説明

車両用開閉蓋構造及び車両用開閉蓋に用いるインナパネルの製造方法

【課題】少なくとも3種類の異種材の差厚結合を可能とし、自由な接合ラインを実現することができる車両用開閉蓋構造を得る。
【解決手段】ドアインナパネル14は、厚さの異なる4種類の板材からなるドアインナアッパ22と、ドアインナフロント24と、ドアインナリア26と、ドアインナロア28とを差厚結合にて接合することにより一体化されている。接合ライン32には、直線状の接合ライン32A、32B、32Cが交わる略T字状の交点32D、32Eが存在するが、交点32D、32Eを含む部位に開口部30が設けられている。交点32D、32Eでは溶接不良が発生する可能性があるが、交点32D、32Eを含む部位が開口部30として切除されることで、ドアインナパネル14の溶接品質を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用開閉蓋構造、及び車両用開閉蓋に用いるインナパネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、別々の鋼板からなる上部部材、下部部材、及び中間部材の3部材で補強部材を構成し、上部部材の引張強度を中間部材の引張強度よりも低く、かつ下部部材の引張強度よりも高くした構造が開示されている。3部材で補強部材を構成することで、上部部材及び中間部材が超高張力鋼板にて一体に構成されている場合よりも残留応力に起因する変形を抑制し、形状精度を向上している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−1121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記先行技術による構造では、上部部材、下部部材、及び中間部材の3部材の厚さが異なるときに、差厚結合により3部材を溶接接合する必要がある。この場合、3部材の接合ラインがほぼ平行でないと、3部材を精度良く差厚結合することが難しく、また、3部材の接合ラインに交点があると溶接不良が生じる可能性がある。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、少なくとも3種類の異種材の差厚結合を可能とし、自由な接合ラインを実現することができる車両用開閉蓋構造及び車両用開閉蓋に用いるインナパネルの製造方法を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明に係る車両用開閉蓋構造は、少なくとも3種類の異種材を差厚結合にて接合すると共に、前記異種材の接合ラインの延長線が交差するように配置されたインナパネルと、前記インナパネルの車両外側に配設されるアウタパネルと、を組み合わせて構成されたものである。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1記載の車両用開閉蓋構造において、前記インナパネルには、前記異種材の接合ラインの延長線が交差する位置に開口部が形成されているものである。
【0008】
請求項3の発明に係る車両用開閉蓋に用いるインナパネルの製造方法は、少なくとも3種類の異種材を接合ラインが交差するように配置する異種材配置工程と、前記異種材を差厚結合にて接合する接合工程と、前記接合ラインが交差した交点を含む部位を切除する交点切除工程と、を有するものである。
【0009】
請求項4の発明は、請求項3記載の車両用開閉蓋に用いるインナパネルの製造方法において、前記異種材配置工程では、前記接合ラインが略T字状になるように前記異種材を配置し、前記交点切除工程では、前記接合ラインの略T字状の交点を含む部位をくりぬいて開口部を形成するものである。
【0010】
請求項1記載の本発明によれば、少なくとも3種類の異種材を差厚結合にて接合するときに、異種材の接合ラインが交差する交点では溶接不良が生じる可能性があるが、インナパネルは異種材の接合ラインの延長線が交差するように配置されており、インナパネルには異種材の接合ラインが交差する交点は存在しない。従って、少なくとも3種類の異種材を差厚結合にて接合して形成されたインナパネルに溶接不良箇所はなく、自由な接合ラインを実現することができる。
【0011】
請求項2記載の本発明によれば、インナパネルには、異種材の接合ラインの延長線が交差する位置に開口部が形成されており、接合ラインが交差する交点を含む部位が切除されている。このため、異種材の接合ラインが交差する交点で溶接不良が発生しても、開口部として切除することでインナパネルに溶接不良箇所が無くなり、自由な接合ラインをより効果的に実現することができる。
【0012】
請求項3記載の本発明によれば、接合ラインが交差するように少なくとも3種類の異種材を配置し、これらの異種材を差厚結合にて接合する。接合ラインが交差する交点では溶接不良が生じる可能性があるが、交点切除工程により接合ラインが交差した交点を含む部位を切除することで、溶接不良箇所が除去される。このため、少なくとも3種類の異種材を差厚結合にて接合してインナパネルを製造する際に、自由な接合ラインを実現することができる。
【0013】
請求項4記載の本発明によれば、接合ラインが略T字状になるように異種材を配置して差厚結合にて接合すると、略T字状の交点で溶接不良が生じる可能性があるが、交点切除工程により略T字状の交点を含む部位をくりぬいて開口部を形成することで、溶接不良箇所が除去される。このため、接合ラインの自由度がさらに向上する。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、請求項1記載の本発明に係る車両用開閉蓋構造は、3種類以上の異種材の差厚結合を可能とし、自由な接合ラインを実現することができるという優れた効果を有する。
【0015】
請求項2記載の本発明に係る車両用開閉蓋構造は、開口部を形成することでインナパネルに溶接不良箇所が無くなり、自由な接合ラインを実現することができるという優れた効果を有する。
【0016】
請求項3記載の本発明に係る車両用開閉蓋に用いるインナパネルの製造方法は、3種類以上の異種材の差厚結合を可能とし、自由な接合ラインを実現することができるという優れた効果を有する。
【0017】
請求項4記載の本発明に係る車両用開閉蓋に用いるインナパネルの製造方法は、接合ラインの自由度がさらに向上するという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】第1実施形態に係る車両用サイドドアを車両幅方向内側から見た構成を示す側面図である。
【図2】車両用サイドドアのドアインナパネルを車両幅方向外側から見た構成を示す側面図である。
【図3】車両用サイドドアのドアインナパネルを示す拡大側面図である。
【図4】車両用サイドドアのドアインナパネルを製造する過程を示す側面図である。
【図5】差厚結合による接合ラインを示す概念図である。
【図6】差厚結合にて接合された溶接部を示す拡大斜視図である。
【図7】差厚結合による接合ラインの例を説明する概念図である。
【図8】差厚結合による接合ラインの例を説明する概念図である。
【図9】差厚結合による接合ラインの例を説明する概念図である。
【図10】差厚結合による接合ラインの例を説明する概念図である。
【図11】第2実施形態に係る車両用フードのフードインナパネルを示す平面図である。
【図12】比較例に係る車両用サイドドアを示す側面図である。
【図13】比較例に係る車両用サイドドアのドアインナパネルを除いた構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図1〜図9を用いて、本発明に係る車両用開閉蓋構造の第1実施形態について説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車両前方側を示しており、矢印UPは車両上方側を示しており、矢印OUTは車両幅方向外側を示している。
【0020】
図1には、本実施形態に係る車両用開閉蓋構造としての車両用サイドドア構造が車両幅方向内側から見た側面図にて示されている。この図に示されるように、車両用サイドドア10は、車両の側部に配設されるフロントサイドドアであり、サイドドア外側(車両幅方向外側)に配置されるドアアウタパネル12と、サイドドア内側(車両幅方向内側)に配置されるドアインナパネル14と、を備えている。ドアアウタパネル12とドアインナパネル14は、これらの上縁を除く端縁部を接合することで閉断面構造に形成されている。また、車両用サイドドア10は、車両上方側からドアアウタパネル12とドアインナパネル14との間に挿入されて車両上下方向に昇降可能に配置されたウィンドガラス16を備えている。
【0021】
ドアアウタパネル12とドアインナパネル14との間には、車両前後方向に沿ってインパクトビーム18が配設されており、インパクトビーム18の長手方向の前端部と後端部が図示しないブラケットによりドアインナパネル14に固定されている。インパクトビーム18とドアインナパネル14との間には、平板状の緩衝部材20が配置され、緩衝部材20は図示しない取付具によりドアインナパネル14に固定されている。
【0022】
図2には、車両用サイドドア10のドアインナパネル14を車両幅方向外側から見た全体構成が側面図にて示されている。また、図3には、ドアインナパネル14単体が側面図にて示されている。これらの図に示されるように、ドアインナパネル14は、車両上方側に車両前後方向に沿って配置されたドアインナアッパ22と、ドアインナアッパ22の下部の車両前方側に車両上下方向に沿って配置されたドアインナフロント24と、ドアインナアッパ22の下部の車両後方側における車両上下方向中間部に配置されたドアインナリア26と、ドアインナリア26の車両下方側であってドアインナフロント24の車両後方側に配置されたドアインナロア28と、を接合することによって形成されている。
【0023】
ドアインナパネル14の中央部には、当該ドアインナパネル14を貫通する開口部30が形成されている。開口部30は、車両前後方向の長さが車両上下方向の長さよりも長く形成された大開口であり、車両用サイドドア10の構成部品を取り付けるための作業穴(サービスホール)として利用されている。
【0024】
ドアインナアッパ22と、ドアインナフロント24と、ドアインナリア26と、ドアインナロア28は、それぞれ4種類の厚さの異なる異種材からなり、これらの境界部を差厚結合にて接合したものである。本実施形態では、ドアインナアッパ22の厚さは約1.8mmで、ドアインナフロント24の厚さは約1.2mmで、ドアインナリア26の厚さは約1.4mmで、ドアインナロア28の厚さは約0.65mmに設定されている(図5参照)。ドアインナフロント24は、車両用サイドドア10を図示しないヒンジにより車両本体に固定するために強度が必要となり、ドアインナリア26は図示しないドアロックが配設されるために強度が必要となるので、厚い部材で構成されている。
【0025】
ここで、差厚結合とは、いわゆるテーラードブランク溶接のことであり、板厚や材質の異なる複数の鋼板(ブランク材)をプレス成形前にレーザ溶接等にて溶接し、1つの鋼板とするものである。例えば、差厚結合を車体のプレス成形部材に用いることで、強度の必要な部分だけ板厚を増すことができ、又は異種鋼板をつなぎ合わせることにより、1枚の素材の特性を部分的に変えることができるという特徴を持つ。この差厚結合により、素材の最適配置を可能とし、補強材の省略による車体の軽量化を図ることができる。なお、本実施形態では、異種材は、厚さが異なる部材を意味しているが、厚さと材質の両方が異なる部材、又は材質のみが異なる部材を適用してもよい。
【0026】
図2に示されるように、ドアインナアッパ22と、ドアインナフロント24と、ドアインナリア26と、ドアインナロア28とを差厚結合によって接合する接合ライン32は直線状に配置されている。この接合ライン32は、ドアインナアッパ22とドアインナフロント24及びドアインナリア26とを溶接する接合ライン32Aと、ドアインナフロント24とドアインナリア26及びドアインナロア28とを溶接する接合ライン32Bと、ドアインナリア26とドアインナロア28とを溶接する接合ライン32Cと、で構成されている。
【0027】
接合ライン32には、接合ライン32Aと接合ライン32Bとが交わるT字状の交点32Dと、接合ライン32Bと接合ライン32Cとが交わるT字状の交点32Eと、が存在する。ドアインナパネル14の開口部30は、接合ライン32の交点32D、32Eを含む部位をくりぬく位置に設けられている。
【0028】
図3に示されるように、ドアインナパネル14は、接合ライン32で差厚結合により接合することで、ドアインナアッパ22とドアインナフロント24とが溶接部34Aで、ドアインナアッパ22とドアインナリア26とが溶接部34Bで、ドアインナリア26とドアインナロア28とが溶接部34Cで、ドアインナフロント24とドアインナロア28とが溶接部34Dで接合されている(図6参照)。
【0029】
一般的に、差厚結合で溶接品質を確保するためには、図7に示されるように、厚さTが異なる異種材40、42の接合ライン44は直線であることが好ましい。また、図8に示されるように、厚さTが異なる複数(例えば3枚)の異種材40、42、46を溶接するときには、接合ライン44、48は平行であることが好ましい。
【0030】
例えば、図9に示されるように、厚さTが異なる複数(例えば3枚)の異種材50、52、54を溶接するときに接合ライン56、58が平行でないと、3枚の異種材50、52、54の接合位置を精度良く合わせることが困難となり、生産性が著しく低下する。また、図10に示されるように、厚さTが異なる複数(例えば3枚)の異種材60、62、64を溶接するときに接合ライン66、68をT字状に配置すると、接合ライン66、68のT字状の交点69で溶接不良が発生し、溶接品質を確保することが困難となる。
【0031】
本実施形態のドアインナパネル14では、図3に示されるように、厚さTが異なる4枚の異種材からなるドアインナアッパ22と、ドアインナフロント24と、ドアインナリア26と、ドアインナロア28とを差厚結合にて接合したとき(図5参照)、接合ライン32が交わるT字状の交点32D、32Eを含む部位に開口部30を設けている。これによって、接合ライン32が交わるT字状の交点32D、32Eで溶接不良が発生しても、T字状の交点32D、32Eを含む部位を開口部30として切除するため、溶接不良箇所がないドアインナパネル14が得られる。また、ドアインナパネル14のくりぬいた開口部30を作業穴(サービスホール)として利用するようになっている。
【0032】
次に、車両用サイドドア10の作用であって、車両用サイドドア10に用いるドアインナパネル14の製造方法について説明する。
【0033】
図4及び図5に示されるように、車両への組付け状態で車両上方側となる位置に長方形状のドアインナアッパ用板材22Aを配置し、ドアインナアッパ用板材22Aの下部の車両前方側となる位置に長方形状のドアインナフロント用板材24Aを配置し、ドアインナアッパ用板材22Aの下部の車両後方側となる位置に長方形状のドアインナリア用板材26Aを配置し、ドアインナリア用板材26Aの下部であってドアインナフロント用板材24Aの車両後方側となる位置にドアインナロア用板材28Aを配置する。この状態で、4種類の板材22A、24A、26A、28Aの接合ライン32(図2参照)を差厚結合にて接合することで、一枚のドアインナパネル用シート材14Aを形成する。なお、図4では、ドアインナパネル用シート材14Aはプレス加工された状態が示されているが、差厚結合はドアインナパネル用シート材14Aをプレス加工する前に行われる。
【0034】
これによって、ドアインナパネル用シート材14Aは、ドアインナアッパ用板材22Aとドアインナフロント用板材24Aとが溶接部34Aで接合され、ドアインナアッパ用板材22Aとドアインナリア用板材26Aとが溶接部34Bで接合され、ドアインナリア用板材26Aとドアインナロア用板材28Aとが溶接部34Cで接合され、ドアインナリア用板材26A及びドアインナロア用板材28Aとドアインナフロント用板材24Aとが溶接部34Dで接合されて一体化される。
【0035】
その後、図4に示されるように、ドアインナパネル用シート材14Aをプレス加工により所定の形状に成形する。その後、ドアインナパネル用シート材14Aの中央部の接合ライン32が交わるT字状の交点32D、32Eを含んだ部位をくりぬいて開口部30を形成することで、図3に示されるように、ドアインナアッパ22、ドアインナフロント24、ドアインナリア26、ドアインナロア28からなるドアインナパネル14が製造される(図6参照)。
【0036】
上記のようなドアインナパネル用シート材14Aは、接合ライン32が交わるT字状の交点32D、32Eに溶接不良が発生する可能性があるが、溶接不良が発生しても、T字状の交点32D、32Eを含んだ部位をくりぬいて開口部30を形成することで、ドアインナパネル14の溶接品質を確保することができる。また、ドアインナパネル14の開口部30を作業穴(サービスホール)として利用することができる。
【0037】
図12及び図13には、比較例に係る車両用サイドドア100が示されている。なお、前述した第1実施形態の車両用サイドドア10と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0038】
図12に示されるように、車両用サイドドア100は、ドアインナパネル102の車両前方側に車両上下方向に沿って接合されたドアヒンジサイド104を備えている。ドアインナパネル102の中央部には、第1実施形態の開口部30よりも小さい開口部102Aが形成されている。また、ドアインナパネル102とドアアウタパネル12との間には、図13に示されるように、ドアアウタパネル12の上部側に車両前後方向に沿って配設されたドアインナリインフォース106と、このドアインナリインフォース106の車両後方側に配設されたロックリインフォース108と、が設けられている。
【0039】
すなわち、車両用サイドドア100では、ドアインナパネル102の強度の必要な部分にドアヒンジサイド104、ドアインナリインフォース106、ロックリインフォース108を配設しており、ドアインナパネル102の部品点数削減、軽量化、コスト削減の妨げとなっている。また、構成部品が多いため、ドアトリム(図示省略)の組付けの自由度が低下し、組付け工程のタクトタイムも増加する。
【0040】
これに対して、本実施形態では、厚さが異なるドアインナアッパ22、ドアインナフロント24、ドアインナリア26、ドアインナロア28を差厚結合により溶接してドアインナパネル14を形成するので、コストを削減することができ(例えば16,000円/台)、軽量化が可能となる(例えば8kg/台)。さらに、車両用サイドドア10の組付け工程を削減することができ(例えば工程が1/2)、作業性も向上する(例えばタクトタイムが1/2)。
【0041】
次に、図11を用いて、本発明に係る車両用開閉蓋構造の第2実施形態である車両用フード構造について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については、同一番号を付してその説明を省略する。
【0042】
図11に示されるように、車両用フード70を構成するフードインナパネル71は、車両前後方向及び車両幅方向に沿って配置されたフードインナ本体72と、フードインナ本体72の車両幅方向両側の車両後方側に配置されたフードインナサイド74、76と、フードインナ本体72の車両幅方向中央部の車両前方側に配置されたフードインナフロント78と、を接合することによって形成されている。
【0043】
フードインナパネル71には、車両後方側に図11の左側から順に5個の略矩形状の開口部80A、80B、80C、80D、80Eが形成されており、これらの開口部の車両前方側に図11の左側から順に5個の略矩形状の開口部80F、80G、80H、80I、80Jが形成されている。
【0044】
フードインナ本体72と、フードインナサイド74、76と、フードインナフロント78は、厚さの異なる3種類の異種材からなり、これらの境界部を差厚結合にて接合したものである。本実施形態では、フードインナ本体72の厚さは約0.7mmで、フードインナサイド74、76の厚さは約1.2mmで、フードインナフロント78の厚さは約1.4mmに設定されている。フードインナサイド74、76は、車両用フード70を図示しないヒンジにより車両本体に固定するために強度が必要となり、フードインナフロント78は図示しないフードロックが配設されるために強度が必要となるので、厚い部材で構成されている。
【0045】
フードインナ本体72とフードインナサイド74の接合ライン82と、フードインナ本体72とフードインナサイド76の接合ライン84は、左右対称で略L字状に形成されている。また、フードインナ本体72とフードインナフロント78の接合ライン86は、略「コ」字状に形成されている。
【0046】
接合ライン82には略L字状に交わる交点82Aが存在し、この交点82Aを含む部位に開口部80Aが形成されている。接合ライン84には略L字状に交わる交点84Aが存在し、この交点84Aを含む部位に開口部80Eが形成されている。接合ライン86には略L字状に交わる交点86A、86Bが存在し、交点86A、86Bを含む部位にそれぞれ開口部80G、80Iが形成されている。
【0047】
接合ライン82によりフードインナ本体72とフードインナサイド74とは溶接部88A、88Bで接合されており、接合ライン84によりフードインナ本体72とフードインナサイド76とは溶接部90A、90Bで接合されている。また、接合ライン86によりフードインナ本体72とフードインナフロント78とは溶接部92A、92B、92Cで接合されている。
【0048】
このようなフードインナパネル71では、接合ライン82、84、86の略L字状の交点82A、84A、86A、86Bで溶接不良が発生しても、これらの交点82A、84A、86A、86Bを含む部位が開口部80A、80E、80G、80Iとしてくりぬいて切除される。このため、溶接不良箇所がないフードインナパネル71を得ることができる。
【0049】
なお、厚さの異なる複数の板材の配置や接合ラインの設定は、第1及び第2実施形態に限定されず、複数の板材を差厚結合にて接合した後、接合ラインの交点を含む部位を切除する構成であれば、適宜に変更することができる。例えば、接合ラインの交点を含む部位が第1及び第2実施形態のようなインナパネルの開口部ではなく、インナパネルの縁部の外側に設定される構成でもよい。
【0050】
なお、上述した第1及び第2実施形態は、本発明を車両用サイドドア構造、車両用フード構造に適用した例であるが、これらに限定されず、例えば、本発明を車両用ラゲージのインナパネル、車両用バックドアのインナパネル、車両用ルーフのインナパネルに用いてもよい。また、本発明を車体の他の部材(例えばセンターピラーなど)のインナやリインフォースに適用してもよい。本発明により、3種類以上の板材の差厚結合が可能となり、自由な接合ラインを実現することができる。
【符号の説明】
【0051】
10 車両用サイドドア(車両用開閉蓋)
12 ドアアウタパネル(アウタパネル)
14 ドアインナパネル(インナパネル)
22 ドアインナアッパ(異種材)
24 ドアインナフロント(異種材)
26 ドアインナリア(異種材)
28 ドアインナロア(異種材)
30 開口部
32 接合ライン
32D 交点
32E 交点
70 車両用フード(車両用開閉蓋)
71 フードインナパネル(インナパネル)
72 フードインナ本体(異種材)
74 フードインナサイド(異種材)
76 フードインナサイド(異種材)
78 フードインナフロント(異種材)
80A 開口部
80E 開口部
80G 開口部
80I 開口部
82 接合ライン
82A 交点
84 接合ライン
84A 交点
86 接合ライン
86A 交点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3種類の異種材を差厚結合にて接合すると共に、前記異種材の接合ラインの延長線が交差するように配置されたインナパネルと、
前記インナパネルの車両外側に配設されるアウタパネルと、
を組み合わせて構成された車両用開閉蓋構造。
【請求項2】
前記インナパネルには、前記異種材の接合ラインの延長線が交差する位置に開口部が形成されている請求項1に記載の車両用開閉蓋構造。
【請求項3】
少なくとも3種類の異種材を接合ラインが交差するように配置する異種材配置工程と、
前記異種材を差厚結合にて接合する接合工程と、
前記接合ラインが交差した交点を含む部位を切除する交点切除工程と、
を有する車両用開閉蓋に用いるインナパネルの製造方法。
【請求項4】
前記異種材配置工程では、前記接合ラインが略T字状になるように前記異種材を配置し、
前記交点切除工程では、前記接合ラインの略T字状の交点を含む部位をくりぬいて開口部を形成する請求項3に記載の車両用開閉蓋に用いるインナパネルの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate