が第1の基準値よりも高くなると空調運転の度合いを強くするよう決定する運転レベル決定部(68)と、運転レベル決定部(68)により決定された空調運転の度合いに従って、空調部(10)を制御する空調制御部(65)とを有する。
【0017】
本発明の他の形態に係る車両用空調装置は、乗員の不快度に応じて空調運転の度合いを強くするので、車内を快適に保つことができる。特に、係る車両用空調装置は、車内の状態に関する状態情報を入力とする確率モデルを用いて不快度を推定するので、正確に乗員の不快度を推定することができる。
【0018】
さらに請求項14の記載によれば、本発明に係る車両用空調装置は、空調運転の度合いを調節するための操作部(59)と、操作部(59)を介して空調運転の度合いを強くする操作が行われたときの少なくとも一種類の状態情報を、乗員が不快と感じる状態に対応する不快状態データとして記憶する記憶部(61)と、少なくとも一種類の乗員状態情報の値に対応する不快状態データの数が多くなるほど、その状態情報の値に対応する不快度が高くなるように確率モデルを修正する不快度推定モデル修正部(69)とを有することが好ましい。
【0019】
この場合において、請求項15の記載によれば、記憶部(61)は、操作部(59)を介して空調運転の度合いを弱くする操作が行われたときの少なくとも一種類の状態情報を、乗員が快適と感じる状態に対応する快適状態データとして記憶し、不快度推定モデル修正部(69)は、少なくとも一種類の状態情報の値に対応する快適状態データの数が多くなるほど、その状態情報の値に対応する不快度が低くなるように確率モデルを修正することが好ましい。
【0020】
さらに請求項16の記載によれば、不快度推定モデル修正部(69)は、予め定められた範囲内に含まれる少なくとも一種類の状態情報の値に対応する不快度のみを変更するように確率モデルを修正することが好ましい。
【0021】
さらに請求項17の記載によれば、情報取得部(54)は、遠赤外線センサであり、少なくとも一種類の状態情報は、情報取得部(54)により推定される乗員周囲の気温を含むことが好ましい。乗員周囲の気温を不快度の推定に利用することにより、本発明に係る車両用空調装置は、乗員の不快度を正確に推定することができる。
【0022】
さらに請求項18の記載によれば、運転レベル決定部(68)は、不快度が、第1の基準値よりも低い第2の基準値以下になると空調運転の度合いを弱くするよう決定することが好ましい。
不快度がある程度低下したときに、空調運転の度合いを弱くすることにより、車両用空調装置が車内を過剰に冷房または暖房することを防止できるので、本発明に係る車両用空調装置は、車内を快適に保ったまま、燃費を改善することができる。
【0023】
さらに請求項19の記載によれば、不快度推定部(67)は、少なくとも一つの状態情報に基づいて、空調運転の度合いを弱くする操作を行った場合の所定時間経過後における乗員の不快度を推定し、運転レベル決定部(68)は、所定時間経過後における乗員の不快度が第1の基準値以下のとき、空調運転の度合いを弱くするよう決定することが好ましい。
【0024】
さらに、請求項20の記載によれば、本発明の他の形態として、空調空気を車内に供給する空調部(10)を有する車両用空調装置の制御方法が提供される。係る制御方法は、 車内の状態に関する少なくとも一種類の状態情報を取得するステップと、少なくとも一種類の状態情報を入力とし、乗員の不快度を出力とする確率モデルを用いてその不快度を推定するステップと、不快度が第1の基準値よりも高くなると空調運転の度合いを強くするよう決定するステップと、決定された空調運転の度合いに従って、空調部(10)を制御するステップとを有する。
【0025】
この場合において、請求項21に記載のように、不快度が、第1の基準値よりも低い第2の基準値以下になると空調運転の度合いを弱くするよう決定するステップをさらに有することが好ましい。
【0026】
あるいは、請求項22に記載のように、少なくとも一つの状態情報に基づいて、空調運転の度合いを弱くする操作を行った場合の所定時間経過後における乗員の不快度を推定するステップと、所定時間経過後における乗員の不快度が第1の基準値以下のとき、空調運転の度合いを弱くするよう決定するステップと、をさらに有することが好ましい。
【0027】
なお、上記各手段に付した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置について説明する。
本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置は、車両の現状態を表す状態情報に基づいて、燃費を改善するための設定操作を行った場合に、所定時間経過後の車両内の空調状態を推定する。そして車両用空調装置は、その推定された空調状態が、乗員にとって快適と感じられる空調状態であれば、その設定操作を自動実行するか、乗員に提示して承認操作を得た後にその設定操作を実行することにより、車内を快適な状態に維持したまま、燃費を改善するものである。
【0029】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置1の全体構成を示す構成図である。図1に示すように、車両用空調装置1は、主に機械的構成からなる空調部10と、この空調部10を制御する制御部60とを有する。
【0030】
まず、空調部10の冷凍サイクルRの構成を説明する。車両用空調装置1の冷凍サイクルRは閉回路で構成され、その閉回路はコンプレッサ11より時計回りにコンデンサ15、レシーバ16、膨張弁17、およびエバポレータ18を含む。そして、コンプレッサ11は、冷媒を圧縮して高圧ガスにする。また、コンプレッサ11は、ベルト12を介して車載エンジン13より伝わる動力断続用の電磁クラッチ14を備える。コンデンサ15は、コンプレッサ11より送られてきた高温、高圧の冷媒ガスを冷却し、液化させる。レシーバ16は、液化された冷媒ガスを貯蔵する。また、冷却性能の低下を防ぐため、液化された冷媒に含まれるガス状の気泡を取り除き、完全に液化された冷媒のみを膨張弁17へ送る。膨張弁17は、液化された冷媒を断熱膨張させて低温、低圧化し、エバポレータ18へ送る。エバポレータ18は、低温、低圧化された冷媒と、エバポレータ18に送り込まれた空気との間で熱交換を行ってその空気を冷却する。
【0031】
次に、空調部10の空調ケース20内の構成について説明する。エバポレータ18の上流側には、ブロアファン21が配置されている。ブロアファン21は遠心式送風ファンで構成され、駆動用モータ22により回転駆動される。ブロアファン21の吸入側には、内外気切替箱23が配置される。内外気切替箱23内には、内外気サーボモータ24で駆動される内外気切替ドア25が配置される。そして内外気切替ドア25は、内気吸込口26と外気吸込口27とを切り替えて開閉する。そして、内気吸込口26又は外気吸込口27から取り込まれた空気は、内外気切替箱23を経由して、ブロアファン21によってエバポレータ18へ送られる。なお、ブロアファン21の回転速度を調整することにより、車両用空調装置1から送出される風量を調節することができる。
【0032】
エバポレータ18の下流側には、エバポレータ18側から順に、エアミックスドア28、およびヒータコア29が配置される。ヒータコア29には、ヒータコア29を通る空気を暖めるために、車載エンジン13の冷却に使用された冷却水が循環供給される。また、空調ケース20には、ヒータコア29をバイパスするバイパス通路30が形成されている。エアミックスドア28は、温調サーボモータ31により回動され、各吹き出し口から送出される空気を所定の温度にするために、ヒータコア29を通過する通路32からの温風とバイパス通路30を通過する冷風との風量割合を調整する。
【0033】
さらに、バイパス通路30を経由した冷風と、ヒータコア29を通過する通路32からの温風とが混合される空気混合部33の下流側には、空調空気を車内に送出するフット吹き出し口34、フェイス吹き出し口35、デフロスタ吹き出し口36が設けられている。そして、各吹き出し口には、各吹き出し口を開閉するためのフットドア37、フェイスドア38及びデフロスタドア39がそれぞれ設けられている。なお、フット吹き出し口34は、運転席または助手席の足元へ空調空気を送出し、フェイス吹き出し口35は、フロントパネルから運転席または助手席に向けて空調空気を送出する。また、デフロスタ吹き出し口36は、フロントガラスへ向けて空調空気を送出する。各ドア37、38及び39は、モードサーボモータ40により駆動される。さらに、各吹き出し口には、風向きを調整するためのフィンが設けられていてもよい。
【0034】
次に、車両用空調装置1が有する情報取得部として機能する各種センサについて説明する。内気温センサ51は、車室内の温度(内気温)Trを測定するために、ハンドル近傍のインストルメントパネルなどにアスピレータとともに設置される。また、外気温センサ52は、車室外の温度(外気温)Tamを測定するために、コンデンサ15の外側前面の車両前方ラジエターグリルに設置される。さらに、車室内に照りつける日射光の強さ(日射量)Sを測定するために、日射センサ53が車室内のフロントガラス近傍に取り付けられる。なお、日射センサ53はフォトダイオードなどで構成される。これらセンサで取得された内気温Tr、外気温Tam及び日射量Sは、空調情報とされ、温調制御及び風量制御を行うために、制御部60で使用される。なお、温調制御及び風量制御の詳細は後述する。
【0035】
さらに、エバポレータ18から吹き出される空気の温度(エバポレータ出口温度)を測定するためのエバポレータ出口温度センサ、ヒータコア29へのエンジン冷却水の冷却水の水温を測定するためのヒータ入口水温センサ、及び冷凍サイクルR内を循環する冷媒の圧力を測定するための圧力センサ、排気ガスの臭気を測定するための排ガスセンサなどが設けられる。その他、車室内には、湿度センサ、ドライバ及び同乗者の顔を撮影するための1台以上の車内カメラ、車外の様子を撮影する車外カメラ、乗員の生体情報を取得するための体温センサなどを設置してもよい。
【0036】
車両用空調装置1は、上記の各センサからのセンシング情報の他、ナビゲーションシステムから、車両の現在位置、進行方向、周辺地域情報、Gbook情報などの位置情報を状態情報として取得するようにしてもよい。また、車両操作機器から、アクセル開度、ハンドル、ブレーキ、パワーウインドウ開度、ワイパー、ターンレバー若しくはカーオーディオのON/OFFなどの各種操作情報、及び車速、車両挙動情報などを状態情報として取得するようにしてもよい。さらに、車載時計より、曜日、現在時刻などの時間情報を状態情報として取得するようにしてもよい。
このように、ナビゲーションシステム、車両操作機器なども、情報取得部として機能し得る。
【0037】
さらに、車両用空調装置1は、推薦された空調設定の提案に対して乗員が承認する承認操作または拒否する拒否操作を行うための判定入力部を有する。本実施形態では、承認操作及び拒否操作用の判定入力部として、YESボタンとNOボタンを有するYES/NOスイッチ75を、ハンドルに設けた。そして、YESボタンをONにする操作を承認操作、NOボタンをONにする操作を拒否操作とした。YES/NOスイッチ75においてなされたスイッチ操作は、電気信号として制御部60へ通知される。
なお、車内に集音マイクを設置し、制御部60に音声認識プログラムを搭載することにより、集音マイクで検出された乗員の音声に反応して承認操作(例えば、「はい」という音声を認識した場合)か拒否操作(例えば、「いいえ」という音声を認識した場合)かを判定するように、判定入力部を構成してもよい。
【0038】
図2は、車両用空調装置1の制御部60の機能ブロック図である。
制御部60は、図示していないCPU,ROM,RAM等からなる1個もしくは複数個の図示してないマイクロコンピュータ及びその周辺回路と、電気的に書き換え可能な不揮発性メモリ等からなる記憶部61と、各種センサ、ナビゲーションシステム56又は車両操作機器57などとコントロールエリアネットワーク(CAN)のような車載通信規格に従って通信を行う通信部62を有する。
【0039】
さらに、制御部60は、このマイクロコンピュータ及びマイクロコンピュータ上で実行されるコンピュータプログラムによって実現される機能モジュールとして、空調状態推定部63、推薦操作決定部64、空調制御部65及び快適性条件決定部66を有する。
【0040】
制御部60は、上記のセンシング情報などの状態情報を取得すると、それらをRAMに一時的に記憶する。同様に、操作部であるA/C操作パネル59から取得された設定情報もRAMに一時的に記憶する。そして制御部60は、空調制御部65において、それら状態情報及び設定情報に基づいて空調部10を制御して、各吹き出し口から送出される空調空気の風量比、全体の風量及び温度を調節する。
また、空調状態推定部63は、燃費の改善につながる何れかの設定操作(以下、燃費改善操作という)を行ったと仮定した場合に、所定時間経過後の車内の空調状態を推定する。推薦操作決定部64は、推定された空調状態が、乗員にとって車内が快適と感じられる条件(以下、快適性条件という)を満たすか否かを判定する。そして空調状態推定部63により推定された空調状態が快適性条件を満たせば、推薦操作決定部64は、その燃費改善操作に従って空調設定を修正する。あるいは、推薦操作決定部64は、その燃費改善操作を乗員に対して提示し、乗員がその推薦された燃費改善操作の提案を承認すると、空調設定を提示内容にあわせて修正する。そして、空調制御部65で修正後の設定に応じて空調部10を制御する。さらに快適性条件決定部66は、快適性条件を乗員の好みに合わせて学習する。以下、これらの動作を行う各機能モジュールについて説明する。
【0041】
空調状態推定部63は、予め設定された複数の燃費改善操作のそれぞれについて、状態情報が燃費改善操作に関連する所定のトリガ条件を満たした場合、その燃費改善操作を行った場合の所定時間(例えば、10分)経過後の車内の空調状態を推定する。
燃費改善操作は、例えば、以下のような設定操作を含む。しかし、以下の設定操作は単なる例示であり、燃費改善効果の有る他の設定操作を燃費改善操作として使用してもよい。
【0042】
(1)夏季に提案される燃費改善操作と、その操作を推薦するためのトリガ条件
(a)目的地までの推定到着時間が、所定時間(例えば10分)以下になったら、空調部10を停止するか、設定温度Tsetを所定値(例えば、2℃)だけ上げる。なお、空調部10を停止するとは、コンプレッサ11及びブロアファン21を停止させることをいう。空調部10が停止している間、制御部60は空調状態を監視するために稼動していてもよい。
(b)乗員が乗車した直後(あるいは、エンジンがONになった直後)において、内気温Tr、外気温Tam、日射量Sがそれぞれ所定値以上の場合(例えばTr≧40℃、Tam≧30℃、S≧500W/m2)、窓を開け、一定時間(例えば5分)経過後に、窓を閉める。
(c)排ガスセンサの測定値が所定値以上になった場合、吸気モードを外気モードに設定し、空調部10を停止し、さらに窓を開ける。
(d)内気温Tr及び外気温Tamがそれぞれ所定値以下となり、日射量S及び車速Vがそれぞれ所定値以上の場合(例えばTr≦28℃、Tam≦28℃、S≧100W/m2、V≦80km/h)、空調部10を停止し、さらに窓を開ける。
(e)風向きが乗員の方向を向いていなければ、風向きを乗員の方へ向ける。
(f)内気温Trが低下して所定値(例えば28℃)以下に低下した場合、風向きを乗員の方へ向け、風量を下げる。
(g)内気温Trが所定値(例えば25℃)以下の場合、設定温度Tsetを所定値(例えば、2℃)だけ上げる。
(h)内気温Trと外気温Tamの差が所定値(例えば10℃)以上の場合、その差が閾値(例えば5℃)以下になるまで、設定温度Tsetを、所定時間(例えば5分)経過するごとに所定値(例えば、1℃)ずつ上げる。ただし、制御部60は、設定温度を上げる際、エバポレータ18から排出された空気が、ヒータコア29を通らないように、エアミックスドア28の開度を調整する。
【0043】
(2)冬季に提案される燃費改善操作と、その操作を推薦するためのトリガ条件
(i)目的地までの推定到着時間が、所定時間(例えば10分)以下になったら、空調部10を停止するか、設定温度Tsetを所定値(例えば、2℃)だけ下げる。
(j)排ガスセンサーの測定値が所定値以上になった場合、吸気モードを外気モードに設定し、空調部10を停止し、さらに窓を開ける。
(k)車内の湿度が40%以上60%以下の範囲に含まれる場合、コンプレッサ11を停止する。
(l)内気温Trが上昇して所定値(例えば20℃)以上になった場合、風量を下げる。
【0044】
(3)中間期(春季及び秋季)に提案される燃費改善操作と、その操作を推薦するためのトリガ条件
(m)目的地までの推定到着時間が、所定時間(例えば10分)以下になったら、空調部10をOFFにする。
(n)排ガスセンサーの測定値が所定値以上になった場合、吸気モードを外気モードに設定し、空調部10をOFFにし、さらに窓を開ける。
(o)内気温Tr及び外気温Tamがそれぞれ所定値以下となり、日射量S及び車速Vがそれぞれ所定値以上の場合(例えばTr≦28℃、Tam≦28℃、S≧100W/m2、V≦80km/h)、空調部10をOFFにし、さらに窓を開ける。
(p)風向きが乗員の方向を向いていなければ、風向きを乗員の方へ向ける。
(q)内気温Trが低下して所定値(例えば26℃)以下に低下した場合、風向きを乗員の方へ向け、風量を下げる。
(r)内気温Trが所定値(例えば25℃)以下の場合、設定温度Tsetを所定値(例えば、2℃)だけ上げる。
(s)内気温Trと外気温Tamの差が所定値(例えば10℃)以上の場合、その差が閾値(例えば5℃)以下になるまで、設定温度Tsetを、所定時間(例えば5分)経過するごとに所定値(例えば、1℃)ずつ上げる。ただし、制御部60は、設定温度を上げる際、エバポレータ18から排出された空気が、ヒータコア29を通らないように、エアミックスドア28の開度を調整する。
【0045】
空調状態推定部63は、外気温Tamを参照して、上記の燃費改善操作(a)〜(s)のうち、どの季節用の燃費改善操作を推薦対象とするか決定する。例えば、外気温Tamが25℃以上の場合、空調状態推定部63は、夏季用の燃費改善操作(操作(a)〜(h))を推薦対象とする。また、外気温Tamが15℃未満の場合には、空調状態推定部63は、冬季用の燃費改善操作(操作(i)〜(l))を推薦対象とする。そして外気温Tamが10℃以上30℃未満の場合には、空調状態推定部63は、中間期用の燃費改善操作(操作(m)〜(s))を推薦対象とする。なお、二つの季節についての対象範囲が重なっている温度では、空調状態推定部63は、両方の季節用の燃費改善操作を推薦対象とする。例えば、外気温Tamが28℃の場合、夏季用の燃費改善操作と中間期用の燃費改善操作が推薦対象となる。あるいは、空調状態推定部63は、推薦対象とする燃費改善操作を外気温Tamを参照して限定する代わりに、各燃費改善操作のトリガ条件に、外気温Tamに関する条件を含めてもよい。
【0046】
空調状態推定部63は、各センサから得た状態情報が、上記の何れかの燃費改善操作のトリガ条件を満たした場合、所定時間経過後の車内の空調状態、例えば内気温Trを推定する。
空調状態推定部63は、予め準備された確率モデルに基づいて、所定時間経過後の車内の空調状態を、確率分布として求める。本実施形態では、確率モデルとして、ベイジアンネットワークを用いた。ベイジアンネットワークは、複数の事象の確率的な因果関係をモデル化するものであり、各ノード間の伝播を条件付き確率で求める、非循環有向グラフで表されるネットワークである。なお、ベイジアンネットワークの詳細については、本村陽一、岩崎弘利著、「ベイジアンネットワーク技術」、初版、電機大出版局、2006年7月、繁桝算男他著、「ベイジアンネットワーク概説」、初版、培風館、2006年7月、又は尾上守夫監修、「パターン識別」、初版、新技術コミュニケーションズ、2001年7月などに開示されている。
【0047】
図3に、本実施形態の燃費改善操作(a)及び(m)に関して空調状態を推定するために使用する確率モデルの例を示す。図3に示した確率モデル300は、3個の入力ノード301、302及び303と、出力ノード304とを有する2層構成のベイジアンネットワークである。各入力ノード301〜303は、それぞれ、現時点の内気温Tr、直近30分間の平均日射量Sav、直近30分間の平均外気温Tamavを入力パラメータとする。各入力ノード301〜303は、それぞれ、条件付き確率表(以下、CPTという)311〜313が関連付けられる。そして、各入力ノード301〜303は、CPT311〜313を参照して、各入力パラメータが所定の値を有する可能性を表す事前確率を出力する。例えば、入力ノード301は、内気温Trが25℃の場合、事前確率として、内気温Trが23℃〜26℃の範囲内である確率を1、内気温Trが20℃〜23℃及び他の温度範囲内である確率を0として出力する。または、何らかの理由で制御部60が内気温Trを取得できなかった場合、入力ノード301は、CPT311を参照して、内気温Trが23℃〜26℃の範囲内である確率及び内気温Trが20℃〜23℃の範囲内である確率をそれぞれ0.25とし、他の温度範囲内である確率を0.5として出力する。
【0048】
出力ノード304は、各入力ノード301〜303から出力された事前確率と、CPT314を参照して、燃費改善操作(a)または(m)(空調部10の停止)を行ってから10分後の内気温Trの推定確率を出力する。例えば、内気温Trが25℃、平均日射量Savが450W/m2、平均外気温Tamavが22℃の場合、CPT314の列315に基づいて、10分後の内気温Trが、20℃〜23℃の範囲、23℃〜26℃の範囲及び26℃〜29℃の範囲に含まれる確率は、それぞれ0.1、0.5、0.4となる。
【0049】
図4に、空調状態を推定するために使用する他の確率モデルの例を示す。図4に示す確率モデル400は、本実施形態の燃費改善操作(d)及び(o)に関して10分後の内気温Trを推定するために使用される。図4において、入力ノード401〜403は、確率モデル300と同様に、それぞれ現在の内気温Tr、平均日射量Sav、平均外気温Tamavを入力パラメータとし、CPT411〜413を参照して、各入力パラメータが所定の値を有する事前確率を出力する。また出力ノード404は、各入力ノードからの事前確率とCPT414を参照して、燃費改善操作を行ってから10分後の内気温Trの確率分布を出力する。なお、確率モデル400は、窓の開度を入力パラメータとし、その開度の事前確率を出力する入力ノードを有していてもよい。この場合、当然ながら出力ノード404は、窓の開度も参照して10分後の内気温Trの確率分布を出力する。
【0050】
図5に、空調状態を推定するために使用するさらに他の確率モデルの例を示す。図5に示す確率モデル500は、本実施形態の燃費改善操作(g)及び(r)に関して10分後の内気温Trを推定するために使用される。図5において、入力ノード501〜503は、確率モデル300と同様に、それぞれ内気温Tr、平均日射量Sav、平均外気温Tamavを入力パラメータとし、CPT511〜513を参照して、各入力パラメータが所定の値を有する事前確率を出力する。また出力ノード504は、各入力ノードからの事前確率とCPT514を参照して、燃費改善操作を行ってから10分後の内気温Trの確率分布を出力する。なお、確率モデル500は、設定温度Tsetを入力パラメータとし、設定温度Tsetの事前確率を出力する入力ノードを有していてもよい。この場合、当然ながら出力ノード504は、設定温度Tsetも参照して10分後の内気温Trの確率分布を出力する。
【0051】
推定される空調状態は、内気温だけに限られず、風量、風量比、及びそれらの組み合わせであってもよい。例えば、空調状態推定部63は、風向きを調整する燃費改善操作(e)に関して、各吹き出し口からの風量比を推定してもよい。例えば、空調状態推定部63は、フェイス吹き出し口35からの風量を100%、デフロスタ吹き出し口36及びフット吹き出し口34の風量を0%と推定する。このように、空調状態推定部63は、確率モデルを用いることなく、決定論的な判別条件に基づいて、その状態を推定してもよい。
【0052】
なお、空調状態を推定する所定時間は、燃費改善操作ごとに異なっていてもよい。例えば、上記の(a)及び(m)に示した燃費改善操作の場合、空調状態の推定を行う所定時間を、目的地に到達するまでの推定所要時間としてもよい。ただしこの場合には、所要時間ごとに別個の確率モデルを準備するか、推定所要時間を入力パラメータとする入力ノードを確率モデルに加えることが好ましい。
【0053】
上記のような確率モデル若しくは判別条件は、経験的、あるいは実験的に予め生成され、制御部60上で実行されるコンピュータプログラムに組み込まれる。あるいは、記憶部61にデータとして記憶される。
【0054】
推薦操作決定部64は、選択された燃費改善操作を行った場合における所定時間経過後の推定された空調状態が、乗員が車内を快適と感じる快適性条件を満たすか否かを判定する。そして、快適性条件を満たすと判定した場合、推薦操作決定部64は、その燃費改善操作を推薦する。
本実施形態では、快適性条件も、車内の空調状態に関する確率分布として与えられる。そのために、推薦操作決定部64は、状態情報を入力とする確率モデルを用いて、快適な空調状態を表す確率分布を求める。
【0055】
図6に、快適性条件を求めるために使用される確率モデルの例を示す。図6に示した確率モデル600は、例えば、燃費改善操作(a)及び(m)のように、内気温Trを主として変動させる操作に対して使用される。確率モデル600は、3個の入力ノード601、602及び603と、出力ノード604とを有する2層構成のベイジアンネットワークである。各入力ノード601〜603は、それぞれ、直近30分間の平均日射量Sav、直近30分間の平均外気温Tamav、同乗者の有無を入力パラメータとする。各入力ノード601〜603は、それぞれ、CPT611〜613が関連付けられる。そして、各入力ノード601〜603は、CPT611〜613を参照して、各入力パラメータが所定の値を有する可能性を表す事前確率を出力する。
【0056】
出力ノード604は、各入力ノード601〜603から受け取った事前確率と、CPT614を参照して、乗員が快適と感じる内気温Trの推定確率分布を出力する。例えば、平均日射量Savが450W/m2、平均外気温Tamavが25℃、同乗者の有無不明の場合、CPT614の列615及び616に基づいて、乗員が快適と感じる内気温Trが20℃〜23℃の範囲に含まれる推定確率は、(0.4*0.5+0.4*0.5)=0.4となる。同様に、乗員が快適と感じる内気温Trが23℃〜26℃の範囲に含まれる推定確率は、(0.4*0.5+0.5*0.5)=0.45となる。さらに、乗員が快適と感じる内気温Trが26℃〜29℃の範囲に含まれる推定確率は、(0.2*0.5+0.1*0.5)=0.15となる。
【0057】
また図7に、快適性条件を推定するために使用する他の確率モデルの例を示す。図7に示す確率モデル700は、燃費改善操作(e)のように、風向きを調整する操作に対して使用される。図7において、入力ノード701〜703は、それぞれ内気温Tr、平均日射量Sav、平均外気温Tamavを入力パラメータとし、CPT711〜713を参照して、各入力パラメータが所定の値を有する事前確率を出力する。また出力ノード704は、各入力ノードからの事前確率とCPT714を参照して、乗員が快適と感じる風向きの確率分布を出力する。
【0058】
乗員が車内を快適と感じる条件には個人差がある。そのため、快適性条件を表す確率分布を求めるために使用される確率分布は、快適性条件決定部66によって学習され、最適化される。なお、快適性条件決定部66による処理については後述する。
【0059】
推薦操作決定部64は、快適性条件を表す確率分布を求めると、空調状態推定部63によって算出された推定空調状態を表す確率分布とのKL(Kullback-Leibler)距離を算出する。KL距離は、以下の式により計算される。
【数1】
ここでp(x)は推定された空調状態を表す確率分布であり、q(x)は快適性条件を表す確率分布である。またKは、KL距離であり、両確率分布の乖離度を表し、p(x)、q(x)が完全に一致する場合、Kは0となる。
【0060】
推薦操作決定部64は、KL距離Kが、所定の閾値Tより小さい場合、推定された空調状態は、乗員にとって快適であると判断し、対応する燃費改善操作を推薦する設定操作とする。なお閾値Tは、実験または経験に基づいて決定される。
【0061】
推薦操作決定部64は、推薦された燃費改善操作に関連付けられた自動実行フラグの値を参照して、その燃費改善操作を自動実行するか否かを決定する。自動実行フラグは、例えば1ビットのデータで表され、その値が'1'のとき、対応する燃費改善操作が自動実行されることを示す。一方、自動実行フラグの値が'0'のとき、対応する燃費改善操作は乗員の承認を得た後に実行されることを示す。
【0062】
さらに推薦操作決定部64は、推薦された燃費改善操作を自動実行しない場合、過去に燃費改善操作を提案した提案回数npと、その提案に対して乗員がその操作を承認した承認回数naに基づいて、推薦する燃費改善操作を乗員に提示するか否かを決定する。例えば、推薦操作決定部64は、推薦された燃費改善操作に対応する提案回数np及び承認回数naが、na≧np/2を満たす場合、乗員はその推薦操作を好むと判定し、その推薦操作を乗員に提示する。あるいは、乗員がその燃費改善操作を好むか否かを判断するための十分なデータが得られていない場合(例えば、np<10の場合)、推薦操作決定部64は、その推薦操作を乗員に提示する。一方、推薦された燃費改善操作に対応する提案回数np及び承認回数naが、上記の何れも満たさない場合、推薦操作決定部64は、乗員はその推薦操作を好まないと判定し、その推薦操作を乗員に提示しない。
提案回数、承認回数及び自動実行フラグの更新については、車両用空調装置1の動作手順とともに後述する。
【0063】
燃費改善操作を乗員に提案する場合(すなわち、自動実行フラグが、乗員の承認を要することを示す値であるとき)、推薦操作決定部64は、A/C操作パネル59あるいはナビゲーションシステムなどの表示部を通じてその設定操作内容を表示して乗員に知らせる。さらに、推薦操作決定部64は、車内に設置されたスピーカを通じて設定操作内容を音声で乗員に知らせてもよい。そして、乗員にその設定操作を行うか否かを確認する。
【0064】
推薦操作決定部64は、乗員が、YES/NOスイッチ75を通じてその燃費改善操作を行うことを承認する操作を行った場合、関連する設定情報を修正する。例えば、燃費改善操作(a)が提案され、その提案に対して乗員が承認操作を行うと、推薦操作決定部64は、空調部10をOFFにするよう設定情報を修正する。また、燃費改善操作(g)が提案され、その提案に対して乗員が承認操作を行うと、推薦操作決定部64は、設定温度Tsetを2℃上げる。
【0065】
一方、乗員が推薦された燃費改善操作を拒否したり、無視した場合(例えば、燃費改善操作が提案されてから一定期間の間、承認操作も拒否操作も行わない場合)には、推薦操作決定部64は設定情報を修正しない。
【0066】
空調制御部65は、各設定情報及び各センサから取得したセンシング情報をRAMから読み出し、それらの値に基づいて、空調部10を制御する。そのために、空調制御部65は、温度調節部651、コンプレッサ制御部652、吹出口制御部653、吸込口制御部654及び送風量設定部655を有する。
【0067】
温度調節部651は、設定温度Tset及び各温度センサ及び日射センサ53の測定信号に基づいて、各吹き出し口から送出される空調空気の必要吹出口温度(空調温度Tao)を決定する。そして、その空調空気の温度が空調温度Taoとなるように、エアミックスドア28の開度を決定し、温調サーボモータ31へ、エアミックスドア28の開度が設定された位置になるように制御信号を送信する。例えば、エアミックスドア28の開度は、内気温Trと設定温度Tsetの差を、外気温Tam、日射量Sなどで補正した値を入力とし、エアミックスドア28の開度を出力とする制御式に基づいて決定される。ここで、エアミックスドア28の開度を、一定の時間間隔(例えば、5秒間隔)毎に判定する。そのような制御を行うための各測定値から空調温度Taoを求めるための温調制御式及びエアミックスドア28の開度の関係式を以下に示す。
【数2】
上式において、Doは、エアミックスドア28の開度を表す。また、係数kset、kr、kam、ks、C、a、bは定数であり、Tset、Tr、Tam、Sは、それぞれ、設定温度、内気温、外気温及び日射量を表す。また、エアミックスドア28の開度Doは、ヒータコア29を経由する通路32を閉じた状態(すなわち、冷房のみが動作する状態)を0%、バイパス通路30を閉じた状態(すなわち、暖房のみが動作する状態)を100%として設定される。温調制御式の各係数kset、kr、kam、ks、C及びエアミックスドアの開度を求める関係式の係数a、bは温調制御パラメータとして設定される。
なお、温度調節部651は、空調温度Tao及びエアミックスドア28の開度を、ニューラルネットワークを用いた制御やファジイ制御など、他の周知の制御方法を用いて決定してもよい。算出された空調温度Taoは、制御部60の他の部で参照できるように、記憶部61に記憶される。
【0068】
コンプレッサ制御部652は、温度調節部651で求められた空調温度(必要吹出口温度)Tao、設定温度Tset及びエバポレータ出口温度などに基づいて、コンプレッサ11のON/OFFを制御する。コンプレッサ制御部652は、車内を冷房する場合、デフロスタを作動させる場合などには、原則としてコンプレッサ11を作動させ、冷凍サイクルRを作動させる。ただし、エバポレータ18がフロストすることを避けるために、エバポレータ出口温度が、エバポレータ18がフロストする温度近くまで低下すると、コンプレッサ11を停止する。そして、エバポレータ出口温度がある程度上昇すると、再度コンプレッサ11を作動させる。なお、コンプレッサ11の制御は、可変容量制御など周知の方法を用いて行えるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0069】
吹出口制御部653は、A/C操作パネル59を通じて乗員が設定した風量比の設定値、温度調節部651で求められた空調温度Tao、設定温度Tsetなどに基づいて、各吹き出し口から送出される空調空気の風量比を求める。そして、その風量比に対応するように、フットドア37、フェイスドア38及びデフロスタドア39の開度を決定する。吹出口制御部653は、風量比の設定値、空調温度Tao、設定温度Tsetなどと各ドア37〜39の開度との関係を表す制御式にしたがって各ドア37〜39の開度を決定する。このような制御式は予め規定され、制御部60において実行されるコンピュータプログラムに組み込まれている。なお、吹出口制御部653は、他の周知の方法を用いて、各ドア37〜39の開度を決定することもできる。そして、各ドア37〜39が決定された開度となるように、モードサーボモータ40を制御する。
【0070】
吸込口制御部654は、A/C操作パネル59から取得した吸込口設定、設定温度Tset、空調温度Tao、内気温Trなどに基づいて、車両用空調装置1が内気吸気口26から吸気する空気と外気吸気口27から吸気する空気の比率を設定する。吸込口制御部654は、外気温Tam、内気温Trと設定温度Tsetとの差などと吸気比との関係を表す制御式にしたがって内外気切替ドア25の開度を決定する。このような制御式は予め設定され、制御部60において実行されるコンピュータプログラムに組み込まれている。なお、吸込口制御部654は、他の周知の方法を用いて、内外気切替ドア25の開度を決定することもできる。吸込口制御部654は、内外気サーボモータ24を制御し、内外気切替ドア25を求めた吸気比となるように回動させる。
【0071】
送風量設定部655は、A/C操作パネル59から取得した風量W、設定温度Tset、空調温度Tao、内気温Tr、外気温Tam及び日射量Sなどに基づいて、ブロアファン21の回転速度を決定する。そして、駆動用モータ22へ、ブロアファン21の回転速度が設定値になるように制御信号を送信する。例えば、風量設定が手動設定になっている場合には、送風量設定部655は、A/C操作パネル59から取得した風量Wとなるようにブロアファン21の回転速度を決定する。また、風量設定が自動設定になっている場合には、送風量設定部655は、内気温Tr、空調温度Taoなどと風量Wとの関係を表す風量制御式にしたがってブロアファン21の回転速度を決定する。あるいは、風量制御式を、設定温度Tset及び空調情報(内気温Tr、外気温Tam及び日射量S)と、風量Wの関係を直接的に表すものとしてもよい。このような風量制御式として、周知の様々なものを用いることができる。なお、このような制御式は予め設定され、制御部60において実行されるコンピュータプログラムに組み込まれている。あるいは、送風量設定部655は、空調情報と風量Wの関係を定めたマップを予め準備しておき、そのマップを参照して測定された空調情報に対応する風量Wを決定するマップ制御など、他の周知の方法を用いて、ブロアファン21の回転速度を決定することもできる。
【0072】
さらに、空調制御部65は、通信部62を通じて、ドアウインドウなど、他の車載機器を制御してもよい。例えば、燃費改善操作(b)が実行される場合には、空調制御部65は、通信部62を通じてドアウインドウを開放する。
【0073】
快適性条件決定部66は、乗員が車内を快適と感じる快適性条件を、車内の空調が安定した状態にあるときの状態情報に基づいて学習し、快適性条件を算出するために使用される確率モデルを生成または更新する。
【0074】
最初に、確率モデルの生成又は更新のために使用する学習データについて説明する。
一般的に、乗員は、車内が乗員にとって適切な空調状態となっていない場合、車両用空調装置1の設定操作を行う。逆に、車内が乗員にとって快適な場合、乗員は車両用装置1の設定操作をほとんど行わないと考えられる。
【0075】
そこで快適性条件決定部66は、乗員がしばらくの間、車両用空調装置1を操作しなかったとき、すなわち、安定した状態にあるときの状態情報を、確率モデルの学習に使用する学習データとして、記憶部61に蓄積する。この学習データを、以下では学習データCAと記す。安定した状態にあるときの状態情報として、快適性条件決定部66は、例えば、乗員が何れかの空調設定を最後に変更してから一定期間(例えば、30分または1時間)経過した後、あるいは、乗員が車両のエンジンを切ったときの状態情報を、学習データCAとして記憶部61に蓄積する。また快適性条件決定部66は、乗員が空調設定を最後に変更してから一定期間が経過した後、次に空調設定を変更するまでの間、定期的に、例えば1時間間隔で状態情報を取得して、学習データCAとして記憶部61に蓄積してもよい。なお、学習データCAは、例えば次式のように表される。
【数3】
ここで、cijは、各状態情報の値である。iは、データ取得の順番を示す。また、jは、状態情報の各値に対して便宜的に指定される項目番号であり、本実施形態では、j=1に対して、内気温Tr、j=2に対して外気温Tam、j=3に対して日射量Sが割り当てられる。そして、j=4以降に、位置情報、車両挙動情報、生体情報などが割り当てられる。
【0076】
次に、確率モデルの生成及び更新について説明する。
快適性条件決定部66は、学習データCAの蓄積が開始されてから、十分な学習データが蓄積できると考えられる所定期間(例えば、3ヶ月間または1年間)経過すると、記憶部61に記憶されている学習データCAを用いて、確率モデルを生成または更新する。
【0077】
以下、図6に示した確率モデル600を用いて、確率モデルの生成及び更新について詳細に説明する。
まず、確率モデル600の入力ノード601及び602に対しては、その入力ノードに関するCPT611及び612に規定された、入力パラメータの値の各区分に対する事前確率を、学習データCAに含まれる各区分ごとの頻度に基づいて決定する。例えば、学習データCAは、同時に取得された、外気温Tam、内気温Tr、日射量Sなどを含むデータの組を1000個有するとする。このうち、入力ノード602の入力パラメータである外気温Tamについて着目すると、20℃以上23℃未満、23℃以上26℃未満、その他の各区分に含まれるデータが、それぞれ200個、300個、500個あったとする。この場合、外気温Tamが20℃以上23℃未満となる事前確率は、その頻度である200を全データ数1000で割った値、すなわち0.2となる。同様に、23℃以上26℃未満の区分、及びその他の区分の事前確率は、それぞれ0.3、0.5となる。他の入力ノードについても、同様にCPTを求めることができる。
【0078】
また、出力ノード604のCPT614については、快適性条件決定部66は、平均外気温Tam、平均日射量S及び同乗者の有無に関する各区分の組み合わせごとに、内気温Trの各値の頻度をその組み合わせのデータ個数の総数で割ることにより、内気温Trに対して乗員が快適と感じる条件付き確率の値を求める。例えば、学習データCAのうちに、外気温Tamが20℃以上23℃未満で、且つ日射量Sが400W/m2以上500W/m2未満で、同乗者有りのデータが100個含まれるとする。このうち、内気温Trが20℃以上23℃未満であったものが30個、内気温Trが23℃以上26℃未満であったものが40個、内気温Trが26℃以上29℃未満であったものが30個含まれるとする。この場合、快適性条件決定部66は、外気温Tamが20℃以上23℃未満で、且つ日射量Sが400W/m2以上500W/m2未満で、且つ同乗者有りの場合に、内気温Trが20℃以上23℃未満の範囲に含まれていると快適と感じる条件付き確率を、対応するデータ数30をその入力データの区分についてのデータの総数100で割った数、すなわち0.3とする。同様に、快適性条件決定部66は、内気温Trが23℃以上26℃未満の範囲に含まれていると快適と感じる条件付き確率を0.4(=40/100)、内気温Trが26℃以上29℃未満の範囲に含まれていると快適と感じる条件付き確率を0.3(=30/100)と求めることができる。
【0079】
なお、快適性条件決定部66は、学習に用いるデータ数が十分でないと考えられる場合には、ベータ分布を用いて確率分布を推定するようにしてもよい。また、学習データCAの中に、一部の入力情報の値の組み合わせが存在しない、すなわち、未観測データがある場合、未観測データに対する確率分布を推定し、その分布に基づいて期待値を計算することで、対応する条件付き確率を計算する。このような条件付き確率の学習については、例えば、繁桝算男他著、「ベイジアンネットワーク概説」、初版、培風館、2006年7月、p.35-38、p.85-87に記載された方法を用いることができる。
【0080】
また快適性条件決定部66は、確率モデルの入力パラメータにどの状態情報を用いるか、あるいはどのようなグラフ構造を有する確率モデルとするかも、学習によって決定してもよい。以下に、そのような学習を行う例を示す。
まず、状態情報のうち、乗員が快適と感じる条件と特に関連が深そうなものを入力パラメータとする入力ノードと、乗員が快適と感じる確率を出力する出力ノードを有するグラフ構造(以下、標準モデルという)を複数種類準備し、記憶部61に予め記憶しておく。
【0081】
そして、快適性条件決定部66は、各標準モデルについて、その標準モデルに含まれる各ノード間の条件付き確率を決定して仮の確率モデルを生成する。その後、情報量基準を用いて、最も適切なグラフ構造を有する仮の確率モデルを選択する。その選択されたモデルが、快適性条件を求めるための確率モデルとなる。
【0082】
情報量基準として、例えばAIC(赤池情報量基準)を用いることができる。AICは、確率モデルの最大対数尤度と、パラメータ数に基づいて、以下の式に基づいて求めることができる。
【数4】
ここで、AICmは、確率モデルMに対するAICを表す。また、θmは、確率モデルMのパラメータ集合を、lm(θm|X)は、データXを所与としたときの確率モデルMにおけるそのデータの最大対数尤度の値を、kmは確率モデルMのパラメータ数をそれぞれ表す。ここでlm(θm|X)は、以下の手順で計算できる。まず、各ノードにおいて、親ノードの変数の各組み合わせについて、学習データCAから出現頻度を求める。その出現頻度に条件付き確率の対数値を乗じた値を求める。最後にそれらの値を足し合わせることでlm(θm|X)が算出される。また、kmは、各ノードにおける、親ノード変数の組み合わせの数を足し合わせることで求められる。
【0083】
なお、情報量基準を用いた確率モデルの選択(言い換えれば、グラフ構造の学習)については、ベイズ情報量基準(BIC)、竹内情報量基準(TIC)、最小記述長(MDL)基準など他の情報量基準を用いてもよい。
快適性条件決定部66は、上記の手順にしたがって確率モデルを新規に生成する。あるいは、上記の手順にしたがってCPTを書き換えることにより、既に生成されている確率モデルを更新する。そして快適性条件決定部66は、生成または更新した確率モデルを、記憶部61に記憶する。
【0084】
以下、図8及び図9に示したフローチャートを参照しつつ、本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置1の空調制御動作について説明する。なお、空調制御動作は、制御部60により、制御部60に組み込まれたコンピュータプログラムにしたがって行われる。
【0085】
最初に、車両用空調装置1の電源が投入されると、制御部60は、記憶部61から車両用空調装置1を制御するために使用される、各種パラメータなどを取得する。また制御部60は、記憶部61から記録されている快適性条件を読み込む。そして制御部60は、車両用空調装置1が動作している間、それらパラメータ及び快適性条件を使用できるように、制御部60を構成するRAMに一時的に記憶する。
【0086】
図8に示すように、制御部60は、設定温度Tset、風量などの設定情報と、各センサから内気温Tr、外気温Tam、日射量S、目的地に到達するまでの推定所要時間、車速などの各種状態情報を取得する(ステップS101)。そして、制御部60の空調状態推定部63は、得られた状態情報が、何れかの燃費改善操作のトリガ条件を満たすか否か判定する(ステップS102)。燃費改善操作及び関連するトリガ条件は、例えば、上述した(a)〜(s)に示したものである。状態情報がどの燃費改善操作のトリガ条件も満たさない場合、制御部60は、処理を終了する。一方、状態情報が何れかの燃費改善操作のトリガ条件を満たす場合、空調状態推定部63は、その燃費改善操作を実行したと仮定して、所定時間経過後の車内の空調状態を推定する(ステップS103)。空調状態推定部63は、上記のように、予め準備された確率モデルまたは判別条件を用いて、所定時間経過後の空調状態(例えば、内気温Tr)を推定する。
【0087】
次に、制御部60の推薦操作決定部64は、空調状態推定部63にて推定された空調状態が、その燃費改善操作に対応する快適性条件を満たすか否か判定する(ステップS104)。推定された空調状態が快適性条件を満たさない場合、制御部60は、処理を終了する。一方、推定された空調状態が快適性条件を満たす場合、推薦操作決定部64は、その燃費改善操作を推薦操作とする(ステップS105)。
【0088】
図9に示すように、推薦操作決定部64は、推薦操作に対応する自動実行フラグを参照して、その推薦操作を自動実行するか否か判定する(ステップS106)。推薦操作決定部64がその推薦操作を自動実行すると判定した場合、制御部60は、制御をステップS110へ進め、推薦操作を実行する。すなわち、推薦操作決定部64は、その推薦操作に従って設定情報を修正し、制御部60の空調制御部65は、その修正された設定情報を用いて空調部10を制御する。
【0089】
一方、その推薦操作を自動実行しないと判定した場合、推薦操作決定部64は、過去にその推薦操作について提案を行ったときの乗員の反応にしたがって、その推薦操作を好むか否か判定する(ステップS107)。上記のように、推薦操作決定部64は、例えば、推薦された燃費改善操作に対応する提案回数np及び承認回数naが、na≧np/2を満たす場合、乗員はその推薦操作を好むと判定する。あるいは、乗員がその燃費改善操作を好むか否かを判断するための十分なデータが得られていない場合(例えば、np<10の場合)も同様である。一方、推薦された燃費改善操作に対応する提案回数np及び承認回数naが、上記の何れも満たさない場合、推薦操作決定部64は、乗員はその推薦操作を好まないと判定する。
【0090】
推薦操作決定部64が、乗員はその推薦操作を好まないと判定した場合、制御部60は、処理を終了する。一方、推薦操作決定部64が、乗員はその推薦操作を好むと判定した場合、推薦操作決定部64は、その設定操作内容を表示して乗員に知らせる(ステップS108)。例えば、推薦操作が上記の(a)の燃費改善操作である場合、推薦操作決定部64は、A/C操作パネル59あるいはナビゲーションシステムなどの表示部に、「目的地直前です。空調オフすると快適に保ったまま燃費を改善できますが、空調オフしますか?」といったメッセージを表示させる。また推薦操作決定部64は、スピーカを通じて同様のメッセージを音声で流す。そして推薦操作決定部64は、その推薦操作に対応する提案回数npを1増加させる。そして、乗員がその推薦操作を承認するか拒否するか判定する(ステップS109)。
【0091】
その後、乗員がYES/NOスイッチ75のNOボタンを押したり、A/C操作パネル59を通じて推薦操作とは異なる操作を行ったり、提案実行後の一定期間(例えば、1分間)何もしなかった場合、推薦操作決定部64は、乗員がその推薦操作を拒否したと判断し、処理を終了する。一方、乗員がYES/NOスイッチ75のYESボタンを、その一定期間内に押した場合、推薦操作決定部64は、乗員がその推薦操作を承認したと判断する。そして、制御部60は、その推薦操作を実行する(ステップS110)。すなわち、推薦操作決定部64は、推薦操作にしたがって設定情報を修正し、空調制御部65は、その修正された設定情報にしたがって空調部10を制御する。なお、空調制御部65の動作は、上述したとおりである。また制御部60は、その推薦操作を実行したことによる、燃費改善効果の推定値を算出し、その推定値をA/C操作パネル59あるいはナビゲーションシステムなどの表示部を通じて乗員に知らせてもよい。なお、燃費改善効果の推定値は、公知の方法を用いて算出できるので、ここではその詳細は省略する。さらに、一月あるいは数ヶ月に一度、燃費改善効果の実測値を集計し、報知してもよい。あるいは、駐車(走行終了)時に、提案を承認したことによる燃費改善効果の実測値を報知してもよい。このように燃費改善効果の実測値を報知することにより、乗員の燃費改善効果に対する意識を高めることができる。
【0092】
その後、推薦操作決定部64は、推薦操作を今後自動的に実行するか否かを提案する(ステップS111)。例えば推薦操作決定部64は、推薦操作が、上記の燃費改善操作(a)の場合、A/C操作パネル59あるいはナビゲーションシステムなどの表示部に、「次回から同じルートのときは自動的に空調装置をオフにしますか?」といったメッセージを表示させる。また推薦操作決定部64は、スピーカを通じて同様のメッセージを音声で流す。あるいは、推薦操作決定部64は、その燃費改善操作が非常に好まれていると判断した場合、「次回から他のルートでも、自動的に空調装置をオフにしますか?」といったメッセージを表示させてもよい。例えば、推薦操作決定部64は、特定の燃費改善操作について、対応する提案回数npに対する承認回数naの80%より多い場合、その燃費改善操作が非常に好まれていると判断する。そして推薦操作決定部64は、乗員がその燃費改善操作の自動実行を承認するか拒否するか判定する(ステップS112)。
【0093】
ステップS112において、乗員がYES/NOスイッチ75のNOボタンを押したり、提案実行後の一定期間(例えば、1分間)何もしなかった場合、制御部60は、乗員が自動実行を拒否したと判断し、処理を終了する。一方、乗員がYES/NOスイッチ75のYESボタンを、その一定期間内に押した場合、推薦操作決定部64は、乗員がその燃費改善操作の自動実行を承認したと判断する。そして推薦操作決定部64は、その燃費改善操作に対応する自動実行フラグを、自動実行を示す値に書き換える(ステップS113)。
以後、車両用空調装置1は、電源OFF、すなわち稼動停止となるまで上記のステップS101〜S113のプロセスを、一定の間隔(例えば、10秒間隔)で繰り返す。
【0094】
以上説明してきたように、本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置1は、燃費を改善可能な設定操作を行った場合の所定時間経過後の車内の空調状態を推定し、その推定された空調状態が、乗員にとって快適であると判断した場合に、その設定操作を推薦する。そして、車両用空調装置1は、推薦された設定操作に対して自動的に、あるいは乗員がYES/NOスイッチ75のYESボタンを押すという簡単な操作を行うことにより、燃費改善する設定操作を実行する。そのため、乗員にとって煩わしい操作を行わせることなく、車両用空調装置1は、車内を快適に保ったまま、燃費を改善することができる。
【0095】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。例えば、上記の空調状態推定部63は、現在の状態情報(例えば、内気温Tr、外気温Tam、日射量S、車速V)などを入力とする予測式を用いて、所定時間経過後の車内の空調状態(例えば、内気温Trなど)を推定してもよい。この場合、推薦操作決定部64は、快適性条件を、推定された空調状態に対する値の範囲として規定してもよい。そのような値の範囲は、例えば、図6に示したような確率モデルを用いて求めた、各温度範囲に対する乗員が快適と感じる確率が最も高い温度範囲とすることができる。そして推薦操作決定部64は、推定された空調状態が、その値の範囲に含まれる場合、快適性条件を満たすと判定する。
【0096】
また、快適性条件を求めるために使用される確率モデルを、乗員が車内を不快と感じているときの状態情報に基づいて生成してもよい。例えば、乗員が車両用空調装置1の設定温度、風量等を変更するとき、その乗員にとって車内は快適でないと考えられる。そこで、快適性条件決定部66は、乗員が車両用空調装置1の設定を変更したときの状態情報及び設定情報を、学習データ群として記憶部61に記憶する。そして、上記と同様の方法により、快適性条件を求めるための確率モデルを生成する。この場合、生成された確率モデルは、乗員が不快と感じる空調状態に関する確率分布を出力する。そこで、推薦操作決定部64は、上記の(1)式において、q(x)を(1-q(x))と置き換えてKL距離を算出する。あるいは、上記の(1)式によって得られたKL距離が所定の閾値以上の場合、推定された空調状態が快適性条件を満たすと判定するようにしてもよい。
【0097】
さらに、推薦候補決定部64は、快適性条件を、確率モデルを用いずに決定してもよい。例えば、実験的に、多くの人が快適と感じる内気温の範囲、風量の範囲、風向き(風量比)などを求めておき、それらを快適性条件として使用してもよい。
【0098】
さらに、推薦候補決定部64は、推薦された燃費改善操作が実行された後、その実行前の設定を記憶部61に記憶しておき、所定の条件を満たす場合には、燃費改善操作実行前の設定(以下、元の設定という)に戻す操作をA/C操作パネル59などを通じて提案するようにしてもよい。例えば、上記の燃費改善操作(a)または(i)が提案され、実行された後、目的地到達までの推定所要時間が経過した時点で、元の設定に戻す提案を行う。また、空調状態推定部63は、何れかの燃費改善操作が実行された後も、定期的にその燃費改善操作による所定時間経過後の空調状態を推定し、推薦候補決定部64は、推定された空調状態が快適性条件を満たさないと判断した場合、元の設定に戻す提案をA/C操作パネル59などを通じて行うようにしてもよい。このように、継続して燃費改善操作による空調状態の変化を調べることにより、燃費改善操作後の外乱による、空調状態の推定に誤差が生じた場合でも、乗員が不快に感じる空調状態となることを防止することができる。
【0099】
さらに、快適性条件を求めるために使用される確率モデルは、車両用空調装置1に登録された利用者毎に生成されるようにしてもよい。同様に、各燃費改善操作に対応する提案回数、承認回数、及び自動実行フラグも、登録された利用者ごとに記憶するようにしてもよい。この場合、例えば、乗員を撮影する車内カメラを設置し、さらに、車内カメラで撮影された画像に基づいて、乗員を識別する照合部を制御部内に設ける。照合部は、エンジンスイッチをONすると、車内カメラで撮影された画像と、車両用空調装置1に予め登録された登録済利用者に関する照合情報に基づいて、乗員の照合及び認証を行い、乗員が何れの登録済利用者か判定する。そして、制御部60は、乗員と判定された登録済利用者の識別情報(ID)及び登録済利用者に関連する確率モデル等を記憶部61から読み出して使用する。
【0100】
ここで、照合部は、例えば以下の方法によって乗員の照合及び認証を行う。照合部は、車内カメラで撮影された画像を2値化したり、エッジ検出を行って乗員の顔に相当する領域を識別する。そして、識別された顔領域から、目、鼻、唇など特徴的な部分をエッジ検出等の手段によって検出し、その特徴的な部分の大きさ、相対的な位置関係などを特徴量の組として抽出する。次に、照合部は、抽出された特徴量の組を、予め記憶部61に記憶されている、各登録済利用者に関して求められた特徴量の組と比較し、相関演算などを用いて一致度を算出する。そして、最も高い一致度が、所定の閾値以上となる場合、照合部は、乗員を、その最も高い一致度となった登録済利用者として認証する。なお、上記の照合方法は、一例に過ぎず、照合部は、他の周知の照合方法を使用して、乗員の照合及び認証を行うことができる。
【0101】
次に、本発明の第2の実施形態に係る車両用空調装置について説明する。本発明の第2の実施形態に係る車両用空調装置は、乗員が車内を不快と感じるときに自動的に空調運転を開始し、乗員が車内を快適と感じるときに自動的に空調運転を停止することにより、車内を過剰に冷房したり、暖房することを防止するとともに、燃費を改善するものである。
【0102】
図10は、本発明の第2の実施形態に係る車両用空調装置2の全体構成を示す構成図である。図10に示すように、車両用空調装置2は、第1の実施形態に係る車両用空調装置1の各構成要素に加え、遠赤外線センサ54を有する。なお、図10において、車両用空調装置1の構成要素と同様の構成及び機能を有する構成要素には、操作者識別装置1の対応する構成要素と同一の参照番号を付した。以下では、車両用空調装置2のうち、車両用空調装置1と異なる点についてのみ説明する。
【0103】
遠赤外線センサ54は、乗員から発せられる遠赤外線を検知して、乗員の周囲の気温を推定し、その推定された気温を制御部60へ送信する。そのために、遠赤外線センサ54は、例えばインストルメントパネルに設置され、制御部60と接続される。そして遠赤外線センサ54は、ドライバを撮影した遠赤外線画像を取得する。そして遠赤外線センサ54は、遠赤外線画像から、ドライバ(特に、ドライバの皮膚表面)に相当する領域を抽出する。遠赤外線センサ54は、その領域に含まれる画素の輝度値の統計量(例えば、平均値、中央値または最頻値)が、ドライバ周囲の気温であると推定する。なお、遠赤外線センサ54は、その撮像領域中の予め定めた1点若しくは複数点の輝度値の統計量に基づいてドライバ周囲の気温を推定してもよい。あるいは、遠赤外線センサ54は、車室の天井に取り付けられ、車内全体を撮影するものであってもよい。この場合、遠赤外線センサ54は、ドライバに相当する領域と、同乗者に相当する領域を抽出して、それら領域に含まれる画素の輝度値の統計量に基づいて、全ての乗員の周囲の気温の平均値を推定してもよい。
遠赤外線センサ54は、車両用空調装置2の動作中、定期的、あるいは制御部60からの要求に応じて、乗員周囲の気温を推定する。そして遠赤外線センサ54は、推定された気温を制御部60へ送信する。
【0104】
YES/NOスイッチ75は、空調運転を自動的に開始または停止するエコ運転モードと、乗員の設定に応じて空調運転する通常運転モードを切り替えるためのスイッチである。本実施形態では、YES/NOスイッチ75のYESボタンが押下されると、車両用空調装置2はエコ運転モードに設定され、NOボタンが押下されると、車両用空調装置2は通常運転モードに設定される。
【0105】
図11は、車両用空調装置2の制御部60の機能ブロック図である。
制御部60は、図示していないCPU,ROM,RAM等からなる1個もしくは複数個の図示してないマイクロコンピュータ及びその周辺回路と、電気的に書き換え可能な不揮発性メモリ等からなる記憶部61と、リングバッファからなる一時記憶部61aと、各種センサ、ナビゲーションシステム56又は車両操作機器57などとコントロールエリアネットワークのような車載通信規格に従って通信を行う通信部62とを有する。
【0106】
さらに、制御部60は、このマイクロコンピュータ及びマイクロコンピュータ上で実行されるコンピュータプログラムによって実現される機能モジュールとして、空調制御部65、不快度推定部67、運転レベル決定部68、及び不快度推定モデル修正部69を有する。なお、記憶部61、通信部62及び空調制御部65は、第1の実施形態に係る車両用空調装置1の対応する構成要素と同様の機能及び構成を有するので、これらに関する詳細な説明は省略する。
【0107】
不快度推定部67は、車両用空調装置2の運転を開始するか、停止するかを判定するための基準として、乗員が不快と感じる不快度を推定する。本実施形態では、不快度推定部67は、不快度として、条件付確率PIRFeel=P(IRFeel=不快|IRd, ΔIRd)を算出する。ここで、IRFeelは、乗員が快適と感じるか、不快と感じるかを表す状態変数である。また、IRdは、遠赤外線センサ54により取得された、不快度推定時における乗員周囲の気温である。さらに、ΔIRdは、車両用空調装置2の空調運転状態が最後に変更された時(乗員がA/C操作パネル59を介して車両用空調装置2の空調運転状態を変更した時だけでなく車両用空調装置2自身が空調運転状態を変更した時を含む)における乗員周囲の気温と不快度推定時における乗員周囲の気温との差の絶対値(すなわち、気温変動量)である。また本実施形態では、不快度PIRFeelを推定するために不快度推定モデルが使用される。なお、ΔIRdは、不快度推定時における乗員周囲の気温と、その所定時間前(例えば、40秒前)における乗員周囲の気温の差の絶対値であってもよい。あるいは、ΔIRdは、単位時間(例えば、1分間あるいは1秒間)当たりの乗員周囲の気温の変動量であってもよい。
【0108】
図12に、不快度PIRFeelを推定するために使用される不快度推定モデルの一例を示す。この不快度推定モデル1200は、2個の入力ノード1201及び1202と、出力ノード1203とを有する2層構成のベイジアンネットワークである。入力ノード1201及び1202は、それぞれ、気温IRd、気温変動量ΔIRdを入力パラメータとする。入力ノード1201及び1202は、それぞれ、CPT1211及び1212が関連付けられる。そして、入力ノード1201及び1202は、それぞれCPT1211及び1212を参照して、各入力パラメータが所定の値を有する可能性を表す事前確率を出力する。なお、気温IRd、気温変動量ΔIRdの測定値が得られている場合は、入力ノード1201及び1202は、その測定値に対応する事前確率として1を、それ以外に対応する事前確率として0を出力する。例えば、気温IRdの測定値が29.2℃である場合、入力ノード1201は、CPT1211を参照して、29℃〜30℃の区分の事前確率を1とし、それ以外の区分の事前確率を0とする。同様に、気温変動量ΔIRdの測定値が1.8℃である場合、入力ノード1202は、CPT1212を参照して、1℃〜2℃の区分の事前確率を1とし、それ以外の区分の事前確率を0とする。
【0109】
出力ノード1203は、入力ノード1201及び1202から受け取った事前確率と、CPT1213を参照して、不快度PIRFeel及び乗員の快適度(=P(IRFeel=快適|IRd, ΔIRd))を算出する。なお、乗員の快適度は、(1-PIRFeel)となる。例えば、上記のように、気温IRdに対して、29℃〜30℃の区分の事前確率が1であり、それ以外の区分の事前確率が0であり、気温変動量ΔIRdに対して、1℃〜2℃の区分の事前確率が1であり、それ以外の区分の事前確率が0であったとする。この場合、出力ノード1203は、CPT1213を参照して、不快度PIRFeelとして0.5を出力する。
【0110】
不快度推定部67は、求めた不快度PIRFeelを、運転レベル決定部68へ出力する。
なお、不快度推定部67は、不快度PIRFeelを、気温IRdまたは気温変動量ΔIRdの何れか一方のみに基づいて求めてもよい。この場合、不快度推定モデルは、気温IRdまたは気温変動量ΔIRdの何れか一方のみを入力パラメータとする1個の入力ノードと、その入力パラメータの事前確率を入力として不快度PIRFeelを出力する出力ノードとを有する、2層のベイジアンネットワークとすることができる。
さらに、不快度推定部67は、乗員周囲の気温以外の状態情報に基づいて不快度を算出してもよい。例えば、車内に湿度センサを設け、不快度推定部67は、その湿度センサにより検知された車内の湿度に基づいて不快度を算出してもよい。あるいは、不快度推定部67は、乗員周囲の気温と車内の湿度の両方に基づいて不快度を推定してもよい。さらに、不快度推定部67は、エバポレータ出口温度センサにより検知されたエバポレータ出口温度に基づいて不快度を算出してもよい。この場合、不快度推定部67は、エバポレータ出口温度が、エバポレータから臭いが発生する温度またはその温度よりも1〜3℃低い温度になると、不快度PIRFeelが非常に高くなる(例えば、不快度PIRFeelが1となる)ように、不快度PIRFeelを算出してもよい。さらに、不快度推定部67は、内気温Tr、日射量Sなど、あるいはそれらと乗員周囲の気温及び/または車内の湿度に基づいて不快度を算出してもよい。不快度推定部67は、何れの場合も、それらの状態情報を入力パラメータとし、不快度を出力とする確率モデルを不快度推定モデルとして使用することにより、不快度を算出することができる。
さらに、不快度推定部67は、上記のそれぞれの状態情報あるいはそれら状態情報の組み合わせを入力パラメータとし、不快度を出力とする複数の確率モデルを使用してもよい。この場合、不快度推定部67は、各確率モデルから出力された不快度のうち、最も高いものを運転レベル決定部68へ出力する。
【0111】
運転レベル決定部68は、YES/NOスイッチ75からYESボタンが押下されたことを示す信号を受信すると、車両用空調装置2をエコ運転モードに設定する。そして、車両用空調装置2がエコ運転モードに設定されている間、運転レベル決定部68は、不快度推定部67から取得した不快度に基づいて、車両用空調装置2が空調運転するか否かを決定する。そして運転レベル決定部68が車両用空調装置2を空調運転させると決定した場合には、空調制御部65は、その時点において設定されている設定温度などの設定情報にしたがって空調部10を制御し、車内を冷房または暖房する。また運転レベル決定部68が、車両用空調装置2の空調運転を停止すると決定した場合、空調制御部65は、空調部10の動作を停止させる。
一方、運転レベル決定部68は、YES/NOスイッチ75からNOボタンが押下されたことを示す信号を受信すると、車両用空調装置2を通常運転モードに設定する。車両用空調装置2が通常運転モードに設定されると、車両用空調装置2は、A/C操作パネル59から取得された設定情報にしたがって空調運転する。
【0112】
以下、エコ運転モードにおける、運転レベル決定部68の動作を説明する。なお、以下では、車両用空調装置2が冷房運転する場合について説明する。しかし、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2が暖房運転する場合も同様に動作する。
運転レベル決定部68は、空調運転が停止されている場合、定期的に(例えば、10秒毎に)、不快度PIRFeelを所定の閾値ThIRpと比較する。そして運転レベル決定部68は、不快度PIRFeelが閾値ThIRpを越えた場合、車両用空調装置2に空調運転を開始させる。すなわち、運転レベル決定部68は、空調制御部65により空調部10を冷房動作させる。なお、閾値ThIRpは、乗員が空調運転を開始させる操作を行ったときの不快度の統計量(例えば、平均値、中央値または最頻値)などに基づいて予め決定することができる。
一方、運転レベル決定部68は、遠赤外線センサ54から取得した乗員周囲の気温が、車両用空調装置2が空調運転を開始したときの乗員周囲の気温IRCpよりも所定温度低くなると、車両用空調装置2の空調運転を停止する。すなわち、運転レベル決定部68は、空調制御部65により空調部10の冷房動作を停止させる。以下では、車両用空調装置2が空調運転を停止する気温を空調停止気温IRCnという。(逆に、車両用空調装置2が暖房運転している場合には、空調停止気温IRCnは、空調運転を開始したときの気温IRCpよりも所定温度高い値に設定される。そして運転レベル決定部68は、遠赤外線センサ54から取得した乗員周囲の気温が空調停止気温IRCnに達するまで上昇すると、車両用空調装置2の空調運転を停止する。)
【0113】
この様子を図13を用いて説明する。ここでは、閾値ThIRpは0.8とする。また空調停止気温IRCnは、空調運転を開始したときの気温IRCpよりも1℃低い温度とする。図13に示すテーブル1300は、図12に示したCPT1213のうち、不快度PIRFeelのみを示したものである。そしてテーブル1300の各欄に記載された数値は、不快度PIRFeelを表す。
例えば、空調運転の停止中において、気温IRdの測定値が30.3℃であり、気温変動量ΔIRdの測定値が4.8℃であったとする。この場合、テーブル1300より不快度PIRFeelは1.0となる。そのため、不快度PIRFeelは閾値ThIRpを越えるので、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2に空調運転を開始させる。そして空調停止気温IRCnを29.3℃に設定する。その後、運転レベル決定部68は、気温IRdが29.3℃以下になれば、車両用空調装置2の空調運転を停止する。
【0114】
また、上記と同様に、気温IRdの測定値が30.3℃であるものの、気温変動量ΔIRdの測定値が1.2℃であったとする。この場合には、テーブル1300より不快度PIRFeelは0.5となり、不快度PIRFeelは閾値ThIRpを下回る。したがって、運転レベル決定部68は、空調運転を停止したままとする。気温変動量ΔIRdの測定値が1.2℃の場合には、気温IRdが31℃を越えるときに、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2に空調運転を開始させる。したがって、IRCpが31.5℃であれば、運転レベル決定部68は、IRCnを30.5℃に設定する。その後、運転レベル決定部68は、気温IRdが30.5℃以下になれば、車両用空調装置2の空調運転を停止する。
【0115】
図14を参照しつつ、車両用空調装置2の空調運転状態の遷移について説明する。なお、この状態遷移は、運転レベル決定部68により行われる。また、本実施形態では、乗員が、A/C操作パネル59を介して車両用空調装置2をON/OFFする以外の操作(風量の変更、風向きの変更、設定温度の変更など)を行っても、車両用空調装置2の空調運転状態は遷移しない。
【0116】
まず、YES/NOスイッチ75を介して、車両用空調装置2がエコ運転モードに設定されると、運転レベル決定部68は、空調運転を行うか否かを判定する(ステップS1401)。具体的には、運転レベル決定部68は、その時点における気温IRdと、気温変動量ΔIRd(=0)を不快度推定モデルに入力して不快度PIRFeelを算出する。そして不快度PIRFeelが閾値ThIRpを超える場合、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2に空調運転を開始させる。そして、車両用空調装置2は空調運転実行状態となる(ステップS1402)。一方、ステップS1401において、不快度PIRFeelが閾値ThIRp以下である場合、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2の空調運転を停止し、車両用空調装置2は空調運転停止状態となる(ステップS1403)。
【0117】
空調運転実行状態(ステップS1402)において、上記のように、気温IRdが空調停止気温IRCn以下となった場合、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2の空調運転を停止する。そして、車両用空調装置2は空調運転停止状態(ステップS1403)に移行する。なお、車両用空調装置2は、エバポレータから臭いが発生することを防止するように動作する場合、エバポレータ出口温度がある程度低い所定の温度(例えば、2℃)未満に低下するまで空調運転実行状態を維持するようにしてもよい。この場合、エバポレータ出口温度がその所定の温度未満になると、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2の空調運転を停止する。
一方、空調運転停止状態(ステップS1403)において、不快度PIRFeelが閾値ThIRpを超える場合、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2に空調運転を開始させる。そして、車両用空調装置2は空調運転実行状態(ステップS1402)に移行する。なお、車両用空調装置2は、エバポレータから臭いが発生することを防止するように動作する場合、エバポレータ出口温度が(Twet-3)℃以上となった場合も、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2に空調運転を開始させてもよい。ただし、Twetはエバポレータ表面の湿球温度(エバポレータの表面が濡れた状態を維持できる温度)である。
【0118】
また、空調運転実行状態(ステップS1402)において、乗員がA/C操作パネル59を介して車両用空調装置2をOFFすると、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2の空調運転を停止する。そして、車両用空調装置2は空調運転強制停止状態(ステップS1404)に移行する。
空調運転強制停止状態(ステップS1404)において、乗員がA/C操作パネル59を介して、車両用空調装置2をONすると、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2に空調運転を開始させる。そして、車両用空調装置2は空調運転継続状態(ステップS1405)に移行する。空調運転継続状態(ステップS1405)が開始してから、所定期間(例えば、1分間)経過した後、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2を自動的に空調運転実行状態(ステップS1402)へ移行させる。しかし、空調運転継続状態(ステップS1405)が開始してからその所定期間が経過するまでに、乗員がA/C操作パネル59を介して車両用空調装置2をOFFすると、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2の空調運転を停止する。そして、車両用空調装置2は空調運転強制停止状態(ステップS1404)に戻る。
【0119】
また、車両用空調装置2が空調運転継続状態にある間に、気温IRdが空調停止気温IRCn以下となったとしても、空調運転を停止しない(すなわち、車両空調装置2は、空調運転停止状態へ移行しない)。車両用空調装置2が空調運転継続状態にある場合、乗員の希望により空調運転を再開した直後であるため、車両用空調装置2が自動的に空調運転を停止することは、乗員の希望に反すると考えられるためである。
【0120】
さらに、空調運転停止状態(ステップS1403)において、乗員がA/C操作パネル59を介して車両用空調装置2をONすると、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2に空調運転を開始させる。そして、車両用空調装置2は空調運転強制実行状態(ステップS1406)に移行する。
空調運転強制実行状態(ステップS1406)において、乗員がA/C操作パネル59を介して車両用空調装置2をOFFすると、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2の空調運転を停止する。そして、車両用空調装置2は空調運転停止継続状態(ステップS1407)に移行する。空調運転停止継続状態(ステップS1407)が開始してから所定期間(例えば、1分間)が経過した後、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2を自動的に空調運転停止状態(ステップS1403)へ移行させる。しかし、空調運転継続状態(ステップS1407)が開始してからその所定期間が経過するまでに、乗員がA/C操作パネル59を介して車両用空調装置2をONすると、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2に空調運転を開始させる。そして、車両用空調装置2は空調運転強制実行状態(ステップS1406)に戻る。
【0121】
また、車両用空調装置2が空調運転停止継続状態にある間に、不快度が閾値ThIRpを超えたとしても、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2の空調運転を開始しない(すなわち、車両空調装置2は、空調運転実行状態へ移行しない)。車両用空調装置2が空調運転停止継続状態にある場合、乗員の希望により空調運転を停止した直後であるため、車両用空調装置2が自動的に空調運転を再開することは、乗員の希望に反すると考えられるためである。
【0122】
このように、車両用空調装置2はエコ運転モードに設定されている間、上記のステップS1402〜S1407の何れかの状態となる。そして車両用空調装置2が、ステップS1402〜S1407の何れの状態にある場合でも、YES/NOスイッチ75を介して車両用空調装置2が通常運転モードに設定されると、運転レベル決定部68は、エコ運転を終了する。
【0123】
なお、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2が上記の空調運転実行状態(ステップS1402)にある場合、空調運転が開始されてから一定時間(例えば、3分間)が経過すると、車両用空調装置2を自動的に空調運転停止状態(ステップS1403)へ移行させてもよい。
【0124】
不快度推定モデル修正部69は、乗員の温感に適合するように、不快度推定モデルを修正する。
不快度推定モデルを修正するために、不快度推定モデル修正部69は、エコ運転モード実行時における、乗員周囲の気温IRd及び気温変動量ΔIRdを定期的に(例えば、10秒毎に)取得する。なお、気温変動量ΔIRdは、最後に車両用空調装置2の空調運転状態が変更されたときの乗員周囲の気温と、最新の乗員周囲の気温の差の絶対値として取得される。そして不快度推定モデル修正部69は、それらに対して、重み係数と、乗員が不快と感じていることを表す不快ラベルか、乗員が快適と感じていることを表す快適ラベルを関連付けて、リングバッファで構成される一時記憶部61aに記憶する。一時記憶部61aは、後述するように、ラベルの修正が行われる可能性のある期間よりも長い期間(例えば、3分間)内に取得された気温IRd及び気温変動量ΔIRd及びそれらに対応するラベルと重み係数を記憶するだけの記憶容量を持つ。そして乗員により車両用空調装置2が操作されると、不快度推定モデル修正部69は、一時記憶部61aに記憶されている気温IRd及び気温変動量ΔIRdのラベル及び重み係数を、その操作に応じて修正する。ここで、一時記憶部61aは、その記憶容量が一杯になるまでデータを記憶すると、その後に新たなデータを記憶する場合、最も古いデータを廃棄する。そこで、不快度推定モデル修正部69は、新たな気温IRd及び気温変動量ΔIRdが取得される度に、一時記憶部61aに記憶されている気温IRd及び気温変動量ΔIRdのうち、最も古いものを、対応するラベル及び重み係数とともに学習データとして記憶部61に蓄積する。
【0125】
図15を参照しつつ、気温IRd及び気温変動量ΔIRd(以下では、学習データという)とその学習データに関連付けられるラベルの対応関係を説明する。図15に示す各タイミングチャートは、上から順に、エコ運転モードのON/OFF、車両用空調装置2の運転状態、学習データに関連付けられる重み係数及びラベルを表す。各タイミングチャートにおいて、横軸は経過時間を表す。
時刻t1において、車両用空調装置2がエコ運転モードに設定される。その後、時刻t2において運転レベル決定部68により、車両用空調装置2が空調運転停止状態となる。時刻t2以降において取得された学習データは、リングバッファで構成される一時記憶部61aに記憶される。ここで、車両用空調装置2が空調運転停止状態であれば、不快度は低いと考えられる。これは、上記のように、運転レベル決定部68が、気温IRdがある程度低下したとき(すなわち、不快度がある程度低下したと考えられるとき)、車両用空調装置2を空調運転停止状態へ移行させるためである。したがって、不快度推定モデル修正部69は、時刻t2以降に取得された学習データに、乗員が快適であることを表す快適ラベルを付す。また不快度推定モデル修正部69は、それら学習データに、相対的に低い重み係数Cn(例えば、1)を付す。
【0126】
その後、時刻t3において、乗員が、A/C操作パネル59を介して車両用空調装置2をONにして、車両用空調装置2が空調運転強制実行状態に移行したとする。この時刻t3の前後においては、乗員は強い不快感を持っていると考えられる。そこで、不快度推定モデル修正部69は、時刻t3から一定期間τ1(例えば、60秒間)前までの間に取得された学習データに対応するラベルを不快ラベルに変える。また、不快度推定モデル修正部69は、時刻t3における学習データに、相対的に高い重み係数Cp(例えば、100)を付す。さらに不快度推定モデル修正部69は、時刻(t3-τ1)から時刻t3の間に取得された学習データに対する重み係数を、時刻t3から時間を遡るにつれて低くなり、時刻(t3-τ1)においてCnとなるように設定する。
【0127】
また、不快度推定モデル修正部69は、時刻t3以降に取得された学習データの重みを0とする。なお、不快度推定モデル修正部69は、時刻t3以降に取得された学習データの重みをCnとし、不快ラベルを付してもよい。
【0128】
さらにその後、時刻t4において、乗員が、A/C操作パネル59を介して車両用空調装置2をOFFにして、車両用空調装置2が空調運転停止継続状態に移行したとする。この時刻t4の前後においては、乗員は非常に快適と感じていると考えられる。そこで、不快度推定モデル修正部69は、時刻t4から一定期間τ2(例えば、30秒間)前までの間に取得された学習データに快適ラベルを付す。また、不快度推定モデル修正部69は、時刻t4における学習データに、重み係数Cpを付す。さらに不快度推定モデル修正部69は、時刻(t4-τ2)から時刻t4の間に取得された学習データに対する重み係数を、時刻t4から時間を遡るにつれて低くなり、時刻(t4-τ2)においてCnとなるように設定する。
その後、不快度推定モデル修正部69は、車両用空調装置2が空調運転停止状態または空調運転停止状態にある間に取得された学習データに快適ラベルを付す。また不快度推定モデル修正部69は、それら学習データに重み係数Cnを付す。
【0129】
その後、時刻t5で車両用空調装置2が空調運転実行状態に移行したとすると、不快度推定モデル修正部69は、時刻t5以降に取得された学習データの重みを0とする。なお、不快度推定モデル修正部69は、時刻t5以降に取得された学習データの重み係数をCnとし、不快ラベルを付してもよい。
さらに、時刻t6において、乗員が、A/C操作パネル59を介して車両用空調装置2をOFFにして、車両用空調装置2が空調運転強制停止状態に移行したとする。この時刻t6の前後においては、乗員は非常に快適と感じていると考えられる。そこで、不快度推定モデル修正部69は、時刻t6から一定期間τ2前までの間に取得された学習データに快適ラベルを付す。また、時刻t4の時点と同様に、不快度推定モデル修正部69は、時刻t6における学習データに重み係数Cpを付す。さらに不快度推定モデル修正部69は、時刻(t6-τ2)から時刻t6の間に取得された学習データに対する重み係数を、時刻t6から時間を遡るにつれて低くなり、時刻(t6-τ2)においてCnとなるように設定する。その後、不快度推定モデル修正部69は、車両用空調装置2が空調運転強制停止状態にある間に取得された学習データに快適ラベルを付す。
【0130】
最後に、時刻t7において、乗員が、A/C操作パネル59を介して車両用空調装置2をONにして、車両用空調装置2が空調運転継続状態に移行したとする。この時刻t7の前後においては、乗員は強い不快感を持っていると考えられる。そこで、不快度推定モデル修正部69は、時刻t7から一定期間τ1前までの間に取得された学習データに対応するラベルを不快ラベルに変える。また、不快度推定モデル修正部69は、時刻t7における学習データに、重み係数Cpを付す。さらに不快度推定モデル修正部69は、時刻(t7-τ1)から時刻t7の間に取得された学習データに対する重み係数を、時刻t7から時間を遡るにつれて低くなり、時刻(t7-τ1)においてCnとなるように設定する。
【0131】
不快度推定モデル修正部69は、定期的に(例えば、車両のエンジンが停止されたときに)、記憶部61に蓄積された学習データを用いて不快度推定モデルを修正する。具体的には、不快度推定モデル修正部69は、不快度推定モデルの出力ノードのCPTを修正する。例えば、不快度推定モデル修正部69は、下記の式により、学習データとして蓄積された気温及び気温変動量の値の組(IRd,ΔIRd)に対する不快度PIRFeel(IRd,ΔIRd)を算出する。
【数5】
ここで、ΣCc(IRd,ΔIRd)は、快適ラベルが付された気温及び気温変動量の値の組(IRd,ΔIRd)に対する重み係数の合計を表す。またΣCd(IRd,ΔIRd)は、不快ラベルが付された気温及び気温変動量の値の組(IRd,ΔIRd)に対する重み係数の合計を表す。なお、気温及び気温変動量の組(IRd,ΔIRd)の各値に対する快適度は、上記のように、(1-PIRFeel(IRd,ΔIRd))となる。
【0132】
なお、不快度推定モデル修正部69は、予め設定された範囲に含まれる、気温及び気温変動量の値の組(IRd,ΔIRd)に対してのみ、不快度推定モデルの出力ノードのCPTを修正してもよい。このように、不快度推定モデルを修正可能な気温及び気温変動量の値の範囲を限定することにより、不快度推定モデル修正部69は、不快度推定モデルを過剰に学習してしまうことを防止できる。例えば、図12に示した不快度推定モデル1200のCPT1213について、気温IRdが31℃〜32℃で、気温変動量ΔIRdが4℃〜5℃の区分、気温IRdが32℃超で、気温変動量ΔIRdが2℃〜3℃の区分については、乗員が誰であっても不快と感じる可能性が非常に高い。そのため、不快度推定モデル修正部69は、そのような区分については、CPT1213を修正しない。同様に、気温IRdが27℃以下で、気温変動量ΔIRdが1℃〜2℃の区分等については、乗員が誰であっても快適と感じる可能性が非常に高い。そのため、不快度推定モデル修正部69は、そのような区分については、CPT1213を修正しない。
一方、気温IRdが29℃〜30℃で、気温変動量ΔIRdが2℃〜3℃の区分等については、乗員によって快適と感じるか、不快と感じるかは異なる可能性が高い。そこで、不快度推定モデル修正部69は、乗員によって感じ方が異なると考えられる気温及び気温変動量の値の組に対応する区分については、CPT1213を修正する。
【0133】
さらに、不快度推定モデル修正部69は、上記の(5)式による計算を行う前に、ΣCc(IRd,ΔIRd)及びΣCd(IRd,ΔIRd)にガウシアンフィルタなどの平滑化フィルタを用いてフィルタリング処理を行ってもよい。そのようなフィルタリング処理を行うことにより、ある気温及び気温変動量の値の組(IRd,ΔIRd)に対する学習データが多数蓄積されている場合、その値の組の周囲の値の組に対応する区分についても出力ノードのCPTを修正できるので、不快度推定モデル修正部69は、効率的に不快度推定モデルを修正することができる。この際、不快度推定モデル修正部69は、快適ラベルが付された気温及び気温変動量の値の組に対する重み係数の合計であるΣCc(IRd,ΔIRd)に関して、乗員がより快適と感じる方向(冷房運転時では、IRd及びΔIRdが低くなる方向)にのみ、平滑化してもよい。同様に、不快度推定モデル修正部69は、不快ラベルが付された気温及び気温変動量の値の組に対する重み係数の合計であるΣCd(IRd,ΔIRd)に関して、乗員がより不快と感じる方向(冷房運転時では、IRd及びΔIRdが高くなる方向)にのみ、平滑化してもよい。
【0134】
以上説明してきたように、本発明の第2の実施形態に係る車両用空調装置2は、乗員が車内を不快と感じる程度を表す不快度を推定し、その不快度が低くなると自動的に空調運転を停止する。そのため、車両用空調装置2は、過剰に車内を冷房したり、暖房することを防止できるので、燃費を改善することができる。一方、不快度が高くなると、車両用空調装置2は、自動的に空調運転を開始するので、車内を乗員にとって快適に保つことができる。
【0135】
なお、本発明の第2の実施形態に係る車両用空調装置も、上記の実施形態に限定されない。例えば、運転レベル決定部68は、不快度に応じて空調運転の度合いを調整してもよい。例えば、運転レベル決定部68は、不快度PIRdが閾値ThIRpを越えたとき、空調制御部65に空調運転の度合いを強くさせる。一方、運転レベル決定部68は、空調運転の度合いを強くしてから所定時間経過後、あるいは、気温IRdが空調停止気温IRCn以下(冷房運転時)若しくは空調停止気温IRCn以上(暖房運転時)となったとき、空調制御部65に空調運転の度合いを弱めさせる。
なお、空調運転の度合いを弱くすることには、空調運転を停止することの他、冷房運転時におい設定温度を高くすること、ブロアファンの回転速度を低下させること(すなわち、各吹出し口から送出される空調空気の送風量を減らすこと)が含まれる。一方、空調運転の度合いを高くすることには、空調運転を開始することの他、冷房運転時において設定温度を低くすること、ブロアファンの回転速度を増加させることが含まれる。
【0136】
さらに、不快度推定部67は、空調運転を停止または空調運転の度合いを弱めるための条件として、空調運転を停止した、または空調運転の度合いを弱めたと仮定した場合に、その停止時点から所定時間経過後(例えば、5分後)の不快度を使用してもよい(以下、この所定時間経過後の不快度を、将来不快度という)。この場合、運転レベル決定部68は、将来不快度が、上記の閾値ThIRp以下であれば、空調運転を停止または空調運転の度合いを弱めるように制御してもよい。なお、不快度推定部67は、将来不快度を、不快度推定モデルと同様の確率モデルを用いて算出することができる。ただし、その確率モデルの出力ノードは、空調運転を停止した時点から所定時間経過後において、乗員が不快または快適と感じる確率を出力する。そして将来不快度は、その乗員が不快と感じる確率とすることができる。あるいは、不快度推定部67は、本発明の第1の実施形態における、空調状態推定部63及び推薦操作決定部64により行われる処理と同様の処理を行うことにより、所定時間経過後における車内の空調状態が快適性条件を満たすか否か判定してもよい。この場合、不快度推定部67は、快適性条件を満たすと判定した場合に、車両用空調装置2の空調運転を停止または空調運転の度合いを弱めることができる。
【0137】
なお、本発明を適用する空調装置は、フロントシングル、左右独立、リア独立、4席独立、上下独立の何れのタイプのものであってもよい。何れかの独立タイプの空調装置に本発明を適用する場合には、内気温センサ、日射センサなどが複数搭載されてもよい。
上記のように、当業者は、本発明の範囲内で様々な修正を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置の全体構成を示す構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置の制御部の機能ブロック図である。
【図3】空調状態を推定するために使用される確率モデルの一例を示す図である。
【図4】空調状態を推定するために使用される確率モデルの他の一例を示す図である。
【図5】空調状態を推定するために使用される確率モデルのさらに他の一例を示す図である。
【図6】快適性条件を求めるために使用される確率モデルの一例を示す図である。
【図7】快適性条件を求めるために使用される確率モデルの他の一例を示す図である。
【図8】本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置の空調制御動作を示すフローチャートである。
【図9】本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置の空調制御動作を示すフローチャートである。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る車両用空調装置の全体構成を示す構成図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る車両用空調装置の制御部の機能ブロック図である。
【図12】不快度を推定するために使用される確率モデルの一例を示す図である。
【図13】不快度を表すテーブルの一例である。
【図14】本発明の第2の実施形態に係る車両用空調装置の状態遷移図である。
【図15】学習データとその学習データに関連付けられるラベルの対応を示す図である。
【符号の説明】
【0139】
1、2 車両用空調装置
10 空調部
51 内気温センサ
52 外気温センサ
53 日射センサ
54 遠赤外線センサ
59 A/C操作パネル
60 制御部
61 記憶部
62 通信部
63 空調状態推定部
64 推薦操作決定部
65 空調制御部
66 快適性条件決定部
67 不快度推定部
68 運転レベル決定部
69 不快度推定モデル修正部
75 YES/NOスイッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置及び車両用空調装置の制御方法に関し、特に、燃費を向上させる車両用空調装置およびその車両用空調装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車両用空調装置では、設定温度、外気温、内気温、日射量などの各種パラメータに応じて、各吹き出し口から送出される空調空気の温度、風量などを自動的に決定する。しかし、乗員の温感(暑がり、寒がりなど)には個人差がある。そのため、自動的に決定された空調空気の温度、風量などが、乗員にとって最適な値とならないことがある。そのような場合、乗員は、必要に応じて空調装置の操作パネルを操作して、設定温度や風量を変更する。このような設定操作の回数が多くなると、その設定操作は、乗員にとって煩わしいものとなる。そこで、空調装置などの設定を乗員の好みに合わせて最適化し、あるいは、設定操作を簡単化する装置が開発されている(特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1に記載の空調装置は、空調状態の設定変更が行なわれたときの空調状態などを参照して、ファジー理論を用いて空調制御のための情報を記載したデータテーブルを修正することにより、乗員の好みに合わせて空調制御を最適化する。
また、特許文献2に記載の自動制御システムは、所定の目標物の接近など、何らかのトリガ情報を取得して、そのトリガ情報に関連付けられた各種の自動制御(例えば、空調装置の内外気切替、オーディオをラジオ交通情報にセット、ワイパーを停止など)を乗員に提示する。そして、その自動制御システムは、乗員がその提示された自動制御に対してYESボタンを通じて肯定操作を行うだけで、それらの自動制御を実行する。
さらに、特許文献3には、エバポレータの温度に応じて、ヒートポンプのコンプレッサを間欠的に動作させることにより、省燃費を図りつつ、乗員がエバポレータに付着した異臭成分による不快感を感じることを抑制可能な車両用空調装置が開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平4−243617号公報
【特許文献2】特開2000−127869号公報
【特許文献3】特開2002−248933号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、近年における環境保護への関心の高まりにより、車両用空調装置においても、可能な限り消費エネルギーを抑制することが求められている。そのためには、燃費を改善するように、空調装置の設定を適宜修正することが望ましい。車内の快適性を損なうことなく、燃費を改善するためには、設定温度の調整、風量の調節、窓の開閉などの操作を頻繁に行わなければならない。しかし、上記のように、頻繁に設定操作を行うことは、乗員にとって煩わしいため、燃費を改善するための設定操作はあまり行われていない。また、上記の何れの装置においても、燃費を改善することを意図していないため、燃費改善を改善するように設定を修正したり、そのような設定を乗員に提案することはなされなかった。
また、特許文献3に記載の車両用空調装置は、間欠的に空調運転を行って燃費を改善するものではあるが、係る空調装置では、温度によって乗員が感じる不快度は考慮されていない。さらに、係る空調装置では、乗員ごとの温度及び臭いに対して感じる不快度の違いも考慮されていない。
【0006】
本発明の目的は、車内の快適性を保ちつつ、燃費を改善可能な車両用空調装置及び車両用空調装置の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の記載によれば、本発明の一つの形態として、車両用空調装置が提供される。係る車両用空調装置は、空調空気を車両内に供給する空調部(10)と、車両に関する状態を表す状態情報を取得する情報取得部(51、52、53)と、状態情報に基づいて、燃費を改善するための設定操作を行った場合に、所定時間経過後の車内の空調状態を推定する空調状態推定部(63)と、推定された空調状態が、乗員にとって車内が快適であると推定される快適性条件を満たす場合、設定操作を推薦する推薦操作決定部(64)と、推薦された設定操作に応じて空調部(10)の空調制御を行う空調制御部(65)とを有する。
【0008】
係る構成を有することにより、本発明の一つの形態に係る車両用空調装置は、車内の快適性を維持したまま、燃費を改善することができる。なお、本明細書において、状態情報とは、車両に関する状態を表す情報であり、例えば、車両内外の空調情報、車両の位置情報、車両の挙動情報、時間情報又は車両の乗員の生体情報などである。また、設定操作とは、設定温度の変更、風量の変更、内気循環モードに設定する、デフロスタを作動あるいは停止させるといった、車両用空調装置の動作状態を変更させる操作である。さらに、設定操作に関連して修正される、車両用空調装置の動作を規定する情報を設定情報という。設定情報は、例えば、設定温度、風量、内外気の吸気比、各吹出口から送出される空調空気の風量比などである。
【0009】
また、請求項2に記載のように、本発明の一つの形態に係る車両用空調装置は、推薦された設定操作を乗員に提示する表示部(59)と、推薦された設定操作を承認するか否かを入力する判定入力部(75)とをさらに有し、空調制御部(65)は、判定入力部(75)を通じて、推薦された設定操作を承認する承認操作がなされた場合、推薦された設定操作に応じて空調部(10)の空調制御を行うことが好ましい。
【0010】
さらに、請求項3に記載のように、乗員が快適と感じる車内温度に関する快適温度確率分布であり、空調状態推定部(63)は、所定時間経過後の車内温度に関する推定温度確率分布を推定された空調状態として求め、推薦操作決定部(64)は、快適温度確率分布と推定温度確率分布の乖離度を求め、その乖離度が所定の閾値以下の場合、推定された空調状態は快適性条件を満たすと判定することが好ましい。このように、それぞれの空調状態を確率分布で表すことにより、本発明に係る車両用空調装置は、推定された空調状態が快適性条件を満たすか否かを正確に判定することができる。
【0011】
さらに、請求項4に記載のように、推薦操作決定部(64)は、状態情報を入力として、乗員が快適と感じる車内温度に関する確率分布を出力する確率モデルを用いて、快適温度確率分布を決定することが好ましい。
この場合において、請求項5に記載のように、本発明の一つの形態に係る車両用空調装置は、情報取得部(51、52、53)により、安定状態において取得された複数の状態情報を学習データ群として記憶する記憶部(61)と、その学習データ群を用いて、確率モデルを生成または更新する快適性条件決定部(66)を有することが好ましい。
本発明に係る車両用空調装置は、乗員が快適と感じる条件を、安定状態にある状態情報を用いて学習するので、快適性条件を乗員の好みに合わせて最適化することができる。
【0012】
また請求項6に記載のように、本発明の一形態として、状態情報は目的地に到達するまでの推定所要時間であり、かつ、燃費を改善するための設定操作は、空調部(10)の停止または設定温度を車外の温度に近づける操作であることが好ましい。
さらに請求項7に記載のように、空調状態推定部(63)は、推定所要時間経過後における車内温度を推定された空調状態として求め、推薦操作決定部(64)は、推定所要時間経過後における車内温度が所定の温度範囲に含まれる場合、推定された空調状態が快適性条件を満たすと判定することが好ましい。
これにより、本発明に係る車両用空調装置は、目的に到達するまでは車内を快適な状態に維持できるので、乗員に不快感を感じさせることなく、燃費を改善することができる。
【0013】
また請求項9に記載のように、状態情報は車内温度であり、かつ、燃費を改善するための設定操作は、空調部(10)の停止または設定温度を車外の温度に近づける操作であることが好ましい。
さらに請求項10に記載のように、空調状態推定部(63)は、所定時間経過後における車内温度を推定された空調状態として求め、推薦操作決定部(64)は、所定時間経過後における車内温度が所定の温度範囲に含まれる場合、推定された空調状態が快適性条件を満たすと判定することが好ましい。
これにより、本発明に係る車両用空調装置は、車内を過剰に冷房または暖房することを防止できるので、乗員に不快感を感じさせることなく、燃費を改善することができる。
【0014】
さらに請求項8または11に記載のように、推薦操作決定部(64)は、状態情報を入力とする確率モデルを用いて、乗員が快適と感じる車内温度に関する確率を求め、その確率が最も高くなる温度範囲を所定の温度範囲とすることが好ましい。
これにより、本発明に係る車両用空調装置は、乗員が快適と感じる車内を温度範囲を正確に評価することができる。
【0015】
また、請求項12の記載によれば、本発明の他の形態として、空調空気を車内に供給する空調部(10)を有する車両用空調装置の制御方法が提供される。係る制御方法は、車両に関する状態を表す状態情報を取得するステップと、状態情報に基づいて、燃費を改善するための設定操作を行った場合に、所定時間経過後の車内の空調状態を推定するステップと、推定された空調状態が、乗員にとって車両内が快適である推定される快適性条件を満たす場合、その燃費を改善するための設定操作を推薦するステップと、推薦された設定操作に応じて空調部(10)を制御するステップとを有する。
【0016】
さらに、請求項13の記載によれば、本発明の他の形態として、車両用空調装置が提供される。係る車両用空調装置は、空調空気を車内に供給する空調部(10)と、車内の状態に関する少なくとも一種類の状態情報を取得する情報取得部(54)と、少なくとも一種類の状態情報を入力とし、乗員の不快度を出力とする確率モデルを用いてその不快度を推定する不快度推定部(67)と、不快度が第1の基準値よりも高くなると空調運転の度合いを強くするよう決定する運転レベル決定部(68)と、運転レベル決定部(68)により決定された空調運転の度合いに従って、空調部(10)を制御する空調制御部(65)とを有する。
【0017】
本発明の他の形態に係る車両用空調装置は、乗員の不快度に応じて空調運転の度合いを強くするので、車内を快適に保つことができる。特に、係る車両用空調装置は、車内の状態に関する状態情報を入力とする確率モデルを用いて不快度を推定するので、正確に乗員の不快度を推定することができる。
【0018】
さらに請求項14の記載によれば、本発明に係る車両用空調装置は、空調運転の度合いを調節するための操作部(59)と、操作部(59)を介して空調運転の度合いを強くする操作が行われたときの少なくとも一種類の状態情報を、乗員が不快と感じる状態に対応する不快状態データとして記憶する記憶部(61)と、少なくとも一種類の乗員状態情報の値に対応する不快状態データの数が多くなるほど、その状態情報の値に対応する不快度が高くなるように確率モデルを修正する不快度推定モデル修正部(69)とを有することが好ましい。
【0019】
この場合において、請求項15の記載によれば、記憶部(61)は、操作部(59)を介して空調運転の度合いを弱くする操作が行われたときの少なくとも一種類の状態情報を、乗員が快適と感じる状態に対応する快適状態データとして記憶し、不快度推定モデル修正部(69)は、少なくとも一種類の状態情報の値に対応する快適状態データの数が多くなるほど、その状態情報の値に対応する不快度が低くなるように確率モデルを修正することが好ましい。
【0020】
さらに請求項16の記載によれば、不快度推定モデル修正部(69)は、予め定められた範囲内に含まれる少なくとも一種類の状態情報の値に対応する不快度のみを変更するように確率モデルを修正することが好ましい。
【0021】
さらに請求項17の記載によれば、情報取得部(54)は、遠赤外線センサであり、少なくとも一種類の状態情報は、情報取得部(54)により推定される乗員周囲の気温を含むことが好ましい。乗員周囲の気温を不快度の推定に利用することにより、本発明に係る車両用空調装置は、乗員の不快度を正確に推定することができる。
【0022】
さらに請求項18の記載によれば、運転レベル決定部(68)は、不快度が、第1の基準値よりも低い第2の基準値以下になると空調運転の度合いを弱くするよう決定することが好ましい。
不快度がある程度低下したときに、空調運転の度合いを弱くすることにより、車両用空調装置が車内を過剰に冷房または暖房することを防止できるので、本発明に係る車両用空調装置は、車内を快適に保ったまま、燃費を改善することができる。
【0023】
さらに請求項19の記載によれば、不快度推定部(67)は、少なくとも一つの状態情報に基づいて、空調運転の度合いを弱くする操作を行った場合の所定時間経過後における乗員の不快度を推定し、運転レベル決定部(68)は、所定時間経過後における乗員の不快度が第1の基準値以下のとき、空調運転の度合いを弱くするよう決定することが好ましい。
【0024】
さらに、請求項20の記載によれば、本発明の他の形態として、空調空気を車内に供給する空調部(10)を有する車両用空調装置の制御方法が提供される。係る制御方法は、 車内の状態に関する少なくとも一種類の状態情報を取得するステップと、少なくとも一種類の状態情報を入力とし、乗員の不快度を出力とする確率モデルを用いてその不快度を推定するステップと、不快度が第1の基準値よりも高くなると空調運転の度合いを強くするよう決定するステップと、決定された空調運転の度合いに従って、空調部(10)を制御するステップとを有する。
【0025】
この場合において、請求項21に記載のように、不快度が、第1の基準値よりも低い第2の基準値以下になると空調運転の度合いを弱くするよう決定するステップをさらに有することが好ましい。
【0026】
あるいは、請求項22に記載のように、少なくとも一つの状態情報に基づいて、空調運転の度合いを弱くする操作を行った場合の所定時間経過後における乗員の不快度を推定するステップと、所定時間経過後における乗員の不快度が第1の基準値以下のとき、空調運転の度合いを弱くするよう決定するステップと、をさらに有することが好ましい。
【0027】
なお、上記各手段に付した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置について説明する。
本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置は、車両の現状態を表す状態情報に基づいて、燃費を改善するための設定操作を行った場合に、所定時間経過後の車両内の空調状態を推定する。そして車両用空調装置は、その推定された空調状態が、乗員にとって快適と感じられる空調状態であれば、その設定操作を自動実行するか、乗員に提示して承認操作を得た後にその設定操作を実行することにより、車内を快適な状態に維持したまま、燃費を改善するものである。
【0029】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置1の全体構成を示す構成図である。図1に示すように、車両用空調装置1は、主に機械的構成からなる空調部10と、この空調部10を制御する制御部60とを有する。
【0030】
まず、空調部10の冷凍サイクルRの構成を説明する。車両用空調装置1の冷凍サイクルRは閉回路で構成され、その閉回路はコンプレッサ11より時計回りにコンデンサ15、レシーバ16、膨張弁17、およびエバポレータ18を含む。そして、コンプレッサ11は、冷媒を圧縮して高圧ガスにする。また、コンプレッサ11は、ベルト12を介して車載エンジン13より伝わる動力断続用の電磁クラッチ14を備える。コンデンサ15は、コンプレッサ11より送られてきた高温、高圧の冷媒ガスを冷却し、液化させる。レシーバ16は、液化された冷媒ガスを貯蔵する。また、冷却性能の低下を防ぐため、液化された冷媒に含まれるガス状の気泡を取り除き、完全に液化された冷媒のみを膨張弁17へ送る。膨張弁17は、液化された冷媒を断熱膨張させて低温、低圧化し、エバポレータ18へ送る。エバポレータ18は、低温、低圧化された冷媒と、エバポレータ18に送り込まれた空気との間で熱交換を行ってその空気を冷却する。
【0031】
次に、空調部10の空調ケース20内の構成について説明する。エバポレータ18の上流側には、ブロアファン21が配置されている。ブロアファン21は遠心式送風ファンで構成され、駆動用モータ22により回転駆動される。ブロアファン21の吸入側には、内外気切替箱23が配置される。内外気切替箱23内には、内外気サーボモータ24で駆動される内外気切替ドア25が配置される。そして内外気切替ドア25は、内気吸込口26と外気吸込口27とを切り替えて開閉する。そして、内気吸込口26又は外気吸込口27から取り込まれた空気は、内外気切替箱23を経由して、ブロアファン21によってエバポレータ18へ送られる。なお、ブロアファン21の回転速度を調整することにより、車両用空調装置1から送出される風量を調節することができる。
【0032】
エバポレータ18の下流側には、エバポレータ18側から順に、エアミックスドア28、およびヒータコア29が配置される。ヒータコア29には、ヒータコア29を通る空気を暖めるために、車載エンジン13の冷却に使用された冷却水が循環供給される。また、空調ケース20には、ヒータコア29をバイパスするバイパス通路30が形成されている。エアミックスドア28は、温調サーボモータ31により回動され、各吹き出し口から送出される空気を所定の温度にするために、ヒータコア29を通過する通路32からの温風とバイパス通路30を通過する冷風との風量割合を調整する。
【0033】
さらに、バイパス通路30を経由した冷風と、ヒータコア29を通過する通路32からの温風とが混合される空気混合部33の下流側には、空調空気を車内に送出するフット吹き出し口34、フェイス吹き出し口35、デフロスタ吹き出し口36が設けられている。そして、各吹き出し口には、各吹き出し口を開閉するためのフットドア37、フェイスドア38及びデフロスタドア39がそれぞれ設けられている。なお、フット吹き出し口34は、運転席または助手席の足元へ空調空気を送出し、フェイス吹き出し口35は、フロントパネルから運転席または助手席に向けて空調空気を送出する。また、デフロスタ吹き出し口36は、フロントガラスへ向けて空調空気を送出する。各ドア37、38及び39は、モードサーボモータ40により駆動される。さらに、各吹き出し口には、風向きを調整するためのフィンが設けられていてもよい。
【0034】
次に、車両用空調装置1が有する情報取得部として機能する各種センサについて説明する。内気温センサ51は、車室内の温度(内気温)Trを測定するために、ハンドル近傍のインストルメントパネルなどにアスピレータとともに設置される。また、外気温センサ52は、車室外の温度(外気温)Tamを測定するために、コンデンサ15の外側前面の車両前方ラジエターグリルに設置される。さらに、車室内に照りつける日射光の強さ(日射量)Sを測定するために、日射センサ53が車室内のフロントガラス近傍に取り付けられる。なお、日射センサ53はフォトダイオードなどで構成される。これらセンサで取得された内気温Tr、外気温Tam及び日射量Sは、空調情報とされ、温調制御及び風量制御を行うために、制御部60で使用される。なお、温調制御及び風量制御の詳細は後述する。
【0035】
さらに、エバポレータ18から吹き出される空気の温度(エバポレータ出口温度)を測定するためのエバポレータ出口温度センサ、ヒータコア29へのエンジン冷却水の冷却水の水温を測定するためのヒータ入口水温センサ、及び冷凍サイクルR内を循環する冷媒の圧力を測定するための圧力センサ、排気ガスの臭気を測定するための排ガスセンサなどが設けられる。その他、車室内には、湿度センサ、ドライバ及び同乗者の顔を撮影するための1台以上の車内カメラ、車外の様子を撮影する車外カメラ、乗員の生体情報を取得するための体温センサなどを設置してもよい。
【0036】
車両用空調装置1は、上記の各センサからのセンシング情報の他、ナビゲーションシステムから、車両の現在位置、進行方向、周辺地域情報、Gbook情報などの位置情報を状態情報として取得するようにしてもよい。また、車両操作機器から、アクセル開度、ハンドル、ブレーキ、パワーウインドウ開度、ワイパー、ターンレバー若しくはカーオーディオのON/OFFなどの各種操作情報、及び車速、車両挙動情報などを状態情報として取得するようにしてもよい。さらに、車載時計より、曜日、現在時刻などの時間情報を状態情報として取得するようにしてもよい。
このように、ナビゲーションシステム、車両操作機器なども、情報取得部として機能し得る。
【0037】
さらに、車両用空調装置1は、推薦された空調設定の提案に対して乗員が承認する承認操作または拒否する拒否操作を行うための判定入力部を有する。本実施形態では、承認操作及び拒否操作用の判定入力部として、YESボタンとNOボタンを有するYES/NOスイッチ75を、ハンドルに設けた。そして、YESボタンをONにする操作を承認操作、NOボタンをONにする操作を拒否操作とした。YES/NOスイッチ75においてなされたスイッチ操作は、電気信号として制御部60へ通知される。
なお、車内に集音マイクを設置し、制御部60に音声認識プログラムを搭載することにより、集音マイクで検出された乗員の音声に反応して承認操作(例えば、「はい」という音声を認識した場合)か拒否操作(例えば、「いいえ」という音声を認識した場合)かを判定するように、判定入力部を構成してもよい。
【0038】
図2は、車両用空調装置1の制御部60の機能ブロック図である。
制御部60は、図示していないCPU,ROM,RAM等からなる1個もしくは複数個の図示してないマイクロコンピュータ及びその周辺回路と、電気的に書き換え可能な不揮発性メモリ等からなる記憶部61と、各種センサ、ナビゲーションシステム56又は車両操作機器57などとコントロールエリアネットワーク(CAN)のような車載通信規格に従って通信を行う通信部62を有する。
【0039】
さらに、制御部60は、このマイクロコンピュータ及びマイクロコンピュータ上で実行されるコンピュータプログラムによって実現される機能モジュールとして、空調状態推定部63、推薦操作決定部64、空調制御部65及び快適性条件決定部66を有する。
【0040】
制御部60は、上記のセンシング情報などの状態情報を取得すると、それらをRAMに一時的に記憶する。同様に、操作部であるA/C操作パネル59から取得された設定情報もRAMに一時的に記憶する。そして制御部60は、空調制御部65において、それら状態情報及び設定情報に基づいて空調部10を制御して、各吹き出し口から送出される空調空気の風量比、全体の風量及び温度を調節する。
また、空調状態推定部63は、燃費の改善につながる何れかの設定操作(以下、燃費改善操作という)を行ったと仮定した場合に、所定時間経過後の車内の空調状態を推定する。推薦操作決定部64は、推定された空調状態が、乗員にとって車内が快適と感じられる条件(以下、快適性条件という)を満たすか否かを判定する。そして空調状態推定部63により推定された空調状態が快適性条件を満たせば、推薦操作決定部64は、その燃費改善操作に従って空調設定を修正する。あるいは、推薦操作決定部64は、その燃費改善操作を乗員に対して提示し、乗員がその推薦された燃費改善操作の提案を承認すると、空調設定を提示内容にあわせて修正する。そして、空調制御部65で修正後の設定に応じて空調部10を制御する。さらに快適性条件決定部66は、快適性条件を乗員の好みに合わせて学習する。以下、これらの動作を行う各機能モジュールについて説明する。
【0041】
空調状態推定部63は、予め設定された複数の燃費改善操作のそれぞれについて、状態情報が燃費改善操作に関連する所定のトリガ条件を満たした場合、その燃費改善操作を行った場合の所定時間(例えば、10分)経過後の車内の空調状態を推定する。
燃費改善操作は、例えば、以下のような設定操作を含む。しかし、以下の設定操作は単なる例示であり、燃費改善効果の有る他の設定操作を燃費改善操作として使用してもよい。
【0042】
(1)夏季に提案される燃費改善操作と、その操作を推薦するためのトリガ条件
(a)目的地までの推定到着時間が、所定時間(例えば10分)以下になったら、空調部10を停止するか、設定温度Tsetを所定値(例えば、2℃)だけ上げる。なお、空調部10を停止するとは、コンプレッサ11及びブロアファン21を停止させることをいう。空調部10が停止している間、制御部60は空調状態を監視するために稼動していてもよい。
(b)乗員が乗車した直後(あるいは、エンジンがONになった直後)において、内気温Tr、外気温Tam、日射量Sがそれぞれ所定値以上の場合(例えばTr≧40℃、Tam≧30℃、S≧500W/m2)、窓を開け、一定時間(例えば5分)経過後に、窓を閉める。
(c)排ガスセンサの測定値が所定値以上になった場合、吸気モードを外気モードに設定し、空調部10を停止し、さらに窓を開ける。
(d)内気温Tr及び外気温Tamがそれぞれ所定値以下となり、日射量S及び車速Vがそれぞれ所定値以上の場合(例えばTr≦28℃、Tam≦28℃、S≧100W/m2、V≦80km/h)、空調部10を停止し、さらに窓を開ける。
(e)風向きが乗員の方向を向いていなければ、風向きを乗員の方へ向ける。
(f)内気温Trが低下して所定値(例えば28℃)以下に低下した場合、風向きを乗員の方へ向け、風量を下げる。
(g)内気温Trが所定値(例えば25℃)以下の場合、設定温度Tsetを所定値(例えば、2℃)だけ上げる。
(h)内気温Trと外気温Tamの差が所定値(例えば10℃)以上の場合、その差が閾値(例えば5℃)以下になるまで、設定温度Tsetを、所定時間(例えば5分)経過するごとに所定値(例えば、1℃)ずつ上げる。ただし、制御部60は、設定温度を上げる際、エバポレータ18から排出された空気が、ヒータコア29を通らないように、エアミックスドア28の開度を調整する。
【0043】
(2)冬季に提案される燃費改善操作と、その操作を推薦するためのトリガ条件
(i)目的地までの推定到着時間が、所定時間(例えば10分)以下になったら、空調部10を停止するか、設定温度Tsetを所定値(例えば、2℃)だけ下げる。
(j)排ガスセンサーの測定値が所定値以上になった場合、吸気モードを外気モードに設定し、空調部10を停止し、さらに窓を開ける。
(k)車内の湿度が40%以上60%以下の範囲に含まれる場合、コンプレッサ11を停止する。
(l)内気温Trが上昇して所定値(例えば20℃)以上になった場合、風量を下げる。
【0044】
(3)中間期(春季及び秋季)に提案される燃費改善操作と、その操作を推薦するためのトリガ条件
(m)目的地までの推定到着時間が、所定時間(例えば10分)以下になったら、空調部10をOFFにする。
(n)排ガスセンサーの測定値が所定値以上になった場合、吸気モードを外気モードに設定し、空調部10をOFFにし、さらに窓を開ける。
(o)内気温Tr及び外気温Tamがそれぞれ所定値以下となり、日射量S及び車速Vがそれぞれ所定値以上の場合(例えばTr≦28℃、Tam≦28℃、S≧100W/m2、V≦80km/h)、空調部10をOFFにし、さらに窓を開ける。
(p)風向きが乗員の方向を向いていなければ、風向きを乗員の方へ向ける。
(q)内気温Trが低下して所定値(例えば26℃)以下に低下した場合、風向きを乗員の方へ向け、風量を下げる。
(r)内気温Trが所定値(例えば25℃)以下の場合、設定温度Tsetを所定値(例えば、2℃)だけ上げる。
(s)内気温Trと外気温Tamの差が所定値(例えば10℃)以上の場合、その差が閾値(例えば5℃)以下になるまで、設定温度Tsetを、所定時間(例えば5分)経過するごとに所定値(例えば、1℃)ずつ上げる。ただし、制御部60は、設定温度を上げる際、エバポレータ18から排出された空気が、ヒータコア29を通らないように、エアミックスドア28の開度を調整する。
【0045】
空調状態推定部63は、外気温Tamを参照して、上記の燃費改善操作(a)〜(s)のうち、どの季節用の燃費改善操作を推薦対象とするか決定する。例えば、外気温Tamが25℃以上の場合、空調状態推定部63は、夏季用の燃費改善操作(操作(a)〜(h))を推薦対象とする。また、外気温Tamが15℃未満の場合には、空調状態推定部63は、冬季用の燃費改善操作(操作(i)〜(l))を推薦対象とする。そして外気温Tamが10℃以上30℃未満の場合には、空調状態推定部63は、中間期用の燃費改善操作(操作(m)〜(s))を推薦対象とする。なお、二つの季節についての対象範囲が重なっている温度では、空調状態推定部63は、両方の季節用の燃費改善操作を推薦対象とする。例えば、外気温Tamが28℃の場合、夏季用の燃費改善操作と中間期用の燃費改善操作が推薦対象となる。あるいは、空調状態推定部63は、推薦対象とする燃費改善操作を外気温Tamを参照して限定する代わりに、各燃費改善操作のトリガ条件に、外気温Tamに関する条件を含めてもよい。
【0046】
空調状態推定部63は、各センサから得た状態情報が、上記の何れかの燃費改善操作のトリガ条件を満たした場合、所定時間経過後の車内の空調状態、例えば内気温Trを推定する。
空調状態推定部63は、予め準備された確率モデルに基づいて、所定時間経過後の車内の空調状態を、確率分布として求める。本実施形態では、確率モデルとして、ベイジアンネットワークを用いた。ベイジアンネットワークは、複数の事象の確率的な因果関係をモデル化するものであり、各ノード間の伝播を条件付き確率で求める、非循環有向グラフで表されるネットワークである。なお、ベイジアンネットワークの詳細については、本村陽一、岩崎弘利著、「ベイジアンネットワーク技術」、初版、電機大出版局、2006年7月、繁桝算男他著、「ベイジアンネットワーク概説」、初版、培風館、2006年7月、又は尾上守夫監修、「パターン識別」、初版、新技術コミュニケーションズ、2001年7月などに開示されている。
【0047】
図3に、本実施形態の燃費改善操作(a)及び(m)に関して空調状態を推定するために使用する確率モデルの例を示す。図3に示した確率モデル300は、3個の入力ノード301、302及び303と、出力ノード304とを有する2層構成のベイジアンネットワークである。各入力ノード301〜303は、それぞれ、現時点の内気温Tr、直近30分間の平均日射量Sav、直近30分間の平均外気温Tamavを入力パラメータとする。各入力ノード301〜303は、それぞれ、条件付き確率表(以下、CPTという)311〜313が関連付けられる。そして、各入力ノード301〜303は、CPT311〜313を参照して、各入力パラメータが所定の値を有する可能性を表す事前確率を出力する。例えば、入力ノード301は、内気温Trが25℃の場合、事前確率として、内気温Trが23℃〜26℃の範囲内である確率を1、内気温Trが20℃〜23℃及び他の温度範囲内である確率を0として出力する。または、何らかの理由で制御部60が内気温Trを取得できなかった場合、入力ノード301は、CPT311を参照して、内気温Trが23℃〜26℃の範囲内である確率及び内気温Trが20℃〜23℃の範囲内である確率をそれぞれ0.25とし、他の温度範囲内である確率を0.5として出力する。
【0048】
出力ノード304は、各入力ノード301〜303から出力された事前確率と、CPT314を参照して、燃費改善操作(a)または(m)(空調部10の停止)を行ってから10分後の内気温Trの推定確率を出力する。例えば、内気温Trが25℃、平均日射量Savが450W/m2、平均外気温Tamavが22℃の場合、CPT314の列315に基づいて、10分後の内気温Trが、20℃〜23℃の範囲、23℃〜26℃の範囲及び26℃〜29℃の範囲に含まれる確率は、それぞれ0.1、0.5、0.4となる。
【0049】
図4に、空調状態を推定するために使用する他の確率モデルの例を示す。図4に示す確率モデル400は、本実施形態の燃費改善操作(d)及び(o)に関して10分後の内気温Trを推定するために使用される。図4において、入力ノード401〜403は、確率モデル300と同様に、それぞれ現在の内気温Tr、平均日射量Sav、平均外気温Tamavを入力パラメータとし、CPT411〜413を参照して、各入力パラメータが所定の値を有する事前確率を出力する。また出力ノード404は、各入力ノードからの事前確率とCPT414を参照して、燃費改善操作を行ってから10分後の内気温Trの確率分布を出力する。なお、確率モデル400は、窓の開度を入力パラメータとし、その開度の事前確率を出力する入力ノードを有していてもよい。この場合、当然ながら出力ノード404は、窓の開度も参照して10分後の内気温Trの確率分布を出力する。
【0050】
図5に、空調状態を推定するために使用するさらに他の確率モデルの例を示す。図5に示す確率モデル500は、本実施形態の燃費改善操作(g)及び(r)に関して10分後の内気温Trを推定するために使用される。図5において、入力ノード501〜503は、確率モデル300と同様に、それぞれ内気温Tr、平均日射量Sav、平均外気温Tamavを入力パラメータとし、CPT511〜513を参照して、各入力パラメータが所定の値を有する事前確率を出力する。また出力ノード504は、各入力ノードからの事前確率とCPT514を参照して、燃費改善操作を行ってから10分後の内気温Trの確率分布を出力する。なお、確率モデル500は、設定温度Tsetを入力パラメータとし、設定温度Tsetの事前確率を出力する入力ノードを有していてもよい。この場合、当然ながら出力ノード504は、設定温度Tsetも参照して10分後の内気温Trの確率分布を出力する。
【0051】
推定される空調状態は、内気温だけに限られず、風量、風量比、及びそれらの組み合わせであってもよい。例えば、空調状態推定部63は、風向きを調整する燃費改善操作(e)に関して、各吹き出し口からの風量比を推定してもよい。例えば、空調状態推定部63は、フェイス吹き出し口35からの風量を100%、デフロスタ吹き出し口36及びフット吹き出し口34の風量を0%と推定する。このように、空調状態推定部63は、確率モデルを用いることなく、決定論的な判別条件に基づいて、その状態を推定してもよい。
【0052】
なお、空調状態を推定する所定時間は、燃費改善操作ごとに異なっていてもよい。例えば、上記の(a)及び(m)に示した燃費改善操作の場合、空調状態の推定を行う所定時間を、目的地に到達するまでの推定所要時間としてもよい。ただしこの場合には、所要時間ごとに別個の確率モデルを準備するか、推定所要時間を入力パラメータとする入力ノードを確率モデルに加えることが好ましい。
【0053】
上記のような確率モデル若しくは判別条件は、経験的、あるいは実験的に予め生成され、制御部60上で実行されるコンピュータプログラムに組み込まれる。あるいは、記憶部61にデータとして記憶される。
【0054】
推薦操作決定部64は、選択された燃費改善操作を行った場合における所定時間経過後の推定された空調状態が、乗員が車内を快適と感じる快適性条件を満たすか否かを判定する。そして、快適性条件を満たすと判定した場合、推薦操作決定部64は、その燃費改善操作を推薦する。
本実施形態では、快適性条件も、車内の空調状態に関する確率分布として与えられる。そのために、推薦操作決定部64は、状態情報を入力とする確率モデルを用いて、快適な空調状態を表す確率分布を求める。
【0055】
図6に、快適性条件を求めるために使用される確率モデルの例を示す。図6に示した確率モデル600は、例えば、燃費改善操作(a)及び(m)のように、内気温Trを主として変動させる操作に対して使用される。確率モデル600は、3個の入力ノード601、602及び603と、出力ノード604とを有する2層構成のベイジアンネットワークである。各入力ノード601〜603は、それぞれ、直近30分間の平均日射量Sav、直近30分間の平均外気温Tamav、同乗者の有無を入力パラメータとする。各入力ノード601〜603は、それぞれ、CPT611〜613が関連付けられる。そして、各入力ノード601〜603は、CPT611〜613を参照して、各入力パラメータが所定の値を有する可能性を表す事前確率を出力する。
【0056】
出力ノード604は、各入力ノード601〜603から受け取った事前確率と、CPT614を参照して、乗員が快適と感じる内気温Trの推定確率分布を出力する。例えば、平均日射量Savが450W/m2、平均外気温Tamavが25℃、同乗者の有無不明の場合、CPT614の列615及び616に基づいて、乗員が快適と感じる内気温Trが20℃〜23℃の範囲に含まれる推定確率は、(0.4*0.5+0.4*0.5)=0.4となる。同様に、乗員が快適と感じる内気温Trが23℃〜26℃の範囲に含まれる推定確率は、(0.4*0.5+0.5*0.5)=0.45となる。さらに、乗員が快適と感じる内気温Trが26℃〜29℃の範囲に含まれる推定確率は、(0.2*0.5+0.1*0.5)=0.15となる。
【0057】
また図7に、快適性条件を推定するために使用する他の確率モデルの例を示す。図7に示す確率モデル700は、燃費改善操作(e)のように、風向きを調整する操作に対して使用される。図7において、入力ノード701〜703は、それぞれ内気温Tr、平均日射量Sav、平均外気温Tamavを入力パラメータとし、CPT711〜713を参照して、各入力パラメータが所定の値を有する事前確率を出力する。また出力ノード704は、各入力ノードからの事前確率とCPT714を参照して、乗員が快適と感じる風向きの確率分布を出力する。
【0058】
乗員が車内を快適と感じる条件には個人差がある。そのため、快適性条件を表す確率分布を求めるために使用される確率分布は、快適性条件決定部66によって学習され、最適化される。なお、快適性条件決定部66による処理については後述する。
【0059】
推薦操作決定部64は、快適性条件を表す確率分布を求めると、空調状態推定部63によって算出された推定空調状態を表す確率分布とのKL(Kullback-Leibler)距離を算出する。KL距離は、以下の式により計算される。
【数1】
ここでp(x)は推定された空調状態を表す確率分布であり、q(x)は快適性条件を表す確率分布である。またKは、KL距離であり、両確率分布の乖離度を表し、p(x)、q(x)が完全に一致する場合、Kは0となる。
【0060】
推薦操作決定部64は、KL距離Kが、所定の閾値Tより小さい場合、推定された空調状態は、乗員にとって快適であると判断し、対応する燃費改善操作を推薦する設定操作とする。なお閾値Tは、実験または経験に基づいて決定される。
【0061】
推薦操作決定部64は、推薦された燃費改善操作に関連付けられた自動実行フラグの値を参照して、その燃費改善操作を自動実行するか否かを決定する。自動実行フラグは、例えば1ビットのデータで表され、その値が'1'のとき、対応する燃費改善操作が自動実行されることを示す。一方、自動実行フラグの値が'0'のとき、対応する燃費改善操作は乗員の承認を得た後に実行されることを示す。
【0062】
さらに推薦操作決定部64は、推薦された燃費改善操作を自動実行しない場合、過去に燃費改善操作を提案した提案回数npと、その提案に対して乗員がその操作を承認した承認回数naに基づいて、推薦する燃費改善操作を乗員に提示するか否かを決定する。例えば、推薦操作決定部64は、推薦された燃費改善操作に対応する提案回数np及び承認回数naが、na≧np/2を満たす場合、乗員はその推薦操作を好むと判定し、その推薦操作を乗員に提示する。あるいは、乗員がその燃費改善操作を好むか否かを判断するための十分なデータが得られていない場合(例えば、np<10の場合)、推薦操作決定部64は、その推薦操作を乗員に提示する。一方、推薦された燃費改善操作に対応する提案回数np及び承認回数naが、上記の何れも満たさない場合、推薦操作決定部64は、乗員はその推薦操作を好まないと判定し、その推薦操作を乗員に提示しない。
提案回数、承認回数及び自動実行フラグの更新については、車両用空調装置1の動作手順とともに後述する。
【0063】
燃費改善操作を乗員に提案する場合(すなわち、自動実行フラグが、乗員の承認を要することを示す値であるとき)、推薦操作決定部64は、A/C操作パネル59あるいはナビゲーションシステムなどの表示部を通じてその設定操作内容を表示して乗員に知らせる。さらに、推薦操作決定部64は、車内に設置されたスピーカを通じて設定操作内容を音声で乗員に知らせてもよい。そして、乗員にその設定操作を行うか否かを確認する。
【0064】
推薦操作決定部64は、乗員が、YES/NOスイッチ75を通じてその燃費改善操作を行うことを承認する操作を行った場合、関連する設定情報を修正する。例えば、燃費改善操作(a)が提案され、その提案に対して乗員が承認操作を行うと、推薦操作決定部64は、空調部10をOFFにするよう設定情報を修正する。また、燃費改善操作(g)が提案され、その提案に対して乗員が承認操作を行うと、推薦操作決定部64は、設定温度Tsetを2℃上げる。
【0065】
一方、乗員が推薦された燃費改善操作を拒否したり、無視した場合(例えば、燃費改善操作が提案されてから一定期間の間、承認操作も拒否操作も行わない場合)には、推薦操作決定部64は設定情報を修正しない。
【0066】
空調制御部65は、各設定情報及び各センサから取得したセンシング情報をRAMから読み出し、それらの値に基づいて、空調部10を制御する。そのために、空調制御部65は、温度調節部651、コンプレッサ制御部652、吹出口制御部653、吸込口制御部654及び送風量設定部655を有する。
【0067】
温度調節部651は、設定温度Tset及び各温度センサ及び日射センサ53の測定信号に基づいて、各吹き出し口から送出される空調空気の必要吹出口温度(空調温度Tao)を決定する。そして、その空調空気の温度が空調温度Taoとなるように、エアミックスドア28の開度を決定し、温調サーボモータ31へ、エアミックスドア28の開度が設定された位置になるように制御信号を送信する。例えば、エアミックスドア28の開度は、内気温Trと設定温度Tsetの差を、外気温Tam、日射量Sなどで補正した値を入力とし、エアミックスドア28の開度を出力とする制御式に基づいて決定される。ここで、エアミックスドア28の開度を、一定の時間間隔(例えば、5秒間隔)毎に判定する。そのような制御を行うための各測定値から空調温度Taoを求めるための温調制御式及びエアミックスドア28の開度の関係式を以下に示す。
【数2】
上式において、Doは、エアミックスドア28の開度を表す。また、係数kset、kr、kam、ks、C、a、bは定数であり、Tset、Tr、Tam、Sは、それぞれ、設定温度、内気温、外気温及び日射量を表す。また、エアミックスドア28の開度Doは、ヒータコア29を経由する通路32を閉じた状態(すなわち、冷房のみが動作する状態)を0%、バイパス通路30を閉じた状態(すなわち、暖房のみが動作する状態)を100%として設定される。温調制御式の各係数kset、kr、kam、ks、C及びエアミックスドアの開度を求める関係式の係数a、bは温調制御パラメータとして設定される。
なお、温度調節部651は、空調温度Tao及びエアミックスドア28の開度を、ニューラルネットワークを用いた制御やファジイ制御など、他の周知の制御方法を用いて決定してもよい。算出された空調温度Taoは、制御部60の他の部で参照できるように、記憶部61に記憶される。
【0068】
コンプレッサ制御部652は、温度調節部651で求められた空調温度(必要吹出口温度)Tao、設定温度Tset及びエバポレータ出口温度などに基づいて、コンプレッサ11のON/OFFを制御する。コンプレッサ制御部652は、車内を冷房する場合、デフロスタを作動させる場合などには、原則としてコンプレッサ11を作動させ、冷凍サイクルRを作動させる。ただし、エバポレータ18がフロストすることを避けるために、エバポレータ出口温度が、エバポレータ18がフロストする温度近くまで低下すると、コンプレッサ11を停止する。そして、エバポレータ出口温度がある程度上昇すると、再度コンプレッサ11を作動させる。なお、コンプレッサ11の制御は、可変容量制御など周知の方法を用いて行えるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0069】
吹出口制御部653は、A/C操作パネル59を通じて乗員が設定した風量比の設定値、温度調節部651で求められた空調温度Tao、設定温度Tsetなどに基づいて、各吹き出し口から送出される空調空気の風量比を求める。そして、その風量比に対応するように、フットドア37、フェイスドア38及びデフロスタドア39の開度を決定する。吹出口制御部653は、風量比の設定値、空調温度Tao、設定温度Tsetなどと各ドア37〜39の開度との関係を表す制御式にしたがって各ドア37〜39の開度を決定する。このような制御式は予め規定され、制御部60において実行されるコンピュータプログラムに組み込まれている。なお、吹出口制御部653は、他の周知の方法を用いて、各ドア37〜39の開度を決定することもできる。そして、各ドア37〜39が決定された開度となるように、モードサーボモータ40を制御する。
【0070】
吸込口制御部654は、A/C操作パネル59から取得した吸込口設定、設定温度Tset、空調温度Tao、内気温Trなどに基づいて、車両用空調装置1が内気吸気口26から吸気する空気と外気吸気口27から吸気する空気の比率を設定する。吸込口制御部654は、外気温Tam、内気温Trと設定温度Tsetとの差などと吸気比との関係を表す制御式にしたがって内外気切替ドア25の開度を決定する。このような制御式は予め設定され、制御部60において実行されるコンピュータプログラムに組み込まれている。なお、吸込口制御部654は、他の周知の方法を用いて、内外気切替ドア25の開度を決定することもできる。吸込口制御部654は、内外気サーボモータ24を制御し、内外気切替ドア25を求めた吸気比となるように回動させる。
【0071】
送風量設定部655は、A/C操作パネル59から取得した風量W、設定温度Tset、空調温度Tao、内気温Tr、外気温Tam及び日射量Sなどに基づいて、ブロアファン21の回転速度を決定する。そして、駆動用モータ22へ、ブロアファン21の回転速度が設定値になるように制御信号を送信する。例えば、風量設定が手動設定になっている場合には、送風量設定部655は、A/C操作パネル59から取得した風量Wとなるようにブロアファン21の回転速度を決定する。また、風量設定が自動設定になっている場合には、送風量設定部655は、内気温Tr、空調温度Taoなどと風量Wとの関係を表す風量制御式にしたがってブロアファン21の回転速度を決定する。あるいは、風量制御式を、設定温度Tset及び空調情報(内気温Tr、外気温Tam及び日射量S)と、風量Wの関係を直接的に表すものとしてもよい。このような風量制御式として、周知の様々なものを用いることができる。なお、このような制御式は予め設定され、制御部60において実行されるコンピュータプログラムに組み込まれている。あるいは、送風量設定部655は、空調情報と風量Wの関係を定めたマップを予め準備しておき、そのマップを参照して測定された空調情報に対応する風量Wを決定するマップ制御など、他の周知の方法を用いて、ブロアファン21の回転速度を決定することもできる。
【0072】
さらに、空調制御部65は、通信部62を通じて、ドアウインドウなど、他の車載機器を制御してもよい。例えば、燃費改善操作(b)が実行される場合には、空調制御部65は、通信部62を通じてドアウインドウを開放する。
【0073】
快適性条件決定部66は、乗員が車内を快適と感じる快適性条件を、車内の空調が安定した状態にあるときの状態情報に基づいて学習し、快適性条件を算出するために使用される確率モデルを生成または更新する。
【0074】
最初に、確率モデルの生成又は更新のために使用する学習データについて説明する。
一般的に、乗員は、車内が乗員にとって適切な空調状態となっていない場合、車両用空調装置1の設定操作を行う。逆に、車内が乗員にとって快適な場合、乗員は車両用装置1の設定操作をほとんど行わないと考えられる。
【0075】
そこで快適性条件決定部66は、乗員がしばらくの間、車両用空調装置1を操作しなかったとき、すなわち、安定した状態にあるときの状態情報を、確率モデルの学習に使用する学習データとして、記憶部61に蓄積する。この学習データを、以下では学習データCAと記す。安定した状態にあるときの状態情報として、快適性条件決定部66は、例えば、乗員が何れかの空調設定を最後に変更してから一定期間(例えば、30分または1時間)経過した後、あるいは、乗員が車両のエンジンを切ったときの状態情報を、学習データCAとして記憶部61に蓄積する。また快適性条件決定部66は、乗員が空調設定を最後に変更してから一定期間が経過した後、次に空調設定を変更するまでの間、定期的に、例えば1時間間隔で状態情報を取得して、学習データCAとして記憶部61に蓄積してもよい。なお、学習データCAは、例えば次式のように表される。
【数3】
ここで、cijは、各状態情報の値である。iは、データ取得の順番を示す。また、jは、状態情報の各値に対して便宜的に指定される項目番号であり、本実施形態では、j=1に対して、内気温Tr、j=2に対して外気温Tam、j=3に対して日射量Sが割り当てられる。そして、j=4以降に、位置情報、車両挙動情報、生体情報などが割り当てられる。
【0076】
次に、確率モデルの生成及び更新について説明する。
快適性条件決定部66は、学習データCAの蓄積が開始されてから、十分な学習データが蓄積できると考えられる所定期間(例えば、3ヶ月間または1年間)経過すると、記憶部61に記憶されている学習データCAを用いて、確率モデルを生成または更新する。
【0077】
以下、図6に示した確率モデル600を用いて、確率モデルの生成及び更新について詳細に説明する。
まず、確率モデル600の入力ノード601及び602に対しては、その入力ノードに関するCPT611及び612に規定された、入力パラメータの値の各区分に対する事前確率を、学習データCAに含まれる各区分ごとの頻度に基づいて決定する。例えば、学習データCAは、同時に取得された、外気温Tam、内気温Tr、日射量Sなどを含むデータの組を1000個有するとする。このうち、入力ノード602の入力パラメータである外気温Tamについて着目すると、20℃以上23℃未満、23℃以上26℃未満、その他の各区分に含まれるデータが、それぞれ200個、300個、500個あったとする。この場合、外気温Tamが20℃以上23℃未満となる事前確率は、その頻度である200を全データ数1000で割った値、すなわち0.2となる。同様に、23℃以上26℃未満の区分、及びその他の区分の事前確率は、それぞれ0.3、0.5となる。他の入力ノードについても、同様にCPTを求めることができる。
【0078】
また、出力ノード604のCPT614については、快適性条件決定部66は、平均外気温Tam、平均日射量S及び同乗者の有無に関する各区分の組み合わせごとに、内気温Trの各値の頻度をその組み合わせのデータ個数の総数で割ることにより、内気温Trに対して乗員が快適と感じる条件付き確率の値を求める。例えば、学習データCAのうちに、外気温Tamが20℃以上23℃未満で、且つ日射量Sが400W/m2以上500W/m2未満で、同乗者有りのデータが100個含まれるとする。このうち、内気温Trが20℃以上23℃未満であったものが30個、内気温Trが23℃以上26℃未満であったものが40個、内気温Trが26℃以上29℃未満であったものが30個含まれるとする。この場合、快適性条件決定部66は、外気温Tamが20℃以上23℃未満で、且つ日射量Sが400W/m2以上500W/m2未満で、且つ同乗者有りの場合に、内気温Trが20℃以上23℃未満の範囲に含まれていると快適と感じる条件付き確率を、対応するデータ数30をその入力データの区分についてのデータの総数100で割った数、すなわち0.3とする。同様に、快適性条件決定部66は、内気温Trが23℃以上26℃未満の範囲に含まれていると快適と感じる条件付き確率を0.4(=40/100)、内気温Trが26℃以上29℃未満の範囲に含まれていると快適と感じる条件付き確率を0.3(=30/100)と求めることができる。
【0079】
なお、快適性条件決定部66は、学習に用いるデータ数が十分でないと考えられる場合には、ベータ分布を用いて確率分布を推定するようにしてもよい。また、学習データCAの中に、一部の入力情報の値の組み合わせが存在しない、すなわち、未観測データがある場合、未観測データに対する確率分布を推定し、その分布に基づいて期待値を計算することで、対応する条件付き確率を計算する。このような条件付き確率の学習については、例えば、繁桝算男他著、「ベイジアンネットワーク概説」、初版、培風館、2006年7月、p.35-38、p.85-87に記載された方法を用いることができる。
【0080】
また快適性条件決定部66は、確率モデルの入力パラメータにどの状態情報を用いるか、あるいはどのようなグラフ構造を有する確率モデルとするかも、学習によって決定してもよい。以下に、そのような学習を行う例を示す。
まず、状態情報のうち、乗員が快適と感じる条件と特に関連が深そうなものを入力パラメータとする入力ノードと、乗員が快適と感じる確率を出力する出力ノードを有するグラフ構造(以下、標準モデルという)を複数種類準備し、記憶部61に予め記憶しておく。
【0081】
そして、快適性条件決定部66は、各標準モデルについて、その標準モデルに含まれる各ノード間の条件付き確率を決定して仮の確率モデルを生成する。その後、情報量基準を用いて、最も適切なグラフ構造を有する仮の確率モデルを選択する。その選択されたモデルが、快適性条件を求めるための確率モデルとなる。
【0082】
情報量基準として、例えばAIC(赤池情報量基準)を用いることができる。AICは、確率モデルの最大対数尤度と、パラメータ数に基づいて、以下の式に基づいて求めることができる。
【数4】
ここで、AICmは、確率モデルMに対するAICを表す。また、θmは、確率モデルMのパラメータ集合を、lm(θm|X)は、データXを所与としたときの確率モデルMにおけるそのデータの最大対数尤度の値を、kmは確率モデルMのパラメータ数をそれぞれ表す。ここでlm(θm|X)は、以下の手順で計算できる。まず、各ノードにおいて、親ノードの変数の各組み合わせについて、学習データCAから出現頻度を求める。その出現頻度に条件付き確率の対数値を乗じた値を求める。最後にそれらの値を足し合わせることでlm(θm|X)が算出される。また、kmは、各ノードにおける、親ノード変数の組み合わせの数を足し合わせることで求められる。
【0083】
なお、情報量基準を用いた確率モデルの選択(言い換えれば、グラフ構造の学習)については、ベイズ情報量基準(BIC)、竹内情報量基準(TIC)、最小記述長(MDL)基準など他の情報量基準を用いてもよい。
快適性条件決定部66は、上記の手順にしたがって確率モデルを新規に生成する。あるいは、上記の手順にしたがってCPTを書き換えることにより、既に生成されている確率モデルを更新する。そして快適性条件決定部66は、生成または更新した確率モデルを、記憶部61に記憶する。
【0084】
以下、図8及び図9に示したフローチャートを参照しつつ、本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置1の空調制御動作について説明する。なお、空調制御動作は、制御部60により、制御部60に組み込まれたコンピュータプログラムにしたがって行われる。
【0085】
最初に、車両用空調装置1の電源が投入されると、制御部60は、記憶部61から車両用空調装置1を制御するために使用される、各種パラメータなどを取得する。また制御部60は、記憶部61から記録されている快適性条件を読み込む。そして制御部60は、車両用空調装置1が動作している間、それらパラメータ及び快適性条件を使用できるように、制御部60を構成するRAMに一時的に記憶する。
【0086】
図8に示すように、制御部60は、設定温度Tset、風量などの設定情報と、各センサから内気温Tr、外気温Tam、日射量S、目的地に到達するまでの推定所要時間、車速などの各種状態情報を取得する(ステップS101)。そして、制御部60の空調状態推定部63は、得られた状態情報が、何れかの燃費改善操作のトリガ条件を満たすか否か判定する(ステップS102)。燃費改善操作及び関連するトリガ条件は、例えば、上述した(a)〜(s)に示したものである。状態情報がどの燃費改善操作のトリガ条件も満たさない場合、制御部60は、処理を終了する。一方、状態情報が何れかの燃費改善操作のトリガ条件を満たす場合、空調状態推定部63は、その燃費改善操作を実行したと仮定して、所定時間経過後の車内の空調状態を推定する(ステップS103)。空調状態推定部63は、上記のように、予め準備された確率モデルまたは判別条件を用いて、所定時間経過後の空調状態(例えば、内気温Tr)を推定する。
【0087】
次に、制御部60の推薦操作決定部64は、空調状態推定部63にて推定された空調状態が、その燃費改善操作に対応する快適性条件を満たすか否か判定する(ステップS104)。推定された空調状態が快適性条件を満たさない場合、制御部60は、処理を終了する。一方、推定された空調状態が快適性条件を満たす場合、推薦操作決定部64は、その燃費改善操作を推薦操作とする(ステップS105)。
【0088】
図9に示すように、推薦操作決定部64は、推薦操作に対応する自動実行フラグを参照して、その推薦操作を自動実行するか否か判定する(ステップS106)。推薦操作決定部64がその推薦操作を自動実行すると判定した場合、制御部60は、制御をステップS110へ進め、推薦操作を実行する。すなわち、推薦操作決定部64は、その推薦操作に従って設定情報を修正し、制御部60の空調制御部65は、その修正された設定情報を用いて空調部10を制御する。
【0089】
一方、その推薦操作を自動実行しないと判定した場合、推薦操作決定部64は、過去にその推薦操作について提案を行ったときの乗員の反応にしたがって、その推薦操作を好むか否か判定する(ステップS107)。上記のように、推薦操作決定部64は、例えば、推薦された燃費改善操作に対応する提案回数np及び承認回数naが、na≧np/2を満たす場合、乗員はその推薦操作を好むと判定する。あるいは、乗員がその燃費改善操作を好むか否かを判断するための十分なデータが得られていない場合(例えば、np<10の場合)も同様である。一方、推薦された燃費改善操作に対応する提案回数np及び承認回数naが、上記の何れも満たさない場合、推薦操作決定部64は、乗員はその推薦操作を好まないと判定する。
【0090】
推薦操作決定部64が、乗員はその推薦操作を好まないと判定した場合、制御部60は、処理を終了する。一方、推薦操作決定部64が、乗員はその推薦操作を好むと判定した場合、推薦操作決定部64は、その設定操作内容を表示して乗員に知らせる(ステップS108)。例えば、推薦操作が上記の(a)の燃費改善操作である場合、推薦操作決定部64は、A/C操作パネル59あるいはナビゲーションシステムなどの表示部に、「目的地直前です。空調オフすると快適に保ったまま燃費を改善できますが、空調オフしますか?」といったメッセージを表示させる。また推薦操作決定部64は、スピーカを通じて同様のメッセージを音声で流す。そして推薦操作決定部64は、その推薦操作に対応する提案回数npを1増加させる。そして、乗員がその推薦操作を承認するか拒否するか判定する(ステップS109)。
【0091】
その後、乗員がYES/NOスイッチ75のNOボタンを押したり、A/C操作パネル59を通じて推薦操作とは異なる操作を行ったり、提案実行後の一定期間(例えば、1分間)何もしなかった場合、推薦操作決定部64は、乗員がその推薦操作を拒否したと判断し、処理を終了する。一方、乗員がYES/NOスイッチ75のYESボタンを、その一定期間内に押した場合、推薦操作決定部64は、乗員がその推薦操作を承認したと判断する。そして、制御部60は、その推薦操作を実行する(ステップS110)。すなわち、推薦操作決定部64は、推薦操作にしたがって設定情報を修正し、空調制御部65は、その修正された設定情報にしたがって空調部10を制御する。なお、空調制御部65の動作は、上述したとおりである。また制御部60は、その推薦操作を実行したことによる、燃費改善効果の推定値を算出し、その推定値をA/C操作パネル59あるいはナビゲーションシステムなどの表示部を通じて乗員に知らせてもよい。なお、燃費改善効果の推定値は、公知の方法を用いて算出できるので、ここではその詳細は省略する。さらに、一月あるいは数ヶ月に一度、燃費改善効果の実測値を集計し、報知してもよい。あるいは、駐車(走行終了)時に、提案を承認したことによる燃費改善効果の実測値を報知してもよい。このように燃費改善効果の実測値を報知することにより、乗員の燃費改善効果に対する意識を高めることができる。
【0092】
その後、推薦操作決定部64は、推薦操作を今後自動的に実行するか否かを提案する(ステップS111)。例えば推薦操作決定部64は、推薦操作が、上記の燃費改善操作(a)の場合、A/C操作パネル59あるいはナビゲーションシステムなどの表示部に、「次回から同じルートのときは自動的に空調装置をオフにしますか?」といったメッセージを表示させる。また推薦操作決定部64は、スピーカを通じて同様のメッセージを音声で流す。あるいは、推薦操作決定部64は、その燃費改善操作が非常に好まれていると判断した場合、「次回から他のルートでも、自動的に空調装置をオフにしますか?」といったメッセージを表示させてもよい。例えば、推薦操作決定部64は、特定の燃費改善操作について、対応する提案回数npに対する承認回数naの80%より多い場合、その燃費改善操作が非常に好まれていると判断する。そして推薦操作決定部64は、乗員がその燃費改善操作の自動実行を承認するか拒否するか判定する(ステップS112)。
【0093】
ステップS112において、乗員がYES/NOスイッチ75のNOボタンを押したり、提案実行後の一定期間(例えば、1分間)何もしなかった場合、制御部60は、乗員が自動実行を拒否したと判断し、処理を終了する。一方、乗員がYES/NOスイッチ75のYESボタンを、その一定期間内に押した場合、推薦操作決定部64は、乗員がその燃費改善操作の自動実行を承認したと判断する。そして推薦操作決定部64は、その燃費改善操作に対応する自動実行フラグを、自動実行を示す値に書き換える(ステップS113)。
以後、車両用空調装置1は、電源OFF、すなわち稼動停止となるまで上記のステップS101〜S113のプロセスを、一定の間隔(例えば、10秒間隔)で繰り返す。
【0094】
以上説明してきたように、本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置1は、燃費を改善可能な設定操作を行った場合の所定時間経過後の車内の空調状態を推定し、その推定された空調状態が、乗員にとって快適であると判断した場合に、その設定操作を推薦する。そして、車両用空調装置1は、推薦された設定操作に対して自動的に、あるいは乗員がYES/NOスイッチ75のYESボタンを押すという簡単な操作を行うことにより、燃費改善する設定操作を実行する。そのため、乗員にとって煩わしい操作を行わせることなく、車両用空調装置1は、車内を快適に保ったまま、燃費を改善することができる。
【0095】
なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。例えば、上記の空調状態推定部63は、現在の状態情報(例えば、内気温Tr、外気温Tam、日射量S、車速V)などを入力とする予測式を用いて、所定時間経過後の車内の空調状態(例えば、内気温Trなど)を推定してもよい。この場合、推薦操作決定部64は、快適性条件を、推定された空調状態に対する値の範囲として規定してもよい。そのような値の範囲は、例えば、図6に示したような確率モデルを用いて求めた、各温度範囲に対する乗員が快適と感じる確率が最も高い温度範囲とすることができる。そして推薦操作決定部64は、推定された空調状態が、その値の範囲に含まれる場合、快適性条件を満たすと判定する。
【0096】
また、快適性条件を求めるために使用される確率モデルを、乗員が車内を不快と感じているときの状態情報に基づいて生成してもよい。例えば、乗員が車両用空調装置1の設定温度、風量等を変更するとき、その乗員にとって車内は快適でないと考えられる。そこで、快適性条件決定部66は、乗員が車両用空調装置1の設定を変更したときの状態情報及び設定情報を、学習データ群として記憶部61に記憶する。そして、上記と同様の方法により、快適性条件を求めるための確率モデルを生成する。この場合、生成された確率モデルは、乗員が不快と感じる空調状態に関する確率分布を出力する。そこで、推薦操作決定部64は、上記の(1)式において、q(x)を(1-q(x))と置き換えてKL距離を算出する。あるいは、上記の(1)式によって得られたKL距離が所定の閾値以上の場合、推定された空調状態が快適性条件を満たすと判定するようにしてもよい。
【0097】
さらに、推薦候補決定部64は、快適性条件を、確率モデルを用いずに決定してもよい。例えば、実験的に、多くの人が快適と感じる内気温の範囲、風量の範囲、風向き(風量比)などを求めておき、それらを快適性条件として使用してもよい。
【0098】
さらに、推薦候補決定部64は、推薦された燃費改善操作が実行された後、その実行前の設定を記憶部61に記憶しておき、所定の条件を満たす場合には、燃費改善操作実行前の設定(以下、元の設定という)に戻す操作をA/C操作パネル59などを通じて提案するようにしてもよい。例えば、上記の燃費改善操作(a)または(i)が提案され、実行された後、目的地到達までの推定所要時間が経過した時点で、元の設定に戻す提案を行う。また、空調状態推定部63は、何れかの燃費改善操作が実行された後も、定期的にその燃費改善操作による所定時間経過後の空調状態を推定し、推薦候補決定部64は、推定された空調状態が快適性条件を満たさないと判断した場合、元の設定に戻す提案をA/C操作パネル59などを通じて行うようにしてもよい。このように、継続して燃費改善操作による空調状態の変化を調べることにより、燃費改善操作後の外乱による、空調状態の推定に誤差が生じた場合でも、乗員が不快に感じる空調状態となることを防止することができる。
【0099】
さらに、快適性条件を求めるために使用される確率モデルは、車両用空調装置1に登録された利用者毎に生成されるようにしてもよい。同様に、各燃費改善操作に対応する提案回数、承認回数、及び自動実行フラグも、登録された利用者ごとに記憶するようにしてもよい。この場合、例えば、乗員を撮影する車内カメラを設置し、さらに、車内カメラで撮影された画像に基づいて、乗員を識別する照合部を制御部内に設ける。照合部は、エンジンスイッチをONすると、車内カメラで撮影された画像と、車両用空調装置1に予め登録された登録済利用者に関する照合情報に基づいて、乗員の照合及び認証を行い、乗員が何れの登録済利用者か判定する。そして、制御部60は、乗員と判定された登録済利用者の識別情報(ID)及び登録済利用者に関連する確率モデル等を記憶部61から読み出して使用する。
【0100】
ここで、照合部は、例えば以下の方法によって乗員の照合及び認証を行う。照合部は、車内カメラで撮影された画像を2値化したり、エッジ検出を行って乗員の顔に相当する領域を識別する。そして、識別された顔領域から、目、鼻、唇など特徴的な部分をエッジ検出等の手段によって検出し、その特徴的な部分の大きさ、相対的な位置関係などを特徴量の組として抽出する。次に、照合部は、抽出された特徴量の組を、予め記憶部61に記憶されている、各登録済利用者に関して求められた特徴量の組と比較し、相関演算などを用いて一致度を算出する。そして、最も高い一致度が、所定の閾値以上となる場合、照合部は、乗員を、その最も高い一致度となった登録済利用者として認証する。なお、上記の照合方法は、一例に過ぎず、照合部は、他の周知の照合方法を使用して、乗員の照合及び認証を行うことができる。
【0101】
次に、本発明の第2の実施形態に係る車両用空調装置について説明する。本発明の第2の実施形態に係る車両用空調装置は、乗員が車内を不快と感じるときに自動的に空調運転を開始し、乗員が車内を快適と感じるときに自動的に空調運転を停止することにより、車内を過剰に冷房したり、暖房することを防止するとともに、燃費を改善するものである。
【0102】
図10は、本発明の第2の実施形態に係る車両用空調装置2の全体構成を示す構成図である。図10に示すように、車両用空調装置2は、第1の実施形態に係る車両用空調装置1の各構成要素に加え、遠赤外線センサ54を有する。なお、図10において、車両用空調装置1の構成要素と同様の構成及び機能を有する構成要素には、操作者識別装置1の対応する構成要素と同一の参照番号を付した。以下では、車両用空調装置2のうち、車両用空調装置1と異なる点についてのみ説明する。
【0103】
遠赤外線センサ54は、乗員から発せられる遠赤外線を検知して、乗員の周囲の気温を推定し、その推定された気温を制御部60へ送信する。そのために、遠赤外線センサ54は、例えばインストルメントパネルに設置され、制御部60と接続される。そして遠赤外線センサ54は、ドライバを撮影した遠赤外線画像を取得する。そして遠赤外線センサ54は、遠赤外線画像から、ドライバ(特に、ドライバの皮膚表面)に相当する領域を抽出する。遠赤外線センサ54は、その領域に含まれる画素の輝度値の統計量(例えば、平均値、中央値または最頻値)が、ドライバ周囲の気温であると推定する。なお、遠赤外線センサ54は、その撮像領域中の予め定めた1点若しくは複数点の輝度値の統計量に基づいてドライバ周囲の気温を推定してもよい。あるいは、遠赤外線センサ54は、車室の天井に取り付けられ、車内全体を撮影するものであってもよい。この場合、遠赤外線センサ54は、ドライバに相当する領域と、同乗者に相当する領域を抽出して、それら領域に含まれる画素の輝度値の統計量に基づいて、全ての乗員の周囲の気温の平均値を推定してもよい。
遠赤外線センサ54は、車両用空調装置2の動作中、定期的、あるいは制御部60からの要求に応じて、乗員周囲の気温を推定する。そして遠赤外線センサ54は、推定された気温を制御部60へ送信する。
【0104】
YES/NOスイッチ75は、空調運転を自動的に開始または停止するエコ運転モードと、乗員の設定に応じて空調運転する通常運転モードを切り替えるためのスイッチである。本実施形態では、YES/NOスイッチ75のYESボタンが押下されると、車両用空調装置2はエコ運転モードに設定され、NOボタンが押下されると、車両用空調装置2は通常運転モードに設定される。
【0105】
図11は、車両用空調装置2の制御部60の機能ブロック図である。
制御部60は、図示していないCPU,ROM,RAM等からなる1個もしくは複数個の図示してないマイクロコンピュータ及びその周辺回路と、電気的に書き換え可能な不揮発性メモリ等からなる記憶部61と、リングバッファからなる一時記憶部61aと、各種センサ、ナビゲーションシステム56又は車両操作機器57などとコントロールエリアネットワークのような車載通信規格に従って通信を行う通信部62とを有する。
【0106】
さらに、制御部60は、このマイクロコンピュータ及びマイクロコンピュータ上で実行されるコンピュータプログラムによって実現される機能モジュールとして、空調制御部65、不快度推定部67、運転レベル決定部68、及び不快度推定モデル修正部69を有する。なお、記憶部61、通信部62及び空調制御部65は、第1の実施形態に係る車両用空調装置1の対応する構成要素と同様の機能及び構成を有するので、これらに関する詳細な説明は省略する。
【0107】
不快度推定部67は、車両用空調装置2の運転を開始するか、停止するかを判定するための基準として、乗員が不快と感じる不快度を推定する。本実施形態では、不快度推定部67は、不快度として、条件付確率PIRFeel=P(IRFeel=不快|IRd, ΔIRd)を算出する。ここで、IRFeelは、乗員が快適と感じるか、不快と感じるかを表す状態変数である。また、IRdは、遠赤外線センサ54により取得された、不快度推定時における乗員周囲の気温である。さらに、ΔIRdは、車両用空調装置2の空調運転状態が最後に変更された時(乗員がA/C操作パネル59を介して車両用空調装置2の空調運転状態を変更した時だけでなく車両用空調装置2自身が空調運転状態を変更した時を含む)における乗員周囲の気温と不快度推定時における乗員周囲の気温との差の絶対値(すなわち、気温変動量)である。また本実施形態では、不快度PIRFeelを推定するために不快度推定モデルが使用される。なお、ΔIRdは、不快度推定時における乗員周囲の気温と、その所定時間前(例えば、40秒前)における乗員周囲の気温の差の絶対値であってもよい。あるいは、ΔIRdは、単位時間(例えば、1分間あるいは1秒間)当たりの乗員周囲の気温の変動量であってもよい。
【0108】
図12に、不快度PIRFeelを推定するために使用される不快度推定モデルの一例を示す。この不快度推定モデル1200は、2個の入力ノード1201及び1202と、出力ノード1203とを有する2層構成のベイジアンネットワークである。入力ノード1201及び1202は、それぞれ、気温IRd、気温変動量ΔIRdを入力パラメータとする。入力ノード1201及び1202は、それぞれ、CPT1211及び1212が関連付けられる。そして、入力ノード1201及び1202は、それぞれCPT1211及び1212を参照して、各入力パラメータが所定の値を有する可能性を表す事前確率を出力する。なお、気温IRd、気温変動量ΔIRdの測定値が得られている場合は、入力ノード1201及び1202は、その測定値に対応する事前確率として1を、それ以外に対応する事前確率として0を出力する。例えば、気温IRdの測定値が29.2℃である場合、入力ノード1201は、CPT1211を参照して、29℃〜30℃の区分の事前確率を1とし、それ以外の区分の事前確率を0とする。同様に、気温変動量ΔIRdの測定値が1.8℃である場合、入力ノード1202は、CPT1212を参照して、1℃〜2℃の区分の事前確率を1とし、それ以外の区分の事前確率を0とする。
【0109】
出力ノード1203は、入力ノード1201及び1202から受け取った事前確率と、CPT1213を参照して、不快度PIRFeel及び乗員の快適度(=P(IRFeel=快適|IRd, ΔIRd))を算出する。なお、乗員の快適度は、(1-PIRFeel)となる。例えば、上記のように、気温IRdに対して、29℃〜30℃の区分の事前確率が1であり、それ以外の区分の事前確率が0であり、気温変動量ΔIRdに対して、1℃〜2℃の区分の事前確率が1であり、それ以外の区分の事前確率が0であったとする。この場合、出力ノード1203は、CPT1213を参照して、不快度PIRFeelとして0.5を出力する。
【0110】
不快度推定部67は、求めた不快度PIRFeelを、運転レベル決定部68へ出力する。
なお、不快度推定部67は、不快度PIRFeelを、気温IRdまたは気温変動量ΔIRdの何れか一方のみに基づいて求めてもよい。この場合、不快度推定モデルは、気温IRdまたは気温変動量ΔIRdの何れか一方のみを入力パラメータとする1個の入力ノードと、その入力パラメータの事前確率を入力として不快度PIRFeelを出力する出力ノードとを有する、2層のベイジアンネットワークとすることができる。
さらに、不快度推定部67は、乗員周囲の気温以外の状態情報に基づいて不快度を算出してもよい。例えば、車内に湿度センサを設け、不快度推定部67は、その湿度センサにより検知された車内の湿度に基づいて不快度を算出してもよい。あるいは、不快度推定部67は、乗員周囲の気温と車内の湿度の両方に基づいて不快度を推定してもよい。さらに、不快度推定部67は、エバポレータ出口温度センサにより検知されたエバポレータ出口温度に基づいて不快度を算出してもよい。この場合、不快度推定部67は、エバポレータ出口温度が、エバポレータから臭いが発生する温度またはその温度よりも1〜3℃低い温度になると、不快度PIRFeelが非常に高くなる(例えば、不快度PIRFeelが1となる)ように、不快度PIRFeelを算出してもよい。さらに、不快度推定部67は、内気温Tr、日射量Sなど、あるいはそれらと乗員周囲の気温及び/または車内の湿度に基づいて不快度を算出してもよい。不快度推定部67は、何れの場合も、それらの状態情報を入力パラメータとし、不快度を出力とする確率モデルを不快度推定モデルとして使用することにより、不快度を算出することができる。
さらに、不快度推定部67は、上記のそれぞれの状態情報あるいはそれら状態情報の組み合わせを入力パラメータとし、不快度を出力とする複数の確率モデルを使用してもよい。この場合、不快度推定部67は、各確率モデルから出力された不快度のうち、最も高いものを運転レベル決定部68へ出力する。
【0111】
運転レベル決定部68は、YES/NOスイッチ75からYESボタンが押下されたことを示す信号を受信すると、車両用空調装置2をエコ運転モードに設定する。そして、車両用空調装置2がエコ運転モードに設定されている間、運転レベル決定部68は、不快度推定部67から取得した不快度に基づいて、車両用空調装置2が空調運転するか否かを決定する。そして運転レベル決定部68が車両用空調装置2を空調運転させると決定した場合には、空調制御部65は、その時点において設定されている設定温度などの設定情報にしたがって空調部10を制御し、車内を冷房または暖房する。また運転レベル決定部68が、車両用空調装置2の空調運転を停止すると決定した場合、空調制御部65は、空調部10の動作を停止させる。
一方、運転レベル決定部68は、YES/NOスイッチ75からNOボタンが押下されたことを示す信号を受信すると、車両用空調装置2を通常運転モードに設定する。車両用空調装置2が通常運転モードに設定されると、車両用空調装置2は、A/C操作パネル59から取得された設定情報にしたがって空調運転する。
【0112】
以下、エコ運転モードにおける、運転レベル決定部68の動作を説明する。なお、以下では、車両用空調装置2が冷房運転する場合について説明する。しかし、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2が暖房運転する場合も同様に動作する。
運転レベル決定部68は、空調運転が停止されている場合、定期的に(例えば、10秒毎に)、不快度PIRFeelを所定の閾値ThIRpと比較する。そして運転レベル決定部68は、不快度PIRFeelが閾値ThIRpを越えた場合、車両用空調装置2に空調運転を開始させる。すなわち、運転レベル決定部68は、空調制御部65により空調部10を冷房動作させる。なお、閾値ThIRpは、乗員が空調運転を開始させる操作を行ったときの不快度の統計量(例えば、平均値、中央値または最頻値)などに基づいて予め決定することができる。
一方、運転レベル決定部68は、遠赤外線センサ54から取得した乗員周囲の気温が、車両用空調装置2が空調運転を開始したときの乗員周囲の気温IRCpよりも所定温度低くなると、車両用空調装置2の空調運転を停止する。すなわち、運転レベル決定部68は、空調制御部65により空調部10の冷房動作を停止させる。以下では、車両用空調装置2が空調運転を停止する気温を空調停止気温IRCnという。(逆に、車両用空調装置2が暖房運転している場合には、空調停止気温IRCnは、空調運転を開始したときの気温IRCpよりも所定温度高い値に設定される。そして運転レベル決定部68は、遠赤外線センサ54から取得した乗員周囲の気温が空調停止気温IRCnに達するまで上昇すると、車両用空調装置2の空調運転を停止する。)
【0113】
この様子を図13を用いて説明する。ここでは、閾値ThIRpは0.8とする。また空調停止気温IRCnは、空調運転を開始したときの気温IRCpよりも1℃低い温度とする。図13に示すテーブル1300は、図12に示したCPT1213のうち、不快度PIRFeelのみを示したものである。そしてテーブル1300の各欄に記載された数値は、不快度PIRFeelを表す。
例えば、空調運転の停止中において、気温IRdの測定値が30.3℃であり、気温変動量ΔIRdの測定値が4.8℃であったとする。この場合、テーブル1300より不快度PIRFeelは1.0となる。そのため、不快度PIRFeelは閾値ThIRpを越えるので、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2に空調運転を開始させる。そして空調停止気温IRCnを29.3℃に設定する。その後、運転レベル決定部68は、気温IRdが29.3℃以下になれば、車両用空調装置2の空調運転を停止する。
【0114】
また、上記と同様に、気温IRdの測定値が30.3℃であるものの、気温変動量ΔIRdの測定値が1.2℃であったとする。この場合には、テーブル1300より不快度PIRFeelは0.5となり、不快度PIRFeelは閾値ThIRpを下回る。したがって、運転レベル決定部68は、空調運転を停止したままとする。気温変動量ΔIRdの測定値が1.2℃の場合には、気温IRdが31℃を越えるときに、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2に空調運転を開始させる。したがって、IRCpが31.5℃であれば、運転レベル決定部68は、IRCnを30.5℃に設定する。その後、運転レベル決定部68は、気温IRdが30.5℃以下になれば、車両用空調装置2の空調運転を停止する。
【0115】
図14を参照しつつ、車両用空調装置2の空調運転状態の遷移について説明する。なお、この状態遷移は、運転レベル決定部68により行われる。また、本実施形態では、乗員が、A/C操作パネル59を介して車両用空調装置2をON/OFFする以外の操作(風量の変更、風向きの変更、設定温度の変更など)を行っても、車両用空調装置2の空調運転状態は遷移しない。
【0116】
まず、YES/NOスイッチ75を介して、車両用空調装置2がエコ運転モードに設定されると、運転レベル決定部68は、空調運転を行うか否かを判定する(ステップS1401)。具体的には、運転レベル決定部68は、その時点における気温IRdと、気温変動量ΔIRd(=0)を不快度推定モデルに入力して不快度PIRFeelを算出する。そして不快度PIRFeelが閾値ThIRpを超える場合、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2に空調運転を開始させる。そして、車両用空調装置2は空調運転実行状態となる(ステップS1402)。一方、ステップS1401において、不快度PIRFeelが閾値ThIRp以下である場合、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2の空調運転を停止し、車両用空調装置2は空調運転停止状態となる(ステップS1403)。
【0117】
空調運転実行状態(ステップS1402)において、上記のように、気温IRdが空調停止気温IRCn以下となった場合、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2の空調運転を停止する。そして、車両用空調装置2は空調運転停止状態(ステップS1403)に移行する。なお、車両用空調装置2は、エバポレータから臭いが発生することを防止するように動作する場合、エバポレータ出口温度がある程度低い所定の温度(例えば、2℃)未満に低下するまで空調運転実行状態を維持するようにしてもよい。この場合、エバポレータ出口温度がその所定の温度未満になると、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2の空調運転を停止する。
一方、空調運転停止状態(ステップS1403)において、不快度PIRFeelが閾値ThIRpを超える場合、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2に空調運転を開始させる。そして、車両用空調装置2は空調運転実行状態(ステップS1402)に移行する。なお、車両用空調装置2は、エバポレータから臭いが発生することを防止するように動作する場合、エバポレータ出口温度が(Twet-3)℃以上となった場合も、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2に空調運転を開始させてもよい。ただし、Twetはエバポレータ表面の湿球温度(エバポレータの表面が濡れた状態を維持できる温度)である。
【0118】
また、空調運転実行状態(ステップS1402)において、乗員がA/C操作パネル59を介して車両用空調装置2をOFFすると、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2の空調運転を停止する。そして、車両用空調装置2は空調運転強制停止状態(ステップS1404)に移行する。
空調運転強制停止状態(ステップS1404)において、乗員がA/C操作パネル59を介して、車両用空調装置2をONすると、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2に空調運転を開始させる。そして、車両用空調装置2は空調運転継続状態(ステップS1405)に移行する。空調運転継続状態(ステップS1405)が開始してから、所定期間(例えば、1分間)経過した後、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2を自動的に空調運転実行状態(ステップS1402)へ移行させる。しかし、空調運転継続状態(ステップS1405)が開始してからその所定期間が経過するまでに、乗員がA/C操作パネル59を介して車両用空調装置2をOFFすると、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2の空調運転を停止する。そして、車両用空調装置2は空調運転強制停止状態(ステップS1404)に戻る。
【0119】
また、車両用空調装置2が空調運転継続状態にある間に、気温IRdが空調停止気温IRCn以下となったとしても、空調運転を停止しない(すなわち、車両空調装置2は、空調運転停止状態へ移行しない)。車両用空調装置2が空調運転継続状態にある場合、乗員の希望により空調運転を再開した直後であるため、車両用空調装置2が自動的に空調運転を停止することは、乗員の希望に反すると考えられるためである。
【0120】
さらに、空調運転停止状態(ステップS1403)において、乗員がA/C操作パネル59を介して車両用空調装置2をONすると、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2に空調運転を開始させる。そして、車両用空調装置2は空調運転強制実行状態(ステップS1406)に移行する。
空調運転強制実行状態(ステップS1406)において、乗員がA/C操作パネル59を介して車両用空調装置2をOFFすると、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2の空調運転を停止する。そして、車両用空調装置2は空調運転停止継続状態(ステップS1407)に移行する。空調運転停止継続状態(ステップS1407)が開始してから所定期間(例えば、1分間)が経過した後、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2を自動的に空調運転停止状態(ステップS1403)へ移行させる。しかし、空調運転継続状態(ステップS1407)が開始してからその所定期間が経過するまでに、乗員がA/C操作パネル59を介して車両用空調装置2をONすると、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2に空調運転を開始させる。そして、車両用空調装置2は空調運転強制実行状態(ステップS1406)に戻る。
【0121】
また、車両用空調装置2が空調運転停止継続状態にある間に、不快度が閾値ThIRpを超えたとしても、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2の空調運転を開始しない(すなわち、車両空調装置2は、空調運転実行状態へ移行しない)。車両用空調装置2が空調運転停止継続状態にある場合、乗員の希望により空調運転を停止した直後であるため、車両用空調装置2が自動的に空調運転を再開することは、乗員の希望に反すると考えられるためである。
【0122】
このように、車両用空調装置2はエコ運転モードに設定されている間、上記のステップS1402〜S1407の何れかの状態となる。そして車両用空調装置2が、ステップS1402〜S1407の何れの状態にある場合でも、YES/NOスイッチ75を介して車両用空調装置2が通常運転モードに設定されると、運転レベル決定部68は、エコ運転を終了する。
【0123】
なお、運転レベル決定部68は、車両用空調装置2が上記の空調運転実行状態(ステップS1402)にある場合、空調運転が開始されてから一定時間(例えば、3分間)が経過すると、車両用空調装置2を自動的に空調運転停止状態(ステップS1403)へ移行させてもよい。
【0124】
不快度推定モデル修正部69は、乗員の温感に適合するように、不快度推定モデルを修正する。
不快度推定モデルを修正するために、不快度推定モデル修正部69は、エコ運転モード実行時における、乗員周囲の気温IRd及び気温変動量ΔIRdを定期的に(例えば、10秒毎に)取得する。なお、気温変動量ΔIRdは、最後に車両用空調装置2の空調運転状態が変更されたときの乗員周囲の気温と、最新の乗員周囲の気温の差の絶対値として取得される。そして不快度推定モデル修正部69は、それらに対して、重み係数と、乗員が不快と感じていることを表す不快ラベルか、乗員が快適と感じていることを表す快適ラベルを関連付けて、リングバッファで構成される一時記憶部61aに記憶する。一時記憶部61aは、後述するように、ラベルの修正が行われる可能性のある期間よりも長い期間(例えば、3分間)内に取得された気温IRd及び気温変動量ΔIRd及びそれらに対応するラベルと重み係数を記憶するだけの記憶容量を持つ。そして乗員により車両用空調装置2が操作されると、不快度推定モデル修正部69は、一時記憶部61aに記憶されている気温IRd及び気温変動量ΔIRdのラベル及び重み係数を、その操作に応じて修正する。ここで、一時記憶部61aは、その記憶容量が一杯になるまでデータを記憶すると、その後に新たなデータを記憶する場合、最も古いデータを廃棄する。そこで、不快度推定モデル修正部69は、新たな気温IRd及び気温変動量ΔIRdが取得される度に、一時記憶部61aに記憶されている気温IRd及び気温変動量ΔIRdのうち、最も古いものを、対応するラベル及び重み係数とともに学習データとして記憶部61に蓄積する。
【0125】
図15を参照しつつ、気温IRd及び気温変動量ΔIRd(以下では、学習データという)とその学習データに関連付けられるラベルの対応関係を説明する。図15に示す各タイミングチャートは、上から順に、エコ運転モードのON/OFF、車両用空調装置2の運転状態、学習データに関連付けられる重み係数及びラベルを表す。各タイミングチャートにおいて、横軸は経過時間を表す。
時刻t1において、車両用空調装置2がエコ運転モードに設定される。その後、時刻t2において運転レベル決定部68により、車両用空調装置2が空調運転停止状態となる。時刻t2以降において取得された学習データは、リングバッファで構成される一時記憶部61aに記憶される。ここで、車両用空調装置2が空調運転停止状態であれば、不快度は低いと考えられる。これは、上記のように、運転レベル決定部68が、気温IRdがある程度低下したとき(すなわち、不快度がある程度低下したと考えられるとき)、車両用空調装置2を空調運転停止状態へ移行させるためである。したがって、不快度推定モデル修正部69は、時刻t2以降に取得された学習データに、乗員が快適であることを表す快適ラベルを付す。また不快度推定モデル修正部69は、それら学習データに、相対的に低い重み係数Cn(例えば、1)を付す。
【0126】
その後、時刻t3において、乗員が、A/C操作パネル59を介して車両用空調装置2をONにして、車両用空調装置2が空調運転強制実行状態に移行したとする。この時刻t3の前後においては、乗員は強い不快感を持っていると考えられる。そこで、不快度推定モデル修正部69は、時刻t3から一定期間τ1(例えば、60秒間)前までの間に取得された学習データに対応するラベルを不快ラベルに変える。また、不快度推定モデル修正部69は、時刻t3における学習データに、相対的に高い重み係数Cp(例えば、100)を付す。さらに不快度推定モデル修正部69は、時刻(t3-τ1)から時刻t3の間に取得された学習データに対する重み係数を、時刻t3から時間を遡るにつれて低くなり、時刻(t3-τ1)においてCnとなるように設定する。
【0127】
また、不快度推定モデル修正部69は、時刻t3以降に取得された学習データの重みを0とする。なお、不快度推定モデル修正部69は、時刻t3以降に取得された学習データの重みをCnとし、不快ラベルを付してもよい。
【0128】
さらにその後、時刻t4において、乗員が、A/C操作パネル59を介して車両用空調装置2をOFFにして、車両用空調装置2が空調運転停止継続状態に移行したとする。この時刻t4の前後においては、乗員は非常に快適と感じていると考えられる。そこで、不快度推定モデル修正部69は、時刻t4から一定期間τ2(例えば、30秒間)前までの間に取得された学習データに快適ラベルを付す。また、不快度推定モデル修正部69は、時刻t4における学習データに、重み係数Cpを付す。さらに不快度推定モデル修正部69は、時刻(t4-τ2)から時刻t4の間に取得された学習データに対する重み係数を、時刻t4から時間を遡るにつれて低くなり、時刻(t4-τ2)においてCnとなるように設定する。
その後、不快度推定モデル修正部69は、車両用空調装置2が空調運転停止状態または空調運転停止状態にある間に取得された学習データに快適ラベルを付す。また不快度推定モデル修正部69は、それら学習データに重み係数Cnを付す。
【0129】
その後、時刻t5で車両用空調装置2が空調運転実行状態に移行したとすると、不快度推定モデル修正部69は、時刻t5以降に取得された学習データの重みを0とする。なお、不快度推定モデル修正部69は、時刻t5以降に取得された学習データの重み係数をCnとし、不快ラベルを付してもよい。
さらに、時刻t6において、乗員が、A/C操作パネル59を介して車両用空調装置2をOFFにして、車両用空調装置2が空調運転強制停止状態に移行したとする。この時刻t6の前後においては、乗員は非常に快適と感じていると考えられる。そこで、不快度推定モデル修正部69は、時刻t6から一定期間τ2前までの間に取得された学習データに快適ラベルを付す。また、時刻t4の時点と同様に、不快度推定モデル修正部69は、時刻t6における学習データに重み係数Cpを付す。さらに不快度推定モデル修正部69は、時刻(t6-τ2)から時刻t6の間に取得された学習データに対する重み係数を、時刻t6から時間を遡るにつれて低くなり、時刻(t6-τ2)においてCnとなるように設定する。その後、不快度推定モデル修正部69は、車両用空調装置2が空調運転強制停止状態にある間に取得された学習データに快適ラベルを付す。
【0130】
最後に、時刻t7において、乗員が、A/C操作パネル59を介して車両用空調装置2をONにして、車両用空調装置2が空調運転継続状態に移行したとする。この時刻t7の前後においては、乗員は強い不快感を持っていると考えられる。そこで、不快度推定モデル修正部69は、時刻t7から一定期間τ1前までの間に取得された学習データに対応するラベルを不快ラベルに変える。また、不快度推定モデル修正部69は、時刻t7における学習データに、重み係数Cpを付す。さらに不快度推定モデル修正部69は、時刻(t7-τ1)から時刻t7の間に取得された学習データに対する重み係数を、時刻t7から時間を遡るにつれて低くなり、時刻(t7-τ1)においてCnとなるように設定する。
【0131】
不快度推定モデル修正部69は、定期的に(例えば、車両のエンジンが停止されたときに)、記憶部61に蓄積された学習データを用いて不快度推定モデルを修正する。具体的には、不快度推定モデル修正部69は、不快度推定モデルの出力ノードのCPTを修正する。例えば、不快度推定モデル修正部69は、下記の式により、学習データとして蓄積された気温及び気温変動量の値の組(IRd,ΔIRd)に対する不快度PIRFeel(IRd,ΔIRd)を算出する。
【数5】
ここで、ΣCc(IRd,ΔIRd)は、快適ラベルが付された気温及び気温変動量の値の組(IRd,ΔIRd)に対する重み係数の合計を表す。またΣCd(IRd,ΔIRd)は、不快ラベルが付された気温及び気温変動量の値の組(IRd,ΔIRd)に対する重み係数の合計を表す。なお、気温及び気温変動量の組(IRd,ΔIRd)の各値に対する快適度は、上記のように、(1-PIRFeel(IRd,ΔIRd))となる。
【0132】
なお、不快度推定モデル修正部69は、予め設定された範囲に含まれる、気温及び気温変動量の値の組(IRd,ΔIRd)に対してのみ、不快度推定モデルの出力ノードのCPTを修正してもよい。このように、不快度推定モデルを修正可能な気温及び気温変動量の値の範囲を限定することにより、不快度推定モデル修正部69は、不快度推定モデルを過剰に学習してしまうことを防止できる。例えば、図12に示した不快度推定モデル1200のCPT1213について、気温IRdが31℃〜32℃で、気温変動量ΔIRdが4℃〜5℃の区分、気温IRdが32℃超で、気温変動量ΔIRdが2℃〜3℃の区分については、乗員が誰であっても不快と感じる可能性が非常に高い。そのため、不快度推定モデル修正部69は、そのような区分については、CPT1213を修正しない。同様に、気温IRdが27℃以下で、気温変動量ΔIRdが1℃〜2℃の区分等については、乗員が誰であっても快適と感じる可能性が非常に高い。そのため、不快度推定モデル修正部69は、そのような区分については、CPT1213を修正しない。
一方、気温IRdが29℃〜30℃で、気温変動量ΔIRdが2℃〜3℃の区分等については、乗員によって快適と感じるか、不快と感じるかは異なる可能性が高い。そこで、不快度推定モデル修正部69は、乗員によって感じ方が異なると考えられる気温及び気温変動量の値の組に対応する区分については、CPT1213を修正する。
【0133】
さらに、不快度推定モデル修正部69は、上記の(5)式による計算を行う前に、ΣCc(IRd,ΔIRd)及びΣCd(IRd,ΔIRd)にガウシアンフィルタなどの平滑化フィルタを用いてフィルタリング処理を行ってもよい。そのようなフィルタリング処理を行うことにより、ある気温及び気温変動量の値の組(IRd,ΔIRd)に対する学習データが多数蓄積されている場合、その値の組の周囲の値の組に対応する区分についても出力ノードのCPTを修正できるので、不快度推定モデル修正部69は、効率的に不快度推定モデルを修正することができる。この際、不快度推定モデル修正部69は、快適ラベルが付された気温及び気温変動量の値の組に対する重み係数の合計であるΣCc(IRd,ΔIRd)に関して、乗員がより快適と感じる方向(冷房運転時では、IRd及びΔIRdが低くなる方向)にのみ、平滑化してもよい。同様に、不快度推定モデル修正部69は、不快ラベルが付された気温及び気温変動量の値の組に対する重み係数の合計であるΣCd(IRd,ΔIRd)に関して、乗員がより不快と感じる方向(冷房運転時では、IRd及びΔIRdが高くなる方向)にのみ、平滑化してもよい。
【0134】
以上説明してきたように、本発明の第2の実施形態に係る車両用空調装置2は、乗員が車内を不快と感じる程度を表す不快度を推定し、その不快度が低くなると自動的に空調運転を停止する。そのため、車両用空調装置2は、過剰に車内を冷房したり、暖房することを防止できるので、燃費を改善することができる。一方、不快度が高くなると、車両用空調装置2は、自動的に空調運転を開始するので、車内を乗員にとって快適に保つことができる。
【0135】
なお、本発明の第2の実施形態に係る車両用空調装置も、上記の実施形態に限定されない。例えば、運転レベル決定部68は、不快度に応じて空調運転の度合いを調整してもよい。例えば、運転レベル決定部68は、不快度PIRdが閾値ThIRpを越えたとき、空調制御部65に空調運転の度合いを強くさせる。一方、運転レベル決定部68は、空調運転の度合いを強くしてから所定時間経過後、あるいは、気温IRdが空調停止気温IRCn以下(冷房運転時)若しくは空調停止気温IRCn以上(暖房運転時)となったとき、空調制御部65に空調運転の度合いを弱めさせる。
なお、空調運転の度合いを弱くすることには、空調運転を停止することの他、冷房運転時におい設定温度を高くすること、ブロアファンの回転速度を低下させること(すなわち、各吹出し口から送出される空調空気の送風量を減らすこと)が含まれる。一方、空調運転の度合いを高くすることには、空調運転を開始することの他、冷房運転時において設定温度を低くすること、ブロアファンの回転速度を増加させることが含まれる。
【0136】
さらに、不快度推定部67は、空調運転を停止または空調運転の度合いを弱めるための条件として、空調運転を停止した、または空調運転の度合いを弱めたと仮定した場合に、その停止時点から所定時間経過後(例えば、5分後)の不快度を使用してもよい(以下、この所定時間経過後の不快度を、将来不快度という)。この場合、運転レベル決定部68は、将来不快度が、上記の閾値ThIRp以下であれば、空調運転を停止または空調運転の度合いを弱めるように制御してもよい。なお、不快度推定部67は、将来不快度を、不快度推定モデルと同様の確率モデルを用いて算出することができる。ただし、その確率モデルの出力ノードは、空調運転を停止した時点から所定時間経過後において、乗員が不快または快適と感じる確率を出力する。そして将来不快度は、その乗員が不快と感じる確率とすることができる。あるいは、不快度推定部67は、本発明の第1の実施形態における、空調状態推定部63及び推薦操作決定部64により行われる処理と同様の処理を行うことにより、所定時間経過後における車内の空調状態が快適性条件を満たすか否か判定してもよい。この場合、不快度推定部67は、快適性条件を満たすと判定した場合に、車両用空調装置2の空調運転を停止または空調運転の度合いを弱めることができる。
【0137】
なお、本発明を適用する空調装置は、フロントシングル、左右独立、リア独立、4席独立、上下独立の何れのタイプのものであってもよい。何れかの独立タイプの空調装置に本発明を適用する場合には、内気温センサ、日射センサなどが複数搭載されてもよい。
上記のように、当業者は、本発明の範囲内で様々な修正を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0138】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置の全体構成を示す構成図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置の制御部の機能ブロック図である。
【図3】空調状態を推定するために使用される確率モデルの一例を示す図である。
【図4】空調状態を推定するために使用される確率モデルの他の一例を示す図である。
【図5】空調状態を推定するために使用される確率モデルのさらに他の一例を示す図である。
【図6】快適性条件を求めるために使用される確率モデルの一例を示す図である。
【図7】快適性条件を求めるために使用される確率モデルの他の一例を示す図である。
【図8】本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置の空調制御動作を示すフローチャートである。
【図9】本発明の第1の実施形態に係る車両用空調装置の空調制御動作を示すフローチャートである。
【図10】本発明の第2の実施形態に係る車両用空調装置の全体構成を示す構成図である。
【図11】本発明の第2の実施形態に係る車両用空調装置の制御部の機能ブロック図である。
【図12】不快度を推定するために使用される確率モデルの一例を示す図である。
【図13】不快度を表すテーブルの一例である。
【図14】本発明の第2の実施形態に係る車両用空調装置の状態遷移図である。
【図15】学習データとその学習データに関連付けられるラベルの対応を示す図である。
【符号の説明】
【0139】
1、2 車両用空調装置
10 空調部
51 内気温センサ
52 外気温センサ
53 日射センサ
54 遠赤外線センサ
59 A/C操作パネル
60 制御部
61 記憶部
62 通信部
63 空調状態推定部
64 推薦操作決定部
65 空調制御部
66 快適性条件決定部
67 不快度推定部
68 運転レベル決定部
69 不快度推定モデル修正部
75 YES/NOスイッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用空調装置であって、
空調空気を車内に供給する空調部(10)と、
前記車両に関する状態を表す状態情報を取得する情報取得部(51、52、53)と、
前記状態情報に基づいて、燃費を改善するための設定操作を行った場合に、所定時間経過後の車内の空調状態を推定する空調状態推定部(63)と、
前記推定された空調状態が、乗員にとって車内が快適であると推定される快適性条件を満たす場合、前記設定操作を推薦する推薦操作決定部(64)と、
前記推薦された設定操作に応じて前記空調部(10)の空調制御を行う空調制御部(65)と、
を有することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記推薦された設定操作を乗員に提示する表示部(59)と、
前記推薦された設定操作を承認するか否かを入力する判定入力部(75)とをさらに有し、
前記空調制御部(65)は、前記判定入力部(75)を通じて、前記推薦された設定操作を承認する承認操作がなされた場合、前記推薦された設定操作に応じて前記空調部(10)の空調制御を行う請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記快適性条件は、乗員が快適と感じる車内温度に関する快適温度確率分布であり、
前記空調状態推定部(63)は、前記所定時間経過後の車内温度に関する推定温度確率分布を前記推定された空調状態として求め、
前記推薦操作決定部(64)は、前記快適温度確率分布と前記推定温度確率分布の乖離度を求め、該乖離度が所定の閾値以下の場合、前記推定された空調状態は前記快適性条件を満たすと判定する、請求項1または2に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記推薦操作決定部(64)は、前記状態情報を入力として、乗員が快適と感じる車内温度に関する確率分布を出力する確率モデルを用いて、前記快適温度確率分布を決定する、請求項3に記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記情報取得部(51、52、53)により、安定状態において取得された複数の状態情報を学習データ群として記憶する記憶部(61)と、
前記学習データ群を用いて、前記確率モデルを生成または更新する快適性条件決定部(66)を有する、請求項4に記載の車両用空調装置。
【請求項6】
前記状態情報は、目的地に到達するまでの推定所要時間であり、かつ、前記燃費を改善するための設定操作は、前記空調部(10)の停止または設定温度を車外の温度に近づける操作である、請求項1または2に記載の車両用空調装置。
【請求項7】
前記空調状態推定部(63)は、前記推定所要時間経過後における車内温度を前記推定された空調状態として求め、
前記推薦操作決定部(64)は、前記推定所要時間経過後における車内温度が所定の温度範囲に含まれる場合、前記推定された空調状態が前記快適性条件を満たすと判定する、請求項6に記載の車両用空調装置。
【請求項8】
前記推薦操作決定部(64)は、前記状態情報を入力とする確率モデルを用いて、乗員が快適と感じる車内温度に関する確率を求め、該確率が最も高くなる温度範囲を、前記所定の温度範囲とする、請求項7に記載の車両用空調装置。
【請求項9】
前記状態情報は、車内温度であり、かつ、前記燃費を改善するための設定操作は、前記空調部(10)の停止または設定温度を車外の温度に近づける操作である、請求項1または2に記載の車両用空調装置。
【請求項10】
前記空調状態推定部(63)は、前記所定時間経過後における車内温度を前記推定された空調状態として求め、
前記推薦操作決定部(64)は、前記所定時間経過後における車内温度が、所定の温度範囲に含まれる場合、前記推定された空調状態が前記快適性条件を満たすと判定する、請求項9に記載の車両用空調装置。
【請求項11】
前記推薦操作決定部(64)は、前記状態情報を入力とする確率モデルを用いて、乗員が快適と感じる車内温度に関する確率を求め、該確率が最も高くなる温度範囲を、前記所定の温度範囲とする、請求項10に記載の車両用空調装置。
【請求項12】
空調空気を車内に供給する空調部(10)を有する車両用空調装置の制御方法であって、
前記車両に関する状態を表す状態情報を取得するステップと、
前記状態情報に基づいて、燃費を改善するための設定操作を行った場合に、所定時間経過後の車内の空調状態を推定するステップと、
前記推定された空調状態が、乗員にとって車両内が快適である推定される快適性条件を満たす場合、前記設定操作を推薦するステップと、
前記推薦された設定操作に応じて前記空調部(10)の空調制御を行うステップと、
を有することを特徴とする制御方法。
【請求項13】
車両用空調装置であって、
空調空気を車内に供給する空調部(10)と、
車内の状態に関する少なくとも一種類の状態情報を取得する情報取得部(54)と、
前記少なくとも一種類の状態情報を入力とし、乗員の不快度を出力とする確率モデルを用いて該不快度を推定する不快度推定部(67)と、
前記不快度が第1の基準値よりも高くなると空調運転の度合いを強くするよう決定する運転レベル決定部(68)と、
前記運転レベル決定部(68)により決定された空調運転の度合いに従って、前記空調部(10)を制御する空調制御部(65)と、
を有することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項14】
空調運転の度合いを調節するための操作部(59)と、
前記操作部(59)を介して空調運転の度合いを強くする操作が行われたときの前記少なくとも一種類の状態情報を、乗員が不快と感じる状態に対応する不快状態データとして記憶する記憶部(61)と、
前記少なくとも一種類の乗員状態情報の値に対応する前記不快状態データの数が多くなるほど、該値に対応する不快度が高くなるように前記確率モデルを修正する不快度推定モデル修正部(69)と、
をさらに有する請求項13に記載の車両用空調装置。
【請求項15】
前記記憶部(61)は、前記操作部(59)を介して空調運転の度合いを弱くする操作が行われたときの前記少なくとも一種類の状態情報を、乗員が快適と感じる状態に対応する快適状態データとして記憶し、
前記不快度推定モデル修正部(69)は、前記少なくとも一種類の状態情報の値に対応する前記快適状態データの数が多くなるほど、該値に対応する不快度が低くなるように前記確率モデルを修正する、請求項14に記載の車両用空調装置。
【請求項16】
前記不快度推定モデル修正部(69)は、予め定められた範囲内に含まれる前記少なくとも一種類の状態情報の値に対応する前記不快度のみを変更するように前記確率モデルを修正する、請求項14または15に記載の車両用空調装置。
【請求項17】
前記情報取得部(54)は、遠赤外線センサであり、
前記少なくとも一種類の状態情報は、前記情報取得部(54)により推定される乗員周囲の気温を含む、請求項13〜16の何れか一項に記載の車両用空調装置。
【請求項18】
前記運転レベル決定部(68)は、前記不快度が、前記第1の基準値よりも低い第2の基準値以下になると空調運転の度合いを弱くするよう決定する、請求項13〜17の何れか一項に記載の車両用空調装置。
【請求項19】
前記不快度推定部(67)は、前記少なくとも一つの状態情報に基づいて、空調運転の度合いを弱くする操作を行った場合の所定時間経過後における乗員の不快度を推定し、
前記運転レベル決定部(68)は、前記所定時間経過後における乗員の不快度が前記第1の基準値以下のとき、空調運転の度合いを弱くするよう決定する、請求項13〜17の何れか一項に記載の車両用空調装置。
【請求項20】
空調空気を車内に供給する空調部(10)を有する車両用空調装置の制御方法であって、
車内の状態に関する少なくとも一種類の状態情報を取得するステップと、
前記少なくとも一種類の状態情報を入力とし、乗員の不快度を出力とする確率モデルを用いて該不快度を推定するステップと、
前記不快度が第1の基準値よりも高くなると空調運転の度合いを強くするよう決定するステップと、
前記決定された空調運転の度合いに従って、前記空調部(10)を制御するステップと、
を有することを特徴とする制御方法。
【請求項21】
前記不快度が、前記第1の基準値よりも低い第2の基準値以下になると空調運転の度合いを弱くするよう決定するステップをさらに有する、請求項20に記載の制御方法。
【請求項22】
前記少なくとも一つの状態情報に基づいて、空調運転の度合いを弱くする操作を行った場合の所定時間経過後における乗員の不快度を推定するステップと、
前記所定時間経過後における乗員の不快度が前記第1の基準値以下のとき、空調運転の度合いを弱くするよう決定するステップと、
をさらに有する、請求項20に記載の制御方法。
【請求項1】
車両用空調装置であって、
空調空気を車内に供給する空調部(10)と、
前記車両に関する状態を表す状態情報を取得する情報取得部(51、52、53)と、
前記状態情報に基づいて、燃費を改善するための設定操作を行った場合に、所定時間経過後の車内の空調状態を推定する空調状態推定部(63)と、
前記推定された空調状態が、乗員にとって車内が快適であると推定される快適性条件を満たす場合、前記設定操作を推薦する推薦操作決定部(64)と、
前記推薦された設定操作に応じて前記空調部(10)の空調制御を行う空調制御部(65)と、
を有することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記推薦された設定操作を乗員に提示する表示部(59)と、
前記推薦された設定操作を承認するか否かを入力する判定入力部(75)とをさらに有し、
前記空調制御部(65)は、前記判定入力部(75)を通じて、前記推薦された設定操作を承認する承認操作がなされた場合、前記推薦された設定操作に応じて前記空調部(10)の空調制御を行う請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記快適性条件は、乗員が快適と感じる車内温度に関する快適温度確率分布であり、
前記空調状態推定部(63)は、前記所定時間経過後の車内温度に関する推定温度確率分布を前記推定された空調状態として求め、
前記推薦操作決定部(64)は、前記快適温度確率分布と前記推定温度確率分布の乖離度を求め、該乖離度が所定の閾値以下の場合、前記推定された空調状態は前記快適性条件を満たすと判定する、請求項1または2に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記推薦操作決定部(64)は、前記状態情報を入力として、乗員が快適と感じる車内温度に関する確率分布を出力する確率モデルを用いて、前記快適温度確率分布を決定する、請求項3に記載の車両用空調装置。
【請求項5】
前記情報取得部(51、52、53)により、安定状態において取得された複数の状態情報を学習データ群として記憶する記憶部(61)と、
前記学習データ群を用いて、前記確率モデルを生成または更新する快適性条件決定部(66)を有する、請求項4に記載の車両用空調装置。
【請求項6】
前記状態情報は、目的地に到達するまでの推定所要時間であり、かつ、前記燃費を改善するための設定操作は、前記空調部(10)の停止または設定温度を車外の温度に近づける操作である、請求項1または2に記載の車両用空調装置。
【請求項7】
前記空調状態推定部(63)は、前記推定所要時間経過後における車内温度を前記推定された空調状態として求め、
前記推薦操作決定部(64)は、前記推定所要時間経過後における車内温度が所定の温度範囲に含まれる場合、前記推定された空調状態が前記快適性条件を満たすと判定する、請求項6に記載の車両用空調装置。
【請求項8】
前記推薦操作決定部(64)は、前記状態情報を入力とする確率モデルを用いて、乗員が快適と感じる車内温度に関する確率を求め、該確率が最も高くなる温度範囲を、前記所定の温度範囲とする、請求項7に記載の車両用空調装置。
【請求項9】
前記状態情報は、車内温度であり、かつ、前記燃費を改善するための設定操作は、前記空調部(10)の停止または設定温度を車外の温度に近づける操作である、請求項1または2に記載の車両用空調装置。
【請求項10】
前記空調状態推定部(63)は、前記所定時間経過後における車内温度を前記推定された空調状態として求め、
前記推薦操作決定部(64)は、前記所定時間経過後における車内温度が、所定の温度範囲に含まれる場合、前記推定された空調状態が前記快適性条件を満たすと判定する、請求項9に記載の車両用空調装置。
【請求項11】
前記推薦操作決定部(64)は、前記状態情報を入力とする確率モデルを用いて、乗員が快適と感じる車内温度に関する確率を求め、該確率が最も高くなる温度範囲を、前記所定の温度範囲とする、請求項10に記載の車両用空調装置。
【請求項12】
空調空気を車内に供給する空調部(10)を有する車両用空調装置の制御方法であって、
前記車両に関する状態を表す状態情報を取得するステップと、
前記状態情報に基づいて、燃費を改善するための設定操作を行った場合に、所定時間経過後の車内の空調状態を推定するステップと、
前記推定された空調状態が、乗員にとって車両内が快適である推定される快適性条件を満たす場合、前記設定操作を推薦するステップと、
前記推薦された設定操作に応じて前記空調部(10)の空調制御を行うステップと、
を有することを特徴とする制御方法。
【請求項13】
車両用空調装置であって、
空調空気を車内に供給する空調部(10)と、
車内の状態に関する少なくとも一種類の状態情報を取得する情報取得部(54)と、
前記少なくとも一種類の状態情報を入力とし、乗員の不快度を出力とする確率モデルを用いて該不快度を推定する不快度推定部(67)と、
前記不快度が第1の基準値よりも高くなると空調運転の度合いを強くするよう決定する運転レベル決定部(68)と、
前記運転レベル決定部(68)により決定された空調運転の度合いに従って、前記空調部(10)を制御する空調制御部(65)と、
を有することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項14】
空調運転の度合いを調節するための操作部(59)と、
前記操作部(59)を介して空調運転の度合いを強くする操作が行われたときの前記少なくとも一種類の状態情報を、乗員が不快と感じる状態に対応する不快状態データとして記憶する記憶部(61)と、
前記少なくとも一種類の乗員状態情報の値に対応する前記不快状態データの数が多くなるほど、該値に対応する不快度が高くなるように前記確率モデルを修正する不快度推定モデル修正部(69)と、
をさらに有する請求項13に記載の車両用空調装置。
【請求項15】
前記記憶部(61)は、前記操作部(59)を介して空調運転の度合いを弱くする操作が行われたときの前記少なくとも一種類の状態情報を、乗員が快適と感じる状態に対応する快適状態データとして記憶し、
前記不快度推定モデル修正部(69)は、前記少なくとも一種類の状態情報の値に対応する前記快適状態データの数が多くなるほど、該値に対応する不快度が低くなるように前記確率モデルを修正する、請求項14に記載の車両用空調装置。
【請求項16】
前記不快度推定モデル修正部(69)は、予め定められた範囲内に含まれる前記少なくとも一種類の状態情報の値に対応する前記不快度のみを変更するように前記確率モデルを修正する、請求項14または15に記載の車両用空調装置。
【請求項17】
前記情報取得部(54)は、遠赤外線センサであり、
前記少なくとも一種類の状態情報は、前記情報取得部(54)により推定される乗員周囲の気温を含む、請求項13〜16の何れか一項に記載の車両用空調装置。
【請求項18】
前記運転レベル決定部(68)は、前記不快度が、前記第1の基準値よりも低い第2の基準値以下になると空調運転の度合いを弱くするよう決定する、請求項13〜17の何れか一項に記載の車両用空調装置。
【請求項19】
前記不快度推定部(67)は、前記少なくとも一つの状態情報に基づいて、空調運転の度合いを弱くする操作を行った場合の所定時間経過後における乗員の不快度を推定し、
前記運転レベル決定部(68)は、前記所定時間経過後における乗員の不快度が前記第1の基準値以下のとき、空調運転の度合いを弱くするよう決定する、請求項13〜17の何れか一項に記載の車両用空調装置。
【請求項20】
空調空気を車内に供給する空調部(10)を有する車両用空調装置の制御方法であって、
車内の状態に関する少なくとも一種類の状態情報を取得するステップと、
前記少なくとも一種類の状態情報を入力とし、乗員の不快度を出力とする確率モデルを用いて該不快度を推定するステップと、
前記不快度が第1の基準値よりも高くなると空調運転の度合いを強くするよう決定するステップと、
前記決定された空調運転の度合いに従って、前記空調部(10)を制御するステップと、
を有することを特徴とする制御方法。
【請求項21】
前記不快度が、前記第1の基準値よりも低い第2の基準値以下になると空調運転の度合いを弱くするよう決定するステップをさらに有する、請求項20に記載の制御方法。
【請求項22】
前記少なくとも一つの状態情報に基づいて、空調運転の度合いを弱くする操作を行った場合の所定時間経過後における乗員の不快度を推定するステップと、
前記所定時間経過後における乗員の不快度が前記第1の基準値以下のとき、空調運転の度合いを弱くするよう決定するステップと、
をさらに有する、請求項20に記載の制御方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2009−46115(P2009−46115A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152329(P2008−152329)
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(502324066)株式会社デンソーアイティーラボラトリ (332)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月10日(2008.6.10)
【出願人】(502324066)株式会社デンソーアイティーラボラトリ (332)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]