説明

車両用防音構造

【課題】アスファルトシートを接合させるための接着剤の外部への漏出を抑制することができる車両用防音構造を得る。
【解決手段】ホイールハウスインシュレータ12の周縁側にはパンチング加工により複数の丸孔14が形成されている。このパンチング加工はホイールハウスインシュレータ12の表面12Aから接合面12B側へ向かってパンチングが施されているため、ホイールハウスインシュレータ12の接合面12B側には突起としてのバリ20が形成される。バリ20の先端部20Aは尖鋭になっているため、ホイールハウスインシュレータ12の接合面12Bに接合されたアスファルトシート18に当該バリ20の先端部20Aが食い付く。これにより、ホイールハウスインシュレータ12とアスファルトシート18との相対的な位置ずれを防止することができ、接着剤16の量を少なくすることができる。したがって、接着剤16の外部への漏出を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用防音構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、フロアパネル(車体鋼板)の室内側面にアスファルトシート(防音シート)を貼付して、車外からの騒音の侵入を低減させたアスファルトシート貼着構造が開示されている。この先行技術では、接着剤によりアスファルトシートが貼着される被貼着面(接合面)には複数の凸部が形成され、アスファルトシートには凸部が挿入される孔が形成されている。アスファルトシートを被貼着面にセットすると、それぞれの孔にそれぞれの凸部が挿入されるため、被貼着面に対するアスファルトシートの位置決めができるというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−324186号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記先行技術による場合、アスファルトシートに孔が形成されているため、当該孔を通じて接着剤が外部へ漏出する可能性がある。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、アスファルトシートを接合させるための接着剤の外部への漏出を抑制することができる車両用防音構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明に係る車両用防音構造は、車体鋼板上に設けられ、前記車体鋼板上に配置される防音シートが接着剤によって接合されたインシュレータと、前記インシュレータにおける前記防音シートとの接合面に設けられ、当該防音シート側へ突出する突起と、を有している。
【0007】
請求項1記載の本発明に係る車両用防音構造では、車体鋼板上にインシュレータが設けられている。ここで、インシュレータには接着剤によって防音シートが接合されているが、このインシュレータにおける防音シートが接合される接合面側には、防音シート側へ突出する突起が設けられている。つまり、突起によって押圧された状態で防音シートは、接着剤を介してインシュレータに接合されている。
【0008】
一方、車体鋼板が水平に形成されている場合と比較して、車体鋼板が水平面に対して角度を有する場合、インシュレータの自重によりインシュレータと防音シートとが相対的にずれる可能性がある。このため、接着剤の量は、車体鋼板が水平に形成されている場合と比較して多く用いられる。
【0009】
一般的に、車体の製造工程において、車体骨格等の溶接後、化成処理によって車体鋼板の表面には化成被膜が形成される。その後、電着塗装が行われ、当該電着塗装の乾燥が行われる。電着塗装の乾燥温度は、最大温度が接着剤の融点を超える温度となっている。このため、接着剤の量を多くした場合、接着剤の一部が外部(車体鋼板上)へ漏出する可能性がある。接着剤が外部へ漏出した場合、漏出した接着剤分が車体鋼板の表面から盛り上がってしまう。このため、車体鋼板上に敷設されるカーペットとの間に隙間が生じるなどの不具合が生じる。
【0010】
しかし、本発明では、インシュレータの接合面に防音シート側へ突出する突起が設けられている。このため、当該突起が防音シートへ食い付き、インシュレータと防音シートとが相対的な位置ずれを抑制することができる。これにより、接着剤の量を減らすことができ、接着剤の外部への漏出を抑制することができる。また、接着剤が溶融しても、溶融した接着剤はインシュレータに設けられた突起によりその流れが堰き止められる。これにより、接着剤の外部への漏出をさらに抑制することができる。
【0011】
請求項2記載の本発明に係る車両用防音構造は、請求項1に記載の車両用防音構造において、前記インシュレータが鋼板で形成され、前記突起が前記インシュレータに形成されたパンチング加工により生じたバリである。
【0012】
請求項2記載の本発明に係る車両用防音構造では、鋼板製のインシュレータにパンチング加工を施している。このパンチング加工により生じたバリによって突起が形成される。このように、パンチング加工により生じたバリによって突起を形成することで、突起の頂部がより尖鋭となる。したがって、当該突起はより防音シートに食い付きやすくなり、インシュレータと防音シートとが相対的な位置ずれを防止することができる。
【0013】
一方、インシュレータの接合面に接着剤がきれいに塗布されなかった場合、当該接合面と接着剤との間に空気が入り込む場合がある。この場合、電着塗装の乾燥時において当該空気が膨張し気泡が発生する場合がある。このように気泡が発生した場合、この気泡は外部へ抜けようとして、接着剤を外部へ押し出そうとする。このため、当該接着剤が漏出する原因の1つになり得る。
【0014】
しかし、本発明では、インシュレータにパンチング加工を施している。このため、インシュレータの接合面と接着剤との間に空気が入り込んだとしても、パンチング加工によって形成された孔部から空気を逃がしてやることができる。また、インシュレータにパンチング加工を施すことにより、インシュレータの接合面の面積はその分狭くなり、接着剤の量もその分減らすことができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、請求項1記載の本発明に係る車両用防音構造によれば、アスファルトシートを車体鋼板に接合させるための接着剤の外部への漏出を抑制することができる、という優れた効果を有する。
【0016】
請求項2記載の本発明に係る車両用防音構造によれば、接着剤の量を減らすと共に、インシュレータと防音シートとの相対的な位置ずれを防止することができる、という優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係る車両用防音構造が適用されたホイールハウスインシュレータとホイールハウスインナパネルを示す分解斜視図である。
【図2】ホイールハウスインシュレータを示す平面図である。
【図3】ホイールハウスインシュレータ、アスファルトシート及びホイールハウスインナパネルを示す断面図であり、(A)はホイールハウスインシュレータにアスファルトをシートが接着される前の状態を示し、(B)はアスファルトシートが接着されたホイールハウスインシュレータがホイールハウスインナパネルに取り付けられた状態を示している。
【図4】本実施形態に係る車両用防音構造が適用された車体の製造ラインの一部を示すフローチャートである。
【図5】本実施形態に係る車両用防音構造が適用されたホイールハウスインシュレータの作用を説明する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図1〜図3を用いて、本発明に係る車両用防音構造が適用されたホイールハウスインシュレータの一実施形態について説明する。なお、これらの図において適宜示される矢印FRは車体前方側を示しており、矢印UPは車体上方側を示し、矢印INは車体幅方向内側を示している。
【0019】
(車両用防音構造の構成)
図1には、車体右側のリア側に位置する車体鋼板としてのホイールハウスインナパネル10を右斜め前方側から見た斜視図が示されている。ホイールハウスインナパネル10は車体の車室外と車室内とを隔離する鋼板製の部材であり、ホイールハウスインナパネル10の車体外側にはタイヤ(図示省略)が配置される。そして、ホイールハウスインナパネル10の上方には、図示しないボルトなどによって当該ホイールハウスインナパネル10に取り付けられる鋼板製のホイールハウスインシュレータ12が図示されている。
【0020】
図1に示されるように、ホイールハウスインナパネル10はタイヤの形状に沿って半円柱状となるように形成されており、ホイールハウスインナパネル10の車体前方側には、板状のホイールハウスインシュレータ12が取り付けられるようになっている。このホイールハウスインシュレータ12はホイールハウスインナパネル10の形状に沿って形成されており、ここでは略弓形状を成している。
【0021】
具体的には、ホイールハウスインシュレータ12の車両外側部13は略直線状を成し、車両外側部13の両端部から車両内側へ向かって膨らむ形状となっている。ホイールハウスインシュレータ12の長手方向の両端側には、ホイールハウスインナパネル10と締結されるボルト締結用の孔部15が形成されている。
【0022】
一方、図2にはホイールハウスインシュレータ12の平面図が示されている。図2に示されるように、ホイールハウスインシュレータ12の周縁側には、パンチング加工により所定のピッチで当該ホイールハウスインシュレータ12の全周に亘って複数の丸孔14がホイールハウスインシュレータ12を貫通している。
【0023】
図3(A)には、ホイールハウスインシュレータ12及び後述するアスファルトシート18において、丸孔14が形成された位置における断面図が示されている。図3(A)に示されるように、このパンチング加工は、ホイールハウスインシュレータ12の表面12Aから裏面12B(後述する接合面12B)側へ向かってパンチングが施されている。なお、ここでは、図2に示されるように、隣接する丸孔14間のピッチは略同じになっているが、隣接する丸孔14間でピッチが異なっていても良い。
【0024】
また、ホイールハウスインシュレータ12において、ホイールハウスインナパネル10と対向する面が接合面12Bとされている。接合面12Bには、例えば、耐熱性のゲル状のエポキシ系の接着剤16が塗布されるようになっており、図3(B)に示されるように、当該接着剤16を介して防音シールとしての例えばアスファルトシート18が接合されるようになっている。なお、図3(B)は図2で示す3(B)−3(B)線に沿って切断された断面図であるが、説明の便宜上、ホイールハウスインナパネル10を水平状にして図示している。
【0025】
このアスファルトシート18はホイールハウスインナパネル10の形状に沿って形成されいる。そして、図2に示されるように、アスファルトシート18の外形は、ホイールハウスインシュレータ12の丸孔14が形成された位置よりも外側、かつホイールハウスインシュレータ12の外形よりも内側となるように設定されている。
【0026】
(車体の製造ライン)
図4には、本実施形態に係る車両用防音構造が適用された車体の製造ラインの一部が示されている。図4に示されるように、ステップ100において、プレス加工によってホイールハウスインシュレータ12がホイールハウスインナパネル10に合わせた形状に形成される。次に、ステップ102において、パンチング加工によってホイールハウスインシュレータ12に複数の丸孔14が形成される。
【0027】
次に、ステップ104において、ホイールハウスインシュレータ12の接合面12Bに接着剤16が塗布される。なお、この場合、接着剤16はアスファルトシート18の大きさに合わせて塗布される。そして、ステップ106において、ホイールハウスインシュレータ12の接合面12Bにアスファルトシート18が貼り付けられる(接合される)。
【0028】
次に、ステップ108において、ホイールハウスインシュレータ12がホイールハウスインナパネル10に溶接される等、図示はしないが、ホイールハウスインナパネル10とホイールハウスアウタパネルとの溶接も含めいわゆるボデー溶接が行われる。
【0029】
そして、ステップ110において、化成処理が行われる。これにより、ボデーには化成被膜が形成される。次に、ステップ112において、電着塗装が行われ、ステップ114において、当該電着塗装の乾燥が行われる。この電着塗装における乾燥温度は、最大温度が接着剤16の融点を超える温度となっている。
【0030】
(車両用防音構造の作用・効果)
図3(B)に示されるように、ホイールハウスインナパネル10にホイールハウスインシュレータ12が取り付けられることによって、図示しないタイヤの回転やタイヤの巻き上げにより砂利が当たったときの音などによって発生する騒音侵入の抑制を図ることができる。
【0031】
ここで、図2に示されるように、ホイールハウスインシュレータ12の周縁側には、パンチング加工により所定のピッチで複数の丸孔14が形成されている。このパンチング加工は、図3(A)に示されるように、ホイールハウスインシュレータ12の表面12Aから接合面12B側へ向かってパンチングが施されているため、ホイールハウスインシュレータ12の接合面12B側には突起としてのバリ20が形成される。
【0032】
ホイールハウスインシュレータ12は鋼板で形成されているため、バリ20の先端部20Aは尖鋭になっている。したがって、図3(B)に示されるように、ホイールハウスインシュレータ12の接合面12Bに接合されたアスファルトシート18には当該バリ20の先端部20Aが食い付く。このため、ホイールハウスインシュレータ12が水平面に対して角度を有した状態で取り付けられても、ホイールハウスインシュレータ12とアスファルトシート18との相対的な位置ずれを防止することができる。
【0033】
一般的に、車体の製造工程では、上述のように、電着塗装の乾燥温度は、最大温度が接着剤16の融点を超える温度となっている。このため、接着剤16の量を多くした場合、接着剤16の一部が外部(ホイールハウスインナパネル10の表面)へ漏出する可能性がある。このように、接着剤16がホイールハウスインナパネル10の表面へ漏出した場合、漏出した接着剤分がホイールハウスインナパネル10の表面から盛り上がってしまう。このため、シートとの干渉や異音発生の原因となったり、室内スペースの減少などの不具合が生じる。
【0034】
しかし、本実施形態では、ホイールハウスインシュレータ12とアスファルトシート18との相対的な位置ずれを防止することで、接着剤16の量を少なくすることができる。これにより、接着剤16の外部への漏出を抑制し、上記のような問題が発生しないようにすることができる。
【0035】
また、バリ20の先端部20Aは尖鋭となっているが、バリ20の根元部20Bは略円筒状となっている。接着剤16はゲル状のエポキシ系の接着剤16が使用され、粘度が高いため、図5に示されるように、ホイールハウスインシュレータ12が水平面に対して角度を有した状態で取り付けられても、ホイールハウスインシュレータ12に設けられたバリ20の根元部20Bによりその流れが堰き止められる。これにより、接着剤16の外部への漏出をさらに抑制することができる。なお、図5は図2で示す5−5線に沿って切断された断面図である。
【0036】
また、ホイールハウスインシュレータ12の接合面12Bに接着剤16を塗布する工程において、当該接合面12Bに接着剤16がきれいに塗布されなかった場合、接合面12Bと接着剤16との間には空気が入り込む場合がある。この場合、電着塗装の乾燥工程において、当該空気が膨張し気泡が発生する場合がある。このように気泡が発生した場合、この気泡は外部へ抜けようとして、接着剤16を外部へ押し出そうとする。このため、当該接着剤16が漏出する原因の1つになり得る。
【0037】
しかし、本実施形態では、ホイールハウスインシュレータ12にパンチング加工を施している。このため、ホイールハウスインシュレータ12の接合面12Bと接着剤16との間に空気が入り込んだとしても、パンチング加工によって形成された丸孔14を通じて当該空気を逃がしてやることができる。このため、気泡の発生を抑制することができる。
【0038】
また、ホイールハウスインシュレータ12にパンチング加工を施すことにより、ホイールハウスインシュレータ12の接合面12Bの面積はその分狭くなる。このため、接着剤16の量もその分減らすことができ、接着剤16の外部への漏出を抑制することができる。
【0039】
(その他の実施形態)
上記の実施形態では、ホイールハウスインナパネル10に取り付けるホイールハウスインシュレータ12について説明したが、ホイールハウスインナパネル10以外に取り付けられるインシュレータについても適用可能である。
【0040】
また、ここでは、ホイールハウスインシュレータ12にパンチング加工を形成することより生じたバリ20を利用してアスファルトシート18の位置ずれを抑制するようにしたが、アスファルトシート18を押さえ、ホイールハウスインシュレータ12との相対的な位置ずれを抑制することができれば良い。
【0041】
このため、図示はしないが、ホイールハウスインシュレータ12の接合面12Bにアスファルトシート18側へ向かって突出する突起が形成されても良い。この場合、当該接合面12Bには当該ホイールハウスインシュレータ12を貫通する丸孔14は形成されない。なお、この場合ホイールハウスインシュレータが樹脂で形成されても良い。
【0042】
さらに、パンチング加工によりホイールハウスインシュレータ12に丸孔14を形成したが、丸孔14に限るものではない。例えば、長孔であっても良く、この場合、リブ状のバリが形成されることとなる。ホイールハウスインナパネル10に取り付けられるホイールハウスインシュレータ12の位置に合わせて、パンチング加工により形成する孔形状を変えても良い。
【0043】
また、ここでは、図4に示されるように、ホイールハウスインシュレータ12にパンチング加工を施した後、ホイールハウスインシュレータ12の接合面12Bに接着剤16を塗布し、当該接合面12Bにアスファルトシート18が貼り付けられる工程となっている。しかし、ホイールハウスインシュレータ12の接合面12Bにアスファルトシート18が貼り付けられた後に、パンチング加工を施したとしても本実施形態における効果を実質的に得ることができる。
【0044】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は、上記に限定されるものでなく、上記以外にも、その主旨を逸脱しない範囲内において種々変形して実施可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0045】
10 ホイールハウスインナパネル(車体鋼板)
12 ホイールハウスインシュレータ(インシュレータ)
12B 接合面
16 接着剤
18 アスファルトシート(防音シート)
20 バリ(突起)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体鋼板上に設けられ、前記車体鋼板上に配置される防音シートが接着剤によって接合されたインシュレータと、
前記インシュレータにおける前記防音シートとの接合面に設けられ、当該防音シート側へ突出する突起と、
を有する車両用防音構造。
【請求項2】
前記インシュレータが鋼板で形成され、
前記突起が前記インシュレータに形成されたパンチング加工により生じたバリである請求項1に記載の車両用防音構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−35497(P2013−35497A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−175047(P2011−175047)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】