説明

車両用駆動装置の制御装置

【課題】ハイブリッド車両において、車両の燃費悪化を抑制しつつ、燃料蒸気のパージを適切に行うことが可能な車両用駆動装置の制御装置を提供する。
【解決手段】パージ促進実行手段118は、前記パージの実行に際して、前記自動変速機18のダウン変速を行うことと、エンジントルクTeを低下させると共にそのエンジントルクTeの低下に起因したエンジン出力Peの低下分を補うように電動機出力Pmgを増大させることとを、エンジントルクTeに基づいて択一的に選択する。従って、燃料蒸気のパージのためにエンジントルクTeに拘らず前記ダウン変速が行われる場合と比較して、燃費悪化を抑制することができる。そして、上記ダウン変速が行われ、或いは、上記エンジントルクTeの低下と同時に電動機出力Pmgが増大させられることで、燃料蒸気をパージさせるための吸気管88内の負圧をエンジントルクTeの低下によって適切に確保できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行用駆動力源としてエンジンと電動機とを有する車両において、燃料蒸気をエンジンの吸気系にパージするための制御の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
走行用駆動力源であるエンジン及び電動機と、燃料蒸気を一時的に蓄え、その燃料蒸気をエンジンの吸気系に吸い込ませるパージを行う燃料蒸気処理装置とを、備えた車両用駆動装置の制御装置が、従来から知られている。例えば、特許文献1に記載された車両の制御装置がそれである。この特許文献1の車両は所謂ハイブリッド車両であり、エンジンの動力を出力軸と発電機とに分配する動力分配機構を備えている。この動力分配機構は、遊星歯車機構を含んで構成され自動変速機として機能し、変速比が連続的に変更される変速モードと変速比が固定される固定モードとに択一的に切り替えられる。前記特許文献1の制御装置は、前記燃料蒸気処理装置の一部を構成するキャニスタに一時的に蓄えられた燃料蒸気に含まれる燃料量が所定の燃料閾値よりも大きい場合には、上記動力分配機構を固定モードへ切り替える。その動力分配機構が固定モードへ切り替えられると、典型的には、前記エンジンの回転速度が高まるので、エンジンの吸気通路内の負圧の絶対値が大きくなる。このように吸気通路内の負圧の絶対値が大きくなると、前記キャニスタに一時的に蓄えられている燃料蒸気が上記吸気通路内に吸い込まれ易くなる。要するに、上記キャニスタから上記燃料蒸気がパージされ易くなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−063088号公報
【特許文献2】特開2008−240641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記動力分配機構を前記変速モードから固定モードへ切り替えることは、エンジン回転速度を高める変速であるので、自動変速機で言えば、その自動変速機のダウン変速に相当する。そして、前述した前記特許文献1の制御装置が行う制御のように、自動変速機のダウン変速が実行されれば、確かに、前記燃料蒸気のパージは促進される。しかし、前記燃料蒸気のパージを促進する必要性が生じた場合に常に自動変速機のダウン変速が実行され、エンジン回転速度が高められていたのでは、車両の燃費悪化が顕著になるおそれがあった。なお、このような課題は未公知のことである。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、ハイブリッド車両において、車両の燃費悪化を抑制しつつ、前記燃料蒸気のパージを適切に行うことが可能な車両用駆動装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための第1発明の要旨とするところは、(a)エンジンの動力を駆動輪に伝達する有段式の自動変速機と、走行用駆動力源として機能する電動機と、燃料蒸気を一時的に蓄え、その燃料蒸気をエンジンの吸気系に吸い込ませるパージを行う燃料蒸気処理装置とを、備えた車両用駆動装置の制御装置であって、(b)前記パージの実行に際して、前記自動変速機のダウン変速を行うことと、エンジントルクを低下させると共にそのエンジントルクの低下に起因したエンジン出力の低下分を補うように前記電動機の出力を増大させることとを、前記エンジントルクに基づいて択一的に選択することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
このようにすれば、前記燃料蒸気のパージのために前記エンジントルクに拘らず前記ダウン変速が行われる場合と比較して、燃費悪化を抑制することができる。そして、上記ダウン変速が行われれば、そのダウン変速によって前記燃料蒸気をパージさせるための前記吸気系の負圧を十分に確保することができる。一方、エンジントルクを低下させると共にそのエンジントルクの低下に起因したエンジン出力の低下分を補うように前記電動機の出力を増大させることが選択され、それが実行された場合には、上記ダウン変速に起因した燃費悪化は生じず、上記燃料蒸気をパージさせるための上記吸気系の負圧を上記エンジントルクの低下によって適切に確保できる。それと共に、前記電動機の出力増大によって、上記エンジントルクの低下に起因した走行性能の低下を回避することができる。要するに、前記第1発明のようにすれば、車両の燃費悪化を抑制しつつ、上記燃料蒸気のパージを適切に行うことが可能である。なお、燃費とは、例えば単位燃料消費量当たりの走行距離等であり、燃費の向上とはその単位燃料消費量当たりの走行距離が長くなることであり、或いは、燃料消費率(=燃料消費量/駆動輪出力)が小さくなることである。逆に、燃費の低下(悪化)とはその単位燃料消費量当たりの走行距離が短くなることであり、或いは、燃料消費率が大きくなることである。また、前記パージの実行に際して前記エンジントルクに基づいて選択される選択肢が、前記自動変速機のダウン変速を行うことと、前記エンジントルクを低下させると共にそのエンジントルクの低下に起因したエンジン出力の低下分を補うように前記電動機の出力を増大させることとの他にあっても差し支えない。例えば、それら以外の制御が実行されること、又は、何も行われないことが、上記エンジントルクに基づいて選択されても差し支えない。
【0008】
また、第2発明の要旨とするところは、前記第1発明の車両用駆動装置の制御装置であって、(a)前記パージの実行に際して、前記エンジントルクが、予め定められた第1トルク判定値以上である場合には、前記自動変速機のダウン変速を行い、(b)前記パージの実行に際して、前記エンジントルクが、前記第1トルク判定値よりも小さい場合であって、且つ、その第1トルク判定値よりも小さい予め定められた第2トルク判定値よりも大きい場合には、前記自動変速機の変速段を維持したまま、そのエンジントルクをその第2トルク判定値以下に低下させると共に、そのエンジントルクの低下に起因したエンジン出力の低下分を補うように前記電動機の出力を増大させることを特徴とする。このようにすれば、前記第1トルク判定値および前記第2トルク判定値を用いることにより、直ちに何れの制御を実行するのかを判断でき、制御負荷の軽減を図ることが可能である。なお、前記第1トルク判定値および前記第2トルク判定値と比較されるエンジントルクは、例えば、センサなどによって検出されたトルク値でもよいし、エンジン回転速度及びスロットル開度に基づいて予め実験的に設定された関係から推定されたトルク値でもよいし、エンジンの出力制御において逐次決定されるエンジントルクの目標値または制御指令値であっても差し支えない。
【0009】
また、第3発明の要旨とするところは、前記第2発明の車両用駆動装置の制御装置であって、(a)前記自動変速機のダウン変速前後にわたって前記エンジン出力を保持しつつ、そのダウン変速を行うことを特徴とする。このようにすれば、上記ダウン変速に伴いエンジン回転速度が上昇し且つエンジントルクが低下するので、そのダウン変速を行うことによって、前記燃料蒸気をパージさせるための前記吸気系の負圧を十分に確保することが可能である。
【0010】
また、第4発明の要旨とするところは、前記第2発明または前記第3発明の車両用駆動装置の制御装置であって、前記第1トルク判定値は、前記エンジントルクがその第1トルク判定値以上であれば前記自動変速機の変速段を維持するよりも前記ダウン変速を行った方が燃費が向上することになるように、定められることを特徴とする。このようにすれば、上記第1トルク判定値が用いられることで、燃費が向上するように上記ダウン変速を行うことが可能である。
【0011】
また、第5発明の要旨とするところは、前記第2発明から前記第4発明の何れか一の車両用駆動装置の制御装置であって、前記第2トルク判定値は、前記エンジントルクがその第2トルク判定値以下であれば前記パージに必要とされる前記エンジンの作動状態が得られるように、定められることを特徴とする。このようにすれば、上記第2トルク判定値が用いられることで、前記ダウン変速を伴わずに前記燃料蒸気のパージが行われる際に、不必要に前記電動機の出力が増大されることを抑えることが可能である。
【0012】
また、第6発明の要旨とするところは、前記第2発明から前記第5発明の何れか一の車両用駆動装置の制御装置であって、(a)前記第2トルク判定値は、その第2トルク判定値とエンジン回転速度との予め設定された関係に従ってそのエンジン回転速度に基づき定められるものであり、(b)そのエンジン回転速度に基づいて定められた第2トルク判定値以上であるエンジントルクが予め定められた判定時間以上継続した場合に、前記パージの実行に際して、前記自動変速機のダウン変速、または、前記エンジントルクの低下に伴う前記電動機の出力増大を行うことを特徴とする。このようにすれば、前記燃料蒸気のパージが促進される必要性が高まってきたときに適切に上記パージを促進することが可能である。なお、上記パージは吸気管などの吸気系の負圧を利用して行われるので、具体的に上記パージが促進されるとは、その吸気系の負圧の絶対値が大きくされることを意味する。
【0013】
ここで、好適には、前記第1トルク判定値は、前記自動変速機の変速段とエンジン回転速度とに応じて変更される。言い換えれば、その第1トルク判定値は、その自動変速機の変速段とエンジン回転速度とに基づいて定められる。
【0014】
また、好適には、前記エンジントルクが前記第1トルク判定値よりも小さく且つ前記第2トルク判定値よりも大きい場合には、そのエンジントルクがその第2トルク判定値になるようにそのエンジントルクを低下させる。このようにすれば、エンジントルクが上記第2トルク判定値を大きく下回る程度にまで低下させられる場合と比較して、そのエンジントルクの低下幅を小さくすることができ、それにより、燃費悪化を抑えることが可能であると共に、前記電動機の電力消費を抑えることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施例であるハイブリッド車両に係る駆動系統の構成を概念的に示す図である。
【図2】図1のハイブリッド車両における電動機及びトルクコンバータ付近の構成を説明するために、その一部を切り欠いて示す断面図である。
【図3】図1のハイブリッド車両において、燃料タンクなどの燃料系から蒸発する燃料蒸気をエンジンの吸気に混合して処理する燃料蒸気処理装置の概略構成を説明する図である。
【図4】図1の電子制御装置に備えられた制御機能の要部を説明するための機能ブロック線図である。
【図5】図1の電子制御装置が行う制御において、エンジン回転速度とエンジントルクとの2次元座標を用いて第1トルク判定値および第2トルク判定値の決定方法を説明するための図である。
【図6】図1の電子制御装置の制御作動の要部、すなわち、上記燃料蒸気のパージの実行に際してエンジン動作点を変更する制御作動を説明するためのフローチャートである。
【図7】図6のフローチャートに対して部分的に追加されるステップを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。
【実施例】
【0017】
図1は、本発明の一実施例であるハイブリッド車両8(以下、単に「車両8」ともいう)に係る駆動系統の構成を概念的に示す図である。この図1に示すハイブリッド車両8は、車両用駆動装置10(以下、「駆動装置10」という)と差動歯車装置21と左右1対の車軸22と左右1対の駆動輪24と油圧制御回路34とインバータ56と電子制御装置58とを備えている。そして、その駆動装置10は、走行用の駆動源として機能するエンジン12及び電動機MGと、エンジン断続用クラッチK0と、トルクコンバータ16と、自動変速機18と、油圧ポンプ28とを備えている。図1に示すように、ハイブリッド車両8は、エンジン12及び電動機MGにより発生させられた駆動力が、トルクコンバータ16、自動変速機18、差動歯車装置21、及び左右1対の車軸22をそれぞれ介して左右1対の駆動輪24へ伝達されるように構成されている。すなわち、駆動装置10は、エンジン12及び電動機MGの動力を駆動輪24に伝達する。斯かる構成から、上記ハイブリッド車両8は、上記エンジン12及び電動機MGの少なくとも一方を走行用の駆動源として駆動される。すなわち、上記ハイブリッド車両8においては、専ら上記エンジン12を走行用の駆動源とするエンジン走行、エンジン12を停止させると共に専ら上記電動機MGを走行用の駆動源とするEV走行(モータ走行)、及び、上記エンジン12及び電動機MGを走行用の駆動源とすると共に走行状態に応じてその電動機MGにより回生(発電)を行うEHV走行(ハイブリッド走行)の何れかが選択的に成立させられる。
【0018】
上記エンジン12は、例えば、燃料が燃焼室内に直接噴射される筒内噴射型のガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関である。また、エンジン12には、エンジン12の駆動(出力トルク)を制御するために、電子スロットル弁100(図3参照)を開閉制御するスロットルアクチュエータ、燃料噴射制御を行う燃料噴射装置、及び点火時期制御を行う点火装置等を備えた出力制御装置14が設けられている。この出力制御装置14は、後述する電子制御装置58から供給される指令に従ってスロットル制御のために上記スロットルアクチュエータにより上記電子スロットル弁100を開閉制御する他、燃料噴射制御のために上記燃料噴射装置による燃料噴射を制御し、点火時期制御のために上記点火装置による点火時期を制御する等して上記エンジン12の出力制御を実行する。
【0019】
前記電動機MGは、走行用駆動力源として機能する走行用電動機であり、例えば3相の同期電動機であって、駆動力を発生させるモータ(発動機)としての機能と反力を発生させるジェネレータ(発電機)としての機能とを有するモータジェネレータである。この電動機MGは、少なくとも上記モータとしての機能を有している。また、前記エンジン12とその電動機MGとの間の動力伝達経路には、係合状態に応じてその動力伝達経路における動力伝達を制御するエンジン断続用クラッチK0が設けられている。すなわち、前記エンジン12の出力部材であるエンジン出力軸26(例えばクランク軸)は、斯かるエンジン断続用クラッチK0を介して前記電動機MGのロータ30に選択的に連結されるようになっている。また、その電動機MGのロータ30は、前記トルクコンバータ16の入力部材であるフロントカバー32に相対回転不能に連結されている。
【0020】
上記エンジン断続用クラッチK0は、例えば、油圧アクチュエータによって係合制御される湿式多板型の油圧式摩擦係合装置であり、油圧制御回路34から供給される油圧に応じてその係合状態が係合(完全係合)、スリップ係合、乃至解放(完全解放)の間で制御されるようになっている。具体的には、このエンジン断続用クラッチK0が係合されることにより、上記エンジン出力軸26とフロントカバー32との間の動力伝達経路における動力伝達が行われる(接続される)。その一方で、上記エンジン断続用クラッチK0が解放されることにより、上記エンジン出力軸26とフロントカバー32との間の動力伝達経路における動力伝達が遮断される。また、上記エンジン断続用クラッチK0がスリップ係合されることにより、上記エンジン出力軸26とフロントカバー32との間の動力伝達経路においてそのエンジン断続用クラッチK0の伝達トルクに応じた動力伝達が行われる。
【0021】
前記自動変速機18は、トルクコンバータ16と駆動輪24との間の動力伝達経路の一部を構成しており、エンジン12の動力を駆動輪24に伝達する。そして、自動変速機18は、係合要素の掴み替えによりクラッチ・ツゥ・クラッチ変速を行う有段式の自動変速機である。換言すれば、その自動変速機18は、予め定められた複数の変速段(変速比)の何れかが択一的に成立させられる自動変速機構であり、斯かる変速を行うために複数の係合要素と複数の遊星歯車装置とを備えて構成されている。例えば、その自動変速機18が有する係合要素は、湿式多板型のクラッチやブレーキ等であり、要するに油圧アクチュエータによって係合制御される油圧式摩擦係合装置である。自動変速機18では、前記油圧制御回路34から供給される油圧に応じてそれら複数の油圧式摩擦係合装置が選択的に係合乃至解放される。そして、それら油圧式摩擦係合装置の連結状態の組合せに応じて、例えば第1速から第4速である複数の前進変速段(前進ギヤ段、前進走行用ギヤ段)、或いは後進変速段(後進ギヤ段、後進走行用ギヤ段)の何れかが択一的に成立させられる。
【0022】
図2は、図1のハイブリッド車両8における前記電動機MG及びトルクコンバータ16付近の構成を説明するために、その一部を切り欠いて示す断面図である。なお、前記電動機MG、トルクコンバータ16、自動変速機18、及びエンジン出力軸26はそれらに共通の軸心Ctrに対して略対称的に構成されており、図2においては軸心Ctrの下半分が省略されている。この図2に示すように、前記電動機MG、トルクコンバータ16、及び自動変速機18は、何れもトランスミッションケース36内に収容されている。このトランスミッションケース36は、例えばアルミダイキャスト製の分割式ケースであり、車体等の非回転部材に固定されている。
【0023】
前記エンジン断続用クラッチK0は、円筒状のクラッチドラム38と、そのクラッチドラム38よりも小径であってクラッチドラム38と同心且つ相対回転可能に設けられた円筒状のクラッチハブ40と、それらクラッチドラム38とクラッチハブ40との間の円環状の間隙内に設けられた摩擦係合部材42と、その摩擦係合部材42を軸心Ctr方向において押圧するクラッチピストン44とを、備えている。上記クラッチドラム38は、前記電動機MGのロータ30におけるボス部30aに例えば溶接等により一体的に固設されており、そのロータ30と一体回転させられるようになっている。また、上記摩擦係合部材42は、上記クラッチドラム38に相対回転不能に係合された複数の円環板状のセパレータと、それら複数のセパレータ間にそれぞれ設けられて上記クラッチハブ40に相対回転不能に係合された複数の円環板状の摩擦プレートとを、備えている。
【0024】
このように構成された前記エンジン断続用クラッチK0においては、上記摩擦係合部材42が上記クラッチピストン44により軸心Ctr方向に押圧されて上記セパレータと摩擦プレートとが相互に摩擦係合させられることで、上記クラッチドラム38とクラッチハブ40との間の相対回転が抑制されるようになっている。すなわち、上記摩擦係合部材42のセパレータと摩擦プレートとの摩擦係合により、上記クラッチドラム38とクラッチハブ40との間が相互に動力伝達可能な状態とされる。なお、このエンジン断続用クラッチK0は、好適には、後述する電子制御装置58から指令が出力されない状態においては係合させられる常閉型(ノーマリークローズ)のクラッチとされる。
【0025】
前記エンジン出力軸26は、その出力端部すなわち前記電動機MG側の一端部がドライブプレート46等を介して前記エンジン断続用クラッチK0のクラッチハブ40と一体的に回転させられる回転軸48に連結されている。すなわち、前記エンジン出力軸26とクラッチハブ40とは、共通の軸心Ctrまわりに一体的に回転させられるように上記ドライブプレート46及び回転軸48等を介して連結されている。また、前記トルクコンバータ16のポンプ翼車16pには油圧ポンプ28が連結されており、そのポンプ翼車16pの回転に伴いその油圧ポンプ28により発生させられた油圧が前記油圧制御回路34に元圧として供給されるようになっている。
【0026】
トルクコンバータ16は、電動機MGと自動変速機18との間に介装されており、軸心Ctrまわりに回転するように配設された流体伝動装置であり、ポンプ翼車16pとタービン翼車16tとステータ翼車16sとフロントカバー32とを備えている。そして、トルクコンバータ16は、ポンプ翼車16pに入力された駆動力をタービン翼車16tへ流体(作動油)を介して伝達する。このトルクコンバータ16のポンプ翼車16pは、フロントカバー32に一体的に固設されており、そのフロントカバー32と一体回転させられるようになっている。従って、ポンプ翼車16pはトルクコンバータ16の入力側回転要素であって、そのポンプ翼車16pには、電動機MGからの駆動力が入力されると共に、エンジン12からの動力がエンジン断続用クラッチK0の係合または解放により選択的に入力される。タービン翼車16tは、自動変速機18の入力軸である変速機入力軸19にスプライン嵌合等によって相対回転不能に連結されている。すなわち、タービン翼車16tは、駆動輪24に向けて動力を出力する回転要素であり、要するに、トルクコンバータ16の出力側回転要素である。ステータ翼車16sは、非回転部材であるトランスミッションケース36に一方向クラッチを介して連結されている。
【0027】
また、トルクコンバータ16は、ポンプ翼車16pとタービン翼車16tとの間に、ポンプ翼車16p及びタービン翼車16tを選択的に相互に直結するロックアップクラッチLUを備えている。このロックアップクラッチLUは、油圧制御回路34から供給される油圧に応じてその係合状態が係合(完全係合)、スリップ係合、乃至解放(完全解放)の間で制御されるようになっている。
【0028】
前記電動機MGは、前記回転軸48の外周側において前記トランスミッションケース36により軸心Ctrまわりの回転可能に支持されたロータ30と、そのロータ30の外周側において前記トランスミッションケース36に一体的に固定されたステータ50とを、備えている。前記ロータ30は、1対の軸受52を介して前記トランスミッションケース36に回転可能に支持された円筒状のボス部30aと、上記ステータ50の内周側においてそのステータ50との間に僅かな隙間を隔てた状態で軸心Ctr方向に積層された複数の円環状の鋼板を有するロータ部30bと、それらボス部30aとロータ部30bとを一体に連結する連結部30cとを、備えている。前記ロータ30は、上記ロータ部30bの内周側に連結されると共に例えば溶接等により前記フロントカバー32に一体的に固定された伝達部材54を介してそのフロントカバー32に連結されている。また、上記ステータ50は、複数の円環状の鋼板がそれぞれ軸心Ctr方向に積層されたコア50aと、そのコア50aの内周部の周方向の一部に環状に巻き掛けられ、周方向に連続して複数設けられたコイル50bとを、備えている。このコア50aは、周方向の複数箇所においてボルト等により前記トランスミッションケース36に一体的に固定されている。
【0029】
このように構成された前記電動機MGは、図1に示すインバータ56を介してバッテリやコンデンサ等の蓄電装置57に接続されており、後述する電子制御装置58によりそのインバータ56が制御されることで上記コイル50bに供給される駆動電流が調節されることにより、前記電動機MGの駆動が制御されるようになっている。換言すれば、上記電子制御装置58によりそのインバータ56が制御されることで前記電動機MGの出力トルクTmg(以下、電動機トルクTmgという)が増減させられるようになっている。なお、斯かる電動機トルクTmgは、前記エンジン断続用クラッチK0の解放時(非係合時)には前記トルクコンバータ16に対してのみ出力されるが、前記エンジン断続用クラッチK0の係合時にはその電動機トルクTmgの一部が前記トルクコンバータ16に出力されると共に他部が前記エンジン12に出力される。また、電動機トルクTmgおよびエンジントルクTeは、エンジン12の回転方向に一致する方向、すなわち、駆動輪24を駆動する方向が正方向である。一方で、駆動輪24を制動する方向が負方向である。
【0030】
前記ハイブリッド車両8においては、例えば専ら前記電動機MGを走行用の駆動源とするEV走行から前記エンジン12を駆動源として用いるエンジン走行又はハイブリッド走行への移行に際して、前記エンジン断続用クラッチK0の係合により前記エンジン12の始動が行われる。すなわち、前記エンジン断続用クラッチK0がスリップ係合乃至完全係合させられることにより、そのエンジン断続用クラッチK0を介して伝達されるエンジン始動のためのトルクにより前記エンジン12が回転駆動され、それによりエンジン回転速度Neが引き上げられつつエンジン点火や燃料供給等が制御されることで前記エンジン12が始動される。また、この際に前記電動機MGにより補償トルクが発生させられ、車両前後方向の加速度(減速G)の発生が抑制される。すなわち、前記エンジン12の始動は、着火による爆発エネルギから得られるトルクと、前記エンジン断続用クラッチK0による係合エネルギから得られるトルクすなわちそのエンジン断続用クラッチK0を介して伝達されるエンジン始動トルクとで前記エンジン12が回転駆動されることにより行われる。
【0031】
図3は、燃料タンク82などの燃料系から蒸発する燃料蒸気(蒸発燃料、ベーパ)Vfをエンジン12の吸気に混合して処理する燃料蒸気処理装置80の概略構成を説明する図である。図3に示すように、車両用駆動装置10は、上記燃料蒸気Vfを一時的に蓄え、エンジン12の運転状態に応じてその燃料蒸気Vfをエンジン12の吸気系に吸い込ませるパージを行う燃料蒸気処理装置80を備えている。上記エンジン12の吸気系とは、吸気管88内を含むエンジン12の吸気が流通する吸気流通経路を意味しており、本実施例では上記吸気系は吸気管88内のことである。
【0032】
上記燃料蒸気処理装置80は、例えば燃料タンク82などの燃料系から蒸発する燃料蒸気(蒸発燃料、ベーパ)Vfを一時的に蓄えるキャニスタ84と、燃料タンク82とキャニスタ84とを連通するベーパ導管86と、キャニスタ84と吸気管88とを連通するパージ配管90と、そのパージ配管90の間部分に設けられキャニスタ84から吸気管88へ放出される燃料蒸気Vfの流通と遮断とを制御するパージ制御弁92とを備えている。キャニスタ84は、燃料蒸気Vfを吸着し且つ空気を流すと再び燃料蒸気Vfを離脱させる活性炭94を内蔵し、その活性炭94の両側にそれぞれ燃料蒸気室96と、大気室98とを備えている。燃料蒸気室96は、一方ではベーパ導管86を介して燃料タンク82に連結され、他方ではパージ配管90(及びパージ制御弁92)を介して吸気管88に連結されている。パージ制御弁92は、例えばアクチュエータ等により電気的に開閉制御される電子制御バルブである。
【0033】
このように構成された燃料蒸気処理装置80において、例えば燃料タンク82内で発生した燃料蒸気Vfは、ベーパ導管86を介してキャニスタ84内に送り込まれて活性炭94に吸着される。そして、例えばエンジン運転時にパージ制御弁92が開弁させられると、パージ配管90内が連通され、吸気管88内の負圧により、空気が大気室98から活性炭94を通ってパージ配管90内に送り込まれる。この際、活性炭94に吸着されている燃料蒸気Vfは、活性炭94を通過する空気によりその活性炭94から離脱させられて、パージ配管90を介して吸気管88に放出される(吸い込まれる)、すなわちパージされる。一方、パージ制御弁92が閉弁させられると、パージ配管90内の連通が遮断され、燃料蒸気Vfが吸気管88へパージされない。また、上記吸気管88内の負圧の絶対値は、エンジン回転速度Neが同一の下で比較すれば、電子スロットル弁100が開くほど、すなわちエンジントルクTeが大きいほど、小さくなるものである。本実施例では、燃料蒸気Vfが吸気管88へパージされる状態をパージオン(パージ)状態と言い、燃料蒸気Vfが吸気管88へパージされない状態をパージオフ(パージOFF)状態と言う。また、パージ配管90は、図3に示すように、吸気管88内に設けられた電子スロットル弁100の下流側で吸気管88に接続されているが、その電子スロットル弁100の下流側ではなく上流側で吸気管88に接続されていても差し支えない。
【0034】
図1に戻り、前記ハイブリッド車両8は、その図1に例示するような制御系統を備えている。この図1に示す電子制御装置58は、CPU、RAM、ROM、及び入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されている。その電子制御装置58は、CPUがRAMの一時記憶機能を利用しつつROMに予め記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより、前記エンジン12の駆動制御、前記電動機MGの駆動制御、前記自動変速機18の変速制御、前記エンジン断続用クラッチK0の係合力制御、及び前記ロックアップクラッチLUの係合制御等の各種制御を実行する。
【0035】
図1に示すように、上記電子制御装置58には、前記ハイブリッド車両8に設けられた各センサにより検出される各種入力信号が供給されるようになっている。例えば、アクセル開度センサ60により検出されるアクセル開度Accを表す信号、電動機回転速度センサ62により検出される前記電動機MGの回転速度(電動機回転速度)Nmgを表す信号、エンジン回転速度センサ64により検出される前記エンジン12の回転速度(エンジン回転速度)Neを表す信号、タービン回転速度センサ66により検出される前記トルクコンバータ16のタービン翼車16tの回転速度(タービン回転速度)Ntを表す信号、車速センサ68により検出される車速Vを表す信号、エンジンオイルセンサ69により検出されるエンジンオイルの油温TEMPOILを表す信号、エンジン水温センサ70により検出される前記エンジン12の冷却水温TEMPwを表す信号、エンジン12に設けられた電子スロットル弁100の開度であるスロットル開度θthを表す信号、及び蓄電装置57の充電残量(充電状態)SOCを表す信号等が、上記電子制御装置58に入力される。ここで、電動機回転速度センサ62により検出される電動機回転速度Nmgは、前記トルクコンバータ16の入力回転速度であり、そのトルクコンバータ16におけるポンプ翼車16pの回転速度(ポンプ回転速度)Npに相当する。また、上記タービン回転速度センサ66により検出されるタービン回転速度Ntは、前記トルクコンバータ16の出力回転速度であり、前記自動変速機18における変速機入力軸19の回転速度Natinすなわち変速機入力回転速度Natinに相当する。また、自動変速機18の出力軸20(以下、変速機出力軸20という)の回転速度Natoutすなわち変速機出力回転速度Natoutは、前記車速Vに対応する。
【0036】
また、前記電子制御装置58から、前記ハイブリッド車両8に設けられた各装置に各種出力信号が供給されるようになっている。例えば、前記エンジン12の駆動制御のためにそのエンジン12の出力制御装置14に供給される信号、前記電動機MGの駆動制御のために前記インバータ56に供給される信号、前記自動変速機18の変速制御のために前記油圧制御回路34における複数の電磁制御弁に供給される信号、前記エンジン断続用クラッチK0の係合制御のために前記油圧制御回路34における電磁制御弁に供給される信号、前記ロックアップクラッチLUの係合制御のために前記油圧制御回路34における電磁制御弁に供給される信号、及びパージ制御弁92を開閉制御してパージオン状態とパージオフ状態とを切り替える為のパージ制御弁92への駆動信号等が、前記電子制御装置58から各部へ供給される。
【0037】
電子制御装置58が実行するハイブリッド駆動制御及び自動変速機18の変速制御の概要に関して説明する。前記自動変速機18の変速制御は、変速前後にわたってエンジン出力Peおよび電動機MGの出力Pmgを保持しつつ変速を行う等出力変速で実行される。そして、その自動変速機18の変速制御は、予め定められた関係から前記ハイブリッド車両8の駆動状態(走行状態)に基づいて、電子制御装置58により実行される。例えば、その自動変速機18の変速制御では、前記自動変速機18において成立させられるべき変速段(ギヤ段)が、予め設定されている変速マップ(変速線図)から、前記車速センサ68により検出される車速V及び前記アクセル開度センサ60により検出されるアクセル開度Acc等で表される前記駆動状態に基づいて判定される。そして、その判定に基づき、その成立させられるべき変速段が成立させられるように前記自動変速機18へ供給される油圧が制御される。具体的には、前記油圧制御回路34に備えられた各電子制御弁の作動(出力油圧)が電子制御装置58により制御され、それにより、その油圧制御回路34から前記自動変速機18における各油圧式摩擦係合装置の油圧アクチュエータへ供給される油圧が制御される。電子制御装置58は、スロットル開度θthをアクセル開度Accに応じて調節するスロットル制御では、基本的に、予め定められた関係に従ってアクセル開度Accが増加するほどスロットル開度θthを増加させる。そのスロットル開度θthの増加に伴いエンジン12に吸入される吸入空気量Qも増加する。
【0038】
また、前記ハイブリッド車両8におけるハイブリッド駆動制御が、電子制御装置58により実行される。すなわち、前記エンジン12の駆動が出力制御装置14を介して制御されると共に電動機MGの作動が前記インバータ56を介して制御され、それにより、それらエンジン12及び電動機MGの少なくとも一方を走行用の駆動源とする前記ハイブリッド車両8の駆動制御が実行される。例えば、前記EV走行を行うEV走行モード(モータ走行モード)、前記エンジン走行を行うエンジン走行モード、前記EHV走行を行うEHV走行モード(ハイブリッド走行モード)等が、電子制御装置58により、前記ハイブリッド車両8の走行状態に応じて選択的に成立させられる。
【0039】
上記EV走行モードでは、基本的には前記エンジン12の駆動は停止させられるので、前記エンジン断続用クラッチK0は解放(完全解放)される。これにより、前記エンジン12と電動機MGとの間の動力伝達経路は遮断され、そのエンジン12から前記ロックアップクラッチ16側へ動力伝達は行われず、逆にそのロックアップクラッチ16側から前記エンジン12へのトルク伝達も行われない。
【0040】
前記エンジン走行モードでは、前記エンジン断続用クラッチK0は係合(完全係合)される。また、前記電動機MGは空転させられるが、走行状態に応じて回生を行うように作動させられるものであってもよい。
【0041】
前記EHV走行モードでは、前記エンジン断続用クラッチK0は係合(完全係合)される。このEHV走行モードにおいて、前記電動機MGは必ずしも常に走行用の駆動源として用いられるものでなくともよく、前記ハイブリッド車両8の走行状態に応じて空転させられたり、回生作動させられる等の制御が行われるものであってもよい。
【0042】
また、電子制御装置58は、前記電動機MGによる回生(発電)を制御する。すなわち、予め定められた関係から駆動力要求量としてのアクセル開度Acc等に基づいて回生の実行が判定された場合には、前記電動機MGにより回生が行われるようにその作動を制御する。このようにして前記電動機MGの回生により発生させられた電気エネルギは、前記インバータ56を介して図示しない蓄電装置57に蓄積される。そして、前記電動機MGが駆動源として用いられる際に、蓄電装置57から前記インバータ56を介してその電動機MGに電気エネルギが供給されて駆動力が発生させられる。
【0043】
図4は、前記電子制御装置58に備えられた制御機能の要部を説明するための機能ブロック線図である。図4に示すように、電子制御装置58は、パージ制御部としてのパージ制御手段110と、パージ要求判断部としてのパージ要求判断手段112と、アクセル開度判断部としてのアクセル開度判断手段114と、トルク判断部としてのトルク判断手段116と、パージ促進実行部としてのパージ促進実行手段118とを備えている。
【0044】
パージ制御手段110は、例えばエンジン12の作動状態に基づいて燃料蒸気処理装置80によるパージを実行する。具体的には、パージ制御手段110は、エンジン12の作動時であって公知のフューエルカット中でなく且つ冷却水温TEMPwが上記所定の冷却水温TEMPw’以上となっている場合に、パージ制御弁92を開弁する指令をそのパージ制御弁92のアクチュエータに出力してパージを実行する。一方、パージ制御手段110は、冷却水温TEMPwが上記所定の冷却水温TEMPw’未満である場合、或いはエンジン12の作動時であっても上記フューエルカット中である場合には、パージ制御弁92を閉弁する(全閉状態とする)指令をそのパージ制御弁92のアクチュエータに出力してパージを実行しない。すなわち、パージ制御弁92が開弁されている期間内は上記パージの実行中であり、パージ制御弁92が閉弁されている期間内は上記パージの非実行中である。なお、エンジン12の暖機完了後のフューエルカット未作動時であっても、冷却水温TEMPw以外の他の物理量(例えばエンジン12の吸入空気量Q、スロットル弁開度θth、空燃比A/F等)を加味してパージを実行しない場合があっても差し支えない。
【0045】
パージ要求判断手段112は、燃料蒸気処理装置80に前記パージを実行させるパージ要求があるか否かを逐次判断する。具体的には、パージ制御手段110が前記パージを実行する条件、すなわち、エンジン12の作動時であって前記フューエルカット中でなく且つ冷却水温TEMPwが前記所定の冷却水温TEMPw’以上となっていることというパージ実行条件が成立している場合に、パージ要求判断手段112は、上記パージ要求があると判断する。詳細には、上記パージ実行条件が成立したことにより前記パージが開始され、そのパージ実行条件が成立している間は上記パージの実行が継続されるので、上記パージ実行条件が不成立から成立に切り替わった前記パージが開始される直前からそのパージが終了する時まで、パージ要求判断手段112は上記パージ要求があると判断する。
【0046】
アクセル開度判断手段114は、アクセルペダル71が踏み込まれているか否かを逐次判断する。例えば、アクセル開度判断手段114は、アクセル開度センサ60により検出されるアクセル開度Accが、零又は零近くの正の値に予め設定されたアクセルオン判定値以上である場合に、アクセルペダル71が踏み込まれていると判断する。
【0047】
トルク判断手段116は、パージ要求判断手段112により前記パージ要求があると判断されており、且つ、アクセル開度判断手段114によりアクセルペダル71が踏み込まれていると判断されている場合に、エンジントルクTeに関する判定値である第1トルク判定値TE01と第2トルク判定値TE02とを決定すると共に、その第1トルク判定値TE01と第2トルク判定値TE02とに対するエンジントルクTeの大小関係を判断する。上記第1トルク判定値TE01は、エンジントルクTeがその第1トルク判定値TE01以上であれば自動変速機18の現在の変速段を維持するよりもダウン変速を行った方がエンジン12の燃費が向上することになるように、定められる判定値である。また、上記第2トルク判定値TE02は、上記第1トルク判定値TE01よりも小さい判定値であって、エンジントルクTeがその第2トルク判定値TE02以下であれば前記パージに必要とされるエンジン12の作動状態が得られるように、具体的にはそのパージに必要とされる吸気管88内の負圧が得られるように、定められる判定値である。先ず、上記第1トルク判定値TE01と第2トルク判定値TE02とがそれぞれどのようにして、エンジントルクTeとの比較に際して予め決定されるかを、図5を用いて具体的に説明する。
【0048】
その図5は、エンジン回転速度NeとエンジントルクTeとの2次元座標を用いて第1トルク判定値TE01および第2トルク判定値TE02の決定方法を説明するための図である。図5において一点鎖線は、エンジン12の熱効率が等しいそのエンジン12の動作点(以下、エンジン動作点ともいう)を連ねた等熱効率線、すなわちエンジン12の燃費が等しいエンジン動作点を連ねた燃費等高線である。また、図5の破線は、エンジン出力Pe(単位は例えばkW)が等しいエンジン動作点を連ねた等パワー曲線である。図5の実線LTEMAXは、エンジン回転速度Neとエンジン12の最大出力トルクTemaxとの関係を示す最大エンジントルク曲線である。実線LFLEFは、同じエンジン出力Peを得るとした場合にエンジン12の燃費が最も良くなるようにそのエンジン12を作動させるエンジン燃費最適線である。実線LPUGEは、前記燃料蒸気Vfのパージに必要とされる吸気管88内の負圧が得られるエンジントルクTeの上限値とエンジン回転速度Neとの関係を示す必要パージ曲線(必要パージライン)である。図5に示すように高エンジントルク側から順に、最大エンジントルク曲線LTEMAX、エンジン燃費最適線LFLEF、必要パージ曲線LPUGEと並ぶものであり、これら最大エンジントルク曲線LTEMAX、エンジン燃費最適線LFLEF、必要パージ曲線LPUGEは何れも、実験的に予め求められている。
【0049】
図5において、例えば現在の自動変速機18の変速段がa+1速でありエンジン回転速度NeがN1eであるとする。そして、等車速の下で、その現在のa+1速よりも1段低車速側の変速段であるa速に自動変速機18がダウン変速されたとすれば、そのa速でのエンジン回転速度NeはN2eになるものとする。その場合、エンジン回転速度Neが上記N1eであるエンジン動作点PT01を基点として前記等出力変速で自動変速機18がa+1速からa速にダウン変速されたとすれば、そのダウン変速後のエンジン動作点は、上記エンジン動作点PT01を通る前記等パワー曲線(図5の破線L01)上でエンジン回転速度Neが上記N2eとなる点PT02になる。そして、前記燃費等高線から、このエンジン動作点PT01とエンジン動作点PT02とにおけるエンジン12の燃費は互いに等しいものとなっている。すなわち、図5には、上記エンジン動作点PT01を通る等パワー曲線(破線L01)よりも高エンジン出力側で自動変速機18が前記等出力変速でダウン変速されることにより、エンジン回転速度Neが上記N1eから上記N2eへ上昇すれば、そのダウン変速後の方がダウン変速前よりもエンジン12の燃費が向上することが示されている。このようなことから、トルク判断手段116は、図5の例では、上記エンジン動作点PT01が示すエンジントルクTe_PT01を第1トルク判定値TE01として決定する。すなわち、第1トルク判定値TE01はエンジン回転速度Neと自動変速機18の変速段(変速比)とに基づいて定められる判定値であり、トルク判断手段116は、現在のエンジン回転速度Neと自動変速機18の変速段とに基づいて、上記エンジン動作点PT01に相当し第1トルク判定値TE01を示すエンジン動作点を逐次求めて、その求めたエンジン動作点から第1トルク判定値TE01を逐次決定する。
【0050】
また、前記必要パージ曲線LPUGEは、上述したように、前記燃料蒸気Vfのパージに必要とされる吸気管88内の負圧が得られるエンジントルクTeの上限値とエンジン回転速度Neとの関係を示すものである。そして、前記第2トルク判定値TE02は、上述したように、エンジントルクTeがその第2トルク判定値TE02以下であれば前記パージに必要とされる吸気管88内の負圧が得られるように、定められるものである。つまり、上記必要パージ曲線LPUGEは、エンジン回転速度Neに応じて第2トルク判定値TE02を示すエンジン動作点を連ねた曲線である。従って、図5の例では、現在のエンジン回転速度Neが上記N1eであるので、トルク判断手段116は、上記必要パージ曲線LPUGE上でエンジン回転速度NeがそのN1eであるエンジン動作点PT03が示すエンジントルクTe_PT03を第2トルク判定値TE02として決定する。すなわち、第2トルク判定値TE02は、エンジン回転速度NeとエンジントルクTeとの予め設定された関係である上記必要パージ曲線LPUGEに従って、エンジン回転速度Neに基づいて定められる判定値であり、トルク判断手段116は、上記必要パージ曲線LPUGEから、現在のエンジン回転速度Neに基づいて、上記エンジン動作点PT03に相当するエンジン動作点を逐次求めて、その求めたエンジン動作点から第2トルク判定値TE02を逐次決定する。
【0051】
このようにしてトルク判断手段116は前記第1トルク判定値TE01と第2トルク判定値TE02とをそれぞれ決定すると、エンジントルクTeが上記第1トルク判定値TE01以上であるか否かを判断する。すなわち、エンジントルクTeが第1トルク判定値TE01以上であれば、自動変速機18の変速段を現状維持するよりも、1段低車速側にダウン変速する方がエンジン12の燃費が良くなるので、トルク判断手段116は、その自動変速機18のダウン変速をすると上記燃費が良くなるか否かをエンジントルクTeに基づいて判断していることになる。また、エンジントルクTeが上記第1トルク判定値TE01以上でなければ、トルク判断手段116は、エンジントルクTeが上記第2トルク判定値TE02以下であるか否かを判断する。すなわち、エンジントルクTeが第2トルク判定値TE02以下であれば、前記パージに必要とされる吸気管88内の負圧が得られているということであるので、トルク判断手段116は、エンジン12の作動状態が前記パージに必要とされる状態になっているか否かをエンジントルクTeに基づいて判断していることになる。なお、前記第1トルク判定値TE01および前記第2トルク判定値TE02と比較されるエンジントルクTeは、例えば、トルクセンサなどによって検出されたトルク値でもよいし、エンジン回転速度Ne及びスロットル開度θthに基づいて予め実験的に設定された関係から推定されたトルク値でもよいし、エンジンの出力制御において逐次決定されるエンジントルクの目標値または制御指令値であってもよく、要するに、それらの何れかに特定されていればよい。
【0052】
また、トルク判断手段116は、前述したように第2トルク判定値TE02をエンジン回転速度Neに基づいて逐次決定し更新するところ、そのエンジン回転速度Neに基づいて決定した第2トルク判定値TE02以上であるエンジントルクTeが予め定められた判定時間TIME1以上継続しているか否かを判断するのが好ましい。言い換えれば、エンジントルクTeが上記第2トルク判定値TE02以上になっている高トルク継続時間が上記判定時間TIME1以上であるか否かを判断するのが好ましい。その判定時間TIME1は、例えば、できるだけ長い時間であり且つ前記パージが不十分にならないように、予め実験的に定められている。また、上記高トルク継続時間は、エンジントルクTeが前記第2トルク判定値TE02未満になった場合、または、前記パージ実行条件が不成立になった場合には零に戻される。
【0053】
パージ促進実行手段118は、前記パージの実行に際して、エンジントルクTeが予め定められた前記第1トルク判定値TE01以上である場合には、自動変速機18のダウン変速を行う。すなわち、上記パージの実行に際してとは、例えば前記パージ要求があると判断されている場合であり、トルク判断手段116の判断はそのパージ要求があると判断されている場合に行われるので、パージ促進実行手段118は、トルク判断手段116によりエンジントルクTeが前記第1トルク判定値TE01以上であると判断された場合には、自動変速機18のダウン変速を行う。このダウン変速は、前記等出力変速で現在の変速段から1段低車速側の変速段に変速されるものである。この自動変速機18のダウン変速により、エンジン回転速度Neは高くなりエンジントルクTeは小さくなる。すなわち、スロットル開度θthが小さくなるので、吸気管88内の負圧の絶対値が大きくなる。要するに、前記パージが促進される。
【0054】
また、パージ促進実行手段118は、前記パージの実行に際して、エンジントルクTeが、予め定められた前記第1トルク判定値TE01よりも小さい場合であって、且つ、予め定められた前記第2トルク判定値TE02よりも大きい場合には、自動変速機18の変速段を現状維持したまま、エンジントルクTeを上記第2トルク判定値TE02以下に低下させるエンジントルク低下制御を実行する。それと共に、そのエンジントルクTeの低下に起因したエンジン出力Peの低下分を補うように電動機MGの出力Pmg(以下、電動機出力Pmgという)を増大させる出力補填制御を実行する。すなわち、パージ促進実行手段118は、トルク判断手段116によりエンジントルクTeが前記第1トルク判定値TE01以上ではないと判断され、且つ、エンジントルクTeが前記第2トルク判定値TE02以下ではないと判断された場合には、自動変速機18の変速は行わずに、前記エンジントルク低下制御を実行すると共に前記出力補填制御を実行する。例えば、図5において現在のエンジン回転速度NeがN1eであり現在のエンジン動作点が点PT04であるときに前記エンジントルク低下制御が実行されると、エンジン動作点は点PT04から例えば点PT03に移る。そうするとエンジントルクTeは図5に示すトルク低下幅ΔTeだけ低下する。その一方で前記出力補填制御が実行され、図1の構成から電動機回転速度Nmgはエンジン回転速度Neと同じであるので、エンジン出力Peの低下分を補う電動機MGはその電動機トルクTmgをエンジン12の上記トルク低下幅ΔTeだけ増大させる。このように前記エンジントルク低下制御と共に前記出力補填制御が実行されると、エンジン12および電動機MGから構成された走行用駆動力源全体の出力(単位は例えばkW)は維持されたまま、エンジントルクTeが小さくなる。すなわち、スロットル開度θthが小さくなるので、吸気管88内の負圧の絶対値が大きくなる。要するに、前記パージが促進される。
【0055】
また、パージ促進実行手段118は、トルク判断手段116によりエンジントルクTeが前記第2トルク判定値TE02以下であると判断された場合には、前記自動変速機18のダウン変速を行わず、且つ、前記エンジントルク低下制御および前記出力補填制御も実行しない。現在のエンジン12の作動状態で、前記パージに必要とされる吸気管88内の負圧が得られているからである。例えば図5において現在のエンジン回転速度NeがN1eであり現在のエンジン動作点が点PT05であるとすれば、エンジントルクTeは前記第2トルク判定値TE02(=Te_PT03)以下であるので、パージ促進実行手段118は、前記自動変速機18のダウン変速を行わず、且つ、前記エンジントルク低下制御および前記出力補填制御も実行しない。
【0056】
このようにパージ促進実行手段118は、前記パージの実行に際して、前記自動変速機18のダウン変速を行うことと、エンジントルクTeを低下させると共にそのエンジントルクTeの低下に起因したエンジン出力Peの低下分を補うように電動機MGの出力Pmgを増大させることとを、エンジントルクTeに基づいて択一的に選択する。そのエンジントルクTeを低下させると共にそのエンジントルクTeの低下に起因したエンジン出力Peの低下分を補うように電動機MGの出力Pmgを増大させることとは、要するに、前記エンジントルク低下制御を実行すると共に前記出力補填制御を実行することである。そして、前記自動変速機18のダウン変速を行うことが選択されるときのエンジントルクTeは、前記エンジントルク低下制御を実行すると共に前記出力補填制御を実行することが選択されるときのエンジントルクTeよりも大きい。
【0057】
また、パージ促進実行手段118は、前記エンジントルクTeが前記第1トルク判定値TE01または前記第2トルク判定値TE02と比較される判断に加えて、トルク判断手段116が、上記第2トルク判定値TE02以上であるエンジントルクTeが前記判定時間TIME1以上継続しているか否かを判断するのであれば、それの判断結果を加味した上で、前記自動変速機のダウン変速、または、前記エンジントルクの低下に伴う前記電動機の出力増大を行うことが好ましい。すなわち、パージ促進実行手段118は、上記第2トルク判定値TE02以上であるエンジントルクTeが上記判定時間TIME1以上継続しているとトルク判断手段116により判断されたことを条件に、前記パージの実行に際して、前記自動変速機のダウン変速、または、エンジントルクTeの低下に伴う電動機MGの出力増大を行うことが好ましい。そのエンジントルクTeの低下に伴う電動機MGの出力増大を行うこととは、換言すれば、前記エンジントルク低下制御を実行すると共に前記出力補填制御を実行することである。
【0058】
図6は、電子制御装置58の制御作動の要部、すなわち、前記パージの実行に際してエンジン動作点を変更する制御作動を説明するためのフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。この図6に示す制御作動は、単独で或いは他の制御作動と並列的に実行される。
【0059】
先ず、図6のステップ(以下、「ステップ」を省略する)SA1においては、前記パージ要求があるか否かが判断される。前記パージ実行条件が成立している場合、すなわち、エンジン12の作動時であって前記フューエルカット中でなく且つ冷却水温TEMPwが前記所定の冷却水温TEMPw’以上となっている場合に、前記パージ要求があると判断される。このSA1の判断が肯定された場合、すなわち、前記パージ要求がある場合には、SA2に移る。一方、このSA1の判断が否定された場合には、本フローチャートは終了する。なお、上記エンジン12の作動時であるときにSA1の判断が肯定されるので、その場合にはエンジン断続用クラッチK0は係合されている。また、SA1はパージ要求判断手段112に対応する。
【0060】
アクセル開度判断手段114に対応するSA2においては、アクセルペダル71が踏み込まれているか否かが判断される。このSA2の判断が肯定された場合、すなわち、アクセルペダル71が踏み込まれている場合には、SA3に移る。一方、このSA2の判断が否定された場合には、SA1に移る。
【0061】
SA3においては、現在のエンジン回転速度Neと自動変速機18の変速段とが検出され、前記第1トルク判定値TE01が、そのエンジン回転速度Neと自動変速機18の変速段とに基づいて決定される。更に、前記第2トルク判定値TE02が、前記必要パージ曲線(必要パージライン)LPUGEから、上記エンジン回転速度Neに基づいて決定される。SA3の次はSA4に移る。
【0062】
SA4においては、自動変速機18のシフトダウン(ダウン変速)をするとエンジン12の燃費が良くなるか否かが判断される。具体的には、エンジントルクTeが、上記SA3で決定された第1トルク判定値TE01以上であれば、上記シフトダウンをするとエンジン12の燃費が良くなると判断される。このSA4の判断が肯定された場合、すなわち、上記シフトダウンをするとエンジン12の燃費が良くなる場合には、SA6に移る。一方、このSA4の判断が否定された場合には、SA5に移る。
【0063】
SA5においては、エンジントルクTeが前記必要パージラインLPUGEよりも大きいか否か、すなわち、エンジントルクTeが、前記SA3で決定された第2トルク判定値TE02よりも大きいか否かが判断される。このSA5の判断が肯定された場合、すなわち、エンジントルクTeが上記第2トルク判定値TE02よりも大きい場合には、SA7に移る。一方、このSA5の判断が否定された場合には、SA1に移る。なお、SA3からSA5はトルク判断手段116に対応する。
【0064】
SA6においては、自動変速機18のシフトダウン(ダウン変速)が実行される。このダウン変速は、前記等出力変速で現在の変速段から1段低車速側の変速段に変速されるものである。
【0065】
SA7においては、エンジントルクTeが低下させられ、それと共に、そのエンジントルクTeの低下に起因したエンジン出力Peの低下分を補う電動機MGの出力アップすなわちモータアシストが行われる。具体的には、前記エンジントルク低下制御が実行され、それと同時に、前記出力補填制御が実行される。なお、SA6およびSA7はパージ促進実行手段118に対応する。
【0066】
本実施例の制御作動は上記図6に示すように実行されるが、好ましくは、その図6のSA3とSA4との間に、図7に示すSA3’が挿入される。図7は、図6のフローチャートに対して部分的に追加されるステップを示した図である。
【0067】
その図7のSA3’が追加されたフローチャートでは、図6のSA3の次に図7のSA3’に移り、そのSA3’においては、エンジントルクTeが前記SA3にて決定された第2トルク判定値TE02以上になっている前記高トルク継続時間が前記判定時間TIME1以上であるか否かが判断される。このSA3’の判断が肯定された場合、すなわち、上記高トルク継続時間が上記判定時間TIME1以上である場合には、SA4に移る。一方、このSA3’の判断が否定された場合には、SA1に移る。なお、上記SA3’はトルク判断手段116に対応する。
【0068】
上述した本実施例によれば、パージ促進実行手段118は、前記パージの実行に際して、前記自動変速機18のダウン変速を行うことと、エンジントルクTeを低下させると共にそのエンジントルクTeの低下に起因したエンジン出力Peの低下分を補うように電動機MGの出力Pmgを増大させることとを、エンジントルクTeに基づいて択一的に選択する。従って、前記燃料蒸気VfのパージのためにエンジントルクTeに拘らず前記ダウン変速が行われる場合と比較して、燃費悪化を抑制することができる。そして、上記ダウン変速が行われれば、そのダウン変速によって前記燃料蒸気Vfをパージさせるための吸気管88内の負圧を十分に確保することができる。一方、エンジントルクTeを低下させると共にそのエンジントルクTeの低下に起因したエンジン出力Peの低下分を補うように電動機MGの出力Pmgを増大させることが選択され、それが実行された場合には、上記ダウン変速に起因した燃費悪化は生じず、上記燃料蒸気Vfをパージさせるための吸気管88内の負圧を上記エンジントルクTeの低下によって適切に確保できる。それと共に、前記電動機MGの出力増大によって、上記エンジントルクTeの低下に起因した走行性能の低下を回避することができる。要するに、車両8の燃費悪化を抑制しつつ、上記燃料蒸気Vfのパージを適切に行うことが可能である。また、上記燃料蒸気Vfのパージに必要な吸気管88内の負圧が確保されることで、エミッション悪化の可能性を低減できる。
【0069】
また、本実施例によれば、パージ促進実行手段118は、前記パージの実行に際して、エンジントルクTeが、予め定められた前記第1トルク判定値TE01以上である場合には、自動変速機18のダウン変速を行う。一方で、パージ促進実行手段118は、前記パージの実行に際して、エンジントルクTeが、上記第1トルク判定値TE01よりも小さい場合であって、且つ、その第1トルク判定値TE01よりも小さい予め定められた前記第2トルク判定値TE02よりも大きい場合には、自動変速機18の変速段を維持したまま、そのエンジントルクTeをその第2トルク判定値TE02以下に低下させる前記エンジントルク低下制御を実行する。それと共に、そのエンジントルクTeの低下に起因したエンジン出力Peの低下分を補うように電動機出力Pmgを増大させる前記出力補填制御を実行する。従って、前記第1トルク判定値TE01および前記第2トルク判定値TE02を用いることにより、直ちに何れの制御を実行するのかを判断でき、制御負荷の軽減を図ることが可能である。
【0070】
また、本実施例によれば、パージ促進実行手段118は、前記自動変速機18のダウン変速を行う際には、その自動変速機18のダウン変速前後にわたってエンジン出力Peを保持しつつ、そのダウン変速を行う。すなわち、そのダウン変速は前記等出力変速で行われる。従って、その自動変速機18のダウン変速に伴いエンジン回転速度Neが上昇し且つエンジントルクTeが低下するので、そのダウン変速を行うことによって、燃料蒸気Vfをパージさせるための吸気管88内の負圧を十分に確保することが可能である。
【0071】
また、本実施例によれば、前記第1トルク判定値TE01は、エンジントルクTeがその第1トルク判定値以上であれば自動変速機18の変速段を維持するよりも前記ダウン変速を行った方が燃費が向上することになるように、定められる。従って、上記第1トルク判定値TE01が用いられることで、燃費が向上するように自動変速機18のダウン変速を行うことが可能である。
【0072】
また、本実施例によれば、前記第2トルク判定値TE02は、エンジントルクTeがその第2トルク判定値TE02以下であれば前記パージに必要とされるエンジン12の作動状態が得られるように、定められる。従って、上記第2トルク判定値TE02が用いられることで、自動変速機18のダウン変速を伴わずに前記燃料蒸気Vfのパージが行われる際に、不必要に電動機出力Pmgが増大されることを抑えることが可能である。
【0073】
また、本実施例によれば、前記第2トルク判定値TE02は、その第2トルク判定値TE02とエンジン回転速度Neとの予め設定された関係(必要パージ曲線LPUGE)に従ってそのエンジン回転速度Neに基づき定められるものである。そして、パージ促進実行手段118は、そのエンジン回転速度Neに基づいて定められた第2トルク判定値TE02以上であるエンジントルクTeが予め定められた前記判定時間TIME1以上継続しているとトルク判断手段116により判断されたことを条件に、前記パージの実行に際して、前記自動変速機のダウン変速、または、エンジントルクTeの低下に伴う電動機MGの出力増大を行うことが好ましい。そのようにしたとすれば、前記燃料蒸気Vfのパージが促進される必要性が高まってきたときに適切に上記パージを促進することが可能である。
【0074】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【0075】
例えば、前述の実施例において、エンジン12はエンジン断続用クラッチK0を介してトルクコンバータ16のポンプ翼車16pに連結されているが、そのエンジン断続用クラッチK0が設けられておらず、エンジン12がポンプ翼車16pに常に連結されていても差し支えない。
【0076】
また、前述の実施例において、パージ促進実行手段118は、前記パージの実行に際して、前記自動変速機18のダウン変速を行い、或いは、前記エンジントルク低下制御および前記出力補填制御を実行するものであり、その「パージの実行に際して」とは、前記パージ要求があるとパージ要求判断手段112により判断された場合であるが、例えば、そのパージの実行開始直前を意味してもよいし、そのパージの実行中を意味してもよい。
【0077】
また、前述の実施例において、パージ促進実行手段118は、前記パージの実行に際して、エンジントルクTeが前記第1トルク判定値TE01よりも小さく且つ前記第2トルク判定値TE02よりも大きい場合には、前記エンジントルク低下制御を実行するが、そのエンジントルク低下制御で、エンジントルクTeが上記第2トルク判定値TE02になるようにそのエンジントルクTeを低下させてもよい。そのようにしたとすれば、エンジントルクTeが上記第2トルク判定値TE02を大きく下回る程度にまで低下させられる場合と比較して、そのエンジントルクTeの低下幅を小さくすることができ、それにより、エンジン12のポンピングロスが減り燃費悪化を抑えることが可能であると共に、電動機MGの電力消費を抑えることが可能である。
【0078】
また、前述の実施例において、図6のフローチャートにはSA2が設けられているが、そのSA2は必須ではなく、そのフローチャートは、SA1の判断が肯定された場合にSA3に移るものであっても差し支えない。
【0079】
また、前述の実施例において、図6のフローチャートのSA6で実行される自動変速機18のダウン変速は、前記等出力変速で現在の変速段から1段低車速側の変速段に変速されるものであるが、その等出力変速ではないことがあってもよいし、例えば2段以上低車速側の変速段に変速されるものであってもよい。
【0080】
また、前述の実施例において、前記第1トルク判定値TE01は、エンジントルクTeがその第1トルク判定値TE01以上であれば自動変速機18の現在の変速段を維持するよりもダウン変速を行った方がエンジン12の燃費が向上することになるように、定められる判定値であり、そのように定められるのが好ましいが、必ずしもそのように定められなければならないというわけではない。例えば、前記第1トルク判定値TE01はエンジン回転速度Neと自動変速機18の変速段とに基づいて逐次定められるが、予め実験的に設定された一定値であることも考え得る。
【0081】
また、前述の実施例において、前記第2トルク判定値TE02は、エンジントルクTeがその第2トルク判定値TE02以下であれば前記パージに必要とされるエンジン12の作動状態が得られるように、定められる判定値であり、そのように定められるのが好ましいが、必ずしもそのように定められなければならないというわけではない。例えば、前記第2トルク判定値TE02はエンジン回転速度Neに基づいて逐次定められるが、予め実験的に設定された一定値であることも考え得る。
【0082】
また、前述の実施例において、前記パージの実行に際して、前記自動変速機18のダウン変速を行うことと、前記エンジントルク低下制御および前記出力補填制御を実行することとが、前記第1トルク判定値TE01および前記第2トルク判定値TE02が用いられて択一的に選択されるが、その選択に際してそのような判定値TE01,TE02が用いられず、他の手法によってその選択がなされても差し支えない。
【0083】
また、前述の実施例において、図1,図2に示すように、電動機MGはトルクコンバータ16のフロントカバー32に連結されているが、そのフロントカバー32にではなく、前記変速機出力軸20に連結されていても差し支えない。
【0084】
また、前述の実施例において、エンジン12の動力と電動機MGの動力とは何れも共通の駆動輪24に伝達されるが、車両8は、前輪と後輪との一方の車輪に前記エンジン12の動力が伝達され、他方の車輪に前記電動機MGの動力が伝達されるものであっても差し支えない。その場合には上記前輪および後輪が車両8の駆動輪である。
【0085】
また、前述の実施例において、図1の自動変速機18は、複数の油圧式摩擦係合装置と複数の遊星歯車装置とを備え、その油圧式摩擦係合装置の係合乃至解放に応じて複数の変速段を選択的に成立させる自動変速機構であるが、所謂デュアルクラッチトランスミッション(Dual Clutch Transmission:DCT)であっても差し支えない。上記DCTとは、シンクロメッシュ機構を備えた同期噛合式変速機(マニュアルトランスミッション)を2機備え、その2機の同期噛合式変速機をそれぞれ自動的に変速すると共にそれら同期噛合式変速機の一方をクラッチの掴み替えにより動力伝達可能にする自動変速機構である。
【0086】
また、前述の実施例において、自動変速機18は前記クラッチ・ツゥ・クラッチ変速を行う有段式の自動変速機構であるが、変速比を連続的に変化させることができる無段変速機(CVT)であっても差し支えない。その無段変速機でも、変速比を段階的に変化させて有段式の自動変速機のように変速させるシーケンシャルシフトが実行されることがあるからである。
【0087】
また、前述の実施例において、トルクコンバータ16が流体伝動装置として用いられているが、そのトルクコンバータ16のトルク増幅作用は必ずしも必要ではなく、そのトルクコンバータ16がトルク増幅作用のないフルードカップリングに置き換わっていても差し支えない。或いは、そのトルクコンバータ16が設けられておらず、電動機MGのロータ30が直接的に変速機入力軸19に連結されており、エンジン出力軸26がエンジン断続用クラッチK0を介して若しくは直接的に変速機入力軸19に連結されていても差し支えない。
【0088】
また、前述の実施例において、トルクコンバータ16はロックアップクラッチLUを備えているが、そのロックアップクラッチLUを備えていなくても差し支えない。
【0089】
また、前述の実施例では、燃料蒸気処理装置80は、パージ制御弁92の開閉制御によりパージオン状態とパージオフ状態とを択一的に切り換えるものであったが、パージ制御弁92がステッピングモータ等により電気的にその開度が調節される電子制御バルブにて構成されて、パージオン状態においてパージ制御弁92の開度が大きいほど、吸気管88に吸入される燃料蒸気Vfの量が増加するように制御される構成であってもよい。
【符号の説明】
【0090】
8:ハイブリッド車両(車両)
10:車両用駆動装置
12:エンジン
18:自動変速機
24:駆動輪
58:電子制御装置
80:燃料蒸気処理装置
MG:電動機
Vf:燃料蒸気


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの動力を駆動輪に伝達する有段式の自動変速機と、走行用駆動力源として機能する電動機と、燃料蒸気を一時的に蓄え、該燃料蒸気をエンジンの吸気系に吸い込ませるパージを行う燃料蒸気処理装置とを、備えた車両用駆動装置の制御装置であって、
前記パージの実行に際して、前記自動変速機のダウン変速を行うことと、エンジントルクを低下させると共に該エンジントルクの低下に起因したエンジン出力の低下分を補うように前記電動機の出力を増大させることとを、前記エンジントルクに基づいて択一的に選択する
ことを特徴とする車両用駆動装置の制御装置。
【請求項2】
前記パージの実行に際して、前記エンジントルクが、予め定められた第1トルク判定値以上である場合には、前記自動変速機のダウン変速を行い、
前記パージの実行に際して、前記エンジントルクが、前記第1トルク判定値よりも小さい場合であって、且つ、該第1トルク判定値よりも小さい予め定められた第2トルク判定値よりも大きい場合には、前記自動変速機の変速段を維持したまま、該エンジントルクを該第2トルク判定値以下に低下させると共に、該エンジントルクの低下に起因したエンジン出力の低下分を補うように前記電動機の出力を増大させる
ことを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項3】
前記自動変速機のダウン変速前後にわたって前記エンジン出力を保持しつつ、該ダウン変速を行う
ことを特徴とする請求項2に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項4】
前記第1トルク判定値は、前記エンジントルクが該第1トルク判定値以上であれば前記自動変速機の変速段を維持するよりも前記ダウン変速を行った方が燃費が向上することになるように、定められる
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項5】
前記第2トルク判定値は、前記エンジントルクが該第2トルク判定値以下であれば前記パージに必要とされる前記エンジンの作動状態が得られるように、定められる
ことを特徴とする請求項2から4の何れか1項に記載の車両用駆動装置の制御装置。
【請求項6】
前記第2トルク判定値は、該第2トルク判定値とエンジン回転速度との予め設定された関係に従って該エンジン回転速度に基づき定められるものであり、
該エンジン回転速度に基づいて定められた第2トルク判定値以上であるエンジントルクが予め定められた判定時間以上継続した場合に、前記パージの実行に際して、前記自動変速機のダウン変速、または、前記エンジントルクの低下に伴う前記電動機の出力増大を行う
ことを特徴とする請求項2から5の何れか1項に記載の車両用駆動装置の制御装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−18452(P2013−18452A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155257(P2011−155257)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】