説明

車両用駆動装置

【課題】ハイブリッド車両用の駆動装置として、電動オイルポンプを必要とせず、かつ発進用のクラッチを備えたコンパクトな駆動装置を提供することを課題とする。
【解決手段】エンジン2と、変速機3と、これらの間に配設されたモータ30を含む駆動ユニット10とを有する車両用駆動装置において、エンジン2の出力を入力する入力軸21と、該駆動ユニット10の出力を変速機3へ出力する出力軸22と、前記入力21軸及びモータ30のロータ32と前記出力軸22とを断接する滑り制御可能なクラッチ60と、該クラッチ制御用の油圧を発生する油圧ポンプ15とを備え、前記クラッチ60を駆動ユニット10のハウジング11内に配設すると共に、該クラッチ60のドラム61を前記ロータ32と前記油圧ポンプ15とに連結する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される駆動装置、特に駆動源としてエンジンとモータとを備えたハイブリッド車両の駆動装置に関し、車両用駆動装置の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年、駆動源としてエンジンとモータとを備えたハイブリッド車両が実用化されており、その一例として、特許文献1には、既存のエンジン及び変速機を流用し、これらの間にモータと摩擦締結要素とを含む駆動ユニットを配設することにより、ハイブリッド化したものが開示されている。
【0003】
この特許文献1に記載の駆動ユニットAは、図10に示すように、エンジンBの出力軸に連結された入力軸aと、変速機Cへの出力軸bと、該入力軸aと出力軸bとを断接するコーストクラッチcと、該コーストクラッチcの出力軸b側にロータd’が連結されたモータdと、前記入力軸aと出力軸bとの間に前記コーストクラッチcに並列に配置され、入力軸a側から出力軸b側へのみ回転力を伝達するワンウェイクラッチeと、前記出力軸bにより駆動されてコーストクラッチ制御用等の油圧を発生する油圧ポンプfとを備えた構成とされている。
【0004】
この駆動ユニットAによれば、モータdを作動させれば、その出力が直接出力軸bに伝達されてモータ走行が実施される。また、コーストクラッチcを接続することにより、モータdでエンジンBを始動することができ、エンジンBが始動すれば、その出力が入力軸aからワンウェイクラッチeを介して出力軸bに伝達されてエンジン走行又はエンジン及びモータの併用走行が実施される。また、エンジン走行中、コーストクラッチcを解放すれば、エンジン走行中の減速時、ワンウェイクラッチeが空転することにより、車両の慣性走行による運動エネルギが全てモータdに伝達され、該モータdによるエネルギ回生が効率よく行われる。
【0005】
そして、前記油圧ポンプfがモータdのロータd’に連結された出力軸bにより駆動されるので、該モータdによりエンジンBの非作動時にも油圧ポンプfを作動させることができ、別途電動ポンプを備える必要がなくなるメリットがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−126702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記のような駆動ユニットを搭載した場合、トルクコンバータが備えられないので、発進時に、エンジン又はモータの出力を動力伝達状態にある変速機に徐々に伝達してスムーズに発進させるためには、いずれかのクラッチを滑らせる必要があり、前記駆動ユニットと自動変速機の変速機構とを組み合わせた場合、該変速機構における前進の発進段で締結されるクラッチ、例えばフォワードクラッチを滑らせることになる。
【0008】
しかし、トルクコンバータの存在を前提としている自動変速機のフォワードクラッチは、発進時の滑りによる発熱に対応できるだけの熱容量を備えておらず、前記のような駆動ユニットを自動変速機の変速機構と組み合わせようとすると、フォワードクラッチを大型化するなど、変速機構の設計変更が必要となる。
【0009】
そこで、本発明は、エンジンとモータとを備えたハイブリッド車両用の駆動装置として、電動オイルポンプを必要とせず、かつ自動変速機の変速機構を用いる場合にも該変速機構の設計変更を必要とせず、しかもコンパクトに構成された駆動装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明に係る車両用駆動装置は、次のように構成したことを特徴とする。
【0011】
まず、本願の請求項1に記載の発明は、エンジンと変速機との間に、モータを含む駆動ユニットを配設し、前記エンジン及びモータの少なくとも一方の出力を前記変速機を介して駆動輪に伝達する車両用駆動装置であって、前記駆動ユニットにエンジンの出力を入力する入力軸と、該駆動ユニットの出力を変速機へ出力する出力軸と、前記入力軸及びモータのロータと前記出力軸とを断接する滑り制御可能なクラッチと、該クラッチ制御用の油圧を発生する油圧ポンプとを有し、前記クラッチが駆動ユニットのハウジング内に配設されていると共に、該クラッチのドラムが前記ロータと前記油圧ポンプとに連結されていることを特徴とする。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、前記クラッチのドラムは、外径が前記ロータの外径とほぼ同径とされ、該ロータの変速機側に隣接させて配置されていることを特徴とする。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、前記請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記駆動ユニットの変速機側の端部に変速機側壁部が設けられ、該壁部に前記油圧ポンプが支持されると共に、該壁部に設けられたエンジン側に延びるボス部に前記クラッチのドラムが支持されていることを特徴とする。
【0014】
さらに、請求項4に記載の発明は、前記請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記駆動ユニットのエンジン側の端部にエンジン側壁部が設けられ、該壁部に前記モータのステータとロータとが支持されていることを特徴とする。
【0015】
そして、請求項5に記載の発明は、前記請求項4に記載の発明において、前記入力軸と前記モータのロータとの間に第2のクラッチが配設され、該クラッチが、前記ロータの内側において、前記エンジン側壁部に設けられた変速機側に延びるボス部に支持されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
まず、請求項1に記載の発明によれば、駆動ユニットにおける入力軸及びモータのロータと出力軸との間に、滑り制御可能なクラッチを配設したので、エンジン又はモータの出力により発進するときに、該クラッチを油圧制御によって滑らすことによりスムーズな発進が可能となる。特に、変速機として自動変速機の変速機構を用いる場合に、その設計変更を必要としない利点がある。
【0017】
また、前記クラッチは駆動ユニットのハウジング内に配設されると共に、該クラッチ制御用の油圧を発生する油圧ポンプが該クラッチのドラムを介して車両駆動源としてのモータによって駆動されることになり、したがって、駆動ユニットの外部に発進用のクラッチを備えたり、電動ポンプを備えたりする場合に比較して、この種のハイブリッド車両用の駆動装置がコンパクトに構成されることになる。
【0018】
また、請求項2に記載の発明によれば、前記クラッチのドラムの外径が比較的大径のロータとほぼ同径とされるので、該クラッチの容量を十分確保することができると共に、ステータの変速機側における該ドラムの外周にスペースが生じることになり、該スペースを例えば前記クラッチの油圧制御ユニットの配設場所等として利用することにより、その分、当該駆動装置がコンパクトに構成されることになる。
【0019】
また、請求項3に記載の発明によれば、駆動ユニットの変速機側の端部の壁部に油圧ポンプとクラッチのドラムとが支持されることになるが、該ドラムは油圧ポンプに連結されてこれを駆動する部材であるから、該ポンプとその駆動部材とが同一の壁部に支持されることになる。これにより、両者が精度よくセンタリングされ、該ポンプが良好に作動する。
【0020】
さらに、請求項4に記載の発明によれば、駆動ユニットのエンジン側の端部に設けられたエンジン側壁部にモータを構成するステータとロータとが支持されるから、両者を精度よくセンタリングすることができ、これらが異なる部材に支持される場合に比較して、ステータ内周面とロータ外周面との間のギャップを狭くすることができ、それだけモータの効率が向上する。
【0021】
そして、請求項5に記載の発明によれば、エンジン出力を駆動ユニットへ入力する入力軸と前記モータのロータとの間に第2のクラッチが配設され、このクラッチにより、例えばエンジンの始動制御や、減速時におけるモータによるエネルギの回生制御及びエンジンブレーキ制御等を行うことが可能となる。
【0022】
そして、この第2のクラッチが、前記ロータの内側において、駆動ユニットのエンジン側壁部に設けられたボス部に支持されるので、該クラッチが強固に支持されると共に、該クラッチとロータとが軸方向にオーバーラップして配置されることになり、該クラッチを設けることによる駆動ユニットの軸方向の延長が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る駆動装置の断面図である。
【図2】同装置の要部拡大断面図である。
【図3】同装置の構成を示す骨子図で、エンジン始動時を示す図である。
【図4】同じくエンジン走行時を示す図である。
【図5】同じくモータ発進、走行時を示す図である。
【図6】同じくモータ走行中におけるエンジン始動時を示す図である。
【図7】同じく減速回生時を示す図である。
【図8】同じくエンジンブレーキ作動時を示す図である。
【図9】同装置の図1と異なる断面による断面図である。
【図10】従来の駆動装置の骨子図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0025】
図1に示すように、この実施形態に係る車両の駆動装置1は、エンジン2と、変速機3と、その両者の間に配設された駆動ユニット10とを有し、エンジン2の出力が該駆動ユニット10を介して変速機3に入力され、さらに図示しない差動装置を介して駆動輪に伝達されるようになっている。
【0026】
前記駆動ユニット10は、前端がエンジン2のシリンダブロック2aに、後端が変速機3のケース3aにぞれぞれ結合されたハウジング11を有し、該ハウジング11内のエンジン2側および変速機3側には、エンジン側仕切壁12及び変速機側仕切壁13がそれぞれ設けられている。そして、シリンダブロック2aの端面とエンジン側仕切壁12との間の空間に、エンジン出力軸2bに結合されたドライブプレート4、フライホイール5及びダンパ6が収納されている。
【0027】
前記エンジン側仕切壁12は、外周部に変速機3側へ延びる円筒部12aを有し、該円筒部12aがハウジング11の前部内周面に嵌合されて、該ハウジング11に対してセンタリングされている。また、該仕切壁12の中心部には、同じく変速機3側へ延びるボス部12bが設けられており、前記エンジン出力軸2bと同一軸線上に配置された入力軸21が該ボス部12b内に貫挿されている。この入力軸21は、先端部が前記ダンパ6にスプライン嵌合され、これにより、前記ドライブプレート4、フライホイール5及びダンパ6を介してエンジン出力軸2bに連結されている。
【0028】
一方、前記変速機側仕切壁13も外周面がハウジング11に嵌合されてセンタリングされていると共に、該仕切壁13の中心部には、エンジン2側へ延びるボス部13aが設けられている。そして、前記入力軸21の後方に同一軸線上に配置された出力軸22が該ボス部13aを貫通して後方に延び、当該駆動ユニット10の出力を変速機3に伝達するようになっている。また、該変速機側仕切壁13のエンジン3側の面にはポンプカバー14が取り付けられ、該仕切壁13とカバー14との間に油圧ポンプ15が収納されている。
【0029】
そして、前記ハウジング11のエンジン側仕切壁12と変速機側仕切壁13との間の空間に、当該駆動ユニット10を構成するメンバーとして、モータ30と、コーストクラッチ40と、ワンウェイクラッチ50と、発進クラッチ60とが配設されている。
【0030】
前記モータ30は、ステータ31と、その内側に同心状に配置されたロータ32とを有し、ステータ31は前記エンジン側仕切壁外周部の円筒部12aの内側に固定されている。また、ロータ32はエンジン3側の端部の内側にフランジ33を有すると共に、該フランジ33の内周部が、エンジン側仕切壁12のボス部12bに嵌合されたスリーブ34のエンジン3側の端部に固着され、該ボス部12bに軸受71、72を介して回転自在に支持されている。なお、ロータ32の回転角度を検出するレゾルバ35が前記エンジン側仕切壁12に取り付けられている。
【0031】
前記コーストクラッチ40は、図2に拡大して示すように、前記モータ30におけるロータ32のフランジ33に結合されたドラム41と、その内側に配置されて前記入力軸21に結合されたハブ42と、該ドラム1とハブ42との間に配置されて、これらに交互に係合された複数の摩擦板43と、該摩擦板43を締結させるピストン44と、該ピストン44とドラム41との間に介設されてピストン44を摩擦板43の締結方向に付勢するスプリング45と、前記ドラム41とピストン44との間、及びピストン44とその反ドラム側に配設されたシールプレート46との間にそれぞれ設けられた締結用油圧室47及び解放用油圧室48とを有する。
【0032】
そして、油路47aから締結用油圧室47に油圧が導入されたときに、ピストン44を前記スプリング45の付勢方向と同方向、即ち摩擦板43の締結方向に押圧し、油路48aから解放用油圧室48に油圧が導入されたときは、ピストン44を前記スプリング45の付勢力に抗して摩擦板43の解放方向に押圧するようになっている。
【0033】
また、前記ワンウェイクラッチ50は、前記コーストクラッチ40のハブ42と一体的に形成されて入力軸21に結合されたアウタレース51と、その内側に配置され、前記スリーブ34にスプライン嵌合されることにより該スリーブ34及びフランジ33を介して前記モータ30のロータ32に結合されたインナレース52と、該アウタレース51とインナレース52との間に介設された複数のロック部材53とで構成され、所定の回転方向(エンジン回転方向)に対して、アウタレース51側からインナレース52側へのみ回転力を伝達するようになっている。
【0034】
ここで、前記コーストクラッチ40とワンウエィクラッチ50とは、前記モータ30におけるロータ32の内側において、該ロータ32とフランジ33とスリーブ34とで形成される空間に収納されいる。
【0035】
さらに、前記発進クラッチ60は、前記コーストクラッチ40のドラム41に連結されたドラム61と、その内側に配置され、内周部が前記出力軸22にスプライン嵌合されたハブ62と、該ドラム61とハブ62との間に配置されて、これらに交互に係合された複数の摩擦板63と、該摩擦板63を押圧するピストン64と、該ピストン64を摩擦板63の解放方向に付勢するスプリング65と、前記ドラム61の内周部に結合されたドラム延長プレート61aとピストン64との間に設けられ、油路66aから油圧が導入されたときに、ピストン64を前記スプリング65の付勢力に抗して摩擦板63の解放方向に押圧する油圧室66とを有する。
【0036】
また、前記ドラム延長プレート61aの内周部にはスリーブ67が固着され、該スリーブ67に前記スプリング65の一端を受けるシールプレート68が取り付けられていると共に、該シールプレート68と前記ピストン64との間に、油路69aから作動油が導入されて油圧室66内の残圧を相殺する遠心バランス室69が設けられている。
【0037】
そして、図1に示すように、前記スリーブ67の変速機3側に延びる延長部67aが、前記変速機側仕切壁13に収納された油圧ポンプ15内に挿入され、該ポンプ15を駆動する駆動部とされている。
【0038】
ここで、発進クラッチ60は、前記モータ30におけるロータ32の変速機3側に隣接して配置されていると共に、その最大径であるドラム61の外径が該ロータ32の外径とほぼ同径とされている。
【0039】
以上の構成により、コーストクラッチ40の締結時には、入力軸21とモータ30のロータ32とが結合され、また、該クラッチ40の非締結時においても、入力軸21の回転(エンジン回転)がロータ32の回転より高回転のときは、ワンウェクラッチ50がロックして入力軸21とロータ32とが結合される。そして、発進クラッチ60の締結時には、ロータ32が出力軸22に結合される。
【0040】
ここで、図3〜図8の骨子図により、この駆動ユニット10の各運転状態における動力伝達動作を説明する。
【0041】
まず、エンジン2の始動時は、図3に示すように、モータ30を作動させてロータ32を回転させる。このとき、コーストクラッチ40は、締結用油圧室47及び解放用油圧室48のいずれにも油圧が供給されていないが、スプリング45の付勢力により締結されており、したがって、前記ロータ32の回転は、該コーストクラッチ40からワンウェイクラッチ50のアウタレース51及び入力軸21を介してエンジン3に伝達され、該エンジン3をクランキングして始動させる。
【0042】
なお、ワンウェイクラッチ50は、ロータ32の回転がアウタレース51及びインナレース52の両側から入力されるのでロックせず、該ワンウェイクラッチ50を介してロータ32の回転がエンジン2に伝達されることはない。
【0043】
また、エンジン2の冷間時であって、潤滑油の粘性抵抗の増大によりクランキング抵抗が大きくなっているときは、前記コーストクラッチ40は、スプリング45の付勢力のみによる締結では、エンジン2を始動させるだけのトルクを伝達することができない。そこで、冷間始動時は、ロータ32の回転により発進クラッチ60のドラム61等を介して駆動される油圧ポンプ15の吐出圧の立ち上がりを待ち、コーストクラッチ40の締結用油圧室47に油圧を供給する。
【0044】
これにより、コーストクラッチ40は、前記スプリング45の付勢力と締結用油圧室46に供給された油圧による押圧力とによりトルク伝達容量が大きくなり、モータ30の出力を上昇させても、これをエンジン2側に伝達することができ、大きなクランキング抵抗に打ち勝ってエンジン2を始動させることが可能となる。
【0045】
次に、上記のようにしてエンジン2が始動すれば、図4に示すように、まず、コーストクラッチ40の解放用油圧室48に油圧を供給し、該コーストクラッチ40を解放する。このとき、エンジン2の回転がワンウェイクラッチ50にアウタレース51側から入力されるので、該ワンウェイクラッチ50がロックし、エンジン2の回転が該ワンウェイクラッチ50からコーストクラッチ40のドラム41を介して発進クラッチ60のドラム61に伝達される。
【0046】
この時点で、変速機3は既にDレンジ等の動力伝達状態に切換えられているから、油圧室66に油圧を供給して発進クラッチ60を締結することにより、エンジン2の回転が該発進クラッチ60及び出力軸22を介して変速機3に伝達され、当該車両が発進する。
【0047】
その場合に、スムーズに発進するため、発進クラッチ60は滑り制御を行って徐々に締結する必要があり、その際、摩擦熱が発生することになるが、該発進クラッチ60は比較的径が大きく、熱容量が十分に設定されているので、滑りによる発熱によって問題を生じるこはない。
【0048】
また、エンジン2による発進後にモータ30を作動させれば、該モータ30のロータ32が結合されたコーストクラッチ40のドラム41において、エンジン2の出力とモータ30の出力とが合流し、大きな駆動力が得られることになる。その際、コーストクラッチ40は解放されているので、モータ30の出力がワンウェイクラッチ50側に分散されることなく、発進クラッチ60ないし出力軸22側にのみ伝達され、出力が効率よく変速機3に伝達される。
【0049】
一方、モータ30で発進し、走行するときは、図5に示すようにモータ30を作動させてロータ32を回転させると共に、このロータ32の回転により油圧ポンプ15を駆動し、立ち上がった油圧を発進クラッチ60の油圧室66に供給して、該発進クラッチ60を締結する。この場合も、変速機3は既に動力伝達状態に切換えられているから、発進クラッチ60を滑り制御により徐々に締結する。これにより、ロータ32の回転が次第に変速機3に伝達され、当該車両がスムーズに発進する。
【0050】
なお、この場合、コーストクラッチ40の解放用油圧室48に油圧を供給し、該クラッチ40を解放しておく。これにより、ワンウェイクラッチ50はインナレース52側からのみ回転が入力されて空転し、ロータ32の回転がエンジン2側に伝達されることがない。
【0051】
また、モータ30による上記のような走行状態で、エンジン2を始動させる場合は、図6に示すように、コーストクラッチ40の解放用油圧室48に供給されている油圧を排出し、スプリング45の付勢力により該クラッチ40を締結する。その際、必要であれば、締結用油圧室47に油圧を供給し、コーストクラッチ40のトルク伝達容量を増大させる。そして、モータ30の出力をエンジン2をクランキングする分だけ増大する。
【0052】
これにより、ロータ32の回転が出力軸22ないし変速機3側に伝達されると共に、コーストクラッチ40及び入力軸21を介してエンジン2にも伝達され、該エンジン2が始動する。なお、エンジン2が始動した後は、前述のエンジン始動後にモータ30を作動させた場合と同様、エンジン2の出力とモータ30の出力とがコーストクラッチ40のドラム41で合流し、大きな駆動力が得られる。
【0053】
さらに、前述のエンジン走行中又はモータ走行中における減速時は、図7に示すように、発進クラッチ60は油圧室66に油圧が供給されて締結状態にあるから、車両の慣性走行による回転力が該発進クラッチ60を介してモータ30のロータ32に伝達される。そして、該モータ30を発電機として作動させれば、その発電抵抗で車両に制動力が作用すると共に、車両の運動エネルギが電気エネルギに変換されてバッテリに蓄えられ、エネルギが回生される。
【0054】
なお、このとき、ワンウェイクラッチ50が空転し、かつ、コーストクラッチ40は解放用油圧室48に油圧が供給されて解放状態にあるから、車両の慣性走行による回転がエンジン2に伝達されることはない。
【0055】
また、減速時において、バッテリが既に十分充電されている場合は、さらに充電するとバッテリの劣化を招くので、この場合は、図8に示すように、モータ30の発電機としての作動を停止させる。そして、発進クラッチ60に加えて、コーストクラッチ40の締結油油圧室47に油圧を供給して該クラッチ40を締結することにより、車両の慣性走行による回転力を発進クラッチ60、コーストクラッチ40及び入力軸21を介してエンジン2に伝達する。これにより、エンジンブレーキが作動し、所要の制動力が得られる。
【0056】
なお、図7の減速回生制御と図8のエンジンブレーキ制御とを併用し、バッテリの充電状態や要求制動力の大きさ等に応じて、これらの制御を行うことも可能である。
【0057】
次に、図1、図2により、この実施形態の構造に関する特徴部分を説明する。
【0058】
上記のように、駆動ユニット10は、モータ30のロータ32に連結され、またワンウェイクラッチ50を介して入力軸21に連結されるコーストクラッチ40のドラム41と、出力軸22との間に発進クラッチ60を備えているので、変速機3が動力伝達状態に切り換えられている状態で、エンジン2又はモータ30の出力により発進するときに、該発進クラッチ60の油圧室65に供給される油圧を制御して該クラッチ60の滑り制御を行うことにより、当該車両をスムーズに発進させることが可能となる。
【0059】
その場合に、該発進クラッチ60の径や摩擦板63の枚数等により、その熱容量を適切に設定することにより、滑り制御による発熱を十分吸収可能とすれば、前記変速機3として、自動変速機のトルクコンバータを除いた変速機構を利用する場合に、例えばフォワードクラッチの容量の増大等の設計変更を必要とせず、その変速機構をそのまま転用できることになる。
【0060】
そして、この発進クラッチ60が、モータ30やコーストクラッチ40と共に駆動ユニット10のハウジング11内に配設されるので、この種のクラッチを駆動ユニット10とは別に設ける場合に比較して駆動装置全体がコンパクトに構成されることになる。
【0061】
また、前記モータ30を作動させれば、コーストクラッチ40のドラム41、発進クラッチ60のドラム61、61a及びスリーブ67を介して油圧ポンプ15が駆動されることになる。したがって、モータ30による発進に際して前記発進クラッチ60の滑り制御ないし接続制御を行う場合や、冷間時にエンジン2を始動させるためにコーストクラッチ40を締結する場合などのために、別途電動ポンプを装備する必要がなく、これによっても駆動ユニット10が簡素かつコンパクトに構成される。
【0062】
さらに、前記コーストクラッチ40とワンウエィクラッチ50とは、前記モータ30におけるロータ32の内側の空間に収納されいるので、これらがロータ32と軸方向に並べて配置される場合に比較して、当該駆動ユニット10の軸方向寸法の増大が抑制される。
【0063】
また、前記発進クラッチ60は、モータ30におけるロータ32の変速機3側に隣接して配置されていると共に、その最大径であるドラム61の外径が該ロータ32の外径とほぼ同径とされているので、ステータ31の軸方向に突出するコイル部31aとの干渉を回避しながら、該発進クラッチ60をロータ32に接近させることが可能となり、これによっても駆動ユニット10の軸方向寸法の増大が抑制される。
【0064】
さらに、発進クラッチ60の外径がロータ32の外径とほぼ同径とされていることにより、前述のように、自動変速機の変速機構に備えられるフォワードクラッチなどに比較して大径として、前述の熱容量を十分に確保することができると共に、ステータ31の変速機3側で該発進クラッチ60の外方にスペースXが生じることになる。
【0065】
そこで、この実施形態では、図9に示すように、前記ハウジング11にスペースX内に膨出するようにコントロールバルブ取付部11aが設けられ、該取付部11aに、コーストクラッチ40の制御用コントロールバルブユニット80が取り付けられている。これにより、前記スペースXが有効利用され、駆動ユニット10の大型化が抑制されている。
【0066】
そして、前記ハウジング11及びエンジン側仕切壁12に前記コントロールバルブユニット80から延びる油路11b、12cが設けられ、前記油路47a、48aを介してコーストクラッチ40の油圧室47、48に通じている。また、前記変速機側仕切壁13には、前記油路66aを介して発進クラッチ60の油圧室66に通じる油路13bが設けられており、コーストクラッチ40用の油路12cと発進クラッチ60用の油路13bとが、エンジン側仕切壁12と変速機側仕切壁13とに分離して設けられていることにより、これらの油路が交錯することがなく、油路の構成が簡素化されている。
【0067】
さらに、この実施形態では、図2に示すように、前記ハウジング11における発進クラッチ60の外側に、モータ30におけるステータ31のコイル部31aに向かって外方へ傾斜する傾斜面11cが設けられている。また、前記発進クラッチ60のシールプレート68には、遠心バランス室69内に導入される作動油を該室69外に流出させる油穴68aが設けられていると共に、該クラッチ60のドラム61及びハブ62にも油穴61b、62aが設けられている。
【0068】
これにより、図2に矢印で示すように、前記シールプレート68の油穴68aから流出した作動油が遠心力により外方に飛散し、ハブ62の油穴62aから摩擦板63に供給されて、該摩擦板63が潤滑される。
【0069】
そして、摩擦板63を潤滑した作動油は、さらに遠心力によりドラム61の油穴61bから外方に飛散し、前記ハウジング11に設けられた傾斜面11cに当接すると共に、該傾斜面11cに沿ってモータ30のコイル部31aに案内され、該コイル31aに付着して熱を吸収した上で回収される。これにより、該コイル31aが冷却されることになる。
【0070】
さらに、この実施形態では、図1に示すように、モータ30のステータ31は、エンジン側仕切壁12の外周の円筒部12aに、ロータ32は該仕切壁12の内周のボス部12bにそれぞれ支持され、両者が同一の仕切壁12に支持されるので、これらの相対的位置関係、特に半径方向の位置関係を精度よく設定することができ、これにより、ステータ31の内周面とロータ32の外周面との間のギャップを狭くすることができ、それだけモータ30の効率が向上する。
【0071】
また、変速機側仕切壁13に設けられた油圧ポンプ15が、該仕切壁13のボス部13aに嵌合支持されたスリーブ67の延長部67aによって駆動されることにより、該ポンプ15とその駆動部材とが同一の仕切壁13に支持されることになり、両者が精度よくセンタリングされることになる。これにより、該ポンプ15が良好に作動する。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上のように、本発明は、ハイブリッド車両用として簡素でコンパクトな駆動装置を実現するから、この種の車両の製造産業分野において好適に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0073】
2 エンジン
3 変速機
10 駆動ユニット
11 ハウジング
12 エンジン側仕切壁
13 変速機側仕切壁
21 入力軸
22 出力軸
30 モータ
31 ステータ
32 ロータ
40 コーストクラッチ
60 発進クラッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと変速機との間に、モータを含む駆動ユニットを配設し、前記エンジン及びモータの少なくとも一方の出力を前記変速機を介して駆動輪に伝達する車両用駆動装置であって、前記駆動ユニットにエンジンの出力を入力する入力軸と、該駆動ユニットの出力を変速機へ出力する出力軸と、前記入力軸及びモータのロータと前記出力軸とを断接する滑り制御可能なクラッチと、該クラッチ制御用の油圧を発生する油圧ポンプとを有し、前記クラッチが駆動ユニットのハウジング内に配設されていると共に、該クラッチのドラムが前記ロータと前記油圧ポンプとに連結されていることを特徴とする車両用駆動装置。
【請求項2】
前記クラッチのドラムは、外径が前記ロータの外径とほぼ同径とされ、該ロータの変速機側に隣接させて配置されていることを特徴とする請求項1に記載の車両用駆動装置。
【請求項3】
前記駆動ユニットの変速機側の端部に変速機側壁部が設けられ、該壁部に前記油圧ポンプが支持されていると共に、該壁部に設けられたエンジン側に延びるボス部に前記クラッチのドラムが支持されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用駆動装置。
【請求項4】
前記駆動ユニットのエンジン側の端部にエンジン側壁部が設けられ、該壁部に前記モータのステータとロータとが支持されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の車両用駆動装置。
【請求項5】
前記入力軸と前記モータのロータとの間に第2のクラッチが配設され、該クラッチが、前記ロータの内側において、前記エンジン側壁部に設けられた変速機側に延びるボス部に支持されていることを特徴とする請求項4に記載の車両用駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−37401(P2011−37401A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189021(P2009−189021)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】