説明

車両用衝突検知装置

【課題】バンパ内に配設されたチャンバ部材内部の圧力変化を検出する車両用衝突検知装置において、チャンバ部材が所定以上のダメージを受けた後も衝突検知を行うことができる車両用衝突検知装置を提供する。
【解決手段】バンパ内に配設され且つチャンバ空間が内部に形成されるチャンバ部材と、チャンバ空間の圧力を検出する圧力センサとを有し、圧力センサによる圧力検出結果に基づいてバンパへの物体の衝突を検知するように構成された車両用衝突検知装置において、ダメージ判定手段(S−8)によってバンパが圧力センサによる圧力検出結果に基づいて所定以上のダメージを受けたと判定され、警報装置によって故障を報知(S−10)した以後も衝突検知を続行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バンパにおける圧力変化に基づいて物体の衝突を検知する車両用衝突検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が歩行者と衝突した際、歩行者へのダメージを軽減する歩行者保護装置が実用化されている。この歩行者保護装置は、歩行者がエンジンフードにたたきつけられる衝撃を和らげるために、エンジンフードの後端を衝突検知後瞬時に上昇させ、上昇した分のストロークを緩衝用機構で支えるというもので、ポップアップフード、ポップアップエンジンフード、アクティブボンネット、アクティブフード等の名称で呼ばれている。また、車体外部のエンジンフード上からフロントウインド下部にかけてエアバッグを展開し、直接歩行者の衝撃を緩衝するというものもあり、カウルエアバッグ、フードエアバッグ等の名称で呼ばれている。
【0003】
これらの装置では、バンパ部に衝突検知装置を設け、センサを用いて物体が接触したことを検知し、接触した物体が人体であると判定した場合に装置を作動させる仕組みを持っている。歩行者保護装置が作動すると弊害がある。たとえば、運転者の視界を損なうので速度が高い場合は危険であるし、一度作動した場合は修理が必要となるため修理費が発生する。さらに、エンジンルームが潰れるような深刻な衝突では、装置が作動して後端が上昇したエンジンフードが、フロントガラスを突き破って車室に侵入し乗員に危害を加えるおそれがある。したがって、衝突の対象が人体以外の場合や、また速度が大きすぎたり、小さすぎたりして作動しても効果が望めない場合には、衝突物の種類を正確に判別して装置が作動しないことが望ましい。
【0004】
従来、バンパ内にチャンバ部材を配設して、衝突時におけるチャンバ内の圧力変化を検出することで衝突物の種類を判別し、さらに装置を構成する各構成品へのダメージ判定を行うよう構成された車両用衝突検知装置が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
特許文献1記載の車両用衝突検知装置では、バンパへ物体が衝突すると、バンパ内でバンパリーンフォースの前面に配設されたチャンバ部材が変形することによってチャンバ内に圧力変化が発生し、その圧力変化が圧力センサによって検出される。衝突検知装置は、圧力センサによる圧力変化の検出結果に基づいて、運動エネルギーから有効質量を算出し、衝突物が歩行者か否か、検知装置の故障か否かを判定する。
【0006】
検知装置の故障判定は、実際に歩行者保護装置が作動した場合の他、歩行者保護装置が作動しない低速で物体に触れ、チャンバ部材の破損が想定されると判断された場合に、故障と判定するように設定しておく。たとえば、駐車場でステアリングを大きく切って低速で移動する際に、最小回転半径を見誤って柵や柱などにバンパの角を軽微に接触させた場合や、縦列駐車からの発車際に、前後の車をバンパで動かしてスペースをつくって駐車列から抜け出すような場合にチャンバが破損する可能性がある。チャンバが破損した状態を知らずに歩行者と衝突すると、歩行者との衝突を想定した圧力が発生せず、歩行者保護装置を起動することができない。このため、運動エネルギーから有効質量を算出し、所定の値と比較することによって、歩行者保護装置を作動すべき速度よりも小さな速度で物体に衝突した場合にチャンバが破損している可能性があるとして、警報装置により運転者へ衝突検知装置の故障を報知するように構成されている。よって、警報装置による報知によって衝突検知装置の故障を認識した運転者は、車両を修理工場等へ移動させて修理を受けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−70129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、衝突検知装置の故障を警報装置による報知によって運転者が認識したとしても、直ちに修理を行うことは現実には不可能な場合があり、例えば、自走して修理工場へ向かう途中で歩行者に衝突することも現実には起こり得ることである。また、故障報知を無視して使用したり、後日に修理を予定して継続使用したりした場合に、歩行者に衝突する可能性もある。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、バンパ内に配設されたチャンバ部材内部の圧力変化を検出する車両用衝突検知装置において、チャンバ部材が所定以上のダメージを受けた後も衝突検知を行うことができる車両用衝突検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、バンパ内に配設され内部にチャンバ空間が形成されるチャンバ部材と、チャンバ空間の圧力変化を検出する圧力センサと、圧力センサによる圧力検出結果に基づいてバンパへの物体の衝突を判定する衝突判定手段と、圧力センサによる圧力検出結果に基づいてバンパのダメージを判定するダメージ判定手段と、ダメージ判定手段によってバンパが所定以上のダメージを受けたと判定された場合に、車両用衝突検知装置の故障を報知する故障報知手段と、を備えた車両用衝突検知装置において、ダメージ判定手段によってバンパが所定以上のダメージを受けたと判定された以後も、衝突判定手段により衝突の判定を行うように構成されたことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、ダメージ判定手段によってバンパが所定以上のダメージを受けたと判定された以後も、衝突判定手段により衝突の判定を行うので、車両用衝突検知装置の故障が修理される前に歩行者等との衝突事故が発生した場合にも確実に衝突を検知することが可能となる。
【0012】
すなわち、バンパへの物体の衝突が発生した車両の搭乗者は、故障報知手段による報知を受けることにより、衝突直後の車両用衝突検知装置が異常な場合を認識し、修理工場等へ向かうことができ、万一その道のりにおいて、歩行者と衝突した場合にも車両用衝突検知装置が衝突を検知できるので、歩行者保護装置の作動が必要な衝突があった場合、歩行者を保護することが可能となる。
【0013】
請求項2に記載の発明は、圧力センサによる圧力検出結果に基づいて衝突物の有効質量を算出する有効質量算出手段を備え、衝突判定手段は圧力検出結果から求めた有効質量を閾値と比較するものであり、ダメージ判定手段によってバンパが所定以上のダメージを受けたと判定された場合に衝突判定手段の閾値を変更する閾値変更手段を更に備えたことを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、バンパがダメージを受けた後、以後の衝突判定手段の閾値が変更されるので、ダメージによって衝突検知性能が低下していた場合でも、歩行者等の衝突を検知することができる。
【0015】
請求項3に記載の発明は、閾値変更手段が、ダメージ判定手段によって所定以上のダメージを受けたと判定されたときの有効質量の大きさに応じて、閾値を変更することを特徴とする。
【0016】
この構成によれば、閾値変更手段が、ダメージ判定手段によって所定以上のダメージを受けたと判定されたときの有効質量の大きさに応じて(換言すれば、チャンバが破損した割合に応じて)、閾値を設定することができる。例えば、軽度なダメージの場合、通常よりやや低い閾値とし、重度なダメージの場合、より低い閾値とすることにより、チャンバ破損後の衝突時に検出される圧力が低いものであったとしても、確実に衝突を検知することができる。また、閾値を下げ過ぎることがないため、軽度な接触によって誤動作が起こることも防ぐことができる。
【0017】
請求項4に記載の発明は、有効質量算出手段が、圧力センサによる圧力検出結果から運動量と力積との関係を用いて有効質量を求めることを特徴とする。この構成によれば、有効質量を求める際、速度の大きさで除するだけでよいため、衝突判定とダメージ判定の精度が向上する。
【0018】
請求項5に記載の発明は、閾値変更手段が、ダメージ判定手段によってバンパが所定以上のダメージを受けたと判定された場合に衝突判定手段の閾値をより小さい値に変更することを特徴とする。この構成によれば、ダメージ判定手段によってバンパが所定以上のダメージを受けたと判定された場合には、衝突判定手段の閾値をより小さい値に変更するので、チャンバ部材の破損により衝突時に検出される圧力が小さいものであったとしても、確実に衝突を検知することができる。
【0019】
請求項6に記載の発明は、閾値変更手段が、ダメージ判定手段によって所定以上のダメージを受けたと判定されたときの有効質量の大きさが大きいほど、閾値をより小さい値に変更することを特徴とする。この構成によれば、ダメージが大きいほどチャンバの破損が大きいおそれがあり、すなわち、穴が大きく開くおそれがあるため、より閾値を低くすることで、確実に衝突の判定を行うことができる。
【0020】
請求項7に記載の発明は、衝突判定手段が、有効質量算出手段によって算出された有効質量が歩行者相当である場合に、歩行者保護装置を作動させることを特徴とする。この構成によれば、歩行者と衝突した際に歩行者を保護することができる。
【0021】
請求項8に記載の発明は、歩行者保護装置が、ポップアップフード、カウルエアバッグのうち少なくとも一方であることを特徴とする。この構成によれば、歩行者と衝突した際に歩行者の頭部への障害を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用衝突検知装置の構成を示す図であり、(a)は各構成要素をバンパの概略縦断面構造と共に示す模式図、(b)はハードウエア構成を示す機能ブロック図である。
【図2】本発明の実施形態に係る車両用衝突検知装置の構成を車両上方からの視点で示す図である。
【図3】衝突物からの衝撃を模した概念図である。
【図4】本発明の実施形態に係る車両用衝突検知装置におけるコントローラの処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の車両用衝突検知装置の具体的な実施形態について図面を参照しつつ説明
する。
【0024】
本発明の実施形態に係る車両用衝突検知装置10は、図1(a)、(b)、図2に示すように、車両前方のバンパ1への物体の衝突を検知し、歩行者保護装置21を起動するよう構成された装置であり、バンパ1と、バンパ1内に配設され、チャンバ空間2aが内部に形成されるチャンバ部材2と、チャンバ空間2a内の圧力変化を検出する圧力センサ3と、コントローラ11を備えている。コントローラ11は、各センサ類の検出結果を基に後述する種々の手段として機能する。
【0025】
バンパ1は、図1(a)、図2に示すように、バンパリーンフォース4、チャンバ部材2、アブソーバ5を主体として構成されている。
【0026】
バンパリーンフォース4は既設のものであり、バンパ1内に配設されて車両幅方向に延びる金属製の梁状部材であって、車両側面側に位置して車両前後方向に延びる一対の金属製部材である既設のサイドメンバ6の前端に取り付けられている。
【0027】
チャンバ部材2は、バンパ1内でバンパリーンフォース4の前面上部に取り付けられ、車幅方向に延びる、ポリエチレン等の合成樹脂からなる中空の部材で、バンパ1における圧力伝達の作用を持つ部材である。チャンバ部材2の内部にはチャンバ空間2aが形成されている。チャンバ空間2aは閉じた空間であるが、密閉されてはおらず、一部の狭小部分で外気と連通し大気圧になっている。これにより標高差や気温変化などによる気圧の変化の影響を受けない。チャンバ空間2aには不図示の差込口を介して圧力センサ3の受圧部が差し込まれている。チャンバ部材2の下部にはアブソーバ5が配置されている。アブソーバ5は、バンパ1において衝撃吸収の作用を持つ部材である。たとえば発泡樹脂等を用いることができる。また、チャンバ空間2aはチャンバ部材2内に1つ設けられていればよいが、車両幅方向に複数設けられていてもよい。
【0028】
圧力センサ3は、気体圧力を荷重として検出可能なセンサ装置であり、チャンバ部材2に組み付けられている。具体的には、差込口を介してその受圧部がチャンバ空間2a内に差し込まれ、チャンバ空間2a内の空気の圧力変化を検出可能に構成されている。圧力センサ3は、圧力に比例した信号を出力する。圧力センサ3は、コントローラ11と伝送線を介して電気的に接続されている。チャンバ空間2aがチャンバ内に複数設けられている場合はチャンバ空間2aごとに設けられているものとする。
【0029】
車速センサ12は、車速パルスにより車両の走行速度の大きさを検出する既設の速度センサであり、コントローラ11と伝送線を介して電気的に接続されている。
【0030】
コントローラ11は、衝突時に圧力センサ3および既設の車速センサ12の検出結果に基づいて衝突物の有効質量を算出する有効質量算出手段、および有効質量算出手段によって算出された有効質量に基づいて衝突物の種類を判別する衝突判定手段として機能する。また、有効質量算出手段によって算出された有効質量と車速センサ12の検出結果に基づいて車両用衝突検知装置10が正常動作するか否かを診断するダメージ判定手段として機能する。さらに、ダメージ判定手段によってバンパ1が所定以上のダメージを受けたと判定された場合には、車両用衝突検知装置10の故障を警報装置22に報知する故障報知手段としての機能も備えている。さらにまた、衝突判定手段は圧力検出結果から求めた有効質量を閾値と比較するものであるので、バンパ1が所定以上のダメージを受けたと判定された後に、ダメージを受けたと判定したときの有効質量の大きさに応じて、閾値を所定の閾値に変更する閾値変更手段としての機能も備えている。
【0031】
なお、ここで「有効質量」とは、衝突時に圧力センサで検知した信号から、運動量と力積の関係を利用して算出する質量をいうものとする。バンパ1ではアブソーバ5やその他の部材で衝撃を吸収する機能があり、衝突する物体も地面で支えられているものである。したがって、圧力センサで検知した荷重から計算できるものは、実際の質量とは異なったものとなるため、誤解を避けるため、上記の意味で「有効質量」という言葉を用いる。
【0032】
コントローラ11は、上述したように、圧力センサ3および車速センサ12の検出結果に基づいて衝突物の有効質量を算出し、衝突物の種類を歩行者と判別し、さらに歩行者保護装置21を作動させるべき速度であると判定した場合には、歩行者保護装置21の駆動装置23を動作させるための信号を出力し、歩行者保護装置21を作動させる。衝突物の種類を歩行者でないと判別した場合や、衝突物が歩行者であっても歩行者保護装置21を作動させるべき速度でないと判定した場合には、バンパ1のダメージを判定するダメージ判定処理を実行し、バンパ1が所定以上のダメージを受けたと判定された場合には、車両用衝突検知装置10の故障を警報装置22に報知する故障報知処理を実行し、故障判定をデータとしてコントローラ11内のRAM24に入力することにより、RAM24は修理のための故障履歴情報としてデータを記憶し、記憶された情報を保守・整備時に別途用意する診断装置で読み出すことにより、交換・修理等の要否を判断する情報として使用する。コントローラ11は、以後も圧力センサ3および車速センサ12の検出結果に基づいて衝突物の有効質量を算出し、衝突物の種類を判別することを続行する。
【0033】
歩行者保護装置21はポップアップフード、ポップアップエンジンフード、アクティブボンネット、アクティブフード、カウルエアバッグ、フードエアバッグ等の名称で呼ばれる公知のものであってよく、エンジンフードの後端を衝突検知後瞬時に上昇させ、上昇した分のストロークを緩衝用機構で支え、歩行者がエンジンフードにたたきつけられる衝撃を和らげ保護するというものか、または、カウルエアバッグ、フードエアバッグ等の名称で呼ばれる、車体外部のエンジンフード上からフロントウインド下部にかけてエアバッグを展開し歩行者の衝撃を緩衝するというもの等である。警報装置22は公知の部品で構成され、コントローラ11からの出力に基づいて、たとえば音声やメータ内の表示により乗員に故障の報知を行う。
【0034】
次に、図面を参照にしつつ、本実施形態における衝突判定処理について説明する。図3には、衝突物からの衝撃を模した概念図が示されている。図から明らかなように、バンパ1へ物体が衝突すると、チャンバ部材2が変形し、チャンバ空間2aの容積が急激に変化するため、一部の狭小部分で外気と連通していても、内部の気体圧力が上昇する。チャンバ空間2a内の気体圧力の変化は、圧力センサ3によって電気的に検出される。
【0035】
コントローラ11は、伝送線を介して圧力センサ3から出力される信号を取り込むとともに、車速センサ12からの車速信号を取り込む。さらに、圧力センサ3からの出力と車速に基づいて衝突物の有効質量を算出し、算出した有効質量が所定の閾値より大きいか否かによって、衝突物が歩行者等であるか否かを判定する。
【0036】
車両への衝突が発生した場合、歩行者と質量の異なる衝突物では、検知される圧力センサ3の値は異なってくるため、圧力センサ3の検知出力から衝突物の有効質量を算出し、この有効質量について、人体の有効質量と、想定される他の衝突物の質量との間に閾値を設定することにより、衝突物の種類を切り分けることができる。圧力センサ3の検知出力と検知時間の積は、ある有効質量を持った衝突物がある速度で衝突したことによる運動量と等しいため、衝突時の車速から衝突物の有効質量が算出できる。
【0037】
以下、本実施形態における有効質量の算出方法について説明する。図3を参照すると、車両がある速度の大きさVで、静止した質量Mの物体に衝突したとすると、圧力センサ3から見て、静止した圧力センサ3に向けて質量Mの物体が車両の速度の大きさVで衝突したとみなすことができる。このとき、衝突時の車速検出値をV、衝突の継続時間をΔt、はたらいた荷重をFとすると、よく知られた運動量と力積の関係式
MV=FΔt・・・(1)
から、質量はM=FΔt/Vとして算出できる。
【0038】
ある質量Mの衝突物がある大きさの衝突速度(車速センサ12による車速検出値)Vでバンパ1に衝突した場合、その衝突荷重Fはチャンバ部材2に伝わりチャンバ空間2aが潰れて容積が変化する。この体積変化によりチャンバ空間2a内の圧力が上昇するため、圧力センサ3が圧力を検出する。圧力センサ3は、実質的には荷重を検出しているものなので、この圧力検出値を荷重と同様に扱うことができる。圧力センサ3の値は、ノイズ等による誤検知を防ぐために数ミリ秒から数十ミリ秒の所定時間での平均値を使うこととし、継続時間Δtを平均をとる積分時間として積分すればよく、(1)式から有効質量を式
M=(∫P(t)dt)/V ・・・(2)
によって求めることができる。なお、係数は無視して示している。また、衝突速度の大きさは車速センサ12による車速検出値として取り込んだ値を使うため、有効質量を算出する際には定数として取り扱うこととする。
【0039】
なお、有効質量を算出する方法には、他に運動エネルギーの式E=MV/2から、M=2E/Vとして算出方法もある。しかしながら、車速センサによる車速検出値は、車速パルスを用いるため、低速では精度が悪く、精度の悪い車速検出値を2乗するのでさらに精度が悪くなるという問題がある。そこで、ここでは運動量と力積の関係を用いて、単に車速検出値で除するようにし、運動エネルギーを用いる方式より精度を向上させた。
【0040】
なお、実際には車両の走行中に物体が衝突するのは圧力センサ3ではなくバンパ1の表面であり、チャンバ部材2やアブソーバ5での衝撃吸収の影響もあるので、十分な実験を行ない補正係数を得るものとする。補正係数はコントローラ11内のROM26またはRAM24に保持するようにする。このようにすることにより正確な判定が可能となる。
【0041】
同様にして、チャンバ部材2が破損する条件を実験により求め、誤差を加味して閾値Mth_dを設定することにより、チャンバ故障を確実に判定することが可能となる。チャンバ故障を判定した後、警報装置22を作動させ、乗員に故障を知らせる。さらにこの後も車両用衝突検知装置10は検知を継続し、新たな衝突に備える。
【0042】
次に、図4に示すフローチャートに基づいて、本実施形態の車両用衝突検知装置10におけるコントローラ11の処理の流れについて説明する。なお、圧力センサ3が複数ある場合は、圧力センサ3ごとに図4のフローを実施するものとする。
【0043】
<衝突物の種類の判別手順>
コントローラ11には、衝突検知のプログラムがROM26またはRAM24に格納されており、CPU25がそのプログラムに従って以下に述べる各処理を実行する。図4に示すように、コントローラ11は、イニシャル処理として、演算値を初期化する処理を行う(ステップS−1)。
【0044】
続いてコントローラ11は、車速センサ12が検出した車速検出値Vを読み込み(ステップS−2)、さらに圧力センサ3の出力を所定時間読み込み、有効質量を演算する(ステップS−3、ステップS−4)。圧力センサ3の値は、ノイズ等による誤検知を防ぐために数ミリ秒から数十ミリ秒の所定時間での平均値を使うよう、圧力値を検出している時間で積分する。有効質量を(2)式、M=(∫P(t)dt)/Vによって求める。
【0045】
次のステップS−5で、コントローラ11は算出した有効質量Mが所定の閾値Mth以上であるか否かを判定する。閾値Mth以上である場合(ステップS−5でYes)には、衝突物を歩行者と判定し、次のステップ(ステップS−6)に進む。閾値Mth以上でない場合(ステップS−5でNo)には、衝突物がチャンバ破損をもたらす物体かどうか判別する別のステップ(ステップS−8)に進む。
【0046】
ステップS−6において、ステップS−2で読み込んだ車速検出値Vを再び使い、あらかじめ定められたVmax、Vminの範囲と比較する。車速検出値Vがこの範囲にあるとき、コントローラ11は歩行者保護装置21を作動させる信号を出力する(ステップS−7)。車速検出値Vがこの範囲にないとき、衝突物がチャンバ破損をもたらす速度の大きさであったかを判別するため別のステップ(ステップS−9)に進む。
【0047】
Vmaxは歩行者保護装置21の効果がある上限の速度として設定される。すなわち、Vmaxを超える大きさの速度では、歩行者はエンジンフードの範囲を超えてはね上げられるので、ポップアップフード等のような歩行者保護装置21を作動させても効果がない。また、歩行者保護装置が作動すると、運転者の視界を妨げるため危険である。さらにまた、引き続き大きな速度のまま他の物体と衝突することも考えられ、エンジンルームが潰れるような深刻な衝突であれば、ポップアップフード等のような歩行者保護装置21が作動して後端が上昇したエンジンフードが、フロントガラスを突き破って車室に侵入し乗員に危害を加えるおそれがある。このためVmaxを超える大きさの速度では、歩行者保護装置21は作動しないようにしている。
【0048】
また、Vminは歩行者保護装置21の効果がある下限の速度として設定される。すなわち、Vminより小さい速度では、歩行者はエンジンフードの上にはね上げられないか、またははね上げられてもエンジンフードに強く打ち付けられないため、歩行者保護装置21を作動させても効果がない。したがって、Vminより小さい速度では、歩行者保護装置21は作動しないようにしている。
【0049】
なお、ステップS−5でYesと判定されるのは、正確にいえば歩行者以上の質量を持った物体であり、たとえば駐車場での接触のような場合にはステップS−5はYesとなる。しかし、そのときの速度の大きさがVminより小さければ、物体がチャンバ破損をもたらす速度の大きさであったか否かを判別するため別のステップ(ステップS−9)に進み、ダメージ判定を受けることになる。
【0050】
<ダメージ判定>
ステップS−8ではステップS−4で計算された有効質量Mを、さらにダメージを判定するための閾値Mth_dと比較する。閾値Mth_dは、ステップS−5で使った閾値Mthより小さな値である。有効質量Mが閾値Mth_d以上である場合(ステップS−8でYes)には、歩行者より有効質量Mが小さい何らかの物体、たとえば道路工事現場に置かれた可動式の表示板等に接触したと判定し、次のステップ(ステップS−9)に進む。有効質量Mが閾値Mth_d以上でない場合(ステップS−8でNo)には、チャンバを破損させるようなものとは衝突していないものとみなし、ダメージがないものとして、ステップS−2に戻る。
【0051】
ステップS−9ではステップS−2で読み込んだ車速検出値Vを再び使い、ダメージを判定するための速度の閾値Vth_dと比較する。閾値Vth_dは閾値Vminより小さな値である。車速検出値Vが閾値Vth_d以上である場合(ステップS−9でYes)には、チャンバ部材2がダメージを受け破損したと判定し、センサ故障を表示するよう警報装置22に信号を送る(ステップS−10)。車速検出値Vが閾値Vth_d以上でない場合(ステップS−9でNo)には、低い速度で接触しているのでダメージがないものとして、ステップ2に戻る。閾値Vth_dは、少なくとも一般に車両が何らかの物体に接触しても機能を損なうことが許されないような値(5km/h程度)より大きなものとする。
【0052】
ここでチャンバ部材2の破損を判定した場合に、「センサ故障」と表示するのは、別途用意される検知回路で圧力センサ素子や各回路等の故障を検知した場合も一括してセンサ故障として報知し、修理が必要なことを搭乗者に知らせるようにしているためである。閾値Mth_dとしては、実験や市場の情報からチャンバが破損するようなものを見いだし、たとえば、道路工事現場に置かれた可動式の表示板などが判定できるよう設定する。
【0053】
ステップS−10で、センサ故障を表示するよう警報装置22に信号を送った(ステップS−10)のち、ステップS−11で、閾値Mthにチャンバ部材2が破損したと判定された場合の閾値Mth_chdを代入し、ステップS−2に戻る。この閾値Mth_chdが代入された新たな閾値Mthは、修理が完了するまで保持されるものとする。閾値Mth_chdは直近のステップS−5で用いた閾値Mthよりも小さな値をもつ。以後のステップS−5で使われる閾値Mthは、衝突以前の閾値Mthより値が小さいものとなっているので、より小さな有効質量Mで、歩行者が衝突したと判定するようになる。これはチャンバ部材2が破損して、同じ衝突をしても圧力センサ3で検出される圧力が想定より小さなものとなることを見込んだものである。このようにすることにより、コントローラ11が、チャンバ部材2がダメージを受け破損したと判定し、警報装置22がセンサ故障を表示した後、これを認識した運転者が修理工場へ向かう場合や、無視して使用を継続した場合でも、その途中で歩行者と衝突した場合には車両用衝突検知装置10が機能する。
【0054】
以上、説明したことから明らかなように、本実施形態によれば、バンパ1へ衝突物が衝突すると、バンパ1への物体の衝突を判定する衝突判定手段(S−4〜S−6)と、バンパ1へのダメージを判定するダメージ判定手段(S−8、S−9)と、ダメージ判定手段によってバンパ1が所定以上のダメージを受けたと判定された場合に故障を報知する故障報知手段(S−10、警報装置22)とを備えた車両用衝突検知装置10において、ダメージ判定手段によってバンパ1が所定以上のダメージを受けたと判定された以後も、衝突判定手段により衝突の判定が行われる。
【0055】
従って、車両用衝突検知装置10の故障が修理される前に歩行者等との衝突事故が発生した場合にも確実に衝突を検知することが可能となる。
【0056】
すなわち、バンパ1への物体の衝突が発生した車両の搭乗者は、故障報知手段(S−10、警報装置22)による報知を受けることにより、衝突直後の車両用衝突検知装置10が異常な場合を認識し、修理工場等へ向かうことができ、万一その道のりにおいて、歩行者と衝突した場合にも車両用衝突検知装置10が衝突を検知できるので、歩行者保護装置21の作動が必要な衝突があった場合、歩行者を保護することが可能となる。
【0057】
また、本実施形態によれば、圧力センサによる圧力検出結果に基づいて衝突物の有効質量を算出する有効質量算出手段(S−3、S−4)を備え、衝突判定手段は有効質量算出手段によって算出された有効質量を閾値と比較するものであり、ダメージ判定手段によってバンパ1が所定以上のダメージを受けたと判定された以後に衝突判定手段の閾値Mthを変更する閾値変更手段(S−11)を更に備えているので、バンパがダメージを受けた後、衝突検知性能の低下に起因して衝突時に検出される圧力が異なるものであったとしても、歩行者保護装置21を作動させることができる。
【0058】
また、本実施形態によれば、有効質量算出手段(S−3、S−4)は圧力検出結果から運動量と力積の関係を用いて有効質量M(t)を求めるため、特に低速域において運動エネルギーを用いたものよりも正確な衝突判定、ダメージ判定が可能な車両用衝突検知装置10とすることができる。
【0059】
また、本実施形態によれば、閾値変更手段(S−11)はバンパが所定以上のダメージを受けたと判定された場合に衝突判定手段(S−5)の閾値Mthをより小さい値Mth_chdに変更するので、チャンバ部材2が破損して衝突時に検出される圧力が小さいものであったとしても、確実に衝突を検知することができる。
【0060】
また、本実施形態によれば、閾値変更手段(S−11)が、ダメージ判定手段(S−8、S−9)によって所定以上のダメージを受けたと判定されたときの有効質量Mの大きさが大きいほど、閾値をより小さい値に変更するので、ダメージが大きいほどチャンバの破損が大きいおそれがあり、すなわち、穴が大きく開くおそれがあるため、より閾値を低くすることで、確実に衝突の判定を行うことができる。
【0061】
また、本実施形態によれば、衝突判定手段(S−5)が、有効質量算出手段(S−3、S−4)によって算出された有効質量Mが歩行者相当である場合に、歩行者保護装置21を作動させるので、歩行者と衝突した際に歩行者を保護することができる。
【0062】
また、本実施形態によれば、歩行者保護装置21が、ポップアップフード、カウルエアバッグのうち少なくとも一方であるので、歩行者と衝突した際に歩行者の頭部への障害を抑制することができる。
【0063】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を施すことが可能であることは云うまでもない。
【0064】
たとえば、RAM24は、コントローラ11の外部にある、車両の各情報を一元的に記憶するような記憶装置であってもよい。
【0065】
また、S−9での閾値Vth_dは単一のものでなくともよい。すなわち、実験により求められたチャンバ部材2が破損する条件から、算出された有効質量Mに関連するものとして、テーブルをRAM24またはROM26に持ち、選択するようにしてもよい。
【0066】
また、上記実施形態では、ステップS−10で警報装置を作動させた後にステップS−11を実行する構成としたが、ステップS−10からステップS−2に戻る構成としてもよい。すなわち、閾値Mth_chdの代入を行わずともよい。なぜなら、このような故障検知の場合、閾値Mth_dは安全サイドに誤差を見込んで設定するからである。すなわち、「チャンバ破損→故障表示する」(チャンバが破損したなら必ず故障表示する)を実現するものであり、これと逆の関係にある「故障表示する→チャンバ破損」(故障表示しているなら必ずチャンバが破損している)は成立しない。故障検知しても実際はチャンバ部材2が破損していない状況があり得る。したがって、ステップS−9でYesと判定されても、チャンバ部材2が破損していない可能性があるからである。この場合、ステップS−2からのフローが続行されるので、歩行者と衝突した場合には車両用衝突検知装置10が機能する。また、チャンバ部材2が破損の度合いが小さければ、計算される有効質量Mが閾値Mth以上となり、歩行者の衝突を検知できる可能性は残されている。
【0067】
また、ステップS−11を実行するとき、ステップS−4で計算した有効質量の大きさに応じ、チャンバ部材2がダメージを受けた後の閾値を、たとえば、Mth_chd1、Mth_chd2、……、Mth_chdnのように複数用意したものから選択してMthに代入するようにしてもよい。このようにすることにより、破損の度合いに応じて検出圧力の低下を見込んだ閾値Mthを設定するので、コントローラ11の信号により警報装置22がセンサ故障を表示したにもかかわらず運転者が使用を継続した場合でも、その途中で歩行者と衝突した場合には、車両用衝突検知装置10がより確実に機能する。
【符号の説明】
【0068】
1 バンパ
2 チャンバ部材
2a チャンバ空間
3 圧力センサ
4 バンパリーンフォース
5 アブソーバ
6 サイドメンバ
10 車両用衝突検知装置
11 コントローラ(有効質量算出手段、判別手段、ダメージ判定手段、故障報知手段、閾値変更手段)
12 車速センサ
21 歩行者保護装置
22 警報装置
23 駆動装置
24 RAM
25 CPU
26 ROM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バンパ内に配設され内部にチャンバ空間が形成されるチャンバ部材と、
前記チャンバ空間の圧力を検出する圧力センサと、
前記圧力センサによる圧力検出結果に基づいて前記バンパへの物体の衝突を判定する衝突判定手段と、
前記圧力センサによる圧力検出結果に基づいて前記バンパのダメージを判定するダメージ判定手段と、
前記ダメージ判定手段によって前記バンパが所定以上のダメージを受けたと判定された場合に前記検知ユニットの故障を報知する故障報知手段と、
を備えた車両用衝突検知装置において、
前記ダメージ判定手段によって前記バンパが所定以上のダメージを受けたと判定された以後も、前記衝突判定手段により衝突の判定を行うように構成されたことを特徴とする車両用衝突検知装置。
【請求項2】
前記圧力センサによる圧力検出結果に基づいて衝突物の有効質量を算出する有効質量算出手段を備え、
前記衝突判定手段は、前記有効質量算出手段によって算出された前記有効質量を閾値と比較することによって衝突を判定するものであり、
前記ダメージ判定手段によって前記バンパが所定以上のダメージを受けたと判定された場合に前記衝突判定手段の前記閾値を変更する閾値変更手段を更に備えたことを特徴とする請求項1に記載の車両用衝突検知装置。
【請求項3】
前記閾値変更手段は、前記ダメージ判定手段によって所定以上のダメージを受けたと判定されたときの前記有効質量の大きさに応じて、前記閾値を変更することを特徴とする請求項2に記載の車両用衝突検知装置。
【請求項4】
前記有効質量算出手段は、前記圧力センサによる圧力検出結果から運動量と力積との関係を用いて有効質量を求めることを特徴とする請求項2又は3に記載の車両用衝突検知装置。
【請求項5】
前記閾値変更手段は、前記ダメージ判定手段によって前記バンパが所定以上のダメージを受けたと判定された場合に前記衝突判定手段の前記閾値をより小さい値に変更することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の車両用衝突検知装置。
【請求項6】
前記閾値変更手段は、前記ダメージ判定手段によって所定以上のダメージを受けたと判定されたときの前記有効質量の大きさが大きいほど、前記閾値をより小さい値に変更することを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一項に記載の車両用衝突検知装置。
【請求項7】
前記衝突判定手段は、前記有効質量算出手段によって算出された前記有効質量が歩行者相当である場合に、歩行者保護装置を作動させることを特徴とする請求項2乃至6のいずれか一項に記載の車両用衝突検知装置。
【請求項8】
前記歩行者保護装置は、ポップアップフード、カウルエアバッグのうち少なくとも一方であることを特徴とする請求項7に記載の車両用衝突検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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