説明

車両用駆動システム

【課題】車両走行中かつエンジン休止中におけるエンジン始動制御にて速やかな加速を実現できる車両用駆動システムを提供すること。
【解決手段】この車両用駆動システム1は、エンジン2と、変速機4と、エンジン2および変速機4の間に配置されるクラッチ3とを備える。また、車両用駆動システム1は、アクセル開度θを取得するアクセル開度センサ724と、加速要求取得手段の出力信号に基づいてエンジン2、変速機4およびクラッチ3を駆動制御する制御装置7とを備える。そして、制御装置7は、車両走行中かつ内燃機関2の休止中にて、ドライバの加速要求が所定の閾値以上となったことを契機として変速機4の変速段をニュートラルから前進段に変更すると共に、エンジン2を始動してクラッチ3を係合状態とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両用駆動システムに関し、さらに詳しくは、車両走行中かつエンジン休止中におけるエンジン始動制御にて速やかな加速を実現できる車両用駆動システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の車両用駆動システムでは、例えば、ハイブリッド車両などにおいて、車両走行中にエンジンを休止することにより燃費の向上を図るエコラン制御が行われている。ここで、車両走行中かつエンジン休止中には、所定の判定条件の成立により、エンジン始動制御(あるいはエンジン再始動制御)が行なわれる。
【0003】
かかる構成を採用する従来の車両用駆動システムとして、特許文献1に記載される技術が知られている。従来の車両用駆動システムでは、車両走行中かつエンジン休止中におけるエンジン始動制御にて、エンジンの始動完了を契機として変速機の変速段をニュートラルから前進段に変更し、その後にドライバのアクセル操作に応じて加速が行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−340206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、車両走行中かつエンジン休止中におけるエンジン始動制御では、速やかな加速が行われることが好ましい。
【0006】
この発明は、車両走行中かつエンジン休止中におけるエンジン始動制御にて速やかな加速を実現できる車両用駆動システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、この発明にかかる車両用駆動システムは、内燃機関と、変速機と、前記内燃機関および前記変速機の間に配置されるクラッチとを備える車両用駆動システムであって、ドライバの加速要求を取得する加速要求取得手段と、前記加速要求取得手段の出力信号に基づいて前記内燃機関、前記変速機および前記クラッチを駆動制御する制御装置とを備え、且つ、前記制御装置は、車両走行中かつ前記内燃機関の休止中にて、前記加速要求が所定の閾値以上となったことを契機として前記変速機の変速段をニュートラルから前進段に変更すると共に、前記内燃機関を始動して前記クラッチを係合状態とすることを特徴とする。
【0008】
また、この発明にかかる車両用駆動システムは、前記加速要求取得手段がアクセル開度およびアクセル速度の少なくとも一方を前記加速要求として取得することが好ましい。
【0009】
また、この発明にかかる車両用駆動システムは、前記制御装置は、車両走行中かつ前記内燃機関の休止中であって前記加速要求が所定の閾値以下であるときに、前記変速機の変速段をニュートラルに設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
この発明にかかる車両用駆動システムでは、車両走行中かつ内燃機関の休止中にて内燃機関を始動させるときに、ドライバの加速要求を契機として、内燃機関の始動前に、予め変速機の変速段を前進段に変更する。したがって、内燃機関の始動完了を契機として変速機の変速段をニュートラルから前進段に変更する構成と比較して、速やかな加速を実現できる。これにより、ドライバの加速要求に迅速に対応できるので、車両のドライバビリティが向上する利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、この発明の実施の形態にかかる車両用駆動システムを示す構成図である。
【図2】図2は、図1に記載した車両用駆動システムの作用を示すフローチャートである。
【図3】図3は、図1に記載した車両用駆動システムの作用を示すタイムチャートである。
【図4】図4は、図1に記載した車両用駆動システムの変形例の作用を示すフローチャートである。
【図5】図5は、図1に記載した車両用駆動システムの変形例の作用を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0013】
[車両用駆動システム]
図1は、この発明の実施の形態にかかる車両用駆動システムを示す構成図である。同図は、車両用駆動システムの一例として、エンジンおよびモータの2つの動力源を有するハイブリッド車両を示している。
【0014】
この車両用駆動システム1は、エンジン2と、クラッチ3と、変速機4と、減速差動装置5と、モータ6と、制御装置7とを備える(図1参照)。この車両用駆動システム1は、例えば、エンジン2を動力源とするエンジン走行とモータ6を動力源とするモータ走行とを切り替えるハイブリッド走行を実現できる車両、減速走行中やフリーラン走行中にエンジン2を一時的に休止するエコラン走行を実現できる車両などに適用される。
【0015】
エンジン2は、第一の動力源であり、駆動トルクを発生して出力軸21から出力する。このエンジン2は、内燃機関あるいは外燃機関である。例えば、この実施の形態では、ガソリンを燃料とするレシプロ式エンジンが採用されている。
【0016】
クラッチ3は、駆動トルクの伝達を許可および遮断できる機械要素である。このクラッチ3は、入力側回転部31および出力側回転部32を有し、入力側回転部31にてエンジン2の出力軸21に連結されて、エンジン2の後段に配置される。また、クラッチ3は、入力側回転部31および出力側回転部32の係合状態にてトルク伝達を許可し、これらの開放状態にてトルク伝達を遮断する。かかるクラッチ3として、例えば、摩擦式クラッチが採用され得る。
【0017】
変速機4は、変速段(あるいは変速比)を自動的に変更できる自動変速機である。また、変速機4は、入力軸41および出力軸42を有し、入力軸41にてクラッチ3の出力側回転部32に連結されて、クラッチ3の後段に配置される。また、変速機4は、その変速段を切り替えることにより、その変速比=(出力軸42の回転数)/(入力軸41の回転数)を変更できる。かかる変速機4として、有段変速機、ベルト式あるいはトロイダル式の無段変速機が採用され得る。例えば、この実施の形態では、変速機4として、ニュートラル(Nレンジ)と、4つの前進段43〜46(Dレンジ)と、1つの後進段47(Rレンジ)とを切り替え可能に有する歯車式の有段自動変速機が採用されている。
【0018】
減速差動装置5は、駆動トルクを減速して車両の左右輪(図示省略)に配分する機械要素である。この減速差動装置5は、入力軸51と、駆動トルクを減速する減速機構52と、車両の左右輪への駆動トルクの配分を調整する差動機構53とを有する。また、減速差動装置5は、入力軸51にて変速機4の出力軸42に連結され、差動機構53にて車輪の車軸に連結される。
【0019】
モータ6は、第二の動力源であり、駆動トルクを発生して出力軸61から出力する。このモータ6は、出力軸61にて変速機4の出力軸42に連結される。例えば、この実施の形態では、モータ6として、モータ機能およびジェネレータ機能を有する交流同期型のモータジェネレータが採用されている。
【0020】
なお、この実施の形態では、モータ6が変速機4の出力軸42に対して常時連結された状態にある(図1参照)。しかし、これに限らず、モータ6と変速機4の出力軸42とがクラッチを介して連結および連結解除できるように構成されても良い(図示省略)。また、モータ6と変速機4の入力軸41とがクラッチを介して連結および連結解除できるように構成されても良い(図示省略)。
【0021】
制御装置7は、車両用駆動システム1の動作を制御する装置であり、ECU(Electrical Control Unit)71と、センサユニット72とを有する。ECU71は、取得した入力信号に基づいて所定の出力信号を出力する。このECU71は、エンジン2を駆動制御するエンジン制御部711と、クラッチ3を駆動制御するクラッチ制御部712と、変速機4を駆動制御する変速機制御部713と、モータ6を駆動制御するモータ制御部714と、後述するエンジン始動制御を行うエンジン始動制御部715と、アクセル開度θに基づいてアクセル速度(アクセルペダルの踏み込み速度)dθ/dtを算出するアクセル速度算出部716と、所定の情報(例えば、各種の制御プログラム、制御マップや閾値などの制御データ)を記憶する記憶部717とを有する。センサユニット72は、車速を検出する車速センサ721と、エンジン2の出力軸21の回転数(エンジン回転数)Neを検出するエンジン回転数センサ722と、変速機4の入力軸41の回転数(インプット回転数)Ninを検出するインプット回転数センサ723と、アクセル開度θを検出するアクセル開度センサ724と、ブレーキペダルの踏み込みのON/OFFを検出するブレーキペダルセンサ725と、モータ6のバッテリ(図示省略)の充填状態を検出するSOC(state of charge)センサ726とを有する。この制御装置7では、ECU71がセンサユニット72の出力信号に基づいて、エンジン2、クラッチ3、変速機4およびモータ6を駆動制御する。これにより、各種の制御が実現される。
【0022】
この車両用駆動システム1では、車両のエンジン走行時には、制御装置7がクラッチ3を係合状態として、エンジン2を駆動する。すると、エンジン2が駆動トルクを発生し、この駆動トルクがクラッチ3を介して変速機4に伝達される。そして、この駆動トルクが変速機4にて変速され、減速差動装置5にて減速されて車両の左右輪に配分される。これにより、車両がエンジン2を動力源として走行する。
【0023】
一方、車両のモータ走行時には、制御装置7がクラッチ3を開放状態としてエンジン2を車軸側の駆動系から分離し、モータ6を駆動する。すると、モータ6が駆動トルクを発生し、この駆動トルクが減速差動装置5を介して車両の左右輪に配分される。これにより、車両がモータ6を動力源として走行する。
【0024】
また、車両用駆動システム1は、エンジン走行とモータ走行とを併用したハイブリッド走行を実現できる。例えば、車両の発進時や低速走行時には、制御装置7がエンジン2を停止してモータ6を駆動することによりモータ走行が行われ、中高速走行時には、制御装置7がモータ6を停止してエンジン2を駆動することよりエンジン走行が行われる。また、車速やバッテリの充電状態に応じて、エンジン走行とモータ走行との切り替えが行われる。これにより、効率的な走行が実現されて、燃費が向上する。
【0025】
また、車両用駆動システム1は、車両走行中にて、エンジン2を一時的に停止させるエコラン制御を実現できる。例えば、車両の減速走行中やフリーラン走行中などの駆動トルクが不要な状態にあるときに、制御装置7がクラッチ3を開放状態としてエンジン2を停止させる。これにより、燃費が向上する。このとき、モータ6がジェネレータとして用いられて回生走行が行われても良いし、モータ6が駆動系から分離されて停止されても良い。
【0026】
[車両走行中かつエンジン休止中におけるエンジン始動制御]
図2は、図1に記載した車両用駆動システムの作用を示すフローチャートである。同図は、車両走行中かつエンジン休止中におけるエンジン始動制御のフローを示している。
【0027】
一般に、ハイブリッド車両では、車両走行中かつエンジン休止中にて、ドライバの加速要求によりエンジン始動制御(あるいはエンジン再始動制御)が行われる場合がある。このとき、ドライバの加速要求に応じて速やかな加速(あるいは再加速)が行われることが好ましい。
【0028】
そこで、この車両用駆動システム1では、車両走行中かつエンジン休止中にてドライバの加速要求があったときの速やかな加速を実現するために、以下の制御が行われる(図2参照)。
【0029】
ステップST01では、車両走行中かつエンジン休止中であるか否かが判定される。車両走行中かつエンジン休止中の状態としては、例えば、車両走行中にて、エンジン2およびモータ6が停止している状態、エンジン2が停止してモータ6が回生発電している状態、エンジン2が停止してモータ6が駆動力を発生している状態などが想定される。なお、この実施の形態では、車速センサ721が車両の車速を検出しており、ECU71がこの車速センサ721の出力信号に基づいて車両走行中であるか否かの判定を行っている。また、エンジン回転数センサ722がエンジン回転数Neを検出しており、ECU71がこのエンジン回転数Neに基づいてエンジン休止中であるか否かの判定を行っている。また、エンジン休止中には、クラッチ3が開放状態にあり、エンジン2と変速機4との間のトルク伝達が遮断されている。このステップST01にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST02に進み、否定判定が行われた場合には、処理が終了される。
【0030】
ステップST02では、変速機4の変速段がニュートラルであるか否かが判定される。例えば、この実施の形態では、変速機4が変速段を切り替える油圧シリンダ(図示省略)を有し、ECU71がこの油圧シリンダの油圧を取得して現在の変速機4の変速段を判定している。このステップST02にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST03に進み、否定判定が行われた場合には、ステップST07に進む。
【0031】
ステップST03では、アクセル開度θが所定の閾値k1以上(θ≧k1)であるか否かが判定される。この判定条件は、ドライバの加速要求(要求トルク)が所定の閾値以上であることの判定条件に対応する。また、この判定条件は、後述する変速段を前進段に変更(ステップST04)するための変速開始条件に対応する。なお、この実施の形態では、アクセル開度センサ724がアクセル開度θを検出しており、ECU71がこのアクセル開度θと記憶部717から読み込んだ所定の閾値k1とを比較することにより、この判定を行っている。このステップST03にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST04に進み、否定判定が行われた場合には、処理が終了される。
【0032】
なお、この閾値k1は、θ≧k1となる時期が後述するエンジン2の始動(ステップST05)の開始時期よりも先となるように、実験値などに基づいて予め設定される。例えば、エンジン2の始動開始条件がアクセル開度θと所定の閾値keとの関係で規定される場合には、閾値k1がこのエンジン始動開始用の閾値keよりも小さく設定される。また、閾値k1は、車速、モータ6のバッテリ(図示省略)の充電状態などの車両状態量との関係で設定されても良い。
【0033】
また、車両走行中かつエンジン休止中にアクセル開度θが所定の閾値k1以上となる場合としては、例えば、モータ走行時にアクセルが踏み込まれてモータ走行からエンジン走行への切り替えが必要となる場合、フリーラン走行中にてブレーキペダルの踏み込みが解除されてアクセルペダルが踏み込まれる場合などが想定される。これらは、いずれもエンジン2の始動条件となる。
【0034】
ステップST04では、変速機4の変速段がニュートラルから前進段に変更される。すなわち、この変速段の変更開始は、ドライバの加速要求(ステップST03の肯定判定)を契機として、エンジン始動開始(ステップST05)に先立って行われる。なお、変更先の前進段(変速制御の目標値)は、任意に選択され得る。例えば、変更先の前進段が、車速およびアクセル開度θに基づいて設定されても良いし、後述するエンジン2の始動完了後(ステップST05)のエンジン回転数Neに基づいて設定されても良い。なお、この実施の形態では、ECU71が所定の制御マップに基づいて変更先の前進段を設定し、この設定値を目標値として変速機4を駆動制御して、変速機4の変速段を変更している。このステップST04の後に、ステップST05に進む。
【0035】
ステップST05では、エンジン2の始動(あるいは再始動)が開始される。このエンジン2の始動開始制御は、変速段の変更が開始(ステップST04)された後に行われる。ただし、このエンジン2の始動開始制御は、変速段の変更(ステップST04)の完了後に行われても良いし、変速段の変更制御に並行して行われても良い。なお、この実施の形態では、ECU71が、エンジン2の始動開始時にてクラッチ3を開放状態として、エンジン2を始動させている。このステップST05の後に、ステップST06に進む。
【0036】
ステップST06では、クラッチ3が係合される。これにより、エンジン2が駆動系に連結されて、エンジン2を動力源としたエンジン走行が行われる。このとき、予め変速機4の変速段が前進段に変更されているので(ステップST04)、クラッチ3の係合後に速やかな加速を実現できる。このステップST06の後に、処理が終了される。
【0037】
ステップST07では、アクセル開度θが所定の閾値k2以下(θ≦k2)であるか否かが判定される。この判定は、ドライバの加速要求が所定値以下であるか否かの判定に対応する。また、閾値k2は、例えば、車速、モータ6のバッテリ(図示省略)の充電状態などの車両状態量との関係で任意に設定され得る。なお、この実施の形態では、ECU71がアクセル開度θと記憶部717に記憶された所定の閾値k2とを比較することによりこの判定を行っている。このステップST07にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST08に進み、否定判定が行われた場合には、処理が終了される。
【0038】
ステップST08では、変速機4の変速段がニュートラルに変更される。すなわち、車両走行中かつエンジン休止中(ステップST01の肯定判定)にて、変速機4の変速段がニュートラル以外の変速段にある場合(ステップST02の否定判定)には、アクセル開度θが所定の閾値k2以下であること(ステップST07の肯定判定)を条件として、変速機4の変速段がニュートラルに変更される。これにより、変速段が常に前進段に設定されている構成(図示省略)と比較して、車両の走行抵抗を低減できる。
【0039】
[エンジン始動制御の実施例]
図3は、図1に記載した車両用駆動システムの作用を示すタイムチャートである。同図は、図2に記載した車両走行中かつエンジン休止中におけるエンジン始動制御の実施例を示しており、より具体的には、エンジン2を停止してモータ走行しているときのエンジン始動制御の実施例を示している。以下、この実施例について、図1〜図3を参照しつつ説明する。
【0040】
t=0では、エンジン2が停止されてモータ6を駆動源としたモータ走行が行われている(ステップST01の肯定判定)(図2参照)。また、変速機4の変速段がニュートラルにある(ステップST02の肯定判定)(図3(a)参照)。また、アクセルペダルが踏み込まれて、アクセル開度θが一定となっている(図3(b)参照)。また、クラッチ3が開放状態にあり、クラッチトルクTcがTc=0である(図3(c)参照)。また、ECU71がアクセル開度θに基づいてモータ6のモータトルクTmを制御している(図3(d)参照)。また、エンジントルクTeがTe=0である(図3(e)参照)。また、エンジン回転数Neおよび変速機4のインプット回転数NinがNe=0[rpm]かつNin=0[rpm]である(図3(f)および(g)参照)。
【0041】
t=t1では、ドライバの加速要求によりアクセルがさらに踏み込まれて、アクセル開度θが所定の閾値k1に到達する(ステップST03の肯定判定)(図3(b)参照)。すると、ECU71が変速機4を駆動して、変速機4の変速段をニュートラルから前進段に変更する(ステップST04)(図3(a)参照)。このとき、ECU71が、車速およびアクセル開度θと所定の制御マップとに基づいて変速先の前進段の目標値を設定し、変速機4を駆動制御する。これにより、変速機4の変速段が、ドライバの加速要求に応じた最適な変速段(要求変速段)となる。また、変速機4のインプット回転数Ninが上昇する(図3(f)参照)。
【0042】
t=t2では、変速機4の変速段の変更が完了すると(図3(a)参照)、ECU71がエンジン2の始動を開始して(ステップST05)、エンジントルクTeおよびエンジン回転数Neが上昇する(図3(e)および(f)参照)。したがって、この実施例では、ECU71が変速段の変更完了後にエンジン2の始動を開始している。
【0043】
t=t3では、ECU71がクラッチ3の係合を開始して(ステップST06)、クラッチトルクTcが上昇する(図3(c)参照)。また、これと共に、エンジン2のエンジン回転数Neと変速機4のインプット回転数Ninとが同期する(図3(f)および(g)参照)。また、ECU71がモータ6の駆動電力を漸減して、モータトルクTmを減少させる(図3(d)参照)。
【0044】
t=t4では、クラッチ3が係合状態となり、モータ6が停止する。これにより、モータ走行から、エンジン2を動力源としたエンジン走行に切り替わる。このとき、予め変速機4の変速段が前進段に変更されているので(ステップST04)、クラッチ3の係合後に速やかな加速を実現できる。
【0045】
[エンジン始動制御の変形例]
図4は、図1に記載した車両用駆動システムの変形例の作用を示すフローチャートである。同図は、上記した車両走行中かつエンジン休止中におけるエンジン始動制御の変形例を示している。以下、この変形例について、図4を参照しつつ説明する。なお、図4において、図2と同一のステップには同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0046】
図2に記載したエンジン始動制御では、アクセル開度θが所定の閾値k1以上であることを条件(ステップST03の肯定判定)として、車両走行中かつエンジン休止中におけるエンジン始動制御を行っている。
【0047】
しかし、これに限らず、アクセル開度θおよびアクセル速度dθ/dtが用いられて、エンジン始動制御が行われても良い。
【0048】
すなわち、一般に、ドライバの加速要求が緩やかである場合には、アクセル速度dθ/dtが略一定のままアクセル開度θが上昇する。一方で、ドライバの加速要求が急なときは、アクセルペダルが急激に踏み込まれるためアクセル速度dθ/dtが急増する。したがって、アクセル速度dθ/dtを用いることにより、ドライバの加速要求を精度良く推定できる。
【0049】
そこで、この変形例では、次のステップST09が設けられ、ステップST03にて否定判定が行われた場合に、このステップST09に進む(図4参照)。
【0050】
ステップST09では、アクセル速度dθ/dtが所定の閾値k1’以上(dθ/dt≧k1’)であるか否かが判定される。例えば、この実施の形態では、ECU71が、アクセル開度センサ724の出力信号に基づいてアクセル速度dθ/dtを算出し、このアクセル速度dθ/dtと記憶部717に記憶された所定の閾値k1’とを比較して、この判定を行っている。
【0051】
このステップST09にて、肯定判定が行われた場合には、ステップST04に進み、否定判定が行われた場合には、処理が終了される。したがって、この変形例では、アクセル開度θおよびアクセル速度dθ/dtについて、θ≧k1およびdθ/dt≧k1’の少なくとも一方の判定条件が成立することにより(ステップST03の肯定判定またはステップST09の肯定判定)、変速機4の変速段をニュートラルから前進段に変更する制御(ステップST04)が行われる。
【0052】
図5は、図1に記載した車両用駆動システムの変形例の作用を示すタイムチャートである。同図は、図4に記載したエンジン始動制御の実施例を示している。以下、この実施例について、図4および図5を参照しつつ説明する。
【0053】
t=0では、エンジン2が停止されてモータ6を駆動源としたモータ走行が行われている(ステップST01の肯定判定)(図4参照)。また、変速機4の変速段がニュートラルにある(ステップST02の肯定判定)(図5(a)参照)。また、アクセルペダルが踏み込まれて、アクセル開度θが一定となっている(図5(b)参照)。また、アクセル開度θが一定なので、アクセル速度dθ/dtがdθ/dt=0となっている(図5(b’)参照)。また、クラッチ3が開放状態にあり、クラッチトルクTcがTc=0である(図5(c)参照)。また、ECU71がアクセル開度θに基づいてモータ6のモータトルクTmを制御している(図5(d)参照)。また、エンジントルクTeがTe=0である(図5(e)参照)。また、エンジン回転数Neおよび変速機4のインプット回転数NinがNe=0[rpm]かつNin=0[rpm]である(図5(f)および(g)参照)。
【0054】
t=t1、t1’では、ドライバがアクセルを急に踏み増しすること(ドライバの急な加速要求)により、アクセル開度θおよびアクセル速度dθ/dtが急上昇する(図5(b)および(b’)参照)。このとき、アクセル開度θおよびアクセル速度dθ/dtについて、θ≧k1およびdθ/dt≧k1’のいずれか一方の判定条件が成立することにより(ステップST03の肯定判定またはステップST09の肯定判定)、ECU71が変速機4を駆動して変速機4の変速段の変更を開始する(ステップST04)(図5(a)参照)。
【0055】
例えば、この変形例では、アクセル速度dθ/dtの判定条件(dθ/dt≧k1’)がアクセル開度θの判定条件(θ≧k1)よりも先に成立している(t1’<t1)(図5(a)参照)。このため、アクセル速度dθ/dtの判定条件の成立時t=t1’を基準として、ECU71が変速段の変更を開始している。また、このとき、ECU71が、車速、アクセル開度θおよびアクセル速度dθ/dtと所定の制御マップとに基づいて変速先の前進段の目標値を設定し、変速機4を駆動制御している。これにより、変速機4の変速段が、ドライバの加速要求に応じた最適な変速段(要求変速段)となっている。
【0056】
また、図5(b)の破線は、ドライバが一定のアクセル速度dθ/dtにて緩やかにアクセルを踏み込んだときのアクセル開度θの様子を示している。また、図5(a)、(f)および(g)の破線は、このときの変速機4の変速段、エンジン回転数Neおよびインプット回転数Ninの変化をそれぞれ示している。図5に示すように、θ≧k1およびdθ/dt≧k1’の判定条件の成立が遅くなるほど、エンジンの始動開始が遅れて加速が遅れることが分かる。
【0057】
t=t2〜t4では、変速機4の変速段の変更(ステップST04)が完了すると、ECU71がエンジン2の始動を開始して、クラッチ3を係合状態とする(ステップST05およびステップST06)(図4および図5参照)。これにより、車両の走行モードがモータ走行からエンジン走行に切り替わる。このときのエンジン2、クラッチ3および変速機4の動作は、図3に記載した実施例と同様なので、その説明を省略する。
【0058】
なお、この変形例では、上記のように、アクセル開度θおよびアクセル速度dθ/dtについて、θ≧k1およびdθ/dt≧k1’のいずれか一方の判定条件が成立することにより(ステップST03の肯定判定またはステップST09の肯定判定)、ECU71が変速機4の変速段の変更を開始している(ステップST04)(図4参照)。しかし、これに限らず、θ≧k1およびdθ/dt≧k1’の双方の判定条件が成立により、ECU71が変速機4の変速段の変更を開始しても良い(図示省略)。これにより、エンジン始動制御の信頼性が向上する。
【0059】
[効果]
以上説明したように、この車両用駆動システム1は、内燃機関(エンジン)2と、変速機4と、内燃機関2および変速機4の間に配置されるクラッチ3とを備える(図1参照)。また、車両用駆動システム1は、ドライバの加速要求(例えば、アクセル開度θ、アクセル速度dθ/dtなど)を取得する加速要求取得手段(例えば、アクセル開度センサ724、アクセル速度dθ/dtを算出するアクセル速度算出部716)と、加速要求取得手段の出力信号に基づいて内燃機関2、変速機4およびクラッチ3を駆動制御する制御装置7とを備える。そして、制御装置7は、車両走行中かつ内燃機関2の休止中にて(ステップST01の肯定判定)、ドライバの加速要求が所定の閾値以上となったことを契機として変速機4の変速段をニュートラルから前進段に変更する(ステップST03の肯定判定あるいはステップST09の肯定判定、および、ステップST04)と共に、内燃機関2を始動してクラッチ3を係合状態とする(ステップST05およびステップST06)(図2および図4参照)。
【0060】
かかる構成では、車両走行中かつ内燃機関2の休止中にて内燃機関2を始動させるときに、ドライバの加速要求を契機として、内燃機関2の始動前に、予め変速機4の変速段が前進段に変更される。したがって、内燃機関の始動完了を契機として変速機の変速段をニュートラルから前進段に変更する構成(図示省略)と比較して、速やかな加速を実現できる。これにより、ドライバの加速要求に迅速に対応できるので、車両のドライバビリティが向上する利点がある。なお、車両走行中かつ内燃機関2の休止中の走行状態としては、例えば、減速走行中やフリーラン走行中におけるエコラン走行、モータ6を駆動源としたモータ走行、モータ6を発電機として用いた回生走行などの走行状態が想定される。
【0061】
また、この車両用駆動システム1では、加速要求取得手段がアクセル開度θおよびアクセル速度dθ/dtの少なくとも一方をドライバの加速要求として取得する(図1参照)。これにより、ドライバの加速要求を精度良く取得できるので、変速段を前進段に変更する制御(ステップST04)が適正に行われる利点がある。
【0062】
また、この車両用駆動システム1では、制御装置7は、車両走行中かつ内燃機関2の休止中であってドライバの加速要求が所定の閾値以下(アクセル開度θ≦k2)であるときに、前記変速機の変速段をニュートラルに設定する(ステップST01の肯定判定、ステップST07およびステップST08)(図2および図4参照)。かかる構成では、車両走行中かつ内燃機関2の休止中であってドライバの加速要求が小さいときには、変速機4がニュートラルに設定される。これにより、変速機の変速段が常に前進段に設定されている構成(図示省略)と比較して、車両の走行抵抗を低減できる利点がある。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上のように、この発明にかかる車両用駆動システムは、車両走行中かつエンジン休止中におけるエンジン始動制御にて速やかな加速を実現できる点で有用である。
【符号の説明】
【0064】
1 車両用駆動システム、2 エンジン(内燃機関)、21 出力軸、3 クラッチ、31 入力側回転部、32 出力側回転部、4 変速機、41 入力軸、42 出力軸、43〜46 前進段、47 後進段、5 減速差動装置、51 入力軸、52 減速機構、53 差動機構、6 モータ、61 出力軸、7 制御装置、71 ECU、711 エンジン制御部、712 クラッチ制御部、713 変速機制御部、714 モータ制御部、715 エンジン始動制御部、716 アクセル速度算出部、717 記憶部、72 センサユニット、721 車速センサ、722 エンジン回転数センサ、723 インプット回転数センサ、724 アクセル開度センサ(加速要求取得手段)、725 ブレーキペダルセンサ、726 SOCセンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、変速機と、前記内燃機関および前記変速機の間に配置されるクラッチとを備える車両用駆動システムであって、
ドライバの加速要求を取得する加速要求取得手段と、
前記加速要求取得手段の出力信号に基づいて前記内燃機関、前記変速機および前記クラッチを駆動制御する制御装置とを備え、且つ、
前記制御装置は、車両走行中かつ前記内燃機関の休止中にて、前記加速要求が所定の閾値以上となったことを契機として前記変速機の変速段をニュートラルから前進段に変更すると共に、前記内燃機関を始動して前記クラッチを係合状態とすることを特徴とする車両用駆動システム。
【請求項2】
前記加速要求取得手段がアクセル開度およびアクセル速度の少なくとも一方を前記加速要求として取得する請求項1に記載の車両用駆動システム。
【請求項3】
前記制御装置は、車両走行中かつ前記内燃機関の休止中であって前記加速要求が所定の閾値以下であるときに、前記変速機の変速段をニュートラルに設定する請求項1または2に記載の車両用駆動システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−166614(P2012−166614A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27526(P2011−27526)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【Fターム(参考)】