説明

車両用音輪郭強調装置

【課題】車室内の状態に応じてハウリングを防止しつつ適切な音圧の制御が可能な車両用音輪郭強調装置を提供する。
【解決手段】車体前後方向に複数列のシート2を有する車両において、車両前方から2列目以後の何れかのシート2に設けられ少なくともシートフレーム5を加振させて音信号を伝達する振動デバイス4と、車室内の状態変化に応じて振動デバイス4から出力される音圧を補正する音圧補正機構50と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室内において乗員が会話等の音声を聞き取り易くするための車両用音輪郭強調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示されるように、イヤホンに入ってくる雑音をキャンセルする技術が古くから存在する。外来のノイズをキャンセルすることで、本来聴きたい音がより鮮明に聞こえるようになる。
【0003】
また、マイクロホンから入力された音声信号に基づいて、ハウリングが発生しているか否かを判定し、ハウリングが発生していると判定されたときに、スピーカから出力される音声信号の振幅を減衰させてハウリングを抑制するハウリング抑制装置が存在する(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−50532号公報
【特許文献2】特開2011−114758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、車両内での会話、特に前部座席と後部座席との間に亘って行われる会話は、例えば車速が上がると騒音等によりにおいて聞こえ難くなる。特許文献1に示される指向性スピーカは、身体装着具に搭載されたマイクと外部からの接近物との距離により反射共鳴を起こしハウリングを誘発するおそれがある。また、特許文献2に示されるハウリング抑制装置では、ハウリングが発生を判定する装置とそれを制御するソフトウェアとが必要であり、コストアップの要因となる。
【0006】
本発明は、車室内の状態に応じてハウリングを防止しつつ適切な音圧の制御が可能な車両用音輪郭強調装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る車両用音輪郭強調装置の第1特徴構成は、車体前後方向に複数列のシートを有する車両において、車両前方から2列目以後の何れかの前記シートに設置され少なくともシートフレームを加振させて音信号を伝達する振動デバイスと、車室内の状態変化に応じて前記振動デバイスから出力される音圧を補正する音圧補正機構と、を備えた点にある。
【0008】
本構成により、車両前方から2列目以後の何れかのシートに設置された振動デバイスが当該シートのシートフレームを加振させて音信号を伝達し、シートフレームの振動により音が発せられて、車室内に伝搬される。シートフレームの振動による音は全方向に発せられるため、他の室内騒音と干渉し難く自然に響くこととなる。これにより、車室内の会話等の音声が振動デバイスに入力されて強調され、音の輪郭が明確となる(特定周波数の領域の音量が大きくなる)。その結果、乗員にとって車室内の会話等が聞き取り易くなる。
【0009】
また、車室内では、振動デバイスによって加振されるシートの位置が移動されたり、シートの配列が変更されたりすることがあり、状態が変化する。こうした場合には、シートフレームの位置が変わることで振動による音が聞こえ難くなることがある。また、車室内にマイクが備えられている場合には、音を出力するシートフレームとマイクとの距離が近づくことでハウリングが発生することも考えられる。しかし、本構成のように、車両用音輪郭強調装置が音圧補正機構を備えることで、車室内の状態変化に応じて振動デバイスから出力される音圧が補正される。これにより、乗員が音声を聴き取る上で必要な音圧を確保したり、ハウリングの発生前に振動デバイスから出力される音圧を低くしたりする補正が可能となる。その結果、車室内の会話等が聞き取り易くなると共に、不快な音(ハウリング、耳障り)の発生を未然に防止することができる。
【0010】
本発明に係る車両用音輪郭強調装置の第2特徴構成は、前記音圧補正機構が、前記振動デバイスが設置された前記シートの背もたれ角度の変化による前記車室内の状態変化に応じ、前記振動デバイスから出力される音圧を補正するよう構成してある点にある。
【0011】
車室内において振動デバイスが設置されたシートの姿勢が変更されると、振動デバイスが設置されたシートのシートフレームと、当該シートの前方列のシートの乗員や後方列のシートの乗員が夫々近づいたり遠ざかったりする。このため、シートフレームの振動による音の聞こえ方は前方列のシートの乗員や後方列のシートの乗員にとって当然の如く変化する。すなわち、振動デバイスが設置されたシートの背もたれ角度の変化は車室内の状態変化に相当する。そこで、本構成では、音圧補正機構が、振動デバイスが設置されたシートの背もたれ角度の変化による車室内の状態変化に応じ、振動デバイスから出力される音圧を補正するよう構成した。ここで、車室内の状態変化は振動デバイスが設置されたシートの背もたれ角度の変化によって迅速かつ確実に検知される。その結果、振動デバイスから出力される音圧を即座に補正することが可能となる。
【0012】
本発明に係る車両用音輪郭強調装置の第3特徴構成は、前記振動デバイスが前記シートの外部に露出した振動体を備えた点にある。
【0013】
本構成により、シートフレームの外側にも音伝搬が可能となる。これにより、車室内において音声が聞き取り易くなる。
【0014】
本発明に係る車両用音輪郭強調装置の第4特徴構成は、前記振動デバイスが設置された前記シートの背もたれ角度の変化に応じ、前記振動デバイスから前記シートフレーム及び前記振動体への音振動出力を変更可能にした点にある。
【0015】
シートの傾斜により振動体及びシートフレームにおいては、それぞれ拡がる音の伝搬領域と失われる音の伝搬領域とが生まれる。ここで、本構成の如く、振動デバイスが設置されたシートの背もたれ角度の変化に応じ、振動デバイスからシートフレーム及び振動体への音振動出力を変更可能にすることで、拡がる音の伝搬領域と失われる音の伝搬領域とに対してシートフレーム及び振動体への音振動出力を増減させて対応することが可能となる。これにより、失われる音の伝搬領域を補完しつつ、拡がる音の伝搬領域についてはハウリング等が発生する場合に音の伝搬を抑制することもできる。
【0016】
本発明に係る車両用音輪郭強調装置の第5特徴構成は、前記車室内に前記振動デバイスに入力される音を集音する集音装置を設けてある点にある。
【0017】
本構成により、振動デバイスによって集音装置で集音された車室内の会話等の大きさ(音量)を強調することができ、乗員が音声の輪郭を明確に認識することができる。したがって、乗員が前方列シートや後方列シートの乗員の会話や声等を聞き取り易くなる。
【0018】
本発明に係る車両用音輪郭強調装置の第6特徴構成は、前記振動デバイスの音圧の補正態様が予め条件設定されてある点にある。
【0019】
本構成の如く、振動デバイスの音圧の補正態様が予め条件設定されてあると、車室内の状態の変化に応じて自動的に振動デバイスの音圧の補正が行なわれることとなり、車両用音輪郭強調装置の操作性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】車両のシートの斜視図である。
【図2】特定周波数領域を説明するためのイメージ図である。
【図3】車室内の状態を示す側面図である。
【図4】音圧補正機構の構成を示す図である。
【図5】振動デバイスの音伝搬領域の変化を示す図である。
【図6】2列目シートが前後傾斜した状態を示す側面図である。
【図7】後方にスライド移動した2列目シートの状態を示す側面図である。
【図8】3列目シートが折り畳まれた状態を示す側面図である。
【図9】車室内の各状態における振動デバイスの出力状態を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る車両用音輪郭強調装置の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
図1に示すように、車両用音輪郭強調装置100は、伝達制御部3と、車室内に備えられるシート2に設置された振動デバイス4と、シートフレーム5と、振動体6とを有する。車室内とは、乗員が乗り降り可能な空間を含み、車両のボディ(車体外表面のパネルやドアパネル)の内側を意味する。
【0023】
シート2は、ヘッド部21と、背もたれ部22と、座部23と、を有する。ヘッド部21は、乗員がシート2に着座した状態で、乗員の頭部に対応する部位である。背もたれ部22は、乗員がシート2に着座した状態で、乗員の背部に対応する部位である。座部23は、乗員が着座する部位である。シート2内にはシートフレーム5が配置されている。
【0024】
伝達制御部3は電子制御ユニットであって、例えばシート2の背もたれ部22内に配置されている。伝達制御部3は、車室内に設けられるマイク(集音装置)等の音声入力部7と振動デバイス4とに接続されている。伝達制御部3は、音声入力部7から入力された音を音信号(音声信号)に変換し、予め設定された特定周波数帯域について増幅する。すなわち、伝達制御部3は、コンバータにより音(アナログ信号)を音信号(デジタル信号)に変換し、周波数フィルタにより音信号のうちの特定周波数帯域を抽出し、アンプ(増幅器)によりこの特定周波数帯域を増幅する。
【0025】
特定周波数帯域とは、人間の聴覚(鼓膜)が敏感に反応する周波数帯域であって、ラウドネスカーブ(等ラウドネス曲線)に基づいて設定されている。ラウドネスカーブとは、音の周波数を変化させたときに等しいラウドネスになる音圧レベルを測定し、等高線として結んだものである。ラウドネスとは、人の聴覚で感じる音の大きさの感覚である。ラウドネスカーブによれば、人の聴覚は、図2に示す、およそ500Hz〜4kHzの周波数帯域の音に敏感に反応する。本実施形態では、この500Hz〜4kHzの周波数帯域を特定周波数帯域として設定している。一般に、弾性の発する音(声)がもつ強い主成分は約50Hz前後であり、女性の場合は約150Hz前後である。これらの音の周波数のうち特定周波数領域を増幅することで、人にとって聴き取り易い音となる。
【0026】
振動デバイス4は、振動を音に変換することを目的に設置したアクチュエータである。振動デバイス4は、伝達制御部3から送信される増幅された音信号を固体伝搬振動に変換する。振動デバイス4は、シートフレーム5に固定されており、振動体6を備えている。詳細には、図1に示されるように、振動デバイス4は、シートフレーム5のうち背もたれ部22の上部位置に配置されている。振動体6はシート2の上部(外部)に露出されている。振動デバイス4の振動は、シートフレーム5及び振動体6に伝達される。
【0027】
シートフレーム5は、シート2内に配置され、シート2の骨格を形成する部材である。シートフレーム5は、金属材料(例えば鋼板)からなり、振動を伝達することができる。振動デバイス4の振動が、シートフレーム5の全体に伝達(固体伝搬)されると共に、シートフレーム5の周囲の空気等にも振動を伝達(空気伝搬)する。すなわち、特定周波数帯域が増幅された音(聴覚が敏感に反応する音)は、シートフレーム5を介して車室内に伝搬される。シートフレーム5の振動による音は全方向に発せられるため、他の室内騒音と干渉し難く自然に響くこととなる。これにより、車室内の会話等の音声が振動デバイス4に入力されることで強調され、音の輪郭が明確になる(特定周波数領域の音量が大きくなる)。その結果、乗員にとって車室内の会話等が聞き取り易くなる。
【0028】
振動デバイス4の設置位置は上記に限定されない。例えばシート2の内部に配置されていてもよい。なお、シート2の座部23には、乗員の有無を検知する乗員検知センサ10Aが設けられている。また、伝達制御部3は車室内におけるシート2以外の部位に設置されていてもよい。
【0029】
車両用音輪郭強調装置100は、車室内の状態変化に応じて振動デバイス4から出力される音圧を補正する音圧補正機構50を備える。図4に示すように、音圧補正機構50は、車室内の状態変化を検知する各種センサ10(10A〜10F)と、伝達制御部3等によって構成されている。
【0030】
車室内の状態変化を検知するセンサ10には、各列のシート2の乗員の存在を検知する乗員検知センサ10A、振動デバイス4が設置されたシート2の位置を検知するシート位置センサ10B,振動デバイス4が設置されたシート2Bの背もたれ部22の傾斜度合いを検知するシート角度センサ10C,シート2が折畳まれた状態を検知するシート折畳み検知センサ10D,ドア部40の所定の開放状態を検知するドア開放検知センサ10E,窓部30の所定以上の開放状態を検知する窓開放検知センサ10F等が備えられている。その他、各シート2に備えられているシートベルト装置12にセンサを配置してシート2の乗員を検知するようにしてもよい。
【0031】
図4に示すように、車室内の状態変化を検知するセンサ10A〜10Fのセンサ情報は伝達制御部3に入力される。伝達制御部3は、これらセンサ10A〜10Fのセンサ情報に基づいて車室内の状態を認識し、音声入力部7から入力された音の音圧を上述のように適切に補正して振動デバイス4に出力する。これにより、車室内の状態に応じた音信号が振動デバイス4を介してシートフレーム5及び振動体6から車室内に伝達される。
【0032】
次に、3列シートを備える車両を例に本発明に係る車両用音輪郭強調装置100を説明する。
【0033】
図3に示すように、車両用音輪郭強調装置100は2列目シート2Bに配置されている。車両用音輪郭強調装置100は、車室内の状態変化に応じて音圧が補正されるよう構成されている。車室内の状態変化とは、振動デバイス4を備えた2列目シート2Bの背もたれ角度の変化や、車窓・ドアの開き動作等、振動デバイス4から出力される音圧に変化を起こさせる状態変化を指す。
【0034】
音圧補正機構50は、例えば、以下に示すように、振動デバイス4が設置されたシート2Bの背もたれ角度の変化による車室内の状態変化に応じ、振動デバイス4から出力される音圧を補正するよう構成されている。上述のように、乗員検知センサ10Aにより、各シート2(2A,2B,2C)の乗員の有無が検知され、シート角度センサ10Cにより振動デバイス4が設置されたシート2Bの背もたれ角度の変化が迅速かつ確実に検知される。その結果、振動デバイス4から出力される音圧を伝達制御部3によって即座に補正することが可能となる。
【0035】
〔音圧補正領域〕
図5は、2列目シート2Bの背もたれ部22を傾斜させた場合の振動デバイス4、シートフレーム5、及び振動体6の位置を示す。図3に示す車室内のシート2の状態から、2列目シート2Bの背もたれ部22を前方または後方に傾斜させると、背もたれ部22は初期位置領域Aを越えて音圧補正領域B(例えば垂直方向から前方または後方に15度まで傾斜する領域)に達する。このとき、2列目シート2Bの背もたれ部22が傾斜することで、振動体6において失われる音伝搬領域αと、拡がる音伝搬領域βが存在する。ここで、音伝搬領域αとは、初期位置領域Aにおける振動体6の載置面の延長線と音圧補正領域Bにおける振動体6の載置面の延長線とによってなす角αの領域である。また、音伝搬領域βとは、初期位置領域Aにおける振動体6の載置面の延長線と音圧補正領域Bにおける振動体6の載置面の延長線とによってなす角βの領域である。失われる音伝搬領域αは音の損失領域となる。一方、拡がる音伝搬領域βは近接するシート2(2A又は2C)への音の到達距離が近くなり、ハウリングや近接するシート2(2A又は2C)の乗員の耳障りの原因ともなる。
【0036】
そこで、伝達制御部3において振動デバイス4からの振動出力をシートフレーム5に対しては増加させ、振動体6に対して減少させる制御が行われる。すなわち、例えば、シート2が初期位置領域Aにおいて、シートフレーム5への音伝達量F1と振動体6への伝達量F2とがほぼ同量程度(5:5)である状態を、シート2が傾斜して音圧補正領域Bの位置なると、シートフレーム5への音伝達量F1´と振動体6への伝達量F2´とを7:3の比に変更する制御が行われる。これにより、失われる音伝搬領域αに対してはシートフレーム5の振動が増すことで損失した音が補完され、また拡がる音伝搬領域βについては振動体6の振動が減少することで耳障り等の悪影響が低減される。
【0037】
〔音圧補正不能領域〕
図6に示すように、2列目シート2Bの背もたれ角度が音圧補正領域Bを越えて更に前後に傾斜されると、音圧補正不能領域C(例えば垂直方向から前方または後方に15度を越えて傾斜する領域)に達する。
【0038】
2列目のシート2Bの前方傾斜の場合には、振動体6と集音装置(マイク)11とが近接しハウリングの起こる虞がある。また、1列目(前方列)シート2Aと振動体6が近接するため、1列目(前方列)シート2Aに乗員が存在する場合、シートフレーム5及び振動体6からの音は前方側の乗員にとっては耳障りとなる可能性がある。
【0039】
こうした車室内の状態下においては、1列目(前方列)シート2Aに乗員が存在する場合には、ハウリングの虞及び当該1列目の乗員への耳障りな音の発生を回避するために、伝達制御部3において振動デバイス4への音信号の出力を停止あるいは制限(低減)する制御が行われる。これにより、ハウリングの発生が未然に防止され、1列目(前方列)シート2Aの乗員の耳障りも抑制される。一方、1列目(前方列)シート2Aに乗員が存在しない場合には、ハウリングの虞を回避するために、振動デバイス4への音信号の出力を停止する。これにより、ハウリングの発生が未然に防止される。
【0040】
2列目シート2Bの後方傾斜の場合には、音の到達(反射)距離が変化する(通常長くなる)。また、3列目(後方列)シート2Cと振動体6が近接するため、3列目(後方列)シート2Cに乗員が存在する場合には、シートフレーム5及び振動体6からの音は後方側の乗員にとっては耳障りとなる可能性がある。
【0041】
こうした車室内の状態下においては、3列目(後方列)シート2Cに乗員が存在する場合には、当該3列目の乗員への耳障りな音の発生を回避するために、伝達制御部3において振動デバイス4への音信号の出力を停止あるいは制限(低減)する制御が行われる。これにより、3列目(後方列)シート2Cの乗員の耳障りが抑制される。一方、3列目(後方列)シート2Cに乗員が存在しない場合には、音の到達距離が長くなることへの対応としてシートフレーム5及び振動体6への出力を増加する。これにより、3列目の乗員に耳障りが存在しない状態下では音が到達し易くなる。
【0042】
このように、伝達制御部3は、車室内の環境変化の要因を判定し、振動デバイス4の出力補正及び停止処理を制御する。2列目シート2Bが音圧補正領域B及び音圧補正不能領域Cから初期位置領域Aに復帰した場合には、伝達制御部3では可変させたパラメータを初期値に戻す処理が行われる。
【0043】
〔他の車室内の状態下において〕
図7に示すように、2列目シート2Bが3列目(後方列)シート2Cに近接する位置まで後方にスライド移動されている場合には、シート位置センサ10Bにより2列目シート2Bの位置が検知される。この場合には、振動デバイス4への音信号の出力制限値及び出力加減値は異なるものの、伝達制御部3では上記の2列目シート2Bが通常位置の場合とほぼ同様の制御が行われる。ただし、2列目シート2Bが後傾の補正不能領域Cにおいて3列目(後方列)シート2Cに乗員がいない場合には、音の到達(反射)距離が短くなるため、伝達制御部3は振動デバイス4への音信号の出力を低減する制御を行う。
【0044】
窓開放検知センサ10Fにより窓部30の所定以上の開状態が検知された場合、車外の音により振動デバイス4から出力される音の聴き取りが妨げられてしまう状況が想定される。また、ドア開放検知センサ10Eによりドア部40の所定以上の開状態が検知された場合は、主に乗員の乗降時であり振動デバイス4から出力される音を聴き取る状況はほとんど想定されない。したがって、こうした車室内の状態下では伝達制御部3によって振動デバイス4への音信号の出力を停止する制御が行われる。
【0045】
また、図8に示すように、3列目(後方列)のシート2Cが折り畳まれた状態(乗員なし)において、2列目シート2Bが後傾した場合(音圧補正領域B及び音圧補正不能領域C)には、音の到達距離が長くなる。したがって、この場合には伝達制御部3によって振動デバイス4への音信号の出力を増加する制御が行われる。
【0046】
図9に示すように、上述の車室内の状態に応じた伝達制御部3の制御態様(振動デバイス4の音圧の補正態様)は、予め条件ごとに設定されていることが好ましい。このように、振動デバイス4の音圧の補正態様が予め条件設定されていると、車室内の状態の変化に応じて自動的に振動デバイス4の音圧の補正が行なわれることとなり、車両用音輪郭強調装置100の操作性が向上する。
【0047】
上述のように、車室内では、必要に応じてシート2の背もたれ角度が変更されたり、シート2の位置が移動されたり、シート2の配列が変更される等様々な車室内の状態変化が考えられる。こうした車室内の状態変化があると、シートフレーム5や振動体6の振動による音が乗員にとって聞こえ難くなる場合が起こり得る。また、車室内に集音装置(マイク)11が備えられている場合には、振動によって音を出力するシートフレーム5や振動体6と集音装置(マイク)11との距離が近づくことによるハウリングが発生することも考えられる。しかし、本実施形態のように、車両用音輪郭強調装置100に音圧補正機構50を備えることで、車室内の状態変化に応じて振動デバイス4から出力される音圧が補正される。これにより、乗員が音声を聴き取る上で必要な音圧を確保したり、ハウリングの発生前に振動デバイス4から出力される音圧を低くしたりする補正が可能となる。その結果、車室内の会話等が聞き取り易くなると共に、不快な音(ハウリング、耳障り)を未然に防止することができる。
【0048】
〔他の実施形態〕
(1)上記の実施形態では、3列シートを備える車両の2列目シート2Bに振動デバイス4を配置した例を示したが、振動デバイス4は2列目以降であれば3列目シート2Cに配置してもよい。また、車両としては、シートが2列であってもよいし、4列以上のシートを備えていても良い。
【0049】
(2)上記の実施形態では、振動デバイス4からの音信号がシートフレーム5と振動体6との両方に伝達される例を示したが、シートフレーム5と振動体6のうち何れか一方のみに音信号が伝達されるよう構成してもよい。
【0050】
(3)上記の実施形態では、集音装置11を車両の運転席前方に設ける例を示したが、集音装置11はシート2(例えば座部23や背もたれ部22等)に設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明に係る車両用音輪郭強調装置は、複数列のシートを有する車両に幅広く利用可能である。
【符号の説明】
【0052】
2 シート
2A 1列目(前方列)シート
2B 2列目シート
2C 3列目(後方列)シート
3 伝達制御部
4 振動デバイス
5 シートフレーム
6 振動体
10A 乗員検知センサ
10C シート角度センサ
11 集音装置
12 シートベルト装置
30 窓部
50 音圧補正機構
100 車両用音輪郭強調装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前後方向に複数列のシートを有する車両において、
車両前方から2列目以後の何れかの前記シートに設置され少なくともシートフレームを加振させて音信号を伝達する振動デバイスと、
車室内の状態変化に応じて前記振動デバイスから出力される音圧を補正する音圧補正機構と、を備えた車両用音輪郭強調装置。
【請求項2】
前記音圧補正機構が、前記振動デバイスが設置された前記シートの背もたれ角度の変化による前記車室内の状態変化に応じ、前記振動デバイスから出力される音圧を補正するよう構成してある請求項1記載の車両用音輪郭強調装置。
【請求項3】
前記振動デバイスが前記シートの外部に露出した振動体を備えた請求項1又は2記載の車両用音輪郭強調装置。
【請求項4】
前記振動デバイスが設置された前記シートの背もたれ角度の変化に応じ、前記振動デバイスから前記シートフレーム及び前記振動体への音振動出力を変更可能にした請求項3記載の車両用音輪郭強調装置。
【請求項5】
前記車室内に前記振動デバイスに入力される音を集音する集音装置を設けてある請求項1〜4のいずれか一項に記載の車両用音輪郭強調装置。
【請求項6】
前記振動デバイスから出力される音圧の補正態様が予め条件設定されてある請求項1〜5のいずれか一項に記載の車両用音輪郭強調装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−112059(P2013−112059A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257990(P2011−257990)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【Fターム(参考)】