説明

車両用聴覚モニタ装置

【課題】自車両の走行状態に適応させて検出した外来音を車両乗員に聞かせる。
【解決手段】集音した車両周辺の音に基づく再生音を作成し、検出した自車両に関わる情報に基づいて自車両の走行状態を判断し、判断した自車両の走行状態に基づいて出力する再生音の制御をおこなう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両周辺の外来音を収集し、収集した外来音を車室内にて再生する車両用聴覚モニタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の車両用聴覚モニタ装置としては、複数のマイクロホン(この明細書では単にマイクという)で任意の周辺車両の外来音を検出し、マイクにて検出された外来音の時間差などによって外来音の音源位置を検出し、検出された音源位置の方向に音を出力することによって周辺車両の状況を運転者に報知するものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
この出願の発明に関連する先行技術文献としては次のものがある。
【特許文献1】特開平05−085288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の車両用聴覚モニタ装置は、検出した外来音の音源位置の遠近に基づいて音を出力して警報を実施するか否かを判断する構成となっているために、自車両の走行状態に関わらず検出した音源位置が近距離にある場合には音による警報を発してしまう。
このような構成であると、例えば自車両が走行している車線の右側の車線を他車両が走行している場合、自車両が右側の車線へのレーンチェンジを意図していなければ、他車両が近い位置を走行していても警報する必要は低いと判断できるが、従来の車両用聴覚モニタ装置であると、他車両との距離に基づいて警報を与えてしまうので、運転者が注意する必要性のない外来音を聞かせることになり、車室内が静かで快適な環境ではなくなるという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
集音した車両周辺の音に基づく再生音を作成し、検出した自車両に関わる情報に基づいて自車両の走行状態を判断し、判断した自車両の走行状態に基づいて出力する再生音の制御をおこなう。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、自車両の走行状態に適応させて検出した外来音を車両乗員に聞かせる装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】発明の一実施の形態の構成を示す図
【図2】高速道路の料金所通過時の聴覚モニタ装置の動作を説明する図
【図3】高速道路の料金所通過時の聴覚モニタ装置の動作を示すフローチャート
【図4】車線変更時の聴覚モニタ装置の動作を説明する図
【図5】車線変更時の聴覚モニタ装置の動作を示すフローチャート
【図6】交差点に接近したときの聴覚モニタ装置の動作を説明する図
【図7】交差点に接近したときの聴覚モニタ装置の動作を示すフローチャート
【図8】サービスエリアへ進入したときの聴覚モニタ装置の動作を説明する図
【図9】サービスエリアへ進入したときの聴覚モニタ装置の動作を示すフローチャート
【図10】道路を離脱したときの聴覚モニタ装置の動作を説明する図
【図11】道路を離脱したときの聴覚モニタ装置の動作を示すフローチャート
【図12】渋滞に巻き込まれたときの聴覚モニタ装置の動作を説明する図
【図13】渋滞に巻き込まれたときの聴覚モニタ装置の動作を示すフローチャート
【図14】踏切に近づいたときの聴覚モニタ装置の動作を説明する図
【図15】踏切に近づいたときの聴覚モニタ装置の動作を示すフローチャート
【図16】エンジン始動後の聴覚モニタ装置の動作を説明する図
【図17】エンジン始動後の聴覚モニタ装置の動作を示すフローチャート
【図18】ウインカーまたはハザードスイッチを操作したときの聴覚モニタ装置の動作を説明する図
【図19】ウインカーまたはハザードスイッチを操作したときの聴覚モニタ装置の動作を示すフローチャート
【図20】ステアリング操作時の聴覚モニタ装置の動作を説明する図
【図21】ステアリング操作時の聴覚モニタ装置の動作を示すフローチャート
【図22】徐行中のときの聴覚モニタ装置の動作を説明する図
【図23】徐行中のときの聴覚モニタ装置の動作を示すフローチャート
【図24】低速走行が所定時間継続したときの聴覚モニタ装置の動作を説明する図
【図25】低速走行が所定時間継続したときの聴覚モニタ装置の動作を示すフローチャート
【図26】後退走行時の聴覚モニタ装置の動作を説明する図
【図27】後退走行時の聴覚モニタ装置の動作を示すフローチャート
【図28】トンネル進入時の聴覚モニタ装置の動作を説明する図
【図29】トンネル進入時の聴覚モニタ装置の動作を示すフローチャート
【図30】スクールゾーンやシルバーゾーンへ進入したときの聴覚モニタ装置の動作を説明する図
【図31】スクールゾーンやシルバーゾーンへ進入したときの聴覚モニタ装置の動作を示すフローチャート
【図32】海岸通りや林道へ進入したときの聴覚モニタ装置の動作を説明する図
【図33】海岸通りや林道へ進入したときの聴覚モニタ装置の動作を示すフローチャート
【図34】音入力部で検出した車両周囲の音の内、自車両の走行音を抑制する方法を説明する図
【図35】音入力部で検出した車両周囲の音の内、自車両の走行音を抑制する手順を示すフローチャート
【図36】他の一実施の形態の基本構成を示すブロック図
【図37】他の一実施の形態の具体的な構成を示す図
【図38】マイクの配置例を示す図
【図39】マイクの他の配置例を示す図
【図40】マイクの他の配置例を示す図
【図41】他の実施の形態の他の構成例を示す図
【図42】他の実施の形態の動作を示すフローチャート
【図43】第1補正部の構成の概念を説明するための図
【図44】第1補正部の構成例を示す図
【図45】第1補正部フィルターの構成例を示す図
【図46】第1補正部フィルターの他の構成例を示す図
【図47】マイクの他の配置例を示す図
【図48】第2補正部の構成の概念を示す図
【図49】第2補正部の逆フィルターの構成例を示す図
【図50】第2補正部の逆フィルターの他の構成例を示す図
【図51】図15に示す逆フィルターを簡略化した逆フィルター構成を示す図
【図52】運転者頭部位置に応じた第1補正部フィルターの切り換え方法を説明する図
【図53】運転者頭部位置に応じた第2補正部逆フィルターの切り換え方法を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0008】
《発明の他の実施の形態》
本発明の車両用聴覚モニタ装置を車両に搭載した発明の一実施の形態を説明する。図1にこの実施の形態の構成を示す。音入力部10は車両周囲の外壁付近に設置され、車両周囲の音を集音する。音入力部10としてはマイク210_1〜210_nを用いることができ、これらのマイクは車両外壁に取り付けられる程度に小型であればよく、一般的なダイナミック型マイクなどを用いることができる。
【0009】
車両情報検出部111は、ナビゲーション装置、GPS受信機、VICS受信機、各種車載機器などから地図情報、位置情報、道路交通情報、車両操作情報、車速情報、タイマー等などの車両情報110を検出し、スイッチ部112、フィルター部113、ボリューム変更部114を制御する。スイッチ部112は音入力部10で集音された車両周囲の音を入り切りする。フィルター部113は音入力部10で集音された車両周囲の音にフィルター処理を施す。ボリューム変更部114は音出力部50から出力される車両周辺物体の音の音量を変更する。
【0010】
第1補正部30は、入力された複数の音の電気信号を適切な状態に加工し、所望のチャネル数(第2補正部40の入力チャネル数)に変換して出力する。この第1補正部30から出力される音は、運転者の両耳付近や助手席乗員の頭部付近に設定される“制御点”における所望の音と理論上、等価になる必要がある。この第1補正部30の構成については詳細を後述する。
【0011】
第2補正部40は、第1補正部30により補正された音信号をスピーカーから出力するときに、スピーカーから制御点までの伝達系の影響を除去し、第1補正部30により補正された音信号が制御点において忠実に音として再現されるように音信号を補正する。この第2補正部40の構成については詳細を後述する。
【0012】
音出力部50は、第2補正部40から出力された音信号を増幅してスピーカーから出力する。音出力部50は、増幅装置(不図示)およびスピーカー290_1〜290_nを用いて構成される。なお、増幅装置とスピーカー290_1〜290_nは車載配置可能な一般的なものを用いればよい。
【0013】
図2は高速道路の料金所通過時の聴覚モニタ装置の動作を説明する図、図3はその動作を示すフローチャートである。
高速道路を走行中または高速道路に進入するとき、ナビゲーション装置からの地図情報により料金所までの距離を取得し、例えば500mとなったときに(図2のA、図3のS211)、車両用聴覚モニタ装置の出力音を徐々に大きくしてフェードインし(図3のS212)、運転者に車両周辺物体の音を受聴させる。その後、ナビゲーション装置からの地図情報により料金所からの距離を取得し、料金所を通過し例えば100m走行したときに(図2のB、図3のS213)、車両用聴覚モニタ装置の出力音を徐々に小さくしてフェードアウトし(図3のS214)、運転者に対する車両周辺物体の音の提供を終了する。
これにより、他車両と複雑に絡み合う料金所において、運転者は進行方向を定めるのが困難な場合が多いため、周辺の情報音を参考にして自車両の進行方向を定めることが可能になる。
【0014】
図4は車線変更時の聴覚モニタ装置の動作を説明する図、図5はその動作を示すフローチャートである。
運転者が車線変更のためにウィンカー操作を行ったとき(図4(a)、図5のS221)、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に大きくしてフェードインし(図4(b)、図5のS222)、運転者に車両周辺物体の音を受聴させる。ウィンカー操作が終了してから例えば30mまたは5秒走行後に(図4(c)、図5のS223)、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に小さくしてフェードアウトする(図4(d)、図5のS224)。なお、走行速度が高いときにはさらに手前からフェードインしてもよい。
ウィンカーを操作したタイミングで聴覚モニタ装置を作動させるので、車線変更時に後方から接近する車両を確認できる。また、常時、情報音が出力されていることがなくなるため、うっとうしさがなくなる。
【0015】
図6は交差点に接近したときの聴覚モニタ装置の動作を説明する図、図7はその動作を示すフローチャートである。
ナビゲーション装置からの地図情報により交差点までの距離を取得し、交差点までの距離が例えば50m以下になって交差点に接近したとき(図6(a)、図7のS231)、自車両の右左折直進に関わらず、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に大きくしてフェードインし(図6(b)、図7のS232)、運転者に車両周辺物体の音を受聴させる。ナビゲーション装置からの地図情報により交差点からの距離を取得し、交差点からの距離が例えば50m以上になって交差点の通過を確認したときに(図6(c)、図7のS233)、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に小さくしてフェードアウトする(図7のS234)。
交差点では直進、右左折する車両、歩行者などが存在し、事故が多いことから、自車両周辺の情報音を受聴することによって視覚情報をフォローできる。
【0016】
図8はサービスエリアへ進入したときの聴覚モニタ装置の動作を説明する図、図9はその動作を示すフローチャートである。
ナビゲーション装置からの地図情報によりサービスエリアへの進入を検出したときに(図8のA、図9のS241)、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に大きくしてフェードインし(図9のS242)、運転者に車両周辺物体の音を受聴させる。エンジン制御装置からのエンジン作動情報によりサービスエリア内でエンジンの停止が検出されたときは(図8のB、図9のS243)、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に小さくしてフェードアウトする(図9のS244)。その後、エンジン制御装置からのエンジン作動情報によりエンジンの始動が検出されたときは(図9のS245)、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に大きくしてフェードインし(図9のS246)、さらにナビゲーション装置からの地図情報により本線に合流してから例えば100m走行したことを検出したときに(図8のC、図9のS247)、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に小さくしてフェードアウトする(図9のS247)。
サービスエリアでは、車両の間から歩行者が出てきたり、歩行者が自車両の脇を歩行していたり、突然他車両が後退して来たりといったことが多く、自車両周辺の情報音を受聴することによって周囲への気配りが容易になる。
【0017】
図10は道路を離脱したときの聴覚モニタ装置の動作を説明する図、図11はその動作を示すフローチャートである。
ナビゲーション装置からの地図情報により道路を離脱したことが検出されたとき、例えばデパートやスーパーなどの敷地内駐車場に入ったときは(図10のA、図11のS251)、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に大きくしてフェードインし(図11のS252)、運転者に車両周辺物体の音を受聴させる。道路を離脱した状態でエンジン制御装置からのエンジン作動情報によりエンジンの停止が検出されたときは(図10のB、図11のS253)、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に小さくしてフェードアウトする(図11のS254)。
【0018】
道路を離脱してエンジンが停止されたときは、乗員がデパートやスーパーなどでショッピングをしたり、レストランなどで食事をするなどが考えられ、駐車時間はある程度長いと想定されるため、聴覚モニタ装置の動作をいったん停止する(図11のS255)。その後、エンジン制御装置からのエンジン作動情報によりエンジンの始動が検出されたときは(図10のC、図11のS256)、聴覚モニタ装置を動作させるとともに、その出力音を徐々に大きくしてフェードインする(図11のS257)。さらに、ナビゲーション装置からの地図情報により道路に復帰して例えば30mまたは5秒間走行したことが検出されたときに(図10のD、図11のS259)、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に小さくしてフェードアウトする(図11のS260)。
デパートやスーパーなどの駐車場では、家族連れや高齢者などの歩行者が多く、突然動き出す他車両も存在するので、自車両周辺の情報音を受聴することによって周囲への気配りが容易になる。
【0019】
図12は渋滞に巻き込まれたときの聴覚モニタ装置の動作を説明する図、図13はその動作を示すフローチャートである。
VICS受信機から走行道路の渋滞情報を取得し(図12のA、図13のS261)、渋滞エリアに進入したときは(図12のB、図13のS262)、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に大きくしてフェードインし(図13のS263)、運転者に車両周辺物体の音を受聴させる。車載機器からの走行距離情報により渋滞エリアに入ってから例えば30m走行したことが検出されたときに(図12のC、図13のS264)、聴覚モニタ装置の出力音のレベルを例えば3dB下げて“うるささ”を和らげる(図13のS265)。その後、VICS受信機や車載機器などからの渋滞情報により渋滞エリアからの離脱が検出されたときは(図12のD、図13のS266)、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に小さくしてフェードアウトする(図13のS267)。
特に一般道路での渋滞時には、車両の間をすり抜けるバイクや横断する歩行者がいるため、自車両周辺の情報音を受聴することによってそれらの動きを容易に確認できる。しかし、走行時に出力される情報音と同じレベルであるとうるさく感じるので、例えば10km/h以下で走行するときは3dBレベルを下げる。
【0020】
図14は踏切に近づいたときの聴覚モニタ装置の動作を説明する図、図15はその動作を示すフローチャートである。
ナビゲーション装置からの地図情報により走行道路前方に踏切が検出され(図14のA、図15のS271)、踏切までの距離が例えば10mになったときに(図14のB、図15のS272)、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に大きくしてフェードインし(図15のS273)、運転者に車両周辺物体の音を受聴させる。その後、ナビゲーション装置からの地図情報により踏切の通過が検出されたときは(図14のC、図15のS274)、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に小さくしてフェードアウトする(図15のS275)。
踏み切り周辺で自車両周辺の情報音を受聴することによって、電車の接近と踏み切りを横断する歩行者の存在を窓を開けずに確認することが容易になる。
【0021】
図16はエンジン始動後の聴覚モニタ装置の動作を説明する図、図17はその動作を示すフローチャートである。
エンジン制御装置からのエンジン作動情報によりエンジンの始動が検出されたときは(図17のS281)、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に大きくしてフェードインし(図17のS282)、運転者に車両周辺物体の音を受聴させる。その後、車載機器からの走行距離情報により例えば10m走行したことが検出されたときに(図17のS283)、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に小さくしてフェードアウトする(図17のS284)。
特に自宅駐車場などでエンジンを始動後、車両を動かすときに自車両周辺の情報音を受聴することによって、周囲の子供などの存在を容易に確認することができる。
【0022】
図18はウインカーまたはハザードスイッチを操作したときの聴覚モニタ装置の動作を説明する図、図19はその動作を示すフローチャートである。
車載機器からの運転操作情報によりウィンカーまたはハザードスイッチの操作が検出されたときは(図18(a)〜(c)、図19のS291)、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に大きくしてフェードインし(図19のS292)、運転者に車両周辺物体の音を受聴させる。その後、車載機器からの運転操作情報によりウインカーまたはハザードスイッチのオフが検出されたときは(図19のS293)、例えば5秒後に聴覚モニタ装置の出力音を徐々に小さくしてフェードアウトする(図19のS294)。
自車両の位置や向きを変えるときには操作項目が多く、自車両周辺の情報音を受聴することによって、巻き込みや追突などの危険を回避することができる。
【0023】
図20はステアリング操作時の聴覚モニタ装置の動作を説明する図、図21はその動作を示すフローチャートである。
車載機器からの操舵角情報によりステアリングが所定角度以上回転したときに(図20(a)、図21のS301)、車両の位置や向きなどを変更していると判断し、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に大きくしてフェードインし(図21のS302)、運転者に車両周辺物体の音を受聴させる。車載機器からの操舵角情報によりステアリングが基準位置に戻されたことが検出され(図20(b)、図21のS303)、例えば5秒が経過したときに(図21のS305)、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に小さくしてフェードアウトする(図21のS306)。
自車両の位置や向きを変えるときには操作項目が多く、自車両周辺の情報音を受聴することによって、巻き込みや追突などの危険を回避することができる。
【0024】
図22は徐行中のときの聴覚モニタ装置の動作を説明する図、図23はその動作を示すフローチャートである。
車載機器からの車速情報により車速が例えば10km/h以下のときは(図22のA、図23のS311)、徐行中と判断し聴覚モニタ装置の出力音を徐々に大きくしてフェードインし(図23のS312)、運転者に車両周辺物体の音を受聴させる。その後、車載機器からの車速情報により車速が例えば15km/hを超えたときに(図22のB、図23のS313)、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に小さくしてフェードアウトする(図23のS314)。
渋滞での走行や歩行者等が多い場所を走行しているときに、自車両周辺の情報音を受聴することによって周囲の気配を感じ取ることができ、接触事故などを回避することができる。
【0025】
図24は低速走行が所定時間継続したときの聴覚モニタ装置の動作を説明する図、図25はその動作を示すフローチャートである。
車載機器からの車速情報とタイマーにより例えば10km/h以下の低速走行が例えば10秒間以上継続したときに(図24のA、図25のS321〜S322)、徐行状態と判断し聴覚モニタ装置の出力音を徐々に大きくしてフェードインし(図25のS323)、運転者に車両周辺物体の音を受聴させる。その後、車載機器からの車速情報により車速が例えば15km/hを超えたときに(図24のB、図25のS324)、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に小さくしてフェードアウトする(図25のS325)。
渋滞での走行や歩行者等が多い場所を走行しているときに、自車両周辺の情報音を受聴することによって周囲の気配を感じ取ることができ、接触事故などを回避することができる。
【0026】
図26は後退走行時の聴覚モニタ装置の動作を説明する図、図27はその動作を示すフローチャートである。
車載機器からのシフト情報によりシフトレバーが後退位置に設定されたときは(図27のS331)、図26(a)、(b)に示すように駐車場へ後進していると判断し、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に大きくしてフェードインし(図27のS332)、運転者に車両周辺物体の音を受聴させる。その後、車載機器からのシフト情報によりシフトレバーがパーキング位置に設定されたときは(図27のS333)、駐車動作が完了したと判断し、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に小さくしてフェードアウトする(図27のS334)。一方、駐車状態でシフトレバーが走行位置に設定され(図27のS333→S335)、車載機器からの車速情報により車速が例えば10km/hを超えたときに(図27のS336)、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に小さくしてフェードアウトする(図27のS334)。
自車両を後退させているときに、自車両周辺の情報音を受聴することによって、運転者の周囲確認をフォローすることができる。
【0027】
図28はトンネル進入時の聴覚モニタ装置の動作を説明する図、図29はその動作を示すフローチャートである。
聴覚モニタ装置から車両周辺物体の音を出力中に(図28のA、図29のS341)、ナビゲーション装置および車載機器からの地図情報、照明灯点灯情報、マイク210_1、210_n(図1参照)への入力レベルなどによりトンネルへの進入が検出されると(図28のB、図29のS342)、一時的にマイク210_1、210_n(図1参照)への入力レベルが大きくなるため、聴覚モニタ装置の出力音のレベルを例えば3dB下げる(図29のS343)。その後、ナビゲーション装置および車載機器からの地図情報や照明灯消灯情報などによりトンネルを出たことが検出されたときに(図28のC、図29のS344)、聴覚モニタ装置の出力音のレベルを3dB上げてトンネル進入前のレベルに戻す(図29のS345)。
これにより、利用者に不快な思いを与えず、周囲の情報音を提示できる。
【0028】
図30はスクールゾーンやシルバーゾーンへ進入したときの聴覚モニタ装置の動作を説明する図、図31はその動作を示すフローチャートである。
ナビゲーション装置やVICS受信機からの走行道路情報によりスクールゾーンやシルバーゾーンなどの徐行しなければならない走行道路へ進入したときは(図31のS351)、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に大きくしてフェードインし(図31のS352)、運転者に車両周辺物体の音を受聴させる。その後、ナビゲーション装置やVICS受信機からの走行道路情報によりスクールゾーンやシルバーゾーンなどの徐行しなければならない走行道路を抜けたときに(図31のS353)、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に小さくしてフェードアウトする(図31のS354)。
運転者にスクールゾーンやシルバーゾーンを走行していることを気づいてもらうことができ、周囲への注意度が向上される。
【0029】
図32は海岸通りや林道へ進入したときの聴覚モニタ装置の動作を説明する図、図33はその動作を示すフローチャートである。
ナビゲーション装置からの地図情報により海岸通りや林道などの予め設定した道路にさしかかったことが検出されると(図32のA、図33のS361)、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に大きくしてフェードインし(図33のS362)、運転者に車両周辺物体の音を受聴させる。その後、ナビゲーション装置からの地図情報により予め設定した道路を抜けたことが検出されると(図33のS363)、聴覚モニタ装置の出力音を徐々に小さくしてフェードアウトする(図33のS364)。
これにより、聴覚モニタ装置にエンターテイメント性を持たせることができ、運転時の楽しさ、リラックス効果などを提供できる。
【0030】
図34は音入力部10(図1参照)で検出した車両周囲の音の内、自車両の走行音を抑制する方法を説明する図であり、図35はその手順を示すフローチャートである。
聴覚モニタ装置から車両周辺物体の音を出力中に(図35のS371)、車載機器から車速情報を取得し(図35のS372)、車速に応じてフィルター部113で用いるバンドパスフィルターを変更する(図35のS373〜S376)。例えば、車速が30km/hよりも低いときはフィルターAを選択し、車速が30km/h以上、80km/h未満のときはフィルターBを選択し、車速が80km/h以上のときはフィルターCを選択する。これらのバンドパスフィルターA、B、Cは、それぞれの車速で走行しているときに車両周囲の入力音から自車両の走行音を排除するように動作するものである。音入力部10で検出した車両周辺の音に対して選択したバンドパスフィルター処理を施し(図35のS377)、増幅部20、第1補正部30、第2補正部40で上述した処理をした後、音出力部50から出力する(図35のS378)。
これにより、自車両の音が聞こえないため、周囲の情報音を自然に提供することができる。
【0031】
《発明の他の一実施の形態》
本発明の車両用聴覚モニタ装置を車両に搭載した発明の他の一実施の形態を説明する。図36は一実施の形態の基本構成を示すブロック図であり、図37は一実施の形態の具体的な構成を示す図である。音入力部10は車両周囲の外壁付近に設置され、車両周囲の音を集音する。音入力部10としては、図37に示すようにマイク210_1〜210_nを用いることができ、これらのマイクは車両外壁に取り付けられる程度に小型であればよく、一般的なダイナミック型マイクなどを用いることができる。
【0032】
ここで、マイク210_1〜210_nの車両への取付け方法を説明する。マイク210_1〜210_nは少なくとも2個以上設置し、これらのマイクでは一つの音源から到来する音が時間、周波数、音圧レベルなどの特徴においてマイクごとに大きな差が出るように、十分に距離を置いた配置にする。理想的には2つのマイクから入力された2つの音が、バイノーラル音源として成立していることが望ましい。実際には、車両外壁に取り付けられたマイクで収録した音と、ダミーヘッドなどの耳介位置に配置されたマイクで収録した音とは異なるため、擬似的にバイノーラル録音を行なう。
【0033】
例えば図38に示すように、車両の屋根等にダミーヘッドに近い形状のドーム型の筐体(人間の頭部と同等の大きさ)と、この筐体左右に取り付けられた擬似的な耳介の外耳道内にマイクを取り付けて集音する。また、例えば図39に示すように、車両の外壁に擬似的な耳介を取り付け、これらの耳介の外耳道内にマイクを取り付けて集音する。このような構成では、入力信号が実際のバイノーラル録音とは異なるが、使用者に対して目的の方向に音像を形成する点に関しては近い音が得られる。このとき、マイクはなるべく壁に近いほうが左右のマイクに入力される音信号の差異が出やすく、最大でも10cm以下が望ましい。なお、単に進行方向と後方から到来する音を弁別させるだけであれば、図5に示すようにマイクの後方に壁を設けるだけでも一定の効果が得られる。
【0034】
図36および図37において、増幅部20は集音された音を適切な大きさの電気信号に変換する。増幅部20としては、図37に示すような一般的なフィルター付きマイクアンプ220を用いればよい。
【0035】
第1補正部30は、入力された複数の音の電気信号を適切な状態に加工し、所望のチャネル数(第2補正部40の入力チャネル数)に変換して出力する。第1補正部30は、図37に示すAD変換器230、演算装置240、記憶装置245およびDA変換器270により構成される。この第1補正部30から出力される音は、運転者の両耳付近や助手席乗員の頭部付近に設定される“制御点”における所望の音と理論上、等価になる必要がある。この第1補正部30の構成については詳細を後述する。
【0036】
第2補正部40は、第1補正部30により補正された音信号をスピーカーから出力するときに、スピーカーから制御点までの伝達系の影響を除去し、第1補正部30により補正された音信号が制御点において忠実に音として再現されるように音信号を補正する。この第2補正部40は、図37に示すAD変換器230、演算装置240、記憶装置245およびDA変換器270により構成される。この第2補正部40の構成については詳細を後述する。
【0037】
なお、図41に示すように、第1補正部30と第2補正部40に対し、それぞれ別の第1演算装置240と第2演算装置250、第1記憶装置245と第2記憶装置255、AD変換器230と262、DA変換器261と270を用いてもよい。この場合は、AD変換器230、第1演算装置240、第1記憶装置245およびDA変換器261により第1補正部30が構成され、AD変換器262、第2演算装置250、第2記憶装置255およびDA変換器270により第2補正部40が構成される。
【0038】
音出力部50は、第2補正部40から出力された音信号を増幅してスピーカーから出力する。音出力部50は、図37に示す増幅装置(スピーカーアンプ)280およびスピーカー290_1〜290_nを用いて構成される。なお、増幅装置280とスピーカー290_1〜290_nは、車載配置可能な一般的なものを用いればよい。図37に示す頭部位置検出装置300は運転者の頭部位置を検出する。例えば、センサーにより運転席シートの位置を検出して運転者の頭部位置に換算すればよい。詳細を後述するが、運転者の頭部位置に応じて第1補正部30と第2補正部40で用いるフィルターを切り換える。
【0039】
図42は一実施の形態の動作を示すフローチャートである。一実施の形態の車両用聴覚モニタ装置は、電源が投入されるとこの動作を実行する。まず、ステップ110において初期設定を行なう。初期設定時には、第1補正部30と第2補正部40で用いるフィルターの読み込みを行なう。ステップ120で音入力部10で集音した音を入力し、電気信号に変換する。続くステップ130では音信号を適切なレベルに増幅する。
【0040】
ステップ140において第1補正処理を行う。すなわち、音信号を離散変換して補正フィルター処理およびチャネルの統合処理を行い、得られた信号をそのまま、または、連続信号に変換する。次に、ステップ150で第2補正処理を行う。すなわち、第1補正処理後の音信号が連続信号であれば離散変換し、補正フィルター処理を行った後、連続信号に変換する。なお、第1補正処理と第2補正処理については詳細を後述する。ステップ160では、補正処理後の音信号を増幅し、続くステップ170でスピーカーから出力する。ステップ180において運転者の頭部位置を検出し、頭部位置が変化した場合はステップ190へ進み、第1補正処理および第2補正処理で用いるフィルターの内容を変更する。
【0041】
なお、一連の処理における信号は、電気信号のような連続信号の場合は第1補正処理および第2補正処理の前後でAD変換処理とDA変換処理を行い、離散信号で得られる場合はこれらのAD変換処理とDA変換処理を行なわずに第1補正処理および第2補正処理を行う。第l補正処理と第2補正処理においては、コスト等の観点から離散的なフィルターを適用するのが望ましいが、連続処理が可能なフィルターを適用してもよい。
【0042】
第1補正部30の詳細な構成とその第1補正処理について説明する。まず、第1補正部30を擬似バイノーラル録音を行う構成とする場合の例を説明する。図38および図39で説明した手法を用い、2個のマイクで収録する入力音を擬似的にバイノーラル化する。すなわち、ダミーヘッドやHead And Torso Simulatorの耳介内部に設置されたマイクで収録した音と比較して、少なくとも音像の方向が同じように聞こえる音にする。この状態で集音された音源に対して第1補正部30でフィルタリングするときには、その音源の内容が変更されないように処理することが望ましい。例えば図38において、マイク210_1からの入力をX1、マイク210_2からの入力をX2、それぞれの入力に適用する第1補正部30(第1補正処理)の時間領域のフィルターをH1、H2、第1補正部30(第1補正処理)からの出力をY1、Y2とすると、
Y1=X1*H1 ・・・(1)、
Y2=X2*H2 ・・・(2)
で表現できる。なお、(1)式および(2)式において、記述「A*B」はベクトルAおよびベクトルBの畳み込み演算を表す。このとき、Y1、Y2はX1、X2と等価であってよいので、フィルターH1、H2はタップ数1、係数1とするか、タップ数Nで何れかの時間(かつ、H1、H2において同時間)に係数1が立つ時間遅延フィルターとすることが望ましい。例えば、
H1=H2=1 ・・・(3)、
H1=H2=[0,1,0,0,0,0,0] (N=7タップ、時間遅延1タップ)
・・・(4)
などの構成によって実現できる。
【0043】
次に、第1補正部30により、仮想音源を用いて窓を開けたときのような音響空間を構築する場合の例を説明する。この例では、自車周囲の環境音が自車の窓を開けたときのように聞こえるように、仮想音源を用いて音像を構成する。図43(a)は、自車後部座席の左右の窓を開けた状態で到来する自車周囲の環境音の聞こえ方の例を示す。このとき、運転者は後方の窓から侵入してくる音を後方に定位する音源として聞くことができる。例えば、自車周囲の車両1と車両3は運転者から相対的に後方に位置し、後部座席左右の窓を開けた場合は、当該位置に定位して聞こえる。一方、車両2は運転者から相対的に右側に位置し、後部座席左右の窓を開けた場合は、窓からの回折音と前方窓を通した直接音とが到来する。
【0044】
そこで、窓を開けたときに窓から到来する音のみを再現することによって、図8(a)に示す状況を再現する手法を検討する。原始的な方法としては、図43(b)に示すように、窓の外にマイクを配置し、これらのマイクからの入力信号をそのまま窓の内側に配置したスピーカーを用いて再現する手法が考えられる。この手法を用いた場合は、窓の内側にスピーカーを配置する必要が有り、機器の配置に制限のある車両等では困難が予想される。そこでこの一実施の形態では、図43(c)に示すように、第1および第2の補正部によって、車外に配置されたマイクからの入力信号を、マイクと離れた位置にスピーカーを配置して仮想的な音像再生技術により窓の外側から到来するように制御する。
【0045】
図44は第1補正部30の構成例を示す。マイク210_1〜210_nから入力された信号は、Gnmのフィルター処理を施した後、左右チャネルの信号として別個に加算され、第1補正部40へ出力される。ここで、nはマイク番号を表し、mは第2補正部40の入力チャネル番号を表す。番号nのマイク210_nから入力された信号はフィルターGn1、Gn2による
処理が施され、入力チャネル(この例ではm=1、2)ごとに、かつ、それぞれの時間要素ごとに加算される。
【0046】
図45は、後席右側の車両外壁に配置されたマイク210_1に対応する時間領域のフィルターG11、G12の構成例を示す。フィルターG11、G12は、マイク210_1の位置(仮想的に開ける窓、または仮想的に想定する窓の位置)から運転者の頭部(両耳付近)までの遅延および距離減衰などを表す。ここでは9タップのFIRフィルターを用いた遅延器の場合を示す。なお、遅延子の位置は、例えば、CAD上で距離を計測し、音速を用いて到達時間を計るなど、幾何的な手法により物理的に容易に計算することができ、極めて簡易的に所望のフィルターを構成することができる。
【0047】
図46は、後席右側の車両外壁に配置されたマイク210_1に対応するフィルターG11、
G12の他の構成例を示す。フィルターG11、G12は、マイク210_1の位置(仮想的に開ける窓、または仮想的に想定する窓の位置)から運転者の頭部(両耳付近)までの伝達関数を用いる。ここでは10タップのFIRフィルターを用いた伝達関数の場合を示す。なお、伝達関数はマイク210_1の位置から運転者の両耳付近までの音響伝達系を予め測定することにって実現できる。
【0048】
第1補正部30により仮想音源を用いて窓を開けたときのような音響空間を構築する場合には、上述したバイノーラル収録系と異なり、マイクを仮想的に設定する窓位置に配置することになり、各マイクの出力をフィルタリング後に加算する。このような構成により、種々の方向から仮想的に到来する音を、例えば、耳の左右の位置において再現することができる。
【0049】
なお、図45および図46ではマイク210_1を後方のみに設置した例を示すが、例えば図47に示すように、6台のマイク210_1〜210_6を後席左右の窓、前席左右の窓、フロントウインドウおよびリヤウインドウの6カ所に配置して6方向に対応させると、360度の水平面方向に対する音響的視界を得ることができる。この場合、運転者が使用するマイクを任意に選択できるようにすれば、運転者が好みの仮想窓だけを開けたかのごとく、音響的視界を構成することができる。
【0050】
次に、第2補正部40の詳細な構成とその第2補正処理について説明する。図48は第2補正部40の概念を説明するための図である。運転者の両耳付近に設定される制御点C1、C2において、上述した第1補正部30からの入力信号Y1、Y2が再現されるように第2補正部40を構成する。第1補正部30からの入力信号Y1、Y2と、制御点C1、C2における再現信号(観測信号)Z1、Z2との間には、
Y1=Z1 ・・・(5)、
Y2=Z2 ・・・(6)
の関係が成立することが望ましい。そこで、この一実施の形態では補正のためのフィルターを用いて空間伝達系の影響を除去する。以下、このフィルターを“逆フィルター”と呼ぶ。
【0051】
図49により、第2補正部40で用いる逆フィルターの構成と計算法を説明する。任意の周波数ごとに、入力信号Yn、逆フィルターHmn(mは音源番号、nは制御点番号)、
再現信号(制御点における観測信号)Znおよび空間伝達特性Fnmとしたとき、各要素の
関係は、
F・H・Y=Z ・・・(7)
と表される。[7]式において、F、H、Y、Zはベクトルであり、F=[Fnm]、H=[Hmn]、Y=[Yn]、Z=[Zn]の行列式で表される。このとき、上記(5)、(6)式の関係を満たすためには、
F・H=I ・・・(8)
(Iは単位ベクトル)であることが要求される。したがって、FよりHを導き出すためには、任意の周波数ごとに
H=F ・・・(9)
を計算すればよい。(9)式において、[・]は行列[・]の一般逆行列を表す。例えば、“最小ノルム解を用いた逆フィルター設計のトランスオーラルシステムへの応用:日本音響学会講演論文集、pp495-496(1998)”に記載された計算方法を採用することができる。
【0052】
次に、運転者以外の乗員に車外の環境音が聞こえないようにする方法を説明する。この一実施の形態では、車外の環境音を、それらの音源の位置から聞こえるように運転者に提示することによって安全性等の向上を図るが、提示される環境音は運転者以外の乗員、例えば助手席乗員にとっては必ずしも有用とは言えず、これら環境音が助手席では聞こえないようにシステムを構築する。
【0053】
図50および図51により、助手席乗員に車外の環境音が聞こえないようにする第2補正部40の逆フィルターの構成を説明する。まず、図50に示す逆フィルター構成は4スピーカーS1〜S4、3制御点C1〜C3の例を示す。この構成では、入力信号Xnと、制御点で観測される観測信号Ynとの間に、Xn=Ynの関係が成立するように、逆フィルターが設計される。今、入力信号X1とX2にはそれぞれ実体のある波形を入力し、入力信号X3には無音信号、すなわち振幅0の直列信号を入力したとき、Y1=X1、Y2=X2が成立し、かつ、Y3=0も同時に成立させることができる。そして、制御点C1、C2を運転者の両耳付近に設定し、制御点C3を助手席乗員の頭部付近に設定することによって、運転者には車外の環境音が聞こえ、助手席乗員には車外の環境音が聞こえないようにすることができる。なお、理想的には助手席乗員の両耳付近に制御点C3、C4を設定してY3=Y4=0とするのが望ましい。
【0054】
図51に示す逆フィルター構成は、図50に示す逆フィルター構成から冗長なフィルターを省略した例を示す。この場合、4スピーカー、3制御点であっても、8個のフィルターでシステムを構成できる。ただし、あくまで図50の系を基に逆フィルターを構築した場合に12個のフィルターを8個に減らすことができるのであり、始めから8個のフィルターで設計しても同様の効果は得られない。このように、車室内の各座席に制御点を設けることによって音を創出する制御と、音を消去する制御とを同時に実現できる。
【0055】
次に、運転者の頭部位置の変化に応じてフィルターを切り換える例を説明する。第1補正部30と第2補正部40は運転者の頭部位置の変化により再現精度などが低下するため、頭部位置の変化に応じて第1補正部30と第2補正部40を変更することが望ましい。図37に示す頭部位置検出装置300により運転者の頭部位置を検出した後、記憶装置245に予め記憶されている第1補正部30のフィルターと第2補正部40のフィルターを運転者の頭部位置に応じて選択する。
【0056】
具体的には、図52に示すように、運転席を最前部に移動させた場合の頭部位置P1と、最後部に移動させた場合の頭部位置P2におけるマイクから運転者両耳位置までの伝達関数から求めたフィルターGnm(1)、Gnm(2)を予め記憶しておき、座席の位置に応じた第1補正部30のフィルターを選択する。同様に、第2補正部フィルターの選択例としては、図53に示すように、運転席を最前部に移動させた場合の頭部位置P1と、最後部に移動させた場合の頭部位置P2におけるマイクから運転者両耳位置までの伝達関数から求めた逆フィルターHmn(1)、Hmn(2)を予め記憶しておき、座席の位置に応じて第2補正部40の逆フィルターを選択する。
【0057】
このように、一実施の形態によれば、車体外周に車両周辺の音を集音する複数のマイクを設置するとともに、車室内に複数のスピーカーを配置し、複数のマイクにより車両周辺に存在する物体から位置情報を含む音を入力し、複数のスピーカーにより車両周辺物体の音を位置情報を維持したまま車両乗員に出力するようにした。具体的には、車両周辺物体の音が車両乗員に対して車両周辺物体が存在する方向から聞こえるように、複数のマイクで集音した音を補正する第1補正処理と、車両乗員に聞こえる複数のスピーカーの出力音が第1補正処理による補正後の音と等しくなるように、第1補正処理の出力音を補正する第2補正処理とを行うようにしたので、車両乗員に突発的な注意転導が発生するのを防止し、認知リソースに応じた適切な対応を取らせることができる上に、車両の窓を閉めたまま車両周辺の複数の物体の音を車両乗員に聞かせる安価な装置を提供することができる。
【0058】
また、一実施の形態によれば、マイクを車両の左右に2個配置し、これらの2個のマイクで集音した音をバイノーラル音に補正するようにしたので、車両周辺物体からの音が開いている窓から自然に到来したかのように、車両乗員に車両周辺物体の音を聞かせることができる。
【0059】
一実施の形態によれば、車両外周にダミーヘッドを取り付けて2個のマイクをダミーヘッドの左右耳介内に配置し、これらの2個のマイクで集音した音をバイノーラル音に補正するようにしたので、車両周辺物体からの音を車両乗員が直接両耳で聞くように、車両乗員に車両周辺物体の音を聞かせることができる。
【0060】
一実施の形態によれば、マイクを車両の左右に2個配置し、車両周辺物体の音が車両の任意の窓を介して車両周辺物体の方向から聞こえるように、2個のマイクで集音した音を補正するようにした。具体的には、車両周辺物体の音に対して窓から車両乗員の頭部までの距離に応じた遅延と減衰の処理を施したり、あるいは車両周辺物体の音に対して窓から車両乗員の頭部までの音響伝達系の伝達関数により処理を施すようにしたので、車両周辺物体からの音が開いている窓から自然に到来したかのように、車両乗員に車両周辺物体の音を聞かせることができる。
【0061】
一実施の形態によれば、第2補正処理において、第1補正処理後の出力音に対して各スピーカーから車両乗員までの音響伝達系の影響を除去する処理を施すようにしたので、マイクの位置と異なる位置にスピーカーを配値しても、車両乗員に対して車両周辺物体の音をその物体が存在する方向から正しく聞こえるように報知することができ、車両に対するマイクとスピーカーの配置自由度を向上させることができる。
【0062】
一実施の形態によれば、車両乗員の両耳付近で車両周辺物体の音が聞こえ、車両運転者以外の車両乗員に車両周辺物体の音が聞こえないように、複数のスピーカーの出力音を制御するようにしたので、運転者にのみ車外環境音を聞かせて適切な対応を取らせながら、運転者以外の乗員には静かな車室内環境を提供することができる。
【0063】
一実施の形態によれば、車両運転者の頭部位置を検出し、車両運転者の頭部位置に応じて第1補正処理と第2補正処理の内容を変更するようにしたので、運転者の頭部位置が変化しても車両周辺物体の音を精度よく再現することができる。
【符号の説明】
【0064】
10 音入力部(集音手段)
30 第1補正部(第1補正手段)
40 第2補正部(第2補正手段)
50 音出力部(再生手段)
111 車両情報検出部(情報検出手段)
112 スイッチ部(制御手段)
113 フィルター部(制御手段)
114 ボリューム変更部(制御手段)
210_1〜210_n マイク(集音手段)
230、262 AD変換器
240、250 演算装置(制御手段)
245、255 記憶装置
261、270 DA変換器
290_1〜290_n スピーカー(再生手段)
300 頭部位置検出装置(位置検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体外周に設けられて車両周辺の音を集音する集音手段と、
車室内に配置されて音を再生する再生手段と、
自車両に関わる情報を検出する情報検出手段と、
前記集音手段により集音した音に基づく再生音を作成し、前記情報検出手段により検出した前記情報に基づいて前記自車両の走行状態を判断し、判断した前記自車両の走行状態に基づいて前記再生手段より出力する前記再生音の制御をおこなう制御手段とを備えることを特徴とする車両用聴覚モニタ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用聴覚モニタ装置において、
前記自車両に関わる情報は自車位置情報と道路地図上の予め設定した位置情報を含み、
前記制御手段は、前記自車位置が前記予め設定した位置に達したときに前記再生手段からの再生音の出力または停止を行うことを特徴とする車両用聴覚モニタ装置。
【請求項3】
請求項1に記載の車両用聴覚モニタ装置において、
前記自車両に関わる情報は自車位置情報と道路地図上の予め設定した位置情報を含み、
前記再生手段の音量を調節する音量調節手段を備え、
前記制御手段は、前記自車位置が前記予め設定した位置に達したときに、前記音量調節手段により前記再生手段の出力音量を変更することを特徴とする車両用聴覚モニタ装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両用聴覚モニタ装置において、
前記自車両に関わる情報は運転者による車両の運転操作情報を含み、
前記制御手段は、前記車両の運転操作情報に応じて前記再生手段からの再生音の出力または停止を行うことを特徴とする車両用聴覚モニタ装置。
【請求項5】
請求項1に記載の車両用聴覚モニタ装置において、
前記自車両に関わる情報は道路交通情報を含み、
前記制御手段は、前記道路交通情報に応じて前記再生手段からの再生音の出力または停止を行うことを特徴とする車両用聴覚モニタ装置。
【請求項6】
請求項1に記載の車両用聴覚モニタ装置において、
前記自車両に関わる情報は自車両の車速情報を含み、
前記制御手段は、前記集音手段で集音した前記車両周辺の音に対して前記自車両の車速情報に応じたバンドパスフィルター処理を施し、前記車両周辺の音から自車両の走行音を排除することを特徴とする車両用聴覚モニタ装置。
【請求項7】
請求項1に記載の車両用聴覚モニタ装置において、
前記制御手段は、前記集音手段により車両周辺に存在する物体から位置情報を含む音を入力し、前記再生手段により前記車両周辺物体の音を前記位置情報を維持したまま車両乗員に出力することを特徴とする車両用聴覚モニタ装置。
【請求項8】
請求項7に記載の車両用聴覚モニタ装置において、
前記制御手段は、前記車両周辺物体の音が車両乗員に対して前記車両周辺物体が存在する方向から聞こえるように、前記集音手段で集音した音を補正する第1補正手段と、
車両乗員に聞こえる前記再生手段の出力音が前記第1補正手段による補正後の音と等しくなるように、前記第1補正手段の出力音を補正する第2補正手段とを有することを特徴とする車両用聴覚モニタ装置。
【請求項9】
請求項8に記載の車両用聴覚モニタ装置において、
前記集音手段はマイクを車両の左右に2個配置し、
前記第1補正手段は、前記2個のマイクで集音した音をバイノーラル音に補正することを特徴とする車両用聴覚モニタ装置。
【請求項10】
請求項8に記載の車両用聴覚モニタ装置において、
前記集音手段は、車両外周にダミーヘッドを取り付けて2個のマイクを前記ダミーヘッドの左右耳介内に配置し、
前記第1補正手段は、前記2個のマイクで集音した音をバイノーラル音に補正することを特徴とする車両用聴覚モニタ装置。
【請求項11】
請求項8に記載の車両用聴覚モニタ装置において、
前記集音手段は前記マイクを車両の左右に2個配置し、
前記第1補正手段は、前記車両周辺物体の音が車両の任意の窓を介して前記車両周辺物体の方向から聞こえるように、前記2個のマイクで集音した音を補正することを特徴とする車両用聴覚モニタ装置。
【請求項12】
請求項11に記載の車両用聴覚モニタ装置において、
前記第1補正手段は、前記車両周辺物体の音に対して前記窓から車両乗員の頭部までの距離に応じた遅延と減衰の処理を施すことを特徴とする車両用聴覚モニタ装置。
【請求項13】
請求項11に記載の車両用聴覚モニタ装置において、
前記第1補正手段は、前記車両周辺物体の音に対して前記窓から車両乗員の頭部までの音響伝達系の伝達関数により処理を施すことを特徴とする車両用聴覚モニタ装置。
【請求項14】
請求項8〜13のいずれか1項に記載の車両用聴覚モニタ装置において、
前記再生手段は車室内に配置される複数のスピーカーを有し、
前記第2補正手段は、前記第1補正手段の出力音に対して前記各スピーカーから車両乗員までの音響伝達系の影響を除去する処理を施すことを特徴とする車両用聴覚モニタ装置。
【請求項15】
請求項14に記載の車両用聴覚モニタ装置において、
前記第2補正手段は、車両乗員の両耳付近で前記車両周辺物体の音が聞こえるように、前記複数のスピーカーの出力音を制御することを特徴とする車両用聴覚モニタ装置。
【請求項16】
請求項14に記載の車両用聴覚モニタ装置において、
前記第2補正手段は、車両運転者以外の車両乗員に前記車両周辺物体の音が聞こえないように、前記複数のスピーカーの出力音を制御することを特徴とする車両用聴覚モニタ装置。
【請求項17】
請求項8〜16のいずれか1項に記載の車両用聴覚モニタ装置において、
車両運転者の頭部位置を検出する位置検出手段を備え、
前記第1補正手段は、車両運転者の前記頭部位置に応じて前記第1補正手段の処理を変更することを特徴とする車両用聴覚モニタ装置。
【請求項18】
請求項8〜16のいずれか1項に記載の車両用聴覚モニタ装置において、
車両運転者の頭部位置を検出する位置検出手段を備え、
前記第2補正手段は、車両運転者の前記頭部位置に応じて前記第2補正手段の処理を変更することを特徴とする車両用聴覚モニタ装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【公開番号】特開2012−133788(P2012−133788A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−10066(P2012−10066)
【出願日】平成24年1月20日(2012.1.20)
【分割の表示】特願2007−219240(P2007−219240)の分割
【原出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】