説明

車両用走行案内装置、車両用走行案内方法及びコンピュータプログラム

【課題】案内情報を適切に案内対象地点に重畳させて表示することが可能となるとともに運転者に案内情報を視認させ易く表示することを可能とした車両用走行案内装置、車両用走行案内方法及びコンピュータプログラムを提供する。
【解決手段】ナビゲーション装置1に係る案内情報をHUD50により表示する場合に、車両に関する車両情報と車両の周辺環境をそれぞれ取得し、取得した車両情報と車両周辺環境とに基づいて、車両に所定値以上の制動力が継続的に発生することが予測される区間を、車両姿勢が基準姿勢に対して変位している状態が継続することが予測される区間として補正対象区間に設定し、設定された補正対象区間を車両が走行する間において、案内情報を表示する表示位置を、車両の制動力の発生に基づく車両姿勢の変位を考慮して補正するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、案内情報を表示する車両用走行案内装置、車両用走行案内方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両を運転する運転者に対して様々な情報を伝達するために用いられる表示システムとして、従来よりヘッドアップディスプレイ(以下、HUDという)が知られている。HUDは、運転者の通常の運転位置の視野内にあるフロントガラス等の車窓上に情報を表示するものである。表示される情報としては、車速やインジケータ等の自車両に関する情報に加え、例えば、ナビゲーション装置による経路案内情報や車両前方にある障害物の位置情報等を表示することが可能である。このHUDを採用することにより、運転者の運転中の視点の移動が少なくなるので、運転者の疲労が軽減され、安全性も向上する。
【0003】
また、従来よりHUDでは、車窓から見える車両外の風景に情報を重畳させて表示することも行われていた。それによれば、例えばナビゲーション装置による経路案内情報を表示する際には、右折を案内する交差点に対して右折を促す矢印を重畳して表示することにより、右折案内する交差点をより明確に特定させることが可能である。また、車両前方にある障害物の位置情報等を表示する際には、障害物に対して該障害物の周囲を囲う枠を重畳させて表示することにより、障害物の位置を確実に把握させることが可能となる。
【0004】
そして、上記のように車窓から見える車両外の風景に情報を重畳させて表示する場合には、情報を重畳させる対象となる地点(交差点や歩行者等であり以下、案内対象地点という)と車窓上に表示された情報(矢印、文字、枠等)の位置関係が一致しているように運転者の目に映ることが非常に重要である。仮に両者の位置関係にズレが生じると、運転者が右左折する交差点や障害物の位置を誤って認識する虞がある。しかしながら、運転者の姿勢が変化すると、運転者の視点位置も変化するので、運転者の姿勢が変化する度に車窓から見える案内対象地点と車窓上に表示された情報の位置関係にズレが生じていた。
【0005】
そこで、上記のような運転者の姿勢変化や車両の制動に基づく位置関係のズレを防止する為に、従来では、車内カメラ等により運転者の視点位置を検出し、検出した視点位置の変化に応じてHUDによる情報の表示位置を制御することが行われていた(例えば、特開平6−247184号公報参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−247184号公報(第5−7頁、図8、図9)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ここで、ブレーキ操作やシフトダウンが行われることによって車両に制動力が生じたり、急な勾配やカーブを走行すると、車両姿勢が変位し、同じく車窓から見える案内対象地点と車窓上に表示された情報の位置関係にズレが生じる問題もあった。しかしながら、上記従来の技術では、そのような車両姿勢の変位に基づく表示位置の制御は行われていなかった。
【0008】
そこで、車両に設置されたセンサによって車両姿勢(ヨー回転量、ロール回転量、ピッチ回転量、前後移動量、左右移動量及び上下移動量)を検出し、検出した車両姿勢の変位に応じてHUDによる情報の表示位置を制御することについて考えられる。しかしながら、車両姿勢の変位は走行中に高い頻度で生じる(例えば、ブレーキ操作時、アクセル操作時、旋回時、ギャップ通過時など)ので、走行中に生じた全ての車両姿勢の変位に対して情報の表示位置を制御することとすると、HUDによる情報の表示位置が頻繁に変更されることとなり、かえって、運転者が表示された情報を視認し難くなる問題が生じる。
【0009】
本発明は前記従来における問題点を解消するためになされたものであり、変位時間が僅かな突発的な車両姿勢の変位に基づく案内情報の表示位置の補正については行うことなく、継続的に発生する車両姿勢の変位に基づく案内情報の表示位置の補正のみを行うことにより、案内情報を適切に案内対象地点に重畳させて表示することが可能となるとともに運転者に案内情報を視認させ易く表示することを可能とした車両用走行案内装置、車両用走行案内方法及びコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため本願の請求項1に係る車両用走行案内装置(1)は、車両の運転者の視点位置を取得する視点位置取得手段(13)と、前記運転者の視点位置と前記車両の位置と前記車両外にある案内対象地点(71)の位置とに基づいて、前記案内対象地点に重畳させて案内情報(72)を表示する為の表示位置を決定する表示位置決定手段(13)と、前記表示位置決定手段によって決定された前記表示位置に前記案内情報を表示する情報表示手段(13)と、前記車両に関する車両情報を取得する車両情報取得手段と、前記車両の周辺環境を取得する周辺環境取得手段(13)と、前記車両情報と前記周辺環境に基づいて、前記車両の車両姿勢が基準姿勢に対して変位している状態が継続することが予測される区間を補正対象区間に設定する補正対象区間設定手段(13)と、前記補正対象区間を前記車両が走行する間において、前記表示位置決定手段によって決定された前記案内情報を表示する表示位置を、前記車両姿勢の変位を考慮して補正する表示位置補正手段(13)と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に係る車両用走行案内装置(1)は、請求項1に記載の車両用走行案内装置において、前記補正対象区間設定手段は、前記車両に所定値以上の制動力が継続的に発生することが予測される区間を、前記車両姿勢が基準姿勢に対して変位している状態が継続することが予測される区間として補正対象区間に設定することを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に係る車両用走行案内装置(1)は、請求項2に記載の車両用走行案内装置において、前記車両情報取得手段(13)は、前記車両の車速を取得し、前記周辺環境取得手段(13)は、前記車両の進行方向前方にある減速対象地点(71)における推奨車速を取得し、前記補正対象区間設定手段は、前記車両の車速と前記推奨車速とに基づいて、前記車両が前記減速対象地点に到達するまでに前記推奨車速に減速するのに継続的に発生させることが必要な制動力が前記所定値以上か否かを判定する制動判定手段(13)を備え、前記制動判定手段によって必要な制動力が前記所定値以上であると判定された場合に、前記車両の現在位置から前記減速対象地点までの区間を補正対象区間に設定することを特徴とする。
尚、「減速対象地点」としては、例えば、交差点、カーブ、料金所、障害物等がある。また、障害物としては、道路工事、静止障害物等がある。
【0013】
また、請求項4に係る車両用走行案内装置(1)は、請求項2に記載の車両用走行案内装置において、前記車両情報取得手段(13)は、前記車両の車速を取得し、前記周辺環境取得手段(13)は、前記車両の前方を走行する前方車両の車速と前方車両までの車間距離を取得し、前記補正対象区間設定手段(13)は、前記車両の車速と前記前方車両の車速と前記車間距離に基づいて、前記車両が前記前方車両との接触を回避する為に前記所定値以上の制動力を継続的に発生させる区間を補正対象区間に設定することを特徴とする。
尚、「前記車両が前記前方車両との接触を回避する為に前記所定値以上の制動力を継続的に発生させる区間」とは、例えば、車両が現在位置から所定値以上の制動力を継続的に発生させた場合に、車両と前方車両との相対速度が0になる地点までの区間がある。
【0014】
また、請求項5に係る車両用走行案内装置(1)は、請求項1に記載の車両用走行案内装置において、前記周辺環境取得手段(13)は、前記車両の進行方向前方にある道路の勾配に関する情報を取得し、前記制御対象区間設定手段(13)は、所定角度以上の勾配が継続する区間を補正対象区間に設定することを特徴とする。
【0015】
また、請求項6に係る車両用走行案内装置(1)は、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の車両用走行案内装置において、前記車両が前記補正対象区間を走行する間において前記車両の制動力を発生させる操作を検出する制動操作検出手段(13)を有し、前記表示位置補正手段(13)は、前記制動操作検出手段によって前記車両の制動力を発生させる操作が検出された場合に、前記案内情報を表示する表示位置を補正することを特徴とする。
【0016】
また、請求項7に係る車両用走行案内方法(1)は、車両の運転者の視点位置を取得する視点位置取得ステップと、前記運転者の視点位置と前記車両の位置と前記車両外にある案内対象地点(71)の位置とに基づいて、前記案内対象地点に重畳させて案内情報(73)を表示する為の表示位置を決定する表示位置決定ステップと、前記表示位置決定ステップによって決定された前記表示位置に前記案内情報を表示する情報表示ステップと、前記車両に関する車両情報を取得する車両情報取得ステップと、前記車両の周辺環境を取得する周辺環境取得ステップと、前記車両情報と前記周辺環境に基づいて、前記車両の車両姿勢が基準姿勢に対して変位している状態が継続することが予測される区間を補正対象区間に設定する補正対象区間設定ステップと、前記補正対象区間を前記車両が走行する間において、前記表示位置決定ステップによって決定された前記案内情報を表示する表示位置を、前記車両姿勢の変位を考慮して補正する表示位置補正ステップと、を有することを特徴とする。
【0017】
更に、請求項8に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに搭載され、車両の運転者の視点位置を取得する視点位置取得機能と、前記運転者の視点位置と前記車両の位置と前記車両外にある案内対象地点(71)の位置とに基づいて、前記案内対象地点に重畳させて案内情報(73)を表示する為の表示位置を決定する表示位置決定機能と、前記表示位置決定機能によって決定された前記表示位置に前記案内情報を表示する情報表示機能と、前記車両に関する車両情報を取得する車両情報取得機能と、前記車両の周辺環境を取得する周辺環境取得機能と、前記車両情報と前記周辺環境に基づいて、前記車両の車両姿勢が基準姿勢に対して変位している状態が継続することが予測される区間を補正対象区間に設定する補正対象区間設定機能と、前記補正対象区間を前記車両が走行する間において、前記表示位置決定機能によって決定された前記案内情報を表示する表示位置を、前記車両姿勢の変位を考慮して補正する表示位置補正機能と、を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
前記構成を有する請求項1に記載の車両用走行案内装置によれば、変位時間が僅かな突発的な車両姿勢の変位に基づく案内情報の表示位置の補正については行うことなく、継続的に発生する車両姿勢の変位に基づく補正のみを行うことができる。その結果、必要な状況下でのみ案内情報の表示位置を変更することができ、案内情報を適切に案内対象地点に重畳させて表示することが可能となるとともに運転者に案内情報を視認させ易く表示することが可能となる。
【0019】
また、請求項2に記載の車両用走行案内装置によれば、車両に制動力が継続的に発生する区間を予測することによって、車両姿勢が基準姿勢に対して変位する区間を正確に予測することが可能となる。
【0020】
また、請求項3に記載の車両用走行案内装置によれば、交差点やカーブや料金所等の低速で走行する必要のある減速対象地点が車両の進行方向前方にある場合において、減速対象地点までの区間を補正対象区間に適切に設定することが可能となる。
【0021】
また、請求項4に記載の車両用走行案内装置によれば、前方車両が位置する場合において、前方車両との接触を回避する為に制動力を発生させる区間を補正対象区間に適切に設定することが可能となる。
【0022】
また、請求項5に記載の車両用走行案内装置によれば、道路の勾配が車両の進行方向前方にある場合において、道路の勾配が継続する区間を補正対象区間に適切に設定することが可能となる。
【0023】
また、請求項6に記載の車両用走行案内装置によれば、車両が補正対象区間を走行する間において、車両姿勢の変位に基づく案内情報の表示位置の補正を適切なタイミングで開始することが可能となる。
【0024】
また、請求項7に記載の車両用走行案内方法によれば、変位時間が僅かな突発的な車両姿勢の変位に基づく案内情報の表示位置の補正については行うことなく、継続的に発生する車両姿勢の変位に基づく補正のみを行うことができる。その結果、必要な状況下でのみ案内情報の表示位置を変位させることができ、案内情報を適切に案内対象地点に重畳させて表示することが可能となるとともに運転者に案内情報を視認させ易く表示することが可能となる。
【0025】
更に、請求項8に記載のコンピュータプログラムによれば、変位時間が僅かな突発的な車両姿勢の変位に基づく案内情報の表示位置の補正については行わせることなく、継続的に発生する車両姿勢の変位に基づく補正のみを行わせることができる。その結果、必要な状況下でのみ案内情報の表示位置を変位させることができ、案内情報を適切に案内対象地点に重畳させて表示することが可能となるとともに運転者に案内情報を視認させ易く表示することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本実施形態に係るナビゲーション装置を示したブロック図である。
【図2】HUDの構成を示した図である。
【図3】本実施形態に係るHUD表示処理プログラムのフローチャートである。
【図4】本実施形態に係る案内情報の表示位置決定処理のサブ処理プログラムのフローチャートである。
【図5】HUDによる案内情報の表示例を示した図である。
【図6】本実施形態に係るHUD表示位置補正処理プログラムのフローチャートである。
【図7】本願発明と従来技術の案内情報の表示位置の補正を行う区間を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る車両用走行案内装置についてナビゲーション装置に具体化した一実施形態に基づき図面を参照しつつ詳細に説明する。先ず、本実施形態に係るナビゲーション装置1の概略構成について図1を用いて説明する。図1は本実施形態に係るナビゲーション装置1を示したブロック図である。
【0028】
図1に示すように本実施形態に係るナビゲーション装置1は、車両の現在位置を検出する現在位置検出部11と、各種のデータが記録されたデータ記録部12と、入力された情報に基づいて、各種の演算処理を行うナビゲーションECU13と、ユーザからの操作を受け付ける操作部14と、ユーザに対して地図や目的地までの案内経路を表示する液晶ディスプレイ15と、経路案内に関する音声ガイダンスを出力するスピーカ16と、プログラムを記憶した記憶媒体であるDVDを読み取るDVDドライブ17と、交通情報センタ等の情報センタとの間で通信を行う通信モジュール18と、CANインターフェース19とから構成されている。
【0029】
以下に、ナビゲーション装置1を構成する各構成要素について順に説明する。
現在位置検出部11は、GPS21、車速センサ22、ステアリングセンサ23、ジャイロセンサ24、高度計(図示せず)等からなり、現在の車両の位置、方位、車両の走行速度等を検出することが可能となっている。ここで、特に車速センサ22は、車両の移動距離や車速を検出する為のセンサであり、車両の車輪の回転に応じてパルスを発生させ、パルス信号をナビゲーションECU13に出力する。そして、ナビゲーションECU13は発生するパルスを計数することにより車輪の回転速度や移動距離を算出する。尚、上記4種類のセンサをナビゲーション装置1が全て備える必要はなく、これらの内の1又は複数種類のセンサのみをナビゲーション装置1が備える構成としても良い。
【0030】
また、データ記録部12は、外部記憶装置及び記録媒体としてのハードディスク(図示せず)と、ハードディスクに記録された地図情報DB31や所定のプログラム等を読み出すとともにハードディスクに所定のデータを書き込む為のドライバである記録ヘッド(図示せず)とを備えている。
【0031】
ここで、地図情報DB31は、経路案内、交通情報案内及び地図表示に必要な各種地図データが記録されている。
また、地図データは、具体的には、道路(リンク)形状に関するリンクデータ、ノード点に関するノードデータ、施設等の地点に関する情報であるPOIデータ、各交差点に関する交差点データ、経路を探索するための探索データ、地点を検索するための検索データ、地図、道路、交通情報等の画像を液晶ディスプレイ15に描画するための画像描画データ等から構成されている。特にリンクデータとしては、道路の勾配やカーブの旋回半径(R)に関する情報について記憶される。
尚、地図情報DB31は、地図配信センタ等から配信される更新データや記憶媒体(例えば、DVDやメモリーカード)を介して提供される更新データに基づいて更新される。
【0032】
一方、ナビゲーションECU(エレクトロニック・コントロール・ユニット)13は、目的地が選択された場合に現在位置から目的地までの案内経路を設定する案内経路設定処理、ヘッドアップディスプレイ(以下、HUDという)50によってナビゲーション装置1に係る案内情報を表示する表示位置を決定する表示位置決定処理、決定された表示位置へ案内情報を表示する情報表示処理、車両が所定値以上の制動力を継続的に発生させることが予測される区間を、前記車両姿勢が基準姿勢に対して変位している状態が継続することが予測される区間として補正対象区間に設定する補正対象区間設定処理、補正対象区間の走行中においてHUD50による案内情報の表示位置を補正する表示位置補正処理等のナビゲーション装置1の全体の制御を行う電子制御ユニットである。そして、演算装置及び制御装置としてのCPU41、並びにCPU41が各種の演算処理を行うにあたってワーキングメモリとして使用されるとともに、経路が探索されたときの経路データ等が記憶されるRAM42、制御用のプログラムのほか、後述のHUD表示処理プログラム(図3、図4参照)やHUD表示位置補正処理プログラム(図6参照)等が記録されたROM43、ROM43から読み出したプログラムを記憶するフラッシュメモリ44等の内部記憶装置を備えている。
【0033】
ここで、HUD50とは運転者の通常の運転位置の視野内にあるフロントガラス等の車窓上に案内情報を表示する表示システムである。具体的には、図2に示すように車両51のインストルメントパネル52の上部に配置されたプロジェクタ53と、プロジェクタ53を制御するHUD制御ECU54と、透明の反射膜がコーティングされたフロントガラス55から構成される。そして、HUD50ではナビゲーションECU13やHUD制御ECU54で生成された投影画像(矢印、文字、枠等)をプロジェクタ53によりフロントガラス55へと投影する。その結果、投影画像がフロントガラス55上に表示され、運転者56は、視点を移動させることなく表示された案内情報を視認することが可能となる。また、プロジェクタ53は、案内情報の投影角度を任意の角度に調整することが可能である。後述のように運転者の視点位置や車両姿勢に基づいて決定された案内情報を表示する表示位置に応じてその投影角度が決定される。それによって、案内情報をフロントガラス55上の任意の位置に表示することが可能となる。尚、HUD50によりフロントガラス55上に表示される案内情報としては、例えば車両の現在速度、インジケータ、レーン情報、ナビゲーション装置1による経路案内情報、車両前方にある障害物の位置情報、プリクラッシュの衝突警告等がある。
【0034】
また、HUD50によりフロントガラス55から見える車両外の風景に案内情報を重畳させて表示することも行われている。その場合には、案内情報を重畳させる対象となる地点(以下、案内対象地点という)と車窓上に表示された案内情報(矢印、文字、枠等)の位置関係を一致させるように表示することにより、新たな効果を発揮することが可能である。例えば、ナビゲーション装置1による経路案内情報を表示する際に、右折を案内する交差点に対して右折を促す矢印を重畳して表示することにより、右折案内する交差点をより明確に特定させることが可能である。また、車両前方にある障害物の位置情報等を表示する際には、障害物に対して該障害物の周囲を囲う枠を重畳させて表示することにより、障害物の位置を確実に把握させることが可能となる。
尚、本実施形態では案内情報を車両外の風景に重畳させて表示する手段としてHUD50を用いているが、HUD50の代わりに運転者の頭部に装着させるヘッドマウントディスプレイ(HMD)を用いても良い。
【0035】
図1に戻り説明を続けると、操作部14は、走行開始地点としての出発地及び走行終了地点としての目的地を入力する際等に操作され、各種のキー、ボタン等の複数の操作スイッチ(図示せず)から構成される。そして、ナビゲーションECU13は、各スイッチの押下等により出力されるスイッチ信号に基づき、対応する各種の動作を実行すべく制御を行う。尚、液晶ディスプレイ15の前面に設けたタッチパネルによって構成することもできる。
【0036】
また、液晶ディスプレイ15には、道路を含む地図画像、交通情報、操作案内、操作メニュー、キーの案内、出発地から目的地までの案内経路、案内経路に沿った案内情報、ニュース、天気予報、時刻、メール、テレビ番組等が表示される。
【0037】
また、スピーカ16は、ナビゲーションECU13からの指示に基づいて案内経路に沿った走行を案内する音声ガイダンスや、交通情報の案内を出力する。
【0038】
また、DVDドライブ17は、DVDやCD等の記録媒体に記録されたデータを読み取り可能なドライブである。そして、読み取ったデータに基づいて地図情報DB31の更新等が行われる。
【0039】
また、通信モジュール18は、交通情報センタ、例えば、VICS(登録商標:Vehicle Information and Communication System)センタやプローブセンタ等から送信された渋滞情報、規制情報、交通事故情報等の各情報から成る交通情報を受信する為の通信装置であり、例えば携帯電話機やDCMが該当する。
更に、本実施形態では通信モジュール18を介して、情報センタ等から道路上に設置された信号機の点灯態様に関する情報についても受信する。
【0040】
また、CAN(コントローラエリアネットワーク)インターフェース19は、車両内に設置された各種制御ECU間で多重通信を行う車載ネットワーク規格であるCANに対して、データの入出力を行うインターフェースである。そして、ナビゲーションECU13は、CANを介して、車両を制御する各種制御ECUやセンサ等(例えば、HUD制御ECU54、バックカメラ61、ドライバモニタカメラ62、サスペンションECU63、ミリ波レーダ制御ECU64、ブレーキ制御ECU65、AT制御ECU、インジゲータ制御ECUなど)と相互通信可能に接続される。更に、ナビゲーションECU13は、CANを介して各種制御ECUから取得した各種データ(車両姿勢、運転者画像、ブレーキ作動状態など)に基づいて、後述のようにHUD50による案内情報の表示位置の決定並びに補正を行う。
【0041】
次に、CANを介して接続されている各種制御ECUやセンサ等の内、バックカメラ61、ドライバモニタカメラ62、サスペンションECU63、ミリ波レーダ制御ECU64、ブレーキ制御ECU65について説明する。
バックカメラ61は、車両の後方に設置され、車両が走行している道路の路面を撮影する。そして、ナビゲーションECU13は、バックカメラ61により撮像した映像に含まれる路面標示や車線境界線の画像情報に基づいて、車両の詳細な現在位置や走行レーンを特定する。尚、バックカメラ61を用いた車両の詳細な現在位置や走行レーンの特定技術については公知技術であるので詳細は省略する。
また、ドライバモニタカメラ62は、例えばCCD等の固体撮像素子を用いたものであり、インストルメントパネル52の上面に取り付けられ、視線方向を運転席に向けて設置される。そして、運転席に座った運転者の顔を撮像する。ナビゲーションECU13は、ドライバモニタカメラ62により撮像した画像から運転者の視点の位置を検出する。尚、ドライバモニタカメラ62を用いた運転者の視点位置の検出技術については公知技術であるので詳細は省略する。
また、サスペンションECU63は、車両のサスペンションの制御を行う電子制御ユニットである。また、ミリ波レーダ制御ECU64は、ミリ波レーダ(図示せず)が接続され、ミリ波レーダによる障害物(前方車両)の位置や自車両との相対速度の測定を行う電子制御ユニットである。また、ブレーキ制御ECU65は車両のブレーキ制御を行う電子制御ユニットである。尚、各種制御ECUは、図示しないCPU、RAM、ROM等からなる。
【0042】
続いて、前記構成を有するナビゲーション装置1において実行するHUD表示処理プログラムについて図3及び図4に基づき説明する。図3は本実施形態に係るHUD表示処理プログラムのフローチャートである。ここで、HUD表示処理プログラムは車両のACCがONされた後に所定時間間隔(例えば200msec毎)で実行され、HUD50によってナビゲーション装置1に係る案内情報をフロントガラス上に表示するプログラムである。尚、以下の図3、図4及び図6にフローチャートで示されるプログラムは、ナビゲーションECU13が備えているRAM42、ROM43等に記憶されており、CPU41により実行される。
【0043】
先ず、HUD表示処理プログラムでは、ステップ(以下、Sと略記する)1において、CPU41は案内情報をHUD50により車両のフロントガラス55に対して表示するか否かを判定する。尚、HUD50により表示される案内情報としては、車両の現在速度、インジケータ、レーン情報、ナビゲーション装置1による経路案内情報、車両前方にある障害物の位置情報、プリクラッシュの衝突警告等があるが、以下では特にナビゲーション装置1による経路案内情報を表示する例について説明する。
尚、ナビゲーション装置1による案内情報をHUD50により車両のフロントガラス55に対して表示するか否かについては、車両の現在位置と案内情報を重畳させる対象となる地点(案内対象地点)との位置関係に基づいて判定される。例えば、ナビゲーション装置1による交差点の右左折を案内する案内情報を表示する場合には、案内対象地点の交差点が300m以内に接近した時点から交差点を通過するまでの間、該案内情報をHUD50により車両のフロントガラス55に対して表示する。尚、車両の現在位置と案内対象地点との位置関係は、GPS21、ジャイロセンサ24及び地図情報DB31に記憶された地図情報等に基づいて特定される。
【0044】
そして、前記S1で案内情報をHUD50により車両のフロントガラス55に対して表示すると判定された場合(S1:YES)には、S2へと移行する。それに対して、案内情報をHUD50により車両のフロントガラス55に対して表示しないと判定された場合(S1:NO)には、当該HUD表示処理プログラムを終了する。
【0045】
S2においてCPU41は、HUD50により表示される案内情報、即ち、プロジェクタ53(図2)により投影する画像情報が生成される。尚、案内情報は、ナビゲーション装置1において設定されている目的地までの案内経路に対する車両の現在位置に基づいて生成される。例えば、車両の前方に右折することを案内する案内交差点がある場合には、交差点で右折をすることを促す矢印の画像を案内情報として生成する。また、車両の前方に左折することを案内する案内交差点がある場合には、交差点で左折をすることを促す矢印の画像を案内情報として生成する。尚、CPU41がHUD制御ECU54に対して指示情報を送信することにより、HUD制御ECU54において案内情報を作成させる構成としても良い。
【0046】
続いて、S3においてCPU41は後述の案内情報の表示位置決定処理(図4)を行う。尚、案内情報の表示位置決定処理は、運転者の視点位置と車両の現在位置と案内対象地点の位置とに基づいて、前記S2で生成された案内情報を運転者から見て案内対象地点に重畳させて表示する為のフロントガラス55の表示位置(プロジェクタ53による投影角度)を決定する処理である。
【0047】
その後、S4においてCPU41は、HUD制御ECU54に対して前記S2で生成された案内情報と前記S3で決定された表示位置に関する情報を送信する。それに応じて、HUD制御ECU54は、決定された表示位置に応じた角度にプロジェクタ53の投影角度を調整し、前記S2で生成された案内情報をプロジェクタ53により前記S3で決定されたフロントガラス55の表示位置に投影する。その結果、案内情報を運転者から見て案内対象地点に重畳させる位置に表示することが可能である。ここで、図5はHUD50による案内情報の表示例を示した図である。
【0048】
図5に示す例では、交差点71で左折する経路がナビゲーション装置1で設定されている場合に表示される案内情報72を示す。ここで、案内情報72は車両が現在走行する道路から交差点71で右折することを示す矢印の画像からなる。そして、プロジェクタ53により投影された案内情報72は、運転者から見てフロントガラス55上において交差点71に重畳する位置に表示される。その結果、運転者はナビゲーション装置1で設定されている目的地までの経路が、前方にある交差点71で右折する経路であることを明確に把握することが可能となる。
尚、上記S2〜S4の処理は、案内情報をHUD50により車両のフロントガラス55に対して表示すると判定される間、繰り返し実行される。
【0049】
次に、前記S3において実行される案内情報の表示位置決定処理のサブ処理プログラムについて図4に基づき説明する。図4は本実施形態に係る案内情報の表示位置決定処理のサブ処理プログラムのフローチャートである。
【0050】
先ず、S11においてCPU41は、GPS21やジャイロセンサ24の検出結果に基づいて、車両の現在位置や方位等に関する情報を取得する。また、地図情報DB31に記憶された地図情報に基づいて、車両の現在位置を地図上で特定するマップマッチング処理についても行う。
【0051】
次に、S12においてCPU41は、案内情報を重畳させる対象となる案内対象地点(交差点など)の位置に関する情報を取得する。具体的には、車両の現在位置とナビゲーション装置1で設定されている案内経路に基づいて、車両の進行方向前方にある右左折を案内する交差点の位置座標等が取得される。
【0052】
続いて、S13においてCPU41は、運転者の視点位置を取得する。具体的には、ドライバモニタカメラ62によって撮像される運転者の画像に対して画像処理を施すことにより、運転者の右目及び左目の位置を検出し、各目の位置に基づいて視点位置をHUD50に対する3次元相対位置として算出する。尚、ドライバモニタカメラ62によって撮像された画像から運転者の視点位置を検出する処理についてはすでに公知であるので、詳細は省略する。また、運転者の視点位置は予め決められたデフォルトの値として取得しても良い。また、運転者によって視点位置を変更できる構成としても良い。
【0053】
その後、S14においてCPU41は、前記S11で取得した車両の現在位置及び方位、前記S12で取得した案内対象地点の位置、及び前記S13で取得した運転者の視点位置に基づいて、前記S2で生成された案内情報を運転者から見て案内対象地点に重畳させて表示する為のフロントガラス55の表示位置(即ち、プロジェクタ53の投影角度)を算出する。尚、案内情報の表示位置を算出する処理についてはすでに公知であるので、詳細は省略する。また、前記S14でCPU41は、車両から案内対象地点までの距離に基づいて、前記S2で生成された案内情報を表示する表示サイズについても算出する。
その後、S4へと移行する。
【0054】
次に、ナビゲーション装置1において実行するHUD表示位置補正処理プログラムについて図6に基づき説明する。図6は本実施形態に係るHUD表示位置補正処理プログラムのフローチャートである。ここで、HUD表示位置補正処理プログラムは上述したHUD表示処理プログラム(図3、図4)において案内情報が表示されている間において実行され、HUD50によってフロントガラス上に表示されている案内情報の表示位置を補正するプログラムである。
【0055】
先ず、HUD表示位置補正処理プログラムでは、S21においてCPU41は、GPS21、車速センサ22、ジャイロセンサ24等の検出結果及びCANを介して取得した情報に基づいて自車両に関する車両情報を取得する。尚、前記S1で取得される車両情報としては、車両の現在の車速、現在位置、方位の他に、インジゲータの点灯状態、ナビゲーション装置1で設定されている案内経路、前方車両との車間距離や相対速度等がある。また、車両の現在位置の特定については、地図情報DB31に記憶された地図情報に基づいて、車両の現在位置を地図上で特定するマップマッチング処理についても行う。
【0056】
次に、S22においてCPU41は、車両の周辺環境を取得する。具体的には、車両の進行方向前方にある道路の道路形状等が取得される。特に、カーブ形状の道路である場合には旋回半径やカーブ進入時の推奨車速についても取得される。また、交差点がある場合には右左折時の推奨車速についても取得される。更に、車両の進行方向前方に信号機付きの交差点がある場合には、通信モジュール18を介して信号機の点灯状態についても取得される。
【0057】
続いて、S23においてCPU41は、前記S21で取得した車両情報と、前記S22で取得した車両周辺環境とに基づいて、車両に所定値以上の制動力が継続的に発生することが予測される区間を特定し、該特定された区間を、車両姿勢が基準姿勢に対して変位している状態が継続することが予測される区間として補正対象区間に設定する。
尚、上記所定値の制動力は、表示位置の補正を行わないと、運転者が違和感を覚える程度の案内情報の表示位置のズレを生じさせる制動力とする。また、所定値の制動力は実験により求めても良い。更に、シーン毎(例えば、下記の(A)〜(D)毎)に所定値の制動力の値を変更しても良い。
【0058】
以下に、前記S23の処理について詳細に説明する。
本実施形態において車両に所定値以上の制動力が継続的に発生することが予測される区間は以下の(A)〜(D)のいずれかに該当する区間とする。
(A)車両の進行方向前方に信号機付きの交差点があって、且つ信号機が赤で点灯しており、該交差点に到達するまでに推奨車速(0km/h)に減速するのに継続的に発生させることが必要な制動力が所定値(例えば0.2G)以上であると判定された場合の、車両の現在位置から該交差点までの区間。
(B)車両の進行方向前方に交差点があって、該交差点に信号機がある場合には信号機が青で点灯しており、ナビゲーション装置1が該交差点で右左折する経路を案内する場合又はインジゲータが点灯している場合であって、且つ該交差点に到達するまでに右左折時の推奨車速(例えば10km/h)に減速するのに継続的に発生させることが必要な制動力が所定値(例えば0.2G)以上であると判定された場合の、車両の現在位置から該交差点までの区間。
(C)車両の進行方向前方にカーブがあって、該カーブに到達するまでにカーブ進入時の推奨車速(例えば20km/h)に減速するのに継続的に発生させることが必要な制動力が所定値(例えば0.2G)以上であると判定された場合の、車両の現在位置から該カーブの開始点までの区間。
(D)前方車両があって、自車両が該前方車両との接触を回避する為に所定値(例えば0.2G)以上の制動力を継続的に発生させる場合の、自車両の現在位置から自車両と前方車両との相対速度が0になる地点までの区間。
【0059】
車両の進行方向前方に上記(A)〜(D)のいずれかに該当する区間が存在すると判定された場合には、その区間を補正対象区間に設定する。尚、設定された補正対象区間は座標やリンク番号により特定され、RAM42に格納される。その後、S24へと移行する。また、車両の進行方向前方に上記(A)〜(D)のいずれかに該当する区間が無いと判定された場合には、補正対象区間を設定することなくS24へと移行する。
【0060】
S24においてCPU41は、前記S23で補正対象区間が設定されたか否かを判定する。
【0061】
そして、補正対象区間が設定されたと判定された場合(S24:YES)には、S25へと移行する。それに対して、補正対象区間が設定されていないと判定された場合(S24:NO)には、HUDによる案内情報の表示位置の補正をすることなく当該HUD表示位置補正処理プログラムを終了する。
【0062】
続いて、S25においてCPU41は、補正制御開始のトリガーとして車両の制動力を発生させる操作を検出したか否かを判定する。尚、車両の制動力を発生させる操作としては、例えばブレーキの作動、シフトダウン、アクセルオフ等があり、CANを介して取得した車両情報に基づいて検出される。尚、車両が走行する補正対象区間の種類に基づいて前記S26で検出するトリガーの種類を限定しても良い。例えば、上記(A)〜(C)の区間を走行する場合にはブレーキの作動のみを検出対象とし、上記(D)の区間を走行する場合にはブレーキの作動又はアクセルオフのみを検出対象としても良い。
【0063】
そして、車両の制動力を発生させる操作を検出したと判定された場合(S25:YES)には、S26へと移行する。それに対して、車両の制動力を発生させる操作を検出できないと判定された場合(S25:NO)には、継続して車両の制動力を発生させる操作を検出したか否かを判定する。
【0064】
S26においてCPU41は、サスペンションECU63から取得した情報に基づいて制動力が発生したことによる車両姿勢の基準姿勢からの変位を検出する。尚、車両の姿勢情報については、6種類(ヨー回転量、ロール回転量、ピッチ回転量、前後移動量、左右移動量および上下移動量)のパラメータにより検出している。即ち、車両が道路の中心(道路境界線Lがある場合は左右の道路境界線Lの中心)に停車している際のロールセンターをX軸、路面に水平にX軸(例えばX軸上で前後方向重心位置)を通りかつ道路境界線Lに垂直な線分をY軸、X軸とY軸の交点を通る路面に垂直な線分をZ軸、と規定すると、(1)車両のヨー回転量は、Z軸回り(X−Y平面)の回転量、(2)車両のピッチ回転量は、Y軸回り(X−Z平面)の回転量、(3)車両のロール回転量は、X軸回り(Y−Z平面)の回転量、(4)車両の前後移動量は、X軸方向の移動量、(4)車両の左右移動量は、Y軸方向の移動量、(6)車両の上下移動量は、Z軸方向の移動量、としてそれぞれ定義される。なお、ヨー、ピッチ、ロールの回転量だけでも、車両の姿勢情報を得ることができるため、精度よりも情報処理の簡素化を優先する場合には、3種類の回転量だけで車両の姿勢情報を取得しても良い。更に、ピッチの回転量だけで車両の姿勢情報を取得しても良い。また、サスペンションの変位ではなくブレーキ操作等の車両操作情報に基づいて車両姿勢の変位を推測する構成としても良い。
【0065】
次に、S27においてCPU41は、前記S26で検出した車両姿勢の変位に基づいて、車両に制動力が発生した状態、即ち車両姿勢が変位した状態で、案内情報を運転者から見て案内対象地点に重畳させて表示する表示位置を新たに算出する。そして、HUD制御ECU54に対して算出された新たな案内情報の表示位置(プロジェクタ53による投影角度)に関する情報を送信する。それに応じて、HUD制御ECU54は、新たに算出された表示位置に応じた角度にプロジェクタ53の投影角度を調整する。その結果、前記S26で検出した車両姿勢の変位を考慮して、HUD50により表示されている案内情報の表示位置が補正され、案内情報を運転者から見て案内対象地点に重畳させて表示する適切な表示位置に表示することが可能となる。
【0066】
上記S27の処理においてCPU41は、前記S3の処理に加えて、前記S26で検出した6種類(ヨー回転量、ロール回転量、ピッチ回転量、前後移動量、左右移動量および上下移動量)のパラメータ変位を用いて演算する処理を実行する。それによって、車両に制動力が発生した状態、即ち車両姿勢が変位した状態で、案内情報を運転者から見て案内対象地点に重畳させて表示する表示位置を算出することが可能となる。
【0067】
続いて、S28においてCPU41は、車両の現在位置と、前記S23で設定された補正対象区間とを比較して、車両が補正対象区間を走行しているか否かを判定する。そして、車両が補正対象区間を走行していると判定された場合(S28:YES)には、S26へと戻り、車両姿勢の変位に基づく案内情報の表示位置の補正を継続して行う。それに対して、車両が補正対象区間を走行していないと判定された場合(S28:NO)には、車両姿勢の変位に基づく案内情報の表示位置の補正を終了する。
【0068】
即ち、本願発明では補正対象区間を車両が走行する間のみにおいて、車両姿勢の変位に基づく案内情報の表示位置の補正を行う。その結果、例えば図7に示すように走行中の車両に対して区間a〜eにおいて車両の制動力の発生に基づく車両姿勢の変位が生じた場合には、比較例との間で以下の差異が生じる。
尚、比較例は、車両に設置されたセンサによって車両姿勢(ヨー回転量、ロール回転量、ピッチ回転量、前後移動量、左右移動量及び上下移動量)を検出し、検出した全ての車両姿勢の変位に応じて常にHUDによる情報の表示位置を制御する構成を有するものとする。
図7に示すように、比較例では全ての区間a〜eにおいてそれぞれの車両姿勢の変位に基づく案内情報の表示位置の補正を行う。それに対して、本願発明では区間a〜eの内、設定された補正対象区間内に位置する区間cにおいてのみ車両姿勢の変位に基づく案内情報の表示位置の補正を行う。その結果、本願発明では変位時間が僅かな車両姿勢の変位(図7の区間a,b,d,eの変位)に対しては案内情報の表示位置が変更されず、継続的に発生する車両姿勢の変位(図7の区間cの変位)に対してのみ案内情報の表示位置を変更することが可能となる。
【0069】
以上詳細に説明した通り、本実施形態に係るナビゲーション装置1、ナビゲーション装置1による車両用走行案内方法及びナビゲーション装置1で実行されるコンピュータプログラムでは、ナビゲーション装置1に係る案内情報をHUD50により表示する場合に、車両に関する車両情報と車両の周辺環境をそれぞれ取得し(S21、S22)、取得した車両情報と車両周辺環境とに基づいて、車両に所定値以上の制動力が継続的に発生することが予測される区間を特定するとともに該特定された区間を、車両姿勢が基準姿勢に対して変位している状態が継続することが予測される区間として補正対象区間に設定し(S23)、設定された補正対象区間を車両が走行する間において、案内情報を表示する表示位置を、車両の制動力の発生に基づく車両姿勢の変位を考慮して補正する(S27)ので、変位時間が僅かな突発的な車両姿勢の変位に基づく案内情報の表示位置の補正については行うことなく、継続的に発生する車両姿勢の変位に基づく補正のみを行うことができる。その結果、必要な状況下でのみ案内情報の表示位置を変更することができ、案内情報を適切に案内対象地点に重畳させて表示することが可能となるとともに運転者に案内情報を視認させ易く表示することが可能となる。
また、前記(A)〜(C)のいずれかに該当する区間が存在すると判定された場合には、その区間を補正対象区間に設定するので、交差点やカーブや料金所等の低速で走行する必要のある減速対象地点が車両の進行方向前方にある場合において、減速対象地点までの区間を補正対象区間に適切に設定することが可能となる。
また、前記(D)に該当する区間が存在すると判定された場合には、その区間を補正対象区間に設定するので、前方車両が位置する場合において、前方車両との接触を回避する為に制動力を発生させる区間を補正対象区間に適切に設定することが可能となる。
また、設定された補正対象区間を車両が走行する間において、補正制御開始のトリガーとして車両の制動力を発生させる操作を検出した場合に、案内情報を表示する表示位置を補正する(S27)ので、車両姿勢の変位に基づく案内情報の表示位置の補正を適切なタイミングで開始することが可能となる。
【0070】
尚、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。
例えば、本実施形態では補正対象区間に設定する区間として前記(A)〜(D)に該当する区間を挙げたが、他の条件を満たす区間を補正対象区間として設定しても良い。例えば、車両の進行方向前方に料金所があって、該料金所に到達するまでに推奨車速(通常のゲートであれば0km/h、ETC対応のゲートであれば20km/h)に減速するのに継続的に発生させることが必要な制動力が所定値(例えば0.2G)以上であると判定された場合に、車両の現在位置から該料金所までの区間を補正対象区間に設定しても良い。更に、(A)〜(D)の条件では、制動力ではなく減速度を基準として判定しても良い。
【0071】
また、車両の進行方向前方に勾配があって、該勾配が所定角度以上の勾配である場合に、該勾配が継続する区間を車両姿勢が基準姿勢に対して変位している状態が継続することが予測される区間として補正対象区間に設定しても良い。その場合に所定角度とは、道路の勾配により車両のフロントが沈むことによって運転者が違和感を覚える程度の案内情報の表示位置のズレを生じさせる角度、或いは、一定速度で走行する為に運転者がブレーキ操作を行うことによって所定値以上の制動力を発生させる角度とする。その結果、道路の勾配が車両の進行方向前方にある場合において、道路の勾配が継続する区間を補正対象区間に適切に設定することが可能となる。
他に、悪路が継続して続く区間、カーブが所定距離継続する区間、加速道路等を車両姿勢が基準姿勢に対して変位している状態が継続することが予測される区間として補正対象区間に設定しても良い。
【0072】
また、本実施形態ではHUD50によりフロントガラス55上に案内情報を投影する構成としているが、フロントガラス以外のエリア(例えば、サイドガラス)に案内情報を投影する構成としても良い。
【0073】
また、本実施形態では本願発明をHUD50によるナビゲーション装置1の案内情報の表示位置補正に適用した例について説明したが、他の案内情報(例えば、車両の現在速度、インジケータ、レーン情報、車両前方にある障害物の位置情報、プリクラッシュの衝突警告等)の表示位置補正に対して適用しても良い。
【0074】
また、本実施形態では車両姿勢の基準姿勢からの変位を検出し(S26)、検出した変位から案内情報の表示位置の補正量を算出する(S27)こととしているが、補正量は固定値としても良い。
更に、車両に発生する制動力(又は車両姿勢の変位)と案内情報の表示位置の補正量とを対応づけたテーブルをRAM42に記憶し、該テーブルと車両に発生した制動力(又は検出した車両姿勢の変位)に基づいて、案内情報の表示位置の補正量を特定する構成としても良い。
【0075】
また、HUD表示処理プログラム(図3、図4参照)やHUD表示位置補正処理プログラム(図6参照)の各処理はCPU41が全て実施する構成としても良い。
【符号の説明】
【0076】
1 ナビゲーション装置
13 ナビゲーションECU
41 CPU
42 ROM
43 RAM
42 カーブミラー
50 HUD
55 フロントガラス
71 交差点(案内対象地点)
72 案内情報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転者の視点位置を取得する視点位置取得手段と、
前記運転者の視点位置と前記車両の位置と前記車両外にある案内対象地点の位置とに基づいて、前記案内対象地点に重畳させて案内情報を表示する為の表示位置を決定する表示位置決定手段と、
前記表示位置決定手段によって決定された前記表示位置に前記案内情報を表示する情報表示手段と、
前記車両に関する車両情報を取得する車両情報取得手段と、
前記車両の周辺環境を取得する周辺環境取得手段と、
前記車両情報と前記周辺環境に基づいて、前記車両の車両姿勢が基準姿勢に対して変位している状態が継続することが予測される区間を補正対象区間に設定する補正対象区間設定手段と、
前記補正対象区間を前記車両が走行する間において、前記表示位置決定手段によって決定された前記案内情報を表示する表示位置を、前記車両姿勢の変位を考慮して補正する表示位置補正手段と、を有することを特徴とする車両用走行案内装置。
【請求項2】
前記補正対象区間設定手段は、前記車両に所定値以上の制動力が継続的に発生することが予測される区間を、前記車両姿勢が基準姿勢に対して変位している状態が継続することが予測される区間として補正対象区間に設定することを特徴とする請求項1に記載の車両用走行案内装置。
【請求項3】
前記車両情報取得手段は、前記車両の車速を取得し、
前記周辺環境取得手段は、前記車両の進行方向前方にある減速対象地点における推奨車速を取得し、
前記補正対象区間設定手段は、
前記車両の車速と前記推奨車速とに基づいて、前記車両が前記減速対象地点に到達するまでに前記推奨車速に減速するのに継続的に発生させることが必要な制動力が前記所定値以上か否かを判定する制動判定手段を備え、
前記制動判定手段によって必要な制動力が前記所定値以上であると判定された場合に、前記車両の現在位置から前記減速対象地点までの区間を補正対象区間に設定することを特徴とする請求項2に記載の車両用走行案内装置。
【請求項4】
前記車両情報取得手段は、前記車両の車速を取得し、
前記周辺環境取得手段は、前記車両の前方を走行する前方車両の車速と前方車両までの車間距離を取得し、
前記補正対象区間設定手段は、前記車両の車速と前記前方車両の車速と前記車間距離に基づいて、前記車両が前記前方車両との接触を回避する為に前記所定値以上の制動力を継続的に発生させる区間を補正対象区間に設定することを特徴とする請求項2に記載の車両用走行案内装置。
【請求項5】
前記周辺環境取得手段は、前記車両の進行方向前方にある道路の勾配に関する情報を取得し、
前記制御対象区間設定手段は、所定角度以上の勾配が継続する区間を補正対象区間に設定することを特徴とする請求項1に記載の車両用走行案内装置。
【請求項6】
前記車両が前記補正対象区間を走行する間において前記車両の制動力を発生させる操作を検出する制動操作検出手段を有し、
前記表示位置補正手段は、前記制動操作検出手段によって前記車両の制動力を発生させる操作が検出された場合に、前記案内情報を表示する表示位置を補正することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の車両用走行案内装置。
【請求項7】
車両の運転者の視点位置を取得する視点位置取得ステップと、
前記運転者の視点位置と前記車両の位置と前記車両外にある案内対象地点の位置とに基づいて、前記案内対象地点に重畳させて案内情報を表示する為の表示位置を決定する表示位置決定ステップと、
前記表示位置決定ステップによって決定された前記表示位置に前記案内情報を表示する情報表示ステップと、
前記車両に関する車両情報を取得する車両情報取得ステップと、
前記車両の周辺環境を取得する周辺環境取得ステップと、
前記車両情報と前記周辺環境に基づいて、前記車両の車両姿勢が基準姿勢に対して変位している状態が継続することが予測される区間を補正対象区間に設定する補正対象区間設定ステップと、
前記補正対象区間を前記車両が走行する間において、前記表示位置決定ステップによって決定された前記案内情報を表示する表示位置を、前記車両姿勢の変位を考慮して補正する表示位置補正ステップと、を有することを特徴とする車両用走行案内方法。
【請求項8】
コンピュータに搭載され、
車両の運転者の視点位置を取得する視点位置取得機能と、
前記運転者の視点位置と前記車両の位置と前記車両外にある案内対象地点の位置とに基づいて、前記案内対象地点に重畳させて案内情報を表示する為の表示位置を決定する表示位置決定機能と、
前記表示位置決定機能によって決定された前記表示位置に前記案内情報を表示する情報表示機能と、
前記車両に関する車両情報を取得する車両情報取得機能と、
前記車両の周辺環境を取得する周辺環境取得機能と、
前記車両情報と前記周辺環境に基づいて、前記車両の車両姿勢が基準姿勢に対して変位している状態が継続することが予測される区間を補正対象区間に設定する補正対象区間設定機能と、
前記補正対象区間を前記車両が走行する間において、前記表示位置決定機能によって決定された前記案内情報を表示する表示位置を、前記車両姿勢の変位を考慮して補正する表示位置補正機能と、
を実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−117842(P2011−117842A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275756(P2009−275756)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】