車両移動装置の運転方法
【課題】車両の前輪又は後輪のいずれか一方の車輪をリーダ台車とフォロワ台車とによってリフトアップして移動させることができ、効率向上を図り得る車両移動装置の運転方法を提供する。
【解決手段】車両4の車輪4aのうち右側の前輪をリーダ台車Aでリフトアップすると共に、車両4の車輪4aのうち左側の前輪をフォロワ台車Bによってリフトアップし、該リーダ台車Aとフォロワ台車Bの制御点CPを車両4のリフトアップされる二個の車輪4aの中点に設定し、前記車両4を含めたシステム全体を、前記中点に設定され且つ能動的に全方向へ速度を発生可能な仮想キャスタと、前記車両4の接地している側の対向する二個の車輪4aとによって構成される三輪車モデルに見立てて位置制御する。
【解決手段】車両4の車輪4aのうち右側の前輪をリーダ台車Aでリフトアップすると共に、車両4の車輪4aのうち左側の前輪をフォロワ台車Bによってリフトアップし、該リーダ台車Aとフォロワ台車Bの制御点CPを車両4のリフトアップされる二個の車輪4aの中点に設定し、前記車両4を含めたシステム全体を、前記中点に設定され且つ能動的に全方向へ速度を発生可能な仮想キャスタと、前記車両4の接地している側の対向する二個の車輪4aとによって構成される三輪車モデルに見立てて位置制御する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両移動装置の運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、任意の位置に停車した車両を駐車施設における所定位置に搬送できるようにした入出車装置の一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【0003】
特許文献1に示される装置は、それぞれ車両支持機構及び走行機構を備える左側搬送台車と右側搬送台車とからなり、該左側搬送台車と右側搬送台車とがそれぞれ独立して移動しつつ、協働して車両を支持し、搬送するようになっている。
【0004】
前記左側搬送台車と右側搬送台車は、無線通信によってリアルタイムに情報交換を行うことにより、協働している。
【0005】
しかしながら、前述の如く、無線通信による台車相互間でのリアルタイムの情報交換に基づいて前記左側搬送台車と右側搬送台車とを協働させるのでは、通信障害で情報が途切れたり遅れたりすることもあり、前記左側搬送台車と右側搬送台車とを協働させるために必要な情報をリアルタイムに安定して得ることが難しかった。又、情報が安定して得られなかった場合、搬送される車両等の物体に必要以上の内力が加わることとなり、最悪の場合、物体を落としたり、傷つけたりする可能性があった。
【0006】
このため、本発明者等は、無線通信のみによる台車相互間でのリアルタイムの情報交換を行うようにした協働搬送とは異なり、車両等の物体を落としたり、傷つけたりする心配がなく、複数の台車を協調制御により作動させることで、車両等の物体を確実に且つより安定して移動させ得る物体移動装置を提案している。(例えば、特許文献2参照。)
【0007】
前記特許文献2に開示した物体移動装置は、複数の台車を協調制御により作動させるという非常に高度で優れた機能を有するものである反面、移動すべき物体がバス等のホイールベースの長い車両や接地ポイントとしての車輪の数が多い車両であった場合、移動装置自体を大きくしたり、車輪の数に合わせた機構のものを別途用意しなければならず、移動装置の種類が増える一方、移動装置が大型化した場合には、移動経路を広くとり、且つ保管スペースも広く必要になるという欠点を有していた。
【0008】
そこで、本発明者等は、車両等の物体の一つの接地ポイントとしての車輪をリフトアップし、与えられた目標軌道に沿って移動可能なリーダ台車と、該リーダ台車にてリフトアップされる車輪以外の一つの車輪をリフトアップする複数台のフォロワ台車とを備えることにより、大きさや接地ポイント数の異なる車両等の物体にも装置の種類を増やすことなく対応し得、車両等の物体を確実に且つより安定して移動させることができ、移動経路や保管スペースの削減をも図り得る物体移動装置を提案している。(例えば、特許文献3参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−169451号公報
【特許文献2】特開2009−108542号公報
【特許文献3】特開2009−286570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、前輪と後輪の四個の車輪を有する車両に着目すると、基本的には後輪のサイドブレーキを開放して前輪だけを持ち上げれば、車両を運ぶことができ、必ずしも全ての車輪を持ち上げる必要はない。
【0011】
即ち、特許文献3に記載されているように通常四台の台車が車両の各車輪をリフトアップするシステムを配備した駐車施設において、状況に応じて二台ずつ二組の台車が複数の車両を並行作業で移動させることが実際に行えるのであれば、更なる効率化が期待できるという点に本発明者等は着目した。
【0012】
しかしながら、このように車両を運ぶ際の最大の問題は、車両の後輪が接地することによりシステムが非ホロノミックな拘束を受ける点にある。
【0013】
本発明は、斯かる実情に鑑み、車両の前輪又は後輪のいずれか一方の車輪をリーダ台車とフォロワ台車とによってリフトアップして移動させることができ、効率向上を図り得る車両移動装置の運転方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、走行駆動装置により全方向に自走可能な台車本体と、該台車本体に連結機構を介して取り付けられ且つ車両の一つの車輪をリフトアップするリフターとを有し、与えられた目標軌道に沿って移動可能なリーダ台車と、
走行駆動装置により全方向に自走可能な台車本体と、該台車本体に連結機構を介して取り付けられ且つ前記車両の前記リーダ台車にてリフトアップされる車輪以外の一つの車輪をリフトアップするリフターとを有し、前記リーダ台車の動きを推定しつつ追従することにより、該リーダ台車と協調して車両を移動させるフォロワ台車とを備えた車両移動装置の運転方法であって、
前記車両の前輪又は後輪のいずれか一方の車輪を前記リーダ台車とフォロワ台車とによってリフトアップし、該リーダ台車とフォロワ台車の制御点を前記車両のリフトアップされる二個の車輪の中点に設定し、前記車両を含めたシステム全体を、前記中点に設定され且つ能動的に全方向へ速度を発生可能な仮想キャスタと、前記車両の接地している側の対向する二個の車輪とによって構成される三輪車モデルに見立てて位置制御することを特徴とする車両移動装置の運転方法にかかるものである。
【0015】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0016】
車両の前輪又は後輪のいずれか一方の車輪がリーダ台車とフォロワ台車とによってリフトアップされ、この状態から、前記リーダ台車とフォロワ台車の制御点が前記車両のリフトアップされる二個の車輪の中点に設定され、前記車両を含めたシステム全体が、前記中点に設定され且つ能動的に全方向へ速度を発生可能な仮想キャスタと、前記車両の接地している側の対向する二個の車輪とによって構成される三輪車モデルに見立てて位置制御される。
【0017】
この結果、特許文献3に記載されているように通常四台の台車が車両の各車輪をリフトアップするシステムを配備した駐車施設において、本発明の車両移動装置の運転方法を導入することにより、状況に応じて二台ずつ二組の台車が複数の車両を並行作業で移動させることができ、更なる効率化が期待できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の車両移動装置の運転方法によれば、車両の前輪又は後輪のいずれか一方の車輪をリーダ台車とフォロワ台車とによってリフトアップして移動させることができ、効率向上を図り得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の車両移動装置の運転方法の実施例を示す全体概要斜視図である。
【図2】本発明の車両移動装置の運転方法の実施例におけるリーダ台車(フォロワ台車)を示す斜視図である。
【図3】本発明の車両移動装置の運転方法の実施例におけるリーダ台車(フォロワ台車)を底面側から示す斜視図である。
【図4】本発明の車両移動装置の運転方法の実施例におけるリーダ台車(フォロワ台車)の連結機構を示す斜視図である。
【図5】本発明の車両移動装置の運転方法の実施例におけるリーダ台車(フォロワ台車)のリフターの車輪浮上支持装置を示す斜視図である。
【図6】本発明の車両移動装置の運転方法の実施例におけるリーダ台車の全体制御系統並びにフォロワ台車の全体制御系統を示すブロック図である。
【図7】本発明の車両移動装置の運転方法の実施例におけるリーダ台車とフォロワ台車の協調制御に関するシステム図である。
【図8】本発明の車両移動装置の運転方法の実施例におけるリフターに加わる力ベクトルを演算する際の座標系を示す平面図である。
【図9】本発明の車両移動装置の運転方法の実施例におけるシステム全体の幾何モデル図である。
【図10】本発明の車両移動装置の運転方法の有効性を確認するために実際に行った実験における車両の移動開始位置から目標位置までの移動経路の一例を段階的に示す作動状態図であって、(a)は車両の移動開始位置で経過時間t=0[sec]の状態を示す図、(b)は経過時間t=5[sec]の状態を示す図、(c)は経過時間t=10[sec]の状態を示す図、(d)は経過時間t=15[sec]の状態を示す図、(e)は経過時間t=20[sec]の状態を示す図、(f)は経過時間t=25[sec]の状態を示す図、(g)は経過時間t=30[sec]の状態を示す図、(h)は経過時間t=50[sec]の状態を示す図、(i)は経過時間t=70[sec]の状態を示す図、(j)は経過時間t=90[sec]の状態を示す図、(k)は経過時間t=110[sec]の状態を示す図、(l)は経過時間t=150[sec]の状態を示す図である。
【図11】図10に示す車両の移動開始位置から目標位置までの移動経路を、シミュレーションによる結果と、リーダ台車の軌道センサとしての走行エンコーダにより検出された実測値に基づく演算結果と、フォロワ台車の軌道センサとしての走行エンコーダにより検出された実測値に基づく演算結果とを比較する形で、X−Y座標系に示す線図である。
【図12】図10に示す車両の移動開始位置から目標位置までの移動経路におけるX軸位置を、シミュレーションによる結果と、リーダ台車の軌道センサとしての走行エンコーダにより検出された実測値に基づく演算結果と、フォロワ台車の軌道センサとしての走行エンコーダにより検出された実測値に基づく演算結果とを比較する形で、横軸に時間を取って示す線図である。
【図13】図10に示す車両の移動開始位置から目標位置までの移動経路におけるY軸位置を、シミュレーションによる結果と、リーダ台車の軌道センサとしての走行エンコーダにより検出された実測値に基づく演算結果と、フォロワ台車の軌道センサとしての走行エンコーダにより検出された実測値に基づく演算結果とを比較する形で、横軸に時間を取って示す線図である。
【図14】図10に示す車両の移動開始位置から目標位置までの移動経路における姿勢を、シミュレーションによる結果と、リーダ台車の軌道センサとしての走行エンコーダにより検出された実測値に基づく演算結果と、フォロワ台車の軌道センサとしての走行エンコーダにより検出された実測値に基づく演算結果とを比較する形で、横軸に時間を取って示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0021】
図1〜図11は本発明の車両移動装置の運転方法の実施例であって、
走行駆動装置1により全方向に自走可能な台車本体2と、該台車本体2に連結機構3を介して取り付けられ且つ物体としての車両4の一つの車輪4aをリフトアップするリフター5とを有し、与えられた目標軌道に沿って移動可能なリーダ台車Aと、
走行駆動装置1により全方向に自走可能な台車本体2と、該台車本体2に連結機構3を介して取り付けられ且つ前記車両4の前記リーダ台車Aにてリフトアップされる車輪4a以外の一つの車輪4aをリフトアップするリフター5とを有し、前記リーダ台車Aの動きを推定しつつ追従することにより、該リーダ台車Aと協調して車両4を移動させるフォロワ台車Bとを備えてなる車両移動装置を利用するようにしたものである。
【0022】
前記台車本体2は、図1〜図3に示す如く、直方体の四隅部をカットして細長い八角柱形状に組み立てられた台車フレーム2aの四隅部に、走行駆動装置1として走行車輪6を走行モータ7(走行アクチュエータ)(図6参照)の作動により水平な車軸8を中心に回転可能に配設してなる構成を有している。尚、前記走行車輪6は、操舵を必要としないオムニホイール(登録商標)やメカナムホイール等の全方向移動車輪とし、台車本体2の幅方向(図8の左右方向)に対しそれぞれ45°の角度を持ち、且つ対角に位置する走行車輪6同士が平行となるようにしてある。又、前記走行モータ7には、軌道センサとしての走行エンコーダ11(図6参照)が一体に組み込まれ、台車本体2の実際の軌道情報を検出できるようにしてある。更に又、前記走行車輪6の全てが常に地面と接触するよう、四個のうち二個の走行車輪6はサスペンション機構6aを介して台車フレーム2aに取り付けるようにしてある。
【0023】
前記連結機構3は、図3及び図4に示す如く、力センサとしての引張圧縮型のロードセル13の両端にロッド14を取り付けた連結部材15を、その一端がユニバーサルジョイント16により台車本体2側に連結され他端がユニバーサルジョイント16によりリフター5側に連結されるよう、同一水平面内に複数(図8の例では三個)配設してなるパラレルリンク機構17によって構成してある。この場合、前記台車本体2に対しリフター5は、図2に示す如く、水平面内におけるX−Y方向に移動する方向の2自由度と、該X−Y方向に対して直交するZ軸を中心として回転する方向の1自由度とを加えた平面3自由度が拘束され、且つX軸を中心として回転する方向の1自由度と、Y軸を中心として回転する方向の1自由度と、Z軸方向に移動する方向の1自由度とを加えた3自由度がフリーとなるよう、前記パラレルリンク機構17(図3、図4及び図8参照)を介して配置される形となる。
【0024】
前記リフター5は、図1〜図3及び図5に示す如く、前記車両4の各車輪4aを支持するための車輪浮上支持装置18を装備し、該車輪浮上支持装置18は、前記台車本体2に対し連結機構3を介して取り付けられるリフターフレーム5aに、リニアガイドレール19を台車本体2の幅方向(図8の左右方向)へ延びるよう固定配置すると共に、該リニアガイドレール19に対し、リニアガイドブロック19aを介して一対のラック部材21を互いにそのラック部の形成面が対向した状態で前記リニアガイドレール19に沿ってスライド自在となるよう配設し、前記リフターフレーム5aの中央部に一体に設けられ両端が開放された中空箱形のベース枠5bに、エンコーダ等のリフトバー開閉センサ22が一体に設けられたモータ等のリフトバー開閉アクチュエータ23を取り付け、該リフトバー開閉アクチュエータ23によって回転駆動される駆動ピニオン24を前記一対のラック部材21の互いに対向するラック部に対し前記ベース枠5b内でその両方に噛合させ、前記リニアガイドブロック19aから、底面が開放された断面門型のカバーフレーム5cを張り出させ、該カバーフレーム5cに対し、外周に車輪支持ローラ25が回転自在に嵌装され且つ先端部と基端部に接地支持輪26が取り付けられたリフトバー27を、前記ラック部材21と直角な水平方向へ延び且つ前記リニアガイドレール19と平行な揺動軸5dを中心に揺動自在となるよう取り付けてなる構成を有し、前記リフター5の車輪浮上支持装置18における一対のリフトバー27を前記車両4の各車輪4aの前後に配置して互いに近接させることにより、該車両4をリフトアップするよう構成してある。尚、前記リフトバー27の両端に取り付けた接地支持輪26により車両4の重量全てを支持するため、台車本体2は、車両4の重量を支持できるよう頑丈に設計する必要がなくなるという利点があり、更に、前記リフトバー27をその開閉方向と平行な揺動軸5dを中心に揺動自在となるようにしているため、二本のリフトバー27に取り付けた四つの接地支持輪26は常に接地する形となり、好ましい。
【0025】
前記リフトバー27の車輪支持ローラ25表面には、ローレット加工、或いは滑り止め塗料の塗装といった滑り止め加工を施すようにしてある。
【0026】
前記接地支持輪26には、一般的なキャスタを用いるようにしてあるが、前記走行車輪6と同様に、操舵を必要としないオムニホイール(登録商標)やメカナムホイール等の全方向移動車輪を用いても良いことは言うまでもない。
【0027】
一方、図6はリーダ台車Aの全体制御系統並びにフォロワ台車Bの全体制御系統を示すブロック図であり、前記リーダ台車Aに搭載されたリーダ制御部31には、前記台車本体2の走行駆動装置1における走行アクチュエータとしての走行モータ7と、前記台車本体2の走行駆動装置1における軌道センサとしての走行エンコーダ11と、前記連結機構3の力センサとしてのロードセル13と、前記リフター5の車輪浮上支持装置18におけるリフトバー開閉アクチュエータ23と、前記リフター5の車輪浮上支持装置18におけるリフトバー開閉センサ22と、前記フォロワ台車Bへ制御情報を送信するための無線通信装置39とを接続し、前記連結機構3の力センサとしてのロードセル13による検出信号と、前記台車本体2の走行駆動装置1における軌道センサとしての走行エンコーダ11による検出信号とに基づいて、前記台車本体2の走行駆動装置1における走行アクチュエータとしての走行モータ7に駆動信号を出力すると共に、前記無線通信装置39にてフォロワ台車Bへの制御情報を送信しつつ、前記リフター5の車輪浮上支持装置18におけるリフトバー開閉センサ22による検出信号に基づいて、前記リフター5の車輪浮上支持装置18におけるリフトバー開閉アクチュエータ23に駆動信号を出力する一方、
前記フォロワ台車Bに搭載されたフォロワ制御部32には、前記台車本体2の走行駆動装置1における走行アクチュエータとしての走行モータ7と、前記台車本体2の走行駆動装置1における軌道センサとしての走行エンコーダ11と、前記連結機構3の力センサとしてのロードセル13と、前記リフター5の車輪浮上支持装置18におけるリフトバー開閉アクチュエータ23と、前記リフター5の車輪浮上支持装置18におけるリフトバー開閉センサ22と、前記リーダ台車Aからの制御情報を受信するための無線通信装置40とを接続し、前記連結機構3の力センサとしてのロードセル13による検出信号と、前記台車本体2の走行駆動装置1における軌道センサとしての走行エンコーダ11による検出信号と、前記無線通信装置40で受信したリーダ台車Aからの制御情報とに基づいて、前記台車本体2の走行駆動装置1における走行アクチュエータとしての走行モータ7に駆動信号を出力すると共に、前記リフター5の車輪浮上支持装置18におけるリフトバー開閉センサ22による検出信号に基づいて、前記リフター5の車輪浮上支持装置18におけるリフトバー開閉アクチュエータ23に駆動信号を出力するようにしてある。
【0028】
前記リーダ台車Aとフォロワ台車Bの協調制御に関するシステムについてより詳しくは、図7に示す如く、前記リーダ台車Aとフォロワ台車Bとの間で車両4を介して相互に働く相互作用力を前記リーダ台車Aの力センサとしてのロードセル13により力情報として検出し、前記リーダ台車Aの台車本体2の実際の軌道情報を前記軌道センサとしての走行エンコーダ11によって検出し、前記リーダ制御部31において、予め入力される目標軌道情報と、前記リーダ台車Aの力センサとしてのロードセル13で検出された力情報と、前記リーダ台車Aの軌道センサとしての走行エンコーダ11で検出された実際の軌道情報とに基づき、前記リーダ台車Aの台車本体2の走行アクチュエータへ電流指令値を出力すると共に、前記無線通信装置39にてフォロワ台車Bへの制御情報を送信し、前記リーダ台車Aの台車本体2を目標軌道に沿って移動させる一方、
前記リーダ台車Aとフォロワ台車Bとの間で車両4を介して相互に働く相互作用力を前記フォロワ台車Bの力センサとしてのロードセル13により力情報として検出し、前記フォロワ台車Bの台車本体2の実際の軌道情報を前記軌道センサとしての走行エンコーダ11によって検出し、前記リーダ台車Aから無線通信装置39にて送信される制御情報を無線通信装置40で受信し、前記フォロワ制御部32において、前記フォロワ台車Bの力センサとしてのロードセル13で検出された力情報と、前記フォロワ台車Bの軌道センサとしての走行エンコーダ11で検出された実際の軌道情報と、前記無線通信装置40で受信したリーダ台車Aからの制御情報とに基づき、前記フォロワ台車Bの台車本体2の走行アクチュエータへ電流指令値を出力し、前記フォロワ台車Bの台車本体2を前記リーダ台車Aの動きに追従させて移動させるようにしてある。
【0029】
尚、前記フォロワ台車Bの台車本体2がリーダ台車Aの動きに追従して移動するための前記ロードセル13で検出された力情報に、例えば、地面と前記リフター5の接地支持輪26との摩擦や慣性力等の外乱要素が影響を与える場合、前記リーダ台車Aの動きにフォロワ台車Bが追従しようとする動きに対し誤差を増大させてしまうので、より安定した状態で前記リーダ台車Aとフォロワ台車Bとを協調させて車両4を移動させるには、前述の如き誤差を修正するための制御情報が必要となることから、該制御情報を前記リーダ制御部31より、前記リーダ台車Aの無線通信装置39にて送信しフォロワ台車Bの無線通信装置40で受信し、フォロワ制御部32で前記誤差を修正する計算を前記制御情報に基づいて行うようにしてある。
【0030】
ここで、前記力センサとしての引張圧縮型のロードセル13が介装された連結部材15を平面3自由度を拘束するパラレルリンク機構17として図8に示すような配置で三つ取り付けた場合、ロードセル13による検出値をヤコビ行列で座標変換すると、外力としてリフター5に加わる力を平面3自由度の力情報として得ることができるが、具体的な計算例については、特許文献3に記載されている。
【0031】
又、リーダ台車Aとフォロワ台車Bの協調制御の基本的な考え方に関しては、小菅一弘、大住智宏、千葉晋彦による「単一物体を操る複数移動ロボットの分散協調制御」、日本ロボット学会誌16巻1号、pp.87〜95に記載されている。
【0032】
そして、本実施例の場合、図1に示す如く、前記車両4の車輪4aのうち右側の前輪を前記リーダ台車Aでリフトアップすると共に、前記車両4の車輪4aのうち左側の前輪を前記フォロワ台車Bによってリフトアップし、図9に示す如く、該リーダ台車Aとフォロワ台車Bの制御点CPを前記車両4のリフトアップされる二個の車輪4aの中点に設定し、前記車両4を含めたシステム全体を、前記中点に設定され且つ能動的に全方向へ速度を発生可能な仮想キャスタと、前記車両4の接地している側の対向する二個の車輪4aとによって構成される三輪車モデルに見立てて位置制御するよう構成してある。
【0033】
図9に示すシステム全体の幾何モデルにおいて、Oを原点とするX−Y座標系を設定した場合、前記制御点CPの位置と姿勢を(xp,yp,θp)で表し、車両4の進行方向と平行な方向の速度をu2、該u2と直交する方向のリーダ台車A及びフォロワ台車Bが生成する制御点CPの速度をu1、車両4のホイールベースをLとすると、前記制御点CPにu1、u2の速度入力を与えたときの該制御点CPの運動は下記の[数1]で表される。
【数1】
【0034】
尚、[数1]で表される幾何モデルは一般的な三輪車モデルと異なり操舵輪の概念はなく、全方向移動ロボットとしての前記リーダ台車A及びフォロワ台車Bにより制御点CPに即座に任意の方向へ速度を発生させることが可能である。
【0035】
このモデルにおいて、前記リーダ台車A及びフォロワ台車Bが指令通りに速度を発生可能で、同時に車両4の移動を開始し、同一の計算式に従って制御入力が決定され、同一の周期でループする制御系とするならば、理論上は前記リーダ台車A及びフォロワ台車Bの制御点CPは常に一致し、同期しながら車両4の搬送を行うことできる。又、このモデル化により既に提案されている三輪車型ロボットの制御手法を本実施例の車両移動装置の運転方法に適用できるようになる。
【0036】
先ず、前記三輪車の幾何モデルを非ホロノミックシステムの制御手法の一つであるChained Systemに変換する。[数1]で表されるシステムはChained Systemへ変換するための十分条件を満たしており、[数2]で表される1Generator、1Chain、2入力型のChained Systemに変換できる。
【数2】
【0037】
尚、状態変数zはxpにより[数3]のように表され、又、入力v1,v2はu1,u2 により[数4]のように表される。
【数3】
【数4】
【0038】
Chained Systemを用いた制御手法の一つとして、Khennouf等により提案されている疑似連続指数安定化制御がある。疑似連続指数安定化制御は、Chained Systemに[数5]に示すフィードバック入力を与えることにより、zを0へ収束させる制御手法であり、そのときxpも0へ収束する。
【数5】
【0039】
本制御則ではフィードバックゲインf,kをf>2kを満たすように定める必要がある。そうしない場合はS(z)よりもW(z)が先に0に収束し、入力が発散する。尚、S(z)、W(z)は[数6]、[数7]に示すようにzで表される関数である。
【数6】
【数7】
【0040】
但し、疑似連続指数安定化制御はシステムの初期位置と原点、フィードバックゲインf,kが定まればその軌道が一意に定まる制御手法であり、特定の軌道に追従させるような制御はできないが、車両4の車庫等への搬送作業を考えると、障害物に接触しないよう運動させる必要がある。そこで疑似連続指数安定化制御を利用し、車両4を任意の何点かを経由させることで障害物に接触させずに目標位置まで搬送させることを考える。疑似連続指数安定化制御は状態変数を原点へ収束させる制御則であるが、修正偏差系と呼ばれる、目標値と現在値の偏差から計算される修正偏差変数で表されるChained Systemを用いることにより、車両4を任意の位置・姿勢へ収束させることが可能になる。
【0041】
修正偏差変数eは、[数8]、[数9] により計算される修正目標値rと状態zの偏差を用いて[数10]のように定義される。このとき修正偏差変数は[数11]のようにv1,v2を入力とするChained Systemとなり、eが0に収束すると、車両4の位置xpは目標値x´pへ収束する。
【数8】
【数9】
【数10】
【数11】
【0042】
この修正偏差系に対して、[数12]に示す疑似連続指数安定化制御を適用することにより、eを0に収束させ、車両4を目標の位置・姿勢へ到達させる。
【数12】
【0043】
次に、上記実施例の作用を説明する。
【0044】
先ず、停車し後輪のサイドブレーキが開放されている車両4に対し、リーダ台車Aを走行させてリフター5の車輪浮上支持装置18のリフトバー27を車両4の車輪4aのうち右側の前輪の前後に配置すると共に、フォロワ台車Bを走行させてリフター5の車輪浮上支持装置18のリフトバー27を前記車両4の車輪4aのうち左側の前輪の前後に配置する。
【0045】
続いて、リーダ制御部31並びにフォロワ制御部32からの駆動信号により、前記リフター5の車輪浮上支持装置18におけるリフトバー開閉アクチュエータ23を所望の方向へ回転駆動すると、対を成すリフトバー27が互いに近接する方向へ移動していき、リフトバー27上に車両4の車輪4aのうち前輪が載置される形となって、該車両4の前輪が図1に示すようにリフトアップされる。
【0046】
この状態から、図9に示す如く、前記リーダ台車Aとフォロワ台車Bの制御点CPが前記車両4のリフトアップされる二個の車輪4aの中点に設定され、前記車両4を含めたシステム全体が、前記中点に設定され且つ能動的に全方向へ速度を発生可能な仮想キャスタと、前記車両4の接地している側の対向する二個の車輪4aとによって構成される三輪車モデルに見立てて位置制御される。
【0047】
本発明者等は、前記車両移動装置の運転方法の有効性を確認するため、前輪駆動式の車両4を用いた前輪リフトアップによる移動実験を実施した。
【0048】
今回の実験では、車両4の前輪が旋回しないようハンドルをロックし、リーダ台車Aとフォロワ台車Bが適切な位置・姿勢で車両4の前輪をリフトアップした状態から車両4を移動させた。
【0049】
本実験では、リーダ台車Aとフォロワ台車Bは同時にスタートし、自己位置の計算及び制御入力の決定を各々のリーダ制御部31とフォロワ制御部32によって1[msec]周期で行う分散制御系とした。
【0050】
又、本実験では、制御点CPの初期位置・姿勢を原点とし、目標の位置・姿勢を(xp´,yp´,θp´)=(1.0[m],−2.0[m],90.0[deg])とし、ホイールベースはメジャーにより計測してL=2.41[m] とし、フィードバックゲインf,kは滑らかな加速で移動を開始するよう、[数13]、[数14]のように定めた。尚、tは移動開始時点0[sec]からの経過時間であり、又、taは加速時間を表し、実験では45[sec]とした。
[数13]
f=0.30α
k=0.03α
[数14]
α=3t2/ta2−2t3/ta3 (0≦t≦taのとき)
α=1 (t>taのとき)
【0051】
図10に実際に行った実験の様子を示す。先ず、図10(a)に示す車両4の移動開始位置(t=0[sec])からスタートし、移動開始直後はリーダ台車Aとフォロワ台車Bが徐々に加速しながら、図10(b)に示す経過時間t=5[sec]の状態、並びに図10(c)に示す経過時間t=10[sec]の状態のように、車両4を前方へ移動させる方向へ進行し、その後、図10(d)に示す経過時間t=15[sec]の状態、図10(e)に示す経過時間t=20[sec]の状態、並びに図10(f)に示す経過時間t=25[sec]の状態のように、リーダ台車Aとフォロワ台車Bが車両4の向きを少しずつ変えながら移動し、図10(g)に示す経過時間t=30[sec]の状態のように、車両4の姿勢が目標の姿勢に近づくと、図10(h)に示す経過時間t=50[sec]の状態、図10(i)に示す経過時間t=70[sec]の状態、図10(j)に示す経過時間t=90[sec]の状態、並びに図10(k)に示す経過時間t=110[sec]の状態のように、リーダ台車Aとフォロワ台車Bが車両4を後退させながらその姿勢を更に目標の姿勢へ近づけ、最終的に、図10(l)に示す経過時間t=150[sec]の状態のように、目標から僅かにずれた位置・姿勢に収束した。
【0052】
ここで、図10に示す車両4の移動開始位置から目標位置までの移動経路を、シミュレーションによる結果と、リーダ台車Aの軌道センサとしての走行エンコーダ11により検出された実測値に基づく演算結果と、フォロワ台車Bの軌道センサとしての走行エンコーダ11により検出された実測値に基づく演算結果とを比較する形で、X−Y座標系に示すと、図11に示されるような線図となり、この場合の車両4のX軸位置の時間推移は図12に示されるような線図となり、車両4のY軸位置の時間推移は図13に示されるような線図となり、更に、車両4の姿勢の時間推移は図14に示されるような線図となった。
【0053】
図12〜図14を見ると、経過時間t=0〜80[sec]の間はリーダ台車Aとフォロワ台車Bの軌道は略一致し、シミュレーション結果とも一致している。
【0054】
しかし、経過時間t=80[sec]以降はリーダ台車A及びフォロワ台車Bの軌道とシミュレーション結果の軌道がずれ、経過時間t=120[sec]以降はリーダ台車Aとフォロワ台車Bの軌道も明らかに異なる挙動を示した。
【0055】
このように実験における実際の軌道とシミュレーション結果の軌道がずれた原因は、ホイールベースLの測定誤差或いは車両4の弾性による変動により、計算上の運動可能な方向へ実際にはリーダ台車Aとフォロワ台車Bが運動できなかったためと考えられる。
【0056】
又、リーダ台車Aとフォロワ台車Bとの間の誤差は、該リーダ台車Aとフォロワ台車Bが辿る経路はリフトアップする車両4の車輪4aの左右で異なり、これにより移動距離が多い台車ほどスリップ等により目標の運動との誤差が大きくなり、リーダ台車Aとフォロワ台車Bの間に誤差が生じたと考えられる。
【0057】
但し、図11に見られるように、実験における実際の軌道とシミュレーション結果の軌道の誤差は目標にほとんど接近してから僅かに拡がっているため、ある程度の許容誤差の範囲内で目標位置へ車両を移動できたと言え、本発明者等が提案する車両移動装置の運転方法が実行可能なことを確認できた。
【0058】
この結果、特許文献3に記載されているように通常四台の台車が車両4の各車輪4aをリフトアップするシステムを配備した駐車施設において、本発明の車両移動装置の運転方法を導入することにより、状況に応じて二台ずつ二組の台車が複数の車両4を並行作業で移動させることができ、更なる効率化が期待できる。
【0059】
こうして、車両の前輪又は後輪のいずれか一方の車輪をリーダ台車とフォロワ台車とによってリフトアップして移動させることができ、効率向上を図り得る。
【0060】
尚、本発明の車両移動装置の運転方法は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、前輪の代わりに後輪をリフトアップすることも可能であること等、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0061】
1 走行駆動装置
2 台車本体
2a 台車フレーム
3 連結機構
4 車両
4a 車輪
5 リフター
6 走行車輪
11 走行エンコーダ
13 ロードセル
18 車輪浮上支持装置
27 リフトバー
31 リーダ制御部
32 フォロワ制御部
39 無線通信装置
40 無線通信装置
A リーダ台車
B フォロワ台車
CP 制御点
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両移動装置の運転方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、任意の位置に停車した車両を駐車施設における所定位置に搬送できるようにした入出車装置の一般的技術水準を示すものとしては、例えば、特許文献1がある。
【0003】
特許文献1に示される装置は、それぞれ車両支持機構及び走行機構を備える左側搬送台車と右側搬送台車とからなり、該左側搬送台車と右側搬送台車とがそれぞれ独立して移動しつつ、協働して車両を支持し、搬送するようになっている。
【0004】
前記左側搬送台車と右側搬送台車は、無線通信によってリアルタイムに情報交換を行うことにより、協働している。
【0005】
しかしながら、前述の如く、無線通信による台車相互間でのリアルタイムの情報交換に基づいて前記左側搬送台車と右側搬送台車とを協働させるのでは、通信障害で情報が途切れたり遅れたりすることもあり、前記左側搬送台車と右側搬送台車とを協働させるために必要な情報をリアルタイムに安定して得ることが難しかった。又、情報が安定して得られなかった場合、搬送される車両等の物体に必要以上の内力が加わることとなり、最悪の場合、物体を落としたり、傷つけたりする可能性があった。
【0006】
このため、本発明者等は、無線通信のみによる台車相互間でのリアルタイムの情報交換を行うようにした協働搬送とは異なり、車両等の物体を落としたり、傷つけたりする心配がなく、複数の台車を協調制御により作動させることで、車両等の物体を確実に且つより安定して移動させ得る物体移動装置を提案している。(例えば、特許文献2参照。)
【0007】
前記特許文献2に開示した物体移動装置は、複数の台車を協調制御により作動させるという非常に高度で優れた機能を有するものである反面、移動すべき物体がバス等のホイールベースの長い車両や接地ポイントとしての車輪の数が多い車両であった場合、移動装置自体を大きくしたり、車輪の数に合わせた機構のものを別途用意しなければならず、移動装置の種類が増える一方、移動装置が大型化した場合には、移動経路を広くとり、且つ保管スペースも広く必要になるという欠点を有していた。
【0008】
そこで、本発明者等は、車両等の物体の一つの接地ポイントとしての車輪をリフトアップし、与えられた目標軌道に沿って移動可能なリーダ台車と、該リーダ台車にてリフトアップされる車輪以外の一つの車輪をリフトアップする複数台のフォロワ台車とを備えることにより、大きさや接地ポイント数の異なる車両等の物体にも装置の種類を増やすことなく対応し得、車両等の物体を確実に且つより安定して移動させることができ、移動経路や保管スペースの削減をも図り得る物体移動装置を提案している。(例えば、特許文献3参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−169451号公報
【特許文献2】特開2009−108542号公報
【特許文献3】特開2009−286570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、前輪と後輪の四個の車輪を有する車両に着目すると、基本的には後輪のサイドブレーキを開放して前輪だけを持ち上げれば、車両を運ぶことができ、必ずしも全ての車輪を持ち上げる必要はない。
【0011】
即ち、特許文献3に記載されているように通常四台の台車が車両の各車輪をリフトアップするシステムを配備した駐車施設において、状況に応じて二台ずつ二組の台車が複数の車両を並行作業で移動させることが実際に行えるのであれば、更なる効率化が期待できるという点に本発明者等は着目した。
【0012】
しかしながら、このように車両を運ぶ際の最大の問題は、車両の後輪が接地することによりシステムが非ホロノミックな拘束を受ける点にある。
【0013】
本発明は、斯かる実情に鑑み、車両の前輪又は後輪のいずれか一方の車輪をリーダ台車とフォロワ台車とによってリフトアップして移動させることができ、効率向上を図り得る車両移動装置の運転方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、走行駆動装置により全方向に自走可能な台車本体と、該台車本体に連結機構を介して取り付けられ且つ車両の一つの車輪をリフトアップするリフターとを有し、与えられた目標軌道に沿って移動可能なリーダ台車と、
走行駆動装置により全方向に自走可能な台車本体と、該台車本体に連結機構を介して取り付けられ且つ前記車両の前記リーダ台車にてリフトアップされる車輪以外の一つの車輪をリフトアップするリフターとを有し、前記リーダ台車の動きを推定しつつ追従することにより、該リーダ台車と協調して車両を移動させるフォロワ台車とを備えた車両移動装置の運転方法であって、
前記車両の前輪又は後輪のいずれか一方の車輪を前記リーダ台車とフォロワ台車とによってリフトアップし、該リーダ台車とフォロワ台車の制御点を前記車両のリフトアップされる二個の車輪の中点に設定し、前記車両を含めたシステム全体を、前記中点に設定され且つ能動的に全方向へ速度を発生可能な仮想キャスタと、前記車両の接地している側の対向する二個の車輪とによって構成される三輪車モデルに見立てて位置制御することを特徴とする車両移動装置の運転方法にかかるものである。
【0015】
上記手段によれば、以下のような作用が得られる。
【0016】
車両の前輪又は後輪のいずれか一方の車輪がリーダ台車とフォロワ台車とによってリフトアップされ、この状態から、前記リーダ台車とフォロワ台車の制御点が前記車両のリフトアップされる二個の車輪の中点に設定され、前記車両を含めたシステム全体が、前記中点に設定され且つ能動的に全方向へ速度を発生可能な仮想キャスタと、前記車両の接地している側の対向する二個の車輪とによって構成される三輪車モデルに見立てて位置制御される。
【0017】
この結果、特許文献3に記載されているように通常四台の台車が車両の各車輪をリフトアップするシステムを配備した駐車施設において、本発明の車両移動装置の運転方法を導入することにより、状況に応じて二台ずつ二組の台車が複数の車両を並行作業で移動させることができ、更なる効率化が期待できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の車両移動装置の運転方法によれば、車両の前輪又は後輪のいずれか一方の車輪をリーダ台車とフォロワ台車とによってリフトアップして移動させることができ、効率向上を図り得るという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の車両移動装置の運転方法の実施例を示す全体概要斜視図である。
【図2】本発明の車両移動装置の運転方法の実施例におけるリーダ台車(フォロワ台車)を示す斜視図である。
【図3】本発明の車両移動装置の運転方法の実施例におけるリーダ台車(フォロワ台車)を底面側から示す斜視図である。
【図4】本発明の車両移動装置の運転方法の実施例におけるリーダ台車(フォロワ台車)の連結機構を示す斜視図である。
【図5】本発明の車両移動装置の運転方法の実施例におけるリーダ台車(フォロワ台車)のリフターの車輪浮上支持装置を示す斜視図である。
【図6】本発明の車両移動装置の運転方法の実施例におけるリーダ台車の全体制御系統並びにフォロワ台車の全体制御系統を示すブロック図である。
【図7】本発明の車両移動装置の運転方法の実施例におけるリーダ台車とフォロワ台車の協調制御に関するシステム図である。
【図8】本発明の車両移動装置の運転方法の実施例におけるリフターに加わる力ベクトルを演算する際の座標系を示す平面図である。
【図9】本発明の車両移動装置の運転方法の実施例におけるシステム全体の幾何モデル図である。
【図10】本発明の車両移動装置の運転方法の有効性を確認するために実際に行った実験における車両の移動開始位置から目標位置までの移動経路の一例を段階的に示す作動状態図であって、(a)は車両の移動開始位置で経過時間t=0[sec]の状態を示す図、(b)は経過時間t=5[sec]の状態を示す図、(c)は経過時間t=10[sec]の状態を示す図、(d)は経過時間t=15[sec]の状態を示す図、(e)は経過時間t=20[sec]の状態を示す図、(f)は経過時間t=25[sec]の状態を示す図、(g)は経過時間t=30[sec]の状態を示す図、(h)は経過時間t=50[sec]の状態を示す図、(i)は経過時間t=70[sec]の状態を示す図、(j)は経過時間t=90[sec]の状態を示す図、(k)は経過時間t=110[sec]の状態を示す図、(l)は経過時間t=150[sec]の状態を示す図である。
【図11】図10に示す車両の移動開始位置から目標位置までの移動経路を、シミュレーションによる結果と、リーダ台車の軌道センサとしての走行エンコーダにより検出された実測値に基づく演算結果と、フォロワ台車の軌道センサとしての走行エンコーダにより検出された実測値に基づく演算結果とを比較する形で、X−Y座標系に示す線図である。
【図12】図10に示す車両の移動開始位置から目標位置までの移動経路におけるX軸位置を、シミュレーションによる結果と、リーダ台車の軌道センサとしての走行エンコーダにより検出された実測値に基づく演算結果と、フォロワ台車の軌道センサとしての走行エンコーダにより検出された実測値に基づく演算結果とを比較する形で、横軸に時間を取って示す線図である。
【図13】図10に示す車両の移動開始位置から目標位置までの移動経路におけるY軸位置を、シミュレーションによる結果と、リーダ台車の軌道センサとしての走行エンコーダにより検出された実測値に基づく演算結果と、フォロワ台車の軌道センサとしての走行エンコーダにより検出された実測値に基づく演算結果とを比較する形で、横軸に時間を取って示す線図である。
【図14】図10に示す車両の移動開始位置から目標位置までの移動経路における姿勢を、シミュレーションによる結果と、リーダ台車の軌道センサとしての走行エンコーダにより検出された実測値に基づく演算結果と、フォロワ台車の軌道センサとしての走行エンコーダにより検出された実測値に基づく演算結果とを比較する形で、横軸に時間を取って示す線図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0021】
図1〜図11は本発明の車両移動装置の運転方法の実施例であって、
走行駆動装置1により全方向に自走可能な台車本体2と、該台車本体2に連結機構3を介して取り付けられ且つ物体としての車両4の一つの車輪4aをリフトアップするリフター5とを有し、与えられた目標軌道に沿って移動可能なリーダ台車Aと、
走行駆動装置1により全方向に自走可能な台車本体2と、該台車本体2に連結機構3を介して取り付けられ且つ前記車両4の前記リーダ台車Aにてリフトアップされる車輪4a以外の一つの車輪4aをリフトアップするリフター5とを有し、前記リーダ台車Aの動きを推定しつつ追従することにより、該リーダ台車Aと協調して車両4を移動させるフォロワ台車Bとを備えてなる車両移動装置を利用するようにしたものである。
【0022】
前記台車本体2は、図1〜図3に示す如く、直方体の四隅部をカットして細長い八角柱形状に組み立てられた台車フレーム2aの四隅部に、走行駆動装置1として走行車輪6を走行モータ7(走行アクチュエータ)(図6参照)の作動により水平な車軸8を中心に回転可能に配設してなる構成を有している。尚、前記走行車輪6は、操舵を必要としないオムニホイール(登録商標)やメカナムホイール等の全方向移動車輪とし、台車本体2の幅方向(図8の左右方向)に対しそれぞれ45°の角度を持ち、且つ対角に位置する走行車輪6同士が平行となるようにしてある。又、前記走行モータ7には、軌道センサとしての走行エンコーダ11(図6参照)が一体に組み込まれ、台車本体2の実際の軌道情報を検出できるようにしてある。更に又、前記走行車輪6の全てが常に地面と接触するよう、四個のうち二個の走行車輪6はサスペンション機構6aを介して台車フレーム2aに取り付けるようにしてある。
【0023】
前記連結機構3は、図3及び図4に示す如く、力センサとしての引張圧縮型のロードセル13の両端にロッド14を取り付けた連結部材15を、その一端がユニバーサルジョイント16により台車本体2側に連結され他端がユニバーサルジョイント16によりリフター5側に連結されるよう、同一水平面内に複数(図8の例では三個)配設してなるパラレルリンク機構17によって構成してある。この場合、前記台車本体2に対しリフター5は、図2に示す如く、水平面内におけるX−Y方向に移動する方向の2自由度と、該X−Y方向に対して直交するZ軸を中心として回転する方向の1自由度とを加えた平面3自由度が拘束され、且つX軸を中心として回転する方向の1自由度と、Y軸を中心として回転する方向の1自由度と、Z軸方向に移動する方向の1自由度とを加えた3自由度がフリーとなるよう、前記パラレルリンク機構17(図3、図4及び図8参照)を介して配置される形となる。
【0024】
前記リフター5は、図1〜図3及び図5に示す如く、前記車両4の各車輪4aを支持するための車輪浮上支持装置18を装備し、該車輪浮上支持装置18は、前記台車本体2に対し連結機構3を介して取り付けられるリフターフレーム5aに、リニアガイドレール19を台車本体2の幅方向(図8の左右方向)へ延びるよう固定配置すると共に、該リニアガイドレール19に対し、リニアガイドブロック19aを介して一対のラック部材21を互いにそのラック部の形成面が対向した状態で前記リニアガイドレール19に沿ってスライド自在となるよう配設し、前記リフターフレーム5aの中央部に一体に設けられ両端が開放された中空箱形のベース枠5bに、エンコーダ等のリフトバー開閉センサ22が一体に設けられたモータ等のリフトバー開閉アクチュエータ23を取り付け、該リフトバー開閉アクチュエータ23によって回転駆動される駆動ピニオン24を前記一対のラック部材21の互いに対向するラック部に対し前記ベース枠5b内でその両方に噛合させ、前記リニアガイドブロック19aから、底面が開放された断面門型のカバーフレーム5cを張り出させ、該カバーフレーム5cに対し、外周に車輪支持ローラ25が回転自在に嵌装され且つ先端部と基端部に接地支持輪26が取り付けられたリフトバー27を、前記ラック部材21と直角な水平方向へ延び且つ前記リニアガイドレール19と平行な揺動軸5dを中心に揺動自在となるよう取り付けてなる構成を有し、前記リフター5の車輪浮上支持装置18における一対のリフトバー27を前記車両4の各車輪4aの前後に配置して互いに近接させることにより、該車両4をリフトアップするよう構成してある。尚、前記リフトバー27の両端に取り付けた接地支持輪26により車両4の重量全てを支持するため、台車本体2は、車両4の重量を支持できるよう頑丈に設計する必要がなくなるという利点があり、更に、前記リフトバー27をその開閉方向と平行な揺動軸5dを中心に揺動自在となるようにしているため、二本のリフトバー27に取り付けた四つの接地支持輪26は常に接地する形となり、好ましい。
【0025】
前記リフトバー27の車輪支持ローラ25表面には、ローレット加工、或いは滑り止め塗料の塗装といった滑り止め加工を施すようにしてある。
【0026】
前記接地支持輪26には、一般的なキャスタを用いるようにしてあるが、前記走行車輪6と同様に、操舵を必要としないオムニホイール(登録商標)やメカナムホイール等の全方向移動車輪を用いても良いことは言うまでもない。
【0027】
一方、図6はリーダ台車Aの全体制御系統並びにフォロワ台車Bの全体制御系統を示すブロック図であり、前記リーダ台車Aに搭載されたリーダ制御部31には、前記台車本体2の走行駆動装置1における走行アクチュエータとしての走行モータ7と、前記台車本体2の走行駆動装置1における軌道センサとしての走行エンコーダ11と、前記連結機構3の力センサとしてのロードセル13と、前記リフター5の車輪浮上支持装置18におけるリフトバー開閉アクチュエータ23と、前記リフター5の車輪浮上支持装置18におけるリフトバー開閉センサ22と、前記フォロワ台車Bへ制御情報を送信するための無線通信装置39とを接続し、前記連結機構3の力センサとしてのロードセル13による検出信号と、前記台車本体2の走行駆動装置1における軌道センサとしての走行エンコーダ11による検出信号とに基づいて、前記台車本体2の走行駆動装置1における走行アクチュエータとしての走行モータ7に駆動信号を出力すると共に、前記無線通信装置39にてフォロワ台車Bへの制御情報を送信しつつ、前記リフター5の車輪浮上支持装置18におけるリフトバー開閉センサ22による検出信号に基づいて、前記リフター5の車輪浮上支持装置18におけるリフトバー開閉アクチュエータ23に駆動信号を出力する一方、
前記フォロワ台車Bに搭載されたフォロワ制御部32には、前記台車本体2の走行駆動装置1における走行アクチュエータとしての走行モータ7と、前記台車本体2の走行駆動装置1における軌道センサとしての走行エンコーダ11と、前記連結機構3の力センサとしてのロードセル13と、前記リフター5の車輪浮上支持装置18におけるリフトバー開閉アクチュエータ23と、前記リフター5の車輪浮上支持装置18におけるリフトバー開閉センサ22と、前記リーダ台車Aからの制御情報を受信するための無線通信装置40とを接続し、前記連結機構3の力センサとしてのロードセル13による検出信号と、前記台車本体2の走行駆動装置1における軌道センサとしての走行エンコーダ11による検出信号と、前記無線通信装置40で受信したリーダ台車Aからの制御情報とに基づいて、前記台車本体2の走行駆動装置1における走行アクチュエータとしての走行モータ7に駆動信号を出力すると共に、前記リフター5の車輪浮上支持装置18におけるリフトバー開閉センサ22による検出信号に基づいて、前記リフター5の車輪浮上支持装置18におけるリフトバー開閉アクチュエータ23に駆動信号を出力するようにしてある。
【0028】
前記リーダ台車Aとフォロワ台車Bの協調制御に関するシステムについてより詳しくは、図7に示す如く、前記リーダ台車Aとフォロワ台車Bとの間で車両4を介して相互に働く相互作用力を前記リーダ台車Aの力センサとしてのロードセル13により力情報として検出し、前記リーダ台車Aの台車本体2の実際の軌道情報を前記軌道センサとしての走行エンコーダ11によって検出し、前記リーダ制御部31において、予め入力される目標軌道情報と、前記リーダ台車Aの力センサとしてのロードセル13で検出された力情報と、前記リーダ台車Aの軌道センサとしての走行エンコーダ11で検出された実際の軌道情報とに基づき、前記リーダ台車Aの台車本体2の走行アクチュエータへ電流指令値を出力すると共に、前記無線通信装置39にてフォロワ台車Bへの制御情報を送信し、前記リーダ台車Aの台車本体2を目標軌道に沿って移動させる一方、
前記リーダ台車Aとフォロワ台車Bとの間で車両4を介して相互に働く相互作用力を前記フォロワ台車Bの力センサとしてのロードセル13により力情報として検出し、前記フォロワ台車Bの台車本体2の実際の軌道情報を前記軌道センサとしての走行エンコーダ11によって検出し、前記リーダ台車Aから無線通信装置39にて送信される制御情報を無線通信装置40で受信し、前記フォロワ制御部32において、前記フォロワ台車Bの力センサとしてのロードセル13で検出された力情報と、前記フォロワ台車Bの軌道センサとしての走行エンコーダ11で検出された実際の軌道情報と、前記無線通信装置40で受信したリーダ台車Aからの制御情報とに基づき、前記フォロワ台車Bの台車本体2の走行アクチュエータへ電流指令値を出力し、前記フォロワ台車Bの台車本体2を前記リーダ台車Aの動きに追従させて移動させるようにしてある。
【0029】
尚、前記フォロワ台車Bの台車本体2がリーダ台車Aの動きに追従して移動するための前記ロードセル13で検出された力情報に、例えば、地面と前記リフター5の接地支持輪26との摩擦や慣性力等の外乱要素が影響を与える場合、前記リーダ台車Aの動きにフォロワ台車Bが追従しようとする動きに対し誤差を増大させてしまうので、より安定した状態で前記リーダ台車Aとフォロワ台車Bとを協調させて車両4を移動させるには、前述の如き誤差を修正するための制御情報が必要となることから、該制御情報を前記リーダ制御部31より、前記リーダ台車Aの無線通信装置39にて送信しフォロワ台車Bの無線通信装置40で受信し、フォロワ制御部32で前記誤差を修正する計算を前記制御情報に基づいて行うようにしてある。
【0030】
ここで、前記力センサとしての引張圧縮型のロードセル13が介装された連結部材15を平面3自由度を拘束するパラレルリンク機構17として図8に示すような配置で三つ取り付けた場合、ロードセル13による検出値をヤコビ行列で座標変換すると、外力としてリフター5に加わる力を平面3自由度の力情報として得ることができるが、具体的な計算例については、特許文献3に記載されている。
【0031】
又、リーダ台車Aとフォロワ台車Bの協調制御の基本的な考え方に関しては、小菅一弘、大住智宏、千葉晋彦による「単一物体を操る複数移動ロボットの分散協調制御」、日本ロボット学会誌16巻1号、pp.87〜95に記載されている。
【0032】
そして、本実施例の場合、図1に示す如く、前記車両4の車輪4aのうち右側の前輪を前記リーダ台車Aでリフトアップすると共に、前記車両4の車輪4aのうち左側の前輪を前記フォロワ台車Bによってリフトアップし、図9に示す如く、該リーダ台車Aとフォロワ台車Bの制御点CPを前記車両4のリフトアップされる二個の車輪4aの中点に設定し、前記車両4を含めたシステム全体を、前記中点に設定され且つ能動的に全方向へ速度を発生可能な仮想キャスタと、前記車両4の接地している側の対向する二個の車輪4aとによって構成される三輪車モデルに見立てて位置制御するよう構成してある。
【0033】
図9に示すシステム全体の幾何モデルにおいて、Oを原点とするX−Y座標系を設定した場合、前記制御点CPの位置と姿勢を(xp,yp,θp)で表し、車両4の進行方向と平行な方向の速度をu2、該u2と直交する方向のリーダ台車A及びフォロワ台車Bが生成する制御点CPの速度をu1、車両4のホイールベースをLとすると、前記制御点CPにu1、u2の速度入力を与えたときの該制御点CPの運動は下記の[数1]で表される。
【数1】
【0034】
尚、[数1]で表される幾何モデルは一般的な三輪車モデルと異なり操舵輪の概念はなく、全方向移動ロボットとしての前記リーダ台車A及びフォロワ台車Bにより制御点CPに即座に任意の方向へ速度を発生させることが可能である。
【0035】
このモデルにおいて、前記リーダ台車A及びフォロワ台車Bが指令通りに速度を発生可能で、同時に車両4の移動を開始し、同一の計算式に従って制御入力が決定され、同一の周期でループする制御系とするならば、理論上は前記リーダ台車A及びフォロワ台車Bの制御点CPは常に一致し、同期しながら車両4の搬送を行うことできる。又、このモデル化により既に提案されている三輪車型ロボットの制御手法を本実施例の車両移動装置の運転方法に適用できるようになる。
【0036】
先ず、前記三輪車の幾何モデルを非ホロノミックシステムの制御手法の一つであるChained Systemに変換する。[数1]で表されるシステムはChained Systemへ変換するための十分条件を満たしており、[数2]で表される1Generator、1Chain、2入力型のChained Systemに変換できる。
【数2】
【0037】
尚、状態変数zはxpにより[数3]のように表され、又、入力v1,v2はu1,u2 により[数4]のように表される。
【数3】
【数4】
【0038】
Chained Systemを用いた制御手法の一つとして、Khennouf等により提案されている疑似連続指数安定化制御がある。疑似連続指数安定化制御は、Chained Systemに[数5]に示すフィードバック入力を与えることにより、zを0へ収束させる制御手法であり、そのときxpも0へ収束する。
【数5】
【0039】
本制御則ではフィードバックゲインf,kをf>2kを満たすように定める必要がある。そうしない場合はS(z)よりもW(z)が先に0に収束し、入力が発散する。尚、S(z)、W(z)は[数6]、[数7]に示すようにzで表される関数である。
【数6】
【数7】
【0040】
但し、疑似連続指数安定化制御はシステムの初期位置と原点、フィードバックゲインf,kが定まればその軌道が一意に定まる制御手法であり、特定の軌道に追従させるような制御はできないが、車両4の車庫等への搬送作業を考えると、障害物に接触しないよう運動させる必要がある。そこで疑似連続指数安定化制御を利用し、車両4を任意の何点かを経由させることで障害物に接触させずに目標位置まで搬送させることを考える。疑似連続指数安定化制御は状態変数を原点へ収束させる制御則であるが、修正偏差系と呼ばれる、目標値と現在値の偏差から計算される修正偏差変数で表されるChained Systemを用いることにより、車両4を任意の位置・姿勢へ収束させることが可能になる。
【0041】
修正偏差変数eは、[数8]、[数9] により計算される修正目標値rと状態zの偏差を用いて[数10]のように定義される。このとき修正偏差変数は[数11]のようにv1,v2を入力とするChained Systemとなり、eが0に収束すると、車両4の位置xpは目標値x´pへ収束する。
【数8】
【数9】
【数10】
【数11】
【0042】
この修正偏差系に対して、[数12]に示す疑似連続指数安定化制御を適用することにより、eを0に収束させ、車両4を目標の位置・姿勢へ到達させる。
【数12】
【0043】
次に、上記実施例の作用を説明する。
【0044】
先ず、停車し後輪のサイドブレーキが開放されている車両4に対し、リーダ台車Aを走行させてリフター5の車輪浮上支持装置18のリフトバー27を車両4の車輪4aのうち右側の前輪の前後に配置すると共に、フォロワ台車Bを走行させてリフター5の車輪浮上支持装置18のリフトバー27を前記車両4の車輪4aのうち左側の前輪の前後に配置する。
【0045】
続いて、リーダ制御部31並びにフォロワ制御部32からの駆動信号により、前記リフター5の車輪浮上支持装置18におけるリフトバー開閉アクチュエータ23を所望の方向へ回転駆動すると、対を成すリフトバー27が互いに近接する方向へ移動していき、リフトバー27上に車両4の車輪4aのうち前輪が載置される形となって、該車両4の前輪が図1に示すようにリフトアップされる。
【0046】
この状態から、図9に示す如く、前記リーダ台車Aとフォロワ台車Bの制御点CPが前記車両4のリフトアップされる二個の車輪4aの中点に設定され、前記車両4を含めたシステム全体が、前記中点に設定され且つ能動的に全方向へ速度を発生可能な仮想キャスタと、前記車両4の接地している側の対向する二個の車輪4aとによって構成される三輪車モデルに見立てて位置制御される。
【0047】
本発明者等は、前記車両移動装置の運転方法の有効性を確認するため、前輪駆動式の車両4を用いた前輪リフトアップによる移動実験を実施した。
【0048】
今回の実験では、車両4の前輪が旋回しないようハンドルをロックし、リーダ台車Aとフォロワ台車Bが適切な位置・姿勢で車両4の前輪をリフトアップした状態から車両4を移動させた。
【0049】
本実験では、リーダ台車Aとフォロワ台車Bは同時にスタートし、自己位置の計算及び制御入力の決定を各々のリーダ制御部31とフォロワ制御部32によって1[msec]周期で行う分散制御系とした。
【0050】
又、本実験では、制御点CPの初期位置・姿勢を原点とし、目標の位置・姿勢を(xp´,yp´,θp´)=(1.0[m],−2.0[m],90.0[deg])とし、ホイールベースはメジャーにより計測してL=2.41[m] とし、フィードバックゲインf,kは滑らかな加速で移動を開始するよう、[数13]、[数14]のように定めた。尚、tは移動開始時点0[sec]からの経過時間であり、又、taは加速時間を表し、実験では45[sec]とした。
[数13]
f=0.30α
k=0.03α
[数14]
α=3t2/ta2−2t3/ta3 (0≦t≦taのとき)
α=1 (t>taのとき)
【0051】
図10に実際に行った実験の様子を示す。先ず、図10(a)に示す車両4の移動開始位置(t=0[sec])からスタートし、移動開始直後はリーダ台車Aとフォロワ台車Bが徐々に加速しながら、図10(b)に示す経過時間t=5[sec]の状態、並びに図10(c)に示す経過時間t=10[sec]の状態のように、車両4を前方へ移動させる方向へ進行し、その後、図10(d)に示す経過時間t=15[sec]の状態、図10(e)に示す経過時間t=20[sec]の状態、並びに図10(f)に示す経過時間t=25[sec]の状態のように、リーダ台車Aとフォロワ台車Bが車両4の向きを少しずつ変えながら移動し、図10(g)に示す経過時間t=30[sec]の状態のように、車両4の姿勢が目標の姿勢に近づくと、図10(h)に示す経過時間t=50[sec]の状態、図10(i)に示す経過時間t=70[sec]の状態、図10(j)に示す経過時間t=90[sec]の状態、並びに図10(k)に示す経過時間t=110[sec]の状態のように、リーダ台車Aとフォロワ台車Bが車両4を後退させながらその姿勢を更に目標の姿勢へ近づけ、最終的に、図10(l)に示す経過時間t=150[sec]の状態のように、目標から僅かにずれた位置・姿勢に収束した。
【0052】
ここで、図10に示す車両4の移動開始位置から目標位置までの移動経路を、シミュレーションによる結果と、リーダ台車Aの軌道センサとしての走行エンコーダ11により検出された実測値に基づく演算結果と、フォロワ台車Bの軌道センサとしての走行エンコーダ11により検出された実測値に基づく演算結果とを比較する形で、X−Y座標系に示すと、図11に示されるような線図となり、この場合の車両4のX軸位置の時間推移は図12に示されるような線図となり、車両4のY軸位置の時間推移は図13に示されるような線図となり、更に、車両4の姿勢の時間推移は図14に示されるような線図となった。
【0053】
図12〜図14を見ると、経過時間t=0〜80[sec]の間はリーダ台車Aとフォロワ台車Bの軌道は略一致し、シミュレーション結果とも一致している。
【0054】
しかし、経過時間t=80[sec]以降はリーダ台車A及びフォロワ台車Bの軌道とシミュレーション結果の軌道がずれ、経過時間t=120[sec]以降はリーダ台車Aとフォロワ台車Bの軌道も明らかに異なる挙動を示した。
【0055】
このように実験における実際の軌道とシミュレーション結果の軌道がずれた原因は、ホイールベースLの測定誤差或いは車両4の弾性による変動により、計算上の運動可能な方向へ実際にはリーダ台車Aとフォロワ台車Bが運動できなかったためと考えられる。
【0056】
又、リーダ台車Aとフォロワ台車Bとの間の誤差は、該リーダ台車Aとフォロワ台車Bが辿る経路はリフトアップする車両4の車輪4aの左右で異なり、これにより移動距離が多い台車ほどスリップ等により目標の運動との誤差が大きくなり、リーダ台車Aとフォロワ台車Bの間に誤差が生じたと考えられる。
【0057】
但し、図11に見られるように、実験における実際の軌道とシミュレーション結果の軌道の誤差は目標にほとんど接近してから僅かに拡がっているため、ある程度の許容誤差の範囲内で目標位置へ車両を移動できたと言え、本発明者等が提案する車両移動装置の運転方法が実行可能なことを確認できた。
【0058】
この結果、特許文献3に記載されているように通常四台の台車が車両4の各車輪4aをリフトアップするシステムを配備した駐車施設において、本発明の車両移動装置の運転方法を導入することにより、状況に応じて二台ずつ二組の台車が複数の車両4を並行作業で移動させることができ、更なる効率化が期待できる。
【0059】
こうして、車両の前輪又は後輪のいずれか一方の車輪をリーダ台車とフォロワ台車とによってリフトアップして移動させることができ、効率向上を図り得る。
【0060】
尚、本発明の車両移動装置の運転方法は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、前輪の代わりに後輪をリフトアップすることも可能であること等、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0061】
1 走行駆動装置
2 台車本体
2a 台車フレーム
3 連結機構
4 車両
4a 車輪
5 リフター
6 走行車輪
11 走行エンコーダ
13 ロードセル
18 車輪浮上支持装置
27 リフトバー
31 リーダ制御部
32 フォロワ制御部
39 無線通信装置
40 無線通信装置
A リーダ台車
B フォロワ台車
CP 制御点
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行駆動装置により全方向に自走可能な台車本体と、該台車本体に連結機構を介して取り付けられ且つ車両の一つの車輪をリフトアップするリフターとを有し、与えられた目標軌道に沿って移動可能なリーダ台車と、
走行駆動装置により全方向に自走可能な台車本体と、該台車本体に連結機構を介して取り付けられ且つ前記車両の前記リーダ台車にてリフトアップされる車輪以外の一つの車輪をリフトアップするリフターとを有し、前記リーダ台車の動きを推定しつつ追従することにより、該リーダ台車と協調して車両を移動させるフォロワ台車とを備えた車両移動装置の運転方法であって、
前記車両の前輪又は後輪のいずれか一方の車輪を前記リーダ台車とフォロワ台車とによってリフトアップし、該リーダ台車とフォロワ台車の制御点を前記車両のリフトアップされる二個の車輪の中点に設定し、前記車両を含めたシステム全体を、前記中点に設定され且つ能動的に全方向へ速度を発生可能な仮想キャスタと、前記車両の接地している側の対向する二個の車輪とによって構成される三輪車モデルに見立てて位置制御することを特徴とする車両移動装置の運転方法。
【請求項1】
走行駆動装置により全方向に自走可能な台車本体と、該台車本体に連結機構を介して取り付けられ且つ車両の一つの車輪をリフトアップするリフターとを有し、与えられた目標軌道に沿って移動可能なリーダ台車と、
走行駆動装置により全方向に自走可能な台車本体と、該台車本体に連結機構を介して取り付けられ且つ前記車両の前記リーダ台車にてリフトアップされる車輪以外の一つの車輪をリフトアップするリフターとを有し、前記リーダ台車の動きを推定しつつ追従することにより、該リーダ台車と協調して車両を移動させるフォロワ台車とを備えた車両移動装置の運転方法であって、
前記車両の前輪又は後輪のいずれか一方の車輪を前記リーダ台車とフォロワ台車とによってリフトアップし、該リーダ台車とフォロワ台車の制御点を前記車両のリフトアップされる二個の車輪の中点に設定し、前記車両を含めたシステム全体を、前記中点に設定され且つ能動的に全方向へ速度を発生可能な仮想キャスタと、前記車両の接地している側の対向する二個の車輪とによって構成される三輪車モデルに見立てて位置制御することを特徴とする車両移動装置の運転方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−122250(P2012−122250A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273698(P2010−273698)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000198363)IHI運搬機械株式会社 (292)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000198363)IHI運搬機械株式会社 (292)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
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