説明

車両輸送船の床面滑り止めシート

【課題】車両輸送船の床面を確実に滑り止め可能にし得、且つ床面から容易に剥離され得る車両輸送船の床面滑り止めシートの提供。
【解決手段】車両輸送船の床面滑り止めシート1は、シート状磁石3と、該シート状磁石の一方の表面に形成された滑り止め層2とを有する。シート状磁石が、多数の磁性粒子51と該磁性粒子を分散状態で固定している樹脂層又はゴム層とからなる。滑り止め層2は、露出表面が粗面化された粗面化層2を有する。粗面化層2は、多数の粗面形成粒子22と該粗面形成粒子を分散状態で固定する粒子固定樹脂層24とを含む。粗面形成粒子がセラミック粒子からなる。粗面化層の粗面形成粒子がコーティング層26によって被覆されている。滑り止め層が、シート状磁石3の前述の一方の表面に接着剤5によって固定されていても直接的に固定されていてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車その他の車両を積載して輸送する車両輸送船の床面の滑り止め手段に係り、より詳しくは、車両輸送船の床面滑り止めシートに係る。
【背景技術】
【0002】
自動車を載せて輸送する自動車輸送船ないし自動車専用船では、積み込まれるべき自動車は一台づつ運転され自走されて船倉内のスロープ等を通り当該輸送船の船内に奥深く入れられ船倉内で立体駐車場のようになったところに整列する状態で所定位置に停車され、ラッシング(固縛)用の固定手段により船室の床に固定される。自動車の積込前に港の自動車停車集積場に多数の自動車が並べられる。この間に雨が降ったりすると車に付着した雨水が落ちて、自動車輸送船の自動車積載船倉までの通路(走行路)や該船倉内の床面が濡れて滑り易くなり、自走により積み込まれるべき自動車がスリップし易く、接触事故等により当該自動車や他の自動車が破損する虞れがある。
【0003】
なお、自動車輸送船内の通路(走行路)や船倉の床は、実質的に鉄の如き鉄鋼板からなり、通常は、該鉄鋼板の表面に錆防止用の塗料ないしペンキが塗られている。従って、車両輸送船の床面は、滑り易く、該床面には滑り止め手段が施されている。
【0004】
この滑り止め手段としては、例えば、表面側にセラミック粒子が付着された滑り止め層を備えたプラスチックシートを用いている。このプラスチックシートの敷設に際しては、輸送船の床面に対するプラスチックシートの位置ずれを禁止すべく強着性の接着材を該プラスチックシートの裏面側に施し、プラスチックシートの該裏面を輸送船の床面に接着している。
【0005】
しかしながら、数年程度(例えば2〜3年程度)の使用により、滑り止め層が磨耗してくるので、滑り止め手段を取り替える必要がある。また、中古船は売却されることも少なくなく、その場合にも、床面を一旦きれいにすべく床面の塗装をし直すために、滑り止め手段を剥がす必要がある。ところが、これらの場合に、滑り止め手段が強着性の接着材で輸送船の床面に強固に接着されているので、滑り止め手段を剥がすのに、多大な時間や労力がかかる(例えば、数分の1m程度の小さいものを一枚剥がすのに30分近くかかることすらあり、一隻当たり数万枚に及ぶプラスチックシートを全て剥がすに要する時間及び労力が多大なものになりそのコストも無視し難い)。
【0006】
なお、硬質粒子が分散状態で配合された塗料(滑り止め塗料)を路面に塗布して道路に滑り止め領域を形成することないし舗装の表面に樹脂系結合材料からなるバインダーを塗布しその上に硬質骨材を散布して路面に固着させることにより滑り止め機能を有する舗装をすることは、知られている(非特許文献1や非特許文献2)。この種の滑り止め塗料は、例えば、エポキシ樹脂等を主成分とする接着剤等からなり、硬化後は、路面に強く接着されるもので、その除去の際には、例えば、塗料の下の道路部分から掘り返す必要がある。また、硬質粒子が分散状態で配合されたエポキシ樹脂製の塗料を、鉄鋼製等の階段に塗布して階段の滑り止めにすることも提案されている(非特許文献1)。しかしながら、硬化により強く接着されたエポキシ樹脂製の接着剤(塗料)等の除去は容易でないことは同様である。
【0007】
一方、シート本体が硬質のプラスチック等からなる場合に、該シートの裏面に摩擦係数の大きいシリコン樹脂や合成ゴム等からなる高摩擦材を貼付け、該高摩擦材に溝を刻んだり、アルミナ等の粒子を混入させてシートの裏面の摩擦係数を高めることは、提案されている(特許文献1)。しかしながら、この場合、滑り止めシートが車両から受ける力次第では、滑り止めシート自体が床面に対してずれてしまう虞れを避け難い。実際、この特許文献1の出願人自体が、同日付の別出願において、アンカーボルトとナットからなる締結手段でシートを固定するという全く異なる固定手段を同時に提案している(特許文献2)。
【0008】
なお、船の床に関する技術とは異なるけれども、建物の床下において、ある程度の面積領域を取外し可能にカバー等する手段として、シート状磁石を用いることは、提案されている(特許文献3や特許文献4)。
【0009】
しかしながら、これらの提案において、シート状磁石は、ズレ応力のような表面に沿った外力を直接的に受ける虞れがない床下で用いられるものであって、ズレ応力を直接的に受ける条件下でシート状磁石を用いる可能性を示唆するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−150915
【特許文献2】特開2001−150914
【特許文献3】特開2009−115451
【特許文献4】特開2005−146689
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】タニムラ株式会社「ノンスリップ滑り止め塗料」[2010年7月現在] インターネット(URL: http://www.tanimura.biz/catalog/nonslip_coat.html)
【非特許文献2】日本道路「滑り止め機能を有する舗装」[2010年7月現在] インターネット(URL: http://www.nipponroad.co.jp/lineup/function/050.htm)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上のような状況下で、本発明者は、車両輸送船の床が強磁性体である鉄鋼で出来ていることに着目し、自動車の如き車両の制動等の際に該車両のタイヤによって面に沿う方向の力を受けても床面に沿ってズレることなくシート状磁石が鉄鋼製の床面に固定された状態(磁気的に吸着ないし付着された状態)で保持され得るか否かについて試験を行ってみたところ、シート状磁石の剥離し易さと対比すると驚くべきことに、ズレが実際上生じることなく保持され得ることが判明した。即ち、シート状磁石の剥離し易さと対比すると驚くべきことに、自動車の如き車両の制動の際に該制動を確実に行わせ得るように車両のタイヤに制動力を及ぼす際に該タイヤから受ける反作用の作用下でも、シート状磁石がズレが生じることなく鉄鋼製の床面に(磁気的に吸着されて)固定状態に保持され得ること確認された。
【0013】
本発明は、このような新知見に基づいてなされたものであって、その目的とするところは、車両輸送船の床面を確実に滑り止め可能にし得、且つ床面から容易に剥離され得る車両輸送船の床面滑り止めシートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の車両輸送船の床面滑り止めシートは、前記目的を達成すべく、シート状磁石と、該シート状磁石の一方の表面に形成された滑り止め層とを有する。
【0015】
本発明の車両輸送船の床面滑り止めシートでは、該シート状磁石の一方の表面に滑り止め層が形成されているので、該滑り止め層が表面側に位置するように、シート状磁石を配置しておけば、滑り止め層が車両輸送船の床の上を走行する自動車の如き車両のタイヤがスリップするのを抑制し得る。
【0016】
また、車両輸送船の床は実質的に鉄鋼製であり実質的に強磁性体からなるので、本発明の車両輸送船の床面滑り止めシートでは、シート状磁石のうち滑り止め層が形成されている面(上記の「一方の面」)とは反対側の面が車両輸送船の床面に実際上当接するように該床面上に配置されると、シート状磁石が車両輸送船の床面に静磁力によって強く引き付けられるから、該床面上に配置された床面滑り止めシートが強く床面に固定される。この固定は、床面滑り止めシートに対して、該床面に沿う方向のズレ応力がかかっても、床面滑り止めシートが鉄鋼製の床面に対して該床面に沿って位置ズレするのを実際上禁止するに十分強いものである。従って、車両のタイヤに制動力を及ぼす際に、反作用として床面滑り止めシートに対して床面に沿う方向に大きなズレ応力がかかるけれども、本発明の車両輸送船の床面滑り止めシートでは、シート状磁石が車両輸送船の強磁性体製の床(以下では「強磁性床」ともいう)に対して強く磁着(磁気的に強い引力で吸着)されていて該シート状磁石を介して床面に強固に固定されているから、床面滑り止めシートが該ズレ応力に抗して床面に強固に保持され、結果として、車両のタイヤに対して、大きな制動力を与えて、タイヤのスリップを実際上阻止し得る。従って、本発明の車両輸送船の床面滑り止めシートは、床が鉄鋼からなる車両輸送船において、該車両輸送船の床の特性を利用して、確実に滑り止め効果を発揮し得る。
【0017】
すなわち、例えば、雨天の場合には港の近くの車両停車集積場に停められた自動車の如き車両が雨に濡れるのを避け難く当該車両が自走により立体駐車場の如き船内の停車域に入る際に雨水が船内に落ちて床面がスリップし易い状態になるけれども、本発明の車両輸送船の床面滑り止めシートを床面に敷いておくだけで、床面をスリップの生じ難い床面に改変して、確実に滑り止め効果を発揮させ得る。
【0018】
更に、本発明の車両輸送船の床面滑り止めシートでは、該滑り止めシートがシート状磁石と鋼製の床面との間の磁気的な引力によって床面に固定されているので、シート状であることから可撓性である滑り止めシートを所望の端縁部から撓めて剥離するように引っ張るだけで該滑り止めシートを鋼製の床面から容易に剥離し得る。即ち、滑り止めシートが強着性の接着剤で床面に接着されていた従来の場合と異なり、その剥離が極めて短時間に且つ容易に行われ得る。加えて、本発明の車両輸送船の床面滑り止めシートでは、強着性の接着剤を用いた従来の滑り止めシートの場合と異なり、剥がし後が残る虞れがないので、剥離後次の所望の処理(清掃や再塗装等)に直ちに移り得、剥離関連作業に要する労力が最低限に抑えられ得る。
【0019】
本発明の車両輸送船の床面滑り止めシートでは、典型的には、シート状磁石が、多数の磁性粒子と該磁性粒子を分散状態で固定している樹脂層又はゴム層とからなる。
【0020】
その場合、比較的薄くて比較的面積の大きなシートの形態の磁石が得られ、一旦床面に敷設されると鉄鋼製の床との間に強い磁気的な引力が働き得るから、滑り止めシートがズレの虞れなく確実に床面に固定され得る。また、例えば、ゴム層からなる場合やゴムと同様に比較的柔らかい樹脂(プラスチック)からなる場合には、床面滑り止めシート自体が、滑り止め層と床面との間の厚さ方向の緩衝層にもなり得るから、車両のタイヤが載る路面が過度に硬くなるのを避け得る。
【0021】
但し、所望ならば、シート状磁石の磁性粒子を固定保持する層は、比較的硬い樹脂(プラスチック)等の層であってもよい。
【0022】
いずれの場合であっても、シート状磁石では、全体としてシートの形態を採り得るように、磁性粒子が樹脂等からなるバインダーに分散され保持されており、シート状磁石を構成する粒子の形態の多数の小磁石が隣接する強磁性床に対して静磁的な引力を及ぼすので、シート状磁石が鉄鋼製床に対して、全体として大きな力で引き付けられることになる。即ち、例えば、軟磁性材料(磁気的に柔らかい強磁性材料)からなる薄板が該薄板の延在面に沿って磁化された場合や磁気的に硬い連続的で一様な材料からなる永久磁石の場合と異なり、シートの各部において非磁性のバインダー中において多少なりとも相互に離れた状態で分布する粒子の形態の小磁石の磁極が表面又はその近傍で露出し得るので、該磁極を通る磁力線が隣接する小磁石の逆極性の磁極だけでなく隣接する強磁性床面に向かい、相当割合の磁力線が強磁性床を通ることになるから、シート状磁石と床面との間に大きな静磁的な引力が働き得ると解される(すなわち、長い磁石のうち両端の磁極部分から離れた中間部分の側面の近傍では磁力線の漏れが少ないのとは異なる状況になる)。
【0023】
シート状磁石は、典型的には、シートの延在面に沿う方向に磁化されているけれども、所望ならば、シート面に実際上垂直な方向に磁化されていてもよい。本発明の車両輸送船の床面滑り止めシートは、典型的には、長方形であり、磁化の向きがシートの延在面に沿う方向である場合に、長方形の長辺に平行な方向であっても、短辺に平行な方向であっても、これらに対して斜めであってもよい。
【0024】
コストを最低限に抑えるためには、磁性粒子は、例えば、Feの如きフェライトからなるけれども、常温又は数10℃程度の温度範囲で実際上強磁性状態(フェリ磁性等を含む広義の意味)に保たれ、且つ通常使用温度範囲である程度の磁化を有し、磁気的に硬い磁性材料である限りどのような磁石でもよい。なお、コストをかけても磁気的により大きな力が望ましい場合には、例えば、希土類系等の合金やNd−Fe−B系等の磁石であってもよい。
【0025】
本発明の車両輸送船の床面滑り止めシートにおいて、滑り止め層は、走行車両の滑り止めに用いるに適したものであれば、基本的にはどのようなものでもよく、本発明の車両輸送船の床面滑り止めシートでは、滑り止め層は、典型的には、露出表面が粗面化された粗面化層を有する。
【0026】
露出表面の粗面化は、概ね一様な材料の表面に形状ないし形態的な凹凸を付すことにより(凸部形成材料と該凸部形成材料を支持する支持材料とが同一材料により)実現されても、凸部形成材料と該凸部形成材料を支持する支持材料とが異なる材料からなる複合材料により実現されてもよい。後者の場合、凸部を硬質材料で形成し易く、摩擦を大きくする粗面化が行われ易い。
【0027】
本発明の車両輸送船の床面滑り止めシートでは、典型的には、前記粗面化層は、多数の粗面形成粒子と該粗面形成粒子を分散状態で保持ないし固定する粒子固定樹脂層とを含む。
【0028】
その場合、粒子固定樹脂層は、典型的には、粗面形成粒子のうちの一部(例えば、少なくとも数分の1程度、典型的には1/2程度以上の部分)が露出するように該粗面形成粒子の下方部分が埋設された状態で該粗面形成粒子を固定する。これにより、シートとしては可撓性を備えつつ硬質の粗面形成粒子を用いることが容易になり、シートとしては可撓性を備えた状態での粗面化が容易且つ確実に行われ易い。但し、粗面形成粒子による粗面が十分な粗さを備え得、且つ粒子固定樹脂層がシート状の形態において十分な可撓性を有する限り、粒子固定樹脂層が粗面形成粒子の大半の部分を覆っていてもよい。
【0029】
粗面形成粒子は、典型的には、セラミック粒子からなる。比較的低コストで且つ硬度が高く滑り止めに適することから、典型的には、滑り止め層にセラミック粒子を用いるけれども、同程度の滑り止め効果を与え得るように同程度の硬さを有する限り、樹脂その他の材料であってもよい。セラミック材料としては、典型的には、アルミナ(酸化アルミニウム)が用いられるけれども、所望ならば、他の酸化物であっても、コスト面で許容され得る場合には、窒化物やホウ化物の如く酸化物以外のセラミック材料であってもよい。また、いわゆる骨材と称されるように粒子が比較的大きい場合には、粒子は、典型的には、骨材をなすいわゆる「石」のように、複数種類の金属酸化物が各種形態で混ざり合ったものであり得る。そのような場合、粒子によって組成が異なっていたり、ばらついていてもよい。
【0030】
粒子のサイズは、従来から走行車両の滑り止めに用いられているのと同様であり、典型的には、例えば、0.1mm程度の大きさである。但し、走行車両の滑り止めに適用され得る限り、例えば、路面の滑り止め領域に滑り止め塗装や滑り止め舗装として用いられているように数mm程度であってもよく、また、その中間の大きさ0.1mm〜数mm程度の範囲内の所望の大きさであっても、所望ならば、数mm程度より多少大きくて、0.1mm程度より小さくてもよい。
【0031】
本発明の車両輸送船の床面滑り止めシートでは、典型的には、前記粗面化層の前記粗面形成粒子がコーティング層によって被覆されている。
【0032】
その場合、記粗面形成粒子が粒子固定樹脂層から露出していることにより該粒子固定樹脂層から離脱する虞れを、最低限に抑え得る。ここで、コーティング層は、粒子固定樹脂層と同じ材料であっても、異なる材料であってもよい。同じ材料からなる場合、実際には当該樹脂材料の流動性が比較的高い状態で、該樹脂材料中に粗面形成粒子を分散させておき、従来の滑り止め舗装やすべりどめ塗装の場合と同様に、粗面形成粒子を分散状態で保持した樹脂材料を基材となるシートの一方の表面上に塗布し固化又は硬化させればよい。
【0033】
但し、例えば、固定が比較的強固であったり滑り止め力を最大限に高めておく必要がある等の理由があるような場合等、所望ならば、そのようなコーティング層がなくてもよい。
【0034】
本発明の車両輸送船の床面滑り止めシートでは、
(1)滑り止め層が接着剤によってシート状磁石の前記一方の表面に固定されていても、又は
(2)滑り止め層を構成する粒子固定樹脂層がシート状磁石の前記一方の表面に直接的に固定されていても
よい。
【0035】
前者(すなわち(1))の場合、シート状磁石と滑り止め層とを夫々に適した条件下で別々に製造した上で両者を一体化すればいいので、製造が容易に行われ易い。
【0036】
後者(すなわち(2))の場合、構造が単純化されてコストを最低限に抑え易い。
【0037】
本発明の車両輸送船の床面滑り止めシートでは、所望ならば、シート状磁石の他方の表面に微粘着性の糊層が形成されていてもよい。ここで、微粘着性の糊層は、従来のような強着性の接着剤層と異なり、剥離の際に容易に剥がされ得るような層である。その場合、該微粘着性の糊層がシート状磁石の前記他方の表面と床面との間を密着状態で保持するので、例えば、床に水や油が落ちて該床面が水や油で濡れても、該水や油がシート状磁石の前記他方の表面と床面との間に拡がってシート状磁石の前記他方の表面と床面との間の摩擦を低減させる虞れを最低限に抑え得る。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の好ましい一実施例の車両輸送船の床面滑り止めシートの大まかな構造を示した斜視説明図(但し、厚さ方向のサイズが誇張されて示されている)。
【図2】本発明の車両輸送船の床面滑り止めシートの好ましい実施例のいくつかを断面説明図で示したもので、(a)は本発明の好ましい一実施例の車両輸送船の床面滑り止めシートの断面説明図、(b)は本発明の別の好ましい一実施例の車両輸送船の床面滑り止めシートについての(a)と同様な断面説明図、、(c)は本発明の更に別の好ましい一実施例の車両輸送船の床面滑り止めシートについての(a)と同様な断面説明図、(d)は本発明の更に別の好ましい一実施例の車両輸送船の床面滑り止めシートについての(a)と同様な断面説明図。
【図3】車両輸送船の床面滑り止めシートの種々の変形例を図2と同様な断面で示したもので、(a)は一変形例についての図2の(a)と同様な断面説明図、(b)は別の一変形例についての(a)と同様な断面説明図、(c)は更に別の一変形例についての(a)と同様な断面説明図、(d)は更に別の一変形例についての(a)と同様な断面説明図、(e)は更に別の一変形例についての(a)と同様な断面説明図、(f)は更に別の一変形例についての(a)と同様な断面説明図。
【図4】本発明の好ましい一実施例の車両輸送船の床面滑り止めシートを、車両輸送船の床面に敷設した状態を示したもので、(a)は敷設状態の一例の平面説明図、(b)は敷設状態の別の一例についての(a)と同様な平面説明図。
【図5】本発明の好ましい一実施例の車両輸送船の床面滑り止めシートを車両輸送船に適用した場合の例を示したもので,(a)は港の駐車スペースから車両輸送船に車を自走により積込む状況を示した斜視説明図、(b)は立体駐車場の如き構造を有する車両輸送船の内部の一部を示した斜視説明図。
【図6】本発明の好ましい一実施例の車両輸送船の床面滑り止めシートの働きを説明したもので、(a)は車両輸送船の床面滑り止めシートが車両に制動力を与える状況を示した断面説明図、(b)はシートに平面内で局所的な変形が生じてシートが適切な働きをし難い状況を示した平面説明図、(c)はシートに厚さ方向を含めて三次元的な局所的な変形が生じてシートが適切な働きをし難い状況を示した断面説明図。
【図7】本発明の好ましい一実施例の車両輸送船の床面滑り止めシートの剥離の仕方を示したもので、(a)は剥離の仕方を示した平面説明図、(b)は剥離の状況を示した断面説明図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
本発明の好ましい実施の形態のいくつかを添付図面に示した好ましい実施例に基づいて説明する。
【実施例】
【0040】
図1には、本発明の好ましい一実施例の車両輸送船の床面滑り止めシート1が、示されている。なお、図1においては、床面滑り止めシート1の積層構造が見易いように、シート1の厚さ方向Zが誇張されて大きく示されている。
【0041】
車両輸送船の床面滑り止めシート1は、シート状滑り止め部2とシート状磁石部3とを有する。シート1では、シート状滑り止め部2とシート状磁石部3とが、接着剤層5で固着されている。車両輸送船の床面滑り止めシート1の厚さは、典型的には、1〜5mm程度である。但し、車両が進行する際に進行の妨げになったりする虞れがない限りより厚くても(例えば、1cm程度の厚さであっても)よく、また、シート状磁石部3の静磁的力が確保され且つシート状滑り止め部2の滑り止め機能が確保される限り、より薄くてもよい。
【0042】
シート状滑り止め部2は、この例では、プラスチック製基材層ないしプラスチック基材層10と、滑り止め粒子層20とを有する。この例の場合、シート状滑り止め部2が粗面化層であるとみなしても、滑り止め粒子層20が粗面化層であるとみなしてもよい。以下では、説明の簡明化のために、シート状滑り止め部2が粗面化層であり、より詳しくは、シート状滑り止め部2の滑り止め粒子層20が粗面化層であるとして説明する。
【0043】
プラスチック製基材層10は、滑り止め粒子層20を支えるための層であって、例えば、PVC(塩化ビニル樹脂)製のフィルムからなる。基材層10の厚さは、例えば、0.1mm程度である。但し、例えば、1mm程度又はそれ以上のようにより厚くても、0.01mm程度又はそれ以下のようにより薄くてもよい。プラスチック製基材層10の材料は、可撓性を有し且つ耐荷重性や温度の通常の変化(例えば、−数10℃〜+100℃程度の範囲)や水や油等に対する耐性等の点で使用環境に適合し得る限り、他のどのような樹脂であってもよい。
【0044】
滑り止め粒子層20は、例えば、図2の(a)の断面説明図により詳しく示したように、プラスチック基材層10の表面11側において分散状態で散らばった多数のセラミック粒子22と、該セラミック粒子22をプラスチック製基材層10の表面11側に固定する粒子固定樹脂層(セラミック粒子固定用バインダー又はセラミック粒子固定用接着剤層と称してもよい)24とを有する。滑り止め粒子層20は、従来、道路その他の滑り止めに用いられているものでよい。
【0045】
セラミック粒子22は、典型的には、該粒子22が実際上相互に重ならない程度にシート1の延在面Sに沿って分散されている。但し、セラミック粒子22が基材層10から実際上離脱することなく保持され、且つシート1の可撓性が保たれ得る限り、所望ならば、セラミック粒子22が相互に重なっていてもよい。以下では、説明の簡明化のために、特に断らない限り、セラミック粒子22が実際上重なることなく散らばった状態で配置されているとして、説明する。図においては、図示のし易さから隣接するセラミック粒子22が実際上密接しているかの如く示されているけれども、典型的には、隣接粒子間には多くの場合少なくとも多少の隙間がある。
【0046】
ここで、セラミック粒子22の大きさ(平均粒径)は、典型的には、0.1mm〜数mm程度の間の所望の大きさである。但し、十分な滑り止め効果が得られる限り、より小さくてもよく、また、通常の滑り止め作用を越えてタイヤ等を傷つける虞れがない限り、より大きくてもよい。また、セラミック粒子22の大きさは、図においては、図示のし易さから相互に同程度であるかの如く示されているけれども、典型的には、セラミック粒子22の大きさには、数倍以上(数分の一)のばらつきがあり得る。但し、同程度であってもよい。
【0047】
なお、典型的には、セラミック粒子22の大きさが比較的大きい場合、該粒子22を支え得るように、プラスチック基材層10の厚さも比較的厚い。但し、セラミック粒子22を含む層20を支え得る限り、プラスチック基材層10の厚さが比較的薄くてもよい。
【0048】
セラミック粒子の材料は、典型的には、アルミナ(酸化アルミニウム)からなるけれども、所望ならば、硬くて壊れにくい(過度に脆くはない)限り、他の金属酸化物であってもよく、いわゆる骨材の如く、いわゆる石又は複数種類の金属酸化物等が混ざり合ったものであってもよい。セラミック粒子の材料は、また、過度のコストがかからない限り、窒化物やホウ化物など他のセラミックであってもよい。更に、粒子として十分な硬さ等が得られ且つ使用環境に応じた耐熱性や耐水性、耐油性等が確保され得る限り、粒子は、セラミックの代わりに、プラスチックその他の材料からなっていてもよい。
【0049】
粒子固定樹脂層24は、セラミック粒子22を基材層10に固定するもので、接着剤からなっていても、基材層10と同様な材料又は同一の材料からなっていてもよい。後者の場合、粒子固定樹脂層24は、基材層10の一部をなすもの、典型的には、基材層10自体の一部であってもよい。その場合、基材層10と粒子固定樹脂層24との間には、界面はなく両者は連続的につながる。
【0050】
いずれの場合であっても、粒子固定樹脂層24となる部分は、セラミック粒子22の一部が該粒子固定樹脂層24に入り込むように、換言すれば、粒子固定樹脂層24を構成する樹脂材料がセラミック粒子22の下方の一部領域22aを覆うように、セラミック粒子22の平均粒径よりも小さい厚さ(典型的には、セラミック粒子22の平均粒径の1/2程度よりも薄く、セラミック粒子22の平均粒径の数分の1程度の厚さ)を有し、セラミック粒子22の残りの部分22bは、粒子固定樹脂層24の上方に露出している。
【0051】
ここで、図2の(b)の断面説明図で示した車両輸送船の床面滑り止めシート1Aのように、セラミック粒子22のうち上方の露出部分22bを覆うように、コーティング層26が施されていてもよい。その場合、セラミック粒子22が剥がれ落ちるのを最低限に抑え得る。なお、このコーティング層26は、粒子固定樹脂層24を構成する樹脂とは異なる接着剤の層からなっていても、粒子固定樹脂層24を構成する樹脂と同一又は同様な樹脂からなっていてもよい。後者の場合、粒子固定樹脂層24及びコーティング層26をなす流動性の樹脂素材中にセラミック粒子22を分散させておき、該粒子22の分散された流動性のある樹脂素材を、例えば、基材層10の表面11に塗布することにより滑り止め粒子層20(図2の(b)では、滑り止め粒子層20A)を形成してもよい。
【0052】
このコーティング層26を備えた滑り止め粒子層20Aを有するシート状滑り止め部2Aを具備する車両輸送船の床面滑り止めシート1Aでは、セラミック粒子22が剥がれ落ちる虞れが少ない。なお、図2の(b)の車両輸送船の床面滑り止めシート及びその要素において、図2の(a)に示したシート1の要素と同一の要素には同一の符号が付され、図2の(a)に示したシート1の要素と概ね同様であるけれども異なるところのある要素にはシート1の要素の符号と同一の符号の後に添字Aが付されている。
【0053】
図1や図2の(a)〜(d)では、前述のように滑り止め粒子層20のセラミック粒子22が、平面Sの延在方向に沿って見て、隙間なく並んでいるかの如く示されているけれども、実際には、隣接粒子22,22間には多少の隙間があり得る。また、粒子22が実際上確実に固定されている限り、粒子22,22間の重なりが全くないわけではなく多少は重なっていてもよい。
【0054】
シート状磁石部ないしシート磁石3は、多数の磁性粒子51と、該磁性粒子51を分散状態で固定しているバインダーの形態の磁性粒子保持層52とからなる。なお、図1や図2の(a)〜(d)では、シート状磁石部3が多数の磁性粒子51を含むことから多数の点が描かれているけれども、シート状磁石部3を構成する多数の磁性粒子51は、そのサイズ(粒径)が典型的には数10μ程度又はそれ以下であって、実際上視認し難く視覚上は視認可能な領域又は大きさのある点によっては表示され難いけれども、ここでは、誇張して示されている。磁性粒子保持層52は、ゴム層、又はゴムと同様に比較的柔らかい樹脂の層からなる。但し、シート1が全体として可撓性を有し得る限り、この樹脂の層52は、比較的硬い樹脂等の層であってもよい。
【0055】
シート状磁石部3は、典型的には、シート1の延在面(XY平面と平行な面)Sに沿う方向に磁化されているけれども、所望ならば、シート面(XY平面と平行な面)Sに実際上垂直な方向Zに磁化されていてもよい。
【0056】
この車両輸送船の床面滑り止めシート1は、典型的には、長方形であり、磁化の向きがシートの延在面Sに沿う方向である場合に、長方形の長辺に平行な方向Xであっても、短辺に平行な方向Yであっても、これらに対して斜めであってもよい。
【0057】
ここで、シート状磁石部3では、全体としてシートの形態を採り得るように、磁性粒子51が樹脂等からなるバインダー52に分散され保持されており、シート状磁石3を構成する粒子の形態の多数の小磁石51が隣接する強磁性の鉄鋼製床Fに対して静磁的な引力を及ぼすので、シート状磁石3が鉄鋼製床Fに対して、全体として大きな力で引き付けられることになる。即ち、シート状磁石3では、例えば、軟磁性材料(磁気的に柔らかい強磁性材料)からなる薄板が該薄板の延在面に沿って磁化された場合や磁気的に硬い連続的で一様な材料からなる永久磁石の場合と異なり、シート1の各部において非磁性のバインダー52中において多少なりとも相互に離れた状態で分布する粒子の形態の小磁石51の磁極が表面又はその近傍で露出し得るので、該磁極を通る磁力線が隣接する小磁石51の逆極性の磁極だけでなく隣接する強磁性鉄鋼製の床Fの面F1に向かい、相当割合の磁力線が強磁性鉄鋼製床Fを通ることになるから、シート状磁石3と床Fとの間に大きな静磁的な引力が働き得ることになると解される(すなわち、長い磁石のうち両端の磁極部分から離れた中間部分の側面の近傍では磁力線の漏れが少ないのとは異なる状況になる)。
【0058】
磁性粒子51は、典型的には、鉄フェライトFeの如きフェライトからなるけれども、常温又は数10℃程度の温度範囲で実際上強磁性(フェリ磁性等を含む広義の意味)状態に保たれ、且つ通常使用温度範囲である程度の磁化を有する磁気的に硬い磁性体からなる限りどのような磁石でもよい。なお、コストがかかっても磁気的により大きな力が望ましい場合には、例えば、異方性フェライト系の磁石や、アルニコ(Al−Ni−Co)系の磁石や、希土類系等の合金(例えばサマリウムコバルト(Sm−Co)系の磁石)やNd−Fe−B系等の磁石であってもよい。抗磁力は高い方が好ましいが通常使用範囲の条件下で実際上消磁されなければそれ程高くなくてもよい。磁性粒子51の材料の酸化等を避ける必要がある場合には、磁性粒子にコーティングを施した上で、バインダ52中に分散させてもよい。
【0059】
シート状磁石部3は、典型的には、0.5mm程度〜3mm程度の厚みを有する。但し、シート状磁石部3が十分な静磁的な強度を有し得、且つシート1が全体として厚さ方向の荷重に十分に耐え得且つ過度に撓み易くならない限り、より薄くてもよく、また、シート1が厚すぎて全体として車両の走行を妨げたりするような虞れがない限り、より厚くてもよい。なお、シート状磁石部3は、例えば、幅が狭い程厚く(換言すれば、幅が広い程薄く)なるように形成されて、全体として、磁石の強さが所望レベル以上に保たれる。
【0060】
バインダー52は、磁性粒子51を分散状態で化学的に安定に且つ機械的に強固に保持し得、且つ可撓性を有し得る限りどのような樹脂系材料(ゴム系材料を含む)であってもよく、磁性粒子が鉄フェライトFeからなる場合、例えば、塩素化ポリエチレンが用いられる。但し、磁性粒子51を分散状態で化学的に安定に且つ機械的に強固に保持し得、且つ可撓性を有し得る限り、バインダー52はどのようなプラスチック材料(ゴム系材料を含む)であってもよい。
【0061】
シート状磁石部3は、典型的には、図2の(a)や(b)に示したように、直接その底面53が車両輸送船の床Fの面F1に磁気的引力によって固着ないし吸着される。
【0062】
但し、所望ならば、図2の(c)の断面説明図に示したように、シート状磁石部3の底面53に、更に、微粘着性の糊層60が形成されていてもよく、その場合、シート状磁石部3は、磁気的引力によっその底面53がて直接車両輸送船の床Fの面F1に固着ないし吸着されるだけでなく、底面53にある微粘着性の糊層60によって床Fの面F1に容易に剥離可能な程度に貼着される。ここで、微粘着性の糊層60は、強着性の接着剤層とは異なり、剥離の際に容易に剥がされ得るような層であり、例えば、アクリル系の接着剤からなる。但し、他の材料であってもよい。微粘着性の糊層60が形成されている場合には、微粘着性の糊層60の表面には、典型的には、いわゆる剥離紙が載せられていて、使用の際に、該剥離紙がはがされる。
【0063】
その場合、瞬間的なズレ応力に対する抵抗が多少なりとも高くなるだけでなく、該微粘着性の糊層60がシート状磁石3の底面53と強磁性鉄鋼製の床Fの表面すなわち床面F1との間を密着状態で保持するので、例えば、床Fに水や油が落ちて該床面F1が水や油で濡れても、該水や油がシート状磁石3の底面53と床面F1との間に拡がってシート状磁石の底面53と床面Fとの間の摩擦を低減させる虞れを最低限に抑え得る。なお、シート状磁石3の底面53と強磁性鉄鋼製の床面F1との間隔が小さくなるように、この糊層60は薄いことが好ましく、例えば、貼着状態において、0.01mm〜0.1mm程度以下であることが好ましい。但し、場合によっては、0.1mm程度より厚くてもよい。
【0064】
なお、微粘着性の糊層60は、底面53の全面に形成されていても、底面53の一部に帯状に形成されていてもよい。底面53の一部に形成される場合には、底面53の大半の領域に形成されることが好ましい。帯状に形成される場合は、例えば、幅方向の各端部近傍に全体として二列形成されても、中央に一列でも、所望箇所に三列以上でも、田の字(縦横の格子)状でもよい。
【0065】
なお、図2の(c)の車両輸送船の床面滑り止めシート及びその要素において、図2の(a)や(b)に示したシート1又は1Aの要素と同一の要素には同一の符号が付され、図2の(a)や(b)に示したシート1又は1Aの要素と概ね同様であるけれども異なるところのある要素にはシート1又は1Aの要素の符号と同一の符号の後に添字Bが付されている。
【0066】
また、プラスチック基材層10とシート状磁石部3とが接着剤層5を介して相互に固着される代わりに、図2の(d)に示したように、プラスチック基材層10Cとシート状磁石部3Cとが直接的に固着された車両輸送船の床面滑り止めシート1Cであってもよい。その場合、例えば、プラスチック基材層10Cの樹脂及びシート状磁石部3Cの磁性粒子保持層52Cを形成する樹脂の両方に対して相溶性が高く実際上接着剤層と同様に働く薄い中間層を介していてもよいけれども、プラスチック基材層10Cの樹脂及びシート状磁石部3Cの磁性粒子保持層52Cを形成する樹脂を相互に同様な樹脂又は相溶性が高い樹脂で形成しておいて、同時に又は一方を他方の表面上に形成してもよい。
【0067】
車両輸送船の床面滑り止めシート1Cにおいて、コーティング層26はあってもなくてもよく、微粘着性の糊層60もあってもなくてもよい。
【0068】
なお、以上において、微粘着性の糊層60がある場合(図2の(c)や(d))、該糊層60の表面には、使用前までの間該糊層60を覆う剥離紙(図示せず)が設けられる。この剥離紙は剥離シートであって、剥離が容易なように、所望の樹脂であっても、表面が滑らかになるように処理された紙であってもよい。
【0069】
以上においては、滑り止め粒子層20を形成する粒子固定樹脂層24が、プラスチック製基材層10とは別である例について説明したけれども、図3の(a)〜(f)に示したように、粒子固定樹脂層とプラスチック製基材層とが一体的な層30からなっていてもよい。この層30は、プラスチック製基材層としても働き得る粒子固定樹脂層であり、以下では、滑り止め粒子固定樹脂層30等と呼ぶ。
【0070】
図3の(a)に示した車両輸送船の床面滑り止めシート1Dは、プラスチック製基材層としても働き得る粒子固定樹脂層30を有しプラスチック製基材層10を欠く点を除き、図2の(a)に示した車両輸送船の床面滑り止めシート1と同様に構成されている。
【0071】
図3の(b)に示した車両輸送船の床面滑り止めシート1Eは、更に、接着剤層5を欠き、粒子固定樹脂層30とシート状磁石部3Eの磁性粒子保持層52Eとが直接的に接合されている点を除いて、(a)の車両輸送船の床面滑り止めシート1Dと同様に構成されている。
【0072】
図3の(c)に示した車両輸送船の床面滑り止めシート1Fは、粒子固定樹脂層30Fとシート状磁石部3Fの磁性粒子保持層52Fとが同じ樹脂材料からなり、セラミック粒子52が磁性粒子保持層52Fの表面54側の領域に直接的に分散されて保持されているる点を除き、(b)の車両輸送船の床面滑り止めシート1Eと同様に構成されている。
【0073】
図3の(d)に示した車両輸送船の床面滑り止めシート1Gは、磁性粒子保持層52Fのうちセラミック粒子52が分散されている表面54側の部分30Gには磁性粒子51が実際上分散されておらず実際上磁性粒子保持層52Gの樹脂材料のみからなる点を除き、(c)の車両輸送船の床面滑り止めシート1Fと同様に構成されている。
【0074】
なお、以上の場合においても、セラミック粒子22のコーティング層26やシート状磁石部3の底面53側の微粘着性の糊層60等が更に設けられていてもよい。
【0075】
図3の(e)に示した車両輸送船の床面滑り止めシート1Hは、図2の(b)などと同様に、セラミック粒子22の表面にコーティング層26が更に形成されている点を除き、(b)の車両輸送船の床面滑り止めシート1Eと同様に、構成されている。また、図3の(f)に示した車両輸送船の床面滑り止めシート1Jは、図2の(c)などと同様に、シート状磁石部3Eの底面53に微粘着性の糊層60が形成されている点を除き、(e)の車両輸送船の床面滑り止めシート1Hと同様に、構成されている。
【0076】
以上の如く構成された車両輸送船の床面滑り止めシートに関し、以下では、主として該床面滑り止めシートのうち図2の(a)の床面滑り止めシート1を例にとって、該シート1を車両輸送船70(図5の(a)及び(b)参照)の床Fの表面すなわち床面F1の滑り止めに適用する場合について、より詳しく説明する。
【0077】
車両輸送船の床面滑り止めシート1は、車両輸送船70の車両積載駐車領域71では、車両輸送船70の鉄鋼製の床Fの表面F1に、例えば、図4の(a)に示したように、2〜3cm程度から20〜30cm程度までの範囲のうちの所望の間隔を空けて、並べて配置される。なお、所望ならば、実際上隙間がない程度に密接した状態で(例えば、2〜3mm程度以下の間隔で)シート1を配置してもよい。ここで、固縛(ラッシング)用の留め具72は、車が床Fに対して大きく移動されるのを防ぐべく床Fに繋ぎとめるための留め具である。ラッシング用留め具72は異なる形状や異なる構造のものであり得る。
【0078】
長方形のシート1がX方向に延びた状態でY方向に間隔をおいて配置されている列が多数あることを示した図4の(a)の例では、例えば、車がY方向に向いた状態で、X方向に間隔をおいて並ぶように配置される。その場合、車の駐車位置がX方向に多少ずれても、車のタイヤが滑り止めシート1から外れ難く、滑り止めが確実に行われ易い。
【0079】
但し、図4の(a)の例において、所望ならば、例えば、車がX方向に向いた状態で、Y方向に間隔をおいて並ぶように配置されるようになっていてもよい。その場合、車に制動がかけられる際に車のタイヤに対して制動力を確実に与える滑り止めシート1が、シート状磁石3と鉄鋼製の床Fとの間の静磁力及び該静磁力の作用下で生じる摩擦力によって、長い長さ範囲に亘って保持されることになるから、滑り止めシート1が確実に鉄鋼製の床Fの固定状態で保持され易い。従って、制動が確実に行われて、滑り止めが確実に行われ易い。
【0080】
なお、両者の中間的な状態ないし両方の長所を併用するという観点からすると、図4の(a)の例において、車がX方向及びY方向の両方に対して斜め方向に駐車されるようになっていてもよい。
【0081】
また、図4の(a)に示したように多数の床面滑り止めシート1が等間隔に平行に配置される代わりに、例えば、図4の(b)に示したように、一群の複数のシート1が夫々平行に且つ他の一群の複数のシート1とは異なる向きに配置されてもよい。これらの場合において、シート1の向きは車の走行や停止の際にスリップが生じるのを確実に且つ効率的に抑え得るように、床面F1上で所望の向きに所望の間隔で配置され得る。
【0082】
以上においては、シート1の平面形状が長方形であることを前提に説明しているけれども、シート1の平面形状は、長方形以外の他のどのような形状でもよく、該形状に応じて、所望の間隔をおいてシート1が所望の向きや間隔で配置される。なお、シート1が相互に異なる種々の平面形状を有していてもよく、その場合には、間隔や向きに応じて異なる形状のシートを隙間に配置するようにしてもよい。
【0083】
図5の(b)に示したように、車両輸送船70の駐車領域71だけでなく、該駐車領域71に至る走行路73の少なくとも一部(典型的には実際上全領域)にも、特に、該走行路73のうち斜面(スロープ)部分74にも、床面滑り止めシート1が敷設される。
【0084】
以上のような床面滑り止めシート1の敷設に際しては、所望の位置において所望の向きに床面滑り止めシート1のシート状磁石部3が床Fの面F1に当接するように、シート状磁石部3と鉄鋼製床Fとの引力の作用下で該シート1を床面F1上に配置していけばよい。
【0085】
なお、配置に際して、シート1の位置が適切でない場合には、後で図7の(b)に関連して説明するように、単に、該シート1をその一端部7をもって床面F1から剥離させるように上向きMに引張ればよく、これにより、(厚さ方向の曲げに関して)可撓性のシート1はいつでも床面F1から容易に剥がし得る。端部7は、図7の(a)に示したように、隅部7aであっても側縁部7bであってもよい(隅部と側縁部とを区別しないとき又は端部として総称するときは符号7で表す)。すなわち、例えば、シート1の端部7(四隅ないし四つのコーナー部7a,7a,7a,7aのいずれかの箇所、又はシート1の長辺の端にある短辺部ないし側縁7b,7b)を指などでつまんで、矢印Ma又はMb(両者を区別しないとき又は端部7の剥離方向として総称するときは符号Mで表す)方向に引張って、シート1を該角部7a又は側縁部7bから剥がした上で、該シート1を、シート状磁石部3の静磁力の作用下で、再度、適切なところに敷設し直せばよい。敷設のし直しに際しては、シート1に対してM方向剥離の逆の動作をさせればよい。
【0086】
以上のように、鉄鋼製の床Fの表面ないし床面F1のうち、積載されるべき自動車の如き車両V(図5の(a))の走行路73や車両Vの駐車領域71に、多数の床面滑り止めシート1が敷設された車両輸送船70に、自動車の如き車両Vが積み込まれる場合、図5の(a)に示したように、該車両Vが港の駐車スペース80に一旦並べて配置される。例えば、車両Vがこのように屋外に配置されている際に雨等が降ると、車両Vや路面81が濡れる。このように濡れた状態で、車両Vの船70への積載が開始されると、車両Vは自走されて車両輸送船70内に入り、立体駐車場の如き構造の船70内において、走行路73(図5の(b))等を通って、夫々の所定の停車スペースないし駐車領域71(図5の(b)や図4の(a)等)まで走行して、停車する。この間、走行路73が、多数の床面滑り止めシート1によって滑り止めされていると、車両Vは実際上スリップすることなく、所定の停車スペース(駐車領域)71まで走行され得る。
【0087】
スロープ74(図5の(b))を含む途中の走行路73や駐車領域71において車両Vにブレーキがかけられたり車両Vがカーブを切ろうとする際に、路面が濡れていると、車両Vと路面F1との間でスリップが生じ易いけれども、床面滑り止めシート1が敷設されていて該滑り止めシート1のシート滑り止め部2が十分な滑り止め機能を果たし得る場合、例えば、図6の(a)に示したように、車両Vの車輪90のタイヤ91に床面滑り止めシート1から制動力Jがかかる。このとき、反作用として力−Jがシート1の滑り止め部2の滑り止め粒子層20にかかる。一方、シート状磁石部3と鉄鋼製の床Fとの間に働く磁気的な引力の作用下で、床面滑り止めシート1のシート状磁石部3の表面(底面)53と鉄鋼製の床Fの表面F1との間には大きな摩擦力Kが働く。ここで、この摩擦力Kの最大値(最大摩擦力)は制動力Jを実際上上回り得る(即ち、K>J)から、シート1が床面F1に沿って実際上位置ズレすることなく、制動力Jをタイヤ91に付与し得る。従って、車両Vは実際上不測のスリップを起こすことなく、停止されたりカーブを曲がったりし得る。
【0088】
ここで、シート状磁石部3を形成する磁性材料51の磁気的な力は一見比較的小さいとも思われるけれども、シート状磁石部3の磁性材料51が鉄鋼製の床Fに実際上密接し且つ面積領域の総和は相当の大きさに達し得ることから、その力が無視し難い程度に大きくなるものと解される。なお、(摩擦係数の荷重依存性が比較的小さいとすると)車両Vがシート1上に載ると該車両Vの自重も磁石部3と鉄鋼製の床Fとの間の相互押付け力として加わることになる。逆に言えば、一枚のシート1の延在面S(XY平面)での面積があまりに小さいと、該シート1と鉄鋼製の床Fとの間に働く力が不十分になる虞れがあるから、シート1の面積はある程度大きいことが好ましく、シート1を過度に小さくするのは好ましくない。
【0089】
また、シート1が鉄鋼製の床Fの表面F1に密着状態で敷設された状態で、例えば、シート1のX方向の部位X1を中心とする一部の領域QにY1方向の力Pがかかった際に、図6の(b)に示したように、シート1の部位X1のまわりの領域Qにおいて局所的な大きな変形がXY平面内で生じるような場合には、シート1のシート状磁石部3の全体が滑り止めに有効に働かないことになる。このような事態は、例えば、シート1のY方向の長さが短かかったりシート1自体が柔らかかったりして、領域Qにおいて局所的な変形が生じてしまうようなときに生じる虞れがある。従って、シート1の短辺Y方向の長さがあまり短かくないことが好ましく、また、シート1にその延在面S内での変形が実際上生じ難いようにある程度剛性があることが好ましい。なお、粗面化層が滑り止め粒子層20を含む場合、該滑り止め粒子層20自体が、シート1にある程度の剛性を付与し得る。
【0090】
更に、例えば図6の(c)に示したように、シート1に厚さ方向の変形が生じて、シート1の一部の領域Qが床面F1から浮いて当該領域Qにおいて磁気的な吸引力が実際上働かなくなると、シート1のシート状磁石部3が滑り止めに有効に働かなくなる。このような事態は、例えば、シート1が軟らかくて且つ薄いような場合に生じる虞れがあることから、シート1にその厚さ方向の変形に対する剛性が多少はあることが好ましい。なお、粗面化層が滑り止め粒子層20を含む場合、該滑り止め粒子層20自体が、シート1にある程度の剛性を付与し得ることは前述の通りである。
【0091】
なお、シート1の滑り止め粒子層20の磨耗に伴うシート1の張替えや、船70の売却その他の理由による船70のリニューアル等のためのシート1の張替えに際しては、図7の(a)及び(b)に示したように、各シート1の端部7すなわち隅部7aまたは側縁部7bを指などでつまんでM方向に引張る。これにより、図7の(b)において実線で示したように、(厚さ方向の曲げに関して)可撓性のシート1のシート状磁石部3が鉄鋼製の床Fから容易に(強着性の接着剤で接着されていたときとは比較にならない程度に短時間で且つ小さな労力で)剥離され得る。なお、この剥離の後、鉄鋼製の床Fの表面F1には、シート状磁石部3が磁気的に吸着されていた痕跡は汚れとしては実際上残らない(実際には、当該領域が被覆されていたことにより、その周囲の領域よりも汚れが少ない点が痕跡になる程度である)。剥離の後、所望に応じて床Fの表面F1のクリーニングや再塗装等を行った後、新たなシート1を再度床面F1に敷設すればよい。このとき、新たなシート1は、その前に敷設されていたシート1と同一であってもサイズや形状が異なっていてもよく、また、配置が同一であっても異なっていてもよい。
【0092】
〔試験例〕
【0093】
最後に、一試験例について、説明する。滑り止め粒子層20のセラミック粒子がアルミナ粒子からなり、シート状磁石部3の磁性粒子51がFe製のフェライト粒子からなる床面滑り止めシート1(横(長手方向)60cm程度、縦(幅方向)15cm程度、厚さ1〜2mm程度)を、鉄鋼板の表面に多数枚、5〜10cm程度の間隔をおいて敷設しておき、時速20Km/hで運転していた重量1800Kgの車両(フォークリフト車)が、該シート1上を該シート1の15cm幅を有効とする面を正面方向として走行している際に、該車両にブレーキをかけて急停車させた。この急停車の際の制動力は自動車等の通常の車両V(図5の(a))が通常の船70において経験する制動力よりも十分に大きいものである。シート1は、実際上位置ずれすることなく、停車した。これにより、車両滑り止めシート1では、シート状磁石部3が鉄鋼製の床に静磁的に吸着された状態を保って、滑り止め粒子層20によって車両の滑り止めを確実に行い得ることが、判明した。
【符号の説明】
【0094】
1,1A,1B,1C,1D,1E,1F,1G,1H,1J 車両輸送船の床面滑り止めシート
2,2A,2C シート状滑り止め部
3,3C,E,3F,3G シート状磁石部
5 接着剤層
7 端部
7a 隅部(角部)
7b 側縁部
10,10C プラスチック製基材層
11 表面
20,20A 滑り止め粒子層
22 セラミック粒子
22a 下方の埋設部分
22b 上方の露出部分
24,30 粒子固定樹脂層
26 コーティング層
51 磁性粒子
52,52C 磁性粒子保持層
53 底面
54 表面
60 微粘着性の糊層
70 車両輸送船
71 駐車領域
72 ラッシング(固縛)用具
73 走行路
74 斜面(スロープ)部分
80 (港の)駐車スペース
81 路面
90 車輪
91 タイヤ
F 床
F1 床面
J 制動力
M,Ma,Mb 剥離の際の引張方向
P 力
Q 領域
S 延在面
V 車両
X 長辺に平行な方向
X1 部位
Y 短辺に平行な方向
Y1 方向
Z 厚さ方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状磁石と、
該シート状磁石の一方の表面に形成された滑り止め層と
を有する車両輸送船の床面滑り止めシート。
【請求項2】
シート状磁石が、多数の磁性粒子と該磁性粒子を分散状態で固定している樹脂層又はゴム層とからなる請求項1に記載の車両輸送船の床面滑り止めシート。
【請求項3】
前記滑り止め層は、露出表面が粗面化された粗面化層を有する請求項1又は2に記載の車両輸送船の床面滑り止めシート。
【請求項4】
前記粗面化層は、多数の粗面形成粒子と該粗面形成粒子を分散状態で固定する粒子固定樹脂層とを含む請求項3に記載の車両輸送船の床面滑り止めシート。
【請求項5】
前記粗面形成粒子がセラミック粒子からなる請求項4に記載の車両輸送船の床面滑り止めシート。
【請求項6】
前記粗面化層の前記粗面形成粒子がコーティング層によって被覆されている請求項4又は5に記載の車両輸送船の床面滑り止めシート。
【請求項7】
前記滑り止め層が、接着剤によってシート状磁石の前記一方の表面に固定されている請求項2から6までのいずれか一つの項に記載の車両輸送船の床面滑り止めシート。
【請求項8】
前記滑り止め層を構成する前記粒子固定樹脂層が、シート状磁石の前記一方の表面に直接的に固定されている請求項2から6までのいずれか一つの項に記載の車両輸送船の床面滑り止めシート。
【請求項9】
シート状磁石の他方の表面に微粘着性の糊層が形成されている請求項1から8までのいずれか一つの項に記載の車両輸送船の床面滑り止めシート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−26156(P2012−26156A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−165498(P2010−165498)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(394012245)株式会社カーボーイ (3)
【Fターム(参考)】