説明

車両用連結アーム

【課題】軽量で、引張り力と圧縮力の両方に耐える強度を有し、製造が容易でコスト的にも有利な、信頼性の高い複合材料からなる、車両用連結アームを提供する。
【解決手段】 相互に対設した少なくとも一対の金属薄板からなる骨格板7に内方に向かって膨出するエンボス部13を形成し、このエンボス部13に中間部材8の外側面に形成した凹部18を嵌合するため、両軸部材J1,J2から車両用連結アームに捩り力、引張り力あるいは圧縮力が作用する場合、引張り力に対しては骨格板7が、圧縮力に対しては樹脂製の中間部材8及び外板部材9が、捩り力に対しては主として中間部材8と骨格板7が、それぞれこれに対抗し、いずれの力にも耐える強度を発揮するようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軽量で変形しにくい車両用連結アームに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のサスペンションには、コントロールアーム、トレーリングアームなどのように、軸端部にゴムブッシュやボールジョイントなどの連結部が設けられている連結アームがある。
【0003】
このような連結アームは、一般に、全体が鉄系の金属により形成されているが、最近では、軽量化の要請から樹脂と金属からなる複合材料により構成したものが種々提案されている。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、車体側と車輪側に連結されるアームの、車体側と車輪側の端部となるエンド部材を鉄製のものにより形成し、両エンド部材間を軽量な発泡スチロールの部材とし、エンド部材と発泡スチロールの部材を上下から成形板によりサンドイッチ状に挟圧保持して接着すると共に、外部を炭素系の強化樹脂織物で被覆したサスペンションアームが開示されている。
【0005】
下記特許文献2には、力の作用点となる部分を金属材料により構成し、作用点から遠ざかる距離に応じて金属材料の占める体積の割合が減少し、樹脂材料の占める体積の割合が増加する構成とし、全体として軽量で剛性の高いロボットなどのリンク構造体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−109511号公報
【特許文献2】特開平10−202561号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このようなリンクあるいはアームは、鉄系の金属材料と樹脂材料とから構成されていることから、いわゆる複合アームと称され、車両部品の軽量化を図る上では有効であるが、車両用連結アームとしては強度的信頼性の面で問題を有している。
【0008】
例えば、軸線が相互に平行状態の一対の軸部材と連結するアーム(以下「軸直アーム」と略称する)や、場合によっては軸線が直交あるいは所定の交差角となっている軸部材と連結するアームの場合、車両の走行中に両軸部材から捩り力、引張り力あるいは圧縮力が作用することがあるが、このようなアームでは、単に軽量化すればよいものではなく、いずれの力にも耐える強度を有するものでなければならない。
【0009】
ところが、上述の複合アームは、軸と連結される部位を構成するものは金属であっても、中間に配置されるものは樹脂により構成され、金属材料からなる部材が両軸部材間に全長にわたって存在しない関係上、前記いずれの力に対しても優れた強度を有するものといえず、信頼性の面で不十分なものである。また、樹脂材料を用いた連結アームは、概して、樹脂を補強するものとして繊維を使用しなければならず、製造が面倒で、コスト的にも満足できるものではない。
【0010】
本発明は、上記従来技術に伴う課題を解決するためになされたもので、軽量で、捩り力、引張り力あるいは圧縮力のいずれの力にも耐える強度を有し、変形しにくく信頼性の高い、製造が容易でコスト的にも有利な、複合材料からなる、車両用連結アームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する本発明に係る車両用連結アームは、一端部の通孔に第1軸部材が、他端部の通孔に第2軸部材がそれぞれ挿通され、前記両軸部材から捩じり力、引張り力あるいは圧縮力が作用する車両用連結アームであって、相互に対設された少なくとも一対の金属薄板からなり、端部に前記第1、第2の軸部材が挿通する通孔が開設された骨格板と、当該骨格板相互間に設けられる樹脂製の中間部材と、前記各骨格板の外側面に設けられ、前記中間部材との間で前記各骨格板を挟持する樹脂製の外板部材と、から構成され、前記骨格板に、前記一方の通孔から他方の通孔まで伸延し、かつ、内方に向かって膨出されるエンボス部を形成し、該エンボス部に前記中間部材の外側面に形成された凹部を嵌合させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、相互に対設した少なくとも一対の金属薄板からなる骨格板に内方に向かって膨出するエンボス部を形成し、このエンボス部に中間部材の外側面に形成した凹部を嵌合するため、両軸部材から車両用連結アームに捩り力、引張り力あるいは圧縮力が作用する場合、引張り力に対しては骨格板が、圧縮力に対しては樹脂製の中間部材及び外板部材が、捩り力に対しては主として中間部材と骨格板が、それぞれこれに対抗し、いずれの力にも耐える強度を発揮することになる。したがって、車両用連結アームは、軽量となるのみでなく、変形しにくく、信頼性の高いものとなる。また、骨格板、中間部材及び外板部材を重ねるようにして製造できるので、製造が容易でコスト的に不利ではない。
【0013】
請求項2の発明によれば、エンボス部を骨格板の一方の通孔から他方の通孔まで伸延するように形成したので、骨格板全体がエンボス部により補強されたものとなり、引張り力、捩り力に対し大きな強度を発揮することになる。
【0014】
請求項3の発明によれば、外板部材に骨格板のエンボス部に嵌合する凸部を内面に形成したので、外板部材に骨格板にぴったりと合致し、外板部材が外方から骨格板の変形を防止することになる。また、全体的にコンパクトになり、外観も良好な車両用連結アームとなる。
【0015】
請求項4の発明によれば、前記中間部材及び外側部材が前記骨格部材を覆うように一体的に形成したので、成形及び製造が容易な車両用連結アームとなる。
【0016】
請求項5の発明によれば、骨格板を同じ形状としたので、コスト的に有利な車両用連結アームとなる。
【0017】
請求項6の発明によれば、前記第1軸部材及び第2軸部材の軸線が相互に平行状態としたので、軽量で、捩り力、引張り力あるいは圧縮力のいずれの力にも耐える強度を有し、変形しにくく信頼性の高い、製造が容易でコスト的にも有利な、扁平でコンパクトな軸直アームとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る車両用連結アームを示す斜視図である。
【図2】同車両用連結アームの分解斜視図である。
【図3】図1の3−3線に沿う断面図である。
【図4】図1の4−4線に沿う断面図である。
【図5】骨格板のエンボス部を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0020】
本実施形態に係る車両用連結アームは、乗用車のサスペンションに使用されるサスペンションアームであり、一端はサブフレーム(不図示)側に連結され、他端は車輪側に取付けられる。図1に示すように、車両用連結アーム1は、半円状をした両端部2,3と、なだらかな円弧状とされた中間部分4とを有し、全体的に細長い形状をしているが、両端部2,3にはそれぞれ通孔5,6が開設されている。
【0021】
この車両用連結アーム1の構成は、図2に示すように、相互に対設された一対の鋼板(例えば、薄肉の高張力鋼板)などの金属薄板からなり、かつアーム全体を補強するように全長に亘り設けられた、当該アームの骨格をなす骨格板7と、両骨格板7相互間に全長に亘り設けられた樹脂製の中間部材8と、各骨格板7の外側面に設けられた樹脂製の外板部材9と、から構成されている。
【0022】
両端部2,3の通孔5,6内には、図3に示すように、カラー部材10が圧入され、カラー部材10内には防振部材11を介して内筒カラー12が設けられている。
【0023】
骨格板7は、軽量化のため薄板により形成されているが、軸線方向からの圧縮力に対し座屈しやすいので、図2、4に示すように、エンボス部13が形成されている。エンボス部13は、図4に示すように、通孔5,6間の骨格板7を内方に向かって僅かに膨出することによって形成されている。
【0024】
このように内方に向かって膨出するエンボス部13とすれば、仮に、軸線方向から作用する圧縮力によって座屈しても、外方に向かって変形せず、必ず内方に向かって変形することになる。この場合、両骨格板7間に、圧縮力に対抗する能力の高い樹脂製の中間部材8を設けると、中間部材8により骨格板7の座屈を確実に防止できることになる。したがって、本実施形態では、骨格板7の座屈を防止する一助として一対の骨格板7間に樹脂製の中間部材8を設けている。
【0025】
また、この骨格板7は、樹脂製の中間部材8と外板部材9とにより挟持されており、この挟持によっても骨格板7の変形が規制されるようにしている。骨格板7は、一対設けられているが、両者同一形状のものを使用することが好ましい。相互に相違する形状のものより量産可能で、コスト的に有利となる。
【0026】
中間部材8は、図2に示すように、上下一対のピース部材8a、8bからなり、各ピース部材8a、8bは、両端部に設けられ半円状の抱持部16と、抱持部16相互間に一体的に形成された軸直角断面略U字状の中間板部17とから構成されている。抱持部16は、通孔5,6内に設けられたカラー部材10の外周を上下から抱持する部分であり、中間板部17は、両骨格板7間に位置し、図4に示すように、その外側面には骨格板7のエンボス部13が嵌合する凹部18が形成されている。中間板部17の上縁部及び下縁部には、後述の外板部材9の係合爪21が係合する被係合縁部21が形成されている。中間板部17は、軸直角断面が略U字状であり、側板部19と底板部20から構成されているが、このようにU字状に成形することにより、内部の余肉を除去し、車両用連結アーム1の軽量化を図っている。
【0027】
外板部材9は、図2、4に示すように、骨格板7と中間部材8とを覆うように設けられているが、内側面には骨格板7のエンボス部13内に入り込む凸部22が形成されており、またその上下両端部には、内方に突出する縁部9a,9bが設けられ、縁部9a,9bの内端部には、中間部材8の被係合縁部21と係合する係合爪23が形成されている。
【0028】
次に作用を説明する。
【0029】
このように構成された車両用連結アーム1を組み立てるには、まず、外板部材5内に骨格板7を収納し、外板部材5の凸部22と骨格板7のエンボス部13とを嵌合したものを2つ準備する。次に、この両者間に中間部材8を配置し、中間部材8の凹部18と骨格板7のエンボス部13とを嵌合する。そして、両外板部材5の係合爪21を中間部材8の被係合縁部21と係合すると、外板部材5、骨格板7及び中間部材8を一体的に組み立てることができる。
【0030】
このようにして組み立てられたものの両端部2,3の通孔5,6にカラー部材10を圧入し、カラー部材10内に防振部材11を有するブッシュ8を押し込めば車両用連結アーム1となる。
【0031】
なお、このような組み立てによる場合のみでなく、骨格板7の通孔5,6にカラー部材10を圧入したものを予め形成し、これを型内に設置し、樹脂材料を注入して全体を鋳包み、中間部材8と外板部材9を一体的に形成してもよい。
【0032】
いずれの場合も、軽量な車両用連結アーム1を容易に製造でき、コスト的にも有利であるが、前者の組み立てる場合は、コスト的に有利となり、後者の鋳包む場合は、作業性の点で有利となる。
【0033】
車両用連結アーム1は、例えば、端部2の通孔5には、車両のサブフレームと連結するためボルトなどの第1軸部材J1が挿通され、端部3の通孔6には車輪側と連結するためボルトなどの第2軸部材J2が挿通され、車両に軸直アームとして取付けられる。
【0034】
取付けられた車両用連結アーム1に対しては、車両走行中、捩じり力、引張り力あるいは圧縮力が両軸部材Jから作用することになる。このような各種力に対し、薄肉鋼板からなる骨格板7は、概して引張り力に対抗する強度を発揮し、樹脂製の中間部材8と樹脂製の外板部材9は、概して圧縮力に対抗する強度を発揮することになる。
【0035】
特に、本実施形態の骨格板7は、車両側の第1軸部材J1から車輪側の第2軸部材J2まで、全長にわたり存在するように構成されているので、引張り力に対しては大きな強度を発揮することになる。
【0036】
また、両骨格板7は、いずれも両端部間に内方に向かって僅かに膨出されたエンボス部13が形成されているので、図5に示すように、エンボス部13のある中央部分Cは変形しにくいが、上部Uあるいは下部Lは、捩じり力が作用すると、曲げ点M1あるいはM2を中心として外方あるいは内方に変形しようとする。
【0037】
ところが、本実施形態では、骨格板7の内方側には、圧縮力に対抗する強度を発揮する樹脂製の中間部材8を設けているので、骨格板7の内方への撓み変形は中間部材8により規制される。また、骨格板7の外方側には、外板部材5が設けられ、この外板部材5の係合爪22が中間部材8の被係合縁部21と係合しているので、骨格板7の外方への撓み変形も外板部材5と中間部材8との係合連結により規制される。したがって、両骨格板7は、上下は勿論のこと、外方への開き変形あるいは内方への閉じ変形が生じることはなく、アーム全体を補強する骨格として機能することになる。
【0038】
本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、上述した実施形態は、車両のサスペンションアームについて説明したが、本発明は、これのみに限定されるものではなく、種々の車両用連結アームに同様に実施可能である。また、軸直アームとして使用するのみでなく、種々の傾斜状態に軸部が挿通されたアームとして使用するもできる。さらに、前記骨格板7は、一対のみでなく、中間部材8が介在されていれば、多数個設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、軽量で変形しにくく、製造が容易でコスト的にも有利な、強度的に信頼性の高い複合材料からなる車両用連結アームとして好適に利用できる。
【符号の説明】
【0040】
1…車両用連結アーム、
5,6…通孔、
7…骨格板、
8…中間部材、
8a、8b…ピース部材、
9…外板部材、
13…エンボス部、
16…抱持部、
17…中間板部、
18…凹部、
19…側板部、
20…底板部、
21…係合爪、
22…被係合縁部、
J1‥第1軸部材、
J2‥第2軸部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部に開設された通孔に第1軸部材が挿通され、他端部に開設された通孔に第2軸部材が挿通され、前記両軸部材から捩じり力、引張り力あるいは圧縮力が作用する車両用連結アームであって、
相互に対設された少なくとも一対の金属薄板からなり、端部に前記第1軸部材及び第2軸部材が挿通する通孔が開設された骨格板と、
当該骨格板相互間に設けられる樹脂製の中間部材と、
前記各骨格板の外側面に設けられ、前記中間部材との間で前記各骨格板を挟持する樹脂製の外板部材と、から構成され、
前記骨格板に内方に向かって膨出されるエンボス部を形成し、該エンボス部に前記中間部材の外側面に形成した凹部を嵌合させたことを特徴とする車両用連結アーム。
【請求項2】
前記エンボス部は、前記骨格板の一方の通孔から他方の通孔まで伸延するように形成したことを特徴とする請求項1に記載の車両用連結アーム。
【請求項3】
前記外板部材は、前記骨格板のエンボス部に嵌合する凸部を内面に形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載の車両用連結アーム。
【請求項4】
前記中間部材及び外側部材は、前記骨格部材を覆うように一体的に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の車両用連結アーム。
【請求項5】
前記骨格板は、それぞれ同じ形状としたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の車両用連結アーム。
【請求項6】
前記第1軸部材及び第2軸部材は、軸線が相互に平行状態となるように構成したことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の車両用連結アーム。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−188074(P2012−188074A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55474(P2011−55474)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000253455)株式会社ヨロズ (22)
【Fターム(参考)】