説明

車両衝突判定装置

【課題】衝突相手の構造や材料の違いに拘わらず、高い衝突判定精度を安定して得ることができる車両衝突判定装置を提供する。
【解決手段】衝突時の衝撃を吸収する複数の吸収領域A1,A2が設けられたエクステンションフレーム111を有する車両100に生じる音響帯域の高周波振動と、該音響帯域より低い帯域の低周波振動とを検出する振動検出手段(音響センサ11及び加速度センサ12)と、エクステンションフレーム111に設けられた複数の吸収領域A1,A2のうちの何れか1つの吸収領域が潰れることにより得られる高周波振動及び低周波振動の検出結果に基づいてエアバッグ2の起動を必要とする衝突が発生したか否かを判定する衝突判定手段とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両衝突判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、車両衝突時に乗員を保護するためのシステムとして、SRS(Supplemental Restraint System)エアバッグシステムが知られている。このSRSエアバッグシステムとは、車両の各部に設置された加速度センサから取得した加速度データを基に、車両衝突の発生を検知してエアバッグ等の乗員保護装置を起動するものである。
【0003】
以下の特許文献1には、車両中央部に設置されたSRSユニット(SRSエアバッグシステムを統括制御するECU)内に設置されたユニットセンサに加えて、車両前部に設置された複数のフロントクラッシュセンサを備えるSRSエアバッグシステムが開示されている。このシステムでは、ユニットセンサとフロントクラッシュセンサとから得られる加速度データに基づいて、前面衝突(正面衝突、オフセット衝突、斜突を含む)が発生したか否かの判定を行い、その判定結果に応じて乗員保護装置の起動制御を行っている。
【0004】
また、近年では、音響センサを用いて衝突時の車体変形に起因して発生する衝撃音を検出し、その検出結果を基に衝突判定を行うCISS(Crash Impact Sound Sensing)技術の開発が進んでいる。以下の特許文献2には、バルク音波センサを用いて車両衝突時に車体要素(サイドメンバー)に発生するトランスバーサル方向のバルク音波の振れを検出し、その検出結果を基に衝突判定を行う技術が開示されている。
【0005】
尚、上述した加速度センサ及び音響センサは、共に振動を検出する振動センサに属するものであるが、検出対象振動の周波数帯域が異なる。一般的に、加速度センサは、周波数帯域0Hz〜400Hzの低周波振動を検出して加速度データとして出力し、音響センサは、周波数帯域5kHz〜20kHz(音響帯域)の高周波振動を検出して音響データとして出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−287203号公報
【特許文献2】特表2001−519268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した特許文献1において、ユニットセンサに加えてフロントクラッシュセンサを用いるのは、車両の衝突モードが、乗員保護装置の起動が必要なモードであるのか、或いは、乗員保護装置の起動が不要なモードであるのかを迅速且つ正確に判定するためである。尚、乗員保護装置の起動が必要な衝突モードは、例えば高速オフセット衝突であり、乗員保護装置の起動が不要な衝突モードは、例えば低速オフセット衝突である。
【0008】
具体的に、ユニットセンサは前面衝突時の車体変形が小さい車両中央部に設置されているため、衝突発生時点から衝突モードを正確に判別できる程の大きな差がセンサ出力に現れるまで長い時間(約40ms以上)を要する。ここで、乗員保護の観点から、乗員保護装置の起動は衝突発生時点から20〜30msの間であることが理想とされているため、ユニットセンサだけでは要求される乗員保護性能を満足できない。そこで、従来は、前面衝突時の車体変形が大きい車両前部にフロントクラッシュセンサを設けることで、迅速且つ正確な衝突判定を実現している。
【0009】
フロントクラッシュセンサはシステムコストの上昇を招く要因となっているため、SRSユニットに内蔵されたユニットセンサのみで衝突判定を行うことが理想であるが、上記のようにユニットセンサだけでは要求される乗員保護性能を満足できない。そこで、ユニットセンサとして加速度センサの代わりに音響センサを用いることで、フロントクラッシュセンサを不要とするシステムの構築が試みられている。音響センサから得られる音響データは、車体が変形(損壊)する特徴を捉えやすい傾向があり、衝突モードの判別も容易で、迅速且つ正確な衝突判定の実現に有効であると考えられる。
【0010】
しかしながら、衝突時に音響センサから得られる音響データは、自己の車両が損壊する音のみならず、衝突相手が関係する音(例えば、衝突時の打撃音や衝突相手が損壊する音)を含んだものである。ここで、衝突相手が関係する音の周波数成分や大きさは、衝突相手の構造や材質等に応じて大きく変化するため、衝突相手によって衝突判定精度が大きく変化するという問題があった。また、音響帯域の振動成分は、損壊した場所(車体衝突位置)からSRSユニットに届くまでの区間で減衰しやすく、且つ車体の構造上の違いから減衰の度合いも異なるため、衝突判定精度が安定しないという問題があった。
【0011】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、衝突相手の構造や材料の違いに拘わらず、高い衝突判定精度を安定して得ることができる車両衝突判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の車両衝突判定装置は、衝突時の衝撃を吸収する複数の吸収領域が設けられた拡張フレームを有する車両に生じる音響帯域の高周波振動と、該音響帯域より低い帯域の低周波振動とを検出する振動検出手段と、前記拡張フレームに設けられた複数の吸収領域のうちの何れか1つの吸収領域が潰れることにより得られる前記高周波振動及び低周波振動の検出結果に基づいて乗員保護装置の起動を必要とする衝突が発生したか否かを判定する衝突判定手段とを備えることを特徴としている。
ここで、本発明の車両衝突判定装置は、前記振動検出手段が、前記高周波振動として周波数帯域5kHz〜20kHzの振動を検出する第1振動センサと、前記低周波振動として周波数帯域0Hz〜400Hzの振動を検出する第2振動センサとを備えることを特徴としている。
或いは、本発明の車両衝突判定装置は、前記振動検出手段が、前記高周波振動及び低周波振動を含む広帯域振動を検出するものであり、前記振動検出手段によって検出された広帯域振動から前記高周波振動を抽出する第1抽出手段と、前記振動検出手段によって検出された広帯域振動から前記低周波振動を抽出する第2抽出手段とを備えることを特徴としている。
ここで、本発明の車両衝突判定装置は、前記第1抽出手段が、前記広帯域振動から前記高周波振動として周波数帯域5kHz〜20kHzの振動を抽出し、前記第2抽出手段が、前記広帯域振動から前記低周波振動として周波数帯域0Hz〜400Hzの振動を抽出することを特徴としている。
また、本発明の車両衝突判定装置は、前記衝突判定手段が、前記高周波振動の検出結果を基に第1演算値を算出する第1演算手段と、前記低周波振動の検出結果を基に第2演算値を算出する第2演算手段と、前記第1演算値を第1軸、前記第2演算値を第2軸とする2次元マップ上において、前記第1演算手段及び前記第2演算手段によって算出された前記第1演算値及び前記第2演算値が2次元衝突判定閾値を超えた場合に、前記乗員保護装置の起動を必要とする衝突が発生したと判定するマップ判定手段とを備えることを特徴としている。
或いは、本発明の車両衝突判定装置は、前記衝突判定手段が、前記高周波振動の検出結果を基に第1演算値を算出する第1演算手段と、前記低周波振動の検出結果を基に第2演算値を算出する第2演算手段と、前記第1演算値が第1衝突判定閾値を超え、且つ前記第2演算値が第2衝突判定閾値を超えた場合に、前記乗員保護装置の起動を必要とする衝突が発生したと判定する閾値判定手段とを備えることを特徴としている。
また、本発明の車両衝突判定装置は、前記低周波振動の検出結果を基にセーフィング判定を行うセーフィング判定手段と、前記衝突判定手段の衝突判定結果及び前記セーフィング判定手段のセーフィング判定結果に基づいて、最終的に前記乗員保護装置の起動を必要とする衝突が発生したか否かを判定する最終判定手段とを備えることを特徴としている。
また、本発明の車両衝突判定装置は、前記拡張フレームが、前記吸収領域の境界部分にリブ又は孔が形成されて車両の前部に設置される筒状のフレームであることを特徴としている。
或いは、本発明の車両衝突判定装置は、前記拡張フレームが、前記複数の吸収領域が互いに異なる材料又は構造とされて車両の前部に設置される筒状のフレームであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、衝突相手の構造や材料の違いに拘わらず、高い衝突判定精度を安定して得ることができるという効果がある。つまり、本発明によると、乗員保護装置の起動を必要とする衝突(高速オフセット衝突を含む、車体変形を伴う激しい衝突)と、乗員保護装置の起動が不要な衝突(低速オフセット衝突を含む、車体変形が軽微な穏やかな衝突、及び飛石等による局所打撃)とを、衝突相手の構造や材料の違いに拘わらず、高い衝突判定精度で安定して判別することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態におけるSRSエアバッグシステムを備える車両の概略構成を示す平面図である。
【図2】本発明の第1実施形態におけるSRSユニットの要部構成を示すブロック図である。
【図3】衝突判定に用いられる2次元マップ並びに高速オフセット衝突時及び低速オフセット衝突時にそれぞれ得られる音響データS(t)の時間変化を示す図である。
【図4】本発明の第2,第3実施形態におけるSRSユニットの要部構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の実施形態による車両衝突判定装置について詳細に説明する。
【0016】
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態におけるSRSエアバッグシステムを備える車両の概略構成を示す平面図である。図1(a)に示す通り、車両100に設けられるSRSエアバッグシステムは、車両100の中央部に設置されたSRSユニット1(車両衝突判定装置)と、車両100の運転席及び助手席にそれぞれ設置されたエアバッグ2(乗員保護装置)とから構成されている。
【0017】
SRSユニット1は、内蔵する音響センサ11及び加速度センサ12の出力信号に基づいて、車両100に前面衝突が発生したか否かの判定(衝突判定)を行い、その衝突判定結果に応じてエアバッグ2の起動制御を行うECU(Electronic Control Unit)である。エアバッグ2は、SRSユニット1からの点火信号に応じて展開し、車両100の前面衝突により乗員が前方に2次衝突することで負う傷害を軽減する乗員保護装置である。尚、一般的に、車両100には、エアバッグ2の他にシートベルトプリテンショナ等の他の乗員保護装置も設けられているが、図1(a)では図示を省略している。
【0018】
ここで、図1(a)に示す通り、車両100の前部(右前部及び左前部)には、衝突時の衝撃を吸収するエクステンションフレーム111(拡張フレーム)が設けられている。このエクステンションフレーム111は、衝突時の衝撃を吸収する複数の吸収領域A1,A2が設けられた筒状の部材であり、車両100の前後方向(図1(a)中のX方向)に延びるフレーム110の先端部に、前方に突出した状態に取り付けられている。エクステンションフレーム111は、車両100が前面衝突した場合に、吸収領域A1,A2のうちの何れか一方が潰れた後で何れか他方が潰れるように構成されている。尚、以下では、理解を容易にするために、エクステンションフレーム111は、吸収領域A1が潰れた後に吸収領域A2が潰れるものとする。
【0019】
エクステンションフレーム111に複数の吸収領域A1,A2領域を設けるのは、衝突相手の構造や材料の違いに拘わらず、高い衝突判定精度を安定して得るためである。つまり、エクステンションフレーム111の吸収領域A1が潰れる間に音響センサ11から得られる音響データ(衝突相手の構造や材料に依存する周波数成分を含む音響データ)を排除し、吸収領域A1が潰れることにより音響センサ11から得られる音響データを用いて衝突判定を行うことで、高い衝突判定精度を得るようにしている。
【0020】
ここで、エクステンションフレーム111の吸収領域A1は完全に潰れてしまうと剛体になるため、吸収領域A1が潰れることにより、剛体(吸収領域A1)が吸収領域A2に衝突することによって吸収領域A2が潰れ始めることになる。吸収領域A1の潰れによって形成される剛体は材料が既知であり、剛体が衝突する吸収領域A2は構造及び材料が既知であるため、吸収領域A1が潰れることにより、衝突相手の構造や材料に依存しない既知の周波数成分が含まれる音響データが音響センサ11から得られることになる。よって、この音響データを用いて衝突判定を行えば、高い衝突判定精度を得ることができる。
【0021】
図1(b),(c)は、車両100のエクステンションフレームを模式的に示す平面図である。図1(b)に示すエクステンションフレーム111は、側面にリブ加工又は孔あけ加工がされることによって複数の吸収領域A1,A2が設けられている。尚、図1(a)に示す例では、吸収領域A1,A2の境界部分に孔Hが形成されることによって、複数の吸収領域A1,A2が設けられている。
【0022】
図1(c)に示すエクステンションフレーム111は、先端部と根本部が互いに異なる材料又は構造体で形成されることによって複数の吸収領域A1,A2が設けられている。図1(b),(c)に示すエクステンションフレーム111の何れを用いるかは、コスト等を考慮して適宜決定される。尚、本実施形態ではエクステンションフレーム111に2つの吸収領域A1,A2が設けられている例について説明するが、3つ以上の吸収領域が設けられていても良い。
【0023】
図2は、本発明の第1実施形態におけるSRSユニットの要部構成を示すブロック図である。図2に示す通り、SRSユニット1は、音響センサ11(第1振動センサ)、加速度センサ12(第2振動センサ)、メイン衝突判定部13(衝突判定手段)、セーフィング判定部14(セーフィング判定手段)、及びAND部15(最終判定手段)を備えている。
【0024】
音響センサ11は、SRSユニット1に内蔵された振動センサであり、車両100の前後方向(図1(a)中のX方向)に生じる音響帯域の高周波振動を検出し、その検出結果を音響データS(t)としてメイン衝突判定部13に出力する。具体的に、音響センサ11は、周波数帯域5kHz〜20kHzの振動(構造音響)を検出する。この音響センサ11から得られる音響データS(t)は、前面衝突によって車両100が変形(損壊)する特徴をよく捉えたものである。
【0025】
加速度センサ12は、SRSユニット1に内蔵された振動センサであり、車両100の前後方向に生じる、音響帯域より低い帯域の低周波振動を検出し、その検出結果を加速度データG(t)としてメイン衝突判定部13及びセーフィング判定部14に出力する。具体的に、加速度センサ12は、周波数帯域0Hz〜400Hzの振動を検出する。この加速度センサ12から得られる加速度データG(t)は、前面衝突によって車両100に生じる減速度をよく捉えたものである。
【0026】
このように、音響センサ11及び加速度センサ12は、共に振動を検出する振動センサに属するものであるが、検出対象振動の周波数帯域が異なる。これら音響センサ11及び加速度センサ12は、本発明における振動検出手段を構成している。尚、音響センサ11及び加速度センサ12は、図1(a)に示す通りSRSユニット1内に別個に設けられていても良く、或いは、1つのセンサセル内に内蔵されていても良い。
【0027】
メイン衝突判定部13は、第1演算部13a(第1演算手段)、第2演算部13b(第2演算手段)、及びマップ判定部13c(マップ判定手段)を備える構成である。かかる構成のメイン衝突判定部13は、音響センサ11からの音響データS(t)及び加速度センサ12からの加速度データG(t)に基づいて、エアバッグ2の展開(起動)を必要とする衝突が発生したか否かを判定する。
【0028】
第1演算部13aは、音響センサ11からの音響データS(t)に平均化処理を施すことで音響平均値Sa(第1演算値)を算出し、その算出結果をマップ判定部13cに出力する。尚、音響データS(t)の平均化処理としては、移動平均処理、積分処理、或いはローパスフィルタリング処理等を用いることができる。
【0029】
第2演算部13bは、加速度センサ12からの加速度データG(t)を一次積分することで速度変化量ΔV(第2演算値)を算出し、その算出結果をマップ判定部13cに出力する。尚、加速度データG(t)を二次積分して移動変化量ΔSを算出し、この移動変化量ΔSを速度変化量ΔVの代わりにマップ判定部13cに出力するようにしても良い。
【0030】
マップ判定部13cは、第1演算部13a及び第2演算部13bによってそれぞれ算出された音響平均値Sa及び速度変化量ΔVに基づいて、エアバッグ2の展開を必要とする衝突が発生したか否かを判定する。具体的には、図3(a)に示す通り、音響平均値Saを縦軸、速度変化量ΔVを横軸とする2次元マップ上において、音響平均値Sa及び速度変化量ΔVが2次元的に設定された2次元衝突判定閾値THを超えた場合に、エアバッグ2の展開を必要とする衝突が発生したと判定し、そのマップ判定結果をAND部15に出力する。
【0031】
2次元マップ上における2次元衝突判定閾値THの設定手法は以下の通りである。前述した通り、音響センサ11から得られる音響データS(t)は、車体が変形(損壊)する特徴を捉えやすい傾向があり、高速オフセット衝突と低速オフセット衝突との判別も容易で、迅速且つ正確な衝突判定の実現に有効である。図3(b)は、高速オフセット衝突時及び低速オフセット衝突時に音響センサ11から得られる音響データS(t)の時間変化をそれぞれ示す図である。
【0032】
図3(b)に示す通り、高速オフセット衝突時には、衝突発生時点(時刻0)から約10〜15msの間に最初の大きなピークP1が現れ、衝突発生時点から約20〜30msの間に次の大きなピークP2が現れる音響データS(t)が得られる。ここで、最初の大きなピークP1には、図1(a)に示すエクステンションフレーム111の吸収領域A1が潰れる間に現れるピークP11と、吸収領域A2が潰れる間に現れるピークP12とが含まれる。これに対し、低速オフセット衝突時には、衝突発生時点から約18ms程度経過した時点で最初の大きなピークP3が現れる。
【0033】
図3(b)を参照すると、高速オフセット衝突時に得られる音響データS(t)のピークP11は、低速オフセット衝突時に得られる音響データS(t)のピークP3とほぼ同じ大きさであるが、高速オフセット衝突時に得られる音響データS(t)のピークP12は、ピークP3よりも大きさが十分に大きいことが分かる。ここで、エクステンションフレーム111の吸収領域A1が潰れる間に生ずるピークP11の大きさは、衝突相手の構造や材料に依存して変化することから、ピークP11を排除してピークP12を用いて衝突判定を行うことで、高速オフセット衝突と低速オフセット衝突とを正確に判別することが可能になる。
【0034】
従って、図3(a)に示す2次元マップ上において、横軸方向に延びる2次元衝突判定閾値TH(TH1)は、図3(b)に示すピークP11を排除しつつ、ピークP12を用いた衝突判定が可能な値に設定されている。つまり、2次元衝突判定閾値TH(TH1)は、衝突相手の構造や材料を考慮したピークP11の最大値よりも大きく、エクステンションフレーム111の吸収領域A1が潰れることにより得られるピークP12の最大値以下の値に設定される。
【0035】
尚、速度変化量ΔVが大きくなるほど、車両100に発生する構造音響が大きくなるので、仮に横軸方向に延びる2次元衝突判定閾値TH(TH1)を一定値とすると、本来ならばエアバッグ2の展開が不要な衝突が発生しているにも拘わらず、エアバッグ2の展開を必要とする衝突が発生したと誤判定する可能性がある。そこで、このような誤判定を防止するために、図3(a)に示す通り、横軸方向に延びる2次元衝突判定閾値TH(TH1)は、速度変化量ΔVが大きくなるほど高くなるように設定することが望ましい。
【0036】
一方、音響センサ11から得られる音響データS(t)は、車体変形を伴わない飛石等による局所打撃音を多く含んでいるため、エアバッグ2の展開が必要な衝突による衝撃音と、エアバッグ2の展開が不要な局所打撃音とを正確に判別する必要がある。このような衝突による衝撃音と飛石等による局所打撃音との判別には、加速度センサ12から得られる加速度データG(t)を利用することができる。衝突による衝撃音が発生した場合には大きな減速度が生じるが、飛石等による局所打撃音が発生した場合には小さな減速度が生じるのみである。
【0037】
つまり、図3(a)に示す2次元マップ上において、縦軸方向に延びる2次元衝突判定閾値TH(TH2)は、エアバッグ2の展開を必要とする衝突(車体変形を伴う激しい衝突)と、エアバッグ2の展開が不要な衝突(飛石等による局所打撃)とを判別できるような値に設定されている。尚、飛石等による局所打撃音が大きくなっても、それによる減速度に大きな変化はないため、縦軸方向に延びる2次元衝突判定閾値TH(TH2)は、音響平均値Saに対して一定値に設定すれば良い。
【0038】
以上のような手法で2次元マップ上に2次元衝突判定閾値THを設定することにより、2次元マップ上には、エアバッグ2の展開を行うエアバッグ展開領域と、エアバッグ2の展開を行わないエアバッグ非展開領域とが形成される。つまり、図2に示すマップ判定部13cは、第1演算部13aにて算出された音響平均値Saが2次元衝突判定閾値TH(TH1)を超え、且つ第2演算部13bにて算出された速度変化量ΔVが2次元衝突判定閾値TH(TH2)を超えた場合(言い換えれば、音響平均値Saと速度変化量ΔVとの交点がエアバッグ展開領域に含まれている場合)に、エアバッグ2の展開を必要とする衝突が発生したと判定する。
【0039】
図2に戻り、セーフィング判定部14は、加速度センサ12から入力される加速度データG(t)を基にセーフィング判定を行い、そのセーフィング判定結果をAND部15に出力する。具体的に、セーフィング判定部14は、加速度データG(t)の一次積分値(或いは二次積分値でも良い)とセーフィング判定閾値とを比較し、一次積分値がセーフィング判定閾値より大きい場合に、エアバッグ2の展開を必要とする衝突が発生したと判定する。尚、セーフィング判定閾値は、ある程度大きな衝突(大きな減速度)が発生すれば確実にエアバッグ2が展開されるよう、安全方向に振った値(比較的低い値)に設定されている。
【0040】
AND部15は、メイン衝突判定部13の衝突判定結果(マップ判定結果)、及びセーフィング判定部14のセーフィング判定結果に基づいて、最終的にエアバッグ2の展開を必要とする衝突が発生したか否かを判定し、その衝突判定結果を出力する。具体的に、AND部15は、メイン衝突判定部13及びセーフィング判定部14の両方でエアバッグ2の展開を必要とする衝突が発生したと判定された場合に、最終的にエアバッグ2の起動を必要とする衝突が発生したと判定する。
【0041】
このように構成されたSRSユニット1は、エアバッグ2の展開を必要とする衝突(高速オフセット衝突を含む、車体変形を伴う激しい衝突)と、エアバッグ2の展開が不要な衝突(低速オフセット衝突を含む、車体変形が軽微な穏やかな衝突、及び飛石等による局所打撃)とを、衝突相手の構造や材料の違いに拘わらず、迅速且つ正確に判別できる。また、図3(a)に示した2次元マップを衝突判定に用いることにより、2次元的な閾値設定が可能となり、衝突判定精度の向上(乗員保護性能の向上)を図ることができる。
【0042】
〔第2実施形態〕
図4(a)は、本発明の第2実施形態におけるSRSユニットの要部構成を示すブロック図である。尚、以下では、第1実施形態と異なる点に着目して説明し、第1実施形態と同様の構成要素には同一符号を付して説明を省略する。図4(a)に示す通り、本実施形態におけるSRSユニット1Aは、第1実施形態におけるSRSユニット1のメイン衝突判定部13をメイン衝突判定部16に代えた構成である。
【0043】
メイン衝突判定部16は、第1演算部16a(第1演算手段)、第2演算部16b(第2演算手段)、第1比較部16c、第2比較部16d、及びAND部16eを備えており、音響センサ11からの音響データS(t)及び加速度センサ12からの加速度データG(t)に基づいて、エアバッグ2の展開を必要とする衝突が発生したか否かを判定する。尚、上記の構成要素のうち、第1比較部16c、第2比較部16d、及びAND部16eは、本発明における閾値判定手段を構成するものである。
【0044】
第1演算部16aは、音響センサ11からの音響データS(t)に平均化処理を施すことで音響平均値Sa(第1演算値)を算出し、その算出結果を第1比較部16cに出力する。第2演算部16bは、加速度センサ12からの加速度データG(t)を一次積分することで速度変化量ΔV(第2演算値)を算出し、その算出結果を第2比較部16dに出力する。尚、加速度データG(t)を二次積分して移動変化量ΔSを算出し、その算出結果を第2比較部16dに出力しても良い。
【0045】
第1比較部16cは、第1演算部16aからの音響平均値Saが第1衝突判定閾値Sathを超えたか否かを判定し、その比較判定結果をAND部16eに出力する。第2比較部16dは、第2演算部16bからの速度変化量ΔVが第2衝突判定閾値ΔVthを超えたか否かを判定し、その比較判定結果をAND部16eに出力する。AND部16eは、第1比較部16c及び第2比較部16dによって、音響平均値Saが第1衝突判定閾値Sathを超え、且つ速度変化量ΔVが第2衝突判定閾値ΔVthを超えたと判定された場合に、エアバッグ2の展開を必要とする衝突が発生したか否かを判定し、その衝突判定結果をAND部15に出力する。
【0046】
ここで、第1衝突判定閾値Sathは、図3(b)に示すピークP11を排除しつつ、ピークP12を用いた衝突判定が可能な値に設定されている。つまり、第1衝突判定閾値Sathは、衝突相手の構造や材料を考慮したピークP11の最大値よりも大きく、エクステンションフレーム111の吸収領域A1が潰れることにより得られるピークP12の最大値以下の値に設定される。また、第2衝突判定閾値ΔVthは、エアバッグ2の展開を必要とする衝突(車体変形を伴う激しい衝突)と、エアバッグ2の展開が不要な衝突(飛石等による局所打撃)とを判別できるような値に設定されている。
【0047】
このように構成されたSRSユニット1Aも、第1実施形態のSRSユニット1と同様に、エアバッグ2の展開を必要とする衝突(高速オフセット衝突を含む、車体変形を伴う激しい衝突)と、エアバッグ2の展開が不要な衝突(低速オフセット衝突を含む、車体変形が軽微な穏やかな衝突、及び飛石等による局所打撃)とを、衝突相手の構造や材料の違いに拘わらず、迅速且つ正確に判別できる。
【0048】
〔第3実施形態〕
図4(b)は、本発明の第3実施形態におけるSRSユニットの要部構成を示すブロック図である。尚、以下では、第1,第2実施形態と異なる点に着目して説明し、第1,第2実施形態と同様の構成要素には同一符号を付して説明を省略する。図4(b)に示す通り、本実施形態におけるSRSユニット1Bは、振動センサ20(振動検出手段)、BPF(バンドパスフィルタ)21(第1抽出手段)、LPF(ローパスフィルタ)22(第2抽出手段)、第1実施形態と同様のメイン衝突判定部13(第2実施形態と同様のメイン衝突判定部16でも良い)、並びに第1及び第2実施形態と同様のセーフィング判定部14及びAND部15を備えている。
【0049】
振動センサ20は、車両100の前後方向に生じる広帯域振動(例えば、周波数帯域0Hz〜30kHzの振動)を検出し、その検出結果を振動データVb(t)としてBPF21及びLPF22に出力する。BPF21は、振動センサ20からの振動データVb(t)から音響帯域の高周波振動を抽出し、その抽出結果(高周波振動の検出結果)を音響データS(t)としてメイン衝突判定部13へ出力する。具体的に、BPF21は、振動データVb(t)から周波数帯域5kHz〜20kHzの振動(構造音響)を抽出する。LPF22は、振動センサ20からの振動データVb(t)から音響帯域より低い帯域の低周波振動を抽出し、その抽出結果(低周波振動の検出結果)を加速度データG(t)としてメイン衝突判定部13及びセーフィング判定部14へ出力する。具体的に、LPF22は、振動データVb(t)から周波数帯域0Hz〜400Hzの振動を抽出する。
【0050】
このように、本実施形態では、第1及び第2実施形態で用いられていた2つの振動センサ(音響センサ11及び加速度センサ12)に代えて、周波数帯域0Hz〜30kHzの広帯域振動を検出することが可能な振動センサ20を1つだけ用いている。そして、振動センサ20の検出結果からLPF22によって抽出した周波数帯域0Hz〜400Hzの振動成分を加速度データG(t)として利用するとともに、振動センサ20の検出結果からBPF21によって抽出した周波数帯域5kHz〜20kHzの振動成分を音響データS(t)として利用している。かかる構成のSRSユニット1Bにおいても、第1及び第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0051】
〔変形例〕
本発明は上記実施形態に制限される訳ではなく、本発明の範囲内で自由に変更が可能である。例えば、上記実施形態では、音響帯域の高周波振動として周波数帯域5kHz〜20kHzの振動(構造音響)を検出するとともに、音響帯域より低い帯域の低周波振動として周波数帯域0Hz〜400Hzの振動を検出する場合を例示したが、検出対象振動の周波数帯域はこれに限定されず、車両100の構造や要求される乗員保護性能に応じて適宜設定すれば良い。つまり、高周波振動の周波数帯域は、前面衝突によって車両100が変形(損壊)する特徴(構造音響)を捕捉可能であれば良く、低周波振動の周波数帯域は、前面衝突によって車両100に生じる減速度を捕捉可能であれば良い。
【符号の説明】
【0052】
1,1A,1B…SRSユニット(車両衝突判定装置)、2…エアバッグ(乗員保護装置)、11…音響センサ(第1振動センサ)、12…加速度センサ(第2振動センサ)、13,16…メイン衝突判定部(衝突判定手段)、13a,16a…第1演算部(第1演算手段)、13b,16b…第2演算部(第2演算手段)、13c…マップ判定部(マップ判定手段)、14…セーフィング判定部(セーフィング判定手段)、15…AND部(最終判定手段)、16c…第1比較部(閾値判定手段)、16d…第2比較部(閾値判定手段)、16e…AND部(閾値判定手段)、20…振動センサ(振動検出手段)、21…BPF(第1抽出手段)、22…LPF(第2抽出手段)、100…車両、111…エクステンションフレーム(拡張フレーム)、A1,A2…吸収領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衝突時の衝撃を吸収する複数の吸収領域が設けられた拡張フレームを有する車両に生じる音響帯域の高周波振動と、該音響帯域より低い帯域の低周波振動とを検出する振動検出手段と、
前記拡張フレームに設けられた複数の吸収領域のうちの何れか1つの吸収領域が潰れることにより得られる前記高周波振動及び低周波振動の検出結果に基づいて乗員保護装置の起動を必要とする衝突が発生したか否かを判定する衝突判定手段と
を備えることを特徴とする車両衝突判定装置。
【請求項2】
前記振動検出手段は、
前記高周波振動として周波数帯域5kHz〜20kHzの振動を検出する第1振動センサと、
前記低周波振動として周波数帯域0Hz〜400Hzの振動を検出する第2振動センサと
を備えることを特徴とする請求項1記載の車両衝突判定装置。
【請求項3】
前記振動検出手段は、前記高周波振動及び低周波振動を含む広帯域振動を検出するものであり、
前記振動検出手段によって検出された広帯域振動から前記高周波振動を抽出する第1抽出手段と、
前記振動検出手段によって検出された広帯域振動から前記低周波振動を抽出する第2抽出手段と
を備えることを特徴とする請求項1記載の車両衝突判定装置。
【請求項4】
前記第1抽出手段は、前記広帯域振動から前記高周波振動として周波数帯域5kHz〜20kHzの振動を抽出し、
前記第2抽出手段は、前記広帯域振動から前記低周波振動として周波数帯域0Hz〜400Hzの振動を抽出する
ことを特徴とする請求項3記載の車両衝突判定装置。
【請求項5】
前記衝突判定手段は、
前記高周波振動の検出結果を基に第1演算値を算出する第1演算手段と、
前記低周波振動の検出結果を基に第2演算値を算出する第2演算手段と、
前記第1演算値を第1軸、前記第2演算値を第2軸とする2次元マップ上において、前記第1演算手段及び前記第2演算手段によって算出された前記第1演算値及び前記第2演算値が2次元衝突判定閾値を超えた場合に、前記乗員保護装置の起動を必要とする衝突が発生したと判定するマップ判定手段と
を備えることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の車両衝突判定装置。
【請求項6】
前記衝突判定手段は、
前記高周波振動の検出結果を基に第1演算値を算出する第1演算手段と、
前記低周波振動の検出結果を基に第2演算値を算出する第2演算手段と、
前記第1演算値が第1衝突判定閾値を超え、且つ前記第2演算値が第2衝突判定閾値を超えた場合に、前記乗員保護装置の起動を必要とする衝突が発生したと判定する閾値判定手段と
を備えることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか一項に記載の車両衝突判定装置。
【請求項7】
前記低周波振動の検出結果を基にセーフィング判定を行うセーフィング判定手段と、
前記衝突判定手段の衝突判定結果及び前記セーフィング判定手段のセーフィング判定結果に基づいて、最終的に前記乗員保護装置の起動を必要とする衝突が発生したか否かを判定する最終判定手段と
を備えることを特徴とする請求項1から請求項6の何れか一項に記載の車両衝突判定装置。
【請求項8】
前記拡張フレームは、前記吸収領域の境界部分にリブ又は孔が形成されて車両の前部に設置される筒状のフレームであることを特徴とする請求項1から請求項7の何れか一項に記載の車両衝突判定装置。
【請求項9】
前記拡張フレームは、前記複数の吸収領域が互いに異なる材料又は構造とされて車両の前部に設置される筒状のフレームであることを特徴とする請求項1から請求項7の何れか一項に記載の車両衝突判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−112118(P2013−112118A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259220(P2011−259220)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(000141901)株式会社ケーヒン (1,140)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)