車両用空調装置

【課題】車室内の空調性能を充分に確保しつつ、車両用空調装置における騒音低減を図る。
【解決手段】電力が供給されることによって冷媒を圧縮して吐出する圧縮機11を含んで構成される蒸気圧縮式の冷凍サイクル10と、圧縮機11の回転数の上限値を設定する回転数制限設定手段S114、S115と、上限値以下の範囲で圧縮機11の回転数を制御する圧縮機制御手段(回転数制御手段)50aと、を備え、回転数制限設定手段S114、S115は、車両の速度を検出する車速センサ71の検出値の増加に応じて上限値を段階的に上昇させる。
【解決手段】電力が供給されることによって冷媒を圧縮して吐出する圧縮機11を含んで構成される蒸気圧縮式の冷凍サイクル10と、圧縮機11の回転数の上限値を設定する回転数制限設定手段S114、S115と、上限値以下の範囲で圧縮機11の回転数を制御する圧縮機制御手段(回転数制御手段)50aと、を備え、回転数制限設定手段S114、S115は、車両の速度を検出する車速センサ71の検出値の増加に応じて上限値を段階的に上昇させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用空調装置では、車両に搭載されたバッテリ(蓄電手段)から電力供給されて駆動する電動圧縮機を備えるものがある。電動圧縮機は、その作動時に発する音(作動音)が大きく、特に、車両の停車時において、電動圧縮機の回転数が高回転となると作動音も増大するので、車室内空間の快適性を害するといった問題がある。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1では、車両の停車中における電動圧縮機の回転数を、電動圧縮機の運転可能範囲の80%以下に制限することで、車両の停車中における騒音の低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−237356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1では、停車中において、圧縮機の回転数に制限を加える構成としているが、例えば、車両の低速走行時等のように、走行時のロードノイズや風切り音が小さい条件において、圧縮機の回転数が高回転となると、その作動音によって、車室内空間の快適性が害される虞がある。
【0006】
これに対して、車両の停車中に限らず、圧縮機の回転数に一律に制限を加えると、車両用空調装置の空調性能が制限されるので、車室内の空調性能を充分に確保することができなくなってしまう。
【0007】
本発明は上記点に鑑みて、車室内の空調性能を充分に確保しつつ、ユーザにとって耳障りな車両用空調装置の騒音の低減を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、電力が供給されることによって冷媒を圧縮して吐出する圧縮機(11)を含んで構成される蒸気圧縮式の冷凍サイクル(10)と、圧縮機(11)の回転数の上限値を設定する回転数制限設定手段(S114、S115)と、上限値以下の範囲で圧縮機(11)の回転数を制御する回転数制御手段(50a)と、を備え、回転数制限設定手段(S114、S115)は、車両の速度を検出する車速検出手段(71)の検出値の増加に応じて上限値を段階的に上昇させることを特徴とする。
【0009】
これによると、車両の速度の増加に応じて、圧縮機(11)の回転数の上限値を上昇させるので、車両が停車、又は低速で走行している条件(圧縮機(11)の作動音がユーザにとって耳障りとなり易い条件)では、車両用空調装置の騒音を低減することができる。一方、車両が高速で走行し、ロードノイズが大きくなる条件(圧縮機(11)の作動音がユーザにとって耳障りとなり難い条件)では、圧縮機(11)の回転数を上昇させることができる。
【0010】
さらに、圧縮機(11)の回転数の上限値を段階的に上昇させることによって、一時的な車両の速度の変動によって、圧縮機(11)の回転数の上限値が変動してしまうことを抑制することができる。
【0011】
従って、車室内の空調性能を充分に確保しつつ、ユーザにとって耳障りな車両用空調装置の騒音の低減を図ることができる。
【0012】
また、請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、回転数制限設定手段(S114、S115)は、車両の速度が上昇する速度上昇過程において、予め設定された第1閾値を上回った際に上限値を高くし、車両の速度が低下する速度低下過程において、予め第1閾値よりも高い値に設定された第2閾値を下回った際に上限値を低くすることを特徴とする。
【0013】
このように、圧縮機(11)の回転数の上限値を上昇させる際の閾値を、上限値を低下させる際の閾値よりも低い値とすることで、車速のブレ(ハンチング)によって、圧縮機(11)の上限値が頻繁に変更されることを抑制することができる。
【0014】
また、請求項3に記載の発明では、電力が供給されることによって冷媒を圧縮して吐出する圧縮機(11)を含んで構成される蒸気圧縮式の冷凍サイクル(11)と、圧縮機(11)の回転数の上限値を設定する回転数制限設定手段(S121、S122)と、上限値以下の範囲で圧縮機(11)の回転数を制御する回転数制御手段(50a)と、を備え、回転数制限設定手段(S121、S122)は、車速検出手段(71)の検出値の変化を鈍化させた補正速度を算出する遅れ処理を行うと共に、遅れ処理にて算出した補正速度の増加に応じて上限値を上昇させることを特徴とする。
【0015】
これによると、車両の速度の増加に応じて、圧縮機(11)の回転数の上限値を上昇させるので、車両が停車、又は低速で走行している条件では、圧縮機(11)の作動音を低減することができると共に、車両が高速で走行し、ロードノイズが大きくなる条件では、圧縮機(11)の回転数を上昇させることができる。
【0016】
さらに、車速検出手段(71)の検出値の変化を鈍化させた補正速度の増加に応じて、圧縮機(11)の回転数の上限値を上昇させるので、一時的な車両の速度の変動によって、圧縮機(11)の回転数の上限値が変動してしまうことを抑制することができる。
【0017】
従って、車室内の空調性能を充分に確保しつつ、ユーザにとって耳障りな車両用空調装置の騒音の低減を図ることができる。
【0018】
ここで、従来技術(特許文献1)の如く、車両の停車中において、車両における空調熱負荷によらず、圧縮機の回転数に一律な制限を加えると、ユーザの空調フィーリングが著しく悪化してしまう虞がある。
【0019】
そこで、請求項4に記載の発明では、電力が供給されることによって冷媒を圧縮して吐出する圧縮機(11)を含んで構成される蒸気圧縮式の冷凍サイクル(10)と、圧縮機(11)の回転数の上限値を設定する回転数制限設定手段(S125、S126)と、上限値以下の範囲で圧縮機(11)の回転数を制御する回転数制御手段(50a)と、を備え、回転数制限設定手段(S125、S126)は、車両の停車中において、車両における空調熱負荷を検出する空調熱負荷検出手段(51〜53)の検出値の変化を鈍化させた補正空調熱負荷を算出する遅れ処理を行うと共に、遅れ処理にて算出した補正空調熱負荷の変動に応じて上限値を変化させることを特徴とする。
【0020】
これによると、車両の停車中には、車両における空調熱負荷の変動に応じて電動導圧縮機(11)の上限値を変化させるので、車両の停車中におけるユーザの空調フィーリングの悪化を抑制することができる。
【0021】
さらに、空調熱負荷検出手段()の検出値の変化を鈍化させた補正空調熱負荷の変動に応じて、圧縮機(11)の回転数の上限値を変化させるので、一時的な車両の空調熱負荷の変動によって、圧縮機(11)の回転数の上限値が変動してしまうことを抑制することができる。
【0022】
従って、車室内の空調性能を充分に確保しつつ、ユーザにとって耳障りな車両用空調装置の騒音の低減を図ることができる。
【0023】
具体的には、請求項5に記載の発明のように、請求項4に記載の車両用空調装置において、空調熱負荷として、車室内への日射量、車室内温度、車室外温度のうち少なくとも1つを採用することができる。
【0024】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施形態の車両用空調装置の冷房モード時の冷媒回路を示す全体構成図である。
【図2】第1実施形態の車両用空調装置の暖房モード時の冷媒回路を示す全体構成図である。
【図3】第1実施形態の車両用空調装置の第1除湿モード時の冷媒回路を示す全体構成図である。
【図4】第1実施形態の車両用空調装置の第2除湿モード時の冷媒回路を示す全体構成図である。
【図5】第1実施形態の車両用空調装置の電気制御部を示すブロック図である。
【図6】第1実施形態のPTCヒータの回路図である。
【図7】第1実施形態の車両用空調装置の制御処理を示すフローチャートである。
【図8】第1実施形態の車両用空調装置の制御処理の要部を示すフローチャートである。
【図9】第1実施形態の車両用空調装置の制御処理の別の要部を示すフローチャートである。
【図10】第1実施形態の各運転モードにおける各電磁弁の作動状態を示す図表である。
【図11】第2実施形態の車両用空調装置の制御処理の要部を示すフローチャートである。
【図12】第3実施形態の車両用空調装置の制御処理の要部を示すフローチャートである。
【図13】第3実施形態の空調熱負荷の遅れ処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0027】
(第1実施形態)
図1〜図10により、本発明の第1実施形態を説明する。本実施形態では、本発明の車両用空調装置1を、内燃機関(エンジン)EGおよび走行用電動モータから車両走行用の駆動力を得るハイブリッド車両に適用している。本実施形態のハイブリッド車両は、車両停車時に外部電源(商用電源)から供給された電力をバッテリ81に充電することのできる、いわゆるプラグインハイブリッド車両として構成されている。
【0028】
さらに、本実施形態のプラグインハイブリッド車両は、車両走行開始前の車両停車時にバッテリ81に充電しておくことによって、走行開始時のようにバッテリ81の蓄電残量が予め定めた所定残量以上になっているときには、主にバッテリ81から供給される電力によって作動する走行用電動モータの駆動力によって走行する(以下、この運転モードをEV運転モードという)。
【0029】
一方、車両走行中にバッテリ81の蓄電残量が予め定めた所定残量よりも低くなったときには、主にエンジンEGの駆動力によって走行する(以下、この運転モードをHV運転モードという)。このように、EV運転モードとHV運転モードとを切り換えることによって、車両走行用の駆動力をエンジンEGのみから得る通常の車両に対してエンジンEGの燃料消費量を抑制して、車両燃費を向上させている。
【0030】
なお、EV運転モードは、主に走行用電動モータが出力する駆動力によって車両を走行させる運転モードであるが、車両走行負荷が高負荷となった際にはエンジンEGを作動させて走行量電動モータを補助する。同様に、HV運転モードは、主にエンジンEGが出力する駆動力によって車両を走行させる運転モードであるが、車両走行負荷が高負荷となった際には走行用電動モータを作動させてエンジンEGを補助する。このようなエンジンEGおよび走行用電動モータの作動は、図示しないエンジン制御装置によって制御される。
【0031】
また、エンジンEGから出力される駆動力は、車両走行用として用いられるのみならず、発電機80を作動させるためにも用いられる。そして、発電機80にて発電された電力および外部電源から供給された電力は、バッテリ81に蓄えることができ、バッテリ81に蓄えられた電力は、走行用電動モータのみならず、車両用空調装置1を構成する各構成機器(空調手段)をはじめとする各種車載機器に供給できる。
【0032】
次に、本実施形態の車両用空調装置1の詳細構成を説明する。この車両用空調装置1は、車両走行時に車室内の空調を行う通常空調の他に、外部電源からバッテリ81への充電中に、ユーザ(乗員)が車両に乗り込む前に車室内の空調を行うプレ空調を実行可能に構成されている。なお、本実施形態のプレ空調は、外部電源からバッテリ81への充電中でなくとも実行可能となっている。
【0033】
車両用空調装置1は、通常空調、およびプレ空調において、車室内を冷房する冷房モード(COOLサイクル)、車室内を暖房する暖房モード(HOTサイクル)、車室内を除湿する第1除湿モード(DRY_EVAサイクル)および第2除湿モード(DRY_ALLサイクル)の冷媒回路を切替可能に構成された蒸気圧縮式の冷凍サイクル10を備えている。
【0034】
図1〜図4は、それぞれ、冷房モード、暖房モード、第1、第2除湿モード時の冷媒の流れを実線矢印で示している。なお、第1除湿モードは、暖房能力に対して除湿能力を優先する除湿モードであり、第2除湿モードは、除湿能力に対して暖房能力を優先する除湿モードである。従って、第1除湿モードを低温除湿モードあるいは単なる除湿モード、第2除湿モードを高温除湿モードあるいは除湿暖房モードと表現することもできる。
【0035】
冷凍サイクル10は、圧縮機11、室内熱交換器としての室内凝縮器12および室内蒸発器26、冷媒を減圧膨張させる減圧手段としての温度式膨張弁27および固定絞り14、並びに、冷媒回路切替手段としての複数(本実施形態では5つ)の電磁弁13、17、20、21、24等を備えている。
【0036】
また、この冷凍サイクル10では、冷媒として通常のフロン系冷媒を採用しており、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超えない亜臨界冷凍サイクルを構成している。さらに、この冷媒には圧縮機11を潤滑するための冷凍機油が混入されており、この冷凍機油の一部は冷媒とともにサイクルを循環している。
【0037】
圧縮機11は、エンジンルーム内に配置され、冷凍サイクル10において冷媒を吸入し、圧縮して吐出するもので、吐出容量が固定された固定容量型圧縮機構11aを電動モータ11bにて駆動する電動圧縮機として構成されている。固定容量型圧縮機構11aとしては、具体的に、スクロール型圧縮機構、ベーン型圧縮機構等の各種圧縮機構を採用できる。
【0038】
電動モータ11bは、インバータ61から出力される交流電圧によって、その作動(回転数)が制御される交流モータである。また、インバータ61は、後述する空調制御装置50から出力される制御信号に応じた周波数の交流電圧を出力する。そして、この回転数制御によって、圧縮機11の冷媒吐出能力が変更される。従って、電動モータ11bは、圧縮機11の吐出能力変更手段を構成している。
【0039】
圧縮機11の吐出側には、室内凝縮器12の冷媒入口側が接続されている。室内凝縮器12は、車両用空調装置の室内空調ユニット30において車室内へ送風される送風空気の空気通路を形成するケーシング31内に配置されて、その内部を流通する冷媒と後述する室内蒸発器26通過後の送風空気とを熱交換させることで送風空気を加熱する加熱用熱交換器である。なお、室内空調ユニット30の詳細については後述する。
【0040】
室内凝縮器12の冷媒出口側には、電気式三方弁13が接続されている。この電気式三方弁13は、空調制御装置50から出力される制御電圧によって、その作動が制御される冷媒回路切替手段である。
【0041】
より具体的には、電気式三方弁13は、電力が供給される通電状態では、室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続する冷媒回路に切り替え、電力の供給が停止される非通電状態では、室内凝縮器12の冷媒出口側と第1三方継手15の1つの冷媒流入出口との間を接続する冷媒回路に切り替える。
【0042】
固定絞り14は、暖房モード、第1および第2除湿モード時に、電気式三方弁13から流出した冷媒を減圧膨張させる暖房除湿用の減圧手段である。この固定絞り14としては、キャピラリチューブ、オリフィス等を採用できる。もちろん、暖房除湿用の減圧手段として、空調制御装置50から出力される制御信号によって絞り通路面積が調整される電気式の可変絞り機構を採用してもよい。固定絞り14の冷媒出口側には、後述する第3三方継手23の冷媒流入出口が接続されている。
【0043】
第1三方継手15は、3つの冷媒流入出口を有し、冷媒流路を分岐する分岐部として機能するものである。このような三方継手は、冷媒配管を接合して構成してもよいし、金属ブロックや樹脂ブロックに複数の冷媒通路を設けて構成してもよい。また、第1三方継手15の別の冷媒流入出口には、室外熱交換器16の一方の冷媒流入出口が接続され、さらに別の冷媒流入出口には、低圧電磁弁17の冷媒入口側が接続されている。
【0044】
低圧電磁弁17は、冷媒流路を開閉する弁体部と、弁体部を駆動するソレノイド(コイル)を有し、空調制御装置50から出力される制御電圧によって、その作動が制御される冷媒回路切替手段である。より具体的には、低圧電磁弁17は、通電状態で開弁して非通電状態で閉弁する、いわゆるノーマルクローズ型の開閉弁として構成されている。
【0045】
低圧電磁弁17の冷媒出口側には、第1逆止弁18を介して、後述する第5三方継手28の1つの冷媒流入出口が接続されている。この第1逆止弁18は、低圧電磁弁17側から第5三方継手28側へ冷媒が流れることのみを許容している。
【0046】
室外熱交換器16は、エンジンルーム内に配置されて、内部を流通する冷媒と送風ファン16aから送風された車室外空気(外気)とを熱交換させるものである。送風ファン16aは、空調制御装置50から出力される制御電圧によって回転数(送風空気量)が制御される電動式送風機である。
【0047】
さらに、本実施形態の送風ファン16aは、室外熱交換器16のみならず、エンジンEGの冷却水を放熱させるラジエータ(図示せず)にも室外空気を送風している。具体的には、送風ファン16aから送風された車室外空気は、室外熱交換器16→ラジエータの順に流れる。
【0048】
また、図1〜図4の破線で示す冷却水回路には、冷却水を循環させるための冷却水ポンプが配置されている。この冷却水ポンプ40aは、空調制御装置50から出力される制御電圧によって回転数(冷却水循環量)が制御される電動式の水ポンプである。
【0049】
室外熱交換器16の他方の冷媒流入出口には、第2三方継手19の1つの冷媒流入出口が接続されている。この第2三方継手19の基本的構成は、第1三方継手15と同様である。また、第2三方継手19の別の冷媒流入出口には、高圧電磁弁20の冷媒入口側が接続され、さらに別の冷媒流入出口には、熱交換器遮断電磁弁21の一方の冷媒流入出口が接続されている。
【0050】
高圧電磁弁20および熱交換器遮断電磁弁21は、空調制御装置50から出力される制御電圧によって、その作動が制御される冷媒回路切替手段であり、その基本的構成は、低圧電磁弁17と同様である。但し、高圧電磁弁20および熱交換器遮断電磁弁21は、通電状態で閉弁して非通電状態で開弁する、いわゆるノーマルオープン型の開閉弁として構成されている。
【0051】
高圧電磁弁20の冷媒出口側には、第2逆止弁22を介して、後述する温度式膨張弁27の絞り機構部入口側が接続されている。この第2逆止弁22は、高圧電磁弁20側から温度式膨張弁27側へ冷媒が流れることのみを許容している。
【0052】
熱交換器遮断電磁弁21の他方の冷媒流入出口には、第3三方継手23の1つの冷媒流入出口が接続されている。この第3三方継手23の基本的構成は、第1三方継手15と同様である。また、第3三方継手23の別の冷媒流入出口には、前述の如く、固定絞り14の冷媒出口側が接続され、さらに別の冷媒流入出口には、除湿電磁弁24の冷媒入口側が接続されている。
【0053】
除湿電磁弁24は、空調制御装置50から出力される制御電圧によって、その作動が制御される冷媒回路切替手段であり、その基本的構成は、低圧電磁弁17と同様である。さらに、除湿電磁弁24もノーマルクローズ型の開閉弁として構成されている。そして、本実施形態の冷媒回路切替手段は、電力の供給が停止されると予め定めた開弁状態あるいは閉弁状態となる電気式三方弁13、低圧電磁弁17、高圧電磁弁20、熱交換器遮断電磁弁21、除湿電磁弁24の複数(5つ)の電磁弁によって構成される。
【0054】
除湿電磁弁24の冷媒出口側には、第4三方継手25の1つの冷媒流入出口が接続されている。この第4三方継手25の基本的構成は、第1三方継手15と同様である。また、第4三方継手25の別の冷媒流入出口には、温度式膨張弁27の絞り機構部出口側が接続され、さらに別の冷媒流入出口には、室内蒸発器26の冷媒入口側が接続されている。
【0055】
室内蒸発器26は、室内空調ユニット30のケーシング31内のうち、室内凝縮器12の送風空気流れ上流側に配置されて、その内部を流通する冷媒と送風空気とを熱交換させて送風空気を冷却する冷却用熱交換器である。
【0056】
室内蒸発器26の冷媒出口側には、温度式膨張弁27の感温部入口側が接続されている。温度式膨張弁27は、絞り機構部入口から内部へ流入した冷媒を減圧膨張させて絞り機構部出口から外部へ流出させる冷房用の減圧手段である。
【0057】
より具体的には、本実施形態では、温度式膨張弁27として、室内蒸発器26出口側冷媒の温度および圧力に基づいて室内蒸発器26出口側冷媒の過熱度を検出する感温部27aと、感温部27aの変位に応じて室内蒸発器26出口側冷媒の過熱度が予め定めた所定範囲となるように絞り通路面積(冷媒流量)を調整する可変絞り機構部27bとを1つのハウジング内に収容した内部均圧型膨張弁を採用している。
【0058】
温度式膨張弁27の感温部出口側には、第5三方継手28の1つの冷媒流入出口が接続されている。この第5三方継手28の基本的構成は、第1三方継手15と同様である。また、第5三方継手28の別の冷媒流入出口には、前述の如く、第1逆止弁18の冷媒出口側が接続され、さらに別の冷媒流入出口には、アキュムレータ29の冷媒入口側が接続されている。
【0059】
アキュムレータ29は、第5三方継手28から、その内部に流入した冷媒の気液を分離して、余剰冷媒を蓄える低圧側気液分離器である。さらに、アキュムレータ29の気相冷媒出口には、圧縮機11の冷媒吸入口が接続されている。
【0060】
次に、室内空調ユニット30について説明する。室内空調ユニット30は、車室内最前部の計器盤(インストルメントパネル)の内側に配置されて、その外殻を形成するケーシング31内に送風機32、前述の室内蒸発器26、室内凝縮器12、ヒータコア36、PTCヒータ37等を収容したものである。
【0061】
ケーシング31は、車室内に送風される送風空気の空気通路を形成しており、ある程度の弾性を有し、強度的にも優れた樹脂(例えば、ポリプロピレン)にて成形されている。ケーシング31内の送風空気流れ最上流側には、内気(車室内空気)と外気(車室外空気)とを切替導入する図示しない内外気切替箱が配置されている。
【0062】
より具体的には、内外気切替箱には、ケーシング31内に内気を導入させる内気導入口および外気を導入させる外気導入口が形成されている。さらに、内外気切替箱の内部には、内気導入口および外気導入口の開口面積を連続的に調整して、内気の風量と外気の風量との風量割合を変化させる内外気切替ドアが配置されている。
【0063】
従って、内外気切替ドアは、ケーシング31内に導入される内気の風量と外気の風量との風量割合を変化させる吸込口モードを切り替える風量割合変更手段を構成する。より具体的には、内外気切替ドアは、内外気切替ドア用の電動アクチュエータ62によって駆動され、この電動アクチュエータ62は、空調制御装置50から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
【0064】
また、吸込口モードとしては、内気導入口を全開とするとともに外気導入口を全閉としてケーシング31内へ内気を導入する内気モード、内気導入口を全閉とするとともに外気導入口を全開としてケーシング31内へ外気を導入する外気モード、さらに、内気モードと外気モードとの間で、内気導入口および外気導入口の開口面積を連続的に調整することにより、内気と外気の導入比率を連続的に変化させる内外気混入モードがある。
【0065】
内外気切替箱の空気流れ下流側には、内外気切替箱を介して吸入した空気を車室内へ向けて送風する送風機32が配置されている。この送風機32は、遠心多翼ファン(シロッコファン)を電動モータにて駆動する電動送風機であって、空調制御装置50から出力される制御電圧によって回転数(送風量)が制御される。
【0066】
送風機32の空気流れ下流側には、前述の室内蒸発器26が配置されている。さらに、室内蒸発器26の空気流れ下流側には、室内蒸発器26通過後の空気を流す加熱用冷風通路33、冷風バイパス通路34といった空気通路、並びに、加熱用冷風通路33および冷風バイパス通路34から流出した空気を混合させる混合空間35が形成されている。
【0067】
加熱用冷風通路33には、室内蒸発器26通過後の空気を加熱するための加熱手段としてのヒータコア36、室内凝縮器12、およびPTCヒータ37が、送風空気流れ方向に向かってこの順で配置されている。ヒータコア36は、車両走行用駆動力を出力するエンジンEGの冷却水と室内蒸発器26通過後の空気とを熱交換させて、室内蒸発器26通過後の空気を加熱する加熱用熱交換器である。
【0068】
また、PTCヒータ37は、PTC素子(正特性サーミスタ)を有し、このPTC素子に電力を供給されることによって発熱して、室内凝縮器12通過後の空気を加熱する電気ヒータである。なお、本実施形態のPTCヒータ37は、複数本(具体的には3本)設けられており、空調制御装置50が、通電するPTCヒータ37の本数を変化させることによって、複数のPTCヒータ37全体としての加熱能力が制御される。
【0069】
より具体的には、このPTCヒータ37は、図5に示すように、複数(本実施形態では、3本)のPTCヒータ37a、37b、37cから構成されている。なお、図5は、本実施形態のPTCヒータ37の電気的接続態様を示す回路図である。また、本実施形態のPTCヒータ37を作動させるために必要な消費電力は、冷凍サイクル10の圧縮機11を作動させるために必要な消費電力よりも少ない。
【0070】
図5に示すように、各PTCヒータ37a、37b、37cの正極側はバッテリ81側に接続され、負極側は各PTCヒータ37a、37b、37cが有する各スイッチ素子SW1、SW2、SW3を介して、グランド側へ接続されている。各スイッチ素子SW1、SW2、SW3は、各PTCヒータ37a、37b、37cが有する各PTC素子h1、h2、h3の通電状態(ON状態)と非通電状態(OFF状態)とを切り替えるものである。
【0071】
さらに、各スイッチ素子SW1、SW2、SW3の作動は、空調制御装置50から出力される制御信号によって、独立して制御される。従って、空調制御装置50は、各スイッチ素子SW1、SW2、SW3の通電状態と非通電状態とを独立に切り替えることによって、各PTCヒータ37a、15b、15cのうち、通電状態となり加熱能力を発揮するものを切り替えて、PTCヒータ37全体としての加熱能力を変化させることができる。
【0072】
一方、冷風バイパス通路34は、室内蒸発器26通過後の空気を、ヒータコア36、室内凝縮器12、およびPTCヒータ37を通過させることなく、混合空間35に導くための空気通路である。従って、混合空間35にて混合された送風空気の温度は、加熱用冷風通路33を通過する空気および冷風バイパス通路34を通過する空気の風量割合によって変化する。
【0073】
そこで、本実施形態では、室内蒸発器26の空気流れ下流側であって、加熱用冷風通路33および冷風バイパス通路34の入口側に、加熱用冷風通路33および冷風バイパス通路34へ流入させる冷風の風量割合を連続的に変化させるエアミックスドア38を配置している。
【0074】
従って、エアミックスドア38は、混合空間35内の空気温度(車室内へ送風される送風空気の温度)を調整する温度調整手段を構成する。より具体的には、エアミックスドア38は、エアミックスドア用の電動アクチュエータ63によって駆動され、この電動アクチュエータ63は、空調制御装置50から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
【0075】
さらに、ケーシング31の送風空気流れ最下流部には、混合空間35から冷却対象空間である車室内へ温度調整された送風空気を吹き出す吹出口(図示せず)が配置されている。この吹出口としては、具体的に、車室内のユーザの上半身に向けて空調風を吹き出すフェイス吹出口、ユーザの足元に向けて空調風を吹き出すフット吹出口、および、車両前面窓ガラス内側面に向けて空調風を吹き出すデフロスタ吹出口が設けられている。
【0076】
また、フェイス吹出口、フット吹出口、およびデフロスタ吹出口の空気流れ上流側には、それぞれ、フェイス吹出口の開口面積を調整するフェイスドア、フット吹出口の開口面積を調整するフットドア、デフロスタ吹出口の開口面積を調整するデフロスタドア(いずれも図示せず)が配置されている。
【0077】
これらのフェイスドア、フットドア、デフロスタドアは、吹出口モードを切替える吹出口モード切替手段を構成するものであって、図示しないリンク機構を介して、吹出口モードドア駆動用の電動アクチュエータ64に連結されて連動して回転操作される。なお、この電動アクチュエータ64も、空調制御装置50から出力される制御信号によってその作動が制御される。
【0078】
また、吹出口モードとしては、フェイス吹出口を全開してフェイス吹出口から車室内のユーザの上半身に向けて空気を吹き出すフェイスモード、フェイス吹出口とフット吹出口の両方を開口して車室内のユーザの上半身と足元に向けて空気を吹き出すバイレベルモード、フット吹出口を全開するとともにデフロスタ吹出口を小開度だけ開口して、フット吹出口から主に空気を吹き出すフットモード、およびフット吹出口およびデフロスタ吹出口を同程度開口して、フット吹出口およびデフロスタ吹出口の双方から空気を吹き出すフットデフロスタモードがある。
【0079】
さらに、ユーザが後述する操作パネル60のスイッチをマニュアル操作することによって、デフロスタ吹出口を全開してデフロスタ吹出口から車両フロント窓ガラス内面に空気を吹き出すデフロスタモードとすることもできる。
【0080】
なお、本実施形態の車両用空調装置1が適用されるハイブリッド車両は、車両用空調装置とは別に、図示しない電熱デフォッガを備えている。電熱デフォッガとは、車室内窓ガラスの内部あるいは表面に配置された電熱線であって、窓ガラスを加熱することで防曇あるいは窓曇り解消を行うものである。この電熱デフォッガについても空調制御装置50から出力される制御信号によって、その作動を制御できるようになっている。
【0081】
次に、図6により、本実施形態の電気制御部について説明する。空調制御装置50は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成され、そのROM内に記憶された空調制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、出力側に接続された圧縮機11の電動モータ11b用のインバータ61、冷媒回路切替手段を構成する各電磁弁13、17、20、21、24、送風ファン16a、送風機32、各種電動アクチュエータ62、63、64等の作動を制御する。
【0082】
また、空調制御装置50の入力側には、車室内温度Trを検出する内気センサ51(室内温度検出手段)、外気温Tamを検出する外気センサ52(外気温検出手段)、車室内の日射量Tsを検出する日射センサ53、圧縮機11の吐出冷媒温度Tdを検出する吐出温度センサ54(吐出温度検出手段)、圧縮機11の吐出側冷媒圧力(高圧側冷媒圧力)Pdを検出する吐出圧力センサ55(吐出圧力検出手段)、室内蒸発器26からの吹出空気温度(蒸発器温度)Teを検出する蒸発器温度センサ56(蒸発器温度検出手段)、第1三方継手15と低圧電磁弁17との間を流通する冷媒の温度Tsiを検出する吸入温度センサ57、エンジン冷却水温度Twを検出する冷却水温度センサ、車室内の窓ガラス近傍の車室内空気の相対湿度を検出する湿度センサ、窓ガラス近傍の車室内空気の温度を検出する窓ガラス近傍温度センサ、および窓ガラス表面温度を検出する窓ガラス表面温度センサ等のセンサ群の検出信号が入力される。
【0083】
また、本実施形態の圧縮機11の吐出側冷媒圧力(高圧側冷媒圧力)Pdは、冷房モードでは、圧縮機11の冷媒吐出口側から温度式膨張弁27の可変絞り機構部27b入口側へ至るサイクルの高圧側冷媒圧力であり、その他の運転モードでは、圧縮機11の冷媒吐出口側から固定絞り14入口側へ至るサイクルの高圧側冷媒圧力となる。なお、吐出圧力センサ55は、一般的な冷凍サイクルにおいても、高圧側冷媒圧力の異常上昇を監視するために設けられている。
【0084】
また、蒸発器温度センサ56は、具体的に室内蒸発器26の熱交換フィン温度を検出している。もちろん、蒸発器温度センサ56として、室内蒸発器26のその他の部位の温度を検出する温度検出手段を採用してもよいし、室内蒸発器26を流通する冷媒自体の温度を直接検出する温度検出手段を採用してもよい。また、湿度センサ、窓ガラス近傍温度センサ、および窓ガラス表面温度センサの検出値は、窓ガラス表面の相対湿度RHWを算出するために用いられる。
【0085】
さらに、空調制御装置50の入力側には、車室内前部の計器盤付近に配置された操作パネル60に設けられた各種空調操作スイッチからの操作信号が入力される。操作パネル60に設けられた各種空調操作スイッチとしては、具体的に、車両用空調装置1の作動スイッチ、オートスイッチ、運転モードの切替スイッチ、吹出口モードの切替スイッチ、送風機32の風量設定スイッチ、車室内温度設定スイッチ、エコノミースイッチ(エコスイッチ)、プレ空調のスタートスイッチ等が設けられている。
【0086】
オートスイッチは、車両用空調装置1の自動制御を設定あるいは解除するスイッチであり、エコノミースイッチは、冷凍サイクル10の省動力化を優先させるスイッチである。また、プレ空調のスタートスイッチは、ユーザがプレ空調をスタートさせる時刻や、スタートさせるタイミング(例えば、10分後)を設定するためのスイッチである。
【0087】
また、エンジン制御装置70は、空調制御装置50と同様に、周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成され、そのROM内に記憶されたエンジン制御用プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、出力側に接続された各種エンジン制御機器の作動を制御する。
【0088】
エンジン制御装置70の出力側には、図示しないエンジンEGを構成する各種エンジン構成機器等が接続されている。具体的には、エンジンEGを始動させるスタータ、エンジンEGに燃料を供給する燃料噴射弁(インジェクタ)の駆動回路(いずれも図示せず)等が接続されている。
【0089】
エンジン制御装置70の入力側には、車速(車両の速度)を検出する速度センサ(車速検出手段)71、バッテリ81の端子間電圧VBを検出する電圧計(図示略)、アクセル開度Accを検出するアクセル開度センサ(図示略)、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転数センサ(図示略)等の種々のエンジン制御用のセンサ群が接続されている。
【0090】
さらに、空調制御装置50およびエンジン制御装置70は、電気的接続されて、電気的に通信可能に構成されている。これにより、一方の制御装置に入力された検出信号あるいは操作信号に基づいて、他方の制御装置が出力側に接続された各種機器の作動を制御することもできる。例えば、空調制御装置50がエンジン制御装置70へエンジンEGの作動要求指令を出力することによって、エンジンEGを作動させることができる。
【0091】
なお、空調制御装置50およびエンジン制御装置70は、その出力側に接続された各種制御対象機器を制御する制御手段が一体に構成されたものであるが、それぞれの制御対象機器の作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)が、それぞれの制御対象機器の作動を制御する制御手段を構成している。
【0092】
なお、空調制御装置50のうち、圧縮機11の電動モータ11bに接続されたインバータ61から出力される交流電圧の周波数を制御して、圧縮機11の回転数(冷媒吐出能力)を制御する構成が圧縮機制御手段(回転数制御手段)50aを構成し、送風手段である送風機32の作動を制御して、送風機32の送風能力を制御する構成が送風機制御手段を構成する。
【0093】
次に、図7により、上記構成における本実施形態の作動を説明する。図7は、本実施形態の車両用空調装置1の制御処理を示すフローチャートである。この制御処理は、車両システムが停止している場合でも、バッテリ81から空調制御装置50に電力が供給されていれば実行される。
【0094】
まず、ステップS1の処理では、車両用空調装置1の作動スイッチが投入(ON)されているか否か、および、プレ空調のスタートスイッチが投入されているか否かを判定する。そして、車両用空調装置1の作動スイッチ、あるいはプレ空調のスタートスイッチが投入されていると判定されるとステップS2へ進む。この際、プレ空調であることを示すフラグがONされる。
【0095】
ここで、プレ空調のスタートスイッチは、乗員が携帯する無線端末(リモコン)あるいは移動体通信手段(具体的には、携帯電話)等に設けられている。従って、乗員は車両から離れた場所から車両用空調装置1を始動させることができる。
【0096】
例えば、無線端末のプレ空調のスタートスイッチが投入された際には、車両側が無線端末から送信されるプレ空調スタート信号を直接受信することによって、また、移動体通信手段のプレ空調のスタートスイッチが投入された際には、車両側が携帯電話基地局等を介して送信されるプレ空調スタート信号を直接受信することによって、プレ空調のスタートスイッチが投入されたことが判定される。
【0097】
さらに、本実施形態の車両用空調装置1は、プラグインハイブリッド車両に適用されているので、プレ空調は、車両に外部電源から電力が供給されている場合は、ユーザからプレ空調の停止が要求されるまで継続され、外部電源から電力が供給接続されていない場合は、バッテリ81の蓄電残量が予め定めた基準プレ空調用蓄電残量以下となるまで行うようになっている。
【0098】
ステップS2では、フラグ、タイマ等の初期化、および上述した電動アクチュエータを構成するステッピングモータの初期位置合わせ等が行われる。なお、フラグの初期化には、現在のフラグの状態を維持することも含まれる。
【0099】
ステップS3の処理では、操作パネル60の操作信号を読み込んでステップS4へ進む。具体的な操作信号としては、エコノミースイッチのON信号、車室内温度設定スイッチによって設定される車室内設定温度Tset、吹出口モードの選択信号、吸込口モードの選択信号、送風機32の風量の設定信号等がある。なお、エコノミースイッチのON信号を検出した場合には、現在の車両用空調装置1の運転モードがエコモード(省動力化モード)であることを示すフラグがONされる。
【0100】
ステップS4では、空調制御に用いられる車両環境状態の信号、すなわち上述のセンサ群51〜57の検出信号を読み込んで、ステップS5へ進む。ステップS5では、車室内吹出空気の目標吹出温度TAOを算出する。さらに、暖房モードでは、暖房用熱交換器目標温度を算出する。目標吹出温度TAOは、下記数式F1により算出される。
TAO=Kset×Tset−Kr×Tr−Kam×Tam−Ks×Ts+C…(F1)
ここで、Tsetは車室内温度設定スイッチによって設定された車室内設定温度、Trは内気センサ51によって検出された内気温、Tamは外気センサ52によって検出された外気温、Tsは日射センサ53によって検出された日射量である。Kset、Kr、Kam、Ksは制御ゲインであり、Cは補正用の定数である。
【0101】
また、暖房用熱交換器目標温度は、基本的に上述の数式F1にて算出される値となるが、消費電力の抑制のために数式F1にて算出されTAOよりも低い値とする補正が行われる場合もある。
【0102】
続くステップS6〜S16では、空調制御装置50に接続された各種機器の制御状態が決定される。まず、ステップS6では、空調環境状態に応じて、冷房モード、暖房モード、第1除湿モードおよび第2除湿モードの選択およびPTCヒータ37に対する通電有無の決定が行われる。このステップS6の詳細については、図8を用いて説明する。
【0103】
まず、ステップS61では、プレ空調を行っているか否かを判定する。ステップS61にてプレ空調を行っていると判定された場合は、ステップS62へ進み、外気温Tamが−3℃よりも低いか否かを判定する。ステップS62にて外気温Tamが−3℃よりも低いと判定された場合は、ステップS63にてPTCヒータ37への通電の必要があると判定してステップS7へ進む。
【0104】
このように外気温Tamが−3℃よりも低いときにPTCヒータ37への通電が必要であると判定する理由は、外気温Tamが−3℃よりも低いときに冷凍サイクル10にて暖房を行うと、サイクルの高低圧差が大きくなり、サイクル効率(COP)が低下してしまうとともに、室外熱交換器16における冷媒蒸発温度が低くなり、室外熱交換器16に着霜するおそれがあるからである。
【0105】
ステップS62にて外気温Tamが−3℃よりも低くなっていないと判定された場合は、ステップS64へ進み、吹出口モードがフェイスモードであるか否かを判定する。ステップS64にて吹出口モードがフェイスモードであると判定された場合は、ステップS65へ進み、冷房モードを選択してステップS7へ進む。その理由は、後述するステップS9で説明するように、フェイスモードは主に夏季に選択される運転モードだからである。
【0106】
ステップS64にて吹出口モードがフェイスモードでないと判定された場合は、ステップS66へ進み、室内蒸発器26からの吹出空気温度Teの低下に伴って、除湿の必要性が高くなるものとして、暖房モード→第1除湿モード→第2除湿モードの順に選択されて、ステップS7へ進む。
【0107】
一方、ステップS61にてプレ空調を行っていないと判定された場合は、ステップS67へ進み、外気温Tamが−3℃よりも低いか否かを判定する。ステップS67にて外気温Tamが−3℃よりも低いと判定された場合は、ステップS68へ進み、冷房モードを選択してステップS7へ進む。
【0108】
ステップS67にて外気温Tamが−3℃よりも低くなっていないと判定された場合は、ステップS69へ進み、吹出口モードがフェイスモードであるか否かを判定する。ステップS69にて吹出口モードがフェイスモードであると判定された場合は、ステップS70へ進み、冷房モードを選択してステップS7へ進む。その理由はステップS65と同様である。ステップS69にて吹出口モードがフェイスモードでないと判定された場合は、前述のステップS66へ進む。
【0109】
ステップS7では、送風機32により送風される空気の目標送風量を決定する。具体的には、ステップS5にて設定した目標吹出温度TAOに基づいて、予め空調制御装置50に記憶された制御マップを参照して、送風機32の電動モータに印加するブロワモータ電圧を決定する。
【0110】
より詳細には、本実施形態では、TAOの極低温域(最大冷房域)および極高温域(最大暖房域)でブロワモータ電圧を最大値(約12V)付近の高電圧にして、送風機32の風量を最大風量付近に制御する。また、TAOが極低温域から中間温度域に向かって上昇すると、TAOの上昇に応じてブロワモータ電圧を減少して、送風機32の風量を減少させる。
【0111】
さらに、TAOが極高温域から中間温度域に向かって低下すると、TAOの低下に応じてブロワモータ電圧を減少して、送風機32の風量を減少させる。また、TAOが所定の中間温度域内に入ると、ブロワモータ電圧を最小値(約4V)にして送風機32の風量を最小値にする。
【0112】
ステップS8では、吸込口モード、すなわち内外気切替箱の切替状態を決定する。この吸込口モードもTAOに基づいて、予め空調制御装置50に記憶された制御マップを参照して決定する。本実施形態では、基本的に外気を導入する外気モードが優先されるが、TAOが極低温域となって高い冷房性能を得たい場合等に内気を導入する内気モードが選択される。さらに、外気の排ガス濃度を検出する排ガス濃度検出手段を設け、排ガス濃度が予め定めた基準濃度以上となったときに、内気モードを選択するようにしてもよい。
【0113】
ステップS9では、吹出口モードを決定する。この吹出口モードもTAOに基づいて、予め空調制御装置50に記憶された制御マップを参照して決定する。本実施形態では、TAOが低温域から高温域へと上昇するにつれて吹出口モードをフットモード→バイレベルモード→フェイスモードへと順次切り替える。
【0114】
従って、夏季は主にフェイスモード、春秋季は主にバイレベルモード、そして冬季は主にフットモードが選択される。さらに、湿度センサ等の検出値から算出される窓ガラス表面の相対湿度RHWに基づいて、窓ガラスに曇りが発生する可能性が高いと判定された場合に、フットデフロスタモードあるいはデフロスタモードを選択するようにしてもよい。
【0115】
ステップS10では、エアミックスドア38の目標開度SWを上記TAO、蒸発器温度センサ56によって検出された室内蒸発器26からの吹出空気温度Te、加熱器温度に基づいて算出する。
【0116】
ここで、加熱器温度とは、加熱用冷風通路33に配置された加熱手段(ヒータコア36、室内凝縮器12、およびPTCヒータ37)の加熱能力に応じて決定される値であって、一般的には、エンジン冷却水温度Twを採用できる。従って、目標開度SWは、次の数式F2により算出できる。
SW=[(TAO−Te)/(Tw−Te)]×100(%)…(F2)
なお、SW=0(%)は、エアミックスドア38の最大冷房位置であり、冷風バイパス通路34を全開し、加熱用冷風通路33を全閉する。これに対し、SW=100(%)は、エアミックスドア38の最大暖房位置であり、冷風バイパス通路34を全閉し、加熱用冷風通路33を全開する。
【0117】
ステップS11では、圧縮機11の冷媒吐出能力(具体的には、圧縮機11の回転数)を決定する。ここで、圧縮機11の基本的な回転数の決定手法を説明する。例えば、冷房モードでは、ステップS4で決定したTAO等に基づいて、予め空調制御装置50に記憶されている制御マップを参照して、室内蒸発器26からの吹出空気温度Teの目標吹出温度TEOを決定する。
【0118】
そして、この目標吹出温度TEOと吹出空気温度Teの偏差En(TEO−Te)を算出し、今回算出された偏差Enから前回算出された偏差En−1を減算した偏差変化率Edot(En−(En−1))とを用いて、予め空調制御装置50に記憶されたメンバシップ関数とルールとに基づいたファジー推論に基づいて、前回の圧縮機回転数fCn−1に対する回転数変化量Δf_Cを求める。
【0119】
また、暖房モード、第1除湿モードおよび第2除湿モードでは、ステップS4で決定した暖房用熱交換器目標温度等に基づいて、予め空調制御装置50に記憶されている制御マップを参照して、吐出側冷媒圧力(高圧側冷媒圧力)Pdの目標高圧PDOを決定する。
【0120】
そして、この目標高圧PDOと吐出側冷媒圧力Pdの偏差Pn(PDO−Pd)を算出し、今回算出された偏差Pnから前回算出された偏差Pn−1を減算した偏差変化率Pdot(Pn−(Pn−1))とを用いて、予め空調制御装置50に記憶されたメンバシップ関数とルールとに基づいたファジー推論に基づいて、前回の圧縮機回転数fHn−1に対する回転数変化量Δf_Hを求める。
【0121】
このステップS11のより詳細な制御内容については、図9を用いて説明する。まず、ステップS111では、冷房モード(COOLサイクル)時の回転数変化量Δf_Cを求める。図9のステップS111には、ルールとして用いるファジールール表を記載している。このルール表では、上述の偏差Enと偏差変化率Edotに基づいて室内蒸発器26の着霜が防止されるようにΔf_Cが決定される。
【0122】
ステップS112では、暖房モード(HOTサイクル)、第1除湿モード(DRY_EVAサイクル)および第2除湿モード(DRY_ALLサイクル)時の回転数変化量Δf_Hを求める。図9のステップS112には、ルールとして用いるファジールール表を記載している。このルール表では、上述の偏差Pnと偏差変化率Pdotに基づいて高圧側冷媒圧力Pdの異常上昇が防止されるようにΔf_Hが決定される。
【0123】
続くステップS113では、現在の車両用空調装置1の運転モードがエコモード(省電力化モード)であるか否かを判定する。具体的には、ステップS3にて説明したエコモードであることを示すフラグがONとなっているか否かを判定する。
【0124】
ステップS113にて、運転モードがエコモードであると判定された場合(S113:YES)には、ステップS114に移行して、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを設定する。そして、ステップS116に移行する。
【0125】
ここで、ステップS114では、車速センサ71の検出値の増加に応じて、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxが段階的(ステップ的)に増加するようにしている。
【0126】
具体的には、車速センサ71の検出値(車速)が上昇する速度上昇過程において、車速が所定速度(本実施形態では20km/h)上昇する毎に上限値IVOmaxを所定回転数(本実施形態では1000rpm)増加させている。
【0127】
一方、車速センサ71の検出値(車速)が低下する速度低下過程において、車速が所定速度(本実施形態では20km/h)低下する毎に上限値IVOmaxを所定回転数(本実施形態では1000rpm)減少させている。
【0128】
例えば、図9のステップS114中に示すように、車速が上昇する車速上昇過程では、車速が20km/hよりも遅ければ、上限値IVOmaxを最低の「5000」rpmに設定し、車速が20km/hまで上昇すると上限値IVOmaxを「6000」rpmに変化させる。そして、車速が20km/h上昇する毎に上限値IVOmaxを「1000」rpm分段階的に増加させる。車速が80km/hまで上昇すると、上限値IVOmaxを最高の「9000」rpmに設定する。
【0129】
逆に、車速が低下する車速低下過程では、車速が70km/hよりも速ければ、上限値IVOmaxを最高の「9000」rpmに設定し、車速が70km/h以下まで低下すると上限値IVOmaxを「8000」rpmに変化させる。そして、車速が20km/h上昇する毎に上限値IVOmaxを「1000」rpm分段階的に減少させる。車速が10km/hまで低下すると、上限値IVOmaxを最低の「5000」rpmに設定する。
【0130】
また、本実施形態では、所定の上限値IVOmaxから一段上限値を下げる際の車両速度(第1閾値)と、所定の上限値IVOmaxから一段上限値を上げる際の車両速度(第2閾値)とに差(ヒステリシス域)を設けている。つまり、速度上昇過程において、第1閾値を上回った際に上限値IVOmaxを一段高くし、第1閾値よりも高い値に設定された第2閾値を下回った際に上限値IVOmaxを一段低くするようにしている。これにより、車速の一時的な変動によって、上限値IVOmaxが頻繁に変化してしまうことを抑制することができる。
【0131】
一方、ステップS113の判定処理の結果、エコモードでないと判定された場合(S113:NO)には、ステップS115に移行して、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを設定する。そして、ステップS116に移行する。
【0132】
このステップS115では、ステップS114と同様に、車速センサ71の検出値の増加に応じて、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxが段階的(ステップ的)に増加するようにしている。なお、ステップS115では、エコモードの場合に比べて、各車速に対応する上限値IVOmaxが所定回転数(本実施形態では1000rpm)高くなるようにしている。
【0133】
次のステップS116では、ステップS6で設定された運転モードが冷房モードであるか否かを判定する。この結果、冷房モードであると判定された場合(S116:YES)には、ステップS117に移行して、圧縮機11の回転数変化量ΔfをステップS111で決定したΔf_Cに設定して、ステップS119に移行する。
【0134】
一方、ステップS116にて、ステップS6で設定された運転モードが冷房モードでないと判定された場合(S116:NO)には、ステップS118に移行して、圧縮機11の回転数変化量ΔfをステップS112で決定したΔf_Hに設定して、ステップS119に移行する。
【0135】
ステップS119では、前回の圧縮機回転数fn−1に回転数変化量Δfを加えた値とステップS114およびS115にて決定された上限値IVOmaxとを比較して、小さい方の値を、今回の圧縮機回転数[rpm]に決定して、ステップS12へ移行する。
【0136】
これにより、圧縮機11の回転数は、上限値以下の範囲で設定されることとなる。なお、ステップS119における圧縮機回転数の決定は、制御周期τ毎に行われるものではなく、所定の制御間隔(本実施形態では1秒)毎に行われる。
【0137】
ここで、本実施形態のステップS11のうち、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを設定する制御ステップS114、および制御ステップS115が、圧縮機11の回転数の上限値を設定する回転数制限設定手段を構成している。
【0138】
ステップS12では、PTCヒータ37の作動本数の決定および電熱デフォッガの作動状態の決定が行われる。PTCヒータ37の作動本数は、例えば、ステップS6にてPTCヒータ37への通電の必要があるとされたときに、暖房モード時にエアミックスドア38の目標開度SWが100%となっても、暖房用熱交換器目標温度を得られない場合に、内気温Trと暖房用熱交換器目標温度との差に応じて決定すればよい。
【0139】
また、車室内の湿度および温度から窓ガラスに曇りが発生する可能性が高い場合、あるいは窓ガラスに曇りが発生している場合は、電熱デフォッガを作動させる。
【0140】
ステップS13では、上述のステップS6で決定された運転モードに応じて、冷媒回路切替手段である各電磁弁13〜24の作動状態を決定する。
【0141】
具体的には、図10の図表に示すように、運転モードが冷房モード(COOLサイクル)に決定されている場合は、全ての電磁弁を非通電状態とする。また、暖房モード(HOTサイクル)に決定されている場合は、電気式三方弁13、高圧電磁弁20、低圧電磁弁17を通電状態とし、残りの電磁弁21、24を非通電状態とする。
【0142】
また、第1除湿モード(DRY_EVAサイクル)に決定されている場合は、電気式三方弁13、低圧電磁弁17、除湿電磁弁24および熱交換器遮断電磁弁21を通電状態とし、高圧電磁弁20を非通電状態とする。また、第2除湿モード(DRY_ALLサイクルに決定されている場合は、電気式三方弁13、低圧電磁弁17、除湿電磁弁24を通電状態とし、残りの電磁弁20、21を非通電状態とする。
【0143】
つまり、本実施形態では、いずれの運転モードの冷媒回路に切り替えた場合であっても、各電磁弁13〜24のうち少なくとも1つの電磁弁に対する電力の供給が停止されるように構成されている。これにより、本実施形態の各電磁弁13〜24の合計消費電力を低減できるようにしている。
【0144】
ステップS14では、上述のステップS6〜S13で決定された制御状態が得られるように、空調制御装置50より各種機器61、13、17、20、21、24、16a、32、37、62、63、64に対して制御信号および制御電圧が出力される。例えば、圧縮機11の電動モータ11b用のインバータ61に対しては、圧縮機11の回転数がステップS11で決定された回転数となるように制御信号が出力される。
【0145】
ステップS15では、制御周期τの間待機し、制御周期τの経過を判定するとステップS3へ戻る。なお、本実施形態は制御周期τを250msとしている。これは、車室内の空調制御は、エンジン制御等と比較して遅い制御周期であってもその制御性に悪影響を与えないからである。さらに、車両内における空調制御のための通信量を抑制して、エンジン制御等のように高速制御を行う必要のある制御系の通信量を充分に確保することができる。
【0146】
本実施形態の車両用空調装置1は、以上の如く制御されるので、制御ステップS6にて選択された運転モードに応じて以下のように作動する。
【0147】
(a)冷房モード(COOLサイクル:図1参照)
冷房モードでは、空調制御装置50が全ての電磁弁を非通電状態とするので、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と第1三方継手15の1つの冷媒流入出口との間を接続し、低圧電磁弁17が閉弁し、高圧電磁弁20が開弁し、熱交換器遮断電磁弁21が開弁し、除湿電磁弁24が閉弁する。
【0148】
これにより、図1の矢印に示すように、圧縮機11→室内凝縮器12→電気式三方弁13→第1三方継手15→室外熱交換器16→第2三方継手19→高圧電磁弁20→第2逆止弁22→温度式膨張弁27の可変絞り機構部27b→第4三方継手25→室内蒸発器26→温度式膨張弁27の感温部27a→第5三方継手28→アキュムレータ29→圧縮機11の順に冷媒が循環する蒸気圧縮式冷凍サイクルが構成される。
【0149】
この冷房モードの冷媒回路では、電気式三方弁13から第1三方継手15へ流入した冷媒は、低圧電磁弁17が閉弁しているので低圧電磁弁17側へ流出することはない。また、室外熱交換器16から第2三方継手19へ流入した冷媒は、除湿電磁弁24が閉弁しているので熱交換器遮断電磁弁21側へ流出することはない。また、温度式膨張弁27の可変絞り機構部27bから流出した冷媒は、除湿電磁弁24が閉弁しているので除湿電磁弁24側へ流出することはない。さらに、温度式膨張弁27の感温部27aから第5三方継手28へ流入した冷媒は、第2逆止弁22の作用によって第2逆止弁22側に流出することはない。
【0150】
従って、圧縮機11にて圧縮された冷媒は、室内凝縮器12にて室内蒸発器26通過後の送風空気(冷風)と熱交換して冷却され、さらに、室外熱交換器16にて外気と熱交換して冷却され、温度式膨張弁27にて減圧膨張される。温度式膨張弁27にて減圧された低圧冷媒は室内蒸発器26へ流入し、送風機32から送風された送風空気から吸熱して蒸発する。これにより、室内蒸発器26を通過する送風空気が冷却される。
【0151】
この際、前述の如くエアミックスドア38の開度が調整されるので、室内蒸発器26にて冷却された送風空気の一部(または全部)が冷風バイパス通路34から混合空間35へ流入し、室内蒸発器26にて冷却された送風空気の一部(または全部)が加熱用冷風通路33へ流入してヒータコア36、室内凝縮器12、ヒータコア36を通過する際に再加熱されて混合空間35へ流入する。
【0152】
これにより、混合空間35にて混合されて車室内へ吹き出す送風空気の温度が所望の温度に調整されて、車室内の冷房を行うことができる。なお、冷房モードでは、送風空気の除湿能力も高いが、暖房能力は殆ど発揮されない。
【0153】
また、室内蒸発器26から流出した冷媒は、温度式膨張弁27の感温部61aを介して、アキュムレータ29へ流入する。アキュムレータ29にて気液分離された気相冷媒は、圧縮機11に吸入されて再び圧縮される。
【0154】
さらに、この冷房モードの冷媒回路では、図1の記載から明らかなように、冷凍サイクル10の冷媒流路内の異なる2箇所の部位が互いに連通している。換言すると、冷房モードの冷媒回路では、冷凍サイクル10を構成する冷媒流路内に他の部位と連通しない閉塞回路が形成されていない。
【0155】
(b)暖房モード(HOTサイクル:図2参照)
暖房モードでは、空調制御装置50が電気式三方弁13、高圧電磁弁20、低圧電磁弁17を通電状態とし、残りの電磁弁21、24を非通電状態とするので、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続し、低圧電磁弁17が開弁し、高圧電磁弁20が閉弁し、熱交換器遮断電磁弁21が開弁し、除湿電磁弁24が閉弁する。
【0156】
これにより、図2の矢印に示すように、圧縮機11→室内凝縮器12→電気式三方弁13→固定絞り14→第3三方継手23→熱交換器遮断電磁弁21→第2三方継手19→室外熱交換器16→第1三方継手15→低圧電磁弁17→第1逆止弁18→第5三方継手28→アキュムレータ29→圧縮機11の順に冷媒が循環する蒸気圧縮式冷凍サイクルが構成される。
【0157】
この暖房モードの冷媒回路では、固定絞り14から第3三方継手23へ流入した冷媒は、除湿電磁弁24が閉弁しているので除湿電磁弁24側へ流出することはない。また、熱交換器遮断電磁弁21から第2三方継手19へ流入した冷媒は、高圧電磁弁20が閉弁しているので高圧電磁弁20側へ流出することはない。また、室外熱交換器16から第1三方継手15へ流入した冷媒は、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続しているので電気式三方弁13側へ流出することはない。第1逆止弁18から第5三方継手28へ流入した冷媒は、除湿電磁弁24が閉じているので温度式膨張弁27側へ流出することはない。
【0158】
従って、圧縮機11にて圧縮された冷媒は、室内凝縮器12にて送風機32から送風された送風空気と熱交換して冷却される。これにより、室内凝縮器12を通過する送風空気が加熱される。この際、エアミックスドア38の開度が調整されるので、冷房モードと同様に、混合空間35にて混合されて車室内へ吹き出す送風空気の温度が所望の温度に調整されて、車室内の暖房を行うことができる。なお、暖房モードでは、送風空気の除湿能力は発揮されない。
【0159】
また、室内凝縮器12から流出した冷媒は、固定絞り14にて減圧されて室外熱交換器16へ流入する。室外熱交換器16へ流入した冷媒は、送風ファン16aから送風された車室外空気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器16から流出した冷媒は、低圧電磁弁17、第1逆止弁18等を介して、アキュムレータ29へ流入する。アキュムレータ29にて気液分離された気相冷媒は、圧縮機11に吸入されて再び圧縮される。
【0160】
(c)第1除湿モード(DRY_EVAサイクル:図3参照)
第1除湿モードでは、空調制御装置50が電気式三方弁13、低圧電磁弁17、熱交換器遮断電磁弁21および除湿電磁弁24を通電状態とし、高圧電磁弁20を非通電状態とするので、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続し、低圧電磁弁17が開弁し、高圧電磁弁20が開弁し、熱交換器遮断電磁弁21が閉弁し、除湿電磁弁24が開弁する。
【0161】
これにより、図3の矢印に示すように、圧縮機11→室内凝縮器12→電気式三方弁13→固定絞り14→第3三方継手23→除湿電磁弁24→第4三方継手25→室内蒸発器26→温度式膨張弁27の感温部27a→第5三方継手28→アキュムレータ29→圧縮機11の順に冷媒が循環する蒸気圧縮式冷凍サイクルが構成される。
【0162】
この第1除湿モードの冷媒回路では、固定絞り14から第3三方継手23へ流入した冷媒は、熱交換器遮断電磁弁21が閉弁しているので熱交換器遮断電磁弁21側へ流出することはない。また、除湿電磁弁24から第4三方継手25へ流入した冷媒は、第2逆止弁22の作用によって温度式膨張弁27の可変絞り機構部27b側へ流出することはない。また、温度式膨張弁27の感温部27aから第5三方継手28へ流入した冷媒は、第1逆止弁18の作用によって第1逆止弁18側へ流出することはない。
【0163】
従って、圧縮機11にて圧縮された冷媒は、室内凝縮器12にて室内蒸発器26通過後の送風空気(冷風)と熱交換して冷却される。これにより、室内凝縮器12を通過する送風空気が加熱される。室内凝縮器12から流出した冷媒は、固定絞り14にて減圧されて室内蒸発器26へ流入する。
【0164】
室内蒸発器26へ流入した低圧冷媒は、送風機32から送風された送風空気から吸熱して蒸発する。これにより、室内蒸発器26を通過する送風空気が冷却されて除湿される。従って、室内蒸発器26にて冷却されて除湿された送風空気は、ヒータコア36、室内凝縮器12、ヒータコア36を通過する際に再加熱されて、混合空間35から車室内へ吹き出される。すなわち、車室内の除湿を行うことができる。なお、第1除湿モードでは、送風空気の除湿能力を発揮できるが、暖房能力は小さい。
【0165】
また、室内蒸発器26から流出した冷媒は、温度式膨張弁27の感温部61aを介して、アキュムレータ29へ流入する。アキュムレータ29にて気液分離された気相冷媒は、圧縮機11に吸入されて再び圧縮される。
【0166】
(d)第2除湿モード(DRY_ALLサイクル:図4参照)
第2除湿モードでは、空調制御装置50が電気式三方弁13、低圧電磁弁17、除湿電磁弁24を通電状態とし、残りの電磁弁20、21を非通電状態とするので、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続し、低圧電磁弁17が開弁し、高圧電磁弁20が開弁し、熱交換器遮断電磁弁21が開弁し、除湿電磁弁24が開弁する。
【0167】
これにより、図4の矢印に示すように、圧縮機11→室内凝縮器12→電気式三方弁13→固定絞り14→第3三方継手23→熱交換器遮断電磁弁21→第2三方継手19→室外熱交換器16→第1三方継手15→低圧電磁弁17→第1逆止弁18→第5三方継手28→アキュムレータ29→圧縮機11の順に冷媒が循環するとともに、圧縮機11→室内凝縮器12→電気式三方弁13→固定絞り14→第3三方継手23→除湿電磁弁24→第4三方継手25→室内蒸発器26→温度式膨張弁27の感温部27a→第5三方継手28→アキュムレータ29→圧縮機11の順に冷媒が循環する蒸気圧縮式冷凍サイクルが構成される。
【0168】
つまり、第2除湿モードでは、固定絞り14から第3三方継手23へ流入した冷媒が熱交換器遮断電磁弁21側および除湿電磁弁24側の双方に流出して、第1逆止弁18から第5三方継手28へ流入した冷媒および温度式膨張弁27の感温部27aから第5三方継手28へ流入した冷媒の双方が第5三方継手28にて合流してアキュムレータ29側へ流出する。
【0169】
なお、この第2除湿モードの冷媒回路では、室外熱交換器16から第1三方継手15へ流入した冷媒は、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続しているので電気式三方弁13側へ流出することはない。また、除湿電磁弁24から第4三方継手25へ流入した冷媒は、第2逆止弁22の作用によって温度式膨張弁27の可変絞り機構部27b側へ流出することはない。
【0170】
従って、圧縮機11にて圧縮された冷媒は、室内凝縮器12にて室内蒸発器26通過後の送風空気(冷風)と熱交換して冷却される。これにより、室内凝縮器12を通過する送風空気が加熱される。室内凝縮器12から流出した冷媒は、固定絞り14にて減圧された後、第3三方継手23にて分岐されて室外熱交換器16および室内蒸発器26へ流入する。
【0171】
室外熱交換器16へ流入した冷媒は、送風ファン16aから送風された車室外空気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器16から流出した冷媒は、低圧電磁弁17、第1逆止弁18等を介して、第5三方継手28へ流入する。室内蒸発器26へ流入した低圧冷媒は、送風機32から送風された送風空気から吸熱して蒸発する。これにより、室内蒸発器26を通過する送風空気が冷却されて除湿される。
【0172】
従って、室内蒸発器26にて冷却されて除湿された送風空気は、ヒータコア36、室内凝縮器12、ヒータコア36を通過する際に再加熱されて、混合空間35から車室内へ吹き出される。この際、第2除湿モードでは、第1除湿モードに対して、室外熱交換器16にて吸熱した熱量を室内凝縮器12にて放熱することができるので、送風空気を第1除湿モードよりも高温に加熱できる。すなわち、第2除湿モードでは、高い暖房能力を発揮させながら除湿能力も発揮させる除湿暖房を行うことができる。
【0173】
また、室内蒸発器26から流出した冷媒は、第5三方継手28へ流入して室外熱交換器16から流出した冷媒と合流し、アキュムレータ29へ流入する。アキュムレータ29にて気液分離された気相冷媒は、圧縮機11に吸入されて再び圧縮される。
【0174】
さらに、上記の如く、冷房モードの冷媒回路、暖房モードの冷媒回路、および第1除湿モードの冷媒回路は、いずれも圧縮機11に吸入される冷媒を室外熱交換器16と室内熱交換器(具体的には、室内凝縮器12、室内蒸発器26)とのうちいずれか一方に流通させる単独熱交換器モードの冷媒回路であり、第2除湿モードの冷媒回路は、圧縮機11に吸入される冷媒を室外熱交換器16と室内熱交換器(具体的には、室内蒸発器26)との双方に流通させる複合熱交換器モードの冷媒回路であると表現することもできる。
【0175】
本実施形態の車両用空調装置は、以上の如く作動するので、以下のような優れた効果を発揮することができる。
【0176】
本実施形態の車両用空調装置1は、以上の如く作動するので、以下のような優れた効果を発揮することができる。
【0177】
制御ステップS13の処理で説明したように、圧縮機11の回転数(冷媒吐出能力)の上限値IVOmaxを、車速の増加に応じて増大させるので、車両が停車、又は低速で走行している条件、すなわち、圧縮機11の作動音がユーザにとって耳障りとなり易い条件では、車両用空調装置1の騒音を低減することができる。
【0178】
一方、車両が高速で走行し、ロードノイズが大きくなる条件、すなわち、圧縮機11の作動音がユーザにとって耳障りとなり難い条件では、圧縮機11の回転数を上昇させることができる。
【0179】
また、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを段階的に上昇させることによって、一時的な車両の速度の変動によって、圧縮機11の回転数の上限値が変動してしまうことを抑制することができる。
【0180】
さらに、圧縮機11の回転数の上限値を上昇させる際の閾値を、上限値を低下させる際の閾値よりも低い値とすることで、車速のブレ(ハンチング)によって、圧縮機11の回転数の上限値が頻繁に変更されることを抑制することができる。
【0181】
従って、車室内の空調性能を充分に確保しつつ、ユーザにとって耳障りな車両用空調装置の騒音の低減を図ることができる。
【0182】
また、本実施形態では、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを段階的に変化させているので、車速の変化による圧縮機11の回転数の上限値が頻繁に変化することが抑制される。また、圧縮機11の回転数の上限値を上昇させる際の閾値を、上限値を低下させる際の閾値よりも低い値としているので、更に、車速の変化による圧縮機11の回転数の上限値が頻繁に変化することが抑制される。
【0183】
このため、室内蒸発器26の温度変化が小さくなり、室内蒸発器26の温度が室内蒸発器26に付着した凝縮水の露点温度にまで上昇することを抑制することができる。この結果、本実施形態の構成によれば、室内蒸発器26に付着した凝縮水が乾く際の悪臭の発生についても抑制することが可能となる。
【0184】
また、エコモードが設定されている場合には、エコモードが設定されていない通常モード時に比べて、圧縮機11の回転数の上限値が低くめに制限されるので、圧縮機11の消費電力の増加を抑えて、省電力化を実現することができると共に、ユーザにとって耳障りな車両用空調装置の騒音の低減を図ることができる。
【0185】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図11に基づいて説明する。図11は、第1実施形態の図9に対応する制御フローを示すフローチャートである。なお、本実施形態では、図9と同様または均等な部分についての説明を省略、または簡略化して説明する。
【0186】
上述の第1実施形態では、車速の増加に応じて、圧縮機11の回転数を段階的に増大させるようにしているのに対して、本実施形態では、車速の増加に応じて、圧縮機11の回転数を徐々に増大させるようにしている点が第1実施形態と相違している。
【0187】
本実施形態の制御ステップS11について説明すると、図11に示すように、ステップS112にて、回転数変化量Δf_Hを求めた後、ステップS120にて、所定の時定数(本実施形態では60秒)を用いて、車速センサ71の検出値の変化を鈍化させる遅れ処理(時定数処理)を行う。具体的には、ステップS120で行う遅れ処理では、図11のステップS120中に示す数式を用いて行う。この遅れ処理によって算出された補正速度f(車速)は、車速センサ71の検出値の変化に対して鈍化した速度(遅れた速度)となる。
【0188】
ここで、ステップS120中の数式における車速NEWは、今回車速センサ71にて検出された車速を示し、車速OLDは前回車速センサ71にて検出された車速を示している。なお、車速の更新は1秒毎の制御周期で実行される。
【0189】
次に、ステップS113の判定処理にて、運転モードがエコモードであるか否かを判定し、エコモードであると判定された場合(S113:YES)には、ステップS121に移行して、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを設定する。そして、ステップS1330に移行する。
【0190】
ここで、ステップS121では、ステップS120の遅れ処理によって算出した補正速度f(車速)の増加に応じて圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxが徐々に増大するようにしている。
【0191】
具体的には、図11のステップS121中に示すように、補正速度f(車速)が0kmである場合に、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを最低の「5000」rpmに設定し、補正速度f(車速)の増加に伴って、「9000」rpmを最大値として上限値IVOmaxを徐々に増大させる。
【0192】
一方、ステップS113の判定処理にて、運転モードがエコモードでないと判定された場合(S113:NO)には、ステップS122に移行して、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxに設定する。そして、ステップS1330に移行する。
【0193】
ここで、ステップS122では、ステップS121と同様に、ステップS120の遅れ処理によって算出した補正速度f(車速)の増加に応じて圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxが徐々に増大するようにしている。なお、運転モードがエコモードでない場合には、エコモードである場合に比べて、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを「1000」rpm増加させている。具体的には、補正速度f(車速)が0kmである場合に、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを最低の「6000」rpmに設定し、補正速度f(車速)の増加に伴って、「10000」rpmを最大値として上限値IVOmaxを徐々に増大させる。
【0194】
ステップS121およびステップS122にて圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを設定した後、ステップS116の判定処理に移行する。ステップS116の判定処理の結果、冷房モードであると判定された場合(S116:YES)には、ステップS117にて、ステップS111で決定したΔf_Cを圧縮機11の回転数変化量Δfに設定する。一方、ステップS116の判定処理にて、冷房モードでないと判定された場合(S116:NO)には、ステップS118にて、ステップS112で決定したΔf_Hを圧縮機11の回転数変化量Δfに設定する。
【0195】
そして、次のステップS119では、前回の圧縮機回転数fn−1に回転数変化量Δfを加えた値とステップS117およびS118にて決定された上限値IVOmaxとを比較して、小さい方の値を、今回の圧縮機回転数[rpm]に決定して、ステップS12へ移行する。
【0196】
ここで、本実施形態のステップS11のうち、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを設定する制御ステップS121、および制御ステップS122が、圧縮機11の回転数の上限値を設定する回転数制限設定手段を構成している。
【0197】
以上説明した本実施形態によれば、車速の増加に応じて、圧縮機11の回転数の上限値(IVOmax)を上昇させるので、車両が停車、又は低速で走行している条件では、圧縮機11の作動音を低減することができると共に、車両が高速で走行し、ロードノイズが大きくなる条件では、圧縮機11の回転数を上昇させることができる。
【0198】
さらに、車速センサ71の検出値の変化を鈍化させた補正速度f(車速)の増加に応じて、圧縮機11の回転数の上限値を上昇させるので、一時的な車両の速度の変動によって、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxが変動してしまうことを抑制することができる。
【0199】
従って、本実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0200】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について図12、図13に基づいて説明する。図12は、第1実施形態の図9、および第2実施形態の図11に対応する制御フローを示すフローチャートである。なお、本実施形態では、図9および図11と同様または均等な部分についての説明を省略、または簡略化して説明する。
【0201】
本願の「背景技術」の欄にて説明した技術(特許文献1)の如く、車両の停車中において、圧縮機11の回転数に制限を加える案がある。しかしながら、車両の停車中において、車両における空調熱負荷が高い場合であっても、圧縮機11の回転数に一律に制限を加えると、ユーザの空調フィーリングが著しく悪化してしまう虞がある。
【0202】
そこで、本実施形態では、車両の停車中においても空調熱負荷を考慮して圧縮機11の回転数の上限値を調整することで、車両の停車中におけるユーザの空調フィーリングの悪化を抑制することを目的とする。
【0203】
本実施形態の制御ステップS11について説明すると、図12に示すように、ステップS112にて、回転数変化量Δf_Hを求めた後、ステップS123にて、所定の時定数(本実施形態では60秒)を用いて、空調熱負荷(日射量、車室内温度、外気温等)の変化を鈍化させる遅れ処理(時定数処理)を行う。このステップS123の詳細については、図13のフローチャートに基づいて説明する。
【0204】
ステップS123の処理では、まず、ステップS1232にて、日射センサ53にて検出した検出値に対して、その変化を所定の時定数(本実施形態では60秒)を用いて鈍化させる遅れ処理を行う。具体的には、図13のステップS1232中に示す数式を用いて行う。この遅れ処理によって算出された補正日射量f(日射)は、日射センサ53の検出値の変化に対して鈍化した速度(遅れた速度)となる。なお、図13のステップS1232中に示す数式における日射NEWは、今回日射センサ53で検出した日射量を示し、日射OLDは、前回日射センサ53で検出した日射量を示している。
【0205】
次のステップS1234では、内気センサ51にて検出した検出値(車室内温度)に対して、その変化を所定の時定数(本実施形態では60秒)を用いて鈍化させる遅れ処理を行う。具体的には、図13のステップS1234中に示す数式を用いて行う。この遅れ処理によって算出された補正車室内温度f(車室内温度)は、内気センサ51の検出値の変化に対して鈍化した速度(遅れた速度)となる。なお、図13のステップS1234中に示す数式における車室内温度NEWは、今回内気センサ51で検出した車室内温度を示し、車室内温度OLDは、前回内気センサ51で検出した車室内温度を示している。
【0206】
次のステップS1236では、外気センサ52にて検出した検出値(外気温)に対して、その変化を所定の時定数(本実施形態では60秒)を用いて鈍化させる遅れ処理を行う。具体的には、図13のステップS1236中に示す数式を用いて行う。この遅れ処理によって算出された補正外気温f(外気温)は、外気センサ52の検出値の変化に対して鈍化した速度(遅れた速度)となる。なお、図13のステップS1236中に示す数式における外気温NEWは、今回外気センサ52で検出した外気温を示し、外気温OLDは、前回外気センサ52で検出した外気温を示している。なお、f(日射)、f(車室内温度)、f(外気温)それぞれの更新は1秒毎の制御周期で実行される。
【0207】
次のステップS1238では、ステップS1232〜S1236にて算出したf(日射)、f(車室内温度)、f(外気温)に基づいて、車両の空調熱負荷の状態を示す補正空調熱負荷TAO_Cを算出する。例えば、図13のステップS1238中に示す数式によって算出することができる。なお、TAO_Cは、車室内温度Tsetから各補正値(f(日射)、f(車室内温度)、f(外気温))に係数を乗じた値を減算したものであり、TAO_Cの値が大きいほど空調熱負荷が低い状態を示し、小さいほど空調熱負荷が高い状態を示す。
【0208】
図12に戻り、ステップS124にて、車両が停車中であるか否か、すなわち車速センサ71の検出値が「0」kmであるか否かを判定する。この結果、車両が停車中でないと判定された場合(S124:NO)には、ステップS125にて圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを「10000」rpmに設定して、ステップS116に移行する。
【0209】
一方、ステップS124の判定処理にて、車両が停車中と判定された場合(S124:YES)には、ステップS126にて、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxをTAO_Cに応じて段階的に変化させて、ステップS116に移行する。
【0210】
具体的には、ステップS126では、TAO_Cの値が小さく、空調熱負荷が大きい状態では、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを高めに設定する。一方、TAO_Cの値が小さく、空調熱負荷が小さい状態では、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを低めに設定する。
【0211】
例えば、ステップS126中に示すように、TAO_Cの値が「−10」から「−20」に低下した場合、空調熱負荷が増大していると判断できるので、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを「8000」rpmに設定する。一方、TAO_Cの値が「−20」から「−10」まで増大した場合、空調熱負荷が減少していると判断できるので、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを「6000」rpmに設定する。
【0212】
ここで、TAO_Cは、日射量、車室内温度、外気温といった空調熱負荷に対して時定数を用いて遅れ処理を行ったf(日射)、f(車室内温度)、f(外気温)に基づいて算出している。このため、空調熱負荷のハンチングや一時的な変動に対する変化が小さいので、空調熱負荷の変動によって、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxが頻繁に変化することを抑制することができる。
【0213】
また、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを高く設定する際の閾値を、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを低く設定する際の閾値よりも小さくしているので、空調熱負荷の変動による圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxが頻繁に変化してしまうことをより効果的に抑制することができる。
【0214】
また、上記の説明から明らかなように、ステップS126で決定される車両停車中における圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxは、車両走行中における圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxよりも低い値に決定される。このため、車両停車中には、車両走行中に比べて、ユーザにとって耳障りとなり易い圧縮機11の作動音を低下させることができ、ユーザにとって耳障な車両用空調装置1の騒音を低減することができる。
【0215】
次に、ステップS116の判定処理にて、冷房モードであると判定された場合(S116:YES)には、ステップS117にて、ステップS111で決定したΔf_Cを圧縮機11の回転数変化量Δfに設定する。一方、ステップS116の判定処理にて、冷房モードでないと判定された場合(S116:NO)には、ステップS118にて、ステップS112で決定したΔf_Hを圧縮機11の回転数変化量Δfに設定する。
【0216】
次のステップS119では、前回の圧縮機回転数fn−1に回転数変化量Δfを加えた値とステップS125およびS126にて決定された上限値IVOmaxとを比較して、小さい方の値を、今回の圧縮機回転数[rpm]に決定して、ステップS12へ移行する。
【0217】
ここで、本実施形態のステップS11のうち、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを設定する制御ステップS125、および制御ステップS126が、圧縮機11の回転数の上限値を設定する回転数制限設定手段を構成している。
【0218】
以上説明した本実施形態によれば、車両の停車中には、車両における空調熱負荷の変動に応じて圧縮機11の上限値を変化させるので、車両の停車中におけるユーザの空調フィーリングの悪化を抑制することができる。
【0219】
さらに、内気センサ51、外気センサ52、日射センサ53といった空調熱負荷を検出する各センサ(空調熱負荷検出手段)の検出値の変化を鈍化させた補正空調熱負荷の変動に応じて、圧縮機11の回転数の上限値を変化させるので、一時的な車両の空調熱負荷の変動によって、圧縮機11の回転数の上限値が変動してしまうことを抑制することができる。
【0220】
一方、空調熱負荷が小さい場合には、圧縮機11の回転数の上限値を低下させるので、車両の停車中における圧縮機11の作動音を低減することができる。
【0221】
従って、車室内の空調性能を充分に確保しつつ、ユーザにとって耳障りな車両用空調装置1の騒音の低減を図ることができる。
【0222】
また、本実施形態では、各センサ51〜53の検出値の変化を鈍化させた補正空調熱負荷の増加に応じて、圧縮機11の回転数の上限値を上昇させるので、空調熱負荷のハンチング等によって車速の変化による圧縮機11の回転数の上限値が頻繁に変化することが抑制される。このため、室内蒸発器26の温度変化が小さくなり、室内蒸発器26の温度が室内蒸発器26に付着した凝縮水の露点温度にまで上昇することを抑制することができる。この結果、本実施形態の構成によれば、室内蒸発器26に付着した凝縮水が乾く際の悪臭の発生についても抑制することが可能となる。
【0223】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各請求項に記載した範囲を逸脱しない限り、各請求項の記載文言に限定されず、当業者がそれらから容易に置き換えられる範囲にも及び、かつ、当業者が通常有する知識に基づく改良を適宜付加することができる。例えば、以下のように種々変形可能である。
【0224】
(1)上述の第1、第2実施形態では、制御ステップS11において、エコモードが設定されている場合には、エコモードが設定されていない場合に比べて、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを低下させているが、これに限定されない。
【0225】
例えば、車両用空調装置の運転モードとして、車室内の騒音を静音化する静音モードを設け、当該静音モードが設定されている場合に、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを低下させてもよい。また、エコモードの設定の有無によらず、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを一律に低下させてもよい。
【0226】
(2)上述の第1実施形態では、制御ステップS11のステップS114およびS115において、制御ハンチングの抑制を図るために、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを上昇させる際の第1閾値と、低下させる際の第2閾値とにヒステリシス域を設けているが、例えば、制御ハンチングが無視できる程度に小さいような場合には、ヒステリシス域を無くしてもよい。
【0227】
(3)上述の第3実施形態では、車両走行中における圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを一定値としているが、これに限定されない。例えば、車両走行中においては、第1、第2実施形態と同様に、車速の増加に応じて、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを増大させるようにしてもよい。
【0228】
これによると、車両の低速走行時における車両用空調装置1の騒音を低減することができるので、ユーザにとって耳障りな車両用空調装置1の騒音をより効果的に低減することができる。
【0229】
(4)上述の第3実施形態では、空調熱負荷である車室内温度、外気温、日射量それぞれを遅れ処理して、補正空調熱負荷TAO_Cを算出しているが、これに限定されず、例えば、車室内温度、外気温、日射量のうち、少なくとも1つを遅れ処理して補正空調熱負荷を算出するようにしてもよい。
【0230】
(5)上述の各実施形態では、冷房モード、暖房モード、第1除湿モードおよび第2除湿モードの冷媒回路を切替可能に構成された冷凍サイクル10を採用した例を説明したが、本実施形態では、冷媒回路の切替機能を有していない冷凍サイクル10を採用してもよい。例えば、圧縮機11、室外熱交換器16、温度式膨張弁27、室内蒸発器26をこの順で環状に接続した冷凍サイクル10を採用してもよい。つまり、上述の各実施形態における冷房モードを実現可能な構成としてもよい。
【0231】
このように、送風機車室内へ送風される送風空気を冷却する冷房モードを実現する機能に特化された冷凍サイクル10を採用する車両用空調装置1であっても、上述の各実施形態に記載された制御態様を適用することで、上述の各実施形態に記載された効果を得ることができる。
【0232】
(6)上述の各実施形態では、冷媒回路を切り替えることによって車室内へ送風される送風空気を加熱あるいは冷却する冷凍サイクル10を採用した例を説明したが、もちろん、圧縮機11吐出冷媒を放熱させる放熱器を室内熱交換器として、冷媒を蒸発させる蒸発器を室外熱交換器として送風空気を加熱するヒートポンプサイクルを採用してもよい。
【0233】
(7)上述の実施形態では、本発明の車両用空調装置1を、プラグインハイブリッド車両の車両走行用の駆動力について詳細を述べていないが、本発明の車両用空調装置1は、エンジンEGおよび走行用電動モータの双方から直接駆動力を得て走行可能な、いわゆるパラレル型のハイブリッド車両に適用してもよいし、エンジンEGを発電機80の駆動源として用い、発電された電力をバッテリ81に蓄え、さらに、バッテリ81に蓄えられた電力を供給されることによって作動する走行用電動モータから駆動力を得て走行する、いわゆるシリアル型のハイブリッド車両に適用してもよい。
【符号の説明】
【0234】
10 冷凍サイクル
11 圧縮機
50a 圧縮機制御手段(回転数制御手段)
51 内気センサ(空調熱負荷検出手段)
52 外気センサ(空調熱負荷検出手段)
53 日射センサ(空調熱負荷検出手段)
S114 回転数制限設定手段
S115 回転数制限設定手段
S121 回転数制限設定手段
S122 回転数制限設定手段
S125 回転数制限設定手段
S126 回転数制限設定手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用空調装置では、車両に搭載されたバッテリ(蓄電手段)から電力供給されて駆動する電動圧縮機を備えるものがある。電動圧縮機は、その作動時に発する音(作動音)が大きく、特に、車両の停車時において、電動圧縮機の回転数が高回転となると作動音も増大するので、車室内空間の快適性を害するといった問題がある。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1では、車両の停車中における電動圧縮機の回転数を、電動圧縮機の運転可能範囲の80%以下に制限することで、車両の停車中における騒音の低減を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−237356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1では、停車中において、圧縮機の回転数に制限を加える構成としているが、例えば、車両の低速走行時等のように、走行時のロードノイズや風切り音が小さい条件において、圧縮機の回転数が高回転となると、その作動音によって、車室内空間の快適性が害される虞がある。
【0006】
これに対して、車両の停車中に限らず、圧縮機の回転数に一律に制限を加えると、車両用空調装置の空調性能が制限されるので、車室内の空調性能を充分に確保することができなくなってしまう。
【0007】
本発明は上記点に鑑みて、車室内の空調性能を充分に確保しつつ、ユーザにとって耳障りな車両用空調装置の騒音の低減を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、電力が供給されることによって冷媒を圧縮して吐出する圧縮機(11)を含んで構成される蒸気圧縮式の冷凍サイクル(10)と、圧縮機(11)の回転数の上限値を設定する回転数制限設定手段(S114、S115)と、上限値以下の範囲で圧縮機(11)の回転数を制御する回転数制御手段(50a)と、を備え、回転数制限設定手段(S114、S115)は、車両の速度を検出する車速検出手段(71)の検出値の増加に応じて上限値を段階的に上昇させることを特徴とする。
【0009】
これによると、車両の速度の増加に応じて、圧縮機(11)の回転数の上限値を上昇させるので、車両が停車、又は低速で走行している条件(圧縮機(11)の作動音がユーザにとって耳障りとなり易い条件)では、車両用空調装置の騒音を低減することができる。一方、車両が高速で走行し、ロードノイズが大きくなる条件(圧縮機(11)の作動音がユーザにとって耳障りとなり難い条件)では、圧縮機(11)の回転数を上昇させることができる。
【0010】
さらに、圧縮機(11)の回転数の上限値を段階的に上昇させることによって、一時的な車両の速度の変動によって、圧縮機(11)の回転数の上限値が変動してしまうことを抑制することができる。
【0011】
従って、車室内の空調性能を充分に確保しつつ、ユーザにとって耳障りな車両用空調装置の騒音の低減を図ることができる。
【0012】
また、請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、回転数制限設定手段(S114、S115)は、車両の速度が上昇する速度上昇過程において、予め設定された第1閾値を上回った際に上限値を高くし、車両の速度が低下する速度低下過程において、予め第1閾値よりも高い値に設定された第2閾値を下回った際に上限値を低くすることを特徴とする。
【0013】
このように、圧縮機(11)の回転数の上限値を上昇させる際の閾値を、上限値を低下させる際の閾値よりも低い値とすることで、車速のブレ(ハンチング)によって、圧縮機(11)の上限値が頻繁に変更されることを抑制することができる。
【0014】
また、請求項3に記載の発明では、電力が供給されることによって冷媒を圧縮して吐出する圧縮機(11)を含んで構成される蒸気圧縮式の冷凍サイクル(11)と、圧縮機(11)の回転数の上限値を設定する回転数制限設定手段(S121、S122)と、上限値以下の範囲で圧縮機(11)の回転数を制御する回転数制御手段(50a)と、を備え、回転数制限設定手段(S121、S122)は、車速検出手段(71)の検出値の変化を鈍化させた補正速度を算出する遅れ処理を行うと共に、遅れ処理にて算出した補正速度の増加に応じて上限値を上昇させることを特徴とする。
【0015】
これによると、車両の速度の増加に応じて、圧縮機(11)の回転数の上限値を上昇させるので、車両が停車、又は低速で走行している条件では、圧縮機(11)の作動音を低減することができると共に、車両が高速で走行し、ロードノイズが大きくなる条件では、圧縮機(11)の回転数を上昇させることができる。
【0016】
さらに、車速検出手段(71)の検出値の変化を鈍化させた補正速度の増加に応じて、圧縮機(11)の回転数の上限値を上昇させるので、一時的な車両の速度の変動によって、圧縮機(11)の回転数の上限値が変動してしまうことを抑制することができる。
【0017】
従って、車室内の空調性能を充分に確保しつつ、ユーザにとって耳障りな車両用空調装置の騒音の低減を図ることができる。
【0018】
ここで、従来技術(特許文献1)の如く、車両の停車中において、車両における空調熱負荷によらず、圧縮機の回転数に一律な制限を加えると、ユーザの空調フィーリングが著しく悪化してしまう虞がある。
【0019】
そこで、請求項4に記載の発明では、電力が供給されることによって冷媒を圧縮して吐出する圧縮機(11)を含んで構成される蒸気圧縮式の冷凍サイクル(10)と、圧縮機(11)の回転数の上限値を設定する回転数制限設定手段(S125、S126)と、上限値以下の範囲で圧縮機(11)の回転数を制御する回転数制御手段(50a)と、を備え、回転数制限設定手段(S125、S126)は、車両の停車中において、車両における空調熱負荷を検出する空調熱負荷検出手段(51〜53)の検出値の変化を鈍化させた補正空調熱負荷を算出する遅れ処理を行うと共に、遅れ処理にて算出した補正空調熱負荷の変動に応じて上限値を変化させることを特徴とする。
【0020】
これによると、車両の停車中には、車両における空調熱負荷の変動に応じて電動導圧縮機(11)の上限値を変化させるので、車両の停車中におけるユーザの空調フィーリングの悪化を抑制することができる。
【0021】
さらに、空調熱負荷検出手段()の検出値の変化を鈍化させた補正空調熱負荷の変動に応じて、圧縮機(11)の回転数の上限値を変化させるので、一時的な車両の空調熱負荷の変動によって、圧縮機(11)の回転数の上限値が変動してしまうことを抑制することができる。
【0022】
従って、車室内の空調性能を充分に確保しつつ、ユーザにとって耳障りな車両用空調装置の騒音の低減を図ることができる。
【0023】
具体的には、請求項5に記載の発明のように、請求項4に記載の車両用空調装置において、空調熱負荷として、車室内への日射量、車室内温度、車室外温度のうち少なくとも1つを採用することができる。
【0024】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施形態の車両用空調装置の冷房モード時の冷媒回路を示す全体構成図である。
【図2】第1実施形態の車両用空調装置の暖房モード時の冷媒回路を示す全体構成図である。
【図3】第1実施形態の車両用空調装置の第1除湿モード時の冷媒回路を示す全体構成図である。
【図4】第1実施形態の車両用空調装置の第2除湿モード時の冷媒回路を示す全体構成図である。
【図5】第1実施形態の車両用空調装置の電気制御部を示すブロック図である。
【図6】第1実施形態のPTCヒータの回路図である。
【図7】第1実施形態の車両用空調装置の制御処理を示すフローチャートである。
【図8】第1実施形態の車両用空調装置の制御処理の要部を示すフローチャートである。
【図9】第1実施形態の車両用空調装置の制御処理の別の要部を示すフローチャートである。
【図10】第1実施形態の各運転モードにおける各電磁弁の作動状態を示す図表である。
【図11】第2実施形態の車両用空調装置の制御処理の要部を示すフローチャートである。
【図12】第3実施形態の車両用空調装置の制御処理の要部を示すフローチャートである。
【図13】第3実施形態の空調熱負荷の遅れ処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、図中、同一符号を付してある。
【0027】
(第1実施形態)
図1〜図10により、本発明の第1実施形態を説明する。本実施形態では、本発明の車両用空調装置1を、内燃機関(エンジン)EGおよび走行用電動モータから車両走行用の駆動力を得るハイブリッド車両に適用している。本実施形態のハイブリッド車両は、車両停車時に外部電源(商用電源)から供給された電力をバッテリ81に充電することのできる、いわゆるプラグインハイブリッド車両として構成されている。
【0028】
さらに、本実施形態のプラグインハイブリッド車両は、車両走行開始前の車両停車時にバッテリ81に充電しておくことによって、走行開始時のようにバッテリ81の蓄電残量が予め定めた所定残量以上になっているときには、主にバッテリ81から供給される電力によって作動する走行用電動モータの駆動力によって走行する(以下、この運転モードをEV運転モードという)。
【0029】
一方、車両走行中にバッテリ81の蓄電残量が予め定めた所定残量よりも低くなったときには、主にエンジンEGの駆動力によって走行する(以下、この運転モードをHV運転モードという)。このように、EV運転モードとHV運転モードとを切り換えることによって、車両走行用の駆動力をエンジンEGのみから得る通常の車両に対してエンジンEGの燃料消費量を抑制して、車両燃費を向上させている。
【0030】
なお、EV運転モードは、主に走行用電動モータが出力する駆動力によって車両を走行させる運転モードであるが、車両走行負荷が高負荷となった際にはエンジンEGを作動させて走行量電動モータを補助する。同様に、HV運転モードは、主にエンジンEGが出力する駆動力によって車両を走行させる運転モードであるが、車両走行負荷が高負荷となった際には走行用電動モータを作動させてエンジンEGを補助する。このようなエンジンEGおよび走行用電動モータの作動は、図示しないエンジン制御装置によって制御される。
【0031】
また、エンジンEGから出力される駆動力は、車両走行用として用いられるのみならず、発電機80を作動させるためにも用いられる。そして、発電機80にて発電された電力および外部電源から供給された電力は、バッテリ81に蓄えることができ、バッテリ81に蓄えられた電力は、走行用電動モータのみならず、車両用空調装置1を構成する各構成機器(空調手段)をはじめとする各種車載機器に供給できる。
【0032】
次に、本実施形態の車両用空調装置1の詳細構成を説明する。この車両用空調装置1は、車両走行時に車室内の空調を行う通常空調の他に、外部電源からバッテリ81への充電中に、ユーザ(乗員)が車両に乗り込む前に車室内の空調を行うプレ空調を実行可能に構成されている。なお、本実施形態のプレ空調は、外部電源からバッテリ81への充電中でなくとも実行可能となっている。
【0033】
車両用空調装置1は、通常空調、およびプレ空調において、車室内を冷房する冷房モード(COOLサイクル)、車室内を暖房する暖房モード(HOTサイクル)、車室内を除湿する第1除湿モード(DRY_EVAサイクル)および第2除湿モード(DRY_ALLサイクル)の冷媒回路を切替可能に構成された蒸気圧縮式の冷凍サイクル10を備えている。
【0034】
図1〜図4は、それぞれ、冷房モード、暖房モード、第1、第2除湿モード時の冷媒の流れを実線矢印で示している。なお、第1除湿モードは、暖房能力に対して除湿能力を優先する除湿モードであり、第2除湿モードは、除湿能力に対して暖房能力を優先する除湿モードである。従って、第1除湿モードを低温除湿モードあるいは単なる除湿モード、第2除湿モードを高温除湿モードあるいは除湿暖房モードと表現することもできる。
【0035】
冷凍サイクル10は、圧縮機11、室内熱交換器としての室内凝縮器12および室内蒸発器26、冷媒を減圧膨張させる減圧手段としての温度式膨張弁27および固定絞り14、並びに、冷媒回路切替手段としての複数(本実施形態では5つ)の電磁弁13、17、20、21、24等を備えている。
【0036】
また、この冷凍サイクル10では、冷媒として通常のフロン系冷媒を採用しており、高圧側冷媒圧力が冷媒の臨界圧力を超えない亜臨界冷凍サイクルを構成している。さらに、この冷媒には圧縮機11を潤滑するための冷凍機油が混入されており、この冷凍機油の一部は冷媒とともにサイクルを循環している。
【0037】
圧縮機11は、エンジンルーム内に配置され、冷凍サイクル10において冷媒を吸入し、圧縮して吐出するもので、吐出容量が固定された固定容量型圧縮機構11aを電動モータ11bにて駆動する電動圧縮機として構成されている。固定容量型圧縮機構11aとしては、具体的に、スクロール型圧縮機構、ベーン型圧縮機構等の各種圧縮機構を採用できる。
【0038】
電動モータ11bは、インバータ61から出力される交流電圧によって、その作動(回転数)が制御される交流モータである。また、インバータ61は、後述する空調制御装置50から出力される制御信号に応じた周波数の交流電圧を出力する。そして、この回転数制御によって、圧縮機11の冷媒吐出能力が変更される。従って、電動モータ11bは、圧縮機11の吐出能力変更手段を構成している。
【0039】
圧縮機11の吐出側には、室内凝縮器12の冷媒入口側が接続されている。室内凝縮器12は、車両用空調装置の室内空調ユニット30において車室内へ送風される送風空気の空気通路を形成するケーシング31内に配置されて、その内部を流通する冷媒と後述する室内蒸発器26通過後の送風空気とを熱交換させることで送風空気を加熱する加熱用熱交換器である。なお、室内空調ユニット30の詳細については後述する。
【0040】
室内凝縮器12の冷媒出口側には、電気式三方弁13が接続されている。この電気式三方弁13は、空調制御装置50から出力される制御電圧によって、その作動が制御される冷媒回路切替手段である。
【0041】
より具体的には、電気式三方弁13は、電力が供給される通電状態では、室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続する冷媒回路に切り替え、電力の供給が停止される非通電状態では、室内凝縮器12の冷媒出口側と第1三方継手15の1つの冷媒流入出口との間を接続する冷媒回路に切り替える。
【0042】
固定絞り14は、暖房モード、第1および第2除湿モード時に、電気式三方弁13から流出した冷媒を減圧膨張させる暖房除湿用の減圧手段である。この固定絞り14としては、キャピラリチューブ、オリフィス等を採用できる。もちろん、暖房除湿用の減圧手段として、空調制御装置50から出力される制御信号によって絞り通路面積が調整される電気式の可変絞り機構を採用してもよい。固定絞り14の冷媒出口側には、後述する第3三方継手23の冷媒流入出口が接続されている。
【0043】
第1三方継手15は、3つの冷媒流入出口を有し、冷媒流路を分岐する分岐部として機能するものである。このような三方継手は、冷媒配管を接合して構成してもよいし、金属ブロックや樹脂ブロックに複数の冷媒通路を設けて構成してもよい。また、第1三方継手15の別の冷媒流入出口には、室外熱交換器16の一方の冷媒流入出口が接続され、さらに別の冷媒流入出口には、低圧電磁弁17の冷媒入口側が接続されている。
【0044】
低圧電磁弁17は、冷媒流路を開閉する弁体部と、弁体部を駆動するソレノイド(コイル)を有し、空調制御装置50から出力される制御電圧によって、その作動が制御される冷媒回路切替手段である。より具体的には、低圧電磁弁17は、通電状態で開弁して非通電状態で閉弁する、いわゆるノーマルクローズ型の開閉弁として構成されている。
【0045】
低圧電磁弁17の冷媒出口側には、第1逆止弁18を介して、後述する第5三方継手28の1つの冷媒流入出口が接続されている。この第1逆止弁18は、低圧電磁弁17側から第5三方継手28側へ冷媒が流れることのみを許容している。
【0046】
室外熱交換器16は、エンジンルーム内に配置されて、内部を流通する冷媒と送風ファン16aから送風された車室外空気(外気)とを熱交換させるものである。送風ファン16aは、空調制御装置50から出力される制御電圧によって回転数(送風空気量)が制御される電動式送風機である。
【0047】
さらに、本実施形態の送風ファン16aは、室外熱交換器16のみならず、エンジンEGの冷却水を放熱させるラジエータ(図示せず)にも室外空気を送風している。具体的には、送風ファン16aから送風された車室外空気は、室外熱交換器16→ラジエータの順に流れる。
【0048】
また、図1〜図4の破線で示す冷却水回路には、冷却水を循環させるための冷却水ポンプが配置されている。この冷却水ポンプ40aは、空調制御装置50から出力される制御電圧によって回転数(冷却水循環量)が制御される電動式の水ポンプである。
【0049】
室外熱交換器16の他方の冷媒流入出口には、第2三方継手19の1つの冷媒流入出口が接続されている。この第2三方継手19の基本的構成は、第1三方継手15と同様である。また、第2三方継手19の別の冷媒流入出口には、高圧電磁弁20の冷媒入口側が接続され、さらに別の冷媒流入出口には、熱交換器遮断電磁弁21の一方の冷媒流入出口が接続されている。
【0050】
高圧電磁弁20および熱交換器遮断電磁弁21は、空調制御装置50から出力される制御電圧によって、その作動が制御される冷媒回路切替手段であり、その基本的構成は、低圧電磁弁17と同様である。但し、高圧電磁弁20および熱交換器遮断電磁弁21は、通電状態で閉弁して非通電状態で開弁する、いわゆるノーマルオープン型の開閉弁として構成されている。
【0051】
高圧電磁弁20の冷媒出口側には、第2逆止弁22を介して、後述する温度式膨張弁27の絞り機構部入口側が接続されている。この第2逆止弁22は、高圧電磁弁20側から温度式膨張弁27側へ冷媒が流れることのみを許容している。
【0052】
熱交換器遮断電磁弁21の他方の冷媒流入出口には、第3三方継手23の1つの冷媒流入出口が接続されている。この第3三方継手23の基本的構成は、第1三方継手15と同様である。また、第3三方継手23の別の冷媒流入出口には、前述の如く、固定絞り14の冷媒出口側が接続され、さらに別の冷媒流入出口には、除湿電磁弁24の冷媒入口側が接続されている。
【0053】
除湿電磁弁24は、空調制御装置50から出力される制御電圧によって、その作動が制御される冷媒回路切替手段であり、その基本的構成は、低圧電磁弁17と同様である。さらに、除湿電磁弁24もノーマルクローズ型の開閉弁として構成されている。そして、本実施形態の冷媒回路切替手段は、電力の供給が停止されると予め定めた開弁状態あるいは閉弁状態となる電気式三方弁13、低圧電磁弁17、高圧電磁弁20、熱交換器遮断電磁弁21、除湿電磁弁24の複数(5つ)の電磁弁によって構成される。
【0054】
除湿電磁弁24の冷媒出口側には、第4三方継手25の1つの冷媒流入出口が接続されている。この第4三方継手25の基本的構成は、第1三方継手15と同様である。また、第4三方継手25の別の冷媒流入出口には、温度式膨張弁27の絞り機構部出口側が接続され、さらに別の冷媒流入出口には、室内蒸発器26の冷媒入口側が接続されている。
【0055】
室内蒸発器26は、室内空調ユニット30のケーシング31内のうち、室内凝縮器12の送風空気流れ上流側に配置されて、その内部を流通する冷媒と送風空気とを熱交換させて送風空気を冷却する冷却用熱交換器である。
【0056】
室内蒸発器26の冷媒出口側には、温度式膨張弁27の感温部入口側が接続されている。温度式膨張弁27は、絞り機構部入口から内部へ流入した冷媒を減圧膨張させて絞り機構部出口から外部へ流出させる冷房用の減圧手段である。
【0057】
より具体的には、本実施形態では、温度式膨張弁27として、室内蒸発器26出口側冷媒の温度および圧力に基づいて室内蒸発器26出口側冷媒の過熱度を検出する感温部27aと、感温部27aの変位に応じて室内蒸発器26出口側冷媒の過熱度が予め定めた所定範囲となるように絞り通路面積(冷媒流量)を調整する可変絞り機構部27bとを1つのハウジング内に収容した内部均圧型膨張弁を採用している。
【0058】
温度式膨張弁27の感温部出口側には、第5三方継手28の1つの冷媒流入出口が接続されている。この第5三方継手28の基本的構成は、第1三方継手15と同様である。また、第5三方継手28の別の冷媒流入出口には、前述の如く、第1逆止弁18の冷媒出口側が接続され、さらに別の冷媒流入出口には、アキュムレータ29の冷媒入口側が接続されている。
【0059】
アキュムレータ29は、第5三方継手28から、その内部に流入した冷媒の気液を分離して、余剰冷媒を蓄える低圧側気液分離器である。さらに、アキュムレータ29の気相冷媒出口には、圧縮機11の冷媒吸入口が接続されている。
【0060】
次に、室内空調ユニット30について説明する。室内空調ユニット30は、車室内最前部の計器盤(インストルメントパネル)の内側に配置されて、その外殻を形成するケーシング31内に送風機32、前述の室内蒸発器26、室内凝縮器12、ヒータコア36、PTCヒータ37等を収容したものである。
【0061】
ケーシング31は、車室内に送風される送風空気の空気通路を形成しており、ある程度の弾性を有し、強度的にも優れた樹脂(例えば、ポリプロピレン)にて成形されている。ケーシング31内の送風空気流れ最上流側には、内気(車室内空気)と外気(車室外空気)とを切替導入する図示しない内外気切替箱が配置されている。
【0062】
より具体的には、内外気切替箱には、ケーシング31内に内気を導入させる内気導入口および外気を導入させる外気導入口が形成されている。さらに、内外気切替箱の内部には、内気導入口および外気導入口の開口面積を連続的に調整して、内気の風量と外気の風量との風量割合を変化させる内外気切替ドアが配置されている。
【0063】
従って、内外気切替ドアは、ケーシング31内に導入される内気の風量と外気の風量との風量割合を変化させる吸込口モードを切り替える風量割合変更手段を構成する。より具体的には、内外気切替ドアは、内外気切替ドア用の電動アクチュエータ62によって駆動され、この電動アクチュエータ62は、空調制御装置50から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
【0064】
また、吸込口モードとしては、内気導入口を全開とするとともに外気導入口を全閉としてケーシング31内へ内気を導入する内気モード、内気導入口を全閉とするとともに外気導入口を全開としてケーシング31内へ外気を導入する外気モード、さらに、内気モードと外気モードとの間で、内気導入口および外気導入口の開口面積を連続的に調整することにより、内気と外気の導入比率を連続的に変化させる内外気混入モードがある。
【0065】
内外気切替箱の空気流れ下流側には、内外気切替箱を介して吸入した空気を車室内へ向けて送風する送風機32が配置されている。この送風機32は、遠心多翼ファン(シロッコファン)を電動モータにて駆動する電動送風機であって、空調制御装置50から出力される制御電圧によって回転数(送風量)が制御される。
【0066】
送風機32の空気流れ下流側には、前述の室内蒸発器26が配置されている。さらに、室内蒸発器26の空気流れ下流側には、室内蒸発器26通過後の空気を流す加熱用冷風通路33、冷風バイパス通路34といった空気通路、並びに、加熱用冷風通路33および冷風バイパス通路34から流出した空気を混合させる混合空間35が形成されている。
【0067】
加熱用冷風通路33には、室内蒸発器26通過後の空気を加熱するための加熱手段としてのヒータコア36、室内凝縮器12、およびPTCヒータ37が、送風空気流れ方向に向かってこの順で配置されている。ヒータコア36は、車両走行用駆動力を出力するエンジンEGの冷却水と室内蒸発器26通過後の空気とを熱交換させて、室内蒸発器26通過後の空気を加熱する加熱用熱交換器である。
【0068】
また、PTCヒータ37は、PTC素子(正特性サーミスタ)を有し、このPTC素子に電力を供給されることによって発熱して、室内凝縮器12通過後の空気を加熱する電気ヒータである。なお、本実施形態のPTCヒータ37は、複数本(具体的には3本)設けられており、空調制御装置50が、通電するPTCヒータ37の本数を変化させることによって、複数のPTCヒータ37全体としての加熱能力が制御される。
【0069】
より具体的には、このPTCヒータ37は、図5に示すように、複数(本実施形態では、3本)のPTCヒータ37a、37b、37cから構成されている。なお、図5は、本実施形態のPTCヒータ37の電気的接続態様を示す回路図である。また、本実施形態のPTCヒータ37を作動させるために必要な消費電力は、冷凍サイクル10の圧縮機11を作動させるために必要な消費電力よりも少ない。
【0070】
図5に示すように、各PTCヒータ37a、37b、37cの正極側はバッテリ81側に接続され、負極側は各PTCヒータ37a、37b、37cが有する各スイッチ素子SW1、SW2、SW3を介して、グランド側へ接続されている。各スイッチ素子SW1、SW2、SW3は、各PTCヒータ37a、37b、37cが有する各PTC素子h1、h2、h3の通電状態(ON状態)と非通電状態(OFF状態)とを切り替えるものである。
【0071】
さらに、各スイッチ素子SW1、SW2、SW3の作動は、空調制御装置50から出力される制御信号によって、独立して制御される。従って、空調制御装置50は、各スイッチ素子SW1、SW2、SW3の通電状態と非通電状態とを独立に切り替えることによって、各PTCヒータ37a、15b、15cのうち、通電状態となり加熱能力を発揮するものを切り替えて、PTCヒータ37全体としての加熱能力を変化させることができる。
【0072】
一方、冷風バイパス通路34は、室内蒸発器26通過後の空気を、ヒータコア36、室内凝縮器12、およびPTCヒータ37を通過させることなく、混合空間35に導くための空気通路である。従って、混合空間35にて混合された送風空気の温度は、加熱用冷風通路33を通過する空気および冷風バイパス通路34を通過する空気の風量割合によって変化する。
【0073】
そこで、本実施形態では、室内蒸発器26の空気流れ下流側であって、加熱用冷風通路33および冷風バイパス通路34の入口側に、加熱用冷風通路33および冷風バイパス通路34へ流入させる冷風の風量割合を連続的に変化させるエアミックスドア38を配置している。
【0074】
従って、エアミックスドア38は、混合空間35内の空気温度(車室内へ送風される送風空気の温度)を調整する温度調整手段を構成する。より具体的には、エアミックスドア38は、エアミックスドア用の電動アクチュエータ63によって駆動され、この電動アクチュエータ63は、空調制御装置50から出力される制御信号によって、その作動が制御される。
【0075】
さらに、ケーシング31の送風空気流れ最下流部には、混合空間35から冷却対象空間である車室内へ温度調整された送風空気を吹き出す吹出口(図示せず)が配置されている。この吹出口としては、具体的に、車室内のユーザの上半身に向けて空調風を吹き出すフェイス吹出口、ユーザの足元に向けて空調風を吹き出すフット吹出口、および、車両前面窓ガラス内側面に向けて空調風を吹き出すデフロスタ吹出口が設けられている。
【0076】
また、フェイス吹出口、フット吹出口、およびデフロスタ吹出口の空気流れ上流側には、それぞれ、フェイス吹出口の開口面積を調整するフェイスドア、フット吹出口の開口面積を調整するフットドア、デフロスタ吹出口の開口面積を調整するデフロスタドア(いずれも図示せず)が配置されている。
【0077】
これらのフェイスドア、フットドア、デフロスタドアは、吹出口モードを切替える吹出口モード切替手段を構成するものであって、図示しないリンク機構を介して、吹出口モードドア駆動用の電動アクチュエータ64に連結されて連動して回転操作される。なお、この電動アクチュエータ64も、空調制御装置50から出力される制御信号によってその作動が制御される。
【0078】
また、吹出口モードとしては、フェイス吹出口を全開してフェイス吹出口から車室内のユーザの上半身に向けて空気を吹き出すフェイスモード、フェイス吹出口とフット吹出口の両方を開口して車室内のユーザの上半身と足元に向けて空気を吹き出すバイレベルモード、フット吹出口を全開するとともにデフロスタ吹出口を小開度だけ開口して、フット吹出口から主に空気を吹き出すフットモード、およびフット吹出口およびデフロスタ吹出口を同程度開口して、フット吹出口およびデフロスタ吹出口の双方から空気を吹き出すフットデフロスタモードがある。
【0079】
さらに、ユーザが後述する操作パネル60のスイッチをマニュアル操作することによって、デフロスタ吹出口を全開してデフロスタ吹出口から車両フロント窓ガラス内面に空気を吹き出すデフロスタモードとすることもできる。
【0080】
なお、本実施形態の車両用空調装置1が適用されるハイブリッド車両は、車両用空調装置とは別に、図示しない電熱デフォッガを備えている。電熱デフォッガとは、車室内窓ガラスの内部あるいは表面に配置された電熱線であって、窓ガラスを加熱することで防曇あるいは窓曇り解消を行うものである。この電熱デフォッガについても空調制御装置50から出力される制御信号によって、その作動を制御できるようになっている。
【0081】
次に、図6により、本実施形態の電気制御部について説明する。空調制御装置50は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成され、そのROM内に記憶された空調制御プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、出力側に接続された圧縮機11の電動モータ11b用のインバータ61、冷媒回路切替手段を構成する各電磁弁13、17、20、21、24、送風ファン16a、送風機32、各種電動アクチュエータ62、63、64等の作動を制御する。
【0082】
また、空調制御装置50の入力側には、車室内温度Trを検出する内気センサ51(室内温度検出手段)、外気温Tamを検出する外気センサ52(外気温検出手段)、車室内の日射量Tsを検出する日射センサ53、圧縮機11の吐出冷媒温度Tdを検出する吐出温度センサ54(吐出温度検出手段)、圧縮機11の吐出側冷媒圧力(高圧側冷媒圧力)Pdを検出する吐出圧力センサ55(吐出圧力検出手段)、室内蒸発器26からの吹出空気温度(蒸発器温度)Teを検出する蒸発器温度センサ56(蒸発器温度検出手段)、第1三方継手15と低圧電磁弁17との間を流通する冷媒の温度Tsiを検出する吸入温度センサ57、エンジン冷却水温度Twを検出する冷却水温度センサ、車室内の窓ガラス近傍の車室内空気の相対湿度を検出する湿度センサ、窓ガラス近傍の車室内空気の温度を検出する窓ガラス近傍温度センサ、および窓ガラス表面温度を検出する窓ガラス表面温度センサ等のセンサ群の検出信号が入力される。
【0083】
また、本実施形態の圧縮機11の吐出側冷媒圧力(高圧側冷媒圧力)Pdは、冷房モードでは、圧縮機11の冷媒吐出口側から温度式膨張弁27の可変絞り機構部27b入口側へ至るサイクルの高圧側冷媒圧力であり、その他の運転モードでは、圧縮機11の冷媒吐出口側から固定絞り14入口側へ至るサイクルの高圧側冷媒圧力となる。なお、吐出圧力センサ55は、一般的な冷凍サイクルにおいても、高圧側冷媒圧力の異常上昇を監視するために設けられている。
【0084】
また、蒸発器温度センサ56は、具体的に室内蒸発器26の熱交換フィン温度を検出している。もちろん、蒸発器温度センサ56として、室内蒸発器26のその他の部位の温度を検出する温度検出手段を採用してもよいし、室内蒸発器26を流通する冷媒自体の温度を直接検出する温度検出手段を採用してもよい。また、湿度センサ、窓ガラス近傍温度センサ、および窓ガラス表面温度センサの検出値は、窓ガラス表面の相対湿度RHWを算出するために用いられる。
【0085】
さらに、空調制御装置50の入力側には、車室内前部の計器盤付近に配置された操作パネル60に設けられた各種空調操作スイッチからの操作信号が入力される。操作パネル60に設けられた各種空調操作スイッチとしては、具体的に、車両用空調装置1の作動スイッチ、オートスイッチ、運転モードの切替スイッチ、吹出口モードの切替スイッチ、送風機32の風量設定スイッチ、車室内温度設定スイッチ、エコノミースイッチ(エコスイッチ)、プレ空調のスタートスイッチ等が設けられている。
【0086】
オートスイッチは、車両用空調装置1の自動制御を設定あるいは解除するスイッチであり、エコノミースイッチは、冷凍サイクル10の省動力化を優先させるスイッチである。また、プレ空調のスタートスイッチは、ユーザがプレ空調をスタートさせる時刻や、スタートさせるタイミング(例えば、10分後)を設定するためのスイッチである。
【0087】
また、エンジン制御装置70は、空調制御装置50と同様に、周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成され、そのROM内に記憶されたエンジン制御用プログラムに基づいて各種演算、処理を行い、出力側に接続された各種エンジン制御機器の作動を制御する。
【0088】
エンジン制御装置70の出力側には、図示しないエンジンEGを構成する各種エンジン構成機器等が接続されている。具体的には、エンジンEGを始動させるスタータ、エンジンEGに燃料を供給する燃料噴射弁(インジェクタ)の駆動回路(いずれも図示せず)等が接続されている。
【0089】
エンジン制御装置70の入力側には、車速(車両の速度)を検出する速度センサ(車速検出手段)71、バッテリ81の端子間電圧VBを検出する電圧計(図示略)、アクセル開度Accを検出するアクセル開度センサ(図示略)、エンジン回転数Neを検出するエンジン回転数センサ(図示略)等の種々のエンジン制御用のセンサ群が接続されている。
【0090】
さらに、空調制御装置50およびエンジン制御装置70は、電気的接続されて、電気的に通信可能に構成されている。これにより、一方の制御装置に入力された検出信号あるいは操作信号に基づいて、他方の制御装置が出力側に接続された各種機器の作動を制御することもできる。例えば、空調制御装置50がエンジン制御装置70へエンジンEGの作動要求指令を出力することによって、エンジンEGを作動させることができる。
【0091】
なお、空調制御装置50およびエンジン制御装置70は、その出力側に接続された各種制御対象機器を制御する制御手段が一体に構成されたものであるが、それぞれの制御対象機器の作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)が、それぞれの制御対象機器の作動を制御する制御手段を構成している。
【0092】
なお、空調制御装置50のうち、圧縮機11の電動モータ11bに接続されたインバータ61から出力される交流電圧の周波数を制御して、圧縮機11の回転数(冷媒吐出能力)を制御する構成が圧縮機制御手段(回転数制御手段)50aを構成し、送風手段である送風機32の作動を制御して、送風機32の送風能力を制御する構成が送風機制御手段を構成する。
【0093】
次に、図7により、上記構成における本実施形態の作動を説明する。図7は、本実施形態の車両用空調装置1の制御処理を示すフローチャートである。この制御処理は、車両システムが停止している場合でも、バッテリ81から空調制御装置50に電力が供給されていれば実行される。
【0094】
まず、ステップS1の処理では、車両用空調装置1の作動スイッチが投入(ON)されているか否か、および、プレ空調のスタートスイッチが投入されているか否かを判定する。そして、車両用空調装置1の作動スイッチ、あるいはプレ空調のスタートスイッチが投入されていると判定されるとステップS2へ進む。この際、プレ空調であることを示すフラグがONされる。
【0095】
ここで、プレ空調のスタートスイッチは、乗員が携帯する無線端末(リモコン)あるいは移動体通信手段(具体的には、携帯電話)等に設けられている。従って、乗員は車両から離れた場所から車両用空調装置1を始動させることができる。
【0096】
例えば、無線端末のプレ空調のスタートスイッチが投入された際には、車両側が無線端末から送信されるプレ空調スタート信号を直接受信することによって、また、移動体通信手段のプレ空調のスタートスイッチが投入された際には、車両側が携帯電話基地局等を介して送信されるプレ空調スタート信号を直接受信することによって、プレ空調のスタートスイッチが投入されたことが判定される。
【0097】
さらに、本実施形態の車両用空調装置1は、プラグインハイブリッド車両に適用されているので、プレ空調は、車両に外部電源から電力が供給されている場合は、ユーザからプレ空調の停止が要求されるまで継続され、外部電源から電力が供給接続されていない場合は、バッテリ81の蓄電残量が予め定めた基準プレ空調用蓄電残量以下となるまで行うようになっている。
【0098】
ステップS2では、フラグ、タイマ等の初期化、および上述した電動アクチュエータを構成するステッピングモータの初期位置合わせ等が行われる。なお、フラグの初期化には、現在のフラグの状態を維持することも含まれる。
【0099】
ステップS3の処理では、操作パネル60の操作信号を読み込んでステップS4へ進む。具体的な操作信号としては、エコノミースイッチのON信号、車室内温度設定スイッチによって設定される車室内設定温度Tset、吹出口モードの選択信号、吸込口モードの選択信号、送風機32の風量の設定信号等がある。なお、エコノミースイッチのON信号を検出した場合には、現在の車両用空調装置1の運転モードがエコモード(省動力化モード)であることを示すフラグがONされる。
【0100】
ステップS4では、空調制御に用いられる車両環境状態の信号、すなわち上述のセンサ群51〜57の検出信号を読み込んで、ステップS5へ進む。ステップS5では、車室内吹出空気の目標吹出温度TAOを算出する。さらに、暖房モードでは、暖房用熱交換器目標温度を算出する。目標吹出温度TAOは、下記数式F1により算出される。
TAO=Kset×Tset−Kr×Tr−Kam×Tam−Ks×Ts+C…(F1)
ここで、Tsetは車室内温度設定スイッチによって設定された車室内設定温度、Trは内気センサ51によって検出された内気温、Tamは外気センサ52によって検出された外気温、Tsは日射センサ53によって検出された日射量である。Kset、Kr、Kam、Ksは制御ゲインであり、Cは補正用の定数である。
【0101】
また、暖房用熱交換器目標温度は、基本的に上述の数式F1にて算出される値となるが、消費電力の抑制のために数式F1にて算出されTAOよりも低い値とする補正が行われる場合もある。
【0102】
続くステップS6〜S16では、空調制御装置50に接続された各種機器の制御状態が決定される。まず、ステップS6では、空調環境状態に応じて、冷房モード、暖房モード、第1除湿モードおよび第2除湿モードの選択およびPTCヒータ37に対する通電有無の決定が行われる。このステップS6の詳細については、図8を用いて説明する。
【0103】
まず、ステップS61では、プレ空調を行っているか否かを判定する。ステップS61にてプレ空調を行っていると判定された場合は、ステップS62へ進み、外気温Tamが−3℃よりも低いか否かを判定する。ステップS62にて外気温Tamが−3℃よりも低いと判定された場合は、ステップS63にてPTCヒータ37への通電の必要があると判定してステップS7へ進む。
【0104】
このように外気温Tamが−3℃よりも低いときにPTCヒータ37への通電が必要であると判定する理由は、外気温Tamが−3℃よりも低いときに冷凍サイクル10にて暖房を行うと、サイクルの高低圧差が大きくなり、サイクル効率(COP)が低下してしまうとともに、室外熱交換器16における冷媒蒸発温度が低くなり、室外熱交換器16に着霜するおそれがあるからである。
【0105】
ステップS62にて外気温Tamが−3℃よりも低くなっていないと判定された場合は、ステップS64へ進み、吹出口モードがフェイスモードであるか否かを判定する。ステップS64にて吹出口モードがフェイスモードであると判定された場合は、ステップS65へ進み、冷房モードを選択してステップS7へ進む。その理由は、後述するステップS9で説明するように、フェイスモードは主に夏季に選択される運転モードだからである。
【0106】
ステップS64にて吹出口モードがフェイスモードでないと判定された場合は、ステップS66へ進み、室内蒸発器26からの吹出空気温度Teの低下に伴って、除湿の必要性が高くなるものとして、暖房モード→第1除湿モード→第2除湿モードの順に選択されて、ステップS7へ進む。
【0107】
一方、ステップS61にてプレ空調を行っていないと判定された場合は、ステップS67へ進み、外気温Tamが−3℃よりも低いか否かを判定する。ステップS67にて外気温Tamが−3℃よりも低いと判定された場合は、ステップS68へ進み、冷房モードを選択してステップS7へ進む。
【0108】
ステップS67にて外気温Tamが−3℃よりも低くなっていないと判定された場合は、ステップS69へ進み、吹出口モードがフェイスモードであるか否かを判定する。ステップS69にて吹出口モードがフェイスモードであると判定された場合は、ステップS70へ進み、冷房モードを選択してステップS7へ進む。その理由はステップS65と同様である。ステップS69にて吹出口モードがフェイスモードでないと判定された場合は、前述のステップS66へ進む。
【0109】
ステップS7では、送風機32により送風される空気の目標送風量を決定する。具体的には、ステップS5にて設定した目標吹出温度TAOに基づいて、予め空調制御装置50に記憶された制御マップを参照して、送風機32の電動モータに印加するブロワモータ電圧を決定する。
【0110】
より詳細には、本実施形態では、TAOの極低温域(最大冷房域)および極高温域(最大暖房域)でブロワモータ電圧を最大値(約12V)付近の高電圧にして、送風機32の風量を最大風量付近に制御する。また、TAOが極低温域から中間温度域に向かって上昇すると、TAOの上昇に応じてブロワモータ電圧を減少して、送風機32の風量を減少させる。
【0111】
さらに、TAOが極高温域から中間温度域に向かって低下すると、TAOの低下に応じてブロワモータ電圧を減少して、送風機32の風量を減少させる。また、TAOが所定の中間温度域内に入ると、ブロワモータ電圧を最小値(約4V)にして送風機32の風量を最小値にする。
【0112】
ステップS8では、吸込口モード、すなわち内外気切替箱の切替状態を決定する。この吸込口モードもTAOに基づいて、予め空調制御装置50に記憶された制御マップを参照して決定する。本実施形態では、基本的に外気を導入する外気モードが優先されるが、TAOが極低温域となって高い冷房性能を得たい場合等に内気を導入する内気モードが選択される。さらに、外気の排ガス濃度を検出する排ガス濃度検出手段を設け、排ガス濃度が予め定めた基準濃度以上となったときに、内気モードを選択するようにしてもよい。
【0113】
ステップS9では、吹出口モードを決定する。この吹出口モードもTAOに基づいて、予め空調制御装置50に記憶された制御マップを参照して決定する。本実施形態では、TAOが低温域から高温域へと上昇するにつれて吹出口モードをフットモード→バイレベルモード→フェイスモードへと順次切り替える。
【0114】
従って、夏季は主にフェイスモード、春秋季は主にバイレベルモード、そして冬季は主にフットモードが選択される。さらに、湿度センサ等の検出値から算出される窓ガラス表面の相対湿度RHWに基づいて、窓ガラスに曇りが発生する可能性が高いと判定された場合に、フットデフロスタモードあるいはデフロスタモードを選択するようにしてもよい。
【0115】
ステップS10では、エアミックスドア38の目標開度SWを上記TAO、蒸発器温度センサ56によって検出された室内蒸発器26からの吹出空気温度Te、加熱器温度に基づいて算出する。
【0116】
ここで、加熱器温度とは、加熱用冷風通路33に配置された加熱手段(ヒータコア36、室内凝縮器12、およびPTCヒータ37)の加熱能力に応じて決定される値であって、一般的には、エンジン冷却水温度Twを採用できる。従って、目標開度SWは、次の数式F2により算出できる。
SW=[(TAO−Te)/(Tw−Te)]×100(%)…(F2)
なお、SW=0(%)は、エアミックスドア38の最大冷房位置であり、冷風バイパス通路34を全開し、加熱用冷風通路33を全閉する。これに対し、SW=100(%)は、エアミックスドア38の最大暖房位置であり、冷風バイパス通路34を全閉し、加熱用冷風通路33を全開する。
【0117】
ステップS11では、圧縮機11の冷媒吐出能力(具体的には、圧縮機11の回転数)を決定する。ここで、圧縮機11の基本的な回転数の決定手法を説明する。例えば、冷房モードでは、ステップS4で決定したTAO等に基づいて、予め空調制御装置50に記憶されている制御マップを参照して、室内蒸発器26からの吹出空気温度Teの目標吹出温度TEOを決定する。
【0118】
そして、この目標吹出温度TEOと吹出空気温度Teの偏差En(TEO−Te)を算出し、今回算出された偏差Enから前回算出された偏差En−1を減算した偏差変化率Edot(En−(En−1))とを用いて、予め空調制御装置50に記憶されたメンバシップ関数とルールとに基づいたファジー推論に基づいて、前回の圧縮機回転数fCn−1に対する回転数変化量Δf_Cを求める。
【0119】
また、暖房モード、第1除湿モードおよび第2除湿モードでは、ステップS4で決定した暖房用熱交換器目標温度等に基づいて、予め空調制御装置50に記憶されている制御マップを参照して、吐出側冷媒圧力(高圧側冷媒圧力)Pdの目標高圧PDOを決定する。
【0120】
そして、この目標高圧PDOと吐出側冷媒圧力Pdの偏差Pn(PDO−Pd)を算出し、今回算出された偏差Pnから前回算出された偏差Pn−1を減算した偏差変化率Pdot(Pn−(Pn−1))とを用いて、予め空調制御装置50に記憶されたメンバシップ関数とルールとに基づいたファジー推論に基づいて、前回の圧縮機回転数fHn−1に対する回転数変化量Δf_Hを求める。
【0121】
このステップS11のより詳細な制御内容については、図9を用いて説明する。まず、ステップS111では、冷房モード(COOLサイクル)時の回転数変化量Δf_Cを求める。図9のステップS111には、ルールとして用いるファジールール表を記載している。このルール表では、上述の偏差Enと偏差変化率Edotに基づいて室内蒸発器26の着霜が防止されるようにΔf_Cが決定される。
【0122】
ステップS112では、暖房モード(HOTサイクル)、第1除湿モード(DRY_EVAサイクル)および第2除湿モード(DRY_ALLサイクル)時の回転数変化量Δf_Hを求める。図9のステップS112には、ルールとして用いるファジールール表を記載している。このルール表では、上述の偏差Pnと偏差変化率Pdotに基づいて高圧側冷媒圧力Pdの異常上昇が防止されるようにΔf_Hが決定される。
【0123】
続くステップS113では、現在の車両用空調装置1の運転モードがエコモード(省電力化モード)であるか否かを判定する。具体的には、ステップS3にて説明したエコモードであることを示すフラグがONとなっているか否かを判定する。
【0124】
ステップS113にて、運転モードがエコモードであると判定された場合(S113:YES)には、ステップS114に移行して、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを設定する。そして、ステップS116に移行する。
【0125】
ここで、ステップS114では、車速センサ71の検出値の増加に応じて、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxが段階的(ステップ的)に増加するようにしている。
【0126】
具体的には、車速センサ71の検出値(車速)が上昇する速度上昇過程において、車速が所定速度(本実施形態では20km/h)上昇する毎に上限値IVOmaxを所定回転数(本実施形態では1000rpm)増加させている。
【0127】
一方、車速センサ71の検出値(車速)が低下する速度低下過程において、車速が所定速度(本実施形態では20km/h)低下する毎に上限値IVOmaxを所定回転数(本実施形態では1000rpm)減少させている。
【0128】
例えば、図9のステップS114中に示すように、車速が上昇する車速上昇過程では、車速が20km/hよりも遅ければ、上限値IVOmaxを最低の「5000」rpmに設定し、車速が20km/hまで上昇すると上限値IVOmaxを「6000」rpmに変化させる。そして、車速が20km/h上昇する毎に上限値IVOmaxを「1000」rpm分段階的に増加させる。車速が80km/hまで上昇すると、上限値IVOmaxを最高の「9000」rpmに設定する。
【0129】
逆に、車速が低下する車速低下過程では、車速が70km/hよりも速ければ、上限値IVOmaxを最高の「9000」rpmに設定し、車速が70km/h以下まで低下すると上限値IVOmaxを「8000」rpmに変化させる。そして、車速が20km/h上昇する毎に上限値IVOmaxを「1000」rpm分段階的に減少させる。車速が10km/hまで低下すると、上限値IVOmaxを最低の「5000」rpmに設定する。
【0130】
また、本実施形態では、所定の上限値IVOmaxから一段上限値を下げる際の車両速度(第1閾値)と、所定の上限値IVOmaxから一段上限値を上げる際の車両速度(第2閾値)とに差(ヒステリシス域)を設けている。つまり、速度上昇過程において、第1閾値を上回った際に上限値IVOmaxを一段高くし、第1閾値よりも高い値に設定された第2閾値を下回った際に上限値IVOmaxを一段低くするようにしている。これにより、車速の一時的な変動によって、上限値IVOmaxが頻繁に変化してしまうことを抑制することができる。
【0131】
一方、ステップS113の判定処理の結果、エコモードでないと判定された場合(S113:NO)には、ステップS115に移行して、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを設定する。そして、ステップS116に移行する。
【0132】
このステップS115では、ステップS114と同様に、車速センサ71の検出値の増加に応じて、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxが段階的(ステップ的)に増加するようにしている。なお、ステップS115では、エコモードの場合に比べて、各車速に対応する上限値IVOmaxが所定回転数(本実施形態では1000rpm)高くなるようにしている。
【0133】
次のステップS116では、ステップS6で設定された運転モードが冷房モードであるか否かを判定する。この結果、冷房モードであると判定された場合(S116:YES)には、ステップS117に移行して、圧縮機11の回転数変化量ΔfをステップS111で決定したΔf_Cに設定して、ステップS119に移行する。
【0134】
一方、ステップS116にて、ステップS6で設定された運転モードが冷房モードでないと判定された場合(S116:NO)には、ステップS118に移行して、圧縮機11の回転数変化量ΔfをステップS112で決定したΔf_Hに設定して、ステップS119に移行する。
【0135】
ステップS119では、前回の圧縮機回転数fn−1に回転数変化量Δfを加えた値とステップS114およびS115にて決定された上限値IVOmaxとを比較して、小さい方の値を、今回の圧縮機回転数[rpm]に決定して、ステップS12へ移行する。
【0136】
これにより、圧縮機11の回転数は、上限値以下の範囲で設定されることとなる。なお、ステップS119における圧縮機回転数の決定は、制御周期τ毎に行われるものではなく、所定の制御間隔(本実施形態では1秒)毎に行われる。
【0137】
ここで、本実施形態のステップS11のうち、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを設定する制御ステップS114、および制御ステップS115が、圧縮機11の回転数の上限値を設定する回転数制限設定手段を構成している。
【0138】
ステップS12では、PTCヒータ37の作動本数の決定および電熱デフォッガの作動状態の決定が行われる。PTCヒータ37の作動本数は、例えば、ステップS6にてPTCヒータ37への通電の必要があるとされたときに、暖房モード時にエアミックスドア38の目標開度SWが100%となっても、暖房用熱交換器目標温度を得られない場合に、内気温Trと暖房用熱交換器目標温度との差に応じて決定すればよい。
【0139】
また、車室内の湿度および温度から窓ガラスに曇りが発生する可能性が高い場合、あるいは窓ガラスに曇りが発生している場合は、電熱デフォッガを作動させる。
【0140】
ステップS13では、上述のステップS6で決定された運転モードに応じて、冷媒回路切替手段である各電磁弁13〜24の作動状態を決定する。
【0141】
具体的には、図10の図表に示すように、運転モードが冷房モード(COOLサイクル)に決定されている場合は、全ての電磁弁を非通電状態とする。また、暖房モード(HOTサイクル)に決定されている場合は、電気式三方弁13、高圧電磁弁20、低圧電磁弁17を通電状態とし、残りの電磁弁21、24を非通電状態とする。
【0142】
また、第1除湿モード(DRY_EVAサイクル)に決定されている場合は、電気式三方弁13、低圧電磁弁17、除湿電磁弁24および熱交換器遮断電磁弁21を通電状態とし、高圧電磁弁20を非通電状態とする。また、第2除湿モード(DRY_ALLサイクルに決定されている場合は、電気式三方弁13、低圧電磁弁17、除湿電磁弁24を通電状態とし、残りの電磁弁20、21を非通電状態とする。
【0143】
つまり、本実施形態では、いずれの運転モードの冷媒回路に切り替えた場合であっても、各電磁弁13〜24のうち少なくとも1つの電磁弁に対する電力の供給が停止されるように構成されている。これにより、本実施形態の各電磁弁13〜24の合計消費電力を低減できるようにしている。
【0144】
ステップS14では、上述のステップS6〜S13で決定された制御状態が得られるように、空調制御装置50より各種機器61、13、17、20、21、24、16a、32、37、62、63、64に対して制御信号および制御電圧が出力される。例えば、圧縮機11の電動モータ11b用のインバータ61に対しては、圧縮機11の回転数がステップS11で決定された回転数となるように制御信号が出力される。
【0145】
ステップS15では、制御周期τの間待機し、制御周期τの経過を判定するとステップS3へ戻る。なお、本実施形態は制御周期τを250msとしている。これは、車室内の空調制御は、エンジン制御等と比較して遅い制御周期であってもその制御性に悪影響を与えないからである。さらに、車両内における空調制御のための通信量を抑制して、エンジン制御等のように高速制御を行う必要のある制御系の通信量を充分に確保することができる。
【0146】
本実施形態の車両用空調装置1は、以上の如く制御されるので、制御ステップS6にて選択された運転モードに応じて以下のように作動する。
【0147】
(a)冷房モード(COOLサイクル:図1参照)
冷房モードでは、空調制御装置50が全ての電磁弁を非通電状態とするので、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と第1三方継手15の1つの冷媒流入出口との間を接続し、低圧電磁弁17が閉弁し、高圧電磁弁20が開弁し、熱交換器遮断電磁弁21が開弁し、除湿電磁弁24が閉弁する。
【0148】
これにより、図1の矢印に示すように、圧縮機11→室内凝縮器12→電気式三方弁13→第1三方継手15→室外熱交換器16→第2三方継手19→高圧電磁弁20→第2逆止弁22→温度式膨張弁27の可変絞り機構部27b→第4三方継手25→室内蒸発器26→温度式膨張弁27の感温部27a→第5三方継手28→アキュムレータ29→圧縮機11の順に冷媒が循環する蒸気圧縮式冷凍サイクルが構成される。
【0149】
この冷房モードの冷媒回路では、電気式三方弁13から第1三方継手15へ流入した冷媒は、低圧電磁弁17が閉弁しているので低圧電磁弁17側へ流出することはない。また、室外熱交換器16から第2三方継手19へ流入した冷媒は、除湿電磁弁24が閉弁しているので熱交換器遮断電磁弁21側へ流出することはない。また、温度式膨張弁27の可変絞り機構部27bから流出した冷媒は、除湿電磁弁24が閉弁しているので除湿電磁弁24側へ流出することはない。さらに、温度式膨張弁27の感温部27aから第5三方継手28へ流入した冷媒は、第2逆止弁22の作用によって第2逆止弁22側に流出することはない。
【0150】
従って、圧縮機11にて圧縮された冷媒は、室内凝縮器12にて室内蒸発器26通過後の送風空気(冷風)と熱交換して冷却され、さらに、室外熱交換器16にて外気と熱交換して冷却され、温度式膨張弁27にて減圧膨張される。温度式膨張弁27にて減圧された低圧冷媒は室内蒸発器26へ流入し、送風機32から送風された送風空気から吸熱して蒸発する。これにより、室内蒸発器26を通過する送風空気が冷却される。
【0151】
この際、前述の如くエアミックスドア38の開度が調整されるので、室内蒸発器26にて冷却された送風空気の一部(または全部)が冷風バイパス通路34から混合空間35へ流入し、室内蒸発器26にて冷却された送風空気の一部(または全部)が加熱用冷風通路33へ流入してヒータコア36、室内凝縮器12、ヒータコア36を通過する際に再加熱されて混合空間35へ流入する。
【0152】
これにより、混合空間35にて混合されて車室内へ吹き出す送風空気の温度が所望の温度に調整されて、車室内の冷房を行うことができる。なお、冷房モードでは、送風空気の除湿能力も高いが、暖房能力は殆ど発揮されない。
【0153】
また、室内蒸発器26から流出した冷媒は、温度式膨張弁27の感温部61aを介して、アキュムレータ29へ流入する。アキュムレータ29にて気液分離された気相冷媒は、圧縮機11に吸入されて再び圧縮される。
【0154】
さらに、この冷房モードの冷媒回路では、図1の記載から明らかなように、冷凍サイクル10の冷媒流路内の異なる2箇所の部位が互いに連通している。換言すると、冷房モードの冷媒回路では、冷凍サイクル10を構成する冷媒流路内に他の部位と連通しない閉塞回路が形成されていない。
【0155】
(b)暖房モード(HOTサイクル:図2参照)
暖房モードでは、空調制御装置50が電気式三方弁13、高圧電磁弁20、低圧電磁弁17を通電状態とし、残りの電磁弁21、24を非通電状態とするので、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続し、低圧電磁弁17が開弁し、高圧電磁弁20が閉弁し、熱交換器遮断電磁弁21が開弁し、除湿電磁弁24が閉弁する。
【0156】
これにより、図2の矢印に示すように、圧縮機11→室内凝縮器12→電気式三方弁13→固定絞り14→第3三方継手23→熱交換器遮断電磁弁21→第2三方継手19→室外熱交換器16→第1三方継手15→低圧電磁弁17→第1逆止弁18→第5三方継手28→アキュムレータ29→圧縮機11の順に冷媒が循環する蒸気圧縮式冷凍サイクルが構成される。
【0157】
この暖房モードの冷媒回路では、固定絞り14から第3三方継手23へ流入した冷媒は、除湿電磁弁24が閉弁しているので除湿電磁弁24側へ流出することはない。また、熱交換器遮断電磁弁21から第2三方継手19へ流入した冷媒は、高圧電磁弁20が閉弁しているので高圧電磁弁20側へ流出することはない。また、室外熱交換器16から第1三方継手15へ流入した冷媒は、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続しているので電気式三方弁13側へ流出することはない。第1逆止弁18から第5三方継手28へ流入した冷媒は、除湿電磁弁24が閉じているので温度式膨張弁27側へ流出することはない。
【0158】
従って、圧縮機11にて圧縮された冷媒は、室内凝縮器12にて送風機32から送風された送風空気と熱交換して冷却される。これにより、室内凝縮器12を通過する送風空気が加熱される。この際、エアミックスドア38の開度が調整されるので、冷房モードと同様に、混合空間35にて混合されて車室内へ吹き出す送風空気の温度が所望の温度に調整されて、車室内の暖房を行うことができる。なお、暖房モードでは、送風空気の除湿能力は発揮されない。
【0159】
また、室内凝縮器12から流出した冷媒は、固定絞り14にて減圧されて室外熱交換器16へ流入する。室外熱交換器16へ流入した冷媒は、送風ファン16aから送風された車室外空気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器16から流出した冷媒は、低圧電磁弁17、第1逆止弁18等を介して、アキュムレータ29へ流入する。アキュムレータ29にて気液分離された気相冷媒は、圧縮機11に吸入されて再び圧縮される。
【0160】
(c)第1除湿モード(DRY_EVAサイクル:図3参照)
第1除湿モードでは、空調制御装置50が電気式三方弁13、低圧電磁弁17、熱交換器遮断電磁弁21および除湿電磁弁24を通電状態とし、高圧電磁弁20を非通電状態とするので、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続し、低圧電磁弁17が開弁し、高圧電磁弁20が開弁し、熱交換器遮断電磁弁21が閉弁し、除湿電磁弁24が開弁する。
【0161】
これにより、図3の矢印に示すように、圧縮機11→室内凝縮器12→電気式三方弁13→固定絞り14→第3三方継手23→除湿電磁弁24→第4三方継手25→室内蒸発器26→温度式膨張弁27の感温部27a→第5三方継手28→アキュムレータ29→圧縮機11の順に冷媒が循環する蒸気圧縮式冷凍サイクルが構成される。
【0162】
この第1除湿モードの冷媒回路では、固定絞り14から第3三方継手23へ流入した冷媒は、熱交換器遮断電磁弁21が閉弁しているので熱交換器遮断電磁弁21側へ流出することはない。また、除湿電磁弁24から第4三方継手25へ流入した冷媒は、第2逆止弁22の作用によって温度式膨張弁27の可変絞り機構部27b側へ流出することはない。また、温度式膨張弁27の感温部27aから第5三方継手28へ流入した冷媒は、第1逆止弁18の作用によって第1逆止弁18側へ流出することはない。
【0163】
従って、圧縮機11にて圧縮された冷媒は、室内凝縮器12にて室内蒸発器26通過後の送風空気(冷風)と熱交換して冷却される。これにより、室内凝縮器12を通過する送風空気が加熱される。室内凝縮器12から流出した冷媒は、固定絞り14にて減圧されて室内蒸発器26へ流入する。
【0164】
室内蒸発器26へ流入した低圧冷媒は、送風機32から送風された送風空気から吸熱して蒸発する。これにより、室内蒸発器26を通過する送風空気が冷却されて除湿される。従って、室内蒸発器26にて冷却されて除湿された送風空気は、ヒータコア36、室内凝縮器12、ヒータコア36を通過する際に再加熱されて、混合空間35から車室内へ吹き出される。すなわち、車室内の除湿を行うことができる。なお、第1除湿モードでは、送風空気の除湿能力を発揮できるが、暖房能力は小さい。
【0165】
また、室内蒸発器26から流出した冷媒は、温度式膨張弁27の感温部61aを介して、アキュムレータ29へ流入する。アキュムレータ29にて気液分離された気相冷媒は、圧縮機11に吸入されて再び圧縮される。
【0166】
(d)第2除湿モード(DRY_ALLサイクル:図4参照)
第2除湿モードでは、空調制御装置50が電気式三方弁13、低圧電磁弁17、除湿電磁弁24を通電状態とし、残りの電磁弁20、21を非通電状態とするので、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続し、低圧電磁弁17が開弁し、高圧電磁弁20が開弁し、熱交換器遮断電磁弁21が開弁し、除湿電磁弁24が開弁する。
【0167】
これにより、図4の矢印に示すように、圧縮機11→室内凝縮器12→電気式三方弁13→固定絞り14→第3三方継手23→熱交換器遮断電磁弁21→第2三方継手19→室外熱交換器16→第1三方継手15→低圧電磁弁17→第1逆止弁18→第5三方継手28→アキュムレータ29→圧縮機11の順に冷媒が循環するとともに、圧縮機11→室内凝縮器12→電気式三方弁13→固定絞り14→第3三方継手23→除湿電磁弁24→第4三方継手25→室内蒸発器26→温度式膨張弁27の感温部27a→第5三方継手28→アキュムレータ29→圧縮機11の順に冷媒が循環する蒸気圧縮式冷凍サイクルが構成される。
【0168】
つまり、第2除湿モードでは、固定絞り14から第3三方継手23へ流入した冷媒が熱交換器遮断電磁弁21側および除湿電磁弁24側の双方に流出して、第1逆止弁18から第5三方継手28へ流入した冷媒および温度式膨張弁27の感温部27aから第5三方継手28へ流入した冷媒の双方が第5三方継手28にて合流してアキュムレータ29側へ流出する。
【0169】
なお、この第2除湿モードの冷媒回路では、室外熱交換器16から第1三方継手15へ流入した冷媒は、電気式三方弁13が室内凝縮器12の冷媒出口側と固定絞り14の冷媒入口側との間を接続しているので電気式三方弁13側へ流出することはない。また、除湿電磁弁24から第4三方継手25へ流入した冷媒は、第2逆止弁22の作用によって温度式膨張弁27の可変絞り機構部27b側へ流出することはない。
【0170】
従って、圧縮機11にて圧縮された冷媒は、室内凝縮器12にて室内蒸発器26通過後の送風空気(冷風)と熱交換して冷却される。これにより、室内凝縮器12を通過する送風空気が加熱される。室内凝縮器12から流出した冷媒は、固定絞り14にて減圧された後、第3三方継手23にて分岐されて室外熱交換器16および室内蒸発器26へ流入する。
【0171】
室外熱交換器16へ流入した冷媒は、送風ファン16aから送風された車室外空気から吸熱して蒸発する。室外熱交換器16から流出した冷媒は、低圧電磁弁17、第1逆止弁18等を介して、第5三方継手28へ流入する。室内蒸発器26へ流入した低圧冷媒は、送風機32から送風された送風空気から吸熱して蒸発する。これにより、室内蒸発器26を通過する送風空気が冷却されて除湿される。
【0172】
従って、室内蒸発器26にて冷却されて除湿された送風空気は、ヒータコア36、室内凝縮器12、ヒータコア36を通過する際に再加熱されて、混合空間35から車室内へ吹き出される。この際、第2除湿モードでは、第1除湿モードに対して、室外熱交換器16にて吸熱した熱量を室内凝縮器12にて放熱することができるので、送風空気を第1除湿モードよりも高温に加熱できる。すなわち、第2除湿モードでは、高い暖房能力を発揮させながら除湿能力も発揮させる除湿暖房を行うことができる。
【0173】
また、室内蒸発器26から流出した冷媒は、第5三方継手28へ流入して室外熱交換器16から流出した冷媒と合流し、アキュムレータ29へ流入する。アキュムレータ29にて気液分離された気相冷媒は、圧縮機11に吸入されて再び圧縮される。
【0174】
さらに、上記の如く、冷房モードの冷媒回路、暖房モードの冷媒回路、および第1除湿モードの冷媒回路は、いずれも圧縮機11に吸入される冷媒を室外熱交換器16と室内熱交換器(具体的には、室内凝縮器12、室内蒸発器26)とのうちいずれか一方に流通させる単独熱交換器モードの冷媒回路であり、第2除湿モードの冷媒回路は、圧縮機11に吸入される冷媒を室外熱交換器16と室内熱交換器(具体的には、室内蒸発器26)との双方に流通させる複合熱交換器モードの冷媒回路であると表現することもできる。
【0175】
本実施形態の車両用空調装置は、以上の如く作動するので、以下のような優れた効果を発揮することができる。
【0176】
本実施形態の車両用空調装置1は、以上の如く作動するので、以下のような優れた効果を発揮することができる。
【0177】
制御ステップS13の処理で説明したように、圧縮機11の回転数(冷媒吐出能力)の上限値IVOmaxを、車速の増加に応じて増大させるので、車両が停車、又は低速で走行している条件、すなわち、圧縮機11の作動音がユーザにとって耳障りとなり易い条件では、車両用空調装置1の騒音を低減することができる。
【0178】
一方、車両が高速で走行し、ロードノイズが大きくなる条件、すなわち、圧縮機11の作動音がユーザにとって耳障りとなり難い条件では、圧縮機11の回転数を上昇させることができる。
【0179】
また、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを段階的に上昇させることによって、一時的な車両の速度の変動によって、圧縮機11の回転数の上限値が変動してしまうことを抑制することができる。
【0180】
さらに、圧縮機11の回転数の上限値を上昇させる際の閾値を、上限値を低下させる際の閾値よりも低い値とすることで、車速のブレ(ハンチング)によって、圧縮機11の回転数の上限値が頻繁に変更されることを抑制することができる。
【0181】
従って、車室内の空調性能を充分に確保しつつ、ユーザにとって耳障りな車両用空調装置の騒音の低減を図ることができる。
【0182】
また、本実施形態では、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを段階的に変化させているので、車速の変化による圧縮機11の回転数の上限値が頻繁に変化することが抑制される。また、圧縮機11の回転数の上限値を上昇させる際の閾値を、上限値を低下させる際の閾値よりも低い値としているので、更に、車速の変化による圧縮機11の回転数の上限値が頻繁に変化することが抑制される。
【0183】
このため、室内蒸発器26の温度変化が小さくなり、室内蒸発器26の温度が室内蒸発器26に付着した凝縮水の露点温度にまで上昇することを抑制することができる。この結果、本実施形態の構成によれば、室内蒸発器26に付着した凝縮水が乾く際の悪臭の発生についても抑制することが可能となる。
【0184】
また、エコモードが設定されている場合には、エコモードが設定されていない通常モード時に比べて、圧縮機11の回転数の上限値が低くめに制限されるので、圧縮機11の消費電力の増加を抑えて、省電力化を実現することができると共に、ユーザにとって耳障りな車両用空調装置の騒音の低減を図ることができる。
【0185】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図11に基づいて説明する。図11は、第1実施形態の図9に対応する制御フローを示すフローチャートである。なお、本実施形態では、図9と同様または均等な部分についての説明を省略、または簡略化して説明する。
【0186】
上述の第1実施形態では、車速の増加に応じて、圧縮機11の回転数を段階的に増大させるようにしているのに対して、本実施形態では、車速の増加に応じて、圧縮機11の回転数を徐々に増大させるようにしている点が第1実施形態と相違している。
【0187】
本実施形態の制御ステップS11について説明すると、図11に示すように、ステップS112にて、回転数変化量Δf_Hを求めた後、ステップS120にて、所定の時定数(本実施形態では60秒)を用いて、車速センサ71の検出値の変化を鈍化させる遅れ処理(時定数処理)を行う。具体的には、ステップS120で行う遅れ処理では、図11のステップS120中に示す数式を用いて行う。この遅れ処理によって算出された補正速度f(車速)は、車速センサ71の検出値の変化に対して鈍化した速度(遅れた速度)となる。
【0188】
ここで、ステップS120中の数式における車速NEWは、今回車速センサ71にて検出された車速を示し、車速OLDは前回車速センサ71にて検出された車速を示している。なお、車速の更新は1秒毎の制御周期で実行される。
【0189】
次に、ステップS113の判定処理にて、運転モードがエコモードであるか否かを判定し、エコモードであると判定された場合(S113:YES)には、ステップS121に移行して、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを設定する。そして、ステップS1330に移行する。
【0190】
ここで、ステップS121では、ステップS120の遅れ処理によって算出した補正速度f(車速)の増加に応じて圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxが徐々に増大するようにしている。
【0191】
具体的には、図11のステップS121中に示すように、補正速度f(車速)が0kmである場合に、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを最低の「5000」rpmに設定し、補正速度f(車速)の増加に伴って、「9000」rpmを最大値として上限値IVOmaxを徐々に増大させる。
【0192】
一方、ステップS113の判定処理にて、運転モードがエコモードでないと判定された場合(S113:NO)には、ステップS122に移行して、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxに設定する。そして、ステップS1330に移行する。
【0193】
ここで、ステップS122では、ステップS121と同様に、ステップS120の遅れ処理によって算出した補正速度f(車速)の増加に応じて圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxが徐々に増大するようにしている。なお、運転モードがエコモードでない場合には、エコモードである場合に比べて、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを「1000」rpm増加させている。具体的には、補正速度f(車速)が0kmである場合に、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを最低の「6000」rpmに設定し、補正速度f(車速)の増加に伴って、「10000」rpmを最大値として上限値IVOmaxを徐々に増大させる。
【0194】
ステップS121およびステップS122にて圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを設定した後、ステップS116の判定処理に移行する。ステップS116の判定処理の結果、冷房モードであると判定された場合(S116:YES)には、ステップS117にて、ステップS111で決定したΔf_Cを圧縮機11の回転数変化量Δfに設定する。一方、ステップS116の判定処理にて、冷房モードでないと判定された場合(S116:NO)には、ステップS118にて、ステップS112で決定したΔf_Hを圧縮機11の回転数変化量Δfに設定する。
【0195】
そして、次のステップS119では、前回の圧縮機回転数fn−1に回転数変化量Δfを加えた値とステップS117およびS118にて決定された上限値IVOmaxとを比較して、小さい方の値を、今回の圧縮機回転数[rpm]に決定して、ステップS12へ移行する。
【0196】
ここで、本実施形態のステップS11のうち、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを設定する制御ステップS121、および制御ステップS122が、圧縮機11の回転数の上限値を設定する回転数制限設定手段を構成している。
【0197】
以上説明した本実施形態によれば、車速の増加に応じて、圧縮機11の回転数の上限値(IVOmax)を上昇させるので、車両が停車、又は低速で走行している条件では、圧縮機11の作動音を低減することができると共に、車両が高速で走行し、ロードノイズが大きくなる条件では、圧縮機11の回転数を上昇させることができる。
【0198】
さらに、車速センサ71の検出値の変化を鈍化させた補正速度f(車速)の増加に応じて、圧縮機11の回転数の上限値を上昇させるので、一時的な車両の速度の変動によって、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxが変動してしまうことを抑制することができる。
【0199】
従って、本実施形態によれば、第1実施形態と同様の作用効果を奏することができる。
【0200】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について図12、図13に基づいて説明する。図12は、第1実施形態の図9、および第2実施形態の図11に対応する制御フローを示すフローチャートである。なお、本実施形態では、図9および図11と同様または均等な部分についての説明を省略、または簡略化して説明する。
【0201】
本願の「背景技術」の欄にて説明した技術(特許文献1)の如く、車両の停車中において、圧縮機11の回転数に制限を加える案がある。しかしながら、車両の停車中において、車両における空調熱負荷が高い場合であっても、圧縮機11の回転数に一律に制限を加えると、ユーザの空調フィーリングが著しく悪化してしまう虞がある。
【0202】
そこで、本実施形態では、車両の停車中においても空調熱負荷を考慮して圧縮機11の回転数の上限値を調整することで、車両の停車中におけるユーザの空調フィーリングの悪化を抑制することを目的とする。
【0203】
本実施形態の制御ステップS11について説明すると、図12に示すように、ステップS112にて、回転数変化量Δf_Hを求めた後、ステップS123にて、所定の時定数(本実施形態では60秒)を用いて、空調熱負荷(日射量、車室内温度、外気温等)の変化を鈍化させる遅れ処理(時定数処理)を行う。このステップS123の詳細については、図13のフローチャートに基づいて説明する。
【0204】
ステップS123の処理では、まず、ステップS1232にて、日射センサ53にて検出した検出値に対して、その変化を所定の時定数(本実施形態では60秒)を用いて鈍化させる遅れ処理を行う。具体的には、図13のステップS1232中に示す数式を用いて行う。この遅れ処理によって算出された補正日射量f(日射)は、日射センサ53の検出値の変化に対して鈍化した速度(遅れた速度)となる。なお、図13のステップS1232中に示す数式における日射NEWは、今回日射センサ53で検出した日射量を示し、日射OLDは、前回日射センサ53で検出した日射量を示している。
【0205】
次のステップS1234では、内気センサ51にて検出した検出値(車室内温度)に対して、その変化を所定の時定数(本実施形態では60秒)を用いて鈍化させる遅れ処理を行う。具体的には、図13のステップS1234中に示す数式を用いて行う。この遅れ処理によって算出された補正車室内温度f(車室内温度)は、内気センサ51の検出値の変化に対して鈍化した速度(遅れた速度)となる。なお、図13のステップS1234中に示す数式における車室内温度NEWは、今回内気センサ51で検出した車室内温度を示し、車室内温度OLDは、前回内気センサ51で検出した車室内温度を示している。
【0206】
次のステップS1236では、外気センサ52にて検出した検出値(外気温)に対して、その変化を所定の時定数(本実施形態では60秒)を用いて鈍化させる遅れ処理を行う。具体的には、図13のステップS1236中に示す数式を用いて行う。この遅れ処理によって算出された補正外気温f(外気温)は、外気センサ52の検出値の変化に対して鈍化した速度(遅れた速度)となる。なお、図13のステップS1236中に示す数式における外気温NEWは、今回外気センサ52で検出した外気温を示し、外気温OLDは、前回外気センサ52で検出した外気温を示している。なお、f(日射)、f(車室内温度)、f(外気温)それぞれの更新は1秒毎の制御周期で実行される。
【0207】
次のステップS1238では、ステップS1232〜S1236にて算出したf(日射)、f(車室内温度)、f(外気温)に基づいて、車両の空調熱負荷の状態を示す補正空調熱負荷TAO_Cを算出する。例えば、図13のステップS1238中に示す数式によって算出することができる。なお、TAO_Cは、車室内温度Tsetから各補正値(f(日射)、f(車室内温度)、f(外気温))に係数を乗じた値を減算したものであり、TAO_Cの値が大きいほど空調熱負荷が低い状態を示し、小さいほど空調熱負荷が高い状態を示す。
【0208】
図12に戻り、ステップS124にて、車両が停車中であるか否か、すなわち車速センサ71の検出値が「0」kmであるか否かを判定する。この結果、車両が停車中でないと判定された場合(S124:NO)には、ステップS125にて圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを「10000」rpmに設定して、ステップS116に移行する。
【0209】
一方、ステップS124の判定処理にて、車両が停車中と判定された場合(S124:YES)には、ステップS126にて、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxをTAO_Cに応じて段階的に変化させて、ステップS116に移行する。
【0210】
具体的には、ステップS126では、TAO_Cの値が小さく、空調熱負荷が大きい状態では、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを高めに設定する。一方、TAO_Cの値が小さく、空調熱負荷が小さい状態では、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを低めに設定する。
【0211】
例えば、ステップS126中に示すように、TAO_Cの値が「−10」から「−20」に低下した場合、空調熱負荷が増大していると判断できるので、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを「8000」rpmに設定する。一方、TAO_Cの値が「−20」から「−10」まで増大した場合、空調熱負荷が減少していると判断できるので、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを「6000」rpmに設定する。
【0212】
ここで、TAO_Cは、日射量、車室内温度、外気温といった空調熱負荷に対して時定数を用いて遅れ処理を行ったf(日射)、f(車室内温度)、f(外気温)に基づいて算出している。このため、空調熱負荷のハンチングや一時的な変動に対する変化が小さいので、空調熱負荷の変動によって、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxが頻繁に変化することを抑制することができる。
【0213】
また、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを高く設定する際の閾値を、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを低く設定する際の閾値よりも小さくしているので、空調熱負荷の変動による圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxが頻繁に変化してしまうことをより効果的に抑制することができる。
【0214】
また、上記の説明から明らかなように、ステップS126で決定される車両停車中における圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxは、車両走行中における圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxよりも低い値に決定される。このため、車両停車中には、車両走行中に比べて、ユーザにとって耳障りとなり易い圧縮機11の作動音を低下させることができ、ユーザにとって耳障な車両用空調装置1の騒音を低減することができる。
【0215】
次に、ステップS116の判定処理にて、冷房モードであると判定された場合(S116:YES)には、ステップS117にて、ステップS111で決定したΔf_Cを圧縮機11の回転数変化量Δfに設定する。一方、ステップS116の判定処理にて、冷房モードでないと判定された場合(S116:NO)には、ステップS118にて、ステップS112で決定したΔf_Hを圧縮機11の回転数変化量Δfに設定する。
【0216】
次のステップS119では、前回の圧縮機回転数fn−1に回転数変化量Δfを加えた値とステップS125およびS126にて決定された上限値IVOmaxとを比較して、小さい方の値を、今回の圧縮機回転数[rpm]に決定して、ステップS12へ移行する。
【0217】
ここで、本実施形態のステップS11のうち、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを設定する制御ステップS125、および制御ステップS126が、圧縮機11の回転数の上限値を設定する回転数制限設定手段を構成している。
【0218】
以上説明した本実施形態によれば、車両の停車中には、車両における空調熱負荷の変動に応じて圧縮機11の上限値を変化させるので、車両の停車中におけるユーザの空調フィーリングの悪化を抑制することができる。
【0219】
さらに、内気センサ51、外気センサ52、日射センサ53といった空調熱負荷を検出する各センサ(空調熱負荷検出手段)の検出値の変化を鈍化させた補正空調熱負荷の変動に応じて、圧縮機11の回転数の上限値を変化させるので、一時的な車両の空調熱負荷の変動によって、圧縮機11の回転数の上限値が変動してしまうことを抑制することができる。
【0220】
一方、空調熱負荷が小さい場合には、圧縮機11の回転数の上限値を低下させるので、車両の停車中における圧縮機11の作動音を低減することができる。
【0221】
従って、車室内の空調性能を充分に確保しつつ、ユーザにとって耳障りな車両用空調装置1の騒音の低減を図ることができる。
【0222】
また、本実施形態では、各センサ51〜53の検出値の変化を鈍化させた補正空調熱負荷の増加に応じて、圧縮機11の回転数の上限値を上昇させるので、空調熱負荷のハンチング等によって車速の変化による圧縮機11の回転数の上限値が頻繁に変化することが抑制される。このため、室内蒸発器26の温度変化が小さくなり、室内蒸発器26の温度が室内蒸発器26に付着した凝縮水の露点温度にまで上昇することを抑制することができる。この結果、本実施形態の構成によれば、室内蒸発器26に付着した凝縮水が乾く際の悪臭の発生についても抑制することが可能となる。
【0223】
(他の実施形態)
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、各請求項に記載した範囲を逸脱しない限り、各請求項の記載文言に限定されず、当業者がそれらから容易に置き換えられる範囲にも及び、かつ、当業者が通常有する知識に基づく改良を適宜付加することができる。例えば、以下のように種々変形可能である。
【0224】
(1)上述の第1、第2実施形態では、制御ステップS11において、エコモードが設定されている場合には、エコモードが設定されていない場合に比べて、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを低下させているが、これに限定されない。
【0225】
例えば、車両用空調装置の運転モードとして、車室内の騒音を静音化する静音モードを設け、当該静音モードが設定されている場合に、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを低下させてもよい。また、エコモードの設定の有無によらず、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを一律に低下させてもよい。
【0226】
(2)上述の第1実施形態では、制御ステップS11のステップS114およびS115において、制御ハンチングの抑制を図るために、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを上昇させる際の第1閾値と、低下させる際の第2閾値とにヒステリシス域を設けているが、例えば、制御ハンチングが無視できる程度に小さいような場合には、ヒステリシス域を無くしてもよい。
【0227】
(3)上述の第3実施形態では、車両走行中における圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを一定値としているが、これに限定されない。例えば、車両走行中においては、第1、第2実施形態と同様に、車速の増加に応じて、圧縮機11の回転数の上限値IVOmaxを増大させるようにしてもよい。
【0228】
これによると、車両の低速走行時における車両用空調装置1の騒音を低減することができるので、ユーザにとって耳障りな車両用空調装置1の騒音をより効果的に低減することができる。
【0229】
(4)上述の第3実施形態では、空調熱負荷である車室内温度、外気温、日射量それぞれを遅れ処理して、補正空調熱負荷TAO_Cを算出しているが、これに限定されず、例えば、車室内温度、外気温、日射量のうち、少なくとも1つを遅れ処理して補正空調熱負荷を算出するようにしてもよい。
【0230】
(5)上述の各実施形態では、冷房モード、暖房モード、第1除湿モードおよび第2除湿モードの冷媒回路を切替可能に構成された冷凍サイクル10を採用した例を説明したが、本実施形態では、冷媒回路の切替機能を有していない冷凍サイクル10を採用してもよい。例えば、圧縮機11、室外熱交換器16、温度式膨張弁27、室内蒸発器26をこの順で環状に接続した冷凍サイクル10を採用してもよい。つまり、上述の各実施形態における冷房モードを実現可能な構成としてもよい。
【0231】
このように、送風機車室内へ送風される送風空気を冷却する冷房モードを実現する機能に特化された冷凍サイクル10を採用する車両用空調装置1であっても、上述の各実施形態に記載された制御態様を適用することで、上述の各実施形態に記載された効果を得ることができる。
【0232】
(6)上述の各実施形態では、冷媒回路を切り替えることによって車室内へ送風される送風空気を加熱あるいは冷却する冷凍サイクル10を採用した例を説明したが、もちろん、圧縮機11吐出冷媒を放熱させる放熱器を室内熱交換器として、冷媒を蒸発させる蒸発器を室外熱交換器として送風空気を加熱するヒートポンプサイクルを採用してもよい。
【0233】
(7)上述の実施形態では、本発明の車両用空調装置1を、プラグインハイブリッド車両の車両走行用の駆動力について詳細を述べていないが、本発明の車両用空調装置1は、エンジンEGおよび走行用電動モータの双方から直接駆動力を得て走行可能な、いわゆるパラレル型のハイブリッド車両に適用してもよいし、エンジンEGを発電機80の駆動源として用い、発電された電力をバッテリ81に蓄え、さらに、バッテリ81に蓄えられた電力を供給されることによって作動する走行用電動モータから駆動力を得て走行する、いわゆるシリアル型のハイブリッド車両に適用してもよい。
【符号の説明】
【0234】
10 冷凍サイクル
11 圧縮機
50a 圧縮機制御手段(回転数制御手段)
51 内気センサ(空調熱負荷検出手段)
52 外気センサ(空調熱負荷検出手段)
53 日射センサ(空調熱負荷検出手段)
S114 回転数制限設定手段
S115 回転数制限設定手段
S121 回転数制限設定手段
S122 回転数制限設定手段
S125 回転数制限設定手段
S126 回転数制限設定手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力が供給されることによって冷媒を圧縮して吐出する圧縮機(11)を含んで構成される蒸気圧縮式の冷凍サイクル(10)と、
前記圧縮機(11)の回転数の上限値を設定する回転数制限設定手段(S114、S115)と、
前記上限値以下の範囲で前記圧縮機(11)の回転数を制御する回転数制御手段(50a)と、を備え、
前記回転数制限設定手段(S114、S115)は、車両の速度を検出する車速検出手段(71)の検出値の増加に応じて前記上限値を段階的に上昇させることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記回転数制限設定手段(S114、S115)は、
前記車両の速度が上昇する速度上昇過程において、予め設定された第1閾値を上回った際に前記上限値を高くし、
前記車両の速度が低下する速度低下過程において、予め前記第1閾値よりも低い値に設定された第2閾値を下回った際に前記上限値を低くすることを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
電力が供給されることによって冷媒を圧縮して吐出する圧縮機(11)を含んで構成される蒸気圧縮式の冷凍サイクル(11)と、
前記圧縮機(11)の回転数の上限値を設定する回転数制限設定手段(S121、S122)と、
前記上限値以下の範囲で前記圧縮機(11)の回転数を制御する回転数制御手段(50a)と、を備え、
前記回転数制限設定手段(S121、S122)は、前記車速検出手段(71)の検出値の変化を鈍化させた補正速度を算出する遅れ処理を行うと共に、前記遅れ処理にて算出した前記補正速度の増加に応じて前記上限値を上昇させることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項4】
電力が供給されることによって冷媒を圧縮して吐出する圧縮機(11)を含んで構成される蒸気圧縮式の冷凍サイクル(10)と、
前記圧縮機(11)の回転数の上限値を設定する回転数制限設定手段(S125、S126)と、
前記上限値以下の範囲で前記圧縮機(11)の回転数を制御する回転数制御手段(50a)と、を備え、
前記回転数制限設定手段(S125、S126)は、前記車両の停車中において、車両における空調熱負荷を検出する空調熱負荷検出手段(51〜53)の検出値の変化を鈍化させた前記補正空調熱負荷を算出する遅れ処理を行うと共に、前記遅れ処理にて算出した前記補正空調熱負荷の変動に応じて前記上限値を変化させることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項5】
前記空調熱負荷は、車室内への日射量、車室内温度、車室外温度のうち少なくとも1つであることを特徴とする請求項4に記載の車両用空調装置。
【請求項1】
電力が供給されることによって冷媒を圧縮して吐出する圧縮機(11)を含んで構成される蒸気圧縮式の冷凍サイクル(10)と、
前記圧縮機(11)の回転数の上限値を設定する回転数制限設定手段(S114、S115)と、
前記上限値以下の範囲で前記圧縮機(11)の回転数を制御する回転数制御手段(50a)と、を備え、
前記回転数制限設定手段(S114、S115)は、車両の速度を検出する車速検出手段(71)の検出値の増加に応じて前記上限値を段階的に上昇させることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項2】
前記回転数制限設定手段(S114、S115)は、
前記車両の速度が上昇する速度上昇過程において、予め設定された第1閾値を上回った際に前記上限値を高くし、
前記車両の速度が低下する速度低下過程において、予め前記第1閾値よりも低い値に設定された第2閾値を下回った際に前記上限値を低くすることを特徴とする請求項1に記載の車両用空調装置。
【請求項3】
電力が供給されることによって冷媒を圧縮して吐出する圧縮機(11)を含んで構成される蒸気圧縮式の冷凍サイクル(11)と、
前記圧縮機(11)の回転数の上限値を設定する回転数制限設定手段(S121、S122)と、
前記上限値以下の範囲で前記圧縮機(11)の回転数を制御する回転数制御手段(50a)と、を備え、
前記回転数制限設定手段(S121、S122)は、前記車速検出手段(71)の検出値の変化を鈍化させた補正速度を算出する遅れ処理を行うと共に、前記遅れ処理にて算出した前記補正速度の増加に応じて前記上限値を上昇させることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項4】
電力が供給されることによって冷媒を圧縮して吐出する圧縮機(11)を含んで構成される蒸気圧縮式の冷凍サイクル(10)と、
前記圧縮機(11)の回転数の上限値を設定する回転数制限設定手段(S125、S126)と、
前記上限値以下の範囲で前記圧縮機(11)の回転数を制御する回転数制御手段(50a)と、を備え、
前記回転数制限設定手段(S125、S126)は、前記車両の停車中において、車両における空調熱負荷を検出する空調熱負荷検出手段(51〜53)の検出値の変化を鈍化させた前記補正空調熱負荷を算出する遅れ処理を行うと共に、前記遅れ処理にて算出した前記補正空調熱負荷の変動に応じて前記上限値を変化させることを特徴とする車両用空調装置。
【請求項5】
前記空調熱負荷は、車室内への日射量、車室内温度、車室外温度のうち少なくとも1つであることを特徴とする請求項4に記載の車両用空調装置。
【図1】


【図2】


【図3】


【図4】


【図5】


【図6】


【図7】


【図8】


【図9】


【図10】


【図11】


【図12】


【図13】




【図2】


【図3】


【図4】


【図5】


【図6】


【図7】


【図8】


【図9】


【図10】


【図11】


【図12】


【図13】


【公開番号】特開2012−66793(P2012−66793A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215688(P2010−215688)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】
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