説明

車両

【課題】走行時の低重心を確保しつつ、乗降性を向上させ、かつサイドバー部材の剛性を高めた車両を提供すること。
【解決手段】車両1は、車室11を上方から覆うと共に車両本体2に前部31が回動可能に連結された屋根部材3と、車室11の左右に配されると共にその後部42が屋根部材3の後部32に回動可能に連結された一対のサイドバー部材4と、サイドバー部材4の前部41に上部51が回動可能に連結されると共に下部52が車両本体2に回動可能に連結された一対の支承部材5とを有する。車両本体2と屋根部材3とサイドバー部材4と支承部材5とからなるリンク機構は、屋根部材3の後部32が上方へ移動するのに連動してサイドバー部材4の前部41が後方へ移動し、屋根部材3の後部32が下方へ移動するのに連動してサイドバー部材4の前部41が前方へ移動するよう構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車室を上方から覆う屋根を有する車両に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば小型の電気自動車等の車両において、車室を上方から覆う屋根を有するものがある。かかる車両においては、車室への乗降のためには屋根が高く設計されていることが好ましい。しかし、屋根を高くすると、走行時の車両安定性が損なわれるおそれがあると共に、低重心の車体スタイルを保つことができない。一方、屋根を低く設計すれば、車室への乗降がし難くなる。
そこで、屋根を開閉可能に構成した小型車両が提案されている(特許文献1)。
【0003】
また、特に小型車両においては、例えば普通乗用車にあるようなサイドドア(例えば特許文献1の図1、図2における符号8参照。)がないものもあるが、乗員(運転者)の保護のために、サイドバーを設けることがある。しかし、サイドバーを設けると、やはり車室への乗降時にサイドバーが邪魔になる。そこで、サイドバーを開閉自在とした小型車両が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−204号公報
【特許文献2】特開昭58−110378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の小型車両においては、乗降する際に、サイドドアを開放すると共に、屋根を開放する必要がある。すなわち、乗降時に常に二つの動作を必要とするため、煩雑である。
また、上記特許文献2に記載の小型車両においては、乗降時に屋根が邪魔になるという問題は解決されていない。また、この小型車両におけるサイドバーは、1個のヒンジにて開閉するため、高い剛性が得られ難いという問題もある。
【0006】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたもので、走行時の低重心を確保しつつ、乗降性を向上させ、かつサイドバー部材の剛性を高めた車両を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、車室を上方から覆うと共に車両本体に前部が回動可能に連結された屋根部材と、
上記車室の左右に配されると共にその後部が上記屋根部材の後部に回動可能に連結された一対のサイドバー部材と、
該サイドバー部材における上記後部よりも前方に配された前部に上部が回動可能に連結されると共に下部が上記車両本体に回動可能に連結された一対の支承部材とを有し、
上記車両本体と上記屋根部材と上記サイドバー部材と上記支承部材とからなるリンク機構は、上記屋根部材の後部が上方へ移動するのに連動して上記サイドバー部材の前部が後方へ移動し、上記屋根部材の後部が下方へ移動するのに連動して上記サイドバー部材の前部が前方へ移動するよう構成されていることを特徴とする車両にある(請求項1)。
【発明の効果】
【0008】
本発明においては、上記のようなリンク機構が、上記車両本体と上記屋根部材と上記サイドバー部材と上記支承部材とによって構成されている。これにより、車両の走行時には、屋根部材の後部を下方へ下げ、乗降時には、屋根部材の後部を上方へ上げることができる。そして、これに連動してサイドバー部材が動いて、走行時にはサイドバー部材の前部が前方へ移動して車室の側部に配置され、乗降時にはサイドバー部材の前部が後方に配置される。
【0009】
そのため、車両走行時には車体を低重心とすると共にサイドバー部材によって乗員を保護することができ、乗降時には上記車両本体と上記屋根部材と上記サイドバー部材と上記支承部材との間に形成される乗降スペースを広くして屋根部材やサイドバー部材が乗降の邪魔になることを防ぐことができる。
これにより、車両の走行安定性や低重心スタイルの維持を可能としつつ、車室への乗降のしやすさを向上させることができる。
【0010】
また、上記サイドバー部材は、その2個所において支承部材と屋根部材とに連結されているため、その剛性を高めることができる。すなわち、上記車両本体と上記屋根部材と上記サイドバー部材と上記支承部材とによって環状のリンク機構が構成されているため、これら全体の剛性が高まるのに伴い、サイドバー部材の剛性を高めることができる。
【0011】
以上のごとく、本発明によれば、走行時の低重心を確保しつつ、乗降性を向上させ、かつサイドバー部材の剛性を高めた車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例における、第一状態(走行時の状態)の車両の斜視図。
【図2】実施例における、第一状態(走行時の状態)の車両の側面図。
【図3】実施例における、第二状態(乗降時の状態)の車両の側面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、上記リンク機構は、上記屋根部材の後部が低い位置にある第一状態と、該第一状態よりも上記屋根部材の後部が高い位置にある第二状態において、それぞれ固定できるよう構成されていることが好ましい(請求項2)。
この場合には、走行時には上記リンク機構を上記第一状態に固定し、乗降時には上記リンク機構を上記第二状態に固定することで、走行時の安全性を確保することができると共に、乗降容易性をより向上させることができる。
【実施例】
【0014】
本発明の実施例にかかる車両につき、図1〜図3を用いて説明する。
本例の車両1は、下記の屋根部材3と一対のサイドバー部材4と一対の支承部材5とを有する。
屋根部材3は、車室11を上方から覆うと共に車両本体2に前部31が回動可能に連結されている。
一対のサイドバー部材4は、車室11の左右に配されると共にその後部42が屋根部材3の後部32に回動可能に連結されている。
一対の支承部材5は、サイドバー部材4における後部42よりも前方に配された前部41に上部51が回動可能に連結されると共に下部52が車両本体2に回動可能に連結されている。
【0015】
車両本体2と屋根部材3とサイドバー部材4と支承部材5とからなるリンク機構は、図2、図3に示すごとく、屋根部材3の後部32が上方へ移動するのに連動してサイドバー部材4の前部41が後方へ移動し、屋根部材3の後部32が下方へ移動するのに連動してサイドバー部材4の前部41が前方へ移動するよう構成されている。
【0016】
そして、上記リンク機構は、図2に示すごとく、屋根部材3の後部32が低い位置にある第一状態と、図3に示すごとく、第一状態よりも屋根部材3の後部32が高い位置にある第二状態において、それぞれ固定できるよう構成されている。その固定手段は、例えば、各部材の連結部の少なくとも一箇所において、回動をロックするロック機構を採用することができる。
図2の第一状態は、車両走行時の状態であり、図3の第二状態は、車室11内への乗員の乗降時における状態である。
【0017】
本例の車両1は、一人乗りの小型の電気自動車であり、車輪12が4個の4輪車両である。屋根部材3は、運転者が前方を視認できるよう、少なくとも一部を透明部材(例えば透明樹脂部材)によって構成してある。
また、屋根部材3の側端部の下面には、ハンドル33が固定されており、このハンドル33を握って、もしくは屋根部材3自体を掴んで、屋根部材3の上昇下降を手動にて行うことができるよう構成されている。
【0018】
また、屋根部材3の上昇方法として、後述するサイドバー部材4の前方延設部43の上面を手にて下方に押すという方法もある。これにより、支承部材5とサイドバー部材4と屋根部材3とのリンク機構によって、図3に示す第二状態まで屋根部材3を跳ね上げることも可能である。この場合には、車室11内における着座姿勢でも容易に乗降スペース13を広げることができる。
また、屋根部材3を下降させる際には、図3の第二状態からサイドバー部材4の前方延設部43を前方かつ上方へ引き上げることにより、上記上昇の場合と逆のリンク機構の動きによって、着座姿勢でも容易に屋根部材3を降ろして、図2に示す第一状態にすることができる。
【0019】
また、屋根部材3は、前部31から後方へ向かって、外側に凸の流線形に形成された天井部34と、該天井部34の後端部における左右端部から下方へ延びた一対のピラー部35とからなる。そして、サイドバー部材4の後部42と連結された屋根部材3の後部32は、上記ピラー部35の下端部に形成されている。
なお、本明細書において、各部材における上下前後は、上記第一状態(図2)にあるときの位置関係に基づくものとする。
【0020】
サイドバー部材4は、上記第一状態において、略水平方向に配される。そして、支承部材5と連結されるサイドバー部材4の前部31はサイドバー部材4の前端部とは異なり、サイドバー部材4は、前部31よりも前方へ延設された前方延設部43を有する。ただし、サイドバー部材4の前端部に支承部材5と連結される前部31を設けることもできる。
また、支承部材5の下部52は、車両本体2の底部の側面に連結されている。
【0021】
次に、車両本体2と屋根部材3とサイドバー部材4と支承部材5とからなるリンク機構の動きについて説明する。本例においては、このリンク機構は、手動で動かすことができる。
まず、図2に示すごとく、屋根部材3の後部32が低い位置にある第一状態から、屋根部材3の後部32が上昇するように、屋根部材3をその前部31における連結部を中心に回動させる。すると、屋根部材3の後部32の上昇に伴ってサイドバー部材4の後部42が上昇し、前部41が支承部材5の上部51と共に後方へ移動する。
これにより、図3に示すような第二状態とすることができ、車両本体2と屋根部材3とサイドバー部材4と支承部材5との間に形成される乗降スペース13を高く、そして広くすることができる。
【0022】
一方、図3に示す第二状態から屋根部材3の後部32を下降させることにより、上記リンク機構に上記と逆の動きが生じ、図2に示す第一状態に戻すことができる。
そして、第一状態と第二状態との双方において、それぞれリンク機構を固定することができる。
【0023】
次に、本例の作用効果につき説明する。
本例の車両1においては、上記のようなリンク機構が、車両本体2と屋根部材3とサイドバー部材4と支承部材5とによって構成されている。これにより、車両1の走行時には、屋根部材3の後部32を下方へ下げ(図2)、乗降時には、屋根部材3の後部32を上方へ上げる(図3)ことができる。そして、これに連動してサイドバー部材4が動いて、走行時にはサイドバー部材4の前部41が前方へ移動して車室11の側部に配置され(図2)、乗降時にはサイドバー部材4の前部41が後方に配置される(図3)。この乗降時の状態(第一状態)において、サイドバー部材4の前方延設部43も後方に配置される。
【0024】
そのため、車両走行時には車体1を低重心とすると共にサイドバー部材4によって乗員を保護することができ、乗降時には車両本体2と屋根部材3とサイドバー部材4と支承部材5との間に形成される乗降スペース13を広くして屋根部材3やサイドバー部材4が乗降の邪魔になることを防ぐことができる。
これにより、車両1の走行安定性や低重心スタイルの維持を可能としつつ、車室11への乗降のしやすさを向上させることができる。
【0025】
また、サイドバー部材4は、その2個所において支承部材5と屋根部材3とに連結されているため、その剛性を高めることができる。すなわち、車両本体2と屋根部材3とサイドバー部材4と支承部材5とによって環状のリンク機構が構成されているため、これら全体の剛性が高まるのに伴い、サイドバー部材4の剛性を高めることができる。
【0026】
また、上記リンク機構は、第一状態(図2)と第二状態(図3)とにおいて、それぞれ固定できるよう構成されている。これにより、走行時にはリンク機構を第一状態に固定し、乗降時にはリンク機構を第二状態に固定することで、走行時の安全性を確保することができると共に、乗降容易性をより向上させることができる。
【0027】
以上のごとく、本例によれば、走行時の低重心を確保しつつ、乗降性を向上させ、かつサイドバー部材の剛性を高めた車両を提供することができる。
【0028】
なお、上記実施例においては、上記リンク機構が手動である例を示したが、これを電動等の自動にすることも可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 車両
11 車室
2 車両本体
3 屋根部材
31 前部
32 後部
4 サイドバー部材
41 前部
42 後部
5 支承部材
51 上部
52 下部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室を上方から覆うと共に車両本体に前部が回動可能に連結された屋根部材と、
上記車室の左右に配されると共にその後部が上記屋根部材の後部に回動可能に連結された一対のサイドバー部材と、
該サイドバー部材における上記後部よりも前方に配された前部に上部が回動可能に連結されると共に下部が上記車両本体に回動可能に連結された一対の支承部材とを有し、
上記車両本体と上記屋根部材と上記サイドバー部材と上記支承部材とからなるリンク機構は、上記屋根部材の後部が上方へ移動するのに連動して上記サイドバー部材の前部が後方へ移動し、上記屋根部材の後部が下方へ移動するのに連動して上記サイドバー部材の前部が前方へ移動するよう構成されていることを特徴とする車両。
【請求項2】
請求項1に記載の車両において、上記リンク機構は、上記屋根部材の後部が低い位置にある第一状態と、該第一状態よりも上記屋根部材の後部が高い位置にある第二状態において、それぞれ固定できるよう構成されていることを特徴とする車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−93419(P2011−93419A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−248928(P2009−248928)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【Fターム(参考)】