説明

車両等のシート材

【課題】従来の発泡ポリウレタンフォーム等の貼り合わせをなくし、一体構造としてクッション性、スプリング性、ファブリック性に優れたシート材を提供する。
【解決手段】所要間隔を隔てて表裏夫々列をなして長さ方向に延びる並列された多数の編目列3からなる編地1,2と、該表裏編地の編目列3間において両編目列を交互に、かつジグザグ状に連結する多数の連結糸5からなる編地構造体であり、該編地構造体の表面編目列を構成する糸は通常の編成に比し無緊張、低張力で編成されて構造体目付が少なくとも1000g/m2以上であり、裏面側編目列は直交方向の多数の緯糸4が挿入され、かつ、表裏の編目列を連結する糸は弾性回復性にすぐれ、強度大なる合成モノフィラメントが用いられていると共に表面側編地には起毛6が施され、全体としてスプリング性、クッション性、ファブリック性に優れた車両等のシート材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車、電車等の車両用座席を始め応接用椅子等に用られるシート材に係り、特にクッション性として従来用いられているポリウレタンフォームを使用せずにクッション性,ファッション性を有する座席シート材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、電車等の座席シート材を始め各種椅子等のシート材は織物のモケット地、通常の織物地、起毛地や一部にダブルラッセル機を用いて編成した経編地をセンターカットした起毛経編地等が用いられてきたが、これらは通常、厚さが薄く、クッション性に欠けるところからウレタンフォームなどの発泡材と表面にファブリック、裏面にスプリング材を貼り合わせるのが一般的であった。
【0003】
ことに経編地の場合には強度も劣り生地厚さも限界があって発泡ポリウレタンフォームやスプリング材との貼りあわせは避けられなかった。しかし、上記の如く発泡ポリウレタンフォームを貼り合わせたものは廃棄焼却に際し有毒ガスが発生するなど、環境問題を有している。
【0004】
そこで発泡ポリウレタンフォームを用いず三層立体構造のシート材を両面丸編地により
作成することが提案されている。(例えば特許文献1参照)
このシート材は表地糸、裏地糸、該表地糸と裏地糸とを接結するつなぎ糸を有する三層構造から形成され、つなぎ糸が表地糸、裏地糸のニット編目の内側へ交互にタック編にて六角形状となるように接結された厚さが5〜15mmの編地である。
【特許文献1】特開2001−214346
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記提案に係るシート材は編地のみで形成され、発泡ポリウレタンフォームを使用しないものであるが、両面丸編機により編成されるため偏芯防止駆動軸や、編針フック形状、ニット及びタック位置を安定して取らせるカムの形状等の改良が必要であり、生産上煩雑で、やや難点を有している。
【0006】
本発明は上記実状に対処し、特に既存のダブルラッセル機を実質上使用し、糸の特性と糸量を探求することにより三層立体構造ダブルラッセル編地の改良を見出し、発泡ポリウレタンフォームをクッション材として貼り合わせ用いることなく、クッション性、スプリング性ならびに圧縮弾性回復性にすぐれ、強度も保持するシート材を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
即ち、上記目的に適合する本発明は、所要間隔を隔てて表裏夫々列をなして長さ方向(縦方向)に延びる並列された多数の編目列からなる編地と、該表裏編地の編目列間において両編目列を交互に、かつジグザグ状に連結する多数の連結糸からなる編地構造体であり、該編地構造体の表面側編目列を構成する糸は通常の編成に比し無緊張下、低張力で編成されて構造体の目付が少なくとも1000g/m2以上であり、表面側編目列は直交方向に多数の緯糸が挿入され、かつ、表裏の編目列を連結する連結糸は弾性回復性にすぐれ、強度大なる合成モノフィラメントが用いられていると共に、表面側編地には起毛が施され、全体としてスプリング性、クッション性、ファブリック性を有することを特徴とする車両用シート材にある。
【発明の効果】
【0008】
上記本発明によれば、表裏の編地ならびに表裏編地を連結する連結糸からなる三層一体の編物構造体において、表面側編地の糸を無緊張、低張力で編成して構造体の目付量を大ならしめているため起毛による強度低下もなく、ファブリック性が良好であり、しかも連結糸に圧縮弾性回復性にすぐれ、強度大なる合成モノフィラメントを使用しているため発泡ポリウレタンフォームを使用することなくスプリング性、クッション性が得られ、シート材として良好な特性を有して快適な座り心地を確保し、また上述の如く発泡ポリウレタンフォームを必要としないことから、該フォームの廃棄による有毒ガスの発生もなく、環境管理下におけるシート材として頗る有用性に富む効果を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、更に添付図面に基づいて本発明の実施形態を説明する。
【0010】
図1は本発明に係るシート材の一部を示す斜視図、図2はその断面拡大図であり、図において1,2は適宜、所要の間隔を隔てて表裏、夫々長さ方向(縦方向)に編成されて延びる編目列、例えば鎖編目列よりなる編目列3により形成された表裏の編地であり、その表面側編地には起毛6が施され、一方、裏面側の編目列3には略直交する方向に適宜、緯糸4が挿入されている。5は上記表裏の編地1,2における相対する編目列3間の互いに対向するループ間で交互にジグザグに係合して該表裏の編目列3を連結する連結糸である。そして本発明シート材は、これら編目列3の編成と、緯糸4の挿入ならびに連結糸5による連結が緯糸挿入装置付ダブルラッセル機を利用して一体に編成され表糸層,裏糸層,連結糸層の三層一体の編物構造体を形成している。
【0011】
即ち、上記ダブルラッセル機において、表面側(フロント側)のニードル列と、裏面側(バック側)のニードル列で夫々、例えば鎖編みを行って表裏の編目列3,3を編成しつつ適宜、裏面側には緯糸4を挿入して、表裏の編地1,2を形成する一方、表裏の上記編目列3間において適宜、ジグザグ位置の互いに対向する編目列を連結糸5により結接連結して上記三層一体の編地構造体が得られる。
【0012】
この構造体はX−Y軸方向の平面的編地1及び2と、両編地1,2を連結するZ軸方向の連結糸5による三軸構成を有して、三次元一体の構造を形成している。そして、この編地はその編成具合によって編地間の厚みや、巾、長さを適宜、調整が可能であり、任意にコントロールできる有利さを有している。
【0013】
なお、上記説明においては緯糸4挿入は裏面側の編目列のみになっているが、表面側編目に対し挿入することを妨げるものではない。また上記編成にあたり編目列形成糸と、挿入緯糸4及び連結糸5に用いられる糸素材は、適宜選択されるが、綿などの天然繊維の外、ナイロン、アラミド、ポリエステル、ポリアクリル系合成繊維などが使用可能であり、特に表裏の編目編成糸と緯糸には一般的にポリエステル糸の使用が好適である。しかし、一方、連結糸5としては強度があり、弾性回復性に優れている糸が好適である。
【0014】
この種の糸としては例えば芳香族ポリアミド、ポリテリメチレンテレフタレートモノフィラメント糸の如きものが挙げられる。なお、前記編目形成糸、緯糸はモノフィラメント糸に限らずマルチフィラメント糸でもよいが、マルチフィラメント糸や集束糸は爾後の表面起毛に有利であり、編地面の劣化を少なくする。また連結糸はモノフィラメント,マルチフィラメントあるいは集束糸も使用可能であるが、弾性回復機能、強度面よりしてモノフィラメントの使用が有効であり、とりわけ可及的多数のモノフィラメントによる集束
状態で連結糸層を形成することはクッション性,スプリング性を高める上から効果的である。
【0015】
そして、これら各糸の太さは、特に太、細を問わないが、シート材としてファブリック性を高めるために表面の起毛外観を形成するには、これに見合う太さが適当であり、通常、120〜200デニール前後、好ましくは150デニール前後が用いられる。
【0016】
しかして、本発明編地構造体はその特徴として編地の形成にあたって特に表面側編目を前述のように起毛するため張力を可及的低張力とし、無緊張状態下で編地の糸量を通常
の編地に比し多量使用するようにすることが肝要であり、従って構造体全体としては目付1000g/m2以上、好ましくは1250g/m2程度とすることが好適である。
【0017】
但し、表面起毛面の筬2枚分の重量としては300g/m2であり、通常は120g/m2位である。
【0018】
なお、上記構造体の目付は通常の編目列による編地の略3倍に匹敵する。また。連結糸についても使用する糸量が多いことは、構造体としての圧縮弾性回復性を良好にし、クッション性、スプリング性をよくする上で効果的であるが、特に多くすることは必要ではない。
【0019】
ここで糸量は単位あたりの糸の量であり、必ずしも糸の本数に限らず、単位あたりの糸の重量も考えられるが、糸の太さとの関係があり、全体としてシート材に適した糸の太さ、目付、糸の密度が選択される。
【0020】
一方、連結糸はシート材の厚みを決定する要素であり、シート材としてのクッション性を得るには不足であり、また余り厚くしてはシート材として座ったときに違和感を生じるので20mm以下とすることが好ましい。
【0021】
以下、本発明の実施例を掲げる。
【実施例】
【0022】
ダブルラッセル編機を用いてフロント側(表面側)に150デニールのポリエステル糸、バック側(裏面側)に同じく150デニールのポリエステル糸を使用し、縦方向に互いに並列する鎖編目列を巾方向にわたり編成すると共に、バック側に別にアラミド糸を芯とし低融点ポリエステルを鞘とした複合糸を緯糸として挿入する一方、表裏の両鎖編目列間にポリテリメチレンテレフタレートモノフィラメント糸を連結糸としてジグザグ状に編み付け、表糸層、連結糸層、裏糸層の三層からなる一体構造体を編成した。
【0023】
なお、上記の編成においてフロント側はバック側に比し編糸の張力を低くして殆ど無緊張状態で糸使用量を増やし、通常が目付ほぼ450g/m2程度であるのに対し本発明構造体では約3倍の1250g/m2とした。このとき、各層の糸の構成割合としては表面側のポリエステル糸が26%、連結糸が45%、裏面側のポリエステル糸が24%、緯糸が5%の割合であった。
【0024】
次いで、得られた上記三層一体の構造体の表面に対しファブリック性を良好ならしめるべくブラシ等により起毛を施すと共に、裏面側を加熱して熱融着させ、バッキング状に固定した。作成された三層一体の構造体は連結糸の有する弾性回復性により圧縮弾性回復に優れ、特に従来の如く表皮ファブリック、ウレタンフォーム、スプリング材の三層貼り合わせによるまでもなく、一体構造でクッション性、スプリング性を具備していた。
【0025】
また表面を起毛するも、従来に比し糸量が多いため、強度低下を来たすことなくファブリック性を保つことができた。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明シート材は主として自動車,電車等の車両用に用いて好適であるが、家庭内の椅子あるいは建屋内の応接セットを始め座席シート材としても利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明シート材の一部を示す斜視概要図である。
【図2】上記本発明シート材の横断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1,2:編地
3:編目列
4:緯糸
5:連結糸
6:起毛

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所要間隔を隔てて表裏夫々列をなして長さ方向に延びる並列された多数の編目列からなる編地と、該表裏編地の編目列間において両編目列を交互に、かつジグザグ状に連結する多数の連結糸からなる編地構造体であり、該編地構造体の表面編目列を構成する糸は通常の編成に比し無緊張、低張力で編成されて構造体の目付が少なくとも1000g/m2以上であり、裏面側編目列は直交方向の多数の緯糸が挿入され、かつ、表裏の編目列を連結する糸は弾性回復性にすぐれ、強度大なる合成モノフィラメントが用いられていると共に表面側編地には起毛が施され、全体としてスプリング性、クッション性、ファブリック性を有することを特徴とする車両等のシート材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−230592(P2006−230592A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−47302(P2005−47302)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(593046212)北陸エステアール協同組合 (13)
【Fターム(参考)】