説明

車両

【課題】車内全体で均一に音声情報を提供することができ、且つ低コスト化及び出力調整時間の短縮化を図ることの可能な車両を提供する。
【解決手段】板振動スピーカ20と、参照マイクロホン21と、誤差マイクロホン22と、スピーカコントローラ23とを備え、板振動スピーカ20は、車内に設置された天井板Bの上面に設置されており、スピーカコントローラ23から入力される音声信号に応じて天井板Bを振動させることで音声を発生する。さらに、参照マイクロホン21は、車内の騒音源から発生する車内騒音を検出し、車内騒音と逆位相の音が発生するように板振動スピーカ20をスピーカコントローラ23にて制御することにより車内騒音を低減する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に関し、特に新交通システムで用いられる車両に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、新交通システムとは、人口の比較的密集した都市空間において鉄道とバスとの中間の輸送力を持つ公共交通機関として開発されたものであり、近年では大規模空港内における旅客移動手段としても利用されている。このような新交通システムは、専用の軌道をゴムタイヤで支持された車両が案内軌条(ガイドレール)にガイドされて走行する方式を採用しているため、快適性・低公害性・安全性に優れた輸送システムとして注目されている。
従来の新交通システムで用いられる車両は、車内の壁面に複数のスピーカが配置されており、車内放送時にはこれらスピーカを用いて音声情報を乗客に提供している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−194633号公報
【特許文献2】特開2003−344083号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、従来の新交通システムで用いられる車両では、複数のスピーカを用いて車内放送を行っていたが、車内全体で均一に音声情報を提供するためには多数のスピーカを用意する必要があり、コストの増大を招いていた。また、各スピーカの位置に応じて出力調整を行う必要があるため、スピーカの数が多くなるほど、その出力調整時間が長くなるという問題があった。
【0005】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであり、車内全体で均一に音声情報を提供することができ、且つ低コスト化及び出力調整時間の短縮化を図ることの可能な車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る車両は、車内に設置された天井板を振動させて音声を発生する板振動スピーカと、車内放送すべき音声が発生するように前記板振動スピーカを制御するスピーカ制御部とを備えることを特徴とする。
また、本発明に係る車両は、車内の騒音源から発生する車内騒音を検出する参照マイクロホンを備え、前記スピーカ制御部は、前記車内放送が不要な場合、前記参照マイクロホンにて検出される前記車内騒音と逆位相の音が発生するように前記板振動スピーカを制御することを特徴とする。
また、本発明に係る車両は、受聴箇所における騒音を誤差騒音として検出する誤差マイクロホンをさらに備え、前記スピーカ制御部は、前記誤差マイクロホンにて検出される前記誤差騒音が最小となるように前記板振動スピーカをフィードバック制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る車両によれば、車内放送用のスピーカとして車内に設置された天井板を振動させて音声を発生する板振動スピーカを用いるため、車内全体で均一に音声情報を提供することができ、且つスピーカの個数を最小限にして低コスト化を図ることが可能である。また、車内放送用のスピーカの個数が減るため、出力調整時間の短縮化を図ることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本実施形態の新交通システムで使用される車両1の構成概略図である。
【図2】車両1の車内放送を実施するために必要な要素を示す機能ブロック構成図である。
【図3】騒音源の調査結果に関する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る新交通システムで使用される車両1の構成概略図である。図1(a)は例えば大規模空港内或いは市街地などに敷設された軌道W上を走行する車両1の正面図、図1(b)は車両1の台車の構造を説明するための概略平面図である。
【0010】
これら図1(a)及び(b)に示すように、車両1は、乗客を収容するための本体部である車体10と、4輪のゴムタイヤ11に支持された台車12とを備えている。台車12には集電装置13及び後輪側のゴムタイヤ11を回転させる駆動モータ14が設置されており、車両1は、軌道Wの側壁に沿って設置された電車線15から集電装置13を介して電力(例えば3相交流電力)供給を受けて走行するようになっている。
【0011】
また、台車12には、ゴムタイヤ11の操舵手段として、前輪側及び後輪側の2箇所に案内バー16が取り付けられている。案内バー16の両側には案内輪17が取り付けられており、軌道側壁に設けられたガイドレール18に案内輪17をガイドさせて走行することにより、軌道Wのカーブに追従して曲がることができるようになっている。
【0012】
また、案内バー16には、案内輪17の下方に分岐案内輪19が取り付けられている。この分岐案内輪19は、軌道Wの分岐部横に設置された電気転轍機の可動案内板(図示略)にフックして車両1を所望の方向に分岐させるものであり、直進するときには電気転轍機の直進側の可動案内板がせり出してきて車両1の進路を直進方向に維持し、分岐するときには分岐側の可動案内板がせり出してきて車両1の進路を分岐方向に変更するようになっている。
【0013】
図2は、車両1の車内放送を実施するために必要な要素を示す機能ブロック構成図である。この図2に示すように、車両1は、車内放送を実施するために必要な要素として、板振動スピーカ20と、参照マイクロホン21と、誤差マイクロホン22と、スピーカコントローラ(スピーカ制御部)23とを備えている。
【0014】
板振動スピーカ20は、車内(車体10)に設置された天井板Bの上面に設置されており、スピーカコントローラ23から入力される音声信号に応じて天井板Bを振動させることで音声を発生する車内放送用のスピーカである。天井板Bを振動させる方式としては、音声信号に応じて発生する電磁気力によってボイスコイルを上下動させることで天井板Bを振動させる方式や、磁界の変化により高速に収縮する磁性材料を利用し、音声信号によって磁界の変化を発生させて磁性材料を収縮することで天井板Bを振動させる方式などを採用することができる。
【0015】
ここで、板振動スピーカ20による天井板Bの振動に対して車体10の振動が悪影響を与えないように、車体10のフレームに対して天井板Bを切り離して設置することが好ましい。また、天井板Bの材質は、車内放送に必要な音質・音量などを考慮して適宜決定すれば良い。また、1台の車両1に必要な板振動スピーカ20の個数も車両1の全長に応じて適宜決定すれば良いが、新交通システムで用いられる一般的な車両の全長を考量すると、1台の車両1につき少なくとも1つから2つの板振動スピーカ20を車両1の長さ方向に沿って配置することにより車内全体で均一に音声情報を提供することができる。
【0016】
参照マイクロホン21は、車内の騒音源から発生する車内騒音を検出し、その検出結果を示す車内騒音信号をスピーカコントローラ23に出力する。このような参照マイクロホン21は、当然ながら車内の騒音源の近傍に配置する必要がある。本願発明者は、車内の騒音源を調査した結果、車軸フレーム上部から車内に伝播する固体音が支配的であることをつきとめ、その車軸フレーム上部を騒音源としてその近傍に参照マイクロホン21を配置するに至った。
【0017】
図3は騒音源の調査結果に関する説明図である。図3(a)は車両1の側面図であり、振動加速度レベルの測定箇所を示している。この図3(a)に示すように、車両1における車軸フレーム上部(床下)、天井(中央部)、床(中央部)、柱(中央部)、天井(前方部)、床(前方部)、柱(前方部)を測定箇所として各箇所の振動加速度レベルを測定した。
図3(b)は各測定箇所の1/1オクターブバンド中心周波数に対する振動加速度レベルの測定結果を示す図である。この図3(b)に示すように、車軸フレーム上部における振動加速度レベルが最も大きく、車軸フレーム上部から車内に伝播する固体音が支配的であることがわかる。
【0018】
図2に戻って、誤差マイクロホン22は、受聴箇所における騒音を誤差騒音として検出し、その検出結果を示す誤差騒音信号をスピーカコントローラ23に出力する。このような誤差マイクロホン22は、受聴箇所の近傍、例えば座席の周辺や天井板Bの下部等に配置する必要がある。
【0019】
スピーカコントローラ23は、車内放送すべき音声が発生するように板振動スピーカ20を制御するものであり、具体的には車内放送すべき音声に応じた音声信号を生成して板振動スピーカ20に出力する。また、このスピーカコントローラ23は、車内放送が不要な場合、参照マイクロホン21にて検出される車内騒音(車内騒音信号)と逆位相の音声(つまり車内騒音を相殺する音声)が発生するように板振動スピーカ20を制御すると共に、誤差マイクロホン22にて検出される誤差騒音(誤差騒音信号)が最小となるように板振動スピーカ20をフィードバック制御するANC(アクティブノイズコントロール)機能も備えている。なお、ANCは既に公知の技術であるため詳細な説明は省略する。
【0020】
上記のような構成の車両1において、スピーカコントローラ23は、例えば発車する際や駅に停車する際に車内放送を行う場合、車内放送すべき音声に応じた音声信号を生成して板振動スピーカ20に出力する。これにより、板振動スピーカ20は、音声信号に応じて天井板Bを振動させて音声を発生し、車内全体で均一に音声情報を提供することができる。一方、車内放送が不要な場合、例えば定常走行時にはスピーカコントローラ23のANC機能により車内騒音が低減することができる。
【0021】
以上のように、本実施形態に係る車両1によると、車内放送用のスピーカとして車内に設置された天井板Bを振動させて音声を発生する板振動スピーカ20を用いるため、車内全体で均一に音声情報を提供することができ、且つスピーカの個数を最小限にして低コスト化を図ることが可能である。また、車内放送用のスピーカの個数が減るため、出力調整時間の短縮化を図ることも可能である。
【0022】
さらに、参照マイクロホン21及び誤差マイクロホン22を設け、スピーカコントローラ23にANC機能を付加することで、車内放送不要時における車内騒音を低減することができ、車内環境の静穏化を図ることが可能となる。これにより、車内騒音を低減するために高価な遮音材などを用いる必要がなくなり、より低コスト化を図ることができる。
【0023】
なお、上記実施形態では、誤差マイクロホン22を設け、誤差マイクロホン22にて検出される誤差騒音が最小となるように板振動スピーカ20をフィードバック制御する場合を例示したが、それ程ANCの精度が要求されない場合には誤差マイクロホン22を設けず、参照マイクロホン21だけを用いてANCを実施しても良い。また、参照マイクロホン21及び誤差マイクロホン22を設けず、スピーカコントローラ23からANC機能を取り除いて、車内放送のみに特化した構成としても良い。
【符号の説明】
【0024】
1…車両、10…車体、11…ゴムタイヤ、12…台車、20…板振動スピーカ、21…参照マイクロホン、22…誤差マイクロホン、23…スピーカコントローラ、B…天井板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車内に設置された天井板を振動させて音声を発生する板振動スピーカと、
車内放送すべき音声が発生するように前記板振動スピーカを制御するスピーカ制御部と、
を備えることを特徴とする車両。
【請求項2】
車内の騒音源から発生する車内騒音を検出する参照マイクロホンを備え、
前記スピーカ制御部は、前記車内放送が不要な場合、前記参照マイクロホンにて検出される前記車内騒音と逆位相の音が発生するように前記板振動スピーカを制御することを特徴とする請求項1記載の車両。
【請求項3】
受聴箇所における騒音を誤差騒音として検出する誤差マイクロホンをさらに備え、
前記スピーカ制御部は、前記誤差マイクロホンにて検出される前記誤差騒音が最小となるように前記板振動スピーカをフィードバック制御することを特徴とする請求項2記載の車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−20474(P2011−20474A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−164793(P2009−164793)
【出願日】平成21年7月13日(2009.7.13)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】