説明

車両用自動変速機の制御装置

【課題】ニュートラル制御からの復帰条件が成立したときの加速操作時に、必要な大きさの駆動力を速やかなタイミングで得ることができる車両用自動変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】ニュートラル制御の復帰条件が成立した場合には、ブレーキB1が解放され、ブレーキB2が一時的に係合させられることから、そのブレーキB2の一時的係合とニュートラル制御中に解放されていたクラッチC1の再係合とにより最低速ギヤ段が一時的に成立させられる。そのブレーキB2の一時的成立は、エンジン10の出力トルクを消費することなく、エンジン10の出力トルクの増加前に自動変速機14の入力軸回転速度すなわちタービン回転速度NT を第1速ギヤ段に対応する回転速度まで上昇させるので、ニュートラル制御からの復帰条件が成立した後の発進加速操作時には、必要な大きさの駆動力を速やかなタイミングで得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両用自動変速機の制御装置に係り、特に、車両のニュートラル制御からの復帰時に車両の発進性能を高める技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両の前進走行時に係合させられる前進用摩擦係合装置と一方向クラッチ又は最低速ギヤ段用摩擦係合装置とにより最低速ギヤ段が成立させられ、その前進用摩擦係合装置と複数の摩擦係合要素のうちの前記最低速ギヤ段用摩擦係合装置を除くいずれか1つとを係合させることで前記最低速ギヤ段より高速側のギヤ段が択一的に成立させられる自動変速機を備える車両用自動変速機が知られている。そして、予め定められたニュートラル制御条件が成立した場合には前記前進用摩擦係合装置を解放してその自動変速機内の動力伝達経路を開放すると同時に、前記摩擦係合装置のうちの前記最低速ギヤ段用摩擦係合装置を除く所定の摩擦係合装置とその前記一方向クラッチとを係合させて車両の後退を防止する車両用自動変速機の制御装置が知られている。たとえば、特許文献1に記載された車両用自動変速機の制御装置がそれである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3042146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に示される従来の車両用自動変速機の制御装置では、車両の後退防止のためにニュートラル制御中に一方向クラッチと共に係合させられる所定の摩擦係合装置は、最低速ギヤ段よりも高速側のギヤ段を成立させるためのものであることから、ニュートラル制御から復帰させられたときには、その復帰に関連して係合させられる前進用摩擦係合装置とその所定の摩擦係合装置との係合によって最低速ギヤ段よりも上段のギヤ段若しくはその上段のギヤ段に近い状態が意図せず成立させられるので、アクセルペダルの踏込みにより発進操作が行われることにより、予め記憶された変速線図に基づく変速制御による最低速ギヤ段へのダウンシフトが発生する場合があった。このような車両発進操作時の最低速ギヤ段へのダウンシフトでは、それまでのギヤ段から最低速ギヤ段を成立させるまでの変速時間が必要であるとともに、エンジンから自動変速機への入力トルクによって入力軸回転速度を最低速ギヤ段相当の回転数まで上昇させる必要があり、エンジンの出力トルクの一部がその回転上昇に消費されて車両の駆動力が相対的に低くなるので、必要な大きさの駆動力を速やかなタイミングで発生できず、運転者に違和感を与える場合があった。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、ニュートラル制御からの復帰条件が成立したときの発進操作時に、必要な大きさの駆動力を速やかなタイミングで得ることができる車両用自動変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するための第1発明の要旨とするところは、前進走行時に係合させられる前進用摩擦係合装置と一方向クラッチ又は最低速ギヤ段用摩擦係合装置とにより最低速ギヤ段が成立させられ、該前進用摩擦係合装置と複数の摩擦係合要素のうちの前記最低速ギヤ段用摩擦係合装置を除くいずれか1つとを係合させることで前記最低速ギヤ段より高速側のギヤ段が択一的に成立させられる自動変速機を備え、予め定められたニュートラル制御条件が成立した場合には前記前進用摩擦係合装置を解放して該自動変速機内の動力伝達経路を開放すると同時に、前記摩擦係合装置のうちの前記最低速ギヤ段用摩擦係合装置を除く所定の摩擦係合装置と該前記一方向クラッチとを係合させて車両の後退を防止する車両用自動変速機の制御装置であって、前記ニュートラル制御の復帰条件が成立した場合には、前記所定の摩擦係合装置を解放し、前記最低速ギヤ段用摩擦係合装置を一時的に係合させることにある。
【0007】
また、第2発明の要旨とするところは、第1発明において、3つの摩擦係合装置の係合に基づいて作動するフェールセーフバルブが備えられ、前記最低速ギヤ段用摩擦係合装置の一時的係合は、前記所定の摩擦係合装置の解放後に、若しくはその所定の摩擦係合装置が所定の解放過程に到達したことで開始されることにある。
【0008】
また、第3発明の要旨とするところは、第2発明において、前記最低速ギヤ段用摩擦係合装置の一時的係合は、前記ニュートラル制御の復帰条件が成立してから予め設定された待機時間が経過するまで待機させられることにある。
【0009】
また、第4発明の要旨とするところは、第1発明乃至第3発明のいずれか1において、前記ニュートラル制御の復帰条件は、該ニュートラル制御の成立条件の1つである前記車両のブレーキペダルが踏み込まれた状態から該ブレーキペダルが戻し操作されることで成立させられるものであり、前記最低速ギヤ段用摩擦係合装置の一時的係合は、該ブレーキペダルの戻し操作から該車両のアクセルペダルの踏込み操作後のアクセルペダル戻し操作前までに終了させられることにある。
【0010】
また、第5発明の要旨とするところは、第4発明において、前記最低速ギヤ段用摩擦係合装置の一時的係合は、前記ニュートラル制御の復帰条件成立時から予め定められた一時的係合時間の経過前までに実行されることにある。
【発明の効果】
【0011】
第1発明の車両用自動変速機の制御装置によれば、ニュートラル制御の復帰条件が成立した場合には、前記所定の摩擦係合装置が解放され、最低速ギヤ段用摩擦係合装置が一時的に係合させられることから、この最低速ギヤ段用摩擦係合装置の一時的係合とニュートラル制御中に解放されていた前進用摩擦係合装置の再係合とにより最低速ギヤ段が成立させられる。そして、この最低速ギヤ段の成立は、従来のようにエンジンの出力トルクを消費することなく、エンジンの出力トルクの増加前に自動変速機の入力軸回転速度を最低速ギヤ段に対応する回転速度まで上昇させるので、ニュートラル制御からの復帰条件が成立した後の発進操作時には、最低速ギヤ段への変速時間が必要なくしかも入力軸回転数を最低速ギヤ段相当の回転数まで上昇させる必要がないので、必要な大きさの駆動力を速やかなタイミングで得ることができる。
【0012】
ここで、好適には、3つの摩擦係合装置の係合に基づいて作動するフェールセーフバルブが備えられ、前記最低速ギヤ段用摩擦係合装置の一時的係合は、前記所定の摩擦係合装置の解放後に、若しくはその所定の摩擦係合装置の所定の解放過程に到達したことで開始されることにある。このようにすれば、所定の摩擦係合装置の解放が完了されるまで若しくはその所定の摩擦係合装置が所定の解放過程に到達するまでは最低速ギヤ段用摩擦係合装置の一時的係合が行われないので、運転者の意図しないフェールセーフバルブの作動が回避される。すなわち、上記ニュートラル制御からの復帰直後では、それまで係合していた所定の摩擦係合装置が解放されつつある状態と、それまで解放されていた前進用摩擦係合装置が再び係合される状態と、上記最低速ギヤ段用摩擦係合装置の係合が開始される状態とが重なって、3つの摩擦係合装置が係合する瞬間が発生してフェールセーフバルブが意図せず作動する可能性があったが、上記のように所定の摩擦係合装置が解放されるまでは最低速ギヤ段用摩擦係合装置の一時的係合が行われないので、フェールセーフバルブが意図せず作動する可能性が好適に回避される。
【0013】
また、好適には、前記最低速ギヤ段用摩擦係合装置の一時的係合は、前記ニュートラル制御の復帰条件が成立してから予め設定された待機時間が経過するまで待機させられる。このようにすれば、その待機時間を、ニュートラル制御の復帰条件が成立してからそのニュートラル制御中に係合させられていた所定の摩擦係合装置の解放後までの時間若しくはその所定の摩擦係合装置の解放完了から所定時間前の所定の解放過程となるまでの時間に設定することにより、フェールセーフバルブの作動が好適に回避される。
【0014】
また、好適には、前記ニュートラル制御の復帰条件は、そのニュートラル制御の成立条件の1つである前記車両のブレーキペダルが踏み込まれた状態から該ブレーキペダルが戻し操作されることで成立させられるものであり、前記最低速ギヤ段用摩擦係合装置の一時的係合は、そのブレーキペダルの戻し操作から該車両のアクセルペダルの踏込み操作後のアクセルペダル戻し操作前までに終了させられる。このようにすれば、その最低速ギヤ段用摩擦係合装置の一時的係合によって最低速ギヤ段が成立させられると、車速が上昇した状態からアクセルペダルが戻し操作された場合に車両に意図しないエンジンブレーキが作用することが好適に解消される。
【0015】
また、好適には、前記最低速ギヤ段用摩擦係合装置の一時的係合は、前記ニュートラル制御の復帰条件成立時から予め定められた一時的係合時間の経過前までに実行される。このようにすれば、上記一時的係合時間を、ニュートラル制御の復帰から再加速操作までの最短時間以下に設定することにより、車両に意図しないエンジンブレーキが作用することが好適に解消される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明が適用された車両用駆動装置の骨子図である。
【図2】図1の自動変速機の各ギヤ段を成立させるためのクラッチおよびブレーキの係合、解放状態を説明する図である。
【図3】図1の実施例の車両に設けられた電子制御装置の入出力信号を説明する図である。
【図4】図3の油圧制御回路のうち自動変速機の変速制御に関連する部分の構成を説明する回路図である。
【図5】図4のフェールセーフバルブの機能の要部を説明する部である。
【図6】図3の電子制御装置が備えている機能を説明するブロック線図である。
【図7】図6の変速制御部に用いられている変速線図(マップ)の一例を示す図である。
【図8】図6の電子制御装置の制御作動を説明するタイムチャートである。
【図9】図6の電子制御装置の制御作動の要部を具体的に説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例1】
【0018】
図1は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両などの横置き型の車両用駆動装置の骨子図であり、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等の内燃機関によって構成されているエンジン10の出力は、トルクコンバータ12、自動変速機14を経て、図示しない差動歯車装置から駆動輪(前輪)へ伝達されるようになっている。上記エンジン10は車両走行用の動力源として機能し、トルクコンバータ12は、流体伝動装置の入力部材として機能するポンプ翼車12a、流体伝動装置の出力部材として機能するタービン翼車12b、およびステータ翼車12cと、ポンプ翼車12aとタービン翼車12bとの間を直結するロックアップクラッチ12dとを備えている。オイルポンプ40は、エンジン10によりポンプ翼車12aを介して回転駆動される機械式ポンプである。
【0019】
自動変速機14は、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置20を主体として構成されている第1変速部22と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置26およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置28を主体として構成されている第2変速部30とを同軸線上に有し、入力軸32の回転を変速して出力歯車34から出力する。入力軸32は入力部材に相当するもので、本実施例ではトルクコンバータ12のタービン軸であり、出力歯車34は出力部材に相当するもので、差動歯車装置を介して左右の駆動輪を回転駆動する。なお、自動変速機14は回転軸心Cに対して略対称的に構成されており、図1では回転軸心Cの下半分が省略されている。
【0020】
上記第1変速部22を構成している第1遊星歯車装置20は、サンギヤS1、キャリアCA1、およびリングギヤR1の3つの回転要素を備えており、サンギヤS1が入力軸32に連結されて回転駆動されるとともに、リングギヤR1が第3ブレーキB3を介して回転不能にトランスミッションケース(以下、単にケースという)36に固定されることにより、キャリアCA1が中間出力部材として入力軸32に対して減速回転させられて出力する。また、第2変速部30を構成している第2遊星歯車装置26および第3遊星歯車装置28は、一部が互いに連結されることによって4つの回転要素が構成されており、具体的には、第3遊星歯車装置28のサンギヤS3によって第1回転要素が構成され、第2遊星歯車装置26のリングギヤR2および第3遊星歯車装置28のリングギヤR3が互いに連結されて第2回転要素が構成され、第2遊星歯車装置26のキャリアCA2および第3遊星歯車装置28のキャリアCA3が互いに連結されて第3回転要素が構成され、第2遊星歯車装置26のサンギヤS2によって第4回転要素が構成されている。上記第2遊星歯車装置26および第3遊星歯車装置28は、キャリアCA2およびCA3が共通の部材にて構成されているとともに、リングギヤR2およびR3が共通の部材にて構成されており、且つ第2遊星歯車装置26のピニオンギヤが第3遊星歯車装置28の第2ピニオンギヤ(外周側ピニオンギヤ)を兼ねているラビニヨ型の遊星歯車列とされている。
【0021】
上記第1回転要素(サンギヤS3)は第1ブレーキB1によって選択的にケース36に連結されて回転停止させられ、第2回転要素(リングギヤR2、R3)は第2ブレーキB2によって選択的にケース36に連結されて回転停止させられ、第4回転要素(サンギヤS2)はクラッチC1を介して選択的に前記入力軸32に連結され、第2回転要素(リングギヤR2、R3)は第2クラッチC2を介して選択的に入力軸32に連結され、第1回転要素(サンギヤS3)は中間出力部材である前記第1遊星歯車装置20のキャリアCA1に一体的に連結され、第3回転要素(キャリアCA2、CA3)は前記出力歯車34に一体的に連結されて回転を出力するようになっている。また、第2回転要素(リングギヤR2、R3)とケース36との間には、その第2回転要素の正回転(入力軸32と同じ回転方向)を許容しつつ逆回転を阻止する一方向クラッチF1が第2ブレーキB2と並列に設けられている。
【0022】
上記クラッチC1、C2およびブレーキB1、B2、B3(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)は、多板式のクラッチや、バンドブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置である。そして、油圧制御回路110(図3参照)のリニアソレノイド弁SL1〜SL5の励磁、非励磁やマニュアルバルブによって油圧回路が切り換えられることにより、係合、解放状態が切り換えられ、図2に示すようにシフトレバー74(図3参照)のセレクト位置PSH(ポジション)に応じて前進6段、後進1 段の各ギヤ段が成立させられる。図2の「1st」〜「6th」は前進の第1速ギヤ段〜第6速ギヤ段を意味しており、「R」は後進ギヤ段であり、それ等の変速比(=入力軸回転速度NIN/出力軸回転速度NOUT )は、前記第1遊星歯車装置20、第2遊星歯車装置26、および第3遊星歯車装置28の各ギヤ比ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。図2の「○」は係合、「◎」はマニアル変速レンジであるSレンジが選択されたエンジンブレーキ時のみ係合、空欄は解放を意味している。第1変速段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチFが設けられているため、発進時(加速時)には必ずしもブレーキB2を係合させる必要は無いのである。本実施例では、上記クラッチC1、C2が、車両前進走行時に係合させられる前進用摩擦係合装置として機能し、ブレーキB2が最低速ギヤ段を成立させるために係合させられる最低速ギヤ段用摩擦係合装置として機能し、上記ブレーキB1が最低速ギヤ段よりも高速側ギヤ段を成立させるために係合させられる所定の摩擦係合装置或いは後退防止用摩擦係合装置として機能している。
【0023】
上記シフトレバー74はシフト操作部材に相当するもので、例えば図3に示すシフトパターンに従って駐車ポジション「P」、後進走行ポジション「R」、ニュートラルポジション「N」、前進走行ポジション「D」、「4」、「3」、「2」、「L」へ操作されるようになっており、「P」および「N」ポジションでは動力伝達を遮断するニュートラルが成立させられるが、「P」ポジションでは図示しないメカニカルパーキング機構によって機械的に駆動輪の回転が阻止される。
【0024】
図3は、図1のエンジン10や自動変速機14などを制御するために車両に設けられた電子制御装置50による制御系統を説明するブロック線図である。アクセルペダル51の操作量(アクセル開度)Accがアクセル操作量センサ52により検出されるようになっている。アクセルペダル51は、運転者の出力要求量に応じて大きく踏込操作されるもので、アクセル操作部材に相当し、アクセル操作量Accは出力要求量に相当する。また、エンジン10の吸気配管には、スロットルアクチュエータ54によって開度θTHが変化させられる電子スロットル弁56が設けられている。この他、エンジン10の回転速度NEを検出するためのエンジン回転速度センサ58、エンジン10の吸入空気量Qを検出するための吸入空気量センサ60、吸入空気の温度TA を検出するための吸入空気温度センサ62、上記電子スロットル弁56の全閉状態(アイドル状態)およびその開度θTHを検出するためのスロットルセンサ64、車速Vに対応する出力歯車34の回転速度(出力軸回転速度に相当)NOUT を検出するための車速センサ66、エンジン10の冷却水温TW を検出するための冷却水温センサ68、ブレーキペダル69の操作の有無を検出するためのブレーキスイッチ70、シフトレバー74の操作位置であるセレクト位置PSHを検出するためのレバーポジションセンサ72、タービン回転速度NT すなわち入力軸回転速度NINを検出するためのタービン回転速度センサ76、油圧制御回路110内の作動油の温度であるAT油温TOIL を検出するためのAT油温センサ78などが設けられており、それらのセンサから、エンジン回転速度NE 、吸入空気量Q、吸入空気温度TA 、スロットル弁開度θTH、車速V(出力軸回転速度NOUT )、エンジン冷却水温TW 、ブレーキ操作の有無、シフトレバー72のセレクト位置PSH、タービン回転速度NT 、AT油温TOIL 、イグニッションスイッチ82の操作位置などを表す信号が、電子制御装置50に供給されるようになっている。上記タービン回転速度NT は、入力部材である入力軸32の回転速度(入力軸回転速度NIN)と同じである。
【0025】
油圧制御回路110は、自動変速機14の変速制御に関して図4に示す油圧制御回路および図5に示すフェールセーフバルブ126をバルブボデー112内に備えている。図4において、オイルポンプ40から圧送された作動油は、リリーフ型の第1調圧弁114により調圧されることによって第1ライン圧PL1とされる。第1調圧弁114は、リニアソレノイド弁SLTから供給される信号油圧PSLT に応じて調圧動作するもので、タービントルクTT すなわち自動変速機14の入力トルクTIN、或いはその代用値であるスロットル弁開度θTHに応じて第1ライン圧PL1が調圧され、その第1ライン圧PL1は、シフトレバー74に連動させられるマニュアルバルブ120に供給される。そして、シフトレバー74が「D」ポジション等の前進走行ポジションへ操作されているときにはマニュアルバルブ120からDレンジ圧PD がリニアソレノイド弁SL1〜SL5へ供給され、シフトレバー74が「R」ポジションすなわち後進走行ポジションへ操作されているときにはマニュアルバルブ120からRレンジ圧PR がシャトル弁122を介してブレーキB3へ供給される。第2調圧弁116は、第1調圧弁114からリリーフされた作動油を信号油圧PSLT に応じて調圧し、第1ライン圧PL1よりも低い第2ライン圧PL2を、ロックアップクラッチ12dの制御のために出力する。また、モジュレータ弁118は、第1ライン圧PL1を元圧としてその第1ライン圧PL1に拘わらず一定のモジュレータ圧PM を、リニアソレノイド弁SLTおよびリニアソレノイド弁SLUへ出力する。
【0026】
リニアソレノイド弁SL1〜SL5は、それぞれクラッチC1、C2、ブレーキB1〜B3に対応して配設されており、電子制御装置50から出力される駆動信号(指示油圧)に従ってそれぞれ励磁状態が制御されることにより、それ等の係合油圧PC1、PC2、PB1、PB2、PB3がそれぞれ独立に制御され、これにより第1速ギヤ段「1st」〜第6速ギヤ段「6th」、および後進ギヤ段「Rev」の何れかを択一的に成立させることができる。
【0027】
図5に示す油圧制御回路110内のフェールセーフバルブ126は、公知のものであり、たとえば特開2008−190667号公報の図6に記載されたものと同様に構成される。フェールセーフバルブ126は、上記係合油圧PC1、PC2、PB1、PB2、PB3のうちの3つ係合油圧が同時に発生していることに基づいてフェール作動し、予め設定されたギヤ段たとえば第3速ギヤ段を成立させる。フェールセーフバルブ126は、たとえば、ブレーキB3への係合油圧PB3の供給を遮断することが可能な第1作動弁126aと、ブレーキB1への係合油圧PB1の供給およびブレーキB2への係合油圧PB2の供給を共に遮断することが可能な第2作動弁126bとを備えており、何らかの原因により例えば非励磁状態であっても油圧が出力されるリニアソレノイド弁のオンフェールの発生により、第1速ギヤ段乃至第6速ギヤ段のうちの何れかの変速段を達成させる際に正常時であれば同時に供給されることがないリニアソレノイド弁の係合油圧が同時に供給されるような故障時に、所定の油圧式摩擦係合装置への係合油圧の供給を遮断して自動変速機10のインタロックを回避するフェールセーフ機能を有している。
【0028】
たとえば、第1作動弁126aは、Dレンジ圧PD の発生時である前進走行の際の正常時にはスプリングの推力およびそのDレンジ圧PD に基づいて正常側位置が維持され、その正常側位置において係合油圧PB3がブレーキB3へ供給されることを許容する。これにより、シフトレバー72の「D」ポジションにおいてブレーキB3の係合が成立要件となる第3速ギヤ段および第5速ギヤ段の達成が許容される。しかし、第1作動弁126aは、Dレンジ圧PD の発生時である前進走行の際の上記故障時には係合油圧PC1、PC2、PB1、PB2、或いはPB3のうち少なくとも3つのリニアソレノイド弁からの係合油圧の発生に基づいて故障側位置へ切り換えられ、その故障側位置においてブレーキB3への係合油圧PSLB3の供給を遮断すると共に、故障時の所定油圧としてのDレンジ圧PD を第2作動弁126bへ出力する。これにより、前進走行の際の故障時にブレーキB3の異常な係合に起因する自動変速機10のインタロックが回避される。
【0029】
また、第2作動弁126bは、Dレンジ圧PD の発生時である前進走行の際の正常時にはスプリングの推力およびライン油圧PL1に基づいて正常側位置が維持され、その正常側位置において係合油圧PB1および係合油圧PB2がそれぞれブレーキB1およびブレーキB2へ供給されることを許容する。これにより、シフトレバー72の「D」ポジションにおいてブレーキB1或いはブレーキB2の係合が成立要件となる第1速ギヤ段、第2速ギヤ段、および第6速ギヤ段の達成が許容される。しかし、第2作動弁126bは、Dレンジ圧PD の発生時である前進走行の際の上記故障時には係合油圧PSLB1、PSLB2、圧PSLB3、および故障時の所定油圧として第1作動弁126aから出力されるDレンジ圧PD のうち少なくとも2つの油圧の発生に基づいて故障側位置へ切り換えられ、その故障側位置においてブレーキB1への係合油圧PSLB1の供給およびブレーキB2への係合油圧PSLB2の供給を遮断する。これにより、前進走行の際の故障時にブレーキB1またはブレーキB2の異常な係合に起因する自動変速機10のインタロックが回避される。
【0030】
このように構成されたフェールセーフバルブ126において、例えば、係合油圧PC1および係合油圧PC2の供給により第4速ギヤ段を達成させる際にリニアソレノイド弁SL3のオンフェールにより係合油圧PB3が同時に供給される故障時には、第1作動弁126aが係合油圧PC1、PC2、およびPB3の発生に基づいて故障側位置へ切り換えられることによりブレーキB3への係合油圧PB3の供給が遮断されるので、クラッチC1、クラッチC2、およびブレーキB3が係合させられることによる自動変速機10のインタロックが回避されると共に、係合油圧PC1およびPC2によりクラッチC1およびクラッチC2のみが係合させられて第4速ギヤ段が達成される。
【0031】
また、たとえば、係合油圧PSLC1および係合油圧PSLB2の供給により第1速ギヤ段を達成させる際にリニアソレノイド弁SL1のオンフェールにより係合油圧PB1が同時に供給されるような故障時には、第2作動弁126bが係合油圧PB1およびPB2の発生に基づいて故障側位置へ切り換えられることによりブレーキB1への係合油圧PB1の供給およびブレーキB2への係合油圧PB2の供給が遮断されるので、クラッチC1、ブレーキB1、およびブレーキB2が係合させられることによる自動変速機10のインタロックが回避されると共に、係合油圧PC1によりクラッチC1のみが係合させられて自動変速機10がニュートラル状態とされる。
【0032】
また、係合油圧PC1および係合油圧PB2の供給により第1速ギヤ段を達成させる際にリニアソレノイド弁SL2のオンフェールにより係合油圧PC2が同時に供給されるような故障時には、第1作動弁126aが係合油圧PC1、PC2、およびPB2の発生に基づいて故障側位置へ切り換えられることによりDレンジ圧PD が第2作動弁126bへ出力されると共に、第2作動弁126bが係合油圧PB2および第1作動弁126aから出力されるDレンジ圧PD の発生に基づいて故障側位置へ切り換えられることによりブレーキB2への係合油圧PB2の供給が遮断されるので、クラッチC1、クラッチC2、およびブレーキB2が係合させられることによる自動変速機10のインタロックが回避されると共に、係合油圧PC1および係合油PC2によりクラッチC1およびクラッチC2のみが係合させられて第4速ギヤ段が達成される。
【0033】
また、係合油圧PC1および係合油圧PB2の供給により第1速ギヤ段を達成させる際にリニアソレノイド弁SL3のオンフェールにより係合油圧PB3が同時に供給されるような故障時には、第1作動弁126aにおいては係合油圧PC1と係合油圧PB2或いは係合油圧PB3とが入力されるだけであるため正常側位置がそのまま維持されるが、第2作動弁126bが係合油圧PB2および係合油圧PB3の発生に基づいて故障側位置へ切り換えられることによりブレーキB2への係合油圧PSLB2の供給が遮断されるので、クラッチC1、ブレーキB2、およびブレーキB3が係合させられることによる自動変速機10のインタロックが回避されると共に、係合油圧PSLC1および係合油圧PB3によりクラッチC1およびブレーキB3のみが係合させられて第3速ギヤ段が達成される。
【0034】
電子制御装置50は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、変速制御、ニュートラル制御、ニュートラル制御復帰制御などを実行する。
【0035】
図6は、電子制御装置50の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、変速制御部130は、たとえば図7に示す予め記憶された変速線図から実際のスロットル弁開度θTHおよび車速Vに基づいて自動変速機14の変速すべきギヤ段を決定し、その決定されたギヤ段が成立させられるようにする変速作動を開始させるための変速出力を実行する。図2から明らかなように、本実施例の自動変速機14は、クラッチCおよびブレーキBの何れか1つを解放するとともに他の1つを係合させるクラッチツークラッチ変速により、連続するギヤ段の変速が行われるようになっている。図7の実線はアップシフト線、破線はダウンシフト線であり、車速Vが低くなったりスロットル弁開度θTHが大きくなったりするに従って、変速比が大きい低速側のギヤ段に切り換えられるようになっており、図中の「1」〜「6」は第1速ギヤ段「1st」〜第6速ギヤ段「6th」を意味している。
【0036】
ニュートラル制御条件判定部132は、ニュートラル制御部134により実行されるニュートラル制御の開始条件が成立したか否か、および、そのニュートラル制御の終了条件すなわち復帰条件が成立したか否かを判定する。ニュートラル制御の開始条件とは、たとえば、(a) シフトレバー74によりDレンジが選択されていること、(b) アクセルペダル51が非操作状態すなわちアイドルオン状態であること、(c) 車速Vが零または零付近であること、(d) エンジン回転速度NE が予め設定されたニュートラル制御実行回転速度NE 1 以下であること、(e) エンジン水温TW が予め設定された暖気判定温度TW 1 より高いこと、(f) ブレーキペダル69が踏込み操作されていること、のすべてが満足されることである。また、ニュートラル制御の復帰条件とは、それらの条件のうちのいずれか1つが満足されなくなったことである。ニュートラル制御は、主として、交差点における赤信号で一時停止したときに実行されるものであるから、通常、ブレーキペダル69の踏込み操作が解除されてブレーキペダル69が原位置に戻されたときに、ニュートラル制御の復帰条件が成立する。
【0037】
ニュートラル制御部134は、ニュートラル制御条件判定部132によってニュートラル制御の開始条件が成立したと判定されると、変速制御部130からの自動変速機14のクラッチC1の係合指令を内容とする第1速ギヤ段の成立指定に優先してそのクラッチC1を解放し、その自動変速機14中の動力伝達経路を開放してトルクコンバータ12による引摺りを軽減するとともに、ブレーキB1を係合させて一方向クラッチF1と共同して自動変速機14の出力歯車34の逆回転をロックし、登坂路などにおける車両の後退を阻止する。
【0038】
ニュートラル制御復帰制御部136は、ニュートラル制御条件判定部132によってニュートラル制御の復帰条件が成立したと判定されると、自動変速機14のブレーキB1を解放させるとともにクラッチC1を再係合させて、ニュートラル制御部134によるニュートラル制御を終了させる。このようにブレーキペダル69の踏込操作が解除されてニュートラル制御が終了させられると、車速Vは略零状態であることから、変速制御部130は自動変速機14において第1速ギヤ段を成立させる出力を行うが、Dレンジでの第1速ギヤ段はクラッチC1の係合と一方向クラッチF1の係合とで成立させられるので、第1速ギヤ段への変速出力は、上記クラッチC1の係合指令を内容とする。一般に、このニュートラル制御からの復帰過程では、再係合させられるクラッチC1と解放途中のブレーキB1とによって実質的に第2速ギヤ段が形成され、タービン回転速度NT は図8の破線に示すように、第2速ギヤ段での回転速度を示す2点鎖線に略沿って次第に上昇させられる。この過程で再発進のためにアクセルペダル51が踏込み操作されると、エンジン10の出力トルクによりタービン回転速度NT が持ち上げられ、図8のt5時点に示すように一方向クラッチF1が係合させられて第1速ギヤ段が成立させられる。この場合、少なくとも復帰過程の所期は第2速ギヤ段状態であるため、ニュートラル制御を行っていないときの発進操作に比較して、エンジン10の出力トルクの一部がタービン回転速度NT の持上げのために消費されて残りの出力トルクで車両を加速することになるので、車両の駆動力の出方が小さくなり、運転者に違和感を感じさせる。このため、本実施例のニュートラル制御復帰制御部136は、後退防止用摩擦係合装置解放制御部138、最低速ギヤ段形成待機制御部140、フェールセーフバルブ非作動条件成立判定部142、最低速ギヤ段一時的形成制御部144を、備えている。
【0039】
後退防止用摩擦係合装置解放制御部138は、ニュートラル制御条件判定部132によってニュートラル制御の復帰条件が成立したと判定されると、ニュートラル制御部134によるニュートラル制御中に係合させられていた後退防止用摩擦係合装置として機能するブレーキB1を解放させる。最低速ギヤ段形成待機制御部140は、上記復帰条件が成立したと判定されても、発進操作で発生する前進トルク伝達による一方向クラッチF1の係合に先立って第1速ギヤ段を成立させるためのブレーキB2の係合指令を直ちに出力させないで待機させる。フェールセーフバルブ非作動条件成立判定部142は、たとえば、ブレーキB1の解放が完了したこと若しくはブレーキB1の解放完了所定時間前の所定の解放過程に到達した時期に対応する予め設定された解放時間が経過したことに基づいて、フェールセーフバルブ126の非作動条件が成立したか否かを判定する。この所定の解放過程とは、ブレーキB1の完全解放前であるが、ブレーキB1の係合圧が係合トルク容量がブレーキB2の係合容量が発生したとしてもショックが発生しない値まで低下した時期である。
【0040】
最低速ギヤ段一時的形成制御部144は、そのフェールセーフバルブ非作動条件成立判定部142によりフェールセーフバルブ126の非作動条件が成立したと判定されるまで、すなわち所定の待機時間が経過するまでは待機させ、その所定の待機時間後にブレーキB2を係合を開始させ、次いでその係合開始から予め設定された一時的係合時間が経過するとそのブレーキB2を解放させる。すなわち、ブレーキB2を一時的に係合させ、一方向クラッチF1の係合を用いないで第1速ギヤ段を一時的に成立させる。この一時的係合時間は、たとえば、再加速操作後のアクセルペダル戻し操作に関連してDレンジにおいて意図しないエンジンブレーキ作用の発生を回避するために、そのアクセルペダル51の戻し操作までに上記一時的係合が終了するように設定されており、たとえば、ニュートラル制御の復帰の原因となったブレーキペダル69の戻し操作からアクセルペダル51の踏込み後の戻し操作までの最短時間以下に予め実験的に設定される。
【0041】
これにより、タービン回転速度NT は、図8の実線に示されるように、前進走行用のクラッチC1の係合開始時点であるt1時点付近からは、1点鎖線に示す第1速ギヤ段での回転速度に沿って上昇させられる。このため、アクセルペダル51の踏込み操作により再発進操作されたときには、一方向クラッチF1が直ちに係合して第1速ギヤ段での駆動力が直ちに得られるので、ニュートラル制御を行っていないときの発進操作時に比較して車両の駆動力の出方が同等となり、運転者に違和感を感じさせない。なお、図8のタービン回転速度NT は、理解を容易とするために、その変化を強調して記載されている。
【0042】
図9は、電子制御装置50の制御作動の要部、すなわちニュートラル制御中からのニュートラル制御復帰制御ルーチンを説明するフローチャートである。図9において、ニュートラル制御条件判定部132に対応するステップS1( 以下、ステップを省略する) では、前記ニュートラル制御中において前記ニュートラル制御の復帰条件が成立したか否か、たとえば運転者によりブレーキペダル69の戻し操作が行われたか否かが判断される。このS1の判断が否定された場合は本ルーチンが終了させられ、ニュートラル制御部134によるニュートラル制御が継続される。しかし、S1の判断が肯定された場合は、後退防止用摩擦係合装置解放制御部138に対応するS2において、ニュートラル制御からの復帰制御が開始され、それまで自動変速機14の出力歯車34の逆回転をロックするために係合させられていた第2速ギヤ段達成用のブレーキB1の解放が開始され、且つそれまで自動変速機14内の動力伝達経路を開放するために解放させられていた前進走行用のクラッチC1の係合が開始される。図8のt1時点はこの状態を示し、図8の破線はB1係合圧の指令値を示している。タービン回転速度NT は、このt1時点では動力伝達経路が閉じられたことに関連して略零であるが、t1時点以後では車両の移動にともなって徐々に上昇開始する。
【0043】
同時に、次いで、最低速ギヤ段形成待機制御部140に対応するS3では、発進操作であるアクセルペダル51の踏込みで発生する前進トルクが伝達されることによる一方向クラッチF1の係合に先立って第1速ギヤ段を成立させるためのブレーキB2の係合指令が、S1によるニュートラル制御の復帰条件の成立判断後直ちに出力されないで待機させられる。第1速ギヤ段形成用のブレーキB2の係合が待機させられる。
【0044】
次いで、フェールセーフバルブ非作動条件成立判定部142に対応するS4において、フェールセーフバルブ126の非作動条件が成立したか否かが判断される。このS4の判断が否定される内はその実行が繰り返されて待機させられるが、肯定されると、最低速ギヤ段一時的形成制御部144に対応するS5が実行される。図8のt2時点はこの状態を示している。このS5では、フェールセーフバルブ126の非作動条件が成立すると、それまで待機させられていたブレーキB2を一時的に係合させ、アクセルペダル51の戻し操作前までとなるように予め設定された一時的係合時間が経過するとそのブレーキB2を解放させる。すなわち、ブレーキB2を一時的に係合させ、一方向クラッチF1の係合を用いないで第1速ギヤ段を一時的に成立させる。図8のt2時点からt3時点までの破線はB2係合圧の指令値であり、その破線に遅れて上下する実線( 曲線) は実際のB2係合圧を示している。
【0045】
このようなニュートラル制御復帰時において、タービン回転速度NT は、上記ブレーキB2の一時的係合により図8の実線に示すように、前進走行用のクラッチC1の係合開始時点であるt1時点付近からは、1点鎖線に示す第1速ギヤ段での回転速度に沿って上昇させられる。このため、図8のt4時点に示すようにアクセルペダル51の踏込み操作により再発進加速操作されたときには、一方向クラッチF1が直ちに係合して第1速ギヤ段での駆動力が直ちに得られることから、図8の破線に示すようにニュートラル制御を行っていないときの発進操作時に比較して、エンジン10の出力トルクによるタービン回転速度NT の引上げがなく、しかも図8のt4時点からt5時点に示す第1速ギヤ段成立のための変速時間が不要となるので、車両の駆動力の出方が同等となり、運転者に違和感を感じさせない。図8のt5時点は上記ニュートラル制御を行っていないときの発進操作時における、一方向クラッチF1の係合に基づく第1速ギヤ段成立時点を示している。
【0046】
上述のように、本実施例の車両用自動変速機14の電子制御装置50によれば、ニュートラル制御の復帰条件が成立した場合には、車両の後退防止のためにそれまで係合させられていたブレーキB1(所定の摩擦係合装置)が解放され、ブレーキB2(最低速ギヤ段用摩擦係合装置)が係合させられることから、そのブレーキB2の係合とニュートラル制御中に解放されていたクラッチC1(前進用摩擦係合装置)の再係合とにより最低速ギヤ段が一時的に成立させられる。そして、そのブレーキB2の一時的成立は、従来のようにエンジン10の出力トルクを消費することなく、エンジン10の出力トルクの増加前に自動変速機14の入力軸回転速度すなわちタービン回転速度NT を第1速ギヤ段に対応する回転速度まで上昇させるので、ニュートラル制御からの復帰条件が成立した後の発進加速操作時には、最低速ギヤ段への変速時間が必要なくしかも入力軸回転数を最低速ギヤ段相当の回転数まで上昇させる必要がないので、必要な大きさの駆動力を速やかなタイミングで得ることができる。
【0047】
また、本実施例の車両用自動変速機14には、3つの摩擦係合装置の係合に基づいて作動するフェールセーフバルブ126が備えられており、電子制御装置50によれば、第1速ギヤ段用のブレーキB2の一時的係合は、ブレーキB1の解放後に若しくはそのブレーキB1の所定の解放過程で開始される。このように、ブレーキB1が解放されるまで若しくはブレーキB1の所定の解放過程に至るまでは第1速ギヤ段形成用のブレーキB2の一時的係合が行われないので、フェールセーフバルブ126の作動が回避され、意図しないフェールセーフバルブ126の作動による油圧回路のフェールセーフ変速段の成立などにより正常な制御状態が失われることが防止される。すなわち、上記ニュートラル制御からの復帰直後では、それまで係合していたブレーキB1が解放されつつある状態と、それまで解放されていた前進用のクラッチC1が再び係合される状態と、上記ブレーキB2の係合が開始される状態とが重なって、3つの摩擦係合装置が係合する瞬間が発生してフェールセーフバルブ126が意図せず作動する可能性があったが、上記のようにブレーキB1が解放されるまではブレーキB2の一時的係合が行われないので、フェールセーフバルブ126が意図せず作動する可能性が好適に回避される。
【0048】
また、本実施例の車両用自動変速機14の電子制御装置50によれば、ブレーキB2の一時的係合は、ニュートラル制御の復帰条件が成立してから予め設定された待機時間が経過するまで待機させられることから、その待機時間を、ニュートラル制御中に係合させられていたブレーキB1の解放時間に設定することにより、油圧センサを用いた各係合圧の油圧検出などを用いることなく、フェールセーフバルブ126の作動が好適に回避される。
【0049】
また、本実施例の車両用自動変速機14の電子制御装置50によれば、ニュートラル制御の復帰条件は、そのニュートラル制御の成立条件の1つである車両のブレーキペダル69が踏み込まれた状態からそのブレーキペダル69が戻し操作されることで成立させられるものであり、第1速ギヤ段形成用のブレーキB2の一時的係合は、そのブレーキペダル69の戻し操作からその車両のアクセルペダル51の踏込み操作後のそのアクセルペダル51の戻し操作までに終了させられるので、その第1速ギヤ段成立用のブレーキB2の一時的係合によって第1速ギヤ段が成立させられると、車速が上昇した状態からアクセルペダル51の戻し操作された場合に車両に意図しないエンジンブレーキが作用することが好適に解消される。
【0050】
また、本実施例の車両用自動変速機14の電子制御装置50によれば、ブレーキB2の一時的係合は、ニュートラル制御の復帰条件成立時から予め定められた一時的係合時間の経過前までに実行されるので、その一時的係合時間を、ニュートラル制御の復帰の原因となったブレーキペダル69の戻し操作からアクセルペダル51の踏込みまでの最短時間以下に設定することにより、車両に意図しないエンジンブレーキが作用することが好適に解消される。
【0051】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【0052】
たとえば、前述の実施例では、自動変速機14は、前進6速となるように構成されていたが、5速以下、或いは7速以上のギヤ段を有するものであってもよい。要するに、最低速ギヤ段が前進用摩擦係合装置と一方向クラッチF1とで成立させられるとともに、エンジンブレーキ時でも最低速ギヤ段を成立させるためのブレーキがその一方向クラッチと並列に設けられ、さらに、その一方向クラッチF1と共同して自動変速機14の出力部材の逆回転すなわち後進回転をロックにより阻止する機能を備えたものであれば、ギヤ段の数に拘わらず、差し支えない。
【0053】
また、前述の実施例の車両はフェールセーフバルブ126を備えたものであったが、そのフェールセーフバルブ126は必ずしも設けられていなくてもよい。
【0054】
なお、上述したのはあくまでの本発明の一実施例であり、本発明はその他の態様においても適用される。
【符号の説明】
【0055】
14:自動変速機
50:電子制御装置( 制御装置)
51:アクセルペダル
69:ブレーキペダル
126:フェールセーフバルブ
C1:クラッチ(前進用摩擦係合装置)
B1:ブレーキ(所定の摩擦係合装置)
B2:ブレーキ(最低速ギヤ段用摩擦係合装置)
F1:一方向クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前進走行時に係合させられる前進用摩擦係合装置と一方向クラッチ又は最低速ギヤ段用摩擦係合装置とにより最低速ギヤ段が成立させられ、該前進クラッチと複数の摩擦係合要素のうちの前記最低速ギヤ段用摩擦係合装置を除くいずれか1つとを係合させることで前記最低速ギヤ段より高速側のギヤ段が択一的に成立させられる自動変速機を備え、予め定められたニュートラル制御条件が成立した場合には前記前進用摩擦係合装置を解放して該自動変速機内の動力伝達経路を開放すると同時に、前記摩擦係合装置のうちの前記最低速ギヤ段用摩擦係合装置を除く所定の摩擦係合装置と前記一方向クラッチとを係合させて車両の後退を防止する車両用自動変速機の制御装置であって、
前記ニュートラル制御の復帰条件が成立した場合には、前記所定の摩擦係合装置を解放し、前記最低速ギヤ段用摩擦係合装置を一時的に係合させることを特徴とする車両用自動変速機の制御装置。
【請求項2】
3つの摩擦係合装置の係合に基づいて作動するフェールセーフバルブが備えられ、
前記最低速ギヤ段用摩擦係合装置の一時的係合は、前記所定の摩擦係合装置の解放後に若しくは該所定の摩擦係合装置の解放過程で開始されることを特徴とする請求項1の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記最低速ギヤ段用摩擦係合装置の一時的係合は、前記ニュートラル制御の復帰条件が成立してから予め設定された待機時間が経過するまで待機させられることを特徴とする請求項2の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項4】
前記ニュートラル制御の復帰条件は、該ニュートラル制御の成立条件の1つである前記車両のブレーキペダルが踏み込まれた状態から該ブレーキペダルが戻し操作されることで成立させられるものであり、
前記最低速ギヤ段用摩擦係合装置の一時的係合は、該ブレーキペダルの戻し操作から該車両のアクセルペダルの踏込み操作後の該アクセルペダルの戻し操作前までに終了させられることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1の車両用自動変速機の制御装置。
【請求項5】
前記最低速ギヤ段用摩擦係合装置の一時的係合は、前記ニュートラル制御の復帰条件成立時から予め定められた一時的係合時間の経過前までに実行されることを特徴とする請求項4の車両用自動変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−207711(P2012−207711A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−73184(P2011−73184)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】