説明

車両端部構造

【課題】フック取付部材に装着されたフック部材の車両前後方向との交差方向への変位を抑制することができる車両端部構造を得る。
【解決手段】車体前部構造10は、フック部材40が着脱されるパイプナット34と、パイプナット34に対する前側に配置され該パイプナット34にアクセスするための38が形成されたアウタパネル22と、アウタパネル22におけるアクセス孔38の周縁に形成されパイプナット34側とは反対側に突出する環状突部44と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バンパリインフォースメントを備えた車両端部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
フック部材が着脱されるナットがリヤサイドメンバに固定された構成において、ナットの後方に配置されたクラッシュボックスをフック部材が貫通すると共に、該貫通孔の孔縁でフック部材を半径方向外側から支持するようにした構成が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−137433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、フック部材の変位を抑制するとの観点からは、クラッシュボックスの剛性を上げる必要があり、上記構成に対し改善の余地がある。
【0005】
本発明は、フック取付部材に装着されたフック部材の車両前後方向との交差方向への変位を抑制することができる車両端部構造を得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明に係る車両端部構造は、フック部材が車両前後方向に沿って着脱されるフック取付部材と、前記フック取付部材に対する車両外側に車両前後方向に向けて配置され、前記フック取付部材に装着された前記フック部材が挿通される貫通孔が形成された外側板部と、前記外側板部における前記貫通孔の周縁に形成され、前記フック取付部材側とは反対側に突出すると共に車両前後方向を向く環状突部と、を備えている。
【0007】
請求項1記載の車両端部構造では、フック部材は、車両外側から外側板部の貫通孔を通じてフック取付部材に装着される。この状態で、フック部材は、貫通孔に挿通されて自由端側が車両外側に位置する。このフック部材の自由端側に車両前後方向との直交方向(例えば上下方向)に所定値以上の荷重が作用すると、フック部材が外側板部における貫通孔の周縁部分に当接する。
【0008】
ここで、本車両端部構造では、外側板部における貫通孔の周縁に環状突部が形成されている。このため、環状突部が形成されていない構成と比較して、外側板部における貫通孔周りの剛性が高い。また、環状突部が車両外側に突出されているため、環状突部が形成されていない構成や環状突部がフック取付部材側に突出された構成と比較して、フック部材の貫通孔縁との当接部位から自由端側の荷重入力位置までの距離が短い。これらにより、上記した荷重によるフック部材の荷重方向への変位が抑制される。
【0009】
このように、請求項1記載の車両端部構造では、フック取付部材に装着されたフック部材の車両前後方向との交差方向への変位を抑制することができる。
【0010】
請求項2記載の発明に係る車両端部構造は、請求項1記載の端部構造において、前記外側板部は、車幅方向に長手とされたバンパリインフォースメントを構成している。
【0011】
請求項2記載の車両端部構造では、外側板部がバンパリインフォースメントの一部を構成している。このバンパリインフォースメントにおける外側板部を成す部分に貫通孔及び環状突部が形成されているので、バンパリインフォースメントの板厚に頼ることなく所要の剛性が確保でき、フック部材の変位を抑制することができる。換言すれば、バンパリインフォースメントは、他の要求性能に応じて板厚を設定することができる。
【0012】
請求項3記載の発明に係る車両端部構造は、請求項2記載の端部構造において、前記バンパリインフォースメントは、それぞれ車幅方向に長手とされた第1部材に対する車両前後方向の中央側に第2部材が接合されることで、長手方向との直交断面視で閉断面構造とされており、前記外側板部は、前記第1部材における前記第2部材と車両前後方向に対向又は接触される部分を構成している。
【0013】
請求項3記載の車両端部構造では、バンパリインフォースメントが第1部材と第2部材との2部材の接合で閉断面構造を成す。このため、閉断面でありながら、該閉断面部や第1部材と第2部材との接合部から外側(フック取付部材側とは反対側)に突出する環状突部を備える構成を採用することができる。
【0014】
請求項4記載の発明に係る車両端部構造は、請求項1〜請求項3の何れか1項記載の端部構造において、前記環状突部における車両上下方向の下部には、該環状突部から前記フック取付部材側とは反対側にさらに突出するビードが形成されている。
【0015】
請求項4記載の車両端部構造では、環状突部の下部(下縁)にビードが形成されているため、外側板部における環状突部の下部の下向き(重力方向の)荷重に対する剛性、強度が向上する。これにより、フック部材の変位を一層抑制することができる。
【0016】
請求項5記載の発明に係る車両端部構造は、請求項1〜請求項3の何れか1項記載の端部構造において、前記環状突部には、該環状突部から前記フック取付部材側とは反対側にさらに突出するビードが周方向に離間して複数形成されている。
【0017】
請求項5記載の車両端部構造では、環状突部に複数のビードが形成されているため、外側板部における環状突部の各部の前後方向直交する各方向の荷重に対する剛性、強度が向上する。これにより、フック部材の変位を一層抑制することができる。
【0018】
請求項6記載の発明に係る車両端部構造は、請求項4又は請求項5記載の端部構造において、前記ビードは、前記環状突部から前記フック取付部材側とは反対側に突出されている。
【0019】
請求項6記載の車両端部構造では、ビードが車両外向きに突出されているため、中間部がビードに当接したフック部材における該当接部位と荷重入力位置との距離が一層短くなる。これにより、フック部材の変位をより一層抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように本発明に係る車両端部構造は、フック取付部材に装着されたフック部材の車両前後方向との交差方向への変位を抑制することができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る車両前部構造を示す図であって、(A)は図2の1A−1A線に沿った断面図、(B)はフック部材の支持状態をモデル化した側面図、(C)は比較例におけるフック部材の支持状態をモデル化した側面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る車両前部構造の要部を拡大して示す正面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態に係る車両前部構造の概略全体構成を示す斜視図である。
【図4】本発明の第1の実施形態に係る車両前部構造を構成する環状突部及びビードを示す斜視図である。
【図5】(A)は本発明の実施形態に係る車両前部構造を構成するビードを模式的に示す平面図、(B)は比較例を模式的に示す平面図である。
【図6】第1の実施形態におけるビード形成部の断面2次モーメントの比較例の断面2次モーメントに対する比の計算結果を示す線図である。
【図7】本発明の第2実施形態に係る車両前部構造を構成する環状突部及びビードを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の第1の実施形態に係る車両端部構造としての車体前部構造10について、図1〜図6に基づいて説明する。なお、図中に適宜記す矢印FRは車両前後方向の前方向を、矢印UPは車両上下方向の上方向を、矢印INは車幅方向内側を、矢印OUTは車幅方向外側をそれぞれ示す。以下の説明で、特記なく前後、上下の方向を用いる場合は、車両前後方向の前後、車両上下方向の上下を示すものとする。
【0023】
図3には、車体前部構造10の主要部が斜視図にて示されている。この図に示される如く、車体前部構造10は、車幅方向に長手とされフロントバンパの骨格部材となるバンパリインフォースメント12を備えている。バンパリインフォースメント12は、図示を省略したバンパカバーにて車両前方から覆われてフロントバンパを構成している。
【0024】
バンパリインフォースメント12は、車幅方向の両端近傍にて、左右一対の車体骨格を成すフロントサイドメンバ16に支持されている。この実施形態では、バンパリインフォースメント12は、車幅方向の両端近傍で車両後方に向けて曲がった屈曲部又は湾曲部12Aに対し幅方向外側に位置する部分が傾斜部12Bとされている。なお、バンパリインフォースメント12は、平面視で全体として弧状に湾曲して形成されても良い。以下では、便宜上、バンパリインフォースメント12が車幅方向に沿って直線状を成すものとして説明(図示)する。
【0025】
一対のフロントサイドメンバ16は、クラッシュボックス18を介して車幅方向の中央に対し同じ側に位置する傾斜部12Bに結合されている。なお、フロントサイドメンバ16のクラッシュボックス18への結合構造については後述する。
【0026】
図1(A)及び図3に示される如く、バンパリインフォースメント12は、第2部材としてインナパネル20と、第1部材としてアウタパネル22との接合により成る2部材構成とされている。なお、図1(A)は、後述するフック部材40の装着状態が示されているが、通常は、図2に示される如くフック部材40は非装着とされる。
【0027】
インナパネル20は、それぞれ接合部としての上フランジ20U、下フランジ20L、及び中間フランジ20Cを有する。上フランジ20Uと中間フランジ20Cとの間及び中間フランジ20Cと下フランジ20Lとの間には、それぞれ前向きに開口する断面「U」字状の凹形状部20Nが形成されている。
【0028】
このインナパネル20は、鋼板のプレス加工により形成されている。したがって、インナパネル20における上下の凹形状部20N間には、後述する凹部12Nを成す凹形状部が後向き開口して形成されている。すなわち、インナパネル20は、断面ハット形状の2部材を上下に連結した如く構成されている。この実施形態では、インナパネル20は、高張力鋼板にて構成されている。ここで、この実施形態(自動車用途)における高張力鋼板とは、例えば引張強さ(公称、以下同じ)が350MPa以上の自動車用鋼板をいい、引張強さが590MPa以上のものを超高張力鋼板という場合もある。インナパネル20は、高張力鋼板により構成されることで、薄肉化(0.8mm〜1・0mm)、軽量化が図られている。
【0029】
また、この実施形態では、インナパネル20の上フランジ20U、下フランジ20L、及び中間フランジ20Cは、長手方向に直交する各断面において、前後方向の同じ位置に位置するように、略面一に形成されている。したがって、上フランジ20U、下フランジ20L、及び中間フランジ20Cは、それぞれインナパネル20(バンパリインフォースメント12)の最前部に位置する構成とされている。
【0030】
アウタパネル22は、上フランジ20Uに接合される上フランジ22Uと、下フランジ20Lに接合される下フランジ22Lと、中間フランジ20Cに接合される中間フランジ22Cとを有する。上フランジ22Uと中間フランジ22Cとの間及び中間フランジ22Cと下フランジ22Lとの間には、それぞれ凹形状部20Nとで閉断面12Cを成す壁部22Wが形成されている。
【0031】
この実施形態では、壁部22Wは凹形状部20Nの開口面に沿って該凹形状部20Nの開口部を塞ぐ構成されている。したがって、アウタパネル22は、上フランジ22U、中間フランジ22C、及び下フランジ22Lと、上下の壁部22Wとが、側断面視で鉛直方向に沿った同一直線上に配置されている。この実施形態では、アウタパネル22は、後述する環状突部44、46を除いて、側断面視で前後に凸凹のないフラットな板状に形成されている。このアウタパネル22は、インナパネル20と同様に高張力鋼板のプレス加工により形成され、薄肉化(0.8mm〜1・0mm)、軽量化が図られている。
【0032】
バンパリインフォースメント12は、上フランジ20Uと上フランジ22U、下フランジ20Lと下フランジ22L、中間フランジ20Cと中間フランジ22Cのそれぞれがスポット溶接にて接合されることで構成されている。なお、図1〜図3に示す「×」印は、スポット溶接の打点を示している。
【0033】
以上によりバンパリインフォースメント12は、上下の閉断面12C間に後向きに開口した凹部12Nが形成された断面形状(「B」型断面)とされている。
【0034】
(バンパリインフォースメントのクラッシュボックスへの接合構造)
以上説明したバンパリインフォースメント12は、クラッシュボックス18の前端に締結により固定されている。以下、具体的に説明する。
【0035】
先ず、クラッシュボックス18の構成について補足する。図2に示される如く、クラッシュボックス18は、インナパネル24とアウタパネル26との接合により、長手(前後)方向に直交する断面視で閉断面構造とされている。この実施形態では、インナパネル24は車幅方向外向きに開口する略ハット形状の断面を有し、アウタパネル26は上下方向に沿った直線状の断面を有する。クラッシュボックス18は、インナパネル24の上下のフランジとアウタパネル26の上下端とのスポット溶接等にて接合されることで、上記の通り閉断面構造とされている。
【0036】
また、クラッシュボックス18の前端は、図1(A)に示されるカバー部材28にて閉止されている。カバー部材28は、インナパネル24の外周縁及びアウタパネル26の前端から車幅方向外向きに張り出された前フランジ26Fに溶接等によって接合されている。
【0037】
この実施形態では、図2に示される如く、バンパリインフォースメント12は、車両前方から見てクラッシュボックス18の閉断面内の1箇所、及び閉断面外の前フランジ26Fの2箇所の計3箇所において、該クラッシュボックス18に締結されている。閉断面内においては、図1(A)に示される如くインナパネル20の後壁20Rとカバー部材28とがボルト32及びナット30にて締結固定されている。閉断面外においては、断面図による図示は省略するが、インナパネル20の後壁20Rとカバー部材28とアウタパネル26の前フランジ26Fとが、ボルト32及びナット30にて締結固定されている。ナット30は、カバー部材28に固着されたウェルドナットとされている。
【0038】
図1〜図3に示される如く、バンパリインフォースメント12のアウタパネル22には、ボルト32及び工具をナット30に対しアクセスさせるためのアクセス孔22Hが形成されている。
【0039】
(フック取付構造)
図1(A)及び図2に示される如く、クラッシュボックス18の前端にはフック取付部材としてのパイプナット34が固定されている。パイプナット34は、一方(この実施形態では車両左側)のクラッシュボックス18のみに設けられている。具体的には、カバー部材28におけるクラッシュボックス18の閉断面を塞ぐ部分に、補強板36を介してパイプナット34が固定されている。すなわち、パイプナット34は、図2に示される如く前方から見て、クラッシュボックス18の閉断面内に配置されている。
【0040】
図1(A)に示される如く、パイプナット34は、インナパネル20の後壁20R、カバー部材28及び補強板36に形成された各貫通孔に挿通された状態で、その前後方向中央部に形成されたフランジ34Fにおいて補強板36の後面に接合されている。この状態で、パイプナット34の前部は、下側の閉断面12C内に入り込んでいる。このパイプナット34の配置スペースを確保するために、下側の閉断面12Cは、図2及び図3に示される如くパイプナット34の設置部位において他の部分よりも上下寸法が拡大されている。
【0041】
より具体的には、バンパリインフォースメント12は、インナパネル20における下側の閉断面12Cの底壁を成す下壁20WLが、パイプナット34の外周に沿うように(下向きに凸となるように)湾曲されている。これにより、上記の通り下側の閉断面12Cがパイプナット34の設置部位において部分的に上下に拡大されている。下フランジ20Lも下壁20WLに倣って、正面視で弧状に湾曲されている。
【0042】
図1(A)及び図2に示される如く、バンパリインフォースメント12のアウタパネル22には、パイプナット34にアクセスするための貫通孔としてのアクセス孔38が形成されている。アクセス孔38は、アウタパネル22における下側の閉断面12Cの前壁を成す部分、すなわち中間フランジ22Cと下フランジ22Lとの間の部分に形成されている。このアクセス孔38は、パイプナット34に螺合により固定されたフック部材としてフック部材40が挿通されるようになっている。
【0043】
すなわち、図1(A)に示される如く、パイプナット34に固定されたフック部材40の自由端側に位置するフック係止部40Aは、バンパリインフォースメント12の前方に位置する構成とされている。フック係止部40Aには、車体前部構造10が適用された自動車を船舶等の輸送手段に固定するためのワイヤ42の先端に設けられたフック部42Aが係止されるようになっている。
【0044】
このワイヤ42による固縛によって、フック部材40のフック係止部40Aには下向きの荷重が作用し、この荷重が所定値以上になると、フック部材40の中間部がアウタパネル22におけるアクセス孔38の内縁部に当接するようになっている。すなわち、アウタパネル22におけるアクセス孔38の下縁(後述する環状突部44、ビード46)と、フック部材40の周面40Sとの間隔は、所定間隔Dに決められている。この所定間隔は、フック部材40に上下方向の所定の荷重W0が作用した場合に、アウタパネル22におけるアクセス孔38の下縁とフック部材40の周面40Sとが接触する間隔として設定されている。
【0045】
所定の荷重W0は、例えばフック部材40が自動車を輸送船等の輸送手段に固定するための固縛フックである場合には、下向きに作用する固縛荷重に基づいて設定される。この実施形態では、前後方向に直行する各方向(上下方向、車幅方向を含む平面に沿った方向)において、フック部材40の周面40Sとアクセス孔38の孔縁との間隔が所定間隔Dで略一定とされている。換言すれば、アクセス孔38の内縁及びフック部材40の周面40Sは、それぞれ正面視で円形であり、パイプナット34に固定されたフック部材40の無負荷状態では同軸的に配置される構成とされている。本実施形態では、バンパリインフォースメント12を構成するアウタパネル22が本発明における外側板部に相当する。
【0046】
そして、図1(A)及び図4に示される如く、アウタパネル22におけるアクセス孔38の周縁には、前後方向に向けて(板厚方向が前後方向とされて)前方に突出した環状突部(凸座面)44が形成されている。環状突部44は、アウタパネル22のプレス加工により、他の部分と略同等の板厚を有する隆起部(裏面側から見ると凹部)として形成されている。この実施形態では、環状突部44は、正面視で円形状のアクセス孔38を囲む円環状に形成されている。
【0047】
また、アウタパネル22における環状突部44の下部には、ビード46が形成されている。ビード46は、環状突部44からさらに前方に突出して形成されている。ビード46は、アウタパネル22のプレス(絞り)加工により、他の部分と略同等以下の板厚を有する隆起部(裏面側から見ると凹部)として環状突部44と一体に形成されている。この実施形態では、ビード46は、正面視で略矩形状を成している。一方、環状突部44は、平面視では、後向きに開口する略「コ」字状を成している。
【0048】
これにより、車体前部構造10では、上記の通りワイヤ42から所定の荷重W0以上の下向きの荷重Wを受けたフック部材40は、その前後方向の中間部において、環状突部44におけるアクセス孔38の下縁を成すビード46の形成部分に当接する構成とされている。
【0049】
次に、第1の実施形態の作用を説明する。
【0050】
上記構成の車体前部構造10が適用された自動車では、輸送船等による輸送の際には、ワイヤ42によって船体に拘束される。具体的には、パイプナット34に固縛フックであるフック部材40を螺合して固定し、このフック部材40のフック係止部40Aにワイヤ42のフック部42Aを係止して、このワイヤ42の他端を船体側に固定する。この拘束状態でワイヤ42には、所定の荷重W以上の張力が作用している。
【0051】
この荷重によって、パイプナット34による片持ちのフック部材40のフック係止部40Aが下向きに変位され、該フック部材40の前後方向中間部はアウタパネル22におけるアクセス孔38の下縁に接触する。
【0052】
ここで、アウタパネル22におけるアクセス孔38の周縁には、他の部分に対し突出した環状突部44が形成されている。このため、アウタパネル22の剛性がアクセス孔38周りの部分である環状突部44の形成部位で高くなっており、フック部材40からの荷重によるアウタパネル22の変形が小さく抑えられる。
【0053】
そして、この環状突部44は、車両前方すなわちパイプナット34から離間する方向に突出さている。このため、フック部材40の中間部がアウタパネル22に当接して支持される中間支持点とパイプナット34による固定点(支持点)との間隔が長くなり、これによってフック部材40のフック係止部40Aの下方への変位が抑制される。この点について、図1(B)に示す模式図を参照すると共に図1(C)に示す比較例と比較しつつ補足する。
【0054】
図1(B)、図1(C)には、それぞれフック部材40を梁としてモデル化した模式図が示されている。支持点S1はパイプナット34によるフック部材40の支持点を示し、支持点S2はアウタパネル22によるフック部材40の支持点を示している。このモデルにおいて、支持点S1、S2間の距離をL1、支持点S2と下向き荷重Wの入力点との間の距離をL2とする。ここで、図1(B)に示す実施形態モデルでは、アウタパネル22に環状突部44が形成されているため、アウタパネル22からの環状突部44の前方への突出量に相当する分ΔLだけ、図1(C)に示す比較例モデルと比較して、L1が長くL2が短くなっている。
【0055】
一方、フック部材40のフック係止部40A(荷重入力点)の下方への変位yは、フック部材40を構成する材料の縦弾性係数をE、フック部材40の断面2次モーメントをIとすると、該フック部材40の弾性域内において、以下の式で表される。
y = W×L2×(L1+L2)/(3×E×I)
【0056】
この式により、支持点S2と下向き荷重Wの入力点との間の距離L2を短くした本実施形態では、比較例と比較して、フック部材40のフック係止部40Aの下方への変位が抑制されることが解る。
【0057】
またここで、車体前部構造10では、環状突部44の下部にビード46が形成されている。このため、アウタパネル22における環状突部44の形成部位は、フック部材40からの荷重に対する曲げ(座屈方向の曲げ)が抑制される。例えば、ビード46が形成されない比較例では、図5(B)に示される如く、環状突部44(アウタパネル22)におけるフック部材40からの圧縮荷重の入力部分を、板厚t、フック部材40との接触幅bの上下方向に長い柱としてモデル化することができる。このモデル(長柱)の断面2次モーメントIcは、
Ic = b×t/12
となる。
【0058】
一方、ビード46が形成された本実施形態では、ビード46を形成することで、フック部材40を支持する部分の板厚が擬似的に厚くされ、断面2次モーメントが大きくなる。具体的には、図5(A)に示される如く、ビード46の突出高をa、ビード46の幅をb/2とすると、フック部材40からの圧縮荷重の入力部分(柱)の断面2次モーメントIeは、
Ie = b/2×{(a+t)−(a−t)}/12
となる。なお、ビード46の幅(b/2)は、プレス等による加工性が確保される範囲でできるだけ小さく設定される(この実施形態では略5mm)。
【0059】
図6は、ビード46の突出高aを変化させた場合の比較例と本実施形態との断面2次モーメント比(Ie/Ic)を示している。ここでは、t=0.9mmとした場合の計算例を示している。長柱の圧縮荷重による曲げ(撓みによる先端の上下方向の変位)は、断面2次モーメントに比例するので、ビード46を形成することで環状突部44(アウタパネル22)におけるフック部材40の支持部分(支持点S2)の変形が効果的に抑制されることが、図6から解る。このように、環状突部44におけるフック部材40の支持部分の変形すなわち下方への変位が効果的に抑制されることで、フック部材40のフック係止部40Aが下方への変位が効果的に抑制される。
【0060】
特に、車体前部構造10では、ビード46が環状突部44に対しさらに前方に突出されるので、上記した支持点S2と下向き荷重Wの入力点との間の距離L2が一層短くなる。これにより、フック部材40のフック係止部40Aが下方への変位が一層効果的に抑制される。
【0061】
このように、本実施形態に係る車体前部構造10では、パイプナット34に装着されたフック部材40の車両下方向への変位を抑制することができる。
【0062】
特に、車体前部構造10を構成するバンパリインフォースメント12は、インナパネル20及びアウタパネル22が高張力鋼板より構成されて、薄肉化が果たされている。この点を補足すると、アウタパネル22の板厚を前面衝突に対する要求強度により決めると、環状突部44を備えない比較例では、フック部材40からの荷重を支持するための要求される剛性が不足してしまうので、十分な薄肉化が果たすことが難しい。これに対して、アウタパネル22に環状突部44、ビード46を設けることで、アウタパネル22の板厚に頼ることなく、上記の通りフック部材40への固縛荷重に対する該フック部材40のフック係止部40Aの変位を所要範囲に抑えることができる。これにより、アウタパネル22の板厚を前面衝突に対する要求強度を満たす範囲で十分に薄肉化することができる。
【0063】
また、本実施形態におけるバンパリインフォースメント12は、インナパネル20とアウタパネル22との2部材の接合により構成されている。このため、アウタパネル22のプレス(絞り)加工によって、アクセス孔38を含め容易に(工程を増やすことなく)環状突部44、ビード46を形成することができる。例えばアルミニウムの押し出し成形やロール成形により閉断面構造のバンパリインフォースメントを製造する場合、長手方向の各部で一定の断面形状となるため、アクセス孔38、環状突部44、ビード46の形成には2次加工が要求される。また、このような2次加工によっても車両前方すなわち閉断面の外側に突出する環状突部44、46を形成することは煩雑(実用ベースでは困難)である。2部材の接合により構成されるバンパリインフォースメント12では、このような制約を受けることなく、環状突部44、ビード46を形成して、薄肉化(軽量化)とフック部材40の変位抑制とを両立することができる。
【0064】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る車体前部構造50について、車体前部構造10とは異なる部分を説明する。なお、基本的に車体前部構造10の構成部分と同じ構成部分には、第1の実施形態と同一の符号を付す。
【0065】
図7には、図4に対応する斜視図が示されている。この図に示される如く、車体前部構造50は、ビード46が環状突部44の周方向に沿って複数形成されている点で、車体前部構造10とは異なる。この実施形態では、4つのビード46が周方向に等間隔で放射状に配置されており、1つのビード46は環状突部44の下部(鉛直方向下向きの荷重を受ける位置)に配置されている。車体前部構造50の他の構成は、図示しない部分を含め車体前部構造10と同様に構成されている。
【0066】
したがって、第2の実施形態に係る車体前部構造50によっても、第1の実施形態に係る車体前部構造10と同様の作用によって同様の効果を得ることができる。また、車体前部構造50では、パイプナット34にフック部材としての牽引フックが装着され、適用された車両が牽引される場合(旋回時や段差通過時)に、該牽引フックの各方向への変位が環状突部44及びビード46によって効果的に抑制される。
【0067】
第2の実施形態では、4つのビード46が周方向に等間隔で形成された例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、ビード46の数を3つ以下、又は5つ以上としても良い。また、複数のビード46の少なくとも一部を不等間隔に配置しても良い。さらに、環状突部44の下部に配置されるビード46がない構成としても良い。またさらに、第1の実施形態におけるビード46に加えて、ビード46とは寸法形状(補強効果)の異なる1つ又は複数のビードを形成しても良い。
【0068】
なお、上記した各実施形態では、パイプナット34がバンパリインフォースメント12における閉断面12Cの形成部分に設けられた例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、上下の閉断面12Cに跨るように設けた補強板36に対し、前部が凹部12Nに入り込むようにパイプナット34を固定し、アウタパネル22におけるインナパネル20の中間フランジ20Cと接触された中間フランジ22Cに環状突部44(及びビード46)を形成した構成としても良い。この場合、凹部12Nの上下を規定する壁を湾曲させてパイプナット34の設置部位において凹部12Nを上下に広げても良い。
【0069】
また、上記した各実施形態では、閉断面構造のバンパリインフォースメント12にアクセス孔38が形成された例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、開断面構造像のバンパリインフォースメント12にアクセス孔38を形成しても良い。
【0070】
さらに、上記した各実施形態では、本発明が車体前部構造10に適用された例を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、車両のリヤ側に本発明を適用しても良い。この場合、本発明の外側板部がクラッシュボックスやロアバックパネル等の少なくとも一部を成す構成とすることができる。
【0071】
その他、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0072】
10 車体前部構造(車両端部構造)
12 バンパリインフォースメント
20 インナパネル(第2部材)
22 アウタパネル(第1部材)
34 パイプナット(フック取付部材)
38 アクセス孔(貫通孔)
40 フック部材
44 環状突部
46 ビード
50 車体前部構造(車両端部構造)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フック部材が車両前後方向に沿って着脱されるフック取付部材と、
前記フック取付部材に対する車両外側に車両前後方向に向けて配置され、前記フック取付部材に装着された前記フック部材が挿通される貫通孔が形成された外側板部と、
前記外側板部における前記貫通孔の周縁に形成され、前記フック取付部材側とは反対側に突出すると共に車両前後方向を向く環状突部と、
を備えた車両端部構造。
【請求項2】
前記外側板部は、車幅方向に長手とされたバンパリインフォースメントを構成している請求項1記載の車両端部構造。
【請求項3】
前記バンパリインフォースメントは、それぞれ車幅方向に長手とされた第1部材に対する車両前後方向の中央側に第2部材が接合されることで、長手方向との直交断面視で閉断面構造とされており、
前記外側板部は、前記第1部材における前記第2部材と車両前後方向に対向又は接触される部分を構成している請求項2記載の車両端部構造。
【請求項4】
前記環状突部における車両上下方向の下部には、該環状突部から車両前後方向に突出するビードが形成されている請求項1〜請求項3の何れか1項記載の車両端部構造。
【請求項5】
前記環状突部には、該環状突部から車両前後方向に突出するビードが周方向に離間して複数形成されている請求項1〜請求項3の何れか1項記載の車両端部構造。
【請求項6】
前記ビードは、前記環状突部から前記フック取付部材側とは反対側に突出されている請求項4又は請求項5記載の車両端部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−218637(P2012−218637A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88327(P2011−88327)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)