説明

車体とエンジンの結合方法

【課題】 簡易な構成で速やかにエンジンを車体に組み付けることができる車体とエンジンの結合方法を提供する。
【解決手段】 車体WにエンジンEを取り付ける方法であって、車体Wに取り付けられた左右のエンジンマウント1のエンジン取付ブラケット7とフランジ部材10との間にエンジン取付ブラケット7の姿勢を保持する保持部材12を装着し、次いで車体Wを下降させるかまたはエンジンEを上昇させて、エンジン取付ブラケット7に設けたボルト挿通孔9にエンジンEに植設された左右のスタッドボルト8を挿通させる。ボルト挿通孔9には、スタッドボルト8が挿入される入口側から出口側にかけて先細りのテーパ9aが形成され、スタッドボルト8の先端には、先細りのテーパ8aが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体にエンジンを搭載する際の車体とエンジンの結合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
車体にエンジンを取り付ける場合、オーバヘッドコンベアのハンガーに載置されて搬送される車体に対して、フロアコンベアの搬送台車に載置されて搬送されるエンジンを位置決めし、その状態を維持して搬送台車を上昇させ、車体の左右に予め取り付けられたエンジンマウントのエンジン取付ブラケットに設けたボルト挿通孔に、エンジンに植設したスタッドボルトを下方から夫々挿通し、これらのスタッドボルトにナットを締結して車体にエンジンを取り付けていた。
【0003】
この時、車体及びエンジン個々の部品の製作誤差の集積により、ボルト挿通孔の軸心とスタッドボルトの軸心がずれることが多々発生する。このため、ボルト挿通孔の下面開口部をテーパ形状にすると共に、スタッドボルトの先端も先細りテーパ形状にし、前記誤差を吸収してボルト挿通孔にスタッドボルトを挿通するようにしている。しかしながら、ボルト挿通孔の軸心とスタッドボルトの軸心のずれが大きい場合には、前記テーパ形状を施してもスタッドボルトの先端がボルト挿通孔の壁面に当たり、エンジン取付ブラケットを突き上げて、スタッドボルトをボルト挿通孔に挿通することができない。
【0004】
そこで、特許文献1に記載のように、車体に植設した左右のスタッドボルトの長さを異ならせ、先ず長い方のスタッドボルトをエンジン側に設けた一方のボルト孔にエンジンの姿勢を微調整しながら挿通し、次いで短い方のスタッドボルトをエンジン側に設けた他方のボルト孔にエンジンの姿勢を微調整しながら挿通する方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−300954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載されているエンジン取付方法においては、エンジンの姿勢を微調整しながらスタッドボルトをボルト孔に挿通しなければならないため、作業工数が大になるという不具合があった。
【0007】
本発明は、従来の技術が有するこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡易な構成で速やかにエンジンを車体に組み付けることができる車体とエンジンの結合方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく請求項1に係る発明は、車体にエンジンを取り付ける方法であって、車体に取り付けられたエンジンマウントのエンジン取付ブラケットとフランジ部材との間にエンジン取付ブラケットの姿勢を保持する保持部材を装着し、次いで車体を下降させるかまたはエンジンを上昇させて、エンジン取付ブラケットに設けたボルト挿通孔にエンジンに植設したスタッドボルトを挿通させるものである。
【0009】
また、前記エンジン取付ブラケットに設けたボルト挿通孔に、前記スタッドボルトが挿入される入口側から出口側にかけて先細りのテーパを形成することができるし、前記スタッドボルトの先端にも、先細りのテーパを形成することができる。
【0010】
また、前記スタッドボルトの基端部から先端部にかけて刻設されたねじ山は、先端部の方が基端部に比べて低く形成することができる。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、エンジンマウントのエンジン取付ブラケットとフランジ部材との間にエンジン取付ブラケットの姿勢を保持する保持部材を装着したので、車体とエンジンとの間に位置ずれが発生して、スタッドボルトによってエンジン取付ブラケットを突き上げる力が作用したとしても、エンジン取付ブラケットに設けたボルト挿通孔の姿勢が保持されるため、車体に対するエンジン側の位置ずれを補正しながら、ボルト挿通孔にスタッドボルトを円滑に挿通することができる。
【0012】
また、ボルト挿通孔にスタッドボルトが挿入される入口側から出口側にかけて先細りのテーパを形成すると共に、スタッドボルトの先端にも先細りのテーパを形成すれば、スタッドボルトがボルト挿通孔の壁面に接触したとしても、スタッドボルトの先端がボルト挿通孔のテーパに倣うので、スタッドボルトが円滑にボルト挿通孔に挿通される。
【0013】
また、スタッドボルトの基端部から先端部にかけて刻設されたねじ山について、先端部の方を基端部に比べて低く形成すれば、ボルト挿通孔とのクリアランスが大きい先端部を先ず挿入し、次いでボルト挿通孔とのクリアランスが小さい基端部を挿入するので、スタッドボルトが円滑且つ確実にボルト挿通孔に挿通される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】車体とエンジンの結合状態を示す概要説明図
【図2】エンジンマウントの要部平面図
【図3】図2のA−A線断面矢視図
【図4】エンジンマウントの要部側面図
【図5】ボルト挿通孔の断面図
【図6】スタッドボルトの側面図
【図7】本発明の作用説明図で、(a)はスタッドボルトの先端がボルト挿通孔の壁面に接触している状態、(b)はスタッドボルトがボルト挿通孔を挿通している状態
【図8】ねじ山の高さを基端部より先端部を低くしたスタッドボルトの側面図
【図9】スタッドボルトのねじ山の高さを基端部より先端部を低くした場合の作用説明図で、(a)はスタッドボルトの先端がボルト挿通孔の壁面に接触している状態、(b)はスタッドボルトの先端部のねじ山がボルト挿通孔の壁面に接触している状態、(c)はスタッドボルトの先端部がボルト挿通孔を挿通している状態、(d)はスタッドボルトがボルト挿通孔を挿通している状態
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。図1に示すように、エンジンEの重量を支え、且つ防振機能を有するエンジンマウント1は、車体WのエンジンルームW1に位置する左右のフロントサイドフレームFに夫々配設されている。8はエンジンEに植設されたスタッドボルト、9はエンジンマウント1に設けられ、スタッドボルト8が挿通するボルト挿通孔、13はスタッドボルト8に螺合するナットである。
【0016】
エンジンマウント1は、図2〜図4に示すように、フロントサイドフレームFにボルトで取り付けられる一対の車体側取付ブラケット2と、これらの車体側取付ブラケット2に固定される略円筒形状のハウジング3と、ハウジング3内に収納される防振弾性部材4と、防振弾性部材4を貫通した状態で防振弾性部材4に固着されるエンジン側取付部材5と、エンジン側取付部材5にボルト6で車体側端部7aが固定されるエンジン取付ブラケット7を備えてなる。
【0017】
また、エンジン取付ブラケット7のエンジン側端部7bには、エンジンEに植設されたスタッドボルト8が挿通するボルト挿通孔9が設けられている。ボルト挿通孔9には、図5に示すように、スタッドボルト8が挿入される入口側から出口側にかけて先細りのテーパ9aが形成されている。
【0018】
また、スタッドボルト8の先端にも、図6に示すように、先細りのテーパ8aが形成されている。そして、スタッドボルト8の基端部8bから先端部8cにかけて同じ高さのねじ山8dが刻設されている。3aは中央を開口したカバー部材、10はハウジング3に内接して固定され、中央に開口部を有するフランジ部材、11はボルト6とエンジン取付ブラケット7で挟装されるブッシュである。
【0019】
エンジンマウント1を介してエンジンEが車体Wに取り付けられると、エンジンEの振動は、エンジン取付ブラケット7と通じてエンジン側取付部材5に伝達されるが、エンジン側取付部材5を内装する防振弾性部材4が弾性変形することによって吸収され、車体W側に伝達される振動は減衰される。
【0020】
また、車体WにエンジンEを搭載する際には、ボルト6を中心としてボルト挿通孔9と反対側のフランジ部材10とブッシュ11との間に、略直方体形状の保持部材12がほぼ隙間のない状態で配設される。保持部材12は、樹脂や金属などで形成された圧縮に対して強固な部材である。
【0021】
保持部材12をフランジ部材10とブッシュ11との間に配設すると、ボルト挿通孔9を設けたエンジン取付ブラケット7のエンジン側端部7bに突き上げる力が作用しても、保持部材12がボルト6の軸心を支点として作用する力に対抗するストッパの役割を果たすため、エンジン取付ブラケット7は持ち上げられることなく、その姿勢が変化することがない。
【0022】
このような保持部材12を備えたエンジンマウント1を用いて、車体WにエンジンEを組付ける作業は、先ずオーバヘッドコンベアのハンガー(不図示)に載置されて搬送されて来る車体Wに対して、フロアコンベアの搬送台車(不図示)に載置されて搬送されて来るエンジンEを位置決めする。
【0023】
次いで、エンジンEを載置した搬送台車を上昇させ、左右のエンジンマウント1のボルト挿通孔9に下方からエンジンEに植設された左右のスタッドボルト8を同時に挿通させる。この時、図7(a)に示すように、車体WとエンジンEとの間に位置ずれが発生すると、スタッドボルト8の先端8aがボルト挿通孔9の壁面9aに接触し、エンジン取付ブラケット7のエンジン側端部7bには突き上げる力が作用する。
【0024】
すると、エンジン取付ブラケット7のエンジン側端部7bを突き上げる力によって、ボルト6の軸心を支点としてエンジン取付ブラケット7の車体側端部7aを押し下げる力が発生する。しかしながら、保持部材12が、エンジン取付ブラケット7の車体側端部7aを押し下げる力のストッパとしての役割を果たすので、エンジン取付ブラケット7は持ち上げられることなく、その姿勢が変化することがない。
【0025】
次いで、先細りのテーパ8aが形成されたスタッドボルト8の先端が、姿勢が変化することがないボルト挿通孔9のテーパ9aに倣って進み、図7(b)に示すように、エンジンE側が矢印B方向に移動することで、車体Wに対するエンジンE側の位置ずれを補正しながら、エンジンEに植設された左右のスタッドボルト8は、夫々左右のエンジンマウント1に設けられたボルト挿通孔9に円滑に挿通される。
【0026】
次に、図6に示すエンジンEに植設された左右のスタッドボルト8の替わりに、図8に示すスタッドボルト18を用いることができる。このスタッドボルト18は、その長さを基端部18bの部分と先端部18cの部分とで約等分に分けている。
【0027】
そして、スタッドボルト18は、先端に先細りのテーパ18aを形成すると共に、基端部18bと先端部18cに刻設されているねじ山について、先端部18cのねじ山18dの高さを基端部18bのねじ山18eの高さに比べて低く形成している。
【0028】
図9(a)に示すように、このようなスタッドボルト18を用いれば、図7(a)に示す場合と比べて、先端部18cのねじ山18dの高さと基端部18bのねじ山18eの高さの差分だけ多く車体WとエンジンEとの間に位置ずれが発生していても、図9(b)に示すように、保持部材12及びテーパ9a,18aの作用と相俟って、エンジンE側が矢印C方向に移動することで、車体Wに対するエンジンE側の位置ずれを補正しながら、スタッドボルト18の先端をボルト挿通孔9に進入させることができる。
【0029】
更に、先細りのテーパ18aが形成された先端をボルト挿通孔9に進入させたスタッドボルト18は、図9(c),(d)に示すように、エンジンE側が矢印C方向に移動することで、車体Wに対するエンジンE側の位置ずれを補正しながら、先端部18c、そして基端部18bと、ボルト挿通孔9に円滑に挿通される。
【0030】
このように、車体WとエンジンEとの間に位置ずれが発生していても、エンジンEに植設された左右のスタッドボルト18は、車体Wに対するエンジンE側の位置ずれを補正して、夫々左右のエンジンマウント1に設けられたボルト挿通孔9に円滑且つ確実に挿通される。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明によれば、車体とエンジンとの間に位置ずれが発生しても、車体に対するエンジン側の位置ずれを補正しながら、左右のエンジンマウントに設けられたボルト挿通孔にエンジンに植設された左右のスタッドボルトを円滑に挿通する車体とエンジンの結合方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0032】
1…エンジンマウント、2…車体側取付ブラケット、3…ハウジング、4…防振弾性部材、5…エンジン側取付部材、6…ボルト、7…エンジン取付ブラケット、7a…車体側端部、7b…エンジン側端部、8,18…スタッドボルト、8a,9a,18a…テーパ、8b,18b…基端部、8c,18c…先端部、8d,18d,18e…ねじ山、9…ボルト挿通孔、10…フランジ部材、11…ブッシュ、12…保持部材、E…エンジン、W…車体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体にエンジンを取り付ける方法であって、車体に取り付けられたエンジンマウントのエンジン取付ブラケットとフランジ部材との間にエンジン取付ブラケットの姿勢を保持する保持部材を装着し、次いで車体を下降させるかまたはエンジンを上昇させて、エンジン取付ブラケットに設けたボルト挿通孔にエンジンに植設したスタッドボルトを挿通させることを特徴とする車体とエンジンの結合方法。
【請求項2】
請求項1に記載の車体とエンジンの結合方法において、前記エンジン取付ブラケットに設けたボルト挿通孔には、前記スタッドボルトが挿入される入口側から出口側にかけて先細りのテーパが形成され、前記スタッドボルトの先端には、先細りのテーパが形成されていることを特徴とする車体とエンジンの結合方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の車体とエンジンの結合方法において、前記スタッドボルトの基端部から先端部にかけて刻設されたねじ山は、先端部の方が基端部に比べて低く形成されていることを特徴とする車体とエンジンの結合方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−235670(P2011−235670A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106341(P2010−106341)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】