説明

車両用飲酒検知装置及び車両用飲酒検知方法

【課題】運転者に煩わしさを感じさせずに当該運転者の飲酒状態を検知することができる車両用飲酒検知装置を提供する。
【解決手段】車両用飲酒検知装置は、運転者が発話した音声を音声認識部11によって検出し、検出した個人認識用の文言に対応する音声データと、話者モデルデータベース13bに発話者毎に記憶されている音声データのうち個人認識用の文言に対応する音声データとを話者照合部12によって比較し、その類似性に基づいて、発話した運転者に対応した話者モデルデータベース13bに発話者毎に記憶されている音声データを選択し、検出した飲酒判断用の文言に対応する音声データと、選択した飲酒判断用の文言に対応する音声データとを飲酒判定部14によって比較し、その類似性に基づいて、飲酒の有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転者の飲酒の有無を検知する車両用飲酒検知装置及び車両用飲酒検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、運転者の呼気を吸引し、吸引した呼気中に含まれるアルコール濃度を検出し、そのアルコール濃度に基づいて運転者の飲酒状態を判断する技術が知られている(特許文献1,2参照)。
【特許文献1】特開平8−150853号公報
【特許文献2】特開2005−1572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の技術においては、運転者の飲酒状態を判断するために、運転者が身体を移動させて呼気を吸引するためのセンサ(呼気吸い込み部)に自己の口を近付けるか、或いは、当該センサ(呼気吸い込み部)を手動で移動させて運転者の口に近付ける必要があり、操作が煩わしかった。
【0004】
本発明は上述した実情に鑑みて提案されたものであり、その目的は運転者に煩わしさを感じさせずに当該運転者の飲酒状態を検知することができる車両用飲酒検知装置及び車両用飲酒検知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、運転者としての話者を認識するための所定の個人認識用の文言と、特定の発音を含む所定の飲酒判断用の文言とを含むキーワードが非飲酒時に発話された音声を、発話者毎に音声データとして記憶手段に記憶しておく。そして、本発明にかかる車両用飲酒検知装置は、運転者が発話した音声を検出し、検出した個人認識用の文言に対応する音声データと、記憶手段に発話者毎に記憶されている音声データのうち個人認識用の文言に対応する音声データとを比較し、その類似性に基づいて、発話した運転者に対応した記憶手段に発話者毎に記憶されている音声データを選択し、検出した飲酒判断用の文言に対応する音声データと、選択した飲酒判断用の文言に対応する音声データとを比較し、その類似性に基づいて、飲酒の有無を判定する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、運転者が発話した音声から検出した個人認識用の文言に対応する音声データと、記憶手段に発話者毎に記憶されている音声データのうち個人認識用の文言に対応する音声データとの類似性に基づいて、発話した運転者を特定することができ、また、検出した飲酒判断用の文言に対応する音声データと、選択した飲酒判断用の文言に対応する音声データとの類似性に基づいて、飲酒の有無を判定することができるため、運転者の呼気を吸引する必要がなく、運転者に煩わしさを感じさせずに当該運転者の飲酒状態を適切に検知することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の好適な実施形態としての車両用飲酒検知装置について具体的に説明する。
【0008】
[車両用飲酒検知装置の構成]
本発明の実施形態となる車両用飲酒検知装置は、図1に示すように、入力された音声を認識する音声検出手段としての音声認識部11と、この音声認識部11によって認識された音声データに基づいて話者を照合する音声データ選択手段としての話者照合部12と、運転者としての話者を登録する話者登録部13と、運転者の飲酒状態を判定する飲酒判定手段としての飲酒判定部14と、この飲酒判定部14によって判定された結果に基づいて警報を出力する警報制御手段としての警報出力部15と、各部を制御する制御手段としての制御部16とを備える。
【0009】
音声認識部11は、運転者が発話した音声がマイクロフォン等の音声入力装置21を介して電気的な音声信号に変換されると、その音声信号を入力する。なお、音声入力装置21としては、同乗者等の他者発話によるなりすましを防止する観点から、指向性マイクロフォンを用いるのが望ましい。ここで、車両用飲酒検知装置は、後述するように、運転者としての話者を認識するための所定の個人認識用の文言と、所定の飲酒判断用の文言とを含むキーワードを運転者に発話させる。音声認識部11は、入力された音声信号を音声認識部11aによって認識するとともに、音声認識データベース11bに記憶されている特定のキーワードに対応する認識データに基づいて、認識した音声データの中から特定のキーワードに相当する音声データを抽出する。そして、音声認識部11は、抽出した音声データを話者照合部12に供給する。
【0010】
話者照合部12は、音声分析部12aにより、音声認識部11によって抽出された特定のキーワードに相当する音声データを分析する。例えば、音声分析部12aは、音声データのサウンドスペクトログラムを描くことによって音声データを分析する。続いて、話者照合部12は、かかる分析を行うことにより、当該音声データを、個人認識用の文言に対応する部分と、飲酒判断用の文言に対応する部分とに分離し、当該音声データの個人認識用の文言に対応する部分の音響的な特徴量と、飲酒判断用の文言に対応する部分の音響的な特徴量とを算出する。そして、話者照合部12は、判定部12bにより、算出した音声データの特徴量と、記憶手段としての話者モデルデータベース13bに記憶されている話者モデルとに基づいて、発話した運転者に対応した話者モデルを判定する。話者照合部12は、判定した結果を示す情報を飲酒判定部14に供給する。
【0011】
話者登録部13は、当該車両用飲酒検知装置を使用するのに先立って、非飲酒時の運転者の発話音声を登録する。具体的には、話者登録部13は、運転者の発話音声を登録する際に、話者モデル作成部13aにより、話者照合部12によって算出された個人認識用の文言に対応する部分の音声データの音響的な特徴量と、話者照合部12によって算出された飲酒判断用の文言に対応する部分の音声データの音響的な特徴量とを含む話者モデルを作成する。話者登録部13は、作成した話者モデルを運転者の個人認識をするためのデータとして話者モデルデータベース13bに記憶する。この話者モデルデータベース13bに記憶された話者モデルは、話者照合部12及び飲酒判定部14によって読み出される。
【0012】
飲酒判定部14は、音声分析部14aにより、話者照合部12によって分離された飲酒判断用の文言に対応する部分の音声データの音響的な特徴量を算出する。そして、飲酒判定部14は、判定部14bにより、話者モデルデータベース13bから運転者に対応するものと判断した話者モデルのうち、飲酒判断用の音響的な特徴量を読み出し、この特徴量と、音声分析部14aによって算出した音声データの音響的な特徴量とを比較した結果に基づいて、飲酒の有無を判定する。飲酒判定部14は、判定した結果を示す情報を警報出力部15に供給する。
【0013】
警報出力部15は、飲酒判定部14によって判定された結果が飲酒状態であった場合に所定の警報信号を出力する。例えば、警報出力部15は、車両の駆動を制御する車両制御装置22に対して警報信号を出力することにより、運転者が飲酒状態である場合には、エンジン始動前であればスターターモーターを駆動させないようにしたり、運転中であれば徐々に制動を抑制したりする等の制御を行う。また、警報出力部15は、各種情報を表示する液晶ディスプレイ等の表示出力装置23やスピーカ等の音声出力装置24に対して警報信号を出力することにより、運転者が飲酒状態である場合には、その旨を視覚的及び聴覚的な情報として当該運転者に警報する。
【0014】
制御部16は、当該車両用飲酒検知装置の各部を統括的に制御する。特に、制御部16は、表示出力装置23や音声出力装置24を制御し、運転者にキーワードの発話を促すための視覚的及び聴覚的なメッセージを出力させる。
【0015】
[車両用飲酒検知装置の動作]
このような車両用飲酒検知装置は、“Alcohol Clin Exp Res. 1989 Aug;13(4):577-87. Related Articles, Links「Effects of alcohol on the acoustic-phonetic properties of speech: perceptual and acoustic analyses.」”に記載されているように、非飲酒時と飲酒時とにおいて、発話した音声に含まれる特定の発音に差異が生じることを利用して、運転者の飲酒状態を検知する。
【0016】
すなわち、人間が発話する音声の中には、非飲酒時と飲酒時とにおいて、発話する文言の発音によって特徴的な差異が出る文言と、差異が出にくい文言とがある。かかる特徴的な差異が出る文言としては、破裂音や破擦音が含まれる文言が挙げられる。すなわち、飲酒時と非飲酒時とにおいて、破裂音や破擦音等の特定の発音に差異が生じる。
【0017】
図2に、ある4人の被験者A,B,C,Dが“dishes”という破裂音を含む文言を非飲酒時と飲酒時とにおいて発話したときの音声データを示す。なお、それぞれの被験者の音声データのうち、上段に示す音声データは、非飲酒時において発話したときの音声データであり、下段に示す音声データは、飲酒時において発話したときの音声データである。このように、破裂音を含む文言は、非飲酒時と飲酒時との間で、発音によって特徴的な差異が生じる。また、図3に、ある4人の被験者A,B,C,Dが“pajamas”という破擦音を含む文言を非飲酒時と飲酒時とにおいて発話したときの音声データを示す。なお、それぞれの被験者の音声データのうち、上段に示す音声データは、非飲酒時において発話したときの音声データであり、下段に示す音声データは、飲酒時において発話したときの音声データである。このように、破擦音を含む文言も、非飲酒時と飲酒時との間で、発音によって特徴的な差異が生じる。
【0018】
車両用飲酒検知装置は、このような非飲酒時と飲酒時とにおいて特定の発音に生じる差異を利用して、運転者の飲酒状態を検知する。すなわち、車両用飲酒検知装置は、非飲酒時に、破裂音や破擦音等の特定の発音を含む飲酒判断用の文言と、それ以外の発音を含む個人認識用の文言とから構成されるキーワードを運転者に発話させ、その音声を音声データとして話者登録部13に登録しておく。このとき、車両用飲酒検知装置は、誤検知の可能性を低減するために、特定の発音を含む複数の飲酒判断用の文言から構成されるキーワードを登録するのが望ましい。そして、車両用飲酒検知装置は、車両のエンジン始動前や運転中において、運転者に当該キーワードを発話させ、発話させた音声の中から、特定の発音以外の発音の部分の音声を抽出し、この部分について、話者登録部13に登録されている音声データとの一致度を求め、その一致度に基づいて、運転者としての話者を認識する。車両用飲酒検知装置は、運転者を認識すると、認識した運転者の音声データを話者モデルデータベース13bに記憶されている音声データの中から特定し、特定した音声データに含まれる特定の発音の部分と、運転者が発話した音声の中から抽出した特定の発音の部分とを比較し、その比較結果に基づいて、飲酒の有無を判定する。
【0019】
具体的には、車両用飲酒検知装置は、以下のような手順にしたがって、運転者の飲酒の有無を判定する。
【0020】
まず、話者登録部13に対する非飲酒時の運転者の発話音声の登録処理について説明する。車両用飲酒検知装置は、運転者が非飲酒時に、車両に設けられている所定の登録スイッチを押下する等の運転者登録のための操作を行って所定のキーワードを発話するのに応じて、図4に示すように、ステップS1において、音声入力装置21によって電気的な音声信号に変換された音声信号を音声認識部11における音声認識部11aに入力する。続いて、音声認識部11における音声認識部11aは、ステップS2において、入力された音声信号を認識し、ステップS3において、認識した音声データと、音声認識データベース11bに記憶されている特定のキーワードに対応する認識データとを比較し、認識した音声データの中から特定のキーワードに相当する音声データを抽出する。
【0021】
話者照合部12における音声分析部12aは、ステップS4において、音声認識部11aによって抽出された特定のキーワードに相当する音声データを分析し、当該音声データを、個人認識用の文言に対応する部分と、飲酒判断用の文言に対応する部分とに分離し、ステップS5において、当該音声データの個人認識用の文言に対応する部分の音響的な特徴量を算出する。続いて、話者登録部13における話者モデル作成部13aは、ステップS6において、音声分析部12aによって算出された個人認識用の文言に対応する部分の音声データの音響的な特徴量と、音声分析部12aによって算出された飲酒判断用の文言に対応する部分の音声データの音響的な特徴量とを含む話者モデルを作成する。そして、話者モデル作成部13aは、ステップS7において、作成した話者モデルを運転者の個人認識をするためのデータとして話者モデルデータベース13bに記憶し、一連の処理を終了する。
【0022】
車両用飲酒検知装置は、このような一連の手順にしたがって、非飲酒時の運転者の発話音声を話者登録部13に登録することができる。
【0023】
車両用飲酒検知装置は、このようにして非飲酒時の運転者の発話音声が話者登録部13に登録されると、図5に示すような一連の手順にしたがって、運転者の飲酒状態を検知する。なお、この処理は、基本的には、運転者が車両のイグニッションスイッチを操作してエンジンを始動させる前に行われる。まず、車両用飲酒検知装置は、図5に示すように、ステップS11において、制御部16の制御のもとに、表示出力装置23や音声出力装置24を介して、運転者にキーワードの発話を促すための視覚的及び聴覚的なメッセージを出力させる。具体的には、制御部16は、図6に示すように、「始動キーワードを発話してください」といったメッセージを、表示出力装置23や音声出力装置24を介して出力させる。
【0024】
これに応じて、車両用飲酒検知装置は、運転者がキーワードを発話すると、ステップS12において、音声入力装置21によって電気的な音声信号に変換された音声信号を音声認識部11における音声認識部11aに入力する。続いて、音声認識部11における音声認識部11aは、ステップS13において、入力された音声信号を認識し、ステップS14において、認識した音声データと、音声認識データベース11bに記憶されている特定のキーワードに対応する認識データとを比較し、認識した音声データの中から特定のキーワードに相当する音声データを抽出する。そして、音声認識部11aは、ステップS15において、認識した音声信号の中から特定のキーワードに相当する音声データを抽出できたか否かを判定する。
【0025】
ここで、音声認識部11aは、運転者が発話間違いをした場合等、特定のキーワードに相当する音声データを抽出できなかった場合には、ステップS11へと処理を移行して再度キーワードの発話を促す。なお、車両用飲酒検知装置は、このステップS11乃至ステップS15の処理を所定回繰り返し行っても、特定のキーワードに相当する音声データを抽出できなかった場合には、運転者がキーワードを正確に発話できない状態であるものと判定し、警報出力部15の制御のもとに、所定の警報を出力するのが望ましい。
【0026】
一方、車両用飲酒検知装置は、音声認識部11aによって特定のキーワードに相当する音声データを抽出できた場合には、ステップS16において、話者照合部12における音声分析部12aにより、音声認識部11aによって抽出された特定のキーワードに相当する音声データを分析し、当該音声データを、個人認識用の文言に対応する部分と、飲酒判断用の文言に対応する部分とに分離し、ステップS17において、当該音声データの個人認識用の文言に対応する部分の音響的な特徴量を算出する。
【0027】
続いて、話者照合部12における判定部12bは、ステップS18において、話者モデルデータベース13bに記憶されている話者モデルの中から個人認識用の音響的な特徴量を読み出し、音声分析部12aによって算出された音声データの個人認識用の文言に対応する部分の音響的な特徴量と照合し、その類似性に基づいて、発話した運転者に対応した話者モデルを判定する。
【0028】
なお、車両用飲酒検知装置においては、話者モデルが登録されていない運転者が車両を運転する場合も想定されることから、ステップS19において、発話した運転者に対応した話者モデルが特定できなかった場合には、当該運転者の発話音声を登録するために、先に図4に示した登録処理に移行する。この場合、話者モデルデータベース13bには、発話者毎の話者モデルが作成されて記憶されることになる。
【0029】
一方、車両用飲酒検知装置においては、発話した運転者に対応した話者モデルが特定できた場合には、ステップS20において、飲酒判定部14における音声分析部14aにより、音声分析部12aによって分離された飲酒判断用の文言に対応する部分の音声データの音響的な特徴量を算出する。そして、飲酒判定部14における判定部14bは、ステップS21において、話者モデルデータベース13bから運転者に対応するものと判定した話者モデルのうち、飲酒判断用の音響的な特徴量を読み出し、この特徴量と、音声分析部14aによって算出された音声データの音響的な特徴量とを比較し、その類似性に基づいて、飲酒の有無を判定する。
【0030】
車両用飲酒検知装置においては、ステップS22において、判定部14bによって判定された結果が飲酒状態でなかった場合には、ステップS23において、警報出力部15の制御のもとに、車両制御装置22を介してエンジンを始動させ、一連の処理を終了する。一方、車両用飲酒検知装置においては、ステップS22において、判定部14bによって判定された結果が飲酒状態であった場合には、ステップS24において、例えば図6に示すように、警報出力部15の制御のもとに、車両制御装置22を介してスターターモーターを駆動させないようにし、また、表示出力装置23や音声出力装置24を介して、飲酒状態である旨を運転者に警報し、一連の処理を終了する。
【0031】
車両用飲酒検知装置は、このような一連の手順にしたがって、運転者の飲酒状態を検知し、その状態に応じて車両を制御することができる。なお、車両用飲酒検知装置は、この処理を、エンジン始動前のみならず、エンジンを始動させた後の運転中に行うようにしてもよい。車両用飲酒検知装置は、運転中に運転者の飲酒状態を検知した結果、飲酒状態であった場合には、例えば図7に示すように、警報出力部15の制御のもとに、車両制御装置22を介して徐々に制動を抑制し、また、表示出力装置23や音声出力装置24を介して、飲酒状態である旨を運転者に警報することになる。これにより、車両用飲酒検知装置は、エンジン始動時に飲酒をしていなくても、運転中の飲酒による飲酒運転を防止することが可能となる。また、車両用飲酒検知装置においては、かかる処理を運転中に行うことにより、運転者が飲酒状態でなくとも、体調不良等の異常発生によってキーワードを正確に発話できないものと判定することもでき、その判定結果に応じて、安全性を高める処理を行うこともできる。
【0032】
以上詳細に説明したように、本発明の実施形態となる車両用飲酒検知装置においては、運転者としての話者を認識するための所定の個人認識用の文言と、特定の発音を含む所定の飲酒判断用の文言とを含むキーワードが非飲酒時に発話された音声を、発話者毎に音声データとして話者登録部13における話者モデルデータベース13bに記憶しておく。そして、この車両用飲酒検知装置においては、運転者が発話した音声を音声入力装置21及び音声認識部11によって検出し、検出した個人認識用の文言に対応する音声データと、話者モデルデータベース13bに発話者毎に記憶されている音声データのうち個人認識用の文言に対応する音声データとを話者照合部12によって比較し、その類似性に基づいて、発話した運転者に対応した話者モデルデータベース13bに発話者毎に記憶されている音声データを選択し、検出した飲酒判断用の文言に対応する音声データと、選択した飲酒判断用の文言に対応する音声データとを飲酒判定部14によって比較し、その類似性に基づいて、飲酒の有無を判定する。
【0033】
これにより、この車両用飲酒検知装置においては、運転者が発話した音声から検出した個人認識用の文言に対応する音声データを用いて、発話した運転者を特定することができ、また、検出した飲酒判断用の文言に対応する音声データを用いて、飲酒の有無を判定することができるため、運転者の呼気を吸引するためのセンサを設ける必要がなく、運転者に煩わしさを感じさせずに当該運転者の飲酒状態を適切に検知することができる。また、この車両用飲酒検知装置においては、センサに要するコストや当該センサを設置するためのASSYやハーネス等のコストも必要なく、低コスト化を図ることができる上、運転者の飲酒状態を容易に検査するために当該センサを運転席近傍に設置する必要による車両内装のレイアウトに生じる制約もなくなる。さらに、この車両用飲酒検知装置においては、センサを設けないことから、当該センサの性能維持のために定期的な検診や交換を行う必要がなくなり、持続的なメンテナンス費用が発生することがなく、また、これらメンテナンス作業を行うための施設を要することもなくなる。さらにまた、この車両用飲酒検知装置においては、話者照合部12によって発話者と運転者との同一性を照合することから、同乗者等の他者発話によるなりすましを防止することができる。また、この車両用飲酒検知装置においては、話者を特定することにより、同一話者による非飲酒時又は飲酒時の音声を比較することができ、非飲酒時と飲酒時との音声を相対的に比較して飲酒の有無を適切に判定することができる。
【0034】
ここで、この車両用飲酒検知装置においては、飲酒判断用の文言として、特定の発音としての破裂音又は破擦音を含む文言を用いることにより、飲酒の有無を確実に判定することができる。また、この車両用飲酒検知装置においては、話者モデルデータベース13bに、複数の飲酒判断用の文言から構成されるキーワードが非飲酒時に発話された音声が音声データとして記憶しておくことにより、誤検知の可能性を低減することができる。
【0035】
さらに、この車両用飲酒検知装置においては、音声入力装置21として指向性マイクロフォンを用い、この指向性マイクロフォンを介して運転者が発話した音声を電気的な音声信号に変換して検出することにより、同乗者等の他者発話によるなりすましを防止することができる。さらにまた、この車両用飲酒検知装置においては、音声認識部11により、運転者が発話した音声を音声認識して、認識した音声データの中からキーワードに相当する音声データを抽出することにより、発話した音声のうちどの箇所に飲酒判断用の文言が含まれているかを検出することができ、正確な飲酒検知を行うことが可能となる。
【0036】
また、この車両用飲酒検知装置においては、飲酒判定部14によって判定された結果が飲酒状態であった場合には、警報出力部15の制御のもとに、エンジンの作動規制又は運転者に対する飲酒状態である旨の警報を行わせることにより、飲酒運転の抑制を図ることができる。さらに、この車両用飲酒検知装置においては、制御部16の制御のもとに、運転者にキーワードの発話を促すことにより、運転者が操作に迷うことなく、飲酒の有無を判定することができる。
【0037】
なお、上述の実施の形態は本発明の一例である。このため、本発明は、上述の実施の形態に限定されることはなく、この実施の形態以外の形態であっても、本発明に係る技術的思想を逸脱しない範囲であれば、設計などに応じて種々の変更が可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施形態となる車両用飲酒検知装置の構成を示すブロック図である。
【図2】ある4人の被験者が“dishes”という破裂音を含む文言を非飲酒時と飲酒時とにおいて発話したときの音声データを示す図である。
【図3】ある4人の被験者が“pajamas”という破擦音を含む文言を非飲酒時と飲酒時とにおいて発話したときの音声データを示す図である。
【図4】本発明の実施形態となる車両用飲酒検知装置において、話者登録部に対する非飲酒時の運転者の発話音声の登録処理を行う際の一連の手順を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態となる車両用飲酒検知装置において、運転者の飲酒状態を検知する際の一連の手順を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施形態として示す車両用飲酒検知装置の操作例を示す図であり、エンジンの始動前に飲酒状態を検知する場合の具体例を示す図である。
【図7】本発明の実施形態となる車両用飲酒検知装置の操作例を示す図であり、運転中に飲酒状態を検知する場合の具体例を示す図である。
【符号の説明】
【0039】
11,11a:音声認識部
11b:音声認識データベース
12:話者照合部
12a,14a:音声分析部
12b,14b:判定部
13:話者登録部
13a:話者モデル作成部
13b:話者モデルデータベース
14:飲酒判定部
15:警報出力部
16:制御部
21:音声入力装置
22:車両制御装置
23:表示出力装置
24:音声出力装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者としての話者を認識するための所定の個人認識用の文言と、特定の発音を含む所定の飲酒判断用の文言とを含むキーワードが非飲酒時に発話された音声を、発話者毎に音声データとして記憶する記憶手段と、
運転者が発話した音声を検出する音声検出手段と、
前記音声検出手段によって検出された前記個人認識用の文言に対応する音声データと、前記記憶手段に発話者毎に記憶されている音声データのうち個人認識用の文言に対応する音声データとを比較し、その類似性に基づいて、発話した運転者に対応した前記記憶手段に発話者毎に記憶されている音声データを選択する音声データ選択手段と、
前記音声検出手段によって検出された前記飲酒判断用の文言に対応する音声データと、前記音声データ選択手段によって選択された飲酒判断用の文言に対応する音声データとを比較し、その類似性に基づいて、飲酒の有無を判定する飲酒判定手段と
を備えることを特徴とする車両用飲酒検知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両用飲酒検知装置において、
前記飲酒判断用の文言は、前記特定の発音としての破裂音又は破擦音を含む文言であることを特徴とする車両用飲酒検知装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両用飲酒検知装置において、
前記記憶手段には、複数の飲酒判断用の文言から構成されるキーワードが非飲酒時に発話された音声が音声データとして記憶されていることを特徴とする車両用飲酒検知装置。
【請求項4】
請求項1に記載の車両用飲酒検知装置において、
前記音声検出手段は、指向性マイクロフォンを介して前記運転者が発話した音声を電気的な音声信号に変換して検出することを特徴とする車両用飲酒検知装置。
【請求項5】
請求項1に記載の車両用飲酒検知装置において、
前記音声検出手段は、前記運転者が発話した音声を音声認識して、認識した音声データの中から前記キーワードに相当する音声データを抽出することを特徴とする車両用飲酒検知装置。
【請求項6】
請求項1に記載の車両用飲酒検知装置において、
前記飲酒判定手段によって判定された結果が飲酒状態であった場合に、エンジンの作動規制又は前記運転者に対する飲酒状態である旨の警報を行わせる警報制御手段を備えることを特徴とする車両用飲酒検知装置。
【請求項7】
請求項1に記載の車両用飲酒検知装置において、
前記運転者に前記キーワードの発話を促す制御手段を備えることを特徴とする車両用飲酒検知装置。
【請求項8】
運転者としての話者を認識するための所定の個人認識用の文言と、特定の発音を含む所定の飲酒判断用の文言とを含むキーワードが非飲酒時に発話された音声を、発話者毎に音声データとして記憶手段に記憶する記憶工程と、
運転者が発話した音声を検出する音声検出工程と、
前記音声検出工程にて検出された前記個人認識用の文言に対応する音声データと、前記記憶手段に発話者毎に記憶されている音声データのうち個人認識用の文言に対応する音声データとを比較し、その類似性に基づいて、発話した運転者に対応した前記記憶手段に発話者毎に記憶されている音声データを選択する音声データ選択工程と、
前記音声検出工程にて検出された前記飲酒判断用の文言に対応する音声データと、前記音声データ選択工程にて選択された飲酒判断用の文言に対応する音声データとを比較し、その類似性に基づいて、飲酒の有無を判定する飲酒判定工程と
を有することを特徴とする車両用飲酒検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−15027(P2010−15027A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−175689(P2008−175689)
【出願日】平成20年7月4日(2008.7.4)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】