説明

車体のブラケット構造

【課題】コストアップを招くことなく簡単な構成で塗装不良の発生を防ぐことができる車両のブラケット構造を提供すること。
【解決手段】他部品を締結固定するための上方に凸形状の取付面4Aを有し、該取付面4Aに締結固定用の貫通孔9を形成するとともに、取付面4Aの裏側に溶接ナット7を取り付けて成る車体のブラケット4の構造として、前記貫通孔9を前記溶接ナット7の側方まで延びる長孔とする。又、前記ブラケット4の前記貫通孔9の短手方向両側部分を前記溶接ナット7を介して連結する。更に、前記貫通孔9の長手方向を前記ブラケット4の長手方向に合わせ、該貫通孔9の長手方向両端部分を前記溶接ナット7の両側に現出させてエア抜き孔10として開口させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、他部品を締結固定するための取付面の裏側に溶接ナットが固着された車体のブラケットの構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図6は四輪車両の車体床部の部分斜視図であり、同図において、1は車体の床面を構成すべく略水平に配置されたフロアパネルであって、該フロアパネル1の左右両端部には車両前後方向に配されたサイドシル2(図6には一方のみ図示)が取り付けられている。そして、フロアパネル1上の左右のサイドシル2間には、下方が開口する断面門形(逆チャンネル状、ハット断面)のクロスメンバ3が車幅方向に配置され、床面を上方に膨出させて車両の前後方向に沿って形成されたフロアトンネルとサイドシル2にその両端が接続されている。
【0003】
上記クロスメンバ3の左右両端部の上部には車両の座席(前席)を取り付けるためのシート取付用ブラケット4(図6には一方のみ図示)が上から被せられて溶接されている。又、シート取付用ブラケット4の後方には、シート取付用ブラケット5がサイドシル2とフロアパネル1に溶接されて固定配置されている。シート取付用ブラケット4とシート取付用ブラケット5は、それぞれ車両の前席の前側取付部と後側取付部を構成しが、このシート取付用ブラケット4とその後方に設けられたシート取付用ブラケット5間には、車両前後方向に配された不図示のシートレールが架設されている。尚、シートレールは、前席の前後位置を調整可能とするものであって、図示しないが、左右のシートレールにはシートが前後にスライド可能に取り付けられる。
【0004】
ところで、シートの位置や高さは車種によって異なるため、シートレールをクロスメンバ3に直接取り付ける構造では、クロスメンバ3やシートを異なる車種で共通に使用することができない。このため、クロスメンバ3とは別に各機種ごとに比較的小形の専用のシート取付用ブラケット4を用意し、これを比較的大物部品であるクロスメンバ3に溶接するようにして、クロスメンバ3の共通使用を可能としている。
【0005】
ここで、シート取付用ブラケット(以下、単に「ブラケット」と称する)4の詳細を図7及び図8に基づいて説明する。
【0006】
図7はブラケットの斜視図、図8は図7のC−C線断面図であり、図示のようにブラケット4はクロスメンバ3(図6参照)の外形形状に合わせて逆チャンネル状にプレス成形されており、その長手方向(左右方向)中央部には、上方に向かって凸形状を成す平坦な取付面4Aが形成されている。そして、取付面4Aには円孔状の貫通孔6が形成されており、取付面4Aの裏側の貫通孔6の周りには図8に示すように溶接ナット7が溶接されている。
【0007】
而して、不図示のシートレールは、ブラケット4の取付面4A上に載置され、これに形成された不図示の貫通孔とブラケット4の取付面4Aに形成された貫通孔6に上方から挿通する不図示のボルトを溶接ナット7にねじ込むことによって該シートレールの前端部がブラケット4に締付固定される。尚、ブラケット4の取付面4Aが上方に突出しているのは、これに取り付けられるシートレールの当該ブラケット4の他の部位との干渉を避ける等の理由からである。
【0008】
ところで、車体は、その製造工程において全体が塗装浸漬槽の塗装液中に浸漬されることによって電着塗装されるが、ブラケット4の上面が図9(a)に示すように閉じている場合には、該ブラケットの内部にエア溜り(エアポケット)が形成され、このエア溜りのためにブラケット4には塗装液に接触しない部分が発生し、その部分が塗装されないために錆の問題等が発生する可能性がある。
【0009】
上記問題を解決するためには、図9(b)に示すようにブラケット4の上面にエア抜き孔8を形成すれば良いが、実際には図7及び図8に示すようにエア抜き孔8はブラケット4の取付面4Aに対してΔh(図8参照)だけ低い段差部分に形成されているため、このエア抜き孔8からエアを完全に抜くことができず、ブラケット4内にエア溜りが発生してしまう。
【0010】
又、図9(c)に示すようにブラケット4に溶接された溶接ナット7のネジ孔7aからエアが抜けるが、或る程度の高さを有する溶接ナット7のためにエアを完全に抜くことができず、図示のようにブラケット4内に上部にエア溜りが不可避的に発生し、これが塗装不良の原因になる。
【0011】
上記問題を解決するため、特許文献1には、図10に示すように車体構成用板金部材104の凹部104aに、ビード110を、その延びる方向の各所において膨出量が次第に変化するよう形成するとともに、該ビード110における上下高さが最も高い部位にエア抜き孔108を形成する構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】実開平4−071381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1において提案された構成では、ビード110やエア抜き孔108を形成するための追加加工が必要であるため、加工工数が増大してコストアップを免れないという問題がある。
【0014】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、その目的とする処は、コストアップを招くことなく簡単な構成で塗装不良の発生を防ぐことができる車両のブラケット構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、他部品を締結固定するための上方に凸形状の取付面を有し、該取付面に締結固定用の貫通孔を形成するとともに、取付面の裏側に溶接ナットを取り付けて成る車体のブラケットの構造であって、前記貫通孔を前記溶接ナットの側方まで延びる長孔としたことを特徴とする。
【0016】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記ブラケットの前記貫通孔の短手方向両側部分を前記溶接ナットを介して連結したことを特徴とする。
【0017】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、前記貫通孔の長手方向を前記ブラケットの長手方向に合わせ、該貫通孔の長手方向両端部分を前記溶接ナットの両側に現出させてエア抜き孔として開口させたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1記載の発明によれば、ブラケットの比較的高所となる取付面に形成される貫通孔を溶接ナットの側方まで延びる長孔としたため、ブラケットの取付面の溶接ナットの側方にエア抜き孔が開口し、車体の電着塗装に際して該車体の全体が塗装液内に浸漬された場合、ブラケットの内部に残留するエアはエア抜き孔から完全に排出され、ブラケットの内部にエア溜りが発生することがない。このため、ブラケットのエア溜りによる塗装不良の発生が防がれ、錆等の問題が発生することがない。
【0019】
又、貫通孔の一部を溶接ナットの側方に現出させてエア抜き孔を形成するため、該エア抜き孔の開口面積を独立して形成されるエア抜き孔の開口面積よりも大きくすることができ、エア抜きを効率良く行ってエア溜りの発生を確実に防ぐことができる。
【0020】
更に、貫通孔は従来の円孔状の貫通孔に連続して形成されるため、貫通孔を比較的大きくすることができ、該貫通孔を形成するための抜き型も大きくなってその耐久性が高められる。
【0021】
そして、以上の効果は、貫通孔を単に長孔とするだけの簡単な構成によって得られ、新たな追加加工を要しないため、加工工数の増大によるコストアップが抑えられる。
【0022】
請求項2記載の発明によれば、ブラケットに形成された貫通孔の短手方向両側部分を溶接ナットを介して互いに連結したため、貫通孔を長孔としたことによるブラケットの貫通孔部分の強度と剛性の低下が最小限に抑えられる。
【0023】
請求項3記載の発明によれば、貫通孔の長手方向をブラケットの長手方向に合わせ、該貫通孔の長手方向両端部分を溶接ナットの両側に現出させてエア抜き孔として開口させたため、エアが流動してくるブラケットの長手方向に合わせて複数のエア抜き孔を容易に形成することができ、該エア抜き孔からエアを効率良く抜いてブラケット内でのエア溜りの発生を一層確実に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に係るブラケット構造を備える車体の部分斜視図である。
【図2】図1に示す車体のブラケットの斜視図である。
【図3】図2の要部拡大詳細図である。
【図4】図3のA−A線断面図である。
【図5】図3のB−B線断面図である。
【図6】従来のブラケット構造を備える車体の部分斜視図である。
【図7】図6に示す車体のブラケットの斜視図である。
【図8】図7のC−C線断面図である。
【図9】(a)〜(c)は塗装液中に浸漬されたブラケットの塗装液との接触状態(エア溜り状態)を示す断面図である。
【図10】特許文献1において提案された車体構成用板金部材の部分斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0026】
図1は本発明に係るブラケット構造を備える車体の部分斜視図、図2は図1に示す車体のブラケットの斜視図、図3は図2の要部拡大詳細図、図4は図3のA−A線断面図、図5は図3のB−B線断面図であり、これらの図においては図6〜図8において示したものと同一要素には同一符号を付しており、以下、それらについての再度の説明は省略し、本発明の特徴部分についてのみ説明する。
【0027】
図1は四輪車両の車体床部の部分斜視図であり、同図において、1は車体の床面を構成すべく略水平に配置されたフロアパネルであって、該フロアパネル1の左右両端部には車両前後方向に配されたサイドシル2(図1には一方のみ図示)が取り付けられている。そして、フロアパネル1上の左右のサイドシル2間には、下方が開口する断面門形(逆チャンネル状、ハット断面)のクロスメンバ3が車幅方向に配置され、床面を上方に膨出させて車両の前後方向に沿って形成されたフロアトンネルとサイドシル2にその両端が接続されている。
【0028】
上記クロスメンバ3の左右両端部の上部には車両の前席の前側取付部(シートレールの前側取付部)を取り付けるためのブラケット4(シート取付用ブラケット4、図1には一方のみ図示)が上から被せられて溶接されている。図示のようにブラケット4はクロスメンバ3の外形形状に合わせて逆チャンネル状にプレス成形されており、その長手方向(左右方向)中央部には、上方に向かって凸形状を成す平坦な取付面4Aが形成されている。つまり、ブラケット4の前端縁から下方に延びる車両前端側の面とブラケット4の後端縁から下方に延びる車両後端側の面とがそれぞれ下方に延長され、クロスメンバ3の車両前側の壁と車両後側の壁にそれぞれ重ねられて溶接固定され、ブラケット4の車両左右方向の両端部がクロスメンバ3の上面に重ねられて溶接固定され、このクロスメンバ3の上面に溶接固定されるブラケット4の両端部の間(中間部)が上方に向かって膨出してブラケット4の最上部で前席の前側取付部(詳細には、シートレールの前側取付部)となる取付面4Aを形成している。そして、取付面4Aには円孔状の貫通孔6が形成されており、取付面4Aの裏側にはクロスメンバ3の上面との間に空間部が形成されているとともに、貫通孔6の周りには図4に示すように溶接ナット7が溶接されている。
【0029】
本発明は、図2及び図3に示すように、ブラケット4の取付面4Aに形成された締結固定用の貫通孔9を溶接ナット7の側方まで延びる長孔としたことを特徴としている。ここで、貫通孔9は、その長手方向がブラケット4の長手方向(車両の左右方向であって、クロスメンバ3の長手方向)に合致するよう形成され、図4に示すようにその幅bは溶接ナット7のフランジ7bの外径Dよりも小さく設定され(b<D)、図5に示すように長さLは溶接ナット7のフランジ7bの外径Dよりも大きく設定されている(L>D)。従って、貫通孔9の長手方向両端部分はブラケット4の取付面4Aにおいて溶接ナット7の両側に現出し、この部分が図3に示すように三日月状のエア抜き孔10として開口している。
【0030】
又、溶接ナット7は、ブラケット4の貫通孔9の短手方向両側部分に接合されており、ブラケット4の貫通孔9の短手方向両側部分は、溶接ナット7を介して互いに連結されている。
【0031】
以上のように、本実施の形態では、ブラケット4の比較的高所となる取付面4Aに形成される貫通孔9を溶接ナット7の側方まで延びる長孔としたため、ブラケット4の取付面4Aの溶接ナット7の側方に三日月状のエア抜き孔10が開口し、車体の電着塗装に際して該車体の全体が塗装液内に浸漬された場合、ブラケット4の内部に残留するエアはエア抜き孔10から完全に排出され、ブラケット4の内部にエア溜りが発生することがない。このため、ブラケット4のエア溜りによる塗装不良の発生が防がれ、錆等の問題が発生することがない。
【0032】
又、長孔である貫通孔9の一部を溶接ナット7の側方に現出させてエア抜き孔10を形成したため、該エア抜き孔10の開口面積を独立して形成されるエア抜き孔の開口面積よりも大きくすることができ、この結果、エア抜きを効率良く行ってブラケット4内でのエア溜りの発生を確実に防ぐことができる。
【0033】
更に、長孔状の貫通孔9は従来の円孔状の貫通孔6(図7参照)に連続して形成されるため、該貫通孔9を比較的大きくすることができ、該貫通孔9を形成するための不図示の抜き型も大きくなってその耐久性が高められる。
【0034】
そして、以上の効果は、貫通孔9を単に長孔とするだけの簡単な構成によって得られ、新たな追加加工を要しないため、加工工数の増大によるコストアップが抑えられる。
【0035】
又、本実施の形態では、ブラケット4に形成された貫通孔9の短手方向両側部分を溶接ナット7を介して互いに連結したため、貫通孔9を長孔としたことによるブラケット4の貫通孔9部分の強度と剛性の低下が最小限に抑えられる。
【0036】
更に、本実施の形態では、貫通孔9の長手方向をブラケット4の長手方向に合わせ、該貫通孔9の長手方向両端部分を溶接ナット7の両側に現出させてエア抜き孔10として開口させたため、エアが流動してくるブラケット4の長手方向に合わせて2つのエア抜き孔10を容易に形成することができ、該エア抜き孔10からエアを効率良く抜いてブラケット4内でのエア溜りの発生を一層確実に防ぐことができる。
【0037】
尚、以上は本発明をシート取付用ブラケットに対して適用した形態について説明したが、本発明は、同様の形状を有する他の任意のブラケットに対しても同様に適用可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0038】
1 フロアパネル
2 サイドシル
3 クロスメンバ
4,5 ブラケット
4A ブラケットの取付面
7 溶接ナット
8 エア抜き孔
9 貫通孔
10 エア抜き孔


【特許請求の範囲】
【請求項1】
他部品を締結固定するための上方に凸形状の取付面を有し、該取付面に締結固定用の貫通孔を形成するとともに、取付面の裏側に溶接ナットを取り付けて成る車体のブラケットの構造であって、
前記貫通孔を前記溶接ナットの側方まで延びる長孔としたことを特徴とする車体のブラケット構造。
【請求項2】
前記ブラケットの前記貫通孔の短手方向両側部分を前記溶接ナットを介して連結したことを特徴とする請求項1記載の車体のブラケット構造。
【請求項3】
前記貫通孔の長手方向を前記ブラケットの長手方向に合わせ、該貫通孔の長手方向両端部分を前記溶接ナットの両側に現出させてエア抜き孔として開口させたことを特徴とする請求項1又は2記載の車体のブラケット構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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