説明

車両用運転支援装置

【課題】運転者の運転感覚に合致した最適な自動減速制御を行なうことが可能な車両用運転支援装置を提供すること。
【解決手段】車両が特定の位置を走行する際に自動減速制御を行なう制御手段を備える車両用運転支援装置であって、運転者のアクセル操作を検出するアクセル操作検出手段と、前記運転者のブレーキ操作を検出するブレーキ操作検出手段と、を備え、前記制御手段は、前記アクセル操作検出手段及び前記ブレーキ操作検出手段の検出結果を参照して前記運転者が一連の特定操作を行なったと判定した場合に、該一連の特定操作に含まれる操作の行なわれたタイミングを学習し、該学習したタイミングに基づいて、前記自動減速制御の制御区間を決定することを特徴とする、車両用運転支援装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が特定の位置を走行する際に自動減速制御を行なう車両用運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カーブや有料道路の料金所、一時停止位置等の手前で、自動的に車両を減速させる制御を行なう装置について研究が進められている。車両がカーブ等の手前に差し掛かったことは、GPS(Global Positioning System)等の車両位置取得手段によって把握された車両位置及びその変化を用いて地図データを参照することにより、認識することができる。車両を減速させる際には、シフトダウン制御、エンジンの燃料カット制御、ブレーキ出力制御等が行われ得る。
【0003】
これに関連した自動車の走行制御システムについての発明が開示されている(例えば、特許文献1参照)。このシステムでは、カーブにおける適正車速をカーブの曲率半径の値に応じて算出し、コーナー手前までに、算出した適正車速になるように減速制御を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−347531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、カーブ等の減速箇所を通過する際の通過速度、減速開始地点及び終了地点は、運転者毎に異なるため、地図データベースに格納されたカーブ形状等から一律にこれらを決定すると、運転者の運転感覚に合致しない場合がある。
【0006】
本発明はこのような課題を解決するためのものであり、運転者の運転感覚に合致した最適な自動減速制御を行なうことが可能な車両用運転支援装置を提供することを、主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明の第1の態様は、
車両が特定の位置を走行する際に自動減速制御を行なう制御手段を備える車両用運転支援装置であって、
運転者のアクセル操作を検出するアクセル操作検出手段と、
前記運転者のブレーキ操作を検出するブレーキ操作検出手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記アクセル操作検出手段及び前記ブレーキ操作検出手段の検出結果を参照して前記運転者が一連の特定操作を行なったと判定した場合に、該一連の特定操作に含まれる操作の行なわれたタイミングを学習し、
該学習したタイミングに基づいて、前記自動減速制御の制御区間を決定することを特徴とする、
車両用運転支援装置である。
【0008】
この本発明の第1の態様によれば、アクセル操作検出手段及びブレーキ操作検出手段の検出結果を参照して運転者が一連の特定操作を行なったと判定した場合に、この一連の特定操作に含まれる操作の行なわれたタイミングを学習し、学習したタイミングに基づいて自動減速制御の制御区間を決定するため、運転者の運転感覚に合致した最適な自動減速制御を行なうことができる。
【0009】
本発明の第1の態様において、
前記一連の特定操作は、例えば、アクセルオフ、ブレーキオン、ブレーキオフの順になされた操作を含む。
【0010】
また、本発明の第1の態様において、
速度を検出する速度検出手段と、
前記車両の位置を取得する位置取得手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記アクセル操作検出手段及び前記ブレーキ操作検出手段の検出結果を参照して前記運転者が一連の特定操作を行なったと判定した場合に、該一連の特定操作に含まれる操作の行なわれたタイミングで前記速度検出手段により検出された速度を、当該タイミングで前記位置取得手段により取得された車両の位置と対応づけて学習し、
該学習された車両の位置における前記自動減速制御の制御目標値を、当該位置に対応づけて学習された速度に基づいて決定することを特徴とするものとしてもよい。
【0011】
本発明の第2の態様は、
車両が特定の位置を走行する際に自動減速制御を行なう制御手段を備える車両用運転支援装置であって、
運転者のアクセル操作を検出するアクセル操作検出手段と、
前記運転者のブレーキ操作を検出するブレーキ操作検出手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記アクセル操作検出手段及び前記ブレーキ操作検出手段の検出結果により認識されるアクセル操作及びブレーキ操作が行われたタイミングに基づいて、前記自動減速制御の制御区間及び/又は制御目標値を学習することを特徴とする、
車両用運転支援装置である。
【0012】
この本発明の第2の態様によれば、アクセル操作検出手段及びブレーキ操作検出手段の検出結果により認識されるアクセル操作及びブレーキ操作が行われたタイミングに基づいて、自動減速制御の制御区間及び/又は制御目標値を学習するため、運転者の運転感覚に合致した最適な自動減速制御を行なうことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、運転者の運転感覚に合致した最適な自動減速制御を行なうことが可能な車両用運転支援装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例に係る車両用運転支援装置1のシステム構成例である。
【図2】制御データ学習部56が実行する特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。
【図3】制御データ学習部56が実行する特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】空走状態のままターゲット位置を通過した場合の、速度等の変化を示す図である。
【図5】加速してターゲット位置を通過した場合の、速度等の変化を示す図である。
【図6】アクセルオン状態のままターゲット位置を通過した場合の、速度等の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について、添付図面を参照しながら実施例を挙げて説明する。
【実施例】
【0016】
以下、図面を参照し、本発明の一実施例に係る車両用運転支援装置1について説明する。
【0017】
[基本構成]
図1は、本発明の一実施例に係る車両用運転支援装置1のシステム構成例である。車両用運転支援装置1は、主要な構成として、アクセル開度センサ10と、ブレーキ踏量センサ12と、速度センサ16と、ナビゲーション装置30と、運転支援用ECU(Electronic Control Unit)50と、を備える。
【0018】
アクセル開度センサ10は、アクセルペダルに取り付けられ、運転者の操作によるアクセル操作量(開度)に応じた磁界の傾きを、ホール素子を用いて直線的に電圧として取り出して出力する。アクセル開度センサ10の出力は、図示しないエンジン制御装置等を介し、アクセル開度信号AC(以下、単にアクセル開度と称する)として多重通信線70に出力される。多重通信線80では、CAN(Controller Area Network)や、LIN(Local Interconnect Network)に代表される低速なボデー系通信プロトコル、MOST(Media Oriented Systems Transport)に代表されるマルチメディア系通信プロトコル、FlexRay等の適切な通信プロトコルを用いた通信が行われ、多重通信線80に出力された信号は、運転支援用ECU50、その他の制御装置によって参照可能となる。
【0019】
ブレーキ踏量センサ12は、例えば、ブレーキペダルに取り付けられ、運転者の操作によるブレーキ操作量(踏量)を電圧として取り出して出力する。ブレーキ踏量センサ12の出力は、図示しないブレーキ制御装置等を介し、ブレーキ踏量信号BP(以下、単にブレーキ踏量と称する)として多重通信線80に出力される。
【0020】
なお、ブレーキ踏量センサ12はこのような態様に限らず、ブレーキペダルの踏力が油圧として伝達されるマスターシリンダー内部の、液圧室における圧力を検出する圧力センサ(マスター圧センサ)であってもよいし、単に、所定量以上ブレーキペダルが踏み込まれたときにオン信号を出力するスイッチであってもよい。
【0021】
ジャイロセンサ14は、例えば、振動子を有するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)センサであり、車両の鉛直軸回りの角速度を検出して多重通信線80に出力する。
【0022】
速度センサ16は、例えば、車両の各車輪に取り付けられた車輪速センサとスキッドコントロールコンピュータからなり、車輪速センサが出力する車輪速パルス信号をスキッドコントロールコンピュータが速度矩形波パルス信号(速度信号)に変換して多重通信線80に出力する。車輪速センサは、例えば、ゴムに磁性粉が充填されて円周方向に正極及び負極が交互に配置された磁気ローターと、磁気ローターの回転による磁界の変化を検出するアクティブセンサと、からなる。(車輪速に応じた車輪速パルス信号を出力する)。
【0023】
Gセンサ18は、例えば、車両のセンターコンソール部の下方に取り付けられ、車両の前後方向に対して異なる角度をもって取り付けられた2個の子Gセンサを有する。各子Gセンサは、センサ内に可動電極と固定電極を有し、車両の加速度に応じて可動電極と固定電極との距離が変化することによる電極間の静電容量を計測し、電気信号として多重通信線80に出力する。これらの子Gセンサの出力値の組み合わせにより、水平方向の全ての方向における加速度を検出することができる。
【0024】
ナビゲーション装置30は、主要な構成として、GPS受信機32と、入出力装置34と、記憶装置36と、ナビゲーションコンピュータ40と、を備える。
【0025】
GPS受信機32は、GPS衛星が送信する電波を受信し、これを復調して当該電波に含まれる航法メッセージ(衛星信号)をナビゲーションコンピュータ40に出力する。航法メッセージは、衛星軌道に関する情報や衛星時計の補正値、電離層の補正係数、衛星自身の動作状態を示すヘルスメッセージ等を含む。
【0026】
入出力装置34は、例えば、マイク、スピーカー、ブザー、表示装置、入力スイッチ等を含む。表示装置は、例えばタッチパネルとして構成され、画面上の所定の位置にGUI(Graphical User Interface)スイッチを設定し、電圧変化等を検出してユーザーのタッチ位置を認識する。
【0027】
記憶装置36は、例えば、ハードディスクやDVD−R(Digital Versatile Disk-Recordable)、CD−R(Compact Disc-Recordable)、EEPROM等の記憶装置であり、その記憶媒体には地図データが記憶されている。地図データは、例えば、交差点等を表し、座標(緯度、経度)を有するノード点と、ノード点を接続し、道路幅や道路曲率が付随して記憶されたリンクと、により道路形状を表現している。また、地図データは、ナビゲーション装置30が案内する目的地の候補となる主要な施設、交差点、地名、料金所、カーブ及びその曲率等に関する、座標を含む情報を、地点情報として有している。
【0028】
ナビゲーションコンピュータ40は、例えば、CPUを中心としてROMやRAM等がバスを介して相互に接続されたコンピュータユニットであり、その他、I/Oポート、タイマー、カウンター等を備える。ROMには、CPUが実行するプログラムやデータが格納されている。
【0029】
また、ナビゲーションコンピュータ40は、ジャイロセンサ14や速度センサ16等のINS(Inertial Navigation System)用センサの出力値を、多重通信線80を介して取得している。
【0030】
ナビゲーションコンピュータ40は、ナビゲーション装置30の本来の機能として、車両位置を特定し、特定した車両位置からユーザーが入出力装置34を用いて設定した目的地に至るまでの推奨経路を生成し、車両が推奨経路に沿って走行できるようにナビゲーション表示や音声出力を行なう。
【0031】
車両位置の特定は、例えば、航法メッセージに含まれる衛星軌道の情報等から各GPS衛星のワールド座標系(例えばWGS84)における位置(Xs,Ys,Zs)を算出し、電波の到達時間(到達時刻−発信時刻)に光速を乗じて各GPS衛星と車両との間の擬似距離を算出し、複数のGPS衛星について算出される擬似距離及び位置を用いて、三角測量の原理により車両位置を算出する。また、このような測位方法に限らず、相対測位や干渉測位を行ってもよい。
【0032】
更に、車両位置は、記憶装置36に記憶された地図データとのマッチング(マップマッチング)により補正されてもよいし、INS用センサの出力を用いたINS演算や、ビーコン受信機及びFM多重受信機を介して受信される各種情報に基づいて補正されてもよい。
【0033】
また、ナビゲーションコンピュータは、後述のように運転支援用ECU50が行なう特徴的な制御に用いられる種々の情報を、運転支援用ECU50に提供する。
【0034】
運転支援用ECU50は、例えば、ナビゲーションコンピュータ40と同様のハードウエア構成を有するコンピュータユニットであり、ハードディスクやDVD−R、CD−R、EEPROM等の記憶装置52を内蔵する。記憶装置52には、運転支援用ECU50が学習したデータ等が記憶される。運転支援用ECU50は、ナビゲーションコンピュータ40やエンジン制御用ECU等の他の制御装置に統合されることができるが、ここでは専用ECUであるものとして説明する。
【0035】
運転支援用ECU50には、制御対象である制駆動力出力装置70が多重通信線80を介して接続されている。制駆動力出力装置70は、エンジン、変速機、走行用モータ、電子制御式ブレーキ装置、及びこれらの制御装置等を含む(運転支援用ECU50の制御対象がこれらの全てではなく、例えば電子制御式ブレーキ装置のみであるものとしてもよいのは、勿論である)。
【0036】
運転支援用ECU50は、ROMに記憶されたプログラムを実行することにより機能する機能ブロックとして、自動減速制御部54と、制御データ学習部56と、を備える。
【0037】
[特徴的な機能ブロック]
自動減速制御部54は、ナビゲーションコンピュータ40から入力される情報を参照し、車両が制御区間に至ったことが判定されると、自動減速制御を行なうように制駆動力出力装置70に指示する。自動減速制御は、シフトダウン、エンジン出力の低下、ブレーキ出力等によって、速度目標値まで速度を低下させる制御である。制駆動力出力装置70は、速度センサ16から定期的に入力される速度信号V(以下、単に速度と称する)が、運転支援用ECU50から入力された速度目標値以下となる(又は一致する)ように、上記の各制御を実行する。
【0038】
制御区間とは、例えば、曲率が所定値以上のカーブや有料道路の料金所、一時停止位置等(以下、これらを「ターゲット」と称する)の手前の区間であって、既に速度目標値等の制御データが学習されたものをいう。この制御区間は、対象がカーブであるか、料金所等であるか、によって所定距離が異なってもよいし、異なるカーブに対して異なる所定距離が設定されてもよい。すなわち、制御区間は、ターゲットの座標と対応づけられて、それぞれ個別に設定される。制御区間は、制御データ学習部56によって変更、削除、追加等の学習処理がなされる。
【0039】
自動減速制御における速度目標値は、制御区間と同様、ターゲットと対応づけられて、それぞれ個別に設定される。速度目標値は、制御データ学習部56によって変更がなされる。
【0040】
制御データ学習部56は、アクセル開度及びブレーキ踏量を参照し、運転者が一連の特定操作を行なったと判定した場合に、この一連の特定操作に含まれる操作の行なわれたタイミングを学習し、学習したタイミングに基づいて自動減速制御の制御区間を決定する。
【0041】
一連の特定操作とは、例えば、アクセルオフ、ブレーキオン、ブレーキオフの順になされた操作を含む。この一連の特定操作は、ターゲットの手前を走行する前に、運転者が所望の速度まで減速する際に行われる典型的な操作である。なお、後述するように、御認識等を回避するために種々の判定が行われる。
【0042】
ここで、アクセルオフは、アクセル開度が所定値(例えば10%)以上から所定値未満に変化したことにより認識される。ブレーキオンは、ブレーキ踏量が所定値(例えば10%)未満から所定値以上に変化したことにより認識される。ブレーキオフはブレーキオンの逆である。また、ハンチングを防止するために、ブレーキオンとブレーキオフの判定に係る所定値を異ならせてもよい。
【0043】
なお、後述するフローチャートでは、アクセルオン状態又はアクセルオフ状態を判定する等と記載しているが、繰り返しフローを実行する中で前回はアクセルオン状態と判定され、今回はアクセルオフ状態と判定されることにより、アクセルオフ操作がなされたと判定することができる。ブレーキ操作についても同様である。
【0044】
そして、運転者が一連の特定操作を行なった場合、その一連の特定操作に含まれるアクセルオフ等の操作が行われたタイミング(実際には、操作が行われたと認識されたタイミング)に基づいて、自動減速制御の制御区間が決定される。
【0045】
また、制御データ学習部56は、アクセル開度及びブレーキ踏量を参照し、運転者が一連の特定操作を行なったと判定した場合に、この一連の特定操作に含まれる操作の行なわれたタイミングで検出された速度を、当該タイミングにおける車両位置と対応づけて学習し、学習された車両位置における自動減速制御の制御目標値を、当該位置に対応づけて学習された速度に基づいて決定する。
【0046】
すなわち、一連の特定操作が行われたことにより、特定の場所で運転者の意志により減速がなされた場合、その減速程度を学習し、次回以降に同じ場所を走行する場合、同程度の速度まで減速するように、制駆動力出力装置70を制御するのである。
【0047】
[学習処理の流れ]
以下、制御データ学習部56が学習を行って自動減速制御の制御区間や制御目標値を決定する処理の流れについて説明する。図2及び図3は、制御データ学習部56が実行する特徴的な処理の流れを示すフローチャートである。本フローは、所定周期(例えば数[ms])毎に繰り返し実行される。
【0048】
まず、制御データ学習部56は、ナビゲーション装置30から、車両位置、及び制御区間、更には車両前方にターゲットが存在するか否か、等のデータを取得する(S100)。
【0049】
そして、車両が制御区間内にあるか否かを判定する(S102)。車両が制御区間内にある場合は、S200に進む。S200以降については後に図3を参照して説明する。
【0050】
<車両が制御区間内を走行していない場合の処理>
車両が制御区間内にない場合は、車両が学習区間内にあるか否かを判定する(S104)。学習区間とは、曲率が所定値以上のカーブや有料道路の料金所、一時停止位置等(すなわちターゲット)まで所定距離以内の区間である。S102において否定的判定がなされてS104において肯定的な判定がなされるのは、新規なターゲットの手前を走行している場合、及び制御区間と上記「所定距離」が一致しない場合等である。車両が学習区間内にない場合は、本フローの1ルーチンを終了する。
【0051】
この所定距離は、速度が大きくなる程、所定距離を長くするように変更してもよい。こうすれば、想定外に早いタイミングで減速が開始された場合にも対応することができる。逆に、速度が小さくなる程、所定距離を短くすることにより、メモリの使用量や処理負荷を軽減することができる。
【0052】
また、曲率に関する判定基準となる「所定値」は、道路勾配や速度に応じて変更してもよい。例えば、下り勾配の道路や速度が大きいときには所定値を小さくし、比較的緩いカーブでも自動減速制御の対象となるようにする。
【0053】
車両が学習区間内にある場合は、続いて、通常の走行状態にあるか否かを判定する(S106)。通常でない走行状態とは、例えば渋滞や速度の遅い先行車両が存在する状態をいう。係る判定は、速度の直近の平均値が所定速度未満であったり、図示しないカメラやレーダー等の出力によって渋滞状態であることが確認された場合に、通常の走行状態でないと判定することができる。これによって、渋滞等による減速を学習してしまい、不要な自動減速制御が行われることを回避することができる。なお、後述するブレーキオンの判定においても、先行車両との相対距離や相対位置の変化を勘案し、先行車両の影響によるブレーキオンは無視するようにしてもよい。通常の走行状態にないと判定された場合は、本フローの1ルーチンを終了する。
【0054】
車両が通常の走行状態にあると判定された場合は、アクセル開度の変化を参照し、アクセルオフ状態であるか否かを判定する(S108)。アクセルオン状態である場合は、本フローの1ルーチンを終了する。
【0055】
アクセルオフ状態である場合は、距離(1)の積算を開始する(S110)。この積算開始地点が、制御区間の開始地点となる。
【0056】
次に、ブレーキオン状態であるかを判定する(S112)。ブレーキオフ状態である場合は、本フローの1ルーチンを終了する。
【0057】
ブレーキオン状態である場合は、距離(2)の積算を開始する(S114)。距離(2)は、学習区間内における最初のブレーキオン操作がなされた地点からの距離を表している。
【0058】
そして、学習区間から離脱したか否かを判定する(S116)。S116で肯定的な判定を得た場合とは、ブレーキオフ操作が行われることなく学習区間を離脱した場合である。
【0059】
学習区間から離脱していないと判定された場合は、距離(2)が所定値を超えるか否かを判定する(S118)。本ステップにおける所定値は、例えば150[m]程度の値である。S118で肯定的な判定を得た場合とは、下り勾配の連続カーブ等でブレーキオン操作後の空走区間が連続し、ターゲットが確定しにくいような場合を表している。
【0060】
学習区間から離脱しておらず、且つ距離(2)が所定値以下であると判定された場合は、ブレーキオフ状態であるか否かを判定する(S120)。ブレーキオン状態である場合は、S116に戻る。
【0061】
ブレーキオフ状態であると判定された場合は、そのタイミングでターゲット情報を記憶する(S122)。ターゲット情報は、ターゲット位置(最後にブレーキオフ操作がなされた地点)、速度目標値(最後にブレーキオフ操作がなされた地点における速度)、制御区間(距離(1)の積算開始地点から最後にブレーキオフ操作がなされた地点)を含む。
【0062】
続いて、距離(3)の積算を開始する(S124)。距離(3)は、ブレーキオフ操作がなされてからの走行距離を表している。
【0063】
そして、再度、運転者によりブレーキオン操作がなされたか否かを判定する(S126)。再度、運転者によりブレーキオン操作がなされた場合は、ターゲット情報を破棄し(S128)、距離(3)をリセットして(S130)、S116に戻る。これによって、ポンピングブレーキによる断続的なブレーキ操作を一つのブレーキ操作として認識することができる。
【0064】
再度、運転者によりブレーキオン操作がなされていない場合は、距離(3)が所定値を超え、且つ速度がS120においてブレーキオフ操作がなされたと判定された時点の速度1を超えるか否かを判定する(S136)。本ステップにおける所定値は、例えば50[m]程度の値である。
【0065】
S136で肯定的な判定を得た場合とは、下り勾配の連続カーブ等でブレーキオン操作後の空走区間が連続し、ターゲットが確定しにくいような場合を表している。従って、このような場合、速度の増加をもってターゲットを通過したことを推定する。なお、S136は、S118と同じような趣旨であるが、判定対象が距離(2)と距離(3)で異なっている。
【0066】
S136において否定的な判定を得た場合、アクセルオン状態である、或いは学習区間を離脱した、のいずれか一方を満たすか否かを判定する(S138)。本ステップで判断するのは、一般的な運転におけるカーブ等の通過パターンが出現したかどうかである。
【0067】
S136及びS138の双方において否定的な判定を得た場合は、S126に戻る。
【0068】
S136及びS138のいずれか一方において肯定的な判定を得た場合は、S122で記憶したターゲット情報を確定する(S140)。ターゲット情報確定後の処理については後述する。
【0069】
一方、S116で否定的な判定を得た場合は、ブレーキオン状態のまま学習区間を離脱した場合であり、この場合、その後のブレーキオフ操作が行われたタイミングでターゲット情報を記憶し(S132、S134)、続いてターゲット情報を確定する(S140)。係る処理は、地図情報によって設定した学習区間が運転者の意図と合致せず、減速区間が奥までずれ込んだ場合に、運転者の意図を優先させたものである。
【0070】
また、S118で肯定的な判定を得た場合、すなわち、長距離に渡ってブレーキのオン/オフを繰り返したような場合も、その後のブレーキオフ操作が行われたタイミングでターゲット情報を記憶し(S132、S134)、続いてターゲット情報を確定する(S140)。
【0071】
このようにしてターゲット情報が確定すると、これが異常値を含むか否かを判定する(S142)。本ステップの判定は、例えば、道路曲率から求められる想定速度や仮想最減速位置と、車両において検出された値が大きく乖離しているか否かを基準として行われる。想定速度V#は、次式(1)で算出することができる。式中、Gyは横方向加速度であり、Rは道路曲率の逆数である。Gyをある値で固定してもよいし、過去の走行履歴から運転者の平均的なGyを求めておき、これを利用してもよい。更に、Gyの許容範囲を設定し、許容範囲内のGyを用いて算出される想定速度範囲に収まっていれば、異常値でないものとしてもよい。
【0072】
V#=sqrt(Gy×R)…(1)
【0073】
また、カーブへの進入速度とコーナリング速度の関係を道路曲率と対応づけて学習しておき、これをマップとして記憶装置52に記憶させ、進入速度によってターゲット通過時の速度(=速度目標値)の異常を判定してもよい。
【0074】
また、ターゲット位置については、道路曲率から求められる仮想最減速位置からの乖離が所定値以内であるか否かに基づいて、異常値であるか否かを判定することができる。仮想最減速位置は、道路曲率が最大の地点から所定距離離れた位置、或いはカーブの入り口(増加傾向にある道路曲率が閾値を超える地点)から所定距離を経た地点等と定義することができる。
【0075】
ターゲット情報が異常値を含む場合は、本フローの1ルーチンを終了する。
【0076】
一方、ターゲット情報が異常値を含まない場合は、今回学習したターゲット位置から所定距離以内の既存のターゲット位置が記憶装置52に記憶されているか否かを判定する(S144)。既存のターゲット位置が記憶されている場合は、既存ターゲット情報に対し、学習位置の重みを付けて平均化する(S146)。平均化の演算は、例えば速度目標値V_tagに関しては、今回の学習がn回目である場合、次式(2)により行なうことができる。
【0077】
V_tag={V_tag(既存の学習値)×(n-1)+V_tag(今回の学習値)}/n …(2)
【0078】
そして、記憶装置52上に構築されたデータベースの更新を行って(S148)、距離(1)、(2)、(3)をリセットし(S150)、本フローの1ルーチンを終了する。
【0079】
このような平均化処理を行なうことによって、走行回数を重ねる毎に運転者に適した制御区間や速度目標値に収束させることが可能となる。また、記憶装置52上に構築されたデータベースのデータ量を無限に増殖させないようにすることができる。前回学習値と学習回数のみを記憶させれば足りるからである。
【0080】
<車両が制御区間内を走行している場合の処理>
次に、車両が制御区間内にある場合について図3を用いて説明する。S102において否定的な判定を得ると、S106と同様、車両が通常走行状態にあるか否かを判定する(S200)。車両が通常の走行状態にないと判定された場合は、本フローの1ルーチンを終了する。
【0081】
S200において、車両が通常の走行状態にあると判定された場合は、アクセルオフ状態であるか否かを判定する(S202)。
【0082】
アクセルオフ状態であると判定された場合は、距離(1)の積算を開始する(S204)。なお、係る処理に前後して、自動減速制御部54による自動減速制御が行われていることが想定される。そして、ブレーキオフ状態であるか否かを判定する(S206)。ブレーキオン状態であると判定された場合は、S114に戻る。
【0083】
ブレーキオフ状態であると判定された場合は、アクセルオフ状態であるか否かを判定する(S208)。アクセルオフ状態である場合は、ターゲット位置を通過したか否かを判定する(S210)。ターゲット位置を通過したと判定された場合は、ターゲット位置通過時の通過速度が速度目標値V_tagよりも大きいか否かを判定する(S212)。通過速度が速度目標値V_tagよりも大きい場合は、ターゲット通過速度及び距離(1)を記憶し、S140に戻る。そして、通過速度及び距離(1)を用いて速度目標値V_tag及び制御区間等の更新が行われる(S142〜)。通過速度が速度目標値V_tag以下である場合は、本フローの1ルーチンを終了する。
【0084】
S210においてターゲット位置を通過していないと判定された場合は、S206に戻る。従って、S210〜S214までの処理が実行されるのは、ブレーキオフ状態、且つアクセルオフ状態(空走状態)のまま、ターゲット位置を通過した場合である。図4は、空走状態のままターゲット位置を通過した場合の、速度等の変化を示す図である。この場合、ターゲット位置は更新されないが、制御区間の開始地点、及び速度目標値が変更されることになる。
【0085】
S206〜S210を繰り返しループ処理する間に、アクセルオン状態となると、S216に進む。ここでは、アクセルオフ状態からアクセルオン状態となった地点の位置、速度、距離(1)を記憶装置52に記憶させる(S216)。
【0086】
続いて、距離(1)の積算をリセットし(S218)、ターゲット位置を通過したか否かを判定する(S220)。ターゲット位置を通過したと判定された場合は、ターゲット位置通過時の通過速度が速度目標値V_tagよりも大きいか否かを判定する(S222)。通過速度が速度目標値V_tagよりも大きい場合は、S140に戻る。そして、アクセルオフ状態からアクセルオン状態となった地点の位置、速度、距離(1)を用いて速度目標値V_tag及び制御区間等の更新が行われる(S142〜)。通過速度が速度目標値V_tag以下である場合は、本フローの1ルーチンを終了する。
【0087】
S220においてターゲット位置を通過していないと判定された場合は、S204に戻る。S216〜S222の処理が実行されるのは、ターゲット手前でアクセルオン操作がなされ、加速してターゲット位置を通過した場合である。図5は、加速してターゲット位置を通過した場合の、速度等の変化を示す図である。この場合、制御区間の開始地点、終了地点(ターゲット位置)及び速度目標値が変更されることになる。
【0088】
S202においてアクセルオン状態であると判定された場合は、ターゲット位置を通過したか否かを判定する(S224)。ターゲット位置を通過したと判定された場合は、ターゲット位置通過時の通過速度が速度目標値V_tagよりも大きいか否かを判定する(S226)。過速度が速度目標値V_tagよりも大きい場合は、当該ターゲットを削除し、本フローの1ルーチンを終了する。
【0089】
S224においてターゲット位置を通過していないと判定された場合は、S200に戻り、S226において通過速度が速度目標値V_tag以下であると判定された場合は、本フローの1ルーチンを終了する。
【0090】
S224〜S228の処理によって、アクセルオン状態のままターゲット位置を通過し、通過時の速度が速度目標値V_tagよりも大きい場合には、ターゲットが削除されることになる。図6は、アクセルオン状態のままターゲット位置を通過した場合の、速度等の変化を示す図である。この場合、通過時の速度が速度目標値V_tagよりも大きい場合には、ターゲットが削除されることになる。
【0091】
係る構成、及び制御によれば、アクセルオフ、ブレーキオン、ブレーキオフという特徴的な一連の操作を行なった場合に、それぞれの操作が行われたタイミングに基づいてターゲット情報を学習するため、運転者の減速意思、減速終了意思、所望の減速程度等を適切に学習することができる。従って、運転者に応じた最適なタイミング及び制御量を実現した自動制動制御を実行することができる。
【0092】
また、既にターゲット情報が学習されたターゲットについては、加重平均を求めることによってターゲット情報を更新するため、運転者が走行を重ねるのに応じて学習値の精度を向上させることができる。
【0093】
以上説明した本実施例の車両用運転支援装置1によれば、運転者の運転感覚に合致した最適な自動減速制御を行なうことができる。
【0094】
以上、本発明を実施するための最良の形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変形及び置換を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、自動車製造業や自動車部品製造業等に利用可能である。
【符号の説明】
【0096】
1 車両用運転支援装置
10 アクセル開度センサ
12 ブレーキ踏量センサ
14 ジャイロセンサ
16 速度センサ
18 Gセンサ
30 ナビゲーション装置
32 GPS受信機
34 入出力装置
36 記憶装置
40 ナビゲーションコンピュータ
50 運転支援用ECU
52 記憶装置
54 自動減速制御部
56 制御データ学習部
70 制駆動力出力装置
80 多重通信線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両が特定の位置を走行する際に自動減速制御を行なう制御手段を備える車両用運転支援装置であって、
運転者のアクセル操作を検出するアクセル操作検出手段と、
前記運転者のブレーキ操作を検出するブレーキ操作検出手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記アクセル操作検出手段及び前記ブレーキ操作検出手段の検出結果を参照して前記運転者が一連の特定操作を行なったと判定した場合に、該一連の特定操作に含まれる操作の行なわれたタイミングを学習し、
該学習したタイミングに基づいて、前記自動減速制御の制御区間を決定することを特徴とする、
車両用運転支援装置。
【請求項2】
前記一連の特定操作は、アクセルオフ、ブレーキオン、ブレーキオフの順になされた操作を含む、
請求項1に記載の車両用運転支援装置。
【請求項3】
速度を検出する速度検出手段と、
前記車両の位置を取得する位置取得手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記アクセル操作検出手段及び前記ブレーキ操作検出手段の検出結果を参照して前記運転者が一連の特定操作を行なったと判定した場合に、該一連の特定操作に含まれる操作の行なわれたタイミングで前記速度検出手段により検出された速度を、当該タイミングで前記位置取得手段により取得された車両の位置と対応づけて学習し、
該学習された車両の位置における前記自動減速制御の制御目標値を、当該位置に対応づけて学習された速度に基づいて決定することを特徴とする、
車両用運転支援装置。
【請求項4】
車両が特定の位置を走行する際に自動減速制御を行なう制御手段を備える車両用運転支援装置であって、
運転者のアクセル操作を検出するアクセル操作検出手段と、
前記運転者のブレーキ操作を検出するブレーキ操作検出手段と、を備え、
前記制御手段は、
前記アクセル操作検出手段及び前記ブレーキ操作検出手段の検出結果により認識されるアクセル操作及びブレーキ操作が行われたタイミングに基づいて、前記自動減速制御の制御区間及び/又は制御目標値を学習することを特徴とする、
車両用運転支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−98690(P2011−98690A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256055(P2009−256055)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】