説明

車体の前部構造

【課題】車体前端部分の剛性を高くすると共に軽衝突時のラジエータの破損を防止する。
【解決手段】フロントサイドフレーム11・12間に配設された矩形状フロントバルクヘッド31の縦方向メンバー32・33の中央部分を、前側・後側板状部材36・37を介してフロントサイドフレームに結合する。軽衝突の荷重に対して前側板状部材よりも後側板状部材が変形するように、前側板状部材の剛性を高める。後側板状部材の変形に対して前側板状部材がその形状を保持することができ、ラジエータに対する剛性が確保され、衝突時にラジエータが変形することを防止し得ると共に、左右のフロントサイドフレームがバルクヘッドを介して連結されるため、車体前端部分の剛性が高くなり、走行中の路面の凹凸による振動や旋回時の車体を傾ける力などによるねじれ(首振り)や振動の発生を抑制でき、操縦安定性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロントバルクヘッドを有する車体の前部構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、乗用車型自動車の車体の前部構造において、ラジエータを支持するべく上下の各横方向メンバーと左右の縦方向メンバーとで矩形枠状に形成されたフロントバルクヘッドを設けたものがある。そのような車体の前部構造にあって、車体前側における軽衝突時には、ラジエータを後退させて、ラジエータの破損を防止することができるようにしたものがあった(例えば特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−322837公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1のものにあっては、左右のフロントサイドフレーム同士はバンパリインフォースを介してのみ連結されているため、車体前端の剛性が高いとは言えず、走行中の路面の凹凸による振動や旋回時の車体を傾ける力などにより、左右のフロントサイドフレームに、ねじれ(首振り)や振動が発生して、操縦安定性が悪化する虞があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このような課題を解決して、車体前端部分の剛性を高くすると共に軽衝突時のラジエータの破損を防止することを実現するために本発明に於いては、車体の前部に配設されるラジエータ(38)を支持するべく上下の各横方向メンバー(34・35)と左右の縦方向メンバー(32・33)とで矩形枠状に形成されたフロントバルクヘッド(31)を有する車体の前部構造であって、前記フロントバルクヘッド(31)が、前記縦方向メンバー(32・33)の長手方向中央部分を、車体のフロントサイドフレーム(11・12)の車体前側端部に結合手段を介して結合されて、前記フロントサイドフレーム(11・12)により支持され、前記結合手段が、車体前後方向に配設された前側板状部材(36)と後側板状部材(37)とからなり、前記後側板状部材(37)は、前記フロントバルクヘッド(31)に車体前側からの荷重が加わった場合に前記前側板状部材(36)よりも軽荷重で変形するように形成されているものとした。
【0005】
特に、前記前側板状部材(36)は、前記フロントサイドフレーム(11・12)の車体前側端面と前記フロントバルクヘッド(31)の前記縦方向メンバー(32・33)とを連結するように結合され、前記後側板状部材(37)は、前記前側板状部材(36)より薄い薄板材による略長板状に形成され、その幅方向を車体前後方向に向けて設けられていると良い。
【発明の効果】
【0006】
このように本発明によれば、バルクヘッドの車体前側からの荷重に対して前側板状部材よりも軽荷重で後側板状部材が変形するように形成されていることから、後側板状部材の変形に対して前側板状部材がその形状を保持することができ、ラジエータに対する剛性が確保され、上記軽荷重となる軽衝突時にラジエータが変形することを防止し得る。
【0007】
さらに、前側板状部材がフロントサイドフレームの車体前側端面とバルクヘッドの縦方向メンバーとを連結するように結合されていることにより、左右のフロントサイドフレームがバルクヘッドを介して連結されるため、車体前端部分の剛性が高くなり、走行中の路面の凹凸による振動や旋回時の車体を傾ける力などによるねじれ(首振り)や振動の発生を抑制でき、操縦安定性が向上する。
【0008】
特に、後側板状部材が薄板材により略長板状に形成され、その幅方向を車体前後方向に向けて設けられていることにより、軽衝突時に、後側板状部材を確実に前側板状部材よりも先に変形させることができると共に、板状の幅方向を車体前後方向に向けていることにより、板状の形状を維持しつつ後傾するように変形し得るため、車体前部の上側への軽衝突時にラジエータを容易に後傾させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。図1は本発明が適用された乗用車型自動車の全体を斜め前方から見た斜視図であり、図2は、図1の矢印II線から見た本発明が適用された車体の前部構造を示す要部拡大斜視図である。
【0010】
図1に示されるように、本実施形態の車体構造は、前部車体の骨格強度部材として、車体前後方向に延在する左右のフロントサイドフレーム11・12と、フロントサイドフレーム11・12の先端(車体前側)を互いに接続するフロントバンパビーム13とを有し、これらの内側にエンジンルーム14を画定している。なお、フロントサイドフレーム11・12の車体前側には車体前方に延出する左右のエクステンション30がそれぞれ結合されており、各エクステンション30の車体前側部分にフロントバンパビーム13の左右両端部が結合されている。左右のフロントサイドフレーム11・12は、各々、後端をアウトリガー15・16によって左右のサイドシルメンバー17・18の前端に固定接合されている。
【0011】
また、左右のフロントサイドフレーム11・12の各車体前側端部間には全体で矩形状のフロントバルクヘッド31が配設されている。フロントバルクヘッド31は、図2に併せて示されるように、左右のフロントサイドフレーム11・12の車体前端部における内側面に沿って車体上下方向に延在する左右の縦方向メンバー32・33と、左右の縦方向メンバー32・33の各上側端部同士と各下側端部同士との間に橋渡し状に設けられた上下の横方向メンバー34・35とを有し、各メンバー32〜35により矩形状に形成されている。また、矩形状の各角部で各メンバー32〜35の対応する端部が溶接により接合されている。
【0012】
なお、各骨格強度部材は例えばコ字状断面部材と板状部材とにより矩形閉断面を形成するものであって良く、この形状は車体の骨格強度部材として公知であり、その詳しい説明は省略する。
【0013】
図3は車体前側右角部を外側から見た側面を示すものであるが、左右については同じ構造であって良く、以下、特に断らない限り車体前側右角部について説明する。フロントサイドフレーム12の車体前側端部とフロントバルクヘッド31の縦方向メンバー33とを結合する結合手段として、車体前後方向に配置された前側板状部材36と後側板状部材37との2部材が設けられている。
【0014】
前側板状部材36は、図4および図5に示されるように、フロントサイドフレーム12の車体前側端面に、フロントサイドフレーム12の車体前側における長手方向軸線に直交する面36aをもって溶接にて結合される厚板材により形成されている。なお、図に示されるように板状体に対して剛性を高めるように縁部など適所をプレス加工により曲成されている。そして、前側板状部材36の取り付け状態における車体内側の縁の車体上下方向端部には各耳部36bが形成されており、図6に示されるようにフロントバルクヘッド12の縦方向メンバー33の上下方向中間部に上下の耳部36bが溶接にて結合される。
【0015】
後側板状部材37は、同じく図4および図5に示されるように、フロントサイドフレーム12の車体前側部分の車体幅方向内側面に沿って車体上下方向に延在する長板状であって上記前側板状部材36よりも薄肉の薄板材により形成されている。なお、この後側板状部材37にあっても、板状体に対して剛性を高めるように縁部など適所をプレス加工により曲成されている。そして、後側板状部材37にあっては、長手方向中央部分に両端部よりも幅広の拡幅部37aが形成されており、図7に示されるように拡幅部37aの一部がフロントサイドフレーム12の車体前側部分の内側面に溶接にて結合される。後側板状部材37の長手方向両端部37bがフロントバルクヘッド12の縦方向メンバー33の上下方向中間部に溶接で結合される。
【0016】
また、フロントバルクヘッド31には、図3に示されるように、その車体前方に位置するようにラジエータ38が取り付けられている。なお、ラジエータ38は、その上下の各端面部と上下の横方向メンバー34・35との間に設けられた各ブラケット41・42を介して、フロントバルクヘッド31により支持されている。また、下側の横方向メンバー35には車体前側に延出する舌片状の下板部材43が結合されている。
【0017】
このようにして構成された車体の前部構造にあっては、車体前方の衝突などで図8に示されるようにフロントバルクヘッド31と一体の下側部材43に荷重F1が加わった場合、前側板状部材36に対して剛性の弱い後側板状部材37のフロントサイドフレーム12に対して下側部分が二点鎖線に示されるように車体後側へ折れ曲がるように変形する。前側板状部材36よりも先に後側板状部材37が上記したように変形することから、フロントバルクヘッド31が変形することなく、ラジエータ38ごと車体後側へ移動することができ、ラジエータ38やフロントサイドフレーム12の損傷を防止できる。
【0018】
また、図9に示されるよう、フロントバルクヘッド31の上部に荷重が加わった場合、後側板状部材37のフロントサイドフレーム12に対して上側部分が二点鎖線に示されるように車体後側へ折れ曲がるように変形する。この場合にも前側板状部材36よりも先に後側板状部材37が上記したように変形することから、フロントバルクヘッド31が変形することなく、ラジエータ38ごと車体後側へ後傾するようになり、衝突エネルギを吸収することができる。
【0019】
このように軽衝突時における後側板状部材37の変形により、衝突相手に対するダメージを軽減することができる。このことは、例えば歩行者との衝突時においても、衝突相手に対するダメージを軽減できることとなり、車体としての歩行者保護性能の向上に貢献する。
【0020】
さらに、本発明によれば、左右のフロントサイドフレーム12・13が、各先端でフロントバンパビーム13を介して連結されていると共に、各車体前端部でフロントバルクヘッド31を介しても連結されており、左右間で二重の連結構造となり、車体前端部分の剛性を高くすることができる。これにより、走行中の路面の凹凸による振動や旋回時の車体を傾ける力などによるねじれ(首振り)や振動の発生を抑制でき、操縦安定性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】発明が適用された乗用車型自動車の全体を斜め前方から見た斜視図である。
【図2】図1の矢印II線から見たフロントバルクヘッドの斜視図である。
【図3】図2の矢印III線から見た側面図である。
【図4】本発明に基づく前側および後側板状部材を示す斜視図である。
【図5】図4の矢印V線から見た前側および後側板状部材を示す図である。
【図6】図2の矢印VI−VI線に沿って見た断面図である。
【図7】図2の矢印VII−VII線に沿って見た断面図である。
【図8】下部への軽衝突時の図3に対応する説明図である。
【図9】上部への軽衝突時の図3に対応する説明図である。
【符号の説明】
【0022】
11・12 フロントサイドフレーム
31 フロントバルクヘッド
32・33 縦方向メンバー
34・35 横方向メンバー
36 前側板状部材
37 後側板状部材
38 ラジエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の前部に配設されるラジエータを支持するべく上下の各横方向メンバーと左右の縦方向メンバーとで矩形枠状に形成されたフロントバルクヘッドを有する車体の前部構造であって、
前記フロントバルクヘッドが、前記縦方向メンバーの長手方向中央部分を、車体のフロントサイドフレームの車体前側端部に結合手段を介して結合されて、前記フロントサイドフレームにより支持され、
前記結合手段が、車体前後方向に配設された前側板状部材と後側板状部材とからなり、
前記後側板状部材は、前記フロントバルクヘッドに車体前側からの荷重が加わった場合に前記前側板状部材よりも軽荷重で変形するように形成されていることを特徴とする車体の前部構造。
【請求項2】
前記前側板状部材は、前記フロントサイドフレームの車体前側端面と前記バルクヘッドの前記縦方向メンバーとを連結するように結合され、
前記後側板状部材は、前記前側板状部材より薄い薄板材による略長板状に形成され、その幅方向を車体前後方向に向けて設けられていることを特徴とする請求項1に記載の車体の前部構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−23593(P2009−23593A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−190902(P2007−190902)
【出願日】平成19年7月23日(2007.7.23)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】