車両用駆動制御装置
【課題】エンジンとモータとを備えたハイブリッド車両において、油圧ポンプの駆動損失を抑制しながら、冷機時にもエンジンを確実に始動可能とする。
【解決手段】エンジン2と、モータ30と、該エンジン2とモータ30との間に介設された非油圧供給状態で締結されるクラッチ40とを備えた構成において、前記クラッチ40に、ピストン44をクラッチ締結方向に押圧するスプリング45と、油圧の供給時にピストン44をクラッチ解放方向に押圧する解放用油圧室47と、油圧の供給時にピストン44を前記スプリング45と共にクラッチ締結方向に押圧する締結用油圧室48とを設け、エンジンの始動時において、エンジンの温度が所定温度よりも高いときには前記締結用油圧室48に油圧を供給せず、該温度が所定温度以下のときに前記締結用油圧室48に油圧を供給するように構成する。
【解決手段】エンジン2と、モータ30と、該エンジン2とモータ30との間に介設された非油圧供給状態で締結されるクラッチ40とを備えた構成において、前記クラッチ40に、ピストン44をクラッチ締結方向に押圧するスプリング45と、油圧の供給時にピストン44をクラッチ解放方向に押圧する解放用油圧室47と、油圧の供給時にピストン44を前記スプリング45と共にクラッチ締結方向に押圧する締結用油圧室48とを設け、エンジンの始動時において、エンジンの温度が所定温度よりも高いときには前記締結用油圧室48に油圧を供給せず、該温度が所定温度以下のときに前記締結用油圧室48に油圧を供給するように構成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動制御装置、特に駆動源としてエンジンとモータとを備えたハイブリッド車両の駆動制御装置に関し、車両の駆動技術の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年、駆動源としてエンジンとモータとを備えたハイブリッド車両が実用化されており、その一例として、特許文献1には、既存のエンジン及び変速機を流用し、これらの間にモータと摩擦締結要素とを含む駆動ユニットを配設することにより、ハイブリッド化したものが開示されている。
【0003】
この特許文献1に記載の駆動ユニットAは、図11に示すように、エンジンBの出力軸に連結された入力軸aと、変速機Cへの出力軸bと、該入力軸aと出力軸bとを断接するコーストクラッチcと、該コーストクラッチcの出力軸b側にロータd’が連結されたモータdと、前記入力軸aと出力軸bとの間に前記コーストクラッチcに並列に配置され、入力軸a側から出力軸b側へのみ回転力を伝達するワンウェイクラッチeと、前記出力軸bにより駆動されてコーストクラッチ制御用等の油圧を発生する油圧ポンプfとを備えた構成とされている。
【0004】
この駆動ユニットAによれば、モータdを作動させれば、その出力が直接出力軸bに伝達されてモータ走行が実施される。また、コーストクラッチcを接続することにより、モータdでエンジンBを始動することができ、エンジンBが始動すれば、その出力が入力軸aからワンウェイクラッチeを介して出力軸bに伝達されてエンジン走行又はエンジン及びモータの併用走行が実施される。その際、コーストクラッチcを解放すれば、エンジン走行中の減速時に、車両の慣性走行による運動エネルギが全てモータdに伝達され、該モータdによるエネルギ回生が効率よく行われる。
【0005】
また、前記油圧ポンプfがモータdのロータd’に連結された出力軸bにより駆動されるので、該モータdによりエンジンBの非作動時にも油圧ポンプfを作動させることができ、別途電動ポンプを備える必要がなくなるメリットがある。
【0006】
さらに、この駆動ユニットAにおいては、図示しないが、コーストクラッチcはノーマルクローズ式、即ちピストンをクラッチ締結方向に押圧するスプリングを備え、該スプリングの押圧力により、油圧の非供給状態でクラッチを締結する構成とされている。したがって、前記モータdでエンジンBを始動するときに、コーストクラッチcを締結するために前記油圧ポンプfで油圧を立ち上げる必要がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−126702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、前記駆動ユニットAのように、コーストクラッチcをノーマルクローズ式とした際、潤滑油の粘度が小さく、エンジンのクランキング抵抗が小さい常温時においては、コーストクラッチcの伝達可能な最大トルク(以下、「伝達トルク容量」という)が比較的小さくても、エンジンを始動させるためのモータdの出力トルク(以下、「クランキングトルク」という)をエンジンに伝達することができる。
【0009】
しかし、エンジンの冷機時に、潤滑油の粘性抵抗の増大に伴ってクランキングトルクが増大すると、コーストクラッチcの伝達トルク容量がスプリングの押圧力だけでは相対的に不足することになり、エンジンの温度によっては該クラッチcが始動に必要なクランキングトルクを伝達することができず、エンジンの始動不良を招くおそれがある。
【0010】
これに対しては、油圧の非供給状態でコーストクラッチcを締結するスプリングの押圧力を強くすることが考えられるが、この場合、該クラッチcを解放するときに高い油圧が必要となり、走行中、該クラッチcを解放状態に制御する場合、油圧ポンプfの駆動損失が増大することになる。
【0011】
ここで、例えば−30℃においては、クランキング抵抗は常温時の10〜数10倍となり、スプリング力のみでこれに対応する伝達トルク容量を確保しようとすると、スプリング力を著しく強くしなければならず、これに伴ってコーストクラッチの解放圧も著しく高くしなければならないことになる。
【0012】
そこで、本発明は、エンジンとモータとを備えたハイブリッド車両において、油圧ポンプの駆動損失を抑制しながら、冷機時にもエンジンを確実に始動させることができるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明に係る車両用駆動制御装置は、次のように構成したことを特徴とする。
【0014】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、エンジンと、モータと、該エンジンとモータとの間に介設された非油圧供給状態で締結されるクラッチとを備え、前記エンジン及びモータの少なくとも一方の出力を駆動輪に伝達すると共に、前記クラッチを締結させることによりモータでエンジンを始動可能とした車両用駆動制御装置であって、前記クラッチに、ピストンをクラッチ締結方向に押圧するスプリングと、油圧の供給時にピストンをクラッチ解放方向に押圧する解放用油圧室と、油圧の供給時にピストンを前記スプリングと共にクラッチ締結方向に押圧する締結用油圧室とを設けると共に、エンジンの温度を検出するエンジン温度検出手段と、エンジンの始動時において、前記検出手段によって検出されたエンジンの温度が所定温度よりも高いときには前記締結用油圧室に油圧を供給せず、該温度が所定温度以下のときに前記締結用油圧室に油圧を供給する油圧制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0015】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、前記油圧制御手段は、前記エンジン温度検出手段によって検出されたエンジン温度が所定温度以下でのエンジン始動時に、該温度が低いほど締結用油圧室に供給する油圧を高くすることを特徴とする。
【0016】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記締結用油圧室及び解放用油圧室に供給される油圧を発生する油圧ポンプが備えられ、該ポンプは、前記モータによって駆動されるように構成されていることを特徴とする。
【0017】
さらに、請求項4に記載の発明は、前記請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記クラッチは、解放用油圧室への油圧の供給時に、エンジンとモータとの間及びエンジンと駆動輪との間を切断するように構成されていると共に、エンジンと駆動輪との間に、該クラッチに並列にエンジン側から駆動輪側へのみ回転を伝達するワンウェイクラッチが設けられており、前記油圧制御手段は、エンジンの始動後、締結用油圧室を非油圧供給状態とすると共に、解放用油圧室に油圧を供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
まず、請求項1に記載の発明によれば、モータによってエンジンを始動させるときに、該モータとエンジンとの間に介設されたクラッチがスプリングの押圧力で締結されているから、通常は、該クラッチに締結用の油圧を供給することなくエンジンを始動させることができ、したがって、油圧ポンプを駆動するエネルギが節約される。
【0019】
一方、エンジン温度が所定温度以下の冷機時には、前記クラッチの締結用油圧室に、スプリングと共にピストンを締結方向に押圧する油圧が供給されるので、該クラッチの伝達トルク容量は、スプリング力によるものに油圧によるものを加えた大きさとなる。したがって、潤滑油の粘性抵抗の増大に伴ってモータから出力されるクランキングトルクが増大しても、そのトルクをエンジンに伝達することが可能となり、冷機時においてもエンジンを確実に始動させることが可能となる。
【0020】
その場合に、本発明によれば、冷機時にクランキングトルクを伝達可能とするために前記クラッチのスプリング力を強くすることがないので、クラッチを解放するときに解放用油圧室に供給するる油圧を高く設定する必要がなく、これによっても、油圧ポンプの駆動エネルギが節約される。
【0021】
また、請求項2に記載の発明によれば、冷機時のエンジン始動時に、前記クラッチの締結用油圧室に供給される油圧が、エンジン温度が低いほど、即ち潤滑油の粘度が高くなり、クランキング抵抗が増大するほど高くされるので、クランキング抵抗に応じてモータから出力されるクランキングトルクが増大するときに、それに応じてクラッチの伝達トルク容量が増大する。したがって、始動に必要なトルクを確実に伝達することができると共に、伝達すべきトルクに対して必要以上に油圧を高くすることによるポンプ駆動エネルギの無駄な消費が抑制され、エネルギ効率が向上する。
【0022】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、前記クラッチの解放用及び締結用油圧室に供給される油圧を発生する油圧ポンプが前記モータによって駆動されるので、冷機時に前記クラッチの締結用油圧室に油圧を供給するための電動ポンプを別途備える必要がなく、当該駆動装置及びその制御装置等が簡素に構成されることになる。
【0023】
そして、請求項4に記載の発明によれば、エンジンの始動後は、前記クラッチの締結用油圧室は、常温の始動時にはもともと油圧が供給されず、冷機時の始動時には供給された油圧が排出されることにより、いずれの場合も非油圧供給状態とされると共に、解放用油圧室に油圧が供給されることにより、該クラッチは解放状態とされる。したがって、始動後のエンジンの出力は、前記クラッチに並列に配置されたワンウェイクラッチによって駆動輪側に伝達され、この状態でエンジン走行が実行される。
【0024】
その場合に、このワンウェイクラッチは駆動輪側ないしモータ側からエンジン側へは回転を伝達しないので、走行中の減速時に、車両の慣性走行による運動エネルギは全てモータに伝達され、該モータを発電機として作動させれば、該モータによるエネルギ回生が効率よく行われることになる。また、モータ走行時に、エンジンを連れ回りさせることがなく、エネルギの無駄な消費が回避される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る駆動制御装置のシステム図である。
【図2】同実施形態が適用される駆動ユニットのエンジン始動時の状態を示す骨子図である。
【図3】同じくエンジン走行状態示す骨子図である。
【図4】同じくモータ発進、走行状態を示す骨子図である。
【図5】同じくモータ走行中におけるエンジン始動時の状態を示す骨子図である。
【図6】エンジンのクランキングトルクとクラッチの伝達トルク容量の関係の説明図である。
【図7】停車中のエンジン始動制御を示すフローチャートである。
【図8】同じくタイムチャートである。
【図9】同制御で用いられるエンジン油温とクラッチ締結圧の関係を示すマップである。
【図10】モータ走行中のエンジン始動制御を示すフローチャートである。
【図11】従来の同種の駆動ユニットを示す骨子図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0027】
図1に示すように、この実施形態に係る駆動制御装置1が適用されるハイブリッド車両は、軸線が車両幅方向に配置されたフロントエンジン、フロントドライブ車であって、エンジン2と、該エンジン2に結合された駆動ユニット3と、該駆動ユニット3に結合された自動変速機4と、該変速機4と一体的に構成された差動装置5とを有し、該差動装置5の出力により車軸6、6を介して左右の前輪7、7が駆動されるようになっている。
【0028】
前記駆動ユニット3は、ジェネレータとしても作動するモータ30と、駆動力の伝達を制御するための摩擦締結要素としてコーストクラッチ40と発進クラッチ50とを備えており、さらに動力伝達要素としてワンウェイクラッチ60(図2参照)を備えている。
【0029】
また、これらの駆動ユニット構成要素を制御するためのコントロールユニット10が備えられ、該制御ユニット10からの信号により、インバータ11を介して前記モータ30の作動が制御されると共に、油圧制御ユニット12を介して前記コーストクラッチ40及び発進クラッチ50が制御されるようになっている。また、前記インバータ11を介してモータ30に電源を供給し、或いは該モータ30によって充電されるバッテリ13が備えられている。
【0030】
そして、前記コントロールユニット10に、エンジン2を始動させるスタータスイッチ21からの信号と、自動変速機4のシフトポジションを検出するシフトポジションセンサ22からの信号と、エンジン温度としてエンジン2の潤滑油温を検出する油温センサ23からの信号と、エンジン2の始動完了回転数を検出するエンジン回転数センサ24からの信号とが入力されるようになっている。
【0031】
次に、図2により前記駆動ユニット3の構成を説明すると、該駆動ユニット3は、エンジン2の出力軸2aと同一軸線上に配置され、フライホイール2b及びダンパ2cを介して該エンジン出力軸2aに連結された入力軸71と、該入力軸71と同一軸線上に配置されて変速機4側に延びる出力軸72とを有し、これらの軸71、72上に、前記モータ30、コーストクラッチ40、発進クラッチ50及びワンウェイクラッチ60が配置されている。
【0032】
前記モータ30は、当該駆動ユニット3のケース3aに固定されたステータ31と、その内側に同心状に配置されたロータ32とを有する。
【0033】
また、コーストクラッチ40は、前記モータ30のロータ32に結合されたドラム41と、その内側に配置されて前記入力軸71に結合されたハブ42と、該ドラム41とハブ42との間に配置されて、これらに交互に係合された複数の摩擦板43と、該摩擦板43を締結させるピストン44と、該ピストン44を摩擦板43の締結方向に押圧するスプリング45と、ピストン44の一方側に設けられて、油圧が導入されたときに前記スプリング45の押圧力に抗してピストン44を摩擦板43の解放方向に押圧する解放用油圧室47と、ピストン44の他方側に設けられて、油圧が導入されたときにピストン44を前記スプリング45と共に摩擦板43の締結方向に押圧する締結用油圧室48とを有し、締結されたときに、前記入力軸71とモータ30のロータ32とを結合する。
【0034】
また、発進クラッチ50は、前記コーストクラッチ40のドラム41に連結されたドラム51と、その内側に配置されて前記出力軸72に連結されたハブ52と、該ドラム51とハブ52との間に配置されて、これらに交互に係合された複数の摩擦板53と、該摩擦板53を押圧するピストン54と、該ピストン54を摩擦板53の解放方向に押圧するスプリング55と、油圧の供給時に該スプリング55の押圧力に抗してピストン54を摩擦板53の締結方向に押圧する油圧室56とを有し、締結されたときに、前記モータ30のロータ32と出力軸72とを結合する。
【0035】
さらに、ワンウェイクラッチ60は、前記コーストクラッチ40のハブ42に結合されて入力軸21に連結されたアウタレース61と、その内側に配置され、前記コーストクラッチ40のドラム41を介してモータ30のロータ32に結合されたインナレース62と、該アウタレース61とインナレース62との間に介設された複数のロック部材63とで構成され、所定の回転方向(エンジン回転方向)に対して、アウタレース61側からインナレース62側へのみ回転力を伝達するようになっている。
【0036】
そして、この駆動ユニット3には、油圧ポンプ73が備えられ、前記モータ30のロータ32に、発進クラッチ50のドラム51を介して連結され、該モータ30によって駆動されるようになっている。
【0037】
ここで、この駆動ユニット3のエンジン2の始動時の動作を説明する。
【0038】
まず、エンジン2及びモータ30が停止してる停車状態において、エンジン2を始動させるときは、モータ30を作動させてロータ32を回転させる。このとき、コーストクラッチ40は、通常は、解放用油圧室47及び締結用油圧室48のいずれにも油圧が供給されていないが、スプリング45の押圧力により締結されている。
【0039】
したがって、図2に示すように、ロータ32の回転がコーストクラッチ40のドラム41及びハブ42を経由し、ワンウェイクラッチ60のアウタレース51及び入力軸71を介してエンジン3に伝達され、該エンジン3をクランキングする。したがって、この状態で燃料を供給すれば、エンジン2が始動する。
【0040】
なお、モータ30を作動させたとき、ロータ32の回転により発進クラッチ50のドラム51を介して油圧ポンプ73が駆動され、油圧が立ち上がるが、前記のように、通常は、エンジン2の始動時には、コーストクラッチ40の解放用油圧室47及び締結用油圧室48のいずれにも油圧は供給されない。
【0041】
また、前記ワンウェイクラッチ60は、ロータ32の回転がインナレース62側に入力されるのでロックせず、該ロータ32の回転は、前記のように、コーストクラッチ40のみを介してエンジン2に伝達される。
【0042】
次に、上記のようにしてエンジン2が始動すれば、コーストクラッチ40の解放用油圧室47に油圧を供給し、該コーストクラッチ40を解放すると共に、モータ30の作動を終了する。このとき、図3に示すように、エンジン2の回転がワンウェイクラッチ60にアウタレース61側から入力されるので、該ワンウェイクラッチ60がロックし、エンジン2の回転は、該ワンウェイクラッチ60からコーストクラッチ40のドラム41を介して発進クラッチ50のドラム51に伝達される。
【0043】
そして、自動変速機4がDレンジ等の動力伝達状態に切換えられると、発進クラッチ50の油圧室56に油圧を供給して該クラッチ50を締結する。これにより、エンジン2の回転はさらに発進クラッチ50のハブ52及び出力軸72を介して変速機4に伝達され、当該車両が発進する。
【0044】
一方、モータ30で発進し、走行するときは、モータ30を作動させてロータ32を回転させればよく、このとき、図4に示すように、ロータ32の回転により発進クラッチ50のドラム51を介して油圧ポンプ73が駆動される。そして、自動変速機4がDレンジ等の動力伝達状態に切換えられれば、前記ポンプ73により立ち上げられた油圧を発進クラッチ50の油圧室56に供給し、該発進クラッチ50を締結する。これにより、前記ロータ32の回転が発進クラッチ50及び出力軸72を介して自動変速機4に伝達され、当該車両がモータ30で発進し、モータ走行が実行される。
【0045】
なお、この場合、コーストクラッチ40の解放用油圧室47に油圧を供給し、該クラッチ40を解放しておく。これにより、ワンウェイクラッチ60はインナレース62側からのみ回転が入力されて空転し、ロータ32の回転がエンジン2側に伝達されることがない。
【0046】
さらに、モータ30による上記のような走行状態で、エンジン2を始動させる場合は、コーストクラッチ40の解放用油圧室47に供給されている油圧を排出し、通常は、スプリング45の押圧力により該クラッチ40を締結する。そして、モータ30の出力トルクを、車両走行に必要なトルクに加えて、エンジン2のクランキングに必要な分だけ増大する。
【0047】
これにより、図5に示すように、ロータ32の回転が、発進クラッチ50及び出力軸72を介して自動変速機4側に伝達され、当該車両の走行が維持されると共に、コーストクラッチ40及び入力軸71を介してエンジン2にも伝達され、燃料を供給することにより、該エンジン2が始動する。
【0048】
そして、エンジン2が始動すれば、前記の場合と同様に、コーストクラッチ40の解放用油圧室47に油圧を供給し、該クラッチ40を解放する。これにより、エンジン2の出力は入力軸71からワンウェイクラッチ60を介してコーストクラッチ40のドラム41に伝達され、モータ30の出力と合流して、発進クラッチ50及び出力軸72に伝達されて、大きな駆動力が自動変速機4に入力される。
【0049】
以上のように、エンジン2の始動は、停車中の始動、モータ走行中の始動のいずれにおいても、モータ30におけるロータ32の回転をコーストクラッチ40を介してエンジン2に伝達することにより行われ、その際、該クラッチ40は、通常は、スプリング45の押圧力によって締結された状態で、前記ロータ32の回転をエンジン2側に伝達する。
【0050】
しかし、エンジン2の冷機時であって、潤滑油の粘性抵抗の増大によりクランキング抵抗が大きくなっているときは、コーストクラッチ40は、前記スプリング45の押圧力のみによる締結では、エンジン2を始動させるだけのトルクを伝達することができない。
【0051】
ここで、常温時及び冷機時のクランキングトルクとコーストクラッチ40の伝達トルク容量との関係を図6に示すと、常温時のクランキングトルクは、スプリング45の押圧力のみによる伝達トルク容量より小さいが、その10〜数10倍となる冷機時のクランキングトルクは、スプリング45の押圧力のみによる伝達トルク容量を大幅に上回る。
【0052】
そこで、この実施形態では、エンジン2の冷機状態での始動時には、コーストクラッチ40の締結用油圧室48に油圧を供給することにより、スプリング45の押圧力に加えて、油圧によってもピストン44を締結方向に押圧し、該コーストクラッチ40の伝達トルク容量を、モータ30からのクランキングトルクを上回るようにしているのである。
【0053】
次に、前記コントロールユニット10によるエンジン2の冷機時を含む始動制御の動作を、図7〜図9のフローチャート及びタイムチャートに従って説明する。
【0054】
図7のフローチャートはエンジン2及びモータ30の両方とも停止した停車状態でエンジン2を始動する場合のもので、コントロールユニット10は、まずステップS1で、エンジン2を始動させるスタータスイッチ21がONされたか否かを判定し、ONされたときには、ステップS2で、シフトポジションセンサ22からの信号に基づいて、自動変速機4のシフトポジションがエンジン2の始動を許可するPレンジ又はNレンジのいずれかであるか否かを判定する。
【0055】
そして、Pレンジ又はNレンジのいずれかである場合には、ステップS3で、バッテリ13から供給される電力でインバータ11を介してモータ30を起動し、回転を上昇させる。このとき、ロータ32の回転がコーストクラッチ40のドラム41及び発進クラッチ60のドラム61を介して油圧ポンプ73に伝達され、図8のタイムチャートに符号aで示すように、該ポンプ73が駆動されて油圧が立ち上がる。
【0056】
また、このとき、ロータ32から出力されるモータ30の出力トルクは、前記コーストクラッチ40に入力されるが、該クラッチ40はスプリング45がピストン44を締結方向に押圧しているので、入力トルクがスプリング力に比例する伝達トルク容量以下であれば、該トルクがハブ42側に出力され、入力軸71を介してエンジン2に伝達される。
【0057】
その場合に、エンジン2の潤滑油温が比較的高い常温時は、該潤滑油の粘性抵抗が低く、エンジン2のクランキング抵抗も小さいので、モータ30からのクランキングトルクは、前記コーストクラッチ40のスプリング力に比例する伝達トルク容量以下で足り、したがって、この場合は、モータ30の出力トルクがコーストクラッチ40を介してエンジン2に伝達され、図8に符号bで示すように、該エンジン2をクランキングする。
【0058】
そこで、コントロールユニット10は、ステップS4で、油温センサ23によって検出されるエンジン2の潤滑油温が所定温度より高ければ、次にステップS5を実行し、上記のようにしてクランキングされるエンジン2の完爆、即ち自力回転への移行を待ち、回転センサによって検出されるエンジン回転数が所定の完爆回転数に達した時点で、完爆したものと判断する。
【0059】
これにより、エンジン2の始動が完了したことになり、コントロールユニット10は、次にステップS6、S7を実行し、図8に符号cで示すように、油圧制御ユニット12に制御信号を出力して前記コーストクラッチ40の解放用油圧室47に油圧を供給し、該クラッチ40をスプリング45の押圧力に抗して解放すると共に、インバータ11に制御信号を出力してモータ30の作動を停止させ、エンジン2の始動制御を終了する。なお、モータ30は、エンジン2の始動後は、作動を停止させてもロータ32がエンジン回転数と同回転数で回転する。
【0060】
以上のようにしてエンジン2が始動すると、図3に示すように、エンジン2の出力が入力軸71からワンウェイクラッチ60を介して発進クラッチ50に伝達され、自動変速機4がDレンジ等の走行レンジに切り換えられれば、該発進クラッチ50を締結することにより、前記エンジン2の出力が発進クラッチ50から自動変速機4及び差動装置5を介して駆動輪7、7に伝達され、当該車両が発進する。
【0061】
ところで、エンジン2の潤滑油温が低く、潤滑油の粘性抵抗が大きくなっている冷機時は、該エンジン2のクランキング抵抗が増大するので、始動時にモータ30から出力されるクランキングトルクも大きくなるが、このとき、前記コーストクラッチ40は、スプリング45の押圧力だけでは伝達トルク容量が不足し、スリップしてクランキングトルクをエンジン2に伝達することができない。
【0062】
そこで、コントロールユニット10は、図7のフローチャートのステップS4で油温が所定温度以下と判定したときは、次にステップS8で、コーストクラッチ40の締結用油圧室48に油圧を供給するように、油圧制御ユニット12に制御信号を出力する。
【0063】
これにより、図8に符号dで示すように、油圧ポンプ73の吐出圧がコーストクラッチ40の締結用油圧室48に供給され、該クラッチ40の伝達トルク容量は、前記スプリング45の押圧力に締結用油圧室48に供給された油圧によるものを加えた値となる。その場合に、この油圧は、伝達トルク容量が冷機時のクランキングトルクを伝達可能な大きさとなるように設定される。
【0064】
したがって、締結用油圧室48内の油圧が立ち上がり、所定の値に達した時点で、コーストクラッチ40がモータ30から出力されるクランキングトルクを伝達可能となり、図8に符号eで示すように、その時点からエンジン2のクランキングが開始される。
【0065】
そして、コントロールユニット10は、ステップS9で、エンジン2の完爆を待ち、回転センサ24によって検出されるエンジン回転数が所定の完爆回転数に達した時点で完爆したものと判断すると共に、ステップS10で、コーストクラッチ40の締結用油圧室48に供給している油圧を排出するように油圧制御ユニット12に制御信号を出力する。
【0066】
その後、前記の常温時と同様にステップS6、S7を実行し、コーストクラッチ40の解放用油圧室47に油圧を供給して該クラッチ40を解放すると共に、モータ30の作動を停止させ、エンジン2の始動制御を終了する。
【0067】
なお、エンジン2のクランキング抵抗は潤滑油の温度が低いほど大きくなり、これに応じてエンジン始動時のモータ30の出力トルクも大きくなるので、この実施形態では、図9に示すように、潤滑油温が所定温度以下の領域で、図8に破線で示すコーストクラッチ40の締結圧を、油温が低いほど高くなるように制御する。
【0068】
これにより、エンジン2のクランキング抵抗ないしモータ30からのクランキングトルクに応じたコーストクラッチ40の伝達トルク容量が得られ、該容量がクランキングトルクに対して不足することによるエンジン2の始動不良や、該容量がクランキングトルクに対して過大であることによる油圧ポンプ73の駆動損失の増大が防止され、常に必要最小限のエネルギで、エンジン2を確実に始動させることが可能となる。
【0069】
なお、以上の説明は、車両の停車状態からエンジン2を始動させる場合であるが、既にモータ30で走行している状態で、エンジン2を始動させる場合もほぼ同様で、この場合の制御は、図10のフローチャートに従って実行される。
【0070】
即ち、コントロールユニット10は、ステップS11で、エンジン2を始動させるスタータスイッチ11がONされたか否かを判定し、ONされたときには、ステップS12で、モータ30の出力をエンジン始動に必要な分だけ上昇させ、かつステップS13で、油圧制御ユニット12に制御信号を出力し、コーストクラッチ40の解放用油圧室47に供給されている油圧を排出する。これにより、コーストクラッチ40がスプリング45の押圧力により締結される。
【0071】
次に、コントロールユニット10は、ステップS14で、油温センサ13によって検出されるエンジン2の潤滑油温が所定温度より高いか否かを判定するが、その後のステップS15〜S20の制御は、前述の停車中のエンジン始動制御のステップS5〜10と同様に行われる。
【0072】
即ち、潤滑油温が所定温度より高い常温時は、コーストクラッチ40は、前記スプリング45の押圧力による伝達トルク容量でモータ30からのクランキングトルクを伝達することができるから、そのままエンジン2の完爆を待つ。
【0073】
一方、潤滑油温が前記所定温度以下の冷機時は、コーストクラッチ40は、スプリング45の押圧力だけでは、エンジン2のクランキング抵抗に対応するモータ30からの大きなクランキングトルクを伝達することができないから、締結用油圧室48に油圧を供給し、伝達トルク容量を増大させる。そして、エンジン2が完爆すれば、締結用油圧室48から油圧を排出する。
【0074】
そして、いずれの場合にも、コントロールユニット10は、次にステップS16、S17を実行し、油圧制御ユニット12に制御信号を出力して前記コーストクラッチ40の解放用油圧室47に油圧を供給し、該クラッチ40を解放すると共に、インバータ11に制御信号を出力してモータ30の出力をエンジン始動前の走行に必要な出力に戻し、これにより、エンジン2の始動制御を終了する。
【0075】
以上のように、本実施形態に係る駆動制御装置1によれば、モータ30によってエンジン2を始動させるときに、常温時は、コーストクラッチ40のスプリング力による伝達トルク容量のみでエンジン2にクランキングトルクを伝達することができ、また、エンジン2のクランキング抵抗が増大する冷機時においては、コーストクラッチ40に締結圧を供給することにより、該クラッチ40の伝達トルク容量を大きくするので、この場合も、クランキングトルクを確実に伝達することができ、いずれの場合もエンジン2を確実に始動させることが可能となる。
【0076】
その場合に、常温時には、コーストクラッチ40を締結するための油圧を必要とせず、また、冷機時の大きなクランキングトルクを伝達するためにスプリング力を強くする方法を採用しないので、該クラッチ40を解放するための油圧を必要以上に高くする必要がなく、いずれによっても油圧ポンプ73の駆動損失が抑制されることになり、常温時および冷機時のいずれにおいても、小さなエネルギでエンジン2を始動することが可能となる。
【0077】
なお、本実施形態によれば、コーストクラッチ40の油圧室47、48及び発進クラッチ50の油圧室56等に供給する油圧を発生する油圧ポンプ73が、エンジン2の停止時においてもモータ30によって駆動されるので、電動ポンプを別途備える必要がなく、駆動ユニット3が簡素に構成される。
【0078】
また、エンジン2の始動後はコーストクラッチ40が解放され、エンジン出力がワンウェイクラッチ60によって駆動輪7、7側に伝達されるので、走行中の減速時に、モータ30を発電機として作動させることにより、該モータ30によるエネルギ回生が効率よく行われることになる。さらに、モータ走行時に、エンジン2を連れ回りさせることがなく、エネルギの無駄な消費が回避される。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上のように、本発明によれば、ハイブリッド車両において、無駄なエネルギ消費を抑制しながら、冷機時においてもエンジンを確実に始動させることが可能となるから、この種の車両の製造産業分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0080】
2 エンジン
3 駆動ユニット
10 コントロールユニット(油圧制御手段、モータ制御手段)
23 油温センサ(エンジン温度検出手段)
30 モータ
40 コーストクラッチ
45 スプリング
47 解放用油圧室
48 締結用油圧室
50 発進クラッチ
60 ワンウェイクラッチ
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の駆動制御装置、特に駆動源としてエンジンとモータとを備えたハイブリッド車両の駆動制御装置に関し、車両の駆動技術の分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年、駆動源としてエンジンとモータとを備えたハイブリッド車両が実用化されており、その一例として、特許文献1には、既存のエンジン及び変速機を流用し、これらの間にモータと摩擦締結要素とを含む駆動ユニットを配設することにより、ハイブリッド化したものが開示されている。
【0003】
この特許文献1に記載の駆動ユニットAは、図11に示すように、エンジンBの出力軸に連結された入力軸aと、変速機Cへの出力軸bと、該入力軸aと出力軸bとを断接するコーストクラッチcと、該コーストクラッチcの出力軸b側にロータd’が連結されたモータdと、前記入力軸aと出力軸bとの間に前記コーストクラッチcに並列に配置され、入力軸a側から出力軸b側へのみ回転力を伝達するワンウェイクラッチeと、前記出力軸bにより駆動されてコーストクラッチ制御用等の油圧を発生する油圧ポンプfとを備えた構成とされている。
【0004】
この駆動ユニットAによれば、モータdを作動させれば、その出力が直接出力軸bに伝達されてモータ走行が実施される。また、コーストクラッチcを接続することにより、モータdでエンジンBを始動することができ、エンジンBが始動すれば、その出力が入力軸aからワンウェイクラッチeを介して出力軸bに伝達されてエンジン走行又はエンジン及びモータの併用走行が実施される。その際、コーストクラッチcを解放すれば、エンジン走行中の減速時に、車両の慣性走行による運動エネルギが全てモータdに伝達され、該モータdによるエネルギ回生が効率よく行われる。
【0005】
また、前記油圧ポンプfがモータdのロータd’に連結された出力軸bにより駆動されるので、該モータdによりエンジンBの非作動時にも油圧ポンプfを作動させることができ、別途電動ポンプを備える必要がなくなるメリットがある。
【0006】
さらに、この駆動ユニットAにおいては、図示しないが、コーストクラッチcはノーマルクローズ式、即ちピストンをクラッチ締結方向に押圧するスプリングを備え、該スプリングの押圧力により、油圧の非供給状態でクラッチを締結する構成とされている。したがって、前記モータdでエンジンBを始動するときに、コーストクラッチcを締結するために前記油圧ポンプfで油圧を立ち上げる必要がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−126702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、前記駆動ユニットAのように、コーストクラッチcをノーマルクローズ式とした際、潤滑油の粘度が小さく、エンジンのクランキング抵抗が小さい常温時においては、コーストクラッチcの伝達可能な最大トルク(以下、「伝達トルク容量」という)が比較的小さくても、エンジンを始動させるためのモータdの出力トルク(以下、「クランキングトルク」という)をエンジンに伝達することができる。
【0009】
しかし、エンジンの冷機時に、潤滑油の粘性抵抗の増大に伴ってクランキングトルクが増大すると、コーストクラッチcの伝達トルク容量がスプリングの押圧力だけでは相対的に不足することになり、エンジンの温度によっては該クラッチcが始動に必要なクランキングトルクを伝達することができず、エンジンの始動不良を招くおそれがある。
【0010】
これに対しては、油圧の非供給状態でコーストクラッチcを締結するスプリングの押圧力を強くすることが考えられるが、この場合、該クラッチcを解放するときに高い油圧が必要となり、走行中、該クラッチcを解放状態に制御する場合、油圧ポンプfの駆動損失が増大することになる。
【0011】
ここで、例えば−30℃においては、クランキング抵抗は常温時の10〜数10倍となり、スプリング力のみでこれに対応する伝達トルク容量を確保しようとすると、スプリング力を著しく強くしなければならず、これに伴ってコーストクラッチの解放圧も著しく高くしなければならないことになる。
【0012】
そこで、本発明は、エンジンとモータとを備えたハイブリッド車両において、油圧ポンプの駆動損失を抑制しながら、冷機時にもエンジンを確実に始動させることができるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明に係る車両用駆動制御装置は、次のように構成したことを特徴とする。
【0014】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、エンジンと、モータと、該エンジンとモータとの間に介設された非油圧供給状態で締結されるクラッチとを備え、前記エンジン及びモータの少なくとも一方の出力を駆動輪に伝達すると共に、前記クラッチを締結させることによりモータでエンジンを始動可能とした車両用駆動制御装置であって、前記クラッチに、ピストンをクラッチ締結方向に押圧するスプリングと、油圧の供給時にピストンをクラッチ解放方向に押圧する解放用油圧室と、油圧の供給時にピストンを前記スプリングと共にクラッチ締結方向に押圧する締結用油圧室とを設けると共に、エンジンの温度を検出するエンジン温度検出手段と、エンジンの始動時において、前記検出手段によって検出されたエンジンの温度が所定温度よりも高いときには前記締結用油圧室に油圧を供給せず、該温度が所定温度以下のときに前記締結用油圧室に油圧を供給する油圧制御手段とを備えたことを特徴とする。
【0015】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、前記油圧制御手段は、前記エンジン温度検出手段によって検出されたエンジン温度が所定温度以下でのエンジン始動時に、該温度が低いほど締結用油圧室に供給する油圧を高くすることを特徴とする。
【0016】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記締結用油圧室及び解放用油圧室に供給される油圧を発生する油圧ポンプが備えられ、該ポンプは、前記モータによって駆動されるように構成されていることを特徴とする。
【0017】
さらに、請求項4に記載の発明は、前記請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記クラッチは、解放用油圧室への油圧の供給時に、エンジンとモータとの間及びエンジンと駆動輪との間を切断するように構成されていると共に、エンジンと駆動輪との間に、該クラッチに並列にエンジン側から駆動輪側へのみ回転を伝達するワンウェイクラッチが設けられており、前記油圧制御手段は、エンジンの始動後、締結用油圧室を非油圧供給状態とすると共に、解放用油圧室に油圧を供給することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
まず、請求項1に記載の発明によれば、モータによってエンジンを始動させるときに、該モータとエンジンとの間に介設されたクラッチがスプリングの押圧力で締結されているから、通常は、該クラッチに締結用の油圧を供給することなくエンジンを始動させることができ、したがって、油圧ポンプを駆動するエネルギが節約される。
【0019】
一方、エンジン温度が所定温度以下の冷機時には、前記クラッチの締結用油圧室に、スプリングと共にピストンを締結方向に押圧する油圧が供給されるので、該クラッチの伝達トルク容量は、スプリング力によるものに油圧によるものを加えた大きさとなる。したがって、潤滑油の粘性抵抗の増大に伴ってモータから出力されるクランキングトルクが増大しても、そのトルクをエンジンに伝達することが可能となり、冷機時においてもエンジンを確実に始動させることが可能となる。
【0020】
その場合に、本発明によれば、冷機時にクランキングトルクを伝達可能とするために前記クラッチのスプリング力を強くすることがないので、クラッチを解放するときに解放用油圧室に供給するる油圧を高く設定する必要がなく、これによっても、油圧ポンプの駆動エネルギが節約される。
【0021】
また、請求項2に記載の発明によれば、冷機時のエンジン始動時に、前記クラッチの締結用油圧室に供給される油圧が、エンジン温度が低いほど、即ち潤滑油の粘度が高くなり、クランキング抵抗が増大するほど高くされるので、クランキング抵抗に応じてモータから出力されるクランキングトルクが増大するときに、それに応じてクラッチの伝達トルク容量が増大する。したがって、始動に必要なトルクを確実に伝達することができると共に、伝達すべきトルクに対して必要以上に油圧を高くすることによるポンプ駆動エネルギの無駄な消費が抑制され、エネルギ効率が向上する。
【0022】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、前記クラッチの解放用及び締結用油圧室に供給される油圧を発生する油圧ポンプが前記モータによって駆動されるので、冷機時に前記クラッチの締結用油圧室に油圧を供給するための電動ポンプを別途備える必要がなく、当該駆動装置及びその制御装置等が簡素に構成されることになる。
【0023】
そして、請求項4に記載の発明によれば、エンジンの始動後は、前記クラッチの締結用油圧室は、常温の始動時にはもともと油圧が供給されず、冷機時の始動時には供給された油圧が排出されることにより、いずれの場合も非油圧供給状態とされると共に、解放用油圧室に油圧が供給されることにより、該クラッチは解放状態とされる。したがって、始動後のエンジンの出力は、前記クラッチに並列に配置されたワンウェイクラッチによって駆動輪側に伝達され、この状態でエンジン走行が実行される。
【0024】
その場合に、このワンウェイクラッチは駆動輪側ないしモータ側からエンジン側へは回転を伝達しないので、走行中の減速時に、車両の慣性走行による運動エネルギは全てモータに伝達され、該モータを発電機として作動させれば、該モータによるエネルギ回生が効率よく行われることになる。また、モータ走行時に、エンジンを連れ回りさせることがなく、エネルギの無駄な消費が回避される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態に係る駆動制御装置のシステム図である。
【図2】同実施形態が適用される駆動ユニットのエンジン始動時の状態を示す骨子図である。
【図3】同じくエンジン走行状態示す骨子図である。
【図4】同じくモータ発進、走行状態を示す骨子図である。
【図5】同じくモータ走行中におけるエンジン始動時の状態を示す骨子図である。
【図6】エンジンのクランキングトルクとクラッチの伝達トルク容量の関係の説明図である。
【図7】停車中のエンジン始動制御を示すフローチャートである。
【図8】同じくタイムチャートである。
【図9】同制御で用いられるエンジン油温とクラッチ締結圧の関係を示すマップである。
【図10】モータ走行中のエンジン始動制御を示すフローチャートである。
【図11】従来の同種の駆動ユニットを示す骨子図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0027】
図1に示すように、この実施形態に係る駆動制御装置1が適用されるハイブリッド車両は、軸線が車両幅方向に配置されたフロントエンジン、フロントドライブ車であって、エンジン2と、該エンジン2に結合された駆動ユニット3と、該駆動ユニット3に結合された自動変速機4と、該変速機4と一体的に構成された差動装置5とを有し、該差動装置5の出力により車軸6、6を介して左右の前輪7、7が駆動されるようになっている。
【0028】
前記駆動ユニット3は、ジェネレータとしても作動するモータ30と、駆動力の伝達を制御するための摩擦締結要素としてコーストクラッチ40と発進クラッチ50とを備えており、さらに動力伝達要素としてワンウェイクラッチ60(図2参照)を備えている。
【0029】
また、これらの駆動ユニット構成要素を制御するためのコントロールユニット10が備えられ、該制御ユニット10からの信号により、インバータ11を介して前記モータ30の作動が制御されると共に、油圧制御ユニット12を介して前記コーストクラッチ40及び発進クラッチ50が制御されるようになっている。また、前記インバータ11を介してモータ30に電源を供給し、或いは該モータ30によって充電されるバッテリ13が備えられている。
【0030】
そして、前記コントロールユニット10に、エンジン2を始動させるスタータスイッチ21からの信号と、自動変速機4のシフトポジションを検出するシフトポジションセンサ22からの信号と、エンジン温度としてエンジン2の潤滑油温を検出する油温センサ23からの信号と、エンジン2の始動完了回転数を検出するエンジン回転数センサ24からの信号とが入力されるようになっている。
【0031】
次に、図2により前記駆動ユニット3の構成を説明すると、該駆動ユニット3は、エンジン2の出力軸2aと同一軸線上に配置され、フライホイール2b及びダンパ2cを介して該エンジン出力軸2aに連結された入力軸71と、該入力軸71と同一軸線上に配置されて変速機4側に延びる出力軸72とを有し、これらの軸71、72上に、前記モータ30、コーストクラッチ40、発進クラッチ50及びワンウェイクラッチ60が配置されている。
【0032】
前記モータ30は、当該駆動ユニット3のケース3aに固定されたステータ31と、その内側に同心状に配置されたロータ32とを有する。
【0033】
また、コーストクラッチ40は、前記モータ30のロータ32に結合されたドラム41と、その内側に配置されて前記入力軸71に結合されたハブ42と、該ドラム41とハブ42との間に配置されて、これらに交互に係合された複数の摩擦板43と、該摩擦板43を締結させるピストン44と、該ピストン44を摩擦板43の締結方向に押圧するスプリング45と、ピストン44の一方側に設けられて、油圧が導入されたときに前記スプリング45の押圧力に抗してピストン44を摩擦板43の解放方向に押圧する解放用油圧室47と、ピストン44の他方側に設けられて、油圧が導入されたときにピストン44を前記スプリング45と共に摩擦板43の締結方向に押圧する締結用油圧室48とを有し、締結されたときに、前記入力軸71とモータ30のロータ32とを結合する。
【0034】
また、発進クラッチ50は、前記コーストクラッチ40のドラム41に連結されたドラム51と、その内側に配置されて前記出力軸72に連結されたハブ52と、該ドラム51とハブ52との間に配置されて、これらに交互に係合された複数の摩擦板53と、該摩擦板53を押圧するピストン54と、該ピストン54を摩擦板53の解放方向に押圧するスプリング55と、油圧の供給時に該スプリング55の押圧力に抗してピストン54を摩擦板53の締結方向に押圧する油圧室56とを有し、締結されたときに、前記モータ30のロータ32と出力軸72とを結合する。
【0035】
さらに、ワンウェイクラッチ60は、前記コーストクラッチ40のハブ42に結合されて入力軸21に連結されたアウタレース61と、その内側に配置され、前記コーストクラッチ40のドラム41を介してモータ30のロータ32に結合されたインナレース62と、該アウタレース61とインナレース62との間に介設された複数のロック部材63とで構成され、所定の回転方向(エンジン回転方向)に対して、アウタレース61側からインナレース62側へのみ回転力を伝達するようになっている。
【0036】
そして、この駆動ユニット3には、油圧ポンプ73が備えられ、前記モータ30のロータ32に、発進クラッチ50のドラム51を介して連結され、該モータ30によって駆動されるようになっている。
【0037】
ここで、この駆動ユニット3のエンジン2の始動時の動作を説明する。
【0038】
まず、エンジン2及びモータ30が停止してる停車状態において、エンジン2を始動させるときは、モータ30を作動させてロータ32を回転させる。このとき、コーストクラッチ40は、通常は、解放用油圧室47及び締結用油圧室48のいずれにも油圧が供給されていないが、スプリング45の押圧力により締結されている。
【0039】
したがって、図2に示すように、ロータ32の回転がコーストクラッチ40のドラム41及びハブ42を経由し、ワンウェイクラッチ60のアウタレース51及び入力軸71を介してエンジン3に伝達され、該エンジン3をクランキングする。したがって、この状態で燃料を供給すれば、エンジン2が始動する。
【0040】
なお、モータ30を作動させたとき、ロータ32の回転により発進クラッチ50のドラム51を介して油圧ポンプ73が駆動され、油圧が立ち上がるが、前記のように、通常は、エンジン2の始動時には、コーストクラッチ40の解放用油圧室47及び締結用油圧室48のいずれにも油圧は供給されない。
【0041】
また、前記ワンウェイクラッチ60は、ロータ32の回転がインナレース62側に入力されるのでロックせず、該ロータ32の回転は、前記のように、コーストクラッチ40のみを介してエンジン2に伝達される。
【0042】
次に、上記のようにしてエンジン2が始動すれば、コーストクラッチ40の解放用油圧室47に油圧を供給し、該コーストクラッチ40を解放すると共に、モータ30の作動を終了する。このとき、図3に示すように、エンジン2の回転がワンウェイクラッチ60にアウタレース61側から入力されるので、該ワンウェイクラッチ60がロックし、エンジン2の回転は、該ワンウェイクラッチ60からコーストクラッチ40のドラム41を介して発進クラッチ50のドラム51に伝達される。
【0043】
そして、自動変速機4がDレンジ等の動力伝達状態に切換えられると、発進クラッチ50の油圧室56に油圧を供給して該クラッチ50を締結する。これにより、エンジン2の回転はさらに発進クラッチ50のハブ52及び出力軸72を介して変速機4に伝達され、当該車両が発進する。
【0044】
一方、モータ30で発進し、走行するときは、モータ30を作動させてロータ32を回転させればよく、このとき、図4に示すように、ロータ32の回転により発進クラッチ50のドラム51を介して油圧ポンプ73が駆動される。そして、自動変速機4がDレンジ等の動力伝達状態に切換えられれば、前記ポンプ73により立ち上げられた油圧を発進クラッチ50の油圧室56に供給し、該発進クラッチ50を締結する。これにより、前記ロータ32の回転が発進クラッチ50及び出力軸72を介して自動変速機4に伝達され、当該車両がモータ30で発進し、モータ走行が実行される。
【0045】
なお、この場合、コーストクラッチ40の解放用油圧室47に油圧を供給し、該クラッチ40を解放しておく。これにより、ワンウェイクラッチ60はインナレース62側からのみ回転が入力されて空転し、ロータ32の回転がエンジン2側に伝達されることがない。
【0046】
さらに、モータ30による上記のような走行状態で、エンジン2を始動させる場合は、コーストクラッチ40の解放用油圧室47に供給されている油圧を排出し、通常は、スプリング45の押圧力により該クラッチ40を締結する。そして、モータ30の出力トルクを、車両走行に必要なトルクに加えて、エンジン2のクランキングに必要な分だけ増大する。
【0047】
これにより、図5に示すように、ロータ32の回転が、発進クラッチ50及び出力軸72を介して自動変速機4側に伝達され、当該車両の走行が維持されると共に、コーストクラッチ40及び入力軸71を介してエンジン2にも伝達され、燃料を供給することにより、該エンジン2が始動する。
【0048】
そして、エンジン2が始動すれば、前記の場合と同様に、コーストクラッチ40の解放用油圧室47に油圧を供給し、該クラッチ40を解放する。これにより、エンジン2の出力は入力軸71からワンウェイクラッチ60を介してコーストクラッチ40のドラム41に伝達され、モータ30の出力と合流して、発進クラッチ50及び出力軸72に伝達されて、大きな駆動力が自動変速機4に入力される。
【0049】
以上のように、エンジン2の始動は、停車中の始動、モータ走行中の始動のいずれにおいても、モータ30におけるロータ32の回転をコーストクラッチ40を介してエンジン2に伝達することにより行われ、その際、該クラッチ40は、通常は、スプリング45の押圧力によって締結された状態で、前記ロータ32の回転をエンジン2側に伝達する。
【0050】
しかし、エンジン2の冷機時であって、潤滑油の粘性抵抗の増大によりクランキング抵抗が大きくなっているときは、コーストクラッチ40は、前記スプリング45の押圧力のみによる締結では、エンジン2を始動させるだけのトルクを伝達することができない。
【0051】
ここで、常温時及び冷機時のクランキングトルクとコーストクラッチ40の伝達トルク容量との関係を図6に示すと、常温時のクランキングトルクは、スプリング45の押圧力のみによる伝達トルク容量より小さいが、その10〜数10倍となる冷機時のクランキングトルクは、スプリング45の押圧力のみによる伝達トルク容量を大幅に上回る。
【0052】
そこで、この実施形態では、エンジン2の冷機状態での始動時には、コーストクラッチ40の締結用油圧室48に油圧を供給することにより、スプリング45の押圧力に加えて、油圧によってもピストン44を締結方向に押圧し、該コーストクラッチ40の伝達トルク容量を、モータ30からのクランキングトルクを上回るようにしているのである。
【0053】
次に、前記コントロールユニット10によるエンジン2の冷機時を含む始動制御の動作を、図7〜図9のフローチャート及びタイムチャートに従って説明する。
【0054】
図7のフローチャートはエンジン2及びモータ30の両方とも停止した停車状態でエンジン2を始動する場合のもので、コントロールユニット10は、まずステップS1で、エンジン2を始動させるスタータスイッチ21がONされたか否かを判定し、ONされたときには、ステップS2で、シフトポジションセンサ22からの信号に基づいて、自動変速機4のシフトポジションがエンジン2の始動を許可するPレンジ又はNレンジのいずれかであるか否かを判定する。
【0055】
そして、Pレンジ又はNレンジのいずれかである場合には、ステップS3で、バッテリ13から供給される電力でインバータ11を介してモータ30を起動し、回転を上昇させる。このとき、ロータ32の回転がコーストクラッチ40のドラム41及び発進クラッチ60のドラム61を介して油圧ポンプ73に伝達され、図8のタイムチャートに符号aで示すように、該ポンプ73が駆動されて油圧が立ち上がる。
【0056】
また、このとき、ロータ32から出力されるモータ30の出力トルクは、前記コーストクラッチ40に入力されるが、該クラッチ40はスプリング45がピストン44を締結方向に押圧しているので、入力トルクがスプリング力に比例する伝達トルク容量以下であれば、該トルクがハブ42側に出力され、入力軸71を介してエンジン2に伝達される。
【0057】
その場合に、エンジン2の潤滑油温が比較的高い常温時は、該潤滑油の粘性抵抗が低く、エンジン2のクランキング抵抗も小さいので、モータ30からのクランキングトルクは、前記コーストクラッチ40のスプリング力に比例する伝達トルク容量以下で足り、したがって、この場合は、モータ30の出力トルクがコーストクラッチ40を介してエンジン2に伝達され、図8に符号bで示すように、該エンジン2をクランキングする。
【0058】
そこで、コントロールユニット10は、ステップS4で、油温センサ23によって検出されるエンジン2の潤滑油温が所定温度より高ければ、次にステップS5を実行し、上記のようにしてクランキングされるエンジン2の完爆、即ち自力回転への移行を待ち、回転センサによって検出されるエンジン回転数が所定の完爆回転数に達した時点で、完爆したものと判断する。
【0059】
これにより、エンジン2の始動が完了したことになり、コントロールユニット10は、次にステップS6、S7を実行し、図8に符号cで示すように、油圧制御ユニット12に制御信号を出力して前記コーストクラッチ40の解放用油圧室47に油圧を供給し、該クラッチ40をスプリング45の押圧力に抗して解放すると共に、インバータ11に制御信号を出力してモータ30の作動を停止させ、エンジン2の始動制御を終了する。なお、モータ30は、エンジン2の始動後は、作動を停止させてもロータ32がエンジン回転数と同回転数で回転する。
【0060】
以上のようにしてエンジン2が始動すると、図3に示すように、エンジン2の出力が入力軸71からワンウェイクラッチ60を介して発進クラッチ50に伝達され、自動変速機4がDレンジ等の走行レンジに切り換えられれば、該発進クラッチ50を締結することにより、前記エンジン2の出力が発進クラッチ50から自動変速機4及び差動装置5を介して駆動輪7、7に伝達され、当該車両が発進する。
【0061】
ところで、エンジン2の潤滑油温が低く、潤滑油の粘性抵抗が大きくなっている冷機時は、該エンジン2のクランキング抵抗が増大するので、始動時にモータ30から出力されるクランキングトルクも大きくなるが、このとき、前記コーストクラッチ40は、スプリング45の押圧力だけでは伝達トルク容量が不足し、スリップしてクランキングトルクをエンジン2に伝達することができない。
【0062】
そこで、コントロールユニット10は、図7のフローチャートのステップS4で油温が所定温度以下と判定したときは、次にステップS8で、コーストクラッチ40の締結用油圧室48に油圧を供給するように、油圧制御ユニット12に制御信号を出力する。
【0063】
これにより、図8に符号dで示すように、油圧ポンプ73の吐出圧がコーストクラッチ40の締結用油圧室48に供給され、該クラッチ40の伝達トルク容量は、前記スプリング45の押圧力に締結用油圧室48に供給された油圧によるものを加えた値となる。その場合に、この油圧は、伝達トルク容量が冷機時のクランキングトルクを伝達可能な大きさとなるように設定される。
【0064】
したがって、締結用油圧室48内の油圧が立ち上がり、所定の値に達した時点で、コーストクラッチ40がモータ30から出力されるクランキングトルクを伝達可能となり、図8に符号eで示すように、その時点からエンジン2のクランキングが開始される。
【0065】
そして、コントロールユニット10は、ステップS9で、エンジン2の完爆を待ち、回転センサ24によって検出されるエンジン回転数が所定の完爆回転数に達した時点で完爆したものと判断すると共に、ステップS10で、コーストクラッチ40の締結用油圧室48に供給している油圧を排出するように油圧制御ユニット12に制御信号を出力する。
【0066】
その後、前記の常温時と同様にステップS6、S7を実行し、コーストクラッチ40の解放用油圧室47に油圧を供給して該クラッチ40を解放すると共に、モータ30の作動を停止させ、エンジン2の始動制御を終了する。
【0067】
なお、エンジン2のクランキング抵抗は潤滑油の温度が低いほど大きくなり、これに応じてエンジン始動時のモータ30の出力トルクも大きくなるので、この実施形態では、図9に示すように、潤滑油温が所定温度以下の領域で、図8に破線で示すコーストクラッチ40の締結圧を、油温が低いほど高くなるように制御する。
【0068】
これにより、エンジン2のクランキング抵抗ないしモータ30からのクランキングトルクに応じたコーストクラッチ40の伝達トルク容量が得られ、該容量がクランキングトルクに対して不足することによるエンジン2の始動不良や、該容量がクランキングトルクに対して過大であることによる油圧ポンプ73の駆動損失の増大が防止され、常に必要最小限のエネルギで、エンジン2を確実に始動させることが可能となる。
【0069】
なお、以上の説明は、車両の停車状態からエンジン2を始動させる場合であるが、既にモータ30で走行している状態で、エンジン2を始動させる場合もほぼ同様で、この場合の制御は、図10のフローチャートに従って実行される。
【0070】
即ち、コントロールユニット10は、ステップS11で、エンジン2を始動させるスタータスイッチ11がONされたか否かを判定し、ONされたときには、ステップS12で、モータ30の出力をエンジン始動に必要な分だけ上昇させ、かつステップS13で、油圧制御ユニット12に制御信号を出力し、コーストクラッチ40の解放用油圧室47に供給されている油圧を排出する。これにより、コーストクラッチ40がスプリング45の押圧力により締結される。
【0071】
次に、コントロールユニット10は、ステップS14で、油温センサ13によって検出されるエンジン2の潤滑油温が所定温度より高いか否かを判定するが、その後のステップS15〜S20の制御は、前述の停車中のエンジン始動制御のステップS5〜10と同様に行われる。
【0072】
即ち、潤滑油温が所定温度より高い常温時は、コーストクラッチ40は、前記スプリング45の押圧力による伝達トルク容量でモータ30からのクランキングトルクを伝達することができるから、そのままエンジン2の完爆を待つ。
【0073】
一方、潤滑油温が前記所定温度以下の冷機時は、コーストクラッチ40は、スプリング45の押圧力だけでは、エンジン2のクランキング抵抗に対応するモータ30からの大きなクランキングトルクを伝達することができないから、締結用油圧室48に油圧を供給し、伝達トルク容量を増大させる。そして、エンジン2が完爆すれば、締結用油圧室48から油圧を排出する。
【0074】
そして、いずれの場合にも、コントロールユニット10は、次にステップS16、S17を実行し、油圧制御ユニット12に制御信号を出力して前記コーストクラッチ40の解放用油圧室47に油圧を供給し、該クラッチ40を解放すると共に、インバータ11に制御信号を出力してモータ30の出力をエンジン始動前の走行に必要な出力に戻し、これにより、エンジン2の始動制御を終了する。
【0075】
以上のように、本実施形態に係る駆動制御装置1によれば、モータ30によってエンジン2を始動させるときに、常温時は、コーストクラッチ40のスプリング力による伝達トルク容量のみでエンジン2にクランキングトルクを伝達することができ、また、エンジン2のクランキング抵抗が増大する冷機時においては、コーストクラッチ40に締結圧を供給することにより、該クラッチ40の伝達トルク容量を大きくするので、この場合も、クランキングトルクを確実に伝達することができ、いずれの場合もエンジン2を確実に始動させることが可能となる。
【0076】
その場合に、常温時には、コーストクラッチ40を締結するための油圧を必要とせず、また、冷機時の大きなクランキングトルクを伝達するためにスプリング力を強くする方法を採用しないので、該クラッチ40を解放するための油圧を必要以上に高くする必要がなく、いずれによっても油圧ポンプ73の駆動損失が抑制されることになり、常温時および冷機時のいずれにおいても、小さなエネルギでエンジン2を始動することが可能となる。
【0077】
なお、本実施形態によれば、コーストクラッチ40の油圧室47、48及び発進クラッチ50の油圧室56等に供給する油圧を発生する油圧ポンプ73が、エンジン2の停止時においてもモータ30によって駆動されるので、電動ポンプを別途備える必要がなく、駆動ユニット3が簡素に構成される。
【0078】
また、エンジン2の始動後はコーストクラッチ40が解放され、エンジン出力がワンウェイクラッチ60によって駆動輪7、7側に伝達されるので、走行中の減速時に、モータ30を発電機として作動させることにより、該モータ30によるエネルギ回生が効率よく行われることになる。さらに、モータ走行時に、エンジン2を連れ回りさせることがなく、エネルギの無駄な消費が回避される。
【産業上の利用可能性】
【0079】
以上のように、本発明によれば、ハイブリッド車両において、無駄なエネルギ消費を抑制しながら、冷機時においてもエンジンを確実に始動させることが可能となるから、この種の車両の製造産業分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0080】
2 エンジン
3 駆動ユニット
10 コントロールユニット(油圧制御手段、モータ制御手段)
23 油温センサ(エンジン温度検出手段)
30 モータ
40 コーストクラッチ
45 スプリング
47 解放用油圧室
48 締結用油圧室
50 発進クラッチ
60 ワンウェイクラッチ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、モータと、該エンジンとモータとの間に介設された非油圧供給状態で締結されるクラッチとを備え、前記エンジン及びモータの少なくとも一方の出力を駆動輪に伝達すると共に、前記クラッチを締結させることによりモータでエンジンを始動可能とした車両用駆動制御装置であって、前記クラッチに、ピストンをクラッチ締結方向に押圧するスプリングと、油圧の供給時にピストンをクラッチ解放方向に押圧する解放用油圧室と、油圧の供給時にピストンを前記スプリングと共にクラッチ締結方向に押圧する締結用油圧室とを設けると共に、エンジンの温度を検出するエンジン温度検出手段と、エンジンの始動時において、前記検出手段によって検出されたエンジンの温度が所定温度よりも高いときには前記締結用油圧室に油圧を供給せず、該温度が所定温度以下のときに前記締結用油圧室に油圧を供給する油圧制御手段とを備えたことを特徴とする車両用駆動制御装置。
【請求項2】
前記油圧制御手段は、前記エンジン温度検出手段によって検出されたエンジン温度が所定温度以下でのエンジン始動時に、該温度が低いほど締結用油圧室に供給する油圧を高くすることを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動制御装置。
【請求項3】
前記締結用油圧室及び解放用油圧室に供給される油圧を発生する油圧ポンプが備えられ、該ポンプは、前記モータによって駆動されるように構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用駆動制御装置。
【請求項4】
前記クラッチは、解放用油圧室への油圧の供給時に、エンジンとモータとの間及びエンジンと駆動輪との間を切断するように構成されていると共に、エンジンと駆動輪との間に、該クラッチに並列にエンジン側から駆動輪側へのみ回転を伝達するワンウェイクラッチが設けられており、前記油圧制御手段は、エンジンの始動後、締結用油圧室を非油圧供給状態とすると共に、解放用油圧室に油圧を供給することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車両用駆動制御装置。
【請求項1】
エンジンと、モータと、該エンジンとモータとの間に介設された非油圧供給状態で締結されるクラッチとを備え、前記エンジン及びモータの少なくとも一方の出力を駆動輪に伝達すると共に、前記クラッチを締結させることによりモータでエンジンを始動可能とした車両用駆動制御装置であって、前記クラッチに、ピストンをクラッチ締結方向に押圧するスプリングと、油圧の供給時にピストンをクラッチ解放方向に押圧する解放用油圧室と、油圧の供給時にピストンを前記スプリングと共にクラッチ締結方向に押圧する締結用油圧室とを設けると共に、エンジンの温度を検出するエンジン温度検出手段と、エンジンの始動時において、前記検出手段によって検出されたエンジンの温度が所定温度よりも高いときには前記締結用油圧室に油圧を供給せず、該温度が所定温度以下のときに前記締結用油圧室に油圧を供給する油圧制御手段とを備えたことを特徴とする車両用駆動制御装置。
【請求項2】
前記油圧制御手段は、前記エンジン温度検出手段によって検出されたエンジン温度が所定温度以下でのエンジン始動時に、該温度が低いほど締結用油圧室に供給する油圧を高くすることを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動制御装置。
【請求項3】
前記締結用油圧室及び解放用油圧室に供給される油圧を発生する油圧ポンプが備えられ、該ポンプは、前記モータによって駆動されるように構成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用駆動制御装置。
【請求項4】
前記クラッチは、解放用油圧室への油圧の供給時に、エンジンとモータとの間及びエンジンと駆動輪との間を切断するように構成されていると共に、エンジンと駆動輪との間に、該クラッチに並列にエンジン側から駆動輪側へのみ回転を伝達するワンウェイクラッチが設けられており、前記油圧制御手段は、エンジンの始動後、締結用油圧室を非油圧供給状態とすると共に、解放用油圧室に油圧を供給することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車両用駆動制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2011−42207(P2011−42207A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190818(P2009−190818)
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】
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