説明

車両補強用中空部材

【課題】接合部信頼性、エネルギーコスト、表面性状、製品形状の各点で有利に製造できる、車両補強用中空部材を提供する。
【解決手段】C:0.05〜0.20質量%、Si:0.5〜2.0質量%、Mn:1.0〜3.0質量%、P:0.1質量%以下、S:0.01質量%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であり、フェライト相とマルテンサイト相との2相組織又は該2相と残留オーステナイト相との3相組織をなし、引張強度が980MPa以上である電縫鋼管を素管に用い、該素管の管長さ方向の一部分における管周方向の全域若しくは一部に対し500〜750℃に加熱後室温まで冷却する熱処理を施してなり、該熱処理部3(若しくは3A)の引張強度が未熱処理部4に比し200MPa以上低く、且つ、前記熱処理部の引張強度と伸びの積が14000MPa・%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両補強用中空部材に関する。本発明にいう車両補強用中空部材とは、自動車骨格部品の中でも特に部品長さ方向に曲がりを有する車両補強用部品例えばAピラー・リンフォースメントのような部品の素材として、曲げ加工されて当該部品とされる中空部材であって、部材長さ方向において曲げ加工される部位がその他の部位よりも軟質で曲げ加工性が良好であり、且つその他の部位では十分な部材強度(ひいては部品強度)が確保される中空部材の事である。
【背景技術】
【0002】
上記車両補強用中空部材を得る方法としては、強度の異なる鋼板をテーラード溶接したものを管素材として造管してテーラードチューブとなす方法(特許文献1)がある。又、鋼管ではないが、形材においては全体の一部と他部とで強度差をつけるために部分領域毎に焼入れする方法(特許文献2)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−314102号公報
【特許文献2】特表2010−539326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
テーラードチューブを得る方法では、電縫溶接部以外にも接合部としてテーラード溶接部を有するため、接合部信頼性が十分でない。又、部分焼入れによる方法は、高温域(オーステナイト域)への加熱を要し、エネルギーコストが高い、酸化スケールによる肌荒れが大きい、熱歪みにより変形が生じる、などの問題がある。これらの点が課題であった。
本発明は、接合部信頼性、エネルギーコスト、表面性状、製品形状の各点で有利に製造できる、車両補強用中空部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決した本発明は、次のとおりである。
(1) C:0.05〜0.20質量%、Si:0.5〜2.0質量%、Mn:1.0〜3.0質量%、P:0.1質量%以下、S:0.01質量%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であり、フェライト相とマルテンサイト相との2相組織又は該2相と残留オーステナイト相との3相組織をなし、引張強度が980MPa以上である電縫鋼管を素管に用い、該素管の管長さ方向の一部分における管周方向の全域若しくは一部に対し500〜750℃に加熱後室温まで冷却する熱処理を施してなり、該熱処理部の引張強度が未熱処理部に比し200MPa以上低く、且つ、前記熱処理部の引張強度と伸びの積が14000MPa・%以上であることを特徴とする車両補強用中空部材。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、例えばAピラー・リンフォースメントのような車両補強用部品の素材としての車両補強用中空部材を、接合部信頼性、エネルギーコスト、表面性状、製品形状の各点で有利に製造できる。即ち、本発明では電縫鋼管である素管の長さ方向の一部分における管周方向の一部若しくは全域に500〜750℃加熱後冷却という熱処理を施すから、テーラード溶接部の如き余分な接合部を含まない分だけ接合部信頼性に優れ、又、焼入れ強化に比べて低温で熱処理する分、エネルギーコストは下がり、酸化スケール及び熱変形の悪影響は軽減する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の実施例1を示す概略図である。
【図2】実施例1における(a)曲げ加工要領及び(b)引張試験採取位置を示す概略図である。
【図3】本発明の実施例2を示す概略図である。
【図4】実施例2における(a)曲げ加工要領及び(b)引張試験採取位置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明では、部品長さ方向に曲がりを有する車両補強用部品の素材への要求性能を満たすべく、上記構成を採用した。以下、本発明に係る各要件の限定理由を説明する。
[化学組成]
(C:0.05〜0.20質量%)
Cは、電縫鋼管の強度を向上させるとともに、優れた加工性を付与するに必要な残留オーステナイト相を生成させる作用を有する。C含有量が0.05質量%未満ではこれらの効果が得られない。一方、0.20質量%超では電縫鋼管の強度が過剰に上昇し、加工性が劣化する。よって、C:0.05〜0.20質量%とする。
【0009】
(Si:0.5〜2.0質量%)
Siは、固溶強化によって電縫鋼管のTSと伸び(略称EL)のバランスを改善するとともに、フェライト変態を促進してフェライト相を生成させ、且つ残留オーステナイト相にCを濃化する作用を有する。残留オーステナイト相はCの濃化によって安定する。Si含有量が0.5質量%未満ではこれらの効果が得られない。一方、2.0質量%を超えると鋼帯の製造過程中の熱間圧延にてスケールが発生し易くなり、ひいては冷延後の肌荒れを招き、電縫鋼管の表面性状が劣化する。よって、Si:0.5〜2.0質量%とする。
【0010】
(Mn:1.0〜3.0質量%)
Mnは、管素材に用いる冷延鋼板の焼入れ性を改善し、残留オーステナイト相を安定化する作用を有する。Mn含有量が1.0質量%未満ではこれらの効果が得られない。一方、3.0質量%を超えると電縫鋼管の強度が過剰に上昇し、加工性が劣化する。よって、Mn:1.0〜3.0質量%とする。
【0011】
(P:0.1質量%以下)
Pは、フェライト変態を促進してフェライト相を生成させる作用を有する。然しP含有量が0.1質量%を超えると電縫鋼管の延性が低下し、加工性が劣化する。よって、P:0.1質量%以下とする。
(S:0.01質量%以下)
Sは、他の元素と結合して硫化物を生成する。S含有量が0.01質量%を超えるとその硫化物は電縫鋼管の組織中で凝集し、介在物となって電縫鋼管の強度を低下させる原因となる。よって、S:0.01質量%以下とする。
【0012】
上記成分を除いた残部はFe及び不可避的不純物である。
[素管のTS≧980MPa]
素管のTSが980MPa未満であると、車両補強用中空部材の強度特性が不十分であるため、TS≧980MPaとする。
[素管の組織]
素管の組織は、TS980MPa級以上の高強度と十分な延性を確保するために、フェライト相とマルテンサイト相との2相組織が好ましく、又、延性をさらに高くするためには前記2相に残留オーステナイト相を加えた3相組織が好ましい。この2相乃至3相の相比率は、フェライト相:20〜60体積%、マルテンサイト相:40〜80体積%、残留オーステナイト相:0〜15体積%が好ましい。
【0013】
尚、素管とする電縫鋼管は、上記組成の冷延鋼帯を連続焼鈍工程にて焼入れ処理し、得られたTS980MPa以上の鋼帯を素材とし、これを管状にロール成形し、形成した被溶接衝合端部を電縫溶接する方法(即ち、通常の電縫溶接法)により、製造される。
[管体の熱処理]
(加熱温度:500〜750℃)
加熱温度が500℃未満では加熱保持時間が数秒以下の短時間加熱でΔ200MPa(TS低下分で200MPa)以上の軟質化を達成する事が困難であり、一方、750℃超では、水冷環境下で冷却速度が速い場合、焼入れ処理となり軟質化させることが困難となるばかりか、TS×ELバランスが14000MPa・%未満となり延性が低下する。又、加熱温度が高め、加熱保持時間が長め、冷却速度が遅めの場合、熱伝導により所定部分以外の軟質化領域が増加し、軟質化領域の明瞭な区分けができなくなる。よって、加熱温度:500〜750℃とする。
【0014】
加熱保持時間は数秒以下とし、TS980MPa以上を確保する領域(未熱処理部)の温度が450℃以上に熱伝導で上昇しないように所定部分(熱処理施工部)を加熱することが望ましい。
加熱手段は、誘導加熱、レーザー加熱などエネルギー密度が高く、所定部位のみを短時間で加熱できる手段が望ましい。
【0015】
ガス冷却又は液体冷却しながら加熱する事により所定部以外の温度上昇を抑制することができる。
加熱により生成したスケールが問題となる場合には、後工程でショットブラスト、酸洗などにより除去する。又は、不活性ガス雰囲気下で加熱することにより生成が抑制される。
【0016】
[軟質化:Δ200MPa以上]
Δ200MPa未満では、熱処理コストに対して、車両補強用中空部材としての機能が小さくなる。つまり、無垢の鋼管とのコスト・性能比較で優位性がない。
上限はΔ600MPa程度とするのが望ましい。Δ600MPa程度を超えて軟質化しようとすると、加熱温度を高くする、加熱保持時間を長くする、冷却速度を速くする、の少なくとも何れか1つの措置をとらねばならず、熱伝導により所定部分以外の軟質化領域が増加し、軟質化領域の明瞭な区分けが困難となる。
【0017】
[TS×EL≧14000MPa・%]
TS×ELが14000MPa・%未満では、軟質化部(熱処理部)の延性が不足し部品設計の自由度が小さくなる。本発明規定の組成及び組織の電縫鋼管に本発明規定の熱処理を施すことで、TS×EL≧14000MPa・%が達成できる。
【実施例1】
【0018】
表1に組成、組織、TS、サイズを示す二種類の電縫鋼管を夫々素管A,Bとした。素管A,Bは、夫々表1に示す組成の冷延鋼帯を連続焼鈍工程にて焼入れ処理し得られた表1に示す組織、TSレベルの鋼帯を素材とし、通常の電縫溶接法により製造された。
【0019】
【表1】

【0020】
実施例1では、上記素管Aに対し、図1に示す方法で管長さ方向の一部分における管円周方向全域を熱処理施工の目標部位として部分熱処理を施した。即ち、管体10を管軸方向(管長さ方向)に送る経路上に配置した誘導加熱コイル1(管体10の全周を取り囲む配置形態)と水冷ノズル2とを用い、管体10を送っている間、水冷ノズル2はオン(管体10への冷却水吹き付け)維持とし、誘導加熱コイル1は熱処理対象部の通過時のみ電源オン(それ以外はオフ)として、図1に示すように、熱処理部3と、それ以外の部位である未熱処理部4とを形成させた。このとき、加熱条件を種々変更し、誘導加熱コイル1の出側で放射温度計にて熱処理部3の加熱中の加熱温度(熱処理温度)T1を測定した。尚、未熱処理部4についても測温したがその温度は100℃未満であった。
【0021】
上記部分熱処理した管体10の熱処理部3と未熱処理部4とから図2(b)に示すように採取したJIS14A引張試験片7を用い、引張試験を行って、熱処理部の引張強度TS1及び未熱処理部の引張強度TS2を測定し、強度差Δ=TS2−TS1を求めた。又、熱処理部のELを測定し、TS×ELを求めた。
又、上記部分熱処理した管体10全長を試験片として、図2(a)に示す要領にて曲げ加工を行い、曲げ加工性評価を行った。
【0022】
これらの結果を表2に示す。同表より、本発明例は、強度差Δ=TS2−TS1及びTS×ELが共に本発明規定を満たし、且つ曲げ加工性も良好であって、車両補強用中空部材として十分な性能を有する事が分る。
【0023】
【表2】

【実施例2】
【0024】
実施例2では、前記素管Bに対し、図3に示す方法で管長さ方向の一部分における管円周方向の1/4周(90°)部を熱処理施工の目標部位として部分熱処理を施した。即ち、管体10を管軸方向(管長さ方向)に送る経路上に配置した誘導加熱コイル1A(管体10の1/4周(90°)部のみと対面する配置形態)と水冷ノズル2とを用い、管体10を送っている間、水冷ノズル2はオン(管体10への冷却水吹き付け)維持とし、誘導加熱コイル1Aは熱処理対象部の通過時のみ電源オン(それ以外はオフ)として、図1に示すように、熱処理部3Aと、それ以外の部位である未熱処理部4とを形成させた。このとき、加熱条件を種々変更し、誘導加熱コイル1Aの出側で放射温度計にて加熱中の熱処理部3の加熱温度(熱処理温度)T1を測定した。尚、未熱処理部4についても測温したがその温度は100℃未満であった。
【0025】
上記部分熱処理した管体10の熱処理部3Aと未熱処理部4とから図4(b)に示すように採取したJIS14A引張試験片7を用い、引張試験を行って、熱処理部の引張強度TS1及び未熱処理部の引張強度TS2を測定し、強度差Δ=TS2−TS1を求めた。 又、熱処理部のELを測定し、TS×ELを求めた。
又、上記部分熱処理した管体10全長を試験片として、図4(a)に示す要領にて曲げ加工を行い、曲げ加工性評価を行った。
【0026】
これらの結果を表3に示す。同表より、本発明例は、強度差Δ=TS2−TS1及びTS×ELが共に本発明規定を満たし、且つ曲げ加工性も良好であって、車両補強用中空部材として十分な性能を有する事が分る。
【0027】
【表3】

【符号の説明】
【0028】
1 誘導加熱コイル(管体の全周(360°)部を加熱)
1A 誘導加熱コイル(管体の1/4周(90°)部を加熱)
2 水冷ノズル
3 熱処理部(管体の長さ方向の一部分における全周(360°)部)
3A 熱処理部(管体の長さ方向の一部分における1/4周(90°)部)
4 未熱処理部
7 JIS14A引張試験片
10 管体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
C:0.05〜0.20質量%、Si:0.5〜2.0質量%、Mn:1.0〜3.0質量%、P:0.1質量%以下、S:0.01質量%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であり、フェライト相とマルテンサイト相との2相組織又は該2相と残留オーステナイト相との3相組織をなし、引張強度が980MPa以上である電縫鋼管を素管に用い、該素管の管長さ方向の一部分における管周方向の全域若しくは一部に対し500〜750℃に加熱後室温まで冷却する熱処理を施してなり、該熱処理部の引張強度が未熱処理部に比し200MPa以上低く、且つ、前記熱処理部の引張強度と伸びの積が14000MPa・%以上であることを特徴とする車両補強用中空部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−60652(P2013−60652A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−250485(P2011−250485)
【出願日】平成23年11月16日(2011.11.16)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】