説明

車両用空調装置

【課題】特定の座席の空調を実施中に空調用送風機を停止した場合であっても、特定席の快適性が損なわれることを抑制することができる車両用空調装置を提供する。
【解決手段】エアコンECU10は、集中制御スイッチ55が操作されて、特定席である運転席を空調する特定席空調指令が与えられた場合には集中制御モードとして、助手席側ドア34〜36などを遮断状態に制御する。またエアコンECU10は、集中制御モードにおいて、ブロワ4の停止指令が与えられた場合には、送風を停止するようにブロワ4を制御する。さらにエアコンECU10は、他の座席に対応して開口する複数の吹出口のうち少なくとも1つの吹出口を開状態にして、ブロワ4が停止後に開状態にある吹出口の合計の開口面積を、集中制御モードにおいて開状態にある吹出口の合計の開口面積以上となるように制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室内の複数の空間に向かって空調風を吹き出す車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用空調装置では、運転席と他の座席とに吹き出される空調風の風量を分配する分配装置が開示されている(たとえば特許文献1参照)。
【0003】
また他の従来の車両用空調装置では、運転席のみに空調風を吹き出す空調制御がある。たとえば運転席以外の座席に乗員が着座していない場合は、その座席用に設けた他の吹出口に通ずるダクト内通路を閉じて、その吹出口からの送風を停止する。これによって運転者だけの場合における車両用空調装置の省エネ化を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭59−143715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の車両用空調装置では、運転席だけに送風している状態において、送風機を停止した場合、外気導入モードであると車両走行による走行風圧力(ラム圧)によって、運転席に対する送風量が多くなりすぎるという問題がある。また同様に送風機を停止した場合、内気導入モードであると、閉じている吹出口の数が多いので、空気が循環しにくく高湿度になりやすい。したがって窓曇りが発生しやすいという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は前述の問題点を鑑みてなされたものであり、特定の座席の空調を実施中に空調用送風機を停止した場合であっても、特定席の快適性が損なわれることを抑制することができる車両用空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は前述の目的を達成するために以下の技術的手段を採用する。
【0008】
請求項1に記載の発明では、一方側に空気取入口(6,7)が形成され、他方側に車室内に向かう空気が通過する複数の吹出口が形成される空調ケース(2)であって、複数の吹出口(20〜23,30〜33,91〜93)は少なくとも運転席を含む特定席とその他の座席とを含む複数の座席に対応して開口し、空気取入口と吹出口との間に送風空気が通過する通風路を有する空調ケース(2)と、
空調ケースの通風路に対して空気を送風する空調用送風機(13)と、
空調用送風機から送風された空気を加熱または冷却して空調風とし、複数の吹出口に送る空調部(41,42)と、
複数の吹出口の開閉状態を切替える開閉手段であって、複数の吹出口のうち、特定席を除く他の座席を空調範囲とする吹出口から吹出す空調風の通過を許可する許可状態と、通過を遮断し、特定席を空調範囲とする吹出口から吹出す空調風の通過を許可する遮断状態とにわたって切替える開閉手段(34〜36)と、
空調用送風機、空調部および開閉手段を制御して、車室内の空調を行う制御手段(10)と、を含み、
制御手段は、
特定席を空調する特定席空調指令が与えられた場合には特定席状態の制御として、開閉手段を遮断状態に制御し、
特定席状態において、空調用送風機の停止を要求する停止指令が与えられた場合には、送風を停止するように空調用送風機を制御するとともに、他の座席を空調範囲とする複数の吹出口のうち少なくとも1つの吹出口を開状態にして、空調用送風機が停止後に開状態にある吹出口の合計の開口面積を、特定席状態において開状態にある吹出口の合計の開口面積以上となるように開閉手段を制御することを特徴とする。
【0009】
請求項1に記載の発明に従えば、制御手段は、特定席を空調する特定席空調指令が与えられた場合には特定席状態の制御として、開閉手段を遮断状態に制御する。特定席は、少なくとも運転席を含むので、たとえば運転席のみ、および運転席および助手席などである。開閉手段を遮断状態にすることによって、特定席に着座する乗員(以下、「特定乗員」ということがある)に対してだけ空調風を送風することができる。したがって通常状態よりも空調範囲が狭くなるので、空調能力を低減することができる。
【0010】
また制御手段は、特定席状態において、停止指令が与えられた場合には、送風を停止するように空調用送風機を制御する。さらに制御手段は、他の座席に対応して開口する複数の吹出口のうち少なくとも1つの吹出口を開状態にして、空調用送風機が停止後に開状態にある吹出口の合計の開口面積を、特定席状態において開状態にある吹出口の合計の開口面積以上となるように開閉手段を制御する。したがって停止指令が与えられると、各吹出口の開閉状態が制御され、開状態にある吹出口の開口面積が同等以上となる。これによって、たとえば車速の上昇などに起因して、導入される車室外空気(以下、「外気」ということがある)の圧力が高くなり、空気取入口から導入された外気が車室内へ流入した場合であっても、他の座席に吹出口を開状態しているので、流入する空気を他の座席に分散させることができる。したがって特定乗員に与える不快感を抑制することができる。
【0011】
また、たとえば車室内空気(以下、「内気」ということがある)を循環するために、空気取入口から取り入れた内気が吹出口から吹き出される場合に、空調用送風機を停止した場合であっても、開口面積を同等以上にし、他の座席の吹出口も開状態にしているので、循環する空気の通路を増やすことができる。したがって湿度の上昇を抑制し、窓曇りの発生を抑制することができる。
【0012】
これによって特定席状態の制御を実施中に空調用送風機を停止した場合であっても、特定席の快適性が損なわれることを抑制することができる車両用空調装置を実現することができる。
【0013】
また請求項2に記載の発明では、制御手段は、特定席状態において、停止指令が与えられた場合には、送風を停止するように空調用送風機を制御するとともに、特定席状態において開状態にある吹出口の数よりも、開状態にある吹出口の数を多くするように開閉手段を制御することを特徴とする。
【0014】
請求項2に記載の発明に従えば、制御手段は、特定席状態において、停止指令が与えられた場合には、送風を停止するように空調用送風機を制御するとともに、特定席状態において開状態にある吹出口の数よりも、開状態にある吹出口の数を多くするように開閉手段を制御する。したがって停止指令が与えられると、各吹出口の開閉状態が制御され、開状態の吹出口の数が多くなる。これによって、前述のように空気取入口から導入された外気が車室内へ流入した場合であっても、開状態の吹出口の数を多くすることによって、流入する空気を分散させることができる。したがって特定乗員に与える不快感を抑制することができる。
【0015】
また、前述のように空気取入口から取り入れた内気が吹出口から吹き出される場合に、空調用送風機を停止した場合であっても、開状態の吹出口の数を多くしているので、循環する空気の通路を増やすことができる。したがって湿度の上昇を抑制し、窓曇りの発生を抑制することができる。
【0016】
これによって特定席状態の制御を実施中に空調用送風機を停止した場合であっても、特定席の快適性が損なわれることを抑制することができる車両用空調装置を実現することができる。
【0017】
さらに請求項3に記載の発明では、特定席は、運転席であり、
他の座席は、助手席および後部座席であり、
制御手段は、特定席状態において、停止指令が与えられた場合には、送風を停止するように空調用送風機を制御するとともに、運転席および助手席を空調範囲とする吹出口を開状態とし、後部座席を空調範囲とする吹出口を閉状態とするように開閉手段を制御することを特徴とする。
【0018】
請求項3に記載の発明に従えば、制御手段は、運転席および助手席を空調範囲とする吹出口を開状態とし後部座席を空調範囲とする吹出口を閉状態とするように開閉手段を制御する。したがって開状態にする吹出口の数を、運転席だけを空調範囲にしているときの吹出口の数よりも多く、全席(運転席、助手席および後部座席)を空調範囲としているときの吹出口の数よりも少なくすることができる。このように開状態にする吹出口の数を制限することによって、開状態にするための動力の増加を抑制し、開状態にするまでの時間を短くして、前述した吹出口の数を多くする効果を達成することができる。また前席(運転席および助手席)を空調範囲としている前席状態は、運転席だけを空調範囲としている運転席状態と、全席を空調範囲としている状態の間の全席状態である。したがって前席状態から、運転席状態への移行および全席状態への移行を、運転席状態と全席状態との間の移行時間に比べて短時間に行うことができる。したがって空調用送風機を停止した場合に前席状態にすることによって、再び空調用送風機を起動した場合に、いずれの状態を選択しても、運転席状態または全席状態への移行を短時間に行うことができる。
【0019】
さらに請求項4に記載の発明では、制御手段は、特定席状態において、停止指令が与えられた場合には、送風を停止するように空調用送風機を制御するとともに、特定席状態において開状態にある吹出口の数よりも多く、全ての吹出口の数よりも少ない数の吹出口が開状態となるように開閉手段を制御することを特徴とする。
【0020】
請求項4に記載の発明に従えば、制御手段は、特定席状態において開状態にある吹出口の数よりも多く、全ての吹出口の数よりも少ない数の吹出口が開状態となるように開閉手段を制御する。開状態にされる吹出口の数は、全ての吹出口の数よりも少ない。全ての吹出口を開状態にすると、開状態にするための動力が多くなり開状態にするための時間が長くなる。そこで本発明では、開状態にする吹出口の数を制限することによって、開状態にするための動力の増加を抑制し、開状態にするまでの時間を短くして、前述した吹出口の数を多くする効果を達成することができる。
【0021】
なお、前述の各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示す一例である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】第1実施形態の車両用空調装置100の全体構成を示す模式図である。
【図2】車両用空調装置100が設けられる車両の車室内を示す斜視図である。
【図3】車両用空調装置100の電気的構成を示すブロック図である。
【図4】コントロールパネル90を示す正面図である。
【図5】通常モードにおける処理の一例を示したフローチャートである。
【図6】制御モードの遷移を示す状態遷移図である。
【図7】1席モードにおける車室内を簡略化して示す模式図である。
【図8】前席モードにおける車室内を簡略化して示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に関して、図1〜図13を用いて説明する。図1は、第1実施形態の車両用空調装置100の全体構成を示す模式図である。図2は、車両用空調装置100が設けられる車両の車室内を示す斜視図である。図3は、車両用空調装置100の電気的構成を示すブロック図である。本実施形態の車両用空調装置100は、ハイブリッド自動車に適用される。ハイブリッド自動車は、走行用エンジン60、エンジン始動装置(図示せず)、走行用電動モータ61、ハイブリットECU(図示せず)およびエンジンECU62を含んで構成される。
【0024】
走行用エンジン60は、ハイブリッド自動車の車軸に係脱自在に駆動連結されている。走行用電動モータ61は、ハイブリッド自動車の車軸に係脱自在に駆動連結されている。走行用電動モータ61は、走行用エンジン60と車軸とが連結していない時に、車軸と連結されるようになっている。したがって車軸には、走行用エンジン60および走行用電動モータ61のいずれか一方が連結され、他方が連結解除される。走行用電動モータ61は、ハイブリッドECUにより自動制御(たとえばインバータ制御)されるように構成されている。エンジン始動装置は、走行用エンジン60を始動させる。エンジンECU63は、ハイブリッド自動車の走行およびバッテリの充電が必要な時に、エンジン始動装置を通電制御して走行用エンジン60を稼働する。ハイブリットECUは、エンジンECU63と通信して、ガソリン(燃料)の燃焼効率が最適になるように、走行時に必要に応じて走行用エンジン60を停止して走行用電動モータ61を稼働させる。
【0025】
次に、車両用空調装置100に関して説明する。車両用空調装置100は、走行用に水冷エンジンを搭載する自動車などの車両において、車室内を空調する空調ユニット1をエアコンECU10によって制御するように構成された、いわゆるオートエアコンシステムである。
【0026】
空調ユニット1は、車室内の運転席側空調空間と助手席側空調空間との温度調節、および吹出口モードの変更などを、互いに独立して行うことが可能なエアコンユニットである。運転席側空調空間は、運転席と運転席後方の後部座席を含む空間である。また助手席側空調空間は、助手席と助手席後方の後部座席を含む空間である。
【0027】
空調ユニット1は、車両の車室内前方に配置され、内部を送風空気が通過する空調ケース2を備えている。空調ケース2は、一方側に空気取入口が形成され、他方側に車室内に向かう空気が通過する複数の吹出口が形成される。空調ケース2は、空気取入口と吹出口との間に送風空気が通過する通風路を有する。空調ケース2の上流側(一方側)には、送風機ユニット13が設けられる。送風機ユニット(空調用送風機)13は、内外気切替ドア3およびブロワ4を含む。内外気切替ドア3は、サーボモータ5などのアクチュエータによって駆動され、空気取入口である内気吸込口6と外気吸込口7との開度を変更する吸込口切替手段である。
【0028】
空調ユニット1は、具体的には図示しないが、完全センター置きといわれるタイプのものであり、車室内前方の計器盤下方部であって、車両左右方向の中央位置に搭載されている。送風機ユニット13は、空調ユニット1の車両前方側に配設される。送風機ユニット13の内気吸込口6は、運転席側の下方に開口しており、運転席側から車室内空気を吸い込む。
【0029】
ブロワ4は、ブロワ駆動回路8によって制御されるブロワモータ9により回転駆動されて、空調ケース2内において車室内に向かう空気流を発生させる遠心式送風機である。ブロワ4は、後述する運転席側および助手席側の各吹出口20〜23,30〜33から車室内の運転席側空調空間および助手席側空調空間に向けてそれぞれ吹き出される空調風の吹出風量を変更する機能も有する。
【0030】
空調ケース2には、送風機ユニット13から送風された空気を加熱または冷却して空調風とし、複数の吹出口に送る空調部としてエバポレータ41、およびヒータコア42が設けられる。エバポレータ41は、空調ケース2を通過する空気を冷却する冷却器として機能する。
【0031】
また、エバポレータ41の空気下流側には、第1空気通路11および第2空気通路12を通過する空気を、走行用エンジン60の冷却水と熱交換して加熱する、加熱器としてのヒータコア42が設けられている。走行用エンジン60の冷却水が循環する冷却水回路62は、ウォータポンプ(図示せず)によって、走行用エンジン60のウォータジャケットで暖められた冷却水を循環させる回路で、ラジエータ(図示せず)、サーモスタット(図示せず)およびヒータコア42を有している。ヒータコア42は、本発明の主加熱装置に相当するもので、内部に走行用エンジン60を冷却した冷却水が流れ、この冷却水を暖房用熱源として冷風を再加熱する。ヒータコア42は、第1空気通路11および第2空気通路12を部分的に塞ぐように空調ケース内においてエバポレータよりも下流側に配設されている。
【0032】
各空気通路11,12は、仕切板14により区画されている。ヒータコア42の空気上流側には、車室内の運転席側空調空間と助手席側空調空間との温度調節を、互いに独立して行うための運転席側エアミックスドア15および助手席側エアミックスドア16が設けられている。
【0033】
各エアミックスドア15,16は、サーボモータ17,18などのアクチュエータにより駆動されており、運転席側および助手席側の各吹出口20〜23,30〜33から車室内の各空調空間に向けて、それぞれ吹き出される空調風の吹出温度を変更する。換言すると、エアミックスドア15,16は、エバポレータ41を通過する空気とヒータコア42を通過する空気との風量比率を調整するエアミックス手段として機能する。
【0034】
エバポレータ41は、冷凍サイクル44の一構成部品を成すものである。冷凍サイクル44は、車両のエンジンルーム内に搭載された走行用エンジン60の出力軸によるベルト駆動されて、冷媒を圧縮して吐出するコンプレッサ45と、このコンプレッサ45より吐出された冷媒を凝縮液化させるコンデンサ46と、このコンデンサ46より流入した液冷媒を気液分離するレシーバ47と、このレシーバ47より流入した液冷媒を断熱膨張させる膨張弁48と、この膨張弁48より流入した気液二相状態の冷媒を蒸発気化させるエバポレータ41とを含む。
【0035】
冷凍サイクル44のうちコンプレッサ45は、走行用エンジン60からコンプレッサ45への回転動力の伝達を断続するクラッチ手段としての電磁クラッチ45aが連結されている。この電磁クラッチ45aは、クラッチ駆動回路45bにより制御される。
【0036】
電磁クラッチ45aが通電(ON)された時に、走行用エンジン60の回転動力がコンプレッサ45に伝達されて、エバポレータ41による空気冷却作用が行われ、電磁クラッチ45aの通電が停止(OFF)した時に、走行用エンジン60とコンプレッサ45とが遮断され、エバポレータ41による空気冷却作用が停止される。電磁クラッチ45aのオンオフは、エバ後温度センサ74が検出するエバ後温度(TE)と、目標エバ後温度(TEO)との比較結果に応じて制御される。
【0037】
またコンデンサ46は、ハイブリッド自動車が走行する際に生じる走行風を受け易い場所に配設され、内部を流れる冷媒と冷却ファン49により送風される外気および走行風とを熱交換する室外熱交換器である。
【0038】
空調ケース2の他方側、すなわち第1空気通路11の空気下流側には、図1に示すように、運転席側デフロスタ吹出口20、運転席側センタフェイス吹出口21、運転席側サイドフェイス吹出口22、および運転席側フット吹出口23が、各吹出ダクトを介して連通している。また、第2空気通路12の空気下流側には、図1に示すように、助手席側デフロスタ吹出口30、助手席側センタフェイス吹出口31、助手席側サイドフェイス吹出口32、および助手席側フット吹出口33が、各吹出ダクトを介して連通している。
【0039】
運転席側および助手席側デフロスタ吹出口20,30は、車両前方窓ガラスへ空調風を吹き出すための吹出口を構成する。運転席側および助手席側フェイス吹出口21,22,31,32は、運転者および助手席乗員の頭胸部へ空調風を吹き出すための吹出口を構成する。運転席側および助手席側フット吹出口23,33は、運転者および助手席乗員の足元へ空調風を吹き出すための吹出口を構成する。
【0040】
また図1では、図示は省略するが、図2に示すように、後部座席への吹出口として、後部座席側センタフェイス吹出口91、後部座席サイドフェイス吹出口92、後部座席側フット吹出口93が第1空気通路11および第2空気通路12の下流側にそれぞれ形成されている。
【0041】
第1および第2空気通路11,12内には、車室内の運転席側と助手席側との吹出モードの設定を、互いに独立して行う運転席側および助手席側吹出口切替ドアとして、運転席側デフロスタドア24および助手席側デフロスタドア34、運転席側フェイスドア25および助手席側フェイスドア35、運転席側フットドア26および助手席側フットドア36が設けられている。
【0042】
運転席側および助手席側吹出口切替ドア24〜26,34〜36は、サーボモータ28,29,38,39などのアクチュエータにより駆動され、運転席側および助手席側の吹出モードをそれぞれ切り替える。助手席側吹出口切替ドア34〜36は、複数の吹出口20〜23,30〜33のうち、車両の運転手の座席(運転席)を除く残余の座席を空調範囲とする吹出口30〜33から吹出す空調風の通過を許可する許可状態と通過を遮断する遮断状態とにわたって切替える開閉手段である。空調範囲とは、各吹出口20〜23,30〜33から吹き出される空調風が主に流通する範囲をいい、各吹出口20〜23,30〜33の吹出方向および吹出方向にある座席などの障害物によって決定される。運転席側および助手席側の吹出口モードとしては、たとえばフェイスモード、バイレベル(B/L)モード、フットモード、フット/デフロスタモードおよびデフロスタモードがある。
【0043】
次に、車両用空調装置100の電気的構成に関して説明する。エアコンECU10は、制御手段であって、走行用エンジン60の始動および停止を司るイグニッションスイッチが入れられた時に、車両に搭載された車載電源であるバッテリー(図示せず)から直流電源が供給され、演算処理や制御処理を開始するように構成されている。エアコンECU10には、エンジンECU62から出力される通信信号、車室内前面に設けられたコントロールパネル上の各スイッチからのスイッチ信号、および各センサからのセンサ信号が入力される。エンジンECU62は、EFI(Electronic Fuel Injection)ECUともいう。
【0044】
ここで、コントロールパネル90に関して説明する。図4は、コントロールパネル90を示す正面図である。コントロールパネル90は、インストルメントパネル50に一体的に設置される。コントロールパネル90には、たとえば液晶ディスプレイ81、内外気切替スイッチ82、フロントデフロスタスイッチ83、リヤデフロスタスイッチ84、デュアルスイッチ85、吹出モード切替スイッチ86、ブロワ風量切替スイッチ87、エアコンスイッチ88、オートスイッチ89、オフスイッチ51、運転席側温度設定スイッチ52、助手席側温度設定スイッチ53、および燃費向上スイッチ54および集中制御スイッチ55(運転席空調スイッチ、1席優先スイッチ、1席集中スイッチともいう)などが設置されている。
【0045】
液晶ディスプレイ81には、運転席側および助手席側空調空間の設定温度を視覚表示する設定温度表示部81a、吹出モードを視覚表示する吹出モード表示部81b、およびブロワ風量を視覚表示する風量表示部81cなどが設けられている。液晶ディスプレイ81には、たとえば外気温表示部、吸込モード表示部および時刻表示部などが設けられていても良い。また、コントロールパネル90上の各種の操作スイッチは、液晶ディスプレイ81に設けられていてもよい。
【0046】
コントロールパネル90を各種のスイッチに関して説明する。フロントデフロスタスイッチ83は、前面窓ガラスの防曇能力を上げるか否かを指令する空調スイッチに相当するもので、吹出モードをデフロスタモードに設定するように要求するデフロスタモード要求手段である。デュアルスイッチ85は、運転席側空調空間内の温度調節と助手席側空調空間内の温度調節とを、互いに独立して行う左右独立温度コントロールを指令する左右独立制御指令手段である。モード切替スイッチは、乗員のマニュアル操作に応じて、吹出モードを、フェイスモード、バイレベル(B/L)モード、フットモード、フット/デフロスタモードのいずれかに設定するように要求するモード要求手段である。エアコンスイッチ88は、冷凍サイクル44のコンプレッサ45の稼働、または停止を指令する空調操作スイッチである。エアコンスイッチ88は、コンプレッサ45を非稼働にして、走行用エンジン60の回転負荷を減らすことで燃費効率を高めるために設けられている。各温度設定スイッチ52,53は、運転席側空調空間内と助手席側空調空間内のそれぞれ温度を、所望の温度に設定(Tset)するための運転席側および助手席側温度設定手段である。燃費向上スイッチ54は、冷凍サイクル44のコンプレッサ45の稼働率を下げて、低燃費および省動力を考慮した経済的な空調制御を行うか否かを指令するエコノミースイッチである。集中制御スイッチ55は、乗員のマニュアル操作に応じて、空調モードを後述する集中制御モードに設定するように要求する入力手段である。
【0047】
コントロールパネル90は、インストルメントパネル50に一体的に設置されるが、後部座席用のコントロールパネル(図示せず)も設置される。後部座席用のコントロールパネルは、たとえば後部座席の上部に設置され、後部座席を空調範囲とする空調要求を入力する手段である。
【0048】
エアコンECU10の内部には、図示は省略するが、演算処理や制御処理を行うCPU(中央演算装置)、ROMやRAMなどのメモリ、およびI/Oポート(入力/出力回路)などの機能を含んで構成される周知のマイクロコンピュータが設けられている。各種センサからのセンサ信号がI/OポートまたはA/D変換回路によってA/D変換された後に、マイクロコンピュータに入力される。エアコンECU10には、運転席の周囲の空気温度(内気温)Trを検出する内気温度検出手段としての内気温センサ71、車室外温度(外気温)を検出する外気温検出手段としての外気温センサ72、および日射検出手段としての日射センサ(図示せず)が接続されている。またエアコンECU10には、エバポレータ41を通過した直後の空気温度(エバ後温度TE)を検出するエバ後温度検出手段としてのエバ後温度センサ74、車室内の相対湿度を検出する湿度検出手段としての湿度センサ73が接続されている。
【0049】
またエアコンECU10は、他のECUとの連携し、前述のエンジンECU62と乗員の着座状態を検出する着座ECU17と多重通信によって相互に情報を送受信する。エンジンECU62は、車両のエンジン冷却水温を検出して送風空気の加熱温度とする水温検出手段としての冷却水温センサ75が接続されている。エアコンECU10は、エンジンECU62を介して冷却水温を取得する。
【0050】
また着座ECU17は、助手席着座センサ77および助手席バックルセンサ78が接続されている。助手席着座センサ77は、助手席に乗員が着座するとシート座面に加えられる荷重により電気接点が接触する電気接点式の検出手段、またはシート座面に加えられる加重による歪み量を検出する検出手段(歪みゲージ)である。したがって助手席着座センサ77は、助手席の座面に加わる負荷を検出する負荷検出手段(重量検知センサ)としての機能を有する。助手席着座センサ77は、加わった負荷が設定値以上の場合には、設定値以上であることを示す信号を着座ECU17に出力する。
【0051】
助手席バックルセンサ78は、助手席のシートベルトが装着されているか否かを検出するセンサである。したがって助手席バックルセンサ78は、助手席のシートベルトの装着を検出するベルト検出手段として機能する。助手席バックルセンサ78は、シートベルトが装着されると、装着状態であることを示す信号を着座ECU17に出力する。
【0052】
着座ECU17には、助手席着座センサ77と助手席バックルセンサ78からの信号が個別に入力される。換言すると、助手席着座センサ77と助手席バックルセンサ78は、着座ECU17に並列に接続されている。着座ECU17は、助手席着座センサ77および助手席バックルセンサ78の少なくともいずれか一方のセンサが着座していることを検出すると、助手席に乗員がいると判断する。したがって、たとえば停車中または駐車中にシートベルトを外している場合であっても、助手席着座センサ77によって着座していることが検出される。エアコンECU10は、着座ECU17を介して着座状態に関する情報を取得する。
【0053】
内気温センサ71、外気温センサ72、エバ後温度センサ、および冷却水温センサ75は、たとえばサーミスタなどの感温素子が使用されている。内気温センサ71は、運転席付近(たとえばステアリング付近のインストルメントパネル50内部)の運転席以外の吹出口を閉じても、ほとんど影響しない部位に設定される。また、日射センサは、運転席側空調空間内に照射される日射量(日射強度)を検出する運転席側日射強度検出手段と、助手席側空調空間内に照射される日射量(日射強度)を検出する助手席側日射強度検出手段とを有しており、たとえばフォトダイオードなどが使用されている。湿度センサ73は、たとえば内気温センサ71とともに、運転席近傍のインストルメントパネル50の前面に形成された凹所内に収容されており、前面窓ガラスの防曇のためにデフロスタ吹き出しの要否の判定に利用される。
【0054】
次に、エアコンECU10による制御方法を、図5を用いて説明する。図5は、エアコンECU10の通常モードにおける処理の一例を示したフローチャートである。まず、イグニッションスイッチがオンされてエアコンECU10に直流電源が供給されると、予めメモリに記憶されている図5に示す制御プログラムが実行される。
【0055】
ステップS11では、エアコンECU10内部のマイクロコンピュータに内蔵されたデータ処理用メモリの記憶内容などを初期化し、ステップS12に移る。ステップS12では、各種データをデータ処理用メモリに読み込み、ステップS13に移る。したがってステップS12では、コントロールパネル90上の各種操作スイッチからのスイッチ信号、および各種センサからのセンサ信号が入力される。センサ信号としては、たとえば内気温センサ71が検知する車室内温度Tr、外気温センサ72が検知する外気温Tam、日射センサが検知する日射量Ts、エバ後温度センサが検知するエバ後温度Te、および冷却水温センサ75が検知する冷却水温Twである。
【0056】
ステップS13では、記憶している演算式に入力データを代入して、運転席側の目標吹出温度TAO(Dr)、および助手席側の目標吹出温度TAO(Pa)を演算し、その運転席側および助手席側の目標吹出温度TAO(Dr),TAO(Pa)と外気温Tamから、目標エバポレータ後温度TEOを演算し、ステップS14に移る。
【0057】
ステップS13にて用いられる演算式の一例を数式1に示す。
【0058】
TAO=Kset×Tset−Kr×Tr−Kam×Tam−Ks×Ts+C …(1)
ここで、Tsetは、各温度設定スイッチにて設定された設定温度、Trは内気温センサ71にて検出された内気温度、Tamは外気温センサ72にて検出された外気温度、Tsは日射センサにて検出された日射量である。また、Kset,Kr,KamおよびKsは各ゲインであり、Cは全体にかかる補正用の定数である。したがってエアコンECU10は、内気温センサ71によって検出された空気温度を用いて、目標吹出温度を決定する目標吹出温度決定手段としての機能を有する。
【0059】
ステップS14では、演算した運転席側および助手席側の目標吹出温度TAO(Dr),TAO(Pa)に基づいてブロワ風量、すなわちブロワモータ9に印加するブロワ制御電圧VAを演算し、ステップS15に移る。ブロワ制御電圧VAは、運転席側および助手席側の目標吹出温度TAO(Dr),TAO(Pa)にそれぞれ適合したブロワ制御電圧VA(Dr),VA(Pa)を、予め定めた特性パターンに基づいて求めるとともに、それらのブロワ制御電圧VA(Dr),VA(Pa)を平均化処理することにより得ている。
【0060】
ステップS15では、演算された運転席側および助手席側の目標吹出温度TAO(Dr),TAO(Pa)とステップS12における入力データとを、メモリに記憶されている演算式に代入して、運転席側エアミックスドア15のエアミックス開度SW(Dr)(%)、および助手席側エアミックスドア16のエアミックス開度SW(Pa)(%)を演算し、ステップS16に移る。したがってエアコンECU10は、目標吹出温度を用いて、エアミックス開度を決定する風量比率決定手段としての機能を有する。
【0061】
ステップS16では、ステップS13にて演算された運転席側および助手席側の目標吹出温度TAO(Dr),TAO(Pa)に基づき、車室内へ取り込む空気流の吸込モードと、車室内へ吹き出す空気流の吹出モードとを決定し、ステップS17に移る。
【0062】
ステップS17では、ステップS13で演算された運転席側および助手席側の目標吹出温度TAO(Dr),TAO(Pa)とエバ後温度センサ74が検知する実際のエバポレータ後温度Teとが一致するように、フィードバック制御(PI制御)にてコンプレッサ45のオンオフを制御し、ステップS18に移る。
【0063】
ステップS18では、ステップS14にて演算されたブロワ制御電流VAとなるように、ブロワ駆動回路8に制御信号を出力し、ステップS19に移る。ステップS19では、ステップS15で決定されたエアミックス開度SW(Dr),SW(Pa)となるように、サーボモータ17,18に制御信号を出力し、ステップS110に移る。
【0064】
ステップS110では、ステップS16で決定された吸込モードと吹出モードとなるように、サーボモータ28,29,38,39に制御信号を出力し、ステップS111に移る。ステップS111では、ステップS17で決定されたオンオフ制御をクラッチ駆動回路45bに出力し、ステップS12に戻り、ステップS12〜ステップS111までの処理を繰り返す。このような一連の処理を繰り返すことによって、乗員が設定した車室内温度にすることができる。
【0065】
((本発明の特徴部分))
次に、車両用空調装置100の制御モードに関して、図6〜図8を用いて説明する。図6は、制御モードの遷移を示す状態遷移図である。図7は、1席モードにおける車室内を簡略化して示す模式図である。図8は、前席モードにおける車室内を簡略化して示す模式図である。
【0066】
車両用空調装置100の制御モードは、通常モードと集中制御モードに分けることができる。通常モードは、集中制御スイッチ55が押されていない制御モードである。したがって通常モードは、集中制御スイッチ55が押されていない場合に、コントロールパネル90の各種スイッチの操作によって、たとえば吹出モードなどが適宜変更される。
【0067】
集中制御モードは、集中制御スイッチ55が押された状態の制御モードである。集中制御モードは、各座席(全席)のうちの少なくとも1つの特定席を集中して空調するための制御モードである。本実施形態では、特定席は運転席または前席(運転席および助手席)に設定されている。集中制御モードは、前席を空調する前席モード、運転席のみを空調する1席モード、全席(前席および後部座席)を空調する全席モードに分けることができる。
【0068】
図6に示すように、通常モードにおいて第1条件が成立すると、集中制御モードに遷移する。第1条件は、通常モードにおいて集中制御スイッチ55が操作された場合(集中制御スイッチ55がONされた場合)に成立する。換言すると、通常モードにおいて、集中制御スイッチ55が操作されると集中制御モードに遷移する。
【0069】
また集中制御モードにおいて第2条件が成立すると、通常モードに遷移する。第2条件は、集中制御モードにおいて、ONされた後の集中制御スイッチ55がさらに操作された場合(集中制御スイッチ55がOFFされた場合)、またはコントロールパネル90によって後部座席の空調要求が入力された場合に成立する。したがって集中制御モードにおいて、集中制御スイッチ55が操作されると通常モードに遷移する。また後部座席の空調要求が入力されると、後部座席も空調する必要があるので、通常モードに遷移する。
【0070】
次に、集中制御モードにおける3つのモードの遷移に関して説明する。通常モードから集中制御モードに遷移すると、先ず前席モードを実施する。前席モードは、前席空間を温度調節するモードであり、吸込吹出モードも「前席モード」に変更する。たとえば吸込モードは内気モードとして、内外気切替ドア3にて運転席側下方および助手席側下方にある内気吸込口6を開口させる。また乗員のいない後部座席空調空間に開口した吹出口を、対応する各ドアで全て閉じる。たとえば図2における後部座席側センタフェイス吹出口91(図2における矢印C)、後部座席サイドフェイス吹出口92(図2における矢印D)、後部座席側フット吹出口93(図2における矢印F)を閉じ、残余の吹出口は開く。また、たとえば図8に示すように、吸込吹出モードを「前席モード」として、破線の×印で示した吹出口を閉じ、残余の吹出口を開けて、空調範囲を前席に限定する。
【0071】
次に、1席モードに関して説明する。図6に示すように、前席モードにおいて第3条件が成立すると1席モードに遷移する。第3条件は、(1)助手席に乗員が居ない時であり、かつ(2)ブロワ4がONであり、かつ(3)湿度が低く曇らない時(たとえば湿度<100%)、または(3)夏(たとえば外気温>40℃)および冬(たとえば外気温<0℃)でない時に成立する。したがって助手席に乗員がいて、かつ集中制御モードであるときには、乗員が前席のみにいると判断し、前席のみを空調範囲とする前席モードが実施されることになる。
【0072】
1席モードは、乗員が運転者のみ場合に実施されるモードであり、運転席空間を温度調節するモードとして、吸込吹出モードを「1席モード」に変更する。たとえば吸込モードは内気モードとして、内外気切替ドア3にて運転席側下方にある内気吸込口6を開口させる。また乗員のいない助手席側空調空間に開口した吹出口30〜33を、対応する各ドア34〜36で全て閉じる(たとえば図2における仮想線で囲う吹出口を閉じ、実線で囲った吹出口は開く)。また、たとえば図7に示すように、吸込吹出モードを「1席モード」として、破線の×印で示した吹出口を閉じ、残余の吹出口を開けて、空調範囲を運転席に限定する。
【0073】
1席モードにおいて、第4条件が成立すると前席モードに遷移する。第4条件は、第3条件が不成立時に成立する。したがって、たとえば1席モードにおいて、助手席に乗員が着座した場合には、第4条件が成立して前席モードに遷移する。また1席モードにおいて、ブロワ4による送風を停止する停止指令を入力する操作、たとえばオフスイッチ51またはブロワ風量切替スイッチ87にて風量0にすると、第4条件が成立して前席モードに遷移する。
【0074】
次に、全席モードに関して説明する。図6に示すように、前席モードにおいて第5条件が成立すると全席モードに遷移する。第5条件は、(2)ブロワ4がONであり、かつ(1)曇る程高湿時(例:湿度>100%)、または(2)酷夏(例:外気温>45℃)、極寒(例外気温<−5℃)の時に成立する。したがって集中制御モードであっても、酷暑のときなど多大な空調能力が必要な場合には、早急に車室内を空調するため全席モードに遷移する。全席モードの具体的な制御内容は、車室内環境によって異なり、車室内環境に応じて最大暖房モード、最大冷房モード、または最大除湿モードが実施される。全席モードは、後部座席空調空間に開口した吹出口のうち少なくとも1つのドアを開ける。たとえば図2における後部座席側センタフェイス吹出口91(図2における矢印C)、後部座席サイドフェイス吹出口92(図2における矢印D)、後部座席側フット吹出口93(図2における矢印F)を開ける。
【0075】
全席モードにおいて、第6条件が成立すると前席モードに遷移する。第6条件は、第5条件が不成立時に成立する。したがって、たとえば前席モードにおいて、最大除湿モードで湿度が低下した場合には、第6条件が成立して前席モードに遷移する。また全席モードにおいて、ブロワ4による送風を停止する停止指令を入力する操作、たとえばオフスイッチ51またはブロワ風量切替スイッチ87にて風量0にすると、第6条件が成立して前席モードに遷移する。
【0076】
エアコンECU10は、イグニッションOFFすると、イグニッションOFF時に集中制御モードであるか通常モードであるかをメモリに記憶し、イグニッションONしたときに、メモリに記憶されている最新の制御モードを読み出し、読み出した制御モードとなるように制御する。たとえば、集中制御モードのときにイグニッションOFFにすると、次に、イグニッションONした場合には、集中制御モードとなる。これによってイグニッションOFF時の制御モードから開始することができる。
【0077】
((効果))
以上説明したように本実施形態のエアコンECU10は、集中制御スイッチ55が操作されて、特定席である運転席を空調する特定席空調指令が与えられた場合には集中制御モード(特定席状態の制御)として、助手席側ドア34〜36などを遮断状態に制御する。遮断状態にすることによって、運転席または前席に対してだけ空調風を送風することができる。したがって通常モードよりも空調範囲が狭くなるので、空調能力を低減することができる。
【0078】
エアコンECU10は、集中制御モードにおいて、ブロワ4の停止指令が与えられた場合には、送風を停止するようにブロワ4を制御する。さらにエアコンECU10は、他の座席に対応して開口する複数の吹出口のうち少なくとも1つの吹出口を開状態にして、ブロワ4が停止後に開状態にある吹出口の合計の開口面積を、集中制御モードにおいて開状態にある吹出口の合計の開口面積以上となるように制御する。したがって停止指令が与えられると、各吹出口の開閉状態が制御され、開状態にある吹出口の開口面積が同等以上となる。これによって、たとえば車速の上昇などに起因して、外気吸込口7から導入される外気の圧力が高くなり、外気吸込口7から導入された外気が車室内へ流入した場合であっても、他の座席、たとえば後部座席の吹出口を開状態にして、開口面積をブロワ4が停止する前と同等以上にすることによって、流入する空気を後部座席と特定席とに分散させることができる。したがって運転者に与える不快感を抑制することができる。
【0079】
また、たとえば内気を循環するために、内気吸込口6から取り入れた内気が吹出口から吹き出される場合に、ブロワ4を停止した場合であっても、開口面積を同等以上にし、循環する空気の通路を分散している。したがって湿度の上昇を抑制し、窓曇りの発生を抑制することができる。これによって集中制御モードの制御を実施中にブロワ4を停止した場合であっても、運転席の快適性が損なわれることを抑制することができる。
【0080】
また本実施形態では、エアコンECU10は、集中制御モードにおいて、ブロワ4の停止指令が与えられた場合には、送風を停止するようにブロワ4を制御するとともに、1席モードにおいて開状態にある吹出口の数よりも、開状態にある吹出口の数を多くするように各ドアを制御する。具体的には、1席モードから前席モードに遷移するように制御する(第4条件が成立)。したがって停止指令が与えられると、各吹出口の開閉状態が制御され、開状態の吹出口の数が多くなる。これによって、たとえば車速の上昇などに起因して、外気吸込口7から導入される外気の圧力が高くなり、外気吸込口7から導入された外気が車室内へ流入した場合であっても、開状態の吹出口の数を多くすることによって、流入する空気をさらに分散させることができる。したがって運転者に与える不快感を抑制することができる。
【0081】
また、たとえば内気を循環するために、内気吸込口6から取り入れた内気が吹出口から吹き出される場合に、ブロワ4を停止した場合であっても、開状態の吹出口の数を多くしているので、循環する空気の通路を増やすことができる。したがって湿度の上昇を抑制し、窓曇りの発生をさらに抑制することができる。これによって集中制御モードの制御を実施中にブロワ4を停止した場合であっても、運転席の快適性が損なわれることを抑制することができる。
【0082】
また本実施形態では、エアコンECU10は、1席モードにおいて開状態にある吹出口の数よりも多く、全ての吹出口の数よりも少ない数の吹出口が開状態にあるように各ドアを制御する。開状態にある吹出口の数は、全ての吹出口の数よりも少ない。全ての吹出口に対して開状態にすると、開状態にするための動力が多くなり開状態にするための時間が長くなる。そこで本実施形態では、開状態にする吹出口の数を制限することによって、開状態にするための動力の増加を抑制し、開状態にするまでの時間を短くして、前述した吹出口の数を多くする効果を達成することができる。
【0083】
さらに本実施形態では、エアコンECU10は、1席モードにおいてブロワ4がOFFされると、運転席および助手席を空調範囲とする吹出口を開状態にし、後部座席を空調範囲とする吹出口を閉状態にするように各ドアを制御する(前席モードになるように制御する)。換言すると、前席または運転席を快適にする空調を実施する集中制御モードにあって、システムOFF以外(=ブロワOFF以外)⇒マニュアルシステムOFF(=ブロワOFF)時に前席モード以外の場合(1席モードまたは全席モードの場合)、前席モードへ遷移し待機する。したがって開状態にする吹出口の数を、運転席だけを空調範囲にしている1席モードのときの吹出口の数よりも多く、全席(運転席、助手席および後部座席)を空調範囲としている全席モードのときの吹出口の数よりも少なくすることができる。このように開状態にする吹出口の数を制限することによって、開状態にするための動力の増加を抑制し、開状態にするまでの時間を短くして、前述した吹出口の数を多くする効果を達成することができる。また前席モードは、1席モードと全席モードとの間の状態である。したがって前席モードから、1席モードへの移行および全席モードへの移行を、1席モードと全席状態との間の移行時間に比べて短時間に行うことができる。したがってブロワ4を停止した場合に前席モードにすることによって、再びブロワ4を起動した場合に、1席モードまたは全席モードのいずれの状態へ移行しても、短時間で移行することができる。
【0084】
本実施形態の作用および効果を換言すると、システムOFF(=ブロワOFF)した場合に1席モードから前席モードへ遷移すると、開状態の吹出口が増えることによって、外気モードのときのラム圧の影響を軽減することができる。またシステムOFF(=ブロワOFF)した場合に1席モードから前席モードへ遷移すると、開状態の吹出口が増えることによって、内気モードのときの防曇およびバッテリの発熱による後部座席の温度上昇(のもやつき)が軽減できる。またブロワOFFからブロワONで復帰する際、前席モードであるので、全席モード、1席モードのどちらにも最短時間で遷移できる。
【0085】
1席モード時にマニュアルでシステムOFF(=ブロワOFF)した場合、車室内温湿環境が、高湿度になり易く、また高温でバッテリ冷却を要求された場合でも少しでも状況を改善する為、前席モードへ遷移する。またシステムOFFからシステムONした際に中間の前席モードで待機し、全席モード、1席モードのどちらへも即時遷移可能とする。外気モードで1席モード中はブロワモータOFFによって、高車速時にラム圧の影響で風量が出過ぎる事を防ぐことができる。ブロワ4がOFFで内外気切替ドア3が内気時は、吹出口から全く風出なく、車室内が高湿度になり曇ってしまうので、吹出口を1席モードから前席モードへ切り替えることによって、曇りを軽減することができる。
【0086】
(その他の実施形態)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。
【0087】
前述の第1実施形態では、集中制御モード中にブロワ4が停止した場合には、前席モードに遷移するように制御されるが、前席モードへの遷移に限るものではなく、集中制御モード中に開状態にある吹出口を閉状態にし、後部座席の吹出口を開状態にして、開口面積を停止後の合計の開口面積が停止前の合計の開口面積以上であればよい。このような制御であっても、吹出口を運転席と後部座席と分散することができ、分散による効果を得ることができる。したがって、たとえば集中制御モードで運転席側センタフェイス吹出口21が開状態であり、運転席側フット吹出口23が閉状態にある場合に、停止指令が与えられると、運転席側センタフェイス吹出口21を閉状態にし、運転席側フット吹出口23を開状態にして、後部座席の閉状態にある吹出口を開状態にしてもよい。また、たとえば集中制御モードで運転席側センタフェイス吹出口21が開状態であり、運転席側フット吹出口23が開状態にある場合に、停止指令が与えられると、運転席側センタフェイス吹出口21を閉状態にし、運転席側フット吹出口23を閉状態にして、後部座席の閉状態にある複数の吹出口を開状態にして、開口面積を少なくならないように制御してもよい。運転席に対向する吹出口を全て閉状態にすることによって、ラム圧に起因する送風が運転者に送風されることを確実に防ぐことができる。
【0088】
また前述の第1実施形態では、集中制御モード中にブロワ4が停止した場合には、前席モードに遷移するように制御されるが、前席モードへの遷移に限るものではなく、開状態の吹出口の数が多くなるように制御すればよい。たとえば、1席モードから全席モードへ移行してもよいし、1席モードから運転席および後部座席を空調範囲とする吹出口を開状態とするように制御してもよい。
【0089】
また前述の第1実施形態では、1席モードでは、運転席を空調範囲とする全ての吹出口を開状態にする必要はなく、空調範囲とする少なくとも1つの吹出口が開状態であればよい。開状態にする吹出口は、吹出モードによって適宜設定される。
【0090】
また前述の第1実施形態では、集中制御スイッチ55が押された場合には、後部座席に乗員がいないと判断しているが、後部座席に乗員検出手段を設け、後部座席の着座状態を検出してもよい。換言すると、第1実施形態では、乗員検出手段は助手席のみに設けられ、他の座席には設けられていないが、このような構成に限るものではなく、全ての座席に乗員検出手段を設けてもよい。また前述の第1実施形態では、乗員検出手段は、シートに配された着座センサおよびバックルセンサを用いているが、インストルメントパネルなどに配置したIR(非接触赤外線温度)センサにより、各席の乗員の存否を検知するようにしてもよい。また、各席のドアの開閉信号を用いて、各席の乗員の存否を推定するようにしても良いし、これらの手段を組み合わせて各席の乗員の存否を判断するものであってもよい。
【0091】
また前述の第1実施形態では、アクチュエータはサーボモータによって実現されているが、サーボモータに限ることはなく、残余のアクチュエータ、たとえばバイメタルおよび形状記憶合金を用いてもよい。
【0092】
また前述の第1実施形態では、車室内の運転席側の空間と助手席側の空間とを独立に空調できる車両用空調装置100であるが、このような構成に限るものではなく、独立に空調しない車両用空調装置であってもよい。
【符号の説明】
【0093】
1…空調ユニット
2…空調ケース
6…内気吸込口(空気取入口)
7…外気吸込口(空気取入口)
10…エアコンECU(制御手段)
13…送風機ユニット(空調用送風機)
20…運転席側デフロスタ吹出口(吹出口)
21…運転席側センタフェイス吹出口(吹出口)
22…運転席側サイドフェイス吹出口(吹出口)
23…運転席側フット吹出口(吹出口)
24…運転席側デフロスタドア(開閉手段)
25…運転席側フェイスドア(開閉手段)
26…運転席側フットドア(開閉手段)
30…助手席側デフロスタ吹出口(吹出口)
31…助手席側センタフェイス吹出口(吹出口)
32…助手席側サイドフェイス吹出口(吹出口)
33…助手席側フット吹出口(吹出口)
34…助手席側デフロスタドア(開閉手段)
35…助手席側フェイスドア(開閉手段)
36…助手席側フットドア(開閉手段)
41…エバポレータ(空調部)
42…ヒータコア(空調部)
91…後部座席側センタフェイス吹出口(吹出口)
92…後部座席サイドフェイス吹出口(吹出口)
93…後部座席側フット吹出口(吹出口)
100…車両用空調装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方側に空気取入口(6,7)が形成され、他方側に車室内に向かう空気が通過する複数の吹出口が形成される空調ケース(2)であって、前記複数の吹出口(20〜23,30〜33,91〜93)は少なくとも運転席を含む特定席とその他の座席とを含む複数の座席に対応して開口し、前記空気取入口と前記吹出口との間に送風空気が通過する通風路を有する空調ケース(2)と、
前記空調ケースの前記通風路に対して空気を送風する空調用送風機(13)と、
前記空調用送風機から送風された空気を加熱または冷却して空調風とし、前記複数の吹出口に送る空調部(41,42)と、
前記複数の吹出口の開閉状態を切替える開閉手段であって、前記複数の吹出口のうち、前記特定席を除く他の座席を空調範囲とする吹出口から吹出す空調風の通過を許可する許可状態と、前記通過を遮断し、前記特定席を空調範囲とする吹出口から吹出す空調風の通過を許可する遮断状態とにわたって切替える開閉手段(34〜36)と、
前記空調用送風機、前記空調部および前記開閉手段を制御して、前記車室内の空調を行う制御手段(10)と、を含み、
前記制御手段は、
前記特定席を空調する特定席空調指令が与えられた場合には特定席状態の制御として、前記開閉手段を前記遮断状態に制御し、
前記特定席状態において、前記空調用送風機の停止を要求する停止指令が与えられた場合には、送風を停止するように前記空調用送風機を制御するとともに、前記他の座席を空調範囲とする複数の吹出口のうち少なくとも1つの吹出口を開状態にして、前記空調用送風機が停止後に開状態にある吹出口の合計の開口面積を、前記特定席状態において開状態にある吹出口の合計の開口面積以上となるように前記開閉手段を制御することを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記特定席状態において、前記停止指令が与えられた場合には、送風を停止するように前記空調用送風機を制御するとともに、前記特定席状態において開状態にある吹出口の数よりも、開状態にある吹出口の数を多くするように前記開閉手段を制御することを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
前記特定席は、前記運転席であり、
前記他の座席は、助手席および後部座席であり、
前記制御手段は、前記特定席状態において、前記停止指令が与えられた場合には、送風を停止するように前記空調用送風機を制御するとともに、前記運転席および前記助手席を空調範囲とする吹出口を開状態とし、前記後部座席を空調範囲とする吹出口を閉状態とするように前記開閉手段を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の車両用空調装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記特定席状態において、前記停止指令が与えられた場合には、送風を停止するように前記空調用送風機を制御するとともに、前記特定席状態において前記開状態にある吹出口の数よりも多く、全ての吹出口の数よりも少ない数の吹出口が開状態となるように前記開閉手段を制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つに記載の車両用空調装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−224199(P2012−224199A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93282(P2011−93282)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】