説明

車両

【課題】自動車を冷却する空気調和装置では、ユーザが乗車してから車内が冷却されるまでに時間がかかる。
【解決手段】車両は、ユーザが乗車する乗車空間の空気を調和する空気調和装置と、空気を圧縮して貯蔵するタンクを有し、タンクの圧縮空気を乗車空間へ放出する急速空調装置と、を有する。急速空調装置は、空気調和装置と共通の部材を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車などの車両に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両は、一般的に、その乗車空間を冷却するために、ユーザが乗車し、ユーザがイグニッションキーを操作してエンジンを起動することにより、冷却動作を開始する空気調和装置を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−168476号公報
【特許文献2】特開2010−216739号公報
【特許文献3】特開2008−296901号公報
【特許文献4】特開2007−168466号公報
【特許文献5】特開2008−183996号公報
【特許文献6】特開2005−238911号公報
【特許文献7】特開2007−297965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来の空気調和装置では、ユーザが乗車し、ユーザがイグニッションキーを操作してエンジンを起動することにより冷却サイクルを回し始めるため、実際に乗車空間が冷却され始めるまでに時間遅れが生じる。
特に、車両が炎天下に置かれたような状況では、乗車空間が熱せられており、乗車空間が冷却されるまで、ユーザは、暑い乗車空間に耐えなければならない。
【0005】
特許文献は何れもこのような従来の課題を解決するもので、特許文献1から6は、圧縮した空気を乗車空間に放出する技術を開示する。
特許文献7は、排出ガスの圧力や熱を利用した発電・空気冷却システムを開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
ところで、このように圧縮した空気を乗車空間に放出する際には、従前の空気調和装置と協調させることで得られる効果が存在する。
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、空気調和装置と適切な協調が可能な冷却装置を提供することを目的としている。
【0007】
本発明の第1の観点に係る車両は、ユーザが乗車する乗車空間の空気を調和する空気調和装置と、空気を圧縮して貯蔵するタンクを有し、タンクの圧縮空気を乗車空間へ放出する急速空調装置と、を有する。そして、急速空調装置は、空気調和装置と共通の部材を有する。
【0008】
好適には、急速空調装置は、空気調和装置を利用して、タンクの空気を圧縮し、貯蔵し、または放出してよい。
【0009】
好適には、空気調和装置は、吹き出し口から乗車空間へ空気を供給するダクトを有し、急速空調装置は、ダクトにおいて空調された空気を吸引してタンクに圧縮してよい。
【0010】
好適には、空気調和装置は、吹き出し口から乗車空間へ空気を供給するダクトを有し、急速空調装置は、タンクの圧縮空気をダクトへ放出してよい。
【0011】
好適には、空気調和装置は、乗車空間の温度を検出する気温センサを有し、急速空調装置は、空気調和装置を通じて取得した気温センサの検出温度に基づいて、タンクへの空気の圧縮または空気の放出の要否を判断してよい。
【0012】
好適には、空気調和装置の動作を制御し、急速空調装置の動作を制御する制御部を有してよい。
【0013】
好適には、空気調和装置は、乗車空間へ供給する空気を冷却する冷媒を循環するコンプレッサを有し、急速空調装置は、コンプレッサを用いて空気を圧縮してよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、タンクに蓄積した圧縮空気を乗車空間へ放出できる。
乗車空間は、乗車空間へ放出された圧縮空気により冷却される。
その結果、本発明では、車内を直ちに冷却できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の実施形態に係る急速空調装置を用いた、自動車の車体の部分透視の側面図である。
【図2】図2は、図1の自動車に搭載される急速空調装置の構成図である。
【図3】図3は、図2の急速空調装置の制御フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係る急速空調装置を用いた、自動車1の部分透視の側面図である。
【0017】
図1の自動車1は、車体2を有する。
車体2の中央部には、ユーザが乗り込む乗車空間3を有する。
乗車空間3内には、ユーザが着座する座席4が2列で設けられている。
車体2の乗車空間3の側面には、ユーザが乗車するために開閉するドアパネル5が設けられている。
ドアパネル5の上部には、ウィンドウガラス6が上下移動可能に設けられている。
ユーザは、ドアパネル5を開閉して乗車して座席4に座ることができる。
ユーザは、ドアパネル5の内面に設けられた開閉スイッチを操作してウィンドウガラス6を開閉することができる。
【0018】
乗車空間3は、ドアパネル5およびウィンドウガラス6を閉じた状態で、外から隔離された空間となる。
このような乗車空間3では、たとえば夏の暑い日射などで室温が大幅に上昇する。また、ハンドル、座席4などの内装品の表面温度も上昇し、ユーザにとって乗車空間3を急激に冷却する必要が生じる。
また、乗車空間3は、冬の冷気により、室温が外気温まで冷却される。ハンドル、座席4などの車内設備品の表面温度も低下し、ユーザにとって乗車空間3を急激に暖房する必要が生じる。
一般的な自動車1では、乗車したユーザがイグニッションキーを操作してエンジンを始動し、空気調和装置を起動し、冷房であれば、これに伴ってコンプレッサを駆動することで空気調和装置の冷却サイクルが始動することにより、乗車空間3の空気が冷却される。暖房であれば、エンジン7の熱を乗車空間3に引き入れることにより乗車空間3の空気が暖房される。
しかしながら、このように空気調和装置を用いて乗車空間3を冷却あるいは暖房する場合、熱交換器を利用して乗車空間3の空気を直接に冷房あるいは暖房するため、ユーザが乗車してから乗車空間3が冷却あるいは暖房されるまでに時間がかかる。
そこで、本実施形態では、乗車しようとするユーザが乗車する前に、加熱された圧縮空気を乗車空間へ放出することで乗車空間を冷却あるいは暖房する急速空調装置10を用いる。
【0019】
図2は、図1の自動車1に搭載される空気調和装置31と、急速空調装置10との構成図である。
【0020】
空気調和装置31は、エアクリーナユニット32、空調ダクト33、送風機34、エバポレータ35、ヒータ36、エアミックスドア37、空調コントローラ48を有する。
【0021】
空調ダクト33は、外気導入口41と、内気導入口42と、複数の吹き出し口43とを有する。外気導入口41と内気導入口42との内側には、インテークドア44が設けられる。このインテークドア44を切り替えることで、外気導入モードと内気循環モードとに切り替わる。
複数の吹き出し口43は、たとえば乗車空間3のダッシュボートと一体化される。複数の吹き出し口43は、たとえばダッシュボートの両端および中央に設けられればよい。一部の吹き出し口43は、この他にも、乗車空間3の床(前列の座席4の下)、サイドピラーに設けられてよい。
【0022】
エアクリーナユニット32は、空調ダクト33の外気導入口41に接続される。
エアクリーナユニット32は、たとえば乾式である。エアクリーナユニット32は、外気に含まれる粉塵などのごみを吸着する。エアクリーナユニット32は、湿式でもよい。
【0023】
送風機34は、空調ダクト33において、外気導入口41側に設けられる。
送風機34は、空気調和装置31の図示外の急速コントローラにより動作および停止が制御される。送風機34は、エアクリーナユニット32から外気を吸引し、または内気導入口42から内気を吸引する。吸引された空気は、空調ダクト33を通じて吹き出し口43から排気される。吹き出し口43から排気された空気は、乗車空間3へ供給される。
【0024】
エバポレータ35は、空調ダクト33において、送風機34と吹き出し口43との間に設けられる。
エバポレータ35は、空気調和装置31の急速コントローラの制御の下、エンジン7で駆動されるコンプレッサを備えた冷却ユニット46により冷却される。
冷却ユニット46は、エンジン7にベルト駆動されて冷媒を圧縮するコンプレッサ51と、圧縮された冷媒を凝縮して液化させるコンデンサ52と、凝縮液化した冷媒を分離するレシーバ53と、抽出された冷媒を減圧するエキスパンションバルブ54と、減圧された冷媒を気化させるエバポレータ35と、を備える。
コンプレッサ51、コンデンサ52、レシーバ53、エキスパンションバルブ54、およびエバポレータ35は、冷媒用の配管55により環状に接続される。
冷媒は、コンプレッサ51が動作することにより、冷媒用の配管55を循環する。
エバポレータ35は、減圧膨張する冷媒の吸熱作用により冷却される。
送風機34により送風される空気は、エバポレータ35を通過する際に冷却される。
【0025】
ヒータ36は、空調ダクト33において、エバポレータ35と吹き出し口43との間に設けられる。
ヒータ36は、空気調和装置31の急速コントローラの制御の下、エンジン7の冷却系ユニット47により加熱される。
冷却系ユニット47は、エンジン7とヒータ36とを環状に接続する冷却水用の配管61と、配管61に設けられたポンプ62と、を有する。
冷却水は、エンジン7により暖められる。
暖められた冷却水は、ポンプ62により、配管61を循環する。
ヒータ36は、暖められた冷却水により加熱される。
送風機34により送風される空気は、ヒータ36を通過する際に加熱される。
【0026】
エアミックスドア37は、空調ダクト33において、エバポレータ35とヒータ36との間に設けられる。
エアミックスドア37は、空気調和装置31の急速コントローラにより制御される。空気を暖める場合、エアミックスドア37は、ヒータ36へ空気を供給する位置へ制御される。
空気を冷却する場合、エアミックスドア37は、ヒータ36への空気供給を遮断する位置へ制御される。
空気を暖める場合、エアミックスドア37は、ヒータ36へ空気を供給する位置へ制御される。
【0027】
空調コントローラ48は、送風機34、エアミックスドア37、コンプレッサ51、ポンプ62に接続される。
空調コントローラ48は、乗車空間3に設けられた気温センサ49に接続される。
空調コントローラ48は、空気調和装置31の動作を制御する。
空調コントローラ48は、制御プログラムを記憶するメモリと、制御プログラムを実行する中央処理装置とを有する。
【0028】
一般的な自動車1では、乗車したユーザがイグニッションキーを操作してエンジン7を始動する。
エンジン7の始動後、空気調和装置31の空調コントローラ48は、コンプレッサ51を動作させ、エバポレータ35を冷却する。
エバポレータ35が冷却された状態で送風機34を始動することにより、乗車空間3の空気を冷却する。
これにより、乗車空間3を冷却できる。
また、エンジン7および冷却水が温まると、空調コントローラ48は、ポンプ62を動作させ、ヒータ36を加熱する。
ヒータ36が加熱された状態で送風機34を始動することにより、乗車空間3の空気を加熱する。
これにより、乗車空間3を暖める。
【0029】
しかしながら、このように空気調和装置31を用いて乗車空間3を冷却する場合、エンジン7が始動しなければ冷却も加熱もできない。
ユーザが乗車してから、乗車空間3が冷却されるまでに、時間がかかる。
また、エバポレータ35またはヒータ36を利用して乗車空間3の空気を直接に冷却または加熱する。
ユーザが乗車してから、乗車空間3が冷却されるまでに、時間がかかる。
そこで、本実施形態では、空気調和装置31とともに、急速空調装置10を用いる。
【0030】
図2の急速空調装置10は、図1の乗車空間3に対して圧縮空気を放出することにより、乗車空間3を冷却するものである。
急速空調装置10は、吸気ダクト23、吸気弁24、コンプレッサ11、圧縮ダクト12、圧縮弁13、タンク14、排気ダクト15、排気弁16、および急速コントローラ17を有する。
急速空調装置10は、タンク14の圧縮空気の圧力を検出する圧力センサ20を有する。
【0031】
コンプレッサ11は、急速コントローラ17により起動および停止が制御され、起動中に空気を吸引して圧縮して出力する。急速コントローラ17は、起動中のコンプレッサ11の能力を制御してよい。
コンプレッサ11には、たとえば容積型ポンプを使用できる。容積型ポンプは、吸気口18から空気などの流体を吸引し、吸引した流体の容積を減らす動作をすることにより流体を圧縮する。容積型ポンプには、たとえばギアポンプ、ダイヤフラムポンプ、ピストンポンプ、プランジャーポンプがある。ギアポンプは、回転運動により流体を圧縮する。ダイヤフラムポンプ、ピストンポンプ、プランジャーポンプは、往復運動により流体を圧縮する。
本実施形態の急速空調装置10は、圧縮した空気をそのまま乗車空間3へ放出する。乗車空間3の汚染を抑制するため、コンプレッサ11には、オイルレスタイプのものを使用するのが望ましい。急速空調装置10の圧縮空気をそのまま乗車空間3へ放出するのではなく、圧縮空気の冷気を熱交換器によりたとえば外気などの別の空気に伝えて乗車空間3へ供給してよい。
コンプレッサ11の吸気口18は、乗車空間3に設けられても、自動車1の外(乗車空間3外)に設けられてもよい。乗車空間3外の外気を吸引する場合、コンプレッサ11は、走行速度に応じて吸引能力を調整しても、停車中に吸引するようにしてもよい。外気の気圧の変動などにより、コンプレッサ11に過度な負荷が作用し難くなる。乗車空間3内の内気を吸引する場合、乗車空間3の気圧が下がる。このため、たとえば自動車1に搭載された空気調和装置31を外気導入モードに設定した状態で、コンプレッサ11が吸引すればよい。内気は、一般的に空気調和装置31により温度および湿度が調整される。内気は、外気よりも、タンク14に貯蔵する空気中の湿気を抑制し、当該空気を乗車空間3へ再放出した後の冷却効果および湿度上昇の抑制効果を期待できる。
【0032】
コンプレッサ11は、車体2に搭載されるエンジン7の回転駆動力を動力源として利用できる。このため、図1に示すように、コンプレッサ11は、エンジンルームに設けるとよい。この場合、エンジン7の出力軸とコンプレッサ11の入力軸との間に、電磁クラッチ21を設ける。電磁クラッチ21を切ることにより、エンジン7の動作中にコンプレッサ11を停止できる。この他にもたとえば、コンプレッサ11は、車体2に搭載されるバッテリ若しくは太陽光パネルの電源又は家庭用電源、走行中に生じる上下動などの車体2の振動を動力源として利用してよい。
また、急速空調装置10のコンプレッサ11は、車両に搭載されている冷却ユニット46のコンプレッサと一体化してもよい。
【0033】
吸気ダクト23は、空調ダクト33とコンプレッサ11の吸気口18とを接続する。
【0034】
吸気弁24は、吸気ダクト23に設けられる。吸気弁24は、急速コントローラ17により開閉制御される。
吸気弁24が開状態である場合、コンプレッサ11は、空気を吸引する。
吸気弁24が閉状態である場合、コンプレッサ11は、空気を吸引できない。また、急速空調装置10から放出される圧縮空気が、コンプレッサ11に戻ることもない。
【0035】
圧縮ダクト12は、コンプレッサ11とタンク14とを接続する。
コンプレッサ11により圧縮された空気は、圧縮ダクト12を通じてタンク14へ供給される。
【0036】
圧縮弁13は、圧縮ダクト12に設けられる。圧縮弁13は、急速コントローラ17により開閉制御される。
圧縮弁13が開状態である場合、コンプレッサ11により圧縮された空気はタンク14へ供給される。
圧縮弁13が閉状態である場合、圧縮ダクト12が遮断され、コンプレッサ11からタンク14への圧縮空気の供給が停止する。タンク14側からコンプレッサ11へ圧縮空気が逆流しない。
【0037】
タンク14は、圧縮空気を貯蔵する。タンク14は、たとえばステンレスなどの金属製、強化プラスチック製でよい。これらの素材によるタンク14は、高い圧力で圧縮空気を貯蔵できる。
例えば冷房の場合、乗車空間の容積が4000Lの車両に対し、40Lのタンクに100気圧で圧縮空気を保存し、制御部が乗車空間に室温より低い乗車空間の容積に等しい程度の圧縮空気を放出することで、乗車空間内の高い室温の空気を車室外に押し出し、膨張することで冷却された圧縮空気が乗車空間の空気と入れ替わることで乗車空間の室温を下げることができる。そのため、タンク14の容量および形状に特段の制限はないが、好適にはタンクの容量は乗車空間の容積と同じかそれ以上としてよい。また、乗車空間の空気と膨張した圧縮空気が入れ替わるのではなく、乗車空間の容積よりも少ない圧縮空気を乗車空間に放出することで乗車空間の高い室温を低減してもよい。タンク14の容量が大きいほど、大量の圧縮空気を蓄積できる。
タンク14は、自動車1または急速空調装置10に固定されても、着脱可能でもよい。タンク14が着脱可能である場合、タンク14を交換できる。予め圧縮空気を封入したタンク14を取り付けることにより、コンプレッサ11を用いることなく、圧縮空気を乗車空間3へ放出することが可能になる。タンク14に圧縮空気とともにアロマオイルや芳香剤を同時封入することにより、車内の消臭効果を期待できる。
タンク14の設置場所には、特に制限はない。自動車1等に要求される安全基準などに基づいて、適切な箇所に設置すればよい。図1では、タンク14は、エンジンルームに設けられている。タンク14は、カーゴスペース、または乗車空間3に設置してよい。乗車空間3に設置する場合、タンク14は、直射日光が当たらない箇所または高温となり難い箇所に設置するとよい。
なお、急速空調装置10は、複数個のタンク14を有してよい。複数個のタンク14は、それらが独立して圧縮空気を蓄積し乗車空間3へ供給するものでも、一方のタンク14から他方のタンク14へ圧縮空気を供給するものでもよい。
【0038】
排気ダクト15は、タンク14と乗車空間3とを接続する。
タンク14から排気された圧縮空気は、排気ダクト15を通じて自動車1の乗車空間3へ供給される。
本実施形態では、排気ダクト15は、空調ダクト33において、ヒータ36と吹き出し口43との間に接続される。
排気ダクト15の排気口19は、ノズル形状でよい。排気口19をノズル形状とすることで、排気ダクト15内で圧力を保ったまま圧縮空気を、空調ダクト33へ吐出できる。
【0039】
排気弁16は、排気ダクト15に設けられる。排気弁16は、急速コントローラ17により開閉制御される。
排気弁16が閉状態である場合、排気ダクト15が遮断され、タンク14内の圧縮空気はタンク14内に留まり貯蔵される。コンプレッサ11の動作中に排気弁16を閉じることにより、タンク14内の空気圧が高まる。
排気弁16が開状態である場合、タンク14に貯蔵された圧縮空気は、乗車空間3へ放出される。
【0040】
急速コントローラ17は、吸気弁24、コンプレッサ11、圧縮弁13、排気弁16、圧力センサ20などの急速空調装置10の各部に接続される。急速コントローラ17は、急速空調装置10を制御する。
急速空調装置10は、コンプレッサ11で空気を圧縮し、圧縮した空気をタンク14に貯蔵し、タンク14に貯蔵した圧縮空気を乗車空間3へ放出する。乗車空間3へ放出された圧縮空気は、乗車空間3で膨張し、この膨張の際の吸熱効果により、乗車空間3内の空気を冷却する。また、圧縮空気が吹き付けられた箇所は、冷却される。
なお、急速コントローラ17は、圧縮空気を貯蔵するタンク14を、ヒータ36により加熱したり、エバポレータ35やサーミスタにより冷却したりしてよい。これにより、圧縮空気の放出前温度を調整し、圧縮空気を放出した後の乗車空間3の室温を調整するができる。
急速コントローラ17は、制御プログラムを記憶するメモリと、制御プログラムを実行する中央処理装置とを有する。急速コントローラ17は、独立した急速コントローラ17でよいが、自動車1のエンジン7を制御するECU(Engine Control Unit)の一部として実現されても、空気調和装置31の空調コントローラ48に実現されてもよい。
本実施形態では、急速コントローラ17と空調コントローラ48とは、共通する集積回路(IC)22に形成される。
【0041】
急速コントローラ17には、制御の処理または判断に使用する各種の情報を得るために、車両の走行制御信号、各種の検出信号が入力される。
このような信号としては、たとえば、イグニッションキーの状態の検出信号、エンジン7の起動信号若しくは停止信号、速度パルス信号、ブレーキの操作信号、リモートコントロール開閉キーの検出信号、ドアパネル5のロック開錠信号若しくは施錠信号がある。
この他にも、たとえば、空気調和装置31用の乗車空間3の気温センサ49、外気温センサ、若しくは日照センサの検出信号がある。
なお、急速コントローラ17は、時刻や時間を計測するタイマ、携帯電話機などと通信する無線通信部などを備えてよい。
【0042】
次に、図2の急速空調装置10の動作を説明する。
ここでは、乗車空間3を冷房する例で説明する。乗車空間3を暖房する場合も同様である。
図3は、図2の急速空調装置10の制御フローチャートである。
【0043】
図3の全体制御において、急速空調装置10の急速コントローラ17は、まず、空気の圧縮工程を実行する(ステップST1)。
急速コントローラ17は、たとえばユーザが乗車した時、乗車した後、または乗車しそうな状況にある時、圧縮工程を実行する。
圧縮工程において、急速コントローラ17は、まず、圧縮の要否を判断する。
急速コントローラ17は、空気調和装置31の空調コントローラ48から、気温センサ49により検出された乗車空間3の室温情報を取得する。
乗車空間3の室温がたとえば外気より低い場合、急速コントローラ17は、圧縮空気の準備が必要であると判断し、圧縮処理を実行する。
乗車空間3の室温がたとえば外気より高い場合、急速コントローラ17は、圧縮空気の準備が不要であると判断する。この場合、圧縮処理を実行しない。
【0044】
圧縮処理では、急速コントローラ17は、吸気弁24および圧縮弁13を開き、排気弁16を閉じた状態で、コンプレッサ11を動作させて、タンク14へ圧縮した空気を供給する。電磁クラッチ21を用いる場合、急速コントローラ17は、これを接続する。
急速コントローラ17は、必要に応じて空気調和装置31の送風機34などを動作させてよい。
急速コントローラ17は、タンク14の圧力を検出する圧力センサ20の検出信号や、メモリに記憶されている急速空調装置10のサイクルを示すフラグに基づいて、タンク14の圧縮空気の有無を判断し、圧縮空気が貯蔵されていない場合にコンプレッサ11を動作させるようにしてよい。
【0045】
圧力センサ20の圧力が所定の基準値以上になると、急速コントローラ17は、コンプレッサ11を停止し、吸気弁24および圧縮弁13を閉じる。電磁クラッチ21を用いる場合、急速コントローラ17は、これを遮断する。
これにより、圧縮弁13および排気弁16がともに閉じた状態になり、タンク14には、基準値以上の圧力の圧縮空気が貯蔵される(貯蔵工程、ステップST2)。
なお、タンク14への圧縮空気の貯蔵を停止する所定の基準圧力は、大気圧より高ければよく、たとえば数Mpaである。
ところで、空気は圧縮されることにより発熱する。
タンク14に収容された圧縮空気は、圧縮完了後にタンク14とともに冷却される。
たとえばタンク14が断熱構造でない場合、圧縮空気の温度は、タンク14の外気温と同じ温度まで冷却される。
よって、このタンク14に圧縮空気を供給した後の貯蔵工程において、タンク14内の圧縮空気の温度は、たとえば常温に冷却される。
【0046】
次に、急速コントローラ17は、放出工程を実行する(ステップST3)。
急速コントローラ17は、たとえばユーザが乗車した時、乗車した後、または乗車しそうな状況にある時、放出工程を開始する。
放出工程において、急速コントローラ17は、まず、放出の要否を判断する。
急速コントローラ17は、空気調和装置31の空調コントローラ48から、気温センサ49により検出された乗車空間3の室温情報を取得する。
たとえぱ、乗車空間3の室温が高い場合、急速コントローラ17は、圧縮空気の放出が必要であると判断し、放出処理を実行する。
また、乗車空間3の室温が低い場合、急速コントローラ17は、圧縮空気の準備が不要であると判断する。この場合、放出処理を実行しない。
【0047】
放出処理では、急速コントローラ17は、吸気弁24および圧縮弁13を閉じたまま、排気弁16を開く。
これにより、タンク14に蓄積されていた圧縮空気は、排気ノズルを通じて排気される。
圧縮空気は、空調ダクト33で膨張した後、空調ダクト33の複数の吹き出し口43から乗車空間3へ排気される。
乗車空間3に排気された圧縮空気は、乗車空間3内でさらに膨張し、膨張に伴う吸熱反応により乗車空間3の室温を低下させる。
なお、この放出工程において、乗車空間3の圧力上昇を抑制するために、急速コントローラ17は、ウィンドウガラス6を開ける制御を併せて実行してよい。あるいは、急速コントローラ17は、空気調和装置31を外気導入モードに併せて制御してよい。急速コントローラ17は、このように乗車空間3に通気口が設けられた状態で圧縮空気の放出を開始すればよい。急速コントローラ17は、ウィンドウガラス6やドアパネル5が開けられたことを検出して、圧縮空気の放出を開始してよい。
【0048】
圧縮空気の乗車空間3への放出が終了すると、急速コントローラ17は、排気弁16を閉じる。
その後、エバポレータ35が冷却されると、空気調和装置31の急速コントローラは、インテークドア44により外気導入モードから内気循環モードに切り替え、送風機34を起動する。
乗車空間3で膨張した空気は、空気調和装置31のエバポレータ35により冷却される。
これにより、乗車空間3は、空気調和装置31だけで乗車空間3を冷却する場合に比べて、確実に短時間で冷却される。
なお、このような急速空調装置10と空気調和装置31とによる協働の冷却動作は、これらのコントローラ17,48が別々である場合には、たとえば急速空調装置10から空気調和装置31へ起動信号を送信することにより実現できる。
急速コントローラが共通化されている場合には、急速空調装置10の制御プログラムから空気調和装置31の制御プログラムに対して、フラグなどによるプログラム間通信により通信させることにより実現できる。
【0049】
以上のように、急速コントローラ17は、圧縮空気を乗車空間3に放出するために、圧縮工程、貯蔵工程および放出工程を1回の冷却サイクルとして実行する。
これにより、放出後の乗車空間3の室温は、放出前と比べて低下する。
急速空調装置10は、乗車空間3を冷却できる。
急速コントローラ17が冷却サイクルを繰り返し実行することにより、乗車空間3を複数回にわたって冷却できる。
また、本実施形態の急速空調装置10では、空気を圧縮したら直ちに乗車空間3へ放出するのではなく、貯蔵工程を経ている。
この貯蔵工程での放熱期間を経ることにより、圧縮空気の温度は、圧縮完了時の温度より低下し、たとえば常温になる。
低温化した圧縮空気を乗車空間3へ放出することにより、圧縮直後の高温の圧縮空気を放出する場合に比べて、より多くの室温低下を期待できる。
【0050】
本実施形態では、急速空調装置10は、空気調和装置31の空調ダクト33に接続される。急速空調装置10は、空気調和装置31を利用して、タンク14の空気を圧縮し、放出する。
急速空調装置10は、空気調和装置31の空調ダクト33を共通に使用する。
急速空調装置10は、空気調和装置31の気温センサ49の情報を利用する。
急速空調装置10と空気調和装置31とのコントローラ17,48は、共通の集積回路22に実現される。
急速空調装置10は、空気調和装置31と共通の部材を有する。
これにより、急速空調装置10の専用の部品数を削減できる。
【0051】
圧縮空気は、乗車空間3へ直接放出されるのではなく、空調ダクト33を通じて乗車空間3へ放出される。よって、乗車空間3に、空気調和装置31の吹き出し口43の他に、圧縮空気を放出するための排気口を設ける必要がない。乗車空間3の意匠の自由度が向上する。乗車空間3の形状を変えずに、圧縮空気による急冷が可能になる。
圧縮空気は、複数の吹き出し口43から乗車空間3へ供給される前に、空調ダクト33で一次膨張される。よって、乗車空間3へ供給される圧縮空気の圧力を、下げることができる。ユーザに作用する空気の圧力を下げることができる。特に、本実施形態の空気調和装置31は、複数の吹き出し口43を有する。圧縮空気は、分散して乗車空間3へ放出される。圧縮空気を一か所から乗車空間3へ放出する場合に比べて、圧力を下げてやさしく放出できる。
圧縮空気は、空調ダクト33において、吹き出し口43とエバポレータ35との間に供給される。よって、圧縮空気により、空気調和装置31のエバポレータ35およびその周りの箇所を冷却できる。空気調和装置31を始動してから冷気が排気されるまでの期間を短縮できる。圧縮空気による冷却効果を、乗車空間3だけでなく、空気調和装置31にも与えることができる。
詳しくは、圧縮空気は、空調ダクト33において、吹き出し口43とヒータ36との間に供給される。よって、空調ダクト33へ圧縮空気を放出しているにもかかわらず、その圧力等により、エアミックスドア37やヒータ36が破損し難くなる。
圧縮空気の放出中、空気調和装置31は、外気導入モードとなり、送風機34を停止している。よって、空調ダクト33を通じて、エアクリーナユニット32に対して内側から高圧の空気を吹き付けることができる。エアクリーナユニット32に詰まった粉塵などを取り除くことができる。
【0052】
以上の実施形態は、本発明の好適な実施形態の例であるが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変形または変更が可能である。
【0053】
たとえば上記実施形態では、急速空調装置10は、空気調和装置31とは別のコンプレッサ11を使用する。
この他にもたとえば、急速空調装置10は、空気調和装置31のコンプレッサ51を使用してよい。
これにより、更に専用の部品数を削減できる。
【0054】
上記実施形態は、急速空調装置10は、自動車1に搭載されている。
この他にもたとえば、急速空調装置10は、バス、電車などのその他の車両に搭載されてよい。
コンプレッサ11の駆動源に電動モータを使用することで、急速空調装置10は、エンジン7の駆動力を動力源とすることなく圧縮工程を実施できる。電動コンプレッサを用いる急速空調装置10は、車両のバッテリ、太陽光発電パネル、家庭用電源の電力により動作できる。
【0055】
上記実施形態では、自動車1などの車両の乗車空間3は、急速空調装置10および空気調和装置31により暖房または冷却される。
この他にもたとえば、自動車1などの車両の乗車空間3は、急速空調装置10により暖房または冷却されてよい。
【符号の説明】
【0056】
1…自動車(車両)
3…乗車空間
10…急速空調装置
14…タンク
22…集積回路(制御部)
31…空気調和装置
33…空調ダクト(ダクト)
49…気温センサ
51…コンプレッサ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザが乗車する乗車空間の空気を調和する空気調和装置と、
空気を圧縮して貯蔵するタンクを有し、前記タンクの圧縮空気を前記乗車空間へ放出する急速空調装置と、
を有し、
前記急速空調装置は、前記空気調和装置と共通の部材を有する
車両。
【請求項2】
前記急速空調装置は、
前記空気調和装置を利用して、前記タンクの空気を圧縮し、貯蔵し、または放出する
請求項1記載の車両。
【請求項3】
前記空気調和装置は、
吹き出し口から前記乗車空間へ空気を供給するダクトを有し、
前記急速空調装置は、
前記ダクトにおいて空調された空気を吸引して前記タンクに圧縮する
請求項1または2記載の車両。
【請求項4】
前記空気調和装置は、
吹き出し口から前記乗車空間へ空気を供給するダクトを有し、
前記急速空調装置は、
前記タンクの圧縮空気を前記ダクトへ放出する
請求項1または2記載の車両。
【請求項5】
前記空気調和装置は、
前記乗車空間の温度を検出する気温センサを有し、
前記急速空調装置は、
前記空気調和装置を通じて取得した前記気温センサの検出温度に基づいて、前記タンクへの空気の圧縮または空気の放出の要否を判断する
請求項1から4のいずれか一項記載の車両。
【請求項6】
前記空気調和装置の動作を制御し、前記急速空調装置の動作を制御する制御部を有する
請求項1から5のいずれか一項記載の車両。
【請求項7】
前記空気調和装置は、
前記乗車空間へ供給する空気を冷却する冷媒を循環するコンプレッサを有し、
前記急速空調装置は、
前記コンプレッサを用いて空気を圧縮する
請求項1から6のいずれか一項記載の車両。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−75582(P2013−75582A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215669(P2011−215669)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】