説明

車両

【課題】車室内に車椅子などをスムーズに引き込むことが可能な車両を提供する。
【解決手段】着座位置と収納位置との間で移動可能である車両用シートと、収納位置において、シートバックよりも前方下に配置されると共に、後方から荷物を引き上げる場合に当該荷物に接続されたベルトを巻取るベルト巻取り装置と、シートバックの上部に設けられ、ベルト巻取り装置によって巻き取られるベルトを摺動可能とする第1ベルトスライダ71と、シートバックの下部に設けられ、ベルト巻取り装置によって巻き取られるベルトを摺動可能とする第2ベルトスライダ80と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、後部スペースに車椅子などを引き込み可能な車両に関する。
【背景技術】
【0002】
被介護者が乗った車椅子を車両内に引き込む技術として、例えば、特許文献1に記載の技術が知られている。
すなわち、特許文献1には、牽引ロープ(ベルト)を介して電動ウインチにより車椅子を引っ張ることによって、被介護者が乗った車椅子を車室に引き込む技術について記載されている。また、ワンボックスタイプのワゴン車などにおいて、後席を左右の窓際に折りたたみ、中央部の空きスペースに、被介護者を乗せた車椅子を引き込むことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】登録実用新案第3032294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の車両では、後席と車椅子との間に電動ウインチが介在する構成となっているため、後席をフロントフロアの凹部に収納することができない。したがって、ワンボックスタイプのワゴン車に車椅子を引き込む際には、後席を倒立させて左右の窓際に折りたたむ必要が生じる。
このように後席を左右の窓際に倒立させた状態で車椅子を車室に引き込むと、左右方向の空きスペースがほとんどなくなるため、車椅子に乗った被介護者が圧迫感を覚える可能性がある。
【0005】
また、仮に、特許文献1に記載の車両において、後席の前方下に電動ウインチを設置し、後席を前倒しにした状態で車椅子を車室に引き込む構成とした場合には、次のような問題が生じる。すなわち、車両後方に展開されるヒンジ付きガイドフレーム(スライド板)上に車椅子が乗り上げる際に、前倒しにされた後席のシートバック背面の前端(上部)及び後端(下部)を牽引ロープが摺動することとなる。
【0006】
そうすると、シートバック背面が牽引ロープの摺動に伴う摩擦によって傷付いてしまうという問題が生じる。また、前記摩擦によって、牽引ロープをスムーズに引くことができないという問題が生じる。
【0007】
そこで、本発明は、車室内に車椅子などをスムーズに引き込むことが可能な車両を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明に係る車両は、フロントフロアと、前記フロントフロアの後部から段差部を介して高位に形成されたミッドフロアと、前記ミッドフロアの後部から後方に向けて下がる傾斜面を有するリアフロアと、シートバック及びシートクッションを有し、前記シートクッションが前記ミッドフロアの上方に配置される着座位置と、前記シートクッションが前記フロントフロアの上方に配置されると共に当該シートクッションの上に前記シートバックが重ねられ、当該シートバックの背面が上面となる収納位置との間で移動可能である車両用シートと、前記収納位置において、前記シートバックよりも前方下に配置されると共に、後方から荷物を引き上げる場合に当該荷物に接続されたベルトを巻取るベルト巻取り装置と、前記シートバックの上部に設けられ、前記ベルト巻取り装置によって巻き取られる前記ベルトを摺動可能とする第1ベルトスライダと、前記シートバックの下部に設けられ、前記ベルト巻取り装置によって巻き取られる前記ベルトを摺動可能とする第2ベルトスライダと、を備えることを特徴とする。
【0009】
かかる構成によれば、シートクッションがミッドフロアの上方に配置される着座位置と、シートクッションがフロントフロアの上方に配置されると共に当該シートクッションの上にシートバックが重ねられ、当該シートバックの背面が上面となる収納位置との間で車両用シートが移動可能である。また、リアフロアはミッドフロアの後部から後方に向けて下がる傾斜面を有している。
したがって、車両用シートが収納位置となっている場合に、例えば、車椅子をリアフロアの傾斜面に沿って引き上げることができる。
【0010】
また、ベルト巻取り装置がベルトを巻取る際に、第1ベルトスライダ及び第2ベルトスライダ上をベルトが摺動する。つまり、第1ベルトスライダによってシートバックの上部が保護され、第2ベルトスライダによってシートバックの下部が保護されるため、ベルトの摺動によるシートバック背面の傷付きを防止することができる。
また、ベルト巻取り装置によって巻き取られるベルトが第1ベルトスライダ及び第2ベルトスライダを摺動することによって、車椅子などの重量物を後方から引き上げる際に、ベルトをスムーズに巻き取ることができる。
【0011】
また、前記車両において、前記第1ベルトスライダの外形は細長の円柱状であり、前記第1ベルトスライダの各端部は、前記シートバックのフレームに設けられたブラケットに固定されていることが好ましい。
【0012】
かかる構成によれば、第1ベルトスライダの外形が細長の円柱状であることによって、ベルトが第1ベルトスライダを摺動する際の摩擦が低減されるため、ベルト巻取り装置によって、よりスムーズにベルトを巻き取ることができる。
また、第1ベルトスライダが、シートバックのフレームに設けられたブラケットに固定されているため、重量物を車両内に引き上げる場合でも安定してベルトを支持することができる。
【0013】
また、前記車両において、前記第1ベルトスライダの少なくとも一部を覆うカバー部材を備え、前記カバー部材は、前記第1ベルトスライダが前記ブラケットに固定される箇所を覆う被覆部と、前記被覆部と一体に形成され、前記車両用シートが前記収納位置である状態において、前記被覆部より下方にある前記第1ベルトスライダに連なる段差部と、を有することが好ましい。
【0014】
かかる構成によれば、被覆部と一体に形成される段差部をカバー部材が有し、被覆部より下方にある第1ベルトスライダに前記段差部が連なる。したがって、ベルト巻取り装置でベルトを巻き取る際に、ベルトと第1ベルトスライダとの接触箇所が車幅方向(ベルトの幅方向)に移動した場合でも、カバー部材の段差部によってベルトの移動を所定範囲内に規制することができる。これによって、よりスムーズにベルトを巻き取ることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、車室内に車椅子などをスムーズに引き込むことが可能な車両を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係る車両において、後席をダイブダウンし、車室に車椅子を搭載した状態を模式的に示す側面図である。
【図2】前席及び後席を示す側面図であり、(a)は後席が立設した状態を示し、(b)は後席がダイブダウンした状態を示している。
【図3】後席をダイブダウンして、スライド板を展開した状態を示す斜視図である。
【図4】後席のシートバックを背面側から見た斜視図である。
【図5】後席のシートバックの背板に、第1ベルトスライダ及び第2ベルトスライダを設置する際の手順を示す斜視図である。
【図6】スライド板を後方に展開した状態で、ベルトを介して電動ウインチで車椅子を引き込む様子を示す側面図である。
【図7】ダイブダウンした後席の第1ベルトスライダ及び第2ベルトスライダをベルトが摺動する様子を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
図1は、後席をダイブダウンし、車室に車椅子を搭載した状態を模式的に示す側面図である。なお、前後左右は、図1に示す向きとする。
【0018】
<フロア>
図1に示すように、車両1は、フロア10と、左右一対の前席20と、左右一対の後席30と、左右一対の電動ウインチ40と、スライド板50と、を備えている。
フロア10は、車室の床面を構成するものであり、前方から後方にかけて順に、フロントフロア11と、ミッドフロア12と、リアフロア13と、を備えている。
【0019】
フロントフロア11は、前方の凸部11aと、後方の凹部11bとを備えている。凸部11aには、左右一対の前席20が設けられている。また、凸部11aの上面と前席のシートクッション21の底面との間のスペースには、車椅子100を車室に引き込むための電動ウインチ40が設置されている。また、フロントフロア11の凹部11bには、ダイブダウンした後席30が収納されるようになっている。
なお、後席30のダイブダウンの詳細については、後記する。
【0020】
ミッドフロア12は、フロントフロア11の後部から段差部12bを介して高位に形成されている。また、ミッドフロア12には、左右一対の後席30が設けられている(図2(a)参照)。また、ミッドフロア12には、車椅子100を車室後部に引き込んだ際に、車椅子100の前輪がはまり込む2つの凹部12aが形成されている。
【0021】
リアフロア13は、後向きに進むにつれて下がる傾斜面を呈している。リアフロア13の水平面に対する傾斜角度は、スライド板50を車両1の外側に展開して車椅子100を車室にスムーズに移動できるようにするとともに、車室に引き上げられた車椅子100が傾斜しすぎない程度の所定角度に設定されている。
なお、フロントフロア11、ミッドフロア12、及びリアフロア13は、ボルト又は溶接などによって固定されている。
【0022】
<前席>
左右一対の前席20は、運転席及び助手席であり、フロントフロア11の凸部11a上に設けられている。
【0023】
<後席>
左右一対の後席30は、ミッドフロア12上に設けられている。また、後席30は、その前下方に形成された凹部11bに収納(いわゆる、ダイブダウン)可能に構成されている。
【0024】
<電動ウインチ>
電動ウインチ40は、車椅子100を車室に引き込むためのものであり、フロントフロア11の凸部11aに設置されている。また、電動ウインチ40は前席20の位置に対応して左右一対で設置され、車両1のバッテリ(図示せず)を電源として駆動する。
ちなみに、電動ウインチ40はベルトRを備え、ベルトRを巻き取った状態で収容している。そして、車椅子100を車室内に引き込む際には、ベルトRを電動ウインチ40から引き出して、ベルトRの先に取り付けられている鉤Hを車椅子100の脚に引っ掛けた上で、電動ウインチ40を駆動する(図6参照)。
【0025】
<スライド板>
スライド板50は、リアフロア13の後端に設置されている。また、スライド板50は、未使用時にはバックドア60近傍に立設した状態で収納され、使用時には、バックドア60の開口から車両1の後方に倒され、展開される(図3参照)。
なお、未使用時においてスライド板50は、ロック部材(図示せず)によって車体の左右側面に固定されている。
【0026】
また、スライド板50は、その下端がリアフロア13に対して回動可能に取り付けられた第1プレートと50a、第1プレート50aの上面に対してスライド可能に設けられた第2プレート50bと、第2プレート50bの上面に対してスライド可能に設けられた第3プレート50cと、を備えている。
【0027】
図2は、前席及び後席を示す側面図であり、(a)は後席が立設した状態を示し、(b)は後席がダイブダウンした状態を示している。
図2(a)に示すように、後席30は、前脚32と、後脚33と、シートクッション34と、シートバック35と、アーム36と、を備えている。
【0028】
前脚32は、立設状態においてシートクッション34を下方から支持するとともに、軸部32aを中心に前方に回動可能となっている。なお、前脚32の一端(軸部32a)は凹部11bの後端に取り付けられ、他端(軸部32b)はシートクッション34の底面に取り付けられている。
【0029】
後脚33は、シートバック35に固定され、軸部33aを中心に前方に回動可能となっている。また、後脚33の一端(図2(a)では、下端)はリアフロア13に固定されているブラケットBに取り付けられ、他端(図2(a)では、上端)がシートバック35に固定されている。
【0030】
シートクッション34の前方の底面には、前脚32の下端(軸部32b)が取り付けられ、後端はL字状のアーム36を介してシートバック35に取り付けられている。また、シートクッション34の後端は、アーム36を介してシートバック35の下端と連結されている。
シートバック35は、(立設状態における)下端が後脚33の上端に固定され、軸部33aを中心に前方に回動可能となっている。
アーム36はシートクッション34に固定されているとともに、その上端が軸部36aを介してシートバック35の下端に取り付けられている。そして、シートバック35が軸部36aを中心に前方に回動可能となっている。
【0031】
図2(b)に示すように、ダイブダウンの際には、前脚32が軸部32aを中心に前方に回動するとともに、後脚33が軸部33aを中心に前方に回動する。すなわち、前脚32とシートクッション34とは、前記回動に伴って折りたたみ可能な構成となっている。
また、シートクッション34の後端は、アーム36を介してシートバック35に連結されているため、後脚33の回動に伴って前下方に移動する。また、シートバック35は、軸部36aを中心に前方に回動する。
【0032】
これによって、ダイブダウンの際には、シートクッション34がフロントフロア11の凹部11bに向かって略平行に移動するようになっている。
そして、後席30がフロントフロア11の凹部11bに収納された状態では、シートバック35の(立設状態における)前面とシートクッション34の上面とが相対する位置になるとともに、シートバック35の背面が略水平となる。
【0033】
このように、後席30は、シートクッション34がミッドフロア12の上方に配置される「着座位置」と(図2(a)参照)、後脚33が前方に回動され、シートクッション34がフロントフロア11の上方に配置されるとともにシートクッション34の上にシートバック35が重ねられ、シートバック35の背面が上面となる「収納位置」との間で移動可能となっている。
なお、図2(a)、図2(b)に示す例では、後席30のヘッドレスト31(図1参照)を取り外した状態でダイブダウンする場合を示しているが、これに限定されない。
【0034】
図3は、後席をダイブダウンして、スライド板を展開した状態を示す斜視図である。図3に示すように、後席30をダイブダウンすると、凹部12aが露出する。ちなみに後席30が立設した状態において、凹部12aは後席30のシートクッション34の下方に位置している。
【0035】
凹部12aには、車椅子100を車室内に積み込んだ際に、車椅子100の前輪202が載置される。
また、シートバック35の背面の上部(シートバックの立設状態における上部)には、第1ベルトスライダ71と、咬止部材72(図5参照)と、カバー部材73と、が設置されている。
【0036】
図4は、後席のシートバックを背面側から見た斜視図である。
図4に示すように、シートバック35の上部には第1ベルトスライダ71が設置され、下部には第2ベルトスライダ80が設置されている。
また、第1ベルトスライダ71の両端を覆うようにカバー部材73が設置されている。
【0037】
第1ベルトスライダ71と、第2ベルトスライダ80とは、車椅子100に掛けた鉤Hが先端に取り付けられたベルトRを、電動ウインチ40によって巻き取る際にベルトRを摺動可能とする部材である(図6参照)。
また、カバー部材73は、第1ベルトスライダ71がブラケット35b(図5参照)に固定されている箇所を覆うとともに、第1ベルトスライダ71の車幅方向における移動を、左右方向において所定範囲内に規制するものである。
【0038】
ちなみに、第1ベルトスライダ71とカバー部材73との間には、咬止部材72が介在している。咬止部材72は、シートバック35の表皮(図示せず)を咬止することによって、表皮が上下にずれないようにするための部材である。
【0039】
図5は、後席のシートバックの背板に、第1ベルトスライダ及び第2ベルトスライダを設置する際の手順を示す斜視図である。なお、図5は、後席30のシートバックの背面から見た(つまり、図4の場合と同様の位置から見た)斜視図である。
また、図5では、クッションパッド及び表皮については、図示を省略している。
【0040】
<第1ベルトスライダ、咬止部材、カバー部材>
背板35aは、シートバック35の剛性を確保するために設置される平面視で長方形状の板状部材である。なお、背板35aは、後脚33の上部に固定されている。
ブラケット35bは背板35aの上部に左右一対で設置され、側面視でL字状となっている。また、ブラケット35bには、側面視で略半円形の切欠き35cが上面に設けられている。切欠き35cは、ブラケット35bの上部において左右方向に延びて形成されている。
また、左右一対のブラケット35bには、ネジ穴35dが設けられている。
【0041】
ロック解除機構35eは、後席30を着座状態でロックされた状態からダイブダウンの状態とする際にユーザがシートバック35における車幅方向外側の操作部(図示せず)を操作することによって、前記ロックを解除する機構である。
【0042】
フレーム35fは、後席の立席状態における前方側(図5では下方側)に設けられており、後席30の強度を高めるために設けられている。
ケース35gには、ヘッドレスト(図示せず)のステー(図示せず)が挿入されるヘッドレスト取付穴(図示せず)が上下方向に設けられている。
【0043】
第1ベルトスライダ71は、細長の円柱状を呈しており、ベルトPを電動ウインチ40(図6参照)によって巻き取る際に、ベルトPを摺動可能とする部材である。また、第1ベルトスライダ71を側面視した場合の円の半径は、左右一対のブラケット35bに設けられた切欠き35cによってできる周面に対応する長さとなっている。
また、ベルトスライダ71の左右方向(車幅方向)の端部は、シートバック35のフレーム35fに設けられた一対のブラケット35bに固定されている。
【0044】
なお、背板35aは、一対のケース35g及び第2ベルトスライダ80が露出するように、弾性変形可能な発泡剤で形成されたクッションパッド(図示せず)で被覆される。この場合において、前記クッションパッドは、第1ベルトスライダ71及びフレーム35fの前方(背板35a側)に位置している。
【0045】
咬止部材72は、左右一対に設けられた被覆部72aと、板状部72cとが一体成形されている。
被覆部72aは側面視でC字状を呈しているとともに、裏面がブラケット35bに対応する形状を呈している。また、被覆部72aには孔72bが設けられている。ちなみに、孔72bは、ブラケット35bのネジ穴35dに対応する位置に設けられている。
また、被覆部72cは、前記C字状に連なる曲面を有する延出部72cを左右一対で有している。
【0046】
板状部72dは、平面視で長方形状を呈している。また、板状部72dの上面には、側面視でL字状の爪部72eが複数設けられている。これら複数の爪部72eは、前記クッションパッド(図示せず)の上に被覆される表皮(図示せず)を咬止するものであり、前方を向いている爪部72eと後方を向いている爪部72eとが、左右方向で交互に配置されている。
【0047】
また、一対の被覆部72aと板状部72dとの間にできる段差部72fにはそれぞれ、2つの爪部72gが下側を向くように設けられている。当該爪部72fによっても前記表皮がずれないように咬止される。
つまり、シートバック35の表皮(図示せず)は、咬止部材72とカバー部材73との間に配置され、カバー部材73によって背板35a側に押し付けられるとともに、咬止部材72によって咬止される。
【0048】
カバー部材73は、一対の被覆部73aと、板状部73c,73dとが一体で形成されている。被覆部73aは、側面視でC字状を呈しているとともに、裏面が咬止部材72の被覆部72aに対応する形状を呈している。また、被覆部73aには孔73bが設けられている。ちなみに、孔73bは、ブラケット35bのネジ穴35dに対応する位置に設けられている。
【0049】
また、板状部73c,73dはそれぞれ、左右一対の被覆部73aと一体に形成されており、左右方向に延びている。また、板状部73c,73dは、互いに前後方向に離間している。これによって。板状部73cと板状部73dとの間に細長の孔73eが形成されている。
さらに、板状部73c,73dと被覆部73aとの間に段差部73fが形成されている。
【0050】
第1ベルトスライダ71、咬止部材72、及びカバー部材73は、次のようにして設置する。
まず、第1ベルトスライダ71と、左右一対に設けられたブラケット35bの切欠き35cとを、溶接などによって接合する。そして、咬止部材72の被覆部72aがブラケット35bを覆うように、咬止部材72を第1ベルトスライダ71の上方から設置する。
この状態において、第1ベルトスライダ71の左右両端が咬止部材72の延出部72cによって覆われ、残りの部分は露出している。
【0051】
そして、背板35aを被覆しているクッションパッド(図示せず)を、表皮(図示せず)で被覆する。なお、前記表皮は咬止部材72上にも配置されている。
さらに、カバー部材73を咬止部材72の上から設置し、ネジSをカバー部材73の孔73b、咬止部材72の孔72bを貫通させて、ブラケット35bのネジ穴35dと螺合させる。
【0052】
これによって、咬止部材72の上に配置された表皮(図示せず)が、カバー部材73によって上方から押圧される。そして、前記押圧に伴って、咬止部材72に形成されている複数の爪72e,72gが前記表皮に喰いこむ。
なお、表皮の端末に爪72eに係止されるフック部(図示せず)を設けて表皮を固定してもよい。
また、第1ベルトスライダ71がカバー部材73の細長の孔73eから露出する。この状態において、カバー部材73の段差部73fは、被覆部73aより下方(被覆部73aによってできる周面の内側)にある第1ベルトスライダ71に連なっている。
【0053】
したがって、電動ウインチ40によってベルトRが引き込まれる際に、電動ウインチ40がダイブダウンしたシートバック35よりも前方下にあるため、ベルトRが第1ベルトスライダ71を摺動することとなる(図6参照)。また、ベルトRが引き込まれる際に、ベルトRと第1ベルトスライダ71との接触箇所が左右方向(車幅方向)に移動した場合でも、左右にある段差部73fによって、ベルトRの移動範囲が規制される。
【0054】
<第2ベルトスライダ>
シートバック35の後部に設置される第2ベルトスライダ80は、断面視でL字状を呈しており、例えば、樹脂で形成される。
また、第2ベルトスライダ80の上面には、左右に一対の座ぐり穴80aが形成され、それぞれの座ぐり穴80aには孔80bが形成されている。なお、一対の孔80bの位置は、一対のネジ穴35hに対応している。
なお、一対のネジ穴35hは、背板35aの下部に設けられ、背板35aの左右方向の中心線を基準として略等しい間隔で左右に設けられている
【0055】
第2ベルトスライダ80を背面35aに設置する際には、第2ベルトスライダ80の孔80bの位置と、背板35aのネジ穴35hとの位置を合わせ、ネジSを孔80bを介してネジ穴35hに螺合する。このとき、側面視でL字状の第2ベルトスライダ80が、背板35aの背面及び底面に当接する。
【0056】
なお、電動ウインチ40によってベルトRが引き込まれる際には、ベルトRが第1ベルトスライダ71及び第2ベルトスライダ80を摺動することとなる(図6参照)。
なお、第1ベルトスライダ71及び第2ベルトスライダ80をベルトRが摺動する際の動作については、後記する。
【0057】
図6は、スライド板を後方に展開した状態で、ベルトを介して電動ウインチで車椅子を引き込む様子を示す側面図である。図6に示すように、車椅子100を車室内に移動させる際には、後席30をダイブダウンする。さらに、スライド板50を後方に展開した上で、電動ウインチ40のベルトRの先端に取り付けられている鉤Hを車椅子100の左右の骨格にそれぞれ引っ掛ける。
【0058】
そして、電動ウインチ40を駆動させると、ベルトRが電動ウインチ40に引き込まれる。これによって、スライド板50及びリアフロア13で形成されるスロープ面に沿って、車椅子100が車室内に引き込まれる。
【0059】
電動ウインチ40によるベルトRの引き込みを開始すると、車椅子100の前輪102がスライド板50の第3プレート50c上に載る。このとき、図6に示すように、ベルトRは、ダイブダウンした後席30のシートバック35と、位置P及び位置Qで接触する。つまり、ベルトRは、位置Pにある第1ベルトスライダ71と、位置Qにある第2ベルトスライダ80によって走行方向を曲げられ、側面視において凸状で走行する。したがって、ベルトRは第1ベルトスライダ71及び第2ベルトスライダ80上を摺動する。
そして、さらに車椅子100が前方に引き込まれると、ベルトRは第2ベルトスライダ80から離れて、第1ベルトスライダ71のみを摺動することとなる。
【0060】
図7は、ダイブダウンした後席の第1ベルトスライダ及び第2ベルトスライダをベルトが摺動する様子を示す斜視図である。
図7に示すように、電動ウインチ40によってベルトRを引き込む際には、ベルトRはシートバック35の上部に設けられた第1ベルトスライダ71上を摺動する。このとき、ウインチ40が後席30の前下方に位置するため、ベルトRは第1ベルトスライダ71によって走行方向を変えられる。すなわち、電動ウインチ40から第1ベルトスライダ71までは、後方に向かうにつれてベルトRの高さが高くなる走行方向となり、第1ベルトスライダ71から第2ベルトスライダ80までは、路面T(図6参照)に略平行な走行方向となる。
【0061】
また、車椅子100を引き込み始めたときには、ベルトRはシートバック35の下部に設けられた第2ベルトスライダ71上も摺動する。このとき、(鉤Hに取り付けられている側の)ベルトRの先端が第2ベルトスライダ80よりも下方にある(図6参照)。すなわち第1ベルトスライダ71から第2ベルトスライダ80までは、路面Tに略平行な走行方向となるが、第2ベルトスライダ80から前記先端までは、後方に向かうにつれてベルトRの高さが低くなる。
【0062】
このようにして、第1ベルトスライダ71及び第2ベストスライダ80を、ベルト巻取り装置40によって巻き取られるベルトRが摺動する。
【0063】
<効果>
本実施形態に係る車両1は、シートバック35の上部に設置された第1ベルトスライダ71と、シートバック35の下部に設置された第2ベルトスライダ80と、を備えている。したがって、後席30がダイブダウンした状態において、電動ウインチ40によりベルトRを引き込む際に、ベルトRが第1ベルトスライダ71及び第2ベルトスライダ80とを摺動することとなる。
【0064】
仮に、第1ベルトスライダ71及び第2ベルトスライダ80を備えない構成とした場合には、電動ウインチ40によって引き込まれるベルトRがシートバック35の上部(図6の位置P)及び下部(図6の位置Q)を摺動することとなる。したがって、ベルトRがシートバック30の表皮を傷付けてしまう。また、この場合、ベルトRとシートバック30との摩擦が大きくなるため、ベルトRをスムーズに引き込むことができなくなる可能性がある。
【0065】
これに対して、本実施形態に係る車両1は、後席30に第1ベルトスライダ71及び第2ベルトスライダ80を備えており、ベルトRが第1ベルトスライダ71及び第2ベルトスライダ80を摺動するので、シートバック35の表皮などを傷つけることなく、スムーズにベルトR(つまり、車椅子100などの重量物)を車室に引き込むことができる。
【0066】
また、第1ベルトスライダ71は、細長の円柱状となっている。したがって、ベルトRが第1ベルトスライダ71を摺動する際の摩擦をより小さくし、スムーズに車椅子100などを車室に引き込むことができる。また、第1ベルトスライダ71にメッキ加工等を施し、ベルトRが摺動する際の摩擦をより小さくしてもよい。
【0067】
また、電動ウインチ40のベルト引き込み口と第1ベルトスライダ71とを結ぶ直線と、第1ベルトスライダ71と第2ベルトスライダ80とを結ぶ直線とがなす角が小さい(つまり、第1ベルトスライダ71でベルトRの方向が急激に変わる)場合でも、第1ベルトスライダ71が円柱状であることから、ベルトRをスムーズに案内することができる。
【0068】
また、車両用シートの上部に円柱状の第1ベルトスライダ71が露出して配置されるため、車両用シートをダイブダウンの状態としたときの引き起こす際のハンドルとして利用でき、また、車両用シートを起立状態とさせた場合には、シートバック35の背面にハンガー等を引っ掛けるのにも利用できる。
【0069】
また、第1ベルトスライダ71の車幅方向の端部は、シートバック35のフレーム35fに設けられたブラケット35bに固定(接合)されている。したがって、電動ウインチ40で重量物を引き上げる(つまり、第1ベルトスライダ71に上方から大きな力が加わる)場合でも、摺動するベルトRから受ける力に充分耐えることができる。
【0070】
また、カバー部材73によって第1ベルトスライダ71の接合箇所を覆うため、シートバック35の見栄えをよくすることができる。
さらに、第1ベルトスライダ71がカバー部材73の細長の孔73eから露出し、カバー部材73の段差部73fが、被覆部73aより下方(被覆部73aによってできる周面の内側)にある第1ベルトスライダ71に連なっている(図5参照)。
【0071】
したがって、ベルトRが引き込まれる際に、ベルトRと第1ベルトスライダ71との接触箇所が左右方向(車幅方向)に移動した場合でも、左右にある段差部73によって、ベルトRの移動範囲を規制することができる。
これによって、電動ウインチ40がベルトRをよりスムーズに引き込むことができる。
【0072】
≪変形例≫
以上、本発明に係る車両1について、前記実施形態により説明したが、本発明の実施態様はこれらの記載に限定されるものではなく、種々の変更などを行うことができる。
前記実施形態では、電動ウインチ40によって車椅子100を車室に引き込む場合について説明したが、これに限らない。
すなわち、ベルトRの先端に取り付けられた鉤Hを掛けることによって、さまざまな物を車室内に引き込むことが可能である。
【0073】
また、前記実施形態では、電動ウインチ40を用いる場合について説明したが、これに限らない。例えば、手動のベルト巻取り装置でベルトRを巻き取ることにより荷物を引き上げることとしてもよい。また、ベルト巻取り装置がベルトRを備えている場合のほか、ベルト巻取り装置とベルトRとが別体となっており、ベルトRをベルト巻取り装置に取り付けることとしてもよい。
【0074】
また、前記実施形態では、第1ベルトスライダ71がブラケット35bに接合されている場合について説明したが、これに限らない。例えば、細長の円柱状に形成された第1ベルトスライダ71の両端にベアリングなどを設置し、第1ベルトスライダ71を回転可能としてもよい。
【0075】
また、細長の円筒状(パイプ状)の第1ベルトスライダ71を貫通する円柱状の軸部の左右両端に固定するとともに、前記軸部の外周面と円筒の内周面との間にベアリングなどを設置することにより、第1ベルトスライダ71を回転可能としてもよい。
つまり、第1ベルトスライダ71の外形が細長の円柱状であればよい。
【0076】
このような場合、ベルトRの摺動に伴って第1ベルトスライダ71が回転することによって、ベルトRと第1ベルトスライダ71との摩擦をより小さくし、ベルトRをスムーズに巻き取ることが可能となる。
【0077】
また、第1ベルトスライダ71の形状が円柱状又は円筒状である場合に限らない。すなわち、第1ベルトスライダ71を、例えば、側面視で扇状の棒材とし、ベルトRが前記棒材の周面上を摺動するように設置することとしてもよい。
【0078】
また、前記実施形態では、第2ベルトスライダ80が側面視でL字状である場合について説明したが、これに限らない。例えば、第2ベルトスライダ80を側面視でC字状とし、ベルトRが前記形状の第2ベルトスライダ80の周面上を摺動するように設置することとしてもよい。
また、第2ベルトスライダ80を、第1ベルトスライダ71と同様に、その外形を細長の円柱状とし、当該形状の第2ベルトスライダ80を固定又は回転可能に設置することとしてもよい。
【符号の説明】
【0079】
1 車両
11 フロントフロア
12 ミッドフロア
13 リアフロア
30 後席(車両用シート)
35b ブラケット
34 シートクッション
35 シートバック
40 電動ウインチ(ベルト巻取り装置)
71 第1ベルトスライダ
72 咬止部材
73 カバー部材
73a 被覆部
73f 段差部
80 第2ベルトスライダ
100 車椅子(荷物)
R ベルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントフロアと、
前記フロントフロアの後部から高位に形成されたミッドフロアと、
前記ミッドフロアの後部から後方に向けて下がる傾斜面を有するリアフロアと、
シートバック及びシートクッションを有し、前記シートクッションが前記ミッドフロアの上方に配置される着座位置と、前記シートクッションが前記フロントフロアの上方に配置されると共に当該シートクッションの上に前記シートバックが重ねられ、当該シートバックの背面が上面となる収納位置との間で移動可能である車両用シートと、
前記収納位置において、前記シートバックよりも前方下に配置されると共に、後方から荷物を引き上げる場合に当該荷物に接続されたベルトを巻取るベルト巻取り装置と、
前記シートバックの上部に設けられ、前記ベルト巻取り装置によって巻き取られる前記ベルトを摺動可能とする第1ベルトスライダと、
前記シートバックの下部に設けられ、前記ベルト巻取り装置によって巻き取られる前記ベルトを摺動可能とする第2ベルトスライダと、を備える
ことを特徴とする車両。
【請求項2】
前記第1ベルトスライダの外形は細長の円柱状であり、
前記第1ベルトスライダの各端部は、前記シートバックのフレームに設けられたブラケットに固定されている
ことを特徴とする請求項1に記載の車両。
【請求項3】
前記第1ベルトスライダの少なくとも一部を覆うカバー部材を備え、
前記カバー部材は、
前記第1ベルトスライダが前記ブラケットに固定される箇所を覆う被覆部と、
前記被覆部と一体に形成され、前記車両用シートが前記収納位置である状態において、前記被覆部より下方にある前記第1ベルトスライダに連なる段差部と、を有する
ことを特徴とする請求項2に記載の車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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