説明

車両異常通知装置

【課題】車両に異常が発生したか否かの判定を精度よく行うことのできる車両異常通知装置を提供する。
【解決手段】運転者が危険を感知したことを示す感情状態である危険感知状態と、走行動作に影響する車両の異常が疑われる車両状態である異常被疑状態とを検出し(S11〜S13)、これらの検出結果に基づいて、走行動作に影響する車両の異常が発生したか否かを判定する(S15)。具体的には、危険感知状態が検出された場合には、危険感知状態が検出されない場合と比較して、異常が発生したと判定されやすい判定基準で判定を行う。このため、車両に異常が発生したか否かの判定を精度よく行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に異常が発生したことを運転者に通知する車両異常通知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の安全な走行を実現するための車載装置が種々検討されており、その一例として、運転者が危険を感知したときの状態を記録する運転者状態記録装置が提案されている(特許文献1参照)。この運転者状態記録装置は、運転者の感情状態を生体検査によって検出し、運転者が危険を感知したことを検出した場合に、運転者の表情や車内環境に関する情報を記録する。そして、情報の記録頻度がしきい値以上に到達した場合に、記録されている情報を再生することにより、運転者が危険を感知した時の状況を再現することで、運転者本人が意識していない危険な状況を学習させ、運転者に対して安全運転の啓蒙を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−15451号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、運転者が危険を感知するような状況を招くのは、運転者による運転操作のミスだけではない。例えば、ブレーキやステアリングの異常など、走行動作に影響する何らかの車両の異常が発生した場合には、運転者が適切な運転操作を行っていたとしても、危険を感知するような状況が生じ得る。この場合、運転者に対する啓蒙を行うといった処置よりも、むしろ、ディーラや車両メーカなどにおいて専門的な分析を行い、異常の原因を具体的に特定するといった処置が必要となる。したがって、運転者が危険を感知した要因が車両の異常であるならば、その旨を運転者に通知し、速やかにディーラ等へ車両を持ち込むように運転者に促すことが求められる。
【0005】
本発明は、こうした問題にかんがみてなされたものであり、車両に異常が発生したか否かの判定を精度よく行うことのできる車両異常通知装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の車両異常通知装置では、運転者が危険を感知したことを示す感情状態である危険感知状態を、感情状態検出手段が検出する。また、走行動作に影響する車両の異常が疑われる車両状態である異常被疑状態を、車両状態検出手段が検出する。そして、異常判定手段が、これらの検出結果に基づいて、走行動作に影響する車両の異常が発生したか否かを判定し、異常が発生したと判定された場合に、通知手段が運転者に通知する。ここで、異常判定手段は、感情状態検出手段により危険感知状態が検出された場合には、危険感知状態が検出されない場合と比較して、異常が発生したと判定されやすい判定基準で判定を行う。
【0007】
このような車両異常通知装置によれば、車両に異常が発生したか否かの判定を精度よく行うことができる。すなわち、走行動作に影響する車両の異常が実際に発生した場合には、車両の異常が発生していない場合と比較して、運転者が危険を感知する可能性が高い。このため、異常被疑状態において、運転者の感情状態が危険感知状態である場合には、危険感知状態でない場合と比較して、走行動作に影響する車両の異常が発生した可能性が高いと考えられる。したがって、危険感知状態が検出された場合には、危険感知状態が検出されない場合と比較して、異常が発生したと判定されやすい判定基準で判定を行うことにより、走行動作に影響する車両の異常が発生したか否かの判定を精度よく行うことができる。
【0008】
具体的には、車両状態検出手段は、走行動作に影響する車両の異常及び運転者による意図的な運転操作のいずれによっても生じる状態を、異常被疑状態として検出するようにしてもよい。この場合、異常被疑状態において、運転者の感情状態が危険感知状態でなければ、運転者による意図的な運転操作が原因である可能性が高い。逆に、運転者の感情状態が危険感知状態であれば、運転者による意図的な運転操作とは考えにくいため、走行動作に影響する車両の異常が原因である可能性が高い。したがって、走行動作に影響する車両の異常が発生したか否かの判定を精度よく行うことができる。
【0009】
また、車両状態検出手段は、車両の走行動作に関する測定値が基準範囲を超えている状態を、異常被疑状態として検出するようにしてもよい。このようにすれば、基準範囲を適切な範囲に設定することで、異常被疑状態を適切に検出することができる。
【0010】
特にこの場合、異常判定手段は、車両状態検出手段により異常被疑状態が検出された場合であって、車両の走行動作に関する測定値が、基準範囲よりも広い異常被疑範囲を超えているときには、感情状態検出手段による検出結果に関係なく、異常が発生したと判定するようにしてもよい。つまり、走行動作に影響する車両の異常が発生したか否かが不明な状況での判定(グレーゾーンの判定)では、運転者の感情状態を加味し、異常が発生したことの蓋然性が高い状況では、運転者の感情状態を加味しないようにする。このようにすれば、走行動作に影響する車両の異常が発生したか否かの判定の精度を一層向上させることができる。
【0011】
一方、記録手段が、感情状態検出手段及び車両状態検出手段による検出結果を、異常判定手段による判定結果に関係なく記録するようにしてもよい。このようにすれば、記録情報を分析して異常の原因を特定するといったことが可能となる。特に、異常判定手段による判定結果に関係なく記録するため、走行動作に影響する車両の異常が実際には発生したにもかかわらず、誤判定により検出結果が記録されないといった問題を生じにくくすることができる。
【0012】
ところで、感情状態検出手段は、具体的には例えば次のように構成することが可能である。
すなわち、一つの例として、感情状態検出手段は、運転者の脈拍を測定する脈拍測定手段により測定された脈拍が急増した状態を、危険感知状態として検出する。このようにすれば、危険感知状態を簡易的かつ正確に検出することができる。
【0013】
また、別の例として、感情状態検出手段は、運転者を撮影する撮影手段により撮影された画像が、危険を感知した表情を示す状態を、危険感知状態として検出する。このようにすれば、危険感知状態を運転者に対して非接触で検出することができる。
【0014】
さらに、別の例として、感情状態検出手段は、運転者の音声を入力する音声入力手段により入力された音声が、危険を感知した音声である状態を、危険感知状態として検出する。このようにしても、危険感知状態を運転者に対して非接触で検出することができる。
【0015】
一方、運転操作に影響を与える運転者の身体状態である不全状態を身体状態検出手段が検出し、身体状態検出手段により不全状態が検出された場合には、不全状態が検出されていない場合と比較して、異常が発生したと判定されにくい判定基準で、異常判定手段が判定を行うようにしてもよい。このようにすれば、走行動作に影響する車両の異常が発生したか否かの判定を一層精度よく行うことができる。すなわち、運転者の身体状態が不全状態である場合には、身体状態が万全な状態である場合と比較して、運転者自身の不注意等による運転操作のミスが起きやすく、走行動作に影響する車両の異常が発生していなくても、運転者が危険を感知する可能性が高い。このため、危険感知状態において、運転者の身体状態が不全状態である場合には、不全状態でない場合と比較して、走行動作に影響する車両の異常が発生した可能性が低いと考えられる。したがって、不全状態が検出された場合には、不全状態が検出されていない場合と比較して、異常が発生したと判定されにくい判定基準で判定を行うことにより、走行動作に影響する車両の異常が発生したか否かの判定を一層精度よく行うことができる。
【0016】
ここで、身体状態検出手段は、具体的には例えば次のように構成することが可能である。
すなわち、一つの例として、身体状態検出手段は、運転者による咳又はくしゃみを検出する咳検出手段により咳又はくしゃみが検出された状態を、不全状態として検出する。このようにすれば、不全状態を簡易的に検出することができる。
【0017】
また、別の例として、身体状態検出手段は、運転者の体温を測定する体温測定手段により測定された体温が、発熱を示す体温である状態を、不全状態として検出する。このようにすれば、不全状態を比較的正確に検出することができる。
【0018】
さらに、別の例として、身体状態検出手段は、運転者を撮影する撮影手段により撮影された画像が、運転者が居眠りしている状態を、不全状態として検出する。このようにすれば、運転操作に与える影響が大きい不全状態を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】車両側システム及びディーラ側システムの構成を示すブロック図である。
【図2】車両側システム及びディーラ側システムで実行される処理のフローチャートである。
【図3】運転者の危険判定の一例を示す図である。
【図4】ABSECUによる車両の危険判定の一例を示す図である。
【図5】車両の異常判定の一例を示す図である。
【図6】EPSECUによる車両の危険判定の一例を示す図である。
【図7】(a)はエンジンECUによる車両の危険判定の一例を示す図、(b)は走行支援ECUによる車両の危険判定の一例を示す図である。
【図8】車両の異常判定の別例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.全体構成]
図1は、車両に設けられた車両側システム10及びディーラに設けられたディーラ側システム40の構成を示すブロック図である。
【0021】
車両側システム10は、ABSECU11、EPSECU12、エンジンECU13、走行支援ECU14、ナビECU15、メータ16、居眠り防止装置17、体調管理装置18、音声認識装置19、車両異常判定装置20、情報記録装置21及び情報出力装置22を備える。これらの装置11〜22は、車両において通信ネットワーク(車載LAN)を構築しており、通信バスを介して相互通信可能に構成されている。
【0022】
ABSECU11は、アンチロック・ブレーキ・システム(ABS:Antilock Brake System)に関する制御を行うECUであり、運転者によるブレーキ操作のタイミング及び実際の制動開始のタイミングを検出可能に構成されている。なお、ECUとは、電子制御装置(Electronic Control Unit)の略称である。
【0023】
EPSECU12は、電動パワーステアリング(EPS:Electric Power Steering)に関する制御を行うECUであり、運転者によるステアリング操作の操舵トルクが目標トルクとなるように操舵トルクを調整する。
【0024】
エンジンECU13は、エンジン制御を行うECUである。
走行支援ECU14は、ミリ波レーダ23、ステレオカメラ24及びソナー25による検出情報に基づいて先行車両を認識し、先行車両との車間距離を目標車間距離に保ちながら追従するレーダクルーズ走行のための処理を実行するECUである。
【0025】
ナビECU15は、ナビゲーション装置としての処理を実行するECUであり、車両室内に設置された表示装置26に、地図及び現在位置を表示させる。
メータ16は、走行車速等の情報を表示するための液晶画面を備えた表示装置である。
【0026】
居眠り防止装置17は、居眠り運転を防止するための装置であり、運転者を正面から撮影するカメラ27による撮影画像に基づき、運転者が居眠りをしている状態を、運転操作に影響を与える運転者の身体状態である不全状態として検出する。また、居眠り防止装置17は、カメラ27による撮影画像に基づき、運転者が咳又はくしゃみをしている状態についても、不全状態として検出する。一方、居眠り防止装置17は、カメラ27による撮影画像に基づき、運転者が「ひやり/はっと」などの危険を感知した表情をしている状態を、運転者が危険を感知したことを示す感情状態である危険感知状態として検出する。なお、居眠りをしている状態については、ステアリングの蛇行操作に基づき検出するように構成することも可能である。また、咳やくしゃみについては、マイク30を利用して検出するように構成することも可能である。
【0027】
体調管理装置18は、運転者の体調管理を行うための装置であり、運転者の脈拍を脈拍センサ28により測定し、測定した脈拍が急増した状態を、危険感知状態として検出する。また、体調管理装置18は、運転者の体温を発熱センサ29により測定し、測定した体温が、発熱を示す体温(しきい値以上の体温)である状態を、不全状態として検出する。なお、脈拍センサ28や発熱センサ29は、例えばシートやステアリング等に設けられる。また、運転者の体温については、カメラ27を利用して測定するように構成することも可能である。
【0028】
音声認識装置19は、マイク30から入力される運転者の音声を認識する処理を行うための装置であり、マイク30から入力した音声が、危険を感知した音声(驚きを表す声等)である状態を、危険感知状態として検出する。
【0029】
車両異常判定装置20は、他の装置から取得した情報に基づき、車両の異常を判定するための装置である。
情報記録装置21は、情報の読み出し及び書き込みが可能な不揮発性のメモリである。
【0030】
情報出力装置22は、車両外部の装置(本実施形態ではディーラ側システム40)に対して、情報記録装置21に記録されている情報を出力するための装置である。
一方、ディーラ側システム40は、情報入力保存装置41、情報表示装置42、情報分析装置43、運転者状態データ保存装置44及び車両状態データ保存装置45を備える。
【0031】
情報入力保存装置41は、外部装置(本実施形態では車両側システム10)から情報を入力するための装置であり、入力した情報を、運転者状態データ保存装置44及び車両状態データ保存装置45へ保存する。運転者状態データ保存装置44及び車両状態データ保存装置45は、情報の読み出し及び書き込みが可能な不揮発性のメモリであり、運転者状態データ保存装置44には運転者の状態に関する情報が保存され、車両状態データ保存装置45には車両の状態に関する情報が保存される。
【0032】
情報表示装置42は、情報入力保存装置41により入力された情報を、ディーラ側システム40のユーザに対して表示するための装置である。
情報分析装置43は、情報入力保存装置41により入力された情報を分析するための装置である。
【0033】
[2.制御部が実行する処理]
次に、車両側システム10及びディーラ側システム40で実行される処理について、図2のフローチャートを用いて説明する。
【0034】
まず、車両側システム10で実行される車両側処理(S11〜S17)について説明する。
車両側システム10では、居眠り防止装置17、体調管理装置18及び音声認識装置19が、運転者の状態(身体状態及び感情状態)を定期的に検出する(S11)。具体的には、前述したように、運転者が咳又はくしゃみをしている状態、運転者の体温が発熱を示す体温である状態、及び、運転者が居眠りをしている状態を、運転操作に影響を与える運転者の身体状態である不全状態として検出する。また、運転者の脈拍が急増した状態、運転者が危険を感知した表情をしている状態、及び、運転者が危険を感知した音声を発した状態を、運転者が危険を感知したことを示す感情状態である危険感知状態として検出する。
【0035】
また、車両側システム10では、ABSECU11が、走行動作に影響する車両の異常が疑われる車両状態である異常被疑状態を定期的に検出する(S12)。なお、異常被疑状態の詳細については後述する(図4)。
【0036】
そして、車両側システム10では、車両異常判定装置20が、居眠り防止装置17、体調管理装置18及び音声認識装置19による不全状態及び危険感知状態の検出結果と、ABSECU11による異常被疑状態の検出結果とを定期的に取得する(S13)。車両異常判定装置20は、こうして取得した検出結果を、情報記録装置21に記録する(S14)。なお、不全状態、危険感知状態又は異常被疑状態が検出された場合には、そのときの車両制御状態についても取得して、情報記録装置21に記録する。
【0037】
続いて、車両異常判定装置20は、不全状態、危険感知状態及び異常被疑状態の検出結果に基づき、走行動作に影響する車両の異常が発生したか否かを判定する(S15)。具体的には、車両異常判定装置20は、次の(1)〜(3)の手順で判定を行う。
【0038】
(1)車両異常判定装置20は、まず、運転者の危険判定を行う。運転者の危険判定とは、図3に示すように、運転者の状態を、「危険なし」、「懸念あり」及び「危険あり」の3段階に分類するものである。ここで、「危険あり」とは、運転者が危険を感知した度合いが高いことを意味し、換言すれば、走行動作に影響する車両の異常が実際に発生した可能性が高いことを意味する。逆に、「危険なし」とは、運転者が危険を感知した度合い(車両の異常が発生した可能性)が低いことを意味し、「懸念あり」とは、「危険あり」及び「危険なし」の中間の度合いを意味する。
【0039】
本実施形態では、前述した3種類の危険感知状態(脈拍急増、危険表情及び危険音声)のいずれも検出されていない場合(つまり、運転者が危険を感知していない可能性が高い場合)には、不全状態の検出結果に関係なく、運転者の状態を「危険なし」と判定する。
【0040】
一方、3種類の危険感知状態のいずれか1つでも検出された場合(つまり、運転者が危険を感知した可能性が高い場合)には、不全状態の検出結果に応じて、運転者の状態を「懸念あり」又は「危険あり」と判定する。具体的には、前述した3種類の不全状態(咳・くしゃみ、発熱及び居眠り)のいずれか1つでも検出された場合には、「懸念あり」と判定し、3種類の不全状態のいずれも検出されていない場合には、「危険あり」と判定する。なお、不全状態が検出された場合に「懸念あり」と判定する(車両の異常が発生した可能性を低く判定する)のは、不全状態が検出されていない場合と比較して、運転者の身体状態が運転操作に影響を与えたことが原因で(つまり外部の要因ではなく運転者の要因で)、危険を感知した可能性が高いからである。
【0041】
(2)次に、車両異常判定装置20は、車両の危険判定を行う。車両の危険判定とは、図4に示すように、車両の状態を、「異常なし」、「懸念あり」及び「異常あり」の3段階に分類するものである。ここで、「異常あり」とは、走行動作に影響する車両の異常が発生した可能性が高いことを意味する。逆に、「異常なし」とは、その可能性が低いことを意味し、「懸念あり」とは、「異常あり」及び「異常なし」の中間の可能性(グレーゾーン)を意味する。
【0042】
本実施形態では、ABSECU11が、ブレーキ操作に対する制動開始の遅れ時間を検出し、制動開始の遅れが基準範囲を超えている状態を、走行動作に影響する車両の異常(ブレーキ異常)が疑われる車両状態である異常被疑状態として検出する。ただし、制動開始の遅れは、車両の異常及び運転者による意図的な運転操作のいずれによっても生じるため、遅れ時間の程度に応じて、車両の異常の可能性を判定する。具体的には、遅れ時間が0.5秒未満の範囲を基準範囲とし、0.5秒未満の場合を「異常なし」、0.5秒以上1秒未満の場合を「懸念あり」、1秒以上の場合を「異常あり」と判定する。
【0043】
(3)次に、車両異常判定装置20は、運転者の危険判定(上記(1))の判定結果(図3)と、車両の危険判定(上記(2))の判定結果(図4)とに基づき、ブレーキ異常が発生したか否かを判定する。本実施形態では、図5に示すように、車両の危険判定で「異常なし」と判定された場合には、運転者の危険判定の判定結果に関係なく、ブレーキ異常が発生していない(異常なし)と判定し、車両の危険判定で「異常あり」と判定された場合には、運転者の危険判定の判定結果に関係なく、ブレーキ異常が発生した(異常あり)と判定する。なお、ブレーキ異常の原因としては、想定外のソフト不具合やセンサの故障などが考えられる。また、ブレーキ異常が発生していない状態で運転者が危険を感知する原因としては、前方状況等の他の要因が考えられる。
【0044】
一方、車両の危険判定で「懸念あり」(グレーゾーン)と判定された場合には、ブレーキ異常が発生したか否かを、運転者の危険判定の判定結果に応じて判定する。具体的には、運転者の危険判定で「危険なし」と判定された場合(危険感知状態が検出されない場合)には、ブレーキ異常が発生していないと判定し、運転者の危険判定で「懸念あり」又は「危険あり」と判定された場合(危険感知状態が検出された場合)には、ブレーキ異常が発生したと判定する。なお、運転者の危険判定で「危険なし」と判定された場合に、ブレーキ異常が発生していないと判定するようにしているのは、運転者による意図的な運転操作によるものであると考えられるからである。
【0045】
車両異常判定装置20は、上記(1)〜(3)の手順で、走行動作に影響する車両の異常(本実施形態ではブレーキ異常)が発生したか否かを判定する(S15)。そして、車両異常判定装置20は、車両の異常が発生したと判定した場合には(S15:異常)、車両に異常が発生したことを示す警告情報(メッセージ等)を表示装置26やメータ16などの表示機器に表示させることで、その旨を運転者に通知し、速やかにディーラ等へ車両を持ち込むように運転者に促す(S16)。なお、この警告情報においては、運転者の危険判定で「懸念あり」と判定された場合と「危険あり」と判定された場合とで、警告する危険性の度合いや表示内容を異ならせてもよい。一方、車両異常判定装置20は、車両の異常が発生していないと判定した場合には(S15:正常)、特に処置を行わず、運転者の自主判断に委ねる(S17)。
【0046】
次に、ディーラ側システム40で実行されるディーラ側処理(S21〜S25)について説明する。なお、このディーラ側処理は、車両の運転者が、前述した車両側処理で警告情報に促され又は自主判断で、車両をディーラへ持ち込み、車両側システム10とディーラ側システム40とがケーブル等により接続されたことを契機に開始される。
【0047】
ディーラ側システム40は、まず、ケーブル等により接続された車両側システム10から、運転者の状態及び車両の状態に関する情報を入力する(S21)。具体的には、車両側システム10とディーラ側システム40とがケーブル等により接続されると、車両側システム10の情報記録装置21に記録されている運転者の状態及び車両の状態に関する情報が、情報出力装置22によってディーラ側システム40に対して出力される。ディーラ側システム40は、こうして車両側システム10から出力された情報を、情報入力保存装置41により入力する。そして、情報入力保存装置41は、入力した情報を、運転者状態データ保存装置44及び車両状態データ保存装置45へ保存する(S22)。また、情報表示装置42が、ディーラ側システム40のユーザ(例えばディーラの担当者)に対して、車両側システム10から入力した情報を表示する(S23)。その後、情報分析装置43が、その情報に基づき現象を分析して原因を特定し(S24)、特定された原因を、情報表示装置42が表示する(S25)。こうして原因が表示されることにより、ディーラの担当者や運転者が原因を把握することができるため、問題の解決に繋げることができる。
【0048】
具体的には、情報表示装置42により表示された原因(現象分析により特定された原因)をディーラの担当者が確認し、運転者に伝えるべき問題(例えば車両の故障)については、ディーラの担当者から運転者に伝えるようにしてもよい。もちろん、情報表示装置42に表示された原因を、運転者が直接確認できるようにすることも可能である。
【0049】
一方、現象分析により特定された原因が、車両に関する想定外の問題(ディーラの判断だけでは解決不可能な問題や、持ち込まれた車両特有の問題ではなく、同一車種全体に及ぶ可能性のある問題など)については、車両メーカで対処すべき問題であると判断されるため、ディーラの担当者から車両メーカに伝えるとともに、車両を車両メーカに引き渡すようにしてもよい。ただし、車両メーカで対処すべき問題であっても、車両メーカの指示に従えばディーラ側で対処できる場合には、車両メーカに車両を引き渡すことなくディーラ側で問題を解決することも可能である。
【0050】
ここで、現象分析により特定された原因が、車両メーカで対処すべき問題であるか否かは、情報表示装置42に表示された原因に基づきディーラの担当者が判断してもよいが、情報分析装置43が自動で判断し、情報表示装置42がその判断結果も合わせて表示するようにしてもよい。自動での判断は、例えば、システム内であらかじめ決められた問題以外の問題が特定された場合などに、車両メーカで対処すべき問題であると判断するといった形で実現可能である。
【0051】
[3.効果]
以上説明したように、本実施形態の車両側システム10では、運転者の状態及び車両の状態を検出し(S11〜S13)、これらの検出結果に基づいて、走行動作に影響する車両の異常(本実施形態ではブレーキ異常)が発生したか否かを判定する(S15)。具体的には、運転者の危険判定(図3)及び車両の危険判定(図4)を行い、車両の危険判定で「懸念あり」(グレーゾーン)と判定された場合には、運転者の危険判定の判定結果に応じて、車両の異常が発生したか否かを判定する(図5)。
【0052】
このような車両側システム10によれば、車両に異常が発生したか否かの判定を精度よく行うことができる。すなわち、走行動作に影響する車両の異常が実際に発生した場合には、車両の異常が発生していない場合と比較して、運転者が危険を感知する(運転者の危険判定で「懸念あり」又は「危険あり」と判定される)可能性が高い。このため、車両の危険判定で「懸念あり」と判定された場合にもかかわらず、運転者の危険判定で「危険なし」と判定されたのであれば、運転者による意図的な運転操作が原因である可能性が高い。逆に、運転者の危険判定で「懸念あり」又は「危険あり」と判定されたのであれば、運転者による意図的な運転操作とは考えにくいため、走行動作に影響する車両の異常が原因である可能性が高い。したがって、運転者の危険判定で「懸念あり」又は「危険あり」と判定された場合(危険感知状態が検出された場合)には、「危険なし」と判定された場合(危険感知状態が検出されていない場合)と比較して、車両の異常が発生したと判定されやすい判定基準で判定を行うことにより、判定を精度よく行うことができる。
【0053】
また、本実施形態では、車両の危険判定で「異常なし」又は「異常あり」と判定された場合には、運転者の危険判定の判定結果に関係なく、車両の異常が発生していない又は発生していると判定する。つまり、車両の危険判定の判定結果により、車両の異常が発生したか否かが比較的明確な状況では、運転者の危険判定の判定結果を加味しないようにする。このため、運転者の危険判定の判定結果を加味することによる誤判定を生じにくくすることができる。
【0054】
さらに、本実施形態では、車両の異常が発生したか否かの判定結果に関係なく、情報記録装置21に情報を記録するようにしているため、実際に異常が発生したにもかかわらず、誤判定により情報が記録されないといった問題を生じにくくすることができる。
【0055】
加えて、本実施形態では、居眠り防止装置17や体調管理装置18など、運転者の状態を常に監視する既存の装置を流用しているため、専用の装置を用いる場合と比較して、重複処理の削減による処理量の低減、通信負荷の低減、省スペース化、低コスト化などといった効果が得られる。
【0056】
なお、本実施形態では、ABSECU11が状態検出手段に相当し、居眠り防止装置17、体調管理装置18及び音声認識装置19が感情状態検出手段及び身体状態検出手段に相当し、車両異常判定装置20が異常判定手段に相当し、情報記録装置21が記録手段に相当する。また、メータ16及び表示装置26が通知手段に相当し、カメラ27が撮影手段及び咳検出手段に相当し、脈拍センサ28が脈拍測定手段に相当し、発熱センサ29が体温測定手段に相当し、マイク30が音声入力手段に相当する。
【0057】
[4.他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得ることは言うまでもない。
【0058】
(A)上記実施形態では、ABSECU11が異常被疑状態を検出する構成を説明したが、これに限定されるものではなく、ABSECU11に代えて、又は、ABSECU11とともに、他の装置が異常被疑状態を検出するようにしてもよい。
【0059】
(A1)例えば、図6に示す例では、EPSECU12が、運転者によるステアリング操作の操舵トルクの目標トルクに対する乖離度合いを検出し、操舵トルクの目標トルクに対する乖離が基準範囲を超えている状態を異常被疑状態として検出する。ただし、操舵トルクの目標トルクに対する乖離は、車両の異常及び運転者による意図的な運転操作のいずれによっても生じるため、乖離度合いの程度に応じて、車両の異常の可能性を判定する。具体的には、乖離度合いが±5%未満の範囲を基準範囲とし、±5%未満の場合を「異常なし」、±5%以上±10%未満の場合を「懸念あり」、±10%以上の場合を「異常あり」と判定する。そして、この判定結果に基づき、車両異常判定装置20が、上記実施形態と同様に、走行動作に影響する車両の異常が発生したか否かを判定する。
【0060】
(A2)また例えば、図7に示す例では、エンジンECU13が、レーダクルーズ走行中における走行車速の目標車速に対する乖離度合いを検出し、乖離度合いが±10%未満の場合を「異常なし」、±10%以上±20%未満の場合を「懸念あり」、±20%以上の場合を「異常あり」と判定する。さらに、走行支援ECU14が、レーダクルーズ走行中における先行車両との車間距離の目標車間距離に対する乖離度合いを検出し、乖離度合いが±5%未満の場合を「異常なし」、±5%以上±10%未満の場合を「懸念あり」、±10%以上の場合を「異常あり」と判定する。
【0061】
そして、図8に示すように、エンジンECU13による判定結果と、走行支援ECU14による判定結果とに基づき、車両異常判定装置20が、走行動作に影響する車両の異常が発生したか否かを判定する。図8の例では、エンジンECU13及び走行支援ECU14のいずれも「異常なし」と判定した場合には、運転者の危険判定の判定結果に関係なく、車両の異常が発生していないと判定する。また、エンジンECU13及び走行支援ECU14のうち少なくとも一方が「異常あり」と判定した場合には、運転者の危険判定の判定結果に関係なく、車両の異常が発生したと判定する。
【0062】
一方、エンジンECU13及び走行支援ECU14の一方が「異常なし」と判定して他方が「懸念あり」と判定した場合、又は、両方が「懸念あり」と判定した場合には、運転者の危険判定の判定結果に応じて判定する。具体的には、運転者の危険判定で「危険なし」と判定された場合には、車両の異常が発生していないと判定し、運転者の危険判定で「懸念あり」又は「危険あり」と判定された場合には、車両の異常が発生したと判定する。
【0063】
(B)上記実施形態では、運転者の危険判定で「懸念あり」と判定された場合と「危険あり」と判定された場合とで、車両の異常が発生したか否かの判定結果が区別されていないが、これに限定されるものではない。具体的には、運転者の危険判定で「懸念あり」と判定された場合(不全状態が検出された場合)には、「危険あり」と判定された場合(不全状態が検出されていない場合)と比較して、異常が発生したと判定されにくい判定基準で判定を行うようにしてもよい。このようにすれば、走行動作に影響する車両の異常が発生したか否かの判定を一層精度よく行うことができる。すなわち、運転者の身体状態が不全状態である場合には、身体状態が万全な状態である場合と比較して、運転者自身の不注意等による運転操作のミスが起きやすく、走行動作に影響する車両の異常が発生していなくても、運転者が危険を感知する可能性が高い。このため、危険感知状態において、運転者の身体状態が不全状態である場合には、不全状態でない場合と比較して、走行動作に影響する車両の異常が発生した可能性が低いと考えられる。したがって、不全状態が検出された場合には、不全状態が検出されていない場合と比較して、異常が発生したと判定されにくい判定基準で判定を行うことにより、走行動作に影響する車両の異常が発生したか否かの判定を一層精度よく行うことができる。
【0064】
(C)不全状態及び危険感知状態は、上記実施形態で例示したもの以外であってもよい。例えば、カメラ27による撮影画像に基づき、運転者が過呼吸の状態を、危険感知状態として検出してもよい。
【0065】
(D)上記実施形態では、車両に記録された情報を取得して分析する施設としてディーラを例示したが、ディーラ以外の施設であってももちろんよい。例えば、車両メーカに、前述したディーラ側システム40と同等の構成のメーカ側システムが設けられていれば、車両の運転者は、車両をディーラではなく直接車両メーカに持ち込むことも可能となる。この場合、図2のS24と同様に、メーカ側システムが、車両側システム10から入力した情報に基づき現象を分析して原因を特定することができ、特定された原因が前述したような車両に関する想定外の問題であっても、車両メーカでそのまま対処することができる。
【符号の説明】
【0066】
10…車両側システム、11…ABSECU、12…EPSECU、13…エンジンECU、14…走行支援ECU、15…ナビECU、16…メータ、17…居眠り防止装置、18…体調管理装置、19…音声認識装置、20…車両異常判定装置、21…情報記録装置、22…情報出力装置、23…ミリ波レーダ、24…ステレオカメラ、25…ソナー、26…表示装置、27…カメラ、28…脈拍センサ、29…発熱センサ、30…マイク、40…ディーラ側システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
運転者が危険を感知したことを示す感情状態である危険感知状態を検出する感情状態検出手段と、
走行動作に影響する車両の異常が疑われる車両状態である異常被疑状態を検出する車両状態検出手段と、
前記感情状態検出手段及び前記車両状態検出手段による検出結果に基づいて、走行動作に影響する車両の異常が発生したか否かを判定する異常判定手段と、
前記異常判定手段により異常が発生したと判定された場合に運転者に通知する通知手段と、
を備え、
前記異常判定手段は、前記感情状態検出手段により前記危険感知状態が検出された場合には、前記危険感知状態が検出されない場合と比較して、異常が発生したと判定されやすい判定基準で判定を行うこと
を特徴とする車両異常通知装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両異常通知装置であって、
前記車両状態検出手段は、走行動作に影響する車両の異常及び運転者による意図的な運転操作のいずれによっても生じる状態を、前記異常被疑状態として検出すること
を特徴とする車両異常通知装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車両異常通知装置であって、
前記車両状態検出手段は、車両の走行動作に関する測定値が基準範囲を超えている状態を、前記異常被疑状態として検出すること
を特徴とする車両異常通知装置。
【請求項4】
請求項3に記載の車両異常通知装置であって、
前記異常判定手段は、前記車両状態検出手段により前記異常被疑状態が検出された場合であって、前記測定値が前記基準範囲よりも広い異常被疑範囲を超えているときには、前記感情状態検出手段による検出結果に関係なく、異常が発生したと判定すること
を特徴とする車両異常通知装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の車両異常通知装置であって、
前記感情状態検出手段及び前記車両状態検出手段による検出結果を、前記異常判定手段による判定結果に関係なく記録する記録手段を更に備えること
を特徴とする車両異常通知装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の車両異常通知装置であって、
前記感情状態検出手段は、運転者の脈拍を測定する脈拍測定手段により測定された脈拍が急増した状態を、前記危険感知状態として検出すること
を特徴とする車両異常通知装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の車両異常通知装置であって、
前記感情状態検出手段は、運転者を撮影する撮影手段により撮影された画像が、危険を感知した表情を示す状態を、前記危険感知状態として検出すること
を特徴とする車両異常通知装置。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の車両異常通知装置であって、
前記感情状態検出手段は、運転者の音声を入力する音声入力手段により入力された音声が、危険を感知した音声である状態を、前記危険感知状態として検出すること
を特徴とする車両異常通知装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の車両異常通知装置であって、
運転操作に影響を与える運転者の身体状態である不全状態を検出する身体状態検出手段を更に備え、
前記異常判定手段は、前記身体状態検出手段により前記不全状態が検出された場合には、前記不全状態が検出されていない場合と比較して、異常が発生したと判定されにくい判定基準で判定を行うこと
を特徴とする車両異常通知装置。
【請求項10】
請求項9に記載の車両異常通知装置であって、
前記身体状態検出手段は、運転者による咳又はくしゃみを検出する咳検出手段により咳又はくしゃみが検出された状態を、前記不全状態として検出すること
を特徴とする車両異常通知装置。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載の車両異常通知装置であって、
前記身体状態検出手段は、運転者の体温を測定する体温測定手段により測定された体温が、発熱を示す体温である状態を、前記不全状態として検出すること
を特徴とする車両異常通知装置。
【請求項12】
請求項9から請求項11までのいずれか1項に記載の車両異常通知装置であって、
前記身体状態検出手段は、運転者を撮影する撮影手段により撮影された画像が、運転者が居眠りしている状態を、前記不全状態として検出すること
を特徴とする車両異常通知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−173862(P2012−173862A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−33540(P2011−33540)
【出願日】平成23年2月18日(2011.2.18)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】