説明

車両用自動変速機の適合支援装置

【課題】車両用自動変速機の変速制御の制御定数の適合を効率的に行うことができる適合支援装置を提供する。
【解決手段】変速波形設定手段104は、制御定数FA及び制御定数FBのそれぞれが変化させられたときの複数の制御定数FA,FBそれぞれに対応して定まる複数の変速波形Wanを計測し設定し、領域設定手段112は、入力操作に応答して変速波形Wanの目標となる図9に例示するような変速波形領域Awaを設定し、適合定数選別手段116は、変速波形設定手段104によって設定された1または2以上の変速波形Wanのうち変速波形領域Awaに含まれる変速波形Wanに対応する制御定数FA,FBを選別する。従って、上記変速波形領域Awaが与えられることにより容易に適切な制御定数(適合定数)FA,FBを選別することができ、適合工数の低減を図ることが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力軸に伝達された回転を変速して出力軸から伝達する車両用自動変速機の適合支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
入力軸に伝達された回転を変速して出力軸から伝達する車両用自動変速機が知られている。この車両用自動変速機は、複数の係合要素を備え、それら複数の係合要素を選択的に係合させることにより、変速比の異なる複数のギヤ段が択一的に成立させられる。変速に際してそのような係合要素により上記車両用自動変速機(以下、単に「自動変速機」と表す)の変速比が車両走行中に切り換えられると、その変速の過程で車両の加速度の変化が発生し、体感可能な変速ショックが発生する。
【0003】
上記変速ショックは、一般に、自動変速機の係合要素を個別に制御する変速制御により対処されるけれども、一律な制御では、エンジンと自動変速機との個別の組み合わせで成立する車両に対して、個々のばらつきを吸収できるとは言い難く、変速ショックの解消に対する要求が高くなるにともなって、変速制御にかかわる制御定数である適合定数の個々の適合が必要とされる。しかし、このように、変速制御にかかわる制御定数の個々の適合を行う場合には、適切な制御定数を設定するためにその適切な制御定数を選別もしくは求める多大な工数が必要となる。このため、適合パラメータの数を減少できるようにした方法が提案されている。たとえば、特許文献1に示される変速制御方法がそれである。
【0004】
【特許文献1】特開2004−340287号公報
【特許文献1】特公平5−26061号公報
【特許文献1】特開平8−277919号公報
【特許文献1】特開平8−291860号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の変速制御方法を実行する制御装置では、適合させるべき制御定数(適合定数)の数を減少させることができるかも知れないが、所定の制御定数を適合させるための作業の工数そのものを減少させることができなかった。
【0006】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、車両用自動変速機の変速制御の制御定数(適合定数)の適合を効率的に行うことができる適合支援装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、請求項1に係る発明は、(a)車両の自動変速機の変速制御に用いる適合定数を適合させるための車両用自動変速機の適合支援装置であって、(b)前記適合定数が変化させられたときの複数の適合定数それぞれに対応して定まる複数の変速波形を設定する変速波形設定手段と、入力操作に応答してその変速波形の目標となる変速波形領域を設定する領域設定手段と、前記変速波形設定手段によって設定された前記複数の変速波形のうち前記変速波形領域に含まれる変速波形に対応する適合定数を選別する適合定数選別手段とを、備えたことを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、(a)前記複数の適合定数それぞれに対応して定まる複数の油圧波形を設定する油圧波形設定手段と、入力操作に応答して各変速フェーズにおける前記油圧波形の許容幅を設定する許容幅設定手段とを、備え、(b)前記適合定数選別手段は、前記変速波形領域に含まれる変速波形に対応する前記適合定数の中から、前記設定された許容幅の油圧波形領域に含まれる前記油圧波形に対応する適合定数を選別することを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明では、前記許容幅設定手段は、目標として設定された油圧波形に近似した折線である目標近似折線を定義し、その目標近似折線を基準として前記油圧波形領域を設定することを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明では、前記許容幅設定手段は、前記適合定数がより多く選別されるように前記目標近似折線を設定することを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明では、前記許容幅設定手段は、前記適合定数選別手段により選別される適合定数に対応した変速波形の密度がより高くなるように前記目標近似折線を設定することを特徴とする。
【0012】
請求項6に係る発明では、前記変速波形設定手段は、計測した油圧波形と変速波形との間の伝達特性をばらつきを含めて設定し、この設定した伝達特性を用いて推定した変速波形を追加設定することを特徴とする。
【0013】
請求項7に係る発明は、入力操作に応答して前記変速波形の目標となる変速波形領域を変更する変速波形領域変更手段を備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項8に係る発明では、前記変速波形領域変更手段は、前記変速波形の目標となる変速波形領域を車両の走行特性に対応して類型化された変速波形領域に変更することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明の車両用自動変速機の適合支援装置によれば、前記適合定数が変化させられたときの複数の適合定数それぞれに対応して定まる複数の変速波形を設定する変速波形設定手段と、入力操作に応答してその変速波形の目標となる変速波形領域を設定する領域設定手段と、前記変速波形設定手段によって設定された前記複数の変速波形のうち前記変速波形領域に含まれる変速波形に対応する適合定数を選別する適合定数選別手段とを備えているので、上記変速波形領域を与えることにより容易に適切な上記適合定数を選別することができ、適合工数の低減を図ることが可能である。
【0016】
請求項2に係る発明の車両用自動変速機の適合支援装置によれば、前記適合定数選別手段は、前記変速波形領域に含まれる変速波形に対応する前記適合定数の中から、前記設定された許容幅の油圧波形領域に含まれる前記油圧波形に対応する適合定数を選別するので、上記変速波形に加え上記油圧波形によっても上記適合定数が選別され、何れか一方の波形による選別と比較して一層適切な適合定数を選別することが可能である。
【0017】
請求項3に係る発明の車両用自動変速機の適合支援装置によれば、前記許容幅設定手段は、目標として設定された油圧波形に近似した折線である目標近似折線を定義し、その目標近似折線を基準として前記油圧波形領域を設定するので、その目標近似折線を変更することで容易に上記油圧波形領域を設定変更することが可能であり、前記油圧波形による適合定数の選別作業を簡便に行うことができる。
【0018】
請求項4に係る発明の車両用自動変速機の適合支援装置によれば、前記許容幅設定手段は、前記適合定数がより多く選別されるように前記目標近似折線を設定するので、前記油圧波形のばらつきを低く抑えることができる適切な適合定数を選別することが可能である。
【0019】
ここで好適には、前記許容幅設定手段は、最も多く前記適合定数が選別されるように前記目標近似折線を設定する。
【0020】
請求項5に係る発明の車両用自動変速機の適合支援装置によれば、前記許容幅設定手段は、前記適合定数選別手段により選別される適合定数に対応した変速波形の密度がより高くなるように前記目標近似折線を設定するので、油圧に対する変速波形のロバスト性が高くなる適合定数を選別することが可能である。
【0021】
ここで好適には、前記許容幅設定手段は、前記適合定数選別手段により選別される適合定数に対応した変速波形の密度が最も高くなるように前記目標近似折線を設定する。
【0022】
請求項6に係る発明の車両用自動変速機の適合支援装置によれば、前記変速波形設定手段は、計測した油圧波形と変速波形との間の伝達特性をばらつきを含めて設定し、この設定した伝達特性を用いて推定した変速波形を追加設定するので、計測した変速波形の波形間の間隔が粗い場合においても適切に変速波形が補完され、計測データの不足があった場合にもそれを補うことが可能である。
【0023】
請求項7に係る発明の車両用自動変速機の適合支援装置によれば、入力操作に応答して前記変速波形の目標となる変速波形領域を変更する変速波形領域変更手段を備えているので、使用者が任意の変速波形を得たい場合にその変速波形に応じて上記変速波形領域を変更すれば、上記任意の変速波形を実現できる適合定数が選別される。そして、その使用者が所望する上記選別された適合定数を設定することが可能である。
【0024】
請求項8に係る発明の車両用自動変速機の適合支援装置によれば、前記変速波形領域変更手段は、前記変速波形の目標となる変速波形領域を車両の走行特性に対応して類型化された変速波形領域に変更するので、使用者は上記変速波形領域を直接変更しなくても上記走行特性を指定すれば、使用者が望む走行特性に合った適合定数を選別することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
【実施例1】
【0026】
図1は、車両10の走行を試行するためのシャーシダイナモメータ12と、本発明が好適に適用される車両用自動変速機の適合支援装置14とを示している。シャーシダイナモメータ12は、車両10の車輪を乗せる4本のローラ16と、そのローラ16と機械的に連結され、そのローラ16に負荷を与える負荷装置18と、車両10の電子制御装置20に接続されて車両のアクセル開度Acc等の操作を制御するとともにその負荷装置18の負荷を制御する制御装置22とを備え、実際の走行状態と同じ走行状態となるように予め設定された走行パターンに従って車両を走行させるとともに、予め設定された実験計画に従う適合支援装置14からの指令に従って種々の制御定数毎に車両10のエンジン24と駆動輪26との間の動力伝達経路に設けられた自動変速機28の変速を発生させる。
【0027】
上記適合支援装置14は、所謂CPU、ROM、RAM等を含み予め記憶されたプログラムに従って入力信号を処理するコンピュータ(電子制御装置)30、および磁気テープ、光磁気ディスク、半導体メモリー等の外部的な記憶装置32を含んで構成された装置本体34と、その装置本体34に接続されたキーボード、マウス等の入力操作装置36と、二次元平面において文字、記号、画像を表示可能な出力装置である画像表示装置(表示装置)38と、車両10の電子制御装置20および車両10に設けられたセンサ等と装置本体34との間に接続された入出力インターフェース40とを備えている。
【0028】
図2は、車両10の自動変速機28の構成を説明する骨子図であり、図3は、その自動変速機28において複数の変速段を成立させる際の係合要素の作動を説明する作動表である。この自動変速機28は、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスミッションケース(以下、ケース)50内において、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置52を主体として構成されている第1変速部54と、シングルピニオン型の第2遊星歯車装置56およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置58を主体としてラビニヨ型の遊星歯車列に構成されている第2変速部60とを共通の軸心上に有し、入力軸62の回転を変速して出力軸64から出力する。入力軸62は走行用の動力源であるエンジン24によって回転駆動されるトルクコンバータ66のタービン軸である。出力軸64は出力回転部材に相当するものであり、例えば図示しない差動歯車装置(終減速機)や一対の車軸等を順次介して左右の駆動輪26を駆動する。なお、この自動変速機28はその軸心に対して略対称的に構成されており、図2の骨子図においてはその軸心の下半分が省略されている。
【0029】
自動変速機28は、ギヤ比の異なる複数のギヤ段を成立させるための係合要素としてクラッチC1、クラッチC2、クラッチC3、クラッチC4、ブレーキB1、ブレーキB2を備えており、サンギヤS2は、第1ブレーキB1を介してケース50に選択的に連結されて回転停止され、第3クラッチC3を介して第1遊星歯車装置52のリングギヤR1に選択的に連結され、さらに第4クラッチC4を介して第1遊星歯車装置52のキャリヤCA1に選択的に連結されている。キャリヤCA2およびCA3は、第2ブレーキB2を介してケース50に選択的に連結されて回転停止させられるとともに、第2クラッチC2を介して入力軸62に選択的に連結されている。リングギヤR2およびR3は、出力軸64に一体的に連結されて回転を出力するようになっている。サンギヤS3は、第1クラッチC1を介してリングギヤR1に選択的に連結されている。なお、第2回転要素RM2とケース50との間には、正回転(入力軸62と同じ回転方向)を許容しつつ逆回転を阻止する一方向クラッチF1が第2ブレーキB2と並列に設けられている。
【0030】
図3の作動表は、自動変速機28において各変速段(ギヤ段)を成立させる際のクラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2の作動状態を説明する図表であり、「○」は係合状態を、「(○)」はエンジンブレーキ時のみ係合状態を、空欄は解放状態をそれぞれ表している。第1変速段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時(加速時)には必ずしもブレーキB2を係合させる必要は無い。また、各変速段の変速比は、第1遊星歯車装置54、第2遊星歯車装置56、および第3遊星歯車装置58の各ギヤ比ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。
【0031】
図3に示すように、第1クラッチC1および第2ブレーキB2が係合させられると、最も大きい変速比(=入力軸62の回転速度/出力軸64の回転速度)の第1変速段「1st」が成立させられる。第1クラッチC1および第1ブレーキB1が係合させられると、第1変速段「1st」よりも変速比が小さい第2変速段「2nd」が成立させられる。第1クラッチC1および第3クラッチC3が係合させられると、第2変速段「2nd」よりも変速比が小さい第3変速段「3rd」が成立させられる。第1クラッチC1および第4クラッチC4が係合させられると、第3変速段「3rd」よりも変速比が小さい第4変速段「4th」が成立させられる。第1クラッチC1および第2クラッチC2が係合させられると、第4変速段「4th」よりも変速比が小さい第5変速段「5th」が成立させられる。第2クラッチC2および第4クラッチC4が係合させられると、第5変速段「5th」よりも変速比が小さい第6変速段「6th」が成立させられる。この第6変速段「6th」の変速比は1である。また、第2クラッチC2および第3クラッチC3が係合させられると、第6変速段「6th」よりも変速比が小さい第7変速段「7th」が成立させられる。第2クラッチC2および第1ブレーキB1が係合させられると、第7変速段「7th」よりも変速比が小さい第8変速段「8th」が成立させられる。第3クラッチC3および第2ブレーキB2が係合させられると、逆回転方向で変速比が最も大きい第1後進変速段「Rev1」が成立させられる。また、第4クラッチC4および第2ブレーキB2が係合させられると、第1後進変速段「Rev1」よりも変速比が小さい第2後進変速段「Rev2」が成立させられる。
【0032】
このように本実施例の自動変速機28は、複数の係合要素すなわちクラッチC1〜C4、ブレーキB1、B2を選択的に係合させることによりギヤ比の異なる複数のギヤ段を成立させるものであり、また、図3の作動表から明らかなように、クラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2の何れか2つを掴み替える所謂クラッチツウクラッチにより各変速段の変速を行うことができる。上記クラッチC1〜C4、およびブレーキB1、B2は、多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置である。
【0033】
車両10の電子制御装置20は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、RAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、前記エンジン24の出力制御や自動変速機28の変速制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用や変速制御用等に分けて構成される。
【0034】
電子制御装置20は、例えば図4に示すような車速Vおよびアクセル開度(アクセル操作量)Accをパラメータとして予め記憶された関係(マップ、変速線図)から実際の車速Vおよびアクセル開度Accに基づいて変速判断を行い、その判断した変速段が得られるように変速制御を行う。この変速制御においては、その変速判断された変速段が成立させられるように図5に示す変速用油圧制御回路68内の電磁制御弁であるリニアソレノイドバルブSL1〜SL6の励磁、非励磁や電流制御が実行されてクラッチC1〜C4やブレーキB1、B2の係合、解放状態が切り換えられるとともに変速過程の過渡油圧などが制御される。すなわち、前記リニアソレノイドバルブSL1〜SL6の励磁、非励磁をそれぞれ制御することによりクラッチC1〜C4およびブレーキB1、B2の係合、解放状態を切り換えて第1変速段「1st」〜第8変速段「8th」の何れかの前進変速段を成立させる。なお、図4の変速線図は自動変速機28で変速が実行される第1変速段乃至第8変速段のうちで第1変速段乃至第6変速段における変速線が例示されている。
【0035】
図5は、油圧制御回路68のうちリニアソレノイドバルブSL1〜SL6に関する部分を示す回路図で、クラッチC1〜C4、およびブレーキB1、B2の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)70、72、74、76、78、80には、油圧供給装置82から出力されたライン油圧PLがそれぞれリニアソレノイドバルブSL1〜SL6により調圧されて供給されるようになっている。油圧供給装置82は、前記エンジン24によって回転駆動される機械式のオイルポンプ48(図2参照)や、ライン油圧PLを調圧するレギュレータバルブ等を備えており、エンジン負荷等に応じてライン油圧PLを制御するようになっている。リニアソレノイドバルブSL1〜SL6は、基本的には何れも同じ構成で、電子制御装置20により独立に励磁、非励磁され、各油圧アクチュエータ70〜80の油圧が独立に調圧制御されるようになっている。そして、自動変速機28の変速制御においては、例えば変速に関与するクラッチCやブレーキBの解放と係合とが同時に制御される所謂クラッチツウクラッチ変速が実行される。例えば、図3の係合作動表に示すように1速→2速のアップ変速では、ブレーキB2または一方向クラッチF1が解放されつつブレーキB1の係合が行われるが、変速ショックを抑制するようにブレーキB1の係合過渡油圧とが適切に制御されるように、その制御定数FAおよびFBが予め設定される。図1の適合支援装置14は、本発明の適合定数に対応する制御定数FAおよびFBの決定或いは設定を、正確かつ効率的に行うことが出来るようにするためのものである。なお、上記制御定数(適合定数)FAおよびFBの決定或いは設定は、エンジン24と自動変速機28との組合せ毎、或いは車種毎に行われる。
【0036】
図6は、適合支援装置14の装置本体34に設けられて、たとえばプログラム記録媒体からダウンロードされて予め記憶されたプログラムに従って入力信号を処理するコンピュータ30の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【0037】
図6の入力操作装置36は、上記制御定数FA,FBの設定作業を行う作業者が変速波形、油圧波形などのデータを計測する前提条件を入力したり、上記制御定数FA,FBの候補を絞り込むための条件を入力するための装置である。
【0038】
また、画像表示装置(表示装置)38は、適合支援装置14の処理結果を作業者に伝達するための装置であり、例えば、作業者が入力操作装置36に入力した情報や、適合支援装置14の出力としての制御定数FA,FB、変速波形Wan、油圧波形Wpnなどが表示される。例えば、図9のような画像が表示される。図9は、計測される変速パターンが1→2アップ変速の場合の表示例であり、油圧波形Wpnに対する後述の各変速フェーズα,β,γの許容幅PWα,PWβ,PWγ(区別しない場合には単に「許容幅PW」と表す)を入力するためのインジケータ90a,90b,90c(区別しない場合には単に「インジケータ90」と表す)、そのインジケータ90のスライド軸92a,92b,92c(区別しない場合には単に「スライド軸92」と表す)と平行に表示された各変速フェーズα,β,γにおける全油圧波形Wpnの最大占有幅を表示する表示バー94a,94b,94c(区別しない場合には単に「表示バー94」と表す)、変速波形Wanもしくはそれを近似した近似変速波形WKanと後述の変速波形領域Awaとを重ね合わせたグラフ、油圧波形Wpnもしくはそれを近似した近似油圧波形WKpnと上記許容幅PWを有する後述の油圧波形領域Awpとを重ね合わせたグラフが表示されている例である。なお、上記変速フェーズα,β,γは油圧波形Wpnについてのフェーズでもあるので油圧フェーズα,β,γと表現してもよい。
【0039】
計測条件設定手段102は、後述の変速波形設定手段104が変速波形Wanを計測し油圧波形設定手段106が油圧波形Wpnを計測するために、例えば、変速パターン(1→2アップ変速)、図4の変速線図上の変速点、アクセル開度Accの変化率、車速Vの変化率である車両加速度G、油温等が一定の変速条件下で自動変速機28の変速制御の制御定数FA,FBをそれぞれ複数段階で変化させた複数の計測条件を設定する。このとき制御定数FA,FBはそれぞれ等間隔で変化させられる。上記計測条件の全部又は一部は予め決定されているか、或いは、作業者の入力操作に応答して決定される。なお、図4の変速線図上の1点ではなく複数の変速点において上記計測条件が設定されてもよい。また、上記変速波形Wan、油圧波形Wpn及び後述する駆動電流波形Winの「n」は波形データの連番を意味するデータの組の数を示す整数であって、たとえば百数十乃至数百程度の数であり、同一連番の波形は相互に対応する波形、すなわち上記計測条件が同一の波形である。
【0040】
図7は、自動変速機28の変速中例えば1→2アップ変速中における、時間経過に対する係合側電磁制御弁の駆動電流の変化を示す駆動電流波形Win、自動変速機28の変速を制御する油圧式摩擦係合装置の係合圧の変化を示す油圧波形Wpn、自動変速機28の出力値としての車両10の加速度Gの変化を示す加速度波形である変速波形Wanの一例を示す図である。図7の3本の時間軸X1、X2、X3は互いに平行であって共通の時間目盛りを有しており、時刻tとtとの間は速やかにパック詰めを行うために比較的駆動電流を大きくして供給油量を多くするファーストフィル区間FF、時刻tとtとの間は係合容量を持つ直線の状態の圧で待機させる定圧待機区間CP、時刻tとtとの間は緩やかに係合トルクを増加させる変速フェーズαに対応するトルク相スイープ区間TS、時刻tとtとの間は回転変化が発生した後において緩やかに係合トルクを増加させる変速フェーズβに対応するイナーシャ相スイープ区間IS、時刻tとtとの間は変速フェーズγに対応する同期係合区間SEである。図9の時刻t〜tでも同様である。なお、変速波形Wanの縦軸には車両10の加速度Gが採用されているが、自動変速機28の出力値に対応すれば特に限定は無く、例えば車両10の加速度Gと一対一の比例関係にある出力軸64のトルク(出力軸トルク)であってもよく、要するに、変速波形Wanは車両の変速期間内における実際の変速ショックを表す波形であればよい。
【0041】
制御定数(適合定数)FA,FBは、自動変速機28の変速中の油圧式摩擦係合装置の係合圧を発生させた電磁制御弁(リニアソレノイドバルブSL1乃至SL6)への制御電流指令値(駆動電流値)を特徴づける定数であって、本実施例では、制御定数FAは、1→2アップ変速においてブレーキB1の係合圧を制御する電磁制御弁(リニアソレノイドバルブSL5)の駆動電流波形Winの時刻tと時刻tとの間の時間として定義され、制御定数FBは、時刻tにおける駆動電流値として定義される。この制御定数FA又は制御定数FBが変化すると油圧波形Wpn及び変速波形Wanが変化し、乗員が体感し得る変速波形Wanの調整により変速ショックの抑制を図り得る。
【0042】
変速波形設定手段104は、制御定数FA及び制御定数FBのそれぞれが変化させられたときの複数の制御定数FA,FBそれぞれに対応して定まる複数の変速波形Wanを計測し設定する。すなわち、変速波形設定手段104は、計測条件設定手段102が設定した複数の計測条件のそれぞれに基づいて変速波形Wanを計測し設定する。なお、変速波形設定手段104は上記変速波形Wanの計測を行うので、変速波形計測手段であると言える。
【0043】
油圧波形設定手段106は、制御定数FA及び制御定数FBのそれぞれが変化させられたときの複数の制御定数FA,FBそれぞれに対応して定まる複数の油圧波形Wpnを計測し設定する。すなわち、油圧波形設定手段106は、計測条件設定手段102が設定した複数の計測条件のそれぞれに基づいて油圧波形Wpnを計測し設定する。なお、油圧波形設定手段106は上記油圧波形Wpnの計測を行うので、油圧波形計測手段であると言える。
【0044】
ここで、一の計測条件に基づいて一の変速波形Wanと一の油圧波形Wpnとがシャシダイナモメータ12が運転されることにより計測されるので、計測条件設定手段102が上記計測条件を設定した後に上記変速波形Wanの計測と油圧波形Wpnの計測とは同時に実行される。
【0045】
近似波形設定手段108は、計測された変速波形Wan及び油圧波形Wpnをそれぞれ折線で近似した近似変速波形WKan及び近似油圧波形WKpnを定義すなわち設定する。例えば、図7において近似波形設定手段108は、作業者の入力操作装置36を介した指示もしくは駆動電流波形Winに基づき変速波形Wanの近似折線の複数の折点の時間軸(横軸)方向の座標t〜tを決定し、その座標t〜tの折点を有する近似変速波形WKanを、その近似変速波形WKanと変速波形Wanとの間の差分すなわち誤差の総和(面積)が最小となるように設定する。また、近似波形設定手段108は、油圧波形Wpnについても変速波形Wanと同様に同一の座標t〜tを用いて近似油圧波形WKpnを設定する。
【0046】
記憶手段110は、前記計測条件である制御定数FA,FBとそれに基づき計測された変速波形Wanと油圧波形Wpnとそれらの近似折線である近似変速波形WKanと近似油圧波形WKpnとを相互に対応づけた状態で1つの組としてそれぞれを記憶装置32に記憶している。例えば記憶手段110は、制御定数FA,FBと変速波形Wanと油圧波形Wpnと近似変速波形WKanと近似油圧波形WKpnとを図8に示すデータマップのようにして記憶装置32に記憶している。
【0047】
領域設定手段112は変速波形Wanの目標を設定するための変速波形目標設定手段であり、入力操作に応答して変速波形Wanの目標となる図9に例示するような変速波形領域Awaを設定する。上記入力操作は、作業者が入力操作装置36であるマウスでクリックすることなどにより実施される。或いは、計測される変速パターンに応じた基本的な変速波形領域Awaを予め領域設定手段112が記憶しており、その基本的な変速波形領域Awaが画像表示装置38に表示され、その基本的な変速波形領域Awaを作業者が必要に応じて調整変更することで上記入力操作が実施されてもよい。このようにした場合には必要が無ければ手動操作なしに変速波形領域Awaが設定されることになる。
【0048】
許容幅設定手段114は、入力操作に応答して図9に示す各変速フェーズα,β,γにおける油圧波形Wpnの許容幅PWを設定すなわち決定する。上記許容幅PWの入力操作は例えば作業者が図9の各インジケータ90を入力操作装置36であるマウスでドラッグすることなどによって実施され、画像表示装置38上の各インジケータ90の位置に応じて許容幅設定手段114はそのインジケータ90に対応する各許容幅PWを設定する。
【0049】
そして許容幅設定手段114は、計測される変速パターンに応じて目標として設定された油圧波形に近似した折線である目標近似折線を定義し記憶しており、図9に示すような、その目標近似折線を基準として例えば中心線として許容幅PWを有する油圧波形領域Awpを設定する。ここで、上記目標の油圧波形は実験等により上記変速パターンに対応させて予め求められており、許容幅設定手段114は、近似波形設定手段108と同様の手法によって上記目標の油圧波形に上記目標近似折線を近似させて定義し記憶している。また、許容幅設定手段114は、油圧波形領域Awpを設定する場合には、後述の適合定数選別手段116によって制御定数FA,FBがより多く選別されるように、言い換えれば、上記目標近似折線を基準とする油圧波形領域Awp内に、変速波形領域Awaに含まれる変速波形Wanに対応するより多くの油圧波形Wpnが含まれるように、望ましくは、その油圧波形Wpnが油圧波形領域Awp内に最も多く含まれるように、上記目標近似折線を設定する。具体的に許容幅設定手段114は、その目標近似折線を基準とする油圧波形領域Awpと油圧波形Wpnとを重ね合わせた上で上記目標近似折線とともに油圧波形領域Awpを図9の係合油圧軸方向すなわち縦方向にずらし、すなわち平行移動させ、制御定数FA,FBが最も多く選別されるように、言い換えれば、変速波形領域Awaに含まれる変速波形Wanに対応する油圧波形Wpnが油圧波形領域Awp内に最も多く含まれるようになったところで、油圧波形領域Awpの図9の係合油圧軸方向の位置を確定する。このように許容幅設定手段114は、許容幅PWの設定のみならずその許容幅PWに基づき油圧波形Wpnの目標である油圧波形領域Awpを設定するので、油圧波形目標設定手段であるとも言える。なお、許容幅設定手段114が油圧波形領域Awpを設定した後、作業者の入力操作に応答して許容幅設定手段114は油圧波形領域Awpを変更し設定し直すことが可能であることが望ましい。
【0050】
適合定数選別手段(制御定数選別手段)116は、変速波形設定手段104によって設定された1または2以上の変速波形Wanのうち変速波形領域Awaに含まれる変速波形Wanに対応する制御定数(適合定数)FA,FBを選別する。ここで、変速波形領域Awaに含まれる変速波形Wanとは、例えば図9において、変速波形領域Awaが設定されている時刻t〜tの間で変速波形領域Awaから部分的にはみ出すこと無くその変速波形領域Awa内に全体が含まれる変速波形Wanことである。適合定数選別手段116は上記制御定数FA,FBを選別するに際し、計測データである変速波形Wanを用いてもよいし近似変速波形WKanを用いてもよい。
【0051】
また適合定数選別手段116は、許容幅設定手段114によって設定された油圧波形領域Awpを用いて制御定数(適合定数)FA,FBを更に選別する。つまり、適合定数選別手段116は、変速波形領域Awaに含まれる変速波形Wanに対応する制御定数FA,FBの中から、許容幅設定手段114により設定された許容幅PWの油圧波形領域Awpに含まれる油圧波形Wpnに対応する制御定数(適合定数)FA,FBを更に選別する。従って、最終的に適合定数選別手段116が選別する制御定数FA,FBは、それに対応する変速波形Wanが変速波形領域Awaに含まれ、かつ、油圧波形Wpnが油圧波形領域Awpに含まれる制御定数FA,FBである。例えば、図8の変速波形Wa2及びWa3が変速波形領域Awaに含まれ、油圧波形Wp2及びWp3が油圧波形領域Awpに含まれている場合には、図8のデータマップの対応から、適合定数選別手段116は制御定数FA及びFBを一組として選別し、また、制御定数FA及びFBを一組として選別する。ここで、油圧波形領域Awpに含まれる油圧波形Wpnとは、例えば図9において、油圧波形領域Awpが設定されている時刻t〜tの間で油圧波形領域Awpから部分的にはみ出すこと無くその油圧波形領域Awp内に全体が含まれる油圧波形Wpnことである。適合定数選別手段116は上記制御定数FA,FBを選別するに際し、計測データである油圧波形Wpnを用いてもよいし近似油圧波形WKpnを用いてもよい。
【0052】
適合定数選別手段116による制御定数FA,FBの選別が完了すると、出力手段118は、選別された制御定数FA,FBを画像表示装置38に表示すなわち出力する。また望ましくは上記選別された制御定数FA,FBの表示と併せて例えば図9のように、出力手段118は、作業者の入力操作の内容を示すためにインジケータ90、スライド軸92、表示バー94とを組み合わせて表示し、上記選別された制御定数FA,FBに対応する変速波形Wanもしくは近似変速波形WKanと変速波形領域Awaとを重ね合わせたグラフ、及び、上記選別された制御定数FA,FBに対応する油圧波形Wpnもしくは近似油圧波形WKpnと油圧波形領域Awpとを重ね合わせたグラフを画像表示装置38に表示する。なお、入力操作などにより変速波形領域Awa又は油圧波形領域Awpが変更され或いは設定された場合には、その都度、適合定数選別手段116は制御定数FA,FBの選別を行い、出力手段118はその選別された制御定数FA,FBを画像表示装置38に表示し画像表示装置38の表示を更新する。
【0053】
このように適合定数選別手段116は制御定数FA,FBを選別するが、図9の時間と車両加速度Gとを座標軸とする変速波形Wanを表す平面において隣り合う変速波形Wanの間隔が大きい場合、言い換えると変速波形Wanが計測データとして粗い場合には、変速波形領域Awaに基づき許容される限界近くの制御定数FA,FBを選別できない可能性がある。そこで、少なくとも適合定数選別手段116が制御定数FA,FBを選別することを完了する前に、前記変速波形設定手段104は、計測した油圧波形Wpnと変速波形Wanとの間の伝達特性CHapをばらつきを含めて設定し、この設定した伝達特性CHapを用いて推定した変速波形Wanである推定変速波形WEanを追加設定する。上記伝達特性CHapはばらつきを含めて設定されているので、油圧波形Wpnに対するばらつきを考慮して上記変速波形Wanの推定がなされていることになる。また伝達特性CHapをばらつきを含めて設定する方法としては特に限定は無いが、例えば、そのばらつきを予め仮定し伝達特性CHapの一部として設定しておき、追加設定された推定変速波形WEanにそのばらつきに相当する幅を与え、その幅を有する推定変速波形WEanの全幅ではなく一部分でも変速波形領域Awaからはみ出した場合にはその推定変速波形WEanは変速波形領域Awaに含まれないと判断してもよい。推定変速波形WEanが追加設定される領域としては、上記変速波形Wanの間隔が予め定められた閾値より大きい場合にその箇所に1または2以上の推定変速波形WEanが追加設定されてもよいし、一方が変速波形領域Awaに含まれ他方が変速波形領域Awaに含まれない隣り合った変速波形Wanの間に1または2以上の推定変速波形WEanが追加設定されてもよい。また、既存の計測データに基づいて実際には計測せずに推定データを求めるには、その算出を容易にするため油圧波形Wpnと変速波形Wanとに替えてそれぞれの近似折線である近似油圧波形WKpnと近似変速波形WKanとが用いられる。従って、上記伝達特性CHapとは近似油圧波形WKpnと近似変速波形WKanとの間の伝達特性CHapすなわち相関関係である。
【0054】
推定変速波形WEanの推定方法を具体的に説明する。先ず変速波形設定手段104は、その推定変速波形WEanが追加設定されるべき領域を挟む隣り合う近似変速波形WKanを選択する。次に、その隣り合う近似変速波形WKanに対応する2本の近似油圧波形WKpnの間に、油圧波形設定手段106は推定した油圧波形Wpnである1又は2以上の推定油圧波形WEpnを追加設定する。油圧波形設定手段106が推定油圧波形WEpnを追加設定する方法としては、例えば、上記2本の近似油圧波形WKpnの間の領域に折点を予め定められた条件に従って複数追加し、上記2本の近似油圧波形WKpnの折点及び/又はその新たに追加した折点を通る折線を複数パターン想定し、その想定された折線を推定油圧波形WEpnとする方法などが考えられる。次に、変速波形設定手段104は、近似油圧波形WKpnと近似変速波形WKanとの間の伝達特性CHapを用い推定油圧波形WEpnに基づいて推定変速波形WEanを推定し追加設定する。また、変速波形設定手段104は、近似油圧波形WKpnと制御定数FA,FBとの間の伝達特性CHpf又は近似変速波形WKanと制御定数FA,FBとの間の伝達特性CHafを求め、その何れかの伝達特性CHpf,Hafを用いて、推定変速波形WEanに対応する制御定数である推定制御定数(推定適合定数)FAE,FBEも推定し追加設定する。上記伝達特性CHap,CHpf,CHafは例えば応答曲面法すなわち2つのデータ群の相関を近似式表現する方法により求めることができる。
【0055】
上記追加設定された推定変速波形WEan、推定油圧波形WEpn、推定制御定数FAE,FBEも記憶手段110が相互に対応づけた状態で1つの組として記憶装置32に記憶し、推定変速波形WEanに対応する推定制御定数FAE,FBEも適合定数選別手段116の選別対象になる。
【0056】
図10は、自動変速機28の適合支援装置14の制御作動の要部すなわち変速波形Wan及び油圧波形Wpnが計測される場合の制御作動を説明するフローチャートである。図10のフローチャートは、作業者が入力操作により変速波形Wan及び油圧波形Wpnの計測を要求した場合に実行される。
【0057】
図10において、計測条件設定手段102に対応するステップSA1(以下、「ステップ」を省略する)では、変速波形Wan及び油圧波形Wpnの計測のために、例えば、変速パターン(1→2アップ変速)、図4の変速線図上の変速点、アクセル開度Accの変化率、車速Vの変化率である車両加速度G、油温等が一定の変速条件下で自動変速機28の変速制御の制御定数FA,FBをそれぞれ複数段階で変化させた複数の計測条件が設定される。この計測条件の全部又は一部は予め決定されているか、或いは、作業者の入力操作に応答して決定される。SA1の次はSA2に移る。
【0058】
変速波形設定手段104及び油圧波形設定手段106に対応するSA2においては、SA1にて設定された複数の計測条件のそれぞれに基づいて変速波形Wanと油圧波形Wpnとが計測され設定される。SA2の次はSA3に移る。
【0059】
近似波形設定手段108に対応するSA3においては、SA2にて計測された変速波形Wan及び油圧波形Wpnをそれぞれ折線で近似した近似変速波形WKan及び近似油圧波形WKpnが定義すなわち設定される。
【0060】
記憶手段110に対応するSA4においては、制御定数FA,FBと、それに基づく変速波形Wanと油圧波形Wpnと近似変速波形WKanと近似油圧波形WKpnとが、例えば図8に示すデータマップのようにして記憶装置32に記憶される。
【0061】
図11は、自動変速機28の適合支援装置14の制御作動の要部すなわち制御定数FA,FBを選別するための制御作動を説明するフローチャートである。図8に示すような変速波形Wan、油圧波形Wpn等から構成されたデータマップが記憶装置32に記憶されている場合に図11のフローチャートは実行される。
【0062】
領域設定手段112に対応するSA41では、入力操作に応答して変速波形Wanの目標となる図9に例示するような変速波形領域Awaが設定される。SA41の次はSA42へ移る。
【0063】
SA42においては、入力操作に応答して図9に示す各変速フェーズα,β,γにおける油圧波形Wpnの許容幅PWが設定すなわち決定される。SA42の次はSA43へ移る。
【0064】
SA43においては、前記目標近似折線を基準として例えば中心線として許容幅PWを有する油圧波形領域Awp(図9参照)が設定すなわち決定される。この油圧波形領域Awpが設定される場合には、後述のSA46にて制御定数FA,FBがより多く選別されるように、言い換えれば、変速波形領域Awaに含まれる変速波形Wanに対応する油圧波形Wpnが、前記目標近似折線を基準とする油圧波形領域Awp内により多く含まれるように、望ましくは、その油圧波形Wpnが油圧波形領域Awp内に最も多く含まれるように、上記目標近似折線とともに油圧波形領域Awpが図9の係合油圧軸方向すなわち縦方向にずらされ、すなわち平行移動させられた上で、その油圧波形領域Awpが設定(決定)される。SA43の次はSA44に移る。なお、SA42及びSA43は許容幅設定手段114に対応する。
【0065】
変速波形設定手段104及び油圧波形設定手段106に対応するSA44においては、計測された油圧波形Wpnと変速波形Wanとの間の伝達特性CHapがばらつきを含めて設定され、この設定された伝達特性CHapを用いて推定した変速波形Wanである推定変速波形WEanが追加設定される。更に、その推定変速波形WEanに対応する推定油圧波形WEpnと推定制御定数(推定適合定数)FAE,FBEとが追加設定される。すなわち、推定変速波形WEan、推定油圧波形WEpn、及び推定制御定数FAE,FBEという推定データが追加設定され、記憶装置32に記憶される。推定変速波形WEanが追加設定される領域としては、上記変速波形Wanの間隔が予め定められた閾値より大きい場合にその箇所に1または2以上の推定変速波形WEanが追加設定されてもよいし、一方が変速波形領域Awaに含まれ他方が変速波形領域Awaに含まれない隣り合った変速波形Wanの間に1または2以上の推定変速波形WEanが追加設定されてもよい。SA44の次はSA45に移る。
【0066】
SA45においては、変速波形領域Awaに含まれる変速波形Wan(推定変速波形WEanも含む)に対応する制御定数FA,FB(推定制御定数FAE,FBEも含む)が選別される。SA45の次はSA46に移る。
【0067】
SA46においては、SA45にて選別された制御定数FA,FBの中から、油圧波形領域Awpに含まれる油圧波形Wpn(推定油圧波形WEpnも含む)に対応する適合定数FA,FB(推定制御定数FAE,FBEも含む)が更に選別される。SA46の次はSA47に移る。なお、SA45及びSA46は適合定数選別手段116に対応する
【0068】
出力手段118に対応するSA47においては、SA46にて選別された制御定数FA,FB(推定制御定数FAE,FBEも含む)が画像表示装置38に表示すなわち出力される。また、その表示と併せて、例えば図9のように、作業者の入力操作の内容を示すためにインジケータ90、スライド軸92、表示バー94とが組み合わせて画像表示装置38に表示され、SA46にて選別された制御定数FA,FBに対応する変速波形Wanもしくは近似変速波形WKanと変速波形領域Awaとを重ね合わせたグラフ、及び、SA46にて選別された制御定数FA,FBに対応する油圧波形Wpnもしくは近似油圧波形WKpnと油圧波形領域Awpとを重ね合わせたグラフが画像表示装置38に表示される。
【0069】
本実施例の適合支援装置14には次のような効果(A1)乃至(A5)がある。(A1)本実施例の適合支援装置14に含まれる変速波形設定手段104は、制御定数(適合定数)FA及び制御定数(適合定数)FBのそれぞれが変化させられたときの複数の制御定数(適合定数)FA,FBそれぞれに対応して定まる複数の変速波形Wanを計測し設定し、領域設定手段112は、入力操作に応答して変速波形Wanの目標となる図9に例示するような変速波形領域Awaを設定し、適合定数選別手段(制御定数選別手段)116は、変速波形設定手段104によって設定された1または2以上の変速波形Wanのうち変速波形領域Awaに含まれる変速波形Wanに対応する制御定数(適合定数)FA,FBを選別する。従って、上記変速波形領域Awaが与えられることにより容易に適切な制御定数(適合定数)FA,FBを選別することができ、適合工数の低減を図ることが可能である。
【0070】
(A2)適合定数選別手段116は、変速波形領域Awaに含まれる変速波形Wanに対応する制御定数FA,FBの中から、許容幅設定手段114により設定された許容幅PWの油圧波形領域Awpに含まれる油圧波形Wpnに対応する制御定数(適合定数)FA,FBを選別するので、上記変速波形Wanに加え油圧波形Wpnによっても制御定数(適合定数)FA,FBが選別され、何れか一方の波形による選別と比較して一層適切な制御定数(適合定数)FA,FBを選別することが可能である。
【0071】
(A3)許容幅設定手段114は、計測される変速パターンに応じて目標として設定された油圧波形に近似した折線である目標近似折線を定義し記憶しており、その目標近似折線を基準として例えば中心線として許容幅PWを有する油圧波形領域Awp(図9参照)を設定するので、その目標近似折線を変更することで容易に上記油圧波形領域Awpを設定変更することが可能であり、油圧波形Wpnによる制御定数(適合定数)FA,FBの選別作業を簡便に行うことができる。
【0072】
(A4)許容幅設定手段114は、適合定数選別手段116によって制御定数FA,FBがより多く選別されるように、言い換えれば、変速波形領域Awaに含まれる変速波形Wanに対応する油圧波形Wpnが油圧波形領域Awp内により多く含まれるように、望ましくは、その油圧波形Wpnが油圧波形領域Awp内に最も多く含まれるように、上記目標近似折線とともに油圧波形領域Awpを図9の係合油圧軸方向すなわち縦方向にずらし、すなわち平行移動した上で、その油圧波形領域Awpを設定(決定)する。従って、油圧波形Wpnのばらつきを低く抑えることができる適切な制御定数(適合定数)FA,FBを選別することが可能である。
【0073】
(A5)図11のフローチャートのSA44においては、計測された油圧波形Wpnと変速波形Wanとの間の伝達特性CHapがばらつきを含めて設定され、この設定された伝達特性CHapを用いて推定した変速波形Wanである推定変速波形WEanが追加設定される。更に、その推定変速波形WEanに対応する推定油圧波形WEpnと推定制御定数(推定適合定数)FAE,FBEとが追加設定される。従って、計測された変速波形Wanの波形間の間隔が粗い場合においても適切に推定変速波形WEanが補完され、計測データの不足があった場合にもそれを補うことが可能である。
【0074】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
【実施例2】
【0075】
第2実施例は第1実施例の適合支援装置14を適合支援装置200に置き換えたものであり、図6の機能ブロック線図は共通である。そして、第2実施例は第1実施例に係る許容幅設定手段114を許容幅設定手段202に置き換えたものであって、その他は第1実施例と同じである。以下、その相違点について主に説明する。
【0076】
第1実施例の許容幅設定手段114は、油圧波形領域Awpを設定する場合には、適合定数選別手段116によって制御定数FA,FBがより多く選別されるように前記目標近似折線とともにそれを基準とする油圧波形領域Awpを設定するが、本実施例(第2実施例)の許容幅設定手段202は、適合定数選別手段116により選別される制御定数FA,FBに対応した変速波形Wanの密度がより高くなるように、望ましくは、その変速波形Wanの密度が最も高くなるように、前記目標近似折線とともにそれを基準とする油圧波形領域Awpを設定する。言い換えれば、許容幅設定手段202は、油圧波形領域Awpに含まれる油圧波形Wpnに対応し変速波形領域Awaに含まれる変速波形Wanの密度がより高くなるように、望ましくは、その変速波形Wanの密度が最も高くなるように、前記目標近似折線とともにそれを基準とする油圧波形領域Awpを設定する。具体的に許容幅設定手段202は、上記目標近似折線を基準とする油圧波形領域Awpと油圧波形Wpnとを重ね合わせた上で上記目標近似折線とともに油圧波形領域Awpを図9の係合油圧軸方向すなわち縦方向にずらし、すなわち平行移動させ、適合定数選別手段116により選別される制御定数FA,FBに対応した変速波形Wanの密度が最も高くなったところで、油圧波形領域Awpの図9の係合油圧軸方向の位置を確定する。なお、その他の点については、許容幅設定手段202は第1実施例の許容幅設定手段114と同じである。また、変速波形Wanの密度とは、ある限られた領域に存在する変速波形Wanの数量であって、変速波形Wanの密度が高いとは、その限られた領域に存在する変速波形Wanの数量が多いことである。
【0077】
本実施例の適合支援装置200の制御作動の要部を説明するフローチャートは第1実施例のフローチャート(図10、図11)と同じであるが、図11のSA43が図12のSB43に置き換えられる点が第1実施例と異なる。以下、その相違点について主に説明する。
【0078】
図12のSB43においては、前記目標近似折線を基準として例えば中心線として許容幅PWを有する油圧波形領域Awp(図9参照)が設定すなわち決定される。この油圧波形領域Awpが設定される場合には、図11のSA46にて選別される制御定数FA,FBに対応した変速波形Wanの密度がより高くなるように、望ましくは、その変速波形Wanの密度が最も高くなるように、上記目標近似折線とともに油圧波形領域Awpが図9の係合油圧軸方向すなわち縦方向にずらされ、すなわち平行移動させられた上で、その油圧波形領域Awpが設定(決定)される。なお、SA42及びSB43は許容幅設定手段202に対応する。
【0079】
本実施例の適合支援装置200には、第1実施例の効果(A1)乃至(A5)に加え、次のような効果(B1)がある。(B1)許容幅設定手段202は、適合定数選別手段116により選別される制御定数FA,FBに対応した変速波形Wanの密度がより高くなるように、望ましくは、その変速波形Wanの密度が最も高くなるように、前記目標近似折線とともにそれを基準とする油圧波形領域Awpを設定するので、油圧に対する変速波形Wanのロバスト性が高くなる制御定数(適合定数)FA,FBを選別することが可能である。
【実施例3】
【0080】
第3実施例は第1実施例の適合支援装置14を適合支援装置300に置き換えたものであり、図13は適合支援装置300の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。この図13は、第1実施例の機能ブロック線図である図6に対し変速波形変更手段302を付加した図であって、その他の点については図6と同じである。以下、その相違点について主に説明する。
【0081】
図13の変速波形変更手段302は、作業者の入力操作に応答して図9に例示される変速波形領域Awaを変更し設定する。例えば変速波形変更手段302は、領域設定手段112により一度設定された変速波形領域Awaに対して、或いは、領域設定手段112が変速波形領域Awaを設定する前であっても、領域設定手段112が予め記憶しいる前記計測される変速パターンに応じた基本的な変速波形領域Awaに対して、変速波形領域Awaを変更し設定する。変速波形領域Awaの変更とは、例えば変速波形領域Awaの時間軸方向の長さを伸縮させることであり、例えば、変更前の変速波形領域Awaに対する割合が作業者の入力操作によって与えられ、変速波形変更手段302は、その入力された割合に応じて変速波形領域Awaの時間軸方向の長さを伸縮させ、すなわち、変速波形領域Awaを変更し設定する。
【0082】
作業者の入力操作としては上記伸縮の割合を入力する方法以外に別の方法も考えられる。例えば、車両10の走行特性に対応して類型化された「スポーティー」や「ラグジュアリー」などの名称のそれぞれに対して上記変速波形領域Awaを伸縮させる割合が予め設定され変速波形変更手段302が記憶しており、その「スポーティー」や「ラグジュアリー」などの名称が作業者により入力され、それに対し変速波形変更手段302は上記変速波形領域Awaを伸縮させる割合を認識し、その割合に応じて変速波形領域Awaの時間軸方向の長さを伸縮させ、すなわち、変速波形領域Awaを変更し設定する。すなわち、変速波形変更手段302は変更前の変速波形領域Awaを、車両10の走行特性に対応して「スポーティー」や「ラグジュアリー」などに類型化された変速波形領域Awaに変更し設定する。例えば図14の縦に並んだ3つの図のうちで中央の図に示された変速波形領域Awaが変更前の変速波形領域Awaであるとした場合において、作業者が「スポーティー」と入力した場合には変速波形変更手段302はその変速波形領域Awaの時間軸方向の長さを予め設定された割合で縮小し図14の最上図の変速波形領域Awaに変更し設定する。一方、作業者が「ラグジュアリー」と入力した場合には変速波形変更手段302はその変速波形領域Awaの時間軸方向の長さを予め設定された割合で伸張し図14の最下図の変速波形領域Awaに変更し設定する。
【0083】
なお、変速波形変更手段302は変速波形領域Awaを変更し設定した場合には、変速波形領域Awaを伸縮させた割合と同じ割合で変更前の変速波形領域Awaに対応する油圧波形領域Awpの時間軸方向の長さを伸縮させ、油圧波形領域Awpを変更し設定する。例えば、変速波形変更手段302は、上記変速波形領域Awaを伸縮させた割合と同じ割合で、油圧波形領域Awpの基準である前記目標近似折線の時間軸方向の長さを伸縮させることによって、油圧波形領域Awpの時間軸方向の長さを伸縮させる。このようにすることで、変更前の変速波形領域Awaと油圧波形領域Awpとの間で時間軸方向で一致していた時刻t乃至tは変更後においても両者間で時間軸方向で一致するように変更される。
【0084】
変速波形変更手段302が変速波形領域Awaを変更し設定した場合には、その後、適合定数選別手段116は制御定数FA,FBを選別し、出力手段118はその選別された制御定数FA,FBを画像表示装置38に表示すなわち出力する。
【0085】
本実施例では、第1実施例と同様に適合支援装置300はシャーシダイナモメータ12に接続されていてもよいが、好適には、変速波形Wan及び油圧波形Wpnの計測は既に完了し、制御定数FA,FBとそれに基づく変速波形Wanと油圧波形Wpnと近似変速波形WKanと近似油圧波形WKpnとが例えば図8に示すデータマップのようにして記憶装置32に既に記憶されており、適合支援装置300は車載の電子制御装置20の一部となっている。このような場合には、図10のフローチャートに示す制御作動は実行される必要が無く、シャーシダイナモメータ12無しに車両10単体で適合支援装置300は機能し得る状態にある。そして、例えばナビゲーション装置の表示装置などが画像表示装置(表示装置)38とされる。
【0086】
本実施例の適合支援装置300の制御作動の要部を説明するフローチャートは第1実施例の図11のフローチャートと同じであるが、図11のSA41乃至SA42が図15のSC1乃至SC3に置き換えられる点が第1実施例と異なる。以下、その相違点について主に説明する。なお、本実施例のフローチャートは、既に一度、第1実施例の図10及び図11のフローチャートが実行されたことにより既に図8に示すような変速波形Wan、油圧波形Wpn等から構成されたデータマップが記憶装置32に記憶されており、かつ、変速波形領域Awa及び許容幅PWが設定されている場合において、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行され、変速波形領域Awaを変更して制御定数FA,FBを選別し直す場合の例である。
【0087】
図15のSC1では、変速波形領域Awaを変更する旨の入力があったか否かが判定される。このSC1の判定が肯定的である場合、すなわち、変速波形領域Awaを変更する旨の入力があった場合にはSC2に移る。一方、このSC1の判定が否定的である場合には本フローチャートは終了する。
【0088】
SC2においては、作業者の入力操作に応答して、既に設定されている変速波形領域Awaが変更され、新たに変速波形領域Awaが設定される。変速波形領域Awaの変更とは、例えば変速波形領域Awaの時間軸方向の長さが伸縮させられることであり、例えば、変更前の変速波形領域Awaに対する割合が作業者の入力操作によって与えられ、その入力された割合に応じて変速波形領域Awaの時間軸方向の長さが伸縮させられ、すなわち、変速波形領域Awaが変更され設定される。作業者の入力操作としては上記伸縮の割合を入力する方法以外に別の方法も考えられる。例えば、車両10の走行特性に対応して類型化された「スポーティー」や「ラグジュアリー」などの名称のそれぞれに対して上記変速波形領域Awaを伸縮させる割合が予め設定されており、その「スポーティー」や「ラグジュアリー」などの名称が作業者により入力された場合に、それに対し上記変速波形領域Awaを伸縮させる割合が認識され、その割合に応じて変速波形領域Awaの時間軸方向の長さが伸縮されてもよい。SC2の次はSC3へ移る。
【0089】
SC3においては、SC2にて変速波形領域Awaが変化すなわち伸縮させられた割合と同じ割合で変更前の変速波形領域Awaに対応する油圧波形領域Awpの時間軸方向の長さを伸縮(変化)させるため、油圧波形領域Awpの基準である前記目標近似折線の時間軸方向の長さが、SC2にて変速波形領域Awaが伸縮(変化)させられた割合と同じ割合で伸縮(変化)させられる。これにより、このSC3に続く図11のSA43では、変更後の変速波形領域Awaに対応する油圧波形領域Awpが用いられることになる。SC3の次は図11のSA43へ移る。なお、SC1乃至CS3は変速波形変更手段302に対応する。
【0090】
本実施例の適合支援装置300には、第1実施例の効果(A1)乃至(A5)に加え、次のような効果(C1)乃至(C2)がある。(C1)変速波形変更手段302は、作業者の入力操作に応答して図9に例示される変速波形領域Awaを変更し設定するので、作業者または使用者が任意の変速波形Wanを得たい場合にその変速波形Wanに応じて変速波形領域Awaを変更すれば、上記任意の変速波形Wanを実現できる制御定数(適合定数)FA,FBが選別される。そして、その作業者または使用者が所望する上記選別された制御定数(適合定数)FA,FBを設定することが可能である。
【0091】
(C2)変速波形変更手段302は変更前の変速波形領域Awaを、車両10の走行特性に対応して「スポーティー」や「ラグジュアリー」などに類型化された変速波形領域Awaに変更し設定するようにしてもよい。そのようにした場合には、作業者または使用者は変速波形領域Awaを直接変更しなくても「スポーティー」や「ラグジュアリー」などの走行特性を指定すれば、作業者または使用者が望む走行特性に合った制御定数(適合定数)FA,FBを選別することが可能である。
【0092】
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【0093】
例えば、前述の第1実施例乃至第3実施例において、制御定数FAは、1→2アップ変速においてブレーキB1の係合圧を制御する電磁制御弁(リニアソレノイドバルブSL5)の駆動電流波形Winの時刻tと時刻tとの間の時間として定義され、制御定数FBは、時刻tにおける駆動電流値として定義されるが、駆動電流波形Winのうちで変速期間中の制御に関連する特徴を示す他の部分の特徴を示す値であってもよいし、他の電磁制御弁の駆動電流値であってもよい。
【0094】
また、前述の第1実施例乃至第3実施例において、2種類の制御定数FA,FBがそれぞれ段階的に変化させられていることが図8のデータマップに例示されているが、制御定数の種類は2種類に限られるわけではなく、1種類でも3種類以上であってもよい。
【0095】
また、前述の第1実施例乃至第3実施例の自動変速機28は前進8段であったが、前進4段等、他の変速段であってもよい。また、前述の実施例では、1→2アップ変速について説明されていたが、他の変速段やダウン変速であってもよいし、他の油圧式摩擦係合装置についてであってもよい。
【0096】
また、前述の第1実施例乃至第2実施例において、適合支援装置14,200はシャーシダイナモメータ12に接続されており、シャシダイナモメータ12が運転されることにより変速波形Wanと油圧波形Wpnとが計測されるが、シャーシダイナモメータ12によらず車両10の実走行によって変速波形Wanと油圧波形Wpnとが計測されてもよい。また、適合支援装置14,200によって変速波形Wan及び油圧波形Wpnが計測されるが、変速波形Wan及び油圧波形Wpnの計測は既に完了し、制御定数FA,FBとそれに基づく変速波形Wanと油圧波形Wpnと近似変速波形WKanと近似油圧波形WKpnとが例えば図8に示すデータマップのようにして記憶装置32に既に記憶されており、適合支援装置14,200は車載の電子制御装置20の一部となっていてもよい。すなわち、変速波形Wan及び油圧波形Wpnを計測する機能を有さない適合支援装置14,200も考え得る。
【0097】
また、前述の第1実施例乃至第3実施例において、適合支援装置14,200,300は記憶装置32を備えているが、適合支援装置14,200,300が記憶装置32を備えておらず、制御定数FA,FBとそれに基づく変速波形Wanと油圧波形Wpnと近似変速波形WKanと近似油圧波形WKpnとをインターネットなどを通じて適合支援装置14,200,300が取得できるようになっていてもよい。
【0098】
また、前述の第1実施例乃至第3実施例においては、車両10の完成後に制御定数FA,FBが選別されることになっているが、車両10の完成前、例えば、エンジン24と自動変速機28とが連結された状態で変速波形Wanと油圧波形Wpnとが計測され、制御定数FA,FBが選別されてもよい。
【0099】
また、前述の第1実施例乃至第3実施例においては、適合支援装置14,200,300が選別した制御定数FA,FBは画像表示装置38により作業者に伝達されるが、伝達される方法に限定は無く、また、適合定数選別手段116は制御定数FA,FBを選別することにとどまらずその選別された制御定数FA,FBを適合後の制御定数FA,FBとして車載の電子制御装置20に設定してもよい。制御定数FA,FBが車載の電子制御装置20に設定される場合において、適合定数選別手段116は上記選別した制御定数FA,FBが複数ある場合には、その選別した制御定数FA,FBの中央値又は平均値を算出し車載の電子制御装置20に設定してもよい。
【0100】
また、前述の第1実施例乃至第3実施例において、油圧波形領域Awpは3つの領域(変速フェーズα,β,γ)に区分されてそれぞれについて許容幅PWα,PWβ,PWγが設定されているが、許容幅PWは1つで設定されていても4つ以上で設定されていてもよい。また、1つの変速フェーズα,β,γ内で許容幅PWが一定である必要も無い。
【0101】
また、前述の第1実施例乃至第3実施例において、図9の変速波形領域Awaは幅一定で描かれているが、変速波形領域Awaは幅一定である必要は無い。
【0102】
また、前述の第1実施例乃至第3実施例において、推定変速波形WEan、推定油圧波形WEpn、推定制御定数FAE,FBEが推定され追加設定されるが、これらの推定データは追加設定されなくてもよい。
【0103】
また、前述の第1実施例乃至第3実施例において、近似波形設定手段108は近似変速波形WKan及び近似油圧波形WKpnを設定しているが、これら近似変速波形WKan及び近似油圧波形WKpnは推定変速波形WEanなどの推定データを容易に算出するための近似データであるので、近似波形設定手段108は必須の構成ではなく、近似変速波形WKan及び近似油圧波形WKpnが設定されなくてもよい。
【0104】
また、前述の第1実施例乃至第3実施例において、適合定数選別手段116は、油圧波形Wpnが油圧波形領域Awpに含まれるか否かを判断することにより制御定数FA,FBを選別するが、油圧波形Wpnに替えて駆動電流波形Winを用いて、駆動電流波形Winがそれに対して設定された許容領域である駆動電流波形領域に含まれるか否かを判断することにより制御定数FA,FBを選別してもよい。そのようにした場合には、許容幅設定手段114,202は入力操作に応答して決定された許容幅PWの上記駆動電流波形領域を設定する。
【0105】
また、前述の第3実施例において、走行特性に対応して類型化された名称として「スポーティー」と「ラグジュアリー」とが例示されているが、これらに限定されるものではなく、また、3種類以上であってもよい。
【0106】
また、前述の第3実施例において、変速波形変更手段302は変速波形領域Awaを時間軸方向に伸縮させて変更しているが、変更方法は限定されるものではなく、例えば変速波形領域Awaの幅を変更してもよい。
【0107】
また前述した複数の実施例はそれぞれ、例えば優先順位を設けるなどして、相互に組み合わせて実施することができる。
【0108】
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更が加えられて実施されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明が好適に適用される車両用自動変速機の適合支援装置を、実際の走行状態と同じ走行状態となるように車両を走行させるシャーシダイナモメータと共に説明する図である。
【図2】図1の車両に搭載された自動変速機の構成を説明する骨子図である。
【図3】図2の自動変速機において複数の変速段を成立させる際の係合要素の作動を説明する作動表である。
【図4】図1の車両に搭載された電子制御装置の変速制御において用いられる変速線図の一例を示す図である。
【図5】図1の車両に搭載された変速用油圧制御回路の要部を説明する図である。
【図6】図1の適合支援装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。
【図7】図1の自動変速機の変速中例えば1→2アップ変速中における、時間経過に対する係合側電磁制御弁の駆動電流の変化を示す駆動電流波形、自動変速機の変速を制御する油圧式摩擦係合装置の係合圧の変化を示す油圧波形、自動変速機の出力値としての車両の加速度の変化を示す加速度波形である変速波形の一例を示す図である。
【図8】図1の適合支援装置の記憶装置に記憶されたデータマップの構成を示す図である。
【図9】図1の適合支援装置の画像表示装置における表示例を示す図であって、変速波形、油圧波形、変速波形領域、油圧波形領域のそれぞれを説明するための図である。
【図10】図1の適合支援装置の制御作動の要部を説明するフローチャートの一部を示す図である。
【図11】図1の適合支援装置の制御作動の要部を説明するフローチャートの一部を示す図である。
【図12】本発明の他の実施例である第2実施例において図1の適合支援装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、図11の一部のステップであるSA43を置換するための図である。
【図13】本発明の他の実施例である第3実施例において図1の適合支援装置の制御機能の要部を説明する機能ブロック線図であって、第1実施例に係る図6に相当する図である。
【図14】本発明の他の実施例である第3実施例において図13の変速波形領域変更手段が既に設定されている変速波形領域を、車両の走行特性に対応して「スポーティー」や「ラグジュアリー」などに類型化された変速波形領域に変更した場合の変速波形領域の一例を示す図である。
【図15】本発明の他の実施例である第3実施例において図1の適合支援装置の制御作動の要部を説明するフローチャートであって、図11の一部のステップであるSA41乃至SA42を置換するための図である。
【符号の説明】
【0110】
10:車両
14,200,300:適合支援装置
28:自動変速機
104:変速波形設定手段
106:油圧波形設定手段
112:領域設定手段
114,202:許容幅設定手段
116:適合定数選別手段
302:変速波形領域変更手段
FA,FB:制御定数(適合定数)
Wan:変速波形
Wpn:油圧波形
Awa:変速波形領域
Awp:油圧波形領域
PWα,PWβ,PWγ:許容幅
α,β,γ:変速フェーズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の自動変速機の変速制御に用いる適合定数を適合させるための車両用自動変速機の適合支援装置であって、
前記適合定数が変化させられたときの複数の適合定数それぞれに対応して定まる複数の変速波形を設定する変速波形設定手段と、入力操作に応答して該変速波形の目標となる変速波形領域を設定する領域設定手段と、前記変速波形設定手段によって設定された前記複数の変速波形のうち前記変速波形領域に含まれる変速波形に対応する適合定数を選別する適合定数選別手段と
を、備えたことを特徴とする車両用自動変速機の適合支援装置。
【請求項2】
前記複数の適合定数それぞれに対応して定まる複数の油圧波形を設定する油圧波形設定手段と、入力操作に応答して各変速フェーズにおける前記油圧波形の許容幅を設定する許容幅設定手段とを、備え、
前記適合定数選別手段は、前記変速波形領域に含まれる変速波形に対応する前記適合定数の中から、前記設定された許容幅の油圧波形領域に含まれる前記油圧波形に対応する適合定数を選別する
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用自動変速機の適合支援装置。
【請求項3】
前記許容幅設定手段は、目標として設定された油圧波形に近似した折線である目標近似折線を定義し、該目標近似折線を基準として前記油圧波形領域を設定する
ことを特徴とする請求項2に記載の車両用自動変速機の適合支援装置。
【請求項4】
前記許容幅設定手段は、前記適合定数がより多く選別されるように前記目標近似折線を設定する
ことを特徴とする請求項3に記載の車両用自動変速機の適合支援装置。
【請求項5】
前記許容幅設定手段は、前記適合定数選別手段により選別される適合定数に対応した変速波形の密度がより高くなるように前記目標近似折線を設定する
ことを特徴とする請求項3に記載の車両用自動変速機の適合支援装置。
【請求項6】
前記変速波形設定手段は、計測した油圧波形と変速波形との間の伝達特性をばらつきを含めて設定し、この設定した伝達特性を用いて推定した変速波形を追加設定する
ことを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項に記載の車両用自動変速機の適合支援装置。
【請求項7】
入力操作に応答して前記変速波形の目標となる変速波形領域を変更する変速波形領域変更手段を備えた
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の車両用自動変速機の適合支援装置。
【請求項8】
前記変速波形領域変更手段は、前記変速波形の目標となる変速波形領域を車両の走行特性に対応して類型化された変速波形領域に変更する
ことを特徴とする請求項7に記載の車両用自動変速機の適合支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−144787(P2009−144787A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−321423(P2007−321423)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】