説明

車両用部材およびその製造方法

【課題】優れた耐摩耗性および耐候性を発揮する保護膜を樹脂基材の表面に備える車両用部材を提供する。
【解決手段】車両用部材は、樹脂基材と、該樹脂基材の表面の少なくとも一部に形成された保護膜と、を備える。保護膜は、イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物(A)、ウレタン結合を有しないイソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物(B)、およびマレイミド基を有するアルコキシシラン化合物とコロイダルシリカの反応生成物からなる(C)成分の合計100質量部に対して、(A)成分を20〜80質量部、(B)成分を10〜70質量部、(C)成分を1〜35質量部、(D)成分としてラジカル重合開始剤を0.1〜10質量部、(E)成分として紫外線吸収剤を1〜12質量部および(F)成分として有機溶剤を10〜1000質量部含有する硬化型コーティング剤組成物を硬化させてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用内外装材、車両用外板、樹脂ウィンドウなど、高い耐摩耗性および耐候性が求められる車両用部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂材料、中でもポリカーボネート等に代表される透明樹脂材料は、比重が小さく軽量であり、加工が容易で、無機ガラスに比べて衝撃に強いという特徴を生かし、多方面の用途で幅広く利用されている。最近は、石油資源の節約、二酸化炭素排出量削減といった観点から、自動車用の窓ガラスや内外装材などもプラスチックで置き換え軽量化し、燃費を向上させようとする気運が高まっている。
反面、樹脂材料は、表面が傷付きやすく光沢や透明性が失われやすい、有機溶剤に侵されやすい、また、耐候性(たとえば、紫外線などに対する光安定性)、耐熱性に劣る、等々の欠点を有する。自動車用の窓ガラスなどは、長期にわたって太陽光に曝されることが多い。そのため、樹脂材料を自動車用部材に用いる場合には、保護膜により表面を被覆するなどして、耐摩耗性と耐候性を付与する必要がある。
耐摩耗性と耐候性とに優れる保護膜として、たとえば、光硬化型コーティング剤組成物を硬化させてなるハードコート層が挙げられる。
【0003】
耐摩耗性と耐候性とを兼ね備えた光硬化型コーティング剤組成物として、メタクリロイルオキシ基、アクリロイルオキシ基またはビニル基を有するシラン化合物を所定重量割合で表面修飾したコロイダルシリカ微粒子、ポリ〔(メタ)アクリロイルオキシアルキル〕イソシアヌレートと脂環式骨格を有するウレタン(ポリ)メタアクリレートとからなる単量体混合物および光重合開始剤を特定割合で含む耐摩耗性被覆形成組成物が知られている(特許文献1)。
また、モノまたはポリペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート、少なくとも2個のラジカル重合性不飽和二重結合を有するウレタンポリ(メタ)アクリレート、ポリ〔(メタ)アクリロイルオキシアルキル〕(イソ)シアヌレート、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤および光重合開始剤を特定割合で含むコーティング剤組成物も知られている(特許文献2)。
【0004】
熱硬化型コーティング剤組成物を用いた例もある。特許文献3には、樹脂基材の表面に、耐候性に優れた熱硬化性の下塗り剤組成物を硬化してなる第一層、第一層の上に、耐摩耗性に優れた熱硬化性のコーティング剤組成物を硬化してなる第二層を設けたプラスチック物品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3747065号公報
【特許文献2】特開2000−063701号公報
【特許文献3】特開2001−214122号公報
【特許文献4】特開2010−254840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献3に記載のプラスチック物品は、高いレベルで耐摩耗性と耐候性とを両立する。しかし、熱硬化型の組成物は、光硬化型の組成物に比べて、硬化物の形成のために多量のエネルギーが必要である、加熱に時間を要するため効率がよくない、等の問題がある。また、特許文献3のようにコーティング剤組成物だけでなく下塗り剤組成物を使用すると工程数が増加するため、生産性の観点から望ましくない。そこで、下塗り剤組成物を使用することなく十分な耐摩耗性および耐候性を発揮する保護膜を形成可能なコーティング剤組成物が熱望されている。
光硬化型の組成物を用いれば、効率のよい生産が可能となる。上記の脂環式骨格を有するウレタン(ポリ)メタアクリレートはハードコート層の耐候性を改善する成分であるが、耐摩耗性については不十分である。特許文献1の各実施例では、このウレタン(ポリ)メタアクリレートとともにメタクリロイルオキシ基を有するシラン化合物で表面修飾したコロイダルシリカ微粒子(紫外線硬化性シリコーン)を使用している。しかし、耐摩耗性は十分とはいえず、2000時間以降の耐候性については不明である。
一方、上記のモノまたはポリペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレートを硬化させてなるハードコート層は高い硬度を示す。そこで特許文献2では、この成分と、耐候性を向上させる成分である少なくとも2個のラジカル重合性不飽和二重結合を有するウレタンポリ(メタ)アクリレートと、を併用している。しかし、本発明者らが検討した結果、耐摩耗性を向上させる成分と耐候性を向上させる成分とを単に併用するだけでは、さらなる長時間の促進試験には耐えられないことがわかった。
また最近では、特許文献4に記載のような、ラジカル重合性化合物を含む活性エネルギー線硬化型組成物も開発されている。この組成物は、イソシアヌレート骨格を含有する特定のウレタン(メタ)アクリレート化合物、イソシアヌレート骨格を有するアクリレート化合物およびラジカル重合性の無機微粒子を特定の比率で含有する。しかし、本発明者等が検討した結果、長時間の促進試験後の密着性に乏しいことがわかった。
つまり、上記の光硬化型コーティング剤組成物を用いて樹脂基材の表面にハードコート層を形成しても、耐摩耗性および耐候性を高いレベルで両立することは困難であった。
【0007】
本発明は、これらの問題点に鑑み、優れた耐摩耗性および耐候性を発揮する保護膜を樹脂基材の表面に備える車両用部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物、ウレタン結合を有しないイソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物、およびマレイミド基を有するアルコキシシラン化合物とコロイダルシリカとの反応生成物を特定の割合で併用するとともに適切な量の添加剤を添加した組成物は、硬化後の透明性、耐摩耗性、および耐候性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の車両用部材は、樹脂基材と、該樹脂基材の表面の少なくとも一部に形成された保護膜と、を備え、
前記保護膜は、下記(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して、該(A)成分を20〜80質量部、該(B)成分を10〜70質量部、該(C)成分を1〜35質量部、(D)成分としてラジカル重合開始剤を0.1〜10質量部、(E)成分として紫外線吸収剤を1〜12質量部および(F)成分として有機溶剤を10〜1000質量部含有する硬化型コーティング剤組成物を硬化させてなることを特徴とする。
【0010】
(A)成分:
下記一般式(1)で表されるイソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物
【0011】
【化1】

【0012】
(一般式(1)において、R1、R2およびR3はそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の有機基を表し、R4、R5およびR6はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表す。)
【0013】
(B)成分:
下記一般式(2)で表されるウレタン結合を有しないイソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物
【0014】
【化2】

【0015】
(一般式(2)において、R7、R8およびR9はそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の有機基を表し、R10、R11およびR12はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、n1、n2およびn3は、それぞれ独立して1〜3の数を表し、n1+n2+n3=3〜9である。)
【0016】
(C)成分:
下記一般式(3)で表されるアルコキシシラン化合物(c1)とコロイダルシリカ(c2)とを、(c1)と(c2)の質量比を9:1〜1:9で反応させた反応生成物の不揮発性成分であって、(c1)で(c2)を化学修飾したものを含む。
【0017】
【化3】

【0018】
(一般式(3)において、R13は水素原子または1価の有機基を表し、R14は炭素数1〜6の2価の炭化水素を表し、zは0.1以上3以下の正の数を表す。また、zが3未満の場合に(c1)は縮合物を含み、該縮合物の1分子中のR13は2種以上の異なる基を含んでいてもよい。)
【0019】
本発明に使用する硬化型コーティング剤組成物は、さらに、(D)成分として光ラジカル重合開始剤を使用し、光を照射して硬化させる光硬化型コーティング剤組成物として使用することが好ましい。光を照射して硬化させることにより、低エネルギーで短時間での硬化が可能となる。また、紫外線吸収剤の配合割合、さらには紫外線吸収剤の種類を特定することで、光を照射して組成物を硬化させても良好に硬化が進行し、透明性に優れ、耐摩耗性および耐候性を両立する保護膜が得られる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の車両用部材は、特定の硬化型コーティング剤組成物を硬化させてなる保護膜を樹脂基材の表面に備えるため、優れた耐摩耗性および耐候性を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の車両用部材を用いたサンルーフを模式的に示す斜視図である。
【図2】本発明の車両用部材である窓ガラスを模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の車両用部材が備える保護膜について、最表面および最表面から所定の深さの位置でのSi濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の車両用部材を実施するための最良の形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「p〜q」は、下限pおよび上限qをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。
【0023】
本発明の車両用部材は、樹脂基材と、該樹脂基材の表面の少なくとも一部に形成された保護膜と、を備える。保護膜は、以下に説明する硬化型コーティング剤組成物を硬化させてなる。
【0024】
<硬化型コーティング剤組成物>
硬化型コーティング剤組成物(適宜「組成物」と略記する)は、下記(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して、該(A)成分を20〜80質量部、該(B)成分を10〜70質量部、該(C)成分を1〜35質量部、(D)成分としてラジカル重合開始剤を0.1〜10質量部、(E)成分として紫外線吸収剤を1〜12質量部および(F)成分として有機溶剤を10〜1000質量部含有する。以下、それぞれの成分および組成物の詳細について説明する。
なお、本明細書においては、アクリロイル基またはメタクリロイル基を(メタ)アクリロイル基と表し、また、アクリレートまたはメタクリレートを(メタ)アクリレートと表す。
【0025】
<(A)成分>
(A)成分は、下記一般式(1)で表されるイソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物である。
【0026】
【化4】

【0027】
一般式(1)において、R1、R2、およびR3はそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の有機基を表す。炭素数2〜10の2価の有機基としては、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基およびテトラメチレン基等の炭素数2〜4のアルキレン基が好ましい。また、これらの基を有する一般式(1)の化合物をε−カプロラクトン変性した化合物も含まれる。この場合、炭素数2〜10の2価の有機基は−OCOCH2CH2CH2CH2CH2−を含む。これらのうち、R1、R2およびR3がすべてテトラメチレン基であるものは、耐摩耗性と耐候性に特に優れた保護膜が得られるため、特に好ましい。
【0028】
一般式(1)において、R4、R5およびR6はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、R4、R5およびR6が全て水素原子である化合物は、組成物が硬化性に優れるものとなる点で特に好ましい。
【0029】
(A)成分は、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート型三量体と、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートまたはそのカプロラクトン変性物との付加反応により合成される。この付加反応は無触媒でも可能であるが、反応を効率的に進めるために、ジブチルスズジラウレート等の錫系触媒や、トリエチルアミン等のアミン系触媒等を添加してもよい。
【0030】
組成物における(A)成分の含有割合は、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して、20〜80質量部であり、より好ましくは30〜70質量部である。(A)成分の含有割合を20〜80質量部とすることで、耐摩耗性と耐候性に優れた保護膜が得られる。
【0031】
<(B)成分>
(B)成分は、下記一般式(2)で表されるウレタン結合を有しないイソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物である。
【0032】
【化5】

【0033】
一般式(2)において、R7、R8およびR9はそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の有機基を表す。炭素数2〜10の2価の有機基としては、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基およびテトラメチレン基等の炭素数2〜4のアルキレン基が好ましい。また、これらの基を有する一般式(2)の化合物をε−カプロラクトン変性した化合物も含まれる。この場合、炭素数2〜10の2価の有機基は−OCOCH2CH2CH2CH2CH2−を含む。これらのうち、R7、R8およびR9がすべてエチレン基であれば、耐摩耗性と耐候性に特に優れた保護膜が得られるため、特に好ましい。
【0034】
一般式(2)において、R10、R11およびR12はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、これら全てが水素原子である化合物は、組成物が硬化性に優れるものとなる点で特に好ましい。
【0035】
一般式(2)において、n1、n2およびn3は、それぞれ独立して1〜3の数を表す。ただし、n1+n2+n3=3〜9である。n1、n2およびn3としては、1が好ましく、n1+n2+n3としては3が好ましい。
【0036】
(B)成分は、好ましくはイソシアヌル酸のアルキレンオキサイド付加物と(メタ)アクリル酸を反応させて製造される。n1+n2+n3は、(B)成分1分子当たりのアルキレンオキサイドの平均付加モル数を表す。
【0037】
組成物における(B)成分の含有割合は、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して、10〜70質量部であり、より好ましくは20〜60質量部である。(B)成分の含有割合を10部以上とすることで樹脂基材と保護膜との初期密着性を良好にすることができ、10〜70質量部とすることで、耐摩耗性と耐候性に優れた保護膜が得られる。
【0038】
なお、組成物中の(B)成分の含有割合に応じて、保護膜に含まれる珪素(Si)の厚さ方向の分布が変化する。保護膜に含まれるSiは、後述の(C)成分に由来する。具体的には、同じ割合の(C)成分を含む保護膜であれば、(B)成分の含有割合が多いほど、膜表面で検出されるSiが増加する。そして、膜全体としては、膜中のSiは、基材から離れた位置で濃化して存在し、(B)成分が多いほど、高Si濃度の部位が表面側にシフトする傾向にある。膜の表面側にSiを多く含む保護膜は、耐擦傷性に優れるため好ましい。(B)成分の含有量を25〜55質量部さらには30〜50質量部とすることで、耐摩耗性および耐候性と耐擦傷性とを両立できるため望ましい。
具体的には、(A)成分、(B)成分、(C)成分および(E)成分の配合割合から算出される保護膜中のSi濃度を理論Si濃度としたとき、保護膜の表面から該保護膜の厚さの半分までの間に、理論Si濃度よりも高いSi濃度である部位が存在するのが好ましい。あるいは、保護膜を膜厚の半分の位置で表面側膜と基材側膜との二つの部位に分けたとき、表面側膜のSi濃度が、基材側膜のSi濃度よりも高くなるのが好ましい。
保護膜中のSi濃度は、走査型分析顕微鏡(SEM/EDX)等を用いた元素分析により、保護膜の断面を膜厚方向に沿って点分析または線分析することで測定可能である。
【0039】
<(C)成分>
(C)成分は、下記一般式(3)で表されるアルコキシシラン化合物(c1)とコロイダルシリカ(c2)とを、(c1)と(c2)の質量比を9:1〜1:9で反応させた反応生成物の不揮発性成分であって、(c1)で(c2)を化学修飾したものを含む。
【0040】
なお、(C)成分の合成は、通常、溶媒中で行われるが、(C)成分は、反応で使用した水および有機溶媒を除いた成分である。また、(C)成分は、アルコキシシランが加水分解して生成するアルコールや、シラノールの縮合で生成する水を除いた成分である。すなわち、(C)成分は反応生成物中の不揮発性成分を意味し、換言すればSi含有成分を意味する。
【0041】
【化6】

【0042】
(一般式(3)において、R13は水素原子または1価の有機基を表し、R14は炭素数1〜6の2価の炭化水素を表し、zは0.1以上3以下の正の数を表す。また、zが3未満の場合に(c1)は縮合物を含み、該縮合物の1分子中のR13は2種以上の異なる基を含んでいてもよい。)
【0043】
一般式(3)において、R13は水素原子または1価の有機基を表す。R13の一価の有機基としては、具体的には、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシアルキル基、その他のC、H、O原子からなる炭素数1〜6の有機基が挙げられる。
【0044】
反応性の点では、R13は水素原子または炭素数1〜6の酸素原子を有してもよい一価の有機基が好ましく、水素原子または炭素数1〜6のアルキル基がより好ましい。
【0045】
一般式(3)において、R14は、炭素数1〜6の二価の飽和炭化水素基を表し、直鎖状でも、分岐を有していてもよい。直鎖状飽和炭化水素基としては、エチレン基、1,3−プロピレン基(トリメチレン基)、1,4−ブチレン基(テトラメチレン基)、1,5−ペンタンジイル基(ペンタメチレン基)、1,6−ヘキサンジイル基(ヘキサメチレン基)等が例示できる。分岐状アルキレン基としては、1,2−プロピレン基、1,2−ブチレン基、1,3−ブチレン基、2,3−ブチレン基、1,3−ペンタンジイル基、2,4−ペンタンジイル基、2,5−ヘキサンジイル基、2−メチル−1,3−プロピレン基、2−エチル−1,3−プロピレン基、3−メチル−1,5−ペンタンジイル基等が例示できる。
14としては、炭素数3〜6の直鎖状二価の飽和炭化水素基が特に好ましい。
14として特に好適であるのは、組成物の保護膜が耐摩耗性や耐候性に優れたものとなる点で、炭素数1〜6の二価の飽和炭化水素基、さらには炭素数3〜6の直鎖状の二価の飽和炭化水素基、である。
【0046】
一般式(3)において、zは正の数であって、0.1≦z≦3を満たす。zは、Si原子1モル当りの残存アルコキシ基の平均モル数を表す。(c1)は、zが3のときアルコキシシランモノマーを示し、zが3未満のときアルコキシシラン縮合物あるいはアルコキシシラン縮合物とアルコキシシランモノマーとの混合物を示す。
【0047】
zを0.1以上にすることで、コロイダルシリカが有効に表面修飾され、保護膜が耐擦傷性に優れたものとなる。また、反応性の観点から、好ましくは0.4≦z≦3、さらには0.8≦z≦3である。
【0048】
なお、zの値は、(c1)の1H−NMRスペクトルを測定し、水素原子の積分比から求めることができる。
【0049】
(c1)が縮合物である場合、R13は、それぞれ1分子中に異なる2種以上の化学構造を有していてもよい。
【0050】
なお、一般式(3)の3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミド基は、紫外線を吸収して3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミド基同士が光二量化することを主反応とするものである。
【0051】
前記式(3)の化合物の好ましい製造方法について説明する。たとえば、下記化学式(4)で表される二重結合を有するカルボン酸無水物に、下記一般式(5)で表されるアミノアルキルトリアルコキシシランを付加させてアミック酸とした後、加熱により閉環させてマレイミド基とし、このとき生成する水とアルコキシ基を反応させる方法が挙げられる。この方法によれば、容易に入手可能な原料を用いて、硬化型コーティング剤組成物に好適な(c1)を一段反応で製造することができるという点で、特に好ましい。
【0052】
【化7】

【0053】
2N−R14−Si−(OR133 ・・・(5)
【0054】
なお、式(5)において、R13およびR14は、前記と同義である。
まず、二重結合を有するカルボン酸無水物に、アミノアルキルトリアルコキシシランのアミノ基が付加してアミック酸(以下、AMAという。)が生成する。次に、AMAを含む溶液を加熱すると、閉環反応が進行して、マレイミド基が生成する。閉環反応で水が生成するため、その水によりアルコキシ基の加水分解縮合反応が進行する。
【0055】
ここで、閉環反応が完全で、発生した水が全てアルコキシシランの加水分解縮合反応に消費された場合、理論上、zは1となる。式(3)のzは0.1〜3の範囲であり、zを1未満とする場合は、反応系に水を添加する方法が挙げられ、一方、zを1超過とする場合は、反応系から水を除去したり、脱水剤を使用することで調整することができる。
【0056】
上記製造方法は、有機溶媒の存在下で行われるとよい。有機溶媒としては、AMAを溶解し、かつ原料と反応しないものが好ましい。具体的には、トルエン、キシレン等の芳香族化合物が好ましい。しかし、酸無水物とアミノ基との反応は非常に速いため、アルコールやエステル等の極性溶媒も使用することができる。
閉環反応の温度としては、70〜150℃の範囲が好ましい。
有機溶媒として水を殆ど溶解しない化合物、たとえば芳香族化合物を使用する場合、反応終了後、脱溶媒することが好ましい。
二重結合を有するカルボン酸無水物とアミノアルキルトリアルコキシシランとの割合としては、等モルが好ましい。二重結合を有するカルボン酸無水物およびアミノアルキルトリアルコキシシランとしては、それぞれ複数種を併用することもできる。
【0057】
(c2)は、コロイダルシリカであり、種々のものが使用できるが、球状粒子が均一分散したものが好ましく、たとえばアルコール系溶媒に均一分散したものがより好ましい。
(c2)の平均一次粒子径としては、1〜100nmが好ましく、5〜60nmであることがより好ましく、特に好ましくは5〜30nmである。(c2)の平均一次粒子径を1nmより大きいものとすることで、耐摩耗性に優れるものすることができ、100nmより小さいきいものとすることで、コロイド溶液の分散安定性に優れるものとすることができる。
【0058】
なお、本発明において平均一次粒子径とは、BET法による比表面積から算出された値を意味する。また、(c2)の比表面積は、30〜3,000m2/gの範囲である。
【0059】
(C)成分の合成方法は、水を含む有機溶媒の存在下に、(c1)と(c2)とを、所定の質量比で仕込んだ後、加熱して反応させる方法が好ましい。加熱温度および時間は、触媒の有無等により異なるため一概に規定することはできないが、40〜140℃望ましくは60〜120℃で0.5〜20時間が望ましい。
【0060】
(C)成分には、(c1)で表面修飾されたシリカ微粒子だけでなく、シリカ微粒子を含まない(c1)の加水分解縮合物が含まれていてもよく、それらを含めて(C)成分と定義する。
また、(c1)に加えて、前記式(4)で表される化合物とアミノアルキルメチルジアルコキシシランから(c1)と同様に合成されるマレイミド基含有アルコキシシランや、メチルトリアルコキシシランなど、その他アルコキシシラン化合物を加えて(c2)と反応させた生成物も、(C)成分の概念に含める。但しこの場合、その他アルコキシシラン化合物の仕込み量は、(c1)の半分以下であることが好ましい。
【0061】
(C)成分を合成する際の(c1)と(c2)の仕込み質量比は1:9〜9:1であるが、より好ましくは2:8〜7:3、さらに好ましくは2:8〜6:4である。(c1)と(c2)の質量比を1:9〜9:1とすることで、保護膜の耐摩耗性と耐候性を両立させることができる。
【0062】
反応系に仕込む水の量は、アルコキシ基1モルに対し、0.3〜10モルであることが好ましく0.5〜5モルであることがさらに好ましい。水の仕込み量をアルコキシ基1モルに対して0.3〜10モルとすることで、シリカ微粒子をゲル化させることなく、シリカ微粒子の表面を効率よく表面修飾することができる。
【0063】
有機溶媒としては、水を均一に溶解するものが好ましく、より好ましくは沸点100℃〜200℃のアルコール系溶媒であり、さらに好ましくはエーテル結合を有する沸点100℃〜200℃のアルコール系溶媒である。
好ましい有機溶媒の具体例としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテルおよびエチレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられる。
【0064】
なお、(C)成分は、無触媒で製造することができるが、酸触媒やアルカリ触媒を加えてもよい。
【0065】
反応終了後、反応系中に含まれる水を除去するとよい。反応後の溶液を加熱したり減圧したりし、水、さらには有機溶媒を留去するとよい。このとき、反応後の溶液に水よりも高沸点の有機溶媒を加えることが好ましい。
【0066】
組成物における(C)成分の含有割合は、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して1〜35質量部であり、より好ましくは1〜30質量部、さらに好ましくは3〜25質量部、特に好ましくは5〜20質量部である。
(C)成分の含有割合を1〜35質量部とすることで、耐摩耗性と耐候性に優れた保護膜が得られる組成物とすることができる。(C)成分の割合が1質量部以上であれば、保護膜の耐摩耗性が向上する。しかし、(C)成分が過多では、保護膜が収縮しやすくなったり、保護膜の有機部分の分解が速くなったりして耐候性が低下する。
【0067】
<(D)成分:ラジカル重合開始剤>
(D)成分は、ラジカル重合開始剤であり、種々の化合物を使用することができる。
(D)成分として光ラジカル重合開始剤を使用すれば、組成物は、光硬化型コーティング剤組成物としてはたらき、光照射により硬化する。(D)成分として熱ラジカル重合開始剤を使用すれば、組成物は、熱硬化型コーティング剤組成物としてはたらき、加熱により硬化する。
組成物は、低エネルギーで短時間での硬化が可能となるなど、硬化性に優れるという点で、(D)成分として光ラジカル重合開始剤を使用した光硬化型コーティング剤組成物であるのが好ましい。
【0068】
光ラジカル重合開始剤の具体例としては、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、1−〔4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル〕−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタン−1−オン、ジエトキシアセトフェノン、オリゴ{2−ヒドロキシ−2−メチル−1−〔4−(1−メチルビニル)フェニル〕プロパノン}および2−ヒドロキシ−1−{4−〔4−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニル)ベンジル〕フェニル}−2−メチル−プロパン−1−オン等のアセトフェノン系化合物;ベンゾフェノン、4−フェニルベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノンおよび4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルスルファイド等のベンゾフェノン系化合物;メチルベンゾイルフォルメート、オキシフェニル酢酸の2−(2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ)エチルエステルおよびオキシフェニル酢酸の2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステル等のα−ケトエステル系化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等のフォスフィンオキサイド系化合物;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルおよびベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン系化合物;チタノセン系化合物;1−〔4−(4−ベンゾイルフェニルスルファニル)フェニル〕−2−メチル−2−(4−メチルフェニルスルフィニル)プロパン−1−オン等のアセトフェノン/ベンゾフェノンハイブリッド系光開始剤;2−(O−ベンゾイルオキシム)−1−〔4−(フェニルチオ)〕−1,2−オクタンジオン等のオキシムエステル系光重合開始剤;並びにカンファーキノン等が挙げられる。
【0069】
熱ラジカル重合開始剤の具体例としては、有機過酸化物およびアゾ系化合物等が挙げられる。
有機過酸化物の具体例としては、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)2−メチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、2,2−ビス(4,4−ジ−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシマレイン酸、t−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシラウレート、2,5−ジメチル−2,5−ジ(m−トルオイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5−ジーメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシアセテート、2,2−ビス(t−ブチルパーオキシ)ブタン、t−ブチルパーオキシベンゾエート、n−ブチル−4,4−ビス(t−ブチルパーオキシ)バレレート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、α、α‘−ビス(t−ブチルパーオキシ)ジイソプロピルベンゼン、ジクミルパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t−ブチルトリメチルシリルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ヘキシルハイドロパーオキサイドおよびt−ブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。
アゾ系化合物の具体例としては、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2−(カルバモイルアゾ)イソブチロニトリル、2−フェニルアゾ−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾジ−t−オクタンおよびアゾジ−t−ブタン等が挙げられる。
【0070】
以上列挙したラジカル重合開始剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。また、有機過酸化物は、還元剤と組み合わせることによりレドックス触媒とすることも可能である。
【0071】
組成物における(D)成分の含有割合は、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して、0.1〜10質量部であり、より好ましくは0.5〜5質量部、特に好ましくは1〜3質量部である。
(D)成分の含有割合を0.1〜10質量部とすることで、組成物が硬化性に優れるものとなり、耐摩耗性および耐候性に優れた保護膜が得られる。
【0072】
<(E)成分:紫外線吸収剤>
(E)成分は、紫外線吸収剤であり、種々の化合物または物質を使用することができる。
紫外線吸収剤の具体例としては、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシロキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−トリデシロキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−(2−エチルヘキシロキシ)プロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン、2,4−ビス(2−ヒドロキシ−4−ブチロキシフェニル)−6−(2,4−ビス−ブチロキシフェニル)−1,3,5−トリアジン、2−(2−ヒドロキシ−4−[1−オクチロキシカルボニルエトキシ]フェニル)−4,6−ビス(4−フェニルフェニル)−1,3,5−トリアジン等のトリアジン系紫外線吸収剤;2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−[2−ヒドロキシ−5−(2−(メタ)アクリロイルオキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、オクチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート等のシアノアクリレート系紫外線吸収剤、酸化チタン微粒子、酸化亜鉛微粒子、酸化錫微粒子等の紫外線を吸収する無機微粒子等が挙げられる。
【0073】
以上列挙した紫外線吸収剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらのうち、(メタ)アクリロイル基を有するベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、保護膜の耐候性と耐摩耗性を両立させる点で、特に好ましい。
【0074】
組成物における(E)成分の含有割合は、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して、1〜12質量部であり、より好ましくは3〜12質量部である。
(E)成分の含有割合を1〜12質量部とすることで、保護膜の耐摩耗性および耐候性を両立させることができる。(E)成分が1質量部未満では、十分な耐候性を示す保護膜が得られない。一方、(E)成分が多すぎると、保護膜の耐摩耗性が低下するだけでなく、耐候性も低下する傾向にあることから、(E)成分を12質量部以下とする。特に、(E)成分の含有割合を3〜12質量部とすることで、優れた耐摩耗性と耐候性とを両立する保護膜が得られる。
【0075】
<(F)成分:有機溶剤>
(F)成分は溶剤であり、種々の化合物を使用することができる。
(F)成分としては、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分および(E)成分、さらには後述する他の成分を均一に分散または溶解するものが好ましい。
【0076】
好ましい溶剤の具体例としては、エタノールおよびイソプロパノール等のアルコール;エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のアルキレングリコールモノエーテル;トルエンおよびキシレン等の芳香族化合物;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;アセトン、メチルエチルケトンおよびメチルイソブチルケトン等のケトン;ジブチルエーテル等のエーテル;ジアセトンアルコール;並びにN−メチルピロリドン等が挙げられる。これらのうち、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルキレングリコールモノエーテルは、各種成分の分散性または溶解性に優れるだけでなく、組成物が塗布される樹脂基材がポリカーボネート樹脂製である場合に、ポリカーボネート樹脂を溶かさないため、特に好ましい。
【0077】
さらに、アルコールやアルキレングリコールモノエーテル等のポリカーボネート樹脂を溶かさない溶剤と、エステルやケトン等のポリカーボネート樹脂を溶かす溶剤を混合することで、塗工時にはポリカーボネート樹脂製基材は溶かさず、その後の加熱工程では樹脂基材表面をミクロンオーダーで溶解して塗膜の密着性を高める手法も好ましく適用できる。また、種々沸点の溶剤を混合することで、塗膜表面の平滑性を高める手法も好ましく適用できる。
【0078】
組成物における(F)成分の含有割合は、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して、10〜1000質量部である。(F)成分の配合量が少なすぎると均一な塗装が行いにくく、多すぎると十分な厚さの保護膜が得られにくい。したがって、(F)成分は、塗装方法に応じて適宜選択すればよいが、敢えて規定するのであれば、生産性の観点から、好ましくは50〜500質量部、さらに好ましくは50〜300質量部である。
なお、組成物の調製時に(A)〜(E)成分ならびに後述の(G)成分、(H)成分およびその他の成分とともに存在する有機溶媒も、(F)成分の含有割合に含めることとする。
【0079】
<(G)成分:ヒンダードアミン系光安定剤>
組成物は、前記(A)〜(F)成分を必須とするものであるが、耐候性を向上させる目的で、ヒンダードアミン系光安定剤(G)(以下、「(G)成分」という)を配合してもよい。
ヒンダードアミン系光安定剤の具体例としては、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、メチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート、2,4−ビス[N−ブチル−N−(1−シクロヘキシロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ]−6−(2−ヒドロキシエチルアミン)−1,3,5−トリアジン、デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−(オクチロキシ)−4−ピペリジニル)エステル等のヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられる。
これらのうち、ヒンダードアミンの塩基性が低いものが組成物の安定性の点で好ましく、具体的には、アミノエーテル基を有する所謂NOR型のものがより好ましい。
(G)成分の含有割合としては、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して0.05〜1.5質量部、さらには0.1〜1.5質量部が好ましい。
【0080】
<(H)成分:表面改質剤>
組成物には、塗布時のレベリング性を高める目的や、保護膜の滑り性を高めて耐擦傷性を高める目的等のため、各種表面改質剤を添加してもよい。表面改質剤としては、表面調整剤、レベリング剤、スベリ性付与剤、防汚性付与剤等の名称で市販されている、表面物性を改質する各種添加剤を使用することができる。それらのうち、シリコーン系表面改質剤およびフッ素系表面改質剤が好適である。
具体例としては、シリコーン鎖とポリアルキレンオキサイド鎖を有するシリコーン系ポリマーおよびオリゴマー、シリコーン鎖とポリエステル鎖を有するシリコーン系ポリマーおよびオリゴマー、パーフルオロアルキル基とポリアルキレンオキサイド鎖を有するフッ素系ポリマーおよびオリゴマー、パーフルオロアルキルエーテル鎖とポリアルキレンオキサイド鎖を有するフッ素系ポリマーおよびオリゴマー、等が挙げられる。これらのうちの一種以上を使用すればよい。滑り性の持続力を高めるなどの目的で、分子中に(メタ)アクリロイル基を含有するものを使用してもよい。
【0081】
表面改質剤の好ましい配合量は、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して0.01〜1.0質量部である。表面改質剤の配合量を0.01〜1.0質量部とすることで、塗膜の表面平滑性を高めることができる。
【0082】
<その他の成分>
組成物は、前記(A)〜(F)成分を必須とするものであるが、目的に応じて種々の成分を配合することができる。上記(G)成分、(H)成分および以下に列挙するその他の成分は、単独で配合してもよいし、2種以上を配合してもよい。
【0083】
組成物には、保存安定性を良好にする目的で、ラジカル重合禁止剤を添加することが好ましい。
重合禁止剤の具体例としては、ハイドロキノン、tert−ブチルハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,4,6−トリ−tert−ブチルフェノール、ベンゾキノン、フェノチアジン、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンのアンモニウム塩、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミンのアルミニウム塩、ジブチルジチオカルバミン酸銅、塩化銅、硫酸銅等が挙げられる。
重合禁止剤の添加量は、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して10〜10,000ppmとする事が好ましく、より好ましくは100〜3000ppmである。
【0084】
組成物には、保護膜の耐熱性や耐候性を良好にする目的で、各種酸化防止剤を配合してもよい。酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤等の一次酸化防止剤や、イオウ系およびリン系の二次酸化防止剤が挙げられる。
一次酸化防止剤の具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3−(5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トリル)プロピオネート]、1,3,5−トリス[(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−キシリル)メチル]−1,3,5−トリアジン−2,4,6(1H,3H,5H)−トリオン等が挙げられる。
二次酸化防止剤の具体例としては、ジドデシル3,3’−チオジプロピオネート、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイト等が挙げられる。
酸化防止剤の好ましい配合量は、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して0〜5質量部であり、より好ましくは0〜3質量部である。
【0085】
組成物には、1分子中に1個以上のラジカル重合性不飽和基を有する、(A)成分および(B)成分以外の化合物を配合してもよい。
1分子中に1個のラジカル重合性不飽和基を有する化合物(以下、「不飽和化合物」という)は、保護膜と樹脂製基材との密着性を高めるために配合することができる。
不飽和化合物におけるラジカル重合性不飽和基としては、(メタ)アクリロイル基が好ましい。
不飽和化合物の配合割合としては、耐摩耗性および耐候性が悪化するのを防ぐ観点から、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましい。
【0086】
不飽和化合物において、1分子中に1個のラジカル重合性不飽和基を有する化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸、アクリル酸のマイケル付加型のダイマー、ω−カルボキシ−ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、アルキルフェノールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、tert−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、パラクミルフェノールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、オルトフェニルフェノール(メタ)アクリレート、オルトフェニルフェノールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカンメチロール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、N−(2−(メタ)アクリロキシエチル)ヘキサヒドロフタルイミド、N−(2−(メタ)アクリロキシエチル)テトラヒドロフタルイミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルフォリン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム等が挙げられる。
【0087】
不飽和化合物において、1分子中に2個以上のラジカル重合性不飽和基を有する化合物(以下、「多官能不飽和化合物」という)を配合してもよい。多官能不飽和化合物を含むことで、保護膜と樹脂基材との密着性および保護膜の耐摩耗性が改善する場合がある。
多官能不飽和化合物におけるラジカル重合性不飽和基の数は、耐摩耗性を低下させないためには1分子中に3個以上であることが好ましく、4〜20個であることがより好ましい。
多官能不飽和化合物の配合割合としては、耐候性が悪化するのを防ぐ観点から、(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましい。
【0088】
多官能不飽和化合物としては、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物が好ましく、具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールZのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールSのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、チオビスフェノールのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールZのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールSのジ(メタ)アクリレート、チオビスフェノールのジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリンのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ダイマー酸ジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメチロールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンのアルキレンオキサイド付加物のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのトリおよびテトラアクリレート、ペンタエリスリトールのアルキレンオキサイド付加物のトリおよびテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサおよびペンタアクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、末端に(メタ)アクリロイル基を有するシリコーン樹脂等が挙げられる。
【0089】
ポリエステル(メタ)アクリレートとしては、ポリエステルポリオールと(メタ)アクリル酸との脱水縮合物が挙げられる。ポリエステルポリオールとしては、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、シクロヘキサンジメチロール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、およびトリメチロールプロパン等の低分子量ポリオール、並びにこれらのアルキレンオキシド付加物等のポリオールと、アジピン酸、コハク酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸およびテレフタル酸等の二塩基酸またはその無水物等の酸成分とからの反応物等が挙げられる。また、各種デンドリマー型ポリオールと(メタ)アクリル酸との脱水縮合物が挙げられる。
【0090】
エポキシ(メタ)アクリレートとしては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸付加物、水素添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸付加物、フェノールまたはクレゾールノボラック型エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸付加物、ビフェニル型エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸付加物、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルのジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、ポリブタジエンのジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、ポリブタジエン内部エポキシ化物の(メタ)アクリル酸付加物、エポキシ基を有するシリコーン樹脂の(メタ)アクリル酸付加物、リモネンジオキサイドの(メタ)アクリル酸付加物、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートの(メタ)アクリル酸付加物等が挙げられる。
【0091】
ウレタン(メタ)アクリレートとしては、有機ポリイソシアネートとヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートを付加反応させた化合物や、有機ポリイソシアネートとポリオールとヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートを付加反応させた化合物が挙げられる。
ここで、ポリオールとしては、低分子量ポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール等が挙げられる。
低分子量ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメチロール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、およびグリセリン等が挙げられる。
ポリエーテルポリオールとしては、ポリプロピレングリコールやポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
ポリエステルポリオールとしては、これら低分子量ポリオールおよび/またはポリエーテルポリオールと、アジピン酸、コハク酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸およびテレフタル酸等の二塩基酸またはその無水物等の酸成分との反応物が挙げられる。
有機ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、およびイソホロンジイソシアネート等が挙げられる。
ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートや、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有多官能(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0092】
以上列挙した不飽和化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0093】
組成物には、透明性を維持しながら硬化時の反りを低減させる目的等で、有機ポリマーを配合することもできる。好適なポリマーとしては、(メタ)アクリル系ポリマーが挙げられ、好適な構成モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、グリシジル(メタ)アクリレート、N−(2−(メタ)アクリロキシエチル)テトラヒドロフタルイミド等が挙げられる。(メタ)アクリル酸を共重合したポリマーの場合、グリシジル(メタ)アクリレートを付加させて(メタ)アクリロイル基をポリマー鎖に導入してもよい。
【0094】
<基材>
本発明の車両用部材において、樹脂基材は、樹脂製であればその材質および形状に特に限定はない。たとえば、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、エポキシ樹脂およびポリウレタン樹脂等が挙げられる。中でも、ポリカーボネートが好ましい。ポリカーボネートは、十分な透明性と耐衝撃性を有するため、車両用の窓ガラスとして好適である。
【0095】
<保護膜>
保護膜の膜厚が厚いほど耐候性は向上するが、保護膜の外観および生産性の観点から、厚くするのは望ましくない。耐候性、外観および生産性を考慮すると、保護膜の膜厚を5〜50μmさらには10〜40μmとするのが望ましい。
なお、本発明の車両用部材では、樹脂基材と保護膜との間に下塗り層などを形成することなく、優れた密着性が発揮される。
【0096】
<車両用部材の製造方法>
以下に、本発明の車両用部材の製造方法を説明する。本発明の車両用部材の製造方法は、主として、調製工程、塗布工程および硬化工程を含む。
【0097】
調製工程は、各成分を所定の配合割合にして上記の組成物を調製する工程である。組成物は、既に説明した(A)〜(F)成分、必要に応じて(G)成分および(H)成分などのその他の成分を、所定の量で秤量し、攪拌・混合して製造することができる。
【0098】
塗布工程は、樹脂基材の表面の少なくとも一部に組成物を塗布する工程である。
組成物の塗装方法は、常法に従えばよい。たとえば、スプレー法、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法、フローコート法などが好ましく、基材の形状などに応じて選択するとよい。このとき、基材の表面が組成物に長時間さらされないようにすると、有機溶剤による基材の劣化が抑制される。
塗装により形成する塗膜の膜厚は、組成物に含まれる固形分の割合にもよるが、得られる保護膜の厚さに応じて適宜選択すればよい。たとえば、塗膜(乾燥および硬化前)の膜厚を6〜100μmとするとよい。なお、乾燥後あるいは硬化後の厚さが不十分であれば、さらに塗布から硬化までの工程を繰り返し行えばよい。
【0099】
塗布工程と硬化工程との間に、塗膜を乾燥させる乾燥工程を行ってもよい。乾燥工程は、(F)成分を自然乾燥または加熱により乾燥させるとよい。
塗膜の乾燥温度は、樹脂基材の耐熱性に応じて適宜選択すればよく、樹脂の軟化点以下である。たとえば、樹脂基材がポリカーボネート樹脂の場合、50〜120℃の範囲とするのが好ましい。
【0100】
硬化工程は、組成物(塗膜)を硬化させて樹脂基材の表面に保護膜を形成する工程である。
組成物が光硬化型組成物である場合は、組成物を樹脂基材に塗布した後乾燥し、紫外線等の光を照射するとよい。好ましい製造方法としては、乾燥後の樹脂基材を高温で維持した状態で光を照射する方法が挙げられる。
組成物が光硬化型組成物である場合において、組成物を乾燥させた後、紫外線等を照射する際の温度としては、基板材料の性能維持温度以下であれば特に限定されるものではないが、50℃〜200℃の範囲が好ましい。たとえば、ポリカーボネート樹脂の場合、50〜120℃の範囲とする事が好ましく、より好ましくは60〜110℃、さらに好ましくは70〜100℃、特に好ましくは80〜100℃である。紫外線を照射する際の樹脂基材の温度を50〜120℃の範囲に維持することで、保護膜の耐摩耗性を高めることができる。
【0101】
光としては、紫外線および可視光線が挙げられるが、紫外線が特に好ましい。
紫外線照射装置としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、UV無電極ランプ、LED等が挙げられる。UV無電極ランプの場合、直流電源電流による新しいタイプのものも好適に使用することができる。
照射エネルギーは、活性エネルギー線の種類や配合組成に応じて適宜設定すべきものであるが、一例として高圧水銀ランプを使用する場合を挙げると、UV−A領域の照射エネルギーで100〜10,000mJ/cm2が好ましく、1,000〜6,000mJ/cm2がより好ましい。
【0102】
組成物が熱硬化型組成物である場合は、組成物を樹脂基材に塗布した後乾燥し、さらに加熱するとよい。加熱温度としては、基板材料の性能維持温度以下であれば特に限定されるものではないが、80〜200℃が好ましい。
加熱時間としては、10分以上120分以下が好ましい。生産性の観点からであれば、60分以下さらには30分以下とするとよい。
【0103】
なお、組成物の硬化は、大気中で行ってもよいし、真空中、不活性ガス雰囲気中で行ってもよい。保護膜の性能上、真空中または不活性ガス雰囲気中が好ましいが、生産性の面から大気中で行ってもよい。
本明細書において乾燥および加熱の温度は、塗膜の表面温度であって、乾燥または加熱の雰囲気温度にほぼ等しい。
【0104】
本発明の車両用部材の用途としては、自動車、産業車両、パーソナルビークル、自走可能な車体、鉄道などの車両用内外装部材、車両用外板および樹脂ウィンドウが挙げられる。
外装部材としては、ドアモール、ドアミラーのフレーム枠、ホイールキャップ、スポイラー、バンパー、ウィンカーレンズ、ピラーガーニッシュ、リアフィニッシャー、ヘッドランプカバー等が挙げられる。
内装部材としては、インストルメントパネル、コンソールボックス、メーターカバー、ドアロックペゼル、ステアリングホイール、パワーウィンドウスイッチベース、センタークラスター、ダッシュボード、ボンネット等が挙げられる。
外板としては、フロントフェンダー、ドアパネル、ルーフパネル、フードパネル、トランクリッド、バックドアパネル等が挙げられる。
樹脂ウィンドウとしては、サンルーフ、フロントガラス、サイドガラス、リアガラス、リアクウォーターガラス、リアドアクウォーターガラス等が挙げられる。
【0105】
以上、本発明の車両用部材の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0106】
以下に、実施例および比較例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
以下において「部」とは質量部を意味し、「%」とは質量%を意味する。また、上記(A)成分に該当しない(A)成分以外の多官能ウレタン(メタ)アクリレートを(A)’成分、上記(C)成分に該当しない(C)成分以外のコロイダルシリカ(分散媒を除いた不揮発性成分)を(C)’成分という。
【0107】
○製造例1:(A)成分の製造(HDI3−HBA)
攪拌装置および空気の吹き込み管を備えた3Lセパラブルフラスコに、ヘキサメチレンジイソシアネートのヌレート型三量体を主成分とするイソシアネート化合物〔旭化成ケミカルズ(株)製デュラネートTPA−100。NCO含有量23%。〕1369.5g(NCO7.5モル)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール(以下、「BHT」という)1.22g、ジブチルスズジラウレート(以下、「DBTL」という)0.73gを仕込み、液温を50〜70℃で攪拌しながら、4−ヒドロキシブチルアクリレート(以下、「HBA」という)1080g(7.5モル)を滴下した。
滴下終了後、80℃で4時間攪拌し、反応生成物のIR(赤外吸収)分析でイソシアネート基が消失していることを確認して反応を終了し、イソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物を得た。以下、この反応生成物を「HDI3−HBA」と呼ぶ。
HDI3−HBAは、前記一般式(1)において、R1、R2およびR3が全てテトラメチレン基で、R4、R5およびR6が全て水素原子である化合物に該当する。
【0108】
○製造例2:(A)’成分の製造(IPDI−M305)
攪拌装置および空気の吹き込み管を備えた2Lセパラブルフラスコに、ペンタエリスリトールのトリおよびテトラアクリレート〔東亞合成(株)製アロニックスM−305。以下、M−305という。〕993g(トリアクリレート2モル含有)、BHTの0.61g、DBTLの0.36gを仕込み、液温を70〜75℃で攪拌しながら、イソホロンジイソシアネート(以下、「IPDI」という)の222g(1.0モル)を滴下した。
滴下終了後、85℃で2時間攪拌し、反応生成物のIR(赤外吸収)分析でイソシアネート基が消失していることを確認して反応を終了し、多官能ウレタンアクリレートを得た。
以下、この反応生成物を「IPDI−M305」と呼ぶ。
【0109】
○製造例3:(c1)成分の製造(THPI−アルコキシシラン)
撹拌器を備えた3Lセパラブルフラスコに、トルエン1119g、3,4,5,6−テトラヒドロフタル酸無水物456g(3.0mol)を仕込み、室温で撹拌しながら窒素下で、3−アミノプロピルトリエトキシシラン663g(3.0mol)を滴下した。滴下終了後、エタノールが留出するまで昇温し、次いで反応液を85〜110℃の範囲に保ちながら4時間反応させた。
反応終了後、フラスコを80℃のオイルバスで加熱しながらトルエンやエタノール等の低沸点成分を減圧留去し、アルコキシシラン化合物(c1)を合成した。以下、この反応生成物を「THPI−アルコキシシラン」と呼ぶ。
【0110】
得られたTHPI−アルコキシシランの構造は、1H−NMRスペクトルより、前記一般式(3)において、R13がエチル基、R14が1,3−プロピレン基(トリメチレン基)、zが1.2の化合物であることを確認した。
THPI−アルコキシシランは、後述の製造例4における原料(c1)として使用した。
【0111】
○製造例4:(C)成分の製造(THPI−シリカ)
撹拌器を備えた3Lセパラブルフラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテル(以下、PGMという)960g、水23.6g、およびイソプロピルアルコール(以下、IPAという)分散コロイダルシリカ〔日産化学工業(株)製IPA−ST、平均粒子径10〜15nm(BET法による比表面積から算出した値)、固形分30%、IPA70%含有。以下、単に「IPA−ST」という。〕800gを仕込み、撹拌均一化後、THPI−アルコキシシラン189gを仕込んで室温で攪拌溶解した。このとき、(c1)成分と(c2)成分の質量比は44:56であった。
このコロイド分散液を窒素下で80℃に加熱して4時間反応させた後、不揮発性成分が35%となるまでIPAや水等を留去して濃縮した。次いで、PGM640gを加え、反応系中に残存する少量の水等をPGM等と共に留去して不揮発性成分35%の反応生成物を得た。以後、ここで得られた反応生成物のうち、溶剤等を除いた不揮発性成分〔(C)成分〕を「THPI−シリカ」と呼ぶ。
【0112】
<光硬化型コーティング剤組成物の調製>
表1および表3に示す成分を常法に従い攪拌・混合し、光硬化型コーティング剤組成物を製造した。表1に各実施例の組成物(#E1〜E4)、表3に各比較例の組成物(#C1〜C8)を示した。
なお、表1および表3の各成分の数値は、質量部数を表す。また、表中の略称は、以下の化合物を表す。
【0113】
○略称
・(A)成分
「HDI3−HBA」:製造例1の反応生成物。
・(A)’成分
「IPDI−M305」:製造例2の反応生成物。
・(B)成分
「M−315」:東亞合成(株)製アロニックスM−315;トリス(アクリロイルオキシエチル)イソシアヌレート。前記一般式(2)において、R7、R8およびR9がエチレン基であり、R10、R11およびR12が水素原子であり、n1、n2およびn3が1で、n1+n2+n3=3である化合物に該当。
・(C)成分
「THPI−シリカ」:製造例4の反応生成物(不揮発性成分)。
・(C)’成分
「アクリル−シリカ」:日産化学工業(株)製メチルエチルケトン(以下MEKという)分散アクリル修飾コロイダルシリカ、商品名MEK−AC−2101(平均粒子径10〜15nm(BET法による比表面積から算出した値)、固形分33%、MEK67%含有)中の不揮発性成分。
・(D)成分
「Irg−819」:BASF(株)製光ラジカル重合開始剤、商品名イルガキュア819;ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド。
・(E)成分
「RUVA−93」:大塚化学(株)製のメタクリロイル基を有するベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、商品名RUVA−93;2−[2−ヒドロキシ−5−(2−メタクリロイルオキシエチル)フェニル]−2H−ベンゾトリアゾール。
・(F)成分
「PGM」:プロピレングリコールモノメチルエーテル。
「MEK」:メチルエチルケトン。(前記(C)’成分「MEK−AC−2101」中のMEK。)
・(G)成分
「T−123」:BASF(株)製ヒンダードアミン系光安定剤、商品名チヌビン123;デカン二酸ビス(2,2,6,6−テトラメチル−1−(オクチロキシ)−4−ピペリジニル)エステル。
・(H)成分
「8019add」:東レ・ダウコーニング(株)製シリコーン系表面改質剤(レベリング剤)、商品名8019additive。有効成分100%。
【0114】
なお、コロイダルシリカの平均粒子径は、平均一次粒子径であって、「10〜15nm」との記載は、商品のロットバラツキも考慮したカタログ値を示す。
(E)成分および(G)成分の有効成分の構造を以下に示す。
【0115】
【化8】

【0116】
【化9】

【0117】
<保護膜の作製>
表1および表3に示す組成物を、10cm四方のポリカーボネート樹脂板の表面に、乾燥後の塗膜厚さが15〜35μm程度となるようにバーコータで塗布し、100℃の熱風乾燥機で10分間乾燥した後、すぐに(塗膜表面温度90℃で)紫外線照射を行って、樹脂板の表面に保護膜を備える試料(実施例1〜4および比較例1〜8)を作製した。
紫外線照射は、アイグラフィックス(株)製の高圧水銀ランプを使用し、EIT社製のUV POWER PUCKのUV−A領域で、ピーク照度400mW/cm2、1パス当りの照射エネルギー250mJ/cm2となるようランプ出力、ランプ高さ、およびコンベア速度を調整し、12パス(合計3000mJ/cm2)照射して実施した。
【0118】
得られた保護膜について、透明性、(初期)密着性、耐摩耗性、耐候性(耐候密着性および割れの有無)および耐擦傷性を、以下に示す方法で評価した。それらの評価結果を表2、表4および表5に示した。
【0119】
○初期密着性
保護膜にカッターナイフで縦横各11本の2mm間隔の切り込みを入れて100マスの碁盤目を形成し、この碁盤目上にニチバン(株)製のセロハンテープを貼り付け、JIS K5400に準じてセロハンテープを剥離した。セロハンテープ剥離後の残存膜の割合(つまり残存したマス目の数、単位:%)で密着性を評価した。
【0120】
○透明性
JIS K7136に準じて、濁度計NDH−2000(日本電色工業製)にて保護膜のヘイズH(%)を基材ごと測定した。Hの値が小さいほど、透明性良好と評価した。
【0121】
○耐摩耗性
ASTM D−1044に準拠し、テーバー式摩耗試験を行った。耐摩耗性は、テーバー式摩耗試験機を使用し、テーバー摩耗試験前後のヘイズの差ΔH(%)を測定して評価した。ここで、摩耗輪はCS−10F、荷重は各500g、回転数は500回とした。ΔH(%)が小さいものほど、耐摩耗性良好と評価した。
【0122】
○耐候性
JIS K5400に準じて、カーボンアーク式サンシャインウェザメーターにて5000時間の促進試験を行い、500時間ごとに密着性(耐候密着性)と割れの有無を評価した。なお、密着性は、保護膜にセロハンテープを貼り付けて剥がしたとき、膜が剥れなかったものを良好と判定した。また、割れは、目視観察により保護膜に割れが発見されなかったものを良好と判定した。結果を表2および表4に示した。各表には、密着性および割れについて良好と確認された保護膜に対して行われた促進試験の試験時間のうち最も長い時間数を記載し、時間数が大きいものほど耐候性良好と評価した。5000時間の促進試験後の評価が良好なものについては、「5000<」と記載した。
【0123】
○耐擦傷性
実施例1〜4、比較例3および比較例8に対しては、耐擦傷性を評価した。耐擦傷性は、保護膜に対して擦傷試験前後の光沢値(20°)の差を測定し、光沢保持率で評価した。
擦傷試験は、水で湿潤させた住友スリーエム(株)製研磨剤入りナイロンたわし(スコッチブライトNo.96)を使用して、荷重500gで保護膜を150往復擦傷して行った。擦傷試験前後の保護膜を(株)大栄科学精機製作所製、学振型染色物摩擦堅牢度試験機を使用して光沢保持率を測定した。測定結果を表5に示した。光沢保持率が高いものほど耐擦傷性が良好であることを表す。
【0124】
表2に示すように、実施例1〜4は、透明性、密着性、耐摩耗性、および耐候性に優れていた。これらのうち、#E1を用いて作製された実施例1は耐候密着性が5000時間と良好であった。また、#E1の(B)成分を15部から30部に増量し、その分(A)成分を低減した#E2を用いて作製された実施例2は、耐候密着性が5000時間を超えるまでに向上し、さらに耐摩耗性も向上した。(B)成分をさらに50部まで増量した#E3を用いて作製された実施例3は、耐摩耗性がさらに向上し、耐候性は実施例2と同様非常に優れていた。
塗膜厚さが薄くなった場合の耐候密着性を維持するため、(E)成分であるUV吸収剤を増量すると耐摩耗性が低下する。しかし、実施例4に示すように、(E)成分を7.5部、(C)成分を15部とすると、耐摩耗性は良好であり、耐候性は非常に良好であった。ここで、(C)成分とともに、(C)’成分であるアクリル修飾コロイダルシリカを併用した#E5を用いて作製された実施例5は、耐候密着性がやや低下した。
一方、表3に示すように、(A)成分を含まず、(B)成分が過剰である#C1を用いて作製された比較例1は、耐候密着性が劣っていた。また、(B)成分を含まない#C2を用いて作製された比較例2は初期密着性が不良であり、(C)成分を含まない#C3を用いて作製された比較例3は耐摩耗性が不良であり、(E)成分を含まない#E4を用いて作製された比較例4は耐候性が悪かった。(C)成分については、過剰に配合した#C5を用いて作製された比較例5では耐摩耗性が逆に悪化し、さらに耐候性も悪化した。以上のように、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(E)成分は、適切な量配合することが重要であった。
表3の比較例6は、無機微粒子を含まずとも耐摩耗性が良好な多官能ウレタンアクリレート((A)’成分)を使用した#C6を用いて作製されたが、耐候性が不良であった。この(A)’成分を、耐摩耗性向上剤として(C)成分の代わりに使用した#C7を用いて作製されたのが比較例7であるが、耐摩耗性も耐候性も不良であった。
表3の比較例8は、#E4の(C)成分(THPI−シリカ)を(C)’成分(アクリル−シリカ)に置き換えた#C8を用いた例であって、前述の特許文献4に記載の組成物に対応する。比較例8は、耐摩耗性は良好であるものの、耐候密着性が劣っていた。
【0125】
表5は、テーバー摩耗試験とは違った試験方法による耐擦傷性試験の結果である。表5に示すように、(C)成分も(C)’成分も含まない#C3を用いて作製された比較例3の光沢保持率は非常に悪かった。一方、表面修飾コロイダルシリカを使用した実施例1〜4および比較例8は良好な結果であった。そこで、(C)成分の含有割合が同じである#E1〜E3の組成物を用いて作製された実施例1〜3について、保護膜中のSi量を測定した。以下に、測定方法を説明する。
はじめに、各試料の周囲をエポキシ樹脂で固定した。その試料を、保護膜の膜厚が確認できるようになるまで研磨した。その後、研磨砥粒が分析値に及ぼす影響を無くすため、収束イオンビーム(FBI)を用いて、研磨により表れた保護膜の断面の観察部位を切削した。観察部位に対して、SEM/EDXによるSEM(走査電子顕微鏡)観察およびEDX分析(エネルギー分散型蛍光X線分析)を用い、保護膜の最表面から基材表面まで、膜の厚さ方向(基材表面と垂直な方向)に沿って点分析を実施し、膜表面からの深さの異なる各部位のSi濃度を得た。
図3に、SEM/EDXによる元素分析の結果を示した。図3は、保護膜の最表面および最表面から所定の深さの位置でのSi量(質量%)を示すグラフである。図3には、参考に、比較例1の最表面のSi濃度もあわせて示した。
【0126】
図3より、最表面でのSi量は、(B)成分の含有量が最も高い#C1を用いて作製された比較例1の保護膜が最も高い濃度を示した。そして、最表面のSi濃度は、(B)成分が多いほど高くなる傾向にあった。
SEM像より実測して算出した実施例1〜3の保護膜の膜厚は、順に、約31μm、約28μm、約23μmであった。図3のグラフから、いずれの保護膜も、基材表面の近傍においてSi濃度が減少してSiがほとんど検出されなくなることがわかった。実施例1では、保護膜の表面から20μmを越えたあたりでSi濃度が最大となり、それより深い位置では基材の表面に近づくにつれてSi濃度は減少した。実施例2では、保護膜の表面から約15μmの位置でSi濃度が最大となり、基材表面から3μm程度の間では、Si濃度は急激に減少した。実施例3では、保護膜の表面から約10μmの位置でSi濃度が最大となり、それより深い位置では基材の表面に近づくにつれてSi濃度は減少し、基材近傍ではほとんど検出されなかった。
なお、比較例1のSi分布は図3に示していないが、厚さ約25μmの保護膜のうち、表面から約2μmの位置でSi濃度が最大となった。表面からの深さが2〜6μmの範囲でSi濃度は急激に減少し、基材表面から10μmまでの領域ではSiはほとんど検出されなかった。つまり、(B)成分の含有量を高くすることで、Si濃度の高い部位が保護膜の表面に近づき、その結果、耐擦傷性を高めることができたと考えられる。
【0127】
図3のグラフの横軸、縦軸および各値を繋ぐ線により囲まれた範囲の面積を算出し、相対的なSi量を算出した。その結果、実施例1および実施例2では、保護膜を膜厚で半分にしたときの表面側膜と基材側膜とでSi量に大きな差はなかった。一方、実施例3では、表面側膜のSi量は、基材側膜のSi量の2倍以上であった。すなわち、(B)成分の含有量を40質量部以上さらには45〜55質量部とすることで、表面側膜のSi量を基材側膜のSi量よりも多くすることができることがわかった。
【0128】
【表1】

【0129】
【表2】

【0130】
【表3】

【0131】
【表4】

【0132】
【表5】

【0133】
<自動車用窓ガラス>
本発明の車両用部材を、自動車用窓ガラス(サンルーフ)として用いた具体例を、図1および図2を用いて説明する。
図1は、サンルーフを模式的に示す斜視図である。サンルーフは、窓ガラス1と、窓ガラス1の周縁部を支持する枠状のフレーム4と、からなる。窓ガラス1およびフレーム4の周縁部には、車内の気密を確保するために、可撓性材料から形成されたループ状のウェザーストリップ5が装着される。このサンルーフは、自動車のルーフパネルに形成された開口に、開閉自在に設けられる。
図2は、窓ガラス1を模式的に示す断面図である。窓ガラス1は、ポリカーボネート製のガラス本体2と、ガラス本体2の少なくとも車外側の表面に形成された保護膜3と、からなる。保護膜3は、組成物#E1〜#E4のいずれかを上記の手順で硬化させてなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材と、該樹脂基材の表面の少なくとも一部に形成された保護膜と、を備える車両用部材であって、
前記保護膜は、下記(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して、該(A)成分を20〜80質量部、該(B)成分を10〜70質量部、該(C)成分を1〜35質量部、(D)成分としてラジカル重合開始剤を0.1〜10質量部、(E)成分として紫外線吸収剤を1〜12質量部および(F)成分として有機溶剤を10〜1000質量部含有する硬化型コーティング剤組成物を硬化させてなることを特徴とする車両用部材。
(A)成分:
下記一般式(1)で表されるイソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物
【化1】

(一般式(1)において、R1、R2およびR3はそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の有機基を表し、R4、R5およびR6はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表す。)
(B)成分:
下記一般式(2)で表されるウレタン結合を有しないイソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物
【化2】

(一般式(2)において、R7、R8およびR9はそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の有機基を表し、R10、R11およびR12はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、n1、n2およびn3は、それぞれ独立して1〜3の数を表し、n1+n2+n3=3〜9である。)
(C)成分:
下記一般式(3)で表されるアルコキシシラン化合物(c1)とコロイダルシリカ(c2)とを、(c1)と(c2)の質量比を9:1〜1:9で反応させた反応生成物の不揮発性成分であって、(c1)で(c2)を化学修飾したものを含む。
【化3】

(一般式(3)において、R13は水素原子または1価の有機基を表し、R14は炭素数1〜6の2価の炭化水素を表し、zは0.1以上3以下の正の数を表す。また、zが3未満の場合に(c1)は縮合物を含み、該縮合物の1分子中のR13は2種以上の異なる基を含んでいてもよい。)
【請求項2】
前記(E)成分は、(メタ)アクリロイル基を有するベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を含む請求項1記載の車両用部材。
【請求項3】
前記(c1)は、平均一次粒子径が1〜100nmである請求項1または2記載の車両用部材。
【請求項4】
前記(A)成分において、一般式(1)におけるR1、R2およびR3がテトラメチレン基であり、R4、R5およびR6が水素原子である請求項1〜3のいずれかに記載の車両用部材。
【請求項5】
前記(B)成分において、一般式(2)におけるR7、R8およびR9がエチレン基であり、R10、R11およびR12が水素原子であり、n1、n2およびn3が1で、n1+n2+n3=3である請求項1〜4のいずれかに記載の車両用部材。
【請求項6】
前記硬化型コーティング剤組成物は、さらに(G)成分として、前記(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対してヒンダードアミン系光安定剤を0.05〜1.5質量部含有する請求項1〜5のいずれかに記載の車両用部材。
【請求項7】
前記硬化型コーティング剤組成物は、さらに(H)成分として、前記(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対してシリコーン系および/またはフッ素系表面改質剤を0.01〜1.0質量部含有する請求項1〜6のいずれかに記載の車両用部材。
【請求項8】
前記(D)成分が光ラジカル重合開始剤である請求項1〜7のいずれかに記載の車両用部材。
【請求項9】
前記(C)成分は、下記化学式(4)で表される二重結合を有するカルボン酸無水物にアミノプロピルトリアルコキシシランを付加させてアミック酸とする工程、
前記アミック酸を加熱により閉環させてマレイミド基とし、該閉環反応で発生する水を用いてアルコキシ基を加水分解縮合反応させ、前記一般式(3)で表されるアルコキシシラン化合物(c1)を得る工程、および、
得られた(c1)と平均一次粒子径が1〜100nmであるコロイダルシリカ(c2)とを、水を含む有機溶媒の存在下で加熱して反応させる工程、
を含む製造方法により得られる反応生成物の不揮発性成分である請求項1〜8のいずれかに記載の車両用部材。
【化4】

【請求項10】
前記保護膜は、前記樹脂基材の表面に直接接触している請求項1〜9のいずれかに記載の車両用部材。
【請求項11】
車両の樹脂ウィンドウである請求項1〜10のいずれかに記載の車両用部材。
【請求項12】
車両の内外装部材である請求項1〜10のいずれかに記載の車両用部材。
【請求項13】
下記(A)成分、(B)成分、および(C)成分の合計100質量部に対して、該(A)成分を20〜80質量部、該(B)成分を10〜70質量部、該(C)成分を1〜35質量部、(D)成分としてラジカル重合開始剤を0.1〜10質量部、(E)成分として紫外線吸収剤を1〜12質量部および(F)成分として有機溶剤を10〜1000質量部含有する硬化型コーティング剤組成物を調製する調製工程と、
樹脂基材の表面の少なくとも一部に前記硬化型コーティング剤組成物を塗布する塗布工程と、
前記硬化型コーティング剤組成物を硬化させて前記樹脂基材の表面に保護膜を形成する硬化工程と、
を含むことを特徴とする耐候性および耐摩耗性に優れた車両用部材の製造方法。
(A)成分:
下記一般式(1)で表されるイソシアヌル環含有ウレタン(メタ)アクリレート化合物
【化5】

(一般式(1)において、R1、R2およびR3はそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の有機基を表し、R4、R5およびR6はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表す。)
(B)成分:
下記一般式(2)で表されるウレタン結合を有しないイソシアヌル環含有トリ(メタ)アクリレート化合物
【化6】

(一般式(2)において、R7、R8およびR9はそれぞれ独立して炭素数2〜10の2価の有機基を表し、R10、R11およびR12はそれぞれ独立して水素原子またはメチル基を表し、n1、n2およびn3は、それぞれ独立して1〜3の数を表し、n1+n2+n3=3〜9である。)
(C)成分:
下記一般式(3)で表されるアルコキシシラン化合物(c1)とコロイダルシリカ(c2)とを、(c1)と(c2)の質量比を9:1〜1:9で反応させた反応生成物の不揮発性成分であって、(c1)で(c2)を化学修飾したものを含む。
【化7】

(一般式(3)において、R13は水素原子または1価の有機基を表し、R14は炭素数1〜6の2価の炭化水素を表し、zは0.1以上3以下の正の数を表す。また、zが3未満の場合に(c1)は縮合物を含み、該縮合物の1分子中のR13は2種以上の異なる基を含んでいてもよい。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−53282(P2013−53282A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194304(P2011−194304)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【特許番号】特許第5146790号(P5146790)
【特許公報発行日】平成25年2月20日(2013.2.20)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】