説明

車両駆動制御装置

【課題】車両駆動制御装置において、昇圧回路の昇圧電圧上限値の制限に適切に対応してエンジンの駆動と停止を制御することである。
【解決手段】車両駆動制御装置40は、昇圧回路30の昇圧電圧上限値について昇圧通常上限値またはそれより低い昇圧節減上限値に切り替え、トルク・回転数特性で表される回転電機14の動作領域について、昇圧節減上限値以下の昇圧電圧で規制される昇圧節減領域と、昇圧節減上限値を超え昇圧通常上限値以下の昇圧電圧で規制される昇圧中間領域とを区別し、車両の要求駆動力に対応する回転電機の要求動作点がどの領域にあるかを判断し、昇圧電圧上限値が昇圧節減上限値のときは、昇圧節減上限値でないときのエンジン停止のための条件である通常エンジン停止条件と車両の状況とを比較し、通常エンジン停止条件を満たすときにはエンジンを駆動させない処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両制御装置に係り、特に、動力源としてのエンジンと回転電機と、回転電機に接続され昇圧回路を含む電源回路とを有し、燃費向上のために昇圧回路の昇圧電圧上限値を制限することができる車両の駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンと回転電機とを搭載するハイブリッド車両では、燃費向上のために、状況に応じエンジンを停止し、あるいはインバータのシステム電圧を下げるために昇圧回路の昇圧上限値を制限し、あるいはこれらのことをユーザが操作するエコスイッチ等と呼ばれる操作子によって行わせること等が行われる。
【0003】
例えば、特許文献1には、車両用制御装置として、エコスイッチがオンのときに昇圧電圧の上限が低めに制限されるが、その状態でエンジンが始動あるいは停止する場合に生じる振動を抑制するために、エンジンの始動あるいは停止の前に、昇圧電圧の上限の範囲内で昇圧電圧を上昇させ、矩形波制御モードから正弦波制御モードに移行させて、制振制御を行なうことが述べられている。
【0004】
また、特許文献2には、ハイブリッド車両において、エコモード制御ではエンジン上限回転数の低減により燃料消費が抑えられ、コンバータの昇圧上限値を低く抑えることでコンバータにおけるスイッチング損失が低下し、搬送波の周波数低減によってインバータにおけるスイッチング損失が低下し、補機類のエコモード作動によって消費電力が押さえられることが述べられている。そして、エコモードにおいては走行用モータおよび発電用モータの回転数が制限され、特に発電用モータの回転数制限によって発電量が低下するので、バッテリの残容量が適正範囲の下限を大きく割り込むことが考えられると述べられている。そこで、バッテリの残容量が閾値以下か否かを判定し、閾値以下のときは昇圧上限値を通常モードと同じ値に切り換えて昇圧制限を解除することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−33947号公報
【特許文献2】特開2010−6296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
昇圧回路の昇圧電圧上限値を制限することで燃費改善を行うことができるが、昇圧電圧を下げると回転電機の出力トルクが低下する。そのため、車両の要求駆動力に応じてエンジンを一旦運転すると、回転電機の出力トルクが低いためにエンジン停止ができない状況が発生する。これによってエンジンの運転時間がかえって長くなり、燃費が悪化するおそれがある。
【0007】
本発明の目的は、昇圧回路の昇圧電圧上限値の制限に適切に対応してエンジンの駆動と停止を制御することができる車両駆動制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る車両駆動制御装置は、動力源としてのエンジンと回転電機と、回転電機に接続され昇圧回路を含む電源回路とを有する車両の駆動制御装置であって、車両の状態が予め定めた昇圧節減条件を満たすか否かを判断して、昇圧回路の昇圧電圧上限値について、昇圧通常上限値または、昇圧通常上限値よりも低く設定される昇圧節減上限値のいずれか一方に切り替える昇圧電圧上限値切替部と、昇圧電圧上限値切替部によって昇圧電圧上限値が昇圧節減上限値に切り替えられたときは、昇圧節減上限値に切り替えられていないときのエンジン停止のための条件である通常エンジン停止条件と車両の状況とを比較し、通常エンジン停止条件を満たすときにはエンジンを駆動させない処理を行うエンジン制御部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る車両駆動制御装置において、エンジンの運転状態を取得してエンジンが駆動中か停止中かを判断するエンジン状態取得部と、トルク・回転数特性で表される回転電機の動作領域において、昇圧節減上限値以下の昇圧電圧で規制される領域を昇圧節減領域とし、昇圧節減上限値を超え昇圧通常上限値以下の昇圧電圧で規制される領域を昇圧中間領域として、車両の要求駆動力に対応する回転電機の要求動作点がどの領域にあるかを判断する要求駆動力判断部と、を備え、エンジン制御部は、エンジン状態取得部においてエンジンが駆動中と判断され、回転電機の要求動作点が昇圧節減領域または昇圧中間領域にあるときにエンジンを停止することが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る車両駆動制御装置において、エンジン制御部は、エンジン状態取得部においてエンジンが停止中と判断され、車両の要求駆動力に対応する回転電機の要求動作点が昇圧節減領域または昇圧中間領域にあるときにエンジン停止を継続することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
上記構成により、車両駆動制御装置は、車両の状態が予め定めた昇圧節減条件を満たすと判断されて昇圧電圧上限値が昇圧節減上限値に切り替えられたときは、昇圧節減上限値に切り替えられていないときのエンジン停止のための条件である通常エンジン停止条件と車両の状況とを比較する。そして、昇圧節減上限値の制限がなされていて回転電機の定格トルクが低下し、その定格トルクの条件の下の計算で、仮に、エンジンの駆動が必要とされても、エンジンを駆動させない処理を行う。これは、昇圧節減条件と、通常エンジン停止条件とは必ずしも一致しないので、昇圧節減条件も満たし、通常エンジン停止条件も満たすときは、エンジンを駆動させないこととして、燃費向上を図るものである。
【0012】
また、車両駆動制御装置において、昇圧電圧上限値が昇圧節減上限値に切り替えられていてエンジンが駆動中のとき、車両の要求駆動力に対応する回転電機の要求動作点が昇圧節減領域または昇圧中間領域にあるときにエンジンを停止する。昇圧節減領域または昇圧中間領域は、いずれも昇圧通常上限値以下であるので、一般的には通常エンジン停止条件を満足する。そこで、昇圧節減上限値の制限によって回転電機の定格トルクが低下し、その定格トルクの条件の下の計算で、仮に、エンジンの駆動が必要とされても、エンジンを停止させる処理を行うことで燃費向上を図る。
【0013】
また、車両駆動制御装置において、昇圧電圧上限値が昇圧節減上限値に切り替えられていてエンジンが駆動中のとき、車両の要求駆動力に対応する回転電機の要求動作点が昇圧節減領域または昇圧中間領域にあるときにエンジン停止を継続する。昇圧節減領域または昇圧中間領域は、いずれも昇圧通常上限値以下であるので、一般的には通常エンジン停止条件を満足する。これによって燃費向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る実施の形態の車両駆動制御装置を含む車両駆動制御システムの構成を説明する図である。
【図2】本発明に係る実施の形態で、トルク・回転数特性で表される回転電機の動作領域を説明する図である。
【図3】本発明に係る実施の形態の車両駆動制御の手順のうち、最初にエンジンが駆動中である場合の手順を説明する図である。
【図4】図3に引き続き、最初にエンジンが停止中である場合の手順を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に図面を用いて本発明に係る実施の形態につき、詳細に説明する。以下では、ハイブリッド車両の駆動源を構成する回転電機を1台として説明するが、これは説明のための例示であって、複数台の回転電機を含むものとしてもよい。また、回転電機に接続される電源回路として、蓄電装置、電圧変換器、インバータ回路を含むものとして説明するが、これは主たる構成要素を述べたもので、これ以外の構成要素を含むものとしてもよい。例えば、低電圧インバータ回路、システムメインリレー、DC/DCコンバータ等を含むものとしてもよい。
【0016】
以下では、全ての図面において同様の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、本文中の説明においては、必要に応じそれ以前に述べた符号を用いるものとする。
【0017】
図1は、車両駆動制御装置40を含む車両駆動制御システム10の全体の構成を示す図である。この車両駆動制御システム10は、ハイブリッド車両の走行等における駆動制御を行うシステムで、駆動源としてのエンジン12と回転電機14、回転電機14に接続される電源回路16と車両駆動制御装置40を含んで構成される。また、電源回路16は、蓄電装置20と、蓄電装置側平滑コンデンサ22と昇圧回路30とインバータ回路側平滑コンデンサ24とインバータ回路26を含んで構成される。
【0018】
エンジン12は、ハイブリッド車両に搭載される内燃機関で、回転電機14とともに車両の駆動源を構成する。エンジン12は、車両の車軸を駆動しタイヤを回転して走行を行わせる機能と共に、回転電機14を発電機として用いて電源回路16に含まれる蓄電装置20を充電する機能を有する。
【0019】
回転電機14は、車両に搭載されるモータ・ジェネレータ(M/G)であって、インバータ回路26を含む電源回路16から電力が供給されるときはモータとして機能し、エンジン12による駆動時、あるいはハイブリッド車両の制動時には発電機として機能する3相同期型回転電機である。
【0020】
電源回路16を構成する蓄電装置20は、充放電可能な高電圧用2次電池である。蓄電装置20としては、例えば、約200Vから約300Vの端子電圧を有するリチウムイオン組電池あるいはニッケル水素組電池、またはキャパシタ等を用いることができる。組電池は、単電池または電池セルと呼ばれる端子電圧が1Vから数Vの電池を複数個組み合わせて、上記の所定の端子電圧を得るようにしたものである。
【0021】
昇圧回路30は、蓄電装置20とインバータ回路26の間に配置され、直流電圧変換機能を有する回路である。昇圧回路30としては、リアクトル32と、スイッチング素子34,36を含んで構成することができる。電圧変換機能としては、蓄電装置20側の電圧をリアクトル32のエネルギ蓄積作用を利用して昇圧しインバータ回路26側に供給する昇圧機能と、インバータ回路26側からの電力を蓄電装置20側に降圧して充電電力として供給する降圧機能とを有するが、ここでは、昇圧機能に注目して昇圧回路と呼ぶものである。
【0022】
蓄電装置20の両端子間の電圧であるいわゆるバッテリ電圧と、インバータ回路26の両端子電圧であるシステム電圧との比は、昇圧比と呼ばれる。例えば、昇圧比=1とは、昇圧回路30を作動させず、バッテリ電圧をそのままインバータ回路26のシステム電圧として供給するものである。昇圧比=2は、バッテリ電圧を288Vとすれば、これを576Vに昇圧して、インバータ回路26に供給するものである。昇圧比=1.5であれば、288V×1.5=432Vに昇圧される。昇圧比の制御は、昇圧回路30のスイッチング素子34,36のオン・オフのデューティ比等を変更することで行われる。
【0023】
インバータ回路26は、回転電機14に接続される回路で、複数のスイッチング素子と逆接続ダイオード等を含んで構成され、交流電力と直流電力との間の電力変換を行う機能を有する。すなわち、インバータ回路26は、回転電機14を発電機として機能させるときは、回転電機14からの交流3相回生電力を直流電力に変換し、蓄電装置20側に充電電流として供給する交直変換機能を有する。また、回転電機14をモータとして機能させるときは、蓄電装置20側からの直流電力を交流3相駆動電力に変換し、回転電機14に交流駆動電力として供給する直交変換機能を有する。
【0024】
蓄電装置側平滑コンデンサ22は、蓄電装置20の低圧側の電圧と電流の脈動等を平滑化する機能を有するコンデンサで、インバータ回路側平滑コンデンサ24は、インバータ回路26の高圧側の電圧と電流の脈動等を平滑化する機能を有するコンデンサである。
【0025】
車両駆動制御装置40に接続されるアクセル42とブレーキ44は、車両の走行等についてのユーザの要求が伝えられるユーザ操作子である。このアクセル42とブレーキ44によって、車両に対する要求駆動力が車両駆動制御装置40に伝達される。
【0026】
車両駆動制御装置40は、上記の各要素の動作を全体として制御し、車両が所望どおりの走行等を行うように制御する装置である。ここでは特に、昇圧回路の昇圧電圧上限値の制限に適切に対応してエンジンの駆動と停止を制御する機能を有する。かかる車両駆動制御装置40は、車両の搭載に適したコンピュータで構成することができる。
【0027】
車両駆動制御装置40は、車両の状態が予め定めた昇圧節減条件を満たすか否かを判断して、昇圧回路の昇圧電圧上限値について、昇圧通常上限値または、昇圧通常上限値よりも低く設定される昇圧節減上限値のいずれか一方に切り替える昇圧電圧上限値切替部50と、エンジンの運転状態を取得してエンジンが駆動中か停止中かを判断するエンジン状態取得部52と、トルク・回転数特性で表される回転電機の動作領域について、昇圧節減上限値以下の昇圧電圧で規制される領域を昇圧節減領域とし、昇圧節減上限値を超え昇圧通常上限値以下の昇圧電圧で規制される領域を昇圧中間領域として、車両の要求駆動力がどの領域にあるかを判断する要求駆動力判断部54と、昇圧電圧上限値切替部によって昇圧電圧上限値が昇圧節減上限値に切り替えられたときは、昇圧節減上限値に切り替えられていないときのエンジン停止のための条件である通常エンジン停止条件と車両の状況とを比較し、通常エンジン停止条件を満たすときにはエンジンを駆動させない処理を行うエンジン停止・始動制御部56とを備えて構成される。エンジン停止・始動制御部56は、エンジン12の駆動制御を行なうエンジン制御部の一部である。
【0028】
かかる機能は、ソフトウェアを実行することで実現でき、具体的には、車両駆動制御プログラムを実行することで実現できる。かかる機能の一部をハードウェアで実現するものとしてもよい。
【0029】
上記構成の作用、特に車両駆動制御装置40の各機能について、図2から図4を用いて詳細に説明する。図2は、トルク・回転数特性で表される回転電機の動作領域を説明する図である。ここでは、横軸に回転電機14の回転数、縦軸に回転電機14が出力するトルクが取られる。トルク×回転数=パワーであるので、図2でパワー一定の特性は双曲線で表すことができる。
【0030】
図2には、車両の仕様上で定められる回転電機14の最大パワー特性線60が実線で示されている。なお、最大パワー特性線60でトルクの上限と回転数の上限が切られているのは、車両の最大仕様等で定められる動作限界である。車両の走行状態等に応じて昇圧回路30が昇圧できる昇圧電圧上限値を昇圧通常上限値と呼ぶことにすると、最大パワー特性線60は、昇圧通常上限値の昇圧電圧のときの回転電機14が出力できるパワーを示す特性線である。したがって、回転電機14は、この最大パワー特性線60よりも小さいパワーの条件の下で動作することになる。
【0031】
図2には、昇圧回路30の昇圧電圧の上限が昇圧通常上限値よりも低く設定される昇圧節減上限値の下の節減パワー特性線62が示されている。昇圧節減上限値は、車両の状態が予め定めた昇圧節減条件を満たすときに、車両駆動制御装置40の昇圧電圧上限値切替部50の機能によって、昇圧通常上限値から自動的に切り替えられるもので、これによりインバータ回路26に供給されるシステム電圧が下がり、回転電機14のトルクが低下し、車両全体として燃費が向上する。すなわち、車両の燃費向上のために、昇圧節減条件を満たすとき、昇圧回路30の昇圧上限値が昇圧通常上限値から昇圧節減上限値に切り替えられる。
【0032】
昇圧節減条件としては、回転電機14の温度が予め定めた回転電機温度閾値以下であること、蓄電装置20の温度が予め定めた蓄電装置温度閾値異常であること、アクセル42の加速要求が予め定めた加速要求閾値以下であること、車両の速度である車速が予め定めた車速閾値以下であること等とすることがきる。これらの条件を全て満たすときに昇圧電圧上限値を昇圧通常上限値から昇圧節減上限値に切り替えられるものとしてもよく、各条件に重み付けをして、所定の条件を満たせば昇圧通常上限値から昇圧節減上限値に切り替えられるものとしてもよい。なお、上記以外の条件を昇圧節減条件としてもよい。
【0033】
この最大パワー特性線60と節減パワー特性線62によって、トルク・回転数特性で示される回転電機14の動作領域を3つに分けることができる。図2で丸印に1として示される領域は、最大パワー特性線60よりもパワーが大きい領域であり、昇圧電圧の上限値が昇圧通常上限値で制限される昇圧限界領域64である。図2で丸印に3として示される領域は、節減パワー特性線62以下のパワーの領域で、昇圧電圧の上限値が昇圧節減上限値で規制される昇圧節減領域68である。図2で丸印に2として示される領域は、昇圧限界領域64と昇圧節減領域68との間の中間領域で、昇圧電圧の上限値が昇圧節減上限値を超え昇圧通常上限値以下の範囲で規制される昇圧中間領域66である。昇圧中間領域66と昇圧節減領域68は、昇圧電圧の上限値が昇圧通常上限値以下である規制される領域であるので、この2つをまとめて昇圧制限領域と呼ぶことができる。
【0034】
回転電機14は、その要求トルクと回転数で要求動作点が定まるが、要求動作点が定まれば、その動作状態は、上記のトルク・回転数特性の3つの動作領域のいずれかにあるかで定めることができる。
【0035】
要求トルクの大きさは、アクセル42とブレーキ44で定まり、回転数は、現在の車両の駆動軸の回転数で定まる。このように、アクセル42とブレーキ44で指示される要求動作点は、回転電機14のみに対するものというよりは、車両全体に対するものである。その意味では、車両全体の要求動作点は、エンジン12と回転電機14を含む車両全体の駆動源について、図2のようなトルク・回転数特性で示される。以下では、駆動源として回転電機14を有効に用い、回転電機14のパワーで不足するときはエンジン12を駆動するものとして、回転電機14のトルク・回転数特性を用いて説明を続ける。
【0036】
要求動作点74が昇圧限界領域64とされると、この領域は昇圧電圧の上限値が昇圧通常上限値を超えているので、この要求動作点74で示されるパワーは、回転電機14のみでは達成できない。したがって、車両としてこの要求動作点74が要求されるときは、回転電機14は最大パワー特性線60の上の動作点となり、不足するパワーは、エンジン12によって満たされることになる。つまり、昇圧限界領域64の中の要求動作点74については、車両としては回転電機14だけでは要求を満たせず、エンジン12も動作されることになる。このように、回転電機14に対する要求動作点74が昇圧限界領域64の中となるときは、回転電機14とエンジン12が駆動されている状態である。
【0037】
ユーザのアクセル42またはブレーキ44操作が変更されて、その要求動作点が昇圧制限領域に入ると、ここでは、回転電機14のみで要求パワーを満たすことができるので、エンジン12の駆動が停止され、回転電機14のみの駆動で車両の走行等を実現できる。したがって、ユーザによって指示される要求動作点はそのまま回転電機14に対する要求動作点となる。例えば、図2における要求動作点76,78においては、エンジン12の駆動が停止され、回転電機14の駆動のみが行なわれる。
【0038】
ここで、車両の状況が昇圧節減条件を満たすと、車両駆動制御装置40の昇圧電圧上限値切替部50の機能によって、自動的に昇圧回路30の昇圧電圧の上限値が昇圧通常上限値から昇圧節減上限値に変更される。これにしたがって、図2のトルク・回転数特性において、回転電機14の出せる最大パワーを示す特性線が、最大パワー特性線60から節減パワー特性線62に変更される。
【0039】
このように、昇圧回路30の昇圧電圧の上限値である昇圧上限値が昇圧通常上限値から昇圧節減上限値に変更されるときには、昇圧電圧の上限値が下がるので、回転電機14の定格トルクが低下する。これにより燃費向上が図れる。これが昇圧節減の目指す目的である。ところが、回転電機14の定格トルクが低下すると、ユーザの要求するパワーが回転電機14のみでは実現できないことが生じ得る。そこで、その場合にはエンジン12を始動するようにすると、エンジン12の駆動する時間が長くなり、かえって燃費が悪化することになりかねない。
【0040】
そこで、車両駆動制御装置40は、昇圧電圧上限値が昇圧節減上限値に切り替えられたときは、昇圧節減上限値に切り替えられていないときのエンジン停止のための条件である通常エンジン停止条件と車両の状況とを比較し、通常エンジン停止条件を満たすときにはエンジン12を駆動させない処理を行う。この処理の目的は、昇圧節減条件と、通常エンジン停止条件とは必ずしも一致しないので、昇圧節減条件も満たし、通常エンジン停止条件も満たすときは、エンジン12を駆動させないこととして、燃費向上を図るものである。なお、エンジン12を駆動させない処理とは、エンジン12が駆動中の場合はエンジン12を停止させ、エンジン12が停止中であればエンジン停止を継続する処理を含む。
【0041】
この処理の手順について、図3、図4を用いて説明する。図3は、エンジン12が駆動状態にあって昇圧電圧上限値が昇圧節減上限値に切り替えられたときの手順で、図4は、エンジン12が停止状態にあって昇圧電圧上限値が昇圧節減上限値に切り替えられたときの手順である。以下で述べる各手順は、車両駆動制御プログラムの各処理手順に対応する。
【0042】
ここでは、エンジン12が駆動中か否かが判断される(S10)。この手順は、車両駆動制御装置40のエンジン状態取得部52の機能によって実現される。具体的には、エンジン12の回転数を検出すること等によってエンジン12が駆動中か否かが判断される。エンジン駆動中と判断されると図3における以下の手順に進み、エンジン駆動中でないと判断されると、図3において丸印でAと示されるように、図4の手順に進む。
【0043】
S10で判断が肯定されると、次に昇圧回路30の昇圧電圧の上限値の設定が昇圧節減上限値であるか否かが判断される。つまり、現在が昇圧節減中か否かが判断される(S12)。具体的には、車両駆動制御装置40の昇圧電圧上限値切替部50のステータスである状態値を取得することで、現在の昇圧回路30の昇圧電圧上限値の設定が昇圧通常上限値か昇圧節減上限値かが判断できる。
【0044】
S12において、判断が否定、すなわち、昇圧電圧上限値の設定が昇圧通常上限値である場合には、昇圧回路30の昇圧電圧は燃費向上のための特別な節減を行なっていないので、通常の制御が行なわれる。すなわち、車両に対する要求パワーと最大パワー特性線60で規定される回転電機14の最大パワーとを比較して、回転電機14のみで要求パワーを満たせるときはエンジン12を停止し、満たせないときはエンジン12を駆動する制御が行なわれる。
【0045】
S12において判断が肯定されて、昇圧電圧上限値の設定が昇圧節減上限値であるときには、要求駆動力とトルク・回転数特性を比較し、要求駆動力に対応する要求動作点がどこにあるかが判断される(S14)。この手順は、車両駆動制御装置40の要求駆動力判断部54の機能によって実行される。ここで、要求駆動力に対応する回転電機14の要求動作点が昇圧節減領域68にある要求動作点78であると判断される(S16)ときには、エンジン12が停止され(S18)、昇圧節減の目的どおり、燃費節減が図られる。
【0046】
また、要求駆動力に対応する回転電機14の要求動作点が昇圧中間領域66にある要求動作点76であると判断される(S20)ときには、上記のように、昇圧節減上限値に切り替えられていないときのエンジン停止のための条件である通常エンジン停止条件と車両の状況とが比較される。昇圧中間領域66は、上記のように昇圧通常上限値以下の領域であるので、車両の状況は通常エンジン停止条件を満たす。つまり、要求動作点が昇圧制限領域にあるときは、回転電機14のみで要求駆動力を満たせるので、エンジン12を停止させることができる。したがって、S20で判断が肯定されると、エンジン12が停止される(S22)。
【0047】
昇圧電圧上限値の設定が昇圧節減上限値である場合には、昇圧電圧上限値が昇圧通常上限値よりも低下することで、回転電機14の定格トルクが低下して、計算上は、回転電機14の定格トルクでは要求駆動力を満たせないことになって、エンジン12を始動させることが生じ得る。しかし、実際の要求動作点が昇圧中間領域66の中の要求動作点76である場合には、その昇圧電圧の上限値は昇圧節減上限値を超えているので、回転電機14の定格トルクは昇圧節減上限値における値ほどは低くなっていない。そしてその昇圧電圧の上限値は昇圧通常上限値以下であるので、車両の状況は通常エンジン停止条件を満たす。そこで、この場合にも、エンジン12を停止する(S22)ものとして、燃費向上を図る。S18,S22の手順は、車両駆動制御装置40のエンジン停止・始動制御部56の機能によって実現される。
【0048】
このように、エンジン12が駆動中において、昇圧電圧上限値の設定が昇圧通常上限値から昇圧節減上限値に切り替えられるときは、車両の要求駆動力に対応する回転電機14に対する要求動作点が昇圧節減領域68または昇圧中間領域66にあれば、いずれもエンジン12が停止される。これによって、燃費向上が図られる。
【0049】
S10において判断が否定され、エンジン12が駆動中でないと判断されると、図4の手順が実行される。エンジン12が駆動中でないということは、エンジン12が停止中である(S30)であり、この場合にも、図3と同様に、次に昇圧回路30の昇圧電圧の上限値の設定が昇圧節減上限値であるか否かが判断される。つまり、現在が昇圧節減中か否かが判断される(S32)。この処理の内容は図3のS12と同じである。S32において、判断が否定ときも、図3のS12に関連して説明したように、昇圧電圧上限値の設定が昇圧通常上限値であり、昇圧電圧は燃費向上のための特別な節減を行なっていないので、通常の制御が行なわれる。すなわち、車両に対する要求パワーと最大パワー特性線60で規定される回転電機14の最大パワーとを比較して、回転電機14のみで要求パワーを満たせるときはエンジン12を停止し、満たせないときはエンジン12を駆動する制御が行なわれる。
【0050】
S32において判断が肯定されて、昇圧電圧上限値の設定が昇圧節減上限値であるときには、要求駆動力とトルク・回転数特性を比較し、要求駆動力に対応する要求動作点がどこにあるかが判断される(S34)。この処理の内容も図3のS14と同じである。ここで、要求駆動力に対応する回転電機14の要求動作点が昇圧節減領域68にある要求動作点78であると判断される(S36)ときには、エンジン12の停止が継続され(S38)、昇圧節減の目的どおり、燃費節減が図られる。
【0051】
また、要求駆動力に対応する回転電機14の要求動作点が昇圧中間領域66にある要求動作点76であると判断される(S40)ときには、上記のように、昇圧節減上限値に切り替えられていないときのエンジン停止のための条件である通常エンジン停止条件と車両の状況とが比較される。昇圧中間領域66は、上記のように昇圧通常上限値以下の領域であるので、車両の状況は通常エンジン停止条件を満たす。つまり、要求動作点が昇圧制限領域にあるときは、回転電機14のみで要求駆動力を満たせるので、エンジン12を停止させることができる。したがって、S40で判断が肯定されると、エンジン12の停止が継続される(S42)。
【0052】
なお、S40で判断が否定されると、車両の要求駆動力に対応する回転電機14の要求動作点が昇圧限界領域64の中の要求動作点74となる(S44)が、実際には昇圧通常上限値で昇圧回路30の昇圧上限値が規制されるので、回転電機14のみでは車両に対する要求駆動力を満たせない。そこで、この場合には、エンジン12が始動される(S46)。S38,S42,S46の手順は、車両駆動制御装置40のエンジン停止・始動制御部56の機能によって実現される。
【0053】
このように、エンジン12が停止中において、昇圧電圧上限値の設定が昇圧通常上限値から昇圧節減上限値に切り替えられるときは、車両の要求駆動力に対応する回転電機14に対する要求動作点が昇圧節減領域68または昇圧中間領域66にあれば、いずれもエンジン12の停止が継続止される。これによって、燃費向上が図られる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明に係る車両駆動制御装置は、昇圧回路を有するハイブリッド車両に利用される。
【符号の説明】
【0055】
10 車両駆動制御システム、12 エンジン、14 回転電機、16 電源回路、20 蓄電装置、22 蓄電装置側平滑コンデンサ、24 インバータ回路側平滑コンデンサ、26 インバータ回路、30 昇圧回路、32 リアクトル、34,36 スイッチング素子、40 車両駆動制御装置、42 アクセル、44 ブレーキ、50 昇圧電圧上限値切替部、52 エンジン状態取得部、54 要求駆動力判断部、56 エンジン停止・始動制御部、60 最大パワー特性線、62 節減パワー特性線、64 昇圧限界領域、66 昇圧中間領域、68 昇圧節減領域、74,76,78 要求動作点。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源としてのエンジンと回転電機と、回転電機に接続され昇圧回路を含む電源回路とを有する車両の駆動制御装置であって、
車両の状態が予め定めた昇圧節減条件を満たすか否かを判断して、昇圧回路の昇圧電圧上限値について、昇圧通常上限値または、昇圧通常上限値よりも低く設定される昇圧節減上限値のいずれか一方に切り替える昇圧電圧上限値切替部と、
昇圧電圧上限値切替部によって昇圧電圧上限値が昇圧節減上限値に切り替えられたときは、昇圧節減上限値に切り替えられていないときのエンジン停止のための条件である通常エンジン停止条件と車両の状況とを比較し、通常エンジン停止条件を満たすときにはエンジンを駆動させない処理を行うエンジン制御部と、
を備えることを特徴とする車両駆動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両駆動制御装置において、
エンジンの運転状態を取得してエンジンが駆動中か停止中かを判断するエンジン状態取得部と、
トルク・回転数特性で表される回転電機の動作領域について、昇圧節減上限値以下の昇圧電圧で規制される領域を昇圧節減領域とし、昇圧節減上限値を超え昇圧通常上限値以下の昇圧電圧で規制される領域を昇圧中間領域として、車両の要求駆動力に対応する回転電機の要求動作点がどの領域にあるかを判断する要求駆動力判断部と、
を備え、
エンジン制御部は、
エンジン状態取得部においてエンジンが駆動中と判断され、回転電機の要求動作点が昇圧節減領域または昇圧中間領域にあるときにエンジンを停止することを特徴とする車両駆動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の車両駆動制御装置において、
エンジン制御部は、
エンジン状態取得部においてエンジンが停止中と判断され、車両の要求駆動力に対応する回転電機の要求動作点が昇圧節減領域または昇圧中間領域にあるときにエンジン停止を継続することを特徴とする車両駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−61870(P2012−61870A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205064(P2010−205064)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】