車両用部材の取付構造
【課題】車両用部材間の結合剛性を確保しつつ、該部材間での振動伝達を効果的に抑制することができる車両用部材の取付構造を提供する。
【解決手段】車両を構成する第1車両部材10と第2車両部材4との結合部における車両用部材の取付構造において、前記第1車両部材10と前記第2車両部材4との結合部に、第1車両部材10と第2車両部材4とが振動減衰部材30を介して結合された柔結合部Fと、第1車両部材10と第2車両部材4とが当接した状態で又は非振動減衰性の部材を介して剛結合された剛結合部Rとを設け、該柔結合部Fと剛結合部Rとを近接させて設ける。
【解決手段】車両を構成する第1車両部材10と第2車両部材4との結合部における車両用部材の取付構造において、前記第1車両部材10と前記第2車両部材4との結合部に、第1車両部材10と第2車両部材4とが振動減衰部材30を介して結合された柔結合部Fと、第1車両部材10と第2車両部材4とが当接した状態で又は非振動減衰性の部材を介して剛結合された剛結合部Rとを設け、該柔結合部Fと剛結合部Rとを近接させて設ける。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を構成する第1車両部材と第2車両部材との結合部における車両用部材の取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両における乗り心地を向上させるために、車両用部材、特に、乗員に振動が直接伝わるシートやハンドル等の部材の振動を減衰させるための種々の技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1及び2には、車両用シートの振動を減衰させる技術が開示されている。
【0004】
具体的に、特許文献1には、フロアパネルの上に弾性体を介してパネル状の支持部材を取り付け、該支持部材上にシートを設置する技術が開示されている。この特許文献1の技術によれば、フロアパネルと前記支持部材との間に介在する弾性体により、フロア側から伝達される振動が減衰されるため、シートに伝達される振動が抑制され、乗員の乗り心地が向上する。
【0005】
また、特許文献2には、シートを支持するシートレッグが、シートレールから上方へ突設された筒体と、シートから下方へ突設されるとともに前記筒体内に収容される支持棒とを備え、該筒体と支持棒との間に、弾性体からなる防振部材を介装する技術が開示されている。この特許文献2の技術によっても、フロア側から伝達される振動が前記防振部材によって減衰されるため、シートに伝達される振動を抑制して、乗員の乗り心地を高める効果を発揮し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭59−162364号公報
【特許文献2】特開2010−132178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1及び2の技術による車両用部材同士の結合部には、全体に亘って両部材間に弾性体が介在するため、結合剛性が低下する問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、車両用部材間の結合剛性を確保しつつ、該部材間での振動伝達を効果的に抑制することができる車両用部材の取付構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明に係る車両用シートの取付構造は、次のように構成したことを特徴とする。
【0010】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、車両を構成する第1車両部材と第2車両部材との結合部における車両用部材の取付構造であって、
前記第1車両部材と前記第2車両部材との結合部は、第1車両部材と第2車両部材とが振動減衰部材を介して結合された柔結合部と、第1車両部材と第2車両部材とが当接した状態で又は非振動減衰性の部材を介して剛結合された剛結合部とを備え、
該柔結合部と剛結合部とが近接させて設けられていることを特徴とする。
【0011】
なお、本明細書において、「近接」という用語を用いた部材同士の配置関係には、部材間に隙間がある配置関係のみならず、部材同士が当接した配置関係も含むものとする。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、
前記振動減衰部材は、粘弾性部材からなる粘弾性部材層と、前記粘弾性部材に比べて剛性が高い高剛性部材からなり、前記粘弾性部材層に積層された高剛性部材層とを有することを特徴とする。
【0013】
さらに、請求項3に記載の発明は、前記請求項2に記載の発明において、
前記高剛性部材層のせん断剛性は、前記粘弾性部材層のせん断剛性の50倍以上であることを特徴とする。
【0014】
またさらに、請求項4に記載の発明は、前記請求項2または請求項3に記載の発明において、
前記第1車両部材は、車両用シートを車体のフロア構成部材に取り付けるためのシート取付部材であり、
前記第2車両部材は前記フロア構成部材であり、
前記柔結合部において、前記振動減衰部材は、前記粘弾性部材層が前記フロア構成部材に接し且つ前記高剛性部材層が前記シート取付部材に接するように配設されていることを特徴とする。
【0015】
また、請求項5に記載の発明は、前記請求項2または請求項3に記載の発明において、
前記高剛性部材層は、2つの前記粘弾性部材層に挟まれて設けられ、
該2つの粘弾性部材層は互いに等しい厚みを有することを特徴とする。
【0016】
さらに、請求項6に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、
前記粘弾性部材は板状部材であり、
該粘弾性部材の内部に、該粘弾性部材に比べて剛性が高い高剛性部材が埋め込まれて設けられていることを特徴とする。
【0017】
またさらに、請求項7に記載の発明は、前記請求項6に記載の発明において、
前記粘弾性部材は板状部材であり、
該粘弾性部材は、端面全体が他の部材に接触しない状態で、前記第1車両部材と前記第2車両部材とに挟まれて配設され、
前記高剛性部材は、前記粘弾性部材の内部において前記端面の近傍部を避けるように配設されていることを特徴とする。
【0018】
ただし、上記請求項7に記載の発明は、「高剛性部材の全体が粘弾性部材の端面近傍部を避けて配設される構成」のみならず、「高剛性部材の大部分は粘弾性部材の端面近傍部を避けて配設されるが、一部は粘弾性部材の端面近傍部に配設される構成」を含むものとする。
【0019】
また、請求項8に記載の発明は、前記請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の発明において、
前記減衰部材のせん断剛性は、前記粘弾性部材のせん断剛性の1.1倍以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
まず、請求項1に記載の発明によれば、第1車両部材と第2車両部材とが、互いに近接する剛結合部と柔結合部とを併用して結合されることにより、両部材の結合剛性を維持しつつ、柔結合部において振動減衰部材が振動エネルギーをひずみエネルギーとして吸収することにより、両部材間で伝達される振動レベルを効果的に低減できる。
【0021】
また、請求項2に記載の発明によれば、粘弾性部材層と高剛性部材層とが積層されて前記振動減衰部材が構成されるため、粘弾性部材層と高剛性部材層との間にせん断剛性の差が存在することにより、これら両層の境界近傍に応力集中が生じやすくなる。これにより、振動減衰部材が粘弾性部材のみからなる場合に比べて、粘弾性部材層がせん断方向に変形しやすくなるため、該粘弾性部材層で吸収されるひずみエネルギーを増大させることができ、これにより、振動抑制効果を高めることができる。
【0022】
さらに、請求項3に記載の発明を請求項2に記載の発明に適用すれば、高剛性部材層のせん断剛性が、粘弾性部材層のせん断剛性の50倍以上とされることで、該粘弾性部材層で吸収されるひずみエネルギーが効果的に高められ、振動レベルの低減を効果的に実現することができる。
【0023】
またさらに、請求項4に記載の発明を請求項2または請求項3に記載の発明に適用すれば、フロア構成部材とシート取付部材との間の柔結合部において、粘弾性部材層がフロア構成部材に接し且つ高剛性部材層がシート取付部材に接するように振動減衰部材が配設されることで、フロア構成部材からシート取付け部材に伝達される振動レベルを効果的に低減することができる。したがって、車両用シートの振動を効果的に抑制することができ、乗り心地を向上させることができる。また、フロア構成部材とシート取付け部材との結合力を従来の構造と等しくすることにより、シートを支持する部分の固有振動数を維持することができ、これにより、別の周波数での新たな共振の発生を防止することができる。
【0024】
また、請求項5に記載の発明を請求項2または請求項3に記載の発明に適用すれば、高剛性部材層を挟む両側の粘弾性部材層の厚みが互いに等しいことにより、該両側の粘弾性部材層で均等にひずみエネルギーが吸収されるため、振動減衰部材全体としてひずみエネルギーを効果的に吸収することができ、振動抑制効果の一層の向上を図ることができる。
【0025】
さらに、請求項6に記載の発明を請求項1に記載の発明を適用すれば、板状の粘弾性部材の内部に、該粘弾性部材に比べて剛性が高い高剛性部材が埋め込まれて設けられるため、粘弾性部材と高剛性部材との間にせん断剛性の差が存在することにより、これら両部材の境界近傍に応力集中が生じやすくなる。これにより、振動減衰部材が粘弾性部材のみからなる場合に比べて、粘弾性部材がせん断方向に変形しやすくなるため、該粘弾性部材で吸収されるひずみエネルギーを増大させることができ、これにより、振動抑制効果を高めることができる。
【0026】
またさらに、請求項7に記載の発明を請求項6に記載の発明に適用すれば、前記高剛性部材が、前記粘弾性部材の内部において該粘弾性部材の端面の近傍部を避けるように配設されることにより、上記のひずみエネルギーの増大を効果的に実現することができる。
【0027】
また、請求項8に記載の発明によれば、振動減衰部材のせん断剛性を、粘弾性部材のせん断剛性の1.1倍以上とすることにより、振動減衰部材に吸収されるひずみエネルギーを効果的に増大させることができ、良好な振動抑制効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用部材の取付構造を示す平面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】実施例1のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図4】実施例1のシミュレーション対象の振動減衰部材を示す斜視図である。
【図5】実施例2のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図6】実施例2のシミュレーション対象の振動減衰部材を示す斜視図である。
【図7】実施例3のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図8】実施例3のシミュレーション対象の振動減衰部材を示す断面図である。
【図9】実施例4のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図10】実施例4のシミュレーション対象の振動減衰部材を示す断面図である。
【図11】実施例5のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、「前」、「後」、「前後」、「右」、「左」、「左右」等の方向を示す用語は、特段の説明がある場合を除いて、車両の進行方向を「前」とした場合の方向を指すものとする。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用部材の取付構造を示す平面図であり、図2は、図1のA−A線断面図である。
【0031】
図1及び図2において、符号2はフロアパネルを示し、該フロアパネル2の上面に、シートレール10の後端部を支持するためのシートブラケット4が例えば溶接により取り付けられている。シートブラケット4は、フロアパネル2の上面に取り付けられる例えば前後一対の取付プレート部5,6と、該取付プレート部5,6からそれぞれ立ち上がる前後一対の立ち上がりプレート部7,8と、これらの立ち上がりプレート部7,8の上端部間に跨る上面プレート部9とを有する。
【0032】
シートレール10は、図示しない車両用シートを前後方向にスライド可能に支持するために車両前後方向に延設されており、上向きに開放した断面形状を有する。シートレール10は、底部11と、該底部11の左右両端からそれぞれ立ち上がる左右一対の側壁部12,13と、該側壁部12,13の上端からそれぞれ左右方向内側へ突出する左右一対の上側水平部14,15と、該上側水平部14,15の先端からそれぞれ垂下する左右一対の下向き片16,17とを有する。
【0033】
このシートレール10は、シート毎に左右一対設けられており、左右いずれのシートレール10も、同様の構成でフロアパネル2に固定されている。また、各シートレール10の前端部は、例えば図示しないクロスメンバを介してフロアパネル2に固定され、各シートレール10の後端部は、シートブラケット4を介してフロアパネル2に固定される。以下、シートレール10の後端部とシートブラケット4との結合部の構成について説明する。
【0034】
シートレール10とシートブラケット4との結合部には、剛結合部Rと柔結合部Fとが近接させて設けられている。
【0035】
剛結合部Rでは、シートレール10の底部11の後端部下面に突設された非振動減衰性のスペーサ22と、シートブラケット4の上面プレート部9とが、互いに当接した状態でボルト20とナット21により剛結されている。
【0036】
なお、本実施形態において、スペーサ22は、予め溶接されることによりシートレール10に一体に設けられているが、このスペーサ22に代えて、シートレール10とは別体の非振動減衰性のスペーサを用いるようにしてもよく、また、スペーサを介在させることなくシートレール10の底部11とシートブラケット4とを当接させた状態で結合するようにしてもよい。また、剛結合部Rでは、ボルト20を用いた剛結合に代えて、溶接による剛結合を行うようにしてもよい。
【0037】
一方、柔結合部Fでは、シートレール10の底部11と、シートブラケット4の上面プレート部9とが振動減衰部材30を介して柔結合されている。
【0038】
振動減衰部材30は、振動エネルギーをひずみエネルギーとして吸収することにより振動を減衰可能な部材であり、本実施形態では、互いに積層された粘弾性部材層31と高剛性部材層32とを有する。
【0039】
粘弾性部材層31は粘弾性部材からなる。該粘弾性部材の具体的な材料は特に限定されるものでないが、例えば、シリコーン系材料またはアクリル系材料が使用される。一方、高剛性部材層32は、前記粘弾性部材に比べて剛性が高い高剛性部材からなる。該高剛性部材の具体的な材料は特に限定されるものでないが、例えば、鉄等の金属、または樹脂が用いられる。高剛性部材層32は、粘弾性部材層31の上面に積層されており、この接合面において、両層31,32は、接着剤または粘弾性部材自身の粘着性により互いに接着されている。
【0040】
振動減衰部材30は、粘弾性部材層31の下面において、接着剤または粘弾性部材自身の粘着性によりシートブラケット4の上面プレート部9に接合されている。一方、振動減衰部材30の高剛性部材層32の上面は、シートレール10の底部11に対して当接して設けられているが、接着はされていない。これにより、シートレール10の取付け作業の際、シートブラケット4に取り付けられた振動減衰部材30の上にシートレール10を載置した後、該シートレール10を容易に位置調整できるようになっている。
【0041】
また、振動減衰部材30は、粘弾性部材層31を構成する粘弾性部材が圧縮された状態でシートレール10とシートブラケット4との間に介装されることが好ましく、これにより、これら両部材4,10に対する高い密着力を得ることができる。
【0042】
このように、柔結合部Fでは、シートレール10とシートブラケット4との間に振動減衰部材30が介在するため、振動によりシートブラケット4及び/又はシートレール10が変位したとき、該部材4,10の変位に追従して振動減衰部材30の粘弾性部材層31が変形し、これにより、振動を減衰させるようになっている。しかも、振動減衰部材30は、粘弾性部材層31と高剛性部材層32とが積層されて構成されているため、これら両層31,32間にせん断剛性の差が存在することにより、振動減衰部材30が粘弾性部材のみからなる場合に比べて、粘弾性部材層31がせん断方向に変形しやすい構造となっている。そのため、振動減衰部材30は、粘弾性部材層31でひずみエネルギーを効果的に吸収することができ、高い振動減衰効果を発揮できるようになっている。
【0043】
また、シートレール10とシートブラケット4とは、剛結合部Rと柔結合部Fとを併用して結合されているため、両部材4,10の結合力を維持しつつ、柔結合部Fにおいて振動減衰部材30がフロア側の振動エネルギーをひずみエネルギーとして吸収することにより、シートレール10に支持された車両用シートの振動レベルを低減できる。したがって、該車両用シートの振動を効果的に抑制することができ、乗り心地を向上させることができる。
【0044】
なお、剛結合部Rと柔結合部Fとは、シートレール10とシートブラケット4との結合剛性が従来の構造の結合剛性と等しくなるように設けることが好ましい。この場合、車両用シートを支持する部分の固有振動数を維持することができ、これにより、別の周波数での新たな共振の発生を防止することができる。
【0045】
続いて、剛結合部Rと柔結合部Fの位置関係について説明する。
【0046】
先ず、剛結合部Rは、シートレール10のスペーサ22の下面とシートブラケット4の上面プレート部9との当接部にボルト20の軸方向からボルト着座面を投影した部分である。なお、スペーサ22と上面プレート部9とを溶接により剛結合する場合、該溶接部が剛結合部Rとなる。
【0047】
該剛結合部Rとの関係において、柔結合部Fの配置は次の観点に基づいて設定される。
【0048】
振動減衰部材30による減衰効果は、振動減衰部材30に吸収されるひずみエネルギーを大きくすると高くなる。そのため、柔結合部Fは、振動減衰部材30が吸収するひずみエネルギーが最大となる部位を含む部分に設定することが望ましく、これにより、振動レベルを効果的に低減することができる。
【0049】
振動減衰部材30に吸収されるひずみエネルギーは、振動減衰部材30の変形量が大きいときほど大きくなる。また、振動減衰部材30の変形量は、振動減衰部材30が変形できる自由度(変形自由度)と、振動減衰部材30を変形させる力(振動減衰部材30にかかる応力)とに比例する。
【0050】
そのため、柔結合部Fが剛結合部Rに近すぎると、振動減衰部材30の変形自由度が小さすぎて、十分な減衰効果を得ることができない。逆に、柔結合部Fが剛結合部Rから遠すぎると、振動減衰部材30にかかる応力が小さすぎて、十分な減衰効果を得ることができない。よって、柔結合部Fは、剛結合部Rとの位置関係において振動減衰部材30の変形自由度と振動減衰部材30にかかる応力との積が最大になる位置を含む部分に設けることが望ましく、これにより、振動減衰部材30による減衰効果を最大限に発揮させることができる。
【0051】
以上の観点に基づいて、柔結合部Fは、剛結合部Rとの位置関係において振動減衰部材30の変形自由度と振動減衰部材30にかかる応力との積が最大になる位置が含まれるように剛結合部Rの前方に近接させて配置されており、これにより、振動減衰部材30による減衰効果が最大限に発揮されるようになっている。
【0052】
なお、以上の説明では、シートレール10とシートブラケット4との結合部を例に挙げて本発明を説明したが、本発明は、シートレール10とシートブラケット4以外のフロア構成部材(例えばフロアパネル2)との結合部、シートレール10以外のシート取付部とシートブラケット4との結合部、又は、シートレール10以外のシート取付部とシートブラケット4以外のフロア構成部材との結合部にも等しく適用することができる。さらに、本発明は、シート取付部及びフロア構成部材以外の種々の車両用部材同士の結合部、例えば、車両用シートとシート取付部との結合部、又は、車幅方向に延設されたインパネメンバの先端部とヒンジピラーとの結合部等にも適用することができる。
【0053】
また、以上の説明は、振動減衰部材30が粘弾性部材層31と高剛性部材層32とからなる2層構造である場合について行ったが、本発明において、振動減衰部材30の構成はこれに限定されるものでない。例えば、本発明において、振動減衰部材30は、粘弾性部材層31又は高剛性部材層32の少なくとも一方を複数備えるように構成されてもよい。
【0054】
また、本発明において、振動減衰部材は、必ずしも層状の粘弾性部材と高剛性部材とで構成する必要はなく、例えば、板状の粘弾性部材の内部に高剛性部材を埋め込んで構成されるようにしてもよい。かかる構成によっても、粘弾性部材と高剛性部材との間にせん断剛性の差が存在することにより、振動減衰部材が粘弾性部材のみからなる場合に比べて、粘弾性部材がせん断方向に変形しやすくなるため、振動減衰部材により吸収されるひずみエネルギーを増大させることができ、振動抑制効果を高めることができる。
【0055】
以下、より好適な振動減衰部材30の構成について、シミュレーション結果を参照しながら説明する。
【0056】
[実施例1]
図3は、互いに積層された粘弾性部材層と高剛性部材層とを備えた振動減衰部材が第1の部材と第2の部材との間に介装された構造に関して、粘弾性部材層のせん断剛性Rmに対する高剛性部材層のせん断剛性Rsの比率(せん断剛性比r=Rs/Rm)と、せん断方向の振動が加えられたときに粘弾性部材層で吸収可能なひずみエネルギーの大きさとの関係を示すシミュレーション結果である。
【0057】
図3において、実線は、図4(a)に示す構造Aに係る振動減衰部材30についての上記シミュレーション結果を示し、破線は、図4(b)に示す構造Bに係る振動減衰部材30についての上記シミュレーション結果を示す。
【0058】
図4(a)に示すように、構造Aに係る振動減衰部材30は、互いに等しい厚みを有する2つの粘弾性部材層31により高剛性部材層32を挟んでなる3層構造を有する。一方、図4(b)に示すように、構造Bに係る振動減衰部材30は、粘弾性部材層31の上面に高剛性部材層32を積層してなる2層構造を有する。
【0059】
構造A及び構造Bのいずれについても、振動減衰部材30の端面全体が他の部材に接触しない状態で、振動減衰部材30の上面全体が第1の部材に相対移動不能に接し、振動減衰部材30の下面全体が第2の部材に相対移動不能に接した取付構造を想定して、図3に示すシミュレーション結果を得た。また、このシミュレーションでは、粘弾性部材層31及び高剛性部材層32の厚み、せん断弾性率及び面積を具体的に特定することなく、各層31,32のせん断剛性Rm,Rsの値を直接入力して計算を行った。
【0060】
図3に示すように、構造A及び構造Bのいずれのシミュレーション結果においても、粘弾性部材層31で吸収されるひずみエネルギーは、せん断剛性比rを10から50(図3の符号P1)まで上昇させると急激に大きくなり、せん断剛性比rを50から1000(図3の符号P2)まで上昇させると次第に緩やかな上昇となり、せん断剛性比rを1000よりも上昇させると略最大の大きさで安定する結果となった。よって、粘弾性部材層31で吸収されるひずみエネルギー、すなわち振動減衰部材30の振動吸収能力を効果的に高めるためには、高剛性部材層32のせん断剛性Rsは、粘弾性部材層31のせん断剛性Rmの50倍以上であることが好ましく、1000倍以上であることが望ましい。
【0061】
[実施例2]
図5は、高剛性部材層が上下両側の粘弾性部材層で挟まれてなる振動減衰部材が第1の部材と第2の部材との間に介装された構造に関して、振動減衰部材と第1又は第2の部材との当接面(以下、「拘束面」ともいう。)から高剛性部材層までの距離Lと、せん断方向の振動が加えられたときに粘弾性部材層で吸収可能なひずみエネルギーの大きさとの関係を示すシミュレーション結果である。
【0062】
図5において、実線は、図6(a)に示す構造Cに係る振動減衰部材30についての上記シミュレーション結果を示し、破線は、図6(b)に示す構造Dに係る振動減衰部材30についての上記シミュレーション結果を示す。
【0063】
図6(a)に示すように、構造Cに係る振動減衰部材30は、2つの粘弾性部材層31により1つの高剛性部材層32を挟んでなる3層構造を有する。一方、図6(b)に示すように、構造Dに係る振動減衰部材30は、3つの粘弾性部材層31と2つの高剛性部材層32とを交互に積層してなる5層構造を有する。
【0064】
構造C及び構造Dのいずれに係る振動減衰部材30も、厚みが18mmで、長辺が100mm、短辺が2mmの長方形の板状であるものとし、振動減衰部材30の端面全体が他の部材に接触しない状態で、振動減衰部材30の上面全体が第1の部材に相対移動不能に接し、振動減衰部材30の下面全体が第2の部材に相対移動不能に接した取付構造を想定して、図5に示すシミュレーション結果を得た。また、高剛性部材層32の厚みはいずれも1mmであるものとしてシミュレーションを行った。さらに、構造Cに係る振動減衰部材30に関して、前記拘束面から高剛性部材層32までの距離Lは、上下2つの拘束面のうち高剛性部材層32に近い方の拘束面から高剛性部材層32までの距離を指すものとする。一方、構造Dに係る振動減衰部材30に関しては、上側の拘束面から上側の高剛性部材層32までの距離と、下側の拘束面から下側の高剛性部材層32までの距離とがいずれも距離Lであるものとしてシミュレーションを行った。
【0065】
図5の符号P3に示すように、構造Cに係る振動減衰部材30については、拘束面から高剛性部材層32までの距離Lが9mmであるときに、粘弾性部材層31で吸収されるひずみエネルギーが最大となった。また、図5の符号P4に示すように、構造Dに係る振動減衰部材30については、拘束面から高剛性部材層32までの距離Lが6mmであるときに、粘弾性部材層31で吸収されるひずみエネルギーが最大となった。すなわち、構造C及び構造Dのいずれについても、高剛性部材層32を挟んだ両側の粘弾性部材層31の厚みが互いに等しいときに、粘弾性部材層31の振動吸収能力が効果的に高められることが分かった。これは、各粘弾性部材層31の厚みが互いに等しいことにより、各粘弾性部材層31において均等にひずみエネルギーが吸収されるためであると考えられる。よって、高剛性部材層32が2つの粘弾性部材層31で挟まれる構成において、振動減衰部材30による振動減衰効果を高めるためには、粘弾性部材層31の厚みを互いに等しくすることが好ましい。
【0066】
[実施例3]
図7は、図8(a)に示すように板状の粘弾性部材131の内部に柱状の高剛性部材132,133が埋め込まれて設けられた振動減衰部材130に関して、粘弾性部材131の端面141,143から高剛性部材132,133の中心までの距離Wと、せん断方向の振動が加えられたときに粘弾性部材131で吸収可能なひずみエネルギーの大きさとの関係を示すシミュレーション結果である。
【0067】
図8(a)に示す振動減衰部材130において、粘弾性部材131は、厚みが18mmで、長辺が100mm、短辺が2mmの長方形の板状であるものとし、第1〜第4の端面を有する。ただし、図8(a)の断面図には、第1〜第4の端面のうち第1の端面141及び第3の端面143のみが現れている。該粘弾性部材131の内部には、第1及び第3の端面141,143に平行な方向に沿って第2の端面から第4の端面に亘って延びる2本の柱状の高剛性部材132,133が埋め込まれている。各高剛性部材132,133は十字状の断面形状を有する。振動減衰部材30の厚さ方向において、高剛性部材132,133の十字の交差部(基準位置K)を粘弾性部材131の中央高さに一致させるとともに、第1の端面141から一方の高剛性部材132の前記基準位置Kまでの距離と、第3の端面143から他方の高剛性部材133の中心までの距離とを、互いに等しい距離Wに設定した。
【0068】
図8(b)は、図8(a)に係る高剛性部材132,133の断面形状の寸法を示す。図8(b)に示すように、高剛性部材132,133の厚みは1mm、前記基準位置Kから左右両端までの各寸法が4.5mm、基準位置Kから上端までの寸法が4.5mm、基準位置Kから下端までの寸法が3.5mmである。なお、高剛性部材132,133の奥行きの寸法は、粘弾性部材131と同じく2mmである。
【0069】
また、粘弾性部材131の端面全体が他の部材に接触しない状態で、粘弾性部材131の上面全体が第1の部材に相対移動不能に接し、粘弾性部材131の下面全体が第2の部材に相対移動不能に接した取付構造を想定して、図7に示すシミュレーション結果を得た。
【0070】
図7に示すように、粘弾性部材131の端面141,143から高剛性部材132,133の中心までの距離Wが12mm(符号P5)よりも小さいときは、粘弾性部材131で吸収され得るひずみエネルギーが小さく、前記距離Wが12mm以上であるときに、粘弾性部材131で吸収され得るひずみエネルギーが効果的に高められる結果となった。よって、振動減衰部材130の振動減衰効果を高めるためには、高剛性部材132,133は、粘弾性部材131の内部において第1及び第3の端面141,143の近傍部を避けるように配設することが好ましい。より具体的には、粘弾性部材131の端面141,143から高剛性部材132,133の中心までの距離Wは、粘弾性部材131の幅の12%以上の長さであることが好ましく、これにより、振動減衰部材130の振動吸収能力を効果的に高めることができる。
【0071】
[実施例4]
図9は、図10(a)に示す振動減衰部材230に関する、実施例3と同様のシミュレーション結果を示す。図10(a)に示す振動減衰部材230は、断面正方形の高剛性部材232,233を有し、この点を除けば、実施例3に係る振動減衰部材130(図8(a)参照)と同様の構造を有する。図10(b)に示すように、図10(a)に係る高剛性部材232,233の断面形状は、1辺が4mmの正方形である。なお、この高剛性部材232,233の奥行きの寸法は、粘弾性部材131と同じく2mmである。また、その他の条件も実施例3と同様に設定されて、図9に示すシミュレーション結果が得られた。
【0072】
図9に示すように、実施例3と同様、粘弾性部材131の端面141,143から高剛性部材232,233の中心までの距離Wが12mmよりも小さいとき、粘弾性部材131で吸収され得るひずみエネルギーが小さく、前記距離Wが12mm以上であるとき、粘弾性部材131で吸収され得るひずみエネルギーが効果的に高められる結果となった。よって、この結果からも、振動減衰部材230の振動減衰効果を高めるためには、高剛性部材232,233は、粘弾性部材131の内部において第1及び第3の端面141,143の近傍部を避けるように配設することが好ましいことが分かる。より具体的には、粘弾性部材131の端面141,143から高剛性部材232,233の中心までの距離Wは、粘弾性部材131の幅の12%以上の長さであることが好ましく、これにより、振動減衰部材230の振動吸収能力を効果的に高めることができる。
【0073】
また、高剛性部材232,233の断面形状を実施例4又は上記実施例3と異ならせてシミュレーションを実行しても、同様の結果が得られると考えられ、高剛性部材232,233は、その断面形状に関わらず、粘弾性部材131の内部において上記のように該粘弾性部材131の端面近傍部を避けるように配設することが好ましいと言える。
【0074】
[実施例5]
図11は、粘弾性部材と高剛性部材とを組み合わせて振動減衰部材を構成する場合において、粘弾性部材単体のせん断剛性Rmに対する振動減衰部材全体のせん断剛性Rmsの比率(せん断剛性比δ=Rms/Rm)と、強制振動が与えられたときに該振動減衰部材で吸収されるひずみエネルギーUmsがせん断剛性比δ=1(Rms=Rm)のときと比較して増加した比率(増加率α)との関係を示すシミュレーション結果である。せん断剛性比δ=1であるときのひずみエネルギーをUmとしたとき、増加率α=(Ums/Um−1)×100(%)となる。
【0075】
このシミュレーションは、板状の振動減衰部材の端面全体が他の部材に接触しない状態で、該振動減衰部材の上面全体が第1の部材に相対移動不能に接し、該振動減衰部材の下面全体が第2の部材に相対移動不能に接した取付構造を想定して行った。また、このシミュレーションでは、振動減衰部材を構成する粘弾性部材及び高剛性部材の形状、大きさ及びせん断弾性率を具体的に特定することなく、粘弾性部材単体および振動減衰部材全体のせん断剛性Rm,Rmsの値を直接入力して計算を行った。
【0076】
図11に示すように、このシミュレーションの結果、上記せん断剛性比δ(=Rms/Rm)が大きくなるほどひずみエネルギーの前記増加率αが比例的に大きくなることが分かった。また、図11の符号P7に示すように、このシミュレーション結果において、振動減衰部材で吸収されるひずみエネルギーの増加率αは、前記せん断剛性比δ=1.1のときに10%を上回った。ひずみエネルギーの増加率αが10%以上である場合に、乗員が感じられる程度に振動低減効果が向上するという事実に鑑みると、振動減衰部材に吸収されるひずみエネルギーを効果的に増大させるためには、振動減衰部材全体のせん断剛性は、粘弾性部材単体のせん断剛性の1.1倍以上であることが好ましいと言える。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上のように、本発明によれば、車両用部材間の結合剛性を確保しつつ、該部材間での振動伝達を効果的に抑制することが可能となるから、車両の製造産業分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0078】
2:フロアパネル、4:シートブラケット、10:シートレール、20:ボルト、21:ナット、22:スペーサ、30,130,230:振動減衰部材、31,131:粘弾性部材、32,132,133,232,233:高剛性部材、F:柔結合部、R:剛結合部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両を構成する第1車両部材と第2車両部材との結合部における車両用部材の取付構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両における乗り心地を向上させるために、車両用部材、特に、乗員に振動が直接伝わるシートやハンドル等の部材の振動を減衰させるための種々の技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1及び2には、車両用シートの振動を減衰させる技術が開示されている。
【0004】
具体的に、特許文献1には、フロアパネルの上に弾性体を介してパネル状の支持部材を取り付け、該支持部材上にシートを設置する技術が開示されている。この特許文献1の技術によれば、フロアパネルと前記支持部材との間に介在する弾性体により、フロア側から伝達される振動が減衰されるため、シートに伝達される振動が抑制され、乗員の乗り心地が向上する。
【0005】
また、特許文献2には、シートを支持するシートレッグが、シートレールから上方へ突設された筒体と、シートから下方へ突設されるとともに前記筒体内に収容される支持棒とを備え、該筒体と支持棒との間に、弾性体からなる防振部材を介装する技術が開示されている。この特許文献2の技術によっても、フロア側から伝達される振動が前記防振部材によって減衰されるため、シートに伝達される振動を抑制して、乗員の乗り心地を高める効果を発揮し得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実開昭59−162364号公報
【特許文献2】特開2010−132178号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1及び2の技術による車両用部材同士の結合部には、全体に亘って両部材間に弾性体が介在するため、結合剛性が低下する問題がある。
【0008】
そこで、本発明は、車両用部材間の結合剛性を確保しつつ、該部材間での振動伝達を効果的に抑制することができる車両用部材の取付構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明に係る車両用シートの取付構造は、次のように構成したことを特徴とする。
【0010】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、車両を構成する第1車両部材と第2車両部材との結合部における車両用部材の取付構造であって、
前記第1車両部材と前記第2車両部材との結合部は、第1車両部材と第2車両部材とが振動減衰部材を介して結合された柔結合部と、第1車両部材と第2車両部材とが当接した状態で又は非振動減衰性の部材を介して剛結合された剛結合部とを備え、
該柔結合部と剛結合部とが近接させて設けられていることを特徴とする。
【0011】
なお、本明細書において、「近接」という用語を用いた部材同士の配置関係には、部材間に隙間がある配置関係のみならず、部材同士が当接した配置関係も含むものとする。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、
前記振動減衰部材は、粘弾性部材からなる粘弾性部材層と、前記粘弾性部材に比べて剛性が高い高剛性部材からなり、前記粘弾性部材層に積層された高剛性部材層とを有することを特徴とする。
【0013】
さらに、請求項3に記載の発明は、前記請求項2に記載の発明において、
前記高剛性部材層のせん断剛性は、前記粘弾性部材層のせん断剛性の50倍以上であることを特徴とする。
【0014】
またさらに、請求項4に記載の発明は、前記請求項2または請求項3に記載の発明において、
前記第1車両部材は、車両用シートを車体のフロア構成部材に取り付けるためのシート取付部材であり、
前記第2車両部材は前記フロア構成部材であり、
前記柔結合部において、前記振動減衰部材は、前記粘弾性部材層が前記フロア構成部材に接し且つ前記高剛性部材層が前記シート取付部材に接するように配設されていることを特徴とする。
【0015】
また、請求項5に記載の発明は、前記請求項2または請求項3に記載の発明において、
前記高剛性部材層は、2つの前記粘弾性部材層に挟まれて設けられ、
該2つの粘弾性部材層は互いに等しい厚みを有することを特徴とする。
【0016】
さらに、請求項6に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、
前記粘弾性部材は板状部材であり、
該粘弾性部材の内部に、該粘弾性部材に比べて剛性が高い高剛性部材が埋め込まれて設けられていることを特徴とする。
【0017】
またさらに、請求項7に記載の発明は、前記請求項6に記載の発明において、
前記粘弾性部材は板状部材であり、
該粘弾性部材は、端面全体が他の部材に接触しない状態で、前記第1車両部材と前記第2車両部材とに挟まれて配設され、
前記高剛性部材は、前記粘弾性部材の内部において前記端面の近傍部を避けるように配設されていることを特徴とする。
【0018】
ただし、上記請求項7に記載の発明は、「高剛性部材の全体が粘弾性部材の端面近傍部を避けて配設される構成」のみならず、「高剛性部材の大部分は粘弾性部材の端面近傍部を避けて配設されるが、一部は粘弾性部材の端面近傍部に配設される構成」を含むものとする。
【0019】
また、請求項8に記載の発明は、前記請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の発明において、
前記減衰部材のせん断剛性は、前記粘弾性部材のせん断剛性の1.1倍以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
まず、請求項1に記載の発明によれば、第1車両部材と第2車両部材とが、互いに近接する剛結合部と柔結合部とを併用して結合されることにより、両部材の結合剛性を維持しつつ、柔結合部において振動減衰部材が振動エネルギーをひずみエネルギーとして吸収することにより、両部材間で伝達される振動レベルを効果的に低減できる。
【0021】
また、請求項2に記載の発明によれば、粘弾性部材層と高剛性部材層とが積層されて前記振動減衰部材が構成されるため、粘弾性部材層と高剛性部材層との間にせん断剛性の差が存在することにより、これら両層の境界近傍に応力集中が生じやすくなる。これにより、振動減衰部材が粘弾性部材のみからなる場合に比べて、粘弾性部材層がせん断方向に変形しやすくなるため、該粘弾性部材層で吸収されるひずみエネルギーを増大させることができ、これにより、振動抑制効果を高めることができる。
【0022】
さらに、請求項3に記載の発明を請求項2に記載の発明に適用すれば、高剛性部材層のせん断剛性が、粘弾性部材層のせん断剛性の50倍以上とされることで、該粘弾性部材層で吸収されるひずみエネルギーが効果的に高められ、振動レベルの低減を効果的に実現することができる。
【0023】
またさらに、請求項4に記載の発明を請求項2または請求項3に記載の発明に適用すれば、フロア構成部材とシート取付部材との間の柔結合部において、粘弾性部材層がフロア構成部材に接し且つ高剛性部材層がシート取付部材に接するように振動減衰部材が配設されることで、フロア構成部材からシート取付け部材に伝達される振動レベルを効果的に低減することができる。したがって、車両用シートの振動を効果的に抑制することができ、乗り心地を向上させることができる。また、フロア構成部材とシート取付け部材との結合力を従来の構造と等しくすることにより、シートを支持する部分の固有振動数を維持することができ、これにより、別の周波数での新たな共振の発生を防止することができる。
【0024】
また、請求項5に記載の発明を請求項2または請求項3に記載の発明に適用すれば、高剛性部材層を挟む両側の粘弾性部材層の厚みが互いに等しいことにより、該両側の粘弾性部材層で均等にひずみエネルギーが吸収されるため、振動減衰部材全体としてひずみエネルギーを効果的に吸収することができ、振動抑制効果の一層の向上を図ることができる。
【0025】
さらに、請求項6に記載の発明を請求項1に記載の発明を適用すれば、板状の粘弾性部材の内部に、該粘弾性部材に比べて剛性が高い高剛性部材が埋め込まれて設けられるため、粘弾性部材と高剛性部材との間にせん断剛性の差が存在することにより、これら両部材の境界近傍に応力集中が生じやすくなる。これにより、振動減衰部材が粘弾性部材のみからなる場合に比べて、粘弾性部材がせん断方向に変形しやすくなるため、該粘弾性部材で吸収されるひずみエネルギーを増大させることができ、これにより、振動抑制効果を高めることができる。
【0026】
またさらに、請求項7に記載の発明を請求項6に記載の発明に適用すれば、前記高剛性部材が、前記粘弾性部材の内部において該粘弾性部材の端面の近傍部を避けるように配設されることにより、上記のひずみエネルギーの増大を効果的に実現することができる。
【0027】
また、請求項8に記載の発明によれば、振動減衰部材のせん断剛性を、粘弾性部材のせん断剛性の1.1倍以上とすることにより、振動減衰部材に吸収されるひずみエネルギーを効果的に増大させることができ、良好な振動抑制効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両用部材の取付構造を示す平面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】実施例1のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図4】実施例1のシミュレーション対象の振動減衰部材を示す斜視図である。
【図5】実施例2のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図6】実施例2のシミュレーション対象の振動減衰部材を示す斜視図である。
【図7】実施例3のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図8】実施例3のシミュレーション対象の振動減衰部材を示す断面図である。
【図9】実施例4のシミュレーション結果を示すグラフである。
【図10】実施例4のシミュレーション対象の振動減衰部材を示す断面図である。
【図11】実施例5のシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明において、「前」、「後」、「前後」、「右」、「左」、「左右」等の方向を示す用語は、特段の説明がある場合を除いて、車両の進行方向を「前」とした場合の方向を指すものとする。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用部材の取付構造を示す平面図であり、図2は、図1のA−A線断面図である。
【0031】
図1及び図2において、符号2はフロアパネルを示し、該フロアパネル2の上面に、シートレール10の後端部を支持するためのシートブラケット4が例えば溶接により取り付けられている。シートブラケット4は、フロアパネル2の上面に取り付けられる例えば前後一対の取付プレート部5,6と、該取付プレート部5,6からそれぞれ立ち上がる前後一対の立ち上がりプレート部7,8と、これらの立ち上がりプレート部7,8の上端部間に跨る上面プレート部9とを有する。
【0032】
シートレール10は、図示しない車両用シートを前後方向にスライド可能に支持するために車両前後方向に延設されており、上向きに開放した断面形状を有する。シートレール10は、底部11と、該底部11の左右両端からそれぞれ立ち上がる左右一対の側壁部12,13と、該側壁部12,13の上端からそれぞれ左右方向内側へ突出する左右一対の上側水平部14,15と、該上側水平部14,15の先端からそれぞれ垂下する左右一対の下向き片16,17とを有する。
【0033】
このシートレール10は、シート毎に左右一対設けられており、左右いずれのシートレール10も、同様の構成でフロアパネル2に固定されている。また、各シートレール10の前端部は、例えば図示しないクロスメンバを介してフロアパネル2に固定され、各シートレール10の後端部は、シートブラケット4を介してフロアパネル2に固定される。以下、シートレール10の後端部とシートブラケット4との結合部の構成について説明する。
【0034】
シートレール10とシートブラケット4との結合部には、剛結合部Rと柔結合部Fとが近接させて設けられている。
【0035】
剛結合部Rでは、シートレール10の底部11の後端部下面に突設された非振動減衰性のスペーサ22と、シートブラケット4の上面プレート部9とが、互いに当接した状態でボルト20とナット21により剛結されている。
【0036】
なお、本実施形態において、スペーサ22は、予め溶接されることによりシートレール10に一体に設けられているが、このスペーサ22に代えて、シートレール10とは別体の非振動減衰性のスペーサを用いるようにしてもよく、また、スペーサを介在させることなくシートレール10の底部11とシートブラケット4とを当接させた状態で結合するようにしてもよい。また、剛結合部Rでは、ボルト20を用いた剛結合に代えて、溶接による剛結合を行うようにしてもよい。
【0037】
一方、柔結合部Fでは、シートレール10の底部11と、シートブラケット4の上面プレート部9とが振動減衰部材30を介して柔結合されている。
【0038】
振動減衰部材30は、振動エネルギーをひずみエネルギーとして吸収することにより振動を減衰可能な部材であり、本実施形態では、互いに積層された粘弾性部材層31と高剛性部材層32とを有する。
【0039】
粘弾性部材層31は粘弾性部材からなる。該粘弾性部材の具体的な材料は特に限定されるものでないが、例えば、シリコーン系材料またはアクリル系材料が使用される。一方、高剛性部材層32は、前記粘弾性部材に比べて剛性が高い高剛性部材からなる。該高剛性部材の具体的な材料は特に限定されるものでないが、例えば、鉄等の金属、または樹脂が用いられる。高剛性部材層32は、粘弾性部材層31の上面に積層されており、この接合面において、両層31,32は、接着剤または粘弾性部材自身の粘着性により互いに接着されている。
【0040】
振動減衰部材30は、粘弾性部材層31の下面において、接着剤または粘弾性部材自身の粘着性によりシートブラケット4の上面プレート部9に接合されている。一方、振動減衰部材30の高剛性部材層32の上面は、シートレール10の底部11に対して当接して設けられているが、接着はされていない。これにより、シートレール10の取付け作業の際、シートブラケット4に取り付けられた振動減衰部材30の上にシートレール10を載置した後、該シートレール10を容易に位置調整できるようになっている。
【0041】
また、振動減衰部材30は、粘弾性部材層31を構成する粘弾性部材が圧縮された状態でシートレール10とシートブラケット4との間に介装されることが好ましく、これにより、これら両部材4,10に対する高い密着力を得ることができる。
【0042】
このように、柔結合部Fでは、シートレール10とシートブラケット4との間に振動減衰部材30が介在するため、振動によりシートブラケット4及び/又はシートレール10が変位したとき、該部材4,10の変位に追従して振動減衰部材30の粘弾性部材層31が変形し、これにより、振動を減衰させるようになっている。しかも、振動減衰部材30は、粘弾性部材層31と高剛性部材層32とが積層されて構成されているため、これら両層31,32間にせん断剛性の差が存在することにより、振動減衰部材30が粘弾性部材のみからなる場合に比べて、粘弾性部材層31がせん断方向に変形しやすい構造となっている。そのため、振動減衰部材30は、粘弾性部材層31でひずみエネルギーを効果的に吸収することができ、高い振動減衰効果を発揮できるようになっている。
【0043】
また、シートレール10とシートブラケット4とは、剛結合部Rと柔結合部Fとを併用して結合されているため、両部材4,10の結合力を維持しつつ、柔結合部Fにおいて振動減衰部材30がフロア側の振動エネルギーをひずみエネルギーとして吸収することにより、シートレール10に支持された車両用シートの振動レベルを低減できる。したがって、該車両用シートの振動を効果的に抑制することができ、乗り心地を向上させることができる。
【0044】
なお、剛結合部Rと柔結合部Fとは、シートレール10とシートブラケット4との結合剛性が従来の構造の結合剛性と等しくなるように設けることが好ましい。この場合、車両用シートを支持する部分の固有振動数を維持することができ、これにより、別の周波数での新たな共振の発生を防止することができる。
【0045】
続いて、剛結合部Rと柔結合部Fの位置関係について説明する。
【0046】
先ず、剛結合部Rは、シートレール10のスペーサ22の下面とシートブラケット4の上面プレート部9との当接部にボルト20の軸方向からボルト着座面を投影した部分である。なお、スペーサ22と上面プレート部9とを溶接により剛結合する場合、該溶接部が剛結合部Rとなる。
【0047】
該剛結合部Rとの関係において、柔結合部Fの配置は次の観点に基づいて設定される。
【0048】
振動減衰部材30による減衰効果は、振動減衰部材30に吸収されるひずみエネルギーを大きくすると高くなる。そのため、柔結合部Fは、振動減衰部材30が吸収するひずみエネルギーが最大となる部位を含む部分に設定することが望ましく、これにより、振動レベルを効果的に低減することができる。
【0049】
振動減衰部材30に吸収されるひずみエネルギーは、振動減衰部材30の変形量が大きいときほど大きくなる。また、振動減衰部材30の変形量は、振動減衰部材30が変形できる自由度(変形自由度)と、振動減衰部材30を変形させる力(振動減衰部材30にかかる応力)とに比例する。
【0050】
そのため、柔結合部Fが剛結合部Rに近すぎると、振動減衰部材30の変形自由度が小さすぎて、十分な減衰効果を得ることができない。逆に、柔結合部Fが剛結合部Rから遠すぎると、振動減衰部材30にかかる応力が小さすぎて、十分な減衰効果を得ることができない。よって、柔結合部Fは、剛結合部Rとの位置関係において振動減衰部材30の変形自由度と振動減衰部材30にかかる応力との積が最大になる位置を含む部分に設けることが望ましく、これにより、振動減衰部材30による減衰効果を最大限に発揮させることができる。
【0051】
以上の観点に基づいて、柔結合部Fは、剛結合部Rとの位置関係において振動減衰部材30の変形自由度と振動減衰部材30にかかる応力との積が最大になる位置が含まれるように剛結合部Rの前方に近接させて配置されており、これにより、振動減衰部材30による減衰効果が最大限に発揮されるようになっている。
【0052】
なお、以上の説明では、シートレール10とシートブラケット4との結合部を例に挙げて本発明を説明したが、本発明は、シートレール10とシートブラケット4以外のフロア構成部材(例えばフロアパネル2)との結合部、シートレール10以外のシート取付部とシートブラケット4との結合部、又は、シートレール10以外のシート取付部とシートブラケット4以外のフロア構成部材との結合部にも等しく適用することができる。さらに、本発明は、シート取付部及びフロア構成部材以外の種々の車両用部材同士の結合部、例えば、車両用シートとシート取付部との結合部、又は、車幅方向に延設されたインパネメンバの先端部とヒンジピラーとの結合部等にも適用することができる。
【0053】
また、以上の説明は、振動減衰部材30が粘弾性部材層31と高剛性部材層32とからなる2層構造である場合について行ったが、本発明において、振動減衰部材30の構成はこれに限定されるものでない。例えば、本発明において、振動減衰部材30は、粘弾性部材層31又は高剛性部材層32の少なくとも一方を複数備えるように構成されてもよい。
【0054】
また、本発明において、振動減衰部材は、必ずしも層状の粘弾性部材と高剛性部材とで構成する必要はなく、例えば、板状の粘弾性部材の内部に高剛性部材を埋め込んで構成されるようにしてもよい。かかる構成によっても、粘弾性部材と高剛性部材との間にせん断剛性の差が存在することにより、振動減衰部材が粘弾性部材のみからなる場合に比べて、粘弾性部材がせん断方向に変形しやすくなるため、振動減衰部材により吸収されるひずみエネルギーを増大させることができ、振動抑制効果を高めることができる。
【0055】
以下、より好適な振動減衰部材30の構成について、シミュレーション結果を参照しながら説明する。
【0056】
[実施例1]
図3は、互いに積層された粘弾性部材層と高剛性部材層とを備えた振動減衰部材が第1の部材と第2の部材との間に介装された構造に関して、粘弾性部材層のせん断剛性Rmに対する高剛性部材層のせん断剛性Rsの比率(せん断剛性比r=Rs/Rm)と、せん断方向の振動が加えられたときに粘弾性部材層で吸収可能なひずみエネルギーの大きさとの関係を示すシミュレーション結果である。
【0057】
図3において、実線は、図4(a)に示す構造Aに係る振動減衰部材30についての上記シミュレーション結果を示し、破線は、図4(b)に示す構造Bに係る振動減衰部材30についての上記シミュレーション結果を示す。
【0058】
図4(a)に示すように、構造Aに係る振動減衰部材30は、互いに等しい厚みを有する2つの粘弾性部材層31により高剛性部材層32を挟んでなる3層構造を有する。一方、図4(b)に示すように、構造Bに係る振動減衰部材30は、粘弾性部材層31の上面に高剛性部材層32を積層してなる2層構造を有する。
【0059】
構造A及び構造Bのいずれについても、振動減衰部材30の端面全体が他の部材に接触しない状態で、振動減衰部材30の上面全体が第1の部材に相対移動不能に接し、振動減衰部材30の下面全体が第2の部材に相対移動不能に接した取付構造を想定して、図3に示すシミュレーション結果を得た。また、このシミュレーションでは、粘弾性部材層31及び高剛性部材層32の厚み、せん断弾性率及び面積を具体的に特定することなく、各層31,32のせん断剛性Rm,Rsの値を直接入力して計算を行った。
【0060】
図3に示すように、構造A及び構造Bのいずれのシミュレーション結果においても、粘弾性部材層31で吸収されるひずみエネルギーは、せん断剛性比rを10から50(図3の符号P1)まで上昇させると急激に大きくなり、せん断剛性比rを50から1000(図3の符号P2)まで上昇させると次第に緩やかな上昇となり、せん断剛性比rを1000よりも上昇させると略最大の大きさで安定する結果となった。よって、粘弾性部材層31で吸収されるひずみエネルギー、すなわち振動減衰部材30の振動吸収能力を効果的に高めるためには、高剛性部材層32のせん断剛性Rsは、粘弾性部材層31のせん断剛性Rmの50倍以上であることが好ましく、1000倍以上であることが望ましい。
【0061】
[実施例2]
図5は、高剛性部材層が上下両側の粘弾性部材層で挟まれてなる振動減衰部材が第1の部材と第2の部材との間に介装された構造に関して、振動減衰部材と第1又は第2の部材との当接面(以下、「拘束面」ともいう。)から高剛性部材層までの距離Lと、せん断方向の振動が加えられたときに粘弾性部材層で吸収可能なひずみエネルギーの大きさとの関係を示すシミュレーション結果である。
【0062】
図5において、実線は、図6(a)に示す構造Cに係る振動減衰部材30についての上記シミュレーション結果を示し、破線は、図6(b)に示す構造Dに係る振動減衰部材30についての上記シミュレーション結果を示す。
【0063】
図6(a)に示すように、構造Cに係る振動減衰部材30は、2つの粘弾性部材層31により1つの高剛性部材層32を挟んでなる3層構造を有する。一方、図6(b)に示すように、構造Dに係る振動減衰部材30は、3つの粘弾性部材層31と2つの高剛性部材層32とを交互に積層してなる5層構造を有する。
【0064】
構造C及び構造Dのいずれに係る振動減衰部材30も、厚みが18mmで、長辺が100mm、短辺が2mmの長方形の板状であるものとし、振動減衰部材30の端面全体が他の部材に接触しない状態で、振動減衰部材30の上面全体が第1の部材に相対移動不能に接し、振動減衰部材30の下面全体が第2の部材に相対移動不能に接した取付構造を想定して、図5に示すシミュレーション結果を得た。また、高剛性部材層32の厚みはいずれも1mmであるものとしてシミュレーションを行った。さらに、構造Cに係る振動減衰部材30に関して、前記拘束面から高剛性部材層32までの距離Lは、上下2つの拘束面のうち高剛性部材層32に近い方の拘束面から高剛性部材層32までの距離を指すものとする。一方、構造Dに係る振動減衰部材30に関しては、上側の拘束面から上側の高剛性部材層32までの距離と、下側の拘束面から下側の高剛性部材層32までの距離とがいずれも距離Lであるものとしてシミュレーションを行った。
【0065】
図5の符号P3に示すように、構造Cに係る振動減衰部材30については、拘束面から高剛性部材層32までの距離Lが9mmであるときに、粘弾性部材層31で吸収されるひずみエネルギーが最大となった。また、図5の符号P4に示すように、構造Dに係る振動減衰部材30については、拘束面から高剛性部材層32までの距離Lが6mmであるときに、粘弾性部材層31で吸収されるひずみエネルギーが最大となった。すなわち、構造C及び構造Dのいずれについても、高剛性部材層32を挟んだ両側の粘弾性部材層31の厚みが互いに等しいときに、粘弾性部材層31の振動吸収能力が効果的に高められることが分かった。これは、各粘弾性部材層31の厚みが互いに等しいことにより、各粘弾性部材層31において均等にひずみエネルギーが吸収されるためであると考えられる。よって、高剛性部材層32が2つの粘弾性部材層31で挟まれる構成において、振動減衰部材30による振動減衰効果を高めるためには、粘弾性部材層31の厚みを互いに等しくすることが好ましい。
【0066】
[実施例3]
図7は、図8(a)に示すように板状の粘弾性部材131の内部に柱状の高剛性部材132,133が埋め込まれて設けられた振動減衰部材130に関して、粘弾性部材131の端面141,143から高剛性部材132,133の中心までの距離Wと、せん断方向の振動が加えられたときに粘弾性部材131で吸収可能なひずみエネルギーの大きさとの関係を示すシミュレーション結果である。
【0067】
図8(a)に示す振動減衰部材130において、粘弾性部材131は、厚みが18mmで、長辺が100mm、短辺が2mmの長方形の板状であるものとし、第1〜第4の端面を有する。ただし、図8(a)の断面図には、第1〜第4の端面のうち第1の端面141及び第3の端面143のみが現れている。該粘弾性部材131の内部には、第1及び第3の端面141,143に平行な方向に沿って第2の端面から第4の端面に亘って延びる2本の柱状の高剛性部材132,133が埋め込まれている。各高剛性部材132,133は十字状の断面形状を有する。振動減衰部材30の厚さ方向において、高剛性部材132,133の十字の交差部(基準位置K)を粘弾性部材131の中央高さに一致させるとともに、第1の端面141から一方の高剛性部材132の前記基準位置Kまでの距離と、第3の端面143から他方の高剛性部材133の中心までの距離とを、互いに等しい距離Wに設定した。
【0068】
図8(b)は、図8(a)に係る高剛性部材132,133の断面形状の寸法を示す。図8(b)に示すように、高剛性部材132,133の厚みは1mm、前記基準位置Kから左右両端までの各寸法が4.5mm、基準位置Kから上端までの寸法が4.5mm、基準位置Kから下端までの寸法が3.5mmである。なお、高剛性部材132,133の奥行きの寸法は、粘弾性部材131と同じく2mmである。
【0069】
また、粘弾性部材131の端面全体が他の部材に接触しない状態で、粘弾性部材131の上面全体が第1の部材に相対移動不能に接し、粘弾性部材131の下面全体が第2の部材に相対移動不能に接した取付構造を想定して、図7に示すシミュレーション結果を得た。
【0070】
図7に示すように、粘弾性部材131の端面141,143から高剛性部材132,133の中心までの距離Wが12mm(符号P5)よりも小さいときは、粘弾性部材131で吸収され得るひずみエネルギーが小さく、前記距離Wが12mm以上であるときに、粘弾性部材131で吸収され得るひずみエネルギーが効果的に高められる結果となった。よって、振動減衰部材130の振動減衰効果を高めるためには、高剛性部材132,133は、粘弾性部材131の内部において第1及び第3の端面141,143の近傍部を避けるように配設することが好ましい。より具体的には、粘弾性部材131の端面141,143から高剛性部材132,133の中心までの距離Wは、粘弾性部材131の幅の12%以上の長さであることが好ましく、これにより、振動減衰部材130の振動吸収能力を効果的に高めることができる。
【0071】
[実施例4]
図9は、図10(a)に示す振動減衰部材230に関する、実施例3と同様のシミュレーション結果を示す。図10(a)に示す振動減衰部材230は、断面正方形の高剛性部材232,233を有し、この点を除けば、実施例3に係る振動減衰部材130(図8(a)参照)と同様の構造を有する。図10(b)に示すように、図10(a)に係る高剛性部材232,233の断面形状は、1辺が4mmの正方形である。なお、この高剛性部材232,233の奥行きの寸法は、粘弾性部材131と同じく2mmである。また、その他の条件も実施例3と同様に設定されて、図9に示すシミュレーション結果が得られた。
【0072】
図9に示すように、実施例3と同様、粘弾性部材131の端面141,143から高剛性部材232,233の中心までの距離Wが12mmよりも小さいとき、粘弾性部材131で吸収され得るひずみエネルギーが小さく、前記距離Wが12mm以上であるとき、粘弾性部材131で吸収され得るひずみエネルギーが効果的に高められる結果となった。よって、この結果からも、振動減衰部材230の振動減衰効果を高めるためには、高剛性部材232,233は、粘弾性部材131の内部において第1及び第3の端面141,143の近傍部を避けるように配設することが好ましいことが分かる。より具体的には、粘弾性部材131の端面141,143から高剛性部材232,233の中心までの距離Wは、粘弾性部材131の幅の12%以上の長さであることが好ましく、これにより、振動減衰部材230の振動吸収能力を効果的に高めることができる。
【0073】
また、高剛性部材232,233の断面形状を実施例4又は上記実施例3と異ならせてシミュレーションを実行しても、同様の結果が得られると考えられ、高剛性部材232,233は、その断面形状に関わらず、粘弾性部材131の内部において上記のように該粘弾性部材131の端面近傍部を避けるように配設することが好ましいと言える。
【0074】
[実施例5]
図11は、粘弾性部材と高剛性部材とを組み合わせて振動減衰部材を構成する場合において、粘弾性部材単体のせん断剛性Rmに対する振動減衰部材全体のせん断剛性Rmsの比率(せん断剛性比δ=Rms/Rm)と、強制振動が与えられたときに該振動減衰部材で吸収されるひずみエネルギーUmsがせん断剛性比δ=1(Rms=Rm)のときと比較して増加した比率(増加率α)との関係を示すシミュレーション結果である。せん断剛性比δ=1であるときのひずみエネルギーをUmとしたとき、増加率α=(Ums/Um−1)×100(%)となる。
【0075】
このシミュレーションは、板状の振動減衰部材の端面全体が他の部材に接触しない状態で、該振動減衰部材の上面全体が第1の部材に相対移動不能に接し、該振動減衰部材の下面全体が第2の部材に相対移動不能に接した取付構造を想定して行った。また、このシミュレーションでは、振動減衰部材を構成する粘弾性部材及び高剛性部材の形状、大きさ及びせん断弾性率を具体的に特定することなく、粘弾性部材単体および振動減衰部材全体のせん断剛性Rm,Rmsの値を直接入力して計算を行った。
【0076】
図11に示すように、このシミュレーションの結果、上記せん断剛性比δ(=Rms/Rm)が大きくなるほどひずみエネルギーの前記増加率αが比例的に大きくなることが分かった。また、図11の符号P7に示すように、このシミュレーション結果において、振動減衰部材で吸収されるひずみエネルギーの増加率αは、前記せん断剛性比δ=1.1のときに10%を上回った。ひずみエネルギーの増加率αが10%以上である場合に、乗員が感じられる程度に振動低減効果が向上するという事実に鑑みると、振動減衰部材に吸収されるひずみエネルギーを効果的に増大させるためには、振動減衰部材全体のせん断剛性は、粘弾性部材単体のせん断剛性の1.1倍以上であることが好ましいと言える。
【産業上の利用可能性】
【0077】
以上のように、本発明によれば、車両用部材間の結合剛性を確保しつつ、該部材間での振動伝達を効果的に抑制することが可能となるから、車両の製造産業分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0078】
2:フロアパネル、4:シートブラケット、10:シートレール、20:ボルト、21:ナット、22:スペーサ、30,130,230:振動減衰部材、31,131:粘弾性部材、32,132,133,232,233:高剛性部材、F:柔結合部、R:剛結合部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両を構成する第1車両部材と第2車両部材との結合部における車両用部材の取付構造であって、
前記第1車両部材と前記第2車両部材との結合部は、第1車両部材と第2車両部材とが振動減衰部材を介して結合された柔結合部と、第1車両部材と第2車両部材とが当接した状態で又は非振動減衰性の部材を介して剛結合された剛結合部とを備え、
該柔結合部と剛結合部とが近接させて設けられていることを特徴とする車両用部材の取付構造。
【請求項2】
前記振動減衰部材は、粘弾性部材からなる粘弾性部材層と、前記粘弾性部材に比べて剛性が高い高剛性部材からなり、前記粘弾性部材層に積層された高剛性部材層とを有することを特徴とする請求項1に記載の車両用部材の取付構造。
【請求項3】
前記高剛性部材層のせん断剛性は、前記粘弾性部材層のせん断剛性の50倍以上であることを特徴とする請求項2に記載の車両用部材の取付構造。
【請求項4】
前記第1車両部材は、車両用シートを車体のフロア構成部材に取り付けるためのシート取付部材であり、
前記第2車両部材は前記フロア構成部材であり、
前記柔結合部において、前記振動減衰部材は、前記粘弾性部材層が前記フロア構成部材に接し且つ前記高剛性部材層が前記シート取付部材に接するように配設されていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の車両用部材の取付構造。
【請求項5】
前記高剛性部材層は、2つの前記粘弾性部材層に挟まれて設けられ、
該2つの粘弾性部材層は互いに等しい厚みを有することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の車両用部材の取付構造。
【請求項6】
前記粘弾性部材は板状部材であり、
該粘弾性部材の内部に、該粘弾性部材に比べて剛性が高い高剛性部材が埋め込まれて設けられていることを特徴とする請求項1に記載の車両用部材の取付構造。
【請求項7】
前記粘弾性部材は板状部材であり、
該粘弾性部材は、端面全体が他の部材に接触しない状態で、前記第1車両部材と前記第2車両部材とに挟まれて配設され、
前記高剛性部材は、前記粘弾性部材の内部において前記端面の近傍部を避けるように配設されていることを特徴とする請求項6に記載の車両用部材の取付構造。
【請求項8】
前記振動減衰部材のせん断剛性は、前記粘弾性部材のせん断剛性の1.1倍以上であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の車両用部材の取付構造。
【請求項1】
車両を構成する第1車両部材と第2車両部材との結合部における車両用部材の取付構造であって、
前記第1車両部材と前記第2車両部材との結合部は、第1車両部材と第2車両部材とが振動減衰部材を介して結合された柔結合部と、第1車両部材と第2車両部材とが当接した状態で又は非振動減衰性の部材を介して剛結合された剛結合部とを備え、
該柔結合部と剛結合部とが近接させて設けられていることを特徴とする車両用部材の取付構造。
【請求項2】
前記振動減衰部材は、粘弾性部材からなる粘弾性部材層と、前記粘弾性部材に比べて剛性が高い高剛性部材からなり、前記粘弾性部材層に積層された高剛性部材層とを有することを特徴とする請求項1に記載の車両用部材の取付構造。
【請求項3】
前記高剛性部材層のせん断剛性は、前記粘弾性部材層のせん断剛性の50倍以上であることを特徴とする請求項2に記載の車両用部材の取付構造。
【請求項4】
前記第1車両部材は、車両用シートを車体のフロア構成部材に取り付けるためのシート取付部材であり、
前記第2車両部材は前記フロア構成部材であり、
前記柔結合部において、前記振動減衰部材は、前記粘弾性部材層が前記フロア構成部材に接し且つ前記高剛性部材層が前記シート取付部材に接するように配設されていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の車両用部材の取付構造。
【請求項5】
前記高剛性部材層は、2つの前記粘弾性部材層に挟まれて設けられ、
該2つの粘弾性部材層は互いに等しい厚みを有することを特徴とする請求項2または請求項3に記載の車両用部材の取付構造。
【請求項6】
前記粘弾性部材は板状部材であり、
該粘弾性部材の内部に、該粘弾性部材に比べて剛性が高い高剛性部材が埋め込まれて設けられていることを特徴とする請求項1に記載の車両用部材の取付構造。
【請求項7】
前記粘弾性部材は板状部材であり、
該粘弾性部材は、端面全体が他の部材に接触しない状態で、前記第1車両部材と前記第2車両部材とに挟まれて配設され、
前記高剛性部材は、前記粘弾性部材の内部において前記端面の近傍部を避けるように配設されていることを特徴とする請求項6に記載の車両用部材の取付構造。
【請求項8】
前記振動減衰部材のせん断剛性は、前記粘弾性部材のせん断剛性の1.1倍以上であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の車両用部材の取付構造。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−23049(P2013−23049A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158822(P2011−158822)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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